光学デバイス、検出装置及び検出方法
【課題】 ウイルスや細菌などの比較的大きな検出対象であっても、確実に検出することができる光学デバイス、検出装置及び検出方法を提供すること。
【解決手段】 光学デバイス10は、第1基板11と、第1基板と対向する第2基板12とを有する。第1基板11は、該第1基板の面と平行な第1方向Xにて周期P1で配列され、第2基板と対向する第1面11Aより突出する導体表面の第1凸部11Bを有する。第2基板12は、第1方向にて最大周期P2で配列され、第1基板と対向する第2面12Aより突出する導体表面の第2凸部12Bを有する。第1,第2基板間に挟まれる試料1,2に入射する光の波長をλとしたとき、λ>P1>P2を満たす。
【解決手段】 光学デバイス10は、第1基板11と、第1基板と対向する第2基板12とを有する。第1基板11は、該第1基板の面と平行な第1方向Xにて周期P1で配列され、第2基板と対向する第1面11Aより突出する導体表面の第1凸部11Bを有する。第2基板12は、第1方向にて最大周期P2で配列され、第1基板と対向する第2面12Aより突出する導体表面の第2凸部12Bを有する。第1,第2基板間に挟まれる試料1,2に入射する光の波長をλとしたとき、λ>P1>P2を満たす。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばラマン分光検出に用いられる光学デバイス、検出装置及び検出方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
通常のラマン分光装置は、検出する物質の指紋スペクトルが得られるという特徴はあるが、ラマン信号は微弱で検出感度が低いという課題があり、その使用される用途は限定的であった。しかし、後述するように光の波長の半分より小さな金属ナノ構造に光を照射することで、金属ナノ構造近傍に強い増強電場が形成される局在表面プラズモン共鳴(LSPR: Localized Surface Plasmon Resonance)という現象が知られている。さらに、ラマン散乱光が増強電場によって増強される表面増強ラマン散乱(SERS: Surface Enhanced Raman Scattering)という現象も知られており、これらを使うことで、微量しか存在しない物質と検出し、その物質を指紋スペクトルから特定することが可能になる。この原理を利用して、微量の標的分子を高感度で検出、特定することが可能になる。
【0003】
特許文献1には、金属ナノ粒子を配置したSERS活性基板に微生物を含む液体試料を滴下し、その後微生物を固定するための固定液(アガロースゲルとグリセロールから成る)を滴下する方法が記載されている。
【0004】
特許文献2では、エポキシ樹脂による誘電体格子(周期360nm)の上にSiO2とTiO2を形成した上、さらにSiO2の微細な柱を形成して、その上端部に銀ナノ構造を形成するセンサ構造を開示している。この構造では、誘電体格子でGuided−Mode Resonanceによる増強電場を作り、表面部の銀ナノ構造の局在表面プラズモン共鳴を励起してより強い増強電場を作っている。
【0005】
特許文献3では、透明基板上に金属粒子を不均一に付着させたSERS基板を少なくとも2枚平行に配列し、それぞれのSERS活性基板からラマン散乱光を発生させて、検出感度を増強している(段落0028及び図9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−223671号公報
【特許文献2】米国公開特許2010/0085566号公報
【特許文献3】WO2007/049487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1によれば、SERS信号を増強する金属ナノ粒子が形成する増強電場に微生物が近接して固定されることが望ましいが、固定液を滴下するだけでは、その状態が実現するかは成り行き次第となってしまう。
【0008】
特許文献2のセンサ構造では、強い増強電場が形成されるのは、銀ナノ構造の近傍に限定されるため、ウイルスや細菌などの比較的大きな検出対象に対しては、増強電場の及ぶ領域が相対的に小さくなってしまい、適切な検出が行われないという課題があった。この課題は、特許文献3の構造でも同様に有している。
【0009】
本発明の幾つかの態様は、ウイルスや細菌などの比較的大きな検出対象であっても、確実に検出することができる光学デバイス、検出装置及び検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の一態様は、
第1基板と、
前記第1基板と対向する第2基板と、
を有し、
前記第1基板は、前記第2基板と対向する第1面より突出する導体表面の第1凸部を有し、該第1凸部は前記第1面に沿った第1方向にて周期P1で配列され、
前記第2基板は、前記第1基板と対向する第2面より突出する導体表面の第2凸部を有し、該第2凸部は前記第1方向にて最大周期P2で配列され、
前記第1,第2基板間に挟まれる試料に入射する光の波長をλとしたとき、λ>P1>P2を満たす光学デバイスに関する。
【0011】
本発明の一態様では、第1基板の第1面上には伝搬表面プラズモン(PSP: Propagating Surface Plasmon)が励起される。伝搬表面プラズモンは第1面上に沿って伝搬し、第2基板の第2面の第2凸部周囲には局在表面プラズモン(LSP: Localized Surface Plasmon)が励起される。そして、この局在表面プラズモンは、比較的密度が大きいホットサイトである第2凸部の周囲に増強電場を励起する。よって、第2凸部間に入り込む比較的小さい試料分子であっても、あるいは第2凸部間には入り込めなくても第1凸部間には入り込める比較的大きい試料分子であっても、その増強電場と試料分子との相互作用により表面増強ラマン散乱(SERS: Surface Enhanced Raman Scattering)が生じる。このように、増強電場により強い表面増強ラマン散乱を生じさせることができる。
【0012】
(2)本発明の一態様では、前記第1凸部と前記第2凸部との間の距離が100nm以下で、前記第1,第2基板を対向させることができる。こうすると、電場の染み出し距離の範囲内に試料を位置させることができるので、増強電場により強い表面増強ラマン散乱を生じさせることができる。
【0013】
(3)本発明の一態様では、前記第1周期は400〜600nmであり、前記第2周期は20〜100nmとすることができる。こうすると、入射光の波長として600nmよりも大きい赤外光を使用でき、しかも増強電場が励起されるホットサイトとしての第2凸部の密度を高く確保できる。
【0014】
(4)本発明の一態様では、前記第2基板は、前記第1基板と対向する位置と、前記第1基板と非対向な位置とに、前記第1基板に対して相対的に移動可能に支持することができる。こうすると、第1,第2基板を非対向とさせて、第1,第2基板の一方に試料を保持させた後に、第1,第2基板を対向させることができる。
【0015】
(5)本発明の一態様では、前記試料の分子の大きさをDとしたとき、P2<D<P1を満たすことができる。こうすると、周期P2よりも大きい試料であっても、最大周期P1の第1凸部間に位置させることができ、密度の高い第2凸部の周囲の増強電場を利用して検出することができる。
【0016】
(6)本発明の他の態様は、
上述した光学デバイスと、
光源と、
光検出部と、
を有し、
前記光学デバイスの前記第1,第2基板間に前記試料が保持され、
前記光学デバイスは、前記光源からの光が照射されることで前記試料からの光を出射し、
前記光検出部は、前記試料に含まれる特定物質からの光を検出する検出装置に関する。
【0017】
本発明の他の態様によれば、上述の通り光学デバイスでは増強電場により強い表面増強ラマン散乱を生じさせることができるので、試料中の特定物質が発するラマン散乱光を高い検出感度にて光検出部にて検出することができる。
【0018】
(7)本発明のさらに他の態様は、
第1方向にて周期P1で配列され、第1面より突出する第1凸部を有する第1基板の前記第1対向面に試料を保持させる工程と、
前記第1方向にて最大周期P2(P2<P1)で配列され、前記第1基板と対向する第2面より突出する第2凸部を有する第2基板を、前記第1面及び前記第2面が対向するように配置する工程と、
前記第1,第2基板間に挟まれる試料に、波長λ(λ>P1)を照射し、前記試料を反映した光を出射させる工程と、
前記試料からの光の中から前記試料に含まれる特定物質からの光を検出する工程と、
を有する検出方法に関する。
【0019】
本発明の他の態様によれば、第1,第2基板に挟まれた試料は増強電場により強い表面増強ラマン散乱を生じさせることができるので、試料中の特定物質を反映したラマン散乱光を高い検出感度にて検出することができる。しかも、第1基板への試料の設定を第2基板に干渉されずに実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1(A)〜図1(C)は、本発明の第1実施形態に係る光学デバイスを示す図である。
【図2】図2(A)はレイリー散乱光とラマン散乱光の発生を示す図であり、図2(B)はアセトアルデヒドのラマンスペクトルを示す図であり、図2(C)及び図2(D)は第2凸部の近傍に生ずる増強電場を示す図である。
【図3】第2凸部間に入り込む試料に作用する増強電場を示す図である。
【図4】第1,第2基板間に介在させた誘電体の厚さ(第1凸部と第2凸部との間の距離)と局所電場の強さとの関係を示す特性図である。
【図5】検出装置の具体例を示す図である。
【図6】検出装置の制御系ブロック図である。
【図7】図7(A)及び図7(B)は、スペクトル強度の抽出を説明するための図である。
【図8】図8(A)〜図8(E)は、光学デバイスを構成する基板の製造方法を示す図である。
【図9】図8(A)に示す光干渉露光を実施する装置を示す図である。
【図10】図10(A)及び図10(B)は図9に示す光干渉露光装置で作成される凸部の露光パターンを示す図である。
【図11】図11(A)〜図11(D)は、図8(A)〜図8(E)とは異なる製造方法を示す図である。
【図12】光学デバイスの変形例を示す図である。
【図13】図13(A)〜図13(D)は、第2基板を第1基板に対して相対的に移動可能とした光学デバイスの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0022】
1.光学デバイス
1.1.光学デバイスの構造
図1(A)〜図1(C)は、本実施形態に係る光学デバイス10を示している。図1(A)に示すように、光学デバイス10は、第1基板11と第2基板12とを有する。第1基板11は、第1面11Aより突出して、第1方向Xにて周期P1で配列された第1凸部11Bを有する。第1基板11及び第1凸部11Bの表面11Cは金属(導体)である。本実施形態では、基板11及び第1凸部11Bは誘電体で形成されている。
【0023】
第2基板12は、第2面12Aより突出して、第1方向Xにて最大周期P2(P2<P1)で配列された第2凸部12Bを有する。本実施形態では、第2基板12は誘電体であり、第2凸部12Bは金属である。
【0024】
図1(B)は、第1基板11上に試料2を保持させた状態を示している。試料2は検出物質を含み、本実施形態では液体試料とする。液体試料2はスポイト等により第1基板11上に滴下される。
【0025】
図1(C)は、検出時の状態での光学デバイス10を示している。第1基板11と第2基板12とは、第1面11A及び第2面12Aとの間に試料2を挟んで対向配置される。特に図1(C)では、試料2の分子の大きさが比較的大きく、最大周期P2の第2凸部12B間には入り込めないが、周期P1の第1凸部11B間には入り込んでいる。試料の分子の大きさをDとしたとき、P2<D<P1を満たす。
【0026】
本実施形態では、第1基板11の表面11Cは金属で光を透過しないので、図1(C)に示すように、入射光は第2基板12側から入射される。
【0027】
1.2.光検出原理
図2(A)〜図2(D)を用いて、流体試料を反映した光検出原理の一例としてラマン散乱光の検出原理の説明図を示す。図2(A)に示すように、光学デバイス10に吸着される検出対象の試料(試料分子)2に入射光(振動数ν)が照射される。一般に、入射光の多くは、レイリー散乱光として散乱され、レイリー散乱光の振動数ν又は波長は入射光に対して変化しない。入射光の一部は、ラマン散乱光として散乱され、ラマン散乱光の振動数(ν−ν’及びν+ν’)又は波長は、試料分子2の振動数ν’(分子振動)が反映される。つまり、ラマン散乱光は、検査対象の試料分子2を反映した光である。入射光の一部は、試料分子1を振動させてエネルギーを失うが、試料分子2の振動エネルギーがラマン散乱光の振動エネルギー又は光エネルギーに付加されることもある。このような振動数のシフト(ν’)をラマンシフトと呼ぶ。
【0028】
図2(B)に、標的分子に固有の指紋スペクトルとして、アセトアルデヒドの例を示す。この指紋スプクトルによって、検出した物質がアセトアルデヒドと特定することが可能である。しかしながら、ラマン散乱光は非常に微弱であり、微量にしか存在しない物質を検出することは困難であった。
【0029】
図2(D)は、図1(C)に示すサイズの大きな試料分子2でなく、サイズの小さな試料分子1が、第2凸部12Bの間に入り込んだ状態を示している。図2(D)に示すように、入射光が入射された領域では、隣り合う第2凸部12B間のギャップに、増強電場13が形成される。特に、図2(C)に示すように、入射光の波長λよりも小さな第2凸部12Bに対して入射光を照射する場合、入射光の電場は、第2凸部12Bの表面に存在する自由電子に作用し、共鳴を引き起こす。これにより、自由電子による電気双極子が第2凸部12B内に励起され、入射光の電場よりも強い増強電場13が形成される。これは、局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)とも呼ばれる。この現象は、入射光の波長よりも小さな1〜1000nmの凸部を有する第2凸部12Bの電気伝導体に特有の現象である。
【0030】
一方、図3は図1(C)の拡大図である。サイズの大きな試料分子2は第2凸部12B間には入り込めないが、第1凸部11B間には入り込むことができる。本実施形態では、局在表面プラズモンと伝搬表面プラズモンとを併用することができる。第1基板11の第1凸部11Bを有する格子面に光が入射すると、格子の凹凸により表面プラズモンが発生する。入射光の偏光方向を格子の溝方向と直交させておくと、金属格子内の自由電子の振動にともなって電磁波の振動が励起される。この電磁波の振動は自由電子の振動に影響するため、両者の振動が結合した系である表面プラズモンポラリトンが形成される。
【0031】
この表面プラズモンポラリトンは、第1基板11表面11Cに沿って伝搬する。具体的には、表面プラズモンポラリトンは、空気と金属格子との界面に沿って伝搬し、金属格子(第1凸部11B)の近傍に局在する強い増強電場14を励起する。表面プラズモンポラリトンの結合は光の波長λに対して敏感であり、周期P1<λを満たし、特に好ましくは波長λよりもわずかに小さい周期P1とすると、その結合効率は高い。
【0032】
比較的大きなサイズの試料分子2が第1凸部11B間に存在すると、そこから表面増強ラマン散乱が発生する。このように、空気伝搬モードである入射光から表面プラズモンポラリトンを介して増強電場14を励起し、局在の増強電場13,14と標的物の相互作用により表面増強ラマン散乱を発現させる。つまり、大きなサイズの試料分子2が第1凸部11B間に存在すると、試料分子2によるラマン散乱光は増強電場13及び増強電場14の双方で増強されて、ラマン散乱光の信号強度は強くなる。このような表面増強ラマン散乱では、試料分子2が微量であっても、検出感度を高めることができる。
【0033】
本実施形態では、入射光として600nmより大きい赤外波長λ(例えば633nm)を用いることを想定すると、周期P1は400〜600nmとすることができる。また、周期P2は周期P1より小さく、ホットサイトの密度を高めることから、20〜100nmとすることができる。また、周期P2は規則的でなくてもよく、最大周期P2として第2凸部12Bをランダム配置しても良い。さらに、上記実施形態は第1方向Xについて一次元の周期で凸部11B,12Bを形成したが、第2方向Yにも同様に周期P1,P2で配列される凸部11B,12Bを形成してもよい。こうすると、入射光の偏光依存がなくなり、円偏光の光を用いることができる。
【0034】
1.3.第1,第2基板の関係
図4は、第1凸部11Bと第2凸部12Bとの間に誘電体(SiO2層)を介在させ、誘電体の厚さを変えて局所電場の強さを測定した特性図である。ここで誘電体の厚さとは、第1凸部11Bと第2凸部12Bとの間の距離に相当する。
【0035】
図4に示すように、電場増強度は誘電体の厚さに大きく依存する。図4は、検出対象物質のスペクトルの中でラマンシフト波数730cm−1の信号ピークの強度と誘電体の厚さの関係を示している。これより、誘電体の厚さが40nmの付近で、電場増強度が最大となることがわかる。誘電体膜の厚さは、つまり第1凸部11Bと第2凸部12Bとの間の距離は、100nm以下、好ましくは20〜60nmとすることで、局所電場の強さを一定値以上に確保することができる。なお、図4の結果は、第1基板11は第1凸部11Bがなく金属膜にして測定したものである。平第1凸部11Bを形成すると誘電体の厚さを違えると第1凸部11Bの凹凸比も変わってしまうため、誘電体の厚さによる効果だけを知ることが難しいからである。
【0036】
1.4.試料
検出対象物質を含む試料2は、第1,第2基板11,12間に挟み込むことが可能な有機分子、ウイルスなど大きさが約100nm以下程度の物質であり、状態としては気体、適切な溶媒に含まれた液体が適している。
【0037】
検出目的として、セキュリティ分野では空港・港湾・交通機関などで行われる麻薬や爆発物の探知、可燃性危険物の探知をする等を挙げることができる。医療・健康の分野ではインフルエンザに代表される感染病の原因である各種ウイルスを検出するもの、口腔ガスに含まれる硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルスルフィドを検出し歯周病かを判定するもの、呼気ガスに含まれる一酸化窒素(NO)を検出することで喘息の検査をするもの、呼気ガスに含まれる揮発性有機化合物(VOC)を検出することでがんのスクリーニング検査をするもの、呼気ガスに含まれるアセトンを検出することで脂肪燃焼モニターをするもの、呼気に含まれるイソプレンを検出することでコレステロールモニターをするもの、室内の空気に含まれる揮発性有機化合物(VOC)、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレン、ホルムアルデヒドなどを検査するもの等を挙げることができる。
【0038】
検出対象となるウイルスの例として、インフルエンザウイルスのみならず以下のウイルスも対象となる。国際ウイルス分類委員会の分類体系では、下記のような分類となっているが、いずれのウイルスも対象となる。
【0039】
第1群(Group I) 2本鎖DNA
第2群(Group II) 1本鎖DNA
第3群(Group III) 2本鎖RNA
第4群(Group IV) 1本鎖RNA+鎖(mRNAとして作用)
第5群(Group V) 1本鎖RNA−鎖
第6群(Group VI) 1本鎖RNA+鎖逆転写
第7群(Group VII) 2本鎖DNA逆転写
代表的ウイルスとしては、レスピロウイルス、ルブラウイルス、オルソミクソウイルス、アデノウイルス、ライノウイルス、パピローマウイルス、ポリオーマウイルス、パルボウイルス、アルファウイルス、フラビウイルス、ヘパシウイルス、ヘパトウイルス、エボラウイルス、アレナウイルス、レトロウイルス、などである。いずれもこれらの大きさは数10〜100nm程度である。
【0040】
2.検出装置の具体的な構成
図5は、本実施形態の検出装置の具体的な構成例を示す。図5に示される検出装置100は、図1(C)に示す光学デバイス10を着脱自在に配置している。検出装置100の筐体101の端部にはヒンジ102を介してカバー103が回動自在に支持されている。カバー103の内側には押圧部材例えば板ばね104が配置されている。よって、カバー103を開放して図1(C)に示す光学デバイス10を配置し、カバー103を閉じて係止すると、板ばね104により光学デバイス10は図1(C)の状態が維持される。図5では、図1(C)に示す光学デバイス10が上下反転されて配置され、第2基板12側から光が入射されるようになっている。
【0041】
検出装置100は、筐体101内に、光学系30と、光源50と、光検出部60と、処理部70と、電力供給部80と、を有している。
【0042】
例えば単一波長で直線偏光の光源50は、例えばレーザー光源であり、小型化の観点から好ましくは垂直共振型面発光レーザーを用いることができるが、これに限定されない。
【0043】
光源50からの光は、光学系30を構成するコリメーターレンズ310により平行光にされる。コリメーターレンズ310の下流に偏光制御素子を設け、直線偏光に変換しても良い。ただし、光源50として上述のように面発光レーザーを採用し、直線偏光を有する光を発光可能であれば、偏光制御素子を省略することができる。
【0044】
コリメーターレンズ310により平行光された光は、ハーフミラー(ダイクロイックミラー)320により光学デバイス10の方向に導かれ、対物レンズ330で集光され、光学デバイス10に入射する。光学デバイス10には、図6(B)及び図6(C)に示す金属ナノ粒子220が形成される。光学デバイス10から例えば表面増強ラマン散乱によるレイリー散乱光及びラマン散乱光が放射される。光学デバイス10からのレイリー散乱光及びラマン散乱光は、対物レンズ330を通過し、ハーフミラー320によって光検出部60の方向に導かれる。
【0045】
光学デバイス10からのレイリー散乱光及びラマン散乱光は、集光レンズ340で集光されて、光検出部60に入力される。光検出部60では先ず、光フィルター610に到達する。光フィルター610(例えばノッチフィルター)によりラマン散乱光が取り出される。このラマン散乱光は、さらに分光器620を介して受光素子630にて受光される。分光器620は、例えばファブリペロー共振を利用したエタロン等で形成されて通過波長帯域を可変とすることができる。分光器620を通過する光の波長は、制御部70により制御(選択)することができる。受光素子630によって、試料分子1に特有のラマンスペクトルが得られ、得られたラマンスペクトルと予め保持するデータと照合することで、試料分子1を特定することができる。
【0046】
図6は、図5の検出装置100の制御系ブロック図である。図6に示されるように、検出装置100は、例えばインターフェイス120、表示部130及び操作部140等をさらに含むことができる。また、処理部70は、図6に示すように制御部としての例えばCPU(Central Processing Unit)71、RAM(Random Access Memory)72、ROM(Read Only Memory)73等を有することができる。さらに、検出装置100では、光源駆動回路52、分光器駆動回路622、受光回路632、検出回路152及び電力供給部80等を処理部70に接続している。処理部70は、図5に示される各部へ命令を送ることができる。さらに、処理部70は、図5及び図6に示す検出器150にて光学デバイス10の有無とIDとが検出回路151を介して検出されると、ラマンスペクトルによる分光分析を実行することができ、処理部70は、標的物である試料分子1,2を特定することができる。なお、処理部70は、ラマン散乱光による検出結果、ラマンスペクトルによる分光分析結果等をインターフェイス120及び端子121を介して接続される外部機器(図示せず)に送信することができる。
【0047】
電力供給部150として、一次電池、二次電池などが利用できる。一次電池の場合には、CPU70がROM73に格納されている規定の電圧以下になったことを判断して、電池交換を表示部130に表示をする。二次電池の場合には、規定の電圧以下であれば、CPU70は表示部130に充電の表示をする。操作者は、その表示を見て、端子81に充電器を接続して、規定の電圧になるまで充電をすることで繰返し使用することができる。
【0048】
図7(A)及び図7(B)は、ラマンスペクトルのピーク抽出の概要説明図を示す。図7(A)は、ある物質に励起レーザーを照射した時に検出されるラマンスペクトルを示し、ラマンシフトを波数で表している。図7(A)の例では、第1のピーク(883cm−1)と第2のピーク(1453cm−1)が特徴的と考えられる。得られたラマンスペクトルと予め保持するデータ(第1のピークのラマンシフト及び光強度、第2のピークのラマンシフト及び光強度等)と照合することで、流体試料中の検出対象物質を特定することができる。
【0049】
図7(B)は、分光素子620で受光素子630が第2のピークの周辺のスペクトルを検出した時の信号強度(白丸)を示す。分光素子620が10cm−1程度で解像度が細かい場合には、第2のピークのラマンシフト(黒丸)を正確に特定し易くなる。
【0050】
3.光学デバイスの製造方法
図8(A)〜図8(E)に、光学デバイス10の製造方法の一例を示す。基板200が石英基板である例を示すが、他の材質の基板200でも同様に上述した第1構造を形成することが可能であり、石英に限定されるものではない。図8(A)に示すように、清浄な石英基板200に対して、レジスト200Aをスピンコートなどの装置で塗布し乾燥させる。
【0051】
図8(B)に示すようにレジスト200Aに所望のパターン200Bを形成するために、レーザー干渉露光する。本実施形態では、凸部210の寸法は、照射する光の波長(ここでは可視光から近赤外光の領域)より小さい寸法であるから、露光装置としては、電子ビーム露光法や紫外レーザーを使った光干渉露光法などが使用することができる。電子ビーム露光法は、露光の自由度が高い反面、量産性には限界がある。そこで、量産性に優れている紫外レーザーを使った光干渉露光法を採用した。例えば、干渉露光の光源として連続発振のYVO4レーザー(波長266nm、最大出力200mW)を用いることができる。ポジ型レジストを使用し、レジスト膜厚は1μmとした。レジストの露光パターンは、一方のパターンを格子状とし、他方のパターンも格子状として、両者の交差する角度によって色々なパターンが形成することができ、レーザーの波長の半分の大きさまで小さくすることが可能である。両者の干渉縞の潜像をレジスト中に形成し、レジストを現像して図8(B)に示す所望のパターン200Bを形成する。
【0052】
その後、図8(C)に示すように、レジストパターン200Bで保護されていない部分をエッチングして、基板200に凹部を設ける。さらに、図8(D)に示すように、基板上に残ったレジストパターンを除去する。それにより、基板200上に凸部210が残る。
【0053】
第1構造である凸部210を形成した後、スパッタ装置や蒸着装置などで金属膜(導体膜)201を形成する。最初は全体に薄く金属膜201が形成されるが、段々と凹凸の凸付近に多く金属が付着するようになり、結果として図8(E)に示す金属ナノ粒子220の形状になる。金属ナノ粒子220のギャップGは、金属膜201の膜厚によって制御することができる。このギャップGの大小が金属ナノ粒子220を保持する構造となっているので、重要なパラメータである。この金属としては、例えば金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、Pd(パラジウム)、Pt(白金)、Rh(ロジウム)、Ru(ルテニウム)、Ta(タンタル)、Ti(チタン)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)もしくはこれらの合金或いは複合体が用いられる。
【0054】
図8(A)〜図8(E)によれば、第2基板12上の第2凸部12Bを好適に形成できるが、第1基板11上に第1凸部11Bを形成する場合にも適用できる。
【0055】
図9には、紫外レーザーを利用した光干渉露光法の概略構成図が示してある。光源160としては、連続発振(CW)できる波長266nm、出力200mWの紫外レーザーを用いた。レーザー光源160から出たレーザー光は、シャッター161を経由してミラー162で折り返し、ハーフミラー163で両側に分岐する。夫々についてミラー164A,164Bで折り返し、対物レンズ165A,165Bとピンホール166A,166Bを経由させ、ビームを広げる。広がった紫外レーザーをマスク167A,167Bに照射させ干渉縞を作り、レジストを塗布した基板200に照射させる。この時、干渉縞の露光構成によって色々なパターンの露光が可能になる。このパターンは、CCDカメラ169で撮像することで、モニター169Aにてモニタリングすることができる。
【0056】
図10(A)及び図10(B)は、光干渉露光法で作成できる露光パターンの代表的な例を示している。図10(A)は図1に示す一次元配列の第2凸部12Bを示している。図10(B)は、第2凸部12BをX,Y方向に二次元配列とする例である。
【0057】
図11(A)〜図11(C)には、図9で説明した光干渉露光法とは別の製造方法を示す。図11(A)に示す先ず清浄な表面の石英や硼珪酸ガラスなどの基板200に、蒸着法やスパッタリング法で、図11(B)に示す金属の薄い導体膜201を形成する。この導体膜201は、Au(金)、Ag(銀)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)などが選ばれる。導体膜220は、できるだけ均一で平坦な膜が望ましい。次に蒸着機で金属アイランド221を形成する。金属アイランド221を形成するには、基板200上の導体膜220に到達した金属原子が表面拡散をして落ち着いていくので、あまり表面拡散長が大きいとアイランドにはならず、アイランド同士が繋がった膜状になってしまう。表面拡散長は、基板200の温度と、基板200と蒸着する金属の濡れ性に影響を受ける。基板200の温度が低いほど表面拡散長は小さくなる。具体的には、Ag圧力はおよそ10−3(Pa)、成膜レートは約0.02nm/秒、基板200は加熱なしの条件で形成したアイランド構造の例を、図11(D)に電子顕微鏡の写真として示す。1つのアイランドはおよそ10〜50nmくらいの大きさで、ランダムに形成されている。これらの金属アイランド221にレーザー光を照射すると、光の波長よりアイランド221の大きさが小さいため、光の電場によって自由電子が共鳴した状態になり強い双極子モーメントを持ち、結果として強い増強電場が形成されることになる。金属アイランド221を形成する金属の種類は、Au(金)、Ag(銀)、Al(アルミニウム)、Cu(銅)、Pd(パラジウム)、Pt(白金)、Rh(ロジウム)、Ru(ルテニウム)、Ta(タンタル)、Ti(チタン)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)のいずれか、或いは複合的構成でも良く、標的分子に応じて選択することができる。
【0058】
4.その他の変形例
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できる。
【0059】
図12は、光学デバイスの変形例を示している。第1基板11には、例えば図8(A)〜図8(E)に示す製法により、図1(C)の第1凸部11Bとはデューティーが異なる第1凸部15が形成されている。第2基板12は、中心ほど第1基板11側に突出した凸状の湾曲面16を有し、湾曲面16上に第2凸部12Bが形成されている。
【0060】
第1基板11と第2基板12を重ね合わせる際に、これらの基板に反りなどがあると、両者は平行に重ね合わさらず、間隔が区々となる。それを回避するために、予め片方の例えば第2基板12を凸状の湾曲面16に加工しておき、その上に第2凸部12Bを形成する。それによって、第1基板11と第2基板12とは、ほぼ中央部で所与の間隔で重ね合わさることが可能になる。基板の凸状の加工寸法は、基板の反りに応じて決めればよく、10〜100μm程度に中央部が凸状になっていれば良い。但し、湾曲面16の上に微細な構造を形成するので、湾曲面16の表面状態は微細構造よりも滑らかにする必要がある。加工方法の一例としては、凹状工具と研磨塗粒を用いたラッピング研磨によって加工した後、表面を滑らかにするためにポリシング加工を施して、湾曲面16を形成することができる。
【0061】
図13(A)〜図13(D)は、第2基板12を、第1基板11と対向する位置と、第1基板11と非対向な位置とに、第1基板11に対して相対的に移動可能に支持する構造を備えた光学デバイス10を示している。
【0062】
図13(A)は、試料2を導入する前の初期の状態を示す。基台240の中央部には第1基板11が置かれ、その周辺に試料吸収部231が配置され、間隙を持ってカバー232が固定されている。基台230とカバー232との間には第2基板12が移動可能な状態で収容される。その第2基板12を移動させるためのレバー233が設けられている。カバー232の中央部には、試料2を導入するための開口部234が備わっている。図示はしていないが、この開口部234には、内部に浮遊物などが入らないように保護シートが設けられ、使用する前にその保護シートを除去して使用することができる。基台230は、光学的に透明な材料で構成されており、必要に応じて反射防止処理などが施されている。
【0063】
図13(B)は、試料2を導入する様子を示す。液体中に検出すべき標的物質を含んだ試料2を、開口234を介して適量だけを滴下する。このとき、第2基板12は第1基板11と非対向の位置にあるので、第2基板12が滴下経路と干渉することがない。滴下された試料2は第1基板11上に広がる。第1基板11上より溢れた試料2は、試料吸収部231にて吸収される。
【0064】
図13(C)は、試料2が第基板11に保持された状態を示す。レバー233をスライドして第2基板12を移動させ、第1基板11に重なるまで、レバー233をスライドさせる。レバー233の可動範囲を決めておけば、第1基板11と第2基板12とが正対する位置にて重なる。
【0065】
図13(D)は、試料2が導入され、第1基板11と第2基板12が重ね合わされた状態を示す。第1基板11と第2基板12の間に試料2が挟みこまれることになる。
【符号の説明】
【0066】
1,2 試料(試料分子)、10 光学デバイス、11 第1基板、11A 第1面、11B,15 第1凸部、11C 金属、12 第2基板、12A 第2面、12B 第2凸部、13,14 増強電場、16 湾曲面、30 光学系、50 光源、60 光検出部、100 検出装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばラマン分光検出に用いられる光学デバイス、検出装置及び検出方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
通常のラマン分光装置は、検出する物質の指紋スペクトルが得られるという特徴はあるが、ラマン信号は微弱で検出感度が低いという課題があり、その使用される用途は限定的であった。しかし、後述するように光の波長の半分より小さな金属ナノ構造に光を照射することで、金属ナノ構造近傍に強い増強電場が形成される局在表面プラズモン共鳴(LSPR: Localized Surface Plasmon Resonance)という現象が知られている。さらに、ラマン散乱光が増強電場によって増強される表面増強ラマン散乱(SERS: Surface Enhanced Raman Scattering)という現象も知られており、これらを使うことで、微量しか存在しない物質と検出し、その物質を指紋スペクトルから特定することが可能になる。この原理を利用して、微量の標的分子を高感度で検出、特定することが可能になる。
【0003】
特許文献1には、金属ナノ粒子を配置したSERS活性基板に微生物を含む液体試料を滴下し、その後微生物を固定するための固定液(アガロースゲルとグリセロールから成る)を滴下する方法が記載されている。
【0004】
特許文献2では、エポキシ樹脂による誘電体格子(周期360nm)の上にSiO2とTiO2を形成した上、さらにSiO2の微細な柱を形成して、その上端部に銀ナノ構造を形成するセンサ構造を開示している。この構造では、誘電体格子でGuided−Mode Resonanceによる増強電場を作り、表面部の銀ナノ構造の局在表面プラズモン共鳴を励起してより強い増強電場を作っている。
【0005】
特許文献3では、透明基板上に金属粒子を不均一に付着させたSERS基板を少なくとも2枚平行に配列し、それぞれのSERS活性基板からラマン散乱光を発生させて、検出感度を増強している(段落0028及び図9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−223671号公報
【特許文献2】米国公開特許2010/0085566号公報
【特許文献3】WO2007/049487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1によれば、SERS信号を増強する金属ナノ粒子が形成する増強電場に微生物が近接して固定されることが望ましいが、固定液を滴下するだけでは、その状態が実現するかは成り行き次第となってしまう。
【0008】
特許文献2のセンサ構造では、強い増強電場が形成されるのは、銀ナノ構造の近傍に限定されるため、ウイルスや細菌などの比較的大きな検出対象に対しては、増強電場の及ぶ領域が相対的に小さくなってしまい、適切な検出が行われないという課題があった。この課題は、特許文献3の構造でも同様に有している。
【0009】
本発明の幾つかの態様は、ウイルスや細菌などの比較的大きな検出対象であっても、確実に検出することができる光学デバイス、検出装置及び検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の一態様は、
第1基板と、
前記第1基板と対向する第2基板と、
を有し、
前記第1基板は、前記第2基板と対向する第1面より突出する導体表面の第1凸部を有し、該第1凸部は前記第1面に沿った第1方向にて周期P1で配列され、
前記第2基板は、前記第1基板と対向する第2面より突出する導体表面の第2凸部を有し、該第2凸部は前記第1方向にて最大周期P2で配列され、
前記第1,第2基板間に挟まれる試料に入射する光の波長をλとしたとき、λ>P1>P2を満たす光学デバイスに関する。
【0011】
本発明の一態様では、第1基板の第1面上には伝搬表面プラズモン(PSP: Propagating Surface Plasmon)が励起される。伝搬表面プラズモンは第1面上に沿って伝搬し、第2基板の第2面の第2凸部周囲には局在表面プラズモン(LSP: Localized Surface Plasmon)が励起される。そして、この局在表面プラズモンは、比較的密度が大きいホットサイトである第2凸部の周囲に増強電場を励起する。よって、第2凸部間に入り込む比較的小さい試料分子であっても、あるいは第2凸部間には入り込めなくても第1凸部間には入り込める比較的大きい試料分子であっても、その増強電場と試料分子との相互作用により表面増強ラマン散乱(SERS: Surface Enhanced Raman Scattering)が生じる。このように、増強電場により強い表面増強ラマン散乱を生じさせることができる。
【0012】
(2)本発明の一態様では、前記第1凸部と前記第2凸部との間の距離が100nm以下で、前記第1,第2基板を対向させることができる。こうすると、電場の染み出し距離の範囲内に試料を位置させることができるので、増強電場により強い表面増強ラマン散乱を生じさせることができる。
【0013】
(3)本発明の一態様では、前記第1周期は400〜600nmであり、前記第2周期は20〜100nmとすることができる。こうすると、入射光の波長として600nmよりも大きい赤外光を使用でき、しかも増強電場が励起されるホットサイトとしての第2凸部の密度を高く確保できる。
【0014】
(4)本発明の一態様では、前記第2基板は、前記第1基板と対向する位置と、前記第1基板と非対向な位置とに、前記第1基板に対して相対的に移動可能に支持することができる。こうすると、第1,第2基板を非対向とさせて、第1,第2基板の一方に試料を保持させた後に、第1,第2基板を対向させることができる。
【0015】
(5)本発明の一態様では、前記試料の分子の大きさをDとしたとき、P2<D<P1を満たすことができる。こうすると、周期P2よりも大きい試料であっても、最大周期P1の第1凸部間に位置させることができ、密度の高い第2凸部の周囲の増強電場を利用して検出することができる。
【0016】
(6)本発明の他の態様は、
上述した光学デバイスと、
光源と、
光検出部と、
を有し、
前記光学デバイスの前記第1,第2基板間に前記試料が保持され、
前記光学デバイスは、前記光源からの光が照射されることで前記試料からの光を出射し、
前記光検出部は、前記試料に含まれる特定物質からの光を検出する検出装置に関する。
【0017】
本発明の他の態様によれば、上述の通り光学デバイスでは増強電場により強い表面増強ラマン散乱を生じさせることができるので、試料中の特定物質が発するラマン散乱光を高い検出感度にて光検出部にて検出することができる。
【0018】
(7)本発明のさらに他の態様は、
第1方向にて周期P1で配列され、第1面より突出する第1凸部を有する第1基板の前記第1対向面に試料を保持させる工程と、
前記第1方向にて最大周期P2(P2<P1)で配列され、前記第1基板と対向する第2面より突出する第2凸部を有する第2基板を、前記第1面及び前記第2面が対向するように配置する工程と、
前記第1,第2基板間に挟まれる試料に、波長λ(λ>P1)を照射し、前記試料を反映した光を出射させる工程と、
前記試料からの光の中から前記試料に含まれる特定物質からの光を検出する工程と、
を有する検出方法に関する。
【0019】
本発明の他の態様によれば、第1,第2基板に挟まれた試料は増強電場により強い表面増強ラマン散乱を生じさせることができるので、試料中の特定物質を反映したラマン散乱光を高い検出感度にて検出することができる。しかも、第1基板への試料の設定を第2基板に干渉されずに実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1(A)〜図1(C)は、本発明の第1実施形態に係る光学デバイスを示す図である。
【図2】図2(A)はレイリー散乱光とラマン散乱光の発生を示す図であり、図2(B)はアセトアルデヒドのラマンスペクトルを示す図であり、図2(C)及び図2(D)は第2凸部の近傍に生ずる増強電場を示す図である。
【図3】第2凸部間に入り込む試料に作用する増強電場を示す図である。
【図4】第1,第2基板間に介在させた誘電体の厚さ(第1凸部と第2凸部との間の距離)と局所電場の強さとの関係を示す特性図である。
【図5】検出装置の具体例を示す図である。
【図6】検出装置の制御系ブロック図である。
【図7】図7(A)及び図7(B)は、スペクトル強度の抽出を説明するための図である。
【図8】図8(A)〜図8(E)は、光学デバイスを構成する基板の製造方法を示す図である。
【図9】図8(A)に示す光干渉露光を実施する装置を示す図である。
【図10】図10(A)及び図10(B)は図9に示す光干渉露光装置で作成される凸部の露光パターンを示す図である。
【図11】図11(A)〜図11(D)は、図8(A)〜図8(E)とは異なる製造方法を示す図である。
【図12】光学デバイスの変形例を示す図である。
【図13】図13(A)〜図13(D)は、第2基板を第1基板に対して相対的に移動可能とした光学デバイスの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0022】
1.光学デバイス
1.1.光学デバイスの構造
図1(A)〜図1(C)は、本実施形態に係る光学デバイス10を示している。図1(A)に示すように、光学デバイス10は、第1基板11と第2基板12とを有する。第1基板11は、第1面11Aより突出して、第1方向Xにて周期P1で配列された第1凸部11Bを有する。第1基板11及び第1凸部11Bの表面11Cは金属(導体)である。本実施形態では、基板11及び第1凸部11Bは誘電体で形成されている。
【0023】
第2基板12は、第2面12Aより突出して、第1方向Xにて最大周期P2(P2<P1)で配列された第2凸部12Bを有する。本実施形態では、第2基板12は誘電体であり、第2凸部12Bは金属である。
【0024】
図1(B)は、第1基板11上に試料2を保持させた状態を示している。試料2は検出物質を含み、本実施形態では液体試料とする。液体試料2はスポイト等により第1基板11上に滴下される。
【0025】
図1(C)は、検出時の状態での光学デバイス10を示している。第1基板11と第2基板12とは、第1面11A及び第2面12Aとの間に試料2を挟んで対向配置される。特に図1(C)では、試料2の分子の大きさが比較的大きく、最大周期P2の第2凸部12B間には入り込めないが、周期P1の第1凸部11B間には入り込んでいる。試料の分子の大きさをDとしたとき、P2<D<P1を満たす。
【0026】
本実施形態では、第1基板11の表面11Cは金属で光を透過しないので、図1(C)に示すように、入射光は第2基板12側から入射される。
【0027】
1.2.光検出原理
図2(A)〜図2(D)を用いて、流体試料を反映した光検出原理の一例としてラマン散乱光の検出原理の説明図を示す。図2(A)に示すように、光学デバイス10に吸着される検出対象の試料(試料分子)2に入射光(振動数ν)が照射される。一般に、入射光の多くは、レイリー散乱光として散乱され、レイリー散乱光の振動数ν又は波長は入射光に対して変化しない。入射光の一部は、ラマン散乱光として散乱され、ラマン散乱光の振動数(ν−ν’及びν+ν’)又は波長は、試料分子2の振動数ν’(分子振動)が反映される。つまり、ラマン散乱光は、検査対象の試料分子2を反映した光である。入射光の一部は、試料分子1を振動させてエネルギーを失うが、試料分子2の振動エネルギーがラマン散乱光の振動エネルギー又は光エネルギーに付加されることもある。このような振動数のシフト(ν’)をラマンシフトと呼ぶ。
【0028】
図2(B)に、標的分子に固有の指紋スペクトルとして、アセトアルデヒドの例を示す。この指紋スプクトルによって、検出した物質がアセトアルデヒドと特定することが可能である。しかしながら、ラマン散乱光は非常に微弱であり、微量にしか存在しない物質を検出することは困難であった。
【0029】
図2(D)は、図1(C)に示すサイズの大きな試料分子2でなく、サイズの小さな試料分子1が、第2凸部12Bの間に入り込んだ状態を示している。図2(D)に示すように、入射光が入射された領域では、隣り合う第2凸部12B間のギャップに、増強電場13が形成される。特に、図2(C)に示すように、入射光の波長λよりも小さな第2凸部12Bに対して入射光を照射する場合、入射光の電場は、第2凸部12Bの表面に存在する自由電子に作用し、共鳴を引き起こす。これにより、自由電子による電気双極子が第2凸部12B内に励起され、入射光の電場よりも強い増強電場13が形成される。これは、局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)とも呼ばれる。この現象は、入射光の波長よりも小さな1〜1000nmの凸部を有する第2凸部12Bの電気伝導体に特有の現象である。
【0030】
一方、図3は図1(C)の拡大図である。サイズの大きな試料分子2は第2凸部12B間には入り込めないが、第1凸部11B間には入り込むことができる。本実施形態では、局在表面プラズモンと伝搬表面プラズモンとを併用することができる。第1基板11の第1凸部11Bを有する格子面に光が入射すると、格子の凹凸により表面プラズモンが発生する。入射光の偏光方向を格子の溝方向と直交させておくと、金属格子内の自由電子の振動にともなって電磁波の振動が励起される。この電磁波の振動は自由電子の振動に影響するため、両者の振動が結合した系である表面プラズモンポラリトンが形成される。
【0031】
この表面プラズモンポラリトンは、第1基板11表面11Cに沿って伝搬する。具体的には、表面プラズモンポラリトンは、空気と金属格子との界面に沿って伝搬し、金属格子(第1凸部11B)の近傍に局在する強い増強電場14を励起する。表面プラズモンポラリトンの結合は光の波長λに対して敏感であり、周期P1<λを満たし、特に好ましくは波長λよりもわずかに小さい周期P1とすると、その結合効率は高い。
【0032】
比較的大きなサイズの試料分子2が第1凸部11B間に存在すると、そこから表面増強ラマン散乱が発生する。このように、空気伝搬モードである入射光から表面プラズモンポラリトンを介して増強電場14を励起し、局在の増強電場13,14と標的物の相互作用により表面増強ラマン散乱を発現させる。つまり、大きなサイズの試料分子2が第1凸部11B間に存在すると、試料分子2によるラマン散乱光は増強電場13及び増強電場14の双方で増強されて、ラマン散乱光の信号強度は強くなる。このような表面増強ラマン散乱では、試料分子2が微量であっても、検出感度を高めることができる。
【0033】
本実施形態では、入射光として600nmより大きい赤外波長λ(例えば633nm)を用いることを想定すると、周期P1は400〜600nmとすることができる。また、周期P2は周期P1より小さく、ホットサイトの密度を高めることから、20〜100nmとすることができる。また、周期P2は規則的でなくてもよく、最大周期P2として第2凸部12Bをランダム配置しても良い。さらに、上記実施形態は第1方向Xについて一次元の周期で凸部11B,12Bを形成したが、第2方向Yにも同様に周期P1,P2で配列される凸部11B,12Bを形成してもよい。こうすると、入射光の偏光依存がなくなり、円偏光の光を用いることができる。
【0034】
1.3.第1,第2基板の関係
図4は、第1凸部11Bと第2凸部12Bとの間に誘電体(SiO2層)を介在させ、誘電体の厚さを変えて局所電場の強さを測定した特性図である。ここで誘電体の厚さとは、第1凸部11Bと第2凸部12Bとの間の距離に相当する。
【0035】
図4に示すように、電場増強度は誘電体の厚さに大きく依存する。図4は、検出対象物質のスペクトルの中でラマンシフト波数730cm−1の信号ピークの強度と誘電体の厚さの関係を示している。これより、誘電体の厚さが40nmの付近で、電場増強度が最大となることがわかる。誘電体膜の厚さは、つまり第1凸部11Bと第2凸部12Bとの間の距離は、100nm以下、好ましくは20〜60nmとすることで、局所電場の強さを一定値以上に確保することができる。なお、図4の結果は、第1基板11は第1凸部11Bがなく金属膜にして測定したものである。平第1凸部11Bを形成すると誘電体の厚さを違えると第1凸部11Bの凹凸比も変わってしまうため、誘電体の厚さによる効果だけを知ることが難しいからである。
【0036】
1.4.試料
検出対象物質を含む試料2は、第1,第2基板11,12間に挟み込むことが可能な有機分子、ウイルスなど大きさが約100nm以下程度の物質であり、状態としては気体、適切な溶媒に含まれた液体が適している。
【0037】
検出目的として、セキュリティ分野では空港・港湾・交通機関などで行われる麻薬や爆発物の探知、可燃性危険物の探知をする等を挙げることができる。医療・健康の分野ではインフルエンザに代表される感染病の原因である各種ウイルスを検出するもの、口腔ガスに含まれる硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルスルフィドを検出し歯周病かを判定するもの、呼気ガスに含まれる一酸化窒素(NO)を検出することで喘息の検査をするもの、呼気ガスに含まれる揮発性有機化合物(VOC)を検出することでがんのスクリーニング検査をするもの、呼気ガスに含まれるアセトンを検出することで脂肪燃焼モニターをするもの、呼気に含まれるイソプレンを検出することでコレステロールモニターをするもの、室内の空気に含まれる揮発性有機化合物(VOC)、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレン、ホルムアルデヒドなどを検査するもの等を挙げることができる。
【0038】
検出対象となるウイルスの例として、インフルエンザウイルスのみならず以下のウイルスも対象となる。国際ウイルス分類委員会の分類体系では、下記のような分類となっているが、いずれのウイルスも対象となる。
【0039】
第1群(Group I) 2本鎖DNA
第2群(Group II) 1本鎖DNA
第3群(Group III) 2本鎖RNA
第4群(Group IV) 1本鎖RNA+鎖(mRNAとして作用)
第5群(Group V) 1本鎖RNA−鎖
第6群(Group VI) 1本鎖RNA+鎖逆転写
第7群(Group VII) 2本鎖DNA逆転写
代表的ウイルスとしては、レスピロウイルス、ルブラウイルス、オルソミクソウイルス、アデノウイルス、ライノウイルス、パピローマウイルス、ポリオーマウイルス、パルボウイルス、アルファウイルス、フラビウイルス、ヘパシウイルス、ヘパトウイルス、エボラウイルス、アレナウイルス、レトロウイルス、などである。いずれもこれらの大きさは数10〜100nm程度である。
【0040】
2.検出装置の具体的な構成
図5は、本実施形態の検出装置の具体的な構成例を示す。図5に示される検出装置100は、図1(C)に示す光学デバイス10を着脱自在に配置している。検出装置100の筐体101の端部にはヒンジ102を介してカバー103が回動自在に支持されている。カバー103の内側には押圧部材例えば板ばね104が配置されている。よって、カバー103を開放して図1(C)に示す光学デバイス10を配置し、カバー103を閉じて係止すると、板ばね104により光学デバイス10は図1(C)の状態が維持される。図5では、図1(C)に示す光学デバイス10が上下反転されて配置され、第2基板12側から光が入射されるようになっている。
【0041】
検出装置100は、筐体101内に、光学系30と、光源50と、光検出部60と、処理部70と、電力供給部80と、を有している。
【0042】
例えば単一波長で直線偏光の光源50は、例えばレーザー光源であり、小型化の観点から好ましくは垂直共振型面発光レーザーを用いることができるが、これに限定されない。
【0043】
光源50からの光は、光学系30を構成するコリメーターレンズ310により平行光にされる。コリメーターレンズ310の下流に偏光制御素子を設け、直線偏光に変換しても良い。ただし、光源50として上述のように面発光レーザーを採用し、直線偏光を有する光を発光可能であれば、偏光制御素子を省略することができる。
【0044】
コリメーターレンズ310により平行光された光は、ハーフミラー(ダイクロイックミラー)320により光学デバイス10の方向に導かれ、対物レンズ330で集光され、光学デバイス10に入射する。光学デバイス10には、図6(B)及び図6(C)に示す金属ナノ粒子220が形成される。光学デバイス10から例えば表面増強ラマン散乱によるレイリー散乱光及びラマン散乱光が放射される。光学デバイス10からのレイリー散乱光及びラマン散乱光は、対物レンズ330を通過し、ハーフミラー320によって光検出部60の方向に導かれる。
【0045】
光学デバイス10からのレイリー散乱光及びラマン散乱光は、集光レンズ340で集光されて、光検出部60に入力される。光検出部60では先ず、光フィルター610に到達する。光フィルター610(例えばノッチフィルター)によりラマン散乱光が取り出される。このラマン散乱光は、さらに分光器620を介して受光素子630にて受光される。分光器620は、例えばファブリペロー共振を利用したエタロン等で形成されて通過波長帯域を可変とすることができる。分光器620を通過する光の波長は、制御部70により制御(選択)することができる。受光素子630によって、試料分子1に特有のラマンスペクトルが得られ、得られたラマンスペクトルと予め保持するデータと照合することで、試料分子1を特定することができる。
【0046】
図6は、図5の検出装置100の制御系ブロック図である。図6に示されるように、検出装置100は、例えばインターフェイス120、表示部130及び操作部140等をさらに含むことができる。また、処理部70は、図6に示すように制御部としての例えばCPU(Central Processing Unit)71、RAM(Random Access Memory)72、ROM(Read Only Memory)73等を有することができる。さらに、検出装置100では、光源駆動回路52、分光器駆動回路622、受光回路632、検出回路152及び電力供給部80等を処理部70に接続している。処理部70は、図5に示される各部へ命令を送ることができる。さらに、処理部70は、図5及び図6に示す検出器150にて光学デバイス10の有無とIDとが検出回路151を介して検出されると、ラマンスペクトルによる分光分析を実行することができ、処理部70は、標的物である試料分子1,2を特定することができる。なお、処理部70は、ラマン散乱光による検出結果、ラマンスペクトルによる分光分析結果等をインターフェイス120及び端子121を介して接続される外部機器(図示せず)に送信することができる。
【0047】
電力供給部150として、一次電池、二次電池などが利用できる。一次電池の場合には、CPU70がROM73に格納されている規定の電圧以下になったことを判断して、電池交換を表示部130に表示をする。二次電池の場合には、規定の電圧以下であれば、CPU70は表示部130に充電の表示をする。操作者は、その表示を見て、端子81に充電器を接続して、規定の電圧になるまで充電をすることで繰返し使用することができる。
【0048】
図7(A)及び図7(B)は、ラマンスペクトルのピーク抽出の概要説明図を示す。図7(A)は、ある物質に励起レーザーを照射した時に検出されるラマンスペクトルを示し、ラマンシフトを波数で表している。図7(A)の例では、第1のピーク(883cm−1)と第2のピーク(1453cm−1)が特徴的と考えられる。得られたラマンスペクトルと予め保持するデータ(第1のピークのラマンシフト及び光強度、第2のピークのラマンシフト及び光強度等)と照合することで、流体試料中の検出対象物質を特定することができる。
【0049】
図7(B)は、分光素子620で受光素子630が第2のピークの周辺のスペクトルを検出した時の信号強度(白丸)を示す。分光素子620が10cm−1程度で解像度が細かい場合には、第2のピークのラマンシフト(黒丸)を正確に特定し易くなる。
【0050】
3.光学デバイスの製造方法
図8(A)〜図8(E)に、光学デバイス10の製造方法の一例を示す。基板200が石英基板である例を示すが、他の材質の基板200でも同様に上述した第1構造を形成することが可能であり、石英に限定されるものではない。図8(A)に示すように、清浄な石英基板200に対して、レジスト200Aをスピンコートなどの装置で塗布し乾燥させる。
【0051】
図8(B)に示すようにレジスト200Aに所望のパターン200Bを形成するために、レーザー干渉露光する。本実施形態では、凸部210の寸法は、照射する光の波長(ここでは可視光から近赤外光の領域)より小さい寸法であるから、露光装置としては、電子ビーム露光法や紫外レーザーを使った光干渉露光法などが使用することができる。電子ビーム露光法は、露光の自由度が高い反面、量産性には限界がある。そこで、量産性に優れている紫外レーザーを使った光干渉露光法を採用した。例えば、干渉露光の光源として連続発振のYVO4レーザー(波長266nm、最大出力200mW)を用いることができる。ポジ型レジストを使用し、レジスト膜厚は1μmとした。レジストの露光パターンは、一方のパターンを格子状とし、他方のパターンも格子状として、両者の交差する角度によって色々なパターンが形成することができ、レーザーの波長の半分の大きさまで小さくすることが可能である。両者の干渉縞の潜像をレジスト中に形成し、レジストを現像して図8(B)に示す所望のパターン200Bを形成する。
【0052】
その後、図8(C)に示すように、レジストパターン200Bで保護されていない部分をエッチングして、基板200に凹部を設ける。さらに、図8(D)に示すように、基板上に残ったレジストパターンを除去する。それにより、基板200上に凸部210が残る。
【0053】
第1構造である凸部210を形成した後、スパッタ装置や蒸着装置などで金属膜(導体膜)201を形成する。最初は全体に薄く金属膜201が形成されるが、段々と凹凸の凸付近に多く金属が付着するようになり、結果として図8(E)に示す金属ナノ粒子220の形状になる。金属ナノ粒子220のギャップGは、金属膜201の膜厚によって制御することができる。このギャップGの大小が金属ナノ粒子220を保持する構造となっているので、重要なパラメータである。この金属としては、例えば金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、Pd(パラジウム)、Pt(白金)、Rh(ロジウム)、Ru(ルテニウム)、Ta(タンタル)、Ti(チタン)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)もしくはこれらの合金或いは複合体が用いられる。
【0054】
図8(A)〜図8(E)によれば、第2基板12上の第2凸部12Bを好適に形成できるが、第1基板11上に第1凸部11Bを形成する場合にも適用できる。
【0055】
図9には、紫外レーザーを利用した光干渉露光法の概略構成図が示してある。光源160としては、連続発振(CW)できる波長266nm、出力200mWの紫外レーザーを用いた。レーザー光源160から出たレーザー光は、シャッター161を経由してミラー162で折り返し、ハーフミラー163で両側に分岐する。夫々についてミラー164A,164Bで折り返し、対物レンズ165A,165Bとピンホール166A,166Bを経由させ、ビームを広げる。広がった紫外レーザーをマスク167A,167Bに照射させ干渉縞を作り、レジストを塗布した基板200に照射させる。この時、干渉縞の露光構成によって色々なパターンの露光が可能になる。このパターンは、CCDカメラ169で撮像することで、モニター169Aにてモニタリングすることができる。
【0056】
図10(A)及び図10(B)は、光干渉露光法で作成できる露光パターンの代表的な例を示している。図10(A)は図1に示す一次元配列の第2凸部12Bを示している。図10(B)は、第2凸部12BをX,Y方向に二次元配列とする例である。
【0057】
図11(A)〜図11(C)には、図9で説明した光干渉露光法とは別の製造方法を示す。図11(A)に示す先ず清浄な表面の石英や硼珪酸ガラスなどの基板200に、蒸着法やスパッタリング法で、図11(B)に示す金属の薄い導体膜201を形成する。この導体膜201は、Au(金)、Ag(銀)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)などが選ばれる。導体膜220は、できるだけ均一で平坦な膜が望ましい。次に蒸着機で金属アイランド221を形成する。金属アイランド221を形成するには、基板200上の導体膜220に到達した金属原子が表面拡散をして落ち着いていくので、あまり表面拡散長が大きいとアイランドにはならず、アイランド同士が繋がった膜状になってしまう。表面拡散長は、基板200の温度と、基板200と蒸着する金属の濡れ性に影響を受ける。基板200の温度が低いほど表面拡散長は小さくなる。具体的には、Ag圧力はおよそ10−3(Pa)、成膜レートは約0.02nm/秒、基板200は加熱なしの条件で形成したアイランド構造の例を、図11(D)に電子顕微鏡の写真として示す。1つのアイランドはおよそ10〜50nmくらいの大きさで、ランダムに形成されている。これらの金属アイランド221にレーザー光を照射すると、光の波長よりアイランド221の大きさが小さいため、光の電場によって自由電子が共鳴した状態になり強い双極子モーメントを持ち、結果として強い増強電場が形成されることになる。金属アイランド221を形成する金属の種類は、Au(金)、Ag(銀)、Al(アルミニウム)、Cu(銅)、Pd(パラジウム)、Pt(白金)、Rh(ロジウム)、Ru(ルテニウム)、Ta(タンタル)、Ti(チタン)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)のいずれか、或いは複合的構成でも良く、標的分子に応じて選択することができる。
【0058】
4.その他の変形例
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できる。
【0059】
図12は、光学デバイスの変形例を示している。第1基板11には、例えば図8(A)〜図8(E)に示す製法により、図1(C)の第1凸部11Bとはデューティーが異なる第1凸部15が形成されている。第2基板12は、中心ほど第1基板11側に突出した凸状の湾曲面16を有し、湾曲面16上に第2凸部12Bが形成されている。
【0060】
第1基板11と第2基板12を重ね合わせる際に、これらの基板に反りなどがあると、両者は平行に重ね合わさらず、間隔が区々となる。それを回避するために、予め片方の例えば第2基板12を凸状の湾曲面16に加工しておき、その上に第2凸部12Bを形成する。それによって、第1基板11と第2基板12とは、ほぼ中央部で所与の間隔で重ね合わさることが可能になる。基板の凸状の加工寸法は、基板の反りに応じて決めればよく、10〜100μm程度に中央部が凸状になっていれば良い。但し、湾曲面16の上に微細な構造を形成するので、湾曲面16の表面状態は微細構造よりも滑らかにする必要がある。加工方法の一例としては、凹状工具と研磨塗粒を用いたラッピング研磨によって加工した後、表面を滑らかにするためにポリシング加工を施して、湾曲面16を形成することができる。
【0061】
図13(A)〜図13(D)は、第2基板12を、第1基板11と対向する位置と、第1基板11と非対向な位置とに、第1基板11に対して相対的に移動可能に支持する構造を備えた光学デバイス10を示している。
【0062】
図13(A)は、試料2を導入する前の初期の状態を示す。基台240の中央部には第1基板11が置かれ、その周辺に試料吸収部231が配置され、間隙を持ってカバー232が固定されている。基台230とカバー232との間には第2基板12が移動可能な状態で収容される。その第2基板12を移動させるためのレバー233が設けられている。カバー232の中央部には、試料2を導入するための開口部234が備わっている。図示はしていないが、この開口部234には、内部に浮遊物などが入らないように保護シートが設けられ、使用する前にその保護シートを除去して使用することができる。基台230は、光学的に透明な材料で構成されており、必要に応じて反射防止処理などが施されている。
【0063】
図13(B)は、試料2を導入する様子を示す。液体中に検出すべき標的物質を含んだ試料2を、開口234を介して適量だけを滴下する。このとき、第2基板12は第1基板11と非対向の位置にあるので、第2基板12が滴下経路と干渉することがない。滴下された試料2は第1基板11上に広がる。第1基板11上より溢れた試料2は、試料吸収部231にて吸収される。
【0064】
図13(C)は、試料2が第基板11に保持された状態を示す。レバー233をスライドして第2基板12を移動させ、第1基板11に重なるまで、レバー233をスライドさせる。レバー233の可動範囲を決めておけば、第1基板11と第2基板12とが正対する位置にて重なる。
【0065】
図13(D)は、試料2が導入され、第1基板11と第2基板12が重ね合わされた状態を示す。第1基板11と第2基板12の間に試料2が挟みこまれることになる。
【符号の説明】
【0066】
1,2 試料(試料分子)、10 光学デバイス、11 第1基板、11A 第1面、11B,15 第1凸部、11C 金属、12 第2基板、12A 第2面、12B 第2凸部、13,14 増強電場、16 湾曲面、30 光学系、50 光源、60 光検出部、100 検出装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板と、
前記第1基板と対向する第2基板と、
を有し、
前記第1基板は、前記第2基板と対向する第1面より突出する導体表面の第1凸部を有し、該第1凸部は前記第1面に沿った第1方向にて周期P1で配列され、
前記第2基板は、前記第1基板と対向する第2面より突出する導体表面の第2凸部を有し、該第2凸部は前記第1方向にて最大周期P2で配列され、
前記第1,第2基板間に挟まれる試料に入射する光の波長をλとしたとき、λ>P1>P2を満たすことを特徴とする光学デバイス。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1凸部と前記第2凸部との間の距離が100nm以下で、前記第1,第2基板が対向していることを特徴とする光学デバイス。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第1周期は400〜600nmであり、前記第2周期は20〜100nmであることを特徴とする光学デバイス。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記第2基板は、前記第1基板と対向する位置と、前記第1基板と非対向な位置とに、前記第1基板に対して相対的に移動可能に支持されていることを特徴とする光学デバイス。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記試料の分子の大きさをDとしたとき、P2<D<P1を満たすことを特徴とする光学デバイス。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか記載の光学デバイスと、
光源と、
光検出部と、
を有し、
前記光学デバイスの前記第1,第2基板間に前記試料が保持され、
前記光学デバイスは、前記光源からの光が照射されることで前記試料からの出射光を出射し、
前記光検出部は、前記試料に含まれる特定物質からの光を検出することを特徴とする検出装置。
【請求項7】
第1方向にて周期P1で配列され、第1面より突出する導体表面の第1凸部を有する第1基板の前記第1対向面に試料を保持させる工程と、
前記第1方向にて最大周期P2(P2<P1)で配列され、前記第1基板と対向する第2面より突出する導体表面の第2凸部を有する第2基板を、前記第1面及び前記第2面が対向するように配置する工程と、
前記第1,第2基板間に挟まれる試料に、波長λ(λ>P1)を照射し、前記試料からの光を出射させる工程と、
前記試料からの光の中から前記試料に含まれる特定物質からの光を検出する工程と、
を有することを特徴とする検出方法。
【請求項1】
第1基板と、
前記第1基板と対向する第2基板と、
を有し、
前記第1基板は、前記第2基板と対向する第1面より突出する導体表面の第1凸部を有し、該第1凸部は前記第1面に沿った第1方向にて周期P1で配列され、
前記第2基板は、前記第1基板と対向する第2面より突出する導体表面の第2凸部を有し、該第2凸部は前記第1方向にて最大周期P2で配列され、
前記第1,第2基板間に挟まれる試料に入射する光の波長をλとしたとき、λ>P1>P2を満たすことを特徴とする光学デバイス。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1凸部と前記第2凸部との間の距離が100nm以下で、前記第1,第2基板が対向していることを特徴とする光学デバイス。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第1周期は400〜600nmであり、前記第2周期は20〜100nmであることを特徴とする光学デバイス。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記第2基板は、前記第1基板と対向する位置と、前記第1基板と非対向な位置とに、前記第1基板に対して相対的に移動可能に支持されていることを特徴とする光学デバイス。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記試料の分子の大きさをDとしたとき、P2<D<P1を満たすことを特徴とする光学デバイス。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか記載の光学デバイスと、
光源と、
光検出部と、
を有し、
前記光学デバイスの前記第1,第2基板間に前記試料が保持され、
前記光学デバイスは、前記光源からの光が照射されることで前記試料からの出射光を出射し、
前記光検出部は、前記試料に含まれる特定物質からの光を検出することを特徴とする検出装置。
【請求項7】
第1方向にて周期P1で配列され、第1面より突出する導体表面の第1凸部を有する第1基板の前記第1対向面に試料を保持させる工程と、
前記第1方向にて最大周期P2(P2<P1)で配列され、前記第1基板と対向する第2面より突出する導体表面の第2凸部を有する第2基板を、前記第1面及び前記第2面が対向するように配置する工程と、
前記第1,第2基板間に挟まれる試料に、波長λ(λ>P1)を照射し、前記試料からの光を出射させる工程と、
前記試料からの光の中から前記試料に含まれる特定物質からの光を検出する工程と、
を有することを特徴とする検出方法。
【図1】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図11】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図11】
【公開番号】特開2013−33000(P2013−33000A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169835(P2011−169835)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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