説明

光学ガラス、プリフォーム及び光学素子

【課題】屈折率(n)が所望の範囲内にありながら、アッベ数(ν)及び部分分散比(θg,F)が小さく、且つ可視光に対する透明性が高められた光学ガラスを提供する。
【解決手段】光学ガラスは、酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%でSiO成分を20.0%以上60.0%以下、CaO成分を20.0%より多く50.0%以下含有し、BaO成分及びKO成分を合計で0%より多く20.0%以下含有し、Nb成分の含有量が30.0%以下であり、部分分散比(θg,F)がアッベ数(νd)との間で、νd≦31の範囲において(−0.00162×νd+0.63822)≦(θg,F)≦(−0.00275×νd+0.68125)の関係を満たし、νd>31の範囲において(−0.00162×νd+0.63822)≦(θg,F)≦(−0.00162×νd+0.64622)の関係を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、プリフォーム及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラやビデオカメラ等の光学系は、その大小はあるが、収差と呼ばれるにじみを含んでいる。この収差は単色収差と色収差に分類されるが、特に色収差は、光学系に使用されるレンズの材料特性に強く依存している。
【0003】
一般に色収差は、低分散の凸レンズと高分散の凹レンズとを組み合わせて補正されるが、この組み合わせでは赤色領域と緑色領域の収差の補正しかできず、青色領域の収差が残る。この除去しきれない青色領域の収差を二次スペクトルと呼ぶ。二次スペクトルを補正するには、青色領域のg線(435.835nm)の動向を加味した光学設計を行う必要がある。このとき、光学設計で着目される光学特性の指標として、部分分散比(θg,F)が用いられている。上述の低分散のレンズと高分散のレンズとを組み合わせた光学系では、低分散側のレンズに部分分散比(θg,F)の大きい光学材料を用い、高分散側のレンズに部分分散比(θg,F)の小さい光学材料を用いることで、二次スペクトルが良好に補正される。
【0004】
部分分散比(θg,F)は、下式(1)により示される。
θg,F=(n−n)/(n−n)・・・・・・(1)
【0005】
光学ガラスには、短波長域の部分分散性を表す部分分散比(θg,F)とアッベ数(ν)との間に、およそ直線的な関係がある。この関係を表す直線は、部分分散比(θg,F)を縦軸に、アッベ数(ν)を横軸に採用した直交座標上で、NSL7とPBM2の部分分散比及びアッベ数をプロットした2点を結ぶ直線で表され、ノーマルラインと呼ばれている(図1参照)。ノーマルラインの基準となるノーマルガラスは光学ガラスメーカー毎によっても異なるが、各社ともほぼ同等の傾きと切片で定義している。(NSL7とPBM2は株式会社オハラ社製の光学ガラスであり、PBM2のアッベ数(ν)は36.3,部分分散比(θg,F)は0.5828、NSL7のアッベ数(ν)は60.5、部分分散比(θg,F)は0.5436である。)
【0006】
ここで、高分散を有するガラスとしては、例えば特許文献1〜3に示されるような光学ガラスが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平03−005340号公報
【特許文献2】特開2006−219365号公報
【特許文献3】特開昭61−168551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1〜3で開示されたガラスは、部分分散比が小さくなく、前記二次スペクトルを補正するレンズとして使用するには十分でなかった。また、特許文献1〜3で開示されたガラスは、可視光に対する透明性が高くなく、特に可視光を透過する用途に用いるには十分でなかった。すなわち、アッベ数(ν)が小さく高分散であり、部分分散比(θg,F)が小さく、且つ可視光に対する透明性が高い光学ガラスが求められている。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、屈折率(n)が所望の範囲内にありながら、アッベ数(ν)が小さく、部分分散比(θg,F)が小さく、且つ可視光に対する透明性が高められた光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、SiO成分及びCaO成分を併用し、これらの含有量を所定の範囲内にすることによって、安定なガラスが形成されながらもアッベ数(ν)の低下が図られ、且つガラスの着色が低減されることを見出した。また、Nb成分の含有量を所定の範囲内にすることによって、高い屈折率や低いアッベ数、低い部分分散比が得られながらも、ガラスの失透が低減されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0011】
(1) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%でSiO成分を20.0%以上60.0%以下、及びCaO成分を20.0より多く50.0%以下含有し、Nb成分の含有量が30.0%以下であり、部分分散比(θg,F)がアッベ数(νd)との間で、νd≦31の範囲において(−0.00162×νd+0.63822)≦(θg,F)≦(−0.00275×νd+0.68125)の関係を満たし、νd>31の範囲において(−0.00162×νd+0.63822)≦(θg,F)≦(−0.00162×νd+0.64622)の関係を満たす光学ガラス。
【0012】
(2) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%でTiO成分を0〜20.0%含有する(1)記載の光学ガラス。
【0013】
(3) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対するNb成分及びTiO成分の含有量の和が10.0%以上40.0%以下である(1)又は(2)記載の光学ガラス。
【0014】
(4) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%でBaO成分を0〜25.0%含有する(1)から(3)のいずれか記載の光学ガラス。
【0015】
(5) 酸化物換算組成のモル比(Nb+BaO)/(TiO+CaO)が0.100以上である(1)から(4)のいずれか記載の光学ガラス。
【0016】
(6) 酸化物換算組成のモル比TiO/Nbが3.00以下である(1)から(5)のいずれか記載の光学ガラス。
【0017】
(7) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
LiO成分 0〜25.0%及び/又は
NaO成分 0〜25.0%及び/又は
O成分 0〜25.0%及び/又は
CsO成分 0〜10.0%
である(1)から(6)のいずれか記載の光学ガラス。
【0018】
(8) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対するRnO成分(式中、RnはLi、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上)のモル和が30.0%以下である(7)記載の光学ガラス。
【0019】
(9) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
MgO成分 0〜20.0%及び/又は
SrO成分 0〜20.0%及び/又は
ZnO成分 0〜30.0%
である(1)から(8)のいずれか記載の光学ガラス。
【0020】
(10) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対するRO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群より選択される1種以上)のモル和が20.0%以上60.0%以下である(9)記載の光学ガラス。
【0021】
(11) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
成分 0〜30.0%及び/又は
成分 0〜40.0%及び/又は
GeO成分 0〜20.0%及び/又は
成分 0〜15.0%及び/又は
La成分 0〜15.0%及び/又は
Gd成分 0〜15.0%及び/又は
Yb成分 0〜15.0%及び/又は
Ta成分 0〜15.0%及び/又は
Bi成分 0〜15.0%及び/又は
WO成分 0〜20.0%及び/又は
TeO成分 0〜30.0%及び/又は
ZrO成分 0〜15.0%及び/又は
Al成分 0〜15.0%及び/又は
Sb成分 0〜1.0%
をさらに含有する(1)から(10)のいずれか記載の光学ガラス。
【0022】
(12) 1.70以上2.20以下の屈折率(nd)を有し、20以上40以下のアッベ数(νd)を有する(1)から(11)のいずれか記載の光学ガラス。
【0023】
(13) 分光透過率が70%を示す波長(λ70)が500nm以下である(1)から(12)のいずれか記載の光学ガラス。
【0024】
(14) (1)から(13)のいずれか記載の光学ガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。
【0025】
(15) (1)から(13)のいずれか記載の光学ガラスを研削及び/又は研磨してなる光学素子。
【0026】
(16) (1)から(13)のいずれか記載の光学ガラスを精密プレス成形してなる光学素子。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、SiO成分及びCaO成分に、BaO成分及びKO成分のうち1種以上を併用し、これらの含有量を所定の範囲内にすることによって、ガラスの高屈折率及び高分散化が図られながらも、ガラスの部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で所望の関係を有し、ガラスの着色が低減される。従って、屈折率(n)が所望の範囲内にありながら、アッベ数(ν)が小さく、部分分散比(θg,F)が小さく、可視光に対する透明性が高い光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】部分分散比(θg,F)が縦軸でアッベ数(ν)が横軸の直交座標に表されるノーマルラインを示す図である。
【図2】本願の実施例のガラスについての部分分散比(θg,F)とアッベ数(ν)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の光学ガラスは、酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%でSiO成分を20.0%以上60.0%以下、及びCaO成分を20.0より多く50.0%以下含有し、Nb成分の含有量が30.0%以下であり、部分分散比(θg,F)がアッベ数(νd)との間で、νd≦31の範囲において(−0.00162×νd+0.63822)≦(θg,F)≦(−0.00275×νd+0.68125)の関係を満たし、νd>31の範囲において(−0.00162×νd+0.63822)≦(θg,F)≦(−0.00162×νd+0.64622)の関係を満たす。SiO成分及びCaO成分を併用し、これらの含有量を所定の範囲内にすることによって、安定なガラスが形成されながらもアッベ数(ν)の低下が図られ、且つガラスの着色が低減される。また、Nb成分の含有量を所定の範囲内にすることによって、高い屈折率や低いアッベ数、低い部分分散比が得られながらも、ガラスの失透が低減される。このため、屈折率(n)が所望の範囲内にありながら、アッベ数(ν)が小さく、部分分散比(θg,F)が小さく、可視光に対する透明性が高い光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を得ることができる。
【0030】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0031】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中において、各成分の含有量は特に断りがない場合は、全て酸化物換算組成のガラス全物質量に対するモル%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総物質量を100モル%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0032】
<必須成分、任意成分について>
SiO成分は、安定なガラス形成を促し、光学ガラスとして好ましくない失透(結晶物の発生)を低減する成分である。特に、SiO成分の含有量を20.0%以上にすることで、ガラスの部分分散比を大幅に高めることなく、耐失透性に優れたガラスを得ることができる。また、これにより再加熱時における失透や着色を低減できる。一方で、SiO成分の含有量を60.0%以下にすることで、ガラスの屈折率が低下し難くなることで所望の高い屈折率を得易くすることができ、且つ、ガラスの部分分散比の上昇を抑えることができる。また、SiO成分の含有量を60.0%以下にすることで、ガラスの溶融性を良好に保つことができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するSiO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは21.0%、さらに好ましくは24.0%、さらに好ましくは27.0%、最も好ましくは30.0%を下限とする。また、このSiO成分の含有量は、好ましくは60.0%、より好ましくは50.0%、最も好ましくは45.0%を上限とする。SiO成分は、原料として例えばSiO、KSiF、NaSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0033】
CaO成分は、アッベ数が低く耐失透性の高いガラスを得るために必要な成分である。特に、CaO成分の含有量を20.0%より多くすることで、アッベ数が低く耐失透性の高い光学ガラスを得ることができ、且つガラスの溶解性を高めることができる。一方で、CaO成分の含有量を50.0%以下にすることで、ガラスの屈折率の低下や部分分散比の上昇を抑制しつつ、CaO成分の過剰な含有によるガラスの耐失透性の悪化を抑制することができる。また、これにより再加熱時における失透や着色を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するCaO成分の含有量は、好ましくは20.0%より多くし、より好ましくは24.0%を上限とし、さらに好ましくは30.0%より多くし、さらに好ましくは32.0%を上限とし、最も好ましくは33.5%を下限とする。また、このCaO成分の含有量は、好ましくは50.0%、より好ましくは45.0%、最も好ましくは40.0%を上限とする。CaO成分は、原料として例えばCaCO、CaF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0034】
Nb成分は、ガラスの耐失透性を高める成分であり、且つガラスの屈折率を高めつつ、アッベ数及び部分分散比を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Nb成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラス製造時における溶解温度の上昇を抑制し、且つNb成分の過剰な含有による失透を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するNb成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは15.0%を上限とする。なお、Nb成分は含有しなくてもよいが、Nb成分の含有量を0%より多く含有することで、ガラスの屈折率を高めながらも、アッベ数をより低くすることができ、且つ、ガラスの部分分散比を小さくすることができる。また、Nb成分の含有量を0%より多く含有することで、ガラスの耐失透性を高め、ガラスのプレス成形性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するNb成分の含有量は、好ましくは0%より多くし、より好ましくは3.0%、さらに好ましくは4.0%、さらに好ましくは5.0%、最も好ましくは6.0%を下限とする。Nb成分は、原料として例えばNb等を用いてガラス内に含有することができる。
【0035】
TiO成分は、ガラスの屈折率を高めつつ、アッベ数を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、TiO成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減し、ガラスの内部透過率を高めることができる。また、TiO成分の含有量を10.0%以下にすることで、部分分散比が上昇し難くなるため、ノーマルラインに近い低い部分分散比を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するTiO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%を上限とし、さらに好ましくは12.0%未満とし、最も好ましくは9.0%を上限とする。一方で、より低い部分分散比を得る観点や、着色を低減する観点ではTiO成分を含有しないことが好ましいが、より高い屈折率やより低いアッベ数を得たり、耐失透性を高めたりする観点では、このTiO成分の含有量は、好ましくは0%より多くし、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは3.0%、最も好ましくは4.5%を下限とする。TiO成分は、原料として例えばTiO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0036】
本発明の光学ガラスは、Nb成分及びTiO成分の含有量の和が10.0%以上40.0%以下であることが好ましい。特に、この和が10.0%以上であることにより、屈折率を高めてアッベ数を低くするNb成分及びTiO成分の含有量が増加するため、所望の高い屈折率と低いアッベ数を有する光学ガラスを得ることができる。一方で、この和が40.0%以下であることにより、これらの成分による失透が低減されるため、より耐失透性が高く安定なガラスを得ることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するモル和(Nb+TiO)は、好ましくは10.0%、より好ましくは12.0%、さらに好ましくは14.0%、最も好ましくは15.0%を下限とする。一方で、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するモル和(Nb+TiO)は、好ましくは40.0%、より好ましくは30.0%、さらに好ましくは25.0%、最も好ましくは20.0%を上限とする。
【0037】
BaO成分は、ガラスの屈折率を高め、ガラスの部分分散比を低くし、且つガラスの耐失透性を高める成分である。特に、BaO成分の含有量を25.0%以下にすることで、BaO成分の過剰な含有による耐失透性や化学的耐久性の悪化を抑制できる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するBaO成分の含有量は、好ましくは25.0%、より好ましくは20.0%、さらに好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。なお、BaO成分は任意成分であるため含有しなくてもよいが、BaO成分を0%より多く含有することで、溶解性や耐失透性を高めながらも、所望の高い屈折率と低い部分分散比を実現し易くできる。また、これにより再加熱時における失透や着色を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するBaO成分の含有量は、好ましくは0%より多くし、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは1.0%を下限としてもよい。一方で、BaO成分は、原料として例えばBaCO、Ba(NO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0038】
本発明の光学ガラスは、TiO成分及びCaO成分の含有量の和に対するNb成分及びBaO成分の含有量の和が0.100以上であることが好ましい。これにより、部分分散比を高める成分であるTiO成分及びCaO成分の含有量に対して、部分分散比を低くする成分であるNb成分及びBaO成分の含有量が増加するため、所望の低い部分分散比を有する光学ガラスを得ることができる。従って、酸化物換算組成のモル比(Nb+BaO)/(TiO+CaO)は、好ましくは0.100、より好ましくは0.120、さらに好ましくは0.130、最も好ましくは0.140を下限とする。一方、このモル比(Nb+BaO)/(TiO+CaO)の上限は特に限定されないが、本発明の光学ガラスは、このモル比(Nb+BaO)/(TiO+CaO)が1.000以下、より詳細には0.700以下、さらに詳細には0.400以下であることが多い。
【0039】
また、本発明の光学ガラスは、酸化物換算組成のモル比TiO/Nbが3.00以下であることが好ましい。これにより、ガラスのアッベ数が所望の範囲内に調整されながらも部分分散比が低くなるため、所望のアッベ数と部分分散比の関係を有する光学ガラスを得ることができる。それとともに、着色の少ない光学ガラスを得ることができる。従って、酸化物換算組成のモル比TiO/Nbは、好ましくは3.00、より好ましくは2.00、さらに好ましくは2.50を上限とする。
【0040】
LiO成分は、ガラスの溶融性を向上し、且つガラスの部分分散比を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、LiO成分の含有量を25.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑えるとともに、LiO成分の過剰な含有によるガラスの形成時や再加熱時の乳白化や結晶析出を低減しつつ、ガラスの化学的耐久性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するLiO成分の含有量は、好ましくは25.0%、より好ましくは17.0%、さらに好ましくは12.0%、さらに好ましくは9.5%、最も好ましくは5.0%を上限とする。LiO成分は、原料として例えばLiCO、LiNO、LiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0041】
NaO成分は、ガラスの溶融性を向上する成分であるとともに、ガラス転移点を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、NaO成分の含有量を25.0%以下にすることで、屈折率を低下し難くするとともに、化学的耐久性を悪化し難くすることができる。また、ガラス形成時における耐失透性を高め、再加熱時における失透や着色を低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するNaO成分の含有量は、好ましくは25.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。NaO成分は、原料として例えばNaCO、NaNO、NaF、NaSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0042】
O成分は、ガラスの溶融性を調整しつつガラス転移点を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、KO成分の含有量を25.0%以下にすることで、ガラス形成時における耐失透性を高め、再加熱時における失透や着色を低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するKO成分の含有量は、好ましくは25.0%、より好ましくは20.0%、さらに好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。なお、KO成分は、よりプレス成形性の高いガラスを得る観点では含有しなくてもよいが、部分分散比をより低くする作用があるため、好ましくは0%より多く、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは1.0%を下限として含有してもよい。KO成分は、原料として例えばKCO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0043】
CsO成分は、ガラス転移点を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、CsO成分の含有量を10.0%以下にすることで、CsO成分の過剰な含有によるガラスの失透を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するCsO成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%を上限とする。CsO成分は、原料として例えばCsCO、CsNO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0044】
本発明の光学ガラスでは、RnO成分(式中、RnはLi、Na、K及びCsからなる群より選択される1種以上)の含有量の和が、30.0%以下であることが好ましい。特に、このモル和を30.0%以下にすることで、所望の高屈折率を得易くするとともに、ガラスの失透を低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するRnO成分の含有量のモル和は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、さらに好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。
【0045】
MgO成分は、ガラスの溶融温度を低下する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、MgO成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの屈折率の低下を抑制しつつ、ガラスの耐失透性を高めることができる。また、これにより再加熱時における失透や着色を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するMgO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。MgO成分は、原料として例えばMgO、MgCO、MgF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0046】
SrO成分は、ガラスの屈折率を高め、ガラスの耐失透性を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、SrO成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの化学的耐久性の悪化を抑制することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するSrO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。SrO成分は、原料として例えばSr(NO、SrF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0047】
ZnO成分は、ガラスの耐失透性を高め、ガラス転移点を下げる成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、ZnO成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの再加熱時における失透を低減しつつ、ガラスの化学的耐久性を高めることができる。また、これにより再加熱時における失透や着色を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するZnO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、さらに好ましくは16.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。なお、ZnO成分は任意成分であるため含有しなくてもよいが、特に高い耐失透性と低いガラス転移点を得る観点では、このZnO成分の含有量は、好ましくは0%より多く、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは1.0%を下限としてもよい。ZnO成分は、原料として例えばZnO、ZnF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0048】
本発明の光学ガラスでは、RO成分(式中、RはZn、Mg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)は、ガラスの耐失透性を高めつつ、屈折率を調整するために有用な成分である。特に、RO成分の含有量を20.0%以上にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。一方で、これらRO成分の合計含有量が多すぎると、かえってガラスの耐失透性が悪化し易くなり、ガラスの化学的耐久性も悪化し易くなる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するRO成分の合計含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは25.0%、さらに好ましくは30.0%を下限とし、最も好ましくは35.0%より多くする。また、このRO成分の合計含有量は、好ましくは60.0%、より好ましくは55.0%、最も好ましくは50.0%を上限とする。
【0049】
成分は、ガラスの安定性を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、P成分の含有量を30.0%以下にすることで、P成分の過剰な含有による失透が低減されるため、ガラスの安定性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するP成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。P成分は、原料として例えばAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、BPO、HPO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0050】
成分は、安定なガラス形成を促して耐失透性を高め、且つガラスの溶解性を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、B成分の含有量を40.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑えることで所望の高い屈折率を得ることができるとともに、ガラスの部分分散比の上昇を抑えることができる。また、これによりガラスの再加熱時における失透を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するB成分の含有量は、好ましくは40.0%、より好ましくは30.0%、さらに好ましくは20.0%、さらに好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。なお、B成分は任意成分であるため含有しなくてもよいが、B成分を0%より多く含有することで、ガラスの耐失透性及び溶解性を高めることができる。従って、このB成分の含有量は、好ましくは0%より多くし、より好ましくは1.0%、最も好ましくは2.0%を下限とする。B成分は、原料として例えばHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0051】
GeO成分は、ガラスの屈折率を高め、ガラスを安定化させて成形時の失透を低減する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、GeO成分の含有量を20.0%以下にすることで、高価なGeO成分の使用量が低減されるため、ガラスの材料コストを低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するGeO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。GeO成分は、原料として例えばGeO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0052】
成分、La成分、Gd成分及びYb成分は、ガラスの屈折率を高めつつ、部分分散比を小さくする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Y成分、La成分、Gd成分及びYb成分の含有量をそれぞれ15.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができ、且つガラスのアッベ数の上昇を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するY成分、La成分、Gd成分及びYb成分のそれぞれの含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは7.0%、最も好ましくは4.2%を上限とする。Y成分、La成分、Gd成分及びYb成分は、原料として例えばY、YF、La、La(NO・XHO(Xは任意の整数)、Gd、GdF、Yb等を用いることができる。
【0053】
Ta成分は、ガラスの屈折率を高め、ガラスのアッベ数及び部分分散比を下げ、且つガラスの耐失透性を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Ta成分の含有量を15.0%以下にすることで、希少鉱物資源であるTa成分の使用量が減るとともに、ガラスがより低温で溶解し易くなるため、ガラスの生産コストを低減することができる。また、Ta成分の含有量を15.0%以下にすることで、Ta成分の過剰な含有によるガラスの失透を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するTa成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Ta成分は、原料として例えばTa等を用いてガラス内に含有することができる。
【0054】
Bi成分は、ガラスの屈折率を高めてアッベ数を低くし、且つガラス転移点を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Bi成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの部分分散比を上昇し難くすることができる。また、Bi成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減することができ、ガラスの内部透過率を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するBi成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Bi成分は、原料として例えばBi等を用いてガラス内に含有することができる。
【0055】
WO成分は、ガラスの屈折率を高めてアッベ数を低くし、ガラスの耐失透性を高め、ガラスの溶解性を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、WO成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの部分分散比を上昇し難くすることができる。また、WO成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減し、ガラスの内部透過率を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するWO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。WO成分は、原料として例えばWO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0056】
TeO成分は、ガラスの屈折率を上げ、ガラスの部分分散比を低くし、ガラス転移点を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、TeO成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減し、ガラスの可視光に対する透過率を高めることができる。また、高価なTeO成分の使用を低減することで、より材料コストの安いガラスを得ることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するTeO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。TeO成分は、原料として例えばTeO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0057】
ZrO成分は、ガラスの屈折率及びアッベ数を高め、部分分散比を低くしつつ、且つ耐失透性を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、ZrO成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの失透を低減でき、且つ、より均質なガラスを得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するZrO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは12.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。なお、ZrO成分は含有しなくてもよいが、ZrO成分を0%より多く含有することで、ガラスの屈折率及びアッベ数を高めつつ、ガラスの部分分散比をより低くし易くできる。また、これにより再加熱時における失透や着色を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するZrO成分の含有量は、好ましくは0%より多くし、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは2.0%を下限とする。ZrO成分は、原料として例えばZrO、ZrF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0058】
Al成分は、ガラスの化学的耐久性を高め、ガラスの耐失透性を向上する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Al成分の含有量を15.0%以下にすることで、Al成分の過剰な含有による失透を低減できる。また、これにより再加熱時における失透や着色を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するAl成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Al成分は、原料として例えばAl、Al(OH)、AlF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0059】
Sb成分は、ガラスの脱泡を促進し、ガラスを清澄する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。Sb成分は、ガラス全物質量に対する含有量を1.0%以下にすることで、ガラス溶融時における過度の発泡を生じ難くすることができ、Sb成分が溶解設備(特にPt等の貴金属)と合金化し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するSb成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは0.8%、さらに好ましくは0.6%を上限とする。但し、光学ガラスの環境上の影響を重視する場合には、Sb成分を含有しないことが好ましい。Sb成分は、原料として例えばSb、Sb、NaSb・5HO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0060】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤や脱泡剤、或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0061】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0062】
本発明の光学ガラスには、他の成分をガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。
【0063】
ただし、Ti、Zr、Nbを除く、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0064】
さらに、PbO等の鉛化合物及びAs等のヒ素化合物、並びに、Th、Cd、Tl、Os、Be、Seの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、光学ガラスに環境を汚染する物質が実質的に含まれなくなる。そのため、特別な環境対策上の措置を講じなくとも、この光学ガラスを製造し、加工し、及び廃棄することができる。
【0065】
本発明の光学ガラスとして好ましく用いられるガラスは、その組成が酸化物換算組成のガラス全物質量に対するモル%で表されているため直接的に質量%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各成分の質量%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
SiO成分 15.0〜45.0質量%及び
CaO成分 15.0〜35.0質量%
並びに
Nb成分 0〜55.0質量%及び/又は
TiO成分 0〜20.0質量%及び/又は
BaO成分 0〜45.0質量%及び/又は
LiO成分 0〜10.0質量%及び/又は
NaO成分 0〜20.0質量%及び/又は
O成分 0〜30.0質量%及び/又は
CsO成分 0〜25.0質量%及び/又は
MgO成分 0〜5.0質量%及び/又は
SrO成分 0〜25.0質量%及び/又は
ZnO成分 0〜25.0質量%及び/又は
成分 0〜30.0質量%及び/又は
成分 0〜30.0質量%及び/又は
GeO成分 0〜20.0質量%及び/又は
成分 0〜30.0質量%及び/又は
La成分 0〜40.0質量%及び/又は
Gd成分 0〜40.0質量%及び/又は
Yb成分 0〜40.0質量%及び/又は
Ta成分 0〜50.0質量%及び/又は
Bi成分 0〜50.0質量%及び/又は
WO成分 0〜30.0質量%及び/又は
TeO成分 0〜45.0質量%及び/又は
ZrO成分 0〜20.0質量%及び/又は
Al成分 0〜20.0質量%及び/又は
Sb成分 0〜3.0質量%
【0066】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して粗溶融した後、金坩堝、白金坩堝、白金合金坩堝又はイリジウム坩堝に入れて1100〜1400℃の温度範囲で3〜5時間溶融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1000〜1300℃の温度に下げてから仕上げ攪拌を行って脈理を除去し、金型に鋳込んで徐冷することにより作製される。
【0067】
<物性>
本発明の光学ガラスは、所定の屈折率及び分散(アッベ数)を有することが好ましい。より具体的には、本発明の光学ガラスの屈折率(n)は、好ましくは1.70、より好ましくは1.75、最も好ましくは1.78を下限とする。一方、本発明の光学ガラスの屈折率(n)の上限は特に限定されないが、概ね2.20以下、より具体的には2.10以下、さらに具体的には2.00以下、さらに具体的には1.95以下であることが多い。また、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは40、より好ましくは38、最も好ましくは35を上限とする。一方、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)の下限は特に限定されないが、概ね20以上、より具体的には25以上、さらに具体的には27以上であることが多い。これらにより、光学設計の自由度が広がり、さらに素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。
【0068】
また、本発明の光学ガラスは、低い部分分散比(θg,F)を有する。より具体的には、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、アッベ数(ν)との間で、ν≦31の範囲において(−0.00162×νd+0.63822)≦(θg,F)≦(−0.00275×νd+0.68125)の関係を満たし、且つ、ν>31の範囲において(−0.00162×νd+0.63822)≦(θg,F)≦(−0.00162×νd+0.64622)の関係を満たす。これにより、ノーマルラインに近付けられた部分分散比(θg,F)を有する光学ガラスが得られるため、この光学ガラスから形成される光学素子の色収差を低減できる。ここで、ν≦31における光学ガラスの部分分散比(θg,F)の下限は、好ましくは(−0.00162×νd+0.63822)、より好ましくは(−0.00162×νd+0.63922)、最も好ましくは(−0.00162×νd+0.64022)である。一方で、ν≦31における光学ガラスの部分分散比(θg,F)の上限は、好ましくは(−0.00275×νd+0.68125)、より好ましくは(−0.00275×νd+0.68025)、最も好ましくは(−0.00275×νd+0.67925)である。また、ν>31における光学ガラスの部分分散比(θg,F)の下限は、好ましくは(−0.00162×νd+0.63822)、より好ましくは(−0.00162×νd+0.63922)、最も好ましくは(−0.00162×νd+0.64022)である。一方で、ν>31における光学ガラスの部分分散比(θg,F)の上限は、好ましくは(−0.00162×νd+0.64622)、より好ましくは(−0.00162×νd+0.64522)、最も好ましくは(−0.00162×νd+0.64422)である。なお、特にアッベ数(ν)が小さい領域では、一般的なガラスの部分分散比(θg,F)はノーマルラインよりも高い値にあり、一般的なガラスの部分分散比(θg,F)とアッベ数(ν)の関係は曲線で表される。しかしながら、この曲線の近似が困難であるため、本発明では、一般的なガラスよりも部分分散比(θg,F)が低いことを、ν=31を境に異なった傾きを有する直線を用いて表した。
【0069】
また、本発明の光学ガラスは、着色が少ないことが好ましい。特に、本発明の光学ガラスは、ガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルで分光透過率70%を示す波長(λ70)が500nm以下であり、より好ましくは470nm以下であり、さらに好ましくは450nm以下であり、最も好ましくは430nm以下である。また、本発明の光学ガラスは、ガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルで分光透過率80%を示す波長(λ80)が560nm以下であり、より好ましくは540nm以下であり、最も好ましくは520nm以下である。また、本発明の光学ガラスは、厚み10mmのサンプルで分光透過率5%を示す波長(λ)が420nm以下であり、より好ましくは400nm以下であり、最も好ましくは380nm以下である。これにより、ガラスの吸収端が紫外領域の近傍に位置するようになり、可視域におけるガラスの透明性が高められるため、この光学ガラスをレンズ等の光学素子の材料として好ましく用いることができる。
【0070】
また、本発明の光学ガラスは、プレス成形性が良好であることが好ましい。すなわち、本発明の光学ガラスは、再加熱試験(イ)後の試験片の波長587.56nmの光線(d線)の透過率を、再加熱試験前の試験片のd線の透過率で除した値が、0.95以上であることが好ましい。また、再加熱試験(イ)前の試験片の透過率が70%となる波長であるλ70と、再加熱試験後の試験片のλ70との差が20nm以下であることが好ましい。これにより、リヒートプレス加工を想定した再加熱試験によっても失透及び着色が起こり難くなることで、ガラスの光線透過率が失われ難くなるため、ガラスに対してリヒートプレス加工に代表される再加熱処理を行い易くできる。すなわち、複雑な形状の光学素子をプレス成形で作製できるため、製造コストが安く、且つ生産性の良い光学素子製造を実現することができる。
【0071】
ここで、再加熱試験(イ)後の試験片の波長587.56nmの光線(d線)の透過率を、再加熱試験(イ)前の試験片のd線の透過率で除した値は、好ましくは0.95、より好ましくは0.96、最も好ましくは0.97を下限とする。また、再加熱試験(イ)前の試験片のλ70と再加熱試験(イ)後の試験片のλ70との差は、好ましくは20nm、より好ましくは18nm、最も好ましくは16nmを上限とする。
【0072】
なお、再加熱試験(イ)は、試験片15mm×15mm×30mmを再加熱し、室温から150分で各試料の転移温度(Tg)より80℃高い温度まで昇温し、前記光学ガラスのガラス転移温度(Tg)よりも80℃高い温度で30分間保温し、その後常温まで自然冷却し、試験片の対向する2面を厚み10mmに研磨した後に目視観察することにより行われる。
【0073】
[プリフォーム及び光学素子]
作製された光学ガラスから、例えばリヒートプレス成形や精密プレス成形等のモールドプレス成形の手段を用いて、ガラス成形体を作製することができる。すなわち、光学ガラスからモールドプレス成形用のプリフォームを作製し、このプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、例えば研磨加工を行って作製したプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりすることができる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0074】
このようにして作製されるガラス成形体は、様々な光学素子に有用であるが、その中でも特に、レンズやプリズム等の光学素子の用途に用いることが好ましい。これにより、光学素子が設けられる光学系の透過光における、色収差による色のにじみが低減される。そのため、この光学素子をカメラに用いた場合は撮影対象物をより正確に表現でき、この光学素子をプロジェクタに用いた場合は所望の映像をより高精彩に投影できる。
【実施例】
【0075】
本発明の実施例(No.1〜No.41)及び比較例(No.A〜No.C)の組成、並びに、屈折率(n)、アッベ数(ν)、部分分散比(θg,F)、分光透過率が5%、70%及び80%を示す波長(λ、λ70、λ80)、並びに再加熱試験(イ)前後の透過率の変動を表1〜表6に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
【0076】
本発明の実施例(No.1〜No.41)及び比較例(No.A〜No.C)のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度の原料を選定し、表1〜表6に示した各実施例及び比較例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1100〜1400℃の温度範囲で3〜5時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1000〜1300℃に温度を下げて攪拌均質化してから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0077】
ここで、実施例(No.1〜No.41)及び比較例(No.A〜No.C)のガラスの屈折率(n)、アッベ数(ν)及び部分分散比(θg,F)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定した。そして、求められたアッベ数(ν)及び部分分散比(θg,F)の値について、関係式(θg,F)=−a×ν+bにおける、傾きaが0.00162及び0.00275のときの切片bを求めた。なお、本測定に用いたガラスは、徐冷降温速度を−25℃/hrとして、徐冷炉にて処理を行ったものを用いた。
【0078】
また、実施例(No.1〜No.41)及び比較例(No.A〜No.C)のガラスの透過率は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて測定した。なお、本発明においては、ガラスの透過率を測定することで、ガラスの着色の有無と程度を求めた。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200〜800nmの分光透過率を測定し、λ(透過率5%時の波長)、λ70(透過率70%時の波長)及びλ80(透過率80%時の波長)を求めた。
【0079】
また、実施例(No.1〜No.41)及び比較例(No.A〜No.C)のガラスの再加熱試験(イ)前後の透過率の変動は、以下のようにして測定した。
再加熱試験(イ)後の試験片の波長587.56nmの光線(d線)の透過率を再加熱試験前の試験片のd線の透過率で除した値は、再加熱試験(イ)前後のガラスに対して、日本光学硝子工業会規格JOGIS02−2003に準じて行った。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、d線の分光透過率を測定し、(再加熱試験(イ)後のd線透過率)/(再加熱試験(イ)前のd線透過率)を求め、再加熱試験(イ)前後の最大透過率の変化を評価した。
一方で、再加熱試験(イ)前の試験片の透過率が70%となる波長であるλ70と再加熱試験後の試験片のλ70との差は、再加熱試験(イ)前後のガラスに対して、上述の試験方法でλ70(透過率70%時の波長)を求め、再加熱試験(イ)前の試験片のλ70と再加熱試験(イ)後の試験片のλ70との差を評価した。
ここで、再加熱試験(イ)は、15mm×15mm×30mmの試験片を、凹型耐火物上に載せて電気炉に入れて再加熱し、常温から150分で各試料の転移温度(Tg)より80℃高い温度(耐火物に落ち込む温度)まで昇温し、その温度で30分保温した後、常温まで冷却して炉外に取り出し、内部で観察できるように対向する2面を厚さ10mmに研磨した後、研磨したガラス試料を目視観察する方法で行った。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【0083】
【表4】

【0084】
【表5】

【0085】
【表6】

【0086】
表1〜表7に表されるように、本発明の実施例の光学ガラスは、ν≦31のものは部分分散比(θg,F)が(−0.00275×νd+0.68125)以下、より詳細には(−0.00275×νd+0.67991)以下であった。また、ν>31のものは、部分分散比(θg,F)が(−0.00162×νd+0.64622)以下、より詳細には(−0.00162×νd+0.64476)以下であった。その反面で、本発明の実施例の光学ガラスは、部分分散比(θg,F)が(−0.00162×νd+0.63822)以上、より詳細には(−0.00162×νd+0.64094)以上であった。すなわち、本願の実施例のガラスについての部分分散比(θg,F)とアッベ数(ν)の関係は、図2に示されるようになった。そのため、これらの部分分散比(θg,F)が所望の範囲内にあることがわかった。一方、本発明の比較例(No.B、No.C)のガラスは、ν>31であり、部分分散比(θg,F)が(−0.00162×νd+0.64622)を超えていた。従って、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例(No.B、No.C)のガラスに比べて部分分散比(θg,F)が小さいことが明らかになった。
【0087】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率(n)が1.70以上、より詳細には1.79以上であるとともに、この屈折率(n)は2.20以下、より詳細には1.85以下であり、所望の範囲内であった。
【0088】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数(ν)が20以上、より詳細には30以上であるとともに、このアッベ数(ν)は40以下、より詳細には34以下であり、所望の範囲内であった。一方、本発明の比較例(No.A)のガラスは、νが34を超えていた。従って、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例(No.A)のガラスに比べてアッベ数(ν)が小さいことが明らかになった。
【0089】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、λ70(透過率70%時の波長)がいずれも500nm以下、より詳細には407nm以下であった。また、本発明の実施例の光学ガラスは、λ(透過率5%時の波長)がいずれも420nm以下、より詳細には359nm以下であった。また、本発明の実施例の光学ガラスは、λ80(透過率80%時の波長)がいずれも560nm以下、より詳細には463nm以下であった。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、可視光に対する透過率が高く着色し難いことが明らかになった。
【0090】
従って、本発明の実施例の光学ガラスは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、可視光に対する透過率が高く、色収差が小さいことが明らかになった。
【0091】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、再加熱試験(イ)後の試験片のd線の透過率を再加熱試験前の試験片のd線の透過率で除した値が、いずれも0.95以上、より詳細には0.97以上であり、所望の範囲内であった。また、本発明の実施例の光学ガラスは、再加熱試験(イ)前後の試験片の透過率λ70の差が20nm以下、より詳細には15nm以下であり、所望の範囲内であった。一方、本発明の比較例(No.A)のガラスは、再加熱試験(イ)後の試験片のd線の透過率を再加熱試験前の試験片のd線の透過率で除した値が0.95未満であり、再加熱試験(イ)後は可視光の全ての波長に対して透過率が70%未満であった。従って、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例(No.A)のガラスに比べ、再加熱による着色や失透が起こり難いことも明らかになった。
【0092】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%でSiO成分を20.0%以上60.0%以下、及びCaO成分を20.0より多く50.0%以下含有し、Nb成分の含有量が30.0%以下であり、部分分散比(θg,F)がアッベ数(νd)との間で、νd≦31の範囲において(−0.00162×νd+0.63822)≦(θg,F)≦(−0.00275×νd+0.68125)の関係を満たし、νd>31の範囲において(−0.00162×νd+0.63822)≦(θg,F)≦(−0.00162×νd+0.64622)の関係を満たす光学ガラス。
【請求項2】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%でTiO成分を0〜20.0%含有する請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対するNb成分及びTiO成分の含有量の和が10.0%以上40.0%以下である請求項1又は2記載の光学ガラス。
【請求項4】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%でBaO成分を0〜25.0%含有する請求項1から3のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項5】
酸化物換算組成のモル比(Nb+BaO)/(TiO+CaO)が0.100以上である請求項1から4のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項6】
酸化物換算組成のモル比TiO/Nbが3.00以下である請求項1から5のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項7】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
LiO成分 0〜25.0%及び/又は
NaO成分 0〜25.0%及び/又は
O成分 0〜25.0%及び/又は
CsO成分 0〜10.0%
である請求項1から6のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項8】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対するRnO成分(式中、RnはLi、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上)のモル和が30.0%以下である請求項7記載の光学ガラス。
【請求項9】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
MgO成分 0〜20.0%及び/又は
SrO成分 0〜20.0%及び/又は
ZnO成分 0〜30.0%
である請求項1から8のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項10】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対するRO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群より選択される1種以上)のモル和が20.0%以上60.0%以下である請求項9記載の光学ガラス。
【請求項11】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
成分 0〜30.0%及び/又は
成分 0〜40.0%及び/又は
GeO成分 0〜20.0%及び/又は
成分 0〜15.0%及び/又は
La成分 0〜15.0%及び/又は
Gd成分 0〜15.0%及び/又は
Yb成分 0〜15.0%及び/又は
Ta成分 0〜15.0%及び/又は
Bi成分 0〜15.0%及び/又は
WO成分 0〜20.0%及び/又は
TeO成分 0〜30.0%及び/又は
ZrO成分 0〜15.0%及び/又は
Al成分 0〜15.0%及び/又は
Sb成分 0〜1.0%
をさらに含有する請求項1から10のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項12】
1.70以上2.20以下の屈折率(nd)を有し、20以上40以下のアッベ数(νd)を有する請求項1から11のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項13】
分光透過率が70%を示す波長(λ70)が500nm以下である請求項1から12のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか記載の光学ガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。
【請求項15】
請求項1から13のいずれか記載の光学ガラスを研削及び/又は研磨してなる光学素子。
【請求項16】
請求項1から13のいずれか記載の光学ガラスを精密プレス成形してなる光学素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−206892(P2012−206892A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73357(P2011−73357)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】