説明

光学ガラス

【課題】Biを成分として含有しながらも、低い屈伏点を有し、且つ広い範囲の屈折率、高屈折率をもつ光学ガラスの提供を課題とする。
【解決手段】Bi、AgO、Pからなる3成分の各100モル%をそれぞれ正三角形の頂点とする3元系成分組成図上において、前記3成分が下記A〜Gの7点を結ぶ線で囲まれる領域にある。A:(Bi、AgO)=(2.5モル%、60.0モル%)、B:(Bi、AgO)=(12.5モル%、50.0モル%)、C:(Bi、AgO)=(12.5モル%、42.5モル%)、D:(Bi、AgO)=(32.5モル%、2.5モル%)、E:(Bi、AgO)=(17.5モル%、2.5モル%)、F:(Bi、AgO)=(17.5モル%、10.0モル%)、G:(Bi、AgO)=(2.5モル%、25.0モル%)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学ガラスに関し、特に高屈折率、低屈伏点で、モールド成形及び微細構造の転写(ガラスインプリント)に適した組成を有する光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学機器の小型軽量化が著しく進展している中で、非球面レンズが多く用いられるようになってきている。これは、非球面レンズは光線収差の補正が容易であり、レンズの枚数を少なくし、機器をコンパクトにすることができるためである。
またガラス表面に光の波長レベルの周期をもつナノ微細構造を形成することにより、光波制御機能を発現させた光学素子、即ち光波制御素子への要求が高まってきている。光波制御機能により、構造性複屈折や表面反射の防止等の特性が得られる。このような光波制御素子をガラスで作製することは、光学物性の選択範囲が広く、温度変化に対して安定で、耐熱性、耐候性、耐光性がよいなどの理由から、光学素子材料として頻繁に用いられている樹脂よりも広い適用範囲が期待できる。
非球面レンズ等の製造は、ガラスのプリフォームを加熱軟化させ、これを所望形状に精密モールド成形することによってなされている。
また光波制御素子の作製についても、低コストの点から100nm〜10μmレベルの周期のナノ微細構造を表面に形成した耐熱モールドを用いた、精密モールド成形によるガラスインプリントの研究開発がなされている。
精密モールド成形によってガラス成形品を得るためには、プリフォームの加圧成形を屈伏点(At)近傍の温度で行うことが必要である。このため、プリフォームの屈伏点(At)が高いほど、これに接する金型(モールド)が一層の高温に曝されることとなり、モールド表面が酸化消耗し、モールドのメンテナンスが必要となり、低コストでの大量生産が実現できなくなる。このためプリフォームを構成する光学ガラスは、比較的低温で成形できること、即ち屈伏点(At)が低いことが望まれている。
また屈折率(n)が高いほど焦点距離を短くでき、光学系をコンパクトにできると共に、光学設計の自由度が大きくなることから、高屈折率(n)であることも望まれている。
屈伏点(At)の低いガラス系としては、リン酸塩を主体としたリン酸塩系光学ガラスをあげることができる。
【0003】
上記光学特性への要求を満たす従来のガラスとして、例えば特許文献1に開示されているガラスがある。特許文献1には、P−Nb−Bi系ガラスの高屈折率、高分散の精密プレス成形用光学ガラスが開示されている。
また特許文献2には、高濃度のAgを含有させた光学ガラス用のリン酸塩系ガラス組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−58845号公報
【特許文献2】特開2008−290915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1、2に開示されているガラスは、屈伏点が高いためにモールド表面が酸化し易く、大量生産の点で問題を有する。
【0006】
そこで本発明は上記従来の光学ガラスにおける欠点を解消し、Biを成分として含有しながらも、低い屈伏点を有し、且つ広い範囲の屈折率、高屈折率をもつ光学ガラスの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ガラス製造にあたって、構成成分としてBi以外に、P、AgOを選択し、これらの配合比を所望の範囲にすることにより、屈伏点(At)の低い、広い範囲の屈折率(n)を有するガラスインプリント用に適した光学ガラスを得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち本発明の光学ガラスは、Bi、AgO、Pからなる3成分の各100モル%をそれぞれ正三角形の頂点とする3元系成分組成図上において、前記3成分が下記A〜Gの7点を結ぶ線で囲まれる領域にあることを第1の特徴としている。
A:(Bi、AgO)=(2.5モル%、60.0モル%)
B:(Bi、AgO)=(12.5モル%、50.0モル%)
C:(Bi、AgO)=(12.5モル%、42.5モル%)
D:(Bi、AgO)=(32.5モル%、2.5モル%)
E:(Bi、AgO)=(17.5モル%、2.5モル%)
F:(Bi、AgO)=(17.5モル%、10.0モル%)
G:(Bi、AgO)=(2.5モル%、25.0モル%)
【0009】
また本発明の光学ガラスは、上記第1の特徴に加えて、Bi、AgO、Pからなる3成分の各100モル%をそれぞれ正三角形の頂点とする3元系成分組成図上において、前記3成分が下記H〜Oの8点を結ぶ線で囲まれる領域にあることを第2の特徴としている。
H:(Bi、AgO)=(5モル%、55モル%)
I:(Bi、AgO)=(10モル%、50モル%)
J:(Bi、AgO)=(10モル%、45モル%)
K:(Bi、AgO)=(30モル%、5モル%)
L:(Bi、AgO)=(20モル%、5モル%)
M:(Bi、AgO)=(20モル%、10モル%)
N:(Bi、AgO)=(10モル%、20モル%)
O:(Bi、AgO)=(5モル%、30モル%)
【0010】
また本発明の光学ガラスは、上記第1の特徴に加えて、Bi、AgO、Pからなる3成分の各100モル%をそれぞれ正三角形の頂点とする3元系成分組成図上において、前記3成分が下記P〜Uの6点を結ぶ線で囲まれる領域にあることを第3の特徴としている。
P:(Bi、AgO)=(5モル%、30モル%)
Q:(Bi、AgO)=(17.5モル%、30モル%)
R:(Bi、AgO)=(30モル%、5モル%)
S:(Bi、AgO)=(20モル%、5モル%)
T:(Bi、AgO)=(20モル%、10モル%)
U:(Bi、AgO)=(10モル%、20モル%)
【0011】
また本発明の光学ガラスは、上記第1〜第3の何れかの特徴に加えて、Bi、AgO、Pの3成分の合計100モル部に対して、Alを10モル部以下の割合で加えてあることを第4の特徴としている。
【0012】
また本発明の光学ガラスは、上記第1〜第3の何れかの特徴に加えて、Bi、AgO、Pの3成分の合計100モル部に対して、LiO、NaO、KOの何れか1種以上を合計で10モル部以下の割合で加えてあることを第5の特徴としている。
【0013】
また本発明の光学ガラスは、上記第1〜第3の何れかの特徴に加えて、Bi、AgO、Pの3成分の合計100モル部に対して、MgO、CaO、BaO、SrOの何れか1種以上を合計で10モル部以下の割合で加えてあることを第6の特徴としている。
【0014】
また本発明の光学ガラスは、上記第1〜第3の何れかの特徴に加えて、Bi、AgO、Pの3成分の合計100モル部に対して、ZnOを10モル部以下の割合で加えてあることを第7の特徴としている。
【0015】
また本発明の光学ガラスは、上記第1〜第3の何れかの特徴に加えて、Bi、AgO、Pの3成分の合計100モル部に対して、Alと、LiO、NaO、KOの何れか1種以上と、MgO、CaO、BaO、SrOの何れか1種以上と、ZnOとの4群中から1群以上を、合計で10モル部以下の割合で加えてあることを第8の特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の光学ガラスによれば、そこに示す組成としたので、屈折率(n)が1.65〜1.86であり、着色がなく、且つ屈伏点(At)が215〜450℃で、ガラスインプリント工程における等温成形時に白濁も生じ難い、微細構造の転写に適したものを提供することが可能となった。
また特許文献2及び3に記載のZnO−Bi−P系ガラスに比べて、より屈伏点が低いガラスが得られており、耐熱温度が低いNiP系の金型を使用してプレス成型やガラスインプリントをする場合、より低い温度で成型可能なため、金型の耐久性を向上させることができる。
【0017】
請求項2に記載の光学ガラスによれば、上記請求項1に記載の構成による効果を一層安定して、確実に奏することができる。
【0018】
請求項3に記載の光学ガラスによれば、上記請求項1に記載の構成による効果を一層安定して、確実に奏することができる。
【0019】
請求項4に記載の光学ガラスによれば、上記請求項1〜3の何れかに記載の構成による効果に加えて、Bi、AgO、Pの3成分の合計100モル部に対して、Alを10モル部以下の割合で加えることにより、ガラスの安定性と耐候性を一層向上させることができる。
【0020】
請求項5に記載の光学ガラスによれば、上記請求項1〜3の何れかに記載の構成による効果に加えて、Bi、AgO、Pの3成分の合計100モル部に対して、LiO、NaO、KOの何れか1種以上を合計で10モル部以下の割合で加えることにより、ガラスの屈伏点(At)を低下させると同時に、安定性を一層高めることができる。
【0021】
請求項6に記載の光学ガラスによれば、上記請求項1〜3の何れかに記載の構成による効果に加えて、Bi、AgO、Pの3成分の合計100モル部に対して、MgO、CaO、BaO、SrOの何れか1種以上を合計で10モル部以下の割合で加えることにより、ガラスの安定性を一層向上させることができる。
【0022】
請求項7に記載の光学ガラスによれば、上記請求項1〜3の何れかに記載の構成による効果に加えて、Bi、AgO、Pの3成分の合計100モル部に対して、ZnOを10モル部以下の割合で加えることにより、ガラスの屈伏点を一層低下させることができる。
【0023】
請求項8に記載の光学ガラスによれば、上記請求項1〜3の何れかに記載の構成による効果に加えて、Bi、AgO、Pの3成分の合計100モル部に対して、Alと、LiO、NaO、KOの何れか1種以上と、MgO、CaO、BaO、SrOの何れか1種以上と、ZnOとの4群中から1群以上を、合計で10モル部以下の割合で加えることにより、ガラスの安定性と耐候性を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】Bi、AgO、Pからなる3成分の各100モル%をそれぞれ正三角形の頂点とする3元系成分組成図上に、本発明の実施例1〜27の成分組成を白丸で、比較例1〜18の成分組成を黒丸で表した図である。
【図2】Bi、AgO、Pからなる3成分の各100モル%をそれぞれ正三角形の頂点とする3元系成分組成図上に、本発明の第1の特徴に係る光学ガラスの成分範囲をA〜Gの7点とそれらを結ぶ線で表すと共に、実施例1〜27成分組成を白丸で、比較例1〜18の成分組成を黒丸で表した図である。
【図3】Bi、AgO、Pからなる3成分の各100モル%をそれぞれ正三角形の頂点とする3元系成分組成図上に、本発明の第2の特徴に係る光学ガラスの成分範囲をH〜Oの8点とそれらを結ぶ線で表すと共に、実施例1〜27の成分組成を白丸で、比較例1〜18の成分組成を黒丸で表した図である。
【図4】Bi、AgO、Pからなる3成分の各100モル%をそれぞれ正三角形の頂点とする3元系成分組成図上に、本発明の第3の特徴に係る光学ガラスの成分範囲をP〜Uの6点とそれらを結ぶ線で表すと共に、実施例1〜27の成分組成を白丸で、比較例1〜18の成分組成を黒丸で表した図である。
【図5】Bi=15モル%、AgO=20モル%、残Pからなる3成分ガラスの光の透過率曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の光学ガラスにおける成分とその含有量について説明する。
成分Pは、ガラスの網目構造形成成分であり、ガラスに製造可能な安定性をもたせるための必須成分である。
AgOは、ガラスの安定化、ガラスの低屈伏点化及び高屈折率化に有効な成分である。
Biは、ガラスの安定化、ガラスの低屈伏点化及び高屈折率化に有効な成分である。
【0026】
本発明の光学ガラスは、Biの100モル%、AgOの100モル%、Pの100モル%となる点を正三角形の頂点とする3元系成分組織図上において、前記3成分が下記A〜Gの7点を結ぶ線で囲まれる領域にある成分組成のガラスとしている。
A:(Bi、AgO)=(2.5モル%、60.0モル%)
B:(Bi、AgO)=(12.5モル%、50.0モル%)
C:(Bi、AgO)=(12.5モル%、42.5モル%)
D:(Bi、AgO)=(32.5モル%、2.5モル%)
E:(Bi、AgO)=(17.5モル%、2.5モル%)
F:(Bi、AgO)=(17.5モル%、10.0モル%)
G:(Bi、AgO)=(2.5モル%、25.0モル%)
【0027】
上記の7点を結ぶ線で囲まれる領域(線を含む)にある成分組成(第1の特徴に係る光学ガラスの成分組成)の範囲と各点A〜Gを図2に示す。
【0028】
上記7点を結ぶ線で囲まれる領域を成分組成とするガラスとすることで、着色が少なく、結晶化し難く、耐水性が良好で、屈伏点(At)が低く、モールド成形、ガラスインプリント等の微細構造の転写に適し、しかも高屈折率(n)で、屈折率を広範囲に調整できる光学ガラスを得ることが可能になる。
【0029】
図2も参照して、点A、B、C、Dを結ぶ線より右側(線を含まない)では結晶が析出するため、光学ガラスとしては使用できない。
点D、E、F、Gを結ぶ線より下側(線を含まない)及び左側(線を含まない)では耐水性が悪く、切断や研磨のときに白濁を生じるため、光学ガラスとしては使用できない。
点G、Aを結ぶ線より左側(線を含まない)は、実質AgO−Pの2成分ガラスとなるため、不安定であり、実際に光学ガラスとしては使用するのが難しい。Biを入れることにより安定し、光学ガラスとして使用することができる。
【0030】
またBiの100モル%、AgOの100モル%、Pの100モル%となる点を正三角形の頂点とする3元系成分組織図上において、前記3成分が下記H〜Oの8点を結ぶ線で囲まれる領域にある成分組成のガラスとしている。
H:(Bi、AgO)=(5モル%、55モル%)
I:(Bi、AgO)=(10モル%、50モル%)
J:(Bi、AgO)=(10モル%、45モル%)
K:(Bi、AgO)=(30モル%、5モル%)
L:(Bi、AgO)=(20モル%、5モル%)
M:(Bi、AgO)=(20モル%、10モル%)
N:(Bi、AgO)=(10モル%、20モル%)
O:(Bi、AgO)=(5モル%、30モル%)
上記の8点を結ぶ線で囲まれる領域にある成分組成(第2の特徴に係る光学ガラスの成分組成)の範囲を図3に示す。
【0031】
上記H〜Oの8点を結ぶ線で囲まれる領域(線を含む)は、上記A〜Gの7点で囲まれる領域内に存在し、作用効果においても、上記7点で囲まれる領域にあるガラスが有する特徴乃至作用効果を、更に確実に安定して発揮することができる。
【0032】
またBiの100モル%、AgOの100モル%、Pの100モル%となる点を正三角形の頂点とする3元系成分組織図上において、前記3成分が下記P〜Uの6点を結ぶ線で囲まれる領域にある成分組成のガラスとしている。
P:(Bi、AgO)=(5モル%、30モル%)
Q:(Bi、AgO)=(17.5モル%、30モル%)
R:(Bi、AgO)=(30モル%、5モル%)
S:(Bi、AgO)=(20モル%、5モル%)
T:(Bi、AgO)=(20モル%、10モル%)
U:(Bi、AgO)=(10モル%、20モル%)
上記の6点を結ぶ線で囲まれる領域にある成分組成(第3の特徴に係る光学ガラスの成分組成)の範囲を図4に示す。
【0033】
上記P〜Uの6点を結ぶ線で囲まれる領域(線を含む)は、上記H〜Oの8点で囲まれる領域の下半部に相当し、線P−Qで区切ることで、AgOの含有量を少なくしながら、安定したガラスを得ることができる。
【0034】
ところで、上記本発明の第1の特徴に係る光学ガラスの3成分の成分範囲を、一般的に用いられる成分組成の表現方法、即ち各含有成分の含有量(例えはモル%)の上限値と下限値だけを用いて簡略表現する場合には、次のような成分範囲となる。
Bi:2.5〜32.5モル%
AgO :2.5〜60.0モル%
:37.5〜80.0モル%
この一般的な表現方法による成分範囲の指定では、三元系成分組成図上により単純に成分範囲が指定されることになり、上記第1の特徴に係る光学ガラスの成分範囲よりも広い範囲となる。このような範囲にある成分組成もまた本発明の成分組成と言えるが、上記第1の特徴に示す光学ガラスに比べて、有効な作用効果が小さい部分を含んだものとなっている。
【0035】
同様に、上記本発明の第2の特徴に係る光学ガラスの3成分の成分範囲を、一般的に用いられる成分組成の表現方法、即ち各含有成分の含有量の上限値と下限値だけを用いて簡略表現する場合には、次のような成分範囲となる。
Bi:5〜30モル%
AgO :5〜55モル%
:40〜75モル%
このような範囲にある光学ガラスもまた本発明の光学ガラスである。ただし、上記第2の特徴に示す成分範囲のものに比べて、範囲が広くなっており、効果の小さい部分を含んだものとなっている。
【0036】
同様に、上記本発明の第3の特徴に係る光学ガラスの成分範囲を、各含有成分の含有量の上限値と下限だけを用いて簡略表現する場合には、次のような成分範囲となる。
Bi:5〜30モル%
AgO :5〜30モル%
:52.5〜75モル%
このような範囲にある光学ガラスもまた、本発明の光学ガラスである。ただし、上記第3の特徴に示す光学ガラスの成分範囲に比べて、範囲が広くなっており、効果の小さい部分を含んだものとなっている。
【0037】
本発明に係るBi、AgO、Pの3成分組成の合計100モル部に対して、Alを10モル部以下の割合で加える(含有させる)ことができる。
Alは得られるガラスの安定性を高め、耐候性を向上させるのに効果がある。ただし10モル部を超えるとガラスが失透し易くなるので、10モル部以下の含有とする。
【0038】
本発明に係るBi、AgO、Pの3成分組成の合計100モル部に対して、LiO、NaO、KOの何れか1種以上を合計で10モル部以下の割合で加える(含有させる)ことができる。
LiO、NaO、KOは、屈伏点を低下させると同時に、ガラスの安定性を高めるために有効な成分である。ただし10モル部を超えるとガラスの耐水性が悪くなるので、10モル部以下の含有とする。
LiO、NaO、KOについては、これらの2種以上を併用することが、アルカリ混合効果によりガラスに製造可能な安定性を持たせつつ、ガラス転移点及び屈伏点を低下させるのに有効である。
【0039】
本発明に係るBi、AgO、Pの3成分組成の合計100モル部に対して、MgO、CaO、BaO、SrOの何れか1種以上を合計で10モル部以下の割合で加える(含有させる)ことができる。
MgO、CaO、BaO、SrOは、ガラスの安定性を高めるために有効な成分である。ただし合計で10モル部を超えるとガラスが結晶化し易くなるので、10モル部以下の含有とする。
【0040】
本発明に係るBi、AgO、Pの3成分組成の合計100モル部に対して、ZnOを10モル部以下の割合で加える(含有させる)ことができる。
ZnOは屈伏点を低下させると同時に、ガラスの安定性を高めるために有効な成分である。ただし10モル部を超えるとガラスが結晶化し易くなるので、10モル部以下の含有とする。
【0041】
本発明に係るBi、AgO、Pの3成分組成の合計100モル部に対して、Alと、LiO、NaO、KOの何れか1種以上と、MgO、CaO、BaO、SrOの何れか1種以上と、ZnOとの4群中から1群以上を、合計で10モル部以下の割合で加える(含有させる)のが、ガラスの安定性と耐候性の点で好ましい。合計が10モル部を超える場合はガラスが結晶化し易くなり、好ましくない。
【0042】
実施形態におけるガラスインプリント用光学ガラスの製造原料については、例えば成分Pのためには、HPO、Al(PO、LiPO、NaPO、NaHPO、NaHPO、KHPO、Ca(PO、CaHPO、Ba(PO、Zn(PO等を用いることができ、成分AgOのためには、AgNOを用いることができ、Biのためには、Biを用いることができる。
上記原料を、既述した成分範囲となるように用いて、1050〜1200℃で溶融し、清澄(ガス抜き)、攪拌の各工程を経て均質化させた後、金型に流し込み徐冷することにより、着色が少なく、屈伏点(At)の低い、広い範囲の屈折率(n)を有するガラスインプリント用の光学ガラスを得ることができる。
【0043】
本発明におけるガラスは、光学ガラス以外の用途として、低屈伏点の特性を用いて封着用ガラスとして低温封着に使用することや、銀イオンを用いた抗菌性ガラスに使用することができる。また熱処理することにより銀を析出させることができ、非線形などの光学効果を出現させる基礎ガラスとして使用することができる。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例をあげて本発明を更に説明する。しかしながら本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。
表1〜表8に示した実施例1〜33、比較例1〜18の成分組成となるように、原料を調合して混合し、これをアルミナルツボに入れて、電気炉中で1050〜1200℃で溶融し、清澄(ガス抜き)、攪拌の各工程を経て均質化させた後、金型に流し込んで徐冷することでガラスを得た。
得られた各ガラスについて、ガラスの状態、即ち失透等の欠陥の有無を観察し、また着色の状況を観察した後、屈伏点(At)、屈折率(n)の測定を行った。
ここで屈伏点(At)とは、熱機械分析装置(TMA)を用いて熱膨張測定をしたとき、ガラスの軟化によって膨張曲線が上昇から下降に転じる極大点である。本実施例においては、ガラスを断面積約5mm×5mm、長さ約20mmのロッドに加工し、熱機械分析装置(リガク製TMA8310)を用いて測定した。
また前記屈折率(n)とは、ヘリウムの587.6nmの輝線に対する屈折率をいう。本実施例では屈折率(n)は、Vブロック法(島津製KPR−2000)により測定した。
【0045】
次に各ガラス板を賽の目状に切断加工し、複数個の同一寸法を有する厚み2mmの平板
を得た。更にこれら複数個の平板の両面を鏡面研磨し、洗浄したサンプルを成形用ガラスプリフォームとした。
この成形用ガラスプリフォームを、貴金属系の離型膜の設けられた、超硬製の平板モールドにセットして成形装置に投入し、Nガス雰囲気にて、At近傍温度まで加熱後、加圧して成形し、冷却後、成形品として取り出した。
測定結果を表1〜表8に示す。
【0046】
図1〜図4に、白丸で示す実施例1〜27と黒丸で示す比較例1〜18を示す。
実施例1〜27については、成形品に結晶などの白濁は生じておらず、プレス成形可能なガラスであることが確認できた。
代表として実施例9のガラス(Bi=15モル%、AgO=20モル%、P=65モル%)の透過率曲線を図5に示す。データは、実施例9のガラスの両面を研磨して厚さ3.08mmの平板にし、波長300nm〜800nmの光に対する透過率を室温24℃において分光光度計を用いて測定した。可視光に対して透明といえるガラスになっていることがわかる。
なお実施例28〜33は、図示していないが、Bi、AgO、Pの3成分組成にLiO、KO、CaO、BaO、ZnO、Alの何れか1つをそれぞれ添加した4成分系である。Bi、AgO、Pの3成分については図3のH〜Oで囲まれた領域に存在する。この実施例28〜33についても、成形品に結晶などの白濁は生じておらず、プレス成形可能なガラスであることが確認できた。
一方、黒丸で示す比較例1〜18のうち、比較例1は、透明なガラスが得られる場合もあるが、結晶が析出する場合もあり、不安定な領域であった。実際の生産では使えない可能性が高い。また比較例1〜8のガラスは、ガラスは得られたが、耐水性が悪く、光学ガラスとして使用できないものであった。また比較例9〜18のガラスは、結晶が生じて光学ガラスとしては使用することができないものであった。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
【表6】

【0053】
【表7】

【0054】
【表8】

【0055】
表1〜表5から明らかなように、本発明の実施例1〜33に係るガラスは、何れも屈折率(n)が1.66〜1.86の範囲にあり、屈伏点(At)が230℃〜430℃の低い温度範囲にある。また平板モールドを用いた成形評価においても、成形表面に白濁発生がなく、良好で、ガラスインプリント用光学ガラスといて望ましい性質を有していることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の光学ガラスは、低屈伏点(At)、広い範囲の高屈折率(n)、ガラスインモールド成形及び微細構造の転写(ガラスインプリント)に適した組成を有する光学ガラスとして、非球面レンズ等の製造分野において産業上の利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bi、AgO、Pからなる3成分の各100モル%をそれぞれ正三角形の頂点とする3元系成分組成図上において、前記3成分が下記A〜Gの7点を結ぶ線で囲まれる領域にあることを特徴とする光学ガラス。
A:(Bi、AgO)=(2.5モル%、60.0モル%)
B:(Bi、AgO)=(12.5モル%、50.0モル%)
C:(Bi、AgO)=(12.5モル%、42.5モル%)
D:(Bi、AgO)=(32.5モル%、2.5モル%)
E:(Bi、AgO)=(17.5モル%、2.5モル%)
F:(Bi、AgO)=(17.5モル%、10.0モル%)
G:(Bi、AgO)=(2.5モル%、25.0モル%)
【請求項2】
Bi、AgO、Pからなる3成分の各100モル%をそれぞれ正三角形の頂点とする3元系成分組成図上において、前記3成分が下記H〜Oの8点を結ぶ線で囲まれる領域にあることを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
H:(Bi、AgO)=(5モル%、55モル%)
I:(Bi、AgO)=(10モル%、50モル%)
J:(Bi、AgO)=(10モル%、45モル%)
K:(Bi、AgO)=(30モル%、5モル%)
L:(Bi、AgO)=(20モル%、5モル%)
M:(Bi、AgO)=(20モル%、10モル%)
N:(Bi、AgO)=(10モル%、20モル%)
O:(Bi、AgO)=(5モル%、30モル%)
【請求項3】
Bi、AgO、Pからなる3成分の各100モル%をそれぞれ正三角形の頂点とする3元系成分組成図上において、前記3成分が下記P〜Uの6点を結ぶ線で囲まれる領域にあることを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
P:(Bi、AgO)=(5モル%、30モル%)
Q:(Bi、AgO)=(17.5モル%、30モル%)
R:(Bi、AgO)=(30モル%、5モル%)
S:(Bi、AgO)=(20モル%、5モル%)
T:(Bi、AgO)=(20モル%、10モル%)
U:(Bi、AgO)=(10モル%、20モル%)
【請求項4】
Bi、AgO、Pの3成分の合計100モル部に対して、Alを10モル部以下の割合で加えてあることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の光学ガラス。
【請求項5】
Bi、AgO、Pの3成分の合計100モル部に対して、LiO、NaO、KOの何れか1種以上を合計で10モル部以下の割合で加えてあることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の光学ガラス。
【請求項6】
Bi、AgO、Pの3成分の合計100モル部に対して、MgO、CaO、BaO、SrOの何れか1種以上を合計で10モル部以下の割合で加えてあることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の光学ガラス。
【請求項7】
Bi、AgO、Pの3成分の合計100モル部に対して、ZnOを10モル部以下の割合で加えてあることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の光学ガラス。
【請求項8】
Bi、AgO、Pの3成分の合計100モル部に対して、Alと、LiO、NaO、KOの何れか1種以上と、MgO、CaO、BaO、SrOの何れか1種以上と、ZnOとの4群中から1群以上を、合計で10モル部以下の割合で加えてあることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の光学ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−46389(P2012−46389A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191088(P2010−191088)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「次世代光波制御材料・素子化技術」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000178826)日本山村硝子株式会社 (140)
【Fターム(参考)】