説明

光学フィルム、およびその製造方法

【課題】溶剤への溶解性の高い芳香族ポリマーを含有する光学フィルム、その製造方法ならびに該光学フィルムを用いた光学積層体、偏光板、画像表示装置を提供する。
【解決手段】特定構造のポリエステルを含有する光学フィルムによって上記課題を解決し得る。前記特定構造のポリエステルは、ビスフェノールと芳香族ジカルボン酸の重縮合物であることが好ましく、ハロゲン原子を含有しないことがさらに好ましい。かかる光学フィルムは溶剤への溶解性のみならず、耐熱性や複屈折発現性にも優れていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置の光学補償等に用いられる光学フィルム、および当該光学フィルムを含有する光学積層体、ならびにその製造方法に関する。さらに、本発明は、これら光学フィルムおよび/または光学積層体を用いた偏光板ならびに、液晶表示装置、有機EL表示装置、PDP等の画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、液晶表示装置の光学補償等を目的として、複屈折を有するポリマー材料が用いられている。このような光学補償材料としては、例えば、プラスチックフィルムを延伸する等して複屈折を付与したものが広く用いられている。また、近年、芳香族ポリイミドや、芳香族ポリエステルなどの、高複屈折発現性ポリマーを基材上に塗布した光学補償材料が開発されている(例えば特許文献1、2参照)。
【0003】
このような芳香族ポリマーは、耐熱性や機械的強度に優れるという特徴を有する一方、有機溶媒に対する溶解性に乏しい傾向がある。そのため、芳香族ポリマーを主成分とする光学フィルムは、一般には、該ポリマーを、極性の大きい、すなわち溶解性の高い溶媒に溶解させて溶液とした後、該溶液を金属ドラムや金属ベルト、あるいは基材フィルム等の上に塗工し、乾燥させて製膜される。しかしながら、このような製膜方法では、該ポリマーを溶解できる溶媒の選択肢が限られるため、乾燥条件が制限されたり、高価な設備が必要となったりする場合があった。また、塗工に用いられる基材は溶媒に溶解しないことを要するため、使用可能な基材が制限されていた。このような観点から、トルエン等の極性が低い溶媒に可溶であり、かつ、光学補償材料として機能しうる複屈折発現性を備えるポリマーの開発が求められている。
【0004】
【特許文献1】WO94/24191国際公開パンフレット
【特許文献2】特開2004−070329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、溶解性の高い芳香族ポリマーを含有する光学フィルム、およびその製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、前記光学フィルムを用いた光学積層体、偏光板、ならびに画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、鋭意検討の結果、特定構造のポリエステルを含有する光学フィルムによって上記課題を解決し得ることを見出し本発明に至った。すなわち、本発明は、下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有するエステル系ポリマーを含有する光学フィルムに関する。
【化1】


(A及びBは、それぞれ置換基を表し、a及びbは、対応するA及びBの置換数(0〜4までの整数)を表す。
A及びBは、それぞれ独立して水素、ハロゲン、炭素数1〜6のアルキル基、又は置換若しくは無置換アリール基を表す。
Dは、共有結合、CH基、C(CH基、C(CZ基(ここで、Zはハロゲンである。)CO基、O原子、S原子、SO基、Si(CHCH基、及びN(CH)基からなる群から選択される少なくとも1種の原子又は基を表す。
R1及びR2は、炭素数1〜10の直鎖若しくは分枝のアルキル基、置換若しくは無置換のアリール基を表す。
R3〜R6は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6の直鎖若しくは分枝のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を表す(ただし、R3〜R6のうち、少なくともいずれか1つは水素原子でない)。
p1は0〜3までの整数を、p2は1〜3までの整数を表す。
nは2以上の整数を表す。)
【0007】
本発明の光学フィルムにおいては、前記一般式(I)における、R1がメチル基であり、かつ、R2が炭素数2〜4の直鎖若しくは分枝のアルキル基であることが好ましい。
【0008】
さらに、本発明の光学フィルムにおいては、前記一般式(I)において、R3及びR5が炭素数1〜4の直鎖若しくは分枝のアルキル基であり、かつ、R4及びR6が水素原子又は炭素数1〜4の直鎖若しくは分枝のアルキル基であることが好ましい。
【0009】
さらに、本発明の光学フィルムにおいては、前記エステル系ポリマーが、化学構造中にハロゲン原子を有さない非ハロゲン化エステル系ポリマーであることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明の光学フィルムにおいては、前記エステル系ポリマーが、トルエン又は酢酸エチルに可溶であることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明の光学フィルムにおいては、波長400nmにおける透過率が、90%以上であることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明の光学フィルムにおいては、厚みが20μm以下であることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明の光学フィルムにおいては、フィルム厚み方向の屈折率(nz)が、フィルム面内の屈折率の最大値(nx)よりも小さいことが好ましい。
【0014】
さらに、本発明は、前記光学フィルムと、ポリマー基材とが密着積層されてなる光学積層体に関する。
【0015】
さらに、本発明は、前記光学フィルム又は前記光学積層体と、偏光子を含む偏光板に関する。
【0016】
さらに、本発明は、前記光学フィルム又は前記光学積層体と、偏光板の少なくともいずれか1つを含む画像表示装置に関する。
【0017】
また、本発明は、
前記一般式(I)で表されるエステル系ポリマーと、溶媒とを含む溶液を調製する工程、および
該溶液を、ポリマー基材の表面に塗布して、乾燥させ、該ポリマー基材上に密着積層されたフィルムを形成する工程、
を含む光学フィルムの製造方法に関する。
【0018】
さらに、本発明は、
前記一般式(I)で表されるエステル系ポリマーと、溶媒とを含む溶液を調製する工程、
該溶液を、基材の表面に塗布して、乾燥させ、該基材上に密着積層されたフィルムを形成する工程、および
該フィルムを別のポリマー基材に転写する工程、
を含む光学積層体の製造方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の光学フィルムは、下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有するエステル系ポリマーを含むことを特徴とする。
【化2】

【0020】
上記一般式(I)において、A及びBは、それぞれ置換基を表し、a及びbは、対応するA及びBの置換数(0〜4までの整数)を表す。A及びBは、それぞれ独立して水素、ハロゲン、炭素数1〜6のアルキル基、又は置換若しくは無置換アリール基を表す。Dは、共有結合、CH基、C(CH基、C(CZ基(ここで、Zはハロゲンである。)CO基、O原子、S原子、SO基、Si(CHCH基、及びN(CH)基からなる群から選択される少なくとも1種の原子又は基を表す。R1及びR2は、炭素数1〜10の直鎖若しくは分枝のアルキル基、置換若しくは無置換のアリール基を表す。R3〜R6は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6の直鎖若しくは分枝のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を表す(ただし、R3〜R6のうち、少なくともいずれか1つは水素原子でない)。p1は0〜3までの整数を、p2は1〜3までの整数を表す。nは2以上の整数を表す。
【0021】
前記A,B,R1〜R6が無置換アリール基である場合、その無置換アリール基としては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、ビナフチル基、トリフェニルフェニル基等が挙げられる。また、前記A,B,R1,R2が置換アリール基である場合、前記無置換アリール基の水素原子のうち1つ以上が、炭素数1〜10の直鎖若しくは分枝のアルキル基、炭素数1〜10の直鎖若しくは分枝のアルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、シリル基、ハロゲン、ハロゲン化アルキル基、フェニル基に置換されたもの等が挙げられる。また、R1〜R6がハロゲン原子である場合のハロゲン原子、及び前記ハロゲン(Z)としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。また、R3〜R6が炭素数5〜10のシクロアルキル基である場合、環上には炭素数1〜5の直鎖又は分枝のアルキル基を1又は2個以上有していてもよい。具体的には、シクロアルキル基として、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、あるいは、これらの環上に、メチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の置換基を有する炭素数5〜10のシクロアルキル基が挙げられる。これらのうち、シクロヘキシル基が好ましい。
【0022】
上記一般式(I)においては、R1およびR2が、それぞれ独立に炭素数1〜4の直鎖若しくは分枝のアルキル基であることが好ましく、なかでも、R1がメチル基であり、R2が炭素数2〜4の直鎖若しくは分枝のアルキル基であることが好ましく、R2がエチル基又はイソブチル基であることが特に好ましい。R1及び/又はR2のアルキル基の炭素数が多すぎると、複屈折の発現性が低下したり、耐熱性(ガラス転移温度)が低下したりする場合がある。また、R1及びR2の炭素数が少なすぎると、溶剤に対する溶解性に劣る場合がある。
【0023】
また、上記一般式(I)においては、R3〜R6は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4の直鎖若しくは分枝のアルキル基(ただし、R3〜R6のうち、少なくともいずれか1つは水素原子でない)であることが好ましく、なかでも、R3〜R6のすべてが素数1〜4の直鎖若しくは分枝のアルキル基であることが好ましく、特に、R3〜R6のすべてがメチル基であることが好ましい。R3〜R6に置換基を有することによって、溶剤に対する溶解性の高いエステル系ポリマーが得られる。このように、置換基の炭素数によって溶解性が異なる原因は定かではないが、フェニル基が置換基を有することによって立体障害が生じ、芳香族環同士のスタッキングが解消されるためであると推定される。
【0024】
本発明においては、上記エステル系ポリマーは、環境負荷低減の観点から、化学構造中にハロゲン原子を有さない非ハロゲン化エステル系ポリマーであることが好ましい。従来、芳香族ポリマーには、溶剤に対する可溶性の付与等を目的として、ポリマー構造中にハロゲン原子が用いられることが多かったが、ハロゲン原子を有するポリマーは、燃焼時に低温で処理するとダイオキシン類を発生しやすい等、環境負荷が問題となる場合があった。それに対して、本発明の光学フィルムに用いられるエステル系ポリマーは、前述のごとく、R1およびR2に特定の組合せを適用することで、化学構造中にハロゲン原子を含まずとも、溶剤に対する高い溶解性を有し得る。
【0025】
なお、上記エステル系ポリマーは、一般式(I)において、R1〜R6,A,B,D,a,b,pが異なるモノマー単位を有するもの、すなわち、共重合体であってもよい。
【0026】
また、溶剤に対する溶解性と複屈折発現性を両立する観点からは、上記一般式(I)において、Dが共有結合であり、p1=0、p2=1であること、すなわち、ポリマーが、下記一般式(II)で表される構造を有することが好ましい。中でも、下記一般式(III)で表される酸成分としてテレフタル酸誘導体を用いるものや、下記一般式(IV)で表されるテレフタル酸誘導体とイソフタル酸誘導体を用いた共重合体の構造を有することが好ましい。特に、汎用溶剤に対する溶解性の観点からは、下記一般式(IV)で表される構造を有する共重合体が好ましい。
【0027】
【化3】

【0028】
【化4】

【0029】
【化5】

【0030】
なお、上記一般式(II)ないし(IV)において、Aa及びBbならびにR1〜R6は、前記一般式(I)と同様である。また、R7〜R12はそれぞれ、R1〜R6と同様であり、B’b’はBbと同様であり、n、l、mは、いずれも2以上の整数である。また、上記一般式(IV)においては、便宜上、ポリマーをブロック共重合体で表しているが、ポリマーのシーケンスは特に限定されず、ブロック共重合体、ランダム共重合のいずれでもよい。
【0031】
上記一般式(IV)で表されるポリエステルにおいて、酸成分のうちテレフタル酸誘導体由来構造の含有率、すなわち、l/(l+m)の値は、0.3以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、0.6以上であることがさらに好ましい。l/(l+m)の値が過度に小さいと、溶解性には優れるものの、耐熱性が不十分になったり、複屈折発現性に劣ったりする場合がある。
【0032】
本発明の光学フィルムに用いられるエステル系ポリマーは、上記一般式(I)〜(IV)で表される構造を含んでいれば、他の繰り返し単位を含有してもよい。エステル系ポリマーにおける、上記一般式(I)〜(IV)の構造の含有量は、本発明の目的とするポリマーの溶解性および、複屈折発現性を保持し得る範囲であれば特に制限されないが、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましい。
【0033】
上記エステル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、3,000以上であることが好ましく、5,000〜1,000,000であることがより好ましく、10,000〜500,000であることがさらに好ましく、50,000〜350,000であることが最も好ましい。分子量が過度に小さいと、フィルム強度が不十分となったり、高温環境に曝された場合に光学特性が大きく変化する場合がある。また、分子量が過度に大きいと、溶剤に対する溶解性が低下する等、光学フィルムの生産性に劣る場合がある。なお、Mwは後述の実施例に記載の測定方法より求めることができる。
【0034】
ポリマーのガラス転移温度は特に制限されないが、光学フィルムの耐熱性の観点からは、100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることがさらに好ましい。また、成型性や、延伸等の加工性の観点からは、ガラス転移温度は300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがさらに好ましい。
【0035】
本発明の光学フィルムに用いられるエステル系ポリマーの製造方法は特に制限されず、公知の方法を用い得る。一般には、対応するビスフェノール化合物とジカルボン酸化合物もしくはその誘導体から重縮合させて得られる。
【0036】
一般に重縮合方法としては、脱酢酸による溶融重縮合法、脱フェノールによる溶融重縮合法、ジカルボン酸化合物を酸ジクロライドとして有機塩基を用いポリマーが可溶となる有機溶媒系で行う脱塩酸均一重合法、ジカルボン酸ジクロライドとビスフェノールをアルカリ水溶液と水非混和性有機溶媒の2相系で重合する界面重縮合法、ビスフェノール化合物とジカルボン酸をそのまま用い、縮合剤を用いて反応系中で活性中間体を生成させる直接重縮合法など種々知られている。なかでも、透明性や耐熱性、高分子量化の観点から、界面重縮合法、または脱塩酸均一重合法により重合することが好ましい。
【0037】
界面重縮合法によってエステル系ポリマーを重合する場合は、モノマー(ビスフェノールおよびジカルボン酸クロライド)、有機溶媒、アルカリ、触媒等が用いられる。
【0038】
ジカルボン酸クロライドとしては、テレフタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド、フタル酸クロライド、4,4’−ジフェニルジカルボン酸クロライド等の無置換芳香族酸ジクロライドや、これらに、前記一般式(I)における、A、Bの例として示した置換基等を有するもの等が挙げられる。
【0039】
ビスフェノールとしては、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル-4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(3−sec−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロへキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンなどが挙げられる。さらに、上記ジオール以外であっても対応するケトンとフェノール誘導体とを酸触媒下、反応させる等の公知の方法によって、前記ポリエステルのモノマーとしてのビスフェノールを得ることができる。
【0040】
重合反応に用いる有機溶剤としては、特に制限はないが、水との混和性が低く、かつ、エステル系ポリマーを溶解するものが好ましく、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系溶剤、あるいは、アニソール等を好適に用いることができる。また、これらの溶剤を2種以上混合して用いることもできる。
【0041】
アルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどを用いることができる。アルカリ使用量としては、一般にビスフェノールモノマーの2〜5モル倍(1〜2.5モル当量)である。
【0042】
触媒としては、相間移動触媒を用いることが好ましく、例えばテトラブチルアンモニウムブロマイド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム塩、テトラフェニルホスホニウムクロライド、トリフェニルメチルホスホニウムクロライドなどの第4級ホスニウム塩、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ジベンゾ−18−クラウン−6、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6等の)ポリエチレンオキサイド化合物などを用いることができる。中でも、反応後の触媒の除去等の取り扱い易さの点でテトラアルキルアンモニウムハライド類が好適に用いられる。 また、その他、必要に応じて、酸化防止剤や、分子量調整剤などを任意に使用できる。
【0043】
エステル系ポリマーの分子量を調整する方法としては、水酸基とカルボキシル基の官能基比を変えて重合する方法や、分子量調整剤として一官能の物質を重合時に添加する方法を挙げることができる。ここでいう分子量調整剤として用いられる一官能物質としては、フェノール、クレゾール、p−tert−ブチルフェノールなどの一価フェノール類、安息香酸クロライド、メタンスルホニルクロライド、フェニルクロロホルメートなどの一価酸クロライド類、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ドデシルアルコール、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコールなどの一価のアルコール類などが挙げられる。また、重合反応後に一価酸クロライドを反応させることで末端フェノールの封止を行うことができる。末端封止を行うことでフェノールの酸化着色を抑制することが可能であり、好ましく使用できる。また、重合中に酸化防止剤を併用することもできる。
【0044】
界面重縮合反応を用いる場合、重合反応後は水相および有機相の混合状態であり、ポリマー、有機溶媒、水以外に、触媒や残存モノマー等の不純物を含有する。一般にハロゲン溶剤を用いた界面重縮合を実施した場合、水溶性不純物を除去する方法として水相を分離、除去する分液操作を繰り返して水洗する方法が取られる。また、水洗後、必要に応じてアセトン、メタノールなどのポリマーの貧溶媒となる水混和性有機溶媒を用いて再沈殿を行う場合がある。水混和性有機溶媒を用いて再沈殿を行うことで脱水、脱溶媒ができ、粉体として取り出すことが可能となり、さらにビスフェノール化合物のような疎水性不純物も低減できる場合が多い。
【0045】
ここでいうポリマーの貧溶媒である水非混和性有機溶媒としては、水との相溶性が低く、かつ、前記エステル系ポリマーを0.5重量%以上溶解しない溶媒を用いることが好ましい。また、加熱乾燥により容易に除去可能という観点において、沸点は120℃ 以下であることがより好ましい。このような溶媒の好ましい例としては、ポリマーの種類によって溶解性が異なるため一概には言えないが、シクロヘキサン、イソホロンなどの炭化水素類、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類等が挙げられる。
【0046】
界面重縮合反応時のモノマー仕込み濃度、および後処理時のポリマー濃度は高い方が生産性に優れており好ましい。界面重縮合反応濃度は、水相および有機相も含めた反応後の総液量に対するポリマー量が1重量%以上であることが好ましく、3重量%以上であることがより好ましく、5重量%以上であることがさらに好ましい。
【0047】
反応温度は特に制限はないが、好ましくは、−5℃〜50℃、より好ましくは5℃〜35℃、特に好ましくは、10〜30℃の室温付近である。反応温度が上記の範囲であれば、反応中の粘度、温度のコントロールがしやすく、加水分解や酸化着色などの副反応も少なくなる。
【0048】
また、副反応を抑制するために、重合反応に伴う発熱を考慮して、あらかじめ反応温度を低く設定しておくことも可能であり、反応進行を徐々に進めるためにアルカリ溶液やジカルボン酸ジクロライドを徐々に添加したり、溶液を滴下することもできる。このようなアルカリ溶液やジカルボン酸ジクロライドの添加方法は、10分以内など短時間で添加してもよいが、発熱を抑制するためには10分〜120分で添加することが好ましく、15〜90分で添加することがより好ましい。また、酸化着色を抑制する目的で、窒素などの不活性ガス雰囲気下で反応を進行させることが好ましい。
【0049】
アルカリ溶液やジカルボン酸ジクロライドを添加した後の反応時間は、モノマーの種類やアルカリの使用量、あるいはアルカリの濃度にもよるため、一概には言えないが、一般に、反応時間は10分〜10時間であり、30分〜5時間であることが好ましく、1〜4時間であることがより好ましい。
【0050】
このようにして得られたエステル系ポリマーは、界面重縮合反応を終了した後、分液、水洗を行い、そのまま有機溶媒溶液として用いても良く、貧溶媒を用いて粉体化して用いてもよい。また、環境負荷の観点から、本発明のポリエステルのポリエステルは、ハロゲン溶剤含有量が1000ppm以下であることが好ましく、300ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることがさらに好ましく、50ppm以下であることが特に好ましい。特に、上記エステル系ポリマーは溶剤溶解性に優れ、ハロゲン系以外の溶剤にも可溶であることから、重合時にハロゲン系以外の溶剤(例えばトルエン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、アニソール等)を用いることで、ポリマー中のハロゲン含有量を減少させることも可能である。
【0051】
脱塩酸均一重合法によってエステル系ポリマーを重合する場合は、モノマー(ビスフェノールおよびジカルボン酸クロライド)、有機溶媒、アミン化合物等が用いられる。
【0052】
ジカルボン酸クロライド、および、ビスフェノールとしては、界面重縮合法において前述したのと同様のものを用いることができる。また、有機溶媒としては、エステル系ポリマーを溶解するものが好ましく、前述のジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系溶剤、あるいは、アニソール等を好適に用いることができる。さらに、均一重合法の場合、溶媒は水と混和するものであってもよく、前記以外に例えばメチルエチルケトン等のケトン系溶剤等を好適に用いることができる。
【0053】
アミン化合物は酸受容体として反応を促進する目的で用いられる。アミン化合物としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリドデシルアミン、N、N−ジメチルシクロヘキシルアミン、ピリジン、3−メチルピリジン等のピリジン誘導体、キノリン、ジメチルアニリン等の第三級アミンを好適に用いることができる。また、反応系には、その他、必要に応じて、酸化防止剤や、分子量調整剤などを任意に使用できる。
【0054】
脱塩酸均一重合法を用いる場合、重合反応後は溶媒にポリマーが溶解した状態であり、ポリマー、有機溶媒以外に、アミン化合物や残存モノマー等の不純物を含有する。このような不純物は、前述の界面重縮合反応の場合と同様に、分液操作を繰り返して水洗後に、必要に応じて貧溶媒で再沈殿を行うことにより粉体として取り出すことが可能となる。
【0055】
また、脱塩酸均一重合法のモノマー仕込み濃度、処理時のポリマー濃度、反応温度、反応時間等に関しても、前述の界面重縮合反応と同様の条件を好適に適用することができる。
【0056】
本発明の光学フィルムは、前記エステル系ポリマーを用いて、溶液からの塗工法や溶融押出法等の公知の方法により得ることができる。光学フィルムの平滑性や、光学特性の均一性、あるいは複屈折発現性の観点からは、溶液からの塗工法により製膜することが好ましい。
【0057】
溶液からの塗工法によって製膜する場合、その工程は、前記エステル系ポリマーと、溶媒とを含む溶液を調整する工程、および、該溶液を基材の表面に塗布して、乾燥させ、基材上に密着積層されてフィルムを形成する工程を含む。
【0058】
前記溶液の溶媒としては、前記エステル系ポリマーを溶解するものであれば特に制限されず、ポリマーの種類に応じて適宜決定できる。具体例としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル等が挙げられる。これらの溶媒は、一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。また、前記エステル系ポリマーが溶解する範囲において貧溶媒を添加することもできる。
【0059】
特に、環境負荷低減の観点から、溶剤として非ハロゲン系のものを用いることが好ましく、芳香族炭化水素類や、ケトン類、エステル類等を好適に用いることができ、中でもトルエン、キシレン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチルあるいはこれらを含む混合溶媒を好適に用いることができる。前記エステル系ポリマーは溶解性に優れているため、これら低極性の溶媒によって製膜することが可能である。
【0060】
また、前記溶液は、光学フィルムの複屈折発現性や透明性が著しく低下しない範囲で、前記エステル系ポリマーとは異なる他の樹脂を含有してもよい。前記他の樹脂としては、例えば、各種汎用樹脂、エンジニアリングプラスチック、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。
【0061】
このように、前記エステル系ポリマー以外の樹脂等を前記溶液に配合する場合、その配合量は、前記エステル系ポリマー100重量部に対して、0〜20重量部であることが好ましく、0〜15重量部であることがより好ましい。
【0062】
前記溶液には、各調製工程において用途に応じた種々の添加剤(例えば、劣化防止剤、紫外線防止剤、光学異方性調節剤、剥離促進剤、可塑剤、赤外吸収剤、フィラーなど)を加えることができ、それらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。添加剤の添加量は、好ましくは、前記エステル系ポリマー100重量部に対し0を超え20重量部以下である。
【0063】
前記溶液におけるポリマー濃度は、特に制限されないが、例えば、塗工に適した溶液粘度とするために、3〜40重量%であることが好ましく、5〜35重量%であることがより好ましく、10〜30重量%であることがさらに好ましい。
【0064】
前記溶液を基材上に塗工し、適宜乾燥することによって光学フィルムが得られる。基材は、特に限定されないが、例えば、エンドレスベルトやドラムロール等の無端基材や、ポリマーフィルム等の有限長の基材を用いることができる。本発明の光学フィルムが、自己支持性を有する場合は、無端基材、有限長の基材のいずれをも用い得る。自己支持性を有するとは、基材から剥離した状態でもハンドリング可能なことであり、一般に15〜500μm程度、より好ましくは20〜300μm程度の厚みを有する場合をさす。フィルム厚みが前記範囲より大きい場合も自己支持性を有しているが、過度に厚みが大きいと、溶剤の乾燥に多大な時間とエネルギーを要したり、厚みの均一性が得にくい等、量産上の問題を生じる場合がある。
【0065】
本発明の光学フィルムの厚みが前記範囲より小さい、すなわち、1〜20μm程度、あるいは、2〜15μmである場合には、基材として有限長の基材を用いることが好ましい。エンドレスベルトやドラムロール等の無端基材を用いる製法は、光学フィルムを基材から剥離して搬送することを要するため、一般には自己支持性のないフィルムの製造には適さない。このような場合は、基材としてガラス板や、ポリマーフィルム等の有限長の基材を用い、本発明の光学フィルムをコーティング膜として基材上に形成することができる。なお、本願明細書および特許請求の範囲において「光学フィルム」とは、自己支持性を有するフィルム、および、自己支持性を有さないコーティング膜のいずれをも包含する。
【0066】
前記有限長の基材の中でも、ハンドリング性等の観点から、ポリマー基材が好適に用いられる。ポリマー基材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体等のスチレン系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ないしノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体等のオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、さらにイミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アクリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマー等の透明ポリマーやこれらポリマーのブレンド物からなるポリマーフィルムが挙げられる。
【0067】
上記ポリマー基材は、ポリマーフィルム単独であってもよいし、ポリマーフィルム上にアンカーコート層や帯電防止層等を設けたものであってもよい。さらには、コロナ処理やプラズマ処理、あるいはケン化処理等により、接着性を向上させたフィルムを用いることもできる。また、例えば特表平9−506837号公報等に記載されている反射型偏光板等の光学機能フィルムを基材として用いることもできる。
【0068】
本発明においては、前記エステル系ポリマーが溶解性に優れ、トルエン等の低極性溶媒の溶液とできることから、一般的に耐溶剤性が低い、アクリル系やオレフィン系ポリマーを主成分とするフィルムも基材として使用可能である。
【0069】
塗工方法としては、例えば、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。また、塗工に際しては、必要に応じて、多層コーティングを採用することもできる。
【0070】
次いで、前記基材に塗工された前記溶液を乾燥させて、前記基材上に光学フィルムを形成する。乾燥方法としては、例えば、自然乾燥や加熱乾燥等が挙げられる。その条件は、溶剤の種類や、ポリマーの種類、ポリマー濃度等に応じて適宜決定できるが、例えば、温度は、通常、25℃〜300℃であり、50℃〜200℃であり、特に好ましくは60℃〜180℃である。なお、乾燥は、一定温度で行っても良いし、段階的に温度を上昇または下降させながら行っても良い。乾燥時間も特に制限されない。通常、固化時間は、10秒〜60分、好ましくは30秒〜30分である。また、光学フィルムが自己支持性を有する場合は、一旦支持体から剥離した後、さらに乾燥することもできる。
【0071】
本発明の光学フィルムは、前述の通り、相対的に厚みが大きく自己支持性を有するフィルムおよび、相対的に厚みが小さく、自己支持性を有さないコーティング膜のいずれでもよいが、特に、前記エステル系化合物の複屈折発現性が高いことから、コーティング膜として好適に用いることができる。このようなコーティング膜は、前述の通り、基材上にエステル系ポリマーの溶液を塗工、乾燥することによって、光学フィルムと基材が密着積層された光学積層体とすることができる。
【0072】
本発明の光学積層体について説明する。光学積層体を形成するための基材としては、透明性の高いものが好ましく、ガラスや、有限長の基材として前記したプラスチックフィルム等を用いることができる。また、基材の厚みは特に制限されないが、ハンドリング性の観点からは、10〜500μmであることが好ましい。
【0073】
また、基材としては、前述のように、本発明の光学フィルムの塗工の支持体として用いた基材をそのまま用いることもできるが、光学フィルムの塗工の支持体とは別の基材を用いることもできる。
【0074】
本発明の光学積層体の製造方法は、特に限定されず、種々の方法を用い得るが、その一実施態様として、前記エステル系ポリマーと、溶媒とを含む溶液を調製する工程、および該溶液を基材の表面に塗布して、乾燥させ、該基材上に密着積層されたフィルムを形成する工程を含む。また、別の実施態様として、前記工程に加えて、さらに、基材上に密着積層された該光学フィルムを、別の基材に転写する工程を含むこともできる。
【0075】
別の基材に転写するとは、ガラス板またはポリマー基材等を準備し、その上に接着剤等を塗布し、基材の接着剤塗布面と前記光学フィルムとを密着させ、塗工に用いた支持体を前記光学フィルムから剥離する方法(この操作を「転写」と呼ぶ)によって、光学積層体を形成することをさす。特に、耐溶剤性の低い基材上に本発明の光学フィルムを密着積層させて光学積層体を形成する場合は、一旦、耐溶剤性の高い支持体上にポリマー溶液を塗工、乾燥させて、光学フィルムを形成した後に、前記転写法によって光学積層体を形成する方法を好適に用いることができる。
【0076】
光学積層体の基材として、塗工において支持体として用いた基材を用いる場合、別の基材に転写する場合のいずれにおいても、光学積層体に用いる基材は透明性が高いことが好ましく、例えば、全光線透過率が85%以上、好ましくは90%以上である。
【0077】
このようにして得られた本発明の光学フィルムは、透明性が高いことが好ましい。具体的には、波長400nmにおける透過率が90%以上であることが好ましく、92%以上であることがより好ましい。前記エステル系ポリマーを用いることによって、このような高い透明性が実現可能である。
【0078】
本発明の光学フィルムは、面内の屈折率が最大となる方向、すなわち遅相軸方向の屈折率をnx、厚み方向の屈折率をnzとしたとき、nx>nzであることが好ましい。また、波長550nmにおける厚み方向の複屈折率(Δnxz=nx−nz)は、0.01以上であることが好ましく、0.012〜0.07であることがより好ましく、0.015〜0.055であることがさらに好ましい。このような光学特性を有することにより、該光学フィルムは、液晶表示装置の光学補償等に用いることができる。
【0079】
本発明の光学フィルムは、前記エステル系ポリマーを用いることによって、上記のような高い複屈折発現性を示し得る。そのため、後に実施例から明らかなように、厚みが20μm以下のコーティング膜でも、例えば1/2波長や1/4波長に相当する厚み方向位相差(Rth)を発現しうる。ここで、厚み方向位相差(Rth)とは、Δnxz×d(ただし、dは光学フィルムの厚みである)で表される。
【0080】
本発明の光学フィルムは、前記厚み方向の複屈折以外に、塗工条件や延伸条件を調整することによって、種々の面内複屈折(Δnxy=nx−ny)を有するものとすることもできる。ここで、nyとは、面内の屈折率が最小となる方向、すなわち進相軸方向の屈折率である。
【0081】
つぎに、本発明の偏光板について説明する。本発明の偏光板は、前記本発明の光学フィルムを含む光学補償機能付き偏光板である。このような偏光板は、前記光学フィルムと、偏光子とを有していれば、その構成は特に制限されない。例えば、図1に示すように、本発明の光学フィルム(R)、偏光子(P)および二つの透明保護フィルム(T)を有し、前記偏光子の両面に透明保護フィルム(T)がそれぞれ積層されており、一方の透明保護フィルムの表面にさらに前記光学フィルム(R)が積層された形態とすることができる。なお、前記光学フィルム(R)と基材(S)とを密着積層させた光学積層体(1)を用いる場合、光学フィルム(R)と基材(S)のいずれの表面が前記透明保護フィルムに面してもよいが、図2に示すように、本発明の光学フィルム(R)側が透明保護フィルム(T)に面していることが好ましい。
【0082】
また、前記透明保護フィルムは、前記偏光子の両側に積層してもよいし、いずれか一方の面のみに積層してもよい。また、両面に積層する場合には、例えば、同じ種類の透明保護フィルムを使用しても、異なる種類の透明保護フィルムを使用してもよい。
【0083】
また、本発明の偏光板の別の形態として、図3に示すように、本発明の光学フィルム(R)、偏光子(P)および透明保護フィルム(T)を有し、前記偏光子(P)の一方の表面に前記光学フィルム(R)が、前記偏光子の他方の表面に前記透明保護フィルム(T)が、それぞれ積層されたものとすることもできる。
【0084】
なお、前記光学フィルム(R)と基材(S)とを密着積層させた光学積層体(1)を用いる場合、光学フィルム(R)と基材(S)のいずれの表面が前記偏光子(P)に面してもよいが、図4に示すように、基材(S)側が偏光子(P)に面するように配置することが好ましい。このような構成とすることによって、前記基材(S)を、光学補償層付き偏光板における透明保護フィルムとして兼用することができる。すなわち、前記偏光子(P)の両面に透明保護フィルム(T)を積層する代わりに、前記偏光子(P)の一方の面には透明保護フィルム(T)を積層し、他方の面には、前記基材(S)が面するように本発明の光学積層体(1)を積層することによって、光学積層体(1)の基材(S)が透明保護フィルムの役割も果たすのである。このため、より一層薄型化された偏光板を得ることが可能となる。
【0085】
前記偏光子としては、特に制限されず、各種のものを使用できる。たとえば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等ポリエン系配向フィルム等が挙げられる。これらのなかでもポリビニルアルコール系フィルムとヨウ素等の二色性物質からなる偏光層が好適である。これら偏光層の厚さは特に制限されないが、一般的に、5〜80μm程度である。
【0086】
透明保護フィルムの厚さは、適宜に決定しうるが、一般には強度や取扱性等の作業性、薄層性などの点より1〜500μm程度である。特に1〜300μmが好ましく、5〜200μmがより好ましい。透明保護フィルムは、5〜150μmの場合に特に好適である。
【0087】
なお、偏光子の両側に透明保護フィルムを設けるに際しては、その表裏で同じポリマー材料からなる保護フィルムを用いてもよく、異なるポリマー材料等からなる保護フィルムを用いてもよい。
【0088】
本発明の光学フィルム、光学積層体、偏光板の用途は限定されないが、好ましくは、液晶表示装置、有機EL表示装置、プラズマディスプレイパネル等の画像表示装置に好適に用いられる。これらの画像表示装置は、例えば、パソコンモニター、ノートパソコン、コピー機等のOA機器、携帯電話、時計、デジタルカメラ、携帯情報端末(PDA)、携帯ゲーム機等の携帯機器、ビデオカメラ、テレビ、電子レンジ等の家庭用電気機器、バックモニター、カーナビゲーションシステム用モニター、カーオーディオ等の車載用機器、商業店舗用インフォメーション用モニター等の展示機器、監視用モニター等の警備機器、介護用モニター、医療用モニター等の介護・医療機器等に用いられる。
【0089】
特に、本発明の光学フィルムは、高い複屈折発現性を有していることから、液晶セルに起因する複屈折の補償や、画像表示装置を斜視した場合のコントラスト向上やカラーシフト低減等を目的とした光学補償フィルムとして、液晶表示装置に好適に用いることができる。
【実施例】
【0090】
以下に、本発明を、実施例を挙げて説明するが、本発明は以下に示した実施例に制限されるものではない。なお、実施例および比較例の評価は、下記の方法によりおこなったものである。
【0091】
(ガラス転移温度)
示差走査熱量計(セイコー(株)製 製品名「DSC−6200」)を用いて、JIS K 7121(:1987)(プラスチックの転移温度測定方法)に準じた方法により求めた。具体的には、3mgの粉末サンプルを、窒素雰囲気下(ガス流量;50ml/分)、昇温速度10℃/分で、室温から220℃まで上昇させた後、降温速度10℃/分で30℃まで降温させた(1回目の測定)。その後、昇温速度10℃/分で再度350℃まで上昇させた(2回目の測定)。2回目の測定で得られたデータを採用し、中間点をガラス転移温度とした。なお、熱量計は、標準物質(インジウム)を用いて温度補正を行った。
【0092】
(分子量)
重量平均分子量(Mw)は、各試料を0.1%THF溶液に調製し、0.45μmメンブレンフィルターにてろ過した後、GPC本体として東ソー社製HLC−8820GPCを用い、検出器としてRI(GPC本体に内蔵)を用いて測定した。具体的には、カラム温度40℃、ポンプ流量0.35mL/分とし、データ処理は、あらかじめ分子量が既知の標準ポリスチレンの検量線を用いて、ポリスチレン換算分子量より分子量を得た。尚、使用カラムは、SuperHZM−M(径6.0mm×15cm)、SuperHZM−M(径6.0mm×15cm)およびSuperHZ2000(径6.0mm×15cm)を直列につないだものを用い、移動相としてはTHFを用いた。
【0093】
(Δnxz)
王子計測機器(株)製 商品名「KOBRA−WPR」を用いて、測定波長550で測定した。厚み方向複屈(Δnxz)は、正面レターデーションおよび、サンプルを40度の角度で傾けた際のレターデーション(R40)から、装置付属のプログラムにより計算した。
なお、膜厚は、Sloan製 製品名「Dektak」を用い、ポリマー塗布前後のガラスの厚み差から求めた値を用いた。
【0094】
(透過率)
日立製作所(株)製の分光光度計「U−4100」を用いて、波長400nmにおける透過率を測定した。
【0095】
(溶解性試験)
各溶剤を入れたサンプル瓶に、ポリマーを少しずつ加え、溶解の程度を次の基準で目視により判断した。
◎=20重量%以上溶解、
○=10〜20重量%溶解、
△=溶解するが僅かに白濁、
×=不溶
【0096】
(実施例1)
(エステル系ポリマーの合成)
攪拌装置を備えた反応容器中、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン2.84g、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド0.06gを1M水酸化ナトリウム溶液35mlに溶解させた。この溶液に、テレフタル酸クロライド2.03gを30mlのクロロホルムに溶解させた溶液を攪拌しながら一度に加え、室温で90分間攪拌した。その後、重合溶液を静置分離してポリマーを含んだクロロホルム溶液を分離し、ついで酢酸水で洗浄し、イオン交換水で洗浄した後、メタノールに投入してポリマーを析出させた。析出したポリマーを濾過し、減圧下で乾燥することで、白色のポリマー3.77g(収率91%)を得た。
【0097】
(光学フィルムの作製)
得られたポリマー(0.1g)をシクロペンタノン(0.5g)に溶解させ、スピンコート法によってガラス上に塗布し、80℃で5分間乾燥した後、更に、130℃で30分乾燥させて光学フィルム(乾燥後の厚み=4.0μm)を作製した。
【0098】
(実施例2)
2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン2.84gに代えて、2,2−ビス(3、5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン2.98gを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、ポリマーの合成と光学フィルムの作製を行った。
【0099】
(実施例3)
2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン2.84gに代えて、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン3.26gを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、ポリマーの合成と光学フィルムの作製を行った。
【0100】
(実施例4)
テレフタル酸クロライド2.03gに代えて、テレフタル酸クロライド1.02gとイソフタル酸クロライド1.02gを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、ポリマーの合成と光学フィルムの作製を行った。
【0101】
(実施例5)
テレフタル酸クロライド2.03gに代えて、テレフタル酸クロライド1.02gとイソフタル酸クロライド1.02gを用いた以外は、実施例2と同様の方法で、ポリマーの合成と光学フィルムの作製を行った
【0102】
(実施例6)
テレフタル酸クロライド2.03gに代えて、テレフタル酸クロライド1.02gとイソフタル酸クロライド1.02gを用いた以外は、実施例3と同様の方法で、ポリマーの合成と光学フィルムの作製を行った。
【0103】
(実施例7)
2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン2.84gに代えて、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン2.56gを用い、テレフタル酸クロライド2.03gに代えて、テレフタル酸クロライド1.02gとイソフタル酸クロライド1.02gを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、ポリマーの合成と光学フィルムの作製を行った。
【0104】
(実施例8)
2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン2.84gに代えて、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン2.70gを用い、テレフタル酸クロライド2.03gに代えて、テレフタル酸クロライド1.02gとイソフタル酸クロライド1.02gを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、ポリマーの合 成と光学フィルムの作製を行った。
【0105】
(実施例9)
攪拌装置を備えた反応容器中に、2,2−ビス(3−sec−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン2.00g、トリエチルアミン1.31gに塩化メチレンを加え、15mlの溶液とした。この溶液を攪拌下に、温度10℃で、テレフタル酸クロライド0.60g、イソフタル酸クロライド0.60gに塩化メチレンを加えて溶解した15mlの溶液を添加した。添加終了後、温度を室温(20℃)まで上昇させ、窒素雰囲気下で4時間攪拌して反応を進行させた。重合後の溶液を20mlの塩化メチレンで希釈し、希塩酸水及びイオン交換水で洗浄した後、メタノールに投入してポリマーを析出させた。析出したポリマーを濾過し、減圧下で乾燥することで、白色のポリマー1.15gを得た。
得られたポリマーを用いて、実施例1と同様にして光学フィルムの作製を行った。
【0106】
(実施例10)
2,2−ビス(3−sec−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン2.00gに代えて2,2−ビス(3−シクロへキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン2.00g、トリエチルアミン1.31gに代えてトリエチルアミン1.13g、テレフタル酸クロライド0.60g、イソフタル酸クロライド0.60gに代えてテレフタル酸クロライド0.52g、イソフタル酸クロライド0.52gを用い、その他は実施例9と同様の方法でポリマーの合成と光学フィルムの作成を行った。
【0107】
(比較例1)
2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン2.84gに代えて、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン2.28gを用い、テレフタル酸クロライド2.03gに代えて、テレフタル酸クロライド1.02gとイソフタル酸クロライド1.02gを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、ポリマーの合成と光学フィルムの作製を行った。
【0108】
(比較例2)
2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン2.84gに代えて、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン2.28gを用い、テレフタル酸クロライド2.03gに代えて、テレフタル酸クロライド1.02gとイソフタル酸クロライド1.02gを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、ポリマーの合成と光学フィルムの作製を行った。
【0109】
実施例1〜10および比較例1、2のポリエステル樹脂の構造、特性、ならびに、得られた光学フィルムの特性を表1に示す。
【0110】
【表1】

【0111】
表中、l/mはエステル系コポリマーの各繰り返し単位のモル比を表し、R1〜R12は下式(IV)における置換基を表す。また、i−Bu、sec−Bu、c−Hex、Et、Me、Hは、それぞれ、イソブチル基、セカンダリーブチル基、シクロヘキシル基、エチル基、メチル基、水素原子を表し、CPN、MIBKは、それぞれ、シクロペンタノン、メチルイソブチルケトン(4−メチル−2−ペンタノン)を表す。
【化6】

【0112】
実施例1〜10で作製した光学フィルムは、いずれも高い透明性を示した。なお、実施例では、サンプル作製の簡単のために、基材としてガラス板、溶媒としてシクロペンタノンを使用したが、該光学フィルムに用いたエステル系ポリマーは、高溶解性を示すため、基材としてポリマー基材を用いたり、溶媒としてトルエンや酢酸エチルを用いた場合でも製膜可能であり、上記実施例と同等の光学特性を有する光学フィルムを得ることができる。
【0113】
また、ビスフェノール成分として、R3〜R6およびR9〜R12がいずれも水素原子であるビスフェノールを用いた比較例1、2においては、実施例と比較して、エステル系ポリマーの溶解性が不十分であった。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本願発明の偏光板の構成断面の一例を示す概念図である。
【図2】本願発明の偏光板の構成断面の一例を示す概念図である。
【図3】本願発明の偏光板の構成断面の一例を示す概念図である。
【図4】本願発明の偏光板の構成断面の一例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0115】
P 偏光子
R 光学フィルム
T 透明保護フィルム
S 基材
1 光学積層体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有するエステル系ポリマーを含有する光学フィルム。
【化1】


(A及びBは、それぞれ置換基を表し、a及びbは、対応するA及びBの置換数(0〜4までの整数)を表す。
A及びBは、それぞれ独立して水素、ハロゲン、炭素数1〜6のアルキル基、又は置換若しくは無置換アリール基を表す。
Dは、共有結合、CH基、C(CH基、C(CZ基(ここで、Zはハロゲンである。)CO基、O原子、S原子、SO基、Si(CHCH基、及びN(CH)基からなる群から選択される少なくとも1種の原子又は基を表す。
R1及びR2は、炭素数1〜10の直鎖若しくは分枝のアルキル基、置換若しくは無置換のアリール基を表す。
R3〜R6は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6の直鎖若しくは分枝のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を表す(ただし、R3〜R6のうち、少なくともいずれか1つは水素原子でない)。
p1は0〜3までの整数を、p2は1〜3までの整数を表す。
nは2以上の整数を表す。)
【請求項2】
前記一般式(I)における、R1がメチル基であり、かつ、R2が炭素数2〜4の直鎖若しくは分枝のアルキル基である、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記一般式(I)において、R3及びR5が炭素数1〜4の直鎖若しくは分枝のアルキル基であり、かつ、R4及びR6が水素原子又は炭素数1〜4の直鎖若しくは分枝のアルキル基である、請求項1または2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記エステル系ポリマーが、化学構造中にハロゲン原子を有さない非ハロゲン化エステル系ポリマーである、請求項1から3のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記エステル系ポリマーが、トルエン又は酢酸エチルに可溶である、請求項1から4のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項6】
波長400nmにおける透過率が、90%以上である、請求項1から5のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項7】
厚みが20μm以下である、請求項1から6のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項8】
フィルム厚み方向の屈折率(nz)が、フィルム面内の屈折率の最大値(nx)よりも小さい、請求項1から7のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の光学フィルムとポリマー基材とが密着積層されてなる光学積層体。
【請求項10】
請求項1から8のいずれかに記載の光学フィルム、又は請求項9に記載の光学積層体と、偏光子とを含む偏光板。
【請求項11】
請求項1から8のいずれかに記載の光学フィルム、請求項9に記載の光学積層体、請求項10に記載の偏光板の少なくともいずれか1つを含む画像表示装置。
【請求項12】
前記一般式(I)で表されるエステル系ポリマーと、溶媒とを含む溶液を調製する工程、および
該溶液を、ポリマー基材の表面に塗布して、乾燥させ、該ポリマー基材上に密着積層されたフィルムを形成する工程、
を含む光学フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記一般式(I)で表されるエステル系ポリマーと、溶媒とを含む溶液を調製する工程、
該溶液を、基材の表面に塗布して、乾燥させ、該基材上に密着積層されたフィルムを形成する工程、および
該光学フィルムを別のポリマー基材に転写する工程、
を含む光学積層体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−86604(P2009−86604A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269272(P2007−269272)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】