説明

光学ガラス

【課題】レンズ表面の白濁が発生しにくい光学ガラスを提供するものである。
【解決手段】本発明の光学ガラスは、質量%で、SiO 35〜60%、B 14〜40%、Al 0.5〜4%、BaO 0〜8.5%、SrO 1〜25%、LiO 1〜10%、LiO+NaO+KO5〜10%、Y 0〜2%、Sb 0.1%未満(0%を含む)であり、屈折率ndが1.58〜1.62、アッベ数νdが58以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
CD、MD、DVDその他各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、デジタルカメラ、ビデオカメラ、カメラ付き携帯電話機等の撮像用レンズ、光通信に使用される送受信用レンズ等のレンズとしては非球面形状のレンズが広く用いられている。レンズ用ガラス素材として種々のガラスが提案されており、例えば屈折率1.58〜1.62、アッベ数58以上の光学ガラスとして、特許文献1〜3に示すようなSiO―B系ガラスが提案されている。
【0003】
この種のレンズの作製方法は例えば以下のような方法が知られている。
【0004】
まず、溶融ガラスをノズルの先端から滴下して、液滴状ガラスを作製し(液滴成形)、研削、研磨、洗浄してプリフォームガラスを作製する。または、溶融ガラスを急冷鋳造し一旦ガラスインゴットを作製し、研削、研磨、洗浄してプリフォームガラスを作製する。続いて、プリフォームガラスを加熱して軟化し、高精度な成形表面を持つ金型によって加圧成形し、金型の表面形状をガラスに転写してレンズを作製する。
【0005】
このような成形方法は一般にモールドプレス成形法と呼ばれており、大量生産に適した方法として近年広く採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−187735号公報
【特許文献2】特開2005−350279号公報
【特許文献3】特開2007−297269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プリフォームガラスをモールドプレス成形すると、レンズ表面に白濁が生じることがある。レンズ表面の白濁は、レンズに透過する光を遮断、散乱させるため致命的な欠陥となりうる。
【0008】
本発明の目的は、レンズ表面の白濁が発生しにくい光学ガラスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、種々のテストを行った結果、比較的高粘性のプリフォームガラス、例えばSiO−B系のプリフォームガラスをモールドプレス成形すると白濁が生じることが明らかになった。さらに調査を進めたところ、白濁の原因は高粘性のガラスに清澄剤として入っているSbが原因であることを突き止め、本発明を提案するに到った。
【0010】
本発明の光学ガラスは、質量%で、SiO 35〜60%、B 14〜40%、Al 0.5〜4%、BaO 0〜8.5%、SrO 0〜25%、LiO 0〜10%、LiO+NaO+KO0.5〜10%、Y 0〜2%、Sb 0.1%未満(0%を含む)であり、屈折率ndが1.58〜1.62、アッベ数νdが58以上であることを特徴とする。
【0011】
本発明においては、質量%で(アルカリ土類金属酸化物+アルカリ金属酸化物−Al/Bが0.8以上であることが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、AlイオンやBイオンを4配位で存在させ、ガラス中の酸素イオンの移動を制限しやすくなることから、還元傾向の強い成分の還元が抑制される。従ってガラス中にSbが含まれている場合、モールドプレス成形時の白濁発生が一層抑制されるという効果がある。
【0013】
本発明においては、ガラスの塩基性度が11以下であることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、ガラス中の酸素の電子が陽イオンによって強く引きつけられることから、陽イオンが還元されにくくなる。従ってガラス中にSbが含まれている場合、モールドプレス成形時の白濁発生が一層抑制されるという効果がある。
【0015】
本発明においては、ガラスの屈伏点Atが565℃以下であることが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、モールドプレス成形が容易になる。
【0017】
本発明においては、モールドプレス成形用であることが好ましい。
【0018】
本発明の光学レンズは、上記光学ガラスからなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の光学ガラスは、Sbの含有量を制限することで、モールドプレス成形時にガラス表面に白濁が生じないガラスを得ることができる。このため、レンズ表面の高い面精度が維持され、量産性に優れたガラスである。また耐候性に優れ、長期間信頼性の高い製品を得ることができる。さらにガラス溶融性に優れているため、均質で安定したガラスを得ることができる。
【0020】
それゆえ本発明の光学ガラスは、CD、MD、DVDその他各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、デジタルカメラ、ビデオカメラ、カメラ付き携帯電話機等の撮像用レンズ、光通信に使用される送受信用レンズ等といったモールドプレス成形で得られる光学レンズ用硝材として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のガラスを詳述する。なお以下の説明では、特に断りのない限り「%」は質量%を意味する。
【0022】
SiOを35質量%以上含有するSiO−B系ガラスは高粘性であることから、一般的にSbが清澄剤として0.5質量%程度含まれる。ところがモールドプレス成形時にガラスが高温の金型と接触すると、ガラス中のSbが還元されて析出して金型を汚染し、これがガラス表面に付着して白濁となる。
【0023】
そこで本発明はSbの含有量を0.1%未満に制限することによって、モールドプレス成形時にガラス表面で発生する白濁を防止している。
【0024】
なおSbを0.1%未満とすることによる清澄力不足は、ガラスの粘度を低粘性化することで補うことができる。つまり泡を浮上しやすくするという観点から、1300℃における粘性を102.0dPa・s以下にすることが好ましく、さらに101.8以下とすることが好ましい。上記粘度特性は、アルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属酸化物(特にBaOやSrO)の量を調整することで容易に達成できる。また、溶融時間を長くする、溶融温度を高くする、溶融時のガラス融液の深さを浅くする、Sb以外の清澄剤を使用することなどで補完することができる。
【0025】
Sb以外の清澄剤としては、例えばSnO、CeO等を使用することができる。ただしSnOは、Sbと同様にモールドプレス成形時の白濁原因となる恐れがあるため、多量の添加は避けるべきである。SnOの含有量は0.1%未満、特に0.001%未満であることが好ましい。またCeOはガラスを着色させる恐れがあるので、やはり多量の添加は避けるべきである。CeOの含有量は0.1%未満、特に0.001%未満であることが好ましい。さらにSnO及びCeOの合量は、0.1%未満で0.0001%以上が好ましい。なお清澄剤として広く知られているAsは有害であるので、実質的に含有しないことが望ましい。ここで実質的に含有しないとは0.0001%未満であることを意味する。
【0026】
本発明の光学ガラスは、屈折率ndが1.58〜1.62、アッベ数νdが58以上である。このような光学定数、及び光学ガラスとして要求される化学耐久性等の諸特性を満足させる必要から、本発明では質量%で、SiO 35〜60%、B 14〜40%、Al 0.5〜4%、BaO 0〜8.5%、SrO 0〜25%、LiO 0〜10%、LiO+NaO+KO0.5〜10%、Y 0〜2%含有する組成を採用している。組成範囲をこのように限定した理由を以下に述べる。なおSbの限定理由は、既述の通りであり、以下の説明では割愛する。
【0027】
SiOは、ガラスの骨格を構成する成分であり、Bに次いでアッベ数を高める効果の大きい成分であり、耐候性を向上させる成分でもある。SiOの含有量が60%よりも多いと、屈折率が低く、屈伏点が高くなる傾向にある。また、35%よりも少ないと、屈折率が1.62を超えて高くなり、また耐酸性や耐候性が悪化する傾向がある。好ましいSiOの含有量の範囲は35〜55%、より好ましい範囲は35〜50%である。
【0028】
は、アッベ数を高める効果を有するが、40%よりも多く含有すると、Bの揮発が著しくなり、レンズ表面の白濁やプレス金型の劣化を引き起こす。また屈折率が低下する傾向にある。一方、14%よりも含有量が少ないとアッベ数を58以上の値にすることが困難となる。またガラス転移点が高くなったり、耐失透性が悪化したりする傾向がある。好ましいBの含有量は14〜35%、より好ましい範囲は17〜28%である。
【0029】
SiOとBの質量比(SiO/B)は10.8以下が好ましい。この比が10.8を超えるとガラスを溶融する際にSiOが溶け残り、溶融性が悪化する傾向にある。
【0030】
Alの含有量は0.5〜4%である。AlはSiOと共にガラスの骨格を構成する成分であり、耐候性を向上させる効果がある。また、ガラス中のアルカリ成分が水に溶出することを抑制する顕著な効果を有する。さらにガラスの安定性を向上させる効果がある。しかし、Alの含有量が4%を超えると屈折率が低くなる傾向や、屈伏点が高くなる傾向がある。好ましいAlの含有量の範囲は2〜4%である。
【0031】
SiO−B系ガラスにおいて、アルカリ土類成分は光学定数の調整に必要な成分である。アルカリ土類の中でも、イオン半径の大きなBaOやSrOはMgOやCaOに比べ、プレス温度でのガラス成分を動きにくくする効果がある。特にSrOは他成分を動きにくくする効果が顕著であり、Sbを0.1%未満の範囲で含有しているときにも還元を抑制する効果があることを見出した。またSrOはアルカリ土類成分の中でも特にアッベ数を維持したまま屈折率を高める成分である。またガラスの液相温度を低下させて作業性を向上させる成分である。さらに屈伏点を下げる成分である。よってSrOは含有させた方が好ましく、1%以上含有させるのが好ましい。ただしSrOを多量に含有すると、長期間にわたって高温多湿環境下に曝された場合にガラス表面が変質しやすい。そのため上限は25%、好ましくは8〜20%に制限される。
【0032】
BaOの含有量は0〜8.5%である。BaOは、耐候性を高め、屈折率を高める成分であるとともに、ガラスの液相温度を低下させて、作業性を向上させる成分である。さらに屈伏点を下げる成分である。ただしBaOを多量に含有すると、長期間にわたって高温多湿環境下に曝された場合にガラス表面が顕著に変質しやすい。好ましいBaOの含有量の範囲は0〜7%、より好ましい範囲は0〜6%である。
【0033】
LiOは、溶融温度や屈伏点を低下させ、作業性を高める効果がある。LiOが10%を越えると分相性が強く、液相温度が高くなって作業性が悪くなる。一方、1%より少ないと溶融温度が高くなる傾向がある。好ましいLiOの含有量の範囲は2〜9%、より好ましい範囲は4〜8%である。
【0034】
LiO、NaOおよびKOは、溶融温度や屈伏点を低下させ、作業性を高める効果を有する。これらの成分の合量は0.5〜10%、好ましくは5〜10%、特に好ましくは5.5〜10%である。LiO、NaOおよびKO合量が多くなると、洗浄工程において表面が変質しやすくなる傾向がある。また、液相温度が上昇して作業範囲が狭くなり、量産性に悪影響を及ぼす傾向もある。一方、これらの合量が少なくなると屈伏点が高くなり、モールドプレス成形が困難になり易い。また屈伏点が高くなり、プレス性が損なわれる傾向にある。
【0035】
NaOは、LiOと同様に溶融温度や屈伏点を低下させ、作業性を高める効果を有する。ただし、多すぎるとガラス溶融時に、B−NaOで形成される揮発物が多くなり、脈理の生成を助長する傾向にある。NaOの含有量は2%以下、特に1%以下が望ましい。
【0036】
Oは、LiOやNaOと同様に溶融温度や屈伏点を低下させ、作業性を高める効果を有する。ただし、多すぎるとガラス溶融時のB−KOで形成される揮発物が多くなり、脈理の生成を助長する傾向にある。KOの含有量は2%以下、特に1%以下であることが望ましい。
【0037】
は、アッベ数を低下させることなく屈折率を高めるのに有効な成分であるが、一方で含有させすぎると、失透傾向が強まりガラスの安定性が低下する。Yの含有量は0〜2%、好ましくは0〜0.5%である。
【0038】
本発明に係る光学ガラスは上記以外にも種々の成分を含有することができる。例えばLa、MgO、CaO、ZnO、TiO、ZrO、Nb、Gd、P、TeO等を添加することができる。
【0039】
Laは、アッベ数を低下させずに屈折率を大きく高める効果がある。ただし含有させすぎると、ガラスが高粘性になることから、清澄性が悪化する。またプレス温度が高くなって多成分が揮発しやすくなる結果、レンズ表面の白濁を引き起こしたりする。好ましい含有量は0〜8%、さらに好ましい含有量は0〜5%、特に好ましい含有量は0〜1.5%である。
【0040】
またLa/Bの値が大きくなると、LaとBの結晶が出やすくなり、ガラスの安定性が失われる傾向がある。よってLaを含有させる場合、La/Bの値が0.8以下となるように調整することが望ましい。
【0041】
MgOは、耐候性を高めるとともに、屈折率を高めるために5%まで添加することができる。しかし、含有量が多いと分相する傾向が強く、また液相温度を高める傾向がある。MgOの含有量の好ましい範囲は0〜4%、より好ましい範囲は0〜3%、特に好ましい範囲は0〜1%未満である。
【0042】
CaOは屈伏点を下げ、また屈折率を高める効果を有する。ただしCaOを多量に含有すると、長期間にわたって高温多湿環境下に曝された場合にガラス表面が変質しやすい。CaOの含有量の好ましい範囲は0〜8%、より好ましい範囲は5〜8%である。
【0043】
ZnOは任意成分であるが、屈折率を高めるとともに、耐候性を向上させる効果があるため2%以上含有させることが好ましい。しかし、含有量が多くなると、アッベ数が低下する傾向があるとともに、失透傾向も強くなり、均質なガラスが得られにくくなる。よってその上限は15%、4.5%、特に4%であることが望ましい。
【0044】
TiOは、屈折率を高めるために有効な成分であるが、一方でアッベ数の低下を著しく引き起こしたり、屈伏点が高くなったりする。TiOの含有量は0〜1%とすることが好ましい。
【0045】
ZrOは、屈折率を高めるとともに、耐候性を向上させるために添加する成分である。しかし、含有量が多くなるとアッベ数を低下させる傾向があるとともに、失透傾向も強くなり、均質なガラスが得られなくなる。ZrOの含有量は0〜3%であることが望ましい。
【0046】
Nbは、屈折率を高めるために有効な成分であるが、一方でアッベ数の低下を著しく引き起こす。Nbの含有量は0〜5%とすることが好ましく、特に0〜0.3%とすることが好ましい。
【0047】
Gdは、アッベ数を低下させることなく屈折率を高める効果がある。しかし、過剰に含有すると、失透する傾向にある。また、モールドプレス成形を行なう場合、含有量が多いと金型と融着する傾向もある。Gdの含有量は0〜10%が好ましく、0〜8%がさらに好ましく、特に0〜5%が好ましい。
【0048】
は、液相温度を低下させるために添加する成分である。ただし、含有量が多くなるとガラスが分相しやすくなるとともに、洗浄工程で表面に曇りが発生する傾向にある。Pの含有量は0〜5%、特に0〜1%未満、さらには0〜0.01%未満であることが好ましい。
【0049】
TeOは10%を上限として含有することが出来る。TeOは屈折率を高めるために有効な成分であるが、着色を強める傾向があり、またモールドプレス成形時にTeが揮発してプレス金型の劣化を早めることから、好ましくは1%以下、より好ましくは0.1%未満が好ましい。
【0050】
PbOは、屈折率を高めるために有効な成分であるが、環境負荷物質であるため実質的に含有しないことが好ましい。ここで実質的に含有しないとは0.0001%未満であることを意味する。
【0051】
LuOはガラスの着色を強める傾向があり、0.1%以下に規制することが好ましい。
【0052】
Biもガラスの着色を強める傾向があり、またモールドプレス成形時の揮発によるレンズ表面の白濁を引き起こす傾向もある。そのため、Biの好ましい上限は10%、より好ましい上限は3%、特に好ましい上限は0.5%である。
【0053】
また本発明では、(アルカリ土類酸化物+アルカリ酸化物−Al)/Bで定義される量ψの値が0.8以上であることが好ましく、特に1.0以上であることが好ましい。ψが0.8以上であれば、ガラスに含有するAlイオンとBイオンを4配位で存在させることが可能である。ここで“(アルカリ土類金属酸化物+アルカリ金属酸化物−Al)”とは、アルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO、SrO及びBaO)の合量と、アルカリ金属酸化物(LiO、NaO及びKO)の合量の和から、Alの含有量を引いた値であり、“(アルカリ土類酸化物+アルカリ酸化物−Al)/B”とは、前記の値をBの含有量で除した値である。
【0054】
Alイオンはガラス中で4配位と6配位をとり得る。Bイオンは4配位と3配位をとり得る。AlイオンとBイオンを6配位、もしくは3配位で存在させておくと、4配位での存在下に比べガラス中の酸素イオンが移動しやすくなるため、還元され易い成分、例えばSbイオンなどがモールドプレス成形時に容易に還元されてレンズ表面に白濁が生じる。
【0055】
AlイオンとBイオンを4配位で存在させるためには、アルカリ金属成分とアルカリ土類金属成分の量と種類を調整すればよい。つまりB分子内にはBイオン一つに対して酸素が1.5個存在する。Bイオンが4配位で存在するためには、Bイオンに2個の酸素が必要であり、不足している酸素はアルカリ金属成分(RO)やアルカリ土類金属成分(RO)によって供給される。十分なROやROが存在すれば、Bイオンは4配位で存在することが可能になる。AlもBと同様であり、不足している酸素がROやROにより供給され、Alイオンが4配位へと移行する。Alイオンの4配位はBイオンの4配位よりも安定しているため、ROやROから供給される酸素は初めにAlイオンの4配位へ消費される。次にBイオンの4配位へと消費されるため、Alイオン、Bイオン両者が4配位で存在するためには上記の指標ψが0.8以上になるようにアルカリ金属成分やアルカリ土類金属成分の量を調整することが好ましい。
【0056】
本発明のガラスは、モールドプレス成形が採用可能な低屈伏点ガラスである場合に、その効果をより一層享受できる。低屈伏点ガラスとは具体的に、ガラス屈伏点Atが565℃以下のガラスを指す。
【0057】
本発明のガラスは、(酸素原子のモル数の総和/陽イオンのField Strengthの総和)×100で定義されるガラスの塩基性度が11以下であることが好ましい。本発明において「Field Strength(以下F.S.と表記する)」とは下記の式1により求められる。
【0058】
式1 F.S.=Z/r
Zはイオン価数、rはイオン半径を示している。尚、本発明におけるZ、rの数値は表1の値(『化学便覧基礎偏 改訂2版(1975年 丸善株式会社発行)』に記載された値)を用いる。
【0059】
【表1】

【0060】
ガラスの塩基性度はガラス中の酸素の電子がガラス中の陽イオンにどのくらい引きつけられているかを示す指標になる。塩基性度の高いガラスではガラス中の陽イオンによる酸素の電子の引きつけが弱い。したがって、塩基性度の高いガラスは、電子を求める傾向の強い陽イオン(金型成分)と接した際、塩基性度の低いガラスに比べガラス中の陽イオンが還元しやすい。
【0061】
金型にWCが使われる場合、ガラスの塩基性度が11以下、好ましくは9.5以下であればSbイオンが還元しにくくなると考えられる。ガラスの塩基性度が11を超えるとガラス中のSbが還元しやすく、Sbが少しでも含まれている場合にはガラス表面に白濁を生じ、量産性が悪化する可能性がある。
【0062】
塩基性度の変化は主としてF.S.の影響が大きい。つまりF.S.が大きい成分を増加させると塩基性度が低下する傾向があり、逆にF.S.が小さい成分を増加させると塩基性度が上昇する傾向がある。このためガラスの塩基性度を下げようとする場合、例えば比較的F.S.の大きいSiO、B等の組成比を増加させるか、または比較的F.S.の小さいLiO、NaO、BaO等を減少させればよい。
【0063】
次に、本発明の光学ガラスを用いたレンズ等の光学部品の製造方法について説明する。
【0064】
まず、所望の組成を有するように調合したガラス原料を溶融容器内で溶融する。
【0065】
ガラスの溶融温度は1150℃以上であることが好ましい。さらに1200℃以上が好ましく、特に1250℃以上であることが好ましい。なお溶融容器を構成する白金金属からのPt溶け込みによるガラス着色を防止する観点から、溶融温度は1450℃以下が好ましく、さらには1400℃以下が好ましく、特に1350℃以下が好ましく、最適には1300℃以下が好ましい。
【0066】
なお溶融時間が短すぎると、十分に清澄できない可能性があるので、溶融時間は2時間以上であることが好ましく、さらに3時間以上が好ましい。ただし溶融容器からのPt溶け込みによるガラス着色を防止する観点から、溶融時間は8時間以内、特に5時間以内であることが好ましい。
【0067】
また溶融容器内のガラス融液の深さは、浅すぎると生産性が悪くなるため、30mm以上、特に50mm以上であることが好ましい。一方、深すぎると泡の浮上に時間がかかるため、1m以下、好ましくは0.5m以下が好ましい。
【0068】
続いて、溶融ガラスをモールドプレス成形可能な大きさのプリフォームに成形し、プリフォームを加熱軟化してモールドプレスして所望の形状に加工した後、洗浄、乾燥して光学部品を作製する。
【0069】
プリフォームの成形方法としては、板状や塊状のガラス片から所定の形状に切り出して研磨、洗浄して作製してもよいが、連続的に所定量ずつ滴下してから研削、研磨、洗浄する液滴成形法を用いると、容易に成形できるため好ましい。
【実施例】
【0070】
以下、本発明の光学ガラスを実施例に基づいて詳細に説明する。
【0071】
表2〜4は本発明の実施例(No.2、4、6、8、10)及び比較例(No.1、3、5、7、9)を示す。
【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

【0074】
【表4】

【0075】
各試料は、次のようにして作製した。
【0076】
表2〜4に記載の組成となるように調合したガラス原料を、ガラス融液深さが50mmになるよう白金ルツボに入れ、1300℃で3時間溶融した。なお表中で「−」と表示した成分は、含有量が0.0001%未満であることを意味している。
【0077】
次に、溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、冷却固化した後、アニールを行って試料を作製した。このようにして得られた試料について、ガラス屈伏点(At)、ガラス転移点(Tg)、1300℃におけるガラスの粘度(粘度)、モールドプレス成形後のレンズ表面の白濁、屈折率及びアッベ数を評価した。また塩基性度を算出した。結果を表2〜4に示す。
【0078】
表から明らかなように、本発明の実施例であるNo.2、4、6、8、10の各試料は、モールドプレス成形してもガラス表面に白濁が発生しなかった。これに対して比較例である試料No.1、3、5、7、9はモールドプレス成形後にガラス表面に白濁が確認された。
【0079】
なおガラス屈伏点は熱膨張曲線における屈伏した点より求めた。
【0080】
ガラス転移点は熱膨張曲線における低温度域の直線と高温度域の直線の交点より求めた。
【0081】
1300℃におけるガラスの粘度は周知の白金球引き上げ法で測定した。
【0082】
表面白濁は、モールドプレス成形した場合と同様の結果が得られるように、次の条件で評価した。まずPt−IrがコートされたWC板の上にガラス試料を載置し、Tg+25℃のN雰囲気にて1分間熱処理する作業を行った。その後、WC板との接触面の白濁の有無を顕微鏡で観察した。このようにして100個の試料を評価し、白濁発生の有無を調べた。表には100個中、ガラス表面に白濁が確認された個数を示している。
【0083】
屈折率ndは、屈折率計(カルニュー光学工業社製 KPR-200)を用いて、ヘリウムランプのd線(波長:587.6nm)における測定値で示した。
【0084】
アッベ数νdは、屈折率計(カルニュー光学工業社製 KPR-200)を用いて、上記したd線、水素ランプのF線(波長:486.1nm)、および水素ランプのC線(波長:656.3nm)における屈折率をそれぞれ測定した値を、それぞれnd、nF、nCとした際の{(nd−1)/(nF−nC)}の値とした。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の光学ガラスは、モールドプレス面に白濁を生じないことから、量産性に優れている。よってCD、DVD等の光ピックアップレンズや、ビデオカメラ、デジタルカメラ等の光学レンズに好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、SiO 35〜60%、B 14〜40%、Al 0.5〜4%、BaO 0〜8.5%、SrO 0〜25%、LiO 0〜10%、LiO+NaO+KO 0.5〜10%、Y 0〜2%、Sb 0.1%未満(0%を含む)であり、屈折率ndが1.58〜1.62、アッベ数νdが58以上であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
質量%で(アルカリ土類金属酸化物+アルカリ金属酸化物−Al)/Bの値が0.8以上であることを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
ガラスの塩基性度が11以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
ガラスの屈伏点Atが565℃以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の光学ガラス。
【請求項5】
モールドプレス成形用であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の光学ガラス。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかの光学ガラスからなることを特徴とする光学レンズ。

【公開番号】特開2011−26157(P2011−26157A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172197(P2009−172197)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】