説明

光学デバイス、光学デバイスの製造方法、光スキャナーおよび画像形成装置

【課題】振動系を有する基体上に迷光防止層を設けた構成において、比較的簡単に、長寿命化を図ることができる光学デバイス、光学デバイスの製造方法、光スキャナーおよび画像形成装置を提供すること。
【解決手段】光スキャナー1は、光反射性を有する光反射部211が設けられた可動板21と、支持部22と、可動板21を支持部22に対して回動可能に連結する1対の連結部23、24とを備え、これらがシリコンで一体的に形成された板状の基体2と、基体2の板面上に設けられ、光の反射を防止または抑制する機能を有する迷光防止層61とを有し、迷光防止層61は、基体2を平面視したときに、連結部23、24の縁部、および、可動板21および支持部22の縁部のうちの連結部23、24近傍部分を除くように設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学デバイス、光学デバイスの製造方法、光スキャナーおよび画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術によりシリコン基板を加工して形成された捩り振動子を有する構造体を用いた光学デバイスが知られている(例えば、特許文献1参照)。このような光学デバイスは、例えば、プリンターやディスプレイ等において、光を走査する光スキャナーとして用いられる。
例えば、特許文献1に記載された光スキャナーは、入射した光を反射する反射面を有する反射ミラー部と、反射ミラー部に連結された弾性を有するはり部とを有し、はり部を捩り変形させながら反射ミラー部を回動させる。
【0003】
このような光スキャナーにおいては、反射ミラー部の反射面以外の部分、例えば、はり部上にも光が入射した場合、その光がはり部で反射すると、その反射光が迷光となり、得られる画像の品質に悪影響を及ぼしてしまう。
そこで、例えば、特許文献1に記載の光スキャナーでは、はり部の光反射部側の面の全域に、酸化ニッケルで構成された無反射膜が設けられている。
【0004】
ところで、反射ミラー部およびはり部を有する構造体は、シリコン基板をエッチングすることにより形成される。
かかる構造体をドライエッチングにより形成すると、反射ミラー部およびはり部の側面にいわゆるスキャロップと呼ばれる凹凸が形成されてしまう。また、かかる構造体をウェットエッチングにより形成すると、反射ミラー部とはり部との連結部にシリコンの結晶面に起因する角部が形成されてしまう。
【0005】
このような凹凸や角部は、はり部に形成されていると、反射ミラー部の回動に伴って応力が集中しやすく、光スキャナーの寿命を短くする原因となる。この為、凸凹部の平坦化及び角部に丸みを持たせる処理が必要となる。このような手法としては、シリコンの表面拡散運動を利用した熱処理が有効である。
しかし、無反射膜を形成する工程と、応力集中を抑えるために凸凹部の平坦化及び角部に丸みを持たせる工程をそれぞれ行う必要があるため、工程数が増え生産性が低下する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−107069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、振動系を有する基体上に迷光防止層を設けた構成において、比較的簡単に、長寿命化を図ることができる光学デバイス、光学デバイスの製造方法、光スキャナーおよび画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の光学デバイスは、光反射性を有する光反射部、前記光反射部を備える所定の軸まわりに回動可能な可動部、前記可動部に連結する少なくとも1つの連結部、前記連結部を支持する支持部、を含み、かつシリコンで形成された板状の基体と、
前記基体の表面に設けられ、光の反射を防止または抑制する機能を有する迷光防止層とを有し、
前記迷光防止層は、前記基体を前記基体の厚さ方向から平面視したときに、前記連結部の縁部、および、前記可動部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部、ならびに、前記支持部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部、を除いて設けられていることを特徴とする。
【0009】
このような光学デバイスによれば、基体上に迷光防止層が形成された状態で、可動部と連結部との接続部分の側面、および支持部と連結部との接続部分の側面、ならびに連結部の側面全域を平坦化処理することができる。また、この平坦化処理に伴って、可動部の縁部と連結部の縁部とを接続する縁部、および支持部の縁部と連結部の縁部とを接続する縁部、ならびに連結部の縁部を丸め処理することができる。
よって、可動部の回動に伴って連結部および連結部の周辺に生じる応力集中を防止または緩和することができる。その結果、光学デバイスの長寿命化を図ることができる。
【0010】
本発明の光学デバイスでは、前記連結部の縁部、および、前記可動部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部、ならびに、前記支持部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部は、それぞれ、シリコンで構成された面が露出していることが好ましい。
これにより、可動部と連結部との接続部分の側面、および支持部と連結部との接続部分の側面、ならびに連結部の側面全域を平坦化処理することができる。
【0011】
本発明の光学デバイスでは、前記連結部の縁部、および、前記可動部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部、ならびに、前記支持部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部は、それぞれ、平坦化処理されていることが好ましい。
これにより、可動部の回動に伴って連結部および連結部の周辺に生じる応力集中を防止または緩和することができる。
【0012】
本発明の光学デバイスでは、前記迷光防止層は、前記迷光防止層の表面が粗面化されていることが好ましい。
これにより、迷光防止層の光の反射を防止または抑制する機能を優れたものとすることができる。
本発明の光学デバイスでは、前記迷光防止層は、前記基体の前記光反射部が設けられる側の表面に設けられていることが好ましい。
これにより、迷光の発生を効果的に防止することができる。
【0013】
本発明の光学デバイスでは、前記迷光防止層は、前記基体を前記基体の厚さ方向から平面視したときに、前記可動部の前記光反射部が設けられる表面、前記連結部の縁部、前記可動部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部、ならびに、前記支持部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部を除いて、前記基体の表面の略全域に設けられていることが好ましい。
これにより、迷光の発生をより効果的に防止することができる。
【0014】
本発明の光学デバイスでは、前記迷光防止層は、前記基体の前記光反射部が設けられる表面とは反対の表面に設けられていることが好ましい。
これにより、迷光の発生をさらに効果的に防止することができる。
本発明の光学デバイスでは、前記迷光防止層は、シリコン酸化膜で構成されていることが好ましい。
シリコン酸化膜は、シリコンの熱酸化処理により比較的簡単に形成することができる。また、平坦化処理として水素アニール処理を用いた場合、迷光防止層の表面に微細な凹凸を形成することができる。このような凹凸を有する迷光防止層は、光の反射を防止または抑制することができる。
【0015】
本発明の光学デバイスの製造方法は、シリコン基板の表面に、光の反射を防止または抑制する機能を有する迷光防止層を形成する工程と、
前記シリコン基板をエッチングした後に平坦化処理を施すことにより、所定の軸まわりに回動可能な可動部、前記可動部に連結する少なくとも1つの連結部、前記連結部を支持する支持部、を含む板状の基体を形成する工程とを有し、
前記迷光防止層を形成する工程では、前記基体を前記基体の厚さ方向から平面視したときに、前記連結部の縁部、および、前記可動部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部、ならびに、前記支持部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部、を除いて前記迷光防止層を形成することを特徴とする。
【0016】
このような光学デバイスの製造方法によれば、基体上に迷光防止層が形成された状態で、可動部と連結部との接続部分の側面、および支持部と連結部との接続部分の側面、ならびに連結部の側面全域を平坦化処理することができる。また、この平坦化処理に伴って、可動部の縁部と連結部の縁部とを接続する縁部、および支持部の縁部と連結部の縁部とを接続する縁部、ならびに連結部の縁部を丸め処理することができる。
よって、得られる光学デバイスは、可動部の回動に伴って連結部および連結部の周辺に生じる応力集中を防止または緩和することができ、その結果、長寿命化を図ることができる。
【0017】
本発明の光学デバイスの製造方法では、前記平坦化処理は、水素アニール処理、または水素アニール処理後、Ar雰囲気でアニール処理を行う処理であることが好ましい。
これにより、可動部と連結部との接続部分の側面、および支持部と連結部との接続部分の側面、ならびに連結部の側面の平坦化処理を行うことができる。また、可動部の縁部と連結部の縁部とを接続する縁部、および支持部の縁部と連結部の縁部とを接続する縁部ならびに連結部の縁部の丸め処理を行うことができる。
【0018】
本発明の光スキャナーは、光反射性を有する光反射部、前記光反射部を備える所定の軸まわりに回動可能な可動部、前記可動部に連結する少なくとも1つの連結部、前記連結部を支持する支持部、を含み、かつシリコンで形成された板状の基体と、
前記基体の表面に設けられ、光の反射を防止または抑制する機能を有する迷光防止層とを有し、
前記迷光防止層は、前記基体を前記基体の厚さ方向から平面視したときに、前記連結部の縁部、および、前記可動部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部、ならびに、前記支持部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部、を除いて設けられていることを特徴とする。
【0019】
このような光スキャナーによれば、基体上に迷光防止層が形成された状態で、可動部と連結部との接続部分の側面、支持部と連結部との接続部分の側面、ならびに連結部の側面全域を平坦化処理することができる。また、この平坦化処理に伴って、可動部の縁部と連結部の縁部とを接続する縁部、および支持部の縁部と連結部の縁部とを接続する縁部、ならびに連結部の角部を丸め処理することができる。
よって、可動部の回動に伴って連結部および連結部の周辺に生じる応力集中を防止または緩和することができる。その結果、光スキャナーの長寿命化を図ることができる。
【0020】
本発明の画像形成装置は、光を出射する光源と、
前記光源からの光を走査する光スキャナーとを備え、
前記光スキャナーは、
光反射性を有する光反射部、前記光反射部を備える所定の軸まわりに回動可能な可動部、前記可動部に連結する少なくとも1つの連結部、前記連結部を支持する支持部、を含み、かつシリコンで形成された板状の基体と、
前記基体の表面に設けられ、光の反射を防止または抑制する機能を有する迷光防止層とを有し、
前記迷光防止層は、前記基体を前記基体の厚さ方向から平面視したときに、前記連結部の縁部、および、前記可動部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部、ならびに、前記支持部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部、を除いて設けられていることを特徴とする。
このような画像形成装置よれば、可動部の回動に伴って連結部および連結部の周辺に生じる応力集中を防止または緩和することができる。その結果、光スキャナーの長寿命化、ひいては、画像形成装置の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態に係る光スキャナー(光学デバイス)を示す平面図(上面図)である。
【図2】図1中のA−A線断面図である。
【図3】図1に示す光スキャナーに備えられた基体(可動板、支持部および1対の弾性部を備える構造体)を示す平面図(下面図)である。
【図4】図3に示す基体の部分拡大図である。
【図5】図1に示す光スキャナーの製造方法を説明する断面図である。
【図6】図1に示す光スキャナーの製造方法を説明する断面図である。
【図7】シリコン構造体をシリコン酸化膜で構成された迷光防止層で覆った状態で水素アニール処理したときの表面状態を示す図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る光スキャナーを示す断面図である。
【図9】図7に示す光スキャナーに備えられた基体(可動板、支持部および1対の弾性部を備える構造体)を示す平面図(下面図)である。
【図10】本発明の画像形成装置の実施形態(プロジェクター)を示す概略図である。
【図11】本発明の画像形成装置の実施形態(ヘッドアップディスプレイ)を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の光学デバイス、光学デバイスの製造方法、光スキャナーおよび画像形成装置の好適な実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態では、本発明の光学デバイスを光スキャナーに適用した場合を例に説明する。
<第1実施形態>
まず、本発明の光スキャナーの第1実施形態について説明する。
【0023】
図1は、本発明の第1実施形態に係る光スキャナー(光学デバイス)を示す平面図(上面図)、図2は、図1中のA−A線断面図である。図3は、図1に示す光スキャナーに備えられた基体(可動板、支持部および1対の弾性部を備える構造体)を示す平面図(下面図)、図4は、図3に示す基体の部分拡大図である。図5および図6は、それぞれ、図1に示す光スキャナーの製造方法を説明する断面図、図7は、シリコン構造体をシリコン酸化膜で構成された迷光防止層で覆った状態で水素アニール処理したときの表面状態を示す図である。なお、以下では、説明の便宜上、図2、5、6中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0024】
図1に示すように、光スキャナー1は、振動系を有する板状の基体2と、基体2を支持する支持体3と、基体2の振動系を振動させる駆動手段4とを有する。
また、基体2は、光反射部211が設けられた可動板(可動部)21と、可動板21に連結する1対の連結部23、24と、1対の連結部23、24とを支持する支持部22とを有している。支持部22は連結部23、24を介して可動板21を支持しているとも言え、1対の連結部23、24は可動板21と支持部22とを連結しているとも言える。
このような光スキャナー1では、駆動手段4の駆動力により、各連結部23、24を捩り変形させながら、可動板21を連結部23、24に沿った所定の軸まわりに回動させる。これにより、光反射部211で反射した光を所定の一方向に走査することができる。
【0025】
以下、光スキャナー1を構成する各部を順次詳細に説明する。
[基体]
基体2は、前述したように、光反射部211が設けられた可動板21と、可動板21を支持する支持部22と、可動板21と支持部22とを連結する1対の連結部23、24とを有する。
【0026】
このような基体2は、シリコンで構成されており、可動板21、支持部22および連結部23、24が一体的に形成されている。この基体2は、後に詳述するように、シリコン基板をエッチングすることにより形成されたものであり、基体2には、かかるエッチングにより厚さ方向に貫通した異形状の貫通孔25が形成されている。
シリコンは軽量かつSUSなみの剛性を有するため、基体2がシリコンで構成されていることにより、優れた振動特性を有する基体2が得られる。また、シリコンは後述するようにエッチングにより高精度な寸法精度で加工が可能であるので、シリコン基板を用いて基体2を形成することにより、所望の形状(所望の振動特性)を有する基体2を得ることができる。なお、シリコン基板としては、一般的に単結晶シリコン基板が用いられる。
【0027】
以下、基体2についてさらに詳述する。
支持部22は、図1に示すように、枠状をなしている。より具体的には、支持部22は、可動板21の外周および各連結部23、24の側面に沿った内周面を有する環状をなしている。すなわち、前述した貫通孔25の幅が可動板21の回動および各連結部23、24の捩れ変形を許容し得る程度にできるだけ狭くかつ一定となるように形成されている。これにより、不要光が基体2の上面側から下面側へ入り込むのを防止または抑制することができる。このような支持部22は、1対の連結部23、24を介して可動板21を支持する。なお、支持部22の形状としては、1対の連結部23、24を介して可動板21を支持することができれば、特に限定されず、例えば、各連結部23、24に対応して分割された形状をなしていてもよい。
【0028】
このような支持部22の内側には、可動板21が設けられている。
可動板21は、板状をなしている。また、本実施形態では、可動板21は、平面視にて、四角形(本実施形態では正方形)をなしている。なお、可動板21の平面視形状は、四角形に限定されず、例えば、五角形、六角形等の他の多角形、円形、楕円形等であってもよい。
このような可動板21の上面には、光反射性を有する光反射部211が設けられている。
【0029】
各連結部23、24は、長手形状をなしており、弾性変形可能に構成されている。また、連結部23および連結部24は可動板21を介して対向している。このような連結部23、24は、それぞれ、可動板21を支持部22に対して回動可能とするように、可動板21と支持部22とを連結している。1対の連結部23、24は、回動中心軸Xに沿って同軸的に設けられており、この回動中心軸Xを回動中心軸として、可動板21が支持部22に対して回動する。
【0030】
また、各連結部23、24は、その横断面形状が四角形をなしている。本実施形態では、各連結部23、24は、基体2の板面に沿って互いに平行な上面および下面と、この上面および下面に対して垂直でかつ互いに平行な1対の側面とを有する。なお、各連結部23、24の横断面形状は、これに限定されず、例えば、台形をなしていてもよいし、平行四辺形をなしていてもよい。また、各連結部23、24は、互いに平行な複数の梁部材で構成されていてもよい。
【0031】
このような基体2において、連結部23、24の縁部、および、可動板21および支持部22の縁部のうちの連結部23、24近傍部分(可動板21および支持部22の縁部と連結部23、24の縁部とを接続する縁部)がそれぞれ平坦化処理されている。本実施形態では、基体2の貫通孔25の壁面251が全域に亘って平坦化処理されている。
なお、縁部とは、各部の外形を構成する部分とその周辺部分を示している。特に、本実施形態では、可動板21および支持部22ならびに連結部23、24の縁部は、各部の貫通孔25に面している部分にあたる。
【0032】
より具体的に説明すると、図2に示すように、可動板21の側面212が平坦化処理されている。また、可動板21の上面および下面の縁部に形成された角部213が平坦化処理により丸められている。
また、図4に示すように、連結部23の1対の側面231および支持部22の側面221が平坦化処理されている。
また、可動板21の側面212と連結部23の側面231との境界部付近に形成された1対の角部232、および、連結部23の側面231と支持部22の側面221との境界部付近に形成された角部233が、それぞれ、平坦化処理により丸められている。
【0033】
なお、図示しないが、連結部24の1対の側面も、連結部23の側面231と同様に、平坦化処理されている。また、可動板21の側面212と連結部24の側面との境界部付近に形成された1対の角部、および、連結部24の側面と支持部22の側面221との境界部付近に形成された角部も、角部232、233と同様、それぞれ、平坦化処理により丸められている。
このような平坦化処理により、1対の連結部23、24の捩り変形を伴う可動板21の回動の際に、各連結部23、24に生じる応力集中を防止または緩和することができる。その結果、光スキャナー1の長寿命化を図ることができる。なお、かかる平坦化処理については、後に詳述する。
【0034】
また、基体2の上面(一方の板面)上には、迷光防止層61が設けられ、一方、基体2の下面(他方の板面)上には、絶縁層62が設けられている。そして、絶縁層62の基体2とは反対側の面上には、コイル41、配線72、74および電極73、75で構成された導体パターン8が設けられている。なお、コイル41、配線72、74および電極73、75については、駆動手段4の説明において詳述する。
【0035】
特に、迷光防止層61および絶縁層62は、それぞれ、基体2を基体2の厚さ方向から平面視したときに、連結部23、24の縁部、および、前記可動板21の縁部と前記連結部23、24の縁部とを接続する第1接続縁部214、ならびに、前記支持部22の縁部と前記連結部23、24の縁部とを接続する第2接続縁部222、を除いて設けられる。すなわち、絶縁層61、62は、連結部23、24の縁部、および、可動板21および支持部22の縁部のうちの連結部23、24近傍部分を除くように設けられているとも言える。
【0036】
これにより、後述するように、基体2上に迷光防止層61および絶縁層62が形成された状態で比較的簡単に、可動板21、支持部22および連結部23、24の側面全域を平坦化処理することができる。また、この平坦化処理に伴って、可動板21、支持部22および連結部23、24の縁部や角部を丸め処理することができる。
よって、可動板21の回動に伴って連結部23、24に生じる応力集中を防止または緩和することができる。その結果、光スキャナー1の長寿命化を図ることができる。
【0037】
より具体的に説明すると、迷光防止層61および絶縁層62は、それぞれ、可動板21の側面、各連結部23、24の側面および支持部22の側面には形成されていない。そのため、可動板21の側面、各連結部23、24の側面および支持部22の側面には、それぞれ、絶縁層が実質的に形成されていない面、すなわち、シリコンで構成された面が露出している。
このように連結部23、24の縁部、および、可動板21および支持部22の縁部のうちの連結部23、24近傍部分がそれぞれシリコンで構成された面が露出しているので、可動板21、支持部22および連結部23、24の側面全域を平坦化処理することができる。
【0038】
なお、本明細書において、「絶縁層が実質的に形成されていない」とは、絶縁層が全く形成されていないことの他、自然酸化により形成されたシリコン酸化膜などの絶縁層が形成されていることをも含む概念であり、より具体的には、絶縁層が形成されていても、その平均厚さが10nm未満であることをいう。また、後述するように迷光防止層61は絶縁層であるが、迷光防止層61および絶縁層62は、それぞれ、自然酸化により形成された極薄い絶縁層ではなく、10nm以上の厚さを有するものである。
【0039】
そして、迷光防止層61は、図1に示すように、基体2の上面のうち、可動板21の上面(すなわち光反射部211)、各連結部23、24の上面の縁部、および、支持部22の上面の縁部のうちの各連結部23、24との境界部近傍部分を除いて、それ以外の部分を覆うように設けられている。そのため、可動板21の上面(すなわち光反射部211)、各連結部23、24の上面の縁部、および、支持部22の上面の縁部のうちの各連結部23、24との境界部近傍部分には、それぞれ、絶縁層が実質的に形成されていない面、すなわち、シリコンで構成された面が露出している。
すなわち、迷光防止層61は、基体2を平面視したときに、可動板21の上面、連結部23、24の縁部、および、可動板21および支持部22の縁部のうちの連結部23、24近傍部分を除いて、基体2の上面の略全域を覆うように設けられている。これにより、迷光の発生をより効果的に防止することができる。
【0040】
一方、絶縁層62は、図3に示すように、基体2の下面のうち、可動板21の下面の縁部、各連結部23、24の下面の縁部、および、支持部22の下面の縁部のうちの各連結部23、24との境界部近傍部分を除いて、それ以外の部分を覆うように設けられている。そのため、可動板21の下面の縁部、各連結部23、24の下面の縁部、および、支持部22の下面の縁部のうちの各連結部23、24との境界部近傍部分には、それぞれ、絶縁層が実質的に形成されていない面、すなわち、シリコンで構成された面が露出している。
【0041】
すなわち、絶縁層62は、基体2を平面視したときに、連結部23、24の縁部、および、可動板21および支持部22の縁部のうちの連結部23、24近傍部分を除いて、基体2の下面の略全域を覆うように設けられている。これにより、導体パターン8の各部同士の絶縁を確実なものとすることができる。また、後述するように絶縁層62が迷光防止機能を有するので、その迷光防止機能を効果的に発揮することができる。
【0042】
このような迷光防止層61および絶縁層62は、それぞれ、可動板21の側面、各連結部23、24の側面および支持部22の側面だけでなく、これらの側面近傍の上面部分および下面部分を除くように形成されているので、後述するように、基体2上に迷光防止層61および絶縁層62を形成した状態で、平坦化処理を行うことにより、各側面を全域に亘って平坦化するとともに、各角部を丸めることができる。
【0043】
また、迷光防止層61および絶縁層62が形成されていない前記側面近傍の上面部分および下面部分の幅(図3に示すa)は、側面の平坦化処理および角部の丸め処理が可能であれば、特に限定されないが、例えば、1μm以上、好ましくは1μm以上20μm以下程度である。かかる幅が小さすぎると、側面の平坦化処理および角部の丸め処理を完全に行うことができず、一方、かかる幅が大きすぎると、光スキャナー1の構成や設置条件等によっては、迷光防止層61および絶縁層62の迷光を防止する効果が低下する傾向を示す。
【0044】
迷光防止層61は、光の反射を防止または抑制する機能を有する。このような迷光防止層61が基体2の光反射部211側の板面上に設けられているので、迷光の発生を効果的に防止することができる。また、本実施形態では、絶縁層62も、光の反射を防止または抑制する機能を有する。このような迷光防止層として機能する絶縁層62が基体2の光反射部211とは反対側の板面上にも設けられているので、迷光の発生をさらに効果的に防止することができる。ここで、迷光防止層61および絶縁層62は、それぞれ、光スキャナーに用いる光に対して反射を防止する反射防止膜を構成する。また、迷光防止層61および絶縁層62は、それぞれ、光を拡散する機能をも有する。このような光反射防止機能および光拡散機能を有する迷光防止層61および絶縁層62は、それぞれ、光が可動板21の光反射部211で反射する以外の光が他の部分で反射して迷光となるのを防止することができる。すなわち、迷光防止層61および絶縁層62は、それぞれ、迷光を防止する迷光防止層を構成する。
【0045】
また、迷光防止層61および絶縁層62は、それぞれ、その表面が粗面化されている。すなわち、迷光防止層61および絶縁層62の表面には、それぞれ、不規則なパターンで配置された複数の凹部または凸部で構成された微細な凹凸が形成されている。これにより、迷光防止層61および絶縁層62の光の反射を防止または抑制する機能を優れたものとすることができる。
具体的な迷光防止層61および絶縁層62の表面粗さRz(JIS B 0601)は、迷光を防止し得る程度であればよく、特に限定されないが、例えば、20nm以上500nm以下程度である。
【0046】
この迷光防止層61および絶縁層62は、それぞれ、例えば、シリコン酸化膜で構成されている。
シリコン酸化膜は、絶縁性を有するとともに、シリコンの熱酸化処理により比較的簡単に形成することができる。また、平坦化処理として水素アニール処理を用いた場合、迷光防止層61および絶縁層62の表面に微細な凹凸を形成することができる。このような凹凸を有する迷光防止層61および絶縁層62は、光の反射を防止または抑制することができる。
なお、絶縁層62は、迷光防止機能を有しなくてもよい場合には、シリコン窒化膜で構成されていてもよい。また、このような迷光防止層61および絶縁層62の形成方法については、後述する基体2の製造方法の説明において、詳述する。
【0047】
このような迷光防止層61および絶縁層62は、それぞれ、絶縁性を有する。そのため、絶縁層62上に設けられたコイル41、配線72、74および電極73、75で構成された導体パターンの各部同士の短絡を防止することができる。
また、迷光防止層61および絶縁層62の厚さは、それぞれ、特に限定されないが、例えば、10nm以上1500nm以下程度である。
【0048】
[支持体]
支持体3は、前述した基体2を支持する機能を有する。また、支持体3は、後述する駆動手段4の永久磁石42、43を支持する機能をも有する。
この支持体3は、上方に開放する凹部31を有する箱状をなしている。言い換えると、支持体3は、板状をなす板状部32と、その板状部32の上面の外周部に沿って設けられた枠状をなす枠状部33とで構成されている。
このような支持体3の上面のうち凹部31の外側の部分、すなわち、枠状部33の上面には、前述した基体2の支持部22の下面が接合されている。これにより、基体2の可動板21および1対の連結部23、24と支持体3との間には、可動板21の回動を許容する空間が形成されている。
【0049】
このような支持体3の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、石英ガラス、パイレックスガラス(「パイレックス」は登録商標)、テンパックスガラス等のガラス材料や、単結晶シリコン、ポリシリコン等のシリコン材料、LTCC(低温焼結セラミックス)等が挙げられる。
また、基体2と支持体3との接合方法としては、支持体3の構成材料、形状等に応じて適宜決められるものであり、特に限定されないが、接着剤を用いた方法、陽極接合法、直接接合法等が挙げられる。
【0050】
[駆動手段]
駆動手段4は、コイル41および1対の永久磁石42、43を有し、前述した基体2の可動板21を電磁駆動方式(より具体的にはムービングコイル方式)により回動駆動させるものである。電磁駆動方式は、大きな駆動力を発生させることができる。そのため、電磁駆動方式を採用する駆動手段4によれば、低駆動電圧化を図りつつ、可動板21の振れ角を大きくすることができる。
【0051】
コイル41は、図2に示すように、可動板21の下面に絶縁層62を介して設けられている。このコイル41は、可動板21の光反射部211とは反対側の面上に設けられた絶縁層62上に設けられているため、基体2の光反射部211とは反対側の板面を有効利用して、導体パターン8を形成することができる。また、光反射部211の設計の自由度が低下することはない。
【0052】
本実施形態では、コイル41は、図3に示すように、可動板21の板面に沿って渦巻状に形成されている。このような渦巻状のコイル41は、単に環状に形成したコイルに比し大きな磁力を発生させることができ、また、可動板21の厚さ方向に積層して形成したコイルに比し構成が簡単で製造も容易である。すなわち、コイル41の構成を比較的簡単なものとするとともに、駆動電圧を抑えつつ、コイル41に生じる磁力を大きくすることができる。
【0053】
また、コイル41を構成する素線の一端(渦巻きの外周側の端)は、配線72を介して電極73に電気的に接続されている。また、コイル41を構成する素線の他端(渦巻きの中心側の端)は、配線74を介して電極75に電気的に接続されている。これにより、電極73と電極75との間に電圧を印加することにより、コイル41に通電することができる。
【0054】
配線72は、連結部23の下面上に、連結部23の長手方向に沿って設けられ、配線74は、連結部24の下面上に、連結部24の長手方向に沿って設けられている。
また、電極73、75は、それぞれ、支持部22の下面上に設けられている。
また、配線74は、可動板21の中央部付近まで延びて形成されており、配線74とコイル41との間には、例えばシリコン酸化膜、シリコン窒化膜等で構成された絶縁層63が設けられている。
なお、コイル41を構成する素線の他端(渦巻きの中心側の端)と配線74との接続は、ボンディングワイヤーを介して行ってもよい。
【0055】
このような導体パターン8を構成するコイル41、配線72、74および電極73、75の構成材料としては、それぞれ、導電性を有するとともに、後述する基体2の製造方法における平坦化処理における熱に耐え得るものであれば、特に限定されないが、例えば、Pt、Ir、Os、Re、W、Ta、Ru、Tc、Mo、Nb等が挙げられ、中でも、Taが好ましい。
Taは、比較的優れた導電性を有するとともに、極めて高い融点を有する。そのため、導体として適するだけでなく、平坦化処理として水素アニール処理のような熱処理を用いた場合でも、その熱に耐え得る。
【0056】
一方、1対の永久磁石42、43は、支持体3に接合・固定されている。
永久磁石42は、可動板21の回動中心軸Xに対して一方側(図1、2にて左側)に設けられ、また、永久磁石43は、可動板21の回動中心軸Xに対して他方側(図1、2にて右側)に設けられている。そして、1対の永久磁石42、43は、可動板21を介して対向している。
また、永久磁石42は、可動板21側をN極、その反対側をS極とするように設置され、永久磁石43は、可動板21側をS極、その反対側をN極とするように設置されている。したがって、1対の永久磁石42、43は、可動板21付近に、非回動時の可動板21の板面に平行で、かつ、可動板21の回動中心軸Xに直角な方向の磁界を発生させる。
【0057】
このような永久磁石42、43としては、それぞれ、特に限定されず、例えば、ネオジウム磁石、フェライト磁石、サマリウムコバルト磁石、アルニコ磁石、ボンド磁石などの、硬磁性体を着磁したものを好適に用いることができる。
なお、コイル41の磁界との相互作用により可動板21を回動し得るものであれば、永久磁石の数、配置や極性等は、図示のものに限定されないことは言うまでもない。
【0058】
以上のような構成を有する光スキャナー1は、次のようにして作動する。
電極73と電極75との間に周期的に変化する電圧(交番電圧、間欠的な直流等)を印加する。これにより、コイル41の上側がN極、下側がS極となる第1の磁界と、コイル41の上側がS極、下側がN極となる第2の磁界とが、交互にかつ周期的に発生する。
第1の電界では、コイル41の上側が永久磁石42側に引きつけられ、反対にコイル41の下側が永久磁石43側に引き付けられ、可動板21が回動中心軸Xを中心に図2にて時計回りに回動する(第1の状態)。反対に、第2の電界では、コイル41の上側が永久磁石43側に引きつけられ、反対にコイル41の下側が永久磁石42側に引き付けられ、可動板21が回動中心軸Xを中心に図2にて反時計回りに回動する(第2の状態)。このような第1の状態と第2の状態とが交互に繰り返され、可動板21が回動中心軸Xを中心に回動する。
このように、1対の永久磁石42、43の磁界中に配された可動板21は、各連結部23、24を捩れ変形させながら、支持部22に対し回動(振動)する。
【0059】
以上説明したように構成された光スキャナー1によれば、迷光防止層61および絶縁層62が連結部23、24の縁部および可動板21および支持部22の縁部のうちの連結部23、24近傍部分を除くように設けられているので、基体2上に迷光防止層61および絶縁層62が形成された状態で比較的簡単に、可動板21、支持部22および連結部23、24の側面全域を平坦化処理することができる。また、この平坦化処理に伴って、可動板21、支持部22および連結部23、24の縁部や角部を丸め処理することができる。
よって、可動板21の回動に伴って連結部23、24に生じる応力集中を防止または緩和することができる。その結果、光スキャナー1の長寿命化を図ることができる。
【0060】
(光学デバイスの製造方法)
以上のような光スキャナー1は、例えば、次のようにして製造することができる。以下、本発明の光学デバイスの製造方法の一例として、図5、図6に基づいて、光スキャナー1の製造方法を説明する。また、図5および図6は、それぞれ、図2に対応する断面で示されている。
光スキャナー1の製造方法は、基体2を形成する工程を有する。
基体2を形成する工程は、[A]迷光防止層61および絶縁層62を形成する工程と、[B]導体パターン8を形成する工程と、[C]基体2を形成する工程とを有する。
【0061】
以下、各工程を順次詳細に説明する。
[A]迷光防止層61および絶縁層62を形成する工程
−A1−
まず、図5(a)に示すように、シリコン基板102を用意する。
このシリコン基板102は、後述するエッチングおよび平坦化処理を経ることにより基体2となるものである。
【0062】
−A2−
次に、図5(b)に示すように、シリコン基板102の上面上に絶縁層161を一様に形成するとともに、シリコン基板102の下面上に絶縁層162を一様に形成する。
この絶縁層161、162は、それぞれ、シリコン酸化膜で構成されている。
絶縁層161、162の形成方法としては、それぞれ、特に限定されないが、例えば、熱酸化法を用いることができる。
【0063】
−A3−
次に、絶縁層161、162の一部を除去することにより、図5(c)に示すように、迷光防止層61および絶縁層62を形成する。
より具体的に説明すると、まず、絶縁層161、162上にそれぞれレジスト膜(図示せず)を形成する。このレジスト膜の構成材料としては、ポジ型またはネガ型のレジスト材料を用いることができる。
【0064】
次に、このレジスト膜を露光および現像することにより、迷光防止層61および絶縁層62の平面視形状に対応した形状をなすマスクを形成し、そのマスクを用いて、絶縁層161、162の一部をエッチングにより除去し、その後、マスク(レジスト膜)を除去する。
上記エッチングとしては、特に限定されないが、例えば、リアクティブイオンエッチング(RIE)、CFを用いたドライエッチング等が挙げられる。
また、マスク(レジスト膜)の除去方法としては、特に限定されないが、例えば、硫酸による洗浄、Oアッシング等が挙げられる。
【0065】
[B]導体パターン8を形成する工程
−B1−
次に、図5(d)に示すように、絶縁層62上にコイル41を含む導体パターン8を形成する。また、絶縁層63も形成する。
より具体的には、例えば、コイル41、配線72および電極73を一括して形成し、絶縁層63を形成した後に、配線74および電極75を一括して形成する。
【0066】
かかる導体パターン8(コイル41、配線72、74および電極73、75)の形成方法としては、特に限定されないが、例えば、真空蒸着、スパッタリング(低温スパッタリング)、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、電解メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、溶射法、金属箔の接合等が挙げられる。
また、絶縁層63の形成方法としては、特に限定されないが、例えば、プラズマCVD、LPCVD等の気相成膜法を用いることができる。
【0067】
[C]基体2を形成する工程
−C1−
次に、図6(a)に示すように、絶縁層62上に、基体2の平面視形状に対応した形状をなすマスク200を形成する。
より具体的に説明すると、まず、絶縁層62上にそれぞれレジスト膜(図示せず)を形成する。このレジスト膜の構成材料としては、ポジ型またはネガ型のレジスト材料を用いることができる。
次に、このレジスト膜を露光および現像することにより、基体2の平面視形状に対応した形状をなすマスク200を形成する。
なお、このマスク200は、迷光防止層61上に形成してもよいし、迷光防止層61上および絶縁層62上の双方に形成してもよい。
【0068】
−C2−
次に、マスク200を介してシリコン基板102をドライエッチングすることにより、図6(b)に示すように、基体2に対応した形状をなす基体102Aを形成する。
この基体102Aには、かかるドライエッチングにより厚さ方向に貫通する貫通孔125が形成されている。この貫通孔125の壁面には、ドライエッチングにより形成された微細な凹凸が形成されている。このような貫通孔125は、後述する平坦化処理を経て貫通孔25となる。
【0069】
また、貫通孔125の形成に用いるドライエッチングとしては、特に限定されず、例えば、プラズマエッチング、リアクティブイオンエッチング、ビームエッチング、光アシストエッチング等を用いることができる。
なお、貫通孔125の形成方法としては、KOH水溶液等を用いたウェットエッチングを用いてもよい。この場合、基体102の上面にもマスク200を形成すればよい。
【0070】
−C3−
次に、マスク200を除去する。これにより、図6(c)に示すように、迷光防止層61および絶縁層62が露出した状態となる。
マスク200(レジスト膜)の除去方法としては、特に限定されないが、例えば、例えば、硫酸による洗浄、Oアッシング等が挙げられる。
【0071】
−C4−
次に、基体102Aに平坦化処理を施す。これにより、図6(d)に示すように、基体2を得る。
ここで、貫通孔125の壁面と、基体102Aの上面および下面のうちの貫通孔125の両開口端近傍でかつ迷光防止層61および絶縁層62に覆われていない部分とがそれぞれ露出している。
【0072】
そのため、貫通孔125の壁面が平坦化されるとともに、貫通孔125の壁面に存在する角部、すなわち、可動板21の側面と各連結部23、24の側面との境界部付近、および、支持部22の側面と各連結部23、24の側面との境界部付近が丸められる。
さらに、基体102Aの上面および下面のうちの貫通孔125の両開口端付近でかつ迷光防止層61および絶縁層62に覆われていない部分も丸められる。
【0073】
このような平坦化処理としては、特に限定されないが、例えば、熱処理(より具体的には、数torr程度の減圧〜大気圧の圧力下、900〜1300℃程度、2%以上のHを導入したAr雰囲気下で行う水素アニール処理、または、水素アニール処理後、雰囲気ガスを切り替え、大気圧付近下、900〜1300℃程度、Ar雰囲気でアニール処理を連続で行う処理)を好適に用いることができる。これにより、可動板21、支持部22および連結部23、24の側面の平坦化処理、および、可動板21、支持部22および連結部23、24の縁部や角部の丸め処理を行うことができる。
【0074】
また、平坦化処理として水素アニール処理用いると、図7に示すように、シリコン酸化膜で構成された迷光防止層61および絶縁層62の表面に微細な凹凸が同時に形成される。
その後、図示しないが、基体2に支持体3を接合し、1対の永久磁石42、43を設置する。
以上の工程により、光スキャナー1が得られる。
【0075】
以上説明したような光スキャナー1の製造方法によれば、迷光防止層61および絶縁層62を形成する工程において、形成される基体2を平面視したときに、連結部23、24の縁部、および、可動板21および支持部22の縁部のうちの連結部23、24近傍部分を除くように迷光防止層61および絶縁層62を形成する。従って、基体102A上に迷光防止層61および絶縁層62が形成された状態で比較的簡単に、可動板21、支持部22および連結部23、24の側面全域を平坦化処理することができる。また、この平坦化処理に伴って、可動板21、支持部22および連結部23、24の縁部や角部を丸め処理することができる。
よって、得られる光スキャナー1は、可動板21の回動に伴って連結部23、24に生じる応力集中を防止または緩和することができ、その結果、長寿命化を図ることができる。
【0076】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図8は、本発明の第2実施形態に係る光スキャナーを示す断面図、図9は、図8に示す光スキャナーに備えられた基体(可動板、支持部および1対の弾性部を備える構造体)を示す平面図(下面図)である。
【0077】
以下、第2実施形態の光スキャナーについて、前述した実施形態の光スキャナーとの相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
第2実施形態の光スキャナーは、基体2の下面上に設けられた絶縁層の形状が異なる以外は、第1実施形態の光スキャナー1とほぼ同様である。なお、前述した実施形態と同様の構成には、同一符号を付してある。
【0078】
本実施形態の光スキャナー1Aは、図8および図9に示すように、基体2の下面上に設けられた絶縁層62Aを有する。そして、コイル41、配線72、74および電極73、75は、絶縁層62Aを介して基体2上に設けられている。
【0079】
この絶縁層62Aは、コイル41、配線72、74および電極73、75で構成された導体パターン8と同一形状をなしている。すなわち、絶縁層62Aは、かかる導体パターン8の直下のみに形成されている。
このような形状をなす絶縁層62Aを基体2の下面上に形成しても、前述した第1実施形態と同様に、平坦化処理を行うことができる。
また、絶縁層62Aが導体パターン8と同一形状をなしていると、絶縁層62Aをエッチングによりパターンニングする際に、導体パターン8をマスクとして用いることができる。
【0080】
なお、本実施形態では、絶縁層62Aは、導体パターン8に覆われているので、迷光を防止する機能を有しないが、前述したように、前述した貫通孔25の幅が可動板21の回動および各連結部23、24の捩れ変形を許容し得る程度にできるだけ狭くかつ一定となるように形成されているので、不要光が基体2の上面側から下面側へ入り込むのを防止または抑制することができる。
【0081】
以上説明したような第2実施形態の光スキャナー1Aによっても、迷光防止層61および絶縁層62Aが連結部23、24の縁部および可動板21および支持部22の縁部のうちの連結部23、24近傍部分を除くように設けられているので、基体2上に迷光防止層61および絶縁層62Aが形成された状態で比較的簡単に、可動板21、支持部22および連結部23、24の側面全域を平坦化処理することができる。また、この平坦化処理に伴って、可動板21、支持部22および連結部23、24の縁部や角部を丸め処理することができる。
よって、可動板21の回動に伴って連結部23、24に生じる応力集中を防止または緩和することができる。その結果、光スキャナー1Aの長寿命化を図ることができる。
【0082】
以上説明したような光スキャナーは、例えば、プロジェクター、レーザープリンター、イメージング用ディスプレイ、バーコードリーダー、走査型共焦点顕微鏡などの画像形成装置に好適に適用することができる。その結果、優れた描画特性を有する画像形成装置を提供することができる。
このような画像形成装置よれば、前述したような光スキャナー1を有するので、画像形成装置の長寿命化を図ることができる。
【0083】
(画像形成装置)
ここで、本発明の画像形成装置の実施形態を説明する。
(プロジェクター)
図10は、本発明の画像形成装置の実施形態(プロジェクター)を示す概略図である。なお、以下では、説明の便宜上、スクリーンSCの長手方向を「横方向」といい、長手方向に直角な方向を「縦方向」という。
図10に示すプロジェクター9は、レーザーなどの光を照出する光源装置91と、クロスダイクロイックプリズム92と、1対の本発明の光スキャナー93、94(例えば、光スキャナー1と同様の構成の光スキャナー)と、固定ミラー95とを有している。
【0084】
光源装置91は、赤色光を照出する赤色光源装置911と、青色光を照出する青色光源装置912と、緑色光を照出する緑色光源装置913とを備えている。
クロスダイクロイックプリズム92は、4つの直角プリズムを貼り合わせて構成され、赤色光源装置911、青色光源装置912、緑色光源装置913のそれぞれから照出された光を合成する光学素子である。
【0085】
このようなプロジェクター9は、赤色光源装置911、青色光源装置912、緑色光源装置913のそれぞれから、図示しないホストコンピューターからの画像情報に基づいて照出された光をクロスダイクロイックプリズム92で合成し、この合成された光が、光スキャナー93、94によって走査され、さらに固定ミラー95によって反射され、スクリーンSC上でカラー画像を形成するように構成されている。
【0086】
ここで、光スキャナー93、94の光走査について具体的に説明する。
まず、クロスダイクロイックプリズム92で合成された光は、光スキャナー93によって横方向に走査される(主走査)。そして、この横方向に走査された光は、光スキャナー94によってさらに縦方向に走査される(副走査)。これにより、2次元カラー画像をスクリーンSC上に形成することができる。このような光スキャナー93、94として本発明の光スキャナーを用いることで、極めて優れた描画特性を発揮することができる。
【0087】
ただし、プロジェクター9としては、光スキャナーにより光を走査し、対象物に画像を形成するように構成されていれば、これに限定されず、例えば、固定ミラー95を省略してもよい。
このように構成されたプロジェクター9によれば、前述した光スキャナー1と同様の構成の光スキャナー93、94を備えるので、安価に、高品位な画像を得ることができる。
【0088】
(ヘッドアップディスプレイ)
図11は、本発明の画像形成装置の実施形態(ヘッドアップディスプレイ)を示す概略図である。なお、以下では、前述したプロジェクター9と同様の構成については、その説明を省略する。
図11に示すヘッドアップディスプレイ9Aは、自動車、飛行機等の移動体において、各種情報をフロントウインドウSC1に投影する装置である。
【0089】
このヘッドアップディスプレイ9Aは、赤色光源装置911、青色光源装置912および緑色光源装置913と、クロスダイクロイックプリズム92と、1対の本発明の光スキャナー93、94と、固定ミラー95Aとを有している。
ここで、固定ミラー95Aは、凹面ミラーであり、光スキャナー94からの光をフロントウインドウSC1に投影する。すると、移動体の操縦者は、フロントウインドウSC1に対して前方に位置する仮想面SC2に虚像として表示像を視認することができる。
【0090】
以上、本発明の光学デバイス、光学デバイスの製造方法、光スキャナーおよび画像形成装置について、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、本発明の光学デバイス、光スキャナーおよび画像形成装置では、各部の構成は、同様の機能を発揮する任意の構成のものに置換することができ、また、任意の構成を付加することもできる。また、本発明の光学デバイスの製造方法では、任意の工程を付加することもできる。
【0091】
また、前述した実施形態では、可動板が平面視において回動中心軸およびそれに垂直な線分の少なくとも一方に対して対称な形状をなす場合を説明したが、これに限定されず、可動板が平面視において回動中心軸およびそれに垂直な線分のいずれに対しても非対称な形状をなしていてもよい。
また、前述した実施形態では、可動板を支持部に対して回動可能に連結する連結部が1対設けられた場合を例に説明したが、可動板を支持部に対して回動可能に連結するものであれば、連結部の数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0092】
また、前述した実施形態では、本発明の光学デバイスを光スキャナーに適用した場合を例に説明したが、本発明の光学デバイスは、これに限定されず、例えば、光スイッチ、光アッテネーター等の他の光学デバイスに適用することも可能である。
また、前述した実施形態では、可動板を回動させる駆動手段がムービングコイル型の電磁駆動方式を採用した構成を例に説明したが、かかる駆動手段は、ムービングマグネット型の電磁駆動方式であってもよいし、また、静電駆動方式、圧電駆動方式等の電磁駆動方式以外の駆動方式を採用するものであってもよい。
また、前述した実施形態では、基体上に絶縁層を介して設けた導体パターンがコイルを有する場合を例に説明したが、かかる導体パターンは、電気的導通のためのものであれば、これに限定されず、例えば、各種駆動源への通電のための配線、各種センサーに接続された配線等を含むものであってもよい。
【0093】
また、迷光防止層が形成される位置、範囲、大きさ、形状等は、光学デバイスの形状、大きさ、設置条件等に応じて決められるものであり、迷光防止層が、基体を平面視したときに、連結部の縁部、および、可動板および支持部の縁部のうちの連結部近傍部分を除くように設けられていれば、前述した実施形態のものに限定されない。例えば、迷光防止層は、支持部上に設けられていなくてもよいし、連結部の長手方向での全域に亘って設けられていなくてもよい。また、可動板の光反射部側の面の一部に迷光防止層が形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0094】
1‥‥光スキャナー 1A‥‥光スキャナー 2‥‥基体 3‥‥支持体 4‥‥駆動手段 8‥‥導体パターン 9‥‥プロジェクター 9A‥‥ヘッドアップディスプレイ 21‥‥可動板 22‥‥支持部 23‥‥連結部 24‥‥連結部 25‥‥貫通孔 31‥‥凹部 32‥‥板状部 33‥‥枠状部 41‥‥コイル 42‥‥永久磁石 43‥‥永久磁石 61‥‥迷光防止層 62‥‥絶縁層(迷光防止層) 62A‥‥絶縁層 63‥‥絶縁層 72‥‥配線 73‥‥電極 74‥‥配線 75‥‥電極 91‥‥光源装置 92‥‥クロスダイクロイックプリズム 93‥‥光スキャナー 94‥‥光スキャナー 95‥‥固定ミラー 95A‥‥固定ミラー 102‥‥シリコン基板 102‥‥基体 102A‥‥基体 125‥‥貫通孔 161‥‥絶縁層 162‥‥絶縁層 200‥‥マスク 211‥‥光反射部 212‥‥側面 213‥‥角部 221‥‥側面 231‥‥側面 232‥‥角部 233‥‥角部 251‥‥壁面 911‥‥赤色光源装置 911‥‥光源装置 912‥‥青色光源装置 913‥‥緑色光源装置 SC‥‥スクリーン SC1‥‥フロントウインドウ
SC2‥‥仮想面
X‥‥回動中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光反射性を有する光反射部、前記光反射部を備える所定の軸まわりに回動可能な可動部、前記可動部に連結する少なくとも1つの連結部、前記連結部を支持する支持部、を含み、かつシリコンで形成された板状の基体と、
前記基体の表面に設けられ、光の反射を防止または抑制する機能を有する迷光防止層とを有し、
前記迷光防止層は、前記基体を前記基体の厚さ方向から平面視したときに、前記連結部の縁部、および、前記可動部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部、ならびに、前記支持部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部、を除いて設けられていることを特徴とする光学デバイス。
【請求項2】
前記連結部の縁部、および、前記可動部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部、ならびに、前記支持部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部は、それぞれ、シリコンで構成された面が露出している請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項3】
前記連結部の縁部、および、前記可動部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部、ならびに、前記支持部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部は、それぞれ、平坦化処理されている請求項2に記載の光学デバイス。
【請求項4】
前記迷光防止層は、前記迷光防止層の表面が粗面化されている請求項1ないし3のいずれかに記載の光学デバイス。
【請求項5】
前記迷光防止層は、前記基体の前記光反射部が設けられる側の表面に設けられている請求項4に記載の光学デバイス。
【請求項6】
前記迷光防止層は、前記基体を前記基体の厚さ方向から平面視したときに、前記可動部の前記光反射部が設けられる表面、前記連結部の縁部、前記可動部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部、ならびに、前記支持部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部を除いて、前記基体の表面の略全域に設けられている請求項5に記載の光学デバイス。
【請求項7】
前記迷光防止層は、前記基体の前記光反射部が設けられる表面とは反対の表面に設けられている請求項5または6に記載の光学デバイス。
【請求項8】
前記迷光防止層は、シリコン酸化膜で構成されている請求項1ないし7のいずれかに記載の光学デバイス。
【請求項9】
シリコン基板の表面に、光の反射を防止または抑制する機能を有する迷光防止層を形成する工程と、
前記シリコン基板をエッチングした後に平坦化処理を施すことにより、所定の軸まわりに回動可能な可動部、前記可動部に連結する少なくとも1つの連結部、前記連結部を支持する支持部、を含む板状の基体を形成する工程とを有し、
前記迷光防止層を形成する工程では、前記基体を前記基体の厚さ方向から平面視したときに、前記連結部の縁部、および、前記可動部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部、ならびに、前記支持部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部、を除いて前記迷光防止層を形成することを特徴とする光学デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記平坦化処理は、水素アニール処理、または水素アニール処理後、Ar雰囲気でアニール処理を行う処理である請求項9に記載の光学デバイスの製造方法。
【請求項11】
光反射性を有する光反射部、前記光反射部を備える所定の軸まわりに回動可能な可動部、前記可動部に連結する少なくとも1つの連結部、前記連結部を支持する支持部、を含み、かつシリコンで形成された板状の基体と、
前記基体の表面に設けられ、光の反射を防止または抑制する機能を有する迷光防止層とを有し、
前記迷光防止層は、前記基体を前記基体の厚さ方向から平面視したときに、前記連結部の縁部、および、前記可動部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部、ならびに、前記支持部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部、を除いて設けられていることを特徴とする光スキャナー。
【請求項12】
光を出射する光源と、
前記光源からの光を走査する光スキャナーとを備え、
前記光スキャナーは、
光反射性を有する光反射部、前記光反射部を備える所定の軸まわりに回動可能な可動部、前記可動部に連結する少なくとも1つの連結部、前記連結部を支持する支持部、を含み、かつシリコンで形成された板状の基体と、
前記基体の表面に設けられ、光の反射を防止または抑制する機能を有する迷光防止層とを有し、
前記迷光防止層は、前記基体を前記基体の厚さ方向から平面視したときに、前記連結部の縁部、および、前記可動部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部、ならびに、前記支持部の縁部と前記連結部の縁部とを接続する縁部、を除いて設けられていることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−194400(P2012−194400A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58557(P2011−58557)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】