説明

光学ガラス、プリフォーム及び光学素子

【課題】屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、部分分散比(θg,F)が小さく、且つ可視光に対する透明性が高められた光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を提供する。
【解決手段】光学ガラスは、酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%でSiO成分を60.0%以下、及び、Ta成分を25.0%以下含有し、部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で、ν≦25の範囲において(−0.00160×ν+0.63460)≦(θg,F)≦(−0.00563×ν+0.75573)の関係を満たし、ν>25の範囲において(−0.00250×ν+0.65710)≦(θg,F)≦(−0.00340×ν+0.70000)の関係を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、プリフォーム及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラやビデオカメラ等の光学系は、その大小はあるが、収差と呼ばれるにじみを含んでいる。この収差は単色収差と色収差に分類されるが、特に色収差は、光学系に使用されるレンズの材料特性に強く依存している。
【0003】
一般に色収差は、低分散の凸レンズと高分散の凹レンズとを組み合わせて補正されるが、この組み合わせでは赤色領域と緑色領域の収差の補正しかできず、青色領域の収差が残る。この除去しきれない青色領域の収差を二次スペクトルと呼ぶ。二次スペクトルを補正するには、青色領域のg線(435.835nm)の動向を加味した光学設計を行う必要がある。このとき、光学設計で着目される光学特性の指標として、部分分散比(θg,F)が用いられている。上述の低分散のレンズと高分散のレンズとを組み合わせた光学系では、低分散側のレンズに部分分散比(θg,F)の大きい光学材料を用い、高分散側のレンズに部分分散比(θg,F)の小さい光学材料を用いることで、二次スペクトルが良好に補正される。
【0004】
部分分散比(θg,F)は、下式(1)により示される。
θg,F=(n−n)/(n−n)・・・・・・(1)
【0005】
光学ガラスには、短波長域の部分分散性を表す部分分散比(θg,F)とアッベ数(ν)との間に、およそ直線的な関係がある。この関係を表す直線は、部分分散比(θg,F)を縦軸に、アッベ数(ν)を横軸に採用した直交座標上で、NSL7とPBM2の部分分散比及びアッベ数をプロットした2点を結ぶ直線で表され、ノーマルラインと呼ばれている(図1参照)。ノーマルラインの基準となるノーマルガラスは光学ガラスメーカー毎によっても異なるが、各社ともほぼ同等の傾きと切片で定義している。(NSL7とPBM2は株式会社オハラ社製の光学ガラスであり、PBM2のアッベ数(ν)は36.3,部分分散比(θg,F)は0.5828、NSL7のアッベ数(ν)は60.5、部分分散比(θg,F)は0.5436である。)
【0006】
ここで、高分散を有するガラスとしては、例えば特許文献1〜3に示されるような光学ガラスが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−179522号公報
【特許文献2】国際公開第2004/110942号パンフレット
【特許文献3】特開2004−161598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1〜3で開示されたガラスは、部分分散比が小さくなく、前記二次スペクトルを補正するレンズとして使用するには十分でなかった。また、特許文献1〜3で開示されたガラスは、可視光に対する透明性が高くなく、特に可視光を透過する用途に用いるには十分でなかった。すなわち、高分散であり、部分分散比(θg,F)が小さく、且つ可視光に対する透明性が高い光学ガラスが求められている。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、部分分散比(θg,F)が小さく、且つ可視光に対する透明性が高められた光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、SiO成分及びTa成分を併用し、これらの含有量を所定の範囲内にすることによって、ガラスの高屈折率及び高分散化が図られながらも、ガラスの部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で所望の関係を有し、且つガラスの着色が低減されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0011】
(1) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%でSiO成分を60.0%以下、及び、Ta成分を25.0%以下含有し、部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で、ν≦25の範囲において(−0.00160×ν+0.63460)≦(θg,F)≦(−0.00563×ν+0.75573)の関係を満たし、ν>25の範囲において(−0.00250×ν+0.65710)≦(θg,F)≦(−0.00340×ν+0.70000)の関係を満たす光学ガラス。
【0012】
(2) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%でSiO成分を20.0〜60.0%、及び、Ta成分を2.15〜25.0%含有する(1)記載の光学ガラス。
【0013】
(3) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
Nb成分 0〜30.0%及び/又は
TiO成分 0〜20.0%及び/又は
Bi成分 0〜10.0%及び/又は
WO成分 0〜10.0%
をさらに含有する(1)又は(2)記載の光学ガラス。
【0014】
(4) 酸化物換算組成のモル比(Nb+Ta)/(TiO+Bi+WO)が2.50より大きい(3)記載の光学ガラス。
【0015】
(5) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
LiO成分 0〜30.0%及び/又は
NaO成分 0〜30.0%及び/又は
O成分 0〜20.0%及び/又は
CsO成分 0〜10.0%
をさらに含有する(1)から(4)のいずれか記載の光学ガラス。
【0016】
(6) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対するRnO成分(式中、RnはLi、Na、K及びCsからなる群より選択される1種以上)の含有量の和が10.0%以上50.0%以下である(5)記載の光学ガラス。
【0017】
(7) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
MgO成分 0〜15.0%及び/又は
CaO成分 0〜20.0%及び/又は
SrO成分 0〜20.0%及び/又は
BaO成分 0〜30.0%及び/又は
ZnO成分 0〜30.0%
をさらに含有する(1)から(6)のいずれか記載の光学ガラス。
【0018】
(8) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対するRO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群より選択される1種以上)の含有量の和が30.0%以下である(7)記載の光学ガラス。
【0019】
(9) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
成分 0〜20.0%及び/又は
成分 0〜30.0%及び/又は
GeO成分 0〜20.0%
をさらに含有する(1)から(8)のいずれか記載の光学ガラス。
【0020】
(10) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対する和(SiO+P+B+GeO)が20.0%以上60.0%以下である(9)記載の光学ガラス。
【0021】
(11) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
成分 0〜30.0%及び/又は
La成分 0〜30.0%及び/又は
Gd成分 0〜30.0%及び/又は
Yb成分 0〜20.0%及び/又は
Lu成分 0〜10.0%
をさらに含有する(1)から(10)のいずれか記載の光学ガラス。
【0022】
(12) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対するLn成分(式中、LnはY、La、Gd、Yb及びLuからなる群より選択される1種以上)の含有量の和が30.0%以下である(11)記載の光学ガラス。
【0023】
(13) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
TeO成分 0〜30.0%及び/又は
Al成分 0〜20.0%及び/又は
Ga成分 0〜20.0%及び/又は
In成分 0〜20.0%及び/又は
ZrO成分 0〜20.0%及び/又は
Sb成分 0〜1.0%及び/又は
CeO成分 0〜1.0%
をさらに含有する(1)から(12)のいずれか記載の光学ガラス。
【0024】
(14) 1.75以上2.00以下の屈折率(nd)を有し、20以上40以下のアッベ数(νd)を有する(1)から(13)のいずれか記載の光学ガラス。
【0025】
(15) 分光透過率が70%を示す波長(λ70)が500nm以下である(1)から(14)のいずれか記載の光学ガラス。
【0026】
(16) (1)から(15)のいずれか記載の光学ガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。
【0027】
(17) (1)から(15)のいずれか記載の光学ガラスを研削及び/又は研磨してなる光学素子。
【0028】
(18) (1)から(15)のいずれか記載の光学ガラスを精密プレス成形してなる光学素子。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、SiO成分及びTa成分を併用し、これらの含有量を所定の範囲内にすることによって、ガラスの高屈折率及び高分散化が図られながらも、ガラスの部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で所望の関係を有し、且つガラスの着色が低減される。従って、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、色収差が小さく、且つ可視光に対する透明性が高められた光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】部分分散比(θg,F)が縦軸でアッベ数(ν)が横軸の直交座標に表されるノーマルラインを示す図である。
【図2】本願の実施例のガラスについての部分分散比(θg,F)とアッベ数(ν)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の光学ガラスは、酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%でSiO成分を60.0%以下、及び、Ta成分を25.0%以下含有し、部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で、ν≦25の範囲において(−0.00160×ν+0.63460)≦(θg,F)≦(−0.00563×ν+0.75573)の関係を満たし、ν>25の範囲において(−0.00250×ν+0.65710)≦(θg,F)≦(−0.00340×ν+0.70000)の関係を満たす。SiO成分及びTa成分を併用し、これらの含有量を所定の範囲内にすることによって、ガラスが高い分散を有しながらも、部分分散比(θg,F)がノーマルラインに近付けられ、且つガラスの着色が低減される。このため、30以下のアッベ数(ν)を有しながらも、色収差が小さく、且つ可視光の特に短波長側の光に対する透明性が高められた光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を得ることができる。
【0032】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0033】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中において、各成分の含有率は特に断りがない場合は、全て酸化物換算組成のガラス全物質量に対するモル%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100モル%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0034】
<必須成分、任意成分について>
SiO成分は、ガラス形成酸化物であり、ガラスの骨格を形成する為に有用な成分である。特に、SiO成分の含有量を60.0%以下にすることで、ガラスの屈折率が低下し難くなり、所望の屈折率を有する光学ガラスを得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するSiO成分の含有量は、好ましくは60.0%、より好ましくは55.0%、最も好ましくは50.0%を上限とする。一方、SiO成分の含有量を20.0%以上にすることで、安定なガラスが得られる程度にガラスの網目構造が増加するため、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するSiO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは25.0%、さらに好ましくは30.0%、最も好ましくは35.0%を下限とする。SiO成分は、原料として例えばSiO、KSiF、NaSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0035】
Ta成分は、ガラスの屈折率を高め、ガラスの失透温度を下げる成分である。特に、Ta成分の含有量を25.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を維持することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するTa成分の含有量は、好ましくは25.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは15.0%を上限とする。一方、Ta成分の含有量を0.1%以上にすることで、ガラスの高屈折率及び高分散の特性を与えつつ、ガラスに所望の低い部分分散比(θg,F)を与えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するTa成分の含有量は、好ましくは0.1%、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは2.15%、最も好ましくは2.7%を下限とする。Ta成分は、原料として例えばTa等を用いてガラス内に含有することができる。
【0036】
Nb成分は、ガラスの屈折率及び分散を高めながらも、ガラスの部分分散比(θg,F)を低下する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Nb成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの失透が低減されるため、光透過性を有する光学ガラスを得易くすることができる。また、Nb成分の含有量を30.0%以下にすることで、Nb成分による着色が低減されるため、可視光に対する透明性の高いガラスを得ることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するNb成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは25.0%、最も好ましくは20.0%を上限とする。なお、Nb成分は含有しなくとも所望の特性を有するガラスを得ることは可能であるが、Nb成分を1.0%以上含有することで、屈折率及び分散を高めながら、ノーマルラインに近い部分分散比(θg,F)を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するNb成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは8.0%を下限とする。Nb成分は、原料として例えばNb等を用いてガラス内に含有することができる。
【0037】
TiO成分は、ガラスの屈折率を高めつつ、アッベ数を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、TiO成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスへの着色を低減することができ、特に可視短波長(500nm以下)における内部透過率を悪化し難くすることができる。また、TiO成分の含有量を20.0%以下にすることで、部分分散比(θg,F)が上昇し難くなるため、ノーマルラインに近い部分分散比(θg,F)を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するTiO成分の含有量は、好ましくは20.0%とし、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。なお、本発明ではTiO成分を含有しなくとも、所望の光学特性を有する光学ガラスを得ることはできるが、TiO成分を含有することで、ガラスの屈折率及び分散を高める成分の数が増加するため、ガラスの耐失透性をより高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するTiO成分の含有量は、好ましくは0%を超え、より好ましくは0.1%、最も好ましくは0.5%を下限とする。TiO成分は、原料として例えばTiO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0038】
Bi成分は、ガラスの屈折率を上げるとともに、ガラス転移点(Tg)を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Bi成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減することができ、ガラスの内部透過率を高めることができる。また、Bi成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの部分分散比(θg,F)を上昇し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するBi成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Bi成分は、原料として例えばBi等を用いてガラス内に含有することができる。
【0039】
WO成分は、ガラスの屈折率及びを高め、ガラスの失透温度を下げる成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、WO成分の含有量を10.0%以下にすることで、特に可視短波長(500nm以下)における透過率を悪化し難くすることができる。また、WO成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの部分分散比(θg,F)を上昇し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するWO成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。WO成分は、原料として例えばWO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0040】
本発明の光学ガラスは、TiO成分、Bi成分及びWO成分の含有量の和に対する、Nb成分及びTa成分の含有量の和の比率が、2.00より大きいことが好ましい。これにより、ガラスの屈折率及び分散を高める成分の中で、ガラスの部分分散比を低くする成分の含有量が増加するため、所望の屈折率及び分散を得つつ、低い部分分散比を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成におけるモル比(Nb+Ta)/(TiO+Bi+WO)は、好ましくは2.00より大きく、より好ましくは2.50より大きく、さらに好ましくは2.55、最も好ましくは2.60を下限とする。一方、このモル比の上限は特に限定されないが、本発明で得られるガラスは、酸化物換算組成におけるモル比(Nb+Ta)/(TiO+Bi+WO)が30.00以下、より詳細には28.00以下、さらに詳細には27.00以下であることが多い。
【0041】
ここで、特に着色の少ないガラスを得られる点では、Nb成分及びTa成分の含有量の和に対して、Ta成分の含有量の比率を高めることが好ましい。この場合、酸化物換算組成におけるモル比(Ta)/(Nb+Ta)は、好ましくは0.01、より好ましくは0.05、さらに好ましくは0.10、最も好ましくは0.14を下限とする。
【0042】
LiO成分は、ガラスの部分分散比(θg,F)を低下させ、ガラスの失透温度を下げ、ガラス転移点(Tg)を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、LiO成分の含有量を30.0%以下にすることで、LiO成分の過剰な含有によるガラスの失透を低減できる。また、再加熱時における耐失透性が高められるため、ガラスのプレス成形性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するLiO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは25.0%、最も好ましくは20.0%を上限とする。なお、LiO成分は含有しなくとも所望の物性を有する光学ガラスは製造できるが、低いガラス転移点(Tg)を確保しつつ、ガラスの部分分散比(θg,F)を所望の低い値に調整し易くする観点では、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するLiO成分の含有量は、好ましくは0.1%、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは4.0%、最も好ましくは7.0%を下限とする。LiO成分は、原料として例えばLiCO、LiNO、LiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0043】
NaO成分は、ガラスの部分分散比(θg,F)を低下させ、ガラスの化学的耐久性、特に耐水性を高める成分であるとともに、ガラス転移点(Tg)を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、NaO成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの安定性が高められるため、NaO成分の過剰な含有によるガラスの失透を低減できる。また、再加熱時における耐失透性が高められるため、ガラスのプレス成形性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するNaO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは25.0%、さらに好ましくは22.0%、最も好ましくは19.0%を上限とする。なお、本発明において、NaO成分は含有しなくとも所望の物性を有する光学ガラスは製造することはできるが、ガラスの部分分散比(θg,F)をより高められ、且つガラスの耐失透性をより高められる観点では、NaO成分を含有することが好ましい。この場合、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するNaO成分の含有量は、好ましくは0.1%、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは5.0%、最も好ましくは8.0%を下限とする。NaO成分は、原料として例えばNaCO、NaNO、NaF、NaSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0044】
O成分は、ガラス転移点(Tg)を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、KO成分の含有量を20.0%以下にすることで、KO成分の過剰な含有によるガラスの失透を低減できる。また、再加熱時における耐失透性が高められるため、ガラスのプレス成形性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するKO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。KO成分は、原料として例えばKCO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0045】
CsO成分は、ガラス転移点(Tg)を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、CsO成分の含有量を10.0%以下にすることで、CsO成分の過剰な含有によるガラスの失透を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するCsO成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。CsO成分は、原料として例えばCsCO、CsNO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0046】
本発明の光学ガラスでは、RnO成分(式中、RnはLi、Na、K及びCsからなる群より選択される1種以上)の含有量の和が、10.0%以上50.0%以下であることが好ましい。特に、この和を10.0%以上にすることで、ガラス転移点(Tg)を低くしてプレス成形を行い易いガラスを得ることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するRnO成分の合計含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは20.0%、最も好ましくは22.5%を下限とする。一方、この質量和を50.0%以下にすることで、ガラスの失透を抑えてガラス化を容易にすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するRnO成分の含有量の質量和は、好ましくは50.0%、より好ましくは43.0%、さらに好ましくは40.0%、最も好ましくは35.0%を上限とする。
【0047】
MgO成分は、ガラスの溶融温度を低下する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、MgO成分の含有量を15.0%以下にすることで、所望の高屈折率を得つつ、ガラスの化学的耐久性を高め、且つガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するMgO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。MgO成分は、原料として例えばMgO、MgCO、MgF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0048】
CaO成分は、ガラスの失透温度を下げる成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、CaO成分の含有量を20.0%以下にすることで、所望の高屈折率を得つつ、ガラスの化学的耐久性を高め、且つガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するCaO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。CaO成分は、原料として例えばCaCO、CaF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0049】
SrO成分は、ガラスの失透温度を下げ、ガラスの屈折率を調整する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、SrO成分の含有量を20.0%以下にすることで、所望の高屈折率を得つつ、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するSrO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。SrO成分は、原料として例えばSr(NO、SrF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0050】
BaO成分は、ガラスの部分分散比(θg,F)を低下させ、ガラスの耐失透性を高め、且つガラスの光学定数を調整する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、BaO成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。また、BaO成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するBaO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。BaO成分は、原料として例えばBaCO、Ba(NO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0051】
ZnO成分は、ガラスの失透温度を下げ、ガラス転移点(Tg)を下げる成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、ZnO成分の含有量を30.0%以下にすることで、所望の高屈折率を得つつ、ガラスの化学的耐久性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するZnO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。ZnO成分は、原料として例えばZnO、ZnF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0052】
本発明の光学ガラスでは、RO成分(式中、RはZn、Mg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)は、上述のようにガラスの耐失透性を高め、屈折率を調整するために有用な成分であるが、これらRO成分の合計含有量が多すぎると、かえってガラスの耐失透性が悪化し易くなり、ガラスの屈折率も低下しやすくなる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するRO成分の合計含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。
【0053】
成分は、ガラスの安定性を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、P成分の含有量を20.0%以下にすることで、P成分の過剰な含有による失透傾向が低減されるため、ガラスの安定性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するP成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。P成分は、原料として例えばAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、BPO、HPO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0054】
成分は、ガラス形成酸化物であり、ガラスの骨格を形成する為に有用な成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、B成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの屈折率が低下し難くなり、可視光短波長領域における内部透過率が悪化し難くなる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するB成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。B成分は、原料として例えばHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0055】
GeO成分は、ガラスの屈折率を高め、ガラスを安定化させて成形時の失透を低減する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、GeO成分の含有量を20.0%以下にすることで、高価なGeO成分の使用量が低減されるため、ガラスの材料コストを低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するGeO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。GeO成分は、原料として例えばGeO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0056】
また、本発明の光学ガラスは、SiO成分、P成分、B成分及びGeO成分の含有量の和が20.0%以上60.0%以下であることが好ましい。これらの含有量の和が20.0%以上であることにより、部分分散比(θg,F)の上昇が抑えられるため、本発明で所望とされる、ノーマルラインに近付けられた低い部分分散比(θg,F)を得易くできる。また、ガラスの安定性が高められるため、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対する質量和(SiO+P+B+GeO)は、好ましくは20.0%、より好ましくは30.0%、最も好ましくは35.0%を下限とする。一方、これらの含有量の和が60.0%以下であることにより、屈折率及びアッベ数が低下し難くなるため、所望の高屈折率及び高分散を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対する質量和(SiO+P+B+GeO)は、好ましくは60.0%、より好ましくは55.0%、最も好ましくは50.0%を上限とする。
【0057】
成分は、ガラスの屈折率を高めつつ、ガラスの耐失透性を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Y成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができ、且つガラスの分散を低下し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するY成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。Y成分は、原料として例えばY、YF等を用いることができる。
【0058】
La成分は、ガラスの屈折率を高めつつ、ガラスのアッベ数を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、La成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができ、且つガラスの分散を低下し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するLa成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。La成分は、原料として例えばLa、La(NO・XHO(Xは任意の整数)等を用いることができる。
【0059】
Gd成分は、ガラスの屈折率を高めつつ、ガラスのアッベ数を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Gd成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができ、且つガラスの分散を低下し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するGd成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。Gd成分は、原料として例えばGd、GdF等を用いることができる。
【0060】
Yb成分は、高屈折率を実現し、硬度やヤング率等の特性を向上する成分である。特に、Yb成分の含有率を20.0%以下にすることで、ガラスの分散の低下を抑制し、ガラス形成時における耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するYb成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Yb成分は、原料として例えばYb等を用いることができる。
【0061】
Lu成分は、高屈折率を実現し、硬度やヤング率等の特性を向上する成分である。特に、Lu成分の含有率を10.0%以下にすることで、ガラスの分散の低下を抑制し、ガラス形成時における耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するLu成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Lu成分は、原料として例えばLu等を用いることができる。
【0062】
本発明の光学ガラスは、Ln成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Yb及びLuからなる群より選択される1種以上)の含有量の和が、30.0%以下であることが好ましい。これにより、ガラスの分散の低下を抑制しつつ、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するLn成分の含有量の和は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。
【0063】
TeO成分は、ガラスの屈折率を上げ、ガラス転移点(Tg)を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、TeO成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減し、ガラスの可視光に対する透過率を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するTeO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。TeO成分は、原料として例えばTeO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0064】
Al成分、Ga成分及びIn成分は、ガラスの化学的耐久性を改善する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、これら成分の含有量を各々20.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するAl成分、Ga成分及びIn成分の含有量は、それぞれ好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Al成分、Ga成分及びIn成分は、原料として例えばAl、Al(OH)、AlF、Ga、Ga(OH)、In、In(OH)等を用いてガラス内に含有することができる。
【0065】
ZrO成分は、ガラスの屈折率を高めつつ、ガラスの部分分散比(θg,F)を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、ZrO成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの液相温度を下げて耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するZrO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。なお、本発明の光学ガラスでは、ZrO成分を含有しなくてもよいが、ZrO成分を含有することで、低い部分分散比(θg,F)を有するガラスを得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するZrO成分の含有量は、好ましくは0%より多くし、より好ましくは0.1%、最も好ましくは0.2%を下限としてもよい。ZrO成分は、原料として例えばZrO、ZrF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0066】
Sb成分は、ガラスの脱泡を促進し、ガラスを清澄する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。Sb成分は、ガラス全物質量に対する含有量を1.0%以下にすることで、ガラス溶融時における過度の発泡を生じ難くすることができ、Sb成分が溶解設備(特にPt等の貴金属)と合金化し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するSb成分の含有率は、好ましくは1.0%、より好ましくは0.8%、さらに好ましくは0.6%を上限とする。但し、光学ガラスの環境上の影響を重視する場合には、Sb成分を含有しないことが好ましい。Sb成分は、原料として例えばSb、Sb、NaSb・5HO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0067】
CeO成分は、ガラスを清澄する成分であるとともに、ガラスの光学定数を調整する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、CeO成分の含有量を1.0%以下にすることで、CeO成分による着色を低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するCeO成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは0.3%を上限とする。但し、CeO成分を含有すると可視域の特定の波長に吸収が生じ易くなるため、可視光の透過率が特に高いガラスを得る場合、CeO成分を実質的に含まないことが好ましい。CeO成分は、原料として例えばCeO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0068】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb成分及びCeO成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤や脱泡剤、或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0069】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0070】
本発明の光学ガラスには、他の成分をガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。
【0071】
ただし、Ti、Zr、Nbを除く、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0072】
さらに、PbO等の鉛化合物及びAs等のヒ素化合物、並びに、Th、Cd、Tl、Os、Be、Seの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、光学ガラスに環境を汚染する物質が実質的に含まれなくなる。そのため、特別な環境対策上の措置を講じなくとも、この光学ガラスを製造し、加工し、及び廃棄することができる。
【0073】
本発明の光学ガラスとして好ましく用いられるガラスは、その組成が酸化物換算組成のガラス全物質量に対するモル%で表されているため直接的に質量%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各成分の質量%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
SiO成分 10.0〜40.0質量%及び
Ta成分 1.0〜50.0質量%
並びに
Nb成分 0〜55.0質量%及び/又は
TiO成分 0〜18.0質量%及び/又は
Bi成分 0〜40.0質量%及び/又は
WO成分 0〜25.0質量%及び/又は
LiO成分 0〜12.0質量%及び/又は
NaO成分 0〜20.0質量%及び/又は
O成分 0〜20.0質量%及び/又は
CsO成分 0〜20.0質量%及び/又は
MgO成分 0〜5.0質量%及び/又は
CaO成分 0〜10.0質量%及び/又は
SrO成分 0〜20.0質量%及び/又は
BaO成分 0〜45.0質量%及び/又は
ZnO成分 0〜25.0質量%及び/又は
成分 0〜30.0質量%及び/又は
成分 0〜25.0質量%及び/又は
GeO成分 0〜20.0質量%及び/又は
成分 0〜40.0質量%及び/又は
La成分 0〜40.0質量%及び/又は
Gd成分 0〜40.0質量%及び/又は
Yb成分 0〜30.0質量%及び/又は
Lu成分 0〜20.0質量%及び/又は
TeO成分 0〜45.0質量%及び/又は
Al成分 0〜20.0質量%及び/又は
Ga成分 0〜25.0質量%及び/又は
In成分 0〜30.0質量%及び/又は
ZrO成分 0〜25.0質量%及び/又は
Sb成分 0〜3.0質量%及び/又は
CeO成分 0〜3.0質量%
【0074】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有率の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して粗溶融した後、金坩堝、白金坩堝、白金合金坩堝又はイリジウム坩堝に入れて1100〜1400℃の温度範囲で3〜5時間溶融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1000〜1300℃の温度に下げてから仕上げ攪拌を行って脈理を除去し、金型に鋳込んで徐冷することにより作製される。
【0075】
<物性>
本発明の光学ガラスは、所定の屈折率及び分散(アッベ数)を有することが好ましい。より具体的には、本発明の光学ガラスの屈折率(n)は、好ましくは1.77、より好ましくは1.79、最も好ましくは1.81を下限とする。一方、本発明の光学ガラスの屈折率(n)の上限は特に限定されないが、概ね2.20以下、より具体的には2.10以下、さらに具体的には2.00以下であることが多い。また、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは30、より好ましくは29、最も好ましくは27を上限とする。一方、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)の下限は特に限定されないが、概ね10以上、より具体的には12以上、さらに具体的には15以上であることが多い。これらにより、光学設計の自由度が広がり、さらに素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。
【0076】
また、本発明の光学ガラスは、低い部分分散比(θg,F)を有する。より具体的には、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、アッベ数(ν)との間で、ν≦25の範囲において(−0.00160×ν+0.63460)≦(θg,F)≦(−0.00563×ν+0.75573)の関係を満たし、且つ、ν>25の範囲において(−0.00250×ν+0.65710)≦(θg,F)≦(−0.00340×ν+0.70000)の関係を満たす。これにより、部分分散比(θg,F)がノーマルラインに近づけられ、低い部分分散比(θg,F)を有する光学ガラスが得られるため、この光学ガラスから形成される光学素子を色収差の低減に用いることができる。ここで、ν≦25における光学ガラスの部分分散比(θg,F)の下限は、好ましくは(−0.00160×ν+0.63460)、より好ましくは(−0.00160×ν+0.63660)、最も好ましくは(−0.00160×ν+0.63860)である。一方で、ν≦25における光学ガラスの部分分散比(θg,F)の上限は、好ましくは(−0.00563×ν+0.75573)、より好ましくは(−0.00563×ν+0.75473)、最も好ましくは(−0.00563×ν+0.75373)である。また、ν>25における光学ガラスの部分分散比(θg,F)の下限は、好ましくは(−0.00250×ν+0.65710)、より好ましくは(−0.00250×ν+0.65910)、最も好ましくは(−0.00250×ν+0.66110)である。一方で、ν>25における光学ガラスの部分分散比(θg,F)の上限は、好ましくは(−0.00340×ν+0.70000)、より好ましくは(−0.00340×ν+0.69900)、最も好ましくは(−0.00340×ν+0.69800)である。なお、特にアッベ数(ν)が小さい領域では、一般的なガラスの部分分散比(θg,F)はノーマルラインよりも高い値にあり、一般的なガラスの部分分散比(θg,F)とアッベ数(ν)の関係は曲線で表される。しかしながら、この曲線の近似が困難であるため、本発明では、一般的なガラスよりも部分分散比(θg,F)が低いことを、ν=25を境に異なった傾きを有する直線を用いて表した。
【0077】
また、本発明の光学ガラスは、着色が少ないことが好ましい。特に、本発明の光学ガラスは、ガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルで分光透過率70%を示す波長(λ70)が460nm以下であり、より好ましくは440nm以下であり、最も好ましくは420nm以下である。また、本発明の光学ガラスは、ガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルで分光透過率80%を示す波長(λ80)が560nm以下であり、より好ましくは540nm以下であり、最も好ましくは520nm以下である。また、本発明の光学ガラスは、厚み10mmのサンプルで分光透過率5%を示す波長(λ)が420nm以下であり、より好ましくは400nm以下であり、最も好ましくは380nm以下である。これにより、ガラスの吸収端が紫外領域の近傍に位置するようになり、可視域におけるガラスの透明性が高められるため、この光学ガラスをレンズ等の光学素子の材料として好ましく用いることができる。
【0078】
[プリフォーム及び光学素子]
作製された光学ガラスから、例えばリヒートプレス成形や精密プレス成形等のモールドプレス成形の手段を用いて、ガラス成形体を作製することができる。すなわち、光学ガラスからモールドプレス成形用のプリフォームを作製し、このプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、例えば研磨加工を行って作製したプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりすることができる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0079】
このようにして作製されるガラス成形体は、様々な光学素子に有用であるが、その中でも特に、レンズやプリズム等の光学素子の用途に用いることが好ましい。これにより、光学素子が設けられる光学系の透過光における、色収差による色のにじみが低減される。そのため、この光学素子をカメラに用いた場合は撮影対象物をより正確に表現でき、この光学素子をプロジェクタに用いた場合は所望の映像をより高精彩に投影できる。
【実施例】
【0080】
本発明の実施例(No.1〜No.113)及び比較例(No.1〜No.2)の組成、並びに、屈折率(n)、アッベ数(ν)、部分分散比(θg,F)、並びに分光透過率が5%、70%及び80%を示す波長(λ、λ70、λ80)を表1〜表15に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
【0081】
本発明の実施例(No.1〜No.113)及び比較例(No.1〜No.2)のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度の原料を選定し、表1〜表15に示した各実施例及び比較例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1100〜1400℃の温度範囲で3〜5時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1000〜1300℃に温度を下げて攪拌均質化してから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0082】
ここで、実施例(No.1〜No.113)及び比較例(No.1〜No.2)のガラスの屈折率(n)、アッベ数(ν)及び部分分散比(θg,F)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定した。そして、求められたアッベ数(ν)及び部分分散比(θg,F)の値について、関係式(θg,F)=−a×ν+bにおける、傾きaが0.00160、0.00250、0.00340及び0.00563のときの切片bを求めた。なお、本測定に用いたガラスは、徐冷降温速度を−25℃/hrとして、徐冷炉にて処理を行ったものを用いた。
【0083】
また、実施例(No.1〜No.113)及び比較例(No.1〜No.2)のガラスの透過率は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて測定した。なお、本発明においては、ガラスの透過率を測定することで、ガラスの着色の有無と程度を求めた。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200〜800nmの分光透過率を測定し、λ(透過率5%時の波長)、λ70(透過率70%時の波長)及びλ80(透過率80%時の波長)を求めた。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
【表3】

【0087】
【表4】

【0088】
【表5】

【0089】
【表6】

【0090】
【表7】

【0091】
【表8】

【0092】
【表9】

【0093】
【表10】

【0094】
【表11】

【0095】
【表12】

【0096】
【表13】

【0097】
【表14】

【0098】
【表15】

【0099】
表1〜表15に表されるように、本発明の実施例の光学ガラスは、ν≦25のものは部分分散比(θg,F)が(−0.00563×ν+0.75573)以下、より詳細には(−0.00563×ν+0.75001)以下であった。また、ν>25のものは、部分分散比(θg,F)が(−0.00340×ν+0.70000)以下、より詳細には(−0.00340×ν+0.69844)以下であった。その反面で、本発明の実施例の光学ガラスは、ν≦25のものは部分分散比(θg,F)が(−0.00160×ν+0.63460)以上、より詳細には(−0.00160×ν+0.64571)以上であった。また、ν>25のものは、部分分散比(θg,F)が(−0.00250×ν+0.64710)以上、より詳細には(−0.00250×ν+0.66708)以上であった。そのため、これらの部分分散比(θg,F)が所望の範囲内にあることがわかった。一方、本発明の比較例(No.1)のガラスは、ν>25であるものの、部分分散比(θg,F)が(−0.00340×ν+0.70000)を超えていた。また、本発明の比較例(No.2)のガラスは、ν≦25であるものの、部分分散比(θg,F)が(−0.00563×ν+0.75573)を超えていた。従って、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例のガラスに比べ、アッベ数(ν)との関係式において部分分散比(θg,F)が小さいことが明らかになった。
【0100】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率(n)が1.77以上、より詳細には1.83以上であるとともに、この屈折率(n)は2.20以下、より詳細には1.92以下であり、所望の範囲内であった。
【0101】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数(ν)が15以上、より詳細には23以上であるとともに、このアッベ数(ν)は30以下、より詳細には27以下であり、所望の範囲内であった。
【0102】
従って、本発明の実施例の光学ガラスは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、可視光に対する透過率が高く、且つ色収差の低減に有効であることが明らかになった。
【0103】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%でSiO成分を60.0%以下、及び、Ta成分を25.0%以下含有し、部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で、ν≦25の範囲において(−0.00160×ν+0.63460)≦(θg,F)≦(−0.00563×ν+0.75573)の関係を満たし、ν>25の範囲において(−0.00250×ν+0.65710)≦(θg,F)≦(−0.00340×ν+0.70000)の関係を満たす光学ガラス。
【請求項2】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%でSiO成分を20.0〜60.0%、及び、Ta成分を2.15〜25.0%含有する請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
Nb成分 0〜30.0%及び/又は
TiO成分 0〜20.0%及び/又は
Bi成分 0〜10.0%及び/又は
WO成分 0〜10.0%
をさらに含有する請求項1又は2記載の光学ガラス。
【請求項4】
酸化物換算組成のモル比(Nb+Ta)/(TiO+Bi+WO)が2.50より大きい請求項3記載の光学ガラス。
【請求項5】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
LiO成分 0〜30.0%及び/又は
NaO成分 0〜30.0%及び/又は
O成分 0〜20.0%及び/又は
CsO成分 0〜10.0%
をさらに含有する請求項1から4のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項6】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対するRnO成分(式中、RnはLi、Na、K及びCsからなる群より選択される1種以上)の含有量の和が10.0%以上50.0%以下である請求項5記載の光学ガラス。
【請求項7】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
MgO成分 0〜15.0%及び/又は
CaO成分 0〜20.0%及び/又は
SrO成分 0〜20.0%及び/又は
BaO成分 0〜30.0%及び/又は
ZnO成分 0〜30.0%
をさらに含有する請求項1から6のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項8】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対するRO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群より選択される1種以上)の含有量の和が30.0%以下である請求項7記載の光学ガラス。
【請求項9】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
成分 0〜20.0%及び/又は
成分 0〜30.0%及び/又は
GeO成分 0〜20.0%
をさらに含有する請求項1から8のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項10】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対する和(SiO+P+B+GeO)が20.0%以上60.0%以下である請求項9記載の光学ガラス。
【請求項11】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
成分 0〜30.0%及び/又は
La成分 0〜30.0%及び/又は
Gd成分 0〜30.0%及び/又は
Yb成分 0〜20.0%及び/又は
Lu成分 0〜10.0%
をさらに含有する請求項1から10のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項12】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対するLn成分(式中、LnはY、La、Gd、Yb及びLuからなる群より選択される1種以上)の含有量の和が30.0%以下である請求項11記載の光学ガラス。
【請求項13】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
TeO成分 0〜30.0%及び/又は
Al成分 0〜20.0%及び/又は
Ga成分 0〜20.0%及び/又は
In成分 0〜20.0%及び/又は
ZrO成分 0〜20.0%及び/又は
Sb成分 0〜1.0%及び/又は
CeO成分 0〜1.0%
をさらに含有する請求項1から12のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項14】
1.75以上2.00以下の屈折率(nd)を有し、20以上40以下のアッベ数(νd)を有する請求項1から13のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項15】
分光透過率が70%を示す波長(λ70)が500nm以下である請求項1から14のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか記載の光学ガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。
【請求項17】
請求項1から15のいずれか記載の光学ガラスを研削及び/又は研磨してなる光学素子。
【請求項18】
請求項1から15のいずれか記載の光学ガラスを精密プレス成形してなる光学素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−197211(P2012−197211A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112692(P2011−112692)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】