説明

光学ガラス

【課題】屈折率(n)が1.78以上、アッベ数(ν)が30以下であり、部分分散比が小さい光学ガラスを提供する。
【解決手段】部分分散比(θg,F)が0.624以下の範囲の光学定数を有し、必須成分としてSiO、Nbを含有し、質量%の比率でNbが40%より多いことを特徴とする光学ガラス。質量%の比率でKOが2%未満、TiO/(ZrO+Nb)が0.32未満、かつSiO、B、TiO、ZrO、Nb、WO、ZnO、SrO、LiO、NaOの合計含有量が90%より多いことを特徴とする前記光学ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率(nd)が1.78以上、アッベ数(νd)が30以下、部分分散比(θg,F)が0.620以下の高屈折率高分散光学ガラス、及び、この光学ガラスを利用して得られるレンズ、プリズムなどの光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
高屈折率高分散ガラスは、各種レンズなどの光学素子用材料として非常に需要が多く、屈折率(nd)が1.78以上、アッベ数(νd)が30以下である光学ガラスとしては、特許文献1〜3に代表されるようなガラス組成物が知られている。
【0003】
これら光学ガラスが使用される光学系はデジタルカメラなどの光学製品に搭載されるが、色収差を改善するためには、高屈折率高分散領域の光学ガラスに部分分散比が小さいことが望まれている。
【0004】
以上の理由より、光学設計上の有用性という観点で従来から高屈折率高分散を有し、部分分散比が小さい光学ガラスが強く求められている。
【0005】
特に、屈折率(nd)が1.78以上、アッベ数(νd)が30以下の範囲の光学定数を有する高屈折率高分散の光学ガラスが強く求められている。
【0006】
特許文献1〜3の公報には、上記光学定数を満たす光学ガラスが開示されている。しかし、これらの公報に具体的に開示されている光学ガラスは、必須成分としてSiOおよびNbを含有し、質量%の比率でNbが40%より多く、KOが2%未満、TiO/(ZrO+Nb)が0.32未満、かつSiO、B、TiO、ZrO、Nb、WO、ZnO、SrO、LiO、NaOの合計含有量が90%より多い、という条件を満足しない。
【0007】
また、デジタルスチルカメラなどの光学系には一般的に球面レンズが使用される。球面レンズは、レンズに近似形状の金型を使用して加熱成形し、得られたレンズプリフォーム材を研磨することで作製される。特に高屈折率高分散の光学ガラスにおいては、加熱成形(リヒートプレス成形)する際に失透を生じ易く、失透が発生し難い光学ガラスが望まれている。
【0008】
一方で、球面収差などを補正するには、非球面レンズが有効である。非球面レンズを安価で大量に製造する方法として、精密プレス成形が知られている。精密プレス成形は、レンズプリフォーム材となるガラスを加熱軟化させ、金型を加圧することで高精度な金型表面を転写する方法である。高温環境下に金型が曝されるので、金型の成形面が酸化、侵食されたり、金型成形面の表面に設けられている離型膜が損傷したりして金型の高精度な成形面が維持できなくなることが多く、また、金型自体も損傷し易い。そのようになると、金型を交換せざるを得ず、金型の交換回数が増加して、低コスト、大量生産を実現できなくなる。そこで、精密プレス成形に使用するレンズプリフォーム材となるガラスは、上記損傷を抑制し、金型の高精度な成形面を長く維持し、かつ、低いプレス圧力での精密プレス成形を可能にするという観点から、できるだけ低いガラス転移温度(Tg)を有することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭52−25812号公報
【特許文献2】特開2004−161598号公報
【特許文献3】WO2004/110942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、前記背景技術に記載した光学ガラスに見られる諸欠点を総合的に解消し、前記の光学定数を有し、部分分散比が小さい光学ガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、特定量のSiO、Nbを含有させることにより、前記の光学定数を有し、部分分散比が小さい光学ガラスが得られた。
【0012】
本発明の第1の構成は、屈折率(n)が1.78以上、アッベ数(ν)が30以下、部分分散比(θg,F)が0.620以下の範囲の光学定数を有し、必須成分としてSiO、Nbを含有し、質量%の比率でNbが40%より多いことを特徴とする光学ガラスである。
【0013】
本発明の第2の構成は、酸化物基準の質量%の比率でKOが2%未満、TiO/(ZrO+Nb)が0.32未満、かつSiO、B、TiO、ZrO、Nb、WO、ZnO、SrO、LiO、NaOの合計含有量が90%より多いことを特徴とする前記構成1に記載の光学ガラスである。
【0014】
本発明の第3の構成は、酸化物基準の質量%で、
SiO 10〜40%、
Nb 40%より多く65%以下、
並びに
0〜20%及び/又は
GeO 0〜10%及び/又は
Al 0〜10%及び/又は
TiO 0〜15%及び/又は
ZrO 0〜15%及び/又は
WO 0〜15%及び/又は
ZnO 0〜15%及び/又は
SrO 0〜15%及び/又は
LiO 0〜15%及び/又は
NaO 0〜20%及び/又は
Sb 0〜1%
の各成分を含有することを特徴とする前記構成1〜2に記載の光学ガラスである。
【0015】
本発明の第4の構成は、酸化物基準の質量%で、
Gd 0〜10%及び/又は
0〜10%及び/又は
MgO 0〜15%及び/又は
CaO 0〜15%及び/又は
BaO 0〜15%及び/又は
Ga 0〜10%及び/又は
CeO 0〜10%及び/又は
TeO 0〜10%及び/又は
Bi 0〜10%及び/又は
の各成分を含有することを特徴とする前記構成1〜3に記載の光学ガラスである。
【0016】
本発明の第5の構成は、ガラス転移点(Tg)が650℃以下であることを特徴とする前記構成1〜4に記載の光学ガラスである。
【0017】
本発明の第6の構成は、前記構成1〜5のいずれか1項の光学ガラスからなるレンズプリフォーム材である。
【0018】
本発明の第7の構成は、前記構成1〜6のいずれか1項に記載の光学ガラスからなるモールドプレス成形用レンズプリフォーム材である。
【0019】
本発明の第8の構成は、前記構成1〜7のいずれか1項の光学ガラスからなる光学素子である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の光学ガラスの各成分について説明する。以下、特に断らない限り各成分の含有率は酸化物基準の質量%を意味する。
【0021】
SiO成分は、本発明の光学ガラスにおいて、ガラス形成酸化物成分として欠かすことのできない成分であり、ガラスの粘度を高め、耐失透性および化学的耐久性を向上させるのに有効である。しかし、その量が少なすぎるとその効果が不十分であり、多すぎると逆に耐失透性、溶融性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは10%、より好ましくは12%、最も好ましくは14%を下限として含有することができ、好ましくは40%、より好ましくは35%、最も好ましくは30%を上限として含有することができる。
【0022】
SiO成分は、原料として例えばSiO等を使用してガラス内に導入される。
【0023】
成分は、ガラス形成酸化物として作用する任意成分であり、ガラス転移点(Tg)を下げるのに有効である。しかし、その量が多すぎると化学的耐久性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限として含有することができる。
【0024】
は、原料として例えばHBO、B等を使用してガラス内に導入される。
【0025】
GeO成分は、屈折率を高め、耐失透性を向上させる効果を有する任意成分であり、ガラス形成酸化物として作用する。しかし、その量が多すぎると原料が非常に高価であるため、コストが高くなる。従って、好ましくは10%、より好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限として含有することができる。
【0026】
またGeO成分は、原料として例えばGeO等を使用してガラス内に導入される。
【0027】
Al成分は、化学的耐久性の改善に有効な任意成分である。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは10%、より好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限として含有することができる。
【0028】
またAl成分は、原料として例えばAl、Al(OH)等を使用してガラス内に導入される。
【0029】
TiO成分は、屈折率を高め、分散を大きくする効果がある。しかし、その量が多すぎると可視光短波長域の透過率を悪化させ、部分分散比も大きくなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは12%、最も好ましくは9%を上限として含有することができる。なお、TiOは任意成分であるため、含有しなくとも本発明のガラスを製造することは可能であるが、前記効果を発揮させやすくするためにも、好ましくは0%を超え、より好ましくは0.1%、最も好ましくは1%を下限とする。
【0030】
TiO成分は、原料として例えばTiO等を使用してガラス内に導入される。
【0031】
ZrO成分は、屈折率を高め、部分分散比を小さくし、化学的耐久性を向上させる効果がある。しかし、その量が多すぎると逆に耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは13%、最も好ましくは12%を上限として含有することができる。なお、ZrOは任意成分であるため、含有しなくとも本発明のガラスを製造することは可能であるが、前記効果を発揮させやすくするためにも、好ましくは0%を超え、より好ましくは0.1%、最も好ましくは1%を下限とする。
【0032】
またZrO成分は、原料として例えばZrO等を使用してガラス内に導入される。
【0033】
Nb成分は、屈折率を高め、分散を大きくしつつ部分分散比を小さくし、化学的耐久性及び耐失透性を改善するのに有効な必須の成分である。しかし、その量が少なすぎるとその効果が不十分となり、多すぎると逆に耐失透性が悪くなり、可視光短波長域の透過率も悪化しやすくなる。従って、好ましくは40%より多く、より好ましくは41%、最も好ましくは42%を下限として含有することができ、好ましくは65%、より好ましくは60%、最も好ましくは56%を上限として含有することができる。
【0034】
またNb成分は、原料として例えばNb等を使用してガラス内に導入される。
【0035】
Sb成分は、ガラス溶融時の脱泡のために任意に添加しうるが、その量が多すぎると可視光領域の短波長領域における透過率が悪化しやすくなる。従って、好ましくは1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは0.2%を上限として含有できる。
【0036】
Ta成分は、屈折率を高め、化学的耐久性及び耐失透性を改善する効果がある。しかし、その量が多すぎると逆に耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは12%、最も好ましくは10%を上限として含有することができる。
【0037】
またTa成分は、原料として例えばTa等を使用してガラス内に導入される。
【0038】
WO成分は、光学定数を調整し、耐失透性を改善する効果がある。しかし、その量が多すぎると逆に耐失透性や可視光領域の短波長域の光線透過率が悪くなる上、部分分散比が大きくなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは12%、最も好ましくは10%を上限として含有することができる。
【0039】
またWO成分は、原料として例えばWO等を使用してガラス内に導入される。
【0040】
La成分は、ガラスの屈折率を高め、低分散化させるのに有効な成分である。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは10%、より好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限として含有することができる。
【0041】
La成分は、原料として例えばLa、硝酸ランタン又はその水和物等を使用してガラス内に導入される。
【0042】
Gd成分は、ガラスの屈折率を高め、低分散化させるのに効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは10%、より好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限として含有することができる。
【0043】
またGdは、原料として例えばGd等を使用してガラス内に導入される。
【0044】
Yb成分は、ガラスの屈折率を高め、低分散化させるのに効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性および化学的耐久性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは10%、より好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限として含有することができる。
【0045】
またYb成分は、原料として例えばYb等を使用してガラス内に導入される。
【0046】
成分は、ガラスの屈折率を高め、低分散化させるのに効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは10%、より好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限として含有することができる。
【0047】
またY成分は、原料として例えばY等を使用してガラス内に導入される。
【0048】
ZnO成分は、ガラス転移温度(Tg)を低くし、化学的耐久性を改善する効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0049】
またZnO成分は、原料として例えばZnO等を使用してガラス内に導入できる。
【0050】
MgO成分は光学定数の調整に有効である。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0051】
MgO成分は、原料として例えばMgOまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用してガラス内に導入できる。
【0052】
CaO成分は光学定数の調整に有効である。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0053】
CaO成分は、原料として例えばCaOまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用してガラス内に導入できる。
【0054】
SrO成分は光学定数の調整に有効である。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0055】
SrO成分は、原料として例えばSrOまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用してガラス内に導入できる。
【0056】
BaO成分は光学定数の調整に有効である。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0057】
BaO成分は、原料として例えばBaOまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用してガラス内に導入できる。
【0058】
LiO成分は、部分分散比を小さくし、ガラス転移温度(Tg)を大幅に下げ、かつ、混合したガラス原料の溶融を促進する効果があり、本発明の組成系においてはリヒートプレス成形時の失透を抑制する効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が急激に悪化しやすくなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは13%、最も好ましくは11%を上限として含有することができる。なお、LiOは任意成分であるため、含有しなくとも本発明のガラスを製造することは可能であるが、前記効果を発揮させやすくするためにも、好ましくは0%を超え、より好ましくは0.1%、最も好ましくは1%を下限とする。
【0059】
またLiO成分は、原料として例えばLiOまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用してガラス内に導入できる。
【0060】
NaO成分は、ガラス転移温度(Tg)を下げ、混合したガラス原料の溶融を促進する効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が急激に悪化しやすくなる。従って、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは13%を上限として含有することができる。なお、NaOは任意成分であるため、含有しなくとも本発明のガラスを製造することは可能であるが、前記効果を発揮させやすくするためにも、好ましくは0%を超え、より好ましくは0.1%、最も好ましくは4%を下限とする。
【0061】
またNaO成分は、原料として例えばNaOまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用してガラス内に導入できる。
【0062】
O成分は、ガラス転移温度(Tg)を下げ、混合したガラス原料の溶融を促進する効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が急激に悪化し、本発明の組成系においてはリヒートプレス成形時の失透性が急激に悪化しやすくなる。従って、好ましくは2%未満、より好ましくは1.5%、最も好ましくは1%を上限として含有することができる。
【0063】
またKO成分は、原料として例えばKOまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用してガラス内に導入できる。
【0064】
Bi成分は、屈折率を高め、ガラス転移温度(Tg)を下げる効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなり、部分分散比を大きくする。従って、好ましくは10%、より好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限として含有することができる。
【0065】
またBi成分は、原料として例えばBi等を使用してガラス内に導入される。
【0066】
TeO成分は、屈折率を高める効果を有する成分であるが、白金製の坩堝や、溶融ガラスと接する部分が白金で形成されている溶融槽でガラス原料を溶融する際、テルルと白金が合金化し、合金となった箇所は耐熱性が悪くなりやすくなるため、その箇所に穴が開き、溶融ガラスが流出する事故がおこる危険性が憂慮される。従って、好ましくは10%を上限とし、より好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限として含有できる。
【0067】
またTeO成分は、原料として例えばTeO等を使用してガラス内に導入される。
【0068】
Ga成分は、屈折率を高める効果を有する成分であるが、原料が非常に高価であるため、好ましくは10%を上限とし、より好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限として含有できる。
【0069】
またGa成分は、原料として例えばGa等を使用してガラス内に導入される。
【0070】
CeO成分は、耐失透性を改善する効果を有する成分であるが、その量が多すぎると短波長領域の光線透過率が悪化しやすくなる。従って、好ましくは10%を上限とし、より好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限として含有できる。
【0071】
またCeO成分は、原料として例えばCeO等を使用してガラス内に導入される。
【0072】
なお、上記ガラス中に存在する各成分を導入させるために使用される原料は、例示の目的で記載したものであり、上記列挙された酸化物等に限定されるものではない。従って、ガラス製造の条件の諸変更に適宜対応させて、公知の原料から選択できる。
【0073】
本発明者は、前記範囲内の光学定数において、TiO成分の含有量とZrO成分、Nb成分の合計含有量の比を所定の値に調節することにより、部分分散比(θg,F)が小さいガラスが得られることを見出した。すなわちTiO/(ZrO+Nb)の値が、好ましくは0.32未満、より好ましくは0.2、最も好ましくは0.15を上限とすることができる。
【0074】
また、本発明者は、SiO、B、TiO、ZrO、Nb、WO、ZnO、SrO、LiO、NaOの各成分の合計含有量を調節することにより、高屈折率高分散特性を有し、部分分散比が小さく、リヒートプレス成形時の失透を抑制したガラスが得られることを見出した。すなわちSiO、B、TiO、ZrO、Nb、WO、ZnO、SrO、LiO、NaOの合計含有量の値が、好ましくは90%より多く、より好ましくは91%、最も好ましくは94%を下限とすることができる。
【0075】
さらに、所望の光学定数を維持し、部分分散比(θg,F)が小さく、かつ安価なガラスを得るためには、TiO/(ZrO+Nb)の値、およびSiO、B、TiO、ZrO、Nb、WO、ZnO、SrO、LiO、NaOの合計含有量の値を同時に上記所定の好ましい範囲内にするほうがよい。
【0076】
Lu、SnO、BeOの各成分は含有させることは可能であるが、Luは高額原料であるため原料コストが高くなり実際の製造においては現実的ではなく、SnOは白金製の坩堝や、溶融ガラスと接する部分が白金で形成されている溶融槽でガラス原料を溶融する際に錫と白金が合金化して合金となった箇所は耐熱性が悪くなり、その箇所に穴が開き溶融ガラス流出する事故がおこる危険性が憂慮され、BeOは、環境に有害な影響を与え、環境負荷の非常に大きい成分である、という問題がある。従って、好ましくは0.1%未満、より好ましくは0.05%を上限として含有され、最も好ましくは含有しない。
【0077】
次に、本発明の光学ガラスに含有させるべきではない成分について説明する。
【0078】
鉛化合物は、ガラスの製造のみならず、研磨等のガラスの冷間加工及びガラスの廃棄に至るまで、環境対策上の措置が必要となり、環境負荷が大きい成分であるという問題があるため、本発明の光学ガラスに含有させるべきではない。
【0079】
As、カドミウム及びトリウムは、共に、環境に有害な影響を与え、環境負荷の非常に大きい成分であるため、本発明の光学ガラスに含有させるべきではない。
【0080】
さらに本発明の光学ガラスにおいては、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Eu、Nd、Sm、Tb、Dy、Er等の着色成分は、含有しないことが好ましい。ただし、ここでいう含有しないとは、不純物として混入される場合を除き、人為的に含有させないことを意味する。
【0081】
なお、本明細書において使用される各成分の含有量の酸化物基準での表記は、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物などが、溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、組成物全体に対する各成分の当該生成酸化物の質量%を表すものであり、フッ化物の場合は生成酸化物の質量に対する実際に含有されるF原子の質量を質量百分率で現したものである。
【0082】
本発明のガラス組成物は、その組成が質量%で表されているため直接的にモル%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各成分のモル%表示による組成は、酸化物基準で概ね以下の値をとる。
SiO 20〜50%、
Nb 10〜30%以下、
並びに
0〜20%及び/又は
GeO 0〜10%及び/又は
Al 0〜10%及び/又は
TiO 0〜15%及び/又は
ZrO 0〜15%及び/又は
WO 0〜10%及び/又は
ZnO 0〜10%及び/又は
SrO 0〜10%及び/又は
LiO 0〜40%及び/又は
NaO 0〜30%及び/又は
Sb 0〜1%
Gd 0〜10%及び/又は
0〜10%及び/又は
MgO 0〜15%及び/又は
CaO 0〜15%及び/又は
BaO 0〜15%及び/又は
Ga 0〜10%及び/又は
CeO 0〜10%及び/又は
TeO 0〜10%及び/又は
Bi 0〜10%及び/又は
【0083】
次に本発明の光学ガラスの物性について説明する。
前述のとおり、本発明の光学ガラスは光学設計上の有用性の観点から、屈折率(n)が好ましくは1.78、より好ましくは1.8、最も好ましくは1.82を下限とし、好ましくは1.95、より好ましくは1.92、最も好ましくは1.9を上限とする。
【0084】
また、本発明の光学ガラスは光学設計上の有用性の観点から、アッベ数(ν)が好ましくは18、より好ましくは20、最も好ましくは22を下限とし、好ましくは30、より好ましくは28、最も好ましくは27を上限とする。
【0085】
また、本発明の光学ガラスは光学設計上の有用性の観点から、部分分散比(θg,F)が好ましくは0.598、より好ましくは0.600、最も好ましくは0.602を下限とし、好ましくは0.620、より好ましくは0.619、最も好ましくは0.618を上限とする。
【0086】
本発明の光学ガラスにおいては、ガラス転移点(Tg)が高くなりすぎると前述したように精密プレス成形を行う場合、成形型の劣化などが起こり易くなる。従って、本発明の光学ガラスのTgは好ましくは650℃、より好ましくは620℃、最も好ましくは600℃を上限とする。
また屈伏点(At)は好ましくは700℃、より好ましくは670℃、最も好ましくは650℃以下とする。
【0087】
本発明の光学ガラスは精密プレス成形用のプリフォーム材として使用することができる。プリフォーム材として使用する場合、その製造方法及び精密プレス成形方法は特に限定されるものではなく、公知の製造方法及び成形方法を使用することができる。例えば、溶融ガラスから直接プリフォーム材を製造することもでき、また板状に成形されたガラスを冷間加工して製造しても良い。
【0088】
なお、本発明の光学ガラスを用いて溶融ガラスを滴下させてプリフォームを製造する場合、溶融ガラスの粘度は、低すぎるとガラスプリフォームに脈理が入りやすくなり、高すぎると、自重と表面張力によるガラスの切断が困難になる。
【0089】
従って、高品質かつ安定した生産のためには、液相温度における粘度(dPa・s)の対数logηの値が好ましくは0.3〜2.0、より好ましくは0.4〜1.8、最も好ましくは0.5〜1.6の範囲である。
【実施例】
【0090】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0091】
本発明のガラスの実施例(No.1〜No.66)の組成を、これらのガラスの屈折率(nd)、アッベ数(νd)、部分分散比(θg,F)、ガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)および失透試験と共に表1〜表9に示した。表中、各成分の組成は質量%で表示するものとする。
【0092】
また、比較例のガラス(No.A〜No.C)の組成を、これらのガラスの屈折率(nd)、アッベ数(νd)、部分分散比(θg,F)、ガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)および失透試験と共に表10に示した。表中、各成分の組成は質量%で表示するものとする。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
【表3】

【0096】
【表4】

【0097】
【表5】

【0098】
【表6】

【0099】
【表7】

【0100】
【表8】

【0101】
【表9】

【0102】
【表10】

【0103】
表1〜表9に示した本発明の実施例の光学ガラス(No.1〜No.66)は、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の通常の光学ガラス用原料を表1〜表9に示した各実施例の組成の割合となるように秤量し、混合し、白金るつぼに投入し、組成による溶融性に応じて、1100〜1400℃で、3〜5時間溶融、清澄、攪拌して均質化した後、金型等に鋳込み徐冷することにより得ることができた。
【0104】
屈折率(nd)及びアッベ数(νd)は徐冷降温速度を−25℃/時にして得られた光学ガラスについて測定した。
【0105】
部分分散比(θg,F)は、徐冷降温速度を−25℃/時にして得られた光学ガラスについてCライン(波長 656.27nm)における屈折率(nC)、Fライン(波長 486.13nm)における屈折率(nF)、gライン(波長 435.835nm)における屈折率(ng)を測定し、θg,F=(ng−nF)/(nF−nC)による式にて算出した。
【0106】
ガラス転移温度(Tg)は日本光学硝子工業会規格JOGIS08−2003(光学ガラスの熱膨張の測定方法)に記載された方法により測定した。ただし試験片として長さ50mm、直径4mmの試料を使用した。
【0107】
屈伏点(At)は前記ガラス転移温度(Tg)と同様の測定方法で行い、ガラスの伸びが止まり、収縮が始まる温度とした。
【0108】
失透試験は、10〜40mmの大きさにガラス塊を切断したものをガラス試料とし、電気炉内で所定の温度まで1〜3時間で昇温し、所定の温度で30分間保持した後、炉内で放冷した。その後、ガラス試料を2面研磨して目視および顕微鏡にてガラス中の失透を観察した。観察の結果、失透のないものを○、失透のあるものを×として表記した。
【0109】
表1〜表9に見られる通り、本発明の実施例の光学ガラス(No.1〜No.66)はすべて、前記範囲内の光学定数(屈折率(nd)及びアッベ数(νd))を有し、部分分散比(θg,F)が0.620以下であり、660℃の失透試験でガラス内部に失透が発生していない。また、ガラス転移温度(Tg)が650℃以下であるため、精密モールドプレス成形に適している。
【0110】
これに対し、表10に示す組成の比較例A〜Cの各試料について、上記実施例と同じ条件にてガラスを作製し、同一の評価方法により、作製したガラスを評価した。比較例A〜Bに見られる通り、質量%の比率でKOが2%未満、の範囲外にあるため、失透試験で失透が発生している。また、比較例Cに見られる通り、TiO/(ZrO+Nb)が0.32未満、かつSiO、B、TiO、ZrO、Nb、WO、ZnO、SrO、LiO、NaOの合計含有量が90%より多い、の範囲外にあるため、部分分散比(θg,F)が0.620以下を満足しない。従って、工業的に利用できない。
【産業上の利用可能性】
【0111】
以上、述べたとおり、本発明の光学ガラスは、組成がSiO−Nb系であり、かつ、質量%の比率でNbが40%より多いガラスであって、屈折率(n)が1.78以上、アッベ数(ν)が30以下、部分分散比(θg,F)が0.620以下の範囲の光学定数を有しているから、光学設計上、非常に有用であり、また、転移温度(Tg)が650℃以下であるから、精密モールドプレス成形に適しており、産業上非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率(n)が1.78以上、アッベ数(ν)が30以下、部分分散比(θg,F)が0.620以下の範囲の光学定数を有し、必須成分としてSiO、Nbを含有し、質量%の比率でNbが40%より多いことを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
酸化物基準の質量%の比率でKOが2%未満、TiO/(ZrO+Nb)が0.32未満、かつSiO、B、TiO、ZrO、Nb、WO、ZnO、SrO、LiO、NaOの合計含有量が90%より多いことを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
酸化物基準の質量%で、
SiO 10〜40%、
Nb 40%より多く65%以下、
並びに
0〜20%及び/又は
GeO 0〜10%及び/又は
Al 0〜10%及び/又は
TiO 0〜15%及び/又は
ZrO 0〜15%及び/又は
WO 0〜15%及び/又は
ZnO 0〜15%及び/又は
SrO 0〜15%及び/又は
LiO 0〜15%及び/又は
NaO 0〜20%及び/又は
Sb 0〜1%
の各成分を含有することを特徴とする請求項1〜2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
酸化物基準の質量%で、
Gd 0〜10%及び/又は
0〜10%及び/又は
MgO 0〜15%及び/又は
CaO 0〜15%及び/又は
BaO 0〜15%及び/又は
Ga 0〜10%及び/又は
CeO 0〜10%及び/又は
TeO 0〜10%及び/又は
Bi 0〜10%及び/又は
の各成分を含有することを特徴とする請求項1〜3に記載の光学ガラス。
【請求項5】
ガラス転移点(Tg)が650℃以下であることを特徴とする請求項1〜4に記載の光学ガラス。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項の光学ガラスからなるレンズプリフォーム材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の光学ガラスからなるモールドプレス成形用レンズプリフォーム材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項の光学ガラスからなる光学素子。

【公開番号】特開2013−28532(P2013−28532A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−233297(P2012−233297)
【出願日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【分割の表示】特願2008−21643(P2008−21643)の分割
【原出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】