説明

光学ガラス、プリフォーム及び光学素子

【課題】屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、色収差の補正に好ましく用いられる光学ガラスと、これを用いたレンズプリフォームを提供する。
【解決手段】光学ガラスは、B成分、La成分を含有し、1.73以上の屈折率(n)と、45以上のアッベ数(ν)とを有し、部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で(θg,F)≧(−0.00170×ν+0.63750)の関係を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、プリフォーム及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラやビデオカメラ等の光学系は、その大小はあるが、収差と呼ばれるにじみを含んでいる。この収差は単色収差と色収差に分類されるが、特に色収差は、光学系に使用されるレンズの材料特性に強く依存している。
【0003】
一般に色収差は、低分散の凸レンズと高分散の凹レンズとを組み合わせて補正されるが、この組み合わせでは赤色領域と緑色領域の収差の補正しかできず、青色領域の収差が残る。この除去しきれない青色領域の収差を二次スペクトルと呼ぶ。二次スペクトルを補正するには、青色領域のg線(435.835nm)の動向を加味した光学設計を行う必要がある。このとき、光学設計で着目される光学特性の指標として、部分分散比(θg,F)が用いられている。上述の低分散のレンズと高分散のレンズとを組み合わせた光学系では、低分散側のレンズに部分分散比(θg,F)の大きい光学材料を用い、高分散側のレンズに部分分散比(θg,F)の小さい光学材料を用いることで、二次スペクトルが良好に補正される。
【0004】
部分分散比(θg,F)は、下式(1)により示される。
θg,F=(n−n)/(n−n)・・・・・・(1)
【0005】
光学ガラスには、短波長域の部分分散性を表す部分分散比(θg,F)とアッベ数(ν)との間に、およそ直線的な関係がある。この関係を表す直線は、部分分散比(θg,F)を縦軸に、アッベ数(ν)を横軸に採用した直交座標上で、NSL7とPBM2の部分分散比及びアッベ数をプロットした2点を結ぶ直線で表され、ノーマルラインと呼ばれている(図1参照)。ノーマルラインの基準となるノーマルガラスは光学ガラスメーカー毎によっても異なるが、各社ともほぼ同等の傾きと切片で定義している。(NSL7とPBM2は株式会社オハラ社製の光学ガラスであり、PBM2のアッベ数(ν)は36.3,部分分散比(θg,F)は0.5828、NSL7のアッベ数(ν)は60.5、部分分散比(θg,F)は0.5436である。)
【0006】
ここで、1.73以上の高い屈折率(n)と、45以上の高いアッベ数(低い分散)とを有するガラスとしては、例えば特許文献1〜3に示されるような光学ガラスが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−261877号公報
【特許文献2】特開2009−084059号公報
【特許文献3】特開2009−242210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1〜3の光学ガラスは、部分分散比が大きくなく、前記二次スペクトルを補正するレンズとして使用するには十分でなかった。すなわち、低分散で且つ部分分散比(θg,F)の大きい光学ガラスが求められている。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、色収差の補正に好ましく用いられる光学ガラスと、これを用いたレンズプリフォームを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、B成分及びLa成分を併用することによって、ガラスの高屈折率及び低分散化が図られながらも、ガラスの部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で所望の関係を有することを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0011】
(1) B成分、La成分を含有し、1.73以上の屈折率(n)と、45以上のアッベ数(ν)とを有し、部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で(θg,F)≧(−0.00170×ν+0.63750)の関係を満たす光学ガラス。
【0012】
(2) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でB成分を5.0〜50.0%、La成分の含有量が10.0〜55.0%含有する(1)記載の光学ガラス。
【0013】
(3) 酸化物基準の質量に対する外割りの質量%で、F成分の含有量が30.0%以下である(1)又は(2)記載の光学ガラス。
【0014】
(4) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
Bi成分 0〜10.0%及び/又は
TiO成分 0〜15.0%及び/又は
WO成分 0〜15.0%及び/又は
Nb成分 0〜20.0%及び/又は
O成分 0〜10.0%
をさらに含有する(1)から(3)のいずれか記載の光学ガラス。
【0015】
(5) 酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量和(F+Bi+TiO+WO+Nb+KO)が1.0%以上である(4)記載の光学ガラス。
【0016】
(6) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
Ta成分 0〜15.0%及び/又は
ZrO成分 0〜15.0%及び/又は
LiO成分 0〜5.0%
である(1)から(5)のいずれか記載の光学ガラス。
【0017】
(7) 酸化物換算組成の質量比(F+Bi+TiO+WO+Nb+KO)/(Ta+ZrO+LiO)が1.3以上である(6)記載の光学ガラス。
【0018】
(8) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
Gd成分 0〜40.0%及び/又は
成分 0〜20.0%及び/又は
Yb成分 0〜20.0%及び/又は
Lu成分 0〜20.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(7)のいずれか記載の光学ガラス。
【0019】
(9) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でGdの含有量が29.5%以下である(1)から(8)のいずれか記載の光学ガラス。
【0020】
(10) 酸化物換算組成のガラス全質量に対するLn成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Yb、Luからなる群より選択される1種以上)の質量和が43.0%より多く80.0%以下である(1)から(9)のいずれか記載の光学ガラス。
【0021】
(11) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
MgO成分 0〜10.0%及び/又は
CaO成分 0〜15.0%及び/又は
SrO成分 0〜15.0%及び/又は
BaO成分 0〜25.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(10)のいずれか記載の光学ガラス。
【0022】
(12) 酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の質量和が20.0%以下である(11)記載の光学ガラス。
【0023】
(13) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でSiO成分の含有量が25.0%以下である(1)から(12)のいずれか記載の光学ガラス。
【0024】
(14) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でZnO成分の含有量が15.0%以下である(1)から(13)のいずれか記載の光学ガラス。
【0025】
(15) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
GeO成分 0〜10.0%及び/又は
成分 0〜10.0%及び/又は
Al成分 0〜10.0%及び/又は
Ga成分 0〜10.0%及び/又は
NaO成分 0〜10.0%及び/又は
SnO成分 0〜1.0%及び/又は
Sb成分 0〜1.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(14)のいずれか記載の光学ガラス。
【0026】
(16) (1)から(15)のいずれか記載の光学ガラスからなるプリフォーム材。
【0027】
(17) (16)記載のプリフォーム材をプレス成形して作製する光学素子。
【0028】
(18) (1)から(15)のいずれか記載の光学ガラスを母材とする光学素子。
【0029】
(19) (17)又は(18)のいずれか記載の光学素子を備える光学機器。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、色収差の補正に好ましく用いることができる光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】部分分散比(θg,F)が縦軸でアッベ数(ν)が横軸の直交座標に表されるノーマルラインを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の光学ガラスは、B成分、La成分を含有し、1.73以上の屈折率(n)と、45以上のアッベ数(ν)とを有し、部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で(θg,F)≧(−0.00170×ν+0.63750)の関係を満たす。B成分及びLa成分を含有することによって、ガラスの屈折率が高められて分散が小さくなる。また、部分分散比(θg,F)をアッベ数(ν)との間で(θg,F)≧(−0.00170×ν+0.63750)の関係を満たすようにすることで、光学ガラスから形成される光学素子の色収差が低減される。このため、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、色収差の補正に好ましく用いることができる光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を得ることができる。
【0033】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0034】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中において、各成分の含有量は特に断りがない場合は、全て酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0035】
<必須成分、任意成分について>
成分は、ガラス内部で網目構造を形成し、安定なガラス形成を促す成分である。特に、B成分の含有量を5.0%以上にすることで、ガラスを失透し難くし、安定なガラスを得易くすることができる。一方、B成分の含有量を50.0%以下にすることで、所望の屈折率及び分散性を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するB成分の含有量は、好ましくは5.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは15.0%を下限とし、好ましくは50.0%、より好ましくは40.0%、最も好ましくは35.0%を上限とする。B成分は、原料として例えばHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0036】
La成分は、ガラスの屈折率を高めて分散を小さくする成分である。特に、La成分の含有量を10.0%以上にすることで、所望の高い屈折率及び高いアッベ数を有し、且つ、可視光に対する透過率の高いガラスを得易くすることができる。一方、La成分の含有量を55.0%以下にすることで、ガラスの分相を抑制し、ガラスを作製する際にガラスを失透し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLa成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは20.0%を下限とし、好ましくは55.0%、より好ましくは52.0%、最も好ましくは50.0%を上限とする。La成分は、原料として例えばLa、La(NO・XHO(Xは任意の整数)等を用いてガラス内に含有することができる。
【0037】
F成分は、ガラスの部分分散比を高める成分であり、且つガラスの転移点(Tg)を下げる成分である。特に、酸化物基準の質量に対する外割りの質量%で、F成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスを失透し難くすることができる。従って、酸化物基準の質量に対する外割りでのF成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは25.0%、さらに好ましくは20.0%を上限とする。なお、本発明の光学ガラスは、F成分を含有しなくとも所望の高い部分分散比を有する光学ガラスを得ることが可能であるが、F成分を0.1%以上含有することで、高い部分分散比を有しながらも、着色の少ない光学ガラスを得ることができる。従って、酸化物基準の質量に対する外割りでのF成分の含有量は、好ましくは0.1%、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは5.0%、さらに好ましくは6.2%、さらに好ましくは6.8%を下限とする。F成分は、原料として例えばZrF、AlF、NaF、CaF、LaF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0038】
なお、本明細書におけるF成分の含有量は、ガラスを構成するカチオン成分全てが電荷の釣り合うだけの酸素と結合した酸化物でできていると仮定し、それら酸化物でできたガラス全体の質量を100%として、F成分の質量を質量%で表したもの(酸化物基準の質量に対する外割り質量%)である。
【0039】
Bi成分は、ガラスの部分分散比を高める成分であるとともに、ガラスの屈折率を高め、且つガラス転移点を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Bi成分の含有量を10.0%以下にすることで、可視短波長(500nm以下)の光線透過率を悪化し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するBi成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Bi成分は、原料として例えばBi等を用いてガラス内に含有することができる。
【0040】
TiO成分は、ガラスの部分分散比を高める成分であるとともに、ガラスの屈折率及び分散を高め、且つガラスの化学的耐久性を向上する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、TiO成分の含有量を15.0%以下にすることで、所望の高いアッベ数を得易くし、且つ、可視短波長(500nm以下)の光線透過率を悪化し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTiO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは12.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。TiO成分は、原料として例えばTiO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0041】
WO成分は、ガラスの部分分散比を高める成分であるとともに、ガラスの屈折率及び分散を高め、且つガラスの化学的耐久性を向上する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、WO成分の含有量を15.0%以下にすることで、所望の高いアッベ数を得易くし、且つ、可視短波長(500nm以下)の光線透過率を悪化し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するWO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは12.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。WO成分は、原料として例えばWO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0042】
Nb成分は、ガラスの部分分散比を高める成分であるとともに、ガラスの屈折率及び分散を高め、且つガラスの化学的耐久性を向上する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Nb成分の含有量を20.0%以下にすることで、所望の高いアッベ数を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNb成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。Nb成分は、原料として例えばNb等を用いてガラス内に含有することができる。
【0043】
O成分は、ガラスの部分分散比を高める成分であるとともに、ガラスの溶融性を改善する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、KO成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの屈折率を低下し難くして、ガラスの安定性を高めて失透等を生じ難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するKO成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。KO成分は、原料として例えばKCO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0044】
本発明の光学ガラスでは、F成分、Bi成分、TiO成分、WO成分、Nb成分及びKO成分からなる群から選択される1種以上の含有量の和が、1.0%であることが好ましい。この和を1.0%以上にすることで、部分分散比が高められるため、所望の高い部分分散比を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成の質量に対する、これら成分の含有量の和は、好ましくは1.0%、より好ましくは3.0%、さらに好ましくは5.0%、さらに好ましくは6.2%を下限とする。一方で、これら成分の含有量の和の上限は、安定なガラスを得られる限り特に限定されないが、例えば60.0%を超えたときに失透が起こり易くなる可能性が推察される。従って、酸化物換算組成の質量に対する、これら成分の含有量の和は、好ましくは60.0%、より好ましくは50.0%、最も好ましくは40.0%を上限とする。なお、この含有量の和において、F成分の含有量は酸化物基準の質量に対する外割りでの含有量を指し、Bi成分、TiO成分、WO成分、Nb成分及びKO成分の含有量は酸化物換算組成のガラス全質量に対する含有量を指す。
【0045】
これら成分のうち、KO成分は屈折率を下げる作用を有するため、特に屈折率の高いガラスを得られる観点では、F成分、Bi成分、TiO成分、WO成分及びNb成分からなる群から選択される1種以上を含有することが好ましい。また、Nb成分はアッベ数を低くする作用が強いため、特にアッベ数の高いガラスを得られる観点では、F成分、Bi成分、TiO成分、WO成分及びKO成分からなる群から選択される1種以上を含有することが好ましい。また、Bi成分、TiO成分及びWO成分がガラスを着色する作用が強いため、特に着色の少ないガラスを得られる観点では、F成分、Nb成分及びKO成分からなる群から選択される1種以上を含有することが好ましい。従って、高い部分分散比を有しながらも、屈折率及びアッベ数が高く、且つ着色が少ないガラスを得られる観点では、これら成分の中でもF成分の含有量を多くすることが好ましい。
【0046】
Ta成分は、ガラスの屈折率を高めつつ、ガラスを安定化する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Ta成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの部分分散比の低下を抑えることができる。また、Ta成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの材料コストを低減するとともに、高温での溶解を回避してガラス製造時のエネルギー損失を低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTa成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Ta成分は、原料として例えばTa等を用いてガラス内に含有することができる。
【0047】
ZrO成分は、ガラスの屈折率を高め、ガラスを作製する際の耐失透性を向上する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、ZrO成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの部分分散比の低下を抑えることができる。また、ZrO成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスのアッベ数の低下を抑えるとともに、ガラスの製造時における高温での溶解を回避し、ガラス製造時のエネルギー損失を低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するZrO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とし、最も好ましくは4.0%未満とする。ZrO成分は、原料として例えばZrO、ZrF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0048】
LiO成分は、ガラスの溶融性を改善する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、LiO成分の含有量を5.0%以下にすることで、ガラスの部分分散比の低下を抑えることができる。また、LiO成分の含有量を5.0%以下にすることで、ガラスの屈折率の低下を抑えつつ、LiO成分の過剰な含有による失透等を生じ難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLiO成分の含有量は、好ましくは5.0%、より好ましくは4.0%、さらに好ましくは3.0%、さらに好ましくは2.3%を上限とする。LiO成分は、原料として例えばLiCO、LiNO、LiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0049】
本発明の光学ガラスでは、(Ta+ZrO+LiO)の質量和に対する(F+Bi+TiO+WO+Nb+KO)の質量和が1.3以上であることが好ましい。これにより、部分分散比を大きく下げる成分の含有量に対して、部分分散比を高める成分の含有量が増加するため、より多くの希土類を加えても所望の高い部分分散比を得易くできる。すなわち、高い部分分散比と高いアッベ数を両立し易くすることができる。従って、酸化物換算組成における質量比(F+Bi+TiO+WO+Nb+KO)/(Ta+ZrO+LiO)は、好ましくは1.3、より好ましくは1.5、最も好ましくは2.0を下限とする。一方、この含有量の比率は特に限定されず、無限大(すなわちTa+ZrO+LiO=0%)であってもよいが、ガラスの安定性をより高められる観点では、この比率は100.0以下であってもよい。
【0050】
Gd成分は、ガラスの屈折率を高めて分散を小さくする成分である。特に、Gd成分の含有量を40.0%以下にすることで、ガラスの分相を抑制し、且つ、ガラスを作製する際にガラスを失透し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するGd成分の含有量は、好ましくは40.0%、より好ましくは35.0%、最も好ましくは29.5%を上限とする。なお、Gd成分を含有しなくとも所望の高い部分分散比を有するガラスを得ることが可能であるが、Gd成分を1.0%以上含有することで、所望の屈折率及び分散性を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するGd成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは7.0%を下限とする。Gd成分は、原料として例えばGd、GdF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0051】
成分、Yb成分及びLu成分は、ガラスの屈折率を高めて分散を小さくする成分である。ここで、Y成分、Yb成分又はLu成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスを失透し難くすることができる。特に、Yb成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの長波長側(波長1000nmの近傍)に吸収が生じ難くなるため、ガラスの赤外線に対する耐性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するY成分、Yb成分及びLu成分は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは10.0%、最も好ましくは8.0%を上限とする。Y成分、Yb成分及びLu成分は、原料として例えばY、YF、Yb、Lu等を用いてガラス内に含有することができる。
【0052】
本発明の光学ガラスは、Ln成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Yb、Luからなる群より選択される1種以上)の含有量の質量和が、43.0%より多く80.0%以下であることが好ましい。ここで、この質量和を43.0%より多くすることで、所望の高い屈折率及びアッベ数を得易くすることができ、且つ光弾性定数を小さくすることができる。特に、本発明の光学ガラスでは、希土類を多く含有しても部分分散比が下がり難いため、所望の高い部分分散比と、高い屈折率及びアッベ数を両立し易くできる。一方、この質量和を80.0%以下にすることで、ガラスを作製する際のガラスの失透を低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLn成分の含有量の質量和は、好ましくは43.0%より多くし、より好ましくは45.0%、さらに好ましくは50.0%、最も好ましくは55.0%を下限とし、好ましくは80.0%、より好ましくは78.0%、最も好ましくは75.0%を上限とする。
【0053】
MgO成分、CaO成分、SrO成分及びBaO成分は、ガラスの溶融性を改善して耐失透性を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、MgO成分の含有量を10.0%以下、CaO成分若しくはSrO成分の含有量を15.0%以下、又は、BaO成分の含有量を25.0%以下にすることで、ガラスの屈折率を低下し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するMgO成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。また、酸化物換算組成のガラス全質量に対するCaO成分及びSrO成分の含有量は、それぞれ好ましくは15.0%、より好ましくは12.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。また、酸化物換算組成のガラス全質量に対するBaO成分の含有量は、好ましくは25.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは15.0%を上限とする。MgO成分、CaO成分、SrO成分及びBaO成分は、原料として例えばMgCO、MgF、CaCO、CaF、Sr(NO、SrF、BaCO、Ba(NO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0054】
本発明の光学ガラスでは、RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の質量和が、20.0%以下であることが好ましい。これにより、ガラスの屈折率を低下し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分の含有量の質量和は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。
【0055】
SiO成分は、安定なガラス形成を促し、光学ガラスとして好ましくないガラスを作製する際の失透(結晶物の発生)を抑制する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、SiO成分の含有量を25.0%以下にすることで、SiO成分を溶融ガラス中に溶解し易くし、高温での溶解を回避することができる。酸化物換算組成のガラス全質量に対するSiO成分の含有量は、好ましくは25.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは15.0%を上限とする。なお、SiO成分を含有しなくとも、所望の高い部分分散比を有するガラスを得ることは可能であるが、SiO成分の含有量を0.1%以上にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSiO成分の含有量は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは1.0%を下限とする。SiO成分は、原料として例えばSiO、KSiF、NaSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0056】
ZnO成分は、ガラスの溶融性を改善し、ガラス転移点を低くし、且つ安定なガラスを形成し易くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、ZnO成分の含有量を15.0%以下にすることで、光学ガラスの光弾性定数が低く抑えられる。そのため、光学ガラスの透過光の偏光特性を高めることができ、ひいてはプロジェクタやカメラにおける演色性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するZnO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは8.7%、さらにより好ましくは7.7%、最も好ましくは5.0%を上限とする。ZnO成分は、原料として例えばZnO、ZnF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0057】
GeO成分は、ガラスの屈折率を高め、耐失透性を向上させる効果を有する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。しかしながら、GeOは原料価格が高いことから、その量が多いと材料コストが高くなるため、得られるガラスが実用的でなくなる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するGeO成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。GeO成分は、原料として例えばGeO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0058】
成分は、ガラスの液相温度を下げて耐失透性を向上させる効果を有する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、P成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの化学的耐久性、特に耐水性の低下を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するP成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。P成分は、原料として例えばAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、BPO、HPO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0059】
Al成分及びGa成分は、安定なガラスを形成し易くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Al成分及びGa成分の含有量をそれぞれ10.0%以下にすることで、ガラスのアッベ数の低下を抑制することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するAl成分及びGa成分の含有量は、それぞれ好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Al成分及びGa成分は、原料として例えばAl、Al(OH)、AlF、Ga、Ga(OH)等を用いてガラス内に含有することができる。
【0060】
NaO成分は、ガラスの溶融性を改善する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、NaO成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの屈折率を低下し難くして、ガラスの安定性を高めて失透等を生じ難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNaO成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。NaO成分は、原料として例えばNaCO、NaNO、NaF、NaSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0061】
SnO成分は、溶融ガラスの酸化を低減して溶融ガラスを清澄し、且つガラスの光照射に対する透過率を悪化し難くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、SnO成分の含有量を1.0%以下にすることで、溶融ガラスの還元によるガラスの着色や、ガラスの失透を生じ難くすることができる。また、SnO成分と溶解設備(特にPt等の貴金属)との合金化が低減されるため、溶解設備の長寿命化を図ることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSnO成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは0.7%、最も好ましくは0.5%をそれぞれ上限とする。SnO成分は、原料として例えばSnO、SnO、SnF、SnF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0062】
Sb成分は、溶融ガラスを脱泡する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Sb成分の含有量を1.0%以下にすることで、ガラス溶融時における過度の発泡を生じ難くすることができ、Sb成分が溶解設備(特にPt等の貴金属)と合金化し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSb成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは0.8%、最も好ましくは0.5%を上限とする。Sb成分は、原料として例えばSb、Sb、NaSb・5HO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0063】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤、脱泡剤或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0064】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0065】
本発明の光学ガラスには、他の成分を本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、GeO成分はガラスの分散性を高めてしまうため、実質的に含まないことが好ましい。
【0066】
また、Ti、Zr、Nb、W、La、Gd、Y、Yb、Luを除く、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0067】
さらに、PbO等の鉛化合物及びAs等のヒ素化合物、並びに、Th、Cd、Tl、Os、Be、Seの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、光学ガラスに環境を汚染する物質が実質的に含まれなくなる。そのため、特別な環境対策上の措置を講じなくとも、この光学ガラスを製造し、加工し、及び廃棄することができる。
【0068】
本発明のガラス組成物は、その組成が酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表されているため直接的にモル%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各成分のモル%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
成分 10.0〜75.0mol%及び
La成分 5.0〜25.0mol%
並びに
Bi成分 0〜4.0mol%及び/又は
TiO成分 0〜30.0mol%及び/又は
WO成分 0〜10.0mol%及び/又は
Nb成分 0〜10.0mol%及び/又は
O成分 0〜15.0mol%及び/又は
Ta成分 0〜5.0mol%及び/又は
ZrO成分 0〜25.0mol%及び/又は
LiO成分 0〜25.0mol%及び/又は
Gd成分 0〜20.0mol%及び/又は
成分 0〜15.0mol%及び/又は
Yb成分 0〜10.0mol%及び/又は
Lu成分 0〜10.0mol%及び/又は
MgO成分 0〜35.0mol%及び/又は
CaO成分 0〜35.0mol%及び/又は
SrO成分 0〜25.0mol%及び/又は
BaO成分 0〜25.0mol%及び/又は
SiO成分 0〜60.0mol%及び/又は
ZnO成分 0〜30.0mol%及び/又は
GeO成分 0〜20.0mol%及び/又は
成分 0〜10.0mol%及び/又は
Al成分 0〜20.0mol%及び/又は
Ga成分 0〜8.0mol%及び/又は
NaO成分 0〜25.0mol%及び/又は
SnO成分 0〜1.0mol%及び/又は
Sb成分 0〜0.5mol%
並びに、上記各金属元素の1種又は2種以上の酸化物の一部又は全部と置換した弗化物のFとしての合計量 0〜75.0mol%
【0069】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して粗溶融した後、金坩堝、白金坩堝、白金合金坩堝又はイリジウム坩堝に入れて1300〜1350℃の温度範囲で3〜4時間溶融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1200℃以下の温度に下げてから仕上げ攪拌を行って脈理を除去し、金型に鋳込んで徐冷することにより作製される。
【0070】
[物性]
本発明の光学ガラスは、所定の屈折率及び分散(アッベ数)を有することが好ましい。より具体的には、本発明の光学ガラスの屈折率(n)は、好ましくは1.73、より好ましくは1.75、最も好ましくは1.77を下限とする。一方、本発明の光学ガラスの屈折率(n)の上限は特に限定されないが、概ね2.20以下、より具体的には2.10以下、さらに具体的には2.00以下であることが多い。また、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは45、より好ましくは47、最も好ましくは49を下限とする。一方、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)の上限は特に限定されないが、概ね60以下、より具体的には58以下、さらに具体的には57以下であることが多い。これらにより、光学設計の自由度が広がり、さらに素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。
【0071】
また、本発明の光学ガラスは、高い部分分散比(θg,F)を有する。より具体的には、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、アッベ数(ν)との間で、(θg,F)≧−0.00170×ν+0.63750)の関係を満たす。本発明の光学ガラスは、希土類元素成分を多く含有する従来公知のガラスよりも高い部分分散比(θg,F)を有する光学ガラスが得られる。そのため、ガラスの高屈折率及び低分散化を図りながらも、この光学ガラスから形成される光学素子の色収差を低減できる。ここで、光学ガラスの部分分散比(θg,F)の下限は、好ましくは(−0.00170×ν+0.63750)、より好ましくは(−0.00170×ν+0.63950)、最も好ましくは(−0.00170×ν+0.64150)である。一方で、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)の上限は、特に限定されないが、例えば(−0.00170×ν+0.65750)、より好ましくは(−0.00170×ν+0.65550)、最も好ましくは(−0.00170×ν+0.653750)であることが多い。
【0072】
本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定する。なお、本測定に用いるガラスは、徐冷降温速度を−25℃/hrとして、徐冷炉にて処理を行ったものを用いる。
【0073】
また、本発明の光学ガラスは、650℃以下のガラス転移点(Tg)を有することが好ましい。これにより、より低い温度でのプレス成形が可能になるため、モールドプレス成形に用いる金型の酸化を低減して金型の長寿命化を図ることもできる。従って、本発明の光学ガラスのガラス転移点(Tg)は、好ましくは650℃、より好ましくは620℃、最も好ましくは600℃を上限とする。なお、本発明の光学ガラスのガラス転移点(Tg)の下限は特に限定されないが、本発明によって得られるガラスのガラス転移点(Tg)は、概ね100℃以上、具体的には150℃以上、さらに具体的には200℃以上であることが多い。
【0074】
本発明の光学ガラスのガラス転移点(Tg)は、示差熱測定装置(ネッチゲレテバウ社製 STA 409 CD)を用いた測定を行うことで求める。ここで、測定を行う際のサンプル粒度は425〜600μmとし、昇温速度は10℃/minとする。
【0075】
また、本発明の光学ガラスは、着色が少ないことが好ましい。特に、本発明の光学ガラスは、ガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルで分光透過率70%を示す波長(λ70)が500nm以下であり、より好ましくは480nm以下であり、最も好ましくは450nm以下である。また、本発明の光学ガラスは、厚み10mmのサンプルで分光透過率5%を示す波長(λ)が450nm以下であり、より好ましくは430nm以下であり、最も好ましくは410nm以下である。これにより、ガラスの吸収端が紫外領域の近傍に位置するようになり、可視域におけるガラスの透明性が高められるため、この光学ガラスをレンズ等の光学素子の材料として用いることができる。
【0076】
本発明の光学ガラスの透過率は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて測定する。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200〜800nmの分光透過率を測定し、λ70(透過率70%時の波長)及びλ(透過率5%時の波長)を求める。
【0077】
また、本発明の光学ガラスは、光弾性定数が小さいことが好ましい。特に、本発明の光学ガラスは、波長546.1nmにおける光弾性定数(β)が2.0×10−5nm・cm−1・Pa−1以下であり、より好ましくは1.5×10−5nm・cm−1・Pa−1以下であり、さらに好ましくは1.0×10−5nm・cm−1・Pa−1以下であり、最も好ましくは0.7×10−5nm・cm−1・Pa−1以下である。これにより、光学ガラスの部分分散比が高められながらも、透過光の偏光特性が高められるため、光学ガラスをプロジェクタやカメラ(特に偏光フィルタを備えたもの)の光学系に用いたときに、色収差を低減しながらも、光学素子の内部における光の乱反射を抑えられる。すなわち、これらプロジェクタやカメラにおける演色性をより一層高めることができる。
【0078】
本発明の光学ガラスの光弾性定数(β)は、対面研磨した直径25mm、厚さ8mmの円板形状の試料を用い、所定方向にF[Pa]の圧縮荷重を加えたときの、ガラスの中心に生じる波長546.1nmの光の光路差δ[nm]を測定する。そして、得られるF及びδの値と、ガラスの厚さd[cm]の値を用いて、δ=β×d×Fの関係式から光弾性定数β[10−5nm・cm−1・Pa−1]を求める。なお、波長546.1nmの測定光源は、超高圧水銀灯を用いる。
【0079】
[プリフォーム及び光学素子]
作製された光学ガラスから、例えばリヒートプレス成形や精密プレス成形等のモールドプレス成形の手段を用いて、ガラス成形体を作製することができる。すなわち、光学ガラスからモールドプレス成形用のプリフォームを作製し、このプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、例えば研磨加工を行って作製したプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりすることができる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0080】
このようにして作製されるガラス成形体は、様々な光学素子に有用であるが、その中でも特に、レンズやプリズム等の光学素子の用途に用いることが好ましい。これにより、光学素子が設けられる光学系の透過光における、色収差による色のにじみが低減される。そのため、この光学素子をカメラに用いた場合は撮影対象物をより正確に表現でき、この光学素子をプロジェクタに用いた場合は所望の映像をより高精彩に投影できる。
【実施例】
【0081】
本発明の実施例(No.1〜No.13)及び比較例(No.1)の組成、並びに、これらのガラスの屈折率(n)及びアッベ数(ν)の値を表1〜表2に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
【0082】
本発明の実施例(No.1〜No.13)の光学ガラス及び比較例(No.1)のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を選定し、表1〜表2に示した各実施例及び比較例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1300〜1350℃の温度範囲で3〜4時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1150℃以下に温度を下げて攪拌均質化してから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0083】
ここで、実施例(No.1〜No.13)及び比較例(No.1)のガラスの屈折率(n)及びアッベ数(ν)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定した。なお、本測定に用いたガラスは、徐冷降温速度を−25℃/hrとして、徐冷炉にて処理を行ったものを用いた。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
本発明の実施例の光学ガラスは、部分分散比(θg,F)が(−0.00170×ν+0.63750)以上であり、所望の高い部分分散比を有すると推察される。そのため、本発明の実施例の光学ガラスは、アッベ数(ν)との関係式において部分分散比(θg,F)が大きく、光学素子を形成したときの色収差が小さいものと考えられる。
【0087】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率(n)が1.73以上であるとともに、この屈折率(n)は2.20以下、より詳細には1.78以下であり、所望の範囲内であった。
【0088】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数(ν)が45以上、より詳細には49以上であるとともに、このアッベ数(ν)は60以下、より詳細には54以下であり、所望の範囲内であった。
【0089】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、ガラス転移点(Tg)が650℃以下であり、λ70(透過率70%時の波長)が500nm以下であり、λ(透過率5%時の波長)が450nm以下であり、且つ、波長546.1nmにおける光弾性定数(β)が2.0×10−5nm・cm−1・Pa−1以下であると推察される。
【0090】
従って、本発明の実施例の光学ガラスは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、色収差が小さく、モールドプレス成形を行い易く、可視領域の波長の光に対する透明性が高く、且つ光学ガラスの内部における乱反射が小さいと考えられる。
【0091】
さらに、本発明の実施例で得られた光学ガラスを用いて、リヒートプレス成形を行った後で研削及び研磨を行い、レンズ及びプリズムの形状に加工した。また、本発明の実施例の光学ガラスを用いて、精密プレス成形用プリフォームを形成し、精密プレス成形用プリフォームを精密プレス成形加工した。いずれの場合も、加熱軟化後のガラスには乳白化及び失透等の問題は生じず、安定に様々なレンズ及びプリズムの形状に加工することができた。
【0092】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分、La成分を含有し、1.73以上の屈折率(n)と、45以上のアッベ数(ν)とを有し、部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で(θg,F)≧(−0.00170×ν+0.63750)の関係を満たす光学ガラス。
【請求項2】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でB成分を5.0〜50.0%、La成分の含有量が10.0〜55.0%含有する請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
酸化物基準の質量に対する外割りの質量%で、F成分の含有量が30.0%以下である請求項1又は2記載の光学ガラス。
【請求項4】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
Bi成分 0〜10.0%及び/又は
TiO成分 0〜15.0%及び/又は
WO成分 0〜15.0%及び/又は
Nb成分 0〜20.0%及び/又は
O成分 0〜10.0%
をさらに含有する請求項1から3のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項5】
酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量和(F+Bi+TiO+WO+Nb+KO)が1.0%以上である請求項4記載の光学ガラス。
【請求項6】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
Ta成分 0〜15.0%及び/又は
ZrO成分 0〜15.0%及び/又は
LiO成分 0〜5.0%
である請求項1から5のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項7】
酸化物換算組成の質量比(F+Bi+TiO+WO+Nb+KO)/(Ta+ZrO+LiO)が1.3以上である請求項6記載の光学ガラス。
【請求項8】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
Gd成分 0〜40.0%及び/又は
成分 0〜20.0%及び/又は
Yb成分 0〜20.0%及び/又は
Lu成分 0〜20.0%
の各成分をさらに含有する請求項1から7のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項9】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でGdの含有量が29.5%以下である請求項1から8のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項10】
酸化物換算組成のガラス全質量に対するLn成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Yb、Luからなる群より選択される1種以上)の質量和が43.0%より多く80.0%以下である請求項1から9のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項11】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
MgO成分 0〜10.0%及び/又は
CaO成分 0〜15.0%及び/又は
SrO成分 0〜15.0%及び/又は
BaO成分 0〜25.0%
の各成分をさらに含有する請求項1から10のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項12】
酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の質量和が20.0%以下である請求項11記載の光学ガラス。
【請求項13】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でSiO成分の含有量が25.0%以下である請求項1から12のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項14】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でZnO成分の含有量が15.0%以下である請求項1から13のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項15】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
GeO成分 0〜10.0%及び/又は
成分 0〜10.0%及び/又は
Al成分 0〜10.0%及び/又は
Ga成分 0〜10.0%及び/又は
NaO成分 0〜10.0%及び/又は
SnO成分 0〜1.0%及び/又は
Sb成分 0〜1.0%
の各成分をさらに含有する請求項1から14のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか記載の光学ガラスからなるプリフォーム材。
【請求項17】
請求項16記載のプリフォーム材をプレス成形して作製する光学素子。
【請求項18】
請求項1から15のいずれか記載の光学ガラスを母材とする光学素子。
【請求項19】
請求項17又は18のいずれか記載の光学素子を備える光学機器。

【図1】
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【公開番号】特開2012−46410(P2012−46410A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163717(P2011−163717)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】