説明

光学ガラス、精密プレス成形用プリフォームおよびその製造方法、光学素子およびその製造方法

【課題】屈折率ndが1.70以上、アッベ数νdが50以上であって、低温軟化性を有するとともに優れたガラス安定性を示す光学ガラスの提供。
【解決手段】屈折率ndが1.72以上、アッベ数νdが50以上であって、モル%表示にて、B23 40〜75%、SiO2 0%を超え15%以下、Li2O 1〜10%、ZnO 0〜15%、La23 5〜22%、Gd23 3〜20%、Y23 0%以上1%未満、ZrO2 0〜10%、MgO 0〜5%、CaO 0〜5%、SrO 0〜5%、F 0〜5%を含み、Li2OおよびZnOの合計量が5〜15モル%であり、かつモル比(ZnO/Li2O)が0.4以上2.5以下である光学ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率ndが1.70以上、アッベ数νdが50以上の光学恒数を有する光ガラス、前記ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム、および前記ガラスからなる光学素子とそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラおよびカメラ付携帯電話などの登場により、撮像光学系を搭載する機器の高集積化、高機能化が急速に進められている。それに伴い、光学系に対する高精度化、軽量・小型化の要求もますます強まっている。
【0003】
近年、上記要求を実現するために、非球面レンズを使用した光学設計が主流となっている。このため、高機能性ガラスを使用した非球面レンズを低コストで大量に安定供給するために、研削・研磨工程を経ずにプレス成形で直接に光学機能面を形成する精密プレス成形技術(モールド成形技術とも言う)が注目され、精密プレス成形に好適な低温軟化性を有する光学ガラスに対する要求が年々増加している。このような光学ガラスの中に、高屈折率低分散のガラスがある。このようなガラスの一例が特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−249337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記精密プレス成形技術のメリットを活かすには、プレス成形に供するプリフォームと呼ばれるガラス素材を熔融ガラスから直接作製することが望ましい。この方法はプリフォームの熱間成形法と呼ばれ、熔融ガラスを流出してプリフォーム1個分に相当する量の熔融ガラス塊を次々と分離し、得られた熔融ガラス塊が冷却する過程で滑らかな表面を有するプリフォームに成形するものである。したがって、この方法は、熔融ガラスから大きめのガラスブロックを成形し、このブロックを切断、研削、研磨する方法と比べてガラスの利用率が高く、加工時に生じるガラス屑が出ず、加工の手間とコストもかからないという優れた特徴を有する。
【0006】
その反面、熱間成形法では、プリフォーム1個分に相当する量の熔融ガラス塊を正確に分離し、失透、脈理などの欠陥ができないようにプリフォームに成形しなければならない。したがって、熱間成形には高温域において優れたガラス安定性を備えたガラスが必要となる。
【0007】
ところで、アッベ数νdを所定値以上に維持しつつ、屈折率ndを高めると、ガラスが結晶化しやすい傾向が強くなり、遂にはガラス化困難になってしまう。また、精密プレス成形のためにガラスを加熱、軟化させる過程でガラス中に結晶が析出する傾向が生じる。精密プレス成形用のガラスではさらに低温軟化性を付与するため、ガラス安定性の低下が助長される傾向が生じる。したがって、アッベ数νdを50以上、好ましくは52以上に保ちつつ、屈折率ndを1.70以上に高め、更に精密プレス成形に適した低温軟化性を付与しつつ、精密プレス成形時の耐失透性を良好にするとともに、プリフォームの熱間成形が可能なレベルのガラス安定性を実現することは困難であった。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、屈折率ndが1.70以上、
アッベ数νdが50以上であって、低温軟化性を有するとともに優れたガラス安定性を示す光学ガラス、前記ガラスからなる精密プレス成形用プリフォームとその製造方法、および前記ガラスからなる光学素子とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、光学ガラスの組成決定にあたり、光学ガラスの熱特性について検討を重ねた結果、示差走査熱量計(DSC)による測定により、光学ガラスの低温軟化性とガラス安定性を評価できることを見出した。示差走査熱量計では、ガラス試料の温度を広い温度域にわたり走査して各温度における試料の発熱、吸熱を測定する。以下において、ガラス転移温度Tgより120℃高い温度をTg+120℃と表し、液相温度LTより100℃低い温度をLT−100℃と表す。
精密プレス成形時、ガラスは、一般に、ガラス転移温度Tg以上かつ(Tg+120℃)以下の温度域に保持される。このとき結晶を析出するガラスでは、結晶化に伴い発熱する。即ち、この温度域に発熱ピークを有するガラスは、精密プレス成形時に結晶を析出することとなる。そこで本発明者は、高いガラス安定性を有する光学ガラスを得るために、ガラス転移温度Tg以上かつ(Tg+120℃)以下の温度域に発熱ピークが存在しない(上記温度域における走査で、試料からの発熱量が極大値をとらない)ガラスを得ることを第一の課題とした。
【0010】
更に本発明者は、優れた低温軟化性を有する光学ガラスを得るために、(LT−100℃)以上かつ液相温度LT以下の温度域に吸熱ピークが1つのみ存在するガラスを得ることを第二の課題とした。ガラスは、前記温度域で熔融状態になっているが、示差走査熱量計による測定において、この高温域に生じる吸熱ピークはガラス中に析出した結晶が融解する際の吸熱に由来する。本発明者が高温域に生じる吸熱ピークと熔融ガラスを成形する際のガラス安定性の関係を調べたところ、屈折率指数Aを、
A=nd−2.25−0.01×νd
と定義したとき、指数Aが同水準、ガラス転移温度Tgが同等であり、かつ(LT−100℃)以上かつ液相温度LT以下の温度域に複数の吸熱ピークを有するガラスにおいては、それぞれの吸熱ピーク温度差が減少するにつれて、液相温度LTが低下する傾向が見られた。この傾向は、ガラスの高屈折率成分の含有量および含有比率によって変化するため、吸熱ピークを一つにするように高屈折率成分の組成を最適化することによって、熔融ガラスの流出時、同一の流出温度で比較した際により結晶析出傾向の少ないガラスを実現できることが分かった。
また、指数Aが同水準、ガラス転移温度Tgが同等のガラスの熱特性を比較すると、ガラス転移温度Tg以上かつ(Tg+120℃)以下の温度域に発熱ピークが存在しない性質、かつ望ましくは結晶化の発熱ピーク強度が小さい性質(低温における安定性という。)と、(LT−100℃)以上かつ液相温度LT以下の温度域に吸熱ピークが1つのみ存在するという性質(高温における安定性という。)とは互いに関連性があり、高温または低温における安定性の一方を高めることにより、他方の安定性も高めることができることを見出した。
【0011】
そこで本発明者は、上記熱特性を有する高屈折率低分散ガラスを得ることを目指し、更に検討を重ねた。B23をガラスネットワーク形成成分とし、希土類成分を導入するなどして高屈折率低分散特性を付与し、Li2Oを導入して高屈折率低分散特性を損なうことなくガラス転移温度を低下させるガラスでは、希土類成分として何を導入するかがガラス安定性の良否を左右する。すなわち、La23、Gd23、Y23を所定量導入したときに、より高屈折率・高分散で安定性の高いガラスが得られることを見出した。
本発明者は以上の知見に基づき更に検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]屈折率ndが1.70以上、アッベ数νdが50以上であって、
モル%表示にて、
23 40〜75%、
SiO2 0%を超え15%以下、
Li2O 1〜10%、
ZnO 0〜15%、
La23 5〜22%、
Gd23 3〜20%、
23 0%以上1%未満、
ZrO2 0〜10%、
MgO 0〜5%、
CaO 0〜5%、
SrO 0〜5%、
を含む光学ガラス。
[2]モル比(La23+Gd23+Y23)/(B23+SiO2)が0.365以下である[1]に記載の光学ガラス。
[3]モル比Y23/(La23+Gd23+Y23)が0〜0.2である[1]または[2]に記載の光学ガラス。
[4]屈折率ndが1.70以上、アッベ数νdが50以上であって、
モル%表示にて、
23 40〜75%、
SiO2 0%を超え15%以下、
Li2O 1〜10%、
ZnO 0〜15%、
La23 5〜22%、
Gd23 3〜20%、
ZrO2 5%を超え10%以下、
MgO 0〜5%、
CaO 0〜5%、
SrO 0〜5%、
を含む光学ガラス。
[5]モル比B23/SiO2が5.5超である[1]〜[4]のいずれかに記載の光学ガラス。
[6]B23、SiO2、Li2O、ZnO、La23、Gd23、ZrO2、MgO、CaOおよびSrOの合計量が97モル%以上であり、Ta25を任意成分として含み、モル比ZnO/(La23+Gd23)が0.5以下、モル比(CaO+SrO+BaO)/(La23+Gd23)が0.2以下、かつモル比(ZrO2+Ta25)/(La23+Gd23)が0.4以下である[1]〜[5]のいずれか1項に記載の光学ガラス。
[7]Li2OおよびZnOの合計量が5〜15モル%であり、かつモル比(ZnO/Li2O)が3以下である[1]〜[6]のいずれかに記載の光学ガラス。
[8]ガラス転移温度Tgが635℃以下であり、かつ液相温度LTが1100℃以下である[1]〜[7]のいずれかに記載の光学ガラス。
[9]示差走査熱量計により測定した熱特性が、下記(a)および(b)を満たす[1]〜[8]のいずれかに記載の光学ガラス。
(a)ガラス転移温度Tg以上かつガラス転移温度より120℃高い温度(Tg+120℃)以下の温度域において発熱ピークが存在しない。
(b)液相温度LTより100℃低い温度(LT−100℃)以上かつ液相温度LT以下の温度域において吸熱ピークが1つのみ存在する。
[10]屈折率ndとアッベ数νdが下記式(1)を満たす[1]〜[9]のいずれかに記載の光学ガラス。
nd≧2.25−0.01×νd ・・・ (1)
[11][1]〜[10]のいずれかに記載の光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム。
[12][1]〜[10]のいずれかに記載の光学ガラスからなる光学素子。
[13]流出する熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離し、前記熔融ガラス塊が冷却する過程で精密プレス成形用プリフォームに成形する精密プレス成形用プリフォームの製造方法において、
[1]〜[10]のいずれかに記載の光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォームを成形することを特徴とする精密プレス成形用プリフォームの製造方法。
[14][11]に記載の精密プレス成形用プリフォームまたは[13]に記載の方法により作製した精密プレス成形用プリフォームを加熱して精密プレス成形する光学素子の製造方法。
[15]精密プレス成形用プリフォームをプレス成形型に導入して、前記プリフォームと成形型を一緒に加熱して精密プレス成形する[14]に記載の光学素子の製造方法。
[16]精密プレス成形用プリフォームを加熱し、次いで予熱したプレス成形型に導入して精密プレス成形する[14]に記載の光学素子の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、屈折率ndが1.70以上、アッベ数νdが50以上であって、低温軟化性を有するとともに優れたガラス安定性を示す光学ガラスを提供することができる。更に、本発明によれば、前記ガラスからなる精密プレス成形用プリフォームとその製造方法、および前記ガラスからなる光学素子とその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】精密プレス成形装置の断面説明図である。
【図2】例2の光学ガラスの示差熱分析曲線を示す。
【図3】例11の光学ガラスの示差熱分析曲線を示す。
【図4】例13および比較例2の光学ガラスの示差熱分析曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[光学ガラス]
本発明の光学ガラスは、屈折率ndが1.70以上、アッベ数νdが50以上の光学ガラスであって、2つの態様を含む。
本発明の第一の態様の光学ガラス(以下、「ガラスI」という)は、モル%表示にて、
23 40〜75%、
SiO2 0%を超え15%以下、
Li2O 1〜10%、
ZnO 0〜15%、
La23 5〜22%、
Gd23 3〜20%、
23 0%以上1%未満、
ZrO2 0〜10%、
MgO 0〜5%、
CaO 0〜5%、
SrO 0〜5%、
を含む。
本発明の第二の態様の光学ガラス(以下、「ガラスII」という)は、モル%表示にて、
23 40〜75%、
SiO2 0%を超え15%以下、
Li2O 1〜10%、
ZnO 0〜15%、
La23 5〜22%、
Gd23 3〜20%、
ZrO2 5%を超え10%以下、
MgO 0〜5%、
CaO 0〜5%、
SrO 0〜5%、
を含む光学ガラス(以下、「ガラスII」という)。
以下、本発明の光学ガラスについて、更に詳細に説明する。
【0016】
ガラスI、ガラスIIは、いずれもB23をガラスネットワーク形成成分とし、希土類成分を導入するなどして高屈折率低分散特性を付与し、Li2Oを導入して高屈折率低分散特性を損なうことなくガラス転移温度を低下させたガラスである。希土類成分としてLa23およびGd23を必須成分として導入することにより、低温および高温における優れたガラス安定性を得ることができる。
【0017】
次に、本発明の光学ガラスの組成について詳説する。以下の説明は、特記しない限り、ガラスI、IIに共通するものであり、各含有量とその合計量はモル%とし、含有量同士の比や合計量同士の比、含有量と合計量の比はモル比にて表示するものとする。
また、本発明において、モル比(La23+Gd23+Y23)/(B23+SiO2)とは、B23およびSiO2の合計含有量に対するLa23とGd23とY23の合計含有量の比率、モル比Y23/(La23+Gd23+Y23)とは、La23とGd23とY23の合計含有量に対するY23の比率、モル比[(CaO+SrO+BaO)/(La23+Gd23)]とは、La23およびGd23の合計含有量に対するCaOとSrOとBaOの合計含有量の比率、モル比[ZnO/(La23+Gd23)]とは、La23およびGd23の合計含有量に対するZnOの含有量の比率、モル比[(ZrO2+Ta25)/(La23+Gd23)]とは、La23およびGd23の合計含有量に対するZrO2とTa25の合計含有量の比率、モル比(ZnO/Li2O)とは、Li2Oの含有量に対するZnOの含有量の比率、モル比[Li2O/(B23+SiO2)]とは、B23とSiO2の合計含有量に対するLi2Oの含有量の比率、モル比(La23/Gd23)とは、Gd23の含有量に対するLa23の含有量の比率、モル比[Y23/(La23+Gd23+Y23)]とは、La23、Gd23及びY23の合計含有量に対するY23の含有量の比率、をそれぞれ意味する。
【0018】
23はガラスネットワーク形成成分であり、低分散特性を付与するとともに、ガラス転移温度を低下させる働きのある必須成分である。その含有量が40%未満ではガラスの安定性が低下し、液相温度が上昇してプリフォームの成形が困難になる。一方、75%を超える過剰の導入により屈折率が低下する。よって、本発明の光学ガラスにおけるB23の含有量は40〜75%とする。好ましい範囲は45〜70%、より好ましい範囲は50〜65%である。
【0019】
SiO2は適量導入することによりガラスの安定性を向上させるとともに、熔融ガラスからプリフォームを成形する場合、成形に適した粘性を付与する働きをする必須成分である。但し、過剰の導入によって屈折率が低下し、ガラスの熔融性が低下する。よって、その含有量は0%を超え15%以下とする。前記含有量の好ましい上限は10%、より好ましい上限は9%以下、更に好ましい上限は8%以下、一層好ましい上限は7%以下、好ましい下限は1%、より好ましい下限は2%とする。
【0020】
23、SiO2はいずれもガラスのネットワーク形成成分であるが、低分散化のためにはSiO2に対するB23の比率を高めることが好ましい。ただし、上記比率が過剰になると粘性が低下し、熔融ガラスの成形が困難になるおそれがある。また、上記比率が過剰に低下すると、ガラス転移温度Tgや液相温度LTが上昇するため、精密プレス成形性や熔融ガラスの成形性が悪化する。以上の観点から、モル比B23/SiO2は5.5超であることが好ましい。より好ましくは、5.5以上、更に好ましくは5.7以上、一層好ましくは6.0以上、より一層好ましくは6.3以上、更には、6.5以上、7.0以上の順に好ましくなる。また、前記モル比の上限値については、例えば30以下、好ましくは25以下、より好ましくは23以下、一層好ましくは20以下、より一層好ましくは17以下、更に一層好ましくは15以下である。
【0021】
Li2Oは他のアルカリ金属酸化物成分に比べ、屈折率を高めるとともに、ガラス転移温度を大幅に低下させる働きをする必須成分であり、ガラスの熔融性を良化する働きもする。過少導入では上記効果を得ることが困難であり、過剰の導入により、ガラスの耐失透性が低下し、流出する熔融ガラスから直接、高品質なプリフォームを成形することが難しくなるとともに、耐候性も低下する。したがって、その含有量は1〜10%、好ましくは1〜9%、より好ましくは1〜8%、更に好ましくは1〜7%とする。
【0022】
なお、ガラス転移温度、ガラスの安定性などの観点から、ネットワーク形成成分とLi2Oの配分を最適化することが好ましく、モル比[Li2O/(B23+SiO2)]を0.02〜0.20の範囲にすることが好ましく、0.03〜0.18の範囲にすることがより好ましく、0.04〜0.16の範囲にすることが更に好ましく、0.05〜0.15の範囲にすることが一層好ましく、0.06〜0.14の範囲にすることがより一層好ましい。
【0023】
ZnOは熔融温度や液相温度およびガラス転移温度を低下させ、ガラスの化学的耐久性、耐候性を向上させるとともに、屈折率を高める働きをする成分である。しかし、15%を超えて過剰に導入するとアッベ数νdを50以上に維持することが困難になるので、その含有量を0〜15%、好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜9%、更に好ましくは0〜8%、一層好ましくは0〜7%とする。
【0024】
本発明の光学ガラスでは、所要の低温軟化性を実現するため、Li2OおよびZnOの合計含有量(Li2O+ZnO)を5%以上とすることが好ましい。但し、前記合計量が15%を超えて過剰になるとガラスの耐失透性が低下し、または分散が大きくなるので、Li2OおよびZnOの合計含有量を5〜15%とすることが好ましく、6〜14%とすることがより好ましく、6〜12%とすることが更に好ましく、7〜12%とすることが一層好ましい。
【0025】
さらに、所要の低温軟化性を付与しつつ、アッベ数νdを50以上に保つため、モル比(ZnO/Li2O)を0〜3にすることが好ましい。前記モル比(ZnO/Li2O)の好ましい上限は2.5、より好ましい上限は2.0、更に好ましい上限は1.5、一層好ましい上限は1.2、より一層好ましい上限は1.1であり、好ましい下限は0.2、より好ましい下限は0.4である。
【0026】
La23は低分散性を維持しつつ屈折率を高めるとともに、化学的耐久性、耐候性を高める働きをする。適量の導入であれば、Gd23とともに希土類成分中、ガラスの安定性を良好にする働きもする必須成分である。しかし、過剰の導入によって、ガラスの安定性が低下し、ガラス転移温度も上昇するので、その含有量を5〜22%、好ましくは6〜20%、より好ましくは7〜18%、更に好ましくは8〜16%、一層好ましくは9〜14%とする。
【0027】
Gd23もLa23と同様の働きをする必須成分であるが、過剰の導入によって、ガラスの安定性が低下し、ガラス転移温度も上昇するので、その含有量を3〜20%、好ましくは4〜18%、より好ましくは5〜16%、更に好ましくは6〜14%、一層好ましくは7〜12%とする。
【0028】
前述のように、本発明では優れた光学特性(高屈折率低分散)とガラス安定性を両立するために、La23およびGd23を必須成分として含有する。ガラスの安定性向上の観点から、La23の含有量とGd23の含有量の配分を調整することが好ましく、モル比(La23/Gd23)を0.5〜2.0の範囲にすることが好ましく、0.6〜1.8の範囲にすることがより好ましく、0.8〜1.6の範囲にすることが更に好ましく、0.9〜1.5の範囲にすることが一層好ましく、1.0〜1.4の範囲にすることがより一層好ましい。特に、先に説明した指数Aが大きい高屈折率・低分散領域の光学特性を実現するためには、モル比(La23/Gd23)は減少させることが好ましい。
【0029】
23は、La23、Gd23と同様の働きをする任意成分であり、少量の導入によってガラスの熱安定性を高め、液相温度を低下させるメリットがある。但し、過剰の導入によって、ガラスの安定性が低下し、ガラス転移温度も上昇する。特に、前述の指数Aが大きい高屈折率・低分散領域においては、Y23を増量するとガラス安定性が低下する。そこで、ガラスIでは、その含有量を0%以上1%未満とする。ガラスIにおけるY23の含有量は、好ましくは0〜0.8%、より好ましくは0〜0.6%である。ガラスIIにおけるY23の含有量も、ガラスIと同様0%以上1%未満であることが好ましく、0〜0.4%であることがより好ましく、0〜0.2%であることが更に好ましく、Y23を導入しないことが特に好ましい。
【0030】
また、上記理由から、モル比[Y23/(La23+Gd23+Y23)]を0〜0.2の範囲にすることが好ましく、0〜0.1の範囲にすることがより好ましく、0〜0.05の範囲にすることが更に好ましく、0にすることが一層好ましい。
【0031】
また、高屈折率・低分散という有用な光学恒数を維持するためには、La23、Gd23およびY23の比率を上げることが好ましいが、ガラスのネットワーク形成成分であるB23およびSiO2に対する上記成分の比率を上げるほど、屈折率の上昇とともに、液相温度が上昇したり、ガラス安定性が低下したりする傾向にある。よって、この比率が過剰になると、ガラス安定性の悪化、液相温度の低下、失透傾向の増大が生じる。そのため、La23、Gd23およびY23の割合を、ガラスのネットワーク形成成分に対して適切な範囲に維持することが好ましい。具体的には、モル比(La23+Gd23+Y23)/(B23+SiO2)を、0.365以下とすることが好ましい。上記モル比は、より好ましくは0.360以下、更に好ましくは0.355以下、いっそう好ましくは0.350以下、特に好ましくは0.345以下である。一方、所望の特性を維持する観点から、前記モル比は、例えば0.28以上、好ましくは0.29以上、更に好ましくは0.30以上、一層好ましくは0.31以上、特に好ましくは0.315以上である。
【0032】
ZrO2はガラスの耐候性の向上や光学恒数の調整のために導入される任意成分であり、少量の導入によってガラスの安定性を高める働きをするが、過剰の導入によってガラスの安定性が低下し、分散も大きくなるので、ガラスIでは、その含有量を0〜10%、好ましくは0〜9%、より好ましくは0〜8%、更に好ましくは0〜7%とする。ガラスIIでは、その含有量を5%を超え10%以下、好ましくは0〜8%、更に好ましくは0〜7%である。
【0033】
MgOはZnOやLi2Oの代わりに導入すると、ガラスを低分散化するとともに化学的耐久性を向上させることもできるが、過剰の導入により屈折率の低下やガラス転移温度の上昇が起こるため、その含有量を0〜5%、好ましくは0〜3%、より好ましくは0〜2%、0〜1%、更に好ましくは0〜1%、一層好ましくは0%とする。
【0034】
CaOはガラス転移温度を低下させるとともに、光学特性を調整する働きをするが、過剰の導入によりガラスの安定性が低下し、かつ液相温度を高めてしまうため、その含有量を0〜5%、好ましくは0〜3%、より好ましくは0〜2%、更に好ましくは0〜1、一層好ましくは0%とする。
【0035】
SrOは化学的耐久性を高め、光学特性を調整する働きをするが、過剰の導入によりガラスの安定性が低下し、かつ液相温度を高めてしまうため、その含有量を0〜5%、好ましくは0〜3%、より好ましくは0〜2%、更に好ましくは0〜1%、一層好ましくは0%とする。
【0036】
本発明の光学ガラスは、高屈折率・低分散性を高める観点から、モル比[ZnO/(La23+Gd23)]を0〜0.5とすることが好ましい。前記モル比が0.5を超えると、所望の光学恒数を得ることが困難になる場合がある。前記モル比は、0〜0.45とすることがより好ましく、0〜0.4とすることが更に好ましく、0〜0.35とすることが一層好ましく、0〜0.3とすることがより一層好ましい。
【0037】
更に、アルカリ土類成分としてイオン半径の大きい成分よりも小さい成分を導入するほうが、屈折率ndが1.7以上の高屈折率とガラスの安定性を両立させるという観点から好ましい。そのため、本発明の光学ガラスにおいて、モル比[(CaO+SrO+BaO)/(La23+Gd23)]は0〜0.2とすることが好ましい。前記モル比が0.2を超えると、高屈折率とガラス安定性を両立することが困難になる場合がある。前記モル比は、0〜0.15とすることがより好ましく、0〜0.1とすることが更に好ましく、0〜0.05とすることが一層好ましく、0とすることがより一層好ましい。
【0038】
本発明の光学ガラスにおいては、上記ガラスの諸性質を満足させる上から、B23、SiO2、Li2O、ZnO、La23、Gd23、ZrO2、MgO、CaOおよびSrOの合計含有量を97%以上とすることが好ましい。本発明の光学ガラスに前記成分以外の成分を多量に導入すると低分散特性が損なわれたり、高屈折率特性が損なわれたり、ガラスの安定性が損なわれるなどの不都合が生じやすくなる。前記合計含有量は、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、更に好ましくは100%である。
【0039】
その他の成分としては、Ta25、F、Al23、Yb23、Sc23、Lu23などの任意成分がある。
Ta25は屈折率を高める働きをするが、分散を大きくする働きをするため、その導入量を控えるべきである。本発明の光学ガラスでは、高屈折率付与成分であるLa23、Gd23、ZrO2、Ta25を、低分散特性を維持するグループ(La23、Gd23)と分散を高めるグループ(ZrO2、Ta25)に分け、それぞれのグループの合計量の比を最適化することにより任意成分であるTa25の導入量を制限することが好ましい。すなわち、本発明の光学ガラスにおいて、モル比[(ZrO2+Ta25)/(La23+Gd23)]は0〜0.4とすることが好ましい。前記モル比が0.4以下であれば、低分散特性を維持することができる。前記モル比は、より好ましくは0〜0.35、更に好ましくは0〜0.30、一層好ましくは0〜0.1、より一層好ましくは0〜0.05、なお一層好ましくは0〜0.02、特に好ましくは0とする。
【0040】
Ta25の含有量は、上記理由から0〜3%の範囲に抑えることが好ましく、0〜2%がより好ましく、0〜1%が更に好ましく、0〜0.5%が一層好ましく、0〜0.2%がより一層好ましく、0〜0.1%がなお一層好ましく、導入しないことが特に好ましい。
【0041】
また、高屈折率・低分散特性を維持しつつ、ガラスの熱安定性を良好にするためには、モル比[(ZrO2+Ta25)/(La23+Gd23)]を上記のように低く抑えるか、Ta25の含有量を少なくするか、もしくはTa25を導入しないことが好ましい。
【0042】
Fは、B23−La23系の組成において、光学特性面においてガラス化可能な範囲を拡大するとともに、ガラス転移温度を低下させる働きをする。しかし、B23と共存することにより、高温で著しい揮発性を示し、ガラス熔融、成形時に揮発するため、屈折率が一定のガラスを量産することを難しくする。また、精密プレス成形時にガラスからの揮発物がプレス成形型に付着し、このような型を繰り返し使用することによりレンズの面精度が低下してしまうという問題も生じる。したがって、Fの含有量は10%以下に抑えることが好ましく、5%以下に抑えることがより好ましい。熔融ガラスからプリフォームを直接成形する方法では揮発による脈理が発生して光学的に均質なプリフォームを得ることが困難になるため、F含有量を3%以下に抑えることが好ましく、導入しないことがより好ましい。
【0043】
Al23は化学的耐久性を向上させる働きがあるが、過剰の導入により屈折率が低下し、ガラス転移温度も上昇する。したがって、その含有量は0〜10%とすることが好ましく、より好ましくは0〜8%、更に好ましくは0〜5%、一層好ましくは0〜3%、より一層好ましくは0〜2%、なお一層好ましくは0〜1%とする。前述のように、その他の成分であるAl23は導入しなくてもよい。
【0044】
Sc23はLa23、Gd23と同様の働きをし、少量の導入によってガラスの熱安定性を高め、液相温度を低下させるメリットがあるが、過剰の導入によっては、上記メリットが失われ、ガラスの安定性が低下し、また屈折率も低下する。以上の点から、その含有量は0〜10%とすることが好ましく、より好ましくは0〜6%、更に好ましくは0〜3%、一層好ましくは0〜2%、より一層好ましくは0〜1%、特に好ましくは0.1〜1%とする。なお、Sc23は高価な成分であり、コスト削減を優先する場合は、Sc23を導入しなくてもよい。
【0045】
Yb23、Lu23もそれぞれ導入することができるが、ガラスの熱安定性の低下と液相温度の上昇が著しいため、Yb23については、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜2%、より好ましくは0〜1%、さらに好ましくは0〜0.5%の範囲に抑えるべきである。また、Lu23についても、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜2%、より好ましくは0〜1%、さらに好ましくは0〜0.5%の範囲に抑えるべきである。Yb23、Lu23はそれぞれ高価な成分であり、本発明の光学ガラスはこれら成分を必ずしも要するものではないから、コスト低減の上からYb23、Lu23を導入しないことがより好ましい。
【0046】
GeO2についても、例えば0〜10%の範囲で導入することもできるが、高価な成分であることから、その導入量を0〜5%に抑えることが好ましく、導入しないことがより好ましい。
【0047】
BaOは少量の導入によりガラスの安定性が著しく低下するので、その含有量を0〜2%に制限することが好ましく、導入しないことがより好ましい。
【0048】
Nb25、TiO2も分散を大きくする働きが強く、少量の導入によってもアッベ数νdが大きく上昇するため、アッベ数νd50以上を維持するためには、Nb25の量を0〜2%とすることが好ましく、0〜1%とすることがより好ましく、導入しないことが最も好ましい。また、アッベ数νd50以上を維持するためには、TiO2については、その量は0〜2%とすることが好ましく、0〜1%とすることが好ましく、導入しないことが最も好ましい。
【0049】
WO3、Bi23も、Nb25、TiO2と同様の挙動を示すので、それぞれの量を好ましくは0〜2%、より好ましくは0〜1%とする。さらに好ましくは導入しない。
【0050】
Nb25、TiO2、WO3、そしてBi23は分散を大きくするだけでなく、ガラスの着色を増大させる。本発明の光学ガラスは、光学ガラス一般として見ても優れた光線透過性を有するため、このような特質を活かす上からも、Nb25、TiO2、WO3、Bi23を導入しないことが好ましい。
【0051】
環境へ悪影響を及ぼさないという点に配慮すると、Pb、Cr、Cd、As、Th、T、Uの導入も避けるべきである。Pbは従来、屈折率を高めるために光学ガラスの主要成分として使用されてきたが、上記問題に加え、非酸化性ガス雰囲気中での精密プレス成形によって容易に還元され、析出した金属鉛がプレス成形型の成形面に付着し、プレス成形品の面精度を低下させるなどの問題を引き起こす。As23も従来、清澄剤として添加されてきたが、上記問題に加え、プレス成形型の成形面を酸化して型の寿命を短くするという問題も引き起こすので、導入するべきでない。
【0052】
ガラスを着色する物質、例えば、Fe、Cu、Coなども、ガラスに所要の分光特性を付与する目的以外は導入しないことが望ましい。
【0053】
Sb23は清澄剤として用いられる任意添加剤であり、また少量の添加によってFe等の不純物の還元による吸収を小さくし、ガラスの着色を抑制することもできる。しかし、過剰に添加すると上記の効果が失われると同時に、精密プレス成形時にプレス成形型の成形面を酸化してプレス成形型の寿命に悪影響を及ぼしたりするなど、精密プレス成形の面から好ましくない。したがって、その添加量を外割で0〜0.5質量%とすることが好ましく、0〜0.2質量%とすることがより好ましく、0〜0.1質量%とすることが更に好ましく、0〜0.05質量%とすることがよりいっそう好ましい。
【0054】
次に、本発明の光学ガラスの光学特性および熱特性について説明する。
レンズの光学機能面の曲率の絶対値を小さくし、精密プレス成形に使用する成形型の成形面の加工を容易にしたり、光学系をコンパクト化する上から、ガラスの屈折率をより高めることは有効である。また、色収差を小さくしたり、色収差の補正などの面でガラスを低分散化することは有効である。こうしたことから、ガラスの高屈折率低分散化は、非常に有意義なことである。以上の観点から、本発明の光学ガラスは、下記式(1)を満たすことが好ましく、下記式(2)を満たすことがより好ましく、下記式(3)を満たすことが一層好ましく、下記式(4)を満たすことがより一層好ましい。
nd≧2.25−0.01×νd ・・・ (1)
nd≧2.2600−0.01×νd ・・・ (2)
nd≧2.2650−0.01×νd ・・・ (3)
nd≧2.2675−0.01×νd ・・・ (4)
ただし、屈折率nd1.70以上かつアッベ数νd50以上という光学特性範囲において高屈折率低分散化を一層進めると、ガラス安定性が低下する傾向が生じる。精密プレス成形用プリフォームを熔融ガラス塊から直接成形するような場合には、ガラスの安定性を良好な状態に維持する上から、過度な高屈折率化、低分散化は好ましくなく、下記式(5)を満たす範囲に光学特性を設定することが好ましく、下記式(6)を満たす範囲に光学特性を設定することがより好ましい。但し、これらの場合でも、式(1)〜(4)を満たす範囲に光学特性を設定することが更に好ましい。
nd≦2.2850−0.01×νd ・・・ (5)
nd≦2.2750−0.01×νd ・・・ (6)
上記特性を有するガラスを得るためには、本発明の光学ガラスの組成内において、ガラス形成成分であるB23、SiO2と、高屈折率付与成分であるLa23、Gd23、Y23との比率を、例えば前述の好ましい範囲に調整すること、B23とSiO2との比率を、例えば前述の好ましい範囲に調整することが有効である。
【0055】
本発明の光学ガラスはアッベ数νdが50以上の低分散ガラスである。ガラスの低分散性という観点からは、アッベ数νdは51以上であることが好ましく、52以上であることがより好ましく、52.5以上であることが更に好ましく、53以上であることがいっそう好ましく、54以上であることが特に好ましい。その上限値は、例えば60である。また、本発明の光学ガラスの屈折率ndは1.70以上であり、1.71以上であることが好ましく、1.72以上であることが更に好ましい。その上限値は、例えば1.80である。
【0056】
更に、本発明の光学ガラスによれば、精密プレス成形に適した低ガラス転移温度を実現することができる。ガラス転移温度の好ましい範囲は635℃以下、より好ましくは630℃以下、更に好ましくは625℃以下である。一方、ガラス転移温度を過剰に低下させるとより一層の高屈折率化、低分散化が困難になり、かつ/またはガラスの安定性や化学的耐久性が低下する傾向を示すため、ガラス転移温度を535℃以上、好ましくは555℃以上、より好ましくは565℃以上にすることが望ましい。
【0057】
本発明の光学ガラスは、優れたガラス安定性を有する。例えば、熔融ガラスからガラスを成形するような場合に求められる高温域での安定性の目安として、液相温度が1100℃以下のガラスを実現することができる。このように本発明の光学ガラスは、高屈折率低分散ガラスでありながら液相温度を所定温度以下に維持することができるので、熔融ガラスから直接、精密プレス成形用プリフォームを成形することができる。好ましい液相温度の範囲は1090℃以下、より好ましくは1060℃以下、更に好ましくは1050℃以下、一層好ましくは1040℃以下、より一層好ましくは1035℃以下、なお一層好ましくは1030℃以下、特に好ましくは1025℃以下である。
【0058】
本発明の光学ガラスの熱特性については、先に説明したように、示差走査熱量計により測定した熱特性が、下記(a)および(b)を満たすことが好ましい。
(a)ガラス転移温度Tg以上かつガラス転移温度より120℃高い温度(Tg+120℃)以下の温度域において発熱ピークが存在しない。
(b)液相温度LTより100℃低い温度(LT−100℃)以上かつ液相温度LT以下の温度域において吸熱ピークが1つのみ存在する。
上記(a)、(b)を満たすガラスは、ガラス安定性および低温軟化性を兼ね備えた精密プレス成形に好適なガラスである。本発明によれば、前述のように、B23をガラスネットワーク形成成分とし、希土類成分の中でLa23とGd23を必須成分として導入するなどして高屈折率低分散特性を付与し、Li2Oを導入して高屈折率低分散特性を損なうことなくガラス転移温度を低下させることにより、高屈折率低分散ガラスにおいて、上記熱特性を実現できる。上記熱特性は、示差走査熱量計(例えばBruker axs社製DSC 3300SA)により、例えば昇温速度10℃/分で測定することができる。なお、示差走査熱量計から得られるガラスの安定性は、一般的に結晶化の発熱ピーク強度によっても評価される。具体的には、結晶化の発熱ピークが小さいほど、ガラスが結晶に変化する傾向が小さいことから、ガラスの安定性が高く本発明のガラスにとって好ましい。
例えばガラス転移に伴う吸熱ピークに比べ結晶化の発熱ピークの高さあるいは面積が10倍以下、好ましくは5倍以下、より好ましくは3倍以下、いっそう好ましくは1倍以下が好ましく、発熱ピークが明瞭に観察されないことが最も好ましい。
【0059】
更に、本発明の光学ガラスは優れた光線透過性を示すことができる。定量的にはλ80(nm)が例えば410nm以下、好ましくは400nm以下、より好ましくは390nm以下、更に好ましくは380nm以下、いっそう好ましくは370nm以下、よりいっそう好ましくは360nm以下、特に好ましくは350nm以下という低着色度を実現することができる。前記λ80(nm)は以下のようにして求める。厚さ10.0±0.1mmで光学研磨された互いに平行な平面をもつガラス試料を用い、前記平面の一方に強度Iinの光を垂直に入射し、他方の平面から出射する光の強度Ioutを測定して、外部透過率(Iout/Iin)を算出する。波長280nmから700nmの範囲で外部透過率を求め、外部透過率が80%となる波長をλ80(nm)とする。本発明の光学ガラスのように着色剤を添加しない一般の光学ガラスでは、紫外域から可視域にかけての吸収端より長波長側においては、ほとんど吸収が認められないため、λ80(nm)から1550nmまでの波長領域では、厚さ10.0±0.1mmで光学研磨された互いに平行な平面をもつガラス試料において、80%を超える内部透過率が得られ、λ80+20(nm)から1550nmまでの長波長領域では、厚さ10.0±0.1mmで光学研磨された互いに平行な平面をもつガラス試料において、90%を超える高い内部透過率が得られる。また、後述する表1に示すλ70(nm)、λ5(nm)は外部透過率がそれぞれ70%、5%となる波長であり、算出法はλ80に準じる。
【0060】
本発明の光学ガラスは、撮像光学系を構成するレンズなどの材料として好適なのは勿論、DVD、CDなどの光ディスクへの記録再生に使用する光学系を構成するレンズなどにも好適である。一例を挙げると、優れた光線透過性を活かし、青紫光(例えば、波長405nmの半導体レーザ光)を用いてデータの記録再生を行うための光学素子として好適である。より具体的には、例えば、23GBの高記録密度のDVD用の対物レンズに好適である。この対物レンズは開口数0.85の非球面レンズが主流である。このようなレンズは有効径に対する中心肉厚の比が大きいが、本発明の光学ガラスは、低分散性を備えつつ屈折率が高いので前記比を減少させることができる。これにより、青紫光を透過するレンズの肉厚を薄くすることができるので、ガラスの優れた光線透過性と相俟って青紫光のロスを少なくすることができる。また、中心肉厚/有効径の比を減少させることは、精密プレス成形を行う上からも好ましい。すなわち、精密プレス成形用プリフォームの体積はレンズの体積によって決められる。上記対物レンズは小さいので、成形に使用するプリフォームは球状または回転楕円体状のものが適している。球状プリフォームを使用する場合、レンズ凸面の曲率が大きい(曲率半径が小さい)と、プレス成形型とガラスの間に雰囲気ガスが閉じ込められ、その部分にガラスが行き渡らないガストラップと呼ばれるトラブルが生じやすい。中心肉厚/有効径の比を減少させることはレンズ凸面の曲率を大きくすることにつながるので、精密プレス成形によって面精度の高いレンズを作る上からも好ましい。
【0061】
次に本発明の光学ガラスの製造方法について説明する。本発明の光学ガラスは、ガラス原料を加熱、熔融することにより製造することができる。ガラス原料としては、炭酸塩、硝酸塩、酸化物等を適宜用いることが可能である。これらの原料を所定の割合に秤取し、混合して調合原料とし、これを、例えば1200〜1300℃に加熱した熔解炉に投入し、熔解・清澄・攪拌し、均質化することにより、泡や未熔解物を含まず均質な熔融ガラスを得ることができる。この熔融ガラスを成形、徐冷することにより、本発明の光学ガラスを得ることができる。
【0062】
[精密プレス成形用プリフォームおよび精密プレス成形用プリフォームの製造方法]
更に本発明は、
本発明の光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム;および、
流出する熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離し、前記熔融ガラス塊が冷却する過程で精密プレス成形用プリフォームに成形する精密プレス成形用プリフォームの製造方法において、本発明の光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォームを成形することを特徴とする精密プレス成形用プリフォームの製造方法
に関する。以下に、本発明の精密プレス成形用プリフォームおよび本発明の精密プレス成形用プリフォームの製造方法について説明する。
【0063】
プリフォームは、精密プレス成形品に等しい質量のガラス製成形体である。プリフォームは精密プレス成形品の形状に応じて適当な形状に成形されているが、その形状として、球状、回転楕円体状などを例示することができる。プリフォームは、精密プレス成形可能な粘度になるよう、加熱して精密プレス成形に供される。
【0064】
本発明の精密プレス成形用プリフォームは、前述の本発明の光学ガラスからなるものである。本発明のプリフォームは、必要に応じて離型膜などの薄膜を表面に備えていてもよい。上記プリフォームは、所望の光学恒数を有する光学素子の精密プレス成形が可能である。更に、ガラスの高温域における安定性が高く、かつ熔融ガラスの流出時の粘度を高めることができるので、パイプ流出した熔融ガラスを分離して得られたガラス塊を冷却過程でプリフォームに成形する方法で、高品質のプリフォームを高い生産性のもとに製造することができるという利点がある。
【0065】
本発明の精密プレス成形用プリフォームの製造方法は、流出する熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離し、前記熔融ガラス塊が冷却する過程で精密プレス成形用プリフォームに成形する精密プレス成形用プリフォームの製造方法において、本発明の光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォームを成形するものであり、前記本発明のプリフォームを製造するための方法の1つである。具体例としては、パイプ等から流出する熔融ガラス流から所定重量の熔融ガラス塊を分離して、ガラス塊を冷却する過程で、所定重量のプリフォームを成形することにより製造する方法を示すことができる。この方法は、切断、研削、研磨などの機械加工が不要という利点がある。機械加工が施されたプリフォームでは、機械加工前にアニールを行うことによって破損しない程度にまでガラスの歪を低減しておかなければならない。しかし、上記方法によれば、破損防止用アニールは不要である。また表面が滑らかなプリフォームを成形することもできる。この方法では、滑らかなで清浄な表面を付与するという観点から、風圧が加えられた浮上状態でプリフォームを成形することが好ましい。また、表面が自由表面からなるプリフォームが好ましい。さらに、シアマークと呼ばれる切断痕のないものが望ましい。シアマークは、流出する熔融ガラスを切断刃によって切断する時に発生する。シアマークが精密プレス成形品に成形された段階でも残留すると、その部分は欠陥となってしまう。そのため、プリフォームの段階からシアマークを排除しておくことが好ましい。切断刃を用いず、シアマークが生じない熔融ガラスの分離方法としては、流出パイプから熔融ガラスを滴下する方法、または流出パイプから流出する熔融ガラス流の先端部を支持し、所定重量の熔融ガラス塊を分離できるタイミングで上記支持を取り除く方法(降下切断法という。)などがある。降下切断法では、熔融ガラス流の先端部側と流出パイプ側の間に生じたくびれ部でガラスを分離し、所定重量の熔融ガラス塊を得ることができる。続いて、得られた熔融ガラス塊が軟化状態にある間にプレス成形に供するために適した形状に成形する。
【0066】
本発明のプリフォームを製造するための方法としては、熔融ガラスからガラス成形体を作り、この成形体を切断または割断し、研削、研磨して作る方法を用いることもできる。この方法では、熔融ガラスを鋳型に流し込んで前記光学ガラスからなるガラス成形体を成形し、このガラス成形体に機械加工を加えて所望重量のプリフォームを作る。機械加工する前にガラスが破損しないよう、ガラスをアニールすることにより十分除歪処理を行うことが好ましい。
【0067】
[光学素子および光学素子の製造方法]
本発明の光学素子は、前述の本発明の光学ガラスからなるものである。本発明の光学素子は、光学素子を構成する本発明の光学ガラスと同様、高屈折率低分散であるという特徴を有する。
【0068】
本発明の光学素子としては、球面レンズ、非球面レンズ、マイクロレンズなどの各種のレンズ、回折格子、回折格子付のレンズ、レンズアレイ、プリズムなどを例示することができる。用途面からは、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、一眼レフカメラ、携帯電話搭載カメラ、車載カメラなどの撮像光学系を構成するレンズ、DVD、CDなどの光ディスクへのデータ読み書きを行うための光学系を構成するレンズ(例えば、前述の対物レンズ)などを例示することができる。
【0069】
上記光学素子としては、本発明のプリフォームを加熱、軟化し精密プレス成形して得られたものであることが望ましい。
なお、この光学素子には必要に応じて、反射防止膜、全反射膜、部分反射膜、分光特性を有する膜などの光学薄膜を設けることもできる。
【0070】
次に光学素子の製造方法について説明する。
本発明の光学素子の製造方法は、本発明のプリフォームまたは本発明のプリフォームの製造方法により作製した精密プレス成形用プリフォームを加熱して精密プレス成形して光学素子を製造するものである。
【0071】
精密プレス成形法はモールドオプティクス成形法とも呼ばれ、既に当該発明の属する技術分野においてはよく知られたものである。
光学素子の光線を透過したり、屈折させたり、回折させたり、反射させたりする面を光学機能面と呼ぶ。例えばレンズを例にとると非球面レンズの非球面や球面レンズの球面などのレンズ面が光学機能面に相当する。精密プレス成形法はプレス成形型の成形面を精密にガラスに転写することにより、プレス成形で光学機能面を形成する方法である。つまり光学機能面を仕上げるために研削や研磨などの機械加工を加える必要がない。
したがって、本発明の光学素子の製造方法は、レンズ、レンズアレイ、回折格子、プリズムなどの光学素子の製造に好適であり、特に非球面レンズを高生産性のもとに製造する際に最適である。
【0072】
本発明の光学素子の製造方法によれば、上記光学特性を有する光学素子を作製できるとともに、低温軟化性を有する光学ガラスからなるプリフォームを使用するため、ガラスのプレス成形としては比較的低い温度でプレスが可能になるので、プレス成形型の成形面への負担が軽減され、成形型(成形面に離型膜が設けられている場合には離型膜)の寿命を延ばすことができる。またプリフォームを構成するガラスが高い安定性を有するので、再加熱、プレス工程においてもガラスの失透を効果的に防止することができる。さらに、ガラス熔融から最終製品を得る一連の工程を高生産性のもとに行うことができる。
【0073】
精密プレス成形法に使用するプレス成形型としては公知のもの、例えば炭化珪素、超硬材料、ステンレス鋼などの型材の成形面に離型膜を設けたものを使用することができる。離型膜としては炭素含有膜、貴金属合金膜などを使用することができる。プレス成形型は上型および下型を備え、必要に応じて胴型も備える。中でも、プレス成形時のガラス成形品の破損を効果的に低減ないしは防止するためには、炭化珪素からなるプレス成形型および超硬合金製プレス成形型(特にバインダーを含まない超硬合金製、例えばWC製プレス成形型)を使用することがより好ましく、前記型の成形面に炭素含有膜を離型膜として備えるものがさらに好ましい。
【0074】
精密プレス成形法では、プレス成形型の成形面を良好な状態に保つため成形時の雰囲気を非酸化性ガスにすることが望ましい。非酸化性ガスとしては窒素、窒素と水素の混合ガスなどが好ましい。特に、炭素含有膜を離型膜として成形面に備えたプレス成形型を使用する場合や、炭化珪素からなるプレス成形型を使用する場合には、上記非酸化性雰囲気中で精密プレス成形するべきである。
【0075】
次に本発明の光学素子の製造方法に特に好適な精密プレス成形法について説明する。
(精密プレス成形法1)
この方法は、プレス成形型にプリフォームを導入し、プレス成形型とプリフォームを一緒に加熱して精密プレス成形するというものである(精密プレス成形法1という)。
精密プレス成形法1において、プレス成形型と前記プリフォームの温度をともに、プリフォームを構成するガラスが106〜1012dPa・sの粘度を示す温度に加熱して精密プレス成形を行うことが好ましい。
また前記ガラスが1012dPa・s以上、より好ましくは1014dPa・s以上、さらに好ましくは1016dPa・s以上の粘度を示す温度にまで冷却してから精密プレス成形品をプレス成形型から取り出すことが望ましい。
上記の条件により、プレス成形型成形面の形状をガラスにより精密に転写することができるとともに、精密プレス成形品を変形することなく取り出すこともできる。
【0076】
(精密プレス成形法2)
この方法は、精密プレス成形用プリフォームを加熱し、次いで予熱したプレス成形型に導入して精密プレス成形することを特徴とするものである(精密プレス成形法2という)。この方法によれば、プリフォームをプレス成形型に導入する前に予め加熱するので、サイクルタイムを短縮化しつつ、表面欠陥のない良好な面精度の光学素子を製造することができる。
【0077】
プレス成形型の予熱温度は前記プリフォームの予熱温度よりも低くすることが好ましい。このような予熱によりプレス成形型の加熱温度を低く抑えることができるので、プレス成形型の消耗を低減することができる。
【0078】
精密プレス成形法2において、前記プリフォームを構成するガラスが109dPa・s以下、より好ましくは109dPa・sの粘度を示す温度にプリフォームを予熱することが好ましい。
また、前記プリフォームを浮上しながら予熱することが好ましく、さらに前記プリフォームを構成するガラスが105.5〜109dPa・s、より好ましくは105.5dPa・s以上109dPa・s未満の粘度を示す温度に予熱することがさらに好ましい。
また、プレス開始と同時またはプレスの途中からガラスの冷却を開始することが好ましい。
なお、プレス成形型の温度は、前記プリフォームの予熱温度よりも低い温度に調温することが好ましく、前記ガラスが109〜1012dPa・sの粘度を示す温度を目安にすればよい。
この方法において、プレス成形後、前記ガラスの粘度が1012dPa・s以上にまで冷却してから離型することが好ましい。
【0079】
精密プレス成形された光学素子はプレス成形型より取り出され、必要に応じて徐冷される。成形品がレンズなどの光学素子の場合には、必要に応じて表面に光学薄膜をコートしてもよい。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例により更に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0081】
光学ガラスの製造
表1に例1〜17、比較例1、2のガラスの組成を示す。いずれのガラスとも、各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、および硝酸塩を使用し、ガラス化した後に表1に示す組成となるように前記原料を秤量し、十分混合した後、白金坩堝に投入して電気炉で1200〜1300℃の温度範囲で熔融し、攪拌して均質化を図り、清澄してから適当な温度に予熱した金型に鋳込んだ。鋳込んだガラスを転移温度まで冷却してから直ちにアニール炉に入れ、室温まで徐冷して各光学ガラスを得た。
【0082】
上記方法で得た各光学ガラスについて、以下の方法で、屈折率(nd)、アッべ数(νd)、比重、ガラス転移温度、液相温度を測定した。結果を表1に示す。併せて、例1〜17の各光学ガラスについて、前記方法にてλ80、λ70およびλ5を測定した結果を表1に示す。
(1)屈折率(nd)およびアッベ数(νd)
徐冷降温速度を−30℃/時にして得られた光学ガラスについて測定した。
(2)ガラス転移温度(Tg)
理学電機株式会社の熱機械分析装置により昇温速度を4℃/分にして測定した。
(3)比重
アルキメデス法を用いて算出した。
(4)液相温度(LT)
白金ルツボにガラス試料約50gを入れ、約1200℃〜1300℃にて約15〜60分熔融後、それぞれ980℃、990℃、1000℃、1010℃、1020℃、1030℃、1040℃、1050℃、1060℃、1070℃、1080℃、1090℃、1100℃にて2時間保温したものを冷却して結晶析出の有無を顕微鏡により観察し、結晶の認められない最低温度を液相温度(LT)とした。
【0083】
【表1】




【0084】
熱特性の評価
例2、11、13の光学ガラスについて、示差走査熱量計(Bruker axs社製DSC 3300SA))により、昇温速度10℃/分で測定を行った。により、示差熱量と温度との関係を測定した。得られた示差熱分析曲線を図2〜4に示す。
得られた他の実施例の光学ガラスについても同様に、ガラス転移温度Tg以上かつガラス転移温度より120℃高い温度(Tg+120℃)以下の温度域における発熱ピークの有無、液相温度LTより100℃低い温度(LT−100℃)以上かつ液相温度LT以下の温度域における吸熱ピークの有無を調べた。結果を表1に示す。
【0085】
評価結果
比較例1,2はいずれもLi2Oを含まない組成である。Li2Oを含まず、ZnOを大量に含むガラスは安定性が劣る。図4から明らかなように、比較例2のガラスでは結晶化ピークが鮮明になり、安定性が悪化している。
また、比較例1の場合、SiO2を含まない組成となっている。このような場合は、粘性が低下し、成形性が著しく悪化する。
【0086】
精密プレス成形用プリフォームの製造
次に例1〜17に相当する清澄、均質化した熔融ガラスを、ガラスが失透することなく、安定した流出が可能な温度域に温度調整された白金合金製のパイプから一定流量で流出し、滴下または降下切断法にて目的とするプリフォームの質量の熔融ガラス塊を分離し、熔融ガラス塊をガス噴出口を底部に有する受け型に受け、ガス噴出口からガスを噴出してガラス塊を浮上しながら精密プレス成形用プリフォームを成形した。熔融ガラスの分離間隔を調整、設定することにより球状プリフォームと、扁平球状プリフォームを得た。
【0087】
光学素子(非球面レンズ)の製造
上記方法で得られたプリフォームを、図1に示すプレス装置を用いて精密プレス成形して非球面レンズを得た。具体的にはプリフォームを、プレス成形型を構成する下型2および上型1の間に設置した後、石英管11内を窒素雰囲気としてヒーター(図示せず)に通電して石英管11内を加熱した。プレス成形型内部の温度を成形されるガラスが106〜1010dPa・sの粘度を示す温度に設定し、同温度を維持しつつ、押し棒13を降下させて上型1を押して成形型内にセットされたプリフォームをプレスした。プレスの圧力は8MPa、プレス時間は30秒とした。プレスの後、プレスの圧力を解除し、プレス成形されたガラス成形品を下型2および上型1と接触させたままの状態で前記ガラスの粘度が1012dPa・s以上になる温度まで徐冷し、次いで室温まで急冷してガラス成形品を成形型から取り出し非球面レンズを得た。なお、図1において、保持部材10が下型2と胴型3を保持し、支持棒9が上型1、下型2、胴型3、保持部材10を支持するとともに、押し棒13によるプレスの圧力を受け止める。下型2の内部には熱電対14が挿入されプレス成形型内部の温度をモニターしている。
上記レンズは撮像光学系を構成するレンズとして好適なものであった。更に、プレス成形型およびプリフォームを適当なものに変えて、開口数0.85のDVD用の対物レンズを作製した。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、精密プレス成形に好適な高屈折率低分散光学ガラスを提供することができる。本発明の光学ガラスから、精密プレス成形用プリフォームを製造することができる。更に、本発明によれば、高屈折率低分散ガラスからなる光学素子を提供することができる。
【符号の説明】
【0089】
1:上型
2:下型
3:胴型
4:精密プレス成形用プリフォーム
9:支持棒
10:保持部材
11:石英管
13:押し棒
14:熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率ndが1.72以上、アッベ数νdが50以上であって、
モル%表示にて、
23 40〜75%、
SiO2 0%を超え15%以下、
Li2O 1〜10%、
ZnO 0〜15%、
La23 5〜22%、
Gd23 3〜20%、
23 0%以上1%未満、
ZrO2 0〜10%、
MgO 0〜5%、
CaO 0〜5%、
SrO 0〜5%、
F 0〜5%
を含み、Li2OおよびZnOの合計量が5〜15モル%であり、かつモル比(ZnO/Li2O)が0.4以上2.5以下である光学ガラス。
【請求項2】
モル比(La23+Gd23+Y23)/(B23+SiO2)が0.365以下である請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
モル比Y23/(La23+Gd23+Y23)が0〜0.2である請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
屈折率ndが1.72以上、アッベ数νdが50以上であって、
モル%表示にて、
23 40〜75%、
SiO2 0%を超え15%以下、
Li2O 1〜10%、
ZnO 0〜15%、
La23 5〜22%、
Gd23 3〜20%、
ZrO2 5%を超え10%以下、
MgO 0〜5%、
CaO 0〜5%、
SrO 0〜5%、
F 0〜5%
を含み、Li2OおよびZnOの合計量が5〜15モル%であり、かつモル比(ZnO/Li2O)が0.4以上2.5以下である光学ガラス。
【請求項5】
モル比B23/SiO2が5.5超である請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項6】
23、SiO2、Li2O、ZnO、La23、Gd23、ZrO2、MgO、CaOおよびSrOの合計量が97モル%以上であり、Ta25を任意成分として含み、モル比ZnO/(La23+Gd23)が0.5以下、モル比(CaO+SrO+BaO)/(La23+Gd23)が0.2以下、かつモル比(ZrO2+Ta25)/(La23+Gd23)が0.4以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項7】
ガラス転移温度Tgが635℃以下であり、かつ液相温度LTが1100℃以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項8】
示差走査熱量計により測定した熱特性が、下記(a)および(b)を満たす請求項1〜7のいずれか1項に記載の光学ガラス。
(a)ガラス転移温度Tg以上かつガラス転移温度より120℃高い温度(Tg+120℃)以下の温度域において発熱ピークが存在しない。
(b)液相温度LTより100℃低い温度(LT−100℃)以上かつ液相温度LT以下の温度域において吸熱ピークが1つのみ存在する。
【請求項9】
屈折率ndとアッベ数νdが下記式(1)を満たす請求項1〜8のいずれか1項に記載の光学ガラス。
nd≧2.25−0.01×νd ・・・ (1)
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項12】
流出する熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離し、前記熔融ガラス塊が冷却する過程で精密プレス成形用プリフォームに成形する精密プレス成形用プリフォームの製造方法において、
請求項1〜9のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォームを成形することを特徴とする精密プレス成形用プリフォームの製造方法。
【請求項13】
請求項10に記載の精密プレス成形用プリフォームまたは請求項12に記載の方法により作製した精密プレス成形用プリフォームを加熱して精密プレス成形する光学素子の製造方法。
【請求項14】
精密プレス成形用プリフォームをプレス成形型に導入して、前記プリフォームと成形型を一緒に加熱して精密プレス成形する請求項13に記載の光学素子の製造方法。
【請求項15】
精密プレス成形用プリフォームを加熱し、次いで予熱したプレス成形型に導入して精密プレス成形する請求項13に記載の光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−56828(P2013−56828A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−242818(P2012−242818)
【出願日】平成24年11月2日(2012.11.2)
【分割の表示】特願2007−251498(P2007−251498)の分割
【原出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】