説明

光学フィルターおよびその製造法

【目的】 第1の目的は、近赤外領域の波長光を効率よくカットし、軽量で、吸湿性が小さく、成形・切削・研磨等の加工が容易な合成樹脂製の光学フィルターを提供することにあり、第2の目的は、高温高湿度雰囲気下で使用した場合にも失透しない光学フィルターを製造するための光学フィルターの製造法を提供することにある。
【構成】 本発明の光学フィルターは、下記化1で表されるリン酸基含有単量体およびこれと共重合可能な単量体よりなる混合単量体を共重合して得られる共重合体と、銅塩を主成分とする金属塩とを含有してなることを特徴とする。本発明の製造法は、上記の光学フィルターを製造する方法において、リン酸基と金属塩との反応により生成する酸成分を抽出除去する工程を有することを特徴とする。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は光学フィルターおよびその製造法に関し、更に詳細には、近赤外領域の波長光を効率よくカットし、視感度補正に好適な光吸収特性を有する合成樹脂製の光学フィルターおよびその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、カメラの測光用フィルターや視感度補正用フィルターとして、特殊なリン酸系ガラスに銅イオンが含有されたガラス製の光学フィルターが用いられてきた。
【0003】しかし、これらのガラス製の光学フィルターは、重く、吸湿性が大きく、また、光学フィルターの製造にあたって、成形・切削・研磨等の加工が難しいこと等、多くの欠点を有している。更に、高湿度雰囲気下で使用した場合に失透しやすい、という問題もある。
【0004】このため、軽くて、吸湿性が小さく、加工の容易な光学フィルターの開発が強く望まれていた。また、このような光学フィルターにあっては、高湿度雰囲気下で使用した場合にも失透しないことが望ましい。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような事情に基づいてなされたものである。本発明の第1の目的は、近赤外領域の波長光を効率よくカットし、軽量で、吸湿性が小さく、成形・切削・研磨等の加工が容易な合成樹脂製の光学フィルターを提供することにある。本発明の第2の目的は、高温高湿度雰囲気下で使用した場合にも失透しない光学フィルターを製造するための光学フィルターの製造法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の光学フィルターは、下記化2で表されるリン酸基含有単量体(以下、「特定のリン酸基含有単量体」ともいう。)およびこれと共重合可能な単量体(以下、「共重合性単量体」ともいう。)よりなる混合単量体を共重合して得られる共重合体と、銅塩を主成分とする金属塩とを含有してなることを特徴とする。
【0007】
【化2】


【0008】本発明の光学フィルターの製造法は、上記の光学フィルターを製造する方法において、リン酸基と金属塩との反応により生成する酸成分を抽出除去する工程を有することを特徴とする。
【0009】以下、本発明について詳細に説明する。
〔本発明の光学フィルター〕本発明の光学フィルターは、特定のリン酸基含有単量体および共重合性単量体よりなる混合単量体の共重合体中に、銅塩を主成分とする金属塩が添加含有されてなる合成樹脂製の光学フィルターである。
【0010】本発明の光学フィルターを構成する共重合体を得るための混合単量体には、必須成分として特定のリン酸基含有単量体が用いられる。上記化2で表すように、特定のリン酸基含有単量体は、後述する銅塩と結合可能なリン酸基を分子構造中に有している。そして、リン酸基を介して銅イオンを保持してなる共重合体は、近赤外領域に特徴ある光吸収特性を示すものとなる。更に、特定のリン酸基含有単量体の分子構造中において、エチレンオキサイド基を介して、ラジカル重合性の官能基であるアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基が結合されているため、当該特定のリン酸基含有単量体は極めて共重合性にとみ、種々の単量体との共重合を行うことが可能となる。
【0011】特定のリン酸基含有単量体の分子構造を表す上記化2において、Rは、エチレンオキサイド基が結合したアクリロイルオキシ基(Xが水素原子)またはメタクリロイルオキシ基(Xがメチル基)である。ここで、エチレンオキサイド基の繰り返し数mは1〜5の整数とされる。このmの値が5を超える場合には、得られる共重合体の硬度が大幅に低下し、光学フィルターとしての実用性に欠けたものとなる。
【0012】また、水酸基の数nは、光学フィルターの成形法や使用目的に応じて1または2のいずれかの値を選択すればよい。nの値が2であるとき、すなわち、リン原子に結合したラジカル重合性の官能基の数が1である特定のリン酸基含有単量体は、銅塩との結合性が大きいものとなる。一方、nの値が1である特定のリン酸基含有単量体、すなわち、前記官能基の数が2である特定のリン酸基含有単量体は架橋重合性を有するものとなる。従って、本発明の光学フィルターを、熱可塑性樹脂の一般的な成形加工法である射出成形法或いは押出成形法により製造する場合には、nの値が2である特定のリン酸基含有単量体を用いることが好ましい。ただし、光学フィルターの成形法はこれらに限定されるものではない。
【0013】このように、光学フィルターの性能、成形法および使用目的に応じてnの値を選択することができるが、nの値が1である特定のリン酸基含有単量体と、nの値が2である特定のリン酸基含有単量体とを併用することが好ましく、特に、これら2種類の特定のリン酸基含有単量体を、それぞれがほぼ等量となる割合で用いる場合には、当該混合単量体への銅塩の溶解性が向上するので好ましい。
【0014】共重合体を得るための混合単量体には、前記特定のリン酸基含有単量体とともに、共重合性単量体が含有されている。特定のリン酸基含有単量体と共重合性単量体との共重合によって得られる共重合体は、吸湿性が小さく、光学フィルターに要求される硬度条件を満足し、耐熱性や形状保持性等にも優れている。従って、このような共重合体によれば、光学フィルターとしての性能の向上を図ることができる。
【0015】斯かる共重合性単量体は、(1)特定のリン酸基含有単量体と均一に溶解混合すること、(2)特定のリン酸基含有単量体とのラジカル共重合性が良好であること、(3)光学的に透明な共重合体が得られること、等を満足するものであれば特に限定されるものではない。
【0016】これらの共重合性単量体の具体例としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート等のアルキル基の炭素数が1〜8である低級アルキルアクリレート並びに低級アルキルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート等のようにアルキル基をグリシジル基やヒドロキシル基で置換した変性アルキルアクリレート並びに変性アルキルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、2,2−ビス〔4−メタクリロキシエトキシフェニル〕プロパン、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリトリットトリメタクリレート、ペンタエリトリットテトラメタクリレート等の多官能アクリレート並びに多官能メタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボン酸、スチレン、α−メチルスチレン、ハロゲン化スチレン、メトキシスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物を挙げることができる。これらの化合物は、単独で、或いは2種以上混合して共重合性単量体を構成してもよい。
【0017】本発明の光学フィルターを構成する共重合体を得るための混合単量体中において、特定のリン酸基含有単量体と共重合性単量体との使用割合は、「特定のリン酸基含有単量体:共重合性単量体(重量)」が3:97〜90:10の範囲にあることが好ましく、更に好ましくは30:70〜80:20である。特定のリン酸基含有単量体の割合が3重量%未満であると、光学フィルターとして好適な光吸収特性が発現されにくい。一方、この割合が90重量%を超えるときには、得られる共重合体の吸湿性が大きく、要求される硬度条件を満足できない柔軟なものとなりやすい。
【0018】本発明の光学フィルターを構成する共重合体は、特定のリン酸基含有単量体と、共重合性単量体とよりなる混合単量体をラジカル重合させて得られる。ラジカル重合方法としては特に限定されるものではなく、通常のラジカル重合開始剤を用いる、注型(キャスト)重合法、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法等の公知の方法を使用することができる。
【0019】本発明の光学フィルターは、混合単量体を共重合して得られる上記の共重合体と、銅塩を主成分とする金属塩とを含有してなるものである。この金属塩は、前記共重合体中に含有されたリン酸基との相互作用により近赤外領域の波長光を効率よく吸収する作用を有するものである。ここで、「銅塩を主成分とする」とは、前記金属塩に含まれる全ての金属に対して銅金属の占める割合が80重量%以上であることを意味する。具体的には、2価の銅を含む銅塩と、他の金属による金属塩とが、前記割合を満足する条件で含有されてなる塩である。銅金属の割合が80重量%未満である場合には、得られる光学フィルターが近赤外領域の波長光を効率よく吸収するものとならない。
【0020】上記の金属塩を構成する銅塩としては、種々のものを用いることができ、その一例を示せば、酢酸銅、塩化銅、ギ酸銅、ステアリン酸銅、安息香酸銅、エチルアセト酢酸銅、ピロリン酸銅、ナフテン酸銅、クエン酸銅等の無水物や水和物を挙げることができる。なお、これらの銅塩のみに限定されるものではない。
【0021】また、上記の金属塩を構成する、他の金属による金属塩としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、鉄、マンガン、コバルト、マグネシウム、ニッケル等を金属成分とする金属塩を目的に応じて用いることができる。
【0022】本発明の光学フィルターにおいて、銅塩を主成分とする金属塩の含有割合としては、共重合体100重量部に対して0.1〜50重量部であることが好ましく、更に好ましくは0.1〜40重量部である。この割合が0.1重量部未満である場合には、近赤外領域の波長光を効率よく吸収することができず、一方、50重量部を超える場合には、当該金属塩が共重合体中に均一に分散されにくくなる。また、本発明の光学フィルターにおける銅金属の含有量は、共重合体100重量部に対して0.1〜20重量部であることが好ましい。
【0023】銅塩を主成分とする金属塩を前記共重合体に含有させる方法としては特に限定されるものではないが、好ましい方法として、以下の2通りの方法を挙げることができる。
【0024】(1)混合単量体のラジカル重合を行って得られた共重合体中に、前記金属塩を添加して混合する方法。具体的には、■加熱溶融させた共重合体に金属塩を添加混合する方法、■共重合体を有機溶剤に溶解させ、この溶液に金属塩を添加混合する方法等を用いることができる。
【0025】(2)混合単量体のラジカル重合を行う前において、当該混合単量体中に、前記金属塩を添加して混合する方法。この方法によって前記金属塩を含有させ、当該金属塩、特定のリン酸基含有単量体および共重合性単量体よりなる単量体混合物を調製し、この単量体混合物をラジカル重合させる。
【0026】上記(1)および(2)のような方法により、銅塩を主成分とする金属塩が含有された共重合体(光学フィルター材料)を得ることができる。
【0027】この光学フィルター材料は、そのままで、或いは、目的、用途に応じて、板状、円柱状、レンズ状等の形状に成形、研磨することにより本発明の光学フィルターを製造することができる。
【0028】更に必要に応じて、このようにして製造された光学フィルターを、有機系もしくは無機系のハードコート剤によって表面処理することができ、これにより、帯電防止、表面硬度の向上、表面反射の防止等を図ることができる。また、本発明の光学フィルターと他の光学材料(例えば水晶板)とを積層して複合化することもできる。
【0029】本発明の光学フィルターは、近赤外領域の波長光を効率よく吸収し、フォトダイオードの特性を調整する測光用フィルターや、特に赤色の視感度補正用フィルター等の光学フィルターとして好適に用いることができる。
【0030】〔本発明の製造法〕次に、本発明の光学フィルターの製造法について説明する。本発明の光学フィルターの製造法は、リン酸基と金属塩との反応により生成する酸成分(有機酸成分または無機酸成分)を、溶剤を用いて抽出除去する工程を有するものであり、この製造法により、酸成分の含有割合の低い光学フィルターを得ることができる。
【0031】酸成分の抽出除去工程は、ラジカル重合の前後を問わず、光学フィルターの製造過程の任意の段階で実施することができ、例えば、■ 特定のリン酸基含有単量体および共重合性単量体よりなる混合単量体と、銅塩を主成分とする金属塩とを混合して単量体混合物を調製した後、ラジカル重合を行う前の段階、■ 上記の単量体混合物のラジカル重合が終了し、光学フィルター材料が得られた段階、■ 光学フィルター材料の成形加工が終了した段階の何れにおいても実施することができる。なお、架橋性単量体を含む混合単量体を注型重合法によって重合させる場合には、酸成分の抽出除去工程を成形加工終了後に実施することが好ましい。
【0032】酸成分の抽出除去工程に用いることができる溶剤としては、酸成分を溶解できること、共重合体に対して適度の親和性(共重合体を溶解しないが、この共重合体中に浸透できる程度の親和性)を有することが必要である。
【0033】このような溶剤の具体例としては、水、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の脂肪族系低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、エチルエーテル、石油エーテル等のエーテル類、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、クロロホルム、メチレンクロライド、四塩化炭素等の脂肪族系炭化水素およびそのハロゲン化物、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系化合物を挙げることができる。これらの溶剤は、単独で、或いは2種以上を混合して用いることができる。これらのうち、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチレンクロライド等は、酸成分の抽出除去工程終了後において、被抽出物に残留しにくい観点から特に好ましい。
【0034】酸成分の抽出除去工程によって除去される酸成分の量としては、用いる金属塩の酸基成分量に対して30重量%以上であることが好ましく、更に好ましくは45重量%以上である。
【0035】このような酸成分の抽出除去工程を実施して製造された光学フィルターは、後述する実施例からも理解されるように、抽出除去工程を経ることなく製造された光学フィルターと比較して次の点で優れている。
(1)高湿度雰囲気下で使用した場合に、フィルター表面におけるブリードが殆ど発生しない。
(2)フィルター表面に発生するブリードに起因する表面白化現象(曇化現象)および透明性の低下現象(失透現象)が殆ど発生しない。
【0036】なお、本発明の製造法においては、酸成分の抽出除去工程終了後、必要に応じて成形物の水洗・乾燥を行い抽出に用いた残留溶剤を除去する工程、および光学フィルターの面平滑性を向上させるために、この成形物に加熱加圧処理する工程を有していてもよい。
【0037】
【実施例】以下、本発明の実施例を説明するが、本発明がこれらによって限定されるものではない。なお、以下において、「部」は「重量部」を意味する。
【0038】〔実施例1〕下記化3で表される特定のリン酸基含有単量体10部と、下記化4で表される特定のリン酸基含有単量体10部と、メチルメタクリレート58.5部と、ジエチレングリコールジメタクリレート20部と、α−メチルスチレン1.5部とを良く混合して混合単量体を調製した。この混合単量体に、無水安息香酸銅14部(混合単量体100部に対する銅金属の含有量が2.9部)を添加し、60℃で攪拌混合することによって十分に溶解させ、無水安息香酸銅が混合単量体中に溶解されてなる単量体混合物を得た。
【0039】
【化3】


【0040】
【化4】


【0041】以上のようにして調製された単量体混合物に、t−ブチルパーオキシピバレート2.0部を添加し、45℃で16時間、60℃で8時間、90℃で3時間と順次異なる温度で加熱して注型重合を行うことにより、銅塩が含有された架橋共重合体よりなる光学フィルター材料を得た。この光学フィルター材料を切削して厚み1mmの板状体を作製し、次いで、表面研磨を行って本発明の光学フィルターを製造した。
【0042】この光学フィルターの比重は1.24と小さく、屈折率は1.505であった。また、この光学フィルターについて、以下のようにして吸水率を測定した。光学フィルターを80℃で5時間乾燥した後、25℃の水中に24時間浸漬し、浸漬前における重量w1 (g)および浸漬後における重量w2 (g)から、次式により吸水率W(%)を求めた。
式) W=(W2 −W1 )/W1 ×100(%)
この結果、この光学フィルターの吸水率は0.9重量%であり、浸漬後における失透も認められなかった。更に、この光学フィルターについて、分光光度計を用いて分光透過率曲線を測定した。結果を図1に示す。図1の実線1に示すように、本実施例の光学フィルターは、近赤外領域(700〜1000nm)の波長光を効率よく吸収していることが理解される。なお、上記の条件で水中で浸漬した光学フィルターについても同様に分光透過率曲線を測定したところ、浸漬前の分光透過率曲線と同様の曲線が測定された。
【0043】〔実施例2〕上記化3で表される特定のリン酸基含有単量体15部と、上記化4で表される特定のリン酸基含有単量体15部と、メチルメタクリレート45部と、1,4ブタンジオールジアクリレート20部と、メタクリル酸5部とを良く混合して混合単量体を調製した。この混合単量体に、無水酢酸銅15部(混合単量体100部に対する銅金属の含有量が5.3部)と、シュウ酸鉄(II)2水和物(FeC24 ・2H2 O)1部(全金属に対する鉄の含有割合が5.4重量%)とを添加し、60℃で攪拌混合することによって十分に溶解させ、無水酢酸銅およびシュウ酸鉄が混合単量体中に溶解されてなる単量体混合物を得た。以上のようにして調製された単量体混合物を用い、実施例1と同様にして注型重合、切削および表面研磨を行って本発明の光学フィルターを製造した。
【0044】この光学フィルターの比重は1.29と小さく、屈折率は1.511、実施例1と同様にして測定した吸水率は3.2重量%であり、浸漬後における失透も認められなかった。また、この光学フィルターについて、分光光度計を用いて分光透過率曲線を測定した。結果を図1に示す。図1の破線2に示すように、本実施例の光学フィルターは、近赤外領域(700〜1000nm)の波長光を効率よく吸収していることが理解される。なお、上記の条件で水中で浸漬した光学フィルターについても同様に分光透過率曲線を測定したところ、浸漬前の分光透過率曲線と同様の曲線が測定された。
【0045】〔実施例3〕上記化3で表される特定のリン酸基含有単量体32部と、上記化4で表される特定のリン酸基含有単量体13部と、メチルメタクリレート34部と、ジエチレングリコールジメタクリレート20部と、α−メチルスチレン1部とを良く混合して混合単量体を調製した。この混合単量体に、無水安息香酸銅32部(混合単量体100部に対する銅金属の含有量が6.6部)を添加し、80℃で攪拌混合することによって十分に溶解させ、無水安息香酸銅が混合単量体中に溶解されてなる単量体混合物を得た。
【0046】以上のようにして調製された単量体混合物に、t−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)2.0部を添加し、ガラスモールドに注入し、55℃で16時間、70℃で8時間、100℃で2時間と順次異なる温度で加熱して注型重合を行うことにより、銅塩が含有された架橋共重合体よりなる光学フィルター材料を得た。
【0047】この光学フィルター材料をメチルアルコールに浸漬し、リン酸基と無水安息香酸銅との反応生成物である安息香酸の抽出処理を行った。安息香酸の抽出量(使用した無水安息香酸銅の酸基成分量に対する比率をいう。以下において同じ。)は29重量%であった。安息香酸の抽出処理が施された光学フィルター材料を、温度150℃で30分間加圧成形を行い、厚さ1mmの光学フィルターを製造した。
【0048】〔実施例4〕安息香酸の抽出処理に際して、処理温度および処理時間を変更して安息香酸の抽出量を47重量%としたこと以外は実施例3と同様の操作を行って厚さ1mmの光学フィルターを製造した。
【0049】〔実施例5〕安息香酸の抽出処理に際して、処理温度および処理時間を変更して安息香酸の抽出量を52重量%としたこと以外は実施例3と同様の操作を行って厚さ1mmの光学フィルターを製造した。
【0050】〔実施例6〕安息香酸の抽出処理に際して、処理温度および処理時間を変更して安息香酸の抽出量を77重量%としたこと以外は実施例3と同様の操作を行って厚さ1mmの光学フィルターを製造した。
【0051】〔実施例7〕安息香酸の抽出処理に際して、処理温度および処理時間を変更して安息香酸の抽出量を84重量%としたこと以外は実施例3と同様の操作を行って厚さ1mmの光学フィルターを製造した。
【0052】〔実施例8〕安息香酸の抽出処理を行わなかったこと以外は実施例3と同様の操作を行って厚さ1mmの光学フィルターを製造した。
【0053】〔実施例9〕上記化3で表される特定のリン酸基含有単量体49部と、上記化4で表される特定のリン酸基含有単量体21部と、メチルメタクリレート27部と、ジエチレングリコールジメタクリレート2部と、α−メチルスチレン1部とを良く混合して混合単量体を調製した。この混合単量体に、無水酢酸銅20部(混合単量体100部に対する銅金属の含有量が6.6部)を添加し、40℃で攪拌混合することによって十分に溶解させ、無水酢酸銅が混合単量体中に溶解されてなる単量体混合物を得た。
【0054】以上のようにして調製された単量体混合物に、t−ブチルパーオキシピバレート3.0部を添加し、ガラスモールドに注入し、45℃で16時間、60℃で8時間、80℃で3時間と順次異なる温度で加熱して注型重合を行うことにより、銅塩が含有された架橋共重合体よりなる光学フィルター材料を得た。
【0055】この光学フィルター材料を、50℃に加熱されたメチルアルコール−水混合溶媒(メチルアルコール濃度が50重量%)に16時間浸漬し、リン酸基と無水酢酸銅との反応生成物である酢酸の抽出処理を行った。酢酸の抽出量(使用した無水酢酸銅の酸基成分量に対する比率をいう。)は85重量%であった。酢酸の抽出処理が施された光学フィルター材料を、温度150℃で30分間加圧成形を行い、厚さ1mmの光学フィルターを製造した。
【0056】<耐失透性の評価>実施例3〜実施例9で得られた光学フィルターの各々を、高温高湿度雰囲気下(温度70℃,相対湿度80%)に140時間保持した。次いで、各光学フィルターについて、ヘーズメーター「TCM−M IIIDP」(東京電色社製)により曇価を測定し、更に、表面におけるブリードの発生の有無を調べた。結果を後記表1に示す。
【0057】また、実施例7および実施例8で得られた光学フィルターの各々について、可視領域から近赤外領域(波長:400〜1000nm)における透過率を測定した。結果を後記表2に示す。
【0058】
【表1】


【0059】
【表2】


【0060】
【発明の効果】以上のように、本発明の光学フィルターは、特定のリン酸基含有単量体と共重合性単量体とよりなる混合単量体の共重合体と、この共重合体中に分散された銅塩を主成分とする金属塩とを含有しているので、近赤外領域の波長を効率よくカットすることができ、カメラの測光用フィルターや視感度補正用フィルターとして好適に用いることができる。しかも、十分に軽量化が図られ、吸湿性が小さくて経時的に失透することもなく、更に、成形・切削・研磨等の加工が容易で生産性に優れたものである。
【0061】また、本発明の光学フィルターの製造法は、リン酸基と金属塩との反応により生成する酸成分を抽出除去する工程を有するので、このようにして得られた光学フィルターは、上述の優れた性質に加えて、高湿度雰囲気下で使用した場合においてもフィルター表面におけるブリードが発生せず、さらに優れた耐失透性を有し、その使用環境に関わらず、可視光領域における優れた透過性を長期にわたって発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1および実施例2の光学フィルターについての分光透過率曲線である。
【符号の説明】
1 実施例1の光学フィルターの分光透過率曲線
2 実施例2の光学フィルターの分光透過率曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記化1で表されるリン酸基含有単量体およびこれと共重合可能な単量体よりなる混合単量体を共重合して得られる共重合体と、銅塩を主成分とする金属塩とを含有してなることを特徴とする光学フィルター。
【化1】


【請求項2】 請求項1に記載の光学フィルターを製造する方法において、リン酸基と金属塩との反応により生成する酸成分を抽出除去する工程を有することを特徴とする光学フィルターの製造法。

【図1】
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