説明

光学ガラス

【課題】(1)環境上好ましくない成分を含有しない、(2)低ガラス転移点を達成しやすい、(3)高屈折率かつ高分散である、(4)可視域または近紫外域において優れた透過率を達成しやすい、(5)プリフォームガラス成形時の耐失透性に優れる、といった要求をすべて満足することが可能な光学ガラスを提供する。
【解決手段】屈折率が1.85以上、アッベ数が30以下、ガラス転移点が450℃以下であり、ガラス組成として、質量%で、Bi 40〜90%、B 0〜30%、TeO 0.1%〜19%を含有し、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnOがそれぞれ1%未満であり、かつ、鉛成分、ヒ素成分、フッ素成分、GeOを実質的に含有しないことを特徴とする光学ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学ガラスに関するものである。詳細には、高屈折率かつ高分散であり、各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズや、ビデオカメラ、一般のカメラの撮影用レンズ等に好適な光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
CD、MD、DVD、その他各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、ビデオカメラ、一般のカメラの撮影用レンズは、一般に以下のようにして作製される。
【0003】
まず、溶融ガラスをノズルの先端から滴下して、液滴状ガラスを作製し(液滴成形)、必要に応じて、研削、研磨、洗浄してプリフォームガラスを作製する。または、溶融ガラスを急冷鋳造して、一旦ガラスインゴットを作製し、研削、研磨、洗浄してプリフォームガラスを作製する。続いて、プリフォームガラスを加熱して軟化し、精密加工を施した金型によって加圧成形し、金型の表面形状をガラスに転写してレンズを作製する。このような成形方法は、一般にモールドプレス成形法(または精密プレス成形法)と呼ばれている。
【0004】
モールドプレス成形法を採用する場合、金型の劣化を抑制しつつ、レンズを精密にモールドプレス成形するために、できるだけ低いガラス転移点(少なくとも650℃以下)を有するガラスが求められており、種々のガラスが提案されている。
【0005】
また、プリフォームガラスを作製する際に失透が生じると、モールドプレスレンズとしての基本性能が損なわれることから、耐失透性に優れたガラスであることが重要である。さらに、近年の環境問題への意識の高まりから、ガラス成分に鉛等の有害な物質を使用しない光学ガラスが望まれている。なお、近年では、各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズや撮影用レンズといった光学レンズには、コスト削減を目的として、レンズを薄くしたり、レンズの枚数を少なくしたりすることが検討されている。このように、レンズの薄肉化やレンズ枚数の低減を実現するために、高屈折率で高分散(アッベ数の小さい)のガラス材質が求められている。このような光学特性を有するガラスとして、ビスマスを主成分として含有する光学ガラスが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−201039号公報
【特許文献2】特開2007−106625号公報
【特許文献3】特開2006−151758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、高屈折率の光学ガラスを作製しようとすると、高屈折率に寄与する成分に起因して着色が生じ、特に可視域または近紫外域の透過率が低下しやすいという問題がある。一方、着色を抑制する成分を添加するとアッベ数が大きくなる、すなわち低分散になる傾向がある。このように、高屈折率かつ高分散で、しかも可視光透過率に優れた光学ガラスを作製することは困難であるとされている。
【0008】
そこで、本発明は、(1)環境上好ましくない成分を含有しない、(2)低ガラス転移点を達成しやすい、(3)高屈折率かつ高分散である、(4)可視域または近紫外域において優れた透過率を達成しやすい、(5)プリフォームガラス成形時の耐失透性に優れる、といった要求をすべて満足することが可能な光学ガラスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、屈折率が1.85以上、アッベ数が30以下、ガラス転移点が450℃以下であり、ガラス組成として、質量%で、Bi 40〜90%、B 0〜30%、TeO 0.1%〜19%を含有し、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnOがそれぞれ1%未満であり、かつ、鉛成分、ヒ素成分、フッ素成分、GeOを実質的に含有しないことを特徴とする光学ガラスに関する。
【0010】
本発明の光学ガラスは、組成中にBiを多量に含有しており、かつ、TeOを必須成分として含有するため、低ガラス転移点を達成しやすい。そのため、低温でモールドプレス成形可能であり、ガラス成分の揮発物に起因する金型の劣化を抑制することができる。また、モールドプレス成形の際に、透明性を阻害する失透物が生じにくいという効果も奏する。
【0011】
また、本発明の光学ガラスは、高屈折率かつ高分散の光学特性を達成しやすい。さらに、透過率を低下させやすいMgO、CaO、SrO、BaO、ZnOの各成分の含有量をそれぞれ1%未満に厳しく規制しており、また、同じく透過率を低下させやすいGeOを実質的に含有しないため、可視域または近紫外域における透過率に優れる。よって、光学デバイスにおいて、光学レンズの薄肉化やレンズ枚数の低減が可能になり、部品コストの削減や性能の向上を図ることが可能になる。
【0012】
さらに、本発明の光学ガラスは、有害成分である鉛成分、ヒ素成分、フッ素成分を実質的に含有しないため、環境上好ましいガラスである。
【0013】
なお、本発明において、「鉛成分、ヒ素成分、フッ素成分、GeOを実質的に含有しない」とは、これらの成分を意図的にガラス中に添加しないという意味であり、不可避的不純物まで完全に排除することを意味するものではない。客観的には、不純物を含めたこれらの成分の含有量が、質量%で、各々0.1%未満であることを意味する。
【0014】
第二に、本発明の光学ガラスは、質量%で、SiO+Alが0〜2.5%であることが好ましい。
【0015】
SiOまたはAlの含有量が多すぎると、溶融温度が高くなり、結果として、ビスマス成分が還元されて金属ビスマスが析出しやすくなり、透過率低下の原因となる。そこで、これらの成分の含有量を上記の通り規制することにより、溶融温度を低下させて、透過率に優れたガラスを製造することが可能となる。また、製造コストを低減することが可能となる。
【0016】
第三に、本発明の光学ガラスは、質量比で、B/(SiO+Al)が5.5以上であることが好ましい。
【0017】
当該構成により、高屈折率かつ高分散であり、ガラス転移点が低く、しかも透過率に優れたガラスが得られやすくなる。
【0018】
第四に、本発明の光学ガラスは、質量比で、Bi/Bが8以下であることが好ましい。
【0019】
当該構成により、透過率に優れたガラスが得られやすくなる。また、溶融温度を下げて、製造コストを低減することが可能となる。
【0020】
第五に、本発明の光学ガラスは、質量比で、(Bi+TeO)/Bが8以下であることが好ましい。
【0021】
当該構成により、透過率に優れたガラスが得られやすくなる。また、溶融温度を下げて、製造コストを低減することが可能となる。
【0022】
第六に、本発明の光学ガラスは、質量%で、Bi+B+TeOが90%以上であることが好ましい。
【0023】
当該構成により、高屈折率かつ高分散であり、ガラス転移点が低く、しかも透過率に優れたガラスが得られやすくなる。
【0024】
第七に、本発明の光学ガラスは、質量%で、La+Gd+Taが0〜20%であることが好ましい。
【0025】
当該構成により、透過率が高く、耐失透性に優れたガラスが得られやすくなる。
【0026】
第八に、本発明の光学ガラスは、質量%で、TiO+WO+Nbが0〜15%であることが好ましい。
【0027】
TiO、WO、Nbは屈折率を高める成分であるが、透過率を低下しやすい成分である。したがって、これらの成分を上記範囲に制限することにより、透過率の高いガラスが得られやすくなる。
【0028】
第九に、本発明の光学ガラスは、質量%で、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOが2%以下であることが好ましい。
【0029】
当該構成により、透過率に優れたガラスが得られやすくなる。
【0030】
第十に、本発明の光学ガラスは、質量%で、LiO+NaO+KOが0〜10%であることが好ましい。
【0031】
LiO、NaO、KOは低ガラス転移点を達成しやすくする成分である。しかし、これらの成分を添加すると、黄色に着色しやすくなり、透過率低下の原因になる。よって、これらの成分の含有量を上記範囲に制限することにより、透過率の高いガラスが得られやすくなる。
【0032】
なお、LiO、NaO、KOを添加した場合に着色する原因は、以下のように考えられている。LiO、NaO、KOは融剤として働き、ガラスネットワークを切断する。その結果、ガラス中における非架橋酸素が増加する。ビスマスを多く含有するガラスにおいて、非架橋酸素は近紫外域に吸収を示すため、近紫外域および可視域の透過率が低下しやすくなる。
【0033】
第十一に、本発明の光学ガラスは、質量%で、Bi+B+TeO+LiO+NaO+KO+TiO+WO+Nbが95%以上であることが好ましい。
【0034】
当該構成により、高屈折率かつ高分散であり、ガラス転移点が低く、しかも透過率に優れたガラスが得られやすくなる。
【0035】
第十二に、本発明の光学ガラスは、質量%で、Sbを0〜1%含有することが好ましい。
【0036】
第十三に、本発明の光学ガラスは、着色度λ70が500nm未満であることが好ましい。
【0037】
本発明において「着色度λ70」とは、透過率曲線において透過率が70%になる波長をいう。着色度λ70が小さいほど、可視域および近紫外域において高い透過率を有することを意味する。
【0038】
第十四に、本発明の光学ガラスは、モールドプレス成形用であることが好ましい。
【0039】
第十五に、本発明は、前記いずれかの光学ガラスを用いたことを特徴とする光学素子に関する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施例であるNo.40の試料について、プレス性評価を行った際の金型の様子を示す写真である。
【図2】本発明の比較例であるNo.34の試料について、プレス性評価を行った際の金型の様子を示す写真である。
【図3】本発明の比較例であるNo.60の試料について、プレス性評価を行った際の金型の様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下に、本発明の光学ガラスにおける各成分の含有量を上記のように限定した理由を説明する。なお、特に断りがない場合、以下の説明において「%」は「質量%」を意味する。
【0042】
Biは高屈折率かつ高分散、低ガラス転移点、化学耐久性等の各特性を実現させる必須成分である。また、屈折率を向上させる成分のなかでも耐失透性が低下しにくく、液相温度の上昇(液相粘度の低下)を抑制する効果もある。Biの含有量は40〜90%、50〜89%、60〜88%、70〜87%、特に71〜86%であることが好ましい。Biの含有量が少なすぎると、高屈折率かつ高分散の光学特性を達成しにくくなり、低ガラス転移点化も困難になる傾向がある。一方、Biは揮発性が高いため、その含有量が多すぎると、モールドプレス成形時に金型が劣化しやすくなったり、ガラスが金型に融着しやすくなる。また、化学耐久性が低下したり、透過率が低下しやすくなる。さらに、失透しやすくなる。
【0043】
はガラス骨格を構成する成分である。また、透過率を高める成分であり、紫外域付近の透過率低下を抑制し、吸収端を低波長側にシフトさせることができる。特に、高屈折率のガラスの場合は、Bの添加による透過率を高める効果が得られやすい。また、失透を抑制する効果も有する。さらに、化学耐久性を向上させる効果や、モールドプレス成形時における金型の劣化やガラスの金型への融着を抑制する効果を有する。Bの含有量は0〜30%、2〜29.5%、4〜29%、特に6〜28%であることが好ましい。Bはアッベ数を上昇させやすい成分であるため、その含有量が多すぎると、高分散特性が得られにくくなる。また、高屈折率特性を達成しにくくなる。さらに、低ガラス転移点化が困難になる傾向がある。
【0044】
着色度に優れたガラスを得るためには、BiとBの含有量の比を調整することが好ましい。具体的には、質量比で、Bi/Bが8以下、7.5以下、特に7以下であることが好ましい。当該比率が大きすぎると、着色度に優れたガラスが得られにくくなる。また、BiおよびBを主成分とする失透物が析出しやすくなる。
【0045】
TeOは、Biと同様に高屈折率かつ高分散、低ガラス転移点、化学耐久性等の各特性を実現させる必須成分である。また、屈折率を向上させる成分のなかでも耐失透性が低下しにくく、液相温度の上昇を抑制する効果もある。TeOの含有量は0.1〜19%、0.1〜15%、0.1〜10%、特に0.5〜5%であることが好ましい。TeOはBiと同様に揮発性が高いため、その含有量が多すぎると、モールドプレス成形時に金型が劣化しやすくなったり、ガラスが金型に融着しやすくなる。また、化学耐久性が低下したり、透過率が低下しやすくなる。なお、BiをTeOに置換することで、BiおよびBを主成分とする失透物の析出を抑制したり、化学耐久性を向上させることが可能となる。
【0046】
着色度に優れたガラスを得るためには、Bi+TeOとBの含有量の比を調整することが好ましい。具体的には、質量比で、(Bi+TeO)/Bが8以下、7.5以下、特に7以下であることが好ましい。当該比率が大きすぎると、着色度に優れたガラスが得られにくくなる。また、BiおよびBを主成分とする失透物が析出しやすくなる。
【0047】
また、Bi+B+TeOを90%以上、93%以上、95%以上、特に97.5%以上と多くすることにより、高屈折率かつ高分散で、ガラス転移点が低く、しかも透過率に優れ、さらにモールドプレス成形時における金型の劣化や金型への融着が発生しにくいガラスが得られやすくなる。
【0048】
なお、本発明において、B+TeOを8%以上、9%以上、10%以上、特に12%以上と多くすることにより、高屈折率かつ高分散で、ガラス転移点が低く、しかも透過率に優れ、さらにモールドプレス成形時における金型の劣化や金型への融着が発生しにくいガラスが得られやすくなる。
【0049】
また、Bi/(B+TeO)が7.5以下、5以下、特に4.5以下であることが好ましい。Bi/(B+TeO)が上記範囲を満たすことにより、透過率に優れ、さらにモールドプレス成形時における金型の劣化や金型への融着が発生しにくいガラスが得られやすくなる。
【0050】
MgO、CaO、SrO、BaO、ZnOは、屈折率を大きく低下させたりアッベ数を大きく上昇させることなく、融剤として作用する成分である。これらの成分を添加することにより、粘度を低下させて低ガラス転移点化を図り、金型と融着しにくいガラスを得ることができる。しかし、これらの成分の含有量が多すぎると、液相温度が上昇して溶融、成形工程中に失透物が析出しやすくなり、作業温度範囲が狭くなる。その結果、ガラスを量産化しにくくなる。また、耐候性が低下し、研磨洗浄水等の各種洗浄溶液中へのガラス成分の溶出量が増大したり、高温多湿状態でのガラス表面の変質が顕著になったりする。さらに、アルカリ金属酸化物と同様、融剤として働くことによりガラス中に非架橋酸素が増加し、当該非架橋酸素が原因となって透過率が低下しやすくなる。またモールドプレス成形時に、かえってガラスが金型に融着しやすくなる。よって、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnOの含有量は、それぞれ1%未満、特に0.5%以下であることが好ましく、特に実質的に含有しない(具体的には、それぞれ0.1%未満)ことが最も好ましい。ただし、これらの成分による融剤としての効果を積極的に得るためには、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnOの少なくとも1種を0.1%以上含有しても構わない。
【0051】
なお、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOは2%以下、1%以下、特に0.5%以下であることが好ましく、特に実質的に含有しない(具体的には、0.1%未満)ことが最も好ましい。
【0052】
SiOは、Bとともにガラス骨格を構成することが可能な成分である。また、耐候性を向上させる効果があり、特にガラス中のBやアルカリ金属酸化物等の成分が研磨洗浄水等の各種洗浄溶液中へ選択的に溶出することを抑制する効果が大きい。SiOの含有量は0〜2.5%、特に0.1〜2%であることが好ましい。SiOの含有量が多すぎると、溶融性が低下し、溶融温度が高くなる傾向がある。結果として、酸化ビスマス成分の還元により金属ビスマスが析出して透過率が低下したり、未溶解による脈理や泡がガラス中に残存してレンズ用ガラスとしての要求品位を満たさなくなる可能性がある。
【0053】
Alは、SiOやBとともにガラス骨格を構成することが可能な成分である。また、耐候性を向上させる効果があり、特にガラス中のBやアルカリ金属酸化物等の成分が研磨洗浄水等の各種洗浄溶液中へ選択的に溶出することを抑制する効果が大きい。Alの含有量は0〜2.5%、特に0.1〜2%であることが好ましい。Alの含有量が多すぎると、失透しやすくなる。また、溶融温度が高くなって、透過率が低下したり、未溶解による脈理や泡がガラス中に残存してレンズ用ガラスとしての要求品位を満たさなくなる可能性がある。
【0054】
なお、SiO+Alは0〜2.5%、0〜2%、0〜1.5%、0〜1%、特に0.1〜0.5%であることが好ましい。SiO+Alが多すぎると、溶融温度が高くなり、透過率が低下の原因となる。
【0055】
また、透過率の高いガラスを得るためには、B/(SiO+Al)は5.5以上、7以上、特に10以上であることが好ましい。
【0056】
上記成分以外に、軟化点を低下させる成分として、LiO、NaO、KO等のアルカリ金属酸化物を添加することができる。
【0057】
LiOはアルカリ金属酸化物のなかで最も軟化点を低下させる効果が大きい。また、他のアルカリ金属酸化物と比較して液相温度の上昇が少ない成分である。また、B、SiO、Alと置換することにより、アッベ数を低下させることができる。しかし、LiOは分相性が強いため、その含有量が多すぎると、液相温度が上昇して失透物が析出しやすくなり、作業性が低下するおそれがある。また、LiOは化学耐久性を低下させやすく、着色により透過率も低下させやすい。さらに、LiOは屈折率を低下させる成分であるため、多量に含有すると高屈折率特性を達成しにくくなる。また、LiOの含有量が多すぎると、モールドプレス成形時にガラスが金型に融着しやすくなる。したがって、LiOの含有量は0〜5%、0〜3%、特に0.1〜1.5%であることが好ましい。
【0058】
NaOはLiOと同様に軟化点を低下させる効果を有する。また、B、SiO、Alと置換することにより、アッベ数を低下させることができる。しかし、その含有量が多すぎると、屈折率が大幅に低下したり、ガラス溶融時にBとNaOを主成分とする揮発物が多くなり、脈理の生成を助長する傾向がある。また、液相温度が上昇して、ガラス中に失透物が析出しやすくなる。さらに、モールドプレス成形時にガラスが金型に融着しやすくなる。したがって、NaOの含有量は0〜10%、特に0.1〜5%であることが好ましい。
【0059】
OもLiOと同様に軟化点を低下させる効果を有する。また、B、SiO、Alと置換することにより、アッベ数を低下させることができる。しかし、その含有量が多くなりすぎると、屈折率が大幅に低下したり、耐候性が低下する傾向がある。また、液相温度が上昇して、ガラス中に失透物が析出しやすくなる。さらに、モールドプレス成形時にガラスが金型に融着しやすくなる。したがって、KOの含有量は0〜10%、特に0.1〜5%であることが好ましい。
【0060】
LiO+NaO+KOは0〜10%、0.1〜5%、特に0.5〜5%であることが好ましい。LiO+NaO+KOが多すぎると、BiおよびBを主成分とする失透物が析出しやすくなったり、化学耐久性が低下しやすくなる。また、所望の光学特性が得られにくくなる。さらに、着色して透過率が低下しやすくなったり、モールドプレス成形時にガラスが金型に融着しやすくなる。
【0061】
本発明の光学ガラスは、上記成分以外にも以下の成分を含有することができる。
【0062】
Laは、透過率をほとんど低下させることなく屈折率を高めることが可能な成分であり、同時に化学耐久性を向上させる効果も有する。Laの含有量は0〜20%、特に0.1〜10%であることが好ましい。Laの含有量が多すぎると、耐失透性が低下すると同時に、高分散なガラスが得られにくくなる。
【0063】
GdはLaと同様に、透過率をほとんど低下させることなく屈折率を高めることが可能な成分であり、同時に化学耐久性を向上させる効果も有する。Gdの含有量は0〜20%、特に0.1〜10%であることが好ましい。Gdの含有量が多すぎると、耐失透性が低下すると同時に、高分散なガラスが得られにくくなる。
【0064】
Taは、透過率をほとんど低下させることなく屈折率および分散を高める効果がある。Taの含有量は0〜20%、0〜15%、特に0.1〜10%であることが好ましい。Taの含有量が多すぎると、耐失透性が低下しやすくなる。
【0065】
La+Gd+Taは0〜20%、0〜10%、0〜7.5%、0〜5%、特に0.1〜2.5%であることが好ましい。La+Gd+Taが多すぎると、ガラスが着色しやすくなったり、失透しやすくなる。なお、これらの成分は、希少価値が高く高価な原料(レアメタル)であるため、コストを低減する観点からは、実質的に含有しない(具体的には、0.1%未満)ことが好ましい。
【0066】
TiO、WO、Nbは屈折率を高める効果が大きい成分であると同時に、分散を高める効果もあり、化学耐久性を向上させる効果も有する。また、La、Gd、Taと比較して、失透を抑制する働きが大きい。
【0067】
TiOの含有量は0〜10%、0〜5%、特に0.1〜5%であることが好ましい。TiOはLa、Gd、Taに比べ透過率を低下させる割合が小さいため、TiOを積極的に添加することで、比較的高い透過率を維持しつつ、高屈折率および高分散の光学特性が得られやすくなる。また、TiOは、上記3成分のなかでは耐失透性の向上に最も有効な成分である。さらに、TiOを含有することで紫外線による劣化を抑制することができる。しかし、その含有量が多すぎると透過率が低下する傾向がある。特に、不純物としてFe成分がガラス中に多く含まれる場合(例えば20ppm以上)に透過率が顕著に低下する傾向がある。
【0068】
WOの含有量は0〜10%、0〜5%、0〜2%、特に0.1〜1%であることが好ましい。WOは上記3成分のなかで最も透過率を低下させやすい成分であるため、透過率の高いガラスを得る場合は、その含有量はなるべく少なくしたほうがよい。
【0069】
Nbの含有量は0〜10%、0〜5%、特に0.1〜5%であることが好ましい。Nbの含有量が多すぎると、Nbを主成分とする失透物がガラス表面に析出(表面失透)したり、ガラスが不均質となり脈理が発生しやすくなる。また、透過率が低下する傾向がある。
【0070】
TiO+WO+Nbは0〜15%、特に0.1〜10%であることが好ましい。TiO+WO+Nbが多すぎると、透過率が顕著に低下しやすくなる。
【0071】
なお、Bi+B+TeO+LiO+NaO+KO+TiO+WO+Nbを95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、特に99.5%以上と多くすることにより、高屈折率および高分散の特性を達成しやすくなる。
【0072】
また、本発明の光学ガラスは、上記成分以外にも種々の成分を、本発明の特性を損なわない範囲で添加することが可能である。このような成分として、例えばZrO、Y、Yb、P、清澄剤などが挙げられる。
【0073】
ZrOは屈折率を高める成分である。また、中間酸化物としてガラス骨格を形成するため、耐失透性を改善(BおよびLaで形成される失透物の抑制)したり、化学的耐久性を向上させる効果もある。ただし、ZrOの含有量が多くなるとガラス転移点が上昇し、モールドプレス成形性が低下すると同時に、ZrOを主成分とする失透物が析出しやすくなる。また、アッベ数が大きくなって、高分散なガラスが得られにくくなる傾向がある。したがって、ZrOの含有量は0〜10%、0〜7.5%、特に0.1〜5%であることが好ましい。
【0074】
およびYbは屈折率を高め、分散を低下させる成分である。また、分相を抑制する効果がある。YおよびYbは、Laと置換することにより耐失透性を改善することができる。YおよびYbの含有量は各々0〜10%、特に0〜8%であることが好ましい。YまたはYbの含有量が多すぎると、失透しやすくなり、作業温度範囲が狭くなる傾向がある。また、ガラス中に脈理が発生しやすくなる。
【0075】
は、SiOやBとともにガラス骨格を構成することが可能な成分である。また、透過率を高める成分であり、紫外域付近の透過率低下を抑制し、吸収端を低波長側にシフトさせることができる。特に、高屈折率のガラスの場合は、Pの添加による透過率を高める効果が得られやすい。また、失透を抑制する効果やモールドプレス成形時に金型が劣化しやすくなったり、ガラスが金型に融着しやすくなることを抑制できる効果を有する。Pの含有量は0〜5%、0.1〜4%、0.1〜3%、特に0.1〜2.5%であることが好ましい。Pはアッベ数を上昇させやすい成分であるため、その含有量が多すぎると、高分散特性が得られにくくなったり、化学耐久性が低下する傾向がある。また、高屈折率特性を達成しにくくなったり、低ガラス転移点化が困難になる傾向がある。
【0076】
清澄剤としては、例えばSbが挙げられる。Sbは低温で溶融するガラスの清澄に有効であり、不純物であるFe成分等による着色を抑制することができる。ただし、その添加量が多くなりすぎると、当該清澄剤からなるブツが発生しやすくなる。したがって、Sbの含有量は0〜1%、特に0.001〜0.1%であることが好ましい。清澄剤としては、その他にSnO等を使用することができる。
【0077】
GeOは、高屈折率かつ高分散の光学特性を得るための成分であるが、透過率が低下しやすい。また、高価な原料であるため、多量に使用すると原料コストが高くなる傾向がある。したがって、本発明の光学ガラスはGeOを実質的に含有しない。
【0078】
鉛成分(PbO等)、ヒ素成分(As等)およびフッ素成分(F等)は、環境上の理由から、実質的なガラスへの導入は避けるべきである。よって、本発明の光学ガラスはこれらの成分は実質的に含有しない。
【0079】
本発明の光学ガラスの屈折率(nd)は1.85以上、1.9以上、特に1.95以上であることが好ましい。また、本発明の光学ガラスのアッベ数(νd)は30以下、25以下、特に20以下であることが好ましい。これらの光学特性を満たすことにより、レンズの薄肉化やレンズ枚数の低減を実現でき、高機能で小型の光学デバイス用光学レンズとして好適となる。
【0080】
本発明の光学ガラスは、着色度λ70が500nm未満、480nm以下、特に460nm以下であることが好ましい。着色度λ70が大きすぎると、可視域または近紫外域における透過率特性に劣り、各種光学レンズ等の光学素子に使用することが困難となる。
【0081】
着色度λ70を上記範囲に調整するためには、既述の通り、Bi/Bの比を調整したり、Nb、WO、TiO等の透過率を低下させる成分の含有量を制限することが効果的である。また、後述するように、溶融を酸化雰囲気下で行って、着色の原因となる金属ビスマスの析出を抑制することも好ましい。なお、不純物として白金が混入すると透過率が低下する傾向があるため、溶融炉の材質としては極力、白金を含有しないものが好ましい。例えば、溶融炉としては金を主成分として含有する材質を採用することが好ましい。なお、バッチ原料として粒径の小さいものや、一旦ガラス化したものを使用することにより、溶解性を向上させ、未溶解不純物の混入を抑制することができる。
【0082】
本発明の光学ガラスは、ガラス転移点が450℃以下、425℃以下、特に420℃以下であることが好ましい。ガラス転移点が高すぎると、低温でのモールドプレス成形が困難となり、金型の酸化、ガラス成分の揮発による金型の汚染、ガラスと金型との融着などの問題が発生しやすくなる。
【0083】
次に、本発明のガラスを用いて光ピックアップレンズや撮影用レンズ等の光学ガラスを製造する方法を説明する。
【0084】
まず、所望の組成になるようにガラス原料を調合した後、溶融炉中で溶融を行う。酸化ビスマスは溶融時に他の成分を酸化したり、自身が還元されて金属ビスマスとなり、透過率低下の原因となりやすい。したがって、酸化雰囲気で溶融することが好ましい。酸化雰囲気を実現するためには、酸化剤として働く硝酸原料、炭酸原料、水和物等を多く含む原料、具体的には硝酸ビスマス、硝酸ランタン、硝酸バリウム、硝酸ソーダ等を多く使用することが好ましい。また、溶融時に酸素を多く含むガスをガラス中に導入することで、より酸化方向の溶融雰囲気を達成することができる。
【0085】
なお、高温で溶融すると、酸化ビスマスがより還元されやすく、金属ビスマスが析出しやすくなるため、溶融温度はなるべく低いほうが好ましい。具体的には、溶融温度は1200℃以下、1100℃以下、特に1000℃以下が好ましい。特に、溶融炉として金を主成分として含有する材質を使用する場合、その融点が低いため(純金で約1060℃)、溶融温度もそれに応じて低くする必要がある。溶融温度の下限は特に限定されないが、ガラス原料を十分に溶融してガラス化するために、700℃以上、特に800℃以上であることが好ましい。
【0086】
次に、溶融ガラスをノズルの先端から滴下して液滴状ガラスを作製し、プリフォームガラスを得る。または、溶融ガラスを急冷鋳造して、一旦ガラスブロックを作製し、研削、研磨、洗浄してプリフォームガラスを得る。
【0087】
続いて、精密加工を施した金型中にプリフォームガラスを投入して軟化状態となるまで加熱しながら加圧成形し、金型の表面形状をプリフォームガラスに転写させる(モールドプレス成形)。このようにして光学ガラスを得ることができる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0089】
表1〜9は本発明の実施例(No.1〜32、36〜59)および比較例(No.33〜35、60)を示している。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
【表3】

【0093】
【表4】

【0094】
【表5】

【0095】
【表6】

【0096】
【表7】

【0097】
【表8】

【0098】
【表9】

【0099】
各ガラス試料は次のようにして調製した。
【0100】
まず、表に示す各組成になるようにガラス原料を調合し、金ルツボを用いて800〜1050℃で1時間溶融した。溶融後、ガラス融液をカーボン板上に流し出し、さらにアニール後、各測定に適したガラス試料を作製した。
【0101】
得られたガラス試料について、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、ガラス転移点(Tg)、着色度λ70を測定した。結果を表1〜9に示す。
【0102】
屈折率は、ヘリウムランプのd線(587.6nm)に対する測定値で示した。
【0103】
アッベ数は、上記d線の屈折率と水素ランプのF線(486.1nm)、同じく水素ランプのC線(656.3nm)の屈折率の値を用い、アッベ数=[(nd−1)/(nF−nC)]式から算出した。
【0104】
ガラス転移点は、熱膨張測定装置(dilato meter)にて測定される値によって評価した。
【0105】
着色度λ70は、分光光度計を用いて、厚さ10mm±0.1mmの光学研磨されたガラス試料について、200〜800nmの波長域での透過率を0.5nm間隔で測定し、透過率70%を示す波長により評価した。
【0106】
さらに、実施例であるNo.40および比較例であるNo.34およびNo.60の試料についてプレス性評価を行った。このプレス性評価は、モールドプレス成形を想定した金型とガラスの融着を評価したものである。具体的には、研磨されたタングステンカーバイト(WC)板の間に、5mmφ×5mmtのサイズの端面鏡面研磨されたガラス試料を挟み込み、窒素雰囲気で熱処理を行いながら50KPaで10分間加圧した後の金型へのガラスの融着状態を観察した。ここで、熱処理温度はガラス転移点+40℃とした。試験後の金型の写真を図1〜3(順にNo.40、No.34およびNo.60に対応)に示す。
【0107】
表1〜9から明らかなように、実施例であるNo.1〜32、36〜59のガラスは、高屈折かつ高分散の光学特性、低ガラス転移点および低着色度の各特性を満たしていた。一方、比較例であるNo.33および34のガラスは着色度に劣り、No.35のガラスはガラス転移点が高かった。また、図1〜3から明らかなように、実施例であるNo.40の試料では、金型にガラスがほとんど融着していないのに対し、比較例であるNo.34およびNo.60の試料では、金型とガラスの接したほとんどの部分でガラスが融着していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の光学ガラスは、CD、MD、DVD、その他各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ;ビデオカメラ、一般のカメラの撮影用レンズ;光通信用レンズ等の光学素子に好適である。なお、モールドプレス成形以外の成形方法で製造される硝材として使用することも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率が1.85以上、アッベ数が30以下、ガラス転移点が450℃以下であり、ガラス組成として、質量%で、Bi 40〜90%、B 0〜30%、TeO 0.1%〜19%を含有し、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnOがそれぞれ1%未満であり、かつ、鉛成分、ヒ素成分、フッ素成分、GeOを実質的に含有しないことを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
質量%で、SiO+Alが0〜2.5%であることを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
質量比で、B/(SiO+Al)が5.5以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
質量比で、Bi/Bが8以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項5】
質量比で、(Bi+TeO)/Bが8以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項6】
質量%で、Bi+B+TeOが90%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項7】
質量%で、La+Gd+Taが0〜20%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項8】
質量%で、TiO+WO+Nbが0〜15%であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項9】
質量%で、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOが2%以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項10】
質量%で、LiO+NaO+KOが0〜10%であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項11】
質量%で、Bi+B+TeO+LiO+NaO+KO+TiO+WO+Nbが95%以上であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項12】
質量%で、Sbを0〜1%含有することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項13】
着色度λ70が500nm未満であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項14】
モールドプレス成形用であることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の光学ガラスを用いたことを特徴とする光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−232883(P2012−232883A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−282875(P2011−282875)
【出願日】平成23年12月26日(2011.12.26)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】