説明

光学ガラス

【課題】使用環境の温度変化による結像特性影響を受けにくい、屈折率(nd)が1.75以上、かつ、アッベ数(νd)が35以上である、高屈折率低分散光学ガラスを提供する。
【解決手段】SiO、B、Laを必須成分として含有させ、かつ構成成分の比率を調整することにより、−30〜+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが130×10−12℃×nm×cm−1×Pa−1以下を実現する光学ガラスを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率(nd)が1.75以上、かつ、アッベ数(νd)が35以上である高屈折率低分散光学ガラス、及び、この光学ガラスを利用して得られるレンズ、プリズムなどの光学素子に関し、特に高精度な結像特性が要求されるカメラやプロジェクタに代表される光学機器の投影レンズやプリズムに好適な高屈折率低分散光学ガラスとそれらから作製される光学素子及び光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
高屈折率低分散ガラスは、各種レンズなどの光学素子用材料として非常に需要が高く、屈折率(nd)が1.75以上、かつ、アッベ数(νd)が35以上である光学ガラスとしては、特許文献1〜3に代表されるように様々なガラス組成物が知られている。
【0003】
近年、光学機器のデジタル化や高精細化が進み、デジタルカメラやビデオカメラなど撮影機器とともに、プロジェクタやプロジェクションテレビなどの画像再生(投影)機器に使用される光学素子に高い性能が求められている。その性能とは、屈折率やアッベ数や着色度といった以前から光学ガラスに要求される特性のみならず、実使用環境における特性変動が少ないことや光学ガラス製造や光学素子の加工時において、環境負荷が小さいことが含まれつつある。
【0004】
実使用環境において結像特性が変化することは、レンズやプリズムなどの光学素子は、光学機器において治具などで固定されており、使用環境の温度変化(筺体内部の温度変化、高温下で使用されるなど)によって、光学素子の熱膨張が生じ、固定治具との膨張係数が異なることによって、光学素子に応力が生じ、その結果、光学素子に複屈折が生じて結像特性が変化してしまうと推測される。
【0005】
上記の通り、一定温度の元(主として室温程度)で取得された屈折率やアッベ数などの光学恒数で設計した結像特性が、実使用環境において実現されない場合、光学設計時に使用環境を想定し、複雑な特性変動を予測して設計しなければならないという、不利益が生じる。
【0006】
光学ガラス製造や光学素子の加工時において、鉛(Pb)化合物や砒素(As)化合物などの環境負荷が高い成分を含むと、大気や水質への汚染物質の拡散防止に特別な措置が必要となるなどの不利益が生じる。また、タンタル(Ta)などに代表される希少な鉱物資源を大量に使用することは、生産コストが高くなるだけでなく、資源回収のためのコストや労力が必要となってしまう。
【0007】
環境負荷が高い成分をガラス組成に含まない高屈折率低分散光学ガラスは、特許公報1〜3に代表されるように様々なガラス組成物が開示されているが、実使用環境における結像特性の変動についての考慮は、成されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−306732号公報
【特許文献2】特開2002−284542号公報
【特許文献3】特開2004−161506号公報
【特許文献4】特開昭56−160340号公報
【特許文献5】特開昭52−14607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情のもとで、使用環境の温度変化による結像特性影響を受けにくい、屈折率(nd)が1.75以上、かつ、アッベ数(νd)が35以上である高屈折率低分散光学ガラスを環境負荷が高い成分及び希少な鉱物資源を大量に用いることなく提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目標を達成するために鋭意試験研究を重ねた結果、SiO、B、Laを必須成分として含有させ、かつ構成成分の比率を調整することにより、−30〜+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが130×10−12℃×nm×cm−1×Pa−1以下を実現する高屈折率低分散光学ガラスを、環境負荷が高い成分及び希少鉱物資源を大量に使用することなく作製し、前記目的を達成し得ることを見出し、本発明をなすに至った。その構成を以下に示す。
【0011】
(構成1)
−30〜+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが130×10−12℃×nm×cm−1×Pa−1以下であって、酸化物基準で、SiOを1.0質量%より多く12.0質量%未満含有し、Bを8.0〜35.0質量%含有し、かつ、質量%比SiO/Bが0を超え0.6未満であり、Laを25.0〜50.0質量%含有することを特徴とする光学ガラス。
【0012】
(構成2)
屈折率(nd)が1.75〜2.00、アッベ数(νd)が35〜55の範囲の光学恒数を有することを特徴とする構成1に記載の光学ガラス。
【0013】
(構成3)
構成1又は2に記載のガラスであって、さらに酸化物基準で、Gdを0.0〜40.0質量%、Yを0.0〜15.0質量%、ZrOを0.0〜15.0質量%、Taを0.0〜25.0質量%、Nbを0.0〜18.0質量%、WOを0.0〜10.0質量%含有することを特徴とする光学ガラス。
【0014】
(構成4)
構成1〜3のいずれか一項に記載のガラスであって、酸化物基準で、
GeOを0.0〜0.1質量%、及び/又は
Ybを0.0〜1.0質量%、及び/又は
Gaを0.0〜1.0質量%、及び/又は
Biを0.0〜1.0質量%を含有し、
PbOなどの鉛化合物及びAsなどの砒素化合物を含有しないことを特徴とする光学ガラス。
【0015】
(構成5)
構成1〜4のいずれか一項に記載のガラスであって、−30〜+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが100×10−12℃×nm×cm−1×Pa−1以下であることを特徴とする光学ガラス。
【0016】
(構成6)
構成1〜5のいずれか一項に記載のガラスであって、−30〜+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが90×10−12℃×nm×cm−1×Pa−1以下であることを特徴とする光学ガラス。
【0017】
(構成7)
構成1〜6のいずれか一項に記載のガラスであって、酸化物基準の質量%比(Ta+Nb+WO)/(Gd+Y)が、0.05を超え1.30未満であることを特徴とする光学ガラス。
【0018】
(構成8)
構成1〜7のいずれか一項に記載のガラスであって、酸化物基準の質量%表示で、
LiO 0〜5.0%、及び/又は
NaO 0〜5.0%、及び/又は
O 0〜5.0%、及び/又は
CsO 0〜5.0%、及び/又は
MgO 0〜5.0%、及び/又は
CaO 0〜5.0%、及び/又は
SrO 0〜5.0%、及び/又は
BaO 0〜5.0%、及び/又は
TiO 0〜3.0%、及び/又は
SnO 0〜3.0%、及び/又は
Al 0〜3.0%、及び/又は
0〜5.0%、及び/又は
ZnO 0〜10.0%、及び/又は
Lu 0〜5.0%、及び/又は
TeO 0〜3.0%、及び/又は
Sb 0〜2.0%、及び/又は
F 0〜3.0%を含有することを特徴とする光学ガラス。
【0019】
(構成9)
構成1〜8のいずれか一項に記載のガラスであって、酸化物基準のZnOを2.0質量%未満含有することを特徴とする光学ガラス。
【0020】
(構成10)
構成1〜9のいずれか一項に記載のガラスであって、酸化物基準でYを3.5質量%未満含有することを特徴とする光学ガラス。
【0021】
(構成11)
構成1〜10のいずれか一項に記載のガラスであって、酸化物基準で質量%比(ZrO+Ta+Nb)/(SiO+B)が、1.00未満であることを特徴とする光学ガラス。
【0022】
(構成12)
構成1〜11のいずれか一項に記載のガラスであって、酸化物基準でYを3.5質量%未満含有し、質量%比(ZnO+Y)/Laが0を超え0.5未満であり、質量%和ZrO+Nbが5.0%を超え13.0%未満であることを特徴とする光学ガラス。
【0023】
(構成13)
酸化物基準で
SiOを1.0質量%より多く10.0質量%未満、
を15.0〜28.0質量%、
Laを28.0〜35.0質量%、
Gdを25.0〜35.0質量%、
ZrOを5.0〜9.0質量%、及び
ZnOを0.1〜2.0質量%未満、並びに
Taを0.0〜6.0質量%、及び/又は
Nbを0.0〜5.0質量%、及び/又は
Sbを0.0〜1.0質量%、及び/又は
Alを0.0〜1.0質量%未満
を含有するガラスであって、かつ、ZrO+Nbの合計が5.0質量%を超え13.0質量%未満であり、屈折率(nd)が1.78〜1.83、アッベ数(νd)が44〜48の範囲の光学恒数を有し、−30〜+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが90×10−12℃×nm×cm−1×Pa−1以下であることを特徴とする光学ガラス。
【0024】
(構成14)
構成1〜13のガラスを母材とするレンズ・プリズムなどの光学素子。
【0025】
(構成15)
構成1〜14のガラスをリヒートプレス加工して作成するレンズ・プリズムなどの光学素子。
【0026】
(構成16)
構成1〜15のガラスで作成した光学素子及び光学基板材料を使用するカメラ・プロジェクタなどの光学機器。
【発明の効果】
【0027】
上記態様を採用することにより、使用環境の温度変化による結像特性影響を受けにくい、屈折率(nd)が1.75以上、かつ、アッベ数(νd)が35以上である、高屈折率低分散光学ガラスを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の光学ガラスについて説明する。
前記構成1の光学ガラスは、−30〜+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが130×10−12℃×nm×cm−1×Pa−1以下であることを特徴とし、このα×βという指標は、使用環境における結像特性の変化量を示す。より具体的に説明すると、平均線膨張係数αが大きいほど、使用環境の温度変化に対して光学素子の膨張率(体積変化)が大きいことを意味するため、治具などで固定されている光学素子には、大きな熱応力が発生することを意味する。また、光弾性定数βが大きいほど、生じた熱応力によって生じる複屈折が大きいことを意味するため、すなわち、α×βがより小さいほど、使用環境における結像特性の変化が少ないことを示唆する。
なお、α×βが130×10−12℃×nm×cm−1×Pa−1以下であることにより、光学設計時に所望していた結増特性が、実使用環境で温度変化が生じた場合でも実現されやすいという利益がある。
【0029】
高屈折率低分散光学ガラスの乗算α×βが130×10−12℃×nm×cm−1×Pa−1以下を実現するために、構成1ではSiOを1.0質量%より多く12.0質量%未満含有し、Bを8.0〜35.0質量%含有し、かつ、質量%比SiO/Bが0を超え0.6未満であり、Laを25.0〜50.0質量%含有することを特徴とする。
【0030】
個々の成分について説明すると、SiO成分は安定なガラス形成を促し、光学ガラスとして好ましくない失透(結晶物の発生)や脈理(ガラス内部の不均一性)を抑制する効果があるが、過剰に含有させると屈折率(nd)が小さくなりやすく、光弾性定数βが著しく増大する傾向となり、その結果、所望の特性を得にくくなるため、その上限は、12.0質量%未満、より好ましくは11.5質量%、最も好ましくは11.0質量%であり、好ましくは1.0質量%より多く、より好ましくは1.2質量%以上、最も好ましくは1.4質量%以上とする。SiO成分は、任意の原料形態で含有させることができるが、酸化物(SiO)、KSiF、NaSiF、の形態で導入することが好ましい。
【0031】
成分は、SiO成分と同様に安定なガラス形成を促し、小さな平均線膨張係数を実現するために、不可欠な成分である。しかしその量が少なすぎると安定なガラスが得にくくなり、その量が多すぎると屈折率(nd)が小さくなりやすく、光弾性定数βが著しく増大する傾向となり、その結果、所望の特性を得にくくなる。好ましくは35質量%、より好ましくは34質量%、最も好ましくは33質量%を上限とし、好ましくは8.0質量%、より好ましくは8.5質量%、最も好ましくは9.0質量%を下限とする。B成分は、HBO、Na、Na・10HO、BPOなどの原料形態で含有させることができるが、HBOの形態で導入することが好ましい。
【0032】
また、質量%比SiO/Bが0を超え、0.6未満とすることにより、原料の熔融性及びガラスの安定性が増す効果が得られるばかりでなく、平均線膨張係数αの増大を抑制する効果が得られる。上限を超えると、平均線膨張係数αが増大するばかりでなく、ガラス熔融時に熔け残り(主として、SiOを含む難熔融性の結晶)が発生し、生産性が悪化し、内部品質へ悪影響を及ぼすことがある。より好ましい質量%比の範囲は、0.03〜0.59、最も好ましくは、0.05〜0.58の範囲である。
【0033】
La成分は、屈折率を高め、分散が小さくなる(アッベ数が大きくなる)効果のほかに、光弾性定数βを小さくする効果がある。しかし過剰に含有させるとガラスが著しく不安定化して失透しやすくなる。したがって好ましくは50質量%、より好ましくは49.5質量%、最も好ましくは49.0質量%を上限とし、好ましくは25質量%、より好ましくは25.5質量%、最も好ましくは26質量%を下限とする。La成分は任意の原料形態で含有させることができるが、好ましくは、酸化物(La)、硝酸塩及び硝酸塩水和物(La(NO・XHO(Xは任意の整数))の形態で導入することが好ましい。
【0034】
前記構成2の光学ガラスは、屈折率(nd)が1.75〜2.00、アッベ数(νd)が35〜55の範囲の光学恒数を有することを特徴としており、様々な光学素子及び光学設計に有用である。
上記光学定数は特に光学系の小型化が可能である(屈折率が1.75以上であるという高屈折率である特性は、薄肉レンズであっても大きな光の屈折量を得る事ができる。アッベ数が35以上であるという低分散特性は、単レンズであっても、光の波長による焦点のずれ(色収差)が小さくできる。)という理由から、光学設計上有用である
【0035】
前記構成1及び2の光学ガラスにおいて、Gd成分はLa成分と同様に屈折率を高め、分散を小さくする効果が得られるが、過剰に含有させると、La成分と同様に、失透が発生しやすくなる。したがって、その上限値は、好ましくは40質量%、より好ましくは39質量%、最も好ましくは38質量%である。Gd成分は、任意の原料形態で導入させることができるが、酸化物(Gd)或いは弗化物(GdF)の形態で導入することが好ましい。
【0036】
成分は、屈折率及び分散を調整する効果があるが、過剰に含有させると所望の光学恒数が得られなくなる恐れがある。その上限値は、好ましくは15質量%、より好ましくは14.5質量%、最も好ましくは14.0質量%である。Y成分は、任意の原料形態で導入させることができるが、酸化物(Y)或いは弗化物(YF)の形態で導入することが好ましい。
なお前記範囲であれば技術的には特に不利益は無いが、Yは高屈折率低分散特性を実現できる成分のうち、最も希少鉱物資源であるため、製造コストを考慮した場合、3.5質量%未満とすることが好ましい。
【0037】
ZrO成分は、屈折率(nd)を高め、耐失透性を向上させる効果が得られるが、ZrO成分は、難熔融成分であるため、過剰に含有させると、ガラス製造時に高温での熔解を余儀なくされ、エネルギー損失が問題となりやすい。一方、所定量含有させることにより失透を抑制する効果が得られる場合もある。したがって、好ましくは15質量%、より好ましくは13質量%、最も好ましくは12質量%を上限とし、好ましくは1質量%、より好ましくは2質量%、最も好ましくは3質量%を下限とする。なお、ZrO成分を添加しなくても、ガラスに失透が発生しない場合は、含有しなくとも差し支えない。ZrO成分は、任意の原料形態で導入させることができるが、酸化物(ZrO)及び弗化物(ZrF)の形態で導入することが好ましい。
【0038】
Ta成分は、屈折率を高め、ガラスを安定化させる効果が得られるため、で任意に含有させることが可能である。しかし、Ta成分は、希少鉱物資源であり原料価格が高く、難熔融成分であり、ガラス製造時に高温熔解を余儀なくされるため、生産コストが増大するばかりでなく、光弾性定数βを増大させる特性を持つため、その含有量の上限は、25質量%が好ましい。より好ましい上限値は、22質量%、最も好ましい上限値は19質量%である。Ta成分は任意の原料形態で導入させることができるが、酸化物(Ta)の形態で導入することが好ましい。
【0039】
Nb成分は、Ta成分と同様に、屈折率を高め、ガラスを安定化させる効果が得られるため、0〜18質量%の範囲で任意に含有させることが可能である。しかし、Nb成分は難熔融成分であり、ガラス製造時に高温熔解を余儀なくされるため、生産コストが増大するばかりでなく、光弾性定数βを増大させる特性を持つため、その含有量の上限は18質量%が好ましい。より好ましい上限値は16質量%、最も好ましい上限値は14質量%である。Nb成分は、任意の原料形態で導入させることができるが、酸化物(Nb)の形態で導入することが好ましい。
【0040】
WO成分は屈折率及び分散を調整し、ガラスの耐失透性を向上させる効果がある。しかし過剰に含有させると、ガラスの着色が顕著となり、特に可視−短波長領域(500nm未満)の透過率が低くなるため、好ましくない。したがって、好ましくは10質量%、より好ましくは8質量%、最も好ましくは6質量%を上限とする。WO成分は、任意の原料形態で導入させることができるが、酸化物(WO)の形態で導入することが好ましい。
【0041】
前記構成4の光学ガラスにおいて、GeO成分は屈折率調整及び熔融ガラスの粘性調整のために0.0〜0.1質量%の範囲で任意に添加できるが、希少鉱物資源であり、高価であるため、一切含有しないことが好ましい。Yb、Ga、Biの各成分は、屈折率調整のため任意に添加することが可能であるが、光弾性定数βを増大させる性質があるため、その上限は、1.0質量%である。しかし、これらの成分も希少鉱物資源であるため、より好ましい上限値は、0.5質量%であり、最も好ましくは、一切含有しない。GeO、Yb、Ga、Biの各成分は、任意の原料形態で導入させることができるが、酸化物(GeO、Yb、Ga、Bi)の形態で導入することが好ましい。
【0042】
PbOなどの鉛化合物及びAsなどの砒素化合物は、環境負荷が高い成分であるため、不可避な混入を除き、一切含有しないことが望ましい。
【0043】
前記構成5及び構成6の光学ガラスにおいては、より高精度かつ高精細な用途の光学素子に利用するために、乗算α×βは、100×10−12℃×nm×cm−1×Pa−1以下であることが好ましく、最も好ましくは、90×10−12℃×nm×cm−1×Pa−1以下である。
【0044】
このα×βの値が小さいほど、実使用環境における結増特性は、室温付近での光学物性値に基づいて算出された光学設計値に忠実なものとなるため、様々な使用環境を想定した上で複雑な光学シミュレーションを実施する必要が無くなるという利点がある。
【0045】
構成7の光学ガラスにおいては、分散を高める効果の強いTa、Nb、WOの合計量と分散を小さくする効果が得られるGd、Yの合計量の質量%比である(Ta+Nb+WO)/(Gd+Y)は、0.05を超え1.30未満の範囲にすることで、所望のアッベ数(35〜55)を実現しやすくなるため、前記の範囲が好ましい。より好ましくは、0.055〜1.29、最も好ましくは、0.06〜1.28の範囲である。
【0046】
前記構成8の光学ガラスにおいて、記載の範囲の成分を含有させることにより、構成1〜7に記載の特性を安定に実現できる。個々の成分の限定理由について、説明する。
【0047】
アルカリ金属酸化物成分(LiO、NaO、KO、CsO)は、ガラスの熔融性を向上させる効果が得られるため、任意に含有させることが可能であるが、大量に含有させると、平均熱膨張係数αが増大したり、屈折率が低くなりやすく、ガラスが不安定化して失透発生などの好ましくない現象が生じやすくなるため、それぞれ、質量%表示で0.0〜5.0%の範囲とすることが好ましい。より好ましい上限値は、LiO成分及びNaO成分及びKO成分は、4.5%であり、CsO成分は、4.0%である。最も好ましい上限は、LiO成分は2.0%であり、NaO、KO、CsO成分は、一切含有しないことである。アルカリ金属酸化物成分は、炭酸塩(LiCO、NaCO、KCO、CsCO)、硝酸塩(LiNO、NaNO、KNO、CsNO)、弗化物(LiF、NaF、KF、KHF)、複合塩(NaSiF、KSiF)など、様々な形態で導入させることが可能であるが、炭酸塩及び/又は硝酸塩で導入することが好ましい。
【0048】
アルカリ土類金属酸化物成分(MgO、CaO、SrO、BaO)は、ガラスの屈折率と光弾性定数を調整する効果が得られるため、任意に含有させることが可能であるが、大量に含有させると、所望の光学恒数(特に屈折率)を実現できにくくなるため、それぞれ、質量%表示で、0.0〜5.0質量%の範囲とすることが好ましい。より好ましい上限値は、MgO成分及びCaO成分は、4.0%であり、SrO成分及びBaO成分は、4.5%である。最も好ましい上限値は、MgO成分は一切含有せず、CaO成分は、3.0%、SrO成分及びBaO成分は、4.0%である。アルカリ土類金属酸化物成分は、炭酸塩(MgCO、CaCO、BaCO)、硝酸塩(Sr(NO、Ba(NO)、弗化物(MgF、CaF、SrF、BaF)などの様々な形態で導入させることができるが、炭酸塩及び/又は硝酸塩及び/又は弗化物の形態で導入することが好ましい。
【0049】
TiO成分は、屈折率及びアッベ数の調整のために任意に含有させることが可能であるが、過剰に含有させるとガラスの着色が顕著になりやすく、特に可視短波長(500nm以下)の透過率が悪化する傾向にある。したがって、好ましい上限値は3.0質量%であり、より好ましい上限値は2.5質量%、最も好ましい上限値は2.0質量%である。TiO成分は、任意の原料形態で導入させることができるが、酸化物(TiO)の形態で導入することが好ましい。
【0050】
SnO成分は、熔融ガラスの酸化抑制や清澄効果、光照射に対する透過率悪化を防ぐ効果が得られるため任意に含有させることが可能であるが、過剰に含有させると、熔融ガラスの還元によるガラスの着色の恐れや、熔解設備(特にPtなどの貴金属)と合金化する恐れがある。好ましくは3.0質量%を上限とし、より好ましくは2.0質量%、最も好ましくは1.0質量%を上限とする。SnO成分は、任意の原料形態で導入させることができるが、酸化物(SnO、SnO)、弗化物(SnF、SnF)の形態で導入することが好ましい。
【0051】
Al成分は、光学ガラス及び光学素子の化学的耐久性を向上させたり、熔融ガラスの耐失透性を向上させる効果が得られるため任意に含有させることが可能であるが、過剰に含有させると、屈折率が著しく低下し、光弾性定数が大きくなりやすい。したがって、好ましくは3.0質量%、より好ましくは2.0質量%、最も好ましくは1.0質量%を上限とする。Al成分は、任意の原料形態で導入させることができるが、酸化物(Al)、水酸化物(Al(OH))、弗化物(AlF)の形態で導入することが好ましい。
【0052】
成分は、ガラスの熔融性を向上させる効果が得られるため任意に含有させることが可能であるが、過剰に含有させるとガラスの耐失透性が著しく悪化しやすくなり、失透の無い光学ガラスを得にくくなる。したがって好ましくは5.0質量%を上限とし、より好ましくは1.0質量%、最も好ましくは、一切含有しない。P成分は、任意の原料形態で導入させることができるが、Al(PO、Ca(PO、Ba(PO、BPO、HPOの形態で導入することが好ましい。
【0053】
ZnO成分は、ガラスの熔融性を向上させる一方で、平均熱膨張係数αを小さくする効果が得られるため、0〜10.0質量%の範囲で任意に含有させることが可能であるが、光弾性定数βを著しく増大させる性質を持っているため、過剰に含有させると、所望の特性を実現しにくくなる。より好ましい範囲は、5.0質量%、最も好ましくは2.0質量%未満であり、好ましくは0.1質量%を下限とする。ZnO成分は、任意の原料形態で導入させることができるが、酸化物(ZnO)及び/又は弗化物(ZnF)の形態で導入することが好ましい。
【0054】
Lu成分は、La、Gd、Y成分と同様に、高屈折率と低分散を実現する効果が得られるため、0〜5.0質量%の範囲で任意に含有させることが可能であるが、希少鉱物資源であるため、過剰に含有させるのは好ましくない。より好ましい上限値は、3.0質量%、最も好ましくは、一切含有しない。Lu成分は、任意の原料形態で導入させることができるが、酸化物(Lu)で導入することが好ましい。
【0055】
TeO成分は、ガラス熔融時の清澄作用を促進する効果が得られるため、0〜3.0質量%の範囲で任意に含有させることが可能であるが、過剰に含有させると、ガラスへの着色が顕著になり、透過率が悪化しやすくなる。より好ましい上限値は、1.5質量%、最も好ましくは、一切含有しないことである。TeO成分は、任意の原料形態で導入させることができるが、酸化物(TeO)で導入することが好ましい。
【0056】
Sb成分は、ガラスの脱泡材としての効果が得られるため、0〜2.0質量%の範囲で任意に含有させることが可能であるが、上限を超えて含有させると、ガラス熔融時に過度の発泡が生じやすくなったり、熔解設備(特にPtなどの貴金属)と合金化する恐れがあるため、上限を超えて含有させないことが好ましい。Sb成分は、任意の原料形態で導入させることができるが、酸化物(Sb、Sb)或いはNaSb・5HOの形態で導入することが好ましい。
【0057】
F成分は、アッベ数を大きくする効果や光弾性定数βを小さくする効果が得られるため、0〜3.0質量%の範囲で任意に含有させることが可能であるが、上限を超えて含有させると、屈折率が低くなりやすく、平均線膨張係数αが増大する恐れがある。より好ましい上限値は、2.8質量%、最も好ましくは、2.5質量%である。F成分は、上述した各種酸化物の導入において、原料形態を弗化物にて導入した際に、ガラス中に導入される。
【0058】
なお、本明細書において使用される各成分の含有量の酸化物基準での表記は、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物などが、熔融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、組成物全体に対する各成分の当該生成酸化物の質量%を表すものであり、フッ化物の場合は生成酸化物の質量に対する実際に含有されるF原子の質量を質量百分率で現したものである。
【0059】
Tiを除く、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMoなどの各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でも着色してしまい、可視域の特定の波長に吸収を生じさせるため、可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。さらに、Pb、Th、Cd、Tl、As、Os、Be、Seの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされるため、環境上の影響を重視する場合には実質的に含まないことが好ましい。
【0060】
前記構成11の光学ガラスにおいては、難熔融成分であるZrO、Ta、Nbの合計量とガラス形成成分であるSiO、Bの合計量の比を、質量%比(ZrO+Ta+Nb)/(SiO+B)を1.00未満とすることにより、ガラス熔融温度を著しく高温にする必要がなく、エネルギーの消費を低減する効果が得られる。上記質量%比が、1.00を超えると、Ta、Nbの各成分は、希少鉱物資源であるため、この比が大きいほど、原材料費が高くなってしまうほかに、相対的にガラス形成成分の含有量が少なくなり、ガラスが不安定化する恐れがあるだけでなく、光弾性定数を増大させるZrO、Ta、Nbの相対含有量が大きくなり、平均線膨張係数αを低下させる効果があるBの相対含有量が小さくなるため、乗算α×βが増大する恐れがあり、所望の光学ガラスを安価に生産する上では、好ましくない。
【0061】
前記構成12の光学ガラスにおいては、高屈折率低分散特性を実現できる成分のうち、最も希少鉱物資源であるY成分を3.5質量%未満とすることにより、製造コストを低減し、安定かつ永続的にガラス生産ができる効果が得られ、かつ、質量%比(ZnO+Y)/Laが0を超え0.5未満とすることで、所望の乗算α×βを実現する光学ガラスを安定に形成する効果が得られ、また、質量%和ZrO+Nbが、5.0質量%を超え13.0質量%未満とすることにより、難熔融成分の含有量を制限しエネルギー消費を抑えつつ、耐失透性に優れた光学ガラスを実現する効果が得られる。
【0062】
前記構成13の光学ガラスにおいては、上述した構成1〜12の光学ガラスのうち、最も好適な光学ガラスの構成成分比の範囲を明示したものである。具体的には
SiOを1.0質量%より多く10.0質量%未満、
を15.0〜28.0質量%、
Laを28.0〜35.0質量%、
Gdを25.0〜35.0質量%、
ZrOを5.0〜9.0質量%、及び
ZnOを0.1〜2.0質量%未満、並びに
Taを0.0〜6.0質量%、及び/又は
Nbを0.0〜5.0質量%、及び/又は
Sbを0.0〜1.0質量%、及び/又は
Alを0.0〜1.0質量%未満
にガラス組成を維持することにより、特に屈折率(nd)が1.78〜1.83、アッベ数(νd)が44〜48の範囲の光学恒数を有し、−30〜+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが90×10−12℃×nm×cm−1×Pa−1以下である光学ガラスを安定に取得できる利益がある。上述のように、構成成分とその含有量を所定の範囲の割合とすることにより、難熔融成分や希少鉱物資源の使用を最小限に抑え、環境負荷の高い成分を使用することなく、使用環境における結像特性の変化が少ない、高精度/高精細用途の光学素子を作り出すことが可能となる。
【0063】
構成14〜16に記載のように、前記構成1〜13に記載の光学ガラスは、レンズ・プリズムなどの光学素子を作製するための母材として有用であり、その光学素子をカメラやプロジェクタに利用することにより、高精細で高精度な結像及び投影特性を実現できる。
【0064】
本発明のガラス組成物は、その組成が質量%で表されているため、直接的にmol%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各成分のmol%表示による組成は、概ね以下の値をとる。
【0065】
構成1の範囲としては、
SiO 2.0〜25.0mol%、B 25〜65mol%、mol%比SiO/Bが0を超え、0.7未満、La 10〜30mol%
【0066】
構成3の範囲としては、
Gdを0〜18mol%、Yを0〜10mol%、ZrOを0〜10mol%、Taを0〜10mol%、Nbを0〜10mol%、WOを0〜5mol%
【0067】
構成4の範囲としては、
GeO 0.0〜0.1mol%、Yb 0.0〜1.0mol%、Ga 0.0〜1.0mol%、Bi 0.0〜1.0mol%
【0068】
構成7の範囲としては、
mol%比(Ta+Nb+WO)/(Gd+Y)は0.03を超え1.25未満
【0069】
構成8の範囲としては、Mol%表示で、LiO 0〜7.0%、NaO 0〜5.0%、KO 0〜5.0%、CsO 0〜3.0%、MgO 0〜5.0%、CaO 0〜5.0%、SrO 0〜5.0%、BaO 0〜5.0%、TiO 0〜5.0%、SnO 0〜3.0%、Al 0〜3.0%、P 0〜3.0%、ZnO 0〜7.0%、Lu 0〜2.0%、TeO 0〜1.0%、Sb 0〜1.0%、F 0〜10%
【0070】
構成9の範囲としては、ZnO 5.0mol%未満
【0071】
構成10の範囲としては、Y 4.0mol%未満
【0072】
構成11の範囲としては、
mol%比(ZrO+Ta+Nb)/(SiO+B)が、0.8未満
【0073】
構成12の範囲としては、
4.0mol%未満、mol%比(ZnO+Y)/Laが0を超え1.0未満であり、mol%和ZrO+Nb 5.0%を超え13.0%未満
【0074】
構成13の範囲としては、SiO 3〜22mol、B 27〜63mol%、La 10〜25mol%、Gd 6〜15mol%、ZrO 4〜10mol%、ZnO 0.1〜2.0mol%、Ta 0〜5.0mol%、Nb 0〜3mol%、Sb 0〜0.5mol%、Al 0〜1.0mol%未満。
【実施例】
【0075】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例に限定されるものではない。
【0076】
表1〜表8に、使用環境の温度変化による結像特性影響を受けにくい、屈折率(nd)が1.75以上、かつ、アッベ数(νd)が35以上である高屈折率低分散光学ガラスを得るための好適な実施例(No.1〜38)のガラス組成、屈折率(nd)、アッべ数(νd)、−30〜+70℃の平均線膨張係数α、波長546.1nmにおける光弾性定数β、乗算α×β、各種の成分含有率の比及び含有率和を示す。
【0077】
また、表9に公知の光学ガラスの比較例(No.A〜C)のガラス組成及び各種物性値を示す。ここで、比較例Aは、特開2005−306732号公報の実施例6、比較例Bは、特開2002−284542号公報の実施例1、比較例Cは、特開2004−161506号公報の実施例7である。表中の屈折率(nd)、アッべ数(νd)はそれぞれの公報記載値である。
【0078】
得られた光学ガラスについて、屈折率(nd)、アッべ数(νd)、−30〜+70℃の平均線膨張係数(α)、波長546.1nmにおける光弾性定数(β)を以下のようにして測定した。
(1)屈折率(nd)及びアッべ数(νd)
徐冷降温速度を−25℃/時にして得られた光学ガラスについて測定した。
(2)−30〜+70℃の平均線膨張係数(α)
日本光学硝子工業会規格JOGIS16−2003(光学ガラスの常温付近の平均線膨張係数の測定方法)に記載された方法に準じ、測定した。試験片として長さ50mm、直径4mmの試料を使用した。
(3)波長546.1nmにおける光弾性定数β
光弾性定数(β)は、試料形状を対面研磨した直径25mm、厚さ8mmの円板状とし、所定方向に圧縮荷重を加え、ガラスの中心に生じる光路差を測定し、δ=β・d・F の関係式により求めた。546.1nm測定光源は超高圧水銀灯を使用した。上記の式では、光路差をδ(nm)、ガラスの厚さをd(cm)、応力をF(Pa)として表記している。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
【表4】

【0083】
【表5】

【0084】
【表6】

【0085】
【表7】

【0086】
【表8】

【0087】
【表9】

【0088】
表1〜8に記載の本発明の実施例のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物などの通常の光学ガラス原料を用いて、所定の割合で秤量・混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1200〜1400℃の温度範囲で3〜4時間熔融し、攪拌均質化した後、適当な温度に下げてから、金型などに鋳込み、徐冷することにより得られた。
【0089】
表1〜8に示した通り、本発明の好ましい実施例ではいずれも所望の光学恒数、乗算α×βを実現できることが分かった。一方、表9に示した比較例では、比較例Aは、比較的小さいα×βを実現できるが、光学恒数が近い実施例36〜34と比較すると、質量%比SiO/B比が0.6を超えているため、平均線膨張係数αが大きくなり、乗算α×βが90×10−12℃×nm×cm−1×Pa−1を超えている。また、比較例Bでは、光学恒数が近い実施例30〜32と比較すると、ZnOを多く含有しているため、光弾性定数βが大きくなってしまい、乗算α×βが100×10−12℃×nm×cm−1×Pa−1を超えてしまう。その他に、SiO含有量が少なく、質量%比SiO/B比が0.05未満であるため、ガラスの耐失透性が十分でなく、ガラスを鋳込む際、ほぼガラス表面全体に結晶が発生した。また、比較例Cでは、ZnOの含有量が著しく多く、質量%比(ZnO+Y)/Laが0.733と大きいため、光弾性定数βが増大し、乗算α×βが130×10−12℃×nm×cm−1×Pa−1を超えてしまう。
【0090】
また、表1〜8に記載した実施例のガラスを、冷間加工或いはリヒートプレス加工したところ、失透などの問題は生じず、安定に様々なレンズやプリズム形状に加工できた。
【0091】
上述のように作製したレンズやプリズムをカメラやプロジェクタに搭載させ、結像特性を確認したところ、室温で取得した光学恒数を利用した光学設計で期待される結像特性が、高温(50〜70℃程度)動作時でも再現できた。
【0092】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、使用環境の温度変化による結像特性影響を受けにくい、屈折率(nd)が1.75以上、かつ、アッベ数(νd)が35以上である、高屈折率低分散光学ガラスを提供でき、この光学ガラスを使用して、高精度なカメラなどの撮像機器及びプロジェクタなどの画像投影(再生)機器のレンズやプリズムを安定に作成できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
−30〜+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが90×10−12℃×nm×cm−1×Pa−1以下であって、酸化物基準で、SiOを1.0質量%より多く12.0質量%未満含有し、Bを8.0〜35.0質量%含有し、かつ、質量%比SiO/Bが0を超え0.6未満であり、Laを25.0〜50.0質量%含有することを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
屈折率(nd)が1.75〜2.00、アッベ数(νd)が35〜55の範囲の光学恒数を有することを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のガラスであって、さらに酸化物基準で、Gdを0.0〜40.0質量%、Yを0.0〜15.0質量%、ZrOを0.0〜15.0質量%、Taを0.0〜25.0質量%、Nbを0.0〜18.0質量%、WOを0.0〜10.0質量%含有することを特徴とする光学ガラス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のガラスであって、酸化物基準で、
GeOを0.0〜0.1質量%、
Ybを0.0〜1.0質量%、
Gaを0.0〜1.0質量%、又は
Biを0.0〜1.0質量%を含有し、
鉛化合物及び砒素化合物を含有しないことを特徴とする光学ガラス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のガラスであって、酸化物基準で、質量%比(Ta+Nb+WO)/(Gd+Y)が、0.05を超え1.30未満であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のガラスであって、酸化物基準の質量%表示で、
LiO 0〜5.0%、
NaO 0〜5.0%、
O 0〜5.0%、
CsO 0〜5.0%、
MgO 0〜5.0%、
CaO 0〜5.0%、
SrO 0〜5.0%、
BaO 0〜5.0%、
TiO 0〜3.0%、
SnO 0〜3.0%、
Al 0〜3.0%、
0〜5.0%、
ZnO 0〜10.0%、
Lu 0〜5.0%、
TeO 0〜3.0%、
Sb 0〜2.0%、又は
F 0〜3.0%を含有することを特徴とする光学ガラス。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のガラスであって、酸化物基準で、ZnOを2.0質量%未満含有することを特徴とする光学ガラス。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のガラスであって、酸化物基準で、Yを3.5質量%未満含有することを特徴とする光学ガラス。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のガラスであって、酸化物基準で、質量%比(ZrO+Ta+Nb)/(SiO+B)が、1.00未満であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のガラスであって、酸化物基準で、Yを3.5質量%未満含有し、質量%比(ZnO+Y)/Laが0を超え0.5未満であり、質量%和ZrO+Nbが5.0%を超え13.0%未満であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項11】
酸化物基準で、
SiOを1.0質量%より多く10.0質量%未満、
を15.0〜28.0質量%、
Laを28.0〜35.0質量%、
Gdを25.0〜35.0質量%、
ZrOを5.0〜9.0質量%、及び
ZnOを0.1〜2.0質量%未満、
並びに
Taを0.0〜6.0質量%、
Nbを0.0〜5.0質量%、
Sbを0.0〜1.0質量%、又は
Alを0.0〜1.0質量%未満
を含有するガラスであって、かつ、ZrO+Nbの合計が5.0質量%を超え13.0質量%未満であり、屈折率(nd)が1.78〜1.83、アッベ数(νd)が44〜48の範囲の光学恒数を有し、−30〜+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが90×10−12℃×nm×cm−1×Pa−1以下であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のガラスを母材とする光学素子。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のガラスをリヒートプレス加工して作成する光学素子。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のガラスで作成した光学素子及び光学基板材料を使用する光学機器。

【公開番号】特開2012−92016(P2012−92016A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−16333(P2012−16333)
【出願日】平成24年1月30日(2012.1.30)
【分割の表示】特願2006−98088(P2006−98088)の分割
【原出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】