説明

光学ガラス

【課題】低分散でありながら屈折率が高く、優れたガラス安定性を有し、着色の少ない光学ガラスを提供する。
【解決手段】酸化物ガラスであって、カチオン%表示で、Si4+0〜30%、B3+10〜55%、Li+、Na+およびK+を合計で5%未満、Mg2+、Ca2+およびSr2+を合計で5%未満、Ba2+0〜8%、Zn2+0.1〜15%、La3+10〜50%、Gd3+0〜20%、Y3+0〜15%、Yb3+0〜10%、Zr4+0〜20%、Ti4+0.1〜22%、Nb5+0〜20%、Ta5+0〜8%、W6+0〜5%、Ge4+0〜8%、Bi3+0〜10%、Al3+0〜10%、B3+の含有量に対するSi4+の含有量のカチオン比Si4+/B3+が1.0未満、酸化物に換算してNb25とTa25の合計含有量が14質量%未満、屈折率ndが1.966〜2.2、アッベ数νdが25〜45であることを特徴とする光学ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高屈折率低分散特性を有する光学ガラス、前記光学ガラスからなるプレス成形用ガラスゴブおよび光学素子とその製造方法、ならびに光学素子ブランクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高屈折率低分散ガラスからなるレンズは、超低分散ガラスからなるレンズと組み合わせることにより、色収差を補正しつつ、光学系のコンパクト化を可能にする。そのため、撮像光学系やプロジェクタなどの投射光学系を構成する光学素子として非常に重要な位置を占めている。
特許文献1にはこのような高屈折率低分散ガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭55−60039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、高屈折率低分散ガラスは高屈折率付与成分の量が相対的に多くなるとともにガラスネットワーク形成成分の量が相対的に減少するため、ガラス安定性が低下し、製造過程で失透しやすくなるなどの問題を抱えている。
また、高屈折率付与成分を増量するとガラスの着色が著しくなるという問題もある。
【0005】
本発明は、低分散でありながら屈折率が極めて高く、優れたガラス安定性を有し、着色の少ない光学ガラスを提供すること、前記光学ガラスからなるプレス成形用ガラスゴブおよび光学素子ブランクを提供すること、ならびに光学素子ブランクおよび光学素子の各製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定のガラス組成と屈折率とアッベ数を有する光学ガラスにより、その目的を達成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)酸化物ガラスであって、カチオン%表示で、
Si4+ 0〜30%、
3+ 10〜55%、
Li+、Na+およびK+を合計で5%未満、
Mg2+、Ca2+およびSr2+を合計で5%未満、
Ba2+ 0〜8%、
Zn2+ 0.1〜15%、
La3+ 10〜50%、
Gd3+ 0〜20%、
3+ 0〜15%、
Yb3+ 0〜10%、
Zr4+ 0〜20%、
Ti4+ 0.1〜22%、
Nb5+ 0〜20%、
Ta5+ 0〜8%、
6+ 0〜5%、
Ge4+ 0〜8%、
Bi3+ 0〜10%、
Al3+ 0〜10%、
を含み、B3+の含有量に対するSi4+の含有量のカチオン比Si4+/B3+が1.0未満、
酸化物に換算してNb25とTa25の合計含有量が14質量%未満であり、
屈折率ndが1.966〜2.2、アッベ数νdが25〜45であることを特徴とする光学ガラス、
(2)ガラス転移温度Tgが630℃以上である上記(1)項に記載の光学ガラス、
(3)着色度λ70が470nm未満である上記(1)項または(2)項に記載の光学ガラス、
(4)部分分散比Pg,Fとアッベ数νdが下記(1)式の関係を満たす上記(1)項〜(3)項のいずれか1項に記載の光学ガラス、
Pg,F≦−0.0017×νd+0.660 ・・・(1)
(5)上記(1)項〜(4)項のいずれか1項に記載の光学ガラスからなることを特徴とするプレス成形用ガラスゴブ、
(6)上記(1)項〜(5)項のいずれか1項に記載の光学ガラスからなることを特徴とする光学素子、
(7)研削、研磨により光学素子に仕上げられる光学素子ブランクの製造方法において、
上記(5)項に記載のプレス成形用ガラスゴブを加熱、軟化してプレス成形することを特徴とする光学素子ブランクの製造方法、
(8)研削、研磨により光学素子に仕上げられる光学素子ブランクの製造方法において、
ガラス原料を熔融し、得られた熔融ガラスをプレス成形し、上記(1)項〜(4)項のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる光学素子ブランクを作製することを特徴とする光学素子ブランクの製造方法、
(9)上記(7)項または(8)項に記載の光学素子ブランクを研削、研磨することを特徴とする光学素子の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、屈折率ndが1.92以上、アッベ数νdが25以上と低分散でありながら屈折率が極めて高く、優れたガラス安定性を有し、比較的着色の少ない光学ガラスを提供すること、前記光学ガラスからなるプレス成形用ガラスゴブおよび光学素子ブランクを提供すること、ならびに光学素子ブランクおよび光学素子の各製造方法を提供することができる。
【0009】
上記光学素子ならびに上記プレス成形用ガラスゴブや光学素子ブランクから作製される光学素子、例えばレンズによれば、高屈折率高分散ガラス製レンズと組合せることによりコンパクトな色収差補正用の光学系を提供することもできる。
【0010】
さらに、本発明の光学ガラスの好ましい態様によれば、上記光学特性を備えつつ、アッベ数νdが同じガラスと比較して部分分散比Pg,Fが小さく、高次の色補正に好適な光学ガラスを提供することもできる。こうした性質を活かし、高屈折率高分散光学ガラスからなる光学素子と組合せることにより、高次の色収差補正に好適な光学素子を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[光学ガラス]
まず、本発明の光学ガラスについて説明する。
本発明の光学ガラスは、
酸化物ガラスであって、カチオン%表示で、
Si4+ 0〜30%、
3+ 10〜55%、
Li+、Na+およびK+を合計で5%未満、
Mg2+、Ca2+およびSr2+を合計で5%未満、
Ba2+ 0〜8%、
Zn2+ 0.1〜15%、
La3+ 10〜50%、
Gd3+ 0〜20%、
3+ 0〜15%、
Yb3+ 0〜10%、
Zr4+ 0〜20%、
Ti4+ 0.1〜22%、
Nb5+ 0〜20%、
Ta5+ 0〜8%、
6+ 0〜5%、
Ge4+ 0〜8%、
Bi3+ 0〜10%、
Al3+ 0〜10%、
を含み、B3+の含有量に対するSi4+の含有量のカチオン比Si4+/B3+が1.0未満、
酸化物に換算してNb25とTa25の合計含有量が14質量%未満であり、
屈折率ndが1.966〜2.2、アッベ数νdが25〜45であることを特徴とする光学ガラスである。
【0012】
(組成範囲の限定理由)
上記組成範囲の限定理由について説明するが、特記しない限り、各成分の含有量、合計含有量はカチオン%にて表示する。
【0013】
Si4+は、網目形成カチオンであり、ガラス安定性の維持、熔融ガラスの成形に適した粘性の維持および化学的耐久性の改善に効果的な成分であり、その量が30%を超えると所望の屈折率を実現することが困難になるとともに、液相温度やガラス転移温度が上昇してしまう。また、所望のアッベ数を実現することが困難になる、ガラスの熔融性が悪化する、耐失透性が悪化するなどの問題が生じてしまう。したがって、Si4+の含有量は0〜30%とする。Si4+の含有量の好ましい上限は25%、より好ましい上限は23%、さらに好ましい上限は20%、一層好ましい上限は18%、より一層好ましい上限は15%、さらに一層好ましい上限は12%である。上記Si4+含有の効果を得る上からSi4+の含有量の好ましい下限は1%であり、より好ましい下限は3%、さらに好ましい下限は4%、一層好ましい下限は5%、より一層好ましい下限は6%である。
【0014】
3+は、網目形成カチオンであり、ガラスの熔融性維持、液相温度の低下とガラス安定性の工場および低分散化に有効な必須成分である。その量が10%未満になるとガラス安定性が低下するとともに上記効果が得られなくなり、55%を超えると所望の屈折率を満たすことが困難になるとともに、化学的耐久性が悪化する。したがって、B3+の含有量は10〜55%とする。B3+の含有量の好ましい上限は50%、より好ましい上限は48%、さらに好ましい上限は45%、一層好ましい上限は43%、より一層好ましい上限は40%、さらに一層好ましい上限は35%、なお一層好ましい上限は32%、さらになお一層好ましい上限は30%であり、B3+の含有量の好ましい下限は13%、より好ましい下限は15%、さらに好ましい下限は18%、一層好ましい下限は20%、より一層好ましい下限は21%、さらに一層好ましい下限は22%である。
【0015】
なお、低分散性を維持しつつ、液相温度の低下、耐失透性の改善および熔融性の改善、成形に適した粘性を維持する上から、B3+の含有量に対するSi4+の含有量のカチオン比Si4+/B3+を1未満とする。カチオン比Si4+/B3+の好ましい上限は0.5である。カチオン比Si4+/B3+の好ましい下限は0.03である。
【0016】
Li+、Na+およびK+は、熔融性を改善し、ガラス転移温度を低下させる働きをする任意成分である。Li+、Na+およびK+の合計含有量が5%以上になると所望の屈折率を実現するのが困難になるとともに、液相温度が上昇し、ガラス安定性、化学的耐久性も低下するので、Li+、Na+およびK+の合計含有量を5%未満とする。Li+、Na+およびK+の合計含有量の好ましい範囲は3%未満、より好ましい範囲は2%未満、さらに好ましい範囲は1%未満であり、上記アルカリ金属成分を含まないことが一層好ましい。
【0017】
Mg2+、Ca2+、Sr2+は、ガラスの熔融性を改善し、ガラス転移温度Tgを低下させる働きをする。また、硝酸塩、硫酸塩の形でガラスに導入することにより、脱泡効果も得られる。しかし、Mg2+、Ca2+およびSr2+の合計含有量が5%以上になると液相温度が上昇し、耐失透性が悪化するほか、屈折率が低下し、化学的耐久性も悪化してしまう。したがって、Mg2+、Ca2+およびSr2+の合計含有量を5%未満とする。Mg2+、Ca2+およびSr2+の合計含有量の好ましい範囲は3%未満、より好ましい範囲は2%未満、さらに好ましい範囲は1%未満であり、アルカリ土類金属成分を含まないことが一層好ましい。
【0018】
Ba2+は、ガラスの熔融性を改善し、炭酸塩、硝酸塩の形で導入することにより、脱泡効果も得られる。しかし、Ba2+の含有量が8%を超えると液相温度が上昇し、ガラス安定性が低下するとともに、所望の屈折率を実現することが難しくなる。また、化学的耐久性も悪化する。したがって、Ba2+の含有量を0〜8%とする。Ba2+の含有量の好ましい範囲は0〜7であり、より好ましい範囲は0〜6%であり、さらに好ましい範囲は0〜5%である。なお、本発明の目的を達成する上から、Ba2+の含有量を3%以下としてもよいし、2%以下としてもよいし、1%以下としてもよし、ゼロとしてもよい。
【0019】
Zn2+は、高屈折率低分散特性を実現する上で有用な必須成分であり、ガラスの熔融性、耐失透性を改善し、液相温度やガラス転移温度を低下させる働きをする。その量が0.1%未満であると屈折率が低下したり、液相温度が上昇し、耐失透性が悪化する。一方、その量が15%を越えると所望の屈折率を実現することが困難になる。したがって、Zn2+の含有量は0.1〜15%とする。Zn2+の含有量の好ましい上限は14%、より好ましい上限は13%、さらに好ましい上限は12%、一層好ましい上限は11%、より一層好ましい上限は10%、さらに一層好ましい上限は7%、なお一層好ましい上限は6%、さらになお一層好ましい上限5%であり、Zn2+の含有量の好ましい下限は0.3%、より好ましい下限は0.5%、さらに好ましい下限は1%である。
【0020】
La3+は、高屈折率低分散特性を実現する上で必須であり、化学的耐久性を改善する働きもする。その量が10%未満であると所望の屈折率が得にくくなり、50%を超えると液相温度が上昇し、耐失透性が悪化する。したがって、La3+の含有量は10〜50%とする。La3+の含有量の好ましい上限は48%、より好ましい上限は45%、さらに好ましい上限は43%、一層好ましい上限は40%、より一層好ましい上限は38%、さらに一層好ましい上限は37%、なお一層好ましい上限は36%、よりなお一層好ましい上限は35%であり、La3+の含有量の好ましい下限は13%、より好ましい下限は15%、さらに好ましい下限は18%、一層好ましい下限は20%、より一層好ましい下限は21%、さらに一層好ましい下限は22%である。
【0021】
Gd3+は、La3+と共存させることにより液相温度を低下させ、耐失透性を大幅に改善し、化学的耐久性も改善する働きをする。しかし、その量が20%を超えると液相温度が上昇し、耐失透性が悪化する。したがって、Gd3+の含有量を0〜20%とする。Gd3+の含有量の好ましい上限は18%、より好ましい上限は15%、さらに好ましい上限は13%、一層好ましい上限は12%、より一層好ましい上限は10%、さらに一層好ましい上限は9%、なお一層好ましい上限は8%、よりなお一層好ましい上限は7%であり、Gd3+の含有量の好ましい下限は0.1%、より好ましい下限は0.5%、さらに好ましい下限は1%、一層好ましい下限は2%である。
【0022】
3+もLa3+と共存させることにより液相温度を低下させ、耐失透性を大幅に改善し、化学的耐久性を改善する働きをするが、その量が15%を超えると液相温度が上昇し、耐失透性が悪化する。したがって、Y3+の含有量は0〜15%とする。Y3+の含有量の好ましい範囲は0〜13%、より好ましい範囲は0〜10%、さらに好ましい範囲は0〜8%、一層好ましい範囲は0〜7%、より一層好ましい範囲は0〜5%、さらに一層好ましい範囲は0〜4%である。
【0023】
Yb3+もLa3+と共存させることにより液相温度を低下させ、耐失透性を大幅に改善し、化学的耐久性を改善する働きをする。その量が10%を超えると液相温度が上昇し、耐失透性が悪化する。したがって、Yb3+の含有量を0〜10%とする。Yb3+の含有量の好ましい範囲は0〜5%、より好ましい範囲は0〜3%、さらに好ましい範囲は0〜1%であり、Yb3+を含有しないことが一層好ましい。
【0024】
Zr4+は、屈折率を高め、化学的耐久性を改善する働きをする。少量の導入でも優れた効果が得られる。しかし、その量が20%を超えると、ガラス転移温度や液相温度が上昇し、耐失透性が低下する。したがって、Zr4+の含有量を0〜20%とする。Zr4+の含有量の好ましい上限は18%、より好ましい上限は16%、さらに好ましい上限は14%、一層好ましい上限は12%、より一層好ましい上限は10%、さらに一層好ましい上限は8%、なお一層好ましい上限は7%であり、Zr4+の含有量の好ましい下限は1%、より好ましい下限は2%、さらに好ましい下限は3%である。
【0025】
Ti4+は、屈折率を高め、化学的耐久性および耐失透性を改善する働きをする。その含有量が0.1%未満であると前記効果を得ることができず、22%を超えると所望のアッベ数を得ることが難しくなるとともに、ガラス転移温度や液相温度が上昇し、耐失透性が悪化する。したがって、Ti4+の含有量を0.1〜22%とする。Ti4+の含有量の好ましい上限は21%、より好ましい上限は20%、さらに好ましい上限は19%、一層好ましい上限は18%、より一層好ましい上限は17%であり、さらに一層好ましくい上限は16%、一層好ましい上限は15%である。Ti4+の含有量の好ましい下限は1%、より好ましい下限は3%、さらに好ましい下限は5%、一層好ましい下限は8%、より一層好ましい下限は10%、さらに一層好ましい下限は11%、なお一層好ましい下限は12%である。
特に屈折率ndを1.968以上にする場合は、Ti4+の含有量を5%以上にすることが好ましく、10%以上にすることがより好ましく、12%以上にすることがさらに好ましく、13%以上にすることが一層好ましく、14%以上にすることがより一層好ましい。ただし屈折率ndを1.968以上にする場合でも、ガラス転移温度や液相温度の上昇、耐失透性の悪化を抑制する上から、Ti4+の含有量を21%以下にすることが好ましく、20%以下にすることがより好ましく、19%以下にすることがさらに好ましい。
【0026】
Nb5+は、屈折率を高めるとともに、液相温度を低下させ、耐失透性を改善する働きをする。その量が20%を超えると液相温度が上昇し、耐失透性が悪化し、所望のアッベ数を実現することが困難になるほか、ガラスの着色も強まる。したがって、Nb5+の含有量を0〜20%とする。Nb5+の含有量の好ましい上限は18%、より好ましい上限は16%、さらに好ましい上限は14%、一層好ましい上限は12%、より一層好ましい上限は10%、さらに一層好ましい上限は9%、なお一層好ましい上限は8%である。Nb5+の含有量の好ましい下限は0.1%、より好ましい下限は1%、さらに好ましい下限は2%、一層好ましい下限は3%である。
【0027】
Ta5+は、高屈折率低分散性を実現し、ガラス安定性も高める働きをする。しかし、高価な成分であるとともに、その含有量が8%を超えると液相温度が上昇し、耐失透性が低下するため、Ta5+の含有量を0〜8%とする。Ta5+の含有量の好ましい範囲は0〜6%、より好ましい範囲は0〜4%、さらに好ましい範囲は0〜3%、一層好ましい範囲は0〜2.5%、より一層好ましい範囲は0〜2%、さらに一層好ましい範囲は0〜1%である。Ta5+を含まないことが特に好ましい。
【0028】
なお、本発明の光学ガラスでは、液相温度の上昇を抑え、耐失透性を維持するため、Nb5+、Ta5+の含有量をそれぞれ酸化物に換算し、Nb25およびTa25の合計含有量を14質量%未満に制限する。上記観点からNb25およびTa25の合計含有量の好ましい範囲は13質量%以下である。
【0029】
6+は、屈折率を高め、液相温度を低下させ、耐失透性の改善に寄与する任意成分であるが、その量が5%を越えると液相温度が上昇し、耐失透性が悪化するとともに、ガラスの着色も強まる。したがって、W6+の含有量を0〜5%とする。W6+の含有量の好ましい範囲は0〜4%、より好ましい範囲は0〜3%、さらに好ましい範囲は0〜2%、一層好ましい範囲は0〜1%であり、W6+を含有しないことがより一層好ましい。
【0030】
Ge4+は、網目形成カチオンであり、屈折率を高める働きもするため、ガラス安定性を維持しつつ屈折率を高めることができる成分であるが、非常に高価な成分であり、コストの面からTa成分とともに、その量を控えることが望まれる成分である。本発明では、上記のように組成を決めているので、Ge4+の含有量を8%以下に抑えても、所望の光学特性の実現と優れたガラス安定性の実現を両立することができる。したがって、Ge4+の含有量を0〜8%とする。
Ge4+の含有量の好ましい範囲は0〜6%、より好ましい範囲は0〜4%、さらに好ましい範囲は0〜2%であり、一層好ましい範囲は0〜1%である。Ge4+を含まないこと、すなわちGeフリーガラスであることが特に好ましい。
【0031】
Bi3+は、屈折率を高めるとともにガラス安定性も高める働きをするが、その量が10%を超えると可視域における光線透過率が低下する。したがって、Bi3+の含有量を0〜10%とする。Bi3+の含有量の好ましい範囲は0〜8%、より好ましい範囲は0〜6%、さらに好ましい範囲は0〜4%、一層好ましい範囲は0〜2%、より一層好ましい範囲は0〜1%であり、Bi3+を含まないことが特に好ましい。
【0032】
Al3+は、少量であればガラス安定性および化学的耐久性を改善する働きをするが、その量が10%を超えると液相温度が上昇し、耐失透性が悪化する。したがって、Al3+の含有量を0〜10%とする。Al3+の含有量の好ましい範囲は0〜8%、より好ましい範囲は0〜6%、さらに好ましい範囲は0〜4%、一層好ましい範囲は0〜2%、より一層好ましい範囲は0〜1%であり、Al3+を含まないことが特に好ましい。
【0033】
Sbは、清澄剤として添加可能であり、少量の添加でFeなどの不純物混入による光線透過率の低下を抑える働きもするが、酸化物に換算し、Sb23として外割りで1質量%を超えて添加するとガラスが着色したり、その強力な酸化作用によってプレス成形時、プレス成形型の成形面劣化を助長してしまう。したがって、Sb23に換算してSbの添加量は、外割りで0〜1質量%が好ましく、より好ましくは0〜0.5質量%、さらに好ましくは0%とする。
【0034】
Snも清澄剤として添加可能であるが、SnO2に換算して外割りで1質量%を超えて添加するとガラスが着色したり、酸化作用によって精密プレス成形時、プレス成形型の成形面劣化を助長してしまう。したがって、SnO2に換算してSnの添加量は、外割りで0〜1質量%が好ましく、より好ましくは0〜0.5質量%とする。
【0035】
この他、Ce酸化物、硫酸塩、硝酸塩、塩化物を清澄剤として少量、添加することもできる。
【0036】
本発明の光学ガラスは、ガラス安定性を維持しつつ高屈折率低分散の光学特性を実現しており、Lu、Hf、Ga、In、Scといった成分を含有させることを必要としない。Lu、Hf、Ga、In、Scも高価な成分なので、Lu3+、Hf4+、Ga3+、In3+、Sc3+の含有量をそれぞれ0〜1%に抑えることが好ましく、それぞれ0〜0.5%に抑えることがより好ましく、Lu3+を導入しないこと、Hf4+を導入しないこと、Ga3+を導入しないこと、In3+を導入しないこと、Sc3+を導入しないことがそれぞれ特に好ましい。
【0037】
また、環境影響に配慮し、As、Pb、U、Th、Te、Cdも導入しないことが好ましい。
【0038】
さらに、ガラスの優れた光線透過性を活かす上から、Cu、Cr、V、Fe、Ni、Coなどの着色の要因となる物質を導入しないことが好ましい。
【0039】
本発明の光学ガラスは酸化物ガラスであり、実質的にアニオン成分がO2-からなる。前述のように清澄剤としてCl-、F-を少量添加することも可能であるが、O2-の含有量を98アニオン%以上とすることが好ましく、99アニオン%以上にすることがより好ましく、99.5アニオン%以上にすることがより好ましく、100アニオン%にすることが一層好ましい。
【0040】
(光学ガラスの光学特性)
本発明の光学ガラスの屈折率ndは、1.92〜2.2である。屈折率ndの好ましい下限は1.930、より好ましい下限は1.935、さらに好ましい下限は1.940であり、好ましい上限は2.0、より好ましい上限は1.995、さらに好ましい上限は1.990である。屈折率を高めることは、光学素子の高機能化、コンパクト化に有効であり、屈折率の上限を制限することは、ガラス安定性を高める上で有利である。
【0041】
本発明の光学ガラスのアッベ数νdは、25〜45である。高分散ガラス製のレンズと組み合わせて色収差を補正する場合、アッベ数νdが大きいほうが有利である。こうした観点から、アッベ数νdの好ましい下限は26、より好ましい下限は27、さらに好ましい下限は28、一層好ましい下限は29である。一方、アッベ数νdの上限を緩和することはガラス安定性を維持、向上させる上で有利に働く。こうした観点からアッベ数νdの好ましい上限は43、より好ましい上限は40、さらに好ましい上限は38、一層好ましい上限は36、より一層好ましい上限は35、一層好ましい上限は34、より一層好ましい上限は33、さらに一層好ましい上限は32である。
【0042】
より一層の高屈折率化がなされた光学ガラスは、撮像光学系、投射光学系などの光学系のコンパクト化、高機能化に適した光学素子の材料に好適である。また、同じ焦点距離をもつレンズを作製する場合においても、レンズの光学機能面の曲率の絶対値を小さくする(カーブを緩くする)ことができるため、レンズの成形、加工の面でも有利である。一方、光学ガラスをより一層の高屈折率化により、ガラスの熱的安定性が低下したり、着色が増加する、すなわち可視短波長域における光線透過率が減少する傾向を示す。したがって、用途や生産性などの観点から、本発明の光学ガラスを、より一層の高屈折率化を優先する場合と、熱的安定性の向上あるいは着色低減を優先する場合とに大別し、使い分けることもできる。
【0043】
本発明の光学ガラスにおいて、より一層の高屈折率化を優先する場合、好ましい屈折率ndの下限は1.966、より好ましい下限は1.967、さらに好ましい下限は1.968であり、この場合のアッベ数νdの好ましい範囲は25〜34、より好ましい範囲は26〜33、さらに好ましい範囲は27〜32である。より一層の屈折率化を優先する場合であってもガラス安定性の維持などの観点から屈折率ndを2.200以下にすることが好ましく、2.100以下にすることがより好ましく、2.050以下にすることがさらに好ましい。本発明の光学ガラスのうち、屈折率ndが1.966以上のものを光学ガラスAと呼び、屈折率ndが1.966未満のものを光学ガラスBと呼ぶことにする。
なお、先に説明した屈折率ndが1.968以上の場合におけるTi4+含有量の好ましい範囲は、光学ガラスAにおけるTi4+含有量の好ましい範囲にもあてはまる。
【0044】
本発明の光学ガラスは、アッベ数νdを固定したとき、部分分散比が小さいガラスであるため、本発明の光学ガラスからなるレンズなどの光学素子は、高次の色収差補正に好適である。
【0045】
ここで、部分分散比Pg,Fは、g線、F線、c線における各屈折率ng、nF、ncを用いて、(ng−nF)/(nF−nc)と表される。
【0046】
高次の色収差補正に好適な光学ガラスを提供する上から、本発明の光学ガラスにおいて、部分分散比Pg,Fとアッベ数νdとが下記(1)式の関係を満たすものが好ましく、下記(2)式の関係を満たすものがより好ましく、下記(3)式の関係を満たすものがさらに好ましい。
Pg,F≦−0.0017×νd+0.660 ・・・(1)
Pg,F≦−0.0017×νd+0.655 ・・・(2)
Pg,F≦−0.0017×νd+0.650 ・・・(3)
光学ガラスAおよび光学ガラスB、特に光学ガラスBは、上記(1)式〜(3)式のいずれかを満たす上からより好ましい態様である。
【0047】
次に、本発明の光学ガラスの光線透過性について説明する。
本発明の光学ガラスは、可視域の広い波長域にわたり高い光線透過率を示す。
本発明の光学ガラスの好ましい態様では、λ70が470nm以下の着色度を示す。λ70のより好ましい範囲は465nm以下、さらに好ましい範囲は460nm以下、一層好ましい範囲は455nm以下、より一層好ましい範囲は450nm以下、さらに一層好ましい範囲は445nm以下、なお一層好ましい範囲は440nm以下である。
【0048】
ここでλ70とは、波長280〜700nmの範囲において光線透過率が70%になる波長のことである。ここで、光線透過率とは、10.0±0.1mmの厚さに研磨された互いに平行な面を有するガラス試料を用い、前記研磨された面に対して垂直方向から光を入射して得られる分光透過率、すなわち、前記試料に入射する光の強度をIin、前記試料を透過した光の強度をIoutとしたときのIout/Iinのことである。分光透過率には、試料表面における光の反射損失も含まれる。また、上記研磨は測定波長域の波長に対し、表面粗さが十分小さい状態に平滑化されていることを意味する。
【0049】
本発明の光学ガラスの好ましい態様において、λ70よりも長波長側の可視域では、光線透過率が70%を超える。λ70と同様に、λ5も次のように定義することができる。λ5は、分光透過率が5%になる波長のことである。
【0050】
λ5の好ましい範囲は380nm以下、より好ましい範囲は375nm以下、さらに好ましい範囲は365nm以下である。
【0051】
上記分光透過率は、前述のように波長280〜700nmの範囲で測定されるが、λ5から波長を長くしていくと光線透過率が増加し、λ70に達すると波長700nm まで70%以上の高透過率を保つ。
光学ガラスAおよび光学ガラスB、特に光学ガラスBは、上記λ70、λ5に関する特性を得る上からより好ましい態様である。
【0052】
後述するように、本発明の光学ガラスからなるレンズは、超低分散光学ガラスからなるレンズと組合せることにより、色収差補正能力に優れ、コンパクト、高機能な光学系を提供することができる。従来、色収差補正光学系で超低分散ガラス製レンズと組合わせとして、高屈折率高分散ガラス製レンズが使用されていたが、高屈折率高分散ガラスは、比較的多量のTiO2、Nb25、Bi23、WO3などの高屈折率高分散付与成分を含有させており、可視域の短波長側において十分高い光線透過率が得られない場合がある。超低分散ガラス製レンズと高屈折率高分散ガラス製レンズを組合わせた色収差補正光学系では、青色など可視域の短波長側の光に対し、高屈折率高分散ガラス製レンズの透過率が低下する分、光学系全体の可視光透過率が低下してしまう。高屈折率高分散ガラス製レンズに換えて、本発明の光学ガラスからなるレンズを用いることにより、上記色収差補正光学系全体の可視域における光線透過率が十分確保される。
こうした観点から、本発明において、λ5も前述の範囲にある光学ガラスが好ましい。
【0053】
(光学ガラスのガラス転移温度)
本発明の光学ガラスは、研削、研磨により平滑な光学機能面を形成するのに好適なガラスである。研削、研磨などの冷間加工の適性、すなわち冷間加工性は間接的ながらガラス転移温度と関連がある。ガラス転移温度が低いガラスは冷間加工性よりも精密プレス成形に好適であるのに対し、ガラス転移温度が高いガラスは精密プレス成形よりも冷間加工に好適であって、冷間加工性に優れる。したがって、本発明においてもガラス転移温度を過剰に低くしないことが好ましく、630℃よりも高くすることが好ましく、640℃以上にすることがより好ましく、660℃以上にすることがさらに好ましい。しかし、ガラス
転移温度が高すぎるとガラスを再加熱、軟化して成形する際の加熱温度が高くなり、成形に使用する金型の劣化が著しくなったり、アニール温度も高温になり、アニール炉の劣化、消耗も著しくなる。したがって、ガラス転移温度は750℃以下とすることが好ましく、740℃以下にすることがより好ましく、730℃以下にすることがさらに好ましく、725℃以下であることが一層好ましく、710℃以下にすることがより一層好ましい。
【0054】
(光学ガラスの熱的安定性)
本発明の光学ガラスの好ましい態様の液相温度は1220℃以下である。また、光学ガラスAの液相温度の好ましい範囲は1210℃以下、より好ましい範囲は1200℃以下である。光学ガラスBの液相温度の好ましい範囲は1200℃以下、より好ましい範囲は1190℃以下である。このように本発明の光学ガラスは、高屈折率低分散ガラスでありながら、優れた熱的安定性を備えているため、高品質な光学ガラスを安定して生産することができる。また、失透を防止しつつ、熔融温度を低下させ、坩堝を構成する白金あるいは白金合金のガラスへの溶け込みを抑制することができるため、白金イオンなどによるガラスの着色増加や白金異物の混入を抑制、防止することもできる。
【0055】
(光学ガラスの製造方法)
次に本発明の光学ガラスの製造方法について説明する。例えば、粉体状の化合物原料あるいはカレット原料を目的のガラス組成に対応して秤量、調合し、白金合金製の熔融容器内に供給した後、これを加熱、熔融する。上記原料を完全に熔融してガラス化した後、この熔融ガラスの温度を上昇させて清澄を行う。清澄した熔融ガラスを攪拌器による攪拌によって均質化し、ガラス流出パイプに連続供給、流出し、急冷、固化してガラス成形体を得る。
なお、光学ガラスの熔融温度は1250〜1400℃の範囲にすることが、均質、低着色かつ光学特性を含む諸特性の安定したガラスを得る上から望ましい。

次に本発明のプレス成形用ガラスゴブについて説明する。
【0056】
[プレス成形用ガラスコブ]
本発明のプレス成形用ガラスゴブは上記した本発明の光学ガラスからなることを特徴とする。ゴブの形状は、目的とするプレス成形品の形状に応じてプレス成形しやすい形状にする。また、ゴブの質量もプレス成形品に合わせて設定する。本発明においては、安定性の優れたガラスを使用しているので、再加熱、軟化してプレス成形してもガラスが失透しにくく、高品質の成形品を安定して生産することができる。
プレス成形用ガラスゴブの製造例は以下のとおりである。
【0057】
第1の製造例においては、流出パイプの下方に水平に配置した鋳型にパイプから流出する熔融ガラスを連続的に鋳込み、一定の厚みを有する板状に成形する。成形されたガラスは鋳型側面に設けた開口部から水平方向へと連続して引き出される。板状ガラス成形体の引き出しはベルトコンベアによって行う。ベルトコンベアの引き出し速度を一定にしてガラス成形体の板厚が一定になるように引き出すことにより、所定の厚み、板幅のガラス成形体を得ることができる。ガラス成形体はベルトコンベアによりアニール炉内へと搬送され、徐冷される。徐冷したガラス成形体を板厚方向に切断あるいは割断し、研磨加工を施
したり、バレル研磨を施してプレス成形用ガラスゴブにする。
【0058】
第2の製造例においては、上記鋳型の代わりに円筒状の鋳型内に熔融ガラスを鋳込んで円柱状のガラス成形体を成形する。鋳型内で成形されたガラス成形体は鋳型底部の開口部から一定の速度で鉛直下方に引き出される。引き出し速度は鋳型内での熔融ガラス液位が一定になるように行えばよい。ガラス成形体を徐冷した後、切断もしくは割断して、研磨加工またはバレル研磨を施してプレス成形用ガラスゴブとする。
【0059】
第3の製造例においては、流出パイプの下方に円形のターンテーブルの円周上に複数個の成形型を等間隔に配置した成形機を流出パイプの下方に設置し、ターンテーブルをインデックス回転し、成形型の停留位置の一つを成形型に熔融ガラスを供給する位置(キャスト位置という)として熔融ガラスを供給し、供給した熔融ガラスをガラス成形体に成形した後、キャスト位置とは異なる所定の成形型の停留位置(テイクアウト位置)からガラス成形体を取り出す。テイクアウト位置をどの停留位置にするかは、ターンテーブルの回転速度、ガラスの冷却速度などを考慮して定めればよい。キャスト位置における成形型への熔融ガラスの供給は、流出パイプのガラス流出口から熔融ガラスを滴下し、ガラス滴を上記成形型で受ける方法、キャスト位置に停留する成形型をガラス流出口に近づけて流出する熔融ガラス流の下端部を支持し、ガラス流の途中にくびれを作り、所定のタイミングで成形型を鉛直方向に急降下することによりくびれより下の熔融ガラスを分離して成形型上に受ける方法、流出する熔融ガラス流を切断刃で切断し、分離した熔融ガラス塊をキャスト位置に停留する成形型で受ける方法などにより行うことができる。
【0060】
成形型上でのガラスの成形は公知の方法を用いればよい。中でも成形型から上向きにガスを噴出してガラス塊に上向きの風圧を加え、ガラスを浮上させながら成形すると、ガラス成形体の表面にシワができたり、成形型との接触によってガラス成形体にカン割れが発生するのを防止することができる。
【0061】
ガラス成形体の形状は、成形型形状の選択や上記ガスの噴出の仕方により、球状、回転楕円体状、回転対象軸を1つ有し、該回転対象軸の軸方向を向いた2つの面が共に外側に凸状である形状等にすることができる。これらの形状はレンズなどの光学素子あるいは光学素子ブランクをプレス成形するためのガラスゴブに好適である。このようにして得られたガラス成形体はそのまま、あるいは表面を研磨あるいはバレル研磨してプレス成形用ガラスゴブにすることができる。
【0062】
[光学素子]
次に本発明の光学素子について説明する。
本発明の光学素子は、上記した本発明の光学ガラスからなることを特徴とする。本発明の光学素子は、高屈折率低分散特性を有し、TaやGeなどの高価な成分の含有量が比較的少量またはゼロに抑えられているので、低コストにて光学的な価値の高い各種レンズ、プリズムなどの光学素子を提供することができる。
【0063】
レンズの例としては、レンズ面が球面または非球面である、凹メニスカスレンズ、凸メニスカスレンズ、両凸レンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなどの各種レンズを示すことができる。
【0064】
こうしたレンズは、低分散ガラス製のレンズと組み合わせることにより色収差を補正することができ、色収差補正用のレンズとして好適である。また、光学系のコンパクト化にも有効なレンズである。
【0065】
また、プリズムについては、屈折率が高いので撮像光学系に組み込むことにより、光路を曲げて所望の方向に向けることによりコンパクトで広い画角の光学系を実現することもできる。
なお本発明の光学素子の光学機能面には、反射防止膜などの光線透過率を制御する膜を設けることもできる。
【0066】
[光学素子ブランクの製造方法]
次に本発明の光学素子ブランクの製造方法について説明する。
本発明の光学素子ブランクの製造方法には、以下に示す2つの態様がある。
【0067】
(第1の光学素子ブランクの製造方法)
本発明の第1の光学素子ブランクの製造方法は、研削、研磨により光学素子に仕上げられる光学素子ブランクの製造方法において、上記した本発明のプレス成形用ガラスゴブを加熱、軟化してプレス成形することを特徴とする。
【0068】
光学素子ブランクは、目的とする光学素子の形状に、研削、研磨により除去する加工しろを加えた光学素子の形状に近似する形状を有するガラス成形体である。
【0069】
光学素子ブランクを作製するにあたり、該ブランクの形状を反転した形状の成形面を有するプレス成形型を用意する。プレス成形型は上型、下型そして必要に応じて胴型を含む型部品によって構成され、上下型の成形面、あるいは胴型を使用する場合は胴型成形面を前述の形状にする。
【0070】
次にプレス成形用ガラスゴブの表面に窒化ホウ素などの粉末状離型剤を均一に塗布し、加熱、軟化してから予熱された下型に導入し、下型と対向する上型とでプレスし、光学素子ブランクに成形する。
【0071】
次に光学素子ブランクを離型してプレス成形型から取り出し、アニール処理する。このアニール処理によってガラス内部の歪を低減し、屈折率などの光学特性が所望の値になるようにする。
【0072】
ガラスゴブの加熱条件、プレス成形条件、プレス成形型に使用する材料などは公知のものを適用すればよい。以上の工程は大気中で行うことができる。
【0073】
(第2の光学素子ブランクの製造方法)
本発明の第2の光学素子ブランクの製造方法は、研削、研磨により光学素子に仕上げられる光学素子ブランクの製造方法において、ガラス原料を熔融し、得られた熔融ガラスをプレス成形し、上記した本発明の光学ガラスからなる光学素子ブランクを作製することを特徴とする。
【0074】
上型、下型、必要に応じて胴型を含む型部品によりプレス成形型を構成する。前述のように光学素子ブランクの表面形状を反転した形状にプレス成形型の成形面を加工する。
【0075】
下型成形面上に窒化ホウ素などの粉末状離型剤を均一に塗布し、前述の光学ガラスの製造方法にしたがい熔融した熔融ガラスを下型成形面上に流出し、下型上の熔融ガラス量が所望の量になったところで熔融ガラス流をシアと呼ばれる切断刃で切断する。こうして下型上に熔融ガラス塊を得た後、上方に上型が待機する位置に熔融ガラス塊ごと下型を移動し、上型と下型とでガラスをプレスし、光学素子ブランクに成形する。
【0076】
次に光学素子ブランクを離型してプレス成形型から取り出し、アニール処理する。このアニール処理によってガラス内部の歪を低減し、屈折率などの光学特性が所望の値になるようにする。
【0077】
ガラスゴブの加熱条件、プレス成形条件、プレス成形型に使用する材料などは公知のものを適用すればよい。以上の工程は大気中で行うことができる。
次に本発明の光学素子の製造方法について説明する。
【0078】
[光学素子の製造方法]
本発明の光学素子の製造方法は、上記した本発明の方法で作製した光学素子ブランクを研削、研磨することを特徴とする。研削、研磨は公知の方法を適用することができる。
【実施例】
【0079】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何等限定されるものではない。本実施例のガラスを参考に、前述の各ガラス成分の含有量の調整法を適用することにより、本発明の光学ガラスを得ることができる。
【0080】
(実施例1)
まず、表1−1〜表1−4に示す組成(カチオン%表示)を有する酸化物ガラスNo.1〜36が得られるように、原料として硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、酸化物、ホウ酸などを用い、各原料粉末を秤量して十分混合し、調合原料とし、この調合原料を白金製坩堝に入れて1400℃で加熱、熔融し、清澄、撹拌して均質な熔融ガラスした。この熔融ガラスを予熱した鋳型に流し込んで急冷し、ガラス転移温度近傍の温度で2時間保持した後、徐冷して酸化物ガラスNo.1〜36の各光学ガラスを得た。いずれのガラス中にも結晶の析出は認められなかった。
【0081】
なお、酸化物ガラスNo.1〜36のアニオン成分は全量、O2-である。また、表2−1〜表2−3は、酸化物ガラスNo.1〜36の質量%表示による組成、表3−1〜表3−3はモル%表示による組成である。
【0082】
各ガラスの特性は、以下に示す方法で測定した。測定結果を表1−5に示す。
(1)屈折率ndおよびアッベ数νd
1時間あたり30℃の降温速度で冷却した光学ガラスについて測定した。
(2)部分分散比Pg,F
1時間あたり30℃の降温速度で冷却した光学ガラスについて屈折率ng、nF、ncを測定し、これらの値から算出した。
(3)ガラス転移温度Tg
熱機械分析装置を用いて、昇温速度4℃/分の条件下で測定した。
(4)液相温度
ガラスを所定温度に加熱された炉内に入れて2時間保持し、冷却後、ガラス内部を100倍の光学顕微鏡で観察し、結晶の有無から液相温度を決定した。
(5)比重
アルキメデス法により測定した。
(6)λ70、λ5
10.0±0.1mmの厚さに研磨された互いに平行な面を有するガラス試料を用い、分光光度計により、前記研磨された面に対して垂直方向から強度Iinの光を入射し、試料を透過した光の強度Ioutを測定し、光線透過率Iout/Iinを算出し、光線透過率が70%になる波長をλ70、光線透過率が5%になる波長をλ5とした。
【0083】
【表1−1】

【0084】
【表1−2】

【0085】
【表1−3】

【0086】
【表1−4】

【0087】
【表1−5】

【0088】
【表2−1】

【0089】
【表2−2】

【0090】
【表2−3】

【0091】
【表3−1】

【0092】
【表3−2】

【0093】
【表3−3】

【0094】
(実施例2)
次に実施例1の各光学ガラスからなるプレス成形用ガラスゴブを次のようにして作製した。
まず、上記各ガラスが得られるようにガラス原料を調合し、白金製坩堝に投入し、加熱、熔融し、清澄、撹拌して均質な熔融ガラスを得た。次に、熔融ガラスを流出パイプから一定流量で流出し、流出パイプの下方に水平に配置した鋳型に鋳込み、一定の厚みを有するガラス板を成形した。成形されたガラス板を鋳型側面に設けた開口部から水平方向へと連続して引き出し、ベルトコンベアにてアニール炉内へと搬送し、徐冷した。
【0095】
徐冷したガラス板を切断あるいは割断してガラス片を作り、これらガラス片をバレル研磨してプレス成形用ガラスゴブにした。
【0096】
なお、流出パイプの下方に円筒状の鋳型を配置し、この鋳型内に熔融ガラスを鋳込んで円柱状ガラスに成形し、鋳型底部の開口部から一定の速度で鉛直下方に引き出した後、徐冷し、切断もしくは割断してガラス片を作り、これらガラス片をバレル研磨してプレス成形用ガラスゴブを得ることもできる。
【0097】
(実施例3)
実施例2と同様に熔融ガラスを流出パイプから流出し、成形型で流出する熔融ガラス下端を受けた後、成形型を急降下し、表面張力によって熔融ガラス流を切断し、成形型上に所望の量の熔融ガラス塊を得た。そして、成形型からガスを噴出してガラスに上向きの風圧を加え、浮上させながらガラス塊に成形し、成形型から取り出してアニールした。それからガラス塊をバレル研磨してプレス成形用ガラスゴブとした。
【0098】
(実施例4)
実施例3で得た各プレス成形用ガラスゴブの全表面に窒化ホウ素粉末からなる離型剤を均一に塗布した後、上記ゴブを加熱、軟化してプレス成形し、凹メニスカスレンズ、凸メニスカスレンズ、両凸レンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなどの各種レンズ、プリズムのブランクを作製した。
【0099】
(実施例5)
実施例2と同様にして熔融ガラスを作り、熔融ガラスを窒化ホウ素粉末の離型剤を均一に塗布した下型成形面に供給し、下型上の熔融ガラス量が所望量になったところで熔融ガラス流を切断刃で切断した。
【0100】
こうして下型上に得た熔融ガラス塊を上型と下型でプレスし、凹メニスカスレンズ、凸メニスカスレンズ、両凸レンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなどの各種レンズ、プリズムのブランクを作製した。
【0101】
(実施例6)
実施例4、5で作製した各ブランクをアニールした。アニールによってガラス内部の歪を低減し、屈折率などの光学特性が所望の値になるようにする。
次に各ブランクを研削、研磨して凹メニスカスレンズ、凸メニスカスレンズ、両凸レンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなどの各種レンズ、プリズムを作製した。得られた光学素子の表面には反射防止膜をコートしてもよい。
【0102】
(実施例7)
実施例2と同様にしてガラス板および円柱状ガラスを作製し、得られたガラス成形体をアニールして内部の歪を低減するとともに、屈折率などの光学特性が所望の値になるようした。
次にこれらガラス成形体を切断、研削、研磨して凹メニスカスレンズ、凸メニスカスレンズ、両凸レンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなどの各種レンズ、プリズムのブランクを作製した。得られた光学素子の表面に反射防止膜をコートしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、安定供給が可能であり、かつ優れたガラス安定性を有する高屈折率低分散性を備える光学ガラスであって、プレス成形用ガラスゴブ、光学素子ブランクおよび光学素子に好適である。






































【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物ガラスであって、カチオン%表示で、
Si4+ 0〜30%、
3+ 10〜55%、
Li+、Na+およびK+を合計で5%未満、
Mg2+、Ca2+およびSr2+を合計で5%未満、
Ba2+ 0〜8%、
Zn2+ 0.1〜15%、
La3+ 10〜50%、
Gd3+ 0〜20%、
3+ 0〜15%、
Yb3+ 0〜10%、
Zr4+ 0〜20%、
Ti4+ 0.1〜22%、
Nb5+ 0〜20%、
Ta5+ 0〜8%、
6+ 0〜5%、
Ge4+ 0〜8%、
Bi3+ 0〜10%、
Al3+ 0〜10%、
を含み、B3+の含有量に対するSi4+の含有量のカチオン比Si4+/B3+が1.0未満、
酸化物に換算してNb25とTa25の合計含有量が14質量%未満であり、
屈折率ndが1.966〜2.2、アッベ数νdが25〜45であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
ガラス転移温度Tgが630℃以上である請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
着色度λ70が470nm未満である請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
部分分散比Pg,Fとアッベ数νdが下記(1)式の関係を満たす請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学ガラス。
Pg,F≦−0.0017×νd+0.660 ・・・(1)
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学ガラスからなることを特徴とするプレス成形用ガラスゴブ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学ガラスからなることを特徴とする光学素子。
【請求項7】
研削、研磨により光学素子に仕上げられる光学素子ブランクの製造方法において、
請求項5に記載のプレス成形用ガラスゴブを加熱、軟化してプレス成形することを特徴とする光学素子ブランクの製造方法。
【請求項8】
研削、研磨により光学素子に仕上げられる光学素子ブランクの製造方法において、
ガラス原料を熔融し、得られた熔融ガラスをプレス成形し、請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる光学素子ブランクを作製することを特徴とする光学素子ブランクの製造方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の光学素子ブランクを研削、研磨することを特徴とする光学素子の製造方法。


【公開番号】特開2012−96992(P2012−96992A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−283237(P2011−283237)
【出願日】平成23年12月26日(2011.12.26)
【分割の表示】特願2009−138020(P2009−138020)の分割
【原出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】