説明

光学ガルバノスキャナ及びこれを備えたレーザマーカ装置

【課題】ガルバノミラーを急停止することに伴う加工ラインの蛇行を低減する。
【解決手段】Y軸ガルバノミラーユニット14を支持するためのY軸ガルバノマウント18はベースプレート20の一端部に位置する台座ブロック24から横方向に延出している。このY軸ガルバノマウント18は幅狭であり、Y軸ガルバノミラーユニット14の軸部ケース142の長手方向の一部がY軸ガルバノマウント18によって固定され、軸部ケース142の他の部分は解放されている。Y軸ガルバノマウント18によって軸部ケース142が固定される部位は、Y軸ガルバノミラーユニット14の重心よりも後端側の部位に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学ガルバノスキャナ及び光学ガルバノスキャナを経由して対象物(ワーク)にレーザ光で印字するレーザマーカ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学ガルバノスキャナは高精度、高速で且つ高い分解能で走査することができるため多くの光走査応用例に適用されている。応用の具体例を列挙すれば、光造型装置、レーザマーカ装置、溶接、切断、穴あけなどのレーザ加工装置などがある。
【0003】
特許文献1は光学ガルバノスキャナを備えたレーザマーカ装置を開示している。レーザマーカ装置は、レーザ光源(半導体レーザ)と、コリメータレンズ、シリンドリカルレンズ、収束レンズを含む光学系ユニットと、X軸ガルバノミラーユニット、Y軸ガルバノミラーユニットを含むガルバノスキャナとを備え、X軸ガルバノミラーユニット及びY軸ガルバノミラーユニットは各々の駆動源である電動モータによって独立して、正方向の回動及び逆方向の回動が制御される。光源から出射したレーザ光は光学系ユニットによって収束され、次いでガルバノスキャナによってワーク(マーキング対象物)の表面上でX軸方向及びY軸方向に走査される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−316277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1でも述べているように、ガルバノミラーの回動速度を上げると印字の終端でガルバノミラーを急停止することに伴ってガルバノミラーに振動が発生し、そして次の印字を開始するときにその影響を受けるという問題を有している。ガルバノミラーの振動は印字する線の揺れ(ラインの蛇行)となって表れるためレーザマーカ装置の印字品質が低下する要因となっている。
【0006】
なお、この問題に対して特許文献1は、X軸ガルバノミラーユニットを支持するX軸ガルバノマウントと、Y軸ガルバノミラーユニットを支持するY軸ガルバノマウントとを相互に固定することを提案している。
【0007】
本願発明者は種々の試行錯誤の後、ガルバノマウントつまり支持部材がガルバノミラーユニットを支持する部位に着目することにより本発明を案出したものである。
【0008】
本発明の目的は、ガルバノミラーを急停止することに伴う加工ラインの蛇行を低減できる光学ガルバノスキャナ及びこれを備えたレーザマーカ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
図15を参照して従来のガルバノマウントつまりガルバノミラーユニットを支持する支持部材を示す。図中、参照符号1は支持部材を示す。支持部材1は、ベースプレート2と、ベースプレート2の幅寸法L1と同じ幅寸法を有するY軸ガルバノマウント3とで構成されている。Y軸ガルバノマウント3の頂面3aにX軸ガルバノマウントが固定される。Y軸ガルバノマウント3には、その幅方向に貫通して延びる支持穴4が形成され、この支持穴4にY軸ガルバノミラーユニット(図示せず)が挿入されることにより、Y軸ガルバノミラーユニットがY軸ガルバノマウント3に固定される。
【0010】
図15の参照符号5は、Y軸ガルバノマウント3の支持穴4に達するスリットを示し、このスリット5を横断するボルト挿入穴に挿入したボルト(図示せず)を使ってスリット5の幅を強制的に狭めて支持穴4の直径を小さくすることで、上述したY軸ガルバノミラーユニットがY軸ガルバノマウント3に固定される。なお、図15は上記のボルト挿入穴を省略して図示してある。
【0011】
従来のガルバノマウント3の上記のL1寸法は、Y軸ガルバノミラーユニットの長手方向の寸法つまり後に説明するY軸ガルバノミラーユニットの筒状の軸部ケースの先端部を除いた軸部ケースのほぼ全長の長さ寸法に設定され、ガルバノミラーユニットの軸部ケースの基端から先端の近傍までを包囲する幅寸法を有している。このことは、従来のY軸ガルバノマウント3の設計思想が、Y軸ガルバノミラーユニットを可能な限りその全長に亘ってしっかりと固定するという考えに基づいていることを意味している。
【0012】
ガルバノミラーユニット6は、図16に示すように、軸中心に回動駆動される中心シャフト7の先端にミラーマウンタ8を介してガルバノミラー9が取り付けられている。駆動源であるモータが急停止することに伴う衝撃エネルギに注目してみると、この衝撃エネルギはモータの振動エネルギとガルバノミラーの振動エネルギとに分散する。
【0013】
従来のY軸ガルバノマウント3は、上述したように、Y軸ガルバノミラーユニット6の軸部ケース10を可能な限りその全長に亘ってしっかりと固定するという設計思想に基づいていることから、モータの急停止時の衝撃エネルギはガルバノミラー9に集中し、その結果、ガルバノミラー9の振動エネルギの割合が大きくなっていた、と言うことができる。
【0014】
本願発明者は、ガルバノミラー9に伝わる振動エネルギの割合が大きいことに伴うガルバノミラー9のしなり現象に注目した。ガルバノミラー9のしなり現象とは、ガルバノミラー9の軸線方向先端つまりミラーマウンタ8側とは反対側の自由端における鏡面の上下の揺れであり、ガルバノミラー9の自由端の揺れ幅が大きくなると印字ラインの蛇行となって表れる。本願発明者は、ガルバノミラー9のしなり現象を抑えるのに、従来のガルバノマウント(支持部材)1の設計思想を見直した結果、本発明を案出したものである。なお、典型例としてY軸ガルバノミラーユニットを例示してガルバノミラーのしなり現象を説明したが、このことはX軸ガルバノミラーユニットについても同様である。
【0015】
上記の技術的課題は、本発明によれば、基本的に、
ガルバノマウントによって固定されたガルバノミラーユニットを有し、
該ガルバノミラーユニットが、筒状の軸部ケースに収容された中心シャフトの先端にミラーマウンタを介してガルバノミラーを含んでいる光学ガルバノスキャナであって、
前記ガルバノマウントが、前記ガルバノミラーユニットの軸部ケースの長手方向の一部を限定的に固定するための支持穴を有し、
該支持穴が、前記ガルバノミラーユニットの軸部ケースの基端部分に位置決めされていることを特徴とする光学ガルバノスキャナを提供することにより達成される。
【0016】
本発明によれば、ガルバノミラーユニットの筒状の軸部ケースの長手方向の一部分であってガルバノミラーとは反対側の基端に近い部分に限定してガルバノマウントでガルバノミラーユニットを固定することから、従来に比べて、ガルバノミラーの急停止時の衝撃エネルギがガルバノミラーに集中するのを抑制することができ、その結果、ガルバノミラーのしなり現象を抑制できる。これにより印字ラインの蛇行を低減して印字品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例のレーザマーカ装置の概略構成図である。
【図2】図1のレーザマーカ装置に含まれるガルバノスキャナの基本構成図である。
【図3】実施例のガルバノスキャナの斜視図である。
【図4】ガルバノミラーのしなり現象を説明するための図である。
【図5】図3からX軸ガルバノマウントを取り外したガルバノスキャナの斜視図である。
【図6】第1実施例のガルバノスキャナに含まれる支持部材(Y軸ガルバノマウント)の斜視図である。
【図7】実施例のガルバノスキャナを搭載したレーザマーカ装置の印字と従来のレーザマーカ装置の印字を示す図である。
【図8】実施例のガルバノスキャナに含まれるY軸ガルバノミラーと従来のY軸ガルバノミラーの振幅の時間経過を示す波形図であり、ミラーを急停止した直後の波形図である。
【図9】Y軸ガルバノマウントのスリットの配置に関する変形例を示す図である。
【図10】Y軸ガルバノマウントのスリットの配置に関する他の変形例を示す図である。
【図11】実施例のガルバノスキャナに含まれる支持部材の変形例を示す斜視図である。
【図12】実施例のガルバノスキャナに含まれる支持部材の更なる変形例を示す斜視図である。
【図13】スリット無しのY軸ガルバノマウントとこれによって固定されるY軸ガルバノミラーユニットを説明するための図である。
【図14】図9のスリット無しのY軸ガルバノマウントに対して円周フランジ付きY軸ガルバノミラーユニットを固定する工程を説明するための図である。
【図15】従来のY軸ガルバノマウント(支持部材)の斜視図である。
【図16】実施例に適用した従来からのガルバノミラーユニットの構造を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0018】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の好ましい実施例を説明する。
【0019】
図1は実施例のレーザマーカ装置の概略図である。図1のレーザマーカ装置100はワーク(対象物)の表面に印字するのに用いられる。レーザマーカ装置100は、ヘッド部102とコントローラ104とを有し、両者はケーブル106で接続されている。ヘッド部102には光学ガルバノスキャナ108が収容されている。この光学ガルバノスキャナ108は、レーザ光を出射させるための出射窓110の近傍に配置されている。
【0020】
コントローラ104は、励起光を生成する励起光源(図示せず)やレーザ光を増幅するレーザ光増幅器(図示せず)を有し、レーザ光増幅器から出射されたレーザ光は光ファイバーケーブル106を介してヘッド部102に伝送される。ヘッド部102に伝送されたレーザ光は、ヘッド部102内に配置された反射ミラーによって1回又は複数回反射して、その反射光が光学ガルバノスキャナ108に入射される。なお、図1では、光学ガルバノスキャナ108はヘッド部102の筐体下部内面に固定することとしたが、例えば、その筐体側部内面に固定する等、ヘッド部102の筐体内であればどこに固定しても構わない。また、図1では、ヘッド部102とコントローラ104が別体であるが、これらが一体化されているレーザマーカ装置であっても良いことは言うまでもない。さらに、図1に示すレーザマーカ装置100はファイバレーザマーカであるが、その他、ヘッド部102に発振器を有する固体レーザマーカ装置又はガスレーザマーカ装置等のようにレーザマーカ装置の種類の如何は問わない。
【0021】
図2は光学ガルバノスキャナ108の基本構成図である。光学ガルバノスキャナ108はX軸ガルバノミラーユニット12と、Y軸ガルバノミラーユニット14とを有する。X軸ガルバノミラーユニット12とY軸ガルバノミラーユニット14とは、基本的に同じ構成を有し、筒状の軸部ケース122、142の先端面から突出した中心シャフト124、144の先端に、夫々、X軸ミラー126、Y軸ミラー146が取り付けられている。ここに、X軸ミラー126、Y軸ミラー146は、夫々、ミラーマウンタを介して中心シャフト124、144の先端に取り付けられているが、この図2では、ミラーマウンタの図示を省略してある。
【0022】
引き続き図2を参照して、X軸ガルバノミラーユニット12、Y軸ガルバノミラーユニット14の配置関係を説明すると、X軸ガルバノミラーユニット12とY軸ガルバノミラーユニット14とは、X軸ガルバノミラー126とY軸ガルバノミラー146の光路が互いに直交するように位置決めされている。なお、ここでのX軸及びY軸は、X軸とY軸のガルバノミラーの位置が各々原点を示す際にレーザマーカ装置から出射されたレーザ光に対して、レーザ光の出射方向に所定の距離を置いて直交する平面であるレーザ光の走査可能な2次元平面を形成するX軸とY軸を意味する。つまり、X軸ガルバノミラーユニット12とは、2次元走査平面のX方向にレーザ光を変位させる機能を有するものを言い、実施例では、レーザ光の入力側のガルバノミラーユニットを構成している。他方、Y軸ガルバノミラーユニット14とは、2次元走査平面のY方向にレーザ光を変位させる機能を有するものを言い、実施例では、レーザ光の出力側のガルバノミラーユニットを構成している。
【0023】
図3は、光学ガルバノスキャナ108の全体構成を示す。図3を参照して、X軸ガルバノミラーユニット12はX軸ガルバノマウント16に固定されている。Y軸ガルバノミラーユニット14はY軸ガルバノマウント18に固定されている。X軸、Y軸のガルバノミラーユニット12、14は同じ構成を有し、Y軸ガルバノミラーユニット14を例に説明すると、軸部ケース142の先端面から上述した中心シャフト144が外部に延出し、この中心シャフト144の先端にY軸ミラーマウンタ148を介してY軸ミラー146が取り付けられている。この構成はX軸ガルバノミラーユニット12でも同様であり、このX軸ガルバノミラーユニット12に含まれるX軸ミラーマウンタを図3に参照符号128に図示してある。
【0024】
出力側のガルバノミラーユニットであるY軸ガルバノミラーユニット14のY軸ミラー146は、X軸ミラー126と比べて回動軸方向、つまりミラーの軸線方向長さが大きく、細長い形状(略長方形状)を有している。つまり、Y軸ミラー146の回動軸方向の長さは、X軸ミラーの回動軸方向の長さよりも大きい。これは、図2、図3に示すように、上述した2次元走査平面内のX方向のいずれの位置にも揺動可能なX軸ミラー126で反射されたレーザ光を、Y軸ミラー146で受け取って反射するためにY軸ミラー146の軸線方向長さLa(図5)を、これと直交する幅方向長さLw(図5)よりも大きく設定されるためである。このことは、ミラーの大きさを設計する段階で、レーザ光を反射するのに必要最小限の大きさとすることによりミラーの重量を必要最小限のものとし、ミラーの回動から停止時の、ミラーにかかる慣性力を最小限とすることを企図していることに由来する。
【0025】
このことはX軸ミラー126についても同様であり、X軸ミラー126の大きさを設計する段階で、レーザ光源からのレーザ光を上述した略X方向に反射するために、ミラーとしては、X軸ミラー126の軸線方向長さLaを幅方向長さLwよりも大きくなるようにX軸ミラー126の大きさ及び形状が設定される。
【0026】
従って、X軸ミラー126、Y軸ミラー146は共にX軸、Y軸のガルバノミラーユニット12、14の急停止によって、ミラー126、146の軸線方向長さの先端がミラー126、146の正規位置にある鏡面と直交する方向に変位する「しなり現象」を発生する。つまり、ミラー126、146の鏡面が中心シャフト124、144の回動軸線から離間する方向に変位し、この変位は、ミラー126、146の先端に近づくほど、その傾向が高くなる。言い換えると、細長い形状を有するX軸ミラー126及びY軸ミラー146は、X軸ミラーマウンタ128、Y軸ミラーマウンタ148を基端として、これから離れる程変位量(揺れ幅)が大きくなる。
【0027】
図4を参照してY軸ミラー146のしなり現象に伴う問題点を説明すると、Y軸ミラー146にしなり現象が現れると、Y軸ミラー146の法線ベクトルの角度が変わる。その結果、レーザ光の走査点がオフセットし、図1、図2に示すX軸方向の印字ぶれとなり、Y軸方向に直線を印字しようとしたとき、印字ラインの蛇行を誘発する。
【0028】
前述した図16を参照してY軸ガルバノミラーユニット14について説明すると、中心シャフト144は磁性体で構成され、そして軸部ケース142には、中心シャフト144の周囲にコイルが配置されて、この軸部ケース142の内部構造によってモータが構成されている。軸部ケース142は断面円形の外形輪郭を有する筒状の形状を有し、この軸部ケースの後端つまり基端に相対的に大径の断面円形の輪郭を有する筒状の付加的ケース142aが連設されている。この付加的ケース142aにはエンコーダが配置され、このエンコーダによって中心シャフト144の回転位置の検出が行われる。なお、エンコーダは位置検出センサの一例に過ぎず、例えばエンコーダに代えて静電容量センサであってもよい。
【0029】
Y軸ガルバノミラーユニット14は、軸部ケース142に内蔵されたコイルに流れる電流を切り替えることによって実質的にモータの出力軸を構成する中心シャフト144の回転方向を切り替えることができ、そして、中心シャフト144は360度よりも小さな所定の角度範囲内で正方向、逆方向の回転を繰り返し、回転方向の切り替えの際に急停止する。中心シャフト144は、Y軸ガルバノミラーユニット14の軸部ケース142の内部において、ベアリング(図示せず)によって支持されている。例えば、軸部ケース142の両端付近にベアリングを配置することが可能である。振動発生源となる中心シャフト144からの振動は、このベアリングを通じて軸部ケース142に伝わることになる。
【0030】
X軸ガルバノミラーユニット12も上記のY軸ガルバノミラーユニット14の構成と同じであり、X軸ガルバノミラーユニット12の付加的ケースを図3に参照符号122aで図示してある。
【0031】
図示の例では、X軸ガルバノミラーユニット12及びY軸ガルバノミラーユニット14の付加的ケース122a、142aは軸部ケース122、142に比べて相対的に大径となっているが、変形例として、付加的ケース122a、142aは軸部ケース122、142と同じ径を有していてもよい。また、本実施形態に係る光学ガルバノスキャナ108では、X軸ガルバノミラーユニット12及びY軸ガルバノミラーユニット14は付加的ケース122a、142aに夫々エンコーダを具備する構成を採用しているが、エンコーダ無しのユニット122、142であってもよい。また、軸部ケース122、142は図示の例では、断面円形の筒状の外形輪郭を有しているが、外形輪郭の断面形状は任意であり、例えば多角形であってもよい。
【0032】
また、光学ガルバノスキャナ108は、前述した特許文献1に開示のようにレーザマーカ装置に組み込まれて、ワークの表面に印字を付すのに用いられる。レーザマーカ装置は、前述したように、光源から出射されるレーザ光を光学ガルバノスキャナ108を用いて走査させることでワーク表面に印字加工を施す。光学ガルバノスキャナ108を内蔵したレーザマーカ装置の基本構成は、図1を用いて概略説明したが、より詳細には、前述した特許文献1及びJP特開2008−68308号公報に説明されているので、特許文献1及びJP特開2008−68308号公報の開示をここに援用する。
【0033】
図3及び図5を参照してX軸ガルバノマウント16及びY軸ガルバノマウント18を説明する。図5はX軸ガルバノマウント16を取り外した状態の光学ガルバノスキャナ108を示す。図3を参照して、光学ガルバノスキャナ108は、平面視したときに略長方形の形状のベースプレート20を備えた支持部材22を有し、ベースプレート20はレーザマーカ装置100のヘッド部102の内部に固定される。支持部材22は、ベースプレート20の一端部に上方に向けて隆起した略直方体形状の台座ブロック24を有している。支持部材22を示す図6を参照して、台座ブロック24の平らな且つ水平な頂面24aには複数のネジ穴26が形成されている。なお、このネジ穴26は図5では描かれていない。前述したX軸ガルバノマウント16は台座ブロック24の頂面24aに搭載され、そして複数のボルト(図示せず)を使ってX軸ガルバノマウント16(図3)が台座ブロック24にボルト締結されることにより、この台座ブロック24に固定される。
【0034】
台座ブロック24には、この台座ブロック24から横方向つまりベースプレート20の他端に向けて延出するY軸ガルバノマウント18が片持ち状に一体に形成されている。Y軸ガルバノマウント18は直方体の形状を有し、また、Y軸ガルバノミラーユニット14の小径軸部ケース142と相補的な円形輪郭を有する円形輪郭の支持穴30を有し、この支持穴30の中に電気的に絶縁性の樹脂スペーサ32(図5)を介して軸部ケース142が装着される。
【0035】
Y軸ガルバノマウント18は、その自由端面18aの上下方向中間部分から水平方向に延びて支持穴30に達するスリット34を有し、Y軸ガルバノマウント18の自由端部には上下方向に延びる1つのボルト締結穴36が穿設され、この1つのボルト締結穴36にボルト(図示せず)を螺着して、このボルトを締めることによりスリット34の幅を狭めて支持穴30の直径を小さくすることで、Y軸ガルバノミラーユニット14の軸部ケース142を固定することができる。勿論、ボルト締結穴36をボルト挿入穴で構成し、このボルト挿入穴を貫通するボルトにナットを螺着するようにしてもよい。
【0036】
言い換えると、Y軸ガルバノマウント18は、ベースプレート20に対して実質的に平行に空間に向けて、台座ブロック24から片持ち梁のように延出しており、そして、支持穴30よりも前方に延びる部分がスリット34で上下に分割された、対をなすアーム18b、18cを有している。このアーム18b、18cの対は、対をなす締め付け部と呼ぶことができ、この締め付け部の対に、これを平面視したときに上下に延びるボルト締結穴36又はボルト挿入穴が形成される。この上下のアーム18b、18cの先端部分の間隔をボルトを使って狭めることにより、Y軸ガルバノミラーユニット14がY軸ガルバノマウント18に固定される。また、言うまでも無いが、ガルバノミラーユニットの一部を支持する円形輪郭の支持穴30は、Y軸ガルバノミラーユニット18の中心シャフト144が、2次元走査平面と平行となるように、ガルバノミラーユニットを支持する形状を有している。
【0037】
なお、実質的にモータを構成する軸部ケース142をY軸ガルバノマウント18に固定した状態で、軸部ケース142の軸線方向(長手方向)の全域のうち、支持穴30で囲まれていない部分であって且つY軸ミラー146に近い側の部分は開放空間に囲まれている。すなわち、軸部ケース142は、その一部が支持穴30で囲まれて、他の部材はベースプレート20や台座ブロック24と接触していない非接触部分となっており、当該部分の表面は開放空間に露出している。つまり、Y軸ガルバノマウント18は台座ブロック24から片持ち状に延出した構成を有し且つY軸ガルバノマウント18の下面がベースプレート20から離間している。
【0038】
Y軸ガルバノマウント18の上記の幅狭の構造はY軸ガルバノマウント18が振動し易い構造であると言える。このことによりY軸ガルバノマウント18を介してY軸ガルバノミラーユニット14の急停止時の衝撃エネルギを吸収することで、この衝撃エネルギがY軸ミラー146に集中するのを抑えることができる。そして、Y軸ミラー146への衝撃エネルギの集中を回避することで、Y軸ミラー146の「しなり現象」を低減することができる。
【0039】
実施例に含まれる片持ち状態のY軸ガルバノマウント18(図3、図5、図6)と、図15を参照して前述した従来のガルバノマウント1とを対比すると良く理解できるように、実施例に含まれるY軸ガルバノマウント18の幅寸法L2(図6)つまりY軸ガルバノミラーユニット14を支持する部分の寸法が、従来のガルバノマウント1の幅寸法L1(図15)よりも小さいことが分かるであろう。具体的な数値で説明すると、従来のガルバノマウント1の幅寸法L1は40mmであるのに対して、実施例に含まれるY軸ガルバノマウント18の幅寸法L2は10mmであり、上述した軸部ケース142の非接触部分は30mmである。そして、この幅狭のY軸ガルバノマウント18は、Y軸ガルバノミラーユニットの重心G(図5)よりも基端側つまりY軸ミラー146から遠ざかる位置に位置決めされている。
【0040】
実施例の光学ガルバノスキャナ108を搭載したレーザマーカ装置と、従来のガルバノマウント1を含むレーザマーカ装置とを用意して印字テストした結果を図7に示す。従来のレーザマーカ装置の印字は蛇行が目立つが、実施例の光学ガルバノスキャナ108を搭載したレーザマーカ装置の印字は蛇行が殆ど見られない良好な印字品質であった。
【0041】
実施例に含まれるY軸ガルバノマウント18と従来のガルバノマウント1とを使ってミラー146の振動を計測した結果を図8に示す。この振動試験は、スキャンスピード(印字面での焦点移動速度)12000mm/sec.相当の台形波駆動を行ってスキャンが停止した瞬間のミラー146の縦振動を測定した。
【0042】
図8の一点鎖線は従来品の波形であり、実線は実施例の波形である。この図8から従来品に比べて実施例では振幅が半分になっているのが分かる。また、振幅の収束も従来品に比べて実施例の方が素早く収束していることが分かる。これは、従来品では、中心シャフト144の急停止時の衝撃エネルギがY軸ミラー146に集中していたのに対し、実施例では、この衝撃エネルギが軸部ケース142(特に軸部ケース142の非接触部分)の振動により吸収され、Y軸ミラー146に伝わる振動エネルギが小さくなったためと考えられる。
【0043】
上記の実施例のように、Y軸ガルバノミラーユニット14の軸部ケース142の基端部分をその長手方向に10mm支持する形式(幅寸法L2=10mm)の他に、15mm支持する形式(幅寸法L2=15mm)のY軸ガルバノマウント18を備えた支持部材22を作製して図7の印字テストを行ったところ、幅寸法L2=15mmの実施例は、幅寸法L1=10mmの実施例の印字品質よりも若干劣るものの従来品よりは優れた結果を得た。
【0044】
また、Y軸ガルバノミラーユニット14の重心G(図5)を中心にして10mm支持する形式(幅寸法L2=10mm)と、15mm支持する形式(L2=15mm)のY軸ガルバノマウント18を備えた支持部材22を作製して図7の印字テスト(ラインの蛇行の有無)を行ったところ、幅寸法L2=15mmの実施例は、幅寸法L1=10mmの実施例の印字品質よりも若干劣るものの従来品よりは優れた結果を得た。
【0045】
このように、Y軸ガルバノミラーユニット14の長手方向の一部を支持する支持部材22でY軸ガルバノミラーユニット14のミラー146から長手方向中間部分又は基端部分を支持することで従来品よりも印字品質を改善できることが分かった。すなわち、Y軸ガルバノミラーユニット14のY軸ミラー146から離間した長手方向中間部分又は後端部分を支持することで、軸部ケース142(特に、軸部ケース142のY軸ミラー146に近い非接触部分)を振動(揺動)させ、衝撃エネルギを吸収し、Y軸ミラー146に伝わる衝撃エネルギを低減し、その結果、Y軸ミラー146の先端がY軸ミラー146の回動軸線から離れる方向に変位する「しなり現象」(図4)が抑制され、印字品質が向上することが分かった。
【0046】
また、軸部ケース142を揺らして衝撃エネルギを吸収する、という作用からすると、Y軸ガルバノミラーユニット14の中間部分のみを支持するよりも、Y軸ガルバノミラーユニット14の後端部分のみを支持する方が好ましい。Y軸ガルバノミラーユニット14の軸部ケース142のうち、Y軸ミラー146に近い非接触部分、すなわち、揺動して衝撃エネルギを吸収する部分が増えるからである。
【0047】
また、Y軸ガルバノマウント18のスリット34の向き及び配置位置に関して、図9に示すように鉛直方向に延びるようにスリット34を形成した場合であって、図10に示すように、横方向に延びるスリット34を支持穴30の中心からオフセットして配置した場合であっても、印字テストの結果にさほどの変化は無かった。このように、本実施形態に係る光学ガルバノスキャナ108では、Y軸ガルバノマウント18の形状を変えたとしても、一定の印字品質向上を期待することができる。
【0048】
さらに、図9及び図10に示したような変形例以外にも、他の変形例が考えられる(図11)。図11に示す変形例では、Y軸ガルバノマウント18の下端面がベースプレート20と一体化している。図11に図示のようなY軸ガルバノマウント18であっても、軸部ケース142を揺らして衝撃エネルギを吸収する、という作用は有するため、一定の印字品質向上を期待することができる。
【0049】
本実施例では、Y軸ガルバノマウント18とX軸ガルバノマウント16を、台座ブロック24によって一体化している。これにより、Y軸ガルバノマウント18とX軸ガルバノマウント16の位置決め精度を向上させることができる。但し、本発明を適用するにあたって必ずしも一体化している必要はなく、例えばレーザマーカの筐体内に、Y軸ガルバノマウント18とX軸ガルバノマウント16を別々に取り付けても構わない。
【0050】
図12は別の変形例を示す。図12に図示の例では台座ブロック24を有していない構成を有する。この図12の例のようにベースプレート20の上面にY軸ガルバノマウント18を起立させた構成であっても一定の印字品質の向上を期待することができる。このように、Y軸ガルバノマウント18は、台座ブロック24の側方に延出したものであっても、ベースプレート20から上方に延出したものであってもよい。要するに、中心シャフト144の軸方向に沿って軸部ケース142の外周面と対向する対向面を有し、Y軸ガルバノマウント18がこの対向面から空間へ延出するように固定された固定部材を設ければよい。
【0051】
Y軸ガルバノマウント18の更なる変形例として、図13に示すようにスリット無しのY軸ガルバノマウント40であってもよい。このY軸ガルバノマウント40は、Y軸ガルバノミラーユニット14の軸部ケース142の基端部つまり付加的ケース142aに隣接して円周フランジ42を付設する又は円周フランジ42を備えたY軸ガルバノミラーユニット14に好適に適用することができる。この円周フランジ42を備えたY軸ガルバノミラーユニット14をY軸ガルバノマウント40に固定するには、ボルト挿通穴44aを備えた固定リング44を用意し、ボルト46(図14に矢印で図示)を使って固定リング44をY軸ガルバノマウント40の側面に締結することで、この固定リング44とY軸ガルバノマウント40との間に円周フランジ42(Y軸ガルバノミラーユニット14)を挟み込む形式でY軸ガルバノミラーユニット14をY軸ガルバノマウント40に固定すればよい。この変形例のY軸ガルバノマウント18に関して、図7の印字テストを実際に行っていないが、スリット34を備えたY軸ガルバノマウント18と同等の印字品質を確保できると期待できる。
【0052】
以上、Y軸ガルバノマウント18を例に説明したが、本発明はX軸ガルバノマウント16に好適に適用できるのは言うまでもない。また、実施例の光学ガルバノスキャナ108をレーザマーカ装置に適用した例を説明したが、光造型装置、溶接、切断などの加工機に適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
100 レーザマーカ装置
108 光学ガルバノスキャナ
12 X軸ガルバノミラーユニット
14 Y軸ガルバノミラーユニット
142 Y軸ガルバノミラーユニットの軸部ケース(コイル内蔵)
142a Y軸ガルバノミラーユニットの付加的なケース(エンコーダ内蔵)
144 Y軸ガルバノミラーユニットの中心シャフト
146 Y軸ガルバノミラーユニットのガルバノミラー
148 Y軸ミラーマウンタ
16 X軸ガルバノマウント
18 Y軸ガルバノマウント
L2 Y軸ガルバノマウントの幅寸法
20 ベースプレート
22 支持部材
24 台座ブロック
30 Y軸ガルバノマウントの支持穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガルバノマウントによって定置されたガルバノミラーユニットを有し、
該ガルバノミラーユニットが、筒状の軸部ケースに収容された中心シャフトの先端にミラーマウンタを介してガルバノミラーを取り付けられた光学ガルバノスキャナであって、
前記ガルバノマウントが、前記ガルバノミラーユニットの軸部ケースの長手方向の一部を限定的に固定するための支持穴を有し、
前記ガルバノミラーユニットは、前記支持穴で包囲された部分を除く前記軸部ケースの部分が解放されていることを特徴とする光学ガルバノスキャナ。
【請求項2】
前記ガルバノミラーユニットが、光路を直交させた状態で配置された入力側の第1のガルバノミラーユニットと、出力側の第2のガルバノミラーユニットとを有し、
該第1、第2のガルバノミラーユニットのうち、少なくとも出力側の第2のガルバノミラーユニットが、該第2のガルバノミラーユニットの軸部ケースの長手方向の一部を限定的に固定するための支持穴を有する前記ガルバノマウントによって支持されている、請求項1に記載の光学ガルバノスキャナ。
【請求項3】
光源からレーザ光が入力され、
前記第1のガルバノミラーユニットによって、前記レーザ光が前記2次元平面上で第1の方向に走査され、
前記第2のガルバノミラーユニットによって、前記レーザ光が前記2次元平面上で第1の方向とは略直交する第2の方向に走査される、請求項2に記載の光学ガルバノスキャナ。
【請求項4】
前記第1、第2のガルバノミラーユニットが、共にガルバノミラーユニットの軸部ケースの長手方向の一部を限定的に固定するための支持穴を有する前記ガルバノマウントによって支持されている、請求項2又は3に記載の光学ガルバノスキャナ。
【請求項5】
前記支持穴が、前記ガルバノミラーユニットの重心よりも該ガルバノミラーユニットの基端側に近い部分に位置決めされている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学ガルバノスキャナ。
【請求項6】
前記ガルバノマウントが、これと一体化されたベースプレートを有する支持部材によって構成され、
前記ガルバノマウントが前記ベースプレートから起立している、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学ガルバノスキャナ。
【請求項7】
前記ガルバノマウントが、これと一体化されたベースプレートを有する支持部材によって構成され、
該ベースプレートには上方に向けてブロックが形成され、
前記ガルバノマウントが、前記ブロックから片持ち状に横方向に延びており、
該ガルバノマウントの下面が前記ベースプレートから離間している、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学ガルバノスキャナ。
【請求項8】
前記ガルバノマウントが前記支持穴に達するスリットを有し、該スリットの幅を狭めることにより前記ガルバノミラーユニットの軸部ケースを固定する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の光学ガルバノスキャナ。
【請求項9】
前記ガルバノミラーユニットの前記軸部ケースにコイルが内蔵され、前記中心シャフトが磁性体で構成されている、請求項1〜8のいずれか一項に記載の光学ガルバノスキャナ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の光学ガルバノスキャナを備えたレーザマーカ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−50644(P2013−50644A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189487(P2011−189487)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000129253)株式会社キーエンス (681)
【Fターム(参考)】