光学フィルム、その製造方法、偏光板および液晶表示装置
【課題】薄膜であり、膜厚の均質性が改良され、環境湿度変化に伴う面内方向のレターデーションの変動が抑制された光学フィルムおよびその製造方法の提供。
【解決手段】膜厚20〜60μmであり、式(1)〜(3)を満たす光学フィルム。
式(1)PV(全面)≦0.5μm
式(2)2.5 >PV(MD)/PV(TD)≧ 0.8
式(3)ΔRe(30−80)<3nm
(PV(全面)は各円形領域内のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である全面PV値の10ヶ所の平均値;PV(MD)は各円形領域内のフィルム搬送方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である長手PV値の10ヶ所の平均値;PV(TD)は各円形領域内のフィルム搬送方向に直交する方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である幅手PV値の10ヶ所の平均値;ΔRe(30−80)は、相対湿度30%におけるRe(30%)と、相対湿度80%におけるRe(80%)の差の絶対値。)
【解決手段】膜厚20〜60μmであり、式(1)〜(3)を満たす光学フィルム。
式(1)PV(全面)≦0.5μm
式(2)2.5 >PV(MD)/PV(TD)≧ 0.8
式(3)ΔRe(30−80)<3nm
(PV(全面)は各円形領域内のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である全面PV値の10ヶ所の平均値;PV(MD)は各円形領域内のフィルム搬送方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である長手PV値の10ヶ所の平均値;PV(TD)は各円形領域内のフィルム搬送方向に直交する方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である幅手PV値の10ヶ所の平均値;ΔRe(30−80)は、相対湿度30%におけるRe(30%)と、相対湿度80%におけるRe(80%)の差の絶対値。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学フィルム、その製造方法、および該光学フィルムを用いた偏光板および液晶表示装置に関する。特に、偏光板保護フィルムや光学補償フィルムなどとして好ましく用いることができる光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、消費電力の小さい省スペースの画像表示装置として年々その用途が広がっている。液晶表示装置の基本的な構成は液晶セルの両側に偏光板を設けたものである。前記偏光板は一定方向の偏波面の光だけを通す役割を担っており、偏光板の性能によって液晶表示装置の性能が大きく左右される。偏光板は、一般にヨウ素や染料を吸着配向させたポリビニルアルコールフィルム等からなる偏光子の表裏両側に透明な保護フィルムを貼り合わせた構成となっている。近年、液晶表示装置のTV用途が進行し、画面サイズの大型化に伴う高画質化と低価格化が益々求められている。特にVAモードの液晶表示装置は比較的コントラストが高く、比較的製造の歩留まりが高いことからTV用の液晶表示装置として最も一般的なものとなっている。
セルロースアセテートに代表されるセルロースアシレートフィルムは透明性が高く、偏光子に使用されるポリビニルアルコールとの密着性を容易に確保できることなどから、偏光板保護フィルムやその他位相差を発現させた位相差フィルムなど、様々な光学フィルムとして広く使用されてきた。
【0003】
近年、液晶表示装置の用途拡大につれ、テレビ等の高品位用途が拡大してきており、用いられる光学フィルムに対しても一段と高い品質が要求されるようになっている。例えば、表示品質を高めるためにフィルム面内方向で均質化することや、室外に設置できるように環境湿度変化に伴う光学特性変動が少ないことや、液晶表示装置自体の薄型化に伴う薄膜化などが求められている。
【0004】
このような光学フィルムを製造する方法として、溶液製膜法が広く知られている。また、一般的に、溶液製膜はこれまで、搬送速度45m/分程度の低速領域で薄膜化するとフィルム搬送方向に直交する方向に平行な段状の膜厚変動が生じ、いわゆるダンムラが悪化することが知られている。これに対しは、流延ダイからのポリマー溶液の吐出速度を高速化することである程度ダンムラを改良できることも一般的に知られている。しかしながら、高速領域では、ダンムラは良化するものの剥離が困難となるため、溶液流延適性を付与するために、冷却ゲル化方式を採用し、高速状態での剥離を実施する必要があった。
また、特許文献1には安定した高速流延を行ってダンムラを改良する手法として、走行する支持体上に高分子材料の溶液を流延して製膜する溶液製膜方法において、前記溶液の流延部を前記支持体の走行方向の上流側に吸引する吸引操作を行うとともに、前記溶液の溶質に対する良溶媒を前記流延部の耳部に滴下し、前記吸引操作に伴う前記耳部のバタツキを抑制する方法が記載されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−181857号公報(特許3856114)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、本発明者らが冷却ゲル化方式を採用して高速状態での剥離を実施する方法でダンムラを改良した薄膜の光学フィルムを製造したところ、得られた光学フィルムは環境湿度変化に伴う面内方向のレターデーションの変動が大きいという課題があることがわかった。また、特許文献1に記載の方法でダンムラを改良した薄膜の光学フィルムを製造したところ、近年のパネルに求められる均質性のレベルまでは面状が改良されておらず、膜厚の均質化の観点からは不十分であることがわかった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、薄膜であり、膜厚の均質性が改良され、環境湿度変化に伴う面内方向のレターデーションの変動が抑制された光学フィルムおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題のもと、本発明者らが鋭意検討を行った結果、吐出装置から流延されるポリマー溶液の粘度、吐出装置と支持体の距離、流延速度並びに流延速度と吐出装置のリップクリアランスと未延伸乾燥膜厚を制御しながら、吸引装置によってポリマー溶液のビード部分を支持体の走行方向の上流側から吸引する圧力を加えることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、以下の手段により上記課題を解決した。
【0009】
[1] 膜厚20〜60μmであり、下記式(1)〜(3)を満たすことを特徴とする光学フィルム。
式(1) PV(全面)≦0.5μm
式(2) 2.5 >PV(MD)/PV(TD)≧ 0.8
(式(1)および(2)中、フィルム搬送方向にそれぞれ中心が60mmずつ離れた直径60mmの円形領域10ヶ所で干渉膜厚計により膜厚を測定した場合において、PV(全面)は各円形領域内のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である全面PV値の10ヶ所の平均値を表し、PV(MD)は各円形領域内のフィルム搬送方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である長手PV値の10ヶ所の平均値を表し、PV(TD)は各円形領域内のフィルム搬送方向に直交する方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である幅手PV値の10ヶ所の平均値を表す。)
式(3)ΔRe(30−80)<3nm
(式(3)中、ΔRe(30−80)は、波長590nmで測定した、相対湿度30%におけるフィルム面内方向のレターデーションの値Re(30%)と、相対湿度80%におけるフィルム面内方向のレターデーションの値Re(80%)の差の絶対値を表す。)
[2] 下記式(4)を満たすことを特徴とする[1]に記載の光学フィルム。
式(4) 1.8 >PV(MD)/PV(TD)≧ 0.8
(式(4)中、フィルム搬送方向にそれぞれ中心が60mmずつ離れた直径60mmの円形領域10ヶ所で干渉膜厚計により膜厚を測定した場合において、PV(MD)は各円形領域内のフィルム搬送方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である長手PV値の10ヶ所の平均値を表し、PV(TD)は各円形領域内のフィルム搬送方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である幅手PV値の10ヶ所の平均値を表す。)
[3] 膜厚が25〜45μmであることを特徴とする[1]または[2]に記載の光学フィルム。
[4] 波長590nmで測定した面内方向のレターデーションReが0nm≦|Re|≦5nmであることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の光学フィルム。
[5] セルロースアシレートを含むことを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の光学フィルム。
[6] 吐出装置から走行する支持体上に向けてポリマー溶液を流延する工程と、
流延された前記ポリマー溶液の前記支持体に到達するまでのビード部分に対して、前記支持体の走行方向の上流側から吸引装置によって吸引する工程と、
前記支持体に到達したポリマー溶液を流延速度15〜80m/分で搬送してフィルム状に成形する工程と、
前記支持体の剥離部の温度が0℃以上となるように制御して該支持体から前記フィルムを剥離する工程を含み、
下記式(11)〜(14)を満たすように制御することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
式(11) 1.0×106/分<(流延速度×未延伸乾燥膜厚)/(吐出部クリアランス)<1.0×107/分
式(11’) 未延伸乾燥膜厚=延伸後膜厚×{1+(フィルム搬送方向の延伸倍率(%))/100}×{1+(フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率(%))/100}
(式(11)中、吐出部クリアランスは前記吐出装置のリップクリアランス(単位:m)を表し、流延速度は前記支持体の走行速度(単位:m/分)を表す。)
式(12) −1000Pa<ビードへの吸引圧力<−200Pa
(式(12)中、ビードへの吸引圧力は、前記吸引装置から前記ビードにかかる圧力を表し、前記ビードが前記吸引装置側に引き寄せられる方向の圧力を負の値で表し、前記吸引装置側から押し出される方向の圧力を正の値で表す。)
式(13) 0.25mm≦hk
(式(13)中、hkは前記吐出装置と前記支持体の距離(単位:mm)を表す。)
式(14) 25Pa・s<η
(式(14)中、ηは前記吐出装置から吐出する前記ポリマー溶液の粘度を、該ポリマー溶液の25℃、1Hzで測定した振動粘度(単位:Pa・s)を表す。)
[7] 前記流延速度を15〜55m/分に制御することを特徴とする[6]に記載の光学フィルムの製造方法。
[8] フィルム搬送方向の延伸倍率と、フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率の合計が5%〜20%の[6]または[7]に記載の光学フィルムの製造方法。
[9] 下記式(15)および(16)を満たすように延伸することを特徴とする[6]〜[8]のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
式(15) 3%≦(フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率)
式(16) −2%≦(フィルム搬送方向の延伸倍率−フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率)
[10] 前記吐出装置から吐出する前記ポリマー溶液の粘度を、該ポリマー溶液の25℃、1Hzで測定した振動粘度η(単位:Pa・s)が下記式(17)を満たすように制御することを特徴とする、[6]〜[9]のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
式(17) 30Pa・s<η<200Pa・s
[11] 前記吐出装置と前記支持体の距離hk(単位:mm)が、下記式(18)を満たすことを特徴とする[6]〜[10]に記載の光学フィルムの製造方法。
式(18) 0.3mm≦hk≦1.5mm
[12] 前記ポリマー溶液が、セルロースアシレートを含むことを特徴とする[6]〜[11]のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
[13] 前記ポリマー溶液が、重縮合エステル化合物および糖エステル化合物のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする[6]〜[12]のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
[14] 前記支持体の剥離部の温度が10℃以上となるように制御して該支持体から前記フィルムを剥離する工程を含むことを特徴とする[6]〜[13]のいずれか一項に記載の製造方法。
[15] [6]〜[14]のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法で製造されたことを特徴とする光学フィルム。
[16] 偏光子と、該偏光子の少なくとも片側に[1]〜[5]および[15]のいずれか一項に記載の光学フィルムを有することを特徴とする偏光板。
[17] [16]に記載の偏光板を少なくとも1枚含むことを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、薄膜であり、膜厚の均質性が改良され、環境湿度変化に伴う面内方向のレターデーションの変動が抑制された光学フィルムおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のIPS型液晶表示装置の一例の断面模式図である。
【図2】比較例5の光学フィルムの膜厚を干渉膜厚計で測定したときの一例の模式図である。
【図3】実施例17の光学フィルムの膜厚を干渉膜厚計で測定したときの一例の模式図である。
【図4】実施例32の光学フィルムの膜厚を干渉膜厚計で測定したときの一例の模式図である。
【図5】本発明を適用した溶液製膜装置の概略構成を示す模式図である。
【図6】溶液製膜時の流延部(ビード)の状態の一例を示す断面模式図である。
【図7】溶液製膜時の流延部(ビード)の状態の別の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。また、本明細書では、「フロント側」とは表示面側を意味し、「リア側」とはバックライト側を意味する。また、本明細書で「正面」とは、表示面に対する法線方向を意味し、「正面コントラスト(以下、コントラストをCRとも言う)」は、表示面の法線方向において測定される白輝度及び黒輝度から算出されるコントラストをいうものとする。
【0013】
[光学フィルム]
本発明の光学フィルム(以下、本発明のフィルムとも言う)は、膜厚20〜60μmであり、下記式(1)〜(3)を満たすことを特徴とする。
式(1) PV(全面)≦0.5μm
式(2) 2.5 >PV(MD)/PV(TD)≧ 0.8
(式(1)および(2)中、フィルム搬送方向にそれぞれ中心が60mmずつ離れた直径60mmの円形領域10ヶ所で干渉膜厚計により膜厚を測定した場合において、PV(全面)は各円形領域内のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である全面PV値の10ヶ所の平均値を表し、PV(MD)は各円形領域内のフィルム搬送方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である長手PV値の10ヶ所の平均値を表し、PV(TD)は各円形領域内のフィルム搬送方向に直交する方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である幅手PV値の10ヶ所の平均値を表す。)
式(3)ΔRe(30−80)<3nm
(式(3)中、ΔRe(30−80)は、相対湿度30%におけるフィルム面内方向のレターデーションの値Re(30%)と、相対湿度80%におけるフィルム面内方向のレターデーションの値Re(80%)の差の絶対値を表す。)
以下、本発明のフィルムについて説明する。
【0014】
<光学フィルムの特性>
(膜厚)
本発明のフィルムは膜厚が20〜60μmである。また、本発明のフィルムが延伸されている場合も、延伸後膜厚が20〜60μmである。
本発明のフィルムは膜厚が25〜60μmであることが好ましく、25〜45μmであることがより好ましく、25〜43μmであることが特に好ましく、25〜41μmであることがより特に好ましい。
【0015】
(PV値)
本発明のフィルムは、前記式(1)および(2)を満たす。
式(1) PV(全面)≦0.5μm
式(2) 2.5 >PV(MD)/PV(TD)≧ 0.8
(式(1)および(2)中、フィルム搬送方向にそれぞれ中心が60mmずつ離れた直径60mmの円形領域10ヶ所で干渉膜厚計により膜厚を測定した場合において、PV(全面)は各円形領域内のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である全面PV値の10ヶ所の平均値を表し、PV(MD)は各円形領域内のフィルム搬送方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である長手PV値の10ヶ所の平均値を表し、PV(TD)は各円形領域内のフィルム搬送方向に直交する方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である幅手PV値の10ヶ所の平均値を表す。)
ここで、前記式(1)を満たす光学フィルムは、フィルム面内の膜厚の最大値と最小値の差が小さいことを意味し、すなわちフィルム面内において膜厚が均質であることを意味する。前記式(2)を満たす光学フィルムは、フィルム搬送方向の膜厚の最大値と最小値の差とフィルム搬送方向に直交する方向の膜厚の最大値と最小値の差が同程度であることを意味し、すなわちフィルムの搬送方向の膜厚ムラと搬送方向に直交する方向の膜厚ムラが同程度であることを意味する。
一方、フィルムにフィルム搬送方向に直交する方向と平行ないわゆるダンムラが生じている場合はPV(MD)/PV(TD)は2.5以上になり、逆にフィルム搬送方向に平行な膜厚ムラが生じていれば0.8未満となる。
したがって、前記式(1)および(2)を満たす本発明の光学フィルムは、ダンムラが解消されており、かつ、膜厚が均質であるフィルムである。このような光学フィルムは、従来溶液製膜で薄膜とすると製造することが困難であったが、後述する本発明の光学フィルムの製造方法によれば、低い製造コストで製造することができる。
【0016】
本発明の光学フィルムは、前記PV(全面)は、0.45μm以下であることが好ましく、0.40μm以下であることがより好ましい。
本発明の光学フィルムは、前記PV(MD)/PV(TD)は、0.8を超え2.5未満であることが好ましく、下記式(4)を満たすことがより好ましい。
式(4) 1.8 >PV(MD)/PV(TD)≧ 0.8
前記PV(MD)は0.50μm以下であることが好ましく、0.45μm以下であることがより好ましく、0.40μm以下であることが特に好ましい。
前記PV(TD)は0.50μm以下であることが好ましく、0.45μm以下であることがより好ましく、0.40μm以下であることが特に好ましい。
【0017】
(レターデーション)
本発明の光学フィルムは、下記式(3)を満たすことを特徴とする。
式(3)ΔRe(30−80)<3nm
(式(3)中、ΔRe(30−80)は、波長590nmで測定した、相対湿度30%におけるフィルム面内方向のレターデーションの値Re(30%)と、相対湿度80%におけるフィルム面内方向のレターデーションの値Re(80%)の差の絶対値を表す。)
本発明の光学フィルムは、Reの環境湿度による変動が小さいことを特徴する。このようにReの環境湿度による変動が小さく、かつ、前記膜厚の範囲を満たし、前記式(1)および(2)を満たす本発明の光学フィルムを製造することは従来の製造方法では困難であったが、後述する本発明の光学フィルムの製造方法によれば、このような薄膜の光学フィルムを製造した場合でも、膜厚が均質であり、かつ、Reの湿度依存性が小さいフィルムを得ることができる。
前記ΔRe(30−80)は2nm未満であることが好ましく、1nm未満であることがより好ましい。
【0018】
本発明のフィルムは、波長590nmで測定した面内方向のレターデーションReが0nm≦|Re|≦5nmであることが、液晶表示装置に実装した際の光り漏れを低減する観点から好ましい。前記|Re|は0nm≦|Re|≦3nmであることが好ましく、0nm≦|Re|≦2nmであることがより好ましい。
本発明のフィルムは、波長590nmで測定した膜厚方向のレターデーションが−10nm≦Rth≦200nmであることが好ましく、30〜150nmであることがより好ましく、35〜130nmであることが特に好ましい。
【0019】
また本発明のフィルムは2軸性の光学補償フィルムであることが好ましい。
ここで光学補償フィルムが2軸性であるとは光学補償フィルムのnx、nyおよびnz(nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。)がそれぞれ全て異なる場合であり、本発明の場合にはnx>ny>nzであることがさらに好ましい。
本発明のフィルムが2軸性の光学特性を示すということは液晶表示装置、特にVAモード液晶表示装置における斜め方向から観察した場合のカラーシフトの問題を低減する上で好ましい特性である。
【0020】
本明細書におけるRe(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。本願明細書においては、特に記載がないときは、波長λは、590nmとする。Re(λ)はKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHが算出する。尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(A)及び式(B)よりRthを算出することもできる。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0021】
【数1】
【0022】
ここで、上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表し、nx、ny、nzは、屈折率楕円体の各主軸方位の屈折率を表し、dはフィルム厚を表す。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d 式(B)
なおこの際、パラメータとして平均屈折率nが必要になるが、これはアッベ屈折計((株)アタゴ社製の「アッベ屈折計2−T」)により測定した値を用いた。
【0023】
(光学ムラ)
さらに、本発明の光学フィルムは、クロスニコル下で観察したときに、光学ムラも少ないことが好ましい。本発明の光学フィルムはダンムラなどの膜厚の均質化がされていることを特徴とするが、本発明の光学フィルムの好ましい態様では、クロスニコル下で観察したときの光学ムラも抑制されている。このような光学ムラも抑制した光学フィルムは、後述する本発明の光学フィルムの製造方法の好ましい態様によって製造することができる。
【0024】
(フィルムの層構造)
本発明のフィルムは単層フィルムであっても、2層以上の積層構造を有していてもよいが、単層フィルムであることが好ましい。
【0025】
(フィルム幅)
本発明のフィルムは、フィルム幅が1000mm以上であることが好ましく、1500mm以上であることがより好ましく、1800mm以上であることが特に好ましい。
【0026】
<ポリマー>
本発明のフィルムは、ポリマーフィルムである。
本発明のフィルムは、ポリマーとして熱可塑性樹脂を主成分として含むことが好ましい。ここで、主成分とは、全ポリマー中50質量%以上の割合のポリマーのことを言う。
前記熱可塑性樹脂としては、本発明の趣旨に反しない限りにおいて特に制限はないが、溶液製膜に適する熱可塑性樹脂であることが好ましい。
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、セルロースアシレート、環状オレフィン樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂などを挙げることができる。
その中でも本発明の光学フィルムは、セルロースアシレートを含むことが好ましい。
以下、本発明の光学フィルムの好ましい態様であるセルロースアシレートを含むフィルムについて好ましい範囲を説明するが、本発明はセルロースアシレートを含むフィルムに限定されるものではない。まず、本発明に用いられるセルロースアシレートについて説明する。
【0027】
(セルロースアシレート)
本発明に用いられるセルロースアシレートの原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ,針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば、丸澤、宇田著、「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」日刊工業新聞社(1970年発行)や発明協会公開技報公技番号2001−1745号(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができ、本発明のセルロースアシレート積層フィルムに対しては特に限定されるものではない。
【0028】
まず、本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートについて詳細に記載する。セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部をアシル基によりアシル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位および6位に位置するセルロースの水酸基がアシル化している割合(各位における100%のアシル化は置換度1)の合計を意味する。
【0029】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。
本発明におけるセルロースアシレートのアシル基としては、脂肪族基でもアリル基でもよく特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブタノイル基、tert−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、tert−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくはアセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基(アシル基が炭素原子数2〜4である場合)であり、より特に好ましくはアセチル基(セルロースアシレートが、セルロースアセテートである場合)である。
【0030】
すなわち、前記セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)、ジアセチルセルロース(DAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、セルロースアセテートフタレート等が挙げられる。本発明のセルロースアシレートフィルムは、前記セルロースアシレートのアシル基が全てアセチル基であることがレターデーション発現性やコストの観点から好ましい。
【0031】
本発明のフィルムは、前記セルロースアシレートのアシル置換度が2.0〜2.9を満たすことが、光学発現性の観点から、好ましい。前記セルロースアシレートのアシル置換度は、 2.1〜2.89であることがより好ましく、2.4〜2.86であることが特に好ましい。
また、本発明のフィルムが炭素数3以上のアシル基を有する場合、炭素数3以上のアシル基の置換度は0.3〜1.0を満たすことが好ましく、0.4〜0.9であることがより好ましく、0.5〜0.8であることが特に好ましい。
なお、アシル基の置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法に準じて測定することができる。アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在している。
【0032】
これらのセルロースアシレートは公知の方法で合成することができ、例えば、特開平10−45804号公報に記載されている方法により合成できる。
【0033】
セルロ−スのアシル化において、アシル化剤としては、酸無水物や酸クロライドを用いた場合、反応溶媒である有機溶媒としては、有機酸、例えば、酢酸、メチレンクロライド等が使用される。
【0034】
触媒としては、アシル化剤が酸無水物である場合には、硫酸のようなプロトン性触媒が好ましく用いられ、アシル化剤が酸クロライド(例えば、CH3CH2COCl)である場合には、塩基性化合物が用いられる。
【0035】
最も一般的なセルロ−スの混合脂肪酸エステルの工業的合成方法は、セルロ−スをアセチル基および他のアシル基に対応する脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、吉草酸等)またはそれらの酸無水物を含む混合有機酸成分でアシル化する方法である。
【0036】
前記セルロースアシレートの分子量は数平均分子量(Mn)で40000〜200000のものが好ましく、100000〜200000のものが更に好ましい。本発明で用いられるセルロースアシレートはMw/Mn比が4.0以下であることが好ましく、更に好ましくは1.4〜2.3である。
本発明において、セルロースアシレート等の平均分子量及び分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を算出し、国際公開WO2008−126535号公報に記載の方法により、その比を計算することができる。
【0037】
<添加剤>
本発明のフィルムには、用途に応じた種々の添加剤(例えば、紫外線防止剤、可塑剤、劣化防止剤、微粒子、光学特性調整剤など)を加えることができる。
【0038】
(1)糖エステル化合物および重縮合エステル
本発明のフィルムは、糖エステル化合物および重縮合エステルのいずれか少なくとも一種を含有することがフィルムの内部ヘイズ低減の観点から好ましい。
【0039】
(1−1)糖エステル化合物
−糖残基−
前記糖エステル化合物とは、該化合物を構成する単糖または多糖中の置換可能な基(例えば、水酸基、カルボキシル基)の少なくとも1つと、少なくとも1種の置換基とがエステル結合されている化合物のことを言う。すなわち、ここで言う糖エステル化合物には広義の糖誘導体類も含まれ、例えばグルコン酸のような糖残基を構造として含む化合物も含まれる。すなわち、前記糖エステル化合物には、グルコースとカルボン酸のエステル体も、グルコン酸とアルコールのエステル体も含まれる。
前記糖エステル化合物を構成する単糖または多糖中の置換可能な基は、ヒドロキシル基であることが好ましい。
【0040】
前記糖エステル化合物中には、糖エステル化合物を構成する単糖または多糖由来の構造(以下、糖残基とも言う)が含まれる。前記糖残基の単糖当たりの構造を、糖エステル化合物の構造単位と言う。前記糖エステル化合物の構造単位は、ピラノース構造単位またはフラノース構造単位を含むことが好ましく、全ての糖残基がピラノース構造単位またはフラノース構造単位であることがより好ましい。また、前記糖エステルが多糖から構成される場合は、ピラノース構造単位またはフラノース構造単位をともに含むことが好ましい。
【0041】
前記糖エステル化合物の糖残基は、5単糖由来であっても6単糖由来であってもよいが、6単糖由来であることが好ましい。
【0042】
前記糖エステル化合物中に含まれる構造単位の数は、1〜12であることが好ましく、1〜6であることがより好ましく、1または2であることが特に好ましい。
【0043】
本発明では、前記糖エステル化合物はヒドロキシル基の少なくとも1つがエステル化されたピラノース構造単位またはフラノース構造単位を1個〜12個含む糖エステル化合物であることがより好ましく、ヒドロキシル基の少なくとも1つがエステル化されたピラノース構造単位またはフラノース構造単位を1または2個含む糖エステル化合物であることがより好ましい。
【0044】
前記単糖または2〜12個の単糖単位を含む糖類の例としては、例えば、エリトロース、トレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、グルコース、フルクトース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、トレハロース、イソトレハロース、ネオトレハロース、トレハロサミン、コウジビオース、ニゲロース、マルトース、マルチトール、イソマルトース、ソホロース、ラミナリビオース、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトース、ラクトサミン、ラクチトール、ラクツロース、メリビオース、プリメベロース、ルチノース、シラビオース、スクロース、スクラロース、ツラノース、ビシアノース、セロトリオース、カコトリオース、ゲンチアノース、イソマルトトリオース、イソパノース、マルトトリオース、マンニノトリオース、メレジトース、パノース、プランテオース、ラフィノース、ソラトリオース、ウンベリフェロース、リコテトラオース、マルトテトラオース、スタキオース、バルトペンタオース、ベルバルコース、マルトヘキサオース、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、δ−シクロデキストリン、キシリトール、ソルビトールなどを挙げることができる。
【0045】
好ましくは、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、トレハロース、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、スクラロース、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、δ−シクロデキストリン、キシリトール、ソルビトールであり、さらに好ましくは、アラビノース、キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、スクロース、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンであり、特に好ましくは、キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、スクロース、キシリトール、ソルビトールである。前記糖エステル化合物は、グルコース骨格またはスクロース骨格を有することが、特開2009−1696号公報の[0059]に化合物5として記載されていて同文献の実施例で用いられているマルトース骨格を有する糖エステル化合物などと比較して、ポリマーとの相溶性の観点からより特に好ましい。
【0046】
−置換基の構造−
本発明に用いられる前記糖エステル化合物は、用いられる置換基を含め、下記一般式(1)で表される構造を有することがより好ましい。
一般式(1) (OH)p−G−(L1−R11)q(O−R12)r
一般式(1)中、Gは糖残基を表し、L1は−O−、−CO−、−NR13−のいずれか一つを表し、R11は水素原子または一価の置換基を表し、R12はエステル結合で結合した一価の置換基を表す。p、qおよびrはそれぞれ独立に0以上の整数を表し、p+q+rは前記Gが環状アセタール構造の無置換の糖類であると仮定した場合のヒドロキシル基の数と等しい。
【0047】
前記Gの好ましい範囲は、前記糖残基の好ましい範囲と同様である。
【0048】
前記L1は、−O−または−CO−であることが好ましく、−O−であることがより好ましい。前記L1が−O−である場合は、エーテル結合またはエステル結合由来の連結基であることが特に好ましく、エステル結合由来の連結基であることがより特に好ましい。
また、前記L1が複数ある場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0049】
R11およびR12の少なくとも一方は芳香環を有することが好ましい。
【0050】
特に、前記L1が−O−である場合(すなわち前記糖エステル化合物中のヒドロキシル基にR11、R12が置換している場合)、前記R11、R12およびR13は置換または無置換のアシル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアミノ基の中から選択されることが好ましく、置換または無置換のアシル基、置換または無置換のアルキル基、あるいは置換または無置換のアリール基であることがより好ましく、無置換のアシル基、置換または無置換のアルキル基、あるいは、無置換のアリール基であることが特に好ましい。
また、前記R11、R12およびR13がそれぞれ複数ある場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0051】
前記pは0以上の整数を表し、好ましい範囲は後述する単糖ユニット当たりのヒドロキシル基の数の好ましい範囲と同様であるが、本発明において前記pはゼロであることが好ましい。
前記rは前記Gに含まれるピラノース構造単位またはフラノース構造単位の数よりも大きい数を表すことが好ましい。
前記qは0であることが好ましい。
また、p+q+rは前記Gが環状アセタール構造の無置換の糖類であると仮定した場合のヒドロキシル基の数と等しいため、前記p、qおよびrの上限値は前記Gの構造に応じて一意に決定される。
【0052】
前記糖エステル化合物の置換基の好ましい例としては、アルキル基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、2−シアノエチル基、ベンジル基など)、アリール基(好ましくは炭素数6〜24、より好ましくは6〜18、特に好ましくは6〜12のアリール基、例えば、フェニル基、ナフチル基)、アシル基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8のアシル基、例えばアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ベンゾイル基、トルイル基、フタリル基など)、アミド基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8のアミド、例えばホルムアミド基、アセトアミド基など)、イミド基(好ましくは炭素数4〜22、より好ましくは炭素数4〜12、特に好ましくは炭素数4〜8のアミド基、例えば、スクシイミド基、フタルイミド基など)、アリールアルキル基(好ましくは、炭素数7〜25、より好ましくは7〜19、特に好ましくは7〜13のアリール基、例えば、ベンジル基)を挙げることができる。その中でも、アルキル基またはアシル基がより好ましく、メチル基、アセチル基、ベンゾイル基、ベンジル基がより好ましく、アセチル基とベンジル基が特に好ましい。さらにその中でも前記糖エステル化合物の構成糖がスクロース骨格である場合は、アセチル基とベンジル基を置換基として有する糖エステル化合物が、特開2009−1696号公報の[0058]に化合物3として記載されていて同文献の実施例で用いられているベンゾイル基を有する糖エステル化合物と比較して、ポリマーとの相溶性の観点からより特に好ましい。
【0053】
また、前記糖エステル化合物中の構造単位当たりのヒドロキシル基の数(以下、ヒドロキシル基含率とも言う)は、3以下であることが好ましく、1以下であることがより好ましく、ゼロであることが特に好ましい。ヒドロキシル基含率を前記範囲に制御することにより、高温高湿経時における糖エステル化合物の偏光子層への移動およびPVA−ヨウ素錯体の破壊を抑制でき、高温高湿経時における偏光子性能の劣化を抑制する点から好ましい。
【0054】
本発明のフィルムに用いられる前記糖エステル化合物は、無置換のヒドロキシル基が存在せず、かつ、置換基がアセチル基および/またはベンジル基のみからなることが好ましい。
また、前記糖エステル化合物におけるアセチル基とベンジル基の比率としては、ベンジル基の比率がある程度少ない方が、液晶表示装置に組み込んだときの黒色味変化が小さくなるため好ましい。具体的には、前記糖エステル化合物における全ての無置換のヒドロキシル基と全ての置換基の和に対する、ベンジル基の比率が60%以下であることが好ましく、40%以下であることが好ましい。
【0055】
前記糖エステル化合物の入手方法としては、市販品として(株)東京化成製、アルドリッチ製等から商業的に入手可能であり、もしくは市販の炭水化物に対して既知のエステル誘導体化法(例えば、特開平8−245678号公報に記載の方法)を行うことにより合成可能である。
【0056】
前記糖エステル化合物は、数平均分子量が、好ましくは200〜3500、より好ましくは200〜3000、特に好ましくは250〜2000の範囲が好適である。
【0057】
以下に、本発明で好ましく用いることができる前記糖エステル化合物の具体例を挙げるが、本発明は以下の態様に限定されるものではない。
以下の構造式中、Rはそれぞれ独立に任意の置換基を表し、複数のRは同一であっても、異なっていてもよい。
【0058】
【化1】
【0059】
【表1】
【0060】
【化2】
【0061】
【表2】
【0062】
【化3】
【0063】
【表3】
【0064】
【化4】
【0065】
【表4】
【0066】
前記糖エステル化合物は、本発明のフィルムに含まれる前記ポリマー(好ましくはセルロースアシレート)に対し2〜30質量%含有することが好ましく、5〜20質量%含有することがより好ましく、5〜15質量%含有することが特に好ましい。
また、後述する固有複屈折が負の添加剤を前記糖エステル化合物と併用する場合は、固有複屈折が負の添加剤の添加量(質量部)に対する前記糖エステル化合物の添加量(質量部)は、2〜10倍(質量比)加えることが好ましく、3〜8倍(質量比)加えることがより好ましい。
また、後述するポリエステル系可塑剤を前記糖エステル化合物と併用する場合は、ポリエステル系可塑剤の添加量(質量部)に対する前記糖エステル化合物の添加量(質量部)は、2〜10倍(質量比)加えることが好ましく、3〜8倍(質量比)加えることがより好ましい。
なお、前記糖エステル化合物は、単独で用いても、二種類以上を併用してもよい。
【0067】
(1−2)重縮合エステル化合物
本発明に用いられる前記重縮合エステル化合物としては、フィルムにヘイズを発生させたり、フィルムからブリードアウトあるいは揮発させたりしないように、数平均分子量が300以上2000未満の重縮合エステル化合物系可塑剤を使用することが好ましい。
【0068】
前記重縮合エステル化合物は特に限定されないが、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有するポリエステル系可塑剤を好ましく用いることができる。
例えば、下記一般式(2)で表せる芳香族末端ポリエステル系可塑剤が好ましい。
【0069】
一般式(2) B1−(G1−A1)n−G1−B1
(式中、B1はベンゼンモノカルボン酸残基、G1は炭素数2〜12のアルキレングリコール残基または炭素数6〜12のアリールグリコール残基または炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基、A1は炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基または炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表し、またnは1以上の整数を表す。)
【0070】
一般式(2)中、B1で示されるベンゼンモノカルボン酸残基とG1で示されるアルキレングリコール残基またはオキシアルキレングリコール残基またはアリールグリコール残基、A1で示されるアルキレンジカルボン酸残基またはアリールジカルボン酸残基とから構成されるものである。
本発明で使用されるポリエステル系可塑剤のベンゼンモノカルボン酸成分としては、例えば、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上の混合物として使用することができる。
【0071】
本発明で好ましく用いられるポリエステル系可塑剤の炭素数2〜12のアルキレングリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコ
ール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル1,3−ペンタンジオール、2−エチル1,3−ヘキサンジオール、2−メチル1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。
特に炭素数2〜12のアルキレングリコールがセルロースアシレートとの相溶性に優れているため好ましい。
【0072】
また、本発明で用いられるポリエステル系可塑剤の炭素数4〜12のオキシアルキレングリコール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用できる。
本発明で用いられるポリエステル系可塑剤の炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマール酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等があり、これらは、それぞれ1種または2種以上の混合物として使用される。
炭素数6〜12のアリーレンジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5ナフタレンジカルボン酸、1,4ナフタレンジカルボン酸等がある。
【0073】
本発明で使用されるポリエステル系可塑剤は、数平均分子量が、好ましくは300〜1500、より好ましくは400〜1000の範囲が好適である。
また、その酸価は、0.5mgKOH/g以下、水酸基価は25mgKOH/g以下、より好ましくは酸価0.3mgKOH/g以下、水酸基価は15mgKOH/g以下のものが好適である。
【0074】
また、本発明で用いられる前記ポリエステル系可塑剤としては、特開2010−46834号公報の[0141]〜[0156]に記載されている重合体も好ましく用いることができる。
【0075】
前記ポリエステル系可塑剤の重縮合は常法によって行われる。例えば、(i)上記2塩基酸とグリコールの直接反応、上記の2塩基酸またはこれらのアルキルエステル類、例えば2塩基酸のメチルエステルとグリコール類とのポリエステル化反応またはエステル交換反応により熱溶融縮合法か、或いは(ii)これら酸の酸クロライドとグリコールとの脱ハロゲン化水素反応の何れかの方法により容易に合成し得るが、本発明で用いられるポリエステル系可塑剤は直接反応によるのが好ましい。
低分子量側に分布が高くあるポリエステル系可塑剤はセルロースアシレートとの相溶性が非常によく、フィルム形成後、透湿度も小さく、しかも透明性に富んだセルロースアシレートフィルムを得ることができる。
【0076】
分子量の調節方法は、特に制限なく従来の方法を使用できる。例えば、重合条件にもよるが、1価の酸または1価のアルコールで分子末端を封鎖する方法により、これらの1価の化合物を添加する量によりコントロールできる。
この場合、1価の酸がポリマーの安定性から好ましい。例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸等を挙げることができるが、重縮合反応中には系外に溜去せず、停止して反応系外にこのような1価の酸を系外に除去するときに溜去し易いものが選ばれるが、これらを混合使用してもよい。
また、直接反応の場合には、反応中に溜去してくる水の量により反応を停止するタイミングを計ることによっても数平均分子量を調節できる。その他、仕込むグリコールまたは2塩基酸のモル数を偏らせることによってもできるし、反応温度をコントロールしても調節できる。
本発明で用いられるポリエステル系可塑剤の分子量は、前述のGPCによる測定方法、末端基定量法(水酸基価)を使用して測定することができる。
【0077】
本発明で用いられる前記重縮合エステル化合物は、本発明のフィルムに含まれる前記ポリマー(好ましくはセルロースアシレート)に対し1〜40質量%含有することが好ましく、5〜30質量%含有することがより好ましく、7〜20質量%含有することが特に好ましい。
【0078】
本発明の光学フィルムには、前記糖エステル化合物および重縮合エステル以外の添加剤として、含窒素化合物系可塑剤や、通常のセルロースアシレートフィルムに添加することのできる添加剤などを含有させることができる。
これらの添加剤としては、例えば、含窒素化合物系可塑剤;前記糖エステル化合物、重縮合エステルおよび含窒素化合物系可塑剤以外の可塑剤;微粒子;レターデーション発現剤;固有複屈折が負の添加剤;酸化防止剤、熱劣化防止剤;着色剤;紫外線吸収剤等を挙げることができる。
前記その他の添加剤については、国際公開WO2008−126535号公報に記載されている化合物も好ましく用いることができる。
【0079】
(2)含窒素芳香族化合物系可塑剤
本発明の光学フィルムは含窒素芳香族化合物系可塑剤を含むことが好ましい。前記含窒素芳香族化合物系可塑剤は、ピリジン、ピリミジン、トリアジン、プリンのいずれかを母核とし、該母核の置換可能ないずれかの位置にアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、アミド基(アミド結合を介して、任意のアシル基が結合している構造を意味する)、アリール基、アルコキシ基、チオアルコキシ基、アルキルもしくはアリールチオ基(硫黄原子を解してアルキル基もしくはアリール基が連結した基)、または複素環基を置換基として有するものである。但し、これらの前記含窒素芳香族化合物系可塑剤の母核の置換基はさらに別の置換基で置換されていてもよく、前記別の置換基としては特に制限はない。例えば前記母核がアミノ基で置換されている場合、該アミノ基はアルキル基(さらにアルキル基どうしが連結して環を形成していてもよい)や−SO2R'(R'は任意の置換基を表す)で置換されていてもよい。本発明で用いられる前記含窒素芳香族化合物は、セルロースアシレートに対し1〜40質量%含有することが好ましく、1〜15質量%含有することがより好ましく、2〜5質量%含有することが特に好ましい。
【0080】
以下に含窒素芳香族化合物系可塑剤の具体例を挙げるが、本発明は以下の具体例によって限定されるものではない。
【0081】
【化5】
【0082】
【化6】
【0083】
【化7】
【0084】
【化8】
(上記式中におけるR1〜R3はそれぞれ下記化合物C−101〜C−180におけるR1〜R3を表す)
【0085】
【化9】
【0086】
【化10】
【0087】
【化11】
(上記式中におけるR2〜R3はそれぞれ下記化合物C−181〜C−190におけるR2〜R3を表す)
【化12】
【0088】
【化13】
(上記式中におけるR3は下記化合物D−101〜D−110におけるR3を表す)
【0089】
【化14】
【0090】
【化15】
【0091】
【化16】
【0092】
【化17】
【0093】
【化18】
【0094】
【化19】
【0095】
【化20】
【0096】
【化21】
【0097】
【化22】
【0098】
【化23】
【0099】
【化24】
【0100】
【化25】
【0101】
(3) 前記糖エステル化合物、重縮合エステルおよび含窒素化合物系可塑剤以外の可塑剤
本発明のフィルムには、前記糖エステル化合物、重縮合エステルおよび含窒素化合物系可塑剤以外のその他可塑剤を用いることができる。
前記その他の可塑剤としては、例えば、リン酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、カルボン酸エステル系可塑剤、アクリル系ポリマーなどを好ましく用いることができる。
リン酸エステル系可塑剤としては、例えばトリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート(BDP)、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等;カルボン酸エステル系可塑剤としては、例えばジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)、ジエチルヘキシルフタレート(DEHP)、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)、O−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等を挙げることができる。
これらの中でもリン酸エステル系の可塑剤を用いることが好ましく、TPPおよびBDPがより好ましい。また、これらの可塑剤は2種以上を併用して用いてもよい。
【0102】
(4) 微粒子
本発明の光学フィルムに添加されていてもよい微粒子としては、無機化合物の例として、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。
微粒子は珪素を含むものが、ヘイズが低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。
微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜50nmが好ましく、更に好ましいのは7〜20nmである。これらは主に粒径0.05〜0.3μmの2次凝集体として含有されることが好ましい。
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600,NAX50(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
ポリマーの例として、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることができる。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(以上東芝シリコーン(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
これらの中でもアエロジル200V、アエロジルR972Vがセルロース誘導体フィルムのヘイズを低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましく用いられる。
【0103】
本発明のフィルム中の前記ポリマー(好ましくはセルロースアシレート)に対するこれらの微粒子の含有量は0.05〜1質量%であることが好ましく、特に0.1〜0.5質量%が好ましい。共流延法による多層構成のセルロース誘導体フィルムの場合は、表面にこの添加量の微粒子を含有することが好ましい。
【0104】
(5)レターデーション発現剤
本発明のフィルムは、レターデーション発現剤を含んでいてもよい。レターデーション発現剤を採用することにより、低延伸倍率で高いレターデーション発現性を得られる。一方、本発明のフィルムは、後述する本発明の製造方法で製造されることにより、これらのレターデーション発現剤を含まない場合であっても、レターデーション発現性が良好である。
前記レターデーション発現剤としては、特に制限はないが、棒状化合物からなるものや、シクロアルカンまたは芳香族環といった環状構造を有する化合物からなるものや、前記非リン酸エステル系の化合物のうちレターデーション発現性を示す化合物を挙げることができる。環状構造を有する化合物としては、円盤状化合物が好ましい。上記棒状化合物あるいは円盤状化合物としては、少なくとも二つの芳香族環を有する化合物をレターデーション発現剤として好ましく用いることができる。
なお、二種類以上のレターデーション発現剤を併用してもよい。
レターデーション発現剤は、250〜400nmの波長領域に最大吸収を有することが好ましく、可視領域に実質的に吸収を有していないことが好ましい。
【0105】
レターデーション発現材としては、例えば特開2004−50516号公報、特開2007−86748号公報に記載されている化合物、特開2010−46834号公報に記載されている化合物を用いることができるが、本発明はこれらに限定されない。
円盤状化合物としては、例えば欧州特許出願公開第0911656A2号明細書に記載の化合物、特開2003−344655号公報に記載のトリアジン化合物、特開2008−150592号公報[0097]〜[0108]に記載されるトリフェニレン化合物も好ましく用いることもできる。
【0106】
円盤状化合物は、例えば特開2003−344655号公報に記載の方法、特開2005−134884号公報に記載の方法等、公知の方法により合成することができる。
【0107】
前述の円盤状化合物の他に直線的な分子構造を有する棒状化合物も好ましく用いることができ、例えば特開2008−150592号公報[0110]〜[0127]に記載される棒状化合物を好ましく用いることができる。
【0108】
(6)固有複屈折が負の添加剤
本発明のフィルムは、固有複屈折が負の添加剤を含んでいてもよい。前記固有複屈折が負の添加剤として用いることができる負の固有複屈折を有する化合物について、以下説明する。
【0109】
前記負の固有複屈折を有する化合物とは、セルロースアシレートフィルムの中で、フィルムの特定の方向に対して負の固有複屈折性を示す材料を意味する。本明細書中において負の固有複屈折性とは、複屈折率が負の性質をいう。また、負の固有複屈折性を有しているか否かは、例えば、その化合物を添加した系としていない系でのフィルムの複屈折を複屈折計により測定し、その差を比較することにより知ることができる。
【0110】
本発明の負の固有複屈折を有する化合物は、特に制限がなく、負の固有複屈折を示す公知の化合物などを用いることができ、例えば、特開2010−46834号公報の[0036]〜[0092]に開示されている化合物などを好ましく用いることができる。
前記負の固有複屈折を有する化合物としては、負の固有複屈折を有する重合体や、負の固有複屈折を有する針状微粒子(負の固有複屈折を有する重合体の針状微粒子を含む)などを挙げることができる。以下、本発明に用いることができる負の固有複屈折を有する重合体について説明する。
【0111】
前記負の固有複屈折を有する重合体とは、分子が一軸性の配向をとって形成された層に光が入射したとき、前記配向方向の光の屈折率が前記配向方向に直交する方向の光の屈折率より小さくなるポリマーをいう。
【0112】
このような負の固有複屈折を有する重合体としては、負のポリマーとしては、特定の環状構造(脂肪族芳香環や複素芳香環などの円盤状の環)を側鎖に有する重合体(例えば、ポリスチレン、ポリ(4−ヒドロキシ)スチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体等のスチレン系ポリマーや、ポリビニルピリジンなど)、ポリメチルメタクリレート等の(メタ)アクリル系ポリマー、セルロースエステル系ポリマー(複屈折が正であるものを除く)、ポリエステル系ポリマー(複屈折が正であるものを除く)、アクリロニトリル系ポリマー、アルコキシシリル系ポリマーあるいはこれらの多元(二元系、三元系等)共重合ポリマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、共重合体であるときはブロック共重合体であってもランダム共重合体であってもよい。
この中でも、特定の環状構造を有する重合体、(メタ)アクリル系ポリマーおよびアルコキシシリル系ポリマーがより好ましく、ポリスチレン、ポリヒドロキシスチレン、ポリビニルピリジンおよび(メタ)アクリル系ポリマーが特に好ましい。
【0113】
前記特定の環状構造を有する重合体を添加すると、製膜後のフィルムのRthの発現性を高めることができ、好ましい。
前記特定の環状構造を有する重合体としては、特開2010−46834号公報に記載されている脂肪族芳香環を側鎖に有する重合体を好ましく用いることができる。その中でも、ポリスチレン、ポリ(4−ヒドロキシ)スチレンが好ましく、ポリスチレンとポリ(4−ヒドロキシ)スチレンの共重合体がより好ましい。前記ポリスチレンとポリ(4−ヒドロキシ)スチレンの共重合体の共重合比(モル比)は、10/90〜100/0であることが好ましく、20/80〜90/10であることがより好ましい。
一方、前記特定の環状構造を有する重合体としては、ポリビニルピリジンなどの複素芳香環を側鎖に有する重合体も好ましく用いることができる。
【0114】
前記(メタ)アクリル系ポリマーを添加すると、製膜後のフィルムの透明性が優れ、透湿度も極めて低く、偏光板用保護フィルムとして優れた性能を示す。前記(メタ)アクリル系ポリマーについては、特開2009−1696号公報、国際公開WO2008−126535号公報に記載されている化合物を好ましく用いることができる。なお、前記(メタ)アクリル系ポリマーは、側鎖に脂肪族芳香環や複素芳香環を有していてもよい。
【0115】
前記負の固有複屈折を有する化合物が、負の固有複屈折を有する重合体である場合は、その重量平均分子量は500〜100,000であることが好ましく、700〜50,000であることがより好ましく、700〜100000であることが特に好ましい。
分子量が500以上であれば揮散性が良好であり、分子量が100,000以下であればセルロースアシレート樹脂との相溶性が良好であるためセルロースアシレートフィルムの製膜性も良好となり、いずれも好ましい。
【0116】
本発明のフィルムには、前記負の固有複屈折を有する化合物を、本発明のフィルムに含まれる前記ポリマー(好ましくはセルロースアシレート)に対して0〜20質量%添加することが好ましく、0〜15質量%添加することがより好ましく、0〜10質量%添加することが特に好ましい。
一方、本発明のフィルムは、後述する本発明の製造方法で製造されることにより、これらの比較的高価な負の固有複屈折を有する化合物を含まない場合であっても、逆波長分散性が大きい。そのため、本発明のフィルムは、負の固有複屈折を有する化合物の添加量が少ないことが、製造コストを下げる観点から好ましい。
【0117】
(7) 酸化防止剤、熱劣化防止剤
本発明では、酸化防止剤、熱劣化防止剤としては、通常知られているものを使用することができる。特に、ラクトン系、イオウ系、フェノール系、二重結合系、ヒンダードアミン系、リン系化合物のものを好ましく用いることができる。前記酸化防止剤、熱劣化防止剤については、国際公開WO2008−126535号公報に記載されている化合物を好ましく用いることができる。
【0118】
(8) 着色剤
本発明においては、着色剤を使用してもよい。着色剤と言うのは染料や顔料を意味するが、本発明では、液晶画面の色調を青色調にする効果またはイエローインデックスの調整、ヘイズの低減を有するものを指す。前記着色剤については、国際公開WO2008−126535号公報に記載されている化合物を好ましく用いることができる。
【0119】
[本発明の光学フィルムの製造方法]
本発明の光学フィルムの製造方法(以下、本発明の製造方法とも言う)は、吐出装置から走行する支持体上に向けてポリマー溶液を流延する工程と、流延された前記ポリマー溶液の前記支持体に到達するまでのビード部分に対して、前記支持体の走行方向の上流側から吸引装置によって吸引する工程と、前記支持体に到達したポリマー溶液を流延速度15〜80m/分で搬送してフィルム状に成形する工程と、前記支持体の剥離部の温度が0℃以上となるように制御して該支持体から前記フィルムを剥離する工程を含み、下記式(11)〜(14)を満たすように制御することを特徴とする。
式(11) 1.0×106/分<(流延速度×未延伸乾燥膜厚)/(吐出部クリアランス)<1.0×107/分
式(11’) 未延伸乾燥膜厚=延伸後膜厚×{1+(フィルム搬送方向の延伸倍率(%))/100}×{1+(フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率(%))/100}
(式(11)中、吐出部クリアランスは前記吐出装置のリップクリアランス(単位:m)を表し、流延速度は前記支持体の走行速度(単位:m/分)を表す。)
式(12) −1000Pa<ビードへの吸引圧力<−200Pa
(式(12)中、ビードへの吸引圧力は、前記吸引装置から前記ビードにかかる圧力を表し、前記ビードが前記吸引装置側に引き寄せられる方向の圧力を負の値で表し、前記吸引装置側から押し出される方向の圧力を正の値で表す。)
式(13) 0.25mm≦hk
(式(13)中、hkは前記吐出装置と前記支持体の距離(単位:mm)を表す。)
式(14) 25Pa・s<η
(式(14)中、ηは前記吐出装置から吐出する前記ポリマー溶液の粘度を、該ポリマー溶液の25℃、1Hzで測定した振動粘度(単位:Pa・s)を表す。)
このような本発明の製造方法によれば、吐出装置から流延されるポリマー溶液の粘度、吐出装置と支持体の距離、流延速度並びに流延速度と吐出装置のリップクリアランスと未延伸乾燥膜厚を制御しながら、吸引装置によってポリマー溶液のビード部分を支持体の走行方向の上流側から吸引する圧力を加えることにより、薄膜であり、膜厚の均質性が改良され、環境湿度変化に伴う面内方向のレターデーションの変動が抑制された本発明の光学フィルムを得ることができる。
以下、本発明の製造方法について、説明する。
【0120】
本発明の製造方法では、本発明の光学フィルムを、溶液流延製膜法を利用して製膜することができる。フィルムの面状を改善する観点から、本発明の製造方法は、前記ポリマーとしてセルロースアシレートを含むフィルムを溶液流涎製膜により製膜する工程を含むことが好ましい。
以下、本発明の製造方法を、溶液流延製膜法を用いる場合を例に説明するが、本発明の製造方法は溶液流延製膜法に限定されるものではない。なお、本発明の製造方法として前記溶融製膜法を用いる場合については、公知の方法を用いることができる。
【0121】
<ポリマー溶液>
溶液流延製膜方法では、前記ポリマーとして好ましく用いられるセルロースアシレートや必要に応じて各種添加剤を含有するポリマー溶液(好ましくはセルロースアシレート溶液)を用いてウェブを形成する。以下において、溶液流延製膜方法に用いることができるポリマー溶液(以下、適宜セルロースアシレート溶液またはドープと称する場合もある)について、本発明の好ましい態様であるセルロースアシレートフィルムを製造する方法に基づいて説明する。
【0122】
(溶媒)
本発明で用いられるセルロースアシレートなどのポリマーは溶媒に溶解させてドープを形成し、これを基材上に流延しフィルムを形成させる。この際に押し出しあるいは流延後に溶媒を蒸発させる必要性があるため、揮発性の溶媒を用いることが好ましい。
更に、反応性金属化合物や触媒等と反応せず、かつ流延用基材を溶解しないものである。又、2種以上の溶媒を混合して用いてもよい。
また、セルロースアシレートと加水分解重縮合可能な反応性金属化合物を各々別の溶媒に溶解し後に混合してもよい。
ここで、上記セルロースアシレートに対して良好な溶解性を有する有機溶媒を良溶媒といい、また溶解に主たる効果を示し、その中で大量に使用する有機溶媒を主(有機)溶媒または主たる(有機)溶媒という。
【0123】
前記良溶媒の例としてはアセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、γ-ブチロラクトン等のエステル類の他、メチルセロソルブ、ジメチルイミダゾリノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、スルホラン、ニトロエタン、塩化メチレン、アセト酢酸メチルなどが挙げられるが、1,3−ジオキソラン、THF、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸メチルおよび塩化メチレンが好ましい。
【0124】
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4のアルコールを含有させることが好ましい。
これらは、ドープを金属支持体に流延した後、溶媒が蒸発し始めてアルコールの比率が多くなることでウェブ(支持体上にセルロースアシレートのドープを流延した以降のドープ膜の呼び方をウェブとする)をゲル化させ、金属支持体から剥離することを容易にするゲル化溶媒として用いられたり、これらの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒のセルロースアシレートの溶解を促進したりする役割もあり、反応性金属化合物のゲル化、析出、粘度上昇を抑える役割もある。
【0125】
炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルを挙げることができる。
これらのうち、ドープの安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性も良く、且つ毒性がないこと等からエタノールが好ましい。これらの有機溶媒は、単独ではセルロースアシレートに対して溶解性を有しておらず、貧溶媒という。
【0126】
本発明においてセルロースアシレートフィルムを構成するセルロースアシレートは、水酸基やエステル、ケトン等の水素結合性の官能基を含むため、全溶媒中に5〜30質量%、より好ましくは7〜25質量%、さらに好ましくは10〜20質量%のアルコールを含有することが流延支持体からの剥離荷重低減の観点から好ましい。
アルコール含有量を調整することによって、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムのReやRthの発現性を調整しやすくすることができる。具体的には、アルコール含有量を上げることや、後述の本発明の製造方法における延伸前の乾燥温度(熱処理温度)を比較的低く設定することで、ReやRthの到達範囲をより大きくしたりすることが可能となる。
また、本発明においては、水を少量含有させることも溶液粘度や乾燥時のウェットフィルム状態の膜強度を高めたり、ドラム法流延時のドープ強度を高めたりするのに有効であり、例えば溶液全体に対して0.1〜5質量%含有させてもよく、より好ましくは0.1〜3質量%含有させてもよく、特には0.2〜2質量%含有させてもよい。
【0127】
本発明におけるポリマー溶液の溶媒として好ましく用いられる有機溶媒の組み合せの例については、特開2009−262551号公報に挙げられている。
【0128】
また、必要に応じて、非ハロゲン系有機溶媒を主溶媒とすることもでき、詳細な記載は発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)に記載がある。
【0129】
本発明におけるポリマー溶液中のセルロースアシレート濃度は、5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がさらに好ましく、15〜30質量%が最も好ましい。
前記セルロースアシレート濃度は、セルロースアシレートを溶媒に溶解する段階で所定の濃度になるように調整することができる。また予め低濃度(例えば4〜14質量%)の溶液を調製した後に、溶媒を蒸発させる等によって濃縮してもよい。さらに、予め高濃度の溶液を調製後に、希釈してもよい。また、添加剤を添加することで、セルロースアシレートの濃度を低下させることもできる。
【0130】
添加剤を添加する時期は、添加剤の種類に応じて適宜決定することができる。
【0131】
このような条件を満たし好ましい高分子化合物であるセルロースアシレートを高濃度に溶解する溶剤として最も好ましい溶剤は塩化メチレン:エチルアルコールの比が95:5〜80:20の混合溶剤である。あるいは、酢酸メチル:エチルアルコール60:40〜95:5の混合溶媒も好ましく用いられる。
【0132】
<各工程の詳細>
(1)溶解工程
セルロースアシレートに対する良溶媒を主とする有機溶媒に、溶解釜中で該セルロースアシレート、添加剤を攪拌しながら溶解しドープを形成する工程、あるいはセルロースアシレート溶液に添加剤溶液を混合してドープを形成する工程である。
セルロースアシレートの溶解には、常圧で行う方法、主溶媒の沸点以下で行う方法、主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法、特開平9−95544号公報、特開平9−95557号公報、または特開平9−95538号公報に記載の如き冷却溶解法で行う方法、特開平11−21379号公報に記載の如き高圧で行う方法等種々の溶解方法を用いることができるが、特に主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法が好ましい。
ドープ中のセルロースアシレートの濃度は10〜35質量%であることが好ましい。溶解中または後のドープに添加剤を加えて溶解及び分散した後、濾材で濾過し、脱泡して送液ポンプで次工程に送る。
【0133】
本発明の光学フィルムの製造方法では、前記吐出装置から吐出する前記ポリマー溶液の粘度を、該ポリマー溶液の25℃、1Hzで測定した振動粘度η(単位:Pa・s)が下記式(14)を満たすように制御することを特徴とする。このような振動粘度ηとすることで、本発明の製造方法の条件を満たすようにフィルムを溶液製膜することができる。
式(14) 25Pa・s<η
(式(14)中、ηは前記吐出装置から吐出する前記ポリマー溶液の粘度を、該ポリマー溶液の25℃、1Hzで測定した振動粘度(単位:Pa・s)を表す。)
本発明の光学フィルムの製造方法では、前記吐出装置から吐出する前記ポリマー溶液の粘度を、該ポリマー溶液の25℃、1Hzで測定した振動粘度η(単位:Pa・s)が下記式(17)を満たすように制御することが好ましい。
式(17) 30Pa・s<η<200Pa・s
前記ポリマー溶液の粘度は、40Pa・s<η<200Pa・sであることがより好ましく、40Pa・s<η<100Pa・sであることが特に好ましい。
【0134】
(2)流延工程、吸引工程、成形工程
前記流延工程は、吐出装置から走行する支持体上に向けてポリマー溶液を流延する工程である。好ましい態様としては、ドープを、送液ポンプ(例えば、加圧型定量ギヤポンプ)を通して加圧ダイに送液し、無限に移送する無端の金属ベルト、例えばステンレスベルト、あるいは回転する金属ドラム等の金属支持体上の流延位置に、加圧ダイスリットからドープを流延する工程を挙げることができる。
前記吸引工程は、流延された前記ポリマー溶液の前記支持体に到達するまでのビード部分に対して、前記支持体の走行方向の上流側から吸引装置によって吸引する工程である。
前記成形工程は、前記支持体に到達したポリマー溶液を流延速度15〜80m/分で搬送してフィルム状に成形する工程である。
さらにこれらの流延工程、吸引工程および成形工程において、本発明の製造方法では、前記式(11)〜(14)を満たすように制御することを特徴する。
以下添付図面に従って本発明に係る溶液製膜方法の好ましい実施の形態について詳説する。
【0135】
図5は、本発明を適用した溶液製膜装置の概略構成を示す模式図である。
【0136】
同図に示すように溶液製膜装置10は主として、流延ダイ(前記吐出装置に相当)と、流延バンド(前記走行する支持体に相当)14と、減圧チャンバ16(前記吸引装置に相当)とから構成されている。
【0137】
流延ダイ12は、流延ドラム20の位置において流延バンド14に対向して配置されている。流延ダイ12の先端からは、セルローストリアセテートなどの高分子材料を含むドープが膜状に押し出される。押し出されたドープは、走行する流延バンド14の表面に仮着し、搬送される。
本発明の製造方法では、前記吐出装置と前記支持体の距離hk(単位:mm)は、下記式(13)を満たす。
式(13) 0.25mm≦hk
このような態様とすることにより、ビード部分が支持体に到達するまでに吐出装置の振動や後述する吸引装置による吸引による振動などの影響による膜厚ムラを生じにくくすることができる。
前記吐出装置と前記支持体の距離hk(単位:mm)は、下記式(18)を満たすことが好ましい。
式(18) 0.3mm≦hk≦1.5mm
前記hkは0.5〜1.2mmであることがより好ましい。
【0138】
本発明の製造方法では、下記式(11)を満たすように前記吐出装置の吐出部クリアランスを制御する。
式(11) 1.0×106/分<(流延速度×未延伸乾燥膜厚)/(吐出部クリアランス)<1.0×107/分
式(11’) 未延伸乾燥膜厚=延伸後膜厚×{1+(フィルム搬送方向の延伸倍率(%))/100}×{1+(フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率(%))/100}
(式(11)中、吐出部クリアランスは前記吐出装置のリップクリアランス(単位:m)を表し、流延速度は前記支持体の走行速度(単位:m/分)を表す。)
このように制御することで、吐出装置から吐出されたビード部分が長くなり過ぎないようにすることができ、ビード部分が支持体に到達するまでに吐出装置の振動や後述する吸引装置による吸引による振動などの影響による膜厚ムラを生じにくくすることができる。
前記式(11)の(流延速度×未延伸乾燥膜厚)/(吐出部クリアランス)の値は、その下限値が1.1×106/分以上であることが好ましく、1.2×106/分以上であることがより好ましい。また、上限値は9.0×106/分以下であることが好ましく、6.0×106/分以下であることがより好ましい。
前記吐出装置は、いわゆるダイであることが好ましく、ダイの口金部分のスリット形状を調整出来、膜厚を均一にし易い加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があり、何れも好ましく用いられる。製膜速度を上げるために加圧ダイを金属支持体上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。あるいは複数のドープを同時に流延する共流延法によって積層構造のフィルムを得ることも好ましい。
【0139】
一方、前記式(11)を満たすようにフィルムの未延伸乾燥膜厚を調整してもよく、所望の厚さになるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力、金属支持体速度等を調節してもよい。
【0140】
流延バンド14は、無端状に形成され、流延ドラム20と駆動用ドラム(不図示)との間に巻き掛けられていることが好ましい。この流延ドラム20は、駆動用ドラムを回転させることによって、駆動ドラムと流延ドラム20の回りを周回するように走行することが好ましい。
前記走行する支持体の走行速度は、流延速度15〜80m/分で搬送である。また、前記流延速度は、前記式(11)も満たすように制御する必要がある。
前記流延速度は、15〜55m/分であることが好ましく、30〜55m/分であることがより好ましい。
【0141】
一方、減圧チャンバ16は、流延バンド14の走行方向に対して流延ダイ12の上流側に設けられており、吸引ダクト22を介してブロア24に接続されている。このブロア24を駆動することによって減圧チャンバ16の内部が負圧になり、流延ダイ12と流延バンド14との隙間のドープの流延部26のうちで流延バンド14に仮着される側の表面に吸引力が付与される。これにより、流延バンド14を高速で走行させても、ドープの流延部26の安定化が図られる。
本発明の製造方法では、前記吸引工程において、下記式(12)を満たすように制御することを特徴とする。
式(12) −1000Pa<ビードへの吸引圧力<−200Pa
(式(12)中、ビードへの吸引圧力は、前記吸引装置から前記ビードにかかる圧力を表し、前記ビードが前記吸引装置側に引き寄せられる方向の圧力を負の値で表し、前記吸引装置側から押し出される方向の圧力を正の値で表す。)
具体的には、吸引装置によって吸引しない場合はドープのビード部分は図6のような態様となることがあるが、本発明の製造方法では、上記式(12)を満たすように吸引し、あわせて上述の条件を満たすように制御することで、図7のようにビード部分を変形することができる。このようにビード部分を変形することにより、前記吐出装置から前記支持体までの間のビード部分の距離を実質的に短くすることができ、前記吐出装置と前記支持体の距離hkに近づけることができる。
前記ビードへの吸引圧力は、−900Pa<ビードへの吸引圧力<−300Paであることが好ましく、−800Pa<ビードへの吸引圧力<−350Paであることがより好ましい。
【0142】
なお、減圧チャンバ16とブロア24との間の吸引ダクト22には、減圧チャンバ16の10〜100倍の容量を有するバッファタンク28が設けられ、減圧チャンバ16へ振動が伝達することが防止されることが好ましい。
【0143】
このように、本実施の形態の溶液製膜装置10によれば、本発明の光学フィルムを15〜80m/分の任意の流延で製造することが可能となる。すなわち、20〜60μmの薄膜であり、膜厚の均質性が改良され、環境湿度変化に伴う面内方向のレターデーションの変動が抑制された光学フィルムを製造することができるとともに、その薄膜フィルムを15〜80m/分の任意の流延で製造することができる。また、従来厚みの80μmのフィルムを製造する場合には、50m/分以上での安定した高速流延が可能である。
【0144】
(3)溶媒蒸発工程
ウェブ(セルロースアシレートフィルムの完成品となる前の状態であって、まだ溶媒を多く含むものをこう呼ぶ)を支持体上で加熱し、支持体からウェブが剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる工程を含むことが好ましい。
図1では、流延バンド14上のドープは、流延バンド14が一周分走行する間に溶剤が蒸発して乾燥し、所定の自己支持性が得られる。そして、流延した膜を、後述する剥離工程において、例えば流延ダイ12の下方位置で流延バンド14から剥離することによって、帯状のフィルムが得られる。
溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法及び/または金属支持体の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があるが、裏面液体伝熱の方法が、乾燥効率がよく好ましい。またそれらを組み合わせる方法も好ましい。裏面液体伝熱の場合は、ドープ使用有機溶媒の主溶媒または最も低い沸点を有する有機溶媒の沸点以下で加熱するのが好ましい。
【0145】
(4)剥離工程
支持体上で溶媒が蒸発したウェブを、剥離位置で剥離する工程である。
本発明の光学フィルムの製造方法では、前記支持体の剥離部の温度が0℃以上となるように制御して該支持体から前記フィルムを剥離する工程を含むことを特徴とする。
剥離されたウェブは次工程に送られる。なお、剥離する時点でのウェブの残留溶媒量(下記式)があまり大き過ぎると剥離し難かったり、逆に金属支持体上で充分に乾燥させ過ぎてから剥離すると、途中でウェブの一部が剥がれたりする。
ここで、従来の製造方法として製膜速度を上げる方法(残留溶媒量ができるだけ多いうちに剥離することで製膜速度を上げることができる)としてゲル流延法(ゲルキャスティング)がある。例えば、ドープ中にセルロースアシレートに対する貧溶媒を加えて、ドープ流延後、ゲル化する方法、金属支持体の温度を低めてゲル化する方法等がある。金属支持体上でゲル化させ剥離時の膜の強度を上げておくことによって、剥離を早め製膜速度を上げることができることが知られている。これに対し、本発明者らはこのような従来の製造方法でゲル化して製膜速度(すなわち、流延速度)をあげて得られた光学フィルムは膜厚の均質性に乏しいことを見出した。すなわち、本発明の光学フィルムの製造方法では前記支持体の剥離部の温度を上記範囲に制御してゲル化せずに剥離することを特徴とする。
本発明の光学フィルムの製造方法では、前記支持体の剥離部の温度が10℃以上であることが好ましく、10〜30℃であることがより好ましい。
支持体上でのウェブの剥離時残留溶媒量は、乾燥の条件の強弱、支持体の長さ等により5〜150質量%の範囲で剥離することが好ましいが、残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、経済速度と品質との兼ね合いで剥離時の残留溶媒量が決められる。
【0146】
また、該剥離位置におけるウェブの残留溶媒量を10〜150質量%とすることが好ましく、更に10〜120質量%とすることが好ましい。
残留溶媒量は下記の式で表すことができる。
残留溶媒量(質量%)=[(M−N)/N]×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、Nは質量Mのものを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。
【0147】
(5)乾燥、延伸工程
本発明の製造方法では、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、その延伸温度に特に制限はない。一方、例えば、Tg−5℃以下の温度で前記延伸工程を行うことが、得られるセルロースアシレートフィルムの膜厚に対する光学発現性を高める観点からは、好ましい(ただし、Tgは未延伸状態でのセルロースアシレートフィルムのガラス転移温度(単位:℃)を表す)。特に、セルロースアシレートフィルムをTg−5℃以上に一度も加熱されていない状態においてTg−5℃以下の温度で前記延伸工程を行うことがより好ましい。
前記剥離工程後、ウェブを乾燥装置内に複数配置したロールに交互に通して搬送する乾燥装置、および/またはクリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター装置を用いて、ウェブを乾燥することが好ましい。
【0148】
本発明の製造方法では、延伸する前にウェブを熱処理しても、熱処理しなくてもよいが、熱処理する場合は、セルロースアシレートフィルムのガラス転移温度をTgとしたとき、Tg−5℃以上に一度も加熱しないことが好ましい。
【0149】
乾燥および熱処理の手段はウェブの両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウエーブを当てて加熱する手段もある。使用する溶媒によって、温度、風量及び時間が異なり、使用溶媒の種類、組合せに応じて条件を適宜選べばよい。
【0150】
本発明の製造方法では、フィルム搬送方向(以下、縦方向とも言う)とフィルム搬送方向に直交する方向(以下、横方向とも言う)のいずれの方向に延伸してもよい。さらに好ましくは縦及び横方向に2軸延伸されたものである。延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。
【0151】
本発明の製造方法では、フィルム搬送方向の延伸倍率と、フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率の合計が5%〜20%であることが好ましく、5〜18%であることがより好ましく、5〜16%であることが特に好ましい。
【0152】
本発明の製造方法では、下記式(15)および(16)を満たすように延伸することが、Reの絶対値を小さくして0nm≦|Re|≦5nmを満たすようにする観点から好ましい。
式(15) 3%≦(フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率)
式(16) −2%≦(フィルム搬送方向の延伸倍率−フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率)
前記(フィルム搬送方向の延伸倍率−フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率)の値は、0%以上であることが好ましく、3%〜6%であることが特に好ましい。
【0153】
フィルム搬送方向への延伸における延伸倍率は、0〜10%であることが好ましく、0〜5%であることがより好ましく、0〜2%であることが特に好ましい。前記延伸の際のセルロースアシレートウェブの延伸倍率(伸び)は、金属支持体速度と剥ぎ取り速度(剥ぎ取りロールドロー)との周速差により達成することができる。例えば、2つのニップロールを有する装置を用いた場合、入口側のニップロールの回転速度よりも、出口側のニップロールの回転速度を速くすることにより、搬送方向(縦方向)にセルロースアシレートフィルムを好ましく延伸することができる。このような延伸を行うことによって、レターデーションの発現性を調整することができる。
なお、ここでいう「延伸倍率(%)」とは、以下の式により求められるものを意味する。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
【0154】
フィルム搬送方向に直交する方向への延伸における延伸倍率は、3%以上であることが好ましく、
3〜10%であることがより好ましく、3〜8%であることが特に好ましい。
なお、本発明においては、フィルム搬送方向に直交する方向に延伸する方法として、テンター装置を用いて延伸することが好ましい。
【0155】
(6)巻き取り
得られたフィルムを巻き取る巻き取り機には、一般的に使用されている巻き取り機が使用でき、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロ−ル法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。以上の様にして得られた光学フィルムロールは、フィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して、±2度であることが好ましく、さらに±1度の範囲であることが好ましい。または、巻き取り方向に対して直角方向(フィルムの幅方向)に対して、±2度であることが好ましく、さらに±1度の範囲にあることが好ましい。特にフィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して、±0.1度以内であることが好ましい。あるいはフィルムの幅手方向に対して±0.1度以内であることが好ましい。
【0156】
以上のようにして得られた、フィルムの長さは、1ロール当たり100〜10000mで巻き取るのが好ましく、より好ましくは500〜7000mであり、さらに好ましくは1000〜6000mである。フィルムの幅は、0.5〜5.0mが好ましく、より好ましくは1.0〜3.0mであり、さらに好ましくは1.0〜2.5mである。巻き取る際、少なくとも片端にナーリングを付与するのが好ましく、ナーリングの幅は3mm〜50mmが好ましく、より好ましくは5mm〜30mm、高さは0.5〜500μmが好ましく、より好ましくは1〜200μmである。これは片押しであっても両押しであってもよい。
【0157】
このようにして得られたウェブを巻き取り、最終完成物であるセルロースアシレートフィルムを得ることができる。
【0158】
[偏光板]
本発明の偏光板は、偏光子と、該偏光子の少なくとも片側に本発明のフィルムを少なくとも1枚含む。以下、本発明の偏光板について説明する。
【0159】
本発明のフィルムと同様、本発明の偏光板の態様は、液晶表示装置にそのまま組み込むことが可能な大きさに切断されたフィルム片の態様の偏光板のみならず、連続生産により、長尺状に作製され、ロール状に巻き上げられた態様(例えば、ロール長2500m以上や3900m以上の態様)の偏光板も含まれる。大画面液晶表示装置用とするためには、上記した通り、偏光板の幅は1470mm以上とすることが好ましい。
本発明の偏光板の具体的な構成については、特に制限はなく公知の構成を採用できるが、例えば、特開2008−262161号公報の図6に記載の構成を採用することができる。
【0160】
[液晶表示装置]
本発明の液晶表示装置は、本発明の偏光板を少なくとも1枚含む。
本発明の液晶表示装置は液晶セルと該液晶セルの両側に配置された一対の偏光板を有する液晶表示装置であって、前記偏光板の少なくとも一方が本発明の偏光板であることを特徴とするIPS、OCBまたはVAモードの液晶表示装置であることが好ましい。
本発明の液晶表示装置の具体的な構成としては特に制限はなく公知の構成を採用できるが、例えば図1に記載の構成とした例を採用することができる。また、特開2008−262161号公報の図2に記載の構成も好ましく採用することができる。
【実施例】
【0161】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0162】
《測定法》
本発明では、下記の測定方法により測定を行った。
【0163】
(延伸後膜厚、PV(全面)、PV(MD)、PV(TD))
サンプルフィルムを、フィルム搬送方向にそれぞれ中心が60mmずつ離れた直径60mmの円形領域10ヶ所で干渉膜厚計により膜厚、全面PV値、長手PV値および幅手PV値を測定した。10ヶ所の平均値を求め、その結果をそれぞれ延伸後膜厚、PV(全面)、PV(MD)、PV(TD)として下記表6および表7に記載した。
また、PV(MD)/PV(TD)の値を求め、その値も下記表6および表7に記載した。
【0164】
(Re、Rth)
サンプルフィルムを25℃、相対湿度60%で2時間以上調湿し、複屈折測定装置(KOBRA 21ADH、王子計測器(株)製)を用いて、25℃、相対湿度60%で波長590nmにおけるRe値及びRth値を測定して算出した。
それらの結果を下記表6および表7に記載した。なお、表中、Reがマイナスの場合は、MD方向に遅相軸を有することを意味する。
【0165】
(ΔRe(30−80))
サンプルフィルムを25℃・相対湿度30%にて12時間調湿後、自動複屈折計(KOBRA−21ADH:王子計測機器(株)製)を用いて、25℃・相対湿度60%において、面内レターデーション値(Re)を測定して算出した。また、25℃・相対湿度80%にて12時間調湿した以外は上記の方法と同様にしてReを測定して算出した。これらの値の差の絶対値をReの湿度依存性ΔRe(30−80)とした。
それらの結果を下記表6および表7に記載した。
【0166】
(フィルム光学ムラ)
サンプルフィルムをクロスニコル下で目視にて観察し、光学ムラを以下の基準で評価した。
◎:まったくみえない。
○:極わずかにみえる。
△:薄く見える。
×:強く明確に見える。
得られた結果を下記表6および表7に示した。
【0167】
[実施例1〜50および比較例1〜12]
(1)合成によるセルロースアシレート樹脂の調製
下記表6および表7に記載のアシル置換度のセルロースアシレートを調製した。触媒として硫酸(セルロース100質量部に対し7.8質量部)を添加し、各カルボン酸を添加し40℃でアシル化反応を行った。その後、硫酸触媒量、水分量および熟成時間を調整することで全置換度と6位置換度を調整した。熟成温度は40℃で行った。さらにこのセルロースアシレートの低分子量成分をアセトンで洗浄し除去した。
【0168】
(2)ドープ調製
下記組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、さらに90℃に約10分間加熱した後、平均孔径34μmのろ紙および平均孔径10μmの焼結金属フィルターでろ過した。実施例1で用いたセルロースアシレート溶液の構成を下記に示す。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
実施例1のセルロースアシレート溶液
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
下記表6および表7に記載のセルロースアシレート 合計100.0質量部
下記表6および表7に記載の添加剤
(下記表6および表7に記載の量 単位:質量部)
メチレンクロライド 403.0質量部
メタノール 60.2質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0169】
【表5】
【0170】
【化26】
B4
【0171】
T1:TPP/BDP(トリフェニルホスフェート/ビフェニルジフェニルホスフェート=1/1(モル比))
【0172】
【化27】
【0173】
<1−2> マット剤分散液
次に上記方法で作成したセルロースアシレート溶液を含む下記組成物を分散機に投入し、マット剤分散液を調製した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
マット剤分散液
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・マット剤(アエロジルR972) 0.2質量部
・メチレンクロライド 72.4質量部
・メタノール 10.8質量部
・セルロースアシレート溶液 10.3質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
上記実施例1のセルロースアシレート溶液を100質量部、マット剤分散液をセルロースアシレート樹脂に対して無機微粒子が0.02質量部となる量を混合し、実施例1の製膜用ドープを調製した。得られたドープについて、25℃、1Hzで振動粘度(単位:Pa・s)を測定した結果を下記表6に記載した。
その他の実施例および比較例については、下記表6および表7に記載の構成とした以外は同様にして、製膜用ドープを調整した。
【0174】
(3)流延
上述のドープを、支持体との距離hkが下記表6および表7に記載の高さとなるように流延ダイを設置した。その後、下記表6および表7に記載のリップクリアランスの流延ダイから膜状に押し出し、下記表6および表7に記載の流延速度で流延を行った。その際、減圧チャンバの圧力を下記表6および表7に記載の圧力としてビード部分の吸引操作を行うとともに、バンド流延機を用いて流延した。このときの(流延速度×未延伸乾燥膜厚)/(吐出部クリアランス)の値が特定の値となるように後述する延伸工程後の延伸後膜厚からフィードバックして制御し、その値を下記表6および表7に記載した。なお、バンドはSUS製であった。
【0175】
(4)剥離、乾燥
流延されて得られたウェブ(フィルム)を、下記表6および表7に記載の支持体温度の剥離点でバンドから剥離した。その後、クリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター装置を用いて該テンター装置内で20分間乾燥した。
【0176】
(5)延伸
得られたウェブ(フィルム)をバンドから剥離し、クリップに挟み、フィルム全体の質量に対する残留溶媒量が30〜5%の状態のときに固定端一軸延伸の条件で、下記表6および表7に記載の延伸倍率でテンターを用いてフィルム搬送方向に直交する方向(横方向)に延伸した。また、これまでの操作でフィルムにかかっていたフィルム搬送方向への延伸倍率を下記表6および表7に記載した。
その後にフィルムからクリップを外して110℃で30分間乾燥させた。このとき、延伸後の膜厚が表6および表7に記載の延伸後膜厚(単位:μm)を測定した。
【0177】
(6)巻き取り
その後、室温まで冷却した後で各フィルムを巻き取り、その製造適性を判断する目的で、ロール幅1280mm、ロール長2600mmのロールを上記条件で最低24ロール作製した。連続で製造した24ロールの中の1ロールについて100m間隔で長手1mのサンプル(幅1280mm)を切り出して各実施例および比較例のフィルムとし、各測定を行った。
【0178】
【表6】
【0179】
【表7】
【0180】
表6および表7より、実施例のフィルムはいずれも薄膜であり、膜厚の均質性が改良され、環境湿度変化に伴う面内方向のレターデーションの変動が抑制された光学フィルムであることがわかった。
一方、比較例1は(流延速度×未延伸乾燥膜厚)/(吐出部クリアランス)の下限値を下回るように膜厚を薄くして製膜したフィルムであり、得られたフィルムはPV(全面)が大きく、PV(MD)/PV(TD)の値も大きく、光学ムラも生じていた。
比較例2は(流延速度×未延伸乾燥膜厚)/(吐出部クリアランス)の下限値を下回るように流延速度を遅くして製膜したフィルムであり、得られたフィルムはPV(全面)が大きく、光学ムラも生じていた。
比較例3は流延速度の上限値を上回る態様で製膜したフィルムであり、得られたフィルムはPV(全面)が大きく、PV(MD)/PV(TD)の値も大きく、Reの湿度依存性も大きかった。
比較例4は吸引チャンバを用いずに製膜したフィルムであり、得られたフィルムはPV(全面)が大きく、PV(MD)/PV(TD)の値も大きく、光学ムラも生じていた。
比較例5は吸引チャンバ圧力の下限値を下回る態様で製膜したフィルムであり、得られたフィルムはPV(全面)が大きく、PV(MD)/PV(TD)の値も大きく、光学ムラも生じていた。
比較例6は吸引チャンバ圧力の上限値を上回る態様で製膜したフィルムであり、フィルムを作製することができなかった。
比較例7は剥離時の支持体温度の下限値を下回る態様で製膜したフィルムであり、得られたフィルムはReの湿度依存性が非常に大きかった。
比較例8は(流延速度×未延伸乾燥膜厚)/(吐出部クリアランス)の下限値を下回る以外は本発明の条件を満たす態様で製膜したフィルムであり、得られたフィルムは、PV(全面)が大きく、光学ムラも生じていた。
比較例9は(流延速度×未延伸乾燥膜厚)/(吐出部クリアランス)の下限値を下回るように流延速度を遅くして製膜したフィルムであり、比較例2より厚く製膜したにも関わらず、得られたフィルムはPV(MD)/PV(TD)の値が大きく、光学ムラも生じていた。
比較例11はダイと支持体との距離の下限値を下回る態様で製膜したフィルムであり、フィルムを作製することができなかった。
比較例12はドープ溶液の粘度の下限値を下回る態様で製膜したフィルムであり、フィルムを作製することができなかった。
なお、(流延速度×未延伸乾燥膜厚)/(吐出部クリアランス)が1.0×107/分以上となる態様で製膜を試みたところ、吐出部の圧力が急上昇し、異常を発生し、流延フィルムを完成させることができなかった。
【0181】
比較例5、実施例17および実施例32の光学フィルムの膜厚を干渉膜厚計で測定したときのある円形領域における模式図を、それぞれ図2〜図4に記載した。これらの図より、実施例17および実施例32の光学フィルムの膜厚は、比較例5の膜厚よりも面内で均質的であることがわかった。
【0182】
[実施例101〜150、比較例101〜112]
(偏光板試料の作製)
上記で作製した各実施例および比較例のフィルムの表面をアルカリ鹸化処理した。1.5規定の水酸化ナトリウム水溶液に55℃で2分間浸漬し、室温の水洗浴槽中で洗浄し、30℃で0.1規定の硫酸を用いて中和した。再度、室温の水洗浴槽中で洗浄し、さらに100℃の温風で乾燥した。続いて、厚さ80μmのロール状ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素水溶液中で連続して5倍に延伸し、乾燥して厚さ20μmの偏光子を得た。ポリビニルアルコール(クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、前記のアルカリ鹸化処理した各実施例および比較例のフィルムと、同様のアルカリ鹸化処理したフジタックTD80UL(富士フイルム社製)を用意し、これらの鹸化した面が偏光子側となるようにして偏光子を間に挟んで貼り合わせ、各実施例および比較例のフィルム、偏光子、TD80ULがこの順に貼り合わせてある偏光板をそれぞれ得た。この際、各フィルムのMD方向およびTD80ULの遅相軸が、偏光子の吸収軸と平行になるように貼り付けた。
【0183】
(液晶表示装置の作製)
IPSパネルとして市販のLG社製 42LE5500を表の偏光板および位相差板を剥がして、液晶セルとして用いた。図1(上方がフロント側)の構成のように、外側保護フィルム1(富士フイルム社製フジタックTD80UL)、PVA偏光子2、下記にて製造するPSフィルム3、各実施例のフィルム5を、IPS液晶セル6(上記のIPS液晶セル)および上記市販のIPSパネルに組み込まれている裏側偏光板(液晶セル6側から順に接着剤7、偏光板保護フィルム8(富士フイルム社製Z−TAC)、偏光子2’、偏光板保護フィルム9(富士フイルム社製フジタックTD80UL))に対して、この順に粘着剤4、4’を用いて貼り合わせ、各実施例の液晶表示装置を作製した。この際、上下の偏光板の吸収軸が直交するように貼り合わせた。具体的な液晶表示装置の製造方法および評価方法を以下に記載する。
【0184】
市販のポリスチレン、G9504 PS JAPAN社製を使用した。
メチレンクロライドに対し、ポリスチレンの25質量%溶液を作製し、セルロースアシレートフィルムと同一の方法で流延、乾燥、剥離を実施した。剥離したフィルムに対して、TD方向に延伸温度110℃で100%延伸を実施した。
このPSフィルムの光学特性を評価したところ、Re、Rthは−105nm、−105nmであった。ここで、−は延伸方向に対して垂直に遅相軸が存在することを意味する。
このPSフィルムと各実施例にて作製した光学フィルムとを粘着剤を介して貼り合わせ、作製したフィルムを積層体Fとした。この積層体FのPSフィルム層に対してコロナ処理を実施した。その後、積層体FのMD方向が、偏光子の吸収軸と平行になるように、積層体と偏光子をPVAのりを介して接着し、偏光板を作製した。
この偏光板を市販のLG社製 42LE5500 IPSパネルを分解し、フロント側の偏光板を置き換えて、実装を行い、パネルのコントラスト、視野角特性、面状評価を実施した。
その結果、各実施例の光学フィルムを用いた液晶表示装置は良好な性能を示した。
【符号の説明】
【0185】
1 外側保護フィルム
2、2’ PVA偏光子
3 PSフィルム
4、4’ 粘着剤
5 各実施例のフィルム
6 IPS液晶セル
7 接着剤
8 偏光板保護フィルム
9 偏光板保護フィルム
10 溶液製膜装置
12 吐出装置(流延ダイ)
13 リップクリアランス
14 支持体
15 フィルム
16 吸引チャンバ
20 流延ドラム
22 吸引ダクト
24 ブロア
26 ビード部分(流延部)
28 バッファタンク
hk 吐出装置と支持体の距離
【技術分野】
【0001】
本発明は光学フィルム、その製造方法、および該光学フィルムを用いた偏光板および液晶表示装置に関する。特に、偏光板保護フィルムや光学補償フィルムなどとして好ましく用いることができる光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、消費電力の小さい省スペースの画像表示装置として年々その用途が広がっている。液晶表示装置の基本的な構成は液晶セルの両側に偏光板を設けたものである。前記偏光板は一定方向の偏波面の光だけを通す役割を担っており、偏光板の性能によって液晶表示装置の性能が大きく左右される。偏光板は、一般にヨウ素や染料を吸着配向させたポリビニルアルコールフィルム等からなる偏光子の表裏両側に透明な保護フィルムを貼り合わせた構成となっている。近年、液晶表示装置のTV用途が進行し、画面サイズの大型化に伴う高画質化と低価格化が益々求められている。特にVAモードの液晶表示装置は比較的コントラストが高く、比較的製造の歩留まりが高いことからTV用の液晶表示装置として最も一般的なものとなっている。
セルロースアセテートに代表されるセルロースアシレートフィルムは透明性が高く、偏光子に使用されるポリビニルアルコールとの密着性を容易に確保できることなどから、偏光板保護フィルムやその他位相差を発現させた位相差フィルムなど、様々な光学フィルムとして広く使用されてきた。
【0003】
近年、液晶表示装置の用途拡大につれ、テレビ等の高品位用途が拡大してきており、用いられる光学フィルムに対しても一段と高い品質が要求されるようになっている。例えば、表示品質を高めるためにフィルム面内方向で均質化することや、室外に設置できるように環境湿度変化に伴う光学特性変動が少ないことや、液晶表示装置自体の薄型化に伴う薄膜化などが求められている。
【0004】
このような光学フィルムを製造する方法として、溶液製膜法が広く知られている。また、一般的に、溶液製膜はこれまで、搬送速度45m/分程度の低速領域で薄膜化するとフィルム搬送方向に直交する方向に平行な段状の膜厚変動が生じ、いわゆるダンムラが悪化することが知られている。これに対しは、流延ダイからのポリマー溶液の吐出速度を高速化することである程度ダンムラを改良できることも一般的に知られている。しかしながら、高速領域では、ダンムラは良化するものの剥離が困難となるため、溶液流延適性を付与するために、冷却ゲル化方式を採用し、高速状態での剥離を実施する必要があった。
また、特許文献1には安定した高速流延を行ってダンムラを改良する手法として、走行する支持体上に高分子材料の溶液を流延して製膜する溶液製膜方法において、前記溶液の流延部を前記支持体の走行方向の上流側に吸引する吸引操作を行うとともに、前記溶液の溶質に対する良溶媒を前記流延部の耳部に滴下し、前記吸引操作に伴う前記耳部のバタツキを抑制する方法が記載されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−181857号公報(特許3856114)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、本発明者らが冷却ゲル化方式を採用して高速状態での剥離を実施する方法でダンムラを改良した薄膜の光学フィルムを製造したところ、得られた光学フィルムは環境湿度変化に伴う面内方向のレターデーションの変動が大きいという課題があることがわかった。また、特許文献1に記載の方法でダンムラを改良した薄膜の光学フィルムを製造したところ、近年のパネルに求められる均質性のレベルまでは面状が改良されておらず、膜厚の均質化の観点からは不十分であることがわかった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、薄膜であり、膜厚の均質性が改良され、環境湿度変化に伴う面内方向のレターデーションの変動が抑制された光学フィルムおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題のもと、本発明者らが鋭意検討を行った結果、吐出装置から流延されるポリマー溶液の粘度、吐出装置と支持体の距離、流延速度並びに流延速度と吐出装置のリップクリアランスと未延伸乾燥膜厚を制御しながら、吸引装置によってポリマー溶液のビード部分を支持体の走行方向の上流側から吸引する圧力を加えることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、以下の手段により上記課題を解決した。
【0009】
[1] 膜厚20〜60μmであり、下記式(1)〜(3)を満たすことを特徴とする光学フィルム。
式(1) PV(全面)≦0.5μm
式(2) 2.5 >PV(MD)/PV(TD)≧ 0.8
(式(1)および(2)中、フィルム搬送方向にそれぞれ中心が60mmずつ離れた直径60mmの円形領域10ヶ所で干渉膜厚計により膜厚を測定した場合において、PV(全面)は各円形領域内のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である全面PV値の10ヶ所の平均値を表し、PV(MD)は各円形領域内のフィルム搬送方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である長手PV値の10ヶ所の平均値を表し、PV(TD)は各円形領域内のフィルム搬送方向に直交する方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である幅手PV値の10ヶ所の平均値を表す。)
式(3)ΔRe(30−80)<3nm
(式(3)中、ΔRe(30−80)は、波長590nmで測定した、相対湿度30%におけるフィルム面内方向のレターデーションの値Re(30%)と、相対湿度80%におけるフィルム面内方向のレターデーションの値Re(80%)の差の絶対値を表す。)
[2] 下記式(4)を満たすことを特徴とする[1]に記載の光学フィルム。
式(4) 1.8 >PV(MD)/PV(TD)≧ 0.8
(式(4)中、フィルム搬送方向にそれぞれ中心が60mmずつ離れた直径60mmの円形領域10ヶ所で干渉膜厚計により膜厚を測定した場合において、PV(MD)は各円形領域内のフィルム搬送方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である長手PV値の10ヶ所の平均値を表し、PV(TD)は各円形領域内のフィルム搬送方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である幅手PV値の10ヶ所の平均値を表す。)
[3] 膜厚が25〜45μmであることを特徴とする[1]または[2]に記載の光学フィルム。
[4] 波長590nmで測定した面内方向のレターデーションReが0nm≦|Re|≦5nmであることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の光学フィルム。
[5] セルロースアシレートを含むことを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の光学フィルム。
[6] 吐出装置から走行する支持体上に向けてポリマー溶液を流延する工程と、
流延された前記ポリマー溶液の前記支持体に到達するまでのビード部分に対して、前記支持体の走行方向の上流側から吸引装置によって吸引する工程と、
前記支持体に到達したポリマー溶液を流延速度15〜80m/分で搬送してフィルム状に成形する工程と、
前記支持体の剥離部の温度が0℃以上となるように制御して該支持体から前記フィルムを剥離する工程を含み、
下記式(11)〜(14)を満たすように制御することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
式(11) 1.0×106/分<(流延速度×未延伸乾燥膜厚)/(吐出部クリアランス)<1.0×107/分
式(11’) 未延伸乾燥膜厚=延伸後膜厚×{1+(フィルム搬送方向の延伸倍率(%))/100}×{1+(フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率(%))/100}
(式(11)中、吐出部クリアランスは前記吐出装置のリップクリアランス(単位:m)を表し、流延速度は前記支持体の走行速度(単位:m/分)を表す。)
式(12) −1000Pa<ビードへの吸引圧力<−200Pa
(式(12)中、ビードへの吸引圧力は、前記吸引装置から前記ビードにかかる圧力を表し、前記ビードが前記吸引装置側に引き寄せられる方向の圧力を負の値で表し、前記吸引装置側から押し出される方向の圧力を正の値で表す。)
式(13) 0.25mm≦hk
(式(13)中、hkは前記吐出装置と前記支持体の距離(単位:mm)を表す。)
式(14) 25Pa・s<η
(式(14)中、ηは前記吐出装置から吐出する前記ポリマー溶液の粘度を、該ポリマー溶液の25℃、1Hzで測定した振動粘度(単位:Pa・s)を表す。)
[7] 前記流延速度を15〜55m/分に制御することを特徴とする[6]に記載の光学フィルムの製造方法。
[8] フィルム搬送方向の延伸倍率と、フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率の合計が5%〜20%の[6]または[7]に記載の光学フィルムの製造方法。
[9] 下記式(15)および(16)を満たすように延伸することを特徴とする[6]〜[8]のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
式(15) 3%≦(フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率)
式(16) −2%≦(フィルム搬送方向の延伸倍率−フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率)
[10] 前記吐出装置から吐出する前記ポリマー溶液の粘度を、該ポリマー溶液の25℃、1Hzで測定した振動粘度η(単位:Pa・s)が下記式(17)を満たすように制御することを特徴とする、[6]〜[9]のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
式(17) 30Pa・s<η<200Pa・s
[11] 前記吐出装置と前記支持体の距離hk(単位:mm)が、下記式(18)を満たすことを特徴とする[6]〜[10]に記載の光学フィルムの製造方法。
式(18) 0.3mm≦hk≦1.5mm
[12] 前記ポリマー溶液が、セルロースアシレートを含むことを特徴とする[6]〜[11]のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
[13] 前記ポリマー溶液が、重縮合エステル化合物および糖エステル化合物のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする[6]〜[12]のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
[14] 前記支持体の剥離部の温度が10℃以上となるように制御して該支持体から前記フィルムを剥離する工程を含むことを特徴とする[6]〜[13]のいずれか一項に記載の製造方法。
[15] [6]〜[14]のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法で製造されたことを特徴とする光学フィルム。
[16] 偏光子と、該偏光子の少なくとも片側に[1]〜[5]および[15]のいずれか一項に記載の光学フィルムを有することを特徴とする偏光板。
[17] [16]に記載の偏光板を少なくとも1枚含むことを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、薄膜であり、膜厚の均質性が改良され、環境湿度変化に伴う面内方向のレターデーションの変動が抑制された光学フィルムおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のIPS型液晶表示装置の一例の断面模式図である。
【図2】比較例5の光学フィルムの膜厚を干渉膜厚計で測定したときの一例の模式図である。
【図3】実施例17の光学フィルムの膜厚を干渉膜厚計で測定したときの一例の模式図である。
【図4】実施例32の光学フィルムの膜厚を干渉膜厚計で測定したときの一例の模式図である。
【図5】本発明を適用した溶液製膜装置の概略構成を示す模式図である。
【図6】溶液製膜時の流延部(ビード)の状態の一例を示す断面模式図である。
【図7】溶液製膜時の流延部(ビード)の状態の別の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。また、本明細書では、「フロント側」とは表示面側を意味し、「リア側」とはバックライト側を意味する。また、本明細書で「正面」とは、表示面に対する法線方向を意味し、「正面コントラスト(以下、コントラストをCRとも言う)」は、表示面の法線方向において測定される白輝度及び黒輝度から算出されるコントラストをいうものとする。
【0013】
[光学フィルム]
本発明の光学フィルム(以下、本発明のフィルムとも言う)は、膜厚20〜60μmであり、下記式(1)〜(3)を満たすことを特徴とする。
式(1) PV(全面)≦0.5μm
式(2) 2.5 >PV(MD)/PV(TD)≧ 0.8
(式(1)および(2)中、フィルム搬送方向にそれぞれ中心が60mmずつ離れた直径60mmの円形領域10ヶ所で干渉膜厚計により膜厚を測定した場合において、PV(全面)は各円形領域内のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である全面PV値の10ヶ所の平均値を表し、PV(MD)は各円形領域内のフィルム搬送方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である長手PV値の10ヶ所の平均値を表し、PV(TD)は各円形領域内のフィルム搬送方向に直交する方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である幅手PV値の10ヶ所の平均値を表す。)
式(3)ΔRe(30−80)<3nm
(式(3)中、ΔRe(30−80)は、相対湿度30%におけるフィルム面内方向のレターデーションの値Re(30%)と、相対湿度80%におけるフィルム面内方向のレターデーションの値Re(80%)の差の絶対値を表す。)
以下、本発明のフィルムについて説明する。
【0014】
<光学フィルムの特性>
(膜厚)
本発明のフィルムは膜厚が20〜60μmである。また、本発明のフィルムが延伸されている場合も、延伸後膜厚が20〜60μmである。
本発明のフィルムは膜厚が25〜60μmであることが好ましく、25〜45μmであることがより好ましく、25〜43μmであることが特に好ましく、25〜41μmであることがより特に好ましい。
【0015】
(PV値)
本発明のフィルムは、前記式(1)および(2)を満たす。
式(1) PV(全面)≦0.5μm
式(2) 2.5 >PV(MD)/PV(TD)≧ 0.8
(式(1)および(2)中、フィルム搬送方向にそれぞれ中心が60mmずつ離れた直径60mmの円形領域10ヶ所で干渉膜厚計により膜厚を測定した場合において、PV(全面)は各円形領域内のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である全面PV値の10ヶ所の平均値を表し、PV(MD)は各円形領域内のフィルム搬送方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である長手PV値の10ヶ所の平均値を表し、PV(TD)は各円形領域内のフィルム搬送方向に直交する方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である幅手PV値の10ヶ所の平均値を表す。)
ここで、前記式(1)を満たす光学フィルムは、フィルム面内の膜厚の最大値と最小値の差が小さいことを意味し、すなわちフィルム面内において膜厚が均質であることを意味する。前記式(2)を満たす光学フィルムは、フィルム搬送方向の膜厚の最大値と最小値の差とフィルム搬送方向に直交する方向の膜厚の最大値と最小値の差が同程度であることを意味し、すなわちフィルムの搬送方向の膜厚ムラと搬送方向に直交する方向の膜厚ムラが同程度であることを意味する。
一方、フィルムにフィルム搬送方向に直交する方向と平行ないわゆるダンムラが生じている場合はPV(MD)/PV(TD)は2.5以上になり、逆にフィルム搬送方向に平行な膜厚ムラが生じていれば0.8未満となる。
したがって、前記式(1)および(2)を満たす本発明の光学フィルムは、ダンムラが解消されており、かつ、膜厚が均質であるフィルムである。このような光学フィルムは、従来溶液製膜で薄膜とすると製造することが困難であったが、後述する本発明の光学フィルムの製造方法によれば、低い製造コストで製造することができる。
【0016】
本発明の光学フィルムは、前記PV(全面)は、0.45μm以下であることが好ましく、0.40μm以下であることがより好ましい。
本発明の光学フィルムは、前記PV(MD)/PV(TD)は、0.8を超え2.5未満であることが好ましく、下記式(4)を満たすことがより好ましい。
式(4) 1.8 >PV(MD)/PV(TD)≧ 0.8
前記PV(MD)は0.50μm以下であることが好ましく、0.45μm以下であることがより好ましく、0.40μm以下であることが特に好ましい。
前記PV(TD)は0.50μm以下であることが好ましく、0.45μm以下であることがより好ましく、0.40μm以下であることが特に好ましい。
【0017】
(レターデーション)
本発明の光学フィルムは、下記式(3)を満たすことを特徴とする。
式(3)ΔRe(30−80)<3nm
(式(3)中、ΔRe(30−80)は、波長590nmで測定した、相対湿度30%におけるフィルム面内方向のレターデーションの値Re(30%)と、相対湿度80%におけるフィルム面内方向のレターデーションの値Re(80%)の差の絶対値を表す。)
本発明の光学フィルムは、Reの環境湿度による変動が小さいことを特徴する。このようにReの環境湿度による変動が小さく、かつ、前記膜厚の範囲を満たし、前記式(1)および(2)を満たす本発明の光学フィルムを製造することは従来の製造方法では困難であったが、後述する本発明の光学フィルムの製造方法によれば、このような薄膜の光学フィルムを製造した場合でも、膜厚が均質であり、かつ、Reの湿度依存性が小さいフィルムを得ることができる。
前記ΔRe(30−80)は2nm未満であることが好ましく、1nm未満であることがより好ましい。
【0018】
本発明のフィルムは、波長590nmで測定した面内方向のレターデーションReが0nm≦|Re|≦5nmであることが、液晶表示装置に実装した際の光り漏れを低減する観点から好ましい。前記|Re|は0nm≦|Re|≦3nmであることが好ましく、0nm≦|Re|≦2nmであることがより好ましい。
本発明のフィルムは、波長590nmで測定した膜厚方向のレターデーションが−10nm≦Rth≦200nmであることが好ましく、30〜150nmであることがより好ましく、35〜130nmであることが特に好ましい。
【0019】
また本発明のフィルムは2軸性の光学補償フィルムであることが好ましい。
ここで光学補償フィルムが2軸性であるとは光学補償フィルムのnx、nyおよびnz(nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。)がそれぞれ全て異なる場合であり、本発明の場合にはnx>ny>nzであることがさらに好ましい。
本発明のフィルムが2軸性の光学特性を示すということは液晶表示装置、特にVAモード液晶表示装置における斜め方向から観察した場合のカラーシフトの問題を低減する上で好ましい特性である。
【0020】
本明細書におけるRe(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。本願明細書においては、特に記載がないときは、波長λは、590nmとする。Re(λ)はKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHが算出する。尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(A)及び式(B)よりRthを算出することもできる。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0021】
【数1】
【0022】
ここで、上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表し、nx、ny、nzは、屈折率楕円体の各主軸方位の屈折率を表し、dはフィルム厚を表す。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d 式(B)
なおこの際、パラメータとして平均屈折率nが必要になるが、これはアッベ屈折計((株)アタゴ社製の「アッベ屈折計2−T」)により測定した値を用いた。
【0023】
(光学ムラ)
さらに、本発明の光学フィルムは、クロスニコル下で観察したときに、光学ムラも少ないことが好ましい。本発明の光学フィルムはダンムラなどの膜厚の均質化がされていることを特徴とするが、本発明の光学フィルムの好ましい態様では、クロスニコル下で観察したときの光学ムラも抑制されている。このような光学ムラも抑制した光学フィルムは、後述する本発明の光学フィルムの製造方法の好ましい態様によって製造することができる。
【0024】
(フィルムの層構造)
本発明のフィルムは単層フィルムであっても、2層以上の積層構造を有していてもよいが、単層フィルムであることが好ましい。
【0025】
(フィルム幅)
本発明のフィルムは、フィルム幅が1000mm以上であることが好ましく、1500mm以上であることがより好ましく、1800mm以上であることが特に好ましい。
【0026】
<ポリマー>
本発明のフィルムは、ポリマーフィルムである。
本発明のフィルムは、ポリマーとして熱可塑性樹脂を主成分として含むことが好ましい。ここで、主成分とは、全ポリマー中50質量%以上の割合のポリマーのことを言う。
前記熱可塑性樹脂としては、本発明の趣旨に反しない限りにおいて特に制限はないが、溶液製膜に適する熱可塑性樹脂であることが好ましい。
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、セルロースアシレート、環状オレフィン樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂などを挙げることができる。
その中でも本発明の光学フィルムは、セルロースアシレートを含むことが好ましい。
以下、本発明の光学フィルムの好ましい態様であるセルロースアシレートを含むフィルムについて好ましい範囲を説明するが、本発明はセルロースアシレートを含むフィルムに限定されるものではない。まず、本発明に用いられるセルロースアシレートについて説明する。
【0027】
(セルロースアシレート)
本発明に用いられるセルロースアシレートの原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ,針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば、丸澤、宇田著、「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」日刊工業新聞社(1970年発行)や発明協会公開技報公技番号2001−1745号(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができ、本発明のセルロースアシレート積層フィルムに対しては特に限定されるものではない。
【0028】
まず、本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートについて詳細に記載する。セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部をアシル基によりアシル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位および6位に位置するセルロースの水酸基がアシル化している割合(各位における100%のアシル化は置換度1)の合計を意味する。
【0029】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。
本発明におけるセルロースアシレートのアシル基としては、脂肪族基でもアリル基でもよく特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブタノイル基、tert−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、tert−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくはアセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基(アシル基が炭素原子数2〜4である場合)であり、より特に好ましくはアセチル基(セルロースアシレートが、セルロースアセテートである場合)である。
【0030】
すなわち、前記セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)、ジアセチルセルロース(DAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、セルロースアセテートフタレート等が挙げられる。本発明のセルロースアシレートフィルムは、前記セルロースアシレートのアシル基が全てアセチル基であることがレターデーション発現性やコストの観点から好ましい。
【0031】
本発明のフィルムは、前記セルロースアシレートのアシル置換度が2.0〜2.9を満たすことが、光学発現性の観点から、好ましい。前記セルロースアシレートのアシル置換度は、 2.1〜2.89であることがより好ましく、2.4〜2.86であることが特に好ましい。
また、本発明のフィルムが炭素数3以上のアシル基を有する場合、炭素数3以上のアシル基の置換度は0.3〜1.0を満たすことが好ましく、0.4〜0.9であることがより好ましく、0.5〜0.8であることが特に好ましい。
なお、アシル基の置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法に準じて測定することができる。アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在している。
【0032】
これらのセルロースアシレートは公知の方法で合成することができ、例えば、特開平10−45804号公報に記載されている方法により合成できる。
【0033】
セルロ−スのアシル化において、アシル化剤としては、酸無水物や酸クロライドを用いた場合、反応溶媒である有機溶媒としては、有機酸、例えば、酢酸、メチレンクロライド等が使用される。
【0034】
触媒としては、アシル化剤が酸無水物である場合には、硫酸のようなプロトン性触媒が好ましく用いられ、アシル化剤が酸クロライド(例えば、CH3CH2COCl)である場合には、塩基性化合物が用いられる。
【0035】
最も一般的なセルロ−スの混合脂肪酸エステルの工業的合成方法は、セルロ−スをアセチル基および他のアシル基に対応する脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、吉草酸等)またはそれらの酸無水物を含む混合有機酸成分でアシル化する方法である。
【0036】
前記セルロースアシレートの分子量は数平均分子量(Mn)で40000〜200000のものが好ましく、100000〜200000のものが更に好ましい。本発明で用いられるセルロースアシレートはMw/Mn比が4.0以下であることが好ましく、更に好ましくは1.4〜2.3である。
本発明において、セルロースアシレート等の平均分子量及び分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を算出し、国際公開WO2008−126535号公報に記載の方法により、その比を計算することができる。
【0037】
<添加剤>
本発明のフィルムには、用途に応じた種々の添加剤(例えば、紫外線防止剤、可塑剤、劣化防止剤、微粒子、光学特性調整剤など)を加えることができる。
【0038】
(1)糖エステル化合物および重縮合エステル
本発明のフィルムは、糖エステル化合物および重縮合エステルのいずれか少なくとも一種を含有することがフィルムの内部ヘイズ低減の観点から好ましい。
【0039】
(1−1)糖エステル化合物
−糖残基−
前記糖エステル化合物とは、該化合物を構成する単糖または多糖中の置換可能な基(例えば、水酸基、カルボキシル基)の少なくとも1つと、少なくとも1種の置換基とがエステル結合されている化合物のことを言う。すなわち、ここで言う糖エステル化合物には広義の糖誘導体類も含まれ、例えばグルコン酸のような糖残基を構造として含む化合物も含まれる。すなわち、前記糖エステル化合物には、グルコースとカルボン酸のエステル体も、グルコン酸とアルコールのエステル体も含まれる。
前記糖エステル化合物を構成する単糖または多糖中の置換可能な基は、ヒドロキシル基であることが好ましい。
【0040】
前記糖エステル化合物中には、糖エステル化合物を構成する単糖または多糖由来の構造(以下、糖残基とも言う)が含まれる。前記糖残基の単糖当たりの構造を、糖エステル化合物の構造単位と言う。前記糖エステル化合物の構造単位は、ピラノース構造単位またはフラノース構造単位を含むことが好ましく、全ての糖残基がピラノース構造単位またはフラノース構造単位であることがより好ましい。また、前記糖エステルが多糖から構成される場合は、ピラノース構造単位またはフラノース構造単位をともに含むことが好ましい。
【0041】
前記糖エステル化合物の糖残基は、5単糖由来であっても6単糖由来であってもよいが、6単糖由来であることが好ましい。
【0042】
前記糖エステル化合物中に含まれる構造単位の数は、1〜12であることが好ましく、1〜6であることがより好ましく、1または2であることが特に好ましい。
【0043】
本発明では、前記糖エステル化合物はヒドロキシル基の少なくとも1つがエステル化されたピラノース構造単位またはフラノース構造単位を1個〜12個含む糖エステル化合物であることがより好ましく、ヒドロキシル基の少なくとも1つがエステル化されたピラノース構造単位またはフラノース構造単位を1または2個含む糖エステル化合物であることがより好ましい。
【0044】
前記単糖または2〜12個の単糖単位を含む糖類の例としては、例えば、エリトロース、トレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、グルコース、フルクトース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、トレハロース、イソトレハロース、ネオトレハロース、トレハロサミン、コウジビオース、ニゲロース、マルトース、マルチトール、イソマルトース、ソホロース、ラミナリビオース、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトース、ラクトサミン、ラクチトール、ラクツロース、メリビオース、プリメベロース、ルチノース、シラビオース、スクロース、スクラロース、ツラノース、ビシアノース、セロトリオース、カコトリオース、ゲンチアノース、イソマルトトリオース、イソパノース、マルトトリオース、マンニノトリオース、メレジトース、パノース、プランテオース、ラフィノース、ソラトリオース、ウンベリフェロース、リコテトラオース、マルトテトラオース、スタキオース、バルトペンタオース、ベルバルコース、マルトヘキサオース、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、δ−シクロデキストリン、キシリトール、ソルビトールなどを挙げることができる。
【0045】
好ましくは、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、トレハロース、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、スクラロース、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、δ−シクロデキストリン、キシリトール、ソルビトールであり、さらに好ましくは、アラビノース、キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、スクロース、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンであり、特に好ましくは、キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、スクロース、キシリトール、ソルビトールである。前記糖エステル化合物は、グルコース骨格またはスクロース骨格を有することが、特開2009−1696号公報の[0059]に化合物5として記載されていて同文献の実施例で用いられているマルトース骨格を有する糖エステル化合物などと比較して、ポリマーとの相溶性の観点からより特に好ましい。
【0046】
−置換基の構造−
本発明に用いられる前記糖エステル化合物は、用いられる置換基を含め、下記一般式(1)で表される構造を有することがより好ましい。
一般式(1) (OH)p−G−(L1−R11)q(O−R12)r
一般式(1)中、Gは糖残基を表し、L1は−O−、−CO−、−NR13−のいずれか一つを表し、R11は水素原子または一価の置換基を表し、R12はエステル結合で結合した一価の置換基を表す。p、qおよびrはそれぞれ独立に0以上の整数を表し、p+q+rは前記Gが環状アセタール構造の無置換の糖類であると仮定した場合のヒドロキシル基の数と等しい。
【0047】
前記Gの好ましい範囲は、前記糖残基の好ましい範囲と同様である。
【0048】
前記L1は、−O−または−CO−であることが好ましく、−O−であることがより好ましい。前記L1が−O−である場合は、エーテル結合またはエステル結合由来の連結基であることが特に好ましく、エステル結合由来の連結基であることがより特に好ましい。
また、前記L1が複数ある場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0049】
R11およびR12の少なくとも一方は芳香環を有することが好ましい。
【0050】
特に、前記L1が−O−である場合(すなわち前記糖エステル化合物中のヒドロキシル基にR11、R12が置換している場合)、前記R11、R12およびR13は置換または無置換のアシル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアミノ基の中から選択されることが好ましく、置換または無置換のアシル基、置換または無置換のアルキル基、あるいは置換または無置換のアリール基であることがより好ましく、無置換のアシル基、置換または無置換のアルキル基、あるいは、無置換のアリール基であることが特に好ましい。
また、前記R11、R12およびR13がそれぞれ複数ある場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0051】
前記pは0以上の整数を表し、好ましい範囲は後述する単糖ユニット当たりのヒドロキシル基の数の好ましい範囲と同様であるが、本発明において前記pはゼロであることが好ましい。
前記rは前記Gに含まれるピラノース構造単位またはフラノース構造単位の数よりも大きい数を表すことが好ましい。
前記qは0であることが好ましい。
また、p+q+rは前記Gが環状アセタール構造の無置換の糖類であると仮定した場合のヒドロキシル基の数と等しいため、前記p、qおよびrの上限値は前記Gの構造に応じて一意に決定される。
【0052】
前記糖エステル化合物の置換基の好ましい例としては、アルキル基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、2−シアノエチル基、ベンジル基など)、アリール基(好ましくは炭素数6〜24、より好ましくは6〜18、特に好ましくは6〜12のアリール基、例えば、フェニル基、ナフチル基)、アシル基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8のアシル基、例えばアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ベンゾイル基、トルイル基、フタリル基など)、アミド基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8のアミド、例えばホルムアミド基、アセトアミド基など)、イミド基(好ましくは炭素数4〜22、より好ましくは炭素数4〜12、特に好ましくは炭素数4〜8のアミド基、例えば、スクシイミド基、フタルイミド基など)、アリールアルキル基(好ましくは、炭素数7〜25、より好ましくは7〜19、特に好ましくは7〜13のアリール基、例えば、ベンジル基)を挙げることができる。その中でも、アルキル基またはアシル基がより好ましく、メチル基、アセチル基、ベンゾイル基、ベンジル基がより好ましく、アセチル基とベンジル基が特に好ましい。さらにその中でも前記糖エステル化合物の構成糖がスクロース骨格である場合は、アセチル基とベンジル基を置換基として有する糖エステル化合物が、特開2009−1696号公報の[0058]に化合物3として記載されていて同文献の実施例で用いられているベンゾイル基を有する糖エステル化合物と比較して、ポリマーとの相溶性の観点からより特に好ましい。
【0053】
また、前記糖エステル化合物中の構造単位当たりのヒドロキシル基の数(以下、ヒドロキシル基含率とも言う)は、3以下であることが好ましく、1以下であることがより好ましく、ゼロであることが特に好ましい。ヒドロキシル基含率を前記範囲に制御することにより、高温高湿経時における糖エステル化合物の偏光子層への移動およびPVA−ヨウ素錯体の破壊を抑制でき、高温高湿経時における偏光子性能の劣化を抑制する点から好ましい。
【0054】
本発明のフィルムに用いられる前記糖エステル化合物は、無置換のヒドロキシル基が存在せず、かつ、置換基がアセチル基および/またはベンジル基のみからなることが好ましい。
また、前記糖エステル化合物におけるアセチル基とベンジル基の比率としては、ベンジル基の比率がある程度少ない方が、液晶表示装置に組み込んだときの黒色味変化が小さくなるため好ましい。具体的には、前記糖エステル化合物における全ての無置換のヒドロキシル基と全ての置換基の和に対する、ベンジル基の比率が60%以下であることが好ましく、40%以下であることが好ましい。
【0055】
前記糖エステル化合物の入手方法としては、市販品として(株)東京化成製、アルドリッチ製等から商業的に入手可能であり、もしくは市販の炭水化物に対して既知のエステル誘導体化法(例えば、特開平8−245678号公報に記載の方法)を行うことにより合成可能である。
【0056】
前記糖エステル化合物は、数平均分子量が、好ましくは200〜3500、より好ましくは200〜3000、特に好ましくは250〜2000の範囲が好適である。
【0057】
以下に、本発明で好ましく用いることができる前記糖エステル化合物の具体例を挙げるが、本発明は以下の態様に限定されるものではない。
以下の構造式中、Rはそれぞれ独立に任意の置換基を表し、複数のRは同一であっても、異なっていてもよい。
【0058】
【化1】
【0059】
【表1】
【0060】
【化2】
【0061】
【表2】
【0062】
【化3】
【0063】
【表3】
【0064】
【化4】
【0065】
【表4】
【0066】
前記糖エステル化合物は、本発明のフィルムに含まれる前記ポリマー(好ましくはセルロースアシレート)に対し2〜30質量%含有することが好ましく、5〜20質量%含有することがより好ましく、5〜15質量%含有することが特に好ましい。
また、後述する固有複屈折が負の添加剤を前記糖エステル化合物と併用する場合は、固有複屈折が負の添加剤の添加量(質量部)に対する前記糖エステル化合物の添加量(質量部)は、2〜10倍(質量比)加えることが好ましく、3〜8倍(質量比)加えることがより好ましい。
また、後述するポリエステル系可塑剤を前記糖エステル化合物と併用する場合は、ポリエステル系可塑剤の添加量(質量部)に対する前記糖エステル化合物の添加量(質量部)は、2〜10倍(質量比)加えることが好ましく、3〜8倍(質量比)加えることがより好ましい。
なお、前記糖エステル化合物は、単独で用いても、二種類以上を併用してもよい。
【0067】
(1−2)重縮合エステル化合物
本発明に用いられる前記重縮合エステル化合物としては、フィルムにヘイズを発生させたり、フィルムからブリードアウトあるいは揮発させたりしないように、数平均分子量が300以上2000未満の重縮合エステル化合物系可塑剤を使用することが好ましい。
【0068】
前記重縮合エステル化合物は特に限定されないが、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有するポリエステル系可塑剤を好ましく用いることができる。
例えば、下記一般式(2)で表せる芳香族末端ポリエステル系可塑剤が好ましい。
【0069】
一般式(2) B1−(G1−A1)n−G1−B1
(式中、B1はベンゼンモノカルボン酸残基、G1は炭素数2〜12のアルキレングリコール残基または炭素数6〜12のアリールグリコール残基または炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基、A1は炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基または炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表し、またnは1以上の整数を表す。)
【0070】
一般式(2)中、B1で示されるベンゼンモノカルボン酸残基とG1で示されるアルキレングリコール残基またはオキシアルキレングリコール残基またはアリールグリコール残基、A1で示されるアルキレンジカルボン酸残基またはアリールジカルボン酸残基とから構成されるものである。
本発明で使用されるポリエステル系可塑剤のベンゼンモノカルボン酸成分としては、例えば、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上の混合物として使用することができる。
【0071】
本発明で好ましく用いられるポリエステル系可塑剤の炭素数2〜12のアルキレングリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコ
ール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル1,3−ペンタンジオール、2−エチル1,3−ヘキサンジオール、2−メチル1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。
特に炭素数2〜12のアルキレングリコールがセルロースアシレートとの相溶性に優れているため好ましい。
【0072】
また、本発明で用いられるポリエステル系可塑剤の炭素数4〜12のオキシアルキレングリコール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用できる。
本発明で用いられるポリエステル系可塑剤の炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマール酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等があり、これらは、それぞれ1種または2種以上の混合物として使用される。
炭素数6〜12のアリーレンジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5ナフタレンジカルボン酸、1,4ナフタレンジカルボン酸等がある。
【0073】
本発明で使用されるポリエステル系可塑剤は、数平均分子量が、好ましくは300〜1500、より好ましくは400〜1000の範囲が好適である。
また、その酸価は、0.5mgKOH/g以下、水酸基価は25mgKOH/g以下、より好ましくは酸価0.3mgKOH/g以下、水酸基価は15mgKOH/g以下のものが好適である。
【0074】
また、本発明で用いられる前記ポリエステル系可塑剤としては、特開2010−46834号公報の[0141]〜[0156]に記載されている重合体も好ましく用いることができる。
【0075】
前記ポリエステル系可塑剤の重縮合は常法によって行われる。例えば、(i)上記2塩基酸とグリコールの直接反応、上記の2塩基酸またはこれらのアルキルエステル類、例えば2塩基酸のメチルエステルとグリコール類とのポリエステル化反応またはエステル交換反応により熱溶融縮合法か、或いは(ii)これら酸の酸クロライドとグリコールとの脱ハロゲン化水素反応の何れかの方法により容易に合成し得るが、本発明で用いられるポリエステル系可塑剤は直接反応によるのが好ましい。
低分子量側に分布が高くあるポリエステル系可塑剤はセルロースアシレートとの相溶性が非常によく、フィルム形成後、透湿度も小さく、しかも透明性に富んだセルロースアシレートフィルムを得ることができる。
【0076】
分子量の調節方法は、特に制限なく従来の方法を使用できる。例えば、重合条件にもよるが、1価の酸または1価のアルコールで分子末端を封鎖する方法により、これらの1価の化合物を添加する量によりコントロールできる。
この場合、1価の酸がポリマーの安定性から好ましい。例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸等を挙げることができるが、重縮合反応中には系外に溜去せず、停止して反応系外にこのような1価の酸を系外に除去するときに溜去し易いものが選ばれるが、これらを混合使用してもよい。
また、直接反応の場合には、反応中に溜去してくる水の量により反応を停止するタイミングを計ることによっても数平均分子量を調節できる。その他、仕込むグリコールまたは2塩基酸のモル数を偏らせることによってもできるし、反応温度をコントロールしても調節できる。
本発明で用いられるポリエステル系可塑剤の分子量は、前述のGPCによる測定方法、末端基定量法(水酸基価)を使用して測定することができる。
【0077】
本発明で用いられる前記重縮合エステル化合物は、本発明のフィルムに含まれる前記ポリマー(好ましくはセルロースアシレート)に対し1〜40質量%含有することが好ましく、5〜30質量%含有することがより好ましく、7〜20質量%含有することが特に好ましい。
【0078】
本発明の光学フィルムには、前記糖エステル化合物および重縮合エステル以外の添加剤として、含窒素化合物系可塑剤や、通常のセルロースアシレートフィルムに添加することのできる添加剤などを含有させることができる。
これらの添加剤としては、例えば、含窒素化合物系可塑剤;前記糖エステル化合物、重縮合エステルおよび含窒素化合物系可塑剤以外の可塑剤;微粒子;レターデーション発現剤;固有複屈折が負の添加剤;酸化防止剤、熱劣化防止剤;着色剤;紫外線吸収剤等を挙げることができる。
前記その他の添加剤については、国際公開WO2008−126535号公報に記載されている化合物も好ましく用いることができる。
【0079】
(2)含窒素芳香族化合物系可塑剤
本発明の光学フィルムは含窒素芳香族化合物系可塑剤を含むことが好ましい。前記含窒素芳香族化合物系可塑剤は、ピリジン、ピリミジン、トリアジン、プリンのいずれかを母核とし、該母核の置換可能ないずれかの位置にアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、アミド基(アミド結合を介して、任意のアシル基が結合している構造を意味する)、アリール基、アルコキシ基、チオアルコキシ基、アルキルもしくはアリールチオ基(硫黄原子を解してアルキル基もしくはアリール基が連結した基)、または複素環基を置換基として有するものである。但し、これらの前記含窒素芳香族化合物系可塑剤の母核の置換基はさらに別の置換基で置換されていてもよく、前記別の置換基としては特に制限はない。例えば前記母核がアミノ基で置換されている場合、該アミノ基はアルキル基(さらにアルキル基どうしが連結して環を形成していてもよい)や−SO2R'(R'は任意の置換基を表す)で置換されていてもよい。本発明で用いられる前記含窒素芳香族化合物は、セルロースアシレートに対し1〜40質量%含有することが好ましく、1〜15質量%含有することがより好ましく、2〜5質量%含有することが特に好ましい。
【0080】
以下に含窒素芳香族化合物系可塑剤の具体例を挙げるが、本発明は以下の具体例によって限定されるものではない。
【0081】
【化5】
【0082】
【化6】
【0083】
【化7】
【0084】
【化8】
(上記式中におけるR1〜R3はそれぞれ下記化合物C−101〜C−180におけるR1〜R3を表す)
【0085】
【化9】
【0086】
【化10】
【0087】
【化11】
(上記式中におけるR2〜R3はそれぞれ下記化合物C−181〜C−190におけるR2〜R3を表す)
【化12】
【0088】
【化13】
(上記式中におけるR3は下記化合物D−101〜D−110におけるR3を表す)
【0089】
【化14】
【0090】
【化15】
【0091】
【化16】
【0092】
【化17】
【0093】
【化18】
【0094】
【化19】
【0095】
【化20】
【0096】
【化21】
【0097】
【化22】
【0098】
【化23】
【0099】
【化24】
【0100】
【化25】
【0101】
(3) 前記糖エステル化合物、重縮合エステルおよび含窒素化合物系可塑剤以外の可塑剤
本発明のフィルムには、前記糖エステル化合物、重縮合エステルおよび含窒素化合物系可塑剤以外のその他可塑剤を用いることができる。
前記その他の可塑剤としては、例えば、リン酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、カルボン酸エステル系可塑剤、アクリル系ポリマーなどを好ましく用いることができる。
リン酸エステル系可塑剤としては、例えばトリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート(BDP)、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等;カルボン酸エステル系可塑剤としては、例えばジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)、ジエチルヘキシルフタレート(DEHP)、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)、O−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等を挙げることができる。
これらの中でもリン酸エステル系の可塑剤を用いることが好ましく、TPPおよびBDPがより好ましい。また、これらの可塑剤は2種以上を併用して用いてもよい。
【0102】
(4) 微粒子
本発明の光学フィルムに添加されていてもよい微粒子としては、無機化合物の例として、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。
微粒子は珪素を含むものが、ヘイズが低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。
微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜50nmが好ましく、更に好ましいのは7〜20nmである。これらは主に粒径0.05〜0.3μmの2次凝集体として含有されることが好ましい。
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600,NAX50(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
ポリマーの例として、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることができる。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(以上東芝シリコーン(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
これらの中でもアエロジル200V、アエロジルR972Vがセルロース誘導体フィルムのヘイズを低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましく用いられる。
【0103】
本発明のフィルム中の前記ポリマー(好ましくはセルロースアシレート)に対するこれらの微粒子の含有量は0.05〜1質量%であることが好ましく、特に0.1〜0.5質量%が好ましい。共流延法による多層構成のセルロース誘導体フィルムの場合は、表面にこの添加量の微粒子を含有することが好ましい。
【0104】
(5)レターデーション発現剤
本発明のフィルムは、レターデーション発現剤を含んでいてもよい。レターデーション発現剤を採用することにより、低延伸倍率で高いレターデーション発現性を得られる。一方、本発明のフィルムは、後述する本発明の製造方法で製造されることにより、これらのレターデーション発現剤を含まない場合であっても、レターデーション発現性が良好である。
前記レターデーション発現剤としては、特に制限はないが、棒状化合物からなるものや、シクロアルカンまたは芳香族環といった環状構造を有する化合物からなるものや、前記非リン酸エステル系の化合物のうちレターデーション発現性を示す化合物を挙げることができる。環状構造を有する化合物としては、円盤状化合物が好ましい。上記棒状化合物あるいは円盤状化合物としては、少なくとも二つの芳香族環を有する化合物をレターデーション発現剤として好ましく用いることができる。
なお、二種類以上のレターデーション発現剤を併用してもよい。
レターデーション発現剤は、250〜400nmの波長領域に最大吸収を有することが好ましく、可視領域に実質的に吸収を有していないことが好ましい。
【0105】
レターデーション発現材としては、例えば特開2004−50516号公報、特開2007−86748号公報に記載されている化合物、特開2010−46834号公報に記載されている化合物を用いることができるが、本発明はこれらに限定されない。
円盤状化合物としては、例えば欧州特許出願公開第0911656A2号明細書に記載の化合物、特開2003−344655号公報に記載のトリアジン化合物、特開2008−150592号公報[0097]〜[0108]に記載されるトリフェニレン化合物も好ましく用いることもできる。
【0106】
円盤状化合物は、例えば特開2003−344655号公報に記載の方法、特開2005−134884号公報に記載の方法等、公知の方法により合成することができる。
【0107】
前述の円盤状化合物の他に直線的な分子構造を有する棒状化合物も好ましく用いることができ、例えば特開2008−150592号公報[0110]〜[0127]に記載される棒状化合物を好ましく用いることができる。
【0108】
(6)固有複屈折が負の添加剤
本発明のフィルムは、固有複屈折が負の添加剤を含んでいてもよい。前記固有複屈折が負の添加剤として用いることができる負の固有複屈折を有する化合物について、以下説明する。
【0109】
前記負の固有複屈折を有する化合物とは、セルロースアシレートフィルムの中で、フィルムの特定の方向に対して負の固有複屈折性を示す材料を意味する。本明細書中において負の固有複屈折性とは、複屈折率が負の性質をいう。また、負の固有複屈折性を有しているか否かは、例えば、その化合物を添加した系としていない系でのフィルムの複屈折を複屈折計により測定し、その差を比較することにより知ることができる。
【0110】
本発明の負の固有複屈折を有する化合物は、特に制限がなく、負の固有複屈折を示す公知の化合物などを用いることができ、例えば、特開2010−46834号公報の[0036]〜[0092]に開示されている化合物などを好ましく用いることができる。
前記負の固有複屈折を有する化合物としては、負の固有複屈折を有する重合体や、負の固有複屈折を有する針状微粒子(負の固有複屈折を有する重合体の針状微粒子を含む)などを挙げることができる。以下、本発明に用いることができる負の固有複屈折を有する重合体について説明する。
【0111】
前記負の固有複屈折を有する重合体とは、分子が一軸性の配向をとって形成された層に光が入射したとき、前記配向方向の光の屈折率が前記配向方向に直交する方向の光の屈折率より小さくなるポリマーをいう。
【0112】
このような負の固有複屈折を有する重合体としては、負のポリマーとしては、特定の環状構造(脂肪族芳香環や複素芳香環などの円盤状の環)を側鎖に有する重合体(例えば、ポリスチレン、ポリ(4−ヒドロキシ)スチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体等のスチレン系ポリマーや、ポリビニルピリジンなど)、ポリメチルメタクリレート等の(メタ)アクリル系ポリマー、セルロースエステル系ポリマー(複屈折が正であるものを除く)、ポリエステル系ポリマー(複屈折が正であるものを除く)、アクリロニトリル系ポリマー、アルコキシシリル系ポリマーあるいはこれらの多元(二元系、三元系等)共重合ポリマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、共重合体であるときはブロック共重合体であってもランダム共重合体であってもよい。
この中でも、特定の環状構造を有する重合体、(メタ)アクリル系ポリマーおよびアルコキシシリル系ポリマーがより好ましく、ポリスチレン、ポリヒドロキシスチレン、ポリビニルピリジンおよび(メタ)アクリル系ポリマーが特に好ましい。
【0113】
前記特定の環状構造を有する重合体を添加すると、製膜後のフィルムのRthの発現性を高めることができ、好ましい。
前記特定の環状構造を有する重合体としては、特開2010−46834号公報に記載されている脂肪族芳香環を側鎖に有する重合体を好ましく用いることができる。その中でも、ポリスチレン、ポリ(4−ヒドロキシ)スチレンが好ましく、ポリスチレンとポリ(4−ヒドロキシ)スチレンの共重合体がより好ましい。前記ポリスチレンとポリ(4−ヒドロキシ)スチレンの共重合体の共重合比(モル比)は、10/90〜100/0であることが好ましく、20/80〜90/10であることがより好ましい。
一方、前記特定の環状構造を有する重合体としては、ポリビニルピリジンなどの複素芳香環を側鎖に有する重合体も好ましく用いることができる。
【0114】
前記(メタ)アクリル系ポリマーを添加すると、製膜後のフィルムの透明性が優れ、透湿度も極めて低く、偏光板用保護フィルムとして優れた性能を示す。前記(メタ)アクリル系ポリマーについては、特開2009−1696号公報、国際公開WO2008−126535号公報に記載されている化合物を好ましく用いることができる。なお、前記(メタ)アクリル系ポリマーは、側鎖に脂肪族芳香環や複素芳香環を有していてもよい。
【0115】
前記負の固有複屈折を有する化合物が、負の固有複屈折を有する重合体である場合は、その重量平均分子量は500〜100,000であることが好ましく、700〜50,000であることがより好ましく、700〜100000であることが特に好ましい。
分子量が500以上であれば揮散性が良好であり、分子量が100,000以下であればセルロースアシレート樹脂との相溶性が良好であるためセルロースアシレートフィルムの製膜性も良好となり、いずれも好ましい。
【0116】
本発明のフィルムには、前記負の固有複屈折を有する化合物を、本発明のフィルムに含まれる前記ポリマー(好ましくはセルロースアシレート)に対して0〜20質量%添加することが好ましく、0〜15質量%添加することがより好ましく、0〜10質量%添加することが特に好ましい。
一方、本発明のフィルムは、後述する本発明の製造方法で製造されることにより、これらの比較的高価な負の固有複屈折を有する化合物を含まない場合であっても、逆波長分散性が大きい。そのため、本発明のフィルムは、負の固有複屈折を有する化合物の添加量が少ないことが、製造コストを下げる観点から好ましい。
【0117】
(7) 酸化防止剤、熱劣化防止剤
本発明では、酸化防止剤、熱劣化防止剤としては、通常知られているものを使用することができる。特に、ラクトン系、イオウ系、フェノール系、二重結合系、ヒンダードアミン系、リン系化合物のものを好ましく用いることができる。前記酸化防止剤、熱劣化防止剤については、国際公開WO2008−126535号公報に記載されている化合物を好ましく用いることができる。
【0118】
(8) 着色剤
本発明においては、着色剤を使用してもよい。着色剤と言うのは染料や顔料を意味するが、本発明では、液晶画面の色調を青色調にする効果またはイエローインデックスの調整、ヘイズの低減を有するものを指す。前記着色剤については、国際公開WO2008−126535号公報に記載されている化合物を好ましく用いることができる。
【0119】
[本発明の光学フィルムの製造方法]
本発明の光学フィルムの製造方法(以下、本発明の製造方法とも言う)は、吐出装置から走行する支持体上に向けてポリマー溶液を流延する工程と、流延された前記ポリマー溶液の前記支持体に到達するまでのビード部分に対して、前記支持体の走行方向の上流側から吸引装置によって吸引する工程と、前記支持体に到達したポリマー溶液を流延速度15〜80m/分で搬送してフィルム状に成形する工程と、前記支持体の剥離部の温度が0℃以上となるように制御して該支持体から前記フィルムを剥離する工程を含み、下記式(11)〜(14)を満たすように制御することを特徴とする。
式(11) 1.0×106/分<(流延速度×未延伸乾燥膜厚)/(吐出部クリアランス)<1.0×107/分
式(11’) 未延伸乾燥膜厚=延伸後膜厚×{1+(フィルム搬送方向の延伸倍率(%))/100}×{1+(フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率(%))/100}
(式(11)中、吐出部クリアランスは前記吐出装置のリップクリアランス(単位:m)を表し、流延速度は前記支持体の走行速度(単位:m/分)を表す。)
式(12) −1000Pa<ビードへの吸引圧力<−200Pa
(式(12)中、ビードへの吸引圧力は、前記吸引装置から前記ビードにかかる圧力を表し、前記ビードが前記吸引装置側に引き寄せられる方向の圧力を負の値で表し、前記吸引装置側から押し出される方向の圧力を正の値で表す。)
式(13) 0.25mm≦hk
(式(13)中、hkは前記吐出装置と前記支持体の距離(単位:mm)を表す。)
式(14) 25Pa・s<η
(式(14)中、ηは前記吐出装置から吐出する前記ポリマー溶液の粘度を、該ポリマー溶液の25℃、1Hzで測定した振動粘度(単位:Pa・s)を表す。)
このような本発明の製造方法によれば、吐出装置から流延されるポリマー溶液の粘度、吐出装置と支持体の距離、流延速度並びに流延速度と吐出装置のリップクリアランスと未延伸乾燥膜厚を制御しながら、吸引装置によってポリマー溶液のビード部分を支持体の走行方向の上流側から吸引する圧力を加えることにより、薄膜であり、膜厚の均質性が改良され、環境湿度変化に伴う面内方向のレターデーションの変動が抑制された本発明の光学フィルムを得ることができる。
以下、本発明の製造方法について、説明する。
【0120】
本発明の製造方法では、本発明の光学フィルムを、溶液流延製膜法を利用して製膜することができる。フィルムの面状を改善する観点から、本発明の製造方法は、前記ポリマーとしてセルロースアシレートを含むフィルムを溶液流涎製膜により製膜する工程を含むことが好ましい。
以下、本発明の製造方法を、溶液流延製膜法を用いる場合を例に説明するが、本発明の製造方法は溶液流延製膜法に限定されるものではない。なお、本発明の製造方法として前記溶融製膜法を用いる場合については、公知の方法を用いることができる。
【0121】
<ポリマー溶液>
溶液流延製膜方法では、前記ポリマーとして好ましく用いられるセルロースアシレートや必要に応じて各種添加剤を含有するポリマー溶液(好ましくはセルロースアシレート溶液)を用いてウェブを形成する。以下において、溶液流延製膜方法に用いることができるポリマー溶液(以下、適宜セルロースアシレート溶液またはドープと称する場合もある)について、本発明の好ましい態様であるセルロースアシレートフィルムを製造する方法に基づいて説明する。
【0122】
(溶媒)
本発明で用いられるセルロースアシレートなどのポリマーは溶媒に溶解させてドープを形成し、これを基材上に流延しフィルムを形成させる。この際に押し出しあるいは流延後に溶媒を蒸発させる必要性があるため、揮発性の溶媒を用いることが好ましい。
更に、反応性金属化合物や触媒等と反応せず、かつ流延用基材を溶解しないものである。又、2種以上の溶媒を混合して用いてもよい。
また、セルロースアシレートと加水分解重縮合可能な反応性金属化合物を各々別の溶媒に溶解し後に混合してもよい。
ここで、上記セルロースアシレートに対して良好な溶解性を有する有機溶媒を良溶媒といい、また溶解に主たる効果を示し、その中で大量に使用する有機溶媒を主(有機)溶媒または主たる(有機)溶媒という。
【0123】
前記良溶媒の例としてはアセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、γ-ブチロラクトン等のエステル類の他、メチルセロソルブ、ジメチルイミダゾリノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、スルホラン、ニトロエタン、塩化メチレン、アセト酢酸メチルなどが挙げられるが、1,3−ジオキソラン、THF、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸メチルおよび塩化メチレンが好ましい。
【0124】
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4のアルコールを含有させることが好ましい。
これらは、ドープを金属支持体に流延した後、溶媒が蒸発し始めてアルコールの比率が多くなることでウェブ(支持体上にセルロースアシレートのドープを流延した以降のドープ膜の呼び方をウェブとする)をゲル化させ、金属支持体から剥離することを容易にするゲル化溶媒として用いられたり、これらの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒のセルロースアシレートの溶解を促進したりする役割もあり、反応性金属化合物のゲル化、析出、粘度上昇を抑える役割もある。
【0125】
炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルを挙げることができる。
これらのうち、ドープの安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性も良く、且つ毒性がないこと等からエタノールが好ましい。これらの有機溶媒は、単独ではセルロースアシレートに対して溶解性を有しておらず、貧溶媒という。
【0126】
本発明においてセルロースアシレートフィルムを構成するセルロースアシレートは、水酸基やエステル、ケトン等の水素結合性の官能基を含むため、全溶媒中に5〜30質量%、より好ましくは7〜25質量%、さらに好ましくは10〜20質量%のアルコールを含有することが流延支持体からの剥離荷重低減の観点から好ましい。
アルコール含有量を調整することによって、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムのReやRthの発現性を調整しやすくすることができる。具体的には、アルコール含有量を上げることや、後述の本発明の製造方法における延伸前の乾燥温度(熱処理温度)を比較的低く設定することで、ReやRthの到達範囲をより大きくしたりすることが可能となる。
また、本発明においては、水を少量含有させることも溶液粘度や乾燥時のウェットフィルム状態の膜強度を高めたり、ドラム法流延時のドープ強度を高めたりするのに有効であり、例えば溶液全体に対して0.1〜5質量%含有させてもよく、より好ましくは0.1〜3質量%含有させてもよく、特には0.2〜2質量%含有させてもよい。
【0127】
本発明におけるポリマー溶液の溶媒として好ましく用いられる有機溶媒の組み合せの例については、特開2009−262551号公報に挙げられている。
【0128】
また、必要に応じて、非ハロゲン系有機溶媒を主溶媒とすることもでき、詳細な記載は発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)に記載がある。
【0129】
本発明におけるポリマー溶液中のセルロースアシレート濃度は、5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がさらに好ましく、15〜30質量%が最も好ましい。
前記セルロースアシレート濃度は、セルロースアシレートを溶媒に溶解する段階で所定の濃度になるように調整することができる。また予め低濃度(例えば4〜14質量%)の溶液を調製した後に、溶媒を蒸発させる等によって濃縮してもよい。さらに、予め高濃度の溶液を調製後に、希釈してもよい。また、添加剤を添加することで、セルロースアシレートの濃度を低下させることもできる。
【0130】
添加剤を添加する時期は、添加剤の種類に応じて適宜決定することができる。
【0131】
このような条件を満たし好ましい高分子化合物であるセルロースアシレートを高濃度に溶解する溶剤として最も好ましい溶剤は塩化メチレン:エチルアルコールの比が95:5〜80:20の混合溶剤である。あるいは、酢酸メチル:エチルアルコール60:40〜95:5の混合溶媒も好ましく用いられる。
【0132】
<各工程の詳細>
(1)溶解工程
セルロースアシレートに対する良溶媒を主とする有機溶媒に、溶解釜中で該セルロースアシレート、添加剤を攪拌しながら溶解しドープを形成する工程、あるいはセルロースアシレート溶液に添加剤溶液を混合してドープを形成する工程である。
セルロースアシレートの溶解には、常圧で行う方法、主溶媒の沸点以下で行う方法、主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法、特開平9−95544号公報、特開平9−95557号公報、または特開平9−95538号公報に記載の如き冷却溶解法で行う方法、特開平11−21379号公報に記載の如き高圧で行う方法等種々の溶解方法を用いることができるが、特に主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法が好ましい。
ドープ中のセルロースアシレートの濃度は10〜35質量%であることが好ましい。溶解中または後のドープに添加剤を加えて溶解及び分散した後、濾材で濾過し、脱泡して送液ポンプで次工程に送る。
【0133】
本発明の光学フィルムの製造方法では、前記吐出装置から吐出する前記ポリマー溶液の粘度を、該ポリマー溶液の25℃、1Hzで測定した振動粘度η(単位:Pa・s)が下記式(14)を満たすように制御することを特徴とする。このような振動粘度ηとすることで、本発明の製造方法の条件を満たすようにフィルムを溶液製膜することができる。
式(14) 25Pa・s<η
(式(14)中、ηは前記吐出装置から吐出する前記ポリマー溶液の粘度を、該ポリマー溶液の25℃、1Hzで測定した振動粘度(単位:Pa・s)を表す。)
本発明の光学フィルムの製造方法では、前記吐出装置から吐出する前記ポリマー溶液の粘度を、該ポリマー溶液の25℃、1Hzで測定した振動粘度η(単位:Pa・s)が下記式(17)を満たすように制御することが好ましい。
式(17) 30Pa・s<η<200Pa・s
前記ポリマー溶液の粘度は、40Pa・s<η<200Pa・sであることがより好ましく、40Pa・s<η<100Pa・sであることが特に好ましい。
【0134】
(2)流延工程、吸引工程、成形工程
前記流延工程は、吐出装置から走行する支持体上に向けてポリマー溶液を流延する工程である。好ましい態様としては、ドープを、送液ポンプ(例えば、加圧型定量ギヤポンプ)を通して加圧ダイに送液し、無限に移送する無端の金属ベルト、例えばステンレスベルト、あるいは回転する金属ドラム等の金属支持体上の流延位置に、加圧ダイスリットからドープを流延する工程を挙げることができる。
前記吸引工程は、流延された前記ポリマー溶液の前記支持体に到達するまでのビード部分に対して、前記支持体の走行方向の上流側から吸引装置によって吸引する工程である。
前記成形工程は、前記支持体に到達したポリマー溶液を流延速度15〜80m/分で搬送してフィルム状に成形する工程である。
さらにこれらの流延工程、吸引工程および成形工程において、本発明の製造方法では、前記式(11)〜(14)を満たすように制御することを特徴する。
以下添付図面に従って本発明に係る溶液製膜方法の好ましい実施の形態について詳説する。
【0135】
図5は、本発明を適用した溶液製膜装置の概略構成を示す模式図である。
【0136】
同図に示すように溶液製膜装置10は主として、流延ダイ(前記吐出装置に相当)と、流延バンド(前記走行する支持体に相当)14と、減圧チャンバ16(前記吸引装置に相当)とから構成されている。
【0137】
流延ダイ12は、流延ドラム20の位置において流延バンド14に対向して配置されている。流延ダイ12の先端からは、セルローストリアセテートなどの高分子材料を含むドープが膜状に押し出される。押し出されたドープは、走行する流延バンド14の表面に仮着し、搬送される。
本発明の製造方法では、前記吐出装置と前記支持体の距離hk(単位:mm)は、下記式(13)を満たす。
式(13) 0.25mm≦hk
このような態様とすることにより、ビード部分が支持体に到達するまでに吐出装置の振動や後述する吸引装置による吸引による振動などの影響による膜厚ムラを生じにくくすることができる。
前記吐出装置と前記支持体の距離hk(単位:mm)は、下記式(18)を満たすことが好ましい。
式(18) 0.3mm≦hk≦1.5mm
前記hkは0.5〜1.2mmであることがより好ましい。
【0138】
本発明の製造方法では、下記式(11)を満たすように前記吐出装置の吐出部クリアランスを制御する。
式(11) 1.0×106/分<(流延速度×未延伸乾燥膜厚)/(吐出部クリアランス)<1.0×107/分
式(11’) 未延伸乾燥膜厚=延伸後膜厚×{1+(フィルム搬送方向の延伸倍率(%))/100}×{1+(フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率(%))/100}
(式(11)中、吐出部クリアランスは前記吐出装置のリップクリアランス(単位:m)を表し、流延速度は前記支持体の走行速度(単位:m/分)を表す。)
このように制御することで、吐出装置から吐出されたビード部分が長くなり過ぎないようにすることができ、ビード部分が支持体に到達するまでに吐出装置の振動や後述する吸引装置による吸引による振動などの影響による膜厚ムラを生じにくくすることができる。
前記式(11)の(流延速度×未延伸乾燥膜厚)/(吐出部クリアランス)の値は、その下限値が1.1×106/分以上であることが好ましく、1.2×106/分以上であることがより好ましい。また、上限値は9.0×106/分以下であることが好ましく、6.0×106/分以下であることがより好ましい。
前記吐出装置は、いわゆるダイであることが好ましく、ダイの口金部分のスリット形状を調整出来、膜厚を均一にし易い加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があり、何れも好ましく用いられる。製膜速度を上げるために加圧ダイを金属支持体上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。あるいは複数のドープを同時に流延する共流延法によって積層構造のフィルムを得ることも好ましい。
【0139】
一方、前記式(11)を満たすようにフィルムの未延伸乾燥膜厚を調整してもよく、所望の厚さになるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力、金属支持体速度等を調節してもよい。
【0140】
流延バンド14は、無端状に形成され、流延ドラム20と駆動用ドラム(不図示)との間に巻き掛けられていることが好ましい。この流延ドラム20は、駆動用ドラムを回転させることによって、駆動ドラムと流延ドラム20の回りを周回するように走行することが好ましい。
前記走行する支持体の走行速度は、流延速度15〜80m/分で搬送である。また、前記流延速度は、前記式(11)も満たすように制御する必要がある。
前記流延速度は、15〜55m/分であることが好ましく、30〜55m/分であることがより好ましい。
【0141】
一方、減圧チャンバ16は、流延バンド14の走行方向に対して流延ダイ12の上流側に設けられており、吸引ダクト22を介してブロア24に接続されている。このブロア24を駆動することによって減圧チャンバ16の内部が負圧になり、流延ダイ12と流延バンド14との隙間のドープの流延部26のうちで流延バンド14に仮着される側の表面に吸引力が付与される。これにより、流延バンド14を高速で走行させても、ドープの流延部26の安定化が図られる。
本発明の製造方法では、前記吸引工程において、下記式(12)を満たすように制御することを特徴とする。
式(12) −1000Pa<ビードへの吸引圧力<−200Pa
(式(12)中、ビードへの吸引圧力は、前記吸引装置から前記ビードにかかる圧力を表し、前記ビードが前記吸引装置側に引き寄せられる方向の圧力を負の値で表し、前記吸引装置側から押し出される方向の圧力を正の値で表す。)
具体的には、吸引装置によって吸引しない場合はドープのビード部分は図6のような態様となることがあるが、本発明の製造方法では、上記式(12)を満たすように吸引し、あわせて上述の条件を満たすように制御することで、図7のようにビード部分を変形することができる。このようにビード部分を変形することにより、前記吐出装置から前記支持体までの間のビード部分の距離を実質的に短くすることができ、前記吐出装置と前記支持体の距離hkに近づけることができる。
前記ビードへの吸引圧力は、−900Pa<ビードへの吸引圧力<−300Paであることが好ましく、−800Pa<ビードへの吸引圧力<−350Paであることがより好ましい。
【0142】
なお、減圧チャンバ16とブロア24との間の吸引ダクト22には、減圧チャンバ16の10〜100倍の容量を有するバッファタンク28が設けられ、減圧チャンバ16へ振動が伝達することが防止されることが好ましい。
【0143】
このように、本実施の形態の溶液製膜装置10によれば、本発明の光学フィルムを15〜80m/分の任意の流延で製造することが可能となる。すなわち、20〜60μmの薄膜であり、膜厚の均質性が改良され、環境湿度変化に伴う面内方向のレターデーションの変動が抑制された光学フィルムを製造することができるとともに、その薄膜フィルムを15〜80m/分の任意の流延で製造することができる。また、従来厚みの80μmのフィルムを製造する場合には、50m/分以上での安定した高速流延が可能である。
【0144】
(3)溶媒蒸発工程
ウェブ(セルロースアシレートフィルムの完成品となる前の状態であって、まだ溶媒を多く含むものをこう呼ぶ)を支持体上で加熱し、支持体からウェブが剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる工程を含むことが好ましい。
図1では、流延バンド14上のドープは、流延バンド14が一周分走行する間に溶剤が蒸発して乾燥し、所定の自己支持性が得られる。そして、流延した膜を、後述する剥離工程において、例えば流延ダイ12の下方位置で流延バンド14から剥離することによって、帯状のフィルムが得られる。
溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法及び/または金属支持体の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があるが、裏面液体伝熱の方法が、乾燥効率がよく好ましい。またそれらを組み合わせる方法も好ましい。裏面液体伝熱の場合は、ドープ使用有機溶媒の主溶媒または最も低い沸点を有する有機溶媒の沸点以下で加熱するのが好ましい。
【0145】
(4)剥離工程
支持体上で溶媒が蒸発したウェブを、剥離位置で剥離する工程である。
本発明の光学フィルムの製造方法では、前記支持体の剥離部の温度が0℃以上となるように制御して該支持体から前記フィルムを剥離する工程を含むことを特徴とする。
剥離されたウェブは次工程に送られる。なお、剥離する時点でのウェブの残留溶媒量(下記式)があまり大き過ぎると剥離し難かったり、逆に金属支持体上で充分に乾燥させ過ぎてから剥離すると、途中でウェブの一部が剥がれたりする。
ここで、従来の製造方法として製膜速度を上げる方法(残留溶媒量ができるだけ多いうちに剥離することで製膜速度を上げることができる)としてゲル流延法(ゲルキャスティング)がある。例えば、ドープ中にセルロースアシレートに対する貧溶媒を加えて、ドープ流延後、ゲル化する方法、金属支持体の温度を低めてゲル化する方法等がある。金属支持体上でゲル化させ剥離時の膜の強度を上げておくことによって、剥離を早め製膜速度を上げることができることが知られている。これに対し、本発明者らはこのような従来の製造方法でゲル化して製膜速度(すなわち、流延速度)をあげて得られた光学フィルムは膜厚の均質性に乏しいことを見出した。すなわち、本発明の光学フィルムの製造方法では前記支持体の剥離部の温度を上記範囲に制御してゲル化せずに剥離することを特徴とする。
本発明の光学フィルムの製造方法では、前記支持体の剥離部の温度が10℃以上であることが好ましく、10〜30℃であることがより好ましい。
支持体上でのウェブの剥離時残留溶媒量は、乾燥の条件の強弱、支持体の長さ等により5〜150質量%の範囲で剥離することが好ましいが、残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、経済速度と品質との兼ね合いで剥離時の残留溶媒量が決められる。
【0146】
また、該剥離位置におけるウェブの残留溶媒量を10〜150質量%とすることが好ましく、更に10〜120質量%とすることが好ましい。
残留溶媒量は下記の式で表すことができる。
残留溶媒量(質量%)=[(M−N)/N]×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、Nは質量Mのものを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。
【0147】
(5)乾燥、延伸工程
本発明の製造方法では、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、その延伸温度に特に制限はない。一方、例えば、Tg−5℃以下の温度で前記延伸工程を行うことが、得られるセルロースアシレートフィルムの膜厚に対する光学発現性を高める観点からは、好ましい(ただし、Tgは未延伸状態でのセルロースアシレートフィルムのガラス転移温度(単位:℃)を表す)。特に、セルロースアシレートフィルムをTg−5℃以上に一度も加熱されていない状態においてTg−5℃以下の温度で前記延伸工程を行うことがより好ましい。
前記剥離工程後、ウェブを乾燥装置内に複数配置したロールに交互に通して搬送する乾燥装置、および/またはクリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター装置を用いて、ウェブを乾燥することが好ましい。
【0148】
本発明の製造方法では、延伸する前にウェブを熱処理しても、熱処理しなくてもよいが、熱処理する場合は、セルロースアシレートフィルムのガラス転移温度をTgとしたとき、Tg−5℃以上に一度も加熱しないことが好ましい。
【0149】
乾燥および熱処理の手段はウェブの両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウエーブを当てて加熱する手段もある。使用する溶媒によって、温度、風量及び時間が異なり、使用溶媒の種類、組合せに応じて条件を適宜選べばよい。
【0150】
本発明の製造方法では、フィルム搬送方向(以下、縦方向とも言う)とフィルム搬送方向に直交する方向(以下、横方向とも言う)のいずれの方向に延伸してもよい。さらに好ましくは縦及び横方向に2軸延伸されたものである。延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。
【0151】
本発明の製造方法では、フィルム搬送方向の延伸倍率と、フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率の合計が5%〜20%であることが好ましく、5〜18%であることがより好ましく、5〜16%であることが特に好ましい。
【0152】
本発明の製造方法では、下記式(15)および(16)を満たすように延伸することが、Reの絶対値を小さくして0nm≦|Re|≦5nmを満たすようにする観点から好ましい。
式(15) 3%≦(フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率)
式(16) −2%≦(フィルム搬送方向の延伸倍率−フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率)
前記(フィルム搬送方向の延伸倍率−フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率)の値は、0%以上であることが好ましく、3%〜6%であることが特に好ましい。
【0153】
フィルム搬送方向への延伸における延伸倍率は、0〜10%であることが好ましく、0〜5%であることがより好ましく、0〜2%であることが特に好ましい。前記延伸の際のセルロースアシレートウェブの延伸倍率(伸び)は、金属支持体速度と剥ぎ取り速度(剥ぎ取りロールドロー)との周速差により達成することができる。例えば、2つのニップロールを有する装置を用いた場合、入口側のニップロールの回転速度よりも、出口側のニップロールの回転速度を速くすることにより、搬送方向(縦方向)にセルロースアシレートフィルムを好ましく延伸することができる。このような延伸を行うことによって、レターデーションの発現性を調整することができる。
なお、ここでいう「延伸倍率(%)」とは、以下の式により求められるものを意味する。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
【0154】
フィルム搬送方向に直交する方向への延伸における延伸倍率は、3%以上であることが好ましく、
3〜10%であることがより好ましく、3〜8%であることが特に好ましい。
なお、本発明においては、フィルム搬送方向に直交する方向に延伸する方法として、テンター装置を用いて延伸することが好ましい。
【0155】
(6)巻き取り
得られたフィルムを巻き取る巻き取り機には、一般的に使用されている巻き取り機が使用でき、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロ−ル法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。以上の様にして得られた光学フィルムロールは、フィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して、±2度であることが好ましく、さらに±1度の範囲であることが好ましい。または、巻き取り方向に対して直角方向(フィルムの幅方向)に対して、±2度であることが好ましく、さらに±1度の範囲にあることが好ましい。特にフィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して、±0.1度以内であることが好ましい。あるいはフィルムの幅手方向に対して±0.1度以内であることが好ましい。
【0156】
以上のようにして得られた、フィルムの長さは、1ロール当たり100〜10000mで巻き取るのが好ましく、より好ましくは500〜7000mであり、さらに好ましくは1000〜6000mである。フィルムの幅は、0.5〜5.0mが好ましく、より好ましくは1.0〜3.0mであり、さらに好ましくは1.0〜2.5mである。巻き取る際、少なくとも片端にナーリングを付与するのが好ましく、ナーリングの幅は3mm〜50mmが好ましく、より好ましくは5mm〜30mm、高さは0.5〜500μmが好ましく、より好ましくは1〜200μmである。これは片押しであっても両押しであってもよい。
【0157】
このようにして得られたウェブを巻き取り、最終完成物であるセルロースアシレートフィルムを得ることができる。
【0158】
[偏光板]
本発明の偏光板は、偏光子と、該偏光子の少なくとも片側に本発明のフィルムを少なくとも1枚含む。以下、本発明の偏光板について説明する。
【0159】
本発明のフィルムと同様、本発明の偏光板の態様は、液晶表示装置にそのまま組み込むことが可能な大きさに切断されたフィルム片の態様の偏光板のみならず、連続生産により、長尺状に作製され、ロール状に巻き上げられた態様(例えば、ロール長2500m以上や3900m以上の態様)の偏光板も含まれる。大画面液晶表示装置用とするためには、上記した通り、偏光板の幅は1470mm以上とすることが好ましい。
本発明の偏光板の具体的な構成については、特に制限はなく公知の構成を採用できるが、例えば、特開2008−262161号公報の図6に記載の構成を採用することができる。
【0160】
[液晶表示装置]
本発明の液晶表示装置は、本発明の偏光板を少なくとも1枚含む。
本発明の液晶表示装置は液晶セルと該液晶セルの両側に配置された一対の偏光板を有する液晶表示装置であって、前記偏光板の少なくとも一方が本発明の偏光板であることを特徴とするIPS、OCBまたはVAモードの液晶表示装置であることが好ましい。
本発明の液晶表示装置の具体的な構成としては特に制限はなく公知の構成を採用できるが、例えば図1に記載の構成とした例を採用することができる。また、特開2008−262161号公報の図2に記載の構成も好ましく採用することができる。
【実施例】
【0161】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0162】
《測定法》
本発明では、下記の測定方法により測定を行った。
【0163】
(延伸後膜厚、PV(全面)、PV(MD)、PV(TD))
サンプルフィルムを、フィルム搬送方向にそれぞれ中心が60mmずつ離れた直径60mmの円形領域10ヶ所で干渉膜厚計により膜厚、全面PV値、長手PV値および幅手PV値を測定した。10ヶ所の平均値を求め、その結果をそれぞれ延伸後膜厚、PV(全面)、PV(MD)、PV(TD)として下記表6および表7に記載した。
また、PV(MD)/PV(TD)の値を求め、その値も下記表6および表7に記載した。
【0164】
(Re、Rth)
サンプルフィルムを25℃、相対湿度60%で2時間以上調湿し、複屈折測定装置(KOBRA 21ADH、王子計測器(株)製)を用いて、25℃、相対湿度60%で波長590nmにおけるRe値及びRth値を測定して算出した。
それらの結果を下記表6および表7に記載した。なお、表中、Reがマイナスの場合は、MD方向に遅相軸を有することを意味する。
【0165】
(ΔRe(30−80))
サンプルフィルムを25℃・相対湿度30%にて12時間調湿後、自動複屈折計(KOBRA−21ADH:王子計測機器(株)製)を用いて、25℃・相対湿度60%において、面内レターデーション値(Re)を測定して算出した。また、25℃・相対湿度80%にて12時間調湿した以外は上記の方法と同様にしてReを測定して算出した。これらの値の差の絶対値をReの湿度依存性ΔRe(30−80)とした。
それらの結果を下記表6および表7に記載した。
【0166】
(フィルム光学ムラ)
サンプルフィルムをクロスニコル下で目視にて観察し、光学ムラを以下の基準で評価した。
◎:まったくみえない。
○:極わずかにみえる。
△:薄く見える。
×:強く明確に見える。
得られた結果を下記表6および表7に示した。
【0167】
[実施例1〜50および比較例1〜12]
(1)合成によるセルロースアシレート樹脂の調製
下記表6および表7に記載のアシル置換度のセルロースアシレートを調製した。触媒として硫酸(セルロース100質量部に対し7.8質量部)を添加し、各カルボン酸を添加し40℃でアシル化反応を行った。その後、硫酸触媒量、水分量および熟成時間を調整することで全置換度と6位置換度を調整した。熟成温度は40℃で行った。さらにこのセルロースアシレートの低分子量成分をアセトンで洗浄し除去した。
【0168】
(2)ドープ調製
下記組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、さらに90℃に約10分間加熱した後、平均孔径34μmのろ紙および平均孔径10μmの焼結金属フィルターでろ過した。実施例1で用いたセルロースアシレート溶液の構成を下記に示す。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
実施例1のセルロースアシレート溶液
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
下記表6および表7に記載のセルロースアシレート 合計100.0質量部
下記表6および表7に記載の添加剤
(下記表6および表7に記載の量 単位:質量部)
メチレンクロライド 403.0質量部
メタノール 60.2質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0169】
【表5】
【0170】
【化26】
B4
【0171】
T1:TPP/BDP(トリフェニルホスフェート/ビフェニルジフェニルホスフェート=1/1(モル比))
【0172】
【化27】
【0173】
<1−2> マット剤分散液
次に上記方法で作成したセルロースアシレート溶液を含む下記組成物を分散機に投入し、マット剤分散液を調製した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
マット剤分散液
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・マット剤(アエロジルR972) 0.2質量部
・メチレンクロライド 72.4質量部
・メタノール 10.8質量部
・セルロースアシレート溶液 10.3質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
上記実施例1のセルロースアシレート溶液を100質量部、マット剤分散液をセルロースアシレート樹脂に対して無機微粒子が0.02質量部となる量を混合し、実施例1の製膜用ドープを調製した。得られたドープについて、25℃、1Hzで振動粘度(単位:Pa・s)を測定した結果を下記表6に記載した。
その他の実施例および比較例については、下記表6および表7に記載の構成とした以外は同様にして、製膜用ドープを調整した。
【0174】
(3)流延
上述のドープを、支持体との距離hkが下記表6および表7に記載の高さとなるように流延ダイを設置した。その後、下記表6および表7に記載のリップクリアランスの流延ダイから膜状に押し出し、下記表6および表7に記載の流延速度で流延を行った。その際、減圧チャンバの圧力を下記表6および表7に記載の圧力としてビード部分の吸引操作を行うとともに、バンド流延機を用いて流延した。このときの(流延速度×未延伸乾燥膜厚)/(吐出部クリアランス)の値が特定の値となるように後述する延伸工程後の延伸後膜厚からフィードバックして制御し、その値を下記表6および表7に記載した。なお、バンドはSUS製であった。
【0175】
(4)剥離、乾燥
流延されて得られたウェブ(フィルム)を、下記表6および表7に記載の支持体温度の剥離点でバンドから剥離した。その後、クリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター装置を用いて該テンター装置内で20分間乾燥した。
【0176】
(5)延伸
得られたウェブ(フィルム)をバンドから剥離し、クリップに挟み、フィルム全体の質量に対する残留溶媒量が30〜5%の状態のときに固定端一軸延伸の条件で、下記表6および表7に記載の延伸倍率でテンターを用いてフィルム搬送方向に直交する方向(横方向)に延伸した。また、これまでの操作でフィルムにかかっていたフィルム搬送方向への延伸倍率を下記表6および表7に記載した。
その後にフィルムからクリップを外して110℃で30分間乾燥させた。このとき、延伸後の膜厚が表6および表7に記載の延伸後膜厚(単位:μm)を測定した。
【0177】
(6)巻き取り
その後、室温まで冷却した後で各フィルムを巻き取り、その製造適性を判断する目的で、ロール幅1280mm、ロール長2600mmのロールを上記条件で最低24ロール作製した。連続で製造した24ロールの中の1ロールについて100m間隔で長手1mのサンプル(幅1280mm)を切り出して各実施例および比較例のフィルムとし、各測定を行った。
【0178】
【表6】
【0179】
【表7】
【0180】
表6および表7より、実施例のフィルムはいずれも薄膜であり、膜厚の均質性が改良され、環境湿度変化に伴う面内方向のレターデーションの変動が抑制された光学フィルムであることがわかった。
一方、比較例1は(流延速度×未延伸乾燥膜厚)/(吐出部クリアランス)の下限値を下回るように膜厚を薄くして製膜したフィルムであり、得られたフィルムはPV(全面)が大きく、PV(MD)/PV(TD)の値も大きく、光学ムラも生じていた。
比較例2は(流延速度×未延伸乾燥膜厚)/(吐出部クリアランス)の下限値を下回るように流延速度を遅くして製膜したフィルムであり、得られたフィルムはPV(全面)が大きく、光学ムラも生じていた。
比較例3は流延速度の上限値を上回る態様で製膜したフィルムであり、得られたフィルムはPV(全面)が大きく、PV(MD)/PV(TD)の値も大きく、Reの湿度依存性も大きかった。
比較例4は吸引チャンバを用いずに製膜したフィルムであり、得られたフィルムはPV(全面)が大きく、PV(MD)/PV(TD)の値も大きく、光学ムラも生じていた。
比較例5は吸引チャンバ圧力の下限値を下回る態様で製膜したフィルムであり、得られたフィルムはPV(全面)が大きく、PV(MD)/PV(TD)の値も大きく、光学ムラも生じていた。
比較例6は吸引チャンバ圧力の上限値を上回る態様で製膜したフィルムであり、フィルムを作製することができなかった。
比較例7は剥離時の支持体温度の下限値を下回る態様で製膜したフィルムであり、得られたフィルムはReの湿度依存性が非常に大きかった。
比較例8は(流延速度×未延伸乾燥膜厚)/(吐出部クリアランス)の下限値を下回る以外は本発明の条件を満たす態様で製膜したフィルムであり、得られたフィルムは、PV(全面)が大きく、光学ムラも生じていた。
比較例9は(流延速度×未延伸乾燥膜厚)/(吐出部クリアランス)の下限値を下回るように流延速度を遅くして製膜したフィルムであり、比較例2より厚く製膜したにも関わらず、得られたフィルムはPV(MD)/PV(TD)の値が大きく、光学ムラも生じていた。
比較例11はダイと支持体との距離の下限値を下回る態様で製膜したフィルムであり、フィルムを作製することができなかった。
比較例12はドープ溶液の粘度の下限値を下回る態様で製膜したフィルムであり、フィルムを作製することができなかった。
なお、(流延速度×未延伸乾燥膜厚)/(吐出部クリアランス)が1.0×107/分以上となる態様で製膜を試みたところ、吐出部の圧力が急上昇し、異常を発生し、流延フィルムを完成させることができなかった。
【0181】
比較例5、実施例17および実施例32の光学フィルムの膜厚を干渉膜厚計で測定したときのある円形領域における模式図を、それぞれ図2〜図4に記載した。これらの図より、実施例17および実施例32の光学フィルムの膜厚は、比較例5の膜厚よりも面内で均質的であることがわかった。
【0182】
[実施例101〜150、比較例101〜112]
(偏光板試料の作製)
上記で作製した各実施例および比較例のフィルムの表面をアルカリ鹸化処理した。1.5規定の水酸化ナトリウム水溶液に55℃で2分間浸漬し、室温の水洗浴槽中で洗浄し、30℃で0.1規定の硫酸を用いて中和した。再度、室温の水洗浴槽中で洗浄し、さらに100℃の温風で乾燥した。続いて、厚さ80μmのロール状ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素水溶液中で連続して5倍に延伸し、乾燥して厚さ20μmの偏光子を得た。ポリビニルアルコール(クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、前記のアルカリ鹸化処理した各実施例および比較例のフィルムと、同様のアルカリ鹸化処理したフジタックTD80UL(富士フイルム社製)を用意し、これらの鹸化した面が偏光子側となるようにして偏光子を間に挟んで貼り合わせ、各実施例および比較例のフィルム、偏光子、TD80ULがこの順に貼り合わせてある偏光板をそれぞれ得た。この際、各フィルムのMD方向およびTD80ULの遅相軸が、偏光子の吸収軸と平行になるように貼り付けた。
【0183】
(液晶表示装置の作製)
IPSパネルとして市販のLG社製 42LE5500を表の偏光板および位相差板を剥がして、液晶セルとして用いた。図1(上方がフロント側)の構成のように、外側保護フィルム1(富士フイルム社製フジタックTD80UL)、PVA偏光子2、下記にて製造するPSフィルム3、各実施例のフィルム5を、IPS液晶セル6(上記のIPS液晶セル)および上記市販のIPSパネルに組み込まれている裏側偏光板(液晶セル6側から順に接着剤7、偏光板保護フィルム8(富士フイルム社製Z−TAC)、偏光子2’、偏光板保護フィルム9(富士フイルム社製フジタックTD80UL))に対して、この順に粘着剤4、4’を用いて貼り合わせ、各実施例の液晶表示装置を作製した。この際、上下の偏光板の吸収軸が直交するように貼り合わせた。具体的な液晶表示装置の製造方法および評価方法を以下に記載する。
【0184】
市販のポリスチレン、G9504 PS JAPAN社製を使用した。
メチレンクロライドに対し、ポリスチレンの25質量%溶液を作製し、セルロースアシレートフィルムと同一の方法で流延、乾燥、剥離を実施した。剥離したフィルムに対して、TD方向に延伸温度110℃で100%延伸を実施した。
このPSフィルムの光学特性を評価したところ、Re、Rthは−105nm、−105nmであった。ここで、−は延伸方向に対して垂直に遅相軸が存在することを意味する。
このPSフィルムと各実施例にて作製した光学フィルムとを粘着剤を介して貼り合わせ、作製したフィルムを積層体Fとした。この積層体FのPSフィルム層に対してコロナ処理を実施した。その後、積層体FのMD方向が、偏光子の吸収軸と平行になるように、積層体と偏光子をPVAのりを介して接着し、偏光板を作製した。
この偏光板を市販のLG社製 42LE5500 IPSパネルを分解し、フロント側の偏光板を置き換えて、実装を行い、パネルのコントラスト、視野角特性、面状評価を実施した。
その結果、各実施例の光学フィルムを用いた液晶表示装置は良好な性能を示した。
【符号の説明】
【0185】
1 外側保護フィルム
2、2’ PVA偏光子
3 PSフィルム
4、4’ 粘着剤
5 各実施例のフィルム
6 IPS液晶セル
7 接着剤
8 偏光板保護フィルム
9 偏光板保護フィルム
10 溶液製膜装置
12 吐出装置(流延ダイ)
13 リップクリアランス
14 支持体
15 フィルム
16 吸引チャンバ
20 流延ドラム
22 吸引ダクト
24 ブロア
26 ビード部分(流延部)
28 バッファタンク
hk 吐出装置と支持体の距離
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜厚20〜60μmであり、下記式(1)〜(3)を満たすことを特徴とする光学フィルム。
式(1) PV(全面)≦0.5μm
式(2) 2.5 >PV(MD)/PV(TD)≧ 0.8
(式(1)および(2)中、フィルム搬送方向にそれぞれ中心が60mmずつ離れた直径60mmの円形領域10ヶ所で干渉膜厚計により膜厚を測定した場合において、PV(全面)は各円形領域内のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である全面PV値の10ヶ所の平均値を表し、PV(MD)は各円形領域内のフィルム搬送方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である長手PV値の10ヶ所の平均値を表し、PV(TD)は各円形領域内のフィルム搬送方向に直交する方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である幅手PV値の10ヶ所の平均値を表す。)
式(3)ΔRe(30−80)<3nm
(式(3)中、ΔRe(30−80)は、波長590nmで測定した、相対湿度30%におけるフィルム面内方向のレターデーションの値Re(30%)と、相対湿度80%におけるフィルム面内方向のレターデーションの値Re(80%)の差の絶対値を表す。)
【請求項2】
下記式(4)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の光学フィルム。
式(4) 1.8 >PV(MD)/PV(TD)≧ 0.8
(式(4)中、フィルム搬送方向にそれぞれ中心が60mmずつ離れた直径60mmの円形領域10ヶ所で干渉膜厚計により膜厚を測定した場合において、PV(MD)は各円形領域内のフィルム搬送方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である長手PV値の10ヶ所の平均値を表し、PV(TD)は各円形領域内のフィルム搬送方向に直交する方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である幅手PV値の10ヶ所の平均値を表す。)
【請求項3】
膜厚が25〜45μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
波長590nmで測定した面内方向のレターデーションReが0nm≦|Re|≦5nmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項5】
セルロースアシレートを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項6】
吐出装置から走行する支持体上に向けてポリマー溶液を流延する工程と、
流延された前記ポリマー溶液の前記支持体に到達するまでのビード部分に対して、前記支持体の走行方向の上流側から吸引装置によって吸引する工程と、
前記支持体に到達したポリマー溶液を流延速度15〜80m/分で搬送してフィルム状に成形する工程と、
前記支持体の剥離部の温度が0℃以上となるように制御して該支持体から前記フィルムを剥離する工程を含み、
下記式(11)〜(14)を満たすように制御することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
式(11) 1.0×106/分<(流延速度×未延伸乾燥膜厚)/(吐出部クリアランス)<1.0×107/分
式(11’) 未延伸乾燥膜厚=延伸後膜厚×{1+(フィルム搬送方向の延伸倍率(%))/100}×{1+(フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率(%))/100}
(式(11)中、吐出部クリアランスは前記吐出装置のリップクリアランス(単位:m)を表し、流延速度は前記支持体の走行速度(単位:m/分)を表す。)
式(12) −1000Pa<ビードへの吸引圧力<−200Pa
(式(12)中、ビードへの吸引圧力は、前記吸引装置から前記ビードにかかる圧力を表し、前記ビードが前記吸引装置側に引き寄せられる方向の圧力を負の値で表し、前記吸引装置側から押し出される方向の圧力を正の値で表す。)
式(13) 0.25mm≦hk
(式(13)中、hkは前記吐出装置と前記支持体の距離(単位:mm)を表す。)
式(14) 25Pa・s<η
(式(14)中、ηは前記吐出装置から吐出する前記ポリマー溶液の粘度を、該ポリマー溶液の25℃、1Hzで測定した振動粘度(単位:Pa・s)を表す。)
【請求項7】
前記流延速度を15〜55m/分に制御することを特徴とする請求項6に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項8】
フィルム搬送方向の延伸倍率と、フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率の合計が5%〜20%の請求項6または7に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項9】
下記式(15)および(16)を満たすように延伸することを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
式(15) 3%≦(フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率)
式(16) −2%≦(フィルム搬送方向の延伸倍率−フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率)
【請求項10】
前記吐出装置から吐出する前記ポリマー溶液の粘度を、該ポリマー溶液の25℃、1Hzで測定した振動粘度η(単位:Pa・s)が下記式(17)を満たすように制御することを特徴とする、請求項6〜9のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
式(17) 30Pa・s<η<200Pa・s
【請求項11】
前記吐出装置と前記支持体の距離hk(単位:mm)が、下記式(18)を満たすことを特徴とする請求項6〜10に記載の光学フィルムの製造方法。
式(18) 0.3mm≦hk≦1.5mm
【請求項12】
前記ポリマー溶液が、セルロースアシレートを含むことを特徴とする請求項6〜11のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記ポリマー溶液が、重縮合エステル化合物および糖エステル化合物のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項6〜12のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記支持体の剥離部の温度が10℃以上となるように制御して該支持体から前記フィルムを剥離する工程を含むことを特徴とする請求項6〜13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
請求項6〜14のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法で製造されたことを特徴とする光学フィルム。
【請求項16】
偏光子と、該偏光子の少なくとも片側に請求項1〜5および15のいずれか一項に記載の光学フィルムを有することを特徴とする偏光板。
【請求項17】
請求項16に記載の偏光板を少なくとも1枚含むことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項1】
膜厚20〜60μmであり、下記式(1)〜(3)を満たすことを特徴とする光学フィルム。
式(1) PV(全面)≦0.5μm
式(2) 2.5 >PV(MD)/PV(TD)≧ 0.8
(式(1)および(2)中、フィルム搬送方向にそれぞれ中心が60mmずつ離れた直径60mmの円形領域10ヶ所で干渉膜厚計により膜厚を測定した場合において、PV(全面)は各円形領域内のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である全面PV値の10ヶ所の平均値を表し、PV(MD)は各円形領域内のフィルム搬送方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である長手PV値の10ヶ所の平均値を表し、PV(TD)は各円形領域内のフィルム搬送方向に直交する方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である幅手PV値の10ヶ所の平均値を表す。)
式(3)ΔRe(30−80)<3nm
(式(3)中、ΔRe(30−80)は、波長590nmで測定した、相対湿度30%におけるフィルム面内方向のレターデーションの値Re(30%)と、相対湿度80%におけるフィルム面内方向のレターデーションの値Re(80%)の差の絶対値を表す。)
【請求項2】
下記式(4)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の光学フィルム。
式(4) 1.8 >PV(MD)/PV(TD)≧ 0.8
(式(4)中、フィルム搬送方向にそれぞれ中心が60mmずつ離れた直径60mmの円形領域10ヶ所で干渉膜厚計により膜厚を測定した場合において、PV(MD)は各円形領域内のフィルム搬送方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である長手PV値の10ヶ所の平均値を表し、PV(TD)は各円形領域内のフィルム搬送方向に直交する方向の直径上のすべての点における膜厚の最大値と最小値の差分である幅手PV値の10ヶ所の平均値を表す。)
【請求項3】
膜厚が25〜45μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
波長590nmで測定した面内方向のレターデーションReが0nm≦|Re|≦5nmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項5】
セルロースアシレートを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項6】
吐出装置から走行する支持体上に向けてポリマー溶液を流延する工程と、
流延された前記ポリマー溶液の前記支持体に到達するまでのビード部分に対して、前記支持体の走行方向の上流側から吸引装置によって吸引する工程と、
前記支持体に到達したポリマー溶液を流延速度15〜80m/分で搬送してフィルム状に成形する工程と、
前記支持体の剥離部の温度が0℃以上となるように制御して該支持体から前記フィルムを剥離する工程を含み、
下記式(11)〜(14)を満たすように制御することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
式(11) 1.0×106/分<(流延速度×未延伸乾燥膜厚)/(吐出部クリアランス)<1.0×107/分
式(11’) 未延伸乾燥膜厚=延伸後膜厚×{1+(フィルム搬送方向の延伸倍率(%))/100}×{1+(フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率(%))/100}
(式(11)中、吐出部クリアランスは前記吐出装置のリップクリアランス(単位:m)を表し、流延速度は前記支持体の走行速度(単位:m/分)を表す。)
式(12) −1000Pa<ビードへの吸引圧力<−200Pa
(式(12)中、ビードへの吸引圧力は、前記吸引装置から前記ビードにかかる圧力を表し、前記ビードが前記吸引装置側に引き寄せられる方向の圧力を負の値で表し、前記吸引装置側から押し出される方向の圧力を正の値で表す。)
式(13) 0.25mm≦hk
(式(13)中、hkは前記吐出装置と前記支持体の距離(単位:mm)を表す。)
式(14) 25Pa・s<η
(式(14)中、ηは前記吐出装置から吐出する前記ポリマー溶液の粘度を、該ポリマー溶液の25℃、1Hzで測定した振動粘度(単位:Pa・s)を表す。)
【請求項7】
前記流延速度を15〜55m/分に制御することを特徴とする請求項6に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項8】
フィルム搬送方向の延伸倍率と、フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率の合計が5%〜20%の請求項6または7に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項9】
下記式(15)および(16)を満たすように延伸することを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
式(15) 3%≦(フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率)
式(16) −2%≦(フィルム搬送方向の延伸倍率−フィルム搬送方向に直交する方向の延伸倍率)
【請求項10】
前記吐出装置から吐出する前記ポリマー溶液の粘度を、該ポリマー溶液の25℃、1Hzで測定した振動粘度η(単位:Pa・s)が下記式(17)を満たすように制御することを特徴とする、請求項6〜9のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
式(17) 30Pa・s<η<200Pa・s
【請求項11】
前記吐出装置と前記支持体の距離hk(単位:mm)が、下記式(18)を満たすことを特徴とする請求項6〜10に記載の光学フィルムの製造方法。
式(18) 0.3mm≦hk≦1.5mm
【請求項12】
前記ポリマー溶液が、セルロースアシレートを含むことを特徴とする請求項6〜11のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記ポリマー溶液が、重縮合エステル化合物および糖エステル化合物のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項6〜12のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記支持体の剥離部の温度が10℃以上となるように制御して該支持体から前記フィルムを剥離する工程を含むことを特徴とする請求項6〜13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
請求項6〜14のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法で製造されたことを特徴とする光学フィルム。
【請求項16】
偏光子と、該偏光子の少なくとも片側に請求項1〜5および15のいずれか一項に記載の光学フィルムを有することを特徴とする偏光板。
【請求項17】
請求項16に記載の偏光板を少なくとも1枚含むことを特徴とする液晶表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2012−215690(P2012−215690A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80596(P2011−80596)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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