説明

光学ガラス、光学素子及びプリフォーム

【課題】 本発明は、屈折率(nd)が1.75以上1.85以下を有しており、アッベ数(νd)が30.0以上45.0以下の範囲の光学定数を有する光学ガラスであって、脈理が少なく加工性が良好な光学ガラスを提供。
【解決手段】酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でB成分を4.0〜50.0%、質量比でLa/Bが0.8以下であり、液相温度が1030℃以下であることを特徴とする光学ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率(nd)が1.75〜1.85、アッベ数(νd)が30.0〜45.0の範囲の光学定数を有する光学ガラスであって、脈理が少なく加工性が良好な光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学系を使用する機器のデジタル化や高精細化が急速に進んでおり、デジタルカメラやビデオカメラ等の撮影機器をはじめ、各種光学機器に用いられるレンズ等の光学素子に対する高精度化、軽量、及び小型化の要求は、ますます強まっている。
【0003】
光学素子を作製する光学ガラスの中でも特に、光学素子の軽量化及び小型化を図ることが可能な、1.75以上1.85以下の屈折率(nd)を有し、30.0以上45.0以下のアッベ数(νd)を有する高屈折率低分散ガラスの需要が非常に高まっている。このような高屈折率低分散ガラスとしては、例えば屈折率(nd)が1.74以上1.84以下、アッベ数(νd)が33以上40以下の範囲内にある光学ガラスとして、特許文献1に代表されるようなガラス組成物が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−232243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、屈折率(nd)が1.75以上1.85以下を有し、アッベ数(νd)が30.0以上45.0以下の範囲の光学定数を有する光学ガラスであって、脈理が少なく加工性が良好な光学ガラスを提供することを目的とする。
【0006】
こうした光学素子の製造方法としては、ガラス材料を再加熱して成形(リヒートプレス成形)して得られたガラス成形品を研削研磨する方法や、ゴブ又はガラスブロックを切断し研磨したプリフォーム材、若しくは公知の浮上成形等により成形されたプリフォーム材を再加熱して、高精度な成形面を持つ金型で加圧成形する方法(精密プレス成形)が用いられている。
【0007】
しかしながら、特許文献1で開示されたガラスは、熱的安定性が低いため、ガラスを加熱したときに、加熱により軟化したガラスが結晶化することが多かった。そのため、これらのガラスを用いて、リヒートプレス成形や精密プレス成形を行って光学素子を作製しようとすると、ガラスの結晶化によって光学素子が失透したり、光学素子が乳白化したり、光学素子の光学特性に影響が及んだりしていた。
【0008】
本発明は、上記の問題点を改善し、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が所望の範囲内にありながら、高い熱的安定性を有し且つ脈理が少なく加工性が良好な光学ガラスと、これを用いた光学素子及び光学機器を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意試験研究を重ねた結果、B成分、La3成分を所定の割合で含有するガラスにおいて、屈折率(nd)が1.75〜1.85、アッベ数(νd)が30.0〜45.0の範囲の光学定数を有し、脈理が少なく加工性が良好な光学ガラスを見出し、本発明に至ったものである。
【0010】
本発明は次に示す(1)〜(12)である。
【0011】
(1)酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でB成分を4.0〜50.0%、質量比でLa/Bが0.8以下であり、液相温度が1030℃以下であることを特徴とする光学ガラス。
【0012】
(2)酸化物換算組成のガラス全質量に対して、La成分を0.0〜40.0%含有する(1)の光学ガラス。
【0013】
(3)酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でSiO成分を0.0〜15.0%含有する(1)〜(2)の光学ガラス。
【0014】
(4)酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でCaO成分を0.1〜40.0%含有する(1)〜(3)の光学ガラス。
【0015】
(5)酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でBaO成分を0.1〜12.0%含有する(1)〜(4)の光学ガラス。
【0016】
(6)酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、質量%で
GeO成分 0〜20.0%
成分 0〜10.0%
TiO成分 0〜20.0%
Nb成分 0〜20.0%
WO成分 0〜15.0%
Bi成分 0〜20.0%
TeO成分 0〜20.0%
LiO成分 0〜10.0%
NaO成分 0〜10.0%
O成分 0〜10.0%
CsO成分 0〜10.0%
MgO成分 0〜10.0%
SrO成分 0〜15.0%
ZnO成分 0〜20.0%
Al成分 0〜10.0%
ZrO成分 0〜10.0%
Gd成分 0〜20.0%
成分 0〜15.0%
Ta成分 0〜15.0%
In成分 0〜15.0%
Yb成分 0〜15.0%
Sb成分 0〜5.0%
CeO成分 0〜5.0%
の各成分をさらに含有する(1)〜(5)の光学ガラス。
【0017】
(7)1.75〜1.85の屈折率(nd)を有し、30.0〜45.0のアッベ数(νd)を有する事を特徴とする(1)〜(6)の光学ガラス。
【0018】
(8)ガラス転移点(Tg)が680℃以下である事を特徴とする(1)〜(7)の光学ガラス。
【0019】
(9) (1)〜(8)のいずれかに記載の光学ガラスからなるプリフォーム材。
【0020】
(10) (9)のプリフォーム材をプレス成形して作製する光学素子。
【0021】
(11) (1)〜(8)のいずれか記載の光学素子を母材とする光学素子。
【0022】
(12) (10)又は(11)のいずれか記載の光学素子を備える光学機器。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、B成分、La3成分を所定の割合で含有するガラスにおいて、屈折率(nd)が1.75〜1.85、アッベ数(νd)が30.0〜45.0の範囲の光学定数を有し、脈理が少なく加工性が良好な光学ガラスを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の光学ガラスの各成分について説明する。以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、特に断らない限り、各成分の含有率(%)は酸化物基準の質量%を意味する。
【0025】
成分は、ガラス形成酸化物として作用し、光学定数の調整、ガラスの耐失透性を高める成分である。従って、好ましくは4.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは15.0%、最も好ましくは20.0%を下限とし含有することができる。しかし、その量が多すぎると所望の屈折率を得ることが困難になる。従って、好ましくは50.0%、より好ましくは40.0%、さらに好ましくは30.0%を上限として含有することができる。
は、原料として例えばHBO、B等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0026】
本発明の光学ガラスには、SiO成分を含有しなくても良いが、SiO成分を含有することでガラス形成酸化物として作用し、光学定数の調整、ガラスの化学的耐久性を高めることができる。従って、好ましくは0%より多くし、より好ましくは0.1%、さらに好ましくは1.0%を下限として含有することができる。しかし、その量が多すぎると所望の屈折率を得ることが困難になる。従って、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは7.0%未満を上限として含有することができる。
SiO成分は、原料として例えばSiO等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0027】
本発明の光学ガラスでは、B成分の含有量に対するLa成分の含有量の比率が0.80以下であることが好ましい。この物質量比を0.80以下にすることで、ガラスの耐失透性を高め、液相温度とガラス表面に発生する失透を適切な状態に制御し得ることができる。従って、酸化物換算組成の質量比La/Bは、好ましくは0.80、より好ましくは0.75、さらに好ましくは0.70を上限として含有することができる。
【0028】
ここで、液相温度とガラス表面に発生する失透の制御について説明する。光学ガラスを製造する場合、流出したガラスの粘度が一定範囲内にあると、欠陥の少ない成形体を得ることができる。ランタン系の光学ガラスでは総じて粘度が低いため、液相温度を低くして粘度を高め、光学ガラスを製造し易くする。一方で、液相温度とは無関係にガラス表面に失透を発生し易いガラスが存在する。例えば板状に成形されたガラス表面に失透が発生することがある。従って、液相温度を低くし、かつガラス表面に失透が発生しない状況がベストである。
【0029】
本発明の光学ガラスには、La成分を含有しなくても良いが、La成分を含有することでガラスの屈折率を高め、低分散化させるのに有効である。従って、好ましくは0%より多くし、より好ましくは0.1%、さらに好ましくは1.0%を下限として含有することができる。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、La成分は、好ましくは40.0%、より好ましくは38.0%、さらに好ましくは30.0%、最も好ましくは25.0%を上限として含有することができる。
La成分は、原料として例えばLa、硝酸ランタン又はその水和物等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0030】
CaO成分は、ガラスの溶融性及び耐失透性を向上し、ガラスの化学的耐久性を向上する成分である。従って、好ましくは0.1%より多くし、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは8.0%、最も好ましくは10.0%を下限として含有することができる。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは40.0%、より好ましくは35.0%、さらに好ましくは30.0%を上限として含有することができる。
CaO成分は、原料として例えばCaO又はその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0031】
本発明の光学ガラスでは、SiO+B成分の含有量に対するCaO成分の含有量の比率が0.35以上であることが好ましい。この物質量比を0.35以上にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成の質量比CaO/(SiO+B)は、好ましくは0.35、より好ましくは0.40、さらに好ましくは0.45を下限として含有することができる。
【0032】
本発明の光学ガラスでは、SiO+B成分の含有量に対するLa成分の含有量の比率が0.70以下であることが好ましい。この物質量比を0.70以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成の質量比La/(SiO+B)は、好ましくは0.70、より好ましくは0.65、さらに好ましくは0.60を上限として含有することができる。
【0033】
本発明の光学ガラスには、BaO成分を含有しなくても良いが、BaO成分を含有することで光学定数の調整に有効な成分である。従って、BaO成分は、好ましくは0.1%より多くし、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは2.0%を下限として含有することができる。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは12.0%、最も好ましくは10.0%を上限として含有することができる。
BaO成分は、原料として例えばBaO又はその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0034】
TiO成分は、ガラスの屈折率を高めて比重を小さくする成分である。従って、TiO成分は、好ましくは0%、より好ましくは0.1%、さらに好ましくは1.0%を下限として含有することができる。しかし、その量が多すぎると可視光短波長域の透過率の悪化、所望の屈折率、分散が得られなくなる。従って、好ましくは20.0%、より好ましくは18.0%、さらに好ましくは15.0%を下限として含有できる。
TiO成分は、原料として例えばTiO等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0035】
成分は、ガラスの液相温度を下げて耐失透性を向上させる成分である。また、ガラスの化学的耐久性、特に耐水性の低下を抑えることができる。従って、P成分は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは6.0%を上限として含有することができる。
成分は、原料として例えば正リン酸、リン酸塩等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0036】
GeO成分は、ガラスの屈折率を高めて耐失透性を向上させる成分である。しかしながら、GeOは原料価格が高いため、その量が多いと生産コストが高くなり実用的ではなくなる。従って、GeO成分は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは10.0%を上限として含有することができる。
GeO成分は、原料として例えばGeO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0037】
Nb成分は、ガラスの屈折率を高めて耐失透性を向上する成分である。従って、Nb成分は、好ましくは0%、より好ましくは0.1%、さらに好ましくは1.0%を下限として含有することができる。しかし、その量が多すぎると可視光短波長域の透過率の悪化、所望の屈折率、分散が得られなくなる。従って、好ましくは25.0%、より好ましくは20.0%、さらに好ましくは18.0%、最も好ましくは15.0%を下限として含有できる。
Nb成分は、原料として例えばNb等を用いてガラス内に含有することができる。
【0038】
本発明の光学ガラスには、WO成分を含有しなくても良いが、WO成分を含有することで光学定数を調整して耐失透性を改善する成分である。従って、WO成分は、好ましくは0%より多くし、より好ましくは0.1%、さらに好ましくは1.0%を下限として含有することができる。しかし、その量が多すぎると可視光短波長域の透過率の悪化、所望の屈折率、分散が得られなくなる。従って、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは8.0%を上限として含有することができる。
WO成分は、原料として例えばWO等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0039】
Bi成分は、屈折率を高めてガラス転移点(Tg)を下げ、液相温度の上昇が抑えられるため、ガラスの耐失透性の低下を抑える成分である。従って、Bi成分は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは10.0%を上限として含有することができる。
Bi成分は、原料として例えばBi等を用いてガラス内に含有することができる。
【0040】
TeO成分は、屈折率を高めてガラス転移点(Tg)を下げる成分である。しかしながら、TeOは白金製の坩堝や、熔融ガラスと接する部分が白金で形成されている熔融槽でガラス原料を熔融する際、白金と合金化しうる問題がある。従って、TeO成分は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは10.0%を上限として含有することができる。
TeO成分は、原料として例えばTeO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0041】
本発明の光学ガラスには、LiO成分を含有しなくても良いが、LiO成分を含有することでガラス転移温度(Tg)を大幅に下げ、かつ、混合したガラス原料の溶融を促進する成分である。従って、LiO成分は、好ましくは0%より多くし、より好ましくは0.1%、さらに好ましくは1.0%を下限として含有することができる。しかし、その量が多すぎると耐失透性が急激に悪化しやすくなる。従って、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは6.0%を上限として含有することができる。
LiO成分は、原料として例えばLiO又はその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0042】
NaO成分は、ガラス転移温度(Tg)を下げ、混合したガラス原料の溶融を促進する効果がある。従って、NaO成分は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは6.0%を上限として含有することができる。
NaO成分は、原料として例えばNaO又はその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0043】
O成分は、ガラス転移温度(Tg)を下げ、混合したガラス原料の溶融を促進する効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が急激に悪化しやすくなる。従って、KO成分は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは6.0%を上限として含有することができる。
O成分は、原料として例えばKO又はその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0044】
本発明の光学ガラスでは、RnO成分(式中、RはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の含有率の質量和が、8.0%以下であることが好ましい。この質量和を8.0%以下にすることで、所望の屈折率を得易くすることができる。従って、RnO成分の含有率の質量和は、好ましくは8.0%、より好ましくは6.0%、最も好ましくは4.0%未満を上限として含有することができる。
【0045】
CsO成分は、ガラス転移温度(Tg)を下げ、混合したガラス原料の溶融を促進する効果がある。従って、CsO成分は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは6.0%を上限として含有することができる。
CsO成分は、原料として例えばCsO又はその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0046】
MgO成分は、光学定数の調整に有効である。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、MgO成分は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは6.0%を上限として含有することができる。
MgO成分は、原料として例えばMgO又はその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0047】
SrO成分は、光学定数の調整に有効である。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、SrO成分は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは7.0%を上限として含有することができる。
SrO成分は、原料として例えばSrO又はその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0048】
本発明の光学ガラスでは、RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有率の質量和が、13.0%以上であることが好ましい。この質量和を13.0%以上にすることで、所望の屈折率を得易くすることができる。従って、RO成分の含有率の質量和は、好ましくは13.0%、より好ましくは14.0%、最も好ましくは15.0%を下限として含有することができる。
【0049】
本発明の光学ガラスには、ZnO成分を含有しなくても良いが、ZnO成分を含有することでガラス転移温度(Tg)を下げ、化学的耐久性を改善する効果がある。従って、ZnO成分は、好ましくは0%より多くし、より好ましくは0.1%、さらに好ましくは1.0%を下限として含有することができる。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは20.0%、より好ましくは18.0%、さらに好ましくは16.0%を上限として含有することができる。
ZnO成分は、原料として例えばZnO等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0050】
Al成分は、化学的耐久性の改善に有効な成分である。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、Al成分は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは6.0%を上限として含有することができる。
Al成分は、原料として例えばAl、Al(OH)等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0051】
ZrO成分は、屈折率を高めて化学的耐久性を向上させる効果がある。従って、ZrO成分は、しかし、その量が多すぎると逆に耐失透性が悪化しやすくなる。従って、ZrO成分は、好ましくは0%、より好ましくは0.1%、さらに好ましくは1.0%を下限として含有することができる。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは10.0%、より好ましくは9.0%、さらに好ましくは8.0%を上限として含有することができる。
ZrO成分は、原料として例えばZrO等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0052】
Gd成分は、ガラスの屈折率を高め、低分散化させるのに効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、Gd成分は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、さらに10.0%を上限として含有することができる。
Gdは、原料として例えばGd等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0053】
成分は、ガラスの屈折率を高め、Y成分は、低分散化させるのに効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは8.0%を上限として含有することができる。
成分は、原料として例えばY等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0054】
Ta成分は、屈折率を高め、化学的耐久性及び耐失透性を改善する効果がある。しかし、その量が多すぎると逆に耐失透性が悪化しやすくなる。従って、Ta成分は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは8.0%、最も好ましくは1.0%未満を上限として含有することができる。
Ta成分は、原料として例えばTa等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0055】
In成分は、ガラスの屈折率を高め、低分散化させるのに効果がある。従って、In成分は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは8.0%を上限として含有することができる。
In成分は、原料として例えばIn、In等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0056】
Yb成分は、ガラスの屈折率を高め、低分散化させるのに効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性及び化学的耐久性が悪化しやすくなる。従って、Yb成分は、好ましくは15.0%、好ましくは10.0%、さらに好ましくは8.0%を上限として含有することができる。
Yb成分は、原料として例えばYb等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0057】
Sb成分は、ガラス溶融時の脱泡のために任意に添加しうるが、その量が多すぎると可視光領域の短波長領域における透過率が悪化しやすくなる。従って、Sb成分は、好ましくは5.0%、より好ましくは2.5%、さらに好ましくは0.5%を上限として含有することができる。
【0058】
CeO成分は、耐失透性を改善する効果を有する成分であるが、その量が多すぎると短波長領域の光線透過率が悪化しやすくなる。従って、CeO成分は、好ましくは5.0%、より好ましくは2.5%、さらに好ましくは0.5%を上限として含有することができる。
CeO成分は、原料として例えばCeO等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0059】
次に、本発明の光学ガラスに含有させるべきではない成分について説明する。
【0060】
PbO等の鉛化合物及びAs等の砒素化合物は、ガラスの製造のみならず、研磨等のガラスの冷間加工及びガラスの廃棄に至るまで、環境対策上の措置が必要となり、環境負荷が大きい成分であるという問題があるため、本発明の光学ガラスに含有させるべきではない。
【0061】
カドミウム、トリウム及びタリウムは、共に、環境に有害な影響を与え、環境負荷の非常に大きい成分であるため、本発明の光学ガラスに含有させるべきではない。
【0062】
さらに本発明の光学ガラスにおいては、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Eu、Nd、Sm、Tb、Dy、Er等の着色成分は、含有しないことが好ましい。ただし、ここでいう含有しないとは、不純物として混入される場合を除き、人為的に含有させないことを意味する。
【0063】
なお、本明細書において使用される各成分の含有量の酸化物基準での表記は、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物などが、溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、組成物全体に対する各成分の当該生成酸化物の質量%を表すものである。
[製造方法]
【0064】
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝などに投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1000〜1400℃の温度範囲で2〜5時間熔融し、攪拌均質化した後、適当な温度に下げてから金型に鋳込み、徐冷することにより作製される。
[物性]
【0065】
次に本発明の光学ガラスの物性について説明する。
【0066】
本発明の光学ガラスは、高い屈折率(nd)及び低い分散性を有する必要がある。特に、本発明の光学ガラスの屈折率(nd)は、好ましくは1.75、より好ましくは1.76、さらに好ましくは1.77を下限とし、好ましくは1.85、より好ましくは1.84、さらに好ましくは1.83を上限とする。また、本発明の光学ガラスのアッベ数(νd)は、好ましくは30.0、より好ましくは32.0、さらに好ましくは34.0を下限とし、好ましくは45.0、より好ましくは43.0、さらに好ましくは40.0を上限とする。これらにより、光学設計の自由度が広がり、さらに素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。
【0067】
本発明の光学ガラスでは、流出したガラスを適切な粘度範囲で成形するために、液相温度を1030℃ 以下とすることが重要である。より好ましくは1025℃ 以下、さらに好ましくは1020℃ 以下とすることで、安定生産可能な粘度範囲が広くなり、また、ガラス熔解温度を下げることができるため、消費されるエネルギーを抑えることができる。一方、本発明の光学ガラスの液相温度の下限は特に限定しないが、本発明によって得られるガラスの液相温度は、概ね500℃以上、具体的には600℃以上、さらに具体的には700℃以上であることが多い。
【0068】
本発明の光学ガラスは、着色が少ないことが好ましい。特に、本発明の光学ガラスは、ガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルで分光透過率80%を示す波長(λ80)が460nm以下であり、より好ましくは450nm以下であり、最も好ましくは440nm以下である。また、分光透過率5%を示す波長(λ5)が400nm以下であり、より好ましくは380nm以下であり、最も好ましくは360nm以下である。これにより、ガラスの吸収端が紫外領域の近傍に位置するようになり、可視域におけるガラスの透明性が高められるため、この光学ガラスをレンズ等の光学素子の材料として好ましく用いることができる。
【0069】
本発明の光学ガラスは、680℃以下のガラス転移点(Tg)を有する。これにより、ガラスがより低い温度で軟化するため、より低い温度でガラスをプレス成形し易くできる。また、プレス成形に用いる金型の酸化を低減して金型の長寿命化を図ることもできる。従って、本発明の光学ガラスのガラス転移点(Tg)は、好ましくは680℃、より好ましくは660℃、最も好ましくは640℃を上限とする。なお、本発明の光学ガラスのガラス転移点(Tg)の下限は特に限定されないが、本発明によって得られるガラスのガラス転移点(Tg)は、概ね100℃以上、具体的には150℃以上、さらに具体的には200℃以上であることが多い。
【0070】
本発明の光学ガラスは、710℃以下の屈伏点(At)を有することが好ましい。屈伏点(At)は、ガラス転移点(Tg)と同様にガラスの軟化性を示す指標の一つであり、プレス成形温度に近い温度を示す指標である。そのため、屈伏点(At)が710℃以下のガラスを用いることにより、より低い温度でのプレス成形が可能になるため、より容易にプレス成形を行うことができる。従って、本発明の光学ガラスの屈伏点(At)は、好ましくは710℃、より好ましくは690℃、最も好ましくは670℃を上限とする。なお、本発明の光学ガラスの屈伏点(At)の下限は特に限定されないが、本発明によって得られるガラスの屈伏点(At)は、概ね150℃以上、具体的には200℃以上、さらに具体的には250℃以上であることが多い。
【0071】
[光学素子及び光学機器]
このように、本発明の光学ガラスは、様々な光学素子及び光学設計に有用であるが、その中でも特に、本発明の光学ガラスからリヒートプレス成形や精密プレス成形等の手段を用いて、レンズやプリズム等の光学素子を作製することが好ましい。これにより、カメラやプロジェクタ等の光学機器に用いたときに、高精細で高精度な結像特性及び投影特性を実現しつつ、これら光学機器における光学系の小型化を図ることができる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0073】
本発明のガラスの実施例1〜29及び比較例の組成、これらのガラスの屈折率(nd)、アッベ数(νd)、分光透過率が5%、80%、ガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)、液相温度(℃)を表1〜4に示す。表中、各成分の組成は重量%で表示している。
【0074】
ここで、本発明の実施例(実施例1〜29)の光学ガラス及び比較例のガラスは、酸化物、複合塩、炭酸塩、硝酸塩等の通常の光学ガラス用原料を表に示した各組成比になるように所定の割合で秤量混合した後、白金坩堝等に投入し、1000〜1400℃の温度で2〜5時間溶融、清澄、攪拌して均質化した後、適当な温度に下げて金型等に鋳込み徐冷することにより得たものである。
【0075】
屈折率(nd)、アッベ数(ν)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定した。ここで、屈折率(nd)、アッベ数(ν)は、徐冷降温速度を−25℃/hrにして得られたガラスについて測定を行うことで求めた。
【0076】
液相温度は、粉砕したガラス試料を白金板上にのせ、温度傾斜のついた炉内に30分間保持した後取り出し、冷却後、ガラス中の結晶の有無を顕微鏡にて観察し、結晶が認められない一番低い温度を表す。
【0077】
また、実施例(実施例1〜29)の光学ガラス及び比較例のガラスの透過率は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて測定した。なお、本発明においては、ガラスの透過率を測定することで、ガラスの着色の有無と程度を求めた。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200〜800nmの分光透過率を測定し、λ(透過率5%時の波長)、λ80(透過率80%時の波長)を求めた。
【0078】
また、実施例(実施例1〜29)の光学ガラス及び比較例のガラスのガラス転移点(Tg)及び屈伏点(At)は、熱膨張計を用いた測定を行うことで求めた。ここで、測定を行う際のサンプルはφ5mm、長さ20mmのものを使用し、昇温速度を4℃/minとした。














【0079】
【表1】







【0080】
【表2】








【0081】
【表3】






【0082】
【表4】










【0083】
表1〜4に見られる通り、本発明の実施例の光学ガラス(実施例1〜29)は、いずれも屈折率(n)が1.75以上、より詳細には1.77以上であるとともに、この屈折率(n)は1.85以下、より詳細には1.83以下であり、所望の範囲内であった。また、いずれもアッベ数(ν)が、45以下、より詳細には40以下であるとともに、このアッベ数(ν)は30以上、より詳細には33以上であり、所望の範囲内であった。
【0084】
また、表1〜表4に表されるように、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもガラス転移温度(Tg)が680℃以下、より詳細には650℃以下であり、所望の範囲内であった。また、表1〜4 の実施例の光学ガラスはLa/Bが0.8以下の範囲にある。従って、液相温度が940〜1025 ℃ であるため、工業的に使用可能な程度に失透が制御できている。これに対し、表4に示す比較例1の試料は、上記実施例と同じ条件にてガラスを作製し、同一の評価方法によりガラスを評価した。比較例1に見られる通り、La/Bが0.8以下の範囲外にあるため、液相温度が高い。このため、本発明の光学ガラスは比較例1のガラスに比べて、欠陥の少ない成形体を得易いことが明らかになった。
【0085】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でB成分を4.0〜50.0%、質量比でLa/Bが0.8以下であり、液相温度が1030℃以下であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、La成分を0〜40.0%含有する請求項1の光学ガラス。
【請求項3】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でSiO成分を0.0〜15.0%含有する請求項1〜2の光学ガラス。
【請求項4】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でCaO成分を0.1〜40.0%含有する請求項1〜3の光学ガラス。
【請求項5】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でBaO成分を0.1〜12.0%含有する請求項1〜4の光学ガラス。
【請求項6】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、質量%で
GeO成分 0〜20.0%
成分 0〜10.0%
TiO成分 0〜20.0%
Nb成分 0〜20.0%
WO成分 0〜15.0%
Bi成分 0〜20.0%
TeO成分 0〜20.0%
LiO成分 0〜10.0%
NaO成分 0〜10.0%
O成分 0〜10.0%
CsO成分 0〜10.0%
MgO成分 0〜10.0%
SrO成分 0〜15.0%
ZnO成分 0〜20.0%
Al成分 0〜10.0%
ZrO成分 0〜10.0%
Gd成分 0〜20.0%
成分 0〜15.0%
Ta成分 0〜15.0%
In成分 0〜15.0%
Yb成分 0〜15.0%
Sb成分 0〜5.0%
CeO成分 0〜5.0%
の各成分をさらに含有する請求項1〜5の光学ガラス。
【請求項7】
1.75〜1.85の屈折率(nd)を有し、30.0〜45.0のアッベ数(νd)を有する事を特徴とする請求項1〜6の光学ガラス。
【請求項8】
ガラス転移点(Tg)が680℃以下である事を特徴とする請求項1〜7の光学ガラス。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の光学ガラスからなるプリフォーム材。
【請求項10】
請求項9記載のプリフォーム材をプレス成形して作製する光学素子。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか記載の光学素子を母材とする光学素子。
【請求項12】
請求項10又は11のいずれか記載の光学素子を備える光学機器。

【公開番号】特開2013−53031(P2013−53031A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191615(P2011−191615)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】