説明

光学フィルタおよび撮像システム

【課題】自然光が入る昼間だけでなく夜間など暗視下であっても撮影が可能な光学フィルタおよび撮像デバイスを提供することを目的とする。
【解決手段】
撮像デバイス1では、光軸11に沿って外部の被写体側から、少なくとも、レンズ12、光学フィルタ13、撮像素子14が順に配設され、光学フィルタ13は、水晶板2と、この水晶板2の一主面21上に形成され可視域と赤外域における光線の反射を防止するデュアル反射防止コート3とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、予め設定した波長帯域の光線の反射を防止する光学フィルタおよび撮像システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なビデオカメラやデジタルスチルカメラ等に代表される電子カメラの光学系では、光軸に沿って被写体側から、結合光学系、赤外線カットフィルタ、光学ローパスフィルタ、CCD(Charge Coupled Device )やMOS(Metal Oxide Semiconductor )等の撮像素子が順に配設されている(例えば、特許文献1参照)。なお、ここでいう撮像素子は、人の目が視認可能な波長帯域の光線(可視光線)よりも広い波長帯域の光線に応答する感度特性を有している。そのため、可視光線に加えて、赤外域や紫外域の光線にも応答してしまう。
【0003】
人の目は、暗所において400〜620nm程度の範囲の波長の光線に応答し、明所において420〜700nm程度の範囲の波長の光線に応答する仕組みになっている。これに対し、例えば、CCDでは、400〜700nmの範囲の波長の光線に高感度で応答し、さらに400nm未満の波長の光線や700nmを越える波長の光線にも応答する。
【0004】
このため、下記する特許文献1に記載の撮像デバイスでは、撮像素子であるCCDのほかに赤外線カットフィルタを設けて、撮像素子に赤外域の光線を到達させないようにし、人の目に近い撮像画像が得られるようにしている。
【0005】
また、従来の光学フィルタでは、人間の目で見える可視域での透過率を少しでも向上させるために当該可視域において光の反射を低減させる反射防止膜(ARコート)を光学フィルタの主面に施すことが一般的なフィルタ構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−209510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、撮像デバイスには、一般的なビデオカメラやデジタルスチルカメラ以外に、監視カメラなどの通常の撮影とは異なる他の用途で用いる撮像デバイスがある。
【0008】
例えば、監視カメラでは、昼間だけではなく、夜間の暗視での監視撮影も行う必要がある。夜間などの暗視下における撮影は、人の目では見えない状態での撮影となるので、通常の可視域を撮影の帯域とするカメラでは暗視下における撮影を行うことができない。そのため、現在、夜間などの暗視下における撮影は、赤外域の光線を用いて行なわれているが、上記の特許文献1に記載の撮像デバイスでは、赤外域の光線をカットする赤外線カットフィルタを設けているので、暗視での撮影に用いることができない。また、従来の光学フィルタでは、可視域における光の反射を低減させる反射防止膜を主面に施しているだけで、同時に赤外域における光の反射を低減させるものはない。
【0009】
そこで、上記課題を解決するために本発明は、自然光が入る昼間だけでなく夜間などの暗視下であっても撮影が可能な光学フィルタおよび撮像デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明にかかる撮像デバイスに設ける光学フィルタは、透明基板と、この透明基板の一主面上に形成され2つの波長帯域における光線の反射を防止するデュアル反射防止コートとからなり、前記2つの波長帯域は、可視域と赤外域であることを特徴とする。
【0011】
本発明にかかる光学フィルタによれば、前記透明基板の一主面上に形成され前記可視域と前記赤外域における光線の反射を防止する前記デュアル反射防止コートが設けられているので、前記可視域における反射率を略ゼロに抑え、かつ、前記赤外域の所望帯域における反射率を略ゼロに抑えることが可能となり、その結果、自然光が入る昼間だけでなく夜間などの暗視下であっても撮影を行うことが可能となる。
【0012】
前記構成において、前記透明基板の他主面上にも前記デュアル反射防止コートが形成されてもよい。
【0013】
この場合、前記透明基板の他主面上にも前記デュアル反射防止コートが形成されるので、前記透明基板の一主面上のみに前記デュアル反射防止コートを形成するのと比較して、前記可視域および前記赤外域の所望帯域における反射率を抑えるのにより好適であり、さらに、前記可視域および前記赤外域の所望帯域における透過率を向上させることも可能となる。加えて、反射率を抑える不要帯域では、反射率が増加することでカットコートとしても機能させることも可能となる。
【0014】
具体的に、この構成によれば、前記透明基板の両主面上に前記デュアル反射防止コートを形成した場合、当該光学フィルタに光が入射する際に1つの前記デュアル反射防止コート(例えば前記基板の一主面に形成された前記デュアル反射防止コート)を通過し、この1つの前記デュアル反射防止コートを通過した光がもう一方の前記デュアル反射防止コート(例えば前記基板の他主面に形成された前記デュアル反射防止コート)を通過して当該光学フィルタを通過するので、1つの前記デュアル反射防止コートにより前記可視域および赤外域の所望帯域における反射率を抑えた光に対して、さらにもう一方の前記デュアル反射防止コートにより前記可視域および赤外域の所望帯域における反射率を抑えることになり、その結果、反射率抑制の相乗効果を有することになる。さらに、前記可視域および赤外域の所望帯域における透過率に関しても、反射率と同様の理由により相乗効果を有することになる。
【0015】
前記構成において、前記デュアル反射防止コートは、高屈折率材料からなる第1薄膜と、低屈折率材料からなる第2薄膜とが交互に複数積層されてなってもよい。
【0016】
前記構成において、前記デュアル反射防止コートには、2つの波長帯域における光線の反射を防止する反射防止コートと、前記2つの波長帯域の間の波長帯域の光線の透過を抑えるカットコートが含まれてもよい。
【0017】
前記構成において、前記反射防止コートの前記第1薄膜は、その中心波長が450nm以上であって550nm以下であり、その光学膜厚が2.000以上であって3.000未満であり、前記反射防止コートの前記第2薄膜は、その中心波長が450nm以上であって550nm以下であり、その光学膜厚が0.100以上であって1.000未満であり、前記カットコートは、低屈折率材料からなり、その中心波長が450nm以上であって550nm以下であり、その光学膜厚が1.000以上であって2.000未満であってもよい。
【0018】
この場合、前記可視域における反射率を略ゼロに抑え、かつ、前記赤外域の所望帯域における反射率を略ゼロに抑えることが可能となる。具体的に、前記反射防止コートの前記第1薄膜は、その中心波長が450nm以上であって550nm以下であり、その光学膜厚が2.000以上であって3.000未満であり、前記反射防止コートの前記第2薄膜は、その中心波長が450nm以上であって550nm以下であり、その光学膜厚が0.100以上であって1.000未満であり、前記カットコートは、低屈折率材料からなり、その中心波長が450nm以上であって550nm以下であり、その光学膜厚が1.000以上であって2.000未満であるので、反射率を略ゼロに抑えることができる可視域の下限波長を約450nm、上限波長を約650nmとし、かつ、反射率を略ゼロに抑えることができる赤外域の下限波長を約800nm、上限波長を約1000nmとすることが可能となる。
【0019】
前記構成において、前記高屈折率材料には、TiO2もしくはNb25が用いられ、前記低屈折率材料には、SiO2が用いられ、前記反射防止コートの前記第1薄膜は、その物理膜厚が97nm以上であって180nm以下であり、前記反射防止コートの前記第2薄膜は、その物理膜厚が7nm以上であって95nm以下であり、前記カットコートは、その物理膜厚が77nm以上であって189nm以下であってもよい。
【0020】
この場合、前記可視域における反射率を略ゼロに抑え、かつ、前記赤外域の所望帯域における反射率を略ゼロに抑えることが可能となる。具体的に、前記高屈折率材料には、TiO2もしくはNb25が用いられ、前記低屈折率材料には、SiO2が用いられ、前記反射防止コートの前記第1薄膜は、その物理膜厚が97nm以上であって180nm以下であり、前記反射防止コートの前記第2薄膜は、その物理膜厚が7nm以上であって95nm以下であり、前記カットコートは、その物理膜厚が77nm以上であって189nm以下であるので、反射率を略ゼロに抑えることができる可視域の下限波長を約450nm、上限波長を約650nmとし、かつ、反射率を略ゼロに抑えることができる赤外域の下限波長を約800nm、上限波長を約1000nmとすることが可能となる。
【0021】
前記構成において、前記デュアル反射防止コートには、屈折率が変化する位置に調整コートが含まれてもよい。
【0022】
この場合、前記デュアル反射防止コートに前記調整コートが含まれているので、リップルの発生を抑制することが可能となり、特に反射防止させたい波長領域におけるリップルの発生を抑制することが可能となり、急峻に変位する反射率の変移量も抑えることが可能となる。
【0023】
上記の目的を達成するため、本発明にかかる撮像デバイスは、光軸に沿って外部の被写体側から、少なくとも、外部から光を入射する結合光学系、本発明にかかる光学フィルタ、撮像素子が順に配設されたことを特徴とする。
【0024】
本発明にかかる撮像デバイスによれば、簡易な構成により、光量に影響を受けることなく昼間や夜間の暗視下などいずれの環境であっても撮影を行うことが可能となる。また、本発明にかかる撮像デバイスによれば、前記光軸に沿って外部の被写体側から、少なくとも、前記結合光学系、本発明にかかる光学フィルタ、前記撮像素子が順に配設されるので、前記可視域における反射率を略ゼロに抑え、かつ、前記赤外域の所望帯域における反射率を略ゼロに抑えることが可能となり、その結果、自然光が入る昼間だけでなく夜間などの暗視下であっても撮影が可能となる。
【0025】
上記の目的を達成するため、本発明にかかる撮像デバイスは、光軸に沿って外部の被写体側から、少なくとも、外部から光を入射する結合光学系、複数のフィルタを切換配置可能なフィルタ群、本発明にかかる光学フィルタ、撮像素子が順に配設され、前記フィルタ群では、赤外線カットを目的とした赤外線カットフィルタと、赤外線カットを目的としない透明フィルタとから構成され、これらのいずれか一方が選択的に前記光軸上に配されることを特徴とする。
【0026】
本発明にかかる撮像デバイスによれば、赤外線カットを目的とした昼間の撮影と、赤外線カットを目的としない夜間などの暗視下での撮影において光路長を変更することなく好適に行うことが可能となる。また、本発明にかかる撮像デバイスによれば、前記光軸に沿って外部の被写体側から、少なくとも、前記結合光学系、前記フィルタ群、本発明にかかる光学フィルタ、前記撮像素子が順に配設され、前記フィルタ群では、前記赤外線カットフィルタと前記透明フィルタとのいずれか一方が選択的に前記光軸上に配されるので、前記可視域における反射率を略ゼロに抑え、かつ、前記赤外域の所望帯域における反射率を略ゼロに抑えることが可能となり、その結果、自然光が入る昼間だけでなく夜間などの暗視下であっても撮影が可能となる。なお、従来の映像用の反射防止コートは可視域のみで設計されており、赤外域でも撮影をしようとすると、より広帯域での反射防止コートが必要となっていた。これに対して、本発明によれば、前記可視機と前記赤外域のける光線の反射を防止する前記デュアル反射防止コートが本発明にかかる光学フィルタに形成されているので、反射防止コートの膜の層数を増やすことなく安価で高性能の撮像デバイスが得られる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、自然光が入る昼間だけでなく夜間などの暗視下であっても撮影が可能な光学フィルタおよび撮像デバイスを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本実施の形態にかかる撮像デバイスの概略構成図である。
【図2】図2は、本実施の形態にかかる光学フィルタの構成を示す概略模式図である。
【図3】図3は、本実施の形態にかかる光学フィルタの構成を示す概略構成図である。
【図4】図4は、本実施の形態にかかる光学フィルタの反射率特性を示すグラフ図である。
【図5】図5は、本実施例1にかかる光学フィルタの反射率特性を示すグラフ図である。
【図6】図6は、本実施例2にかかる光学フィルタの反射率特性を示すグラフ図である。
【図7】図7は、本実施例1にかかるデュアルパスフィルタを片面に設けた光学フィルタと、本実施例1の他の例にかかるデュアルパスフィルタを両面に設けた光学フィルタとの透過率特性を示すグラフ図である。
【図8】図8は、本実施例2にかかるデュアルパスフィルタを片面に設けた光学フィルタと、本実施例2の他の例にかかるデュアルパスフィルタを両面に設けた光学フィルタとの透過率特性を示すグラフ図である。
【図9】図9は、本実施の他の形態にかかる撮像デバイスの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0030】
本実施の形態にかかる撮像デバイス1には、図1に示すように、光軸11に沿って外部の被写体側から、少なくとも、外部から光を入射する結合光学系であるレンズ12、光学フィルタ13、CCDやCMOSなどの撮像素子14が順に配設されている。
【0031】
光学フィルタ13は、図2に示すように、透明基板である水晶板2と、この水晶板2の一主面21上に形成され2つの波長帯域における光線の反射を防止するデュアル反射防止コート3とからなる。なお、本実施の形態でいう2つの波長帯域とは、可視域と赤外域とのことをいう。
【0032】
デュアル反射防止コート3は、高屈折率材料からなる第1薄膜31と、低屈折率材料からなる第2薄膜32とが交互に複数積層されてなる。そのため、水晶板2の一主面21側から数えて奇数番目の層が第1薄膜31により構成され、偶数番目の層が第2薄膜32により構成されている。なお、この実施の形態では、第1薄膜にTiO2を用い、第2薄膜にSiO2を用いている。
【0033】
このデュアル反射防止コート3の製造方法として、水晶板2の一主面21に対して、周知の真空蒸着装置(図示省略)によってTiO2とSiO2とが交互に真空蒸着され、図1に示すようなデュアル反射防止コート3が形成される。なお、第1薄膜31および第2薄膜32の膜厚調整は、膜厚をモニタしながら蒸着動作を行い、所定の膜厚に達したところで蒸着源(図示省略)近傍に設けられたシャッター(図示省略)を閉じるなどして蒸着物質(TiO2、SiO2)の蒸着を停止することにより行われる。
【0034】
デュアル反射防止コート3は、図2に示すように、水晶板2の一主面21側から順に序数詞で定義される複数層、本実施の形態では1層、2層、3層・・・16層から構成されている。これら1層、2層、3層・・・16層それぞれの層は、第1薄膜31と第2薄膜32とが積層されて構成されている。これら積層される第1薄膜31と第2薄膜32との光学膜厚が異なることにより1層、2層、3層・・・16層それぞれの厚さが異なる。なお、ここでいう光学膜厚は、下記する数式1により求められる。
【0035】
[数式1]
Nd=d×N×4/λ(Nd:光学膜厚、d:物理膜厚、N:屈折率、λ:中心波長)
上記したデュアル反射防止コート3には、2つの波長帯域における光線の反射を防止する反射防止コート33と、2つの波長帯域の間の波長帯域の光線の透過を抑えるカットコート34と、屈折率が変化する位置に調整コート35が含まれている。
【0036】
具体的に、反射防止コート33の第1薄膜31および第2薄膜32は、次のように設計されている。
【0037】
第1薄膜31には高屈折率材料であるTiO2もしくはNb25が用いられ、この第1薄膜31の中心波長が450nm以上であって550nm以下であり、その光学膜厚が2.000以上であって3.000未満である。また、第1薄膜31の物理膜厚は、97nm以上であって180nm以下である。
【0038】
第2薄膜32には低屈折率材料であるSiO2が用いられ、この第2薄膜32の中心波長が450nm以上であって550nm以下であり、その光学膜厚が0.100以上であって1.000未満である。また、第2薄膜32の物理膜厚は、7nm以上であって95nm以下である。
【0039】
また、カットコート34は、デュアル反射防止コート3の中間層辺りに位置し、低屈折率材料からなる第2薄膜32である。このカットコート34の中心波長が450nm以上であって550nm以下であり、その光学膜厚が1.000以上であって2.000未満である。また、カットコート34の物理膜厚は、77nm以上であって189nm以下である。
【0040】
また、調整コート35は、デュアル反射防止コート3の最下層辺りと、最上層辺りに位置している。
【0041】
上記した構成により、本実施の形態にかかる光学フィルタ13では、図4に示すような反射率特性が得られる。
【0042】
この実施の形態にかかる光学フィルタ13の波長特性を実際に測定し、その測定結果や構成を実施例1として図5や表1に示す。
【実施例1】
【0043】
本実施例1では、透明基板として、大気中における屈折率が1.54である水晶板2を用いている。また、第1薄膜31として、大気中における屈折率が2.3000であるTiO2を用い、第2薄膜32として、大気中における屈折率が1.46000であるSiO2を用い、これらの中心波長を500.00nmとしている。
【0044】
また、デュアル反射防止コート3は16層からなっており、上記したデュアル反射防止コート3の製造方法により第1薄膜31および第2薄膜32が形成されてデュアル反射防止コート3が構成され、図5に示すような反射防止特性が得られる。なお、この実施例1では、光線の入射角を0度、すなわち光線を垂直入射させている。
【0045】
【表1】

【0046】
表1は、光学フィルタ13のデュアル反射防止コート3の組成及び各薄膜(第1薄膜31、第2薄膜32)の光学膜厚を示している。
【0047】
また、この実施例1では、表1に示すように、デュアル反射防止コート3は、高屈折率材料からなる第1薄膜31と、低屈折率材料からなる第2薄膜32とが交互に16層積層されてなる。このデュアル反射防止コート3の16層のうち、1層と2層が調整コート35として構成され、3層〜9層が反射防止コート33として構成され、10層がカットコート34として構成され、11層〜15層が反射防止コート33として構成され、16層が調整コート35として構成されている。
【0048】
図5に示すように、この実施例1にかかる光学フィルタ13では、可視域である約400nmから約650nmまでの波長の光線の反射を抑え(反射率略0%)、かつ、赤外域(特に近赤外域)である約900nmから約1000nmまでの波長の光線の反射を抑えている(反射率略0%)。
【0049】
また、上記した本実施の形態や、本実施例1では、16層のデュアル反射防止コート3について説明しているが、デュアル反射防止コート3の層数はこれに限定されるものではなく、任意に設定可能である、具体的に16層のデュアル反射防止コート3以外の他の例として、24層のデュアル反射防止コート3を水晶板2に設けた実施例を実施例2として以下に示す。
【実施例2】
【0050】
本実施例2では、透明基板として、大気中における屈折率が1.54である水晶板2を用いている。また、第1薄膜31として、大気中における屈折率が2.3000であるTiO2を用い、第2薄膜32として、大気中における屈折率が1.46000であるSiO2を用い、これらの中心波長を500.00nmとしている。
【0051】
また、デュアル反射防止コート3は24層からなっており、上記したデュアル反射防止コート3の製造方法により第1薄膜31および第2薄膜32が形成され、図6に示すような反射防止特性が得られる。なお、この実施例2では、光線の入射角を0度、すなわち光線を垂直入射させている。
【0052】
【表2】

【0053】
表2は、光学フィルタ13のデュアル反射防止コート3の組成及び各薄膜(第1薄膜31、第2薄膜32)の光学膜厚を示している。
【0054】
また、この実施例2では、表2に示すように、デュアル反射防止コート3は、高屈折率材料からなる第1薄膜31と、低屈折率材料からなる第2薄膜32とが交互に24層積層されてなる。このデュアル反射防止コート3の24層のうち、1層と2層が調整コート35として構成され、3層〜9層が反射防止コート33として構成され、10層がカットコート34として構成され、11層〜23層が反射防止コート33として構成され、24層が調整コート35として構成されている。
【0055】
図6に示すように、この実施例2にかかる光学フィルタ13では、可視域である約450nmから約650nmまでの波長の光線の反射を抑え(反射率略0%)、かつ、赤外域(特に近赤外域)である約850nmから約1000nmまでの波長の光線の反射を抑えている(反射率略0%)。
【0056】
上記した本実施の形態、実施例1,2に示す光学フィルタ13によれば、水晶板2の一主面21上に形成され、可視域と赤外域の2つの波長帯域における光線の反射を防止するデュアル反射防止コート3が設けられているので、可視域における反射率を略ゼロに抑え、かつ、赤外域の所望帯域における反射率を略ゼロに抑えることができ、その結果、自然光が入る昼間だけでなく夜間などの暗視下であっても撮影ができる。
【0057】
また、反射防止コート33の第1薄膜31は、その中心波長が450nm以上であって550nm以下であり、その光学膜厚が2.000以上であって3.000未満であり、反射防止コート33の第2薄膜32は、その中心波長が450nm以上であって550nm以下であり、その光学膜厚が0.100以上であって1.000未満であり、カットコート34は、低屈折率材料からなり、その中心波長が450nm以上であって550nm以下であり、その光学膜厚が1.000以上であって2.000未満であるので、反射率を略ゼロに抑えることができる可視域の下限波長を約450nm、上限波長を約650nmとし、かつ、反射率を略ゼロに抑えることができる赤外域の下限波長を約800nm、上限波長を約1000nmとすることができる。このように、この構成によれば、可視域における反射率を略ゼロに抑え、かつ、赤外域の所望帯域における反射率を略ゼロに抑えることができる。
【0058】
また、高屈折率材料には、TiO2が用いられ、低屈折率材料には、SiO2が用いられ、反射防止コート33の第1薄膜31は、その物理膜厚が97nm以上であって180nm以下であり、反射防止コート33の第2薄膜32は、その物理膜厚が7nm以上であって95nm以下であり、カットコート34は、その物理膜厚が77nm以上であって189nm以下であるので、反射率を略ゼロに抑えることができる可視域の下限波長を約450nm、上限波長を約650nmとし、かつ、反射率を略ゼロに抑えることができる赤外域の下限波長を約800nm、上限波長を約1000nmとすることができる。このように、この構成によれば、可視域における反射率を略ゼロに抑え、かつ、赤外域の所望帯域における反射率を略ゼロに抑えることができる。
【0059】
また、デュアル反射防止コート3には、屈折率が変化する位置に調整コート35が含まれているので、リップルの発生を抑制することができ、特に反射防止させたい波長領域におけるリップルの発生を抑制することができ、急峻に変位する反射率の変移量も抑えることができる。
【0060】
また、上記したように、本実施の形態にかかる撮像デバイス1によれば、簡易な構成により、光量に影響を受けることなく昼間や夜間の暗視下などいずれの環境であっても撮影を行うことができる。すなわち、赤外線カットを目的とした昼間の撮影と、赤外線カットを目的としない夜間などの暗視下での撮影において光路長を変更することなく好適に行うことができる。
【0061】
また、本実施の形態にかかる撮像デバイス1によれば、光軸11に沿って外部の被写体側から、少なくとも、レンズ12、光学フィルタ13、撮像素子14が順に配設されるので、可視域における反射率を略ゼロに抑え、かつ、赤外域の所望帯域における反射率を略ゼロに抑えることができ、その結果、自然光が入る昼間だけでなく夜間などの暗視下であっても撮影ができる。なお、従来の映像用の反射防止コートは可視域のみで設計されており、赤外域でも撮影をしようとすると、より広帯域での反射防止コートが必要となっていた。これに対して、本発明によれば、前記可視機と前記赤外域のける光線の反射を防止する前記デュアル反射防止コートが本発明にかかる光学フィルタに形成されているので、反射防止コートの膜の層数を増やすことなく安価で高性能の撮像デバイスが得られる。
【0062】
なお、本実施の形態では、透明基板に水晶板2を用いているが、これに限定されるものではなく、光線が透過可能な基板であれば、例えばガラス板であってもよい。また、水晶板2も限定されるものではなく、単板の水晶板、例えば複屈折板であってもよく、複数枚からなる複屈折板であってもよい。また、水晶板とガラス板を組合わせて透明基板を構成してもよい。
【0063】
また、本実施の形態では、第1薄膜31にTiO2を用いているが、これに限定されるものではなく、第1薄膜31が高屈折率材料からなっていればよく、例えば、ZrO2、Ta22、Nb25等を用いてよい。なお、Nb25は、TiO2と略同じ屈折率を有するので、第1薄膜31にNb25を用いた場合、上記した実施例1,2と同様の効果を有する。また、第2薄膜32にSiO2を用いているが、これに限定されるものではなく、第2薄膜32が低屈折率材料からなっていればよく、例えば、MgF2等を用いてもよい。
【0064】
また、本実施の形態では、デュアル反射防止コート3を真空蒸着法により水晶板2に形成しているが、これに限定されるものではなく、これらデュアル反射防止コート3をイオンアシスト蒸着法やスパッタリング法などの他の手法により水晶板2に形成してもよい。
【0065】
また、本実施の形態では、水晶板2の一主面21(片面)上にデュアル反射防止コート3を設けているが、これに限定されるものではなく、水晶板2の両主面(一主面21,他主面22)上にデュアル反射防止コート3を設けてもよい。この場合、可視域および赤外域の2つの波長帯域における光線の反射を防止することができ、可視域における反射率を略ゼロに抑え、かつ、赤外域の所望帯域における反射率を略ゼロに抑えることができるだけでなく、さらに、図7,8に示すように、可視域および赤外域の所望帯域における透過率を向上させることもできる。
【0066】
なお、図7は、実施例1にかかるデュアル反射防止コート3を水晶板2の一主面21に設けた光学フィルタ13と、デュアル反射防止コート3を水晶板2の両主面(一主面21,他主面22)に設けた光学フィルタ13とのそれぞれ透過率特性を示す図である。また、図8は、実施例2にかかるデュアル反射防止コート3を水晶板2の一主面21に設けた光学フィルタ13と、デュアル反射防止コート3を水晶板2の両主面(一主面21,他主面22)に設けた光学フィルタ13とのそれぞれ透過率特性を示す図である。
【0067】
図7,8に示すように、デュアル反射防止コート3を水晶板2の両主面(一主面21,他主面22)に設けた場合、水晶板2の他主面22上にもデュアル反射防止コート3が形成されるので、水晶板2の一主面21上のみにデュアル反射防止コート3を形成するのと比較して、可視域および赤外域の所望帯域における反射率を抑えるのにより好適であり、さらに、可視域および赤外域の所望帯域における透過率を向上させることもできる。加えて、反射率を抑える不要帯域では、反射率が増加することでカットコートとしても機能させることもできる。
【0068】
具体的に、この構成によれば、水晶板2の両主面(一主面21,他主面22)上にデュアル反射防止コート3を形成した場合、当該光学フィルタ13に光が入射する際に1つのデュアル反射防止コート3(例えば水晶板2の一主面21に形成されたデュアル反射防止コート3)を通過し、この1つのデュアル反射防止コート3を通過した光がもう一方のデュアル反射防止コート3(例えば水晶板2の他主面22に形成されたデュアル反射防止コート3)を通過するので、1つのデュアル反射防止コート3により可視域および赤外域の所望帯域における反射率を抑えた光に対して、さらにもう一方のデュアル反射防止コート3により可視域および赤外域の所望帯域における反射率を抑えることになり、その結果、反射率抑制の相乗効果を有することになる。さらに、可視域および赤外域の所望帯域における透過率に関しても、反射率と同様の理由により相乗効果を有する。
【0069】
また、本実施の形態にかかる撮像デバイス1には、図1に示すように、光軸11に沿って外部の被写体側から、少なくとも、レンズ12、光学フィルタ13、撮像素子14が順に配設されているが、これに限定されるものではなく、以下に示す図9に示す形態であってもよい。
【0070】
図9に示す形態では、光軸11に沿って外部の被写体側から、少なくとも、外部から光を入射する結合光学系であるレンズ12、複数のフィルタ(下記参照)を切替配置可能なフィルタ群15、OLPFである光学フィルタ13、撮像素子14が順に配設されている。
【0071】
フィルタ群15では、赤外線カットを目的とした赤外線カットフィルタ16と、赤外線カットを目的としない透明フィルタであるダミーガラス17とから構成されている。これら赤外線カットフィルタ16とダミーガラス17のいずれか一方が、周知の切替手段(図示省略)により選択的に光軸11上に切り替え配される。具体的に、昼間などの自然光が入る時は、赤外線カットフィルタ16が光軸11上に配され、夜間などの暗視下では、ダミーガラス17が光軸11上に配される。なお、ここでいう赤外線カットフィルタ16は、IRカットコートやIR吸収ガラスなどIRをカットするものであればその形態は問わない。
【0072】
また、フィルタ群15に赤外線カットフィルタ16が含まれているので、OLPFである光学フィルタ13には、赤外線カットフィルタが形成されておらず、2つの波長帯域(可視域と赤外域)における光線の反射を防止するデュアル反射防止コート3のみが形成されている。
【0073】
このように、図9に示す撮像デバイス1によれば、赤外線カットを目的とした昼間の撮影と、赤外線カットを目的としない夜間などの暗視下での撮影を好適に行うことができる。また、この撮像デバイス1によれば、光軸11に沿って外部の被写体側から、少なくとも、レンズ12、フィルタ群15、光学フィルタ13、撮像素子14が順に配設され、フィルタ群15では、赤外線カットフィルタ16とダミーガラス17とのいずれか一方が選択的に光軸11上に配されるので、可視域における反射率を略ゼロに抑え、かつ、赤外域の所望帯域における反射率を略ゼロに抑えることができる。その結果、図9に示す撮像デバイス1によれば、自然光が入る昼間だけでなく夜間などの暗視下であっても撮影ができる。
【0074】
なお、本発明は、その精神や主旨または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、監視カメラや車載カメラなど昼夜問わずに使用するカメラなどの撮像デバイスに好適である。
【符号の説明】
【0076】
1 撮像デバイス
11 光軸
12 レンズ
13 光学フィルタ
14 撮像素子
15 フィルタ群
16 赤外線カットフィルタ
17 ダミーガラス
2 水晶板
21 水晶板の一主面
22 水晶板の他主面
3 デュアル反射防止コート
31 第1薄膜
32 第2薄膜
33 反射防止コート
34 カットコート
35 調整コート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像デバイスに設ける光学フィルタにおいて、
透明基板と、
前記透明基板の一主面上に形成され、2つの波長帯域における光線の反射を防止するデュアル反射防止コートとからなり、
前記2つの波長帯域は、可視域と赤外域であることを特徴とする光学フィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載の光学フィルタにおいて、
前記透明基板の他主面上にも前記デュアル反射防止コートが形成されたことを特徴とする光学フィルタ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光学フィルタにおいて、
前記デュアル反射防止コートは、高屈折率材料からなる第1薄膜と、低屈折率材料からなる第2薄膜とが交互に複数積層されてなることを特徴とする光学フィルタ。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちいずれか1つに記載の光学フィルタにおいて、
前記デュアル反射防止コートには、前記2つの波長帯域における光線の反射を防止する反射防止コートと、前記2つの波長帯域の間の波長帯域の光線の透過を抑えるカットコートが含まれたことを特徴とする光学フィルタ。
【請求項5】
請求項4に記載の光学フィルタにおいて、
前記反射防止コートの前記第1薄膜は、その中心波長が450nm以上であって550nm以下であり、その光学膜厚が2.000以上であって3.000未満であり、
前記反射防止コートの前記第2薄膜は、その中心波長が450nm以上であって550nm以下であり、その光学膜厚が0.100以上であって1.000未満であり、
前記カットコートは、低屈折率材料からなり、その中心波長が450nm以上であって550nm以下であり、その光学膜厚が1.000以上であって2.000未満であることを特徴とする光学フィルタ。
【請求項6】
請求項4または5に記載の光学フィルタにおいて、
前記高屈折率材料には、TiO2もしくはNb25が用いられ、
前記低屈折率材料には、SiO2が用いられ、
前記反射防止コートの前記第1薄膜は、その物理膜厚が97nm以上であって180nm以下であり、
前記反射防止コートの前記第2薄膜は、その物理膜厚が7nm以上であって95nm以下であり、
前記カットコートは、その物理膜厚が77nm以上であって189nm以下であることを特徴とする光学フィルタ。
【請求項7】
請求項4乃至6のうちいずれか1つに記載の光学フィルタにおいて、
前記デュアル反射防止コートには、屈折率が変化する位置に調整コートが含まれたことを特徴とする光学フィルタ。
【請求項8】
撮像デバイスにおいて、
光軸に沿って外部の被写体側から、少なくとも、外部から光を入射する結合光学系、請求項1乃至7のうちいずれか1つに記載の光学フィルタ、撮像素子が順に配設されたことを特徴とする撮像デバイス。
【請求項9】
撮像デバイスにおいて、
光軸に沿って外部の被写体側から、少なくとも、外部から光を入射する結合光学系、複数のフィルタを切換配置可能なフィルタ群、請求項1乃至7のうちいずれか1つに記載の光学フィルタ、撮像素子が順に配設され、
前記フィルタ群では、赤外線カットを目的とした赤外線カットフィルタと、赤外線カットを目的としない透明フィルタとから構成され、これらのいずれか一方が選択的に前記光軸上に配されることを特徴とする撮像デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−206626(P2010−206626A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50851(P2009−50851)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000149734)株式会社大真空 (312)
【Fターム(参考)】