説明

光学ガラス、プレス成形用ガラス素材、および光学素子とその製造方法

【課題】高屈折率であるとともに優れた製造適性を有する光学ガラスを提供すること。
【解決手段】カチオン%表示で、Si4+を0〜30%、B3+を15〜60%、Li+を0〜10%、Na+を0〜10%、K+を0〜15%、Mg2+を0〜20%、Ca2+を0〜15%、Sr2+を0〜20%、Ba2+を0〜20%、Zn2+を13〜40%、La3+を0〜11%、Gd3+を0〜10%、Y3+を0〜6%、Yb3+を0〜6%、Zr4+を0〜5%、Ti4+を0〜10%、Nb5+を2〜20%、Ta5+を0〜5%、W6+を0〜10%、Te4+を0〜5%、Ge4+を0〜5%、Bi3+を0〜5%、Al3+を0〜5%を含む、Pbを含有しない酸化物ガラスであり、屈折率ndが1.750〜1.850、アッベ数νdが29.0〜40.0、かつガラス転移温度が630℃未満であることを特徴とする光学ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、前記光学ガラスよりなるプレス成形用ガラス素材および光学素子、ならびに前記プレス成形用ガラス素材を用いる光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、撮像装置の高機能化、コンパクト化に伴い、高屈折率ガラス製レンズの需要が高まっている。このようなレンズ材料としては、特許文献1、2に開示されている光学ガラス等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−120485号公報
【特許文献2】特開2006−219365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者の検討によれば、特許文献1、2に記載の光学ガラスをはじめとする従来の高屈折率ガラスは、ガラス転移温度が高いため精密プレス成形には適さない;アニール温度を高くしなければならないためアニール炉の消耗を助長する;液相温度が高く製造安定性に乏しい等の製造上の課題を有するものであった。
【0005】
そこで本発明は、従来の課題を解決すべく、高屈折率であるとともに優れた製造適性を有する光学ガラス、前記光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材および光学素子、ならびに前記プレス成形用ガラス素材を用いる光学素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、下記手段により達成された。
[1]カチオン%表示で、
Si4+ 0〜30%、
3+ 15〜60%、
Li+ 0〜10%、
Na+ 0〜10%、
+ 0〜15%、
Mg2+ 0〜20%、
Ca2+ 0〜15%、
Sr2+ 0〜20%、
Ba2+ 0〜20%、
Zn2+ 13〜40%、
La3+ 0〜11%、
Gd3+ 0〜10%、
3+ 0〜6%、
Yb3+ 0〜6%、
Zr4+ 0〜5%、
Ti4+ 0〜7%、
Nb5+ 2〜20%、
Ta5+ 0〜5%、
6+ 0〜10%、
Te4+ 0〜5%、
Ge4+ 0〜5%、
Bi3+ 0〜5%、
Al3+ 0〜5%、
を含み、
Si4+およびB3+の合計含有量は35〜65%の範囲であり、かつ前記合計含有量に対するB3+の含有量の比(B3+/(Si4++B3+))は0.3〜1の範囲であり、
Li+、Na+およびK+の合計含有量は0〜20%の範囲であり、
Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+の合計含有量に対するZn2+の含有量のカチオン比(Zn2+/(Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+))は0.30〜1の範囲であり、
La3+、Gd3+およびY3+の合計含有量は0〜20%の範囲であり、
Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量は10〜20%の範囲であり、
Ti4+およびNb5+の合計含有量に対するTi4+の含有量のカチオン比(Ti4+/(Ti4++Nb5+))は0〜0.60の範囲であり、
Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するTi4+およびNb5+の合計含有量のカチオン比((Ti4++W6+)/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+))は0〜0.70の範囲、
であり、ただしPbを含有しない酸化物ガラスであり、屈折率ndが1.750〜1.850、アッベ数νdが29.0〜40.0、かつガラス転移温度が630℃未満であることを特徴とする光学ガラス。
[2][1]に記載の光学ガラスよりなるプレス成形用ガラス素材。
[3][1]に記載の光学ガラスよりなる光学素子。
[4][2]に記載のプレス成形用ガラス素材を加熱し、プレス成形型を用いて精密プレス成形することにより光学素子を得る光学素子の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高屈折率であり、ガラス転移温度が低く、優れた製造安定性を有する光学ガラス、および前記光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材および光学素子、ならびに前記プレス成形用ガラス素材を用いる光学素子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[光学ガラス]
本発明の光学ガラスは、カチオン%表示で、
Si4+ 0〜30%、
3+ 15〜60%、
Li+ 0〜10%、
Na+ 0〜10%、
+ 0〜15%、
Mg2+ 0〜20%、
Ca2+ 0〜15%、
Sr2+ 0〜20%、
Ba2+ 0〜20%、
Zn2+ 13〜40%、
La3+ 0〜11%、
Gd3+ 0〜10%、
3+ 0〜6%、
Yb3+ 0〜6%、
Zr4+ 0〜5%、
Ti4+ 0〜7%、
Nb5+ 2〜20%、
Ta5+ 0〜5%、
6+ 0〜10%、
Te4+ 0〜5%、
Ge4+ 0〜5%、
Bi3+ 0〜5%、
Al3+ 0〜5%、
を含み、
Si4+およびB3+の合計含有量は35〜65%の範囲であり、かつ前記合計含有量に対するB3+の含有量の比(B3+/(Si4++B3+))は0.3〜1の範囲であり、
Li+、Na+およびK+の合計含有量は0〜20%の範囲であり、
Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+の合計含有量に対するZn2+の含有量のカチオン比(Zn2+/(Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+))は0.30〜1の範囲であり、
La3+、Gd3+およびY3+の合計含有量は0〜20%の範囲であり、
Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量は10〜20%の範囲であり、
Ti4+およびNb5+の合計含有量に対するTi4+の含有量のカチオン比(Ti4+/(Ti4++Nb5+))は0〜0.60の範囲であり、
Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するTi4+およびNb5+の合計含有量のカチオン比((Ti4++W6+)/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+))は0〜0.70の範囲、
であり、ただしPbを含有しない酸化物ガラスであり、屈折率ndが1.750〜1.850、アッベ数νdが29〜40、かつガラス転移温度が630℃未満であることを特徴とする光学ガラス
である。
以下、本発明の光学ガラスについて、更に詳細に説明する。以下において、特記しない限り「%」とは、「カチオン%」を意味するものとする。
【0009】
ガラス組成
本発明の光学ガラスは酸化物ガラスであり、主要アニオン成分はO2-である。O2-の含有量は95アニオン%以上であることが好ましく、98アニオン%以上であることがより好ましく、99アニオン%以上であることがさらに好ましく、100アニオン%であることが特に好ましい。
【0010】
次にカチオン成分について説明する。
【0011】
Si4+は、ガラスの粘性を上昇させ、ガラスの安定性を向上させる働きがあり、ガラス成形性を向上させる働きをする。ただし30%を超えて導入すると、屈折率は低下し、ガラス転移温度は上昇し、精密プレス成形性および熔解性が悪化する。したがって、Si4+の含有量は0〜30%とする。
Si4+の含有量の好ましい上限は20%、より好ましい上限は15%、さらに好ましい上限は10%、一層好ましい上限は9%、より一層好ましい上限は8%である。Si4+の含有量の好ましい下限は1%、より好ましい下限は2.0%、さらに好ましい下限は3%、一層好ましい下限は4%、より一層好ましい下限は5%である。
【0012】
3+は、ガラスの安定性を向上させるとともに液相温度も低下させる働きがあり、ガラス成形性を向上させる働きのある成分である。ただしB3+の含有量が15%未満であると、屈折率は上昇するがガラスの安定性は低下し、液相温度が上昇するため製造安定性は低下する。また60%を超えて導入すると、屈折率が低下する。したがって、B3+の含有量は15〜60%とする。
3+の含有量の好ましい上限は55%、より好ましい上限は50%、さらに好ましい上限は48%、一層好ましい上限は47%、より一層好ましい上限は45%であり、B3+の含有量の好ましい下限は20%、より好ましい下限は25%、さらに好ましい下限は30%、一層好ましい下限は35%、より一層好ましい下限は38%である。
【0013】
Si4+、B3+はともにガラスの網目形成成分であり、Si4+とB3+の合計含有量が35%未満では、屈折率は上昇するがアッベ数の減少、ガラスの安定性低下、液相温度の上昇が起こる。一方、Si4+とB3+の合計含有量が65%を超えると屈折率は低下しアッベ数は増加する。そのため、Si4+とB3+の合計含有量は35〜65%とする。
Si4+とB3+の合計含有量の好ましい上限は60%、より好ましい上限は58%、さらに好ましい上限は56%、一層好ましい上限は54%、より一層好ましい上限は53%である。Si4+とB3+の合計含有量の好ましい下限は38%、より好ましい下限は40%、さらに好ましい下限は42%、一層好ましい下限は44%、より一層好ましい下限は46%である。
【0014】
Si4+とB3+の合計含有量については上記の通りであるが、該合計含有量に対するB3+の含有量のカチオン比(B3+/(Si4++B3+))が0.3未満では屈折率は低下し液相温度は上昇するため、カチオン比(B3+/(Si4++B3+))は0.3〜1とする。
ガラスの安定性を改善する上から、カチオン比(B3+/(Si4++B3+))の上限は0.99とすることが好ましく、0.97とすることがより好ましく、0.95とすることがさらに好ましく、0.93とすることが一層好ましく、0.90とすることがより一層好ましい。カチオン比(B3+/(Si4++B3+))の好ましい下限は0.40、より好ましい下限は0.50、さらに好ましい下限は0.60、一層好ましい下限は0.70、より一層好ましい下限は0.80である。
【0015】
Li+は、ガラス転移温度を低下させる効果が大きく、熔解性を改善させる効果もある成分である。ただしLi+の含有量を10%より多くすると、屈折率、ガラス安定性とも低下する。したがって、Li+の含有量は0〜10%とする。Li+の含有量の好ましい範囲は0〜8%、より好ましい範囲は0〜6%、さらに好ましい範囲は0〜4%、より一層好ましい範囲は0〜2%である。
【0016】
Na+もガラス転移温度を低下させる効果が大きく、熔解性を改善させる効果もある成分である。ただしNa+の含有量を10%より多くすると、屈折率、ガラス安定性とも低下する。したがって、Na+の含有量は0〜10%とする。Na+の含有量の好ましい範囲は0〜8%、より好ましい範囲は0〜6%、さらに好ましい範囲は0〜4%、より一層好ましい範囲は0〜2%である。
【0017】
+もガラス転移温度を低下させる効果が大きく、熔解性を改善させる効果もある成分である。ただしK+の含有量を15%より多くすると、屈折率、ガラス安定性とも低下する。したがって、K+の含有量は0〜15%とする。K+の含有量の好ましい範囲は0〜10%、より好ましい範囲は0〜8%、さらに好ましい範囲は0〜6%、より一層好ましい範囲は0〜4%、さらに一層好ましい範囲は0〜2%である。
【0018】
Li+、Na+およびK+の含有量については上記の通りであるが、Li+、Na+およびK+の合計含有量が20%を超えると屈折率、ガラス安定性とも低下する。したがって、Li+、Na+およびK+の合計含有量は0〜20%とする。Li+、Na+およびK+の合計含有量の好ましい上限は15%、より好ましい上限は10%、さらに好ましい上限は6%、一層好ましい上限は4%、より一層好ましい上限は2%である。Li+、Na+およびK+の合計含有量の好ましい下限は0.1%、より好ましい下限は0.5%、さらに好ましい下限は1.0%である。
【0019】
Mg2+は、熔融性を改善させる働きがあり、比重を低下させる効果もある成分である。ただしMg2+の含有量が20%を超えると、アッベ数が大きくなり、ガラスの安定性が低下、液相温度が上昇する。したがって、Mg2+の含有量は0〜20%とする。Mg2+の含有量の好ましい範囲は0〜15%、より好ましい範囲は0〜10%、さらに好ましい範囲は0〜8%、一層好ましい範囲は0〜6%であり、Mg2+を含有しないことがより一層好ましい。
【0020】
Ca2+は熔融性を改善させる働きがあり、ガラスを低比重にする効果もある成分である。ただしCa2+の含有量が15%を超えると、アッベ数が大きくなり、ガラスの安定性が低下、液相温度が上昇する。したがって、Ca2+の含有量を0〜15%とする。Ca2+の含有量の好ましい上限は12%、より好ましい上限は10%、さらに好ましい上限は8%、一層好ましい上限は6%、より一層好ましい上限は4%である。Ca2+の含有量の好ましい下限は0.5%、より好ましい下限は1%、さらに好ましい下限は2%である。
【0021】
Sr2+は、熔融性を改善させる働きがあり、ガラスの安定性を向上させる効果もある成分である。ただしSr2+の含有量が20%を超えるとアッベ数は大きくなり、ガラスの安定性は低下する。したがって、Sr2+の含有量は0〜20%とする。Sr2+の含有量の好ましい範囲は0〜15%、より好ましい範囲は0〜10%、さらに好ましい範囲は0〜8%、一層好ましい範囲は0〜6%であり、Sr2+を含有しないことがより一層好ましい。
【0022】
Ba2+は、熔融性を改善させたり、ガラスの安定性を向上させる働きがある成分である。ただしBa2+の含有量が20%を超えると、アッベ数は大きくなり、ガラスの安定性は低下し、比重は増加する。したがって、Ba2+の含有量を0〜20%とする。Ba2+の含有量の好ましい上限は15%、より好ましい上限は10%、さらに好ましい上限は8%、一層好ましい上限は6%、さらに一層好ましい上限は5%である。Ba2+の含有量の好ましい下限は0.5%、より好ましい下限は1%、さらに好ましい下限は2%、一層好ましい下限は3%である。
【0023】
Zn2+は、高屈折率を維持しつつ、ガラス転移温度を低下させる働きをするとともに、熔融性を改善する成分である。ただしZn2+の含有量が13%未満では、ガラス転移温度が上昇する。また、屈折率が低下しアッベ数が大きくなるため、屈折率を高め、アッベ数を小さくする働きのあるTi4+、Nb5+、Ta5+、W6+を多量に含有させる必要が生じる。Ti4+、Nb5+、Ta5+、W6+は屈折率を高める成分であるが、後述する部分分散特性の指標であるΔPg,F値を大きくしたり、精密プレス成形性を悪化させる成分でもある。したがって、Zn含有量が13%未満であると、間接的にΔPg,F値が大きくなり、精密プレス成形性も悪化する。他方、Zn2+の含有量が40%を超えるとガラスの安定性が悪化する。したがって、Zn2+の含有量は13〜40%とする。Zn2+の含有量の好ましい上限は35%、より好ましい上限は30%、さらに好ましい上限は28%、一層好ましい上限は25%、より一層好ましい上限は23%である。Zn2+の含有量の好ましい下限は14%、より好ましい上限は15%、さらに好ましい上限は16%、一層好ましい上限は18%である。
【0024】
Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+の含有量については上記の通りであるが、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+の合計含有量に対するZn2+の含有量のカチオン比(Zn2+/(Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+))が0.30未満では、アッベ数は増加し、ガラスの安定性は低下し、液相温度は上昇する。したがって、カチオン比(Zn2+/(Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+))は0.30〜1とする。カチオン比(Zn2+/(Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+))の好ましい上限は0.98、より好ましい上限は0.95、さらに好ましい上限は0.90、一層好ましい上限は0.85、より一層好ましい上限は0.80である。ガラスの安定性を改善させ、液相温度を低下させる上から、カチオン比(Zn2+/(Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+))の好ましい下限は0.40、より好ましい下限は0.50、さらに好ましい下限は0.60、一層好ましい下限は0.65、より一層好ましい下限は0.70である。
【0025】
La3+は、ガラスの安定性を向上させ、ΔPg,F値を大きくせずに屈折率を高める成分である。ただしLa3+の含有量が11%を超えると、屈折率およびアッベ数は増加し、ガラスの安定性は低下し、液相温度、比重、およびガラス転移温度は上昇する。したがって、La3+の含有量は0〜11%とする。La3+好ましい上限は10%、より好ましい上限は9%、さらに好ましい上限は8%、さらに一層好ましい上限は7%、なお一層好ましい上限は6%である。La3+の含有量の好ましい下限は0.5%、より好ましい下限は1%、さらに好ましい下限は2%、一層好ましい下限は3%である。
【0026】
Gd3+は、ΔPg,F値を大きくせずに屈折率を高める成分である。ただしGd3+の含有量が10%を超えると、屈折率およびアッベ数は増加し、ガラスの安定性は低下、液相温度、比重、およびガラス転移温度は上昇する。したがって、Gd3+の含有量は0〜10%とする。Gd3+の含有量の好ましい範囲は0〜8%、より好ましい範囲は0〜6%、さらに好ましい範囲は0〜4%、一層好ましい範囲は0〜2%であり、Gd3+を含有しないことがより一層好ましい。
【0027】
3+は、ΔPg,F値を大きくせずに屈折率を高める成分である。ただしY3+の含有量が6%を超えると、屈折率およびアッベ数は増加し、ガラスの安定性は低下し、液相温度、比重、およびガラス転移温度は上昇する。したがって、Y3+の含有量は0〜6%とする。Y3+の含有量の好ましい範囲は0〜4%、より好ましい範囲は0〜3%であり、Y3+を含有しないことがさらに好ましい。
【0028】
La3+、Gd3+およびY3+の含有量については上記の通りであるが、所要の屈折率およびアッベ数を実現し、ガラスの安定性を維持し、液相温度の上昇、比重の増加、ガラス転移温度の上昇を抑制する上から、La3+、Gd3+およびY3+の合計含有量は0〜20%とする。La3+、Gd3+およびY3+の合計含有量の好ましい上限は12%、より好ましい上限は10%、さらに好ましい上限は9%、一層好ましい上限は8%、より一層好ましい上限は7%、さらに一層好ましい上限は6%であり、La3+、Gd3+およびY3+の合計含有量の好ましい下限は0.5%、より好ましい下限は1%、さらに好ましい下限は2%、一層好ましい下限は3%である。
【0029】
Yb3+は、ΔPg,F値を大きくせずに屈折率を高める成分である。ただしYb3+の含有量が6%を超えると、屈折率およびアッベ数は増加し、ガラスの安定性は低下し、液相温度、比重、およびガラス転移温度は上昇する。したがって、Yb3+の含有量は0〜6%とする。Yb3+の含有量の好ましい範囲は0〜4%、より好ましい範囲は0〜3%であり、Yb3+を含有しないことがさらに好ましい。
【0030】
Zr4+は、屈折率を高める働きをする成分である。ただしZr4+の含有量が5%を超えるとガラスの安定性は低下し、液相温度は上昇する。したがって、Zr4+の含有量は0〜5%とする。Zr4+の好ましい上限は4%、より好ましい上限は3%、さらに好ましい上限は2%、一層好ましい上限は1%である。Zr4+の含有量の好ましい下限は0.5%である。
【0031】
Ti4+は、屈折率を高めアッベ数を小さくする成分である。ただしTi4+の含有量が7%を超えると、屈折率は増加し、アッベ数は減少し、ΔPg,F値は増加し、ガラスの安定性は低下し、精密プレス成形性は悪化する。また、ガラスの着色も生じる。したがって、Ti4+の含有量は0〜7%とする。Ti4+の好ましい上限は6%、より好ましい上限は5%、さらに好ましい上限は4%である。Ti4+の含有量の好ましい下限は0.5%、より好ましい下限は1%、さらに好ましい下限は2%である。
【0032】
Nb5+は、屈折率を高めアッベ数を小さくする働きをする成分であり、Ti4+やW6+よりもΔPg,F値を小さくする効果がある。ただしNb5+の含有量が2%未満では、所要の光学特性を満たすことが困難となり、ΔPg,F値は増加し、ガラスの安定性は低下し、液相温度は上昇する。他方、Nb5+の含有量が20%を超えると、屈折率は増加し、アッベ数は減少し、ガラスの安定性は低下し、液相温度は上昇する。したがって、Nb5+の含有量は2〜20%とする。Nb5+の好ましい上限は18%、より好ましい上限は16%、さらに好ましい上限は14%、一層好ましい上限は13%、より一層好ましい上限は12%である。Nb5+の含有量の好ましい下限は4%、より好ましい下限は5%、さらに好ましい下限は6%、一層好ましい下限は8%、より一層好ましい下限は9%、さらに一層好ましい下限は10%である。
【0033】
Ta5+は、屈折率を高める成分であり、同じく屈折率を高める成分であるTi4+やNb5+、W6+よりも低分散性を示す。また、Ti4+やW6+よりもΔPg,F値を小さくする効果がある。ただしTa5+の含有量が5%を超えると、屈折率は増加し、ガラスの安定性は低下し、液相温度および比重は上昇する。したがって、Ta5+の含有量は0〜5%とする。Ta5+の含有量の好ましい範囲は0〜4%、より好ましい範囲は0〜3%であり、Ta5+を含有させないことがさらに好ましい。
【0034】
6+は、屈折率を高めアッベ数を小さくする成分である。ただしW6+の含有量が10%を超えると、屈折率、ΔPg,F値、および比重は増加し、アッベ数は減少し、ガラスの安定性は低下し、精密プレス成形性は悪化する。また、ガラスの着色も生じる。したがって、W6+の含有量は0〜10%とする。W6+の含有量の好ましい範囲は0〜8%、より好ましい範囲は0〜6%、さらに好ましい範囲は0〜4%、一層好ましい範囲は0〜3%であり、W6+を含有させないことがより一層好ましい。
【0035】
上記の通り、Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+は、屈折率を高め、アッベ数を小さくする成分である。ただしTi4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量が10%未満では所要の光学特性を満たすガラスを作ることが困難となり、前記合計含有量が20%を超えると、屈折率は増加し、アッベ数は減少し、ΔPg,F値は大きくなり、ガラスの安定性は低下し、液相温度は上昇する。また、ガラスの着色も生じる。したがって、Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量は10〜20%とする。Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量の好ましい上限は19%、より好ましい上限は18%、さらに好ましい上限は17%、一層好ましい上限は16%、より一層好ましい上限は15%である。Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量の好ましい下限は11%、より好ましい下限は12%である。
【0036】
Ti4+およびNb5+の合計含有量に対するTi4+の含有量のカチオン比(Ti4+/(Ti4++Nb5+))が0.60を超えると、ガラスの安定性は低下し、液相温度は上昇し、ΔPg,F値は大きくなり、精密プレス成形性は低下する。したがって、カチオン比(Ti4+/(Ti4++Nb5+))は0〜0.60とする。カチオン比(Ti4+/(Ti4++Nb5+))の好ましい上限は0.55、より好ましい上限は0.51、さらに好ましい上限は0.45、一層好ましい上限は0.40、より一層好ましい上限は0.30、さらに一層好ましい上限は0.20以下である。ガラスの安定性を維持し、液相温度の上昇を抑える上から、カチオン比Ti4+/(Ti4++Nb5+)の好ましい下限は0.02、より好ましい下限は0.05、さらに好ましい下限は0.08、一層好ましい下限は0.10、より一層好ましい下限は0.12である。
【0037】
Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するTi4+およびNb5+の合計含有量のカチオン比((Ti4++W6+)/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+))が0.70を超えると、ΔPg,F値が大きくなるとともに、ガラスの安定性は低下し、液相温度は上昇し、ガラスが着色し、精密プレス成形性は低下する。したがって、カチオン比((Ti4++W6+)/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+))は0〜0.70とする。カチオン比((Ti4++W6+)/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+))の好ましい上限は0.60、より好ましい上限は0.50、さらに好ましい上限は0.40、一層好ましい上限は0.30、より一層好ましい上限は0.20である。また、ガラスの安定性を維持し、液相温度の上昇を抑える上から、カチオン比((Ti4++W6+)/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+))の好ましい下限は0.02、より好ましい下限は0.05、さらに好ましい下限は0.08、一層好ましい下限は0.10、より一層好ましい下限は0.12である。
【0038】
Te4+は、屈折率を高めるとともに、ガラスの安定性を高める働きをする成分であるが、Te4+の含有量が5%を超えるとガラスの安定性が低下する。したがって、Te4+の含有量は0〜5%とする。Te4+の含有量の好ましい範囲は0〜4%、より好ましい範囲は0〜3%である。Te4+は環境負荷への配慮の観点から、その使用量を削減することが望まれるため、Te4+を含有しないことがさらに好ましい。
【0039】
Ge4+は、屈折率を高めるとともに、ガラスの安定性を高める働きをする成分であるが、その含有量が5%を超えるとガラスの安定性が低下する。したがって、Ge4+の含有量は0〜5%とする。Ge4+は、ガラス成分として使用される物質の中で、格段に高価な成分であるため、製造コストの増大を抑える観点から、その使用量を少なくすることが望まれる。したがって、Ge4+の含有量の好ましい範囲は0〜4%、より好ましい範囲は0〜3%であり、Ge4+を含有させないことがさらに好ましい。
【0040】
Bi3+は、屈折率を高めるとともに、ガラスの安定性を高める働きをする成分であるが、その含有量が5%を超えると、ガラスの安定性が低下するとともに、ガラスが着色する傾向を示す。また、精密プレス成形性も悪化する。したがって、Bi3+の含有量は0〜5%とする。Bi3+の含有量の好ましい範囲は0〜4%、より好ましい範囲は0〜3%であり、Bi3+を含有させないことがさらに好ましい。
【0041】
Al3+は、ガラスの安定性、化学的耐久性を改善する働きをする成分であるが、5%を超えて含有させると、屈折率が低下するとともに、ガラスの安定性が低下する傾向を示す。したがって、Al3+の含有量は0〜5%とする。Al3+の含有量の好ましい範囲は0〜4%、より好ましい範囲は0〜3%であり、Al3+を含有させないことがさらに好ましい。
【0042】
本発明の光学ガラスには、上記成分とともに清澄剤としてSb、Snなどを添加してもよい。その場合、Sb、Snの添加量はSb23に換算して外割りで0〜1質量%とすることが好ましく、より好ましくは0〜0.5質量%、Snの添加量はSnO2に換算して外割りで0〜1質量%とすることが好ましく、より好ましくは0〜0.5質量%である。
【0043】
本発明のガラスは光学ガラスであり、着色の少ないことが望まれる。したがって、ガラスを着色するV、Cr、Mn、Cu、Ni、Fe、Pr、Nd、Eu、Tb、Ho、Erを含まないことが好ましい。また、環境への負荷を軽減する上からPbを含まないものとする。環境への負荷をより軽減する上から、Cd、Th、U、Tl、Se、Asも含まないことが好ましい。
【0044】
Ga3+、Lu3+、In3+、Hf4+は少量であれば含有しても構わないが、これら成分による有意義な効果が得られることはなく、いずれも高価な成分であることから、それぞれの含有量を0〜2%の範囲とすることが好ましく、0〜1%の範囲とすることがより好ましく、0%以上0.5%未満の範囲とすることがさらに好ましく、0%以上0.1%未満の範囲とすることが一層好ましく、ガラスの生産コストを抑える上から含有させないことがより一層好ましい。
なお、本発明において含有しない、あるいは含有させないとは、ガラス成分として添加しないことを意味するものであり、不純物など不可避的にガラスに混入するレベルのものまでを排除するものではない。
【0045】
屈折率、アッベ数
本発明の光学ガラスの屈折率ndは1.750〜1.850である。屈折率ndが1.750以上であることにより、本発明の光学ガラスを用いて高機能かつコンパクトな光学系を構成する光学素子を提供することができる。ただし高屈折率ガラスでは、屈折率を高めると液相温度やガラス転移温度が上昇傾向を示し製造適性が低下する。そのため、本発明では屈折率ndの上限を1.850とし、ガラスの製造安定性、成形性を維持する。屈折率ndを1.850以下とすることは比重の増加を抑える上からも有効である。
【0046】
屈折率ndの上限は、1.840であることが好ましく、1.830であることがより好ましく、1.825であることがさらに好ましく、1.820であることが一層好ましく、1.815であることがより一層好ましく、1.810であることがさらに一層好ましい。
屈折率ndの下限は、1.760であることが好ましく、1.770であることがより好ましく、1.780であることがさらに好ましく、1.790であることが一層好ましく、1.795であることがより一層好ましく、1.800であることがさらに一層好ましい。
【0047】
本発明の光学ガラスは、上記範囲の屈折率とともに29.0〜40.0の範囲のアッベ数νdを有する。アッベ数νdが上記範囲であることで、多種の光学ガラスからなる光学素子と組合せることで良好な色収差補正機能を得ることができる。
【0048】
アッベ数νdの上限は、38.0であることが好ましく、37.0であることがより好ましく、36.0であることがさらに好ましく、35.0であることが一層好ましく、34.5であることがより一層好ましく、34.0であることがさらに一層好ましい。
アッベ数νdの下限は、30.0であることが好ましく、31.0であることがより好ましく、31.5であることがさらに好ましく、32.0であることが一層好ましく、32.5であることがより一層好ましく、33.0であることがさらに一層好ましい。
【0049】
ガラス転移温度
本発明の光学ガラスのガラス転移温度は630℃未満である。ガラス転移温度が630℃未満である本発明の光学ガラスによれば、プレス成形時のガラスの温度およびプレス成形型の温度の上昇を抑えることで、良好なプレス成形性を得ることができる。
【0050】
本発明の光学ガラスは、必須成分としてNb5+を、任意成分としてTi4+、Ta5+およ、W6+を含む。これらの成分は、プレス成形時、プレス成形型の成形面と反応し、プレス成形品の表面の品質を低下させたり、成形面の劣化を助長する。こうした現象は、特に、精密プレス成形では回避すべきである。上記反応はプレス成形時のガラスとプレス成形型の温度に大きく影響を受けるため、プレス成形温度を低下させることにより抑制することができる。したがって、ガラス転移温度が630℃未満であることでプレス成形型の温度上昇を抑制可能な本発明の光学ガラスは、精密プレス成形に好適である。また、ガラス転移温度が630℃未満である本発明の光学ガラスによれば、アニール温度も低くすることができ、アニール炉の劣化、消耗を抑えることもできる。
【0051】
本発明の光学ガラスのガラス転移温度の好ましい上限は610℃、より好ましい上限は600℃、さらに好ましい上限は590℃、一層好ましい上限は580℃、より一層好ましい上限は570℃である。また、ガラス転移温度を過剰に低下させると、屈折率が低下したり、ガラスの安定性が悪化傾向を示すため、ガラス転移温度は500℃以上であることが好ましく、520℃以上であることがより好ましく、530℃以上であることがさらに好ましく、540℃以上であることが一層好ましく、550℃以上であることがより一層好ましい。
【0052】
部分分散性
撮像光学系、投射光学系などで、高次の色収差補正を行うには、本発明の光学ガラスからなるレンズと分散の低いガラスからなるレンズの組合せが効果的である。しかし、低分散側のガラスは部分分散比が大きいものが多いため、より高次の色収差を補正する場合、低分散ガラス製レンズと組合せる本発明の光学ガラスには、部分分散比が小さいことが求められる。
部分分散比Pg,Fは、g線、F線、c線における各屈折率ng、nF、ncを用いて、(ng−nF)/(nF−nc)と表される。
本発明の光学ガラスにおいて、高次の色収差補正に適したガラスを提供する上から部分分散比Pg,Fは0.600以下であることが好ましい。Pg,Fは、0.598以下であることがより好ましく、0.596以下であることがさらに好ましく、0.594以下であることが一層好ましく、0.592以下であることがより一層好ましく、0.590以下であることがさらに一層好ましい。
ただし、部分分散比Pg,Fを過剰に減少させると、他の特性が好ましい範囲から逸脱する傾向を示す。そのため、部分分散比Pg,Fは0.570以上とすることが好ましい。部分分散比Pg,Fのより好ましい下限は0.575、さらに好ましい下限は0.580、一層好ましい下限は0.582、より一層好ましい下限は0.584、さらに一層好ましい下限は0.586である。
【0053】
なお、部分分散比Pg,F−アッベ数νd図において、正常部分分散ガラスの基準となるノーマルライン上の部分分散比をPg,F(0)と表すと、Pg,F(0)はアッベ数νdを用いて次式で表される。
Pg,F(0)=0.6483−(0.0018×νd)
ΔPg,Fは、上記ノーマルラインからの部分分散比Pg,Fの偏差であり、次式で表される。
ΔPg,F=Pg,F−Pg,F(0)
=Pg,F+(0.0018×νd)−0.6483
本発明の光学ガラスにおける好ましい態様は、偏差ΔPg,Fが0.02以下であり、高次の色収差補正用の光学素子材料として好適である。本発明におけるΔPg,Fの好ましい範囲は0.015以下、より好ましい範囲は0.01以下、さらに好ましい範囲は0.008以下、一層好ましい範囲は0.006以下、より一層好ましい範囲は0.005以下である。
【0054】
比重
本発明の光学ガラスは、1.750〜1.850の範囲の屈折率ndを有する高屈折率ガラスであるが、一般にガラスは高屈折率化すると比重が増加傾向を示す。しかし比重の増加は光学素子の重量増加を招くため好ましくない。これに対し本発明の光学ガラスは、上記ガラス組成を有することにより、高屈折率ガラスでありながら比重を4.5以下にすることができる。本発明の光学ガラスにおいて、比重の好ましい上限は4.4、より好ましい上限は4.3、さらに好ましい上限は4.2、一層好ましい上限は4.1である。一方、比重を過剰に減少させるとガラスの安定性が低下し、液相温度が上昇する傾向を示すため、比重は3.5以上であることが好ましく、3.6以上であることがより好ましく、3.7以上であることがさらに好ましく、3.8以上であることが一層好ましく、3.9以上であることがより一層好ましい。
【0055】
液相温度
本発明の光学ガラスは、上記ガラス組成を有することで、1100℃未満の液相温度を示すことができる。これにより、熔解温度やガラス融液の流出温度の上昇の抑制が可能となるため、高屈折率化とともに、高い均質性と着色の抑制を両立することができる。
本発明において、液相温度は1090℃以下であることが好ましく、1070℃以下であることがより好ましく、1050℃以下であることがさらに好ましく、1040℃以下であることが一層好ましく、1030℃以下であることがより一層好ましい。
他方、液相温度を過剰に低下させると、所要の屈折率、アッベ数を得ることが困難になる。また、部分分散比Pg,F値が上昇する。したがって、液相温度は、950℃以上とすることが好ましく、970℃以上とすることがより好ましく、980℃以上とすることがさらに好ましく、990℃以上とすることが一層好ましく、1000℃以上とすることがより一層好ましい。
【0056】
着色(λ70、λ5)
本発明の光学ガラスは、上記ガラス組成を有することで着色を低減ないし抑制することができ、これにより可視光域の広い範囲にわたり高い光透過性を示すことができる。光学ガラスの着色の指標としては、波長280〜700nmの範囲において光線透過率が70%になる波長λ70、および同光線透過率が5%となる波長λ5を用いることができる。ここで、光線透過率とは、10.0±0.1mmの厚さに研磨された互いに平行な面を有するガラス試料を用い、前記研磨された面に対して垂直方向から光を入射して得られる分光透過率、すなわち、前記試料に入射する光の強度をIin、前記試料を透過した光の強度をIoutとしたときのIout/Iinのことである。分光透過率には、試料表面における光の反射損失も含まれる。また、上記研磨は測定波長域の波長に対し、表面粗さが十分小さい状態に平滑化されていることを意味する。λ70については、本発明の光学ガラスは、450nm以下のλ70を示すことができる。本発明の光学ガラスのλ70は440nm以下であることが好ましく、430nm以下であることがより好ましく、420nm以下であることがさらに好ましく、410nm以下であることが一層好ましく、400nm以下であることがより一層好ましい。ただしλ70が低くなりすぎると、所要の光学特性を満たすことが困難になったり、ガラスの安定性が低下、液相温度が上昇傾向を示す場合があるため、λ70は350nm以上であることが好ましく、360nm以上であることがより好ましく、370nm以上であることがさらに好ましく、380nm以上であることが一層好ましく、390nm以上であることがより一層好ましい。
また、本発明の光学ガラスのλ5の好ましい範囲は370nm以下、より好ましい範囲は365nm、さらに好ましい範囲は360nm以下、一層好ましい範囲は355nm以下、より一層好ましい範囲は350nm以下である。
このように本発明の光学ガラスは、高屈折率ガラスでありながら、優れた光線透過性を示し、撮像光学系、投射光学系を構成する光学素子の材料として好適なものである。
【0057】
光学ガラスの製造方法
本発明の光学ガラスは、熔融法によって製造することができる。熔融法では、所望の組成および光学特性のガラスが得られるように、原料である酸化物、各種塩を秤量し、十分混合して調合原料とし、調合原料を加熱、熔融し、得られた熔融物を清澄、均質化した後、流出して均質な光学ガラスからなる成形体を得る。または、調合原料をルツボに投入して粗熔解して原料をガラス化し、カレット原料を作製する。さらに所望の光学特性の光学ガラスが得られるようにカレット原料を調合し、加熱、熔融し、得られた熔融物を清澄、均質化した後、流出して均質な光学ガラスからなる成形体を得てもよい。
【0058】
[プレス成形用ガラス素材]
本発明のプレス成形用ガラス素材(以下、ガラス素材という)は、上記本発明の光学ガラスよりなる。
ガラス素材は、まず、本発明の光学ガラスが得られるように調合したガラス原料を加熱、溶融し、成形する。このようにして作製したガラス成形体を加工し、プレス成形品1個分の量に相当するガラス素材を作製することができる。
一例として、熔融ガラスを型に鋳込んで板状またはブロック状に成形し、アニールした後、機械加工、すなわち切断、研削、研磨を行ってガラス素材を得ることができる。
または、パイプから熔融ガラス流を流出し、プレス成形品1個分の量に相当する熔融ガラス塊を熔融ガラス流の先端から分離し、その熔融ガラス塊を成形型上でガラス素材に成形してもよい。この場合、成形型上で前記ガラス塊に風圧を加え浮上させた状態でガラス素材に成形してもよいし、成形型上の熔融ガラス塊をプレス成形した後、風圧を加え浮上させた状態で冷却しガラス素材を作製してもよい。
【0059】
[光学素子とその製造方法]
本発明の光学素子は、上記本発明の光学ガラスよりなる。
本発明の光学素子の具体例としては、非球面レンズ、球面レンズ、または平凹レンズ、平凸レンズ、両凹レンズ、両凸レンズ、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズなどのレンズ、マイクロレンズ、レンズアレイ、回折格子付きレンズなどの各種レンズ、プリズム、レンズ機能付きプリズムなどを例示することができる。表面には必要に応じて反射防止膜や波長選択性のある部分反射膜などを設けてもよい。
【0060】
本発明の光学素子は高屈折率と低部分分散比を両立することができるので、他のガラスからなる光学素子と組合せることにより、良好な色収差補正を行うことができる。また、本発明の光学ガラスは高屈折率と低比重の両立が可能であるため、本発明の光学ガラスによれば光学素子の軽量化が可能となる。本発明の光学素子は、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、監視カメラ、車載カメラなど各種カメラの撮像光学系、DVD、CDなどの光記録媒体へのデータ書き込み、読み出し用の光線を導く光学素子、例えば、光ピックアップレンズやコリメータレンズなどにも好適である。また、光通信用の光学素子としても好適である。
【0061】
本発明の光学素子の製造方法は、上記本発明のプレス成形用ガラス素材を加熱し、精密プレス成形することにより光学素子を得るものである。ここで精密プレス成形とは、周知のようにモールドオプティクス成形とも呼ばれ、光学素子の光学機能面をプレス成形型の成形面を転写することにより形成する方法である。なお、光学機能面とは光学素子において、制御対象の光を屈折したり、反射したり、回折したり、入出射させる面を意味し、レンズにおけるレンズ面などがこの光学機能面に相当する。ガラス転移温度が低く、優れた精密プレス成形性を有する本発明の光学ガラスよりなるガラス素材を用いるので、公知の精密プレス成形法を適用し、高品質な光学素子を高い生産性のもと製造することができる。
なお、本発明の光学素子は、精密プレス成形法以外の方法、例えばガラス素材を加熱、軟化し、プレス成形し、光学素子の形状に研削しろ、研磨しろを加えた形状を有する光学素子ブランクを得、当該光学素子ブランクを研削、研磨して作製してもよいし、本発明の光学ガラスからなるガラス成形体を研削、研磨して作製してもよい。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。
【0063】
1.光学ガラスの作製
表1に示すガラス組成になるように、各成分を導入するための原料として、それぞれ相当する酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、水酸化物などを秤量し、十分混合して調合原料とし、これを白金坩堝内に入れ、1200〜1350℃で1〜3時間、加熱、熔融、清澄、均質化した。得られた熔融ガラスをカーボン製の型に流し込み、ガラスの転移温度まで放冷してから直ちにアニール炉に入れ、ガラスの転移温度範囲で約1時間アニール処理した後、炉内で室温まで放冷し光学ガラスを得た。得られた光学ガラス中には、顕微鏡で観察できる結晶は析出しなかった。このようにして得られた光学ガラスの特性を表1に示す。
【0064】
【表1】



【0065】
なお、光学ガラスの諸特性は、以下に示す方法により測定した。
(1)屈折率nd、ng、nF、ncおよびアッベ数νd
降温速度−30℃/時間で降温して得られたガラスについて、日本光学硝子工業会規格の屈折率測定法により、屈折率nd、ng、nF、nc、アッベ数νdを測定した。
【0066】
(2)液相温度LT
ガラスを所定温度に加熱された炉内に入れて2時間保持し、冷却後、ガラス内部を100倍の光学顕微鏡で観察し、結晶の有無から液相温度を決定した。
【0067】
(3)ガラス転移温度Tg、屈伏点Ts
株式会社リガク製の熱機械分析装置を用い、昇温速度を4℃/分にして測定した。
【0068】
(4)部分分散比Pg,F
屈折率ng、nF、ncから算出した。
【0069】
(5)部分分散比のノーマルラインからの差ΔPg,F
部分分散比Pg,Fおよびアッベ数νdから算出されるノーマルライン上の部分分散比Pg,F(0)から算出した。
【0070】
(6)比重
アルキメデス法を用いて測定した。
【0071】
(7)λ70、λ5
分光光度計を用いて、分光透過率を測定して求めた。
【0072】
2.プレス成形用ガラス素材の作製(1)
上記1.で作製した各光学ガラスからなるガラス成形体を複数個のガラス片に切断し、各ガラス片を研削、研磨してプレス成形用ガラス素材を作製した。
【0073】
3.プレス成形用ガラス素材の作製(2)
上記1.と同様に熔融ガラスを調製し、パイプから流出させ、流出する熔融ガラス流の先端を分離して熔融ガラス塊を得、この熔融ガラス塊を成形型上で風圧を加えて浮上させながら成形し、プレス成形用ガラス素材を作製した。このようにして表1に示す各種光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材を作製した。
なお、熔融ガラス塊を成形型上でプレス成形し、次いでプレス成形したガラスを浮上させながら冷却してガラス素材を作製してもよい。
【0074】
4.光学素子の作製
上記2.、3.で作製したプレス成形用ガラス素材をプレス成形型内に導入し、ガラス素材とプレス成形型を一緒に加熱し、ガラス素材を軟化し、精密プレス成形して非球面レンズを作製した。
また、上記2.、3.で作製したプレス成形用ガラス素材を加熱、軟化し、予め加熱したプレス成形型内に導入し、精密プレス成形して非球面レンズを作製した。
いずれの態様においても、精密プレス成形法により高品質な光学素子を得ることができた。
【0075】
5.撮像装置および光学系の作製
上記4.で作製した各レンズを用いて、各レンズを内蔵する一眼レフカメラ用の交換レンズ各種を作製した。
さらに上記4.で作製した各レンズを用いて、コンパクトデジタルカメラの光学系各種を作製し、モジュール化した。さらにこれら光学系にCCDあるいはCMOSなどのイメージセンサーを取り付けモジュール化した。
【0076】
このように、上記4.において作製した各種レンズを用いることにより、高機能、コンパクトな光学系、交換レンズ、レンズモジュール、撮像装置を得ることができる。また、上記4.で作製したレンズと高屈折率高分散光学ガラス製のレンズとを組み合わせることにより、高次の色収差補正がなされる各種光学系とこの光学系を備える撮像装置を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の光学ガラスは、高屈折率特性および優れた精密プレス成形性を有し、ガラス転移温度が低く、精密プレス成形に好適な光学ガラスである。また、高次の色収差補正に好適な光学ガラスであって、プレス成形用ガラス素材および光学素子を作製するために好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン%表示で、
Si4+ 0〜30%、
3+ 15〜60%、
Li+ 0〜10%、
Na+ 0〜10%、
+ 0〜15%、
Mg2+ 0〜20%、
Ca2+ 0〜15%、
Sr2+ 0〜20%、
Ba2+ 0〜20%、
Zn2+ 13〜40%、
La3+ 0〜11%、
Gd3+ 0〜10%、
3+ 0〜6%
Yb3+ 0〜6%、
Zr4+ 0〜5%、
Ti4+ 0〜7%、
Nb5+ 2〜20%、
Ta5+ 0〜5%、
6+ 0〜10%
Te4+ 0〜5%、
Ge4+ 0〜5%、
Bi3+ 0〜5%、
Al3+ 0〜5%、
を含み、
Si4+およびB3+の合計含有量は35〜65%の範囲であり、かつ前記合計含有量に対するB3+の含有量の比(B3+/(Si4++B3+))は0.3〜1の範囲であり、
Li+、Na+およびK+の合計含有量は0〜20%の範囲であり、
Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+の合計含有量に対するZn2+の含有量のカチオン比(Zn2+/(Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+))は0.30〜1の範囲であり、
La3+、Gd3+およびY3+の合計含有量は0〜20%の範囲であり、
Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量は10〜20%の範囲であり、
Ti4+およびNb5+の合計含有量に対するTi4+の含有量のカチオン比(Ti4+/(Ti4++Nb5+))は0〜0.60の範囲であり、
Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するTi4+およびNb5+の合計含有量のカチオン比((Ti4++W6+)/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+))は0〜0.70の範囲、
であり、ただしPbを含有しない酸化物ガラスであり、屈折率ndが1.750〜1.850、アッベ数νdが29.0〜40.0、かつガラス転移温度が630℃未満であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
請求項1に記載の光学ガラスよりなるプレス成形用ガラス素材。
【請求項3】
請求項1に記載の光学ガラスよりなる光学素子。
【請求項4】
請求項2に記載のプレス成形用ガラス素材を加熱し、プレス成形型を用いて精密プレス成形することにより光学素子を得る光学素子の製造方法。

【公開番号】特開2012−232885(P2012−232885A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−55305(P2012−55305)
【出願日】平成24年3月13日(2012.3.13)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】