説明

光学フィルム、位相差フィルム、偏光板及び液晶表示装置

【課題】液晶表示装置において表示面の光ムラを低減することができ、かつRthの湿熱耐久性に優れた光学フィルムを提供すること。
【解決手段】平均炭素数が2.01以上の多価アルコールと平均炭素数が4.10以上の多塩基酸との縮合物、及びセルロースエステルを含む光学フィルムであって、該縮合物を構成する少なくとも1種の多価アルコールは、3つ以上の炭素原子が他の元素を介さずに連続して結合した構造を有する多価アルコールであり、該縮合物を該セルロースエステルに対して30質量%より多く含有する光学フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光膜との密着性に優れ、偏光膜に直接貼り合わせることが可能なセルロースエステルを含む光学フィルムに関し、また、該光学フィルムを用いた位相差フィルム、更に、該光学フィルムを用いた信頼性の高い偏光板、液晶パネル、及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化銀写真感光材料、位相差フィルム、偏光板及び画像表示装置などには、セルロースエステル、ポリエステル、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ビニルポリマー、及び、ポリイミド等に代表されるポリマーフィルムが用いられている。これらのポリマーからは、平面性や均一性の点でより優れたフィルムを製造することができるため、光学用途のフィルムとして広く採用されている。
【0003】
これらのうち、適切な透湿度を有するセルロースアシレートフィルムは、最も一般的なポリビニルアルコール(PVA)/ヨウ素からなる偏光膜とオンラインで直接貼り合わせることが可能である。そのため、特にセルロースアセテートフィルムは偏光板の保護フィルムとして広く採用されている。
【0004】
このようなフィルムを、位相差フィルム、位相差フィルムの支持体、偏光板の保護フィルム、及び液晶表示装置のような光学用途に使用する場合、その光学異方性の制御は、表示装置の性能(例えば、視認性)を決定する上で非常に重要な要素となる。近年の液晶表示装置の広視野角化要求に伴ってレターデーションの補償性向上が求められるようになっており、偏光膜と液晶セルとの間に配置される位相差フィルムの面内方向のレターデーション値(Re;以下、単に「Re」と称することがある。)と膜厚方向のレターデーション値(Rth;以下、単に「Rth」と称することがある。)とを適切に制御することが要求されている。例えば、液晶テレビ用途で広く用いられているIPSモードの液晶表示装置においては、Re、Rthとも低減することが要求され、例えば、特許文献1には、セルロースアシレートに対して両末端が水酸基であるポリエステルジオールを5質量%以上含有させる技術が開示されている。また、VAモードの液晶表示装置においては、Re、Rthとも上昇させることが要求され、適切なRe、Rthに調整するために、フィルムを構成する材料の調整や製膜方法の調整、フィルムの延伸操作を実施する技術が開示されている(例えば、特許文献2〜5参照)。
【0005】
一方、液晶表示装置のスリム化が進むにつれ、特定の条件で表示面に円形状の光ムラが発生することが分かってきている。この光ムラの発生メカニズムは未だ不明確な点もあるが、1つの原因として、バックライト部材と液晶パネル(特に、バックライト側偏光板)とが接触することが挙げられている。そのため、特許文献6には、バックライト側偏光板のポリエチレンテレフタレートフィルムからなるバックライト側保護フィルム表面に凹凸を設けることで、バックライト部材との接触を防ぎ、光ムラ発生の抑止を図る方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献7〜9には、多価アルコールと多塩基酸とから得られるポリエステルポリオールをセルロースアシレートに対して10〜30質量%含有させたセルロースアシレートフィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−098674号公報
【特許文献2】欧州特許0911656号明細書
【特許文献3】特開平5−257014号公報
【特許文献4】特開2005−138358号公報
【特許文献5】特開2001−100039号公報
【特許文献6】特開2009−169393号公報
【特許文献7】特開2006−64803号公報
【特許文献8】特開2009−208476号公報
【特許文献9】特開2002−22956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献6の如く、偏光板の保護フィルムとしてポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた場合では、偏光板加工性に難があり、偏光板の生産速度低下を招いたり、このような偏光板を用いた液晶パネルにおいて、パネルの反りが生じたり、特定の表示面の外周に光ムラが発生するという問題が明らかになった。
【0009】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、偏光板加工性に優れ、かつ液晶表示装置の表示面に円形状の光ムラや外周の光ムラが発生しない光学フィルム、及び偏光板を製造することを本発明の目的として検討を進めた。
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、前記偏光板加工性の問題については、セルロースエステルを含む光学フィルムを用いることによって改善できることを見出した。また、前記円形状の光ムラの問題については、表示面の正面方向(すなわち表示面の法線方向)から観測した場合に視認しやすいムラはフィルムの弾性率、光弾性、膜厚、吸湿率を低下させることによって改善できうること、表示面の斜め方向から観測した場合に視認しやすいムラはフィルムのRthの湿度依存性を低下させることによって改善できうることを見出した。セルロースエステルフィルムのRthの湿度依存性を低下させる技術として、特定の多価アルコールと多塩基酸との縮合物をセルロースエステルに対して20質量%以上含有させた前記特許文献7のセルロースエステルフィルムが挙げられるが、このようなフィルムを湿熱環境下で保持すると、Rthが変化してしまうという問題が本発明者らの検討で明らかになった。
したがって、本発明の課題は、液晶表示装置において表示面の光ムラを低減することができ、かつRthの湿熱耐久性に優れた光学フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明は下記の手段により達成することができる。
【0011】
〔1〕
平均炭素数が2.01以上の多価アルコールと平均炭素数が4.10以上の多塩基酸との縮合物、及びセルロースエステルを含む光学フィルムであって、
該縮合物を構成する少なくとも1種の多価アルコールは、3つ以上の炭素原子が他の元素を介さずに連続して結合した構造を有する多価アルコールであり、
該縮合物を該セルロースエステルに対して30質量%より多く含有する光学フィルム。
〔2〕
前記多価アルコールのヒドロキシル基に結合する炭素原子のうち少なくとも1つが2級炭素原子又は3級炭素原子である、前記〔1〕に記載の光学フィルム。
〔3〕
前記縮合物の水酸基価が40mgKOH/g未満である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の光学フィルム。
〔4〕
前記光学フィルムが、更にレターデーションの湿熱耐久性を向上させる化合物を含む、前記〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の光学フィルム。
〔5〕
前記レターデーションの湿熱耐久性を向上させる化合物が、塩基性を示す化合物である前記〔4〕に記載の光学フィルム。
〔6〕
前記塩基性を示す化合物が、塩基性の官能基として、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アンモニウム基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、グアニジノ基、イミノ基、イミダゾイル基、インドール基、及びプリン基のうち少なくとも1種を含有する、前記〔5〕に記載の光学フィルム。
〔7〕
前記レターデーションの湿熱耐久性を向上させる化合物が、下記一般式(1)又は(2)で表される化合物を含有する、前記〔4〕〜〔6〕のいずれか一項に記載の光学フィルム。
一般式(1)
【0012】
【化1】

【0013】
(一般式(1)中、Raは置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換の複素環基、又は、置換若しくは無置換のアリール基を表す。X、X、X及びXはそれぞれ独立に単結合又は2価の連結基を表す。R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のアシル基、又は、置換若しくは無置換の複素環基を表す。)
一般式(2)
【0014】
【化2】

【0015】
(一般式(2)中、Rb及びRcはそれぞれ独立に置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換の複素環基、又は、置換若しくは無置換のアリール基を表す。X及びXはそれぞれ独立に単結合又は2価の連結基を表す。R及びRはそれぞれ独立に水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のアシル基、又は、置換若しくは無置換の複素環基を表す。)
〔8〕
更に、アクリル酸エステルの付加物、又はメタクリル酸エステルの付加物を含有する、前記〔1〕〜〔7〕のいずれか一項に記載の光学フィルム。
〔9〕
引っ張り弾性率が3GPa未満である前記〔1〕〜〔8〕のいずれか一項に記載の光学フィルム。
〔10〕
下記式で定義されるΔRthが−30〜30nmである前記〔1〕〜〔9〕のいずれか一項に記載の光学フィルム。
ΔRth=Rth(10%)−Rth(80%)[式中、Rth(H%)は、25℃、相対湿度H%おけるフィルムのRthを表す]
〔11〕
前記光学フィルムが、60℃90%RHで1日処理した場合の寸法変化率が3%以下である前記〔1〕〜〔10〕のいずれか一項に記載の光学フィルム。
〔12〕
少なくとも、前記〔1〕〜〔11〕のいずれか一項に記載の光学フィルムを含む位相差フィルム。
〔13〕
少なくとも、前記〔1〕〜〔11〕のいずれか一項に記載の光学フィルム、又は前記〔12〕に記載の位相差フィルムを含む偏光板。
〔14〕
少なくとも、前記〔1〕〜〔11〕のいずれか一項に記載の光学フィルム、前記〔12〕に記載の位相差フィルム、又は前記〔13〕に記載の偏光板を含む画像表示装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光学フィルムは、所望のレターデーションを有する光学フィルムとして偏光板や液晶表示装置などに用いることができる。また、本発明の光学フィルムを用いて製造される位相差フィルムや偏光板を用いた液晶パネル、並びに液晶表示装置は、表示面の光ムラ発生が改善されており、かつRthの湿熱耐久性に優れている。更に、本発明の光学フィルムは、製造工程における両端部を切り落とす工程(いわゆる耳切り工程)において、耳切断性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において、数値が物性値、特性値等を表す場合に、「(数値1)〜(数値2)」及び「(数値1)乃至(数値2)」という記載は「(数値1)以上(数値2)以下」の意味を表す。
【0018】
本発明の光学フィルムは、セルロースエステル、及び平均炭素数が2.01以上の多価アルコールと平均炭素数が4.10以上の多塩基酸との縮合物を含有するフィルムであって、前記セルロースエステルに対して前記縮合物を30質量%より多く含有する。また、該縮合物を構成する少なくとも1種の多価アルコールは、3つ以上の炭素原子が他の元素を介さずに連続して結合した構造を有する多価アルコールである。
本発明の光学フィルムは、多価アルコールと多塩基酸との縮合物をセルロースエステルに対して30質量%より多く含有させることで、フィルムの弾性率、光弾性、膜厚、吸湿率、及びRthの湿度依存性を適切に調整することができるため、液晶表示装置の光ムラを改善することができる。そして、フィルムを湿熱環境下で保持した場合にレターデーションが変化する問題を、平均炭素数が2.01以上の多価アルコールと平均炭素数が4.10以上の多塩基酸との縮合物であって、該縮合物を構成する少なくとも1種の多価アルコールとして3つ以上の炭素原子が他の元素を介さずに連続して結合した構造を有する多価アルコールを用いた縮合物によって解決するものである。しかし、このような化合物設計は、フィルムからのブリードアウトを促進することがあるため、例えば、化合物の添加量を実質的に問題のない範囲で低下させたり、分子量を低下させたりすることが好ましい。
【0019】
[縮合物]
本発明で用いられる平均炭素数が2.01以上の多価アルコールと平均炭素数が4.10以上の多塩基酸との縮合物であって、該縮合物を構成する少なくとも1種の多価アルコールが、3つ以上の炭素原子が他の元素を介さずに連続して結合した構造を有する多価アルコールである縮合物(以下、単に「縮合物」とも呼ぶ)について説明する。
本発明では、平均炭素数が2.01以上の多価アルコールと平均炭素数が4.10以上の多塩基酸との縮合物を用いることによって、縮合物の流出を抑制し、湿熱環境化で保持した後のレターデーション変化を抑制することができると考えられる。すなわち、縮合物を多量に添加したフィルムを湿熱環境下で保持すると、縮合物が分解して分子量が低下し、移行性が高くなるために、例えば、フィルムに接触した粘着剤のような別の材料に移行したり、フィルム外に流出したりする。その結果、フィルムに含まれる縮合物の量が低下して、フィルムのレターデーションが変動すると考えられる。このような縮合物の分解は、解重合を抑制する観点で、エステル結合部分の疎水性を上げたり、立体障害を大きくしたりすることによって大きく抑制することができ、レターデーション変動を抑制することが可能となる。このような観点から、多価アルコールや多塩基酸の平均炭素数は高い方が好ましい。一方、セルロースエステルとの相溶性やレターデーションの湿度依存性低減の観点からは、多価アルコールや多塩基酸の平均炭素数は低いほうが好ましく、連続した炭素原子は分岐や環構造を含むことが好ましい。したがって、多価アルコールの平均炭素数は、2.01以上であり、2.05〜10.00であることが好ましく、2.10〜5.00であることがより好ましく、2.15〜3.00であることが更に好ましく、2.20〜2.80であることが特に好ましく、特にレターデーションの湿度依存性低減を重視する場合には、2.25〜2.50であることが好ましい。また、多塩基酸の平均炭素数は、4.10以上であり、5.00〜15.00であることが好ましく、5.50〜10.00であることがより好ましく、6.00〜8.00であることが更に好ましい。
【0020】
なお、平均炭素数は、縮合物を構成する全多価アルコール又は多塩基酸の炭素数を算術平均した値として求めることができる。すなわち、平均炭素数は、多価アルコール又は多塩基酸の組成比(モル分率)を各成分中の炭素数に乗じて算出した値の平均値とする。例えばエタンジオールと1,2−プロパンジオールを3/1のモル比で含有する多価アルコールの平均炭素数は、2.25となる。
【0021】
縮合物を構成する少なくとも1種の多価アルコールとして、3つ以上の炭素原子が他の元素(例えば、酸素原子などのヘテロ原子)を介さずに連続して結合した構造を有する多価アルコールを含む。炭素原子が3つ以上連続している構造を含むことで、疎水性が十分となるため、フィルムのレターデーション変動を抑制するという観点で好ましい。
縮合物を構成する全多価アルコールに対して、3つ以上の炭素原子が他の元素を介さずに連続して結合した構造を有する多価アルコールの割合は、1〜100モル%であることが好ましく、10〜100モル%であることがより好ましい。
3つ以上の炭素原子が他の元素を介さずに連続して結合した構造を有する多価アルコールは、分子中に下記の部分構造を有する。下記構造式において*は原子との結合手を表す。3つ以上の炭素原子が他の元素を介さずに連続して結合した構造を有する多価アルコールの例としてはプロパンジオール、ブタンジオール、ジプロピレングリコールなどが挙げられる。
【0022】
【化3】

【0023】
本発明における縮合物の分子量は特に限定されないが、好ましくは600〜5000であり、セルロースエステルとの相溶性を悪化させない範囲で縮合物の分子量を増加させることでフィルムを湿熱環境下で保持した場合のレターデーション変化を抑制することができ、液晶表示装置を過酷な環境下で使用した場合にも、表示特性の変化が起こらないパネルを製造することができる。
本発明で好ましく用いられる縮合物の一次構造は、相溶性をやや低下させる一次構造であるため、平均分子量は低いほうが好ましく、本発明における縮合物の数平均分子量(Mn)は、600〜3000であることが好ましく、650〜2800がより好ましく、800〜2000が更に好ましい。縮合物の数平均分子量は600以上であれば揮発性が低くなり、本発明の光学フィルムを製膜したり、延伸した時の高温条件下における揮散によるフィルム故障や工程汚染を生じにくくなると同時に、分子量を上昇させることによって湿熱環境下で保持した場合のレターデーション変化を抑制することができる。また、縮合物の数平均分子量が5000以下であればセルロースエステルとの相溶性を確保することができ、製膜時及び加熱延伸時のブリードアウトが生じにくくなる。ただし、本発明における縮合物は、このような繰り返し単位部分を有する化合物のみからなるものに限定されることはなく、繰り返し単位を有さない化合物との混合物であってもよい。
本発明における縮合物の数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定、評価することができる。
【0024】
また、縮合物を構成する多価アルコール及び/又は多塩基酸の炭素数を適切に制御すると、製造工程における耳切り性が向上するという好ましい効果も得られる。したがって、例えば、耳切り工程においてスリットされたフィルム断面が平滑になるため、搬送中にフィルムが切断する確率が低下したり、フィルムを延伸する場合には、延伸性が向上したり、他方、切り粉の発生が抑制されるため、フィルム表面に微小な粉が付着することによって引き起こされる面状故障の発生率が低下したりするという好ましい効果も得られる。この効果のメカニズムについては未だ不明な点も多いが、本発明に好ましく用いられる一次構造を有する縮合物をそれ以外の縮合物と比較した場合に、貯蔵弾性率に対する損失弾性率の比率(損失弾性率/貯蔵弾性率)が大きくなることに起因すると考えられる。すなわち、縮合物を多量に添加したフィルムにおいて、該縮合物はフィルム中でミクロに相分離して存在しており、スリットする際に飛散して、フィルム断面を荒らしたり、切り粉を増やしたりすることが考えられるが、縮合物を構成する多価アルコール及び/又は多塩基酸の炭素数を適切に制御することによって、添加剤の粘性を上昇させ、こうした問題を解決できると考えられる。
【0025】
また、本発明の縮合物は使用する環境温度あるいは湿度下で(一般には室温状況、所謂25℃、相対湿度60%)、液体であっても固体であっても良いが、ブリードアウト抑制の観点からは液体の方が好ましい。また、その色味は少ないほど良好であり特に無色であることが好ましい。熱的にはより高温において安定であることが好ましく、分解開始温度が150℃以上、更に200℃以上が好ましい。
以下、本発明に用いられる縮合物について、その具体例を挙げながら詳細に説明するが、本発明で用いることができる縮合物はこれらに限定されるものではない。
【0026】
(多価アルコールと多塩基酸との縮合物)
【0027】
本発明における縮合物としては、平均炭素数が2.01以上の多価アルコールと平均炭素数が4.10以上の多塩基酸との縮合物であれば特に限定されないが、二塩基酸とグリコールの反応によって得られるものが好ましい。二塩基酸とグリコールの反応によって得られる反応物の両末端は、更にモノカルボン酸やモノアルコールを反応させて、所謂末端の封止を実施すると、フィルムの吸湿率を低下させることができるため、例えば、レターデーションの湿度依存性を低下させたり、湿熱環境下で保持した場合のレターデーション変化を抑制させたりすることができ好ましい。このような縮合物では、末端が未封止の縮合物と比較して水酸基価が低下していることがセルロースエステルとの相溶性向上の観点からも好ましく、水酸基価が40mgKOH/g以下であることが好ましく、20mgKOH/g以下であることがより好ましく、10mgKOH/g以下であることが更に好ましい。
本発明で用いられる多価アルコールと多塩基酸との縮合物において、該多価アルコールは少なくとも炭素数3以上の多価アルコールを含むことが好ましい。
本発明で使用される多価アルコールと多塩基酸との縮合物は、炭素数2〜12のグリコールと炭素数4〜12の二塩基酸とから合成することが好ましく、少なくとも一部は炭素数3〜12のグリコールと二塩基酸で合成された縮合物である事が特に好ましい。
【0028】
本発明の多価アルコールと多塩基酸との縮合物に使用される二塩基酸としては、炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸残基又は脂環式ジカルボン酸残基又は炭素数8〜12の芳香族ジカルボン酸残基であることが好ましい。また、グリコールとしては、炭素数が2〜12の脂肪族又は脂環式グリコール残基、炭素数6〜12の芳香族グリコール残基であることが好ましい。これらは所望のレターデーションに応じて、適宜選択して使用することができ、1種類だけを含有させても良く、2種類以上を含有させてもよい。例えば、レターデーションを低減させたフィルムを作製したい場合には、脂肪族又は脂環式ジカルボン酸残基又はフタル酸残基、及び脂肪族又は脂環式グリコール残基を選択することが好ましい。また、レターデーションを上昇させたフィルムを作成したい場合には、芳香族ジカルボン酸残基及び/又は芳香族グリコール残基を含有させることが好ましい。
以下、本発明における多価アルコールと多塩基酸との縮合物の合成に好ましく用いることができる二塩基酸及びグリコールについて説明する。
【0029】
二塩基酸としては、脂肪族ジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のいずれも用いることができ、湿熱環境下で保持した場合のレターデーションの耐久性を向上させる観点からは、少なくとも炭素数5以上の多塩基酸を含むことが好ましい。
脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等が挙げられる。なかでも、コハク酸及びアジピン酸が相溶性向上の観点から好ましい。
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5―ナフタレンジカルボン酸、1,4―ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。なかでも、フタル酸及びテレフタル酸が好ましく、テレフタル酸が特に好ましい。
本発明に用いる二塩基酸の炭素数は、4〜12であることが好ましく、4〜8であることがより好ましく、4〜6であることが好ましい。本発明では2種以上の二塩基酸の混合物を用いてもよく、この場合、2種以上の二塩基酸の平均炭素数が上記範囲となることが好ましい。二塩基酸の炭素数が上記範囲であれば、光ムラの改良に加えて、セルロースエステルとの相溶性に優れ、光学フィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくいため好ましい。
脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸とを併用することも好ましい。具体的には、アジピン酸とフタル酸との併用、アジピン酸とテレフタル酸との併用、コハク酸とフタル酸との併用、コハク酸とテレフタル酸のとの併用が好ましく、コハク酸とフタル酸との併用、コハク酸とテレフタル酸との併用がより好ましい。脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸とを併用する場合、両者の比率(モル比)は特に限定されないが、95:5〜40:60が好ましく、55:45〜45:55がより好ましい。
【0030】
グリコール(ジオール)としては、脂肪族ジオール及び芳香族ジオールが挙げられ、脂肪族ジオールが好ましく、本発明の効果である湿熱環境下で保持した場合のレターデーションの耐久性向上のため、少なくとも炭素数3以上の多価アルコールを含むこと、及び/又は該多価アルコールのヒドロキシル基に結合する炭素原子のうち、少なくとも1つが2級炭素原子又は3級炭素原子であることが好ましい。このことは、該酸素原子を疎水的な環境にすることによって、湿熱環境下における縮合物の分解を抑制し、レターデーションの変化を抑制したと考えられる。
脂肪族ジオールの脂肪族基は直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、鎖中に酸素原子などのヘテロ原子を含んでいても、含まないもの(脂肪族基が炭化水素のみからなるもの)てもよい。
脂肪族ジオールとしては、アルキルジオール又は脂環式ジオール類を挙げることができ、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどが挙げられる。
好ましい脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、及び1,3−プロパンジオールの少なくとも1種であり、特に好ましくは、エチレングリコール及び1,2−プロパンジオールの少なくとも1種である。2種用いる場合は、エチレングリコール及び1,2−プロパンジオールを用いることが好ましい。
グリコールの炭素数は、2〜10であることが好ましく、2〜6であることがより好ましく、2〜4であることが特に好ましい。2種以上のグリコールを用いる場合には、該2種以上の平均炭素数が上記範囲となることが好ましい。グリコールの炭素数が上記範囲であれば、光ムラの改良に加えて、セルロースエステルとの相溶性に優れ、フィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくいため好ましい。
【0031】
また、本発明の多価アルコールと多塩基酸との縮合物の両末端は、モノアルコール残基やモノカルボン酸残基で保護することが好ましい。その場合、モノアルコール残基としては炭素数1〜30の置換、無置換のモノアルコール残基が好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、オクタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、tert−ノニルアルコール、デカノール、ドデカノール、ドデカヘキサノール、ドデカオクタノール、アリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族アルコール、ベンジルアルコール、3−フェニルプロパノールなどの置換アルコールなどが挙げられる。
【0032】
また、モノカルボン酸残基で封止する場合は、モノカルボン酸残基として使用されるモノカルボン酸は、炭素数1〜30の置換、無置換のモノカルボン酸が好ましい。これらは、脂肪族モノカルボン酸でも芳香族カルボン酸でもよい。まず好ましい脂肪族モノカルボン酸について記述すると、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、カプリル酸、カプロン酸、デカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸が挙げられ、芳香族モノカルボン酸としては、例えば安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種又は2種以上の混合物として使用することができる。
【0033】
このとき、両末端のモノカルボン酸残基の炭素数が3以下であると、揮発性が低下し、該多価アルコールと多塩基酸との縮合物の加熱による減量が大きくならず、工程汚染の発生や面状故障の発生を低減することができる。このような観点からは、封止に用いるモノカルボン酸類としては脂肪族モノカルボン酸が好ましい。モノカルボン酸が炭素数2〜22の脂肪族モノカルボン酸であることがより好ましく、炭素数2〜3の脂肪族モノカルボン酸であることが更に好ましく、炭素数2の脂肪族モノカルボン酸残基であることが特に好ましい。例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、安息香酸及びその誘導体等が好ましく、酢酸又はプロピオン酸がより好ましく、酢酸(末端がアセチル基となる)が最も好ましい。封止に用いるモノカルボン酸は2種以上を混合してもよい。
【0034】
なお、多価アルコールと多塩基酸との縮合物の両末端が未封止の場合、該縮合物はポリエステルポリオールであることが好ましい。
【0035】
以上、具体的な好ましい多価アルコールと多塩基酸との縮合物としては、ポリ(エチレングリコール/アジピン酸)エステル、ポリ(プロピレングリコール/アジピン酸)エステル、ポリ(1,3−ブタンジオール/アジピン酸)エステル、ポリ(プロピレングリコール/セバチン酸)エステル、ポリ(1,3−ブタンジオール/セバチン酸)エステル、ポリ(1,6−ヘキサンジオール/アジピン酸)エステル、ポリ(プロピレングリコール/フタル酸)エステル、ポリ(1,3−ブタンジオール/フタル酸)エステル、ポリ(プロピレングリコール/テレフタル酸)エステル、ポリ(プロピレングリコール/1,5−ナフタレン−ジカルボン酸)エステル、ポリ(プロピレングリコール/テレフタル酸)エステルの両末端が2−エチル−ヘキシルアルコールエステル/ポリ(プロピレングリコール、アジピン酸)エステルの両末端が2−エチル−ヘキシルアルコールエステル、アセチル化ポリ(ブタンジオール/アジピン酸)エステル、などを挙げることができる。
【0036】
かかる多価アルコールと多塩基酸との縮合物の合成は常法により、上記二塩基性酸又はこれらのアルキルエステル類とグリコール類との(ポリ)エステル化反応又はエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。これらの多価アルコールと多塩基酸との縮合物については、村井孝一編者「可塑剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
【0037】
また、商品として、株式会社ADEKAから、多価アルコールと多塩基酸との縮合物としてDIARY 2007、55頁〜27頁に記載にアデカサイザー(アデカサイザーPシリーズ、アデカサイザーPNシリーズとして各種あり)を使用でき、また大日本インキ化学工業株式会社「ポリマ関連製品一覧表2007年版」25頁に記載のポリライト各種の商品や、大日本インキ化学工業株式会社「DICのポリマー改質剤」(2004.4.1.000VIII発行)2頁〜5頁に記載のポリサイザー各種を利用できる。更に、米国 CP HALL 社製のPlasthall Pシリーズとして入手できる。ベンゾイル官能化ポリエーテルは、イリノイ州ローズモントのベルシコルケミカルズ(Velsicol Chemicals)から商品名BENZOFLEXで商業的に販売されている(例えば、BENZOFLEX400、ポリプロピレングリコールジベンゾエート)。
【0038】
(多価エーテルアルコールと多塩基酸との縮合物)
本発明における平均炭素数が2.01以上の多価アルコールとしては、分子中にエーテル結合を含まない多価アルコールのみならず、平均炭素数が2.01以上の多価エーテルアルコール(分子中にエーテル結合を有する多価アルコール)も含まれる。
以下、本発明に用いることができる多価エーテルアルコールと多塩基酸との縮合物について説明する。
ジカルボン酸としては、多価アルコールと多塩基酸との縮合物で記述した炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸残基又は炭素数8〜12の芳香族ジカルボン酸残基をそのまま使用するものである。
多価エーテルアルコールとしては、炭素原子数2〜12の脂肪族多価エーテルアルコールが好ましく、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールが好ましい。
本発明の効果である湿熱環境下で保持した場合のレターデーションの耐久性向上のため、本発明で用いられる多価エーテルアルコールと多塩基酸との縮合物において、該多価エーテルアルコールのヒドロキシル基に結合する炭素原子のうち、少なくとも1つが2級炭素原子又は3級炭素原子であることが好ましい。
【0039】
多価エーテルアルコールと多塩基酸との縮合物としては、ジカルボン酸とポリエーテルジオールとの縮合物も挙げられる。
炭素原子2〜12個の脂肪族グリコールを有するポリエーテルジオール類としては、ポリエチレンエーテルグリコール、ポリプロピレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール並びにこれらの組み合わせが挙げられる。典型的に有用な市販のポリエーテルグリコール類としては、カーボワックス(Carbowax)レジン、プルロニックス(Pluronics)レジン及びニアックス(Niax)レジンが挙げられる。本発明に使用されるポリエステルポリエーテル系可塑剤の製造に際しては、当業者に周知の常用されている重合法が使用できる。
【0040】
これらの多価エーテルアルコールと多塩基酸との縮合物としては、米国特許第4,349,469号明細書に記載されている多価エーテルアルコールと多塩基酸との縮合物などが挙げられる。基本的に、例えばジカルボン酸として1,4−シクロヘキサンジカルボン酸と、ポリエーテルとして1,4−シクロヘキサンジメタノール及びポリテトラメチレンエーテルグリコールなどから合成される多価エーテルアルコールと多塩基酸との縮合物である。その他の有用な多価エーテルアルコールと多塩基酸との縮合物としては、DuPont製のハイテレル(Hytrel)コポリエステル類やGAF製のガルフレック(Galflex)ポリマーのようなコポリマーのごとき市販のレジンが挙げられる。これらは、特開平5−197073号公報に記載の素材を利用できる。株式会社ADEKAからアデカサイザーRSシリーズとして市販されており利用できる。また、アルキル官能化ポリアルキレンオキシドであるポリエステルエーテル系可塑剤は、デラウェア州ウィルミントンのアイシーアイ(ICI Chemicals)から商品名PYCALで商業的に販売されている(例えば、PYCAL94、ポリエチレンオキシドのフェニルエステル)。
【0041】
(多価アルコールと多塩基酸との縮合物とイソシアナート化合物との縮合物)
本発明においては、平均炭素数が2.01以上の多価アルコールと平均炭素数が4.10以上の多塩基酸と、更にイソシアナート化合物との縮合物も用いることができる。該縮合物は、多価アルコールと多塩基酸との縮合物とイソシアナート化合物の縮合で得ることができる。まず、多価アルコールと多塩基酸との縮合物としては、前記の両末端を封止する前の多価アルコールと多塩基酸との縮合物をそのまま使用でき、多価アルコールと多塩基酸との縮合物で前述した素材を好ましく利用できる。
【0042】
ジイソシアナート成分としては、エチレンジイソシアナート、トリメチレンジイソシアナート、テトラメチレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート等で代表されるOCN(CHNCO(p=2〜8)ポリメチレンイソシアナート並びに、p−フェニレンジイソシアナート、トリレンジイソシアナート、p,p′−ジフェニルメタンジイソシアナート、1,5−ナフチレンジイソシアナート等の芳香族ジイソシアナート、更には、m−キシリレンジイソシアナート等が用いられるが、これらに制限されるものではない。これらの中でも、特にトリレンジイソシアナート、m−キシリレンジイソシアナート、テトラメチレンジイソシアナートが好ましいものである。ジイソシアナート成分は縮合によりポリウレタン構造を形成することができる。
【0043】
本発明において多価アルコールと多塩基酸との縮合物とイソシアナート化合物との縮合物の合成は、原料のポリエステルジオール類とジイソシアナートとを混じ攪拌下加熱させる常法の合成法により、容易に得る事ができる。これらは、特開平5−197073号、特開2001−122979号、特開2004−175971号、特開2004−175972号各公報などに記載してある素材を利用できる。
【0044】
本発明における多価アルコールと多塩基酸との縮合物としては、縮合物の原料中にイソシアナート化合物を含まないことが好ましく、イソシアナート化合物と多価エーテルアルコールを含まないことがより好ましい。
【0045】
(縮合物の添加量)
本発明の光学フィルムは、前記縮合物をセルロースエステルに対して30質量%より多く含有する。縮合物の含有量はセルロースエステルに対して、30質量%より多く、150質量%以下が好ましく、30質量%より多く、100質量%以下がより好ましく、31質量%以上80質量%以下が更に好ましく、35質量%以上80質量%以下が更により好ましく、40質量%以上60質量%以下が特に好ましく、40質量%以上55質量%以下が最も好ましい。含有量が30質量%より多ければ光ムラを改善することができるため好ましく、150質量%以下であれば、フィルムからのブリードアウトを抑制しやすく好ましい。
なお、縮合物を2種以上含有させる場合には、本発明の光学フィルムでは該2種以上の縮合物の合計の含有量が上記範囲に収まればよい。
【0046】
[レターデーションの湿熱耐久性を向上させる化合物]
レターデーションの湿熱耐久性には、フィルムを湿熱環境下で保持した場合のレターデーション変化として観測される耐久性と、フィルムを偏光板形態にした上で湿熱環境下で保持した場合のレターデーション変化とがある。前者に関しては、前述の縮合物を用いること、及び/又は後述の寸法変化率を制御することで改善させることができる。また、後者に関しては、前述の縮合物を用いること、及び/又はレターデーションの湿熱耐久性を向上させる化合物を添加することで改善させることができる。
レターデーションの湿熱耐久性を向上させる化合物として、塩基性を示す化合物を好ましく用いることができ、無機化合物と有機化合物のどちらか、若しくは両方を使用してもよく、弱塩基性を示す化合物であることがより好ましい。
無機塩基(塩基性を示す無機化合物)としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等を挙げることができる。
有機塩基(塩基性を示す有機化合物)としては、分子内に塩基性の官能基を有する化合物を用いることができ、塩基性の官能基としては、例えば、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アンモニウム基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピラジニル基等の含窒素ヘテロ環基、グアニジノ基、イミノ基、イミダゾイル基、インドール基、プリン基等が挙げられる。
【0047】
(アミノ基を有する化合物)
本発明の光学フィルムはアミノ基を有する化合物を含有することが好ましい。
本発明で好ましく用いられるアミノ基を含む化合物としては、特に限定されることはないが、トリアジン母核とし、置換可能ないずれかの位置にアミノ基を置換基として有するものが好ましく、下記一般式(1)又は(2)で表される化合物であることがより好ましい。
【0048】
一般式(1)
【0049】
【化4】

【0050】
(一般式(1)中、Raは置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換の複素環基、又は、置換若しくは無置換のアリール基を表す。X、X、X及びXはそれぞれ独立に単結合又は2価の連結基を表す。R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のアシル基、又は、置換若しくは無置換の複素環基を表す。)
【0051】
前記Raはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基又はアリール基を表し、アルキル基又はアリール基であることが好ましく、アリール基であることがより好ましい。
前記Raがアルキル基である場合、炭素数1〜20であることが好ましく、炭素数3〜15であることがより好ましく、炭素数6〜12であることが特に好ましい。
前記Raがアルケニル基である場合、炭素数2〜20であることが好ましく、炭素数2〜15であることがより好ましく、炭素数2〜12であることが特に好ましい。
前記Raがアルキニル基である場合、炭素数2〜20であることが好ましく、炭素数2〜15であることがより好ましく、炭素数2〜12であることが特に好ましい。
前記Raがアリール基である場合、炭素数6〜30であることが好ましく、炭素数6〜20であることがより好ましく、フェニル基が最も好ましい。
前記Raが複素環基である場合、含窒素複素芳香環基であることが好ましく、ピリジル基がより好ましい。
【0052】
前記Raは更に置換基を有していてもよい。
前記Raが有していてもよい置換基としては、アルキル基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜12、特に好ましくは1〜8のものであり、例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ヘキサデシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル、シクロヘキシル基などが挙げられる。)、アルケニル基(好ましくは炭素原子数2〜20、より好ましくは2〜12、特に好ましくは2〜8であり、例えばビニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ペンテニル基などが挙げられる。)、アルキニル基(好ましくは炭素原子数2〜20、より好ましくは2〜12、特に好ましくは2〜8であり、例えばプロパルギル基、3−ペンチニル基などが挙げられる。)、アリール基(好ましくは炭素原子数6〜30、より好ましくは6〜20、特に好ましくは6〜12であり、例えばフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。)、アミノ基(好ましくは炭素原子数0〜20、より好ましくは0〜10、特に好ましくは0〜6であり、例えばアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基などが挙げられる。)、アルコキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜12、特に好ましくは1〜8であり、例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。)、アリールオキシ基(好ましくは炭素原子数6〜20、より好ましくは6〜16、特に好ましくは6〜12であり、例えばフェニルオキシ基、2−ナフチルオキシ基などが挙げられる。)、アシル基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばアセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基などが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素原子数2〜20、より好ましくは2〜16、特に好ましくは2〜12であり、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などが挙げられる。)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素原子数7〜20、より好ましくは7〜16、特に好ましくは7〜10であり、例えばフェニルオキシカルボニル基などが挙げられる。)、アシルオキシ基(好ましくは炭素原子数2〜20、より好ましくは2〜16、特に好ましくは2〜10であり、例えばアセトキシ基、ベンゾイルオキシ基などが挙げられる。)、アシルアミノ基(好ましくは炭素原子数2〜20、より好ましくは2〜16、特に好ましくは2〜10であり、例えばアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基などが挙げられる。)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素原子数2〜20、より好ましくは2〜16、特に好ましくは2〜12であり、例えばメトキシカルボニルアミノ基などが挙げられる。)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素原子数7〜20、より好ましくは7〜16、特に好ましくは7〜12であり、例えばフェニルオキシカルボニルアミノ基などが挙げられる。)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばメタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基などが挙げられる。)、スルファモイル基(好ましくは炭素原子数0〜20、より好ましくは0〜16、特に好ましくは0〜12であり、例えばスルファモイル基、メチルスルファモイル基、ジメチルスルファモイル基、フェニルスルファモイル基などが挙げられる。)、カルバモイル基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばカルバモイル基、メチルカルバモイル基、ジエチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基などが挙げられる。)、アルキルチオ基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばメチルチオ基、エチルチオ基などが挙げられる。)、アリールチオ基(好ましくは炭素原子数6〜20、より好ましくは6〜16、特に好ましくは6〜12であり、例えばフェニルチオ基などが挙げられる。)、スルホニル基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばメシル基、トシル基などが挙げられる。)、スルフィニル基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばメタンスルフィニル基、ベンゼンスルフィニル基などが挙げられる。)、ウレイド基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばウレイド基、メチルウレイド基、フェニルウレイド基などが挙げられる。)、リン酸アミド基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばジエチルリン酸アミド、フェニルリン酸アミドなどが挙げられる。)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素原子数1〜30、より好ましくは1〜12であり、ヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子、具体的には例えばイミダゾリル基、ピリジル基、キノリル基、フリル基、ピペリジル基、モルホリノ基、ベンゾオキサゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズチアゾリル基などが挙げられる。)、シリル基(好ましくは、炭素原子数3〜40、より好ましくは3〜30、特に好ましくは3〜24であり、例えば、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などが挙げられる)などが挙げられる。これらの置換基は更に置換されてもよい。また、置換基が二つ以上ある場合は、同じでも異なってもよい。また、可能な場合には互いに連結して環を形成してもよい。
【0053】
前記、X〜Xは、単結合又は2価の連結基を表し、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。X、X、X及びXは単結合であることが好ましい。2価の連結基としては、下記連結基群(L)の中から選ばれることが好ましい。
連結基群(L)
【0054】
【化5】

【0055】
(*側が前記一般式(1)で表される化合物中の1,3,5−トリアジン環に置換しているN原子との連結部位である。)
【0056】
前記R、R、R及びRがアルキル基である場合、炭素数1〜12であることが好ましく、炭素数1〜6であることがより好ましく、炭素数1〜4であることが特に好ましい。
前記R、R、R及びRがアルケニル基である場合、炭素数2〜12であることが好ましく、炭素数2〜6であることがより好ましく、炭素数2〜4であることが特に好ましい。
前記R、R、R及びRがアルキニル基である場合、炭素数2〜12であることが好ましく、炭素数2〜6であることがより好ましく、炭素数2〜4であることが特に好ましい。
前記R、R、R及びRがアリール基である場合、炭素数6〜18であることが好ましく、炭素数6〜12であることがより好ましく、炭素数6であることが特に好ましい。
前記R、R、R及びRは水素原子、アルキル基、又はアリール基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
前記R、R、R及びRは更に置換基を有していてもよく、該置換基としては前記Raが有していてもよい置換基を挙げることができる。
【0057】
一般式(2)
【0058】
【化6】

【0059】
(一般式(2)中、Rb及びRcはそれぞれ独立に置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換の複素環基、又は、置換若しくは無置換のアリール基を表す。X及びXはそれぞれ独立に単結合又は2価の連結基を表す。R及びRはそれぞれ独立に水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のアシル基、又は、置換若しくは無置換の複素環基を表す。)
【0060】
前記Rb及びRcはそれぞれ独立にアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基又はアリール基を表し、具体例は前記Raの具体例と同様であり、アルキル基又はアリール基が好ましい。
【0061】
及びXはそれぞれ独立に単結合又は2価の連結基を表し、具体例及び好ましい範囲は前記X、X、X及びXの具体例及び好ましい範囲と同様である。
【0062】
前記R及びRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アシル基又は複素環基を表し、具体例及び好ましい範囲は前記R、R、R及びRの具体例及び好ましい範囲と同様である。
【0063】
このような化合物の添加量は特に限定されないが、セルロースエステルに対し0.001〜20質量%であることが好ましく、0.01〜10質量%が好ましく、0.05〜5質量%が好ましく、0.1〜3質量%が最も好ましい。
【0064】
以下、アミノ基を有する化合物として、本発明に好ましく用いることのできる一般式(1)又は(2)で表される化合物を示す。
【0065】
【化7】

【0066】
【化8】

【0067】
また、アミノ基を有する化合物としては、ピリジン又はピリミジン母核とし、置換可能ないずれかの位置にアミノ基を置換基として有するものも好ましく、下記一般式(3)で表される化合物であることも好ましい。
一般式(3)
【0068】
【化9】

【0069】
一般式(3)中、Yはメチン基又は窒素原子を表す。Qa、Qb及びQcはそれぞれ独立に単結合又は2価の連結基を表す。Ra、Rb、及びRcはそれぞれ独立に水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアリール基、シアノ基、ハロゲン原子、置換若しくは無置換の複素環基、又は、−N(Rd)(Rd’)を表し、Rd及びRd’はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、Rd及びRd’は互いに連結して環を形成してもよい。RaとRbは互いに連結して環を形成してもよい。Xは単結合又は下記2価の連結基群(L)から選択される2価の連結基を表す。Xは単結合又は2価の連結基を表す。R及びRはそれぞれ独立に水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアリール基、又は、置換若しくは無置換の複素環基を表し、RとRは互いに連結して環を形成してもよい。
連結基群(L)
【0070】
【化10】

【0071】
(各式中、*側が前記一般式(3)で表される化合物中の含窒素芳香環に置換している窒素原子との連結部位であり、Rは置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアリール基、又は、置換若しくは無置換の複素環基を表す。)
【0072】
一般式(3)中、Yはメチン基又は窒素原子を表す。水素結合性を増大させる観点から、Yは窒素原子を表すことが好ましい。
【0073】
一般式(3)中、Qa、Qb及びQcはそれぞれ独立に単結合又は2価の連結基を表す。
Qa、Qb及びQcが2価の連結基を表す場合、該2価の連結基としては、酸素原子、硫黄原子、又は、−N(Rf)−が好ましい(Rfは水素原子又はアルキル基を表す)。
Rfがアルキル基を表す場合、炭素原子数1〜10のアルキル基が好ましく、炭素原子数1〜5のアルキル基がより好ましい。
Qaは、単結合、酸素原子、又は−NH−を表すことが好ましく、単結合又は酸素原子を表すことがより好ましい。
Qbは、単結合を表すことが好ましい。
Qcは、単結合を表すことが好ましい。
【0074】
一般式(3)中、Ra、Rb、及びRcはそれぞれ独立に水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアリール基、シアノ基、ハロゲン原子、置換若しくは無置換の複素環基、又は、−N(Rd)(Rd’)を表し、Rd及びRd’はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、Rd及びRd’は互いに連結して環を形成してもよい。RaとRbは互いに連結して環を形成してもよい。
Ra、Rb、及びRcがアルキル基を表す場合、炭素数1〜12であることが好ましく、炭素数1〜8であることがより好ましく、炭素数1〜6であることが更に好ましく、炭素数1〜4であることが特に好ましい。
Ra、Rb、及びRcがアルケニル基を表す場合、炭素数2〜12であることが好ましく、炭素数2〜6であることがより好ましく、炭素数2〜4であることが特に好ましい。
Ra、Rb、及びRcがアルキニル基を表す場合、炭素数2〜12であることが好ましく、炭素数2〜6であることがより好ましく、炭素数2〜4であることが特に好ましい。
Ra、Rb、及びRcがアリール基を表す場合、炭素数6〜18であることが好ましく、炭素数6〜12であることがより好ましく、炭素数6(フェニル基)であることが特に好ましい。
Ra、Rb、及びRcが複素環基を表す場合、モルホリニル基などが挙げられる。
Ra、Rb、及びRcが−N(Rd)(Rd’)を表す場合、Rd又はRd’が水素原子であることが好ましい。
【0075】
Ra、Rb、Rcは置換基を有していてもよく、該置換基としては前記一般式(1)におけるRaが有していてもよい置換基と同様である。
【0076】
RaとRbは互いに連結して環を形成してもよく、環を形成する場合の環としては含窒素芳香族環であることが好ましく、イミダゾール環であることがより好ましい。
【0077】
Raは、水素原子、アルキル基、又はアリール基であることが好ましく、水素原子又はアルキル基であることがより好ましい。
Rbは、水素原子であることが好ましい。
Rcは、−N(Rd)(Rd’)であることが好ましい。
【0078】
Rd及びRd’はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、Rd及びRd’は互いに連結して環を形成してもよい。Rd及びRd’が置換基を表す場合、該置換基としては前記Ra、Rb、Rcが有してもよい置換基と同様である。また、Rd、Rd’は更に置換基を有してもよく、該更なる置換基としては前記Ra、Rb、Rcが有してもよい置換基と同様である。
【0079】
一般式(3)中、Xは単結合又は前記連結基群(L)から選択される2価の連結基を表す。
は、下記3種の連結基のいずれかであることがより好ましく、カルボニル基であることが更に好ましい。
【0080】
【化11】

【0081】
一般式(3)中、Xは単結合又は2価の連結基を表す。Xが2価の連結基を表す場合の具体例及び好ましい範囲は、Qa、Qb及びQcが2価の連結基を表す場合の具体例及び好ましい範囲と同様である。
は、単結合を表すことが好ましい。
【0082】
一般式(3)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアリール基、又は、置換若しくは無置換の複素環基を表し、RとRは互いに連結して環を形成してもよい。
【0083】
及びRがアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又は複素環基を表す場合、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又は複素環基の具体例及び好ましい範囲としては、前記Ra、Rb、及びRcがアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又は複素環基を表す場合の具体例及び好ましい範囲と同様である。また、R及びRが有してもよい置換基の例も前記Ra、Rb、及びRcが有してもよい置換基の例と同様である。
【0084】
は、置換又は無置換のアリール基を表すことが好ましい。該アリール基が有してもよい置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、置換若しくは無置換のカルバモイル基、又は、置換若しくは無置換のスルファモイル基が好ましく、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基、ハロゲン原子、置換若しくは無置換のカルバモイル基、又は、置換若しくは無置換のスルファモイル基がより好ましい。前記カルバモイル基又はスルファモイル基が有してもよい置換基としては、アルキル基が好ましい。
【0085】
は、水素原子を表すことが好ましい。
【0086】
前記一般式(3)で表される化合物は、下記一般式(4)で表される化合物であることが好ましい。
一般式(4)
【0087】
【化12】

【0088】
一般式(4)中のY、Qa、Qb、Ra、Rb、X、X、R、及びRはそれぞれ、前記一般式(3)中のY、Qa、Qb、Ra、Rb、X、X、R、及びRと同義である。Xは単結合又は前記2価の連結基群(L)から選ばれる連結基を表す。Xは単結合又は2価の連結基を表す。R及びRはそれぞれ独立に水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアリール基、又は、置換若しくは無置換の複素環基を表し、RとRは互いに連結して環を形成してもよい。
【0089】
一般式(4)中のY、Qa、Qb、Ra、Rb、X、X、R、及びRはそれぞれ、前記一般式(3)中のY、Qa、Qb、Ra、Rb、X、X、R、及びRと同義であり、具体例及び好ましい範囲も同様である。
一般式(4)中、Xは単結合又は前記2価の連結基群を表す。Xの具体例及び好ましい範囲は前記一般式(3)中のXの具体例及び好ましい範囲と同様である。
一般式(4)中、Xは単結合又は2価の連結基を表す。Xの具体例及び好ましい範囲は前記一般式(1)中のXの具体例及び好ましい範囲と同様である。
一般式(4)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアリール基、又は、置換若しくは無置換の複素環基を表し、RとRは互いに連結して環を形成してもよい。R及びRの具体例及び好ましい範囲は前記一般式(3)中のR及びRの具体例及び好ましい範囲と同様である。
【0090】
前記一般式(4)で表される化合物が、下記一般式(5)で表される化合物であることが好ましい。
一般式(5)
【0091】
【化13】

【0092】
一般式(5)中のY、Qa、及びRaはそれぞれ、一般式(4)中のY、Qa、及びRaと同義である。Ar及びArはそれぞれ独立に置換若しくは無置換のアリール基を表す。
【0093】
一般式(5)中のY、Qa、及びRaはそれぞれ、一般式(4)中のY、Qa、及びRaと同義であり、具体例及び好ましい範囲も同様である。
一般式(5)中、Ar及びArはそれぞれ独立に置換若しくは無置換のアリール基を表す。該アリール基の具体例及び好ましい範囲は、前記一般式(3)中のRがアリール基を表す場合の具体例及び好ましい範囲と同様である。
【0094】
前記一般式(5)で表される化合物が、下記一般式(6)で表される化合物であることが好ましい。
一般式(6)
【0095】
【化14】

【0096】
一般式(6)中のQa、RaAr、及びArはそれぞれ、一般式(5)中のQa、RaAr、及びArと同義である。
【0097】
一般式(6)中のQa、RaAr、及びArはそれぞれ、一般式(5)中のQa、RaAr、及びArと同義であり、具体例及び好ましい範囲も同様である。
【0098】
前記一般式(6)で表される化合物が、下記一般式(7)で表される化合物であることが好ましい。
一般式(7)
【0099】
【化15】

【0100】
一般式(7)中、Qは単結合、酸素原子、又は−NH−を表す。Ra8は炭素原子数1〜8のアルキル基を表す。R11、R12、R13、R14、R15及びR16はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換のカルバモイル基、置換若しくは無置換のスルファモイル基、炭素原子数1〜8のアルキル基、又は、炭素原子数1〜8のアルコキシ基を表す。
【0101】
一般式(7)中、Qは単結合、酸素原子、又は−NH−を表す。Qは単結合又は酸素原子であることが好ましい。
一般式(7)中、R11、R12、R13、R14、R15及びR16はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換のカルバモイル基、置換若しくは無置換のスルファモイル基、炭素原子数1〜8のアルキル基、又は、炭素原子数1〜8のアルコキシ基を表す。R11、R12、R13、R14、R15及びR16は水素原子、置換若しくは無置換のカルバモイル基、置換若しくは無置換のスルファモイル基、炭素原子数1〜8のアルキル基、又は、炭素原子数1〜8のアルコキシ基であることが好ましく、水素原子、又は炭素原子数1〜8のアルキル基であることがより好ましい。
【0102】
以下、一般式(3)で表される化合物として、本発明に好ましく用いることのできる化合物を示す。
【0103】
【化16】

【0104】
【化17】

【0105】
【化18】

【0106】
【化19】

【0107】
【化20】

【0108】
【化21】

【0109】
【化22】

【0110】
【化23】

【0111】
【化24】

【0112】
【化25】

【0113】
【化26】

【0114】
また、アミノ基を有する化合物としては、下記一般式(8)で表される化合物であることも好ましい。
一般式(8)
【0115】
【化27】

【0116】
一般式(8)中、Qa及びQcはそれぞれ独立に単結合又は2価の連結基を表す。Ra及びRcはそれぞれ独立に水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアリール基、シアノ基、ハロゲン原子、置換若しくは無置換の複素環基、又は、−N(Rd)(Rd’)を表し、Rd及びRd’はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、Rd及びRd’は互いに連結して環を形成してもよい。X81は単結合又は前記2価の連結基群から選択される2価の連結基を表す。X82は単結合又は2価の連結基を表す。R81及びR82はそれぞれ独立に水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアリール基、又は、置換若しくは無置換の複素環基を表し、R81とR82は互いに連結して環を形成してもよい。
【0117】
一般式(8)中、Qa及びQcの具体例は一般式(3)中のQaと同様である。
一般式(8)中、Ra及びRcの具体例は一般式(3)中のRaと同様である。
一般式(8)中、X81の好ましい範囲は一般式(3)中のXと同様である。
一般式(8)中、X82の好ましい範囲は一般式(3)中のXと同様である。
一般式(8)中、R81の好ましい範囲は一般式(3)中のRと同様である。
一般式(8)中、R82の好ましい範囲は一般式(3)中のRと同様である。
【0118】
また、アミノ基を有する化合物としては、下記一般式(9)で表される化合物であることも好ましい。
一般式(9)
【0119】
【化28】

【0120】
一般式(9)中、Qaは単結合又は2価の連結基を表す。Raは水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアリール基、シアノ基、ハロゲン原子、置換若しくは無置換の複素環基、又は、−N(Rd)(Rd’)を表し、Rd及びRd’はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、Rd及びRd’は互いに連結して環を形成してもよい。X91は単結合又は前記2価の連結基群(L)から選ばれる連結基を表す。X92〜X94はそれぞれ独立に単結合又は2価の連結基を表す。R91〜R94はそれぞれ独立に水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアリール基、又は、置換若しくは無置換の複素環基を表す。R91とR92、及びR93とR94は互いに連結して環を形成してもよい。
【0121】
一般式(9)中、Qaの具体例は一般式(3)中のQaと同様である。
一般式(9)中、Raの具体例は一般式(3)中のRaと同様である。
一般式(9)中、X91の好ましい範囲は一般式(3)中のXと同様である。
一般式(9)中、X92〜X94の好ましい範囲は一般式(3)中のXと同様である。
一般式(9)中、R91の好ましい範囲は一般式(3)中のRと同様である。
一般式(9)中、R92〜R94の好ましい範囲は一般式(3)中のRと同様である。
【0122】
一般式(8)又は(9)で表される化合物の具体例を以下に示すが、これらに限定されない。
【0123】
【化29】

【0124】
【化30】

【0125】
また、アミノ基を有する化合物としては、下記一般式(10)で表される化合物であることも好ましい。
一般式(10)
【0126】
【化31】

【0127】
一般式(10)中、X21〜X26はそれぞれ独立に単結合又は2価の連結基を表す。R21〜R26はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アシル基又は複素環基を表す。
【0128】
一般式(10)中、X21〜X26が2価の連結基を表す場合の具体例は、前記一般式(1)におけるXが2価の連結基を表す場合の具体例と同様である。一般式(10)中、X21〜X26が単結合であることが好ましい。
一般式(10)中、R21〜R26の具体例は前記一般式(1)におけるRの具体例と同様である。一般式(10)中、R21、R23、及びR25が水素原子であり、かつR22、R24、及びR26がアリール基であることが好ましい。
【0129】
一般式(10)で表される化合物の具体例としては例えば以下の化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0130】
【化32】

【0131】
本発明の光学フィルムは、更にレターデーションの湿度依存性を低減させる化合物を含むことも好ましい。湿度依存性を低減させる化合物として、下記式(IA)で定義されるΔRth(A)が−100以上0nm未満である化合物を含むこともできる。
式(IA) ΔRth(A)=(ΔRth(rh、A)−ΔRth(rh、0))/Q[式中、ΔRth(rh、A)は、該化合物が添加されたフィルムの25℃・相対湿度10%におけるRthから25℃・相対湿度80%におけるRthを引いた値を表し、ΔRth(rh、0)は、該化合物が添加されていないフィルムの25℃・相対湿度10%におけるRthから25℃・相対湿度80%におけるRthを引いた値を表し、Qは該フィルム中のセルロースエステルの質量を100としたときの該化合物の質量を表す。]
このような化合物を使用すると、少ない添加量でも効果的にΔRthを低減することができるため、セルロースエステルに対する添加剤の総量を減らすことができ、例えば、製膜過程での添加剤の揮散を抑制したり、フィルムの搬送性を向上させたり、フィルムのブリードアウトを抑制したりすることができる。ΔRth(A)は−50〜10nmがより好ましく、−30〜0nmが更に好ましい。
このような化合物としては、水素結合性基を有しており、かつ分子量あたりの水素結合性基密度が高い化合物を挙げることができる。水素結合性基としては、少なくとも1つの−OH基又は−NH基を含有する基であるのが好ましく、例えば、ヒドロキシル基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)、カルバモイル基(−CONHR)、スルファモイル基(−SONHR)、ウレイド基(−NHCONHR)、アミノ基(−NHR)、ウレタン基(−NHCOOR)、アミド基(−NHCOR)がより好ましい。ただし、Rは水素原子、ヒドロキシ基、アミノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基又はヘテロ環基を表すが、好ましくは、水素原子を表す。より好ましくは、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルバモイル基、スルファモイル基又はウレイド基であり、更に好ましくはアミノ基、ヒドロキシル基である。そしてヒドロキシル基のうち、少なくとも1つはフェノール性水酸基であることが更にまた好ましい。
レターデーションの湿度依存性を低減させる化合物としては、例えば下記のような化合物を具体例として挙げることができる。
【0132】
(ヒドロキシル基を有する化合物)
本発明で好ましく用いられるヒドロキシル基を含む化合物であって、より好ましくはフェノール性水酸基を含む化合物としては、例えば、特開2008−89860号の13〜19ページに記載のある化合物Aや、特開2008−233530号の7〜9ページに記載のある一般式(I)で表される化合物を好ましく用いることができる。
【0133】
(その他の高分子系添加剤)
本発明においては、前述した縮合物に加え、付加物である、アクリル酸エステルの付加物、メタクリル酸エステルの付加物を加えることができ、また、ポリエーテル系化合物、ポリウレタン系化合物、ポリエーテルポリウレタン系化合物、ポリアミド系化合物、ポリスルフォン系化合物、ポリスルフォンアミド系化合物(以上はオリゴマーを含む)、更には後述するその他の高分子系化合物から選択される少なくとも1種の化合物を用いることもできる。
その他の高分子系添加剤としては、脂肪族炭化水素系ポリマー、脂環式炭化水素系ポリマー、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等のアクリル系ポリマー(エステル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、tert−ノニル基、ドデシル基、トリデシル基、ステアリル基、オレイル基、ベンジル基、フェニル基など)、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリN−ビニルピロリドン等のビニル系ポリマー、ポリスチレン、ポリ4−ヒドロキシスチレン等のスチレン系ポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア、フェノール−ホルムアルデヒド縮合物、尿素−ホルムアルデヒド縮合物、酢酸ビニル、等が挙げられる。
【0134】
これらポリマー添加剤は1種の繰り返し単位からなる単独重合体でも、複数の繰り返し構造体を有する共重合体でも良い。また、上記ポリマーを2種以上併用して用いても良い。これらの高分子量添加剤は、各々単独で用いても良く、またこれらを混合して用いても同様の効果が得られる。これらの中でも、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステルあるいは他のビニルモノマーとの共重合体が好ましく、特にはポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等のアクリル系ポリマー(エステル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−エチルヘキシル基、イソノニル基、オレイル基)を基本とする高分子可塑剤が好ましい。特にアクリル酸エステルの付加物、又はメタクリル酸エステルの付加物が好ましい。
【0135】
[セルロースエステル]
次に、本発明におけるセルロースエステルについて説明する。
本発明の光学フィルムはセルロースエステルを含む。セルロースエステル含有率が30〜77質量%であることが好ましく、40〜75質量%であることがより好ましく、50〜75質量%であることが更に好ましく、このことにより、偏光板加工性に優れた光学フィルムを製造することができる。
本発明の光学フィルムに用いられるセルロースエステルは、原料のセルロースと酸とのエステルであり、炭素数2〜22程度のカルボン酸エステル(所謂セルロースアシレート)であることが好ましく、炭素数6以下の低級脂肪酸エステルであることがより好ましい。本発明のセルロースアシレートにおいて、セルロースの水酸基に置換する酢酸及び/又は炭素原子数3〜22の脂肪酸の置換度の測定方法としては、ASTMのD−817−91に準じた方法や、NMR法を挙げることができる。そして、炭素数2〜22程度のセルロースアシレートである場合には、前記縮合物を用い、特に炭素数2のセルロースアセテートである場合には、これに加え、繰り返し単位を有する付加物(例えばアクリル酸エステルの付加物、メタクリル酸エステルの付加物など)も好ましく用いることによって液晶表示装置の光ムラを改善することができる。
本発明に用いられるセルロースエステルの原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ,針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースエステルでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えばプラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂(丸澤、宇田著、日刊工業新聞社、1970年発行)や発明協会公開技報2001−1745(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができ、本発明の光学フィルムに対しては特に限定されるものではない。
【0136】
本発明のセルロースアシレートにおいて、セルロースの水酸基への置換度については特に限定されないが、偏光板保護フィルム、光学フィルムの用途に用いる場合、アシル置換度が高い方がフィルムの透湿性や吸湿性に優れるため好ましい。このため、セルロースの水酸基へのアシル置換度が2.50〜3.00であることが好ましい。更には置換度が2.70〜2.96であることが好ましく、2.80〜2.94であることがより好ましい。
【0137】
セルロースの水酸基に置換する酢酸及び/又は炭素原子数3〜22の脂肪酸のうち、炭素数2〜22のアシル基としては、脂肪族基でも芳香族基でもよく特に限定されず、単一でも二種類以上の混合物でもよい。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれ更に置換された基を有していてもよい。これらの好ましいアシル基としては、アセチル、プロピオニル、ブタノイル、へプタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、アセチル、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどが好ましく、アセチル、プロピオニル、ブタノイルがより好ましい。
【0138】
これらの中でも、合成の容易さ、コスト、置換基分布の制御のしやすさなどの観点から、アセチル基、アセチル基とプロピル基の混合エステルが好ましく、アセチル基が特に好ましい。
【0139】
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度で180〜700であり、セルロースアセテートにおいては、180〜550がより好ましく、180〜400が更に好ましく、180〜350が特に好ましい。重合度が高すぎるとセルロースアシレートのドープ溶液の粘度が高くなり、流延によりフィルム作製が困難になる傾向がある。重合度が低すぎると作製したフィルムの強度が低下してしまう傾向がある。平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)により測定できる。特開平9−95538に詳細に記載されている。
【0140】
また、本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの分子量分布はゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって評価され、その多分散性指数Mw/Mn(Mwは質量平均分子量、Mnは数平均分子量)が小さく、分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0〜4.0であることが好ましく、2.0〜3.5であることが更に好ましく、2.3〜3.4であることが最も好ましい。
【0141】
低分子成分が除去されると、平均分子量(重合度)が高くなるが、粘度は通常のセルロースアシレートよりも低くなるため有用である。低分子成分の少ないセルロースアシレートは、通常の方法で合成したセルロースアシレートから低分子成分を除去することにより得ることができる。低分子成分の除去は、セルロースアシレートを適当な有機溶媒で洗浄することにより実施できる。なお、低分子成分の少ないセルロースアシレートを製造する場合、酢化反応における硫酸触媒量を、セルロース100質量部に対して0.5〜25質量部に調整することが好ましい。硫酸触媒の量を上記範囲にすると、分子量分布の点でも好ましい(分子量分布が狭い)セルロースアシレートを合成することができる。本発明のセルロースアシレートフィルムの製造時に使用される際には、セルロースアシレートの含水率は2質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは1質量%以下であり、特に好ましくは0.7質量%以下である。一般に、セルロースアシレートは、水を含有しており、その含水率は2.5〜5質量%が知られている。本発明で上記のようなセルロースアシレートの含水率にするためには、乾燥することが必要であり、その方法は目的とする含水率になれば特に限定されない。本発明のこれらのセルロースアシレートに関しては、その原料綿や合成方法は発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて7頁〜12頁に詳細に記載されている。
【0142】
本発明では、セルロースアシレートは置換基、置換度、重合度、分子量分布などの観点で、単一あるいは異なる二種類以上のセルロースアシレートを混合して用いることができる。
【0143】
[レターデーション調整剤]
本発明の光学フィルムの光学異方性は、先述の縮合物の添加によって制御されるが、目的のレターデーションに応じて、更に異なるレターデーション調整剤(光学異方性調整剤)を加えてもよい。例えば、公開特許公報 特開2006−30937号23ページから72ページに記載のRthを低減させる化合物を添加することもできるし、Rthを上昇させる化合物、具体的には、芳香環を1個以上有する化合物が好ましく、2〜15個有することがより好ましく、3〜10個有することが更に好ましい。化合物中の芳香環以外の各原子は、芳香環と同一平面に近い配置であることが好ましく、芳香環を複数有している場合には、芳香環同士も同一平面に近い配置であることが好ましい。また、Rthを選択的に上昇させるため、添加剤のフィルム中での存在状態は、芳香環平面がフィルム面と平行な方向に存在していることが好ましい。
前記添加剤は、単独で使用しても良いし、2種類以上の添加剤を組み合わせて使用しても良い。
Rthを上昇させる効果のある添加剤としては、具体的には、特開2005−104148号公報の33〜34頁に記載の可塑剤や、特開2005−104148号公報の38〜89頁に記載の光学異方性のコントロール剤などが挙げられる。詳細な理由は分かっていないが、本発明においては、液晶表示装置を斜めから観察した際に視認される円形状の光ムラの視認性を抑制するために、Rthを上昇させる効果のある低分子化合物を含有させることが、好ましい。このような化合物を添加することによって、後述するRth湿熱耐久性を適切に制御することができる。
【0144】
[レターデーション]
本発明の光学フィルムは、波長590nmで測定したRe及びRth(下記式(I)及び式(II)にて定義される)を、用途に応じて適切に調整することが重要であり、この値は、セルロースエステルの置換基の種類や置換度、前述の縮合物の種類や添加量、フィルムの膜厚、製膜時の工程条件、延伸工程などにより制御することができる。
本発明の光学フィルムのレターデーションを低減させ、例えば、IPSモードの液晶パネル用途で使用する場合には、下記式(IIIa)及び(IVa)を満たすことが好ましく、更に保護フィルムとして用いられる光学フィルムを支持体として、後述の機能層を設けることもできる。これにより、例えば、液晶表示装置の表示画面のコントラストを向上させたり、視野角特性や色味を改善したりすることができる。
式(I) Re=(nx−ny)×d(nm)
式(II) Rth={(nx+ny)/2−nz}×d(nm)
式(IIIa) Re<10
式(IVa) |Rth|<25
(式中、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率であり、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率であり、nzはフィルムの厚み方向の屈折率であり、dはフィルムの厚さ(nm)である。)
この場合、面内の遅相軸の方位は特に限定されないが、面内でフィルムの弾性率が最大となる方位に対して略並行若しくは略直交であることが好ましい。Reは0〜5nmがより好ましい。また、Rthは−15〜5nmがより好ましく、−10〜0nmが更に好ましい。本発明のセルロースアシレートフィルムを液晶表示装置の偏光板の液晶セル側保護フィルムとして用いる場合に、Re及びRthが上記範囲にあると、斜め方向からの光漏れがより改良され、表示品位を向上させることができる。
【0145】
本発明の光学フィルムのレターデーションを積極的に発現させ、例えば、VAモードの液晶パネル用途で使用する場合には、下記式(IIIb)及び(IVb)を満たすことが好ましく、更に保護フィルムとして用いられる光学フィルムを支持体として、後述の機能層を設けることもできる。これにより、例えば、液晶表示装置の表示画面のコントラストを向上させたり、視野角特性や色味を改善したりすることができる。
式(IIIb): 30≦Re≦85
式(IVb): 80≦Rth≦300
この場合、面内の遅相軸の方位は特に限定されないが、面内でフィルムの弾性率が最大となる方位に対して略並行若しくは略直交であることが好ましく、略並行であることがより好ましい。
【0146】
更に、本発明の光学フィルムのレターデーションを積極的に発現させ、例えば、IPSモードの液晶パネル用途で使用する場合には、下記式(IIIc)及び(Vc)を満たすことが好ましく、更に保護フィルムとして用いられる光学フィルムを支持体として、後述の機能層を設けることもできる。これにより、例えば、液晶表示装置の表示画面のコントラストを向上させたり、視野角特性や色味を改善したりすることができる。
式(IIIc): 60≦Re≦400
式(IVc): −0.5≦Rth/Re≦0.5
この場合、面内の遅相軸の方位は特に限定されないが、面内でフィルムの弾性率が最大となる方位に対して略並行若しくは略直交であることが好ましい。
【0147】
なお、Re及びRthは次のようにして測定できる。(レターデーション)
本明細書において、Re、Rth(単位;nm)は次の方法に従って求めたものである。まず、フィルムを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、プリズムカップラー(MODEL2010 Prism Coupler:Metricon製)を用い、25℃、相対湿度60%において、532nmの固体レーザーを用いて下記式(2)で表される平均屈折率(n)を求める。
式(2): n=(nTE×2+nTM)/3[式中、nTEはフィルム平面方向の偏光で測定した屈折率であり、nTMはフィルム面法線方向の偏光で測定した屈折率である。]
【0148】
本明細書において、Re(λnm)、Rth(λnm)は各々、波長λ(単位;nm)における面内レターデーション及び厚さ方向のレターデーションを表す。Re(λnm)はKOBRA 21ADH又はWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。
測定されるフィルムが一軸又は二軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λnm)は算出される。
Rth(λnm)は前記Re(λnm)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50°まで10°ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。
上記において、λに関する記載が特になく、Re、Rthとのみ記載されている場合は、波長590nmの光を用いて測定した値のことを表す。また、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADH又はWRが算出する。
なお、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率及び入力された膜厚値を基に、以下の式(3)及び式(4)よりRthを算出することもできる。
【0149】
式(3)
【0150】
【数1】

【0151】
[式中、Re(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表す。また、nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する厚み方向の屈折率を表し、dはフィルムの膜厚を表す。]
式(4): Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
測定されるフィルムが一軸や二軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λnm)は算出される。
Rth(λnm)は前記Re(λnm)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。これら平均屈折率と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADH又はWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
また、上記の測定において、平均屈折率は、ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することもできる。平均屈折率の値が既知でないものについては、前述の方法で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。
【0152】
(湿度依存性)
本発明において、Reの湿度依存性(ΔRe)及びRthの湿度依存性(ΔRth)は、相対湿度がH(単位;%)であるときの面内方向及び膜厚方向のレターデーション値:Re(H%)及びRth(H%)から、下記式に基づいて算出される。
ΔRe=Re(10%)−Re(80%)
ΔRth=Rth(10%)−Rth(80%)
Re(H%)及びRth(H%)は、フィルムを25℃、相対湿度H%にて24時間調湿後、25℃、相対湿度H%において、前記方法と同様にして、相対湿度H%における測定波長が590nmであるときのレターデーション値を測定、算出したものである。なお、相対湿度を明記せずに単にReと表記されている場合は、相対湿度60%で測定した値である。
本発明のセルロースアシレートフィルムの湿度を変化させた場合のレターデーション値は、ΔReが−30〜30nm、かつΔRthが−30〜30nmであることが好ましく、ΔReが−15〜15nm、かつΔRthが−15〜15nmであることがより好ましく、ΔReが−10〜10nm、かつΔRthが−10〜10nmであることが更に好ましく、ΔReが−5〜5nm、かつΔRthが−5〜5nmであることが特に好ましい。
上記湿度を変化させた場合のレターデーション値を制御することにより、外部環境が変化した場合のレターデーション変化を低下させることができ、信頼性の高い液晶表示装置を提供することができる。
また、本発明の光学フィルムのΔRthを低減させることによって、特定の条件で液晶表示装置を表示面の斜めから観察した際に視認される円形状の色ムラが改善されるという好ましい効果も得られる。
【0153】
(Rth湿熱耐久性)
本発明において、Rthの湿熱耐久性、すなわち湿熱環境下で保持した場合のRth変化は、下記のようにして算出することができ、画像表示装置の信頼性向上、及び液晶表示装置を斜めから観察した際に視認される円形状の光ムラの視認性を抑制する観点から、小さいほうが好ましく、Rth変化は、20nm以下であることが好ましく、−20nm〜15nmであることがより好ましく、−15nm〜10nmであることが更に好ましく、−10nm〜8nmであることが特に好ましく、−7nm〜5nmであることが最も好ましい。
<Rth湿熱耐久性>
偏光子と該偏光子を挟む2枚の保護フィルムからなる偏光板において、一方の保護フィルムとして本発明の光学フィルムを用い、他方の保護フィルムとして一般的なセルロースアシレートフィルム(例えばフジタックTD60UL)を用いた偏光板を作製し、本発明の光学フィルム側に粘着剤を転写させた上でガラス板に貼合し、これを80℃、相対湿度90%の条件で130時間放置する。得られた偏光板から一般的なセルロースアシレートフィルム及び偏光子を剥がし、ガラス板に残ったフィルムが透明であることを目視確認した上で、前述の方法に準じてレターデーション測定を行い、下記式にしたがってRth湿熱耐久性を算出する。なお、Rthは波長590nmの光を用いて測定したものであり、下記「製膜直後のフィルムのRth」は25℃、相対湿度60%における条件で測定したRthである。
Rth湿熱耐久性=(ガラス板に残ったフィルムのRth)−(製膜直後のフィルムのRth)(nm)
【0154】
[フィルムの寸法変化率]
本発明の光学フィルムの寸法変化率は、60℃、90%RHの条件下に24時間静置した場合(高湿)の寸法変化を初期長で除した値として測定することができ、これを低減させることによって、湿熱環境下で保持した場合のレターデーション変化を抑制できることが判明した。したがって、本発明の光学フィルムの寸法変化は3%以下であることが好ましく、0.05〜3%であることがより好ましく、0.05〜1%であることが更に好ましく、0.05〜0.5%であることがもっとも好ましい。寸法変化率を小さくすることによって、フィルムを湿熱環境下で保持した場合のレターデーション変化を抑制することができるが、この効果は寸法変化率を0.05%まで小さくすると、十分に得ることができる。
本発明の光学フィルムの寸法変化率は、具体的には下記の方法で測定することができる。まず、フィルムの弾性率が最大となる方向を長手方向として切り出した長さ25cm(測定方向)、幅5cmのフィルム試料を用意し、該試料に20cmの間隔でピン孔を空け、25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、ピン孔の間隔をピンゲージで測長する(測定値をLとする)。次いで、試料を60℃、相対湿度90%の湿熱環境下で24時間保持した後、25℃、相対湿度60%にて2時間調湿後、ピン孔の間隔をピンゲージで測長する(測定値をLとする)。これらの測定値を用いて下記式により寸法変化率を算出する。
寸法変化率[%]={(L−L)/L}×100
なお、フィルムの寸法変化率を低減させるためには、後述のフィルムの熱処理や水蒸気接触処理が有効である。
【0155】
[フィルムの湿度膨張係数]
本発明において、液晶表示装置を斜めから観察した際に視認される円形状の色ムラは、前述のRthの湿度依存性に加え、フィルムの湿度膨張係数を低減することによって、より視認されにくくなることが判明した。本発明における湿度膨張係数を測定する際には、弾性率が最大となる方向を長手方向として切り出した長さ25cm(測定方向)、幅5cmのフィルム試料を用意し、該試料に20cmの間隔でピン孔を空け、25℃、相対湿度10%にて24時間調湿後、ピン孔の間隔をピンゲージで測長する(測定値をLとする)。次いで、試料を25℃、相対湿度80%にて24時間調湿後、ピン孔の間隔をピンゲージで測長する(測定値をLとする)。これらの測定値を用いて下記式により湿度膨張係数を算出する。
湿度膨張係数[ppm/%RH]={(L−L)/L}/70×10
上記70は測定した湿度の差(%)である。
本発明のフィルムの湿度膨張係数は、55ppm/%RH以下であることが好ましく、3〜50ppm/%RHがより好ましく、5〜45ppm/%RHが更に好ましい。本発明の湿度膨張係数は例えば、本発明の光学フィルムに含まれるセルロースアシレートの結晶化度を上昇させること、本発明の光学フィルムを延伸することなどによって低減することができる。
【0156】
フィルムの湿度膨張係数や後述する引っ張り弾性率と、液晶表示装置を斜めから観察したときの色ムラの視認性との関係の詳細は不詳であるが、フィルムの湿度膨張係数や引っ張り弾性率を低減することにより、フィルムが例えば、ガラスや偏光膜のような剛性の高い支持体に固定された状態で環境湿度の変化に伴って発生する内部応力を低減することができ、その結果、フィルムのレターデーションの湿度依存性をより抑制できるためと考えることができる。
【0157】
[マット剤微粒子]
本発明の光学フィルムには、マット剤として微粒子を加えることが好ましい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子はケイ素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見かけ比重は90〜200g/リットル以上が好ましく、100〜200g/リットル以上が更に好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0158】
これらの微粒子は、通常平均粒子径が0.1〜3.0μmの2次粒子を形成し、これらの微粒子はフィルム中では、1次粒子の凝集体として存在し、フィルム表面に0.1〜3.0μmの凹凸を形成させる。2次平均粒子径は0.2μm以上1.5μm以下が好ましく、0.4μm以上1.2μm以下が更に好ましく、0.6μm以上1.1μm以下が最も好ましい。1次、2次粒子径はフィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒径とした。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子径とした。
【0159】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0160】
これらの中でアエロジル200V、アエロジルR972Vが1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上である二酸化珪素の微粒子であり、光学フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数をさげる効果が大きいため特に好ましい。
【0161】
本発明において2次平均粒子径の小さな粒子を有する光学フィルムを得るために、微粒子の分散液を調製する際にいくつかの手法が考えられる。例えば、溶剤と微粒子を撹拌混合した微粒子分散液をあらかじめ作成し、この微粒子分散液を別途用意した少量のセルロースアシレート溶液に加えて撹拌溶解し、更にメインのセルロースアシレートドープ液と混合する方法がある。この方法は二酸化珪素微粒子の分散性がよく、二酸化珪素微粒子が更に再凝集しにくい点で好ましい調製方法である。ほかにも、溶剤に少量のセルロースエステルを加え、撹拌溶解した後、これに微粒子を加えて分散機で分散を行いこれを微粒子添加液とし、この微粒子添加液をインラインミキサーでドープ液と十分混合する方法もある。本発明はこれらの方法に限定されないが、二酸化珪素微粒子を溶剤などと混合して分散するときの二酸化珪素の濃度は5〜30質量%が好ましく、10〜25質量%が更に好ましく、15〜20質量%が最も好ましい。分散濃度が高い方が添加量に対する液濁度は低くなり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
最終的なセルロースアシレートのドープ溶液中でのマット剤の添加量は1mあたり0.01〜1.0gが好ましく、0.03〜0.3gが更に好ましく、0.08〜0.16gが最も好ましい。また、セルロースアシレートフィルムが例えば共流延のような製膜方法で多層から形成される場合、内層への添加はせず、表層側のみに添加することが好ましく、この場合は、表層のマット剤の添加量としては0.001質量%以上0.2質量%以下が好ましく、0.01質量%以上0.1質量%以下がより好ましい。
【0162】
分散に使用される溶剤としては低級アルコール類が好ましく、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。低級アルコール以外の溶媒としては特に限定されないが、セルロースアシレートの製膜時に用いられる溶剤を用いることが好ましい。
【0163】
[その他の添加剤]
前述の縮合物、レターデーション調整剤、マット粒子の他に、本発明の光学フィルムには、種々の添加剤(例えば、可塑剤、紫外線吸収剤、劣化防止剤、剥離剤、赤外線吸収剤、波長分散調整剤など)を加えることができ、それらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば20℃以下と20℃以上の紫外線吸収材料の混合や、同様に可塑剤の混合などであり、例えば特開2001−151901号などに記載されている。更にまた、赤外吸収染料としては例えば特開2001−194522号に記載されている。またその添加する時期はドープ作製工程において何れで添加しても良いが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。更にまた、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。また、光学フィルムが多層から形成される場合、各層の添加物の種類や添加量が異なってもよい。例えば特開2001−151902号などに記載されているが、これらは従来から知られている技術である。これらの詳細は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて16頁〜22頁に詳細に記載されている素材が好ましく用いられる。
【0164】
[添加剤の添加量]
本発明の光学フィルムにおいては、前述の縮合物に加えてこれら他の添加剤を添加する場合、添加剤の総量は、使用されるポリマー(フィルムに含まれる分子量5000以上の成分であって、セルロースアシレートも含む)の総量に対して30質量%以上200質量%以下であることが好ましく、35質量%以上150質量%以下であることが好ましい。
【0165】
[光学フィルムの製造方法]
(セルロースアシレート溶液の有機溶媒)
本発明では、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートを含むフィルムを製造することが好ましく、セルロースアシレートを含むポリマーを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムは製造される。本発明の主溶媒として好ましく用いられる有機溶媒は、セルロースアシレートを含むポリマーが溶解するものであれば特に限定されないが、炭素原子数が3〜12のエステル、ケトン、エーテル、及び炭素原子数が1〜7のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒が好ましい。エステル、ケトン及び、エーテルは、環状構造を有していてもよい。エステル、ケトン及びエーテルの官能基(すなわち、−O−、−CO−及び−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、主溶媒として用いることができ、たとえばアルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。
【0166】
以上本発明の光学フィルムに対しては塩素系のハロゲン化炭化水素を主溶媒としても良いし、発明協会公開技報2001−1745(12頁〜16頁)に記載されているように、非塩素系溶媒を主溶媒としても良く、本発明の光学フィルムに対しては特に限定されるものではない。
【0167】
その他、本発明のセルロースアシレート溶液及びフィルムについての溶媒は、その溶解方法も含め以下の特許に開示されており、好ましい態様である。それらは、例えば、特開2000−95876、特開平12−95877、特開平10−324774、特開平8−152514、特開平10−330538、特開平9−95538、特開平9−95557、特開平10−235664、特開平12−63534、特開平11−21379、特開平10−182853、特開平10−278056、特開平10−279702、特開平10−323853、特開平10−237186、特開平11−60807、特開平11−152342、特開平11−292988、特開平11−60752、特開平11−60752などに記載されている。これらの特許によると本発明のセルロースアシレートに好ましい溶媒だけでなく、その溶液物性や共存させる共存物質についても記載があり、本発明においても好ましい態様である。
【0168】
(溶解工程)
本発明のセルロースアシレート溶液(ドープ)の調製は、その溶解方法は特に限定されず、室温でもよく、更には冷却溶解法あるいは高温溶解方法、更にはこれらの組み合わせで実施される。本発明におけるセルロースアシレート溶液の調製、更には溶解工程に伴う溶液濃縮、ろ過の各工程に関しては、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて22頁〜25頁に詳細に記載されている製造工程が好ましく用いられる。
【0169】
(流延、乾燥、巻き取り工程)
次に、本発明のセルロースアシレート溶液を用いたフィルムの製造方法について述べる。本発明の光学フィルムを製造する方法及び設備は、従来セルローストリアセテートフィルム製造に供する溶液流延製膜方法及び溶液流延製膜装置を用いることができる。溶解機(釜)から調製されたドープ(セルロースアシレート溶液)を貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製をする。ドープをドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延され、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離する。このとき、ダイの口金から押出されるドープは1種類でも良く、2種類以上の異なる組成のドープを同時に押出して複数層の流延を行っても良い(所謂、共流延)。得られるウェブの両端をクリップで挟み、幅保持しながらテンターで搬送して乾燥し、続いて得られたフィルムを乾燥装置のロール群で機械的に搬送し乾燥を終了して巻き取り機でロール状に所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせはその目的により変わる。別の態様としては、先述の金属支持体を0℃以下に冷却したドラムとし、ドラム上にダイから流延したドープをゲル化してから約1周した時点で剥ぎ取り、ピン状のテンターで延伸しながら搬送し、乾燥する方法など、ソルベントキャスト法で製膜する様々な方法をとることが可能である。
本発明においては、金属支持体から剥離する工程とロール状に巻き取る工程の間に、両端部を切り落とす工程(いわゆる耳切り工程)を少なくとも1回以上実施することが好ましく、テンター出口とロール乾燥工程の後の2回以上実施することがより好ましい。耳切り工程は、フィルム端部をスリットする装置を設置することによって実施され、スリットする装置は特に限定されないが、例えばNT型カッター、ロール状の回転刃、レーザー光等を使用することができ、フィルムの左右両端部に設置して実施することが好ましい。例えば、超鋼鋼材で形成された円盤状の回転上刃と、ロール状の回転下刃とを備えとからなる装置を挙げることができる。
本発明の光学フィルムの主な用途である、電子ディスプレイ用の光学部材である機能性偏光板保護フィルムやハロゲン化銀写真感光材料に用いる溶液流延製膜方法においては、溶液流延製膜装置の他に、下引層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層等のフィルムへの表面加工のために、塗布装置が付加されることが多い。これらについては、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて25頁〜30頁に詳細に記載されており、流延(共流延を含む),金属支持体,乾燥,剥離などに分類され、本発明において好ましく用いることができる。
【0170】
〔熱処理工程〕
本発明の光学フィルムの製造方法においては、必要に応じて、前記光学フィルムを、更に熱処理する工程を適用することもできる。熱処理工程の効果は特に限定されることはないが、光学フィルムが熱エネルギーを得るため、セルロースアシレート分子の高次構造がより安定な構造に遷移しやすくなる結果、フィルムの寸法変化率や、フィルムを湿熱環境下で保持した場合のレターデーション変化を、抑制することができると考えられる。熱処理工程においては、フィルムの種類に応じて温度と張力を適切に制御することが重要であり、温度は後述の示差走査型熱量計を用いて測定したガラス転移温度より高いほうが短時間の熱処理で実施できるため好ましく、張力は低いほうが熱処理工程で期待される効果を十分に得ることができるため好ましい。
【0171】
〔水蒸気接触工程〕
本発明の光学フィルムの製造方法においては、必要に応じて、前記光学フィルムに、更に後述の接触気体を接触させる状態を維持する工程(水蒸気接触工程)を適用することもできる。水蒸気接触工程の効果は限定されることはないが、フィルムの寸法変化率や、フィルムを湿熱環境下で保持した場合のレターデーション変化を、短時間の処理で抑制することができる。いかなる理論に拘泥するものでもないが、このことは、光学フィルムに後述の接触気体を接触させると、光学フィルムが接触気体の分子を吸収し、フィルムのガラス転移温度が減少することになり、熱エネルギーを得るため、セルロースアシレートを含む光学フィルムにおける接触気体の分子の拡散が促進され、そのことにより、セルロースアシレート分子の高次構造がより安定な構造に遷移しやすくなる結果、単なる熱処理に比べ、セルロースアシレート分子の構造安定化を短時間で行うことができることに起因すると考えられる。なお、水蒸気接触工程は本発明の製造方法において任意の場所で実施することができるが、前述の延伸工程又は熱処理工程や、後述の有機溶媒接触工程の終了した後に実施されることが好ましく、前述の延伸工程又は熱処理工程又は有機溶媒接触工程の後に実施されることがより好ましく、前述の延伸工程又は熱処理工程の後に実施されることが更に好ましい。また、水蒸気接触工程の前や後に、適宜、後述の表面処理を併用してもよい。以下において、セルロースアシレートフィルムに水蒸気を含む気体を接触させる状態を維持する工程(水蒸気接触工程)について説明する。
【0172】
(接触気体)
水蒸気接触工程における光学フィルムに接触される気体(接触気体)としては、液体状態の溶媒を気体状態にした気体であれば特に限定されることはないが、水蒸気を含む気体であることが好ましく、水蒸気を主たる成分として含む気体であることがより好ましく、水蒸気であることが更に好ましい。ここで、主たる成分として含む気体とは、単一の気体からなる場合には、その気体のことを示し、複数の気体からなる場合には、構成する気体のうち、最も質量分率の高い気体のことを示す。
前記接触気体は、湿潤気体供給装置によって生成される気体であることが好ましい。具体的には、液体状態の溶媒をボイラで加熱して気体状態とした後、ブロアによって送られるものであり、接触気体には、適宜空気を混合させてもよく、ブロアによって送られた後に加熱装置を経由させて更に加熱してもよい。ここで、該空気は加熱されたものであることが好ましい。このようにして生成された接触気体の温度は、70〜200℃であることが好ましく、80〜160℃であることがより好ましく、100〜140℃であることが最も好ましい。上限温度よりも高いとフィルムのカールが強くなり、好ましくなく、下限温度よりも低いと十分な効果が得られないことがある。接触気体が水を含む場合には、その相対湿度は、20〜100%であることが好ましく、40〜100%であることがより好ましく、60〜100%であることが特に好ましい。
前記液体状態の溶媒は、水や有機溶媒や無機溶媒を含む溶媒を示す。水を用いる場合には、軟水、硬水や純水などを用いることができ、ボイラの保護の観点から軟水を用いることが好ましい。光学フィルムへの異物混入は、製品としての光学フィルムの光学特性や機械特性の劣化の原因となるため、できるだけ異物の少ない水を用いることが好ましい。したがって、光学フィルムへの異物混入を防ぐためには、軟水や純水を用いることが好ましく、純水を用いることがより好ましい。ここで、純水とは、電気抵抗率が少なくとも1MΩ以上であり、特にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの金属イオンの含有濃度は1ppm未満、塩素、硝酸などのアニオンは0.1ppm未満の含有濃度を指す。純水は、逆浸透膜、イオン交換樹脂、蒸留などの単体、あるいは組み合わせによって、容易に得ることができる。有機溶媒を用いる場合には、メタノール、アセトンやメチルエチルケトンなどが挙げられる。なお、前記液体状態の溶媒は、接触気体を回収した回収気体を凝縮して得られた凝縮液を含んでいてもよい。
【0173】
(接触工程)
水蒸気接触工程における光学フィルムと前述の接触気体との接触方法としては、前記接触気体を光学フィルムに当てる方法、接触気体で満たされた空間に光学フィルムを配置する方法、又は接触気体で満たされた空間を通過させる方法を用いることができ、接触気体を光学フィルムに当てる方法、又は接触気体で満たされた空間を通過させる方法が好ましい。また、光学フィルムと接触気体との接触は、光学フィルムを千鳥状に配置された複数のローラで案内しながら実施されることが好ましい。
接触気体との接触時間は、特に限定されないが、本発明の効果が発揮される範囲内であれば、生産効率の点から出来るだけ短いほうが好ましい。処理時間の上限値として、例えば、60分以下であることが好ましく、10分以下であることがより好ましい。一方、処理時間の下限値として、例えば、10秒以上であることが好ましく、30秒以上であることがより好ましい。
接触気体との接触するときの光学フィルムの温度は特に限定されないが、50〜150℃であることが好ましい。
また、前記水蒸気接触前の光学フィルムの残留溶媒量は特に限定されないが、セルロースアシレート分子の流動性がほとんど消失していることが好ましく、0〜5質量%であることが好ましく、0〜0.3質量%であることがより好ましい。
光学フィルムと接触した接触気体は、冷却装置が接続された凝縮装置に送られ、加熱気体と凝縮液とに分けられてもよい。
【0174】
(乾燥工程)
このようにして接触気体と接触した光学フィルムは、そのまま略室温まで冷却してもよいし、フィルム中に残存した接触気体分子の量を調整するために、続いて乾燥ゾーンへ搬送してもよい。乾燥ゾーンへ搬送する場合、前述の有機溶媒接触工程における乾燥工程の記載と同様の乾燥方法を好ましく用いることができる。なお、水蒸気接触工程が前記延伸工程や熱処理工程や、後述の有機溶媒接触工程の前に実施される場合には、それらの工程を乾燥工程とすることもできる。
【0175】
(有機溶媒に接触させる工程)
本発明の光学フィルムの製造方法においては、場合により、光学フィルム表面に有機溶媒を接触させた後、該有機溶媒を乾燥させることにより、光学フィルムの密着層を形成させることもできる。したがって、光学フィルムの片面だけに有機溶媒を接触させた場合、該光学フィルムを偏光膜と直接貼合する場合には、有機溶媒に接触させた面を偏光膜との貼合面とすることが好ましい。有機溶媒接触工程における光学フィルムと有機溶媒との接触方法としては、一般的に知られた接触方法、例えばディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、スライドコート法、スプレー法、ダイコート法、或いは、米国特許第2681294号明細書に記載のホッパーを使用するエクストルージョンコート法、マイクログラビアコート法を用いることができる。また、前記水蒸気接触工程における主溶媒である水の代わりに有機溶媒を用いることにより、接触させることもできる。この際、密着層を効果的に形成させるために、光学フィルムに接触させる有機溶媒の濃度は、有機溶媒接触前の光学フィルム中の溶媒濃度よりも高濃度であることが好ましい。
【0176】
[フィルムの厚さ]
本発明の、光学フィルムの厚さは20〜120μmが好ましく、30〜90μmが更に好ましく、35〜80μmが特に好ましい。また、液晶パネルに貼合する偏光子保護フィルムとして用いる場合は、光ムラを改良する上で、30〜80μmが好ましく、35〜65μmがより好ましく、35〜50μmであることが特に好ましい。更に、この範囲にあると温湿度変化に伴うパネルの反りが小さくすることができる。
【0177】
[フィルムのヘイズ]
光学フィルムとしてフィルムの透明性は重要であり、本発明の光学フィルムのヘイズは、小さいほうが好ましく、0.01〜2.0%であることが好ましい。より好ましくは1.0%以下、更に好ましくは0.5%以下である。ヘイズの測定は、本発明の光学フィルム試料40mm×80mmを、25℃,60%RHでヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)などを用いて、JIS K−6714に従って測定することができる。
【0178】
[分光特性、分光透過率]
光学フィルムの試料13mm×40mmを、25℃、60%RHで分光光度計“U−3210”{(株)日立製作所}にて、波長300〜450nmにおける透過率を測定することができる。傾斜幅は72%の波長−5%の波長で求めることができる。限界波長は、(傾斜幅/2)+5%の波長で表し、吸収端は、透過率0.4%の波長で表すことができる。これより380nm及び350nmの透過率を評価することができる。
本発明の光学フィルムは、偏光板の液晶セルに面した保護フィルムの対向側に用いる場合には、上記方法により測定した波長380nmにおける分光透過率が45%以上95%以下であり、かつ波長350nmにおける分光透過率が10%以下であることが好ましい。
【0179】
[ガラス転移温度]
ガラス転移温度は、示差走査型熱量計(DSC)を用いて昇温速度10℃/分で測定したときにフィルムのガラス転移に由来するベースラインが変化しはじめる温度と再びベースラインに戻る温度との平均値として求めることができる。
また、ガラス転移温度の測定は、以下の動的粘弾性測定装置を用いて求めることもできる。本発明のセルロースアシレートフィルム試料(未延伸)5mm×30mmを、25℃60%RHで2時間以上調湿した後に動的粘弾性測定装置(バイブロン:DVA−225(アイティー計測制御(株)製))で、つかみ間距離20mm、昇温速度2℃/分、測定温度範囲30℃〜250℃、周波数1Hzで測定し、縦軸に対数軸で貯蔵弾性率、横軸に線形軸で温度(℃)をとった時に、貯蔵弾性率が固体領域からガラス転移領域へ移行する際に見受けられる貯蔵弾性率の急激な減少を固体領域で直線1を引き、ガラス転移領域で直線2を引いたときの直線1と直線2の交点を、昇温時に貯蔵弾性率が急激に減少しフィルムが軟化し始める温度であり、ガラス転移領域に移行し始める温度であるため、ガラス転移温度Tg(動的粘弾性)とする。
【0180】
[フィルムの平衡含水率]
本発明の光学フィルムの含水率(平衡含水率)は、偏光板の保護フィルムとして用いる際、ポリビニルアルコールなどの水溶性ポリマーとの接着性を損なわないために、膜厚のいかんに関わらず、25℃、80%RHにおける含水率が、0〜4質量%であることが好ましい。0.1〜3.5質量%であることがより好ましく、1〜3質量%であることが特に好ましい。平衡含水率が4質量%以下であれば、位相差フィルムの支持体として用いる際に、レターデーションの湿度変化による依存性が大きくなりすぎることがなく好ましい。
含水率の測定法は、本発明の光学フィルム試料7mm×35mmを水分測定器、試料乾燥装置“CA−03”及び“VA−05”{共に三菱化学(株)製}にてカールフィッシャー法で測定した。水分量(g)を試料質量(g)で除して算出した。
【0181】
[フィルムの透湿度]
フィルムの透湿度は、JIS Z−0208をもとに、60℃、95%RHの条件において測定される。本発明の光学フィルムの透湿度は、400〜5000g/m・24hであることが好ましい。400〜4000g/m・24hであることがより好ましく、400〜3500g/m・24hであることが特に好ましい。透湿度がこの範囲であれば、偏光板加工性と、湿度若しくは湿熱に対する偏光板の耐久性とを両立することができ、好ましい。
【0182】
[フィルムの弾性率]
本発明の光学フィルムの引っ張り弾性率は、3.0GPa未満であることが好ましく、より好ましくは1.0GPa以上3.0GPa未満であり、更に好ましくは1.2〜2.8GPaである。具体的な測定方法としては、東洋ボールドウィン(株)製万能引っ張り試験機“STM T50BP”を用い、25℃、60RH%雰囲気中、引張速度10%/分で0.1%伸びと0.5%伸びにおける応力を測定し、その傾きから弾性率を求めた。弾性率の測定において、サンプルを切り出す方位を変化させることによって、弾性率の異方性を求めることができ、製造時の搬送方向と弾性率が最大となる方位とがなす角θは、特に限定されることはないが、0±10°若しくは90±10°であることが好ましい。なお、弾性率が最大となる方位は、後述の音波伝播速度が最大となる方向として評価することもできる。
【0183】
(音波伝搬速度(音速))
本発明において音波伝播速度が最大となる方向は、フィルムを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、配向性測定機(SST−2500:野村商事(株)製)を用いて、超音波パルスの縦波振動の伝搬速度が最大となる方向として求めた。
【0184】
[光弾性係数]
本発明の光学フィルムを偏光板保護フィルムとして使用した場合には、偏光子の収縮による応力などにより複屈折(Re、Rth)が変化する場合がある。このような応力に伴う複屈折の変化は光弾性係数として測定できるが、その範囲は、15×10−12Pa−1以下(15Br以下)であることが好ましく、−5×10−12Pa−1〜12×10−12Pa−1(−5Br〜12Br)であることがより好ましく、−2×10−12Pa−1〜11×10−12Pa−1(−2Br〜11Br)であることが更に好ましい。
【0185】
[アルカリ鹸化処理によるフィルム表面の接触角]
本発明の光学フィルムはセルロースアシレートを含むため、偏光板保護フィルムとして用いる場合の表面処理の有効な手段の1つとしてアルカリ鹸化処理が挙げられる。この場合、アルカリ鹸化処理後のフィルム表面の接触角が55°以下であることが好ましい。より好ましくは50°以下であり、45°以下であることが更に好ましい。
【0186】
[表面処理]
光学フィルムは、場合により表面処理を行うことによって、光学フィルムと各機能層(例えば、下塗層及びバック層)との接着の向上を達成することができる。例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸又はアルカリ処理を用いることができる。ここでいうグロー放電処理とは、10−3〜20Torrの低圧ガス下でおこる低温プラズマでもよく、更にまた大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。プラズマ励起性気体とは上記のような条件においてプラズマ励起される気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類及びそれらの混合物などがあげられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて30頁〜32頁に詳細に記載されており、本発明において好ましく用いることができる。
【0187】
[機能層]
本発明の光学フィルムは、その用途として、例えば、光学用途と写真感光材料に適用される。特に光学用途が液晶表示装置であることが好ましく、液晶表示装置が、二枚の電極基板の間に液晶を担持してなる液晶セル、その両側に配置された二枚の偏光素子、及び該液晶セルと該偏光素子との間に少なくとも一枚の光学補償シートを配置した構成であることが更に好ましい。これらの液晶表示装置としては、TN、IPS、FLC、AFLC、OCB、STN、ECB、VA及びHANが好ましい。
その際に前述の光学用途に本発明の光学フィルムを用いるに際し、各種の機能層を付与することが実施される。それらは、例えば、帯電防止層、硬化樹脂層(透明ハードコート層)、反射防止層、易接着層、防眩層、光学補償層、配向層、液晶層などである。これらの機能層及びその材料としては、界面活性剤、滑り剤、マット剤、帯電防止層、ハードコート層などが挙げられ、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて32頁〜45頁に詳細に記載されており、本発明において好ましく用いることができる。
【0188】
《位相差フィルム》
本発明の位相差フィルムは本発明の光学フィルムを少なくとも一枚含有する。
また、本発明の光学フィルムは、位相差フィルムとして用いることができる。なお、「位相差フィルム」とは、一般に液晶表示装置等の表示装置に用いられ、光学異方性を有する光学材料のことを意味し、位相差板、光学補償フィルム、光学補償シートなどと同義である。液晶表示装置において、位相差フィルムは表示画面のコントラストを向上させたり、視野角特性や色味を改善したりする目的で用いられる。
本発明の光学フィルムを用いることで、レターデーションが自在に制御され、偏光膜との密着性に優れた位相差フィルムを作製することができる。
【0189】
また、本発明の光学フィルムを複数枚積層したり、本発明の光学フィルムと本発明外のフィルムとを積層したりしてReやRthを適宜調整して位相差フィルムとして用いることもできる。フィルムの積層は、粘着剤や接着剤を用いて実施することができる。
【0190】
また、場合により、本発明の光学フィルムを位相差フィルムの支持体として用い、その上に液晶等からなる光学異方性層を設けて位相差フィルムとして使用することもできる。本発明の位相差フィルムに適用される光学異方性層は、例えば、液晶性化合物を含有する組成物から形成してもよいし、複屈折を持つポリマーフィルムから形成してもよいし、本発明の光学フィルムから形成してもよい。この際、本発明の製造方法を光学異方性層の形成工程の後工程として実施する場合には、少なくとも該光学異方性層を形成させた面と反対側の面に有機溶媒を接触させることが好ましい。
前記液晶性化合物としては、ディスコティック液晶性化合物又は棒状液晶性化合物が好ましい。
【0191】
[ディスコティック液晶性化合物]
本発明において前記液晶性化合物として使用可能なディスコティック液晶性化合物の例には、様々な文献(例えば、C.Destrade et al.,Mol.Crysr.Liq.Cryst.,vol.71,page 111(1981);日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B.Kohne et al.,Angew.Chem.Soc.Chem.Comm.,page 1794(1985);J.Zhang etal.,J.Am.Chem.Soc.,vol.116,page 2655(1994))に記載の化合物が含まれる。
【0192】
前記光学異方性層において、ディスコティック液晶性分子は配向状態で固定されているのが好ましく、重合反応により固定されているのが最も好ましい。また、ディスコティック液晶性分子の重合については、特開平8−27284公報に記載がある。ディスコティック液晶性分子を重合により固定するためには、ディスコティック液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。ただし、円盤状コアに重合性基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性基との間に、連結基を導入する。重合性基を有するディスコティック液晶性分子については、特開2001−4387号公報に開示されている。
【0193】
[棒状液晶性化合物]
本発明において前記液晶性化合物として使用可能な棒状液晶性化合物の例には、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類及びアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が含まれる。また、前記棒状液晶性化合物としては、以上のような低分子液晶性化合物だけではなく、高分子液晶性化合物も用いることができる。
【0194】
前記光学異方性層において、棒状液晶性分子は配向状態で固定されているのが好ましく、重合反応により固定されているのが最も好ましい。本発明に使用可能な重合性棒状液晶性化合物の例は、例えば、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4,683,327号明細書、同5,622,648号明細書、同5,770,107号明細書、国際公開第95/22586号パンフレット、同95/24455号パンフレット、同97/00600号パンフレット、同98/23580号パンフレット、同98/52905号パンフレット、特開平1−272551号公報、同6−16616号公報、同7−110469号公報、同11−80081号公報、及び特開2001−328973号公報等に記載の化合物が含まれる。
【0195】
《偏光板》
本発明の偏光板は、本発明の光学フィルム又は本発明の位相差フィルムを少なくとも一枚含有する。
本発明の光学フィルム又は位相差フィルムは、偏光板(本発明の偏光板)の保護フィルムとして用いることができる。本発明の偏光板は、偏光膜とその両面を保護する二枚の偏光板保護フィルム(光学フィルム)からなり、本発明の光学フィルム又は位相差フィルムは少なくとも一方の偏光板保護フィルムとして用いることが特に好ましい。
本発明の光学フィルムを前記偏光板保護フィルムとして用いる場合、本発明の光学フィルムには前記表面処理(特開平6−94915号公報、同6−118232号公報にも記載)を施して親水化しておくことが好ましく、例えば、グロー放電処理、コロナ放電処理、又は、アルカリ鹸化処理などを施すことが好ましい。前記表面処理としてはアルカリ鹸化処理が最も好ましく用いられる。
【0196】
また、前記偏光膜としては、例えば、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸したもの等を用いることができる。ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸した偏光膜を用いる場合、接着剤を用いて偏光膜の両面に本発明の光学フィルムの表面処理面を直接貼り合わせることができる。本発明の製造方法においては、このように前記光学フィルムが偏光膜と直接貼合されていることが好ましい。前記接着剤としては、ポリビニルアルコール又はポリビニルアセタール(例えば、ポリビニルブチラール)の水溶液や、ビニル系ポリマー(例えば、ポリブチルアクリレート)のラテックスを用いることができる。特に好ましい接着剤は、完全鹸化ポリビニルアルコールの水溶液である。
【0197】
一般に液晶表示装置は二枚の偏光板の間に液晶セルが設けられるため、4枚の偏光板保護フィルムを有する。本発明の光学フィルムは、4枚の偏光板保護フィルムのいずれに用いてもよいが、本発明の光学フィルムは、液晶表示装置における偏光膜と液晶層(液晶セル)との間に配置される保護フィルムとして、特に有利に用いることができる。また、前記偏光膜を挟んで本発明の光学フィルムの反対側に配置される保護フィルムには、透明ハードコート層、防眩層、反射防止層などを設けることができ、特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムとして好ましく用いられる。
偏光板は偏光子及びその両面を保護する保護フィルムで構成されており、更に該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成される。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。又、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶板へ貼合する面側に用いられる。
液晶表示装置には通常2枚の偏光板の間に液晶を含む基板が配置されているが、本発明の光学フィルムを適用した偏光板保護フィルムはどの部位に配置しても優れた表示性が得られる。特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムには透明ハードコート層、防眩層、反射防止層等が設けられるため、該偏光板保護フィルムをこの部分に用いることが特に好ましい。
【0198】
《液晶表示装置》
本発明の光学フィルム、位相差フィルム及び偏光板は、様々な表示モードの液晶表示装置に用いることができる。以下にこれらのフィルムが用いられる各液晶モードについて説明する。これらのモードのうち、本発明の光学フィルム、位相差フィルム及び偏光板は、全てのモードにおいて好ましく用いることができるが、特にVAモード及びIPSモードの液晶表示装置に好ましく用いられる。これらの液晶表示装置は、透過型、反射型及び半透過型のいずれでもよい。
【0199】
(TN型液晶表示装置)
本発明の光学フィルムは、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体として好ましく用いられる。TNモードの液晶セルとTN型液晶表示装置とについては、古くからよく知られている。TN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、特開平3−9325号、特開平6−148429号、特開平8−50206号及び特開平9−26572号の各公報の他、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.143や、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.1068)に記載がある。
【0200】
(STN型液晶表示装置)
本発明の光学フィルムは、STNモードの液晶セルを有するSTN型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体として用いてもよい。一般的にSTN型液晶表示装置では、液晶セル中の棒状液晶性分子が90〜360度の範囲にねじられており、棒状液晶性分子の屈折率異方性(Δn)とセルギャップ(d)との積(Δnd)が300〜1500nmの範囲にある。STN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、特開2000−105316号公報に記載がある。
【0201】
(VA型液晶表示装置)
本発明の光学フィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の位相差フィルムや位相差フィルムの支持体として特に有利に用いられる。VA型液晶表示装置は、例えば特開平10−123576号公報に記載されているような配向分割された方式であっても構わない。これらの態様において本発明の光学フィルムを用いた偏光板は視野角拡大、コントラストの良化に寄与する。
【0202】
(IPS型液晶表示装置及びECB型液晶表示装置)
本発明の光学フィルムは、IPSモード及びECBモードの液晶セルを有するIPS型液晶表示装置及びECB型液晶表示装置の位相差フィルムや位相差フィルムの支持体、又は偏光板の保護フィルムとして特に有利に用いられる。これらのモードは黒表示時に液晶材料が略平行に配向する態様であり、電圧無印加状態で液晶分子を基板面に対して平行配向させて、黒表示する。これらの態様において本発明の光学フィルムを用いた偏光板は視野角拡大、コントラストの良化に寄与する。
また、|Rth|<25が好ましいが、更に450〜650nmの領域において、Rthが0nm以下であることが、色味の変化が小さく、特に好ましい。
【0203】
この態様においては、液晶セルの上下の前記偏光板の保護フィルムのうち、液晶セルと偏光板との間に配置された保護フィルム(セル側の保護フィルム)に本発明の光学フィルムを用いた偏光板を液晶セルの上下に用いることが好ましい。また、更に好ましくは、偏光板の保護フィルムと液晶セルの間に光学異方性層のレターデーションの値を、液晶層のΔn・dの値の2倍以下に設定した光学異方性層を片側に配置するのが好ましい。
【0204】
(OCB型液晶表示装置及びHAN型液晶表示装置)
本発明の光学フィルムは、OCBモードの液晶セルを有するOCB型液晶表示装置或いはHANモードの液晶セルを有するHAN型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体としても有利に用いられる。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムには、レターデーションの絶対値が最小となる方向が位相差フィルムの面内にも法線方向にも存在しないことが好ましい。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムの光学的性質も、光学的異方性層の光学的性質、支持体の光学的性質及び光学的異方性層と支持体との配置により決定される。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、特開平9−197397号公報に記載がある。また、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.38(1999)p.2837)に記載がある。
【0205】
(反射型液晶表示装置)
本発明の光学フィルムは、TN型、STN型、HAN型、GH(Guest−Host)型の反射型液晶表示装置の位相差フィルムとしても有利に用いられる。これらの表示モードは古くからよく知られている。TN型反射型液晶表示装置については、特開平10−123478号、国際公開第98/48320号パンフレット、特許第3022477号公報に記載がある。反射型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、国際公開第00/65384号パンフレットに記載がある。
【0206】
(その他の液晶表示装置)
本発明の光学フィルムは、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell)モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されているとの特徴がある。その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置とについては、クメ(Kume)他の論文(Kume et al.,SID 98 Digest 1089(1998))に記載がある。
更に、本発明の光学フィルムは、3D立体映像表示を表示することができる映像表示パネルで好ましく用いられる位相差フィルムや、位相差フィルムの支持体として用いることもできる。具体的には、本発明の光学フィルムの全面にλ/4層を形成させたり、例えばライン状に交互に複屈折率が異なるパターン化された位相差層を形成させたりすることができる。本発明の光学フィルムは、従来のセルロースアシレートフィルムと比較して、湿度変化に対する寸法変化率が小さいため、特に後者において好ましく用いることができる。
【0207】
(ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム)
本発明の光学フィルムは、ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルムへ適用することができる。LCD、PDP、CRT、EL等のフラットパネルディスプレイの視認性を向上する目的で、本発明の光学フィルムの片面又は両面にハードコート層、防眩層、反射防止層の何れかあるいは全てを付与することができる。このような防眩フィルム、反射防止フィルムとしての望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の54頁〜57頁に詳細に記載されており、本発明の光学フィルムを好ましく用いることができる。
【0208】
(透明基板)
本発明の光学フィルムは光学的異方性をゼロに近く作ることができ、優れた透明性を持っており、かつ湿熱環境下で保持してもレターデーション変化が小さいことから、液晶表示装置の液晶セルガラス基板の代替、すなわち駆動液晶を封入する透明基板としても用いることもできる。
液晶を封入する透明基板はガスバリア性に優れる必要があることから、必要に応じて本発明の光学フィルムの表面にガスバリアー層を設けてもよい。ガスバリアー層の形態や材質は特に限定されないが、本発明の光学フィルムの少なくとも片面にSiO等を蒸着したり、あるいは塩化ビニリデン系ポリマーやビニルアルコール系ポリマーなど相対的にガスバリアー性の高いポリマーのコート層を設けたり、これら無機層と有機層とを積層する方法が考えられ、これらを適宜使用できる。
また液晶を封入する透明基板として用いるには、電圧印加によって液晶を駆動するための透明電極を設けてもよい。透明電極としては特に限定されないが、本発明の光学フィルムの少なくとも片面に、金属膜、金属酸化物膜などを積層することによって透明電極を設けることができる。中でも透明性、導電性、機械的特性の点から、金属酸化物膜が好ましく、なかでも酸化スズを主として酸化亜鉛を2〜15%含む酸化インジウムの薄膜が好ましく使用できる。これら技術の詳細は例えば、特開2001−125079や特開2000−227603などに公開されている。
【実施例】
【0209】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴を更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0210】
《測定法》
まず、特性の測定法及び評価法を以下に示す。
【0211】
[置換度]
セルロースアシレートのアシル置換度は、Carbohydr.Res.273(1995)83−91(手塚他)に記載の方法で13C−NMRにより求めた。
【0212】
[レターデーション]
フィルムの幅方向5点(フィルムの中央部、端部(両端からそれぞれ全幅の5%の位置)、及び中央部と端部の中間部2点)とを長手方向に100mごとにサンプリングし、5cm×5cmの大きさのサンプルを取り出し、前述の方法に従って評価した各点の平均値を算出し、それぞれRe、Rth、ΔRe、ΔRthを求めた。
ΔRe=Re(10%)−Re(80%)
ΔRth=Rth(10%)−Rth(80%)
Re(H%)及びRth(H%)は、フィルムを25℃、相対湿度H%にて24時間調湿後、25℃、相対湿度H%において、前記方法と同様にして、相対湿度H%における測定波長が590nmであるときのレターデーション値を測定、算出したものである。
【0213】
[ヘイズ]
レターデーション測定時と同じサンプリングを実施し、サンプルを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、ヘイズメーター(NDH 2000:日本電色工業(株)製)を用いて測定し、平均値をヘイズとした。
【0214】
[光弾性係数]
作製したセルロースアシレートフィルムから1cm×5cmのサンプルを切り出し、分光エリプソメーター(M−220、日本分光株式会社製)を用いて、サンプルに25℃で応力をかけながら、フィルム面内のレターデーション値を測定し、レターデーション値と応力の関数の傾きから算出した。
【0215】
[弾性率]
東洋ボールドウィン(株)製万能引っ張り試験機“STM T50BP”を用い、25℃、60RH%雰囲気中、引張速度10%/分で0.1%伸びと0.5%伸びにおける応力を測定し、その傾きから弾性率を求めた。
【0216】
[含水率]
作製したセルロースアシレートフィルムから7mm×35mmのサンプルを切り出し、25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、水分測定器、試料乾燥装置“CA−03”及び“VA−05”{共に三菱化学(株)製}にてカールフィッシャー法で含水率を測定した。
【0217】
[寸法変化]
フィルムを60℃90%RHで1日処理した場合の寸法変化率を前記方法で測定した。
【0218】
[偏光度]
作製した2枚の偏光板を吸収軸を平行に重ね合わせた場合の透過率(Tp)及び吸収軸を直交させて重ね合わせた場合の透過率(Tc’)を測定し、下記式から偏光度(P)を算出した。
偏光度P = ((Tp−Tc’)/(Tp+Tc’))0.5
【0219】
《1》 セルロースアシレートフィルムの製造と評価
(ポリマー溶液の調製)
1〕セルロースアシレート
下記のセルロースアシレートC1、C2、及びC3を使用した。各セルロースアシレートは120℃に加熱して乾燥し、含水率を0.5質量%以下とした後、20質量部を使用した。
【0220】
・セルロースアシレートC1:
置換度が2.86のセルロースアセテートの粉体を用いた。セルロースアシレートC1の粘度平均重合度は300、6位のアセチル基置換度は0.89、アセトン抽出分は7質量%、質量平均分子量/数平均分子量比は2.3、含水率は0.2質量%、6質量%ジクロロメタン溶液中の粘度は305mPa・s、残存酢酸量は0.1質量%以下、Ca含有量は65ppm、Mg含有量は26ppm、鉄含有量は0.8ppm、硫酸イオン含有量は18ppm、イエローインデックスは1.9、遊離酢酸量は47ppmであった。粉体の平均粒子サイズは1.5mm、標準偏差は0.5mmであった。
・セルロースアシレートC2:
置換度が2.94のセルロースアセテートの粉体を用いた。セルロースアシレートC2の粘度平均重合度は290、6位のアセチル基置換度は0.91であった。
・セルロースアシレートC3:
置換度が2.90のセルロースアセテートの粉体を用いた。セルロースアシレートC3の粘度平均重合度は300、6位のアセチル基置換度は0.90であった。
【0221】
2〕溶媒
下記の溶媒を使用した。各溶媒の含水率は0.2質量%以下であった。
・溶媒 ジクロロメタン/メタノール/ブタノール=81/18/1(質量比)
【0222】
3〕添加剤
下記の添加剤群の中から表1に記載されるものを選択し、加えて下記の添加剤Mを使用した。但し、表1中、量は、セルロースアシレートを100質量%としたときの質量%を表す。
(縮合物)
・A−1: エタンジオール/1,2−プロパンジオール/アジピン酸(1/1/2モル比)との縮合物の両末端の酢酸エステル体、数平均分子量1000、水酸基価0
(多価アルコールの平均炭素数:2.5、多塩基酸の平均炭素数:6)
・A−2: 1,2−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物の両末端の酢酸エステル体、数平均分子量1000、水酸基価0
(多価アルコールの平均炭素数:3、多塩基酸の平均炭素数:6)
・A−3: エタンジオール/1,2−プロパンジオール/アジピン酸(1/1/2モル比)との縮合物、数平均分子量1000、水酸基価112
(多価アルコールの平均炭素数:2.5、多塩基酸の平均炭素数:6)
・A−4: 1,2−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物、数平均分子量1000、水酸基価112
(多価アルコールの平均炭素数:3、多塩基酸の平均炭素数:6)
・A−5: エタンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物、数平均分子量600、水酸基価187
(多価アルコールの平均炭素数:2、多塩基酸の平均炭素数:6)
・A−6: エタンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物、数平均分子量1000、水酸基価187
(多価アルコールの平均炭素数:2、多塩基酸の平均炭素数:6)
・A−7: エタンジオール/1,2−プロパンジオール/アジピン酸(9/1/10モル比)との縮合物の両末端の酢酸エステル体、数平均分子量1000、水酸基価0
(多価アルコールの平均炭素数:2.1、多塩基酸の平均炭素数:6)
・A−8: エタンジオール/1,2−プロパンジオール/アジピン酸(3/1/4モル比)との縮合物の両末端の酢酸エステル体、数平均分子量1000、水酸基価0
(多価アルコールの平均炭素数:2.25、多塩基酸の平均炭素数:6)
・A−9: エタンジオール/1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1/2モル比)との縮合物の両末端の酢酸エステル体、数平均分子量950、水酸基価0
(多価アルコールの平均炭素数:2.5、多塩基酸の平均炭素数:6)
・A−10: エタンジオール/1,2−プロパンジオール/アジピン酸(1/1/2モル比)との縮合物の両末端のメチルエステル体、数平均分子量1000、水酸基価0
(多価アルコールの平均炭素数:2.5、多塩基酸の平均炭素数:6)
・A−11: エタンジオール/ギ酸(1/1モル比)との縮合物の両末端のギ酸エステル体、数平均分子量100、水酸基価0
(多価アルコールの平均炭素数:2、多塩基酸の平均炭素数:1)
・A−12: エタンジオール/1,2−プロパンジオール/アジピン酸/テレフタル酸(1/1/1/1モル比)との縮合物の両末端の酢酸エステル体、数平均分子量1200、水酸基価0mgKOH/g
(多価アルコールの平均炭素数:2.5、多塩基酸の平均炭素数:7)
・A−13: エタンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物の両末端の酢酸エステル体、数平均分子量600、水酸基価0
(多価アルコールの平均炭素数:2、多塩基酸の平均炭素数:6)
・A−14: エタンジオール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物、数平均分子量1000、水酸基価112mgKOH/g
(多価アルコールの平均炭素数:2、多塩基酸の平均炭素数:4)
・A−15: エタンジオール/1,3−ブタンジオール/アジピン酸(3/1/4モル比)との縮合物の両末端の酢酸エステル体、数平均分子量1000、水酸基価0
(多価アルコールの平均炭素数:2.5、多塩基酸の平均炭素数:6)
・A−16: エタンジオール/1,4−ブタンジオール/コハク酸(1/2/3モル比)との縮合物、数平均分子量2000
(多価アルコールの平均炭素数:3.33、多塩基酸の平均炭素数:4)
・A−17: ジエチレングリコール/コハク酸/アジピン酸(2/1/1モル比)との縮合物、数平均分子量2500
(多価アルコールの平均炭素数:4、多塩基酸の平均炭素数:5)
・A−18: エタンジオール/ジプロピレングリコール/アジピン酸(1/1/2モル比)との縮合物の両末端の酢酸エステル体、数平均分子量1000
(多価アルコールの平均炭素数:4、多塩基酸の平均炭素数:6)
・A−19: エタンジオール/1,2−プロパンジオール/アジピン酸(7/3/10モル比)との縮合物の両末端の酢酸エステル体、数平均分子量1000、水酸基価0
(多価アルコールの平均炭素数:2.3、多塩基酸の平均炭素数:6)
【0223】
上記縮合物を構成する多価アルコールのうち、「3つ以上の炭素原子が他の元素を介さずに連続して結合した構造を有する多価アルコール」は、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、及びジプロピレングリコールである。
【0224】
(繰り返し単位を有する化合物)
・B−1: メチルメタクリレート/メチルアクリレート(1/1モル比)との付加物、数平均分子量2000
【0225】
(耐久性改良剤)
・N1:下記構造の化合物
【0226】
【化33】

【0227】
・N2:下記構造の化合物
【0228】
【化34】

【0229】
・N3:下記構造の化合物
【0230】
【化35】

【0231】
・N4:下記構造の化合物
【0232】
【化36】

【0233】
(その他の添加剤)
・M:
二酸化ケイ素微粒子(粒子サイズ20nm、モース硬度約7)(0.02質量部)
【0234】
4〕溶解
下記の溶解工程を使用して膨潤、溶解を行った。
・溶解工程
攪拌羽根を有し外周を冷却水が循環する400リットルのステンレス製溶解タンクに、前記溶媒及び添加剤を投入して撹拌、分散させながら、前記セルロースアシレートを徐々に添加した。投入完了後、室温にて2時間撹拌し、3時間膨潤させた後に再度撹拌を実施し、セルロースアシレート溶液を得た。
(各成分の添加量)
セルロースアシレート 20質量部
溶媒 100質量部
表1記載の添加剤 表1に記載の量(セルロースアシレートに対する質量%)
前記添加剤M 0.02質量部
なお、攪拌には、15m/sec(剪断応力5×10kgf/m/sec〔4.9×10N/m/sec〕)の周速で攪拌するディゾルバータイプの偏芯攪拌軸及び中心軸にアンカー翼を有して周速1m/sec(剪断応力1×10kgf/m/sec〔9.8×10N/m/sec〕)で攪拌する攪拌軸を用いた。膨潤は、高速攪拌軸を停止し、アンカー翼を有する攪拌軸の周速を0.5m/secとして実施した。
膨潤した溶液をタンクから、ジャケット付配管で50℃まで加熱し、更に2MPaの加圧化で90℃まで加熱し、完全溶解した。加熱時間は15分であった。この際、高温にさらされるフィルター、ハウジング、及び配管はハステロイ合金製で耐食性の優れたものを利用し保温加熱用の熱媒を流通させるジャケットを有する物を使用した。
次に36℃まで温度を下げ、セルロースアシレート溶液を得た。
【0235】
5〕ろ過
得られたセルロースアシレート溶液を、絶対濾過精度10μmの濾紙(#63、東洋濾紙(株)製)で濾過し、更に絶対濾過精度2.5μmの金属焼結フィルター(FH025、ポール社製)にて濾過してポリマー溶液を得た。
【0236】
(フィルムの作製)
下記の製膜工程F1又はF2から表1に記載されるものを使用した。これらの製膜工程により製造されたセルロースアシレートフィルムの残留溶媒量は、全て0.3質量%以下であった。なお、実施例である試料35のフィルム作製にあたっては、実施例である試料5で得られたフィルムを、下記の延伸工程F3にしたがって延伸した。
【0237】
・製膜工程F1
前記ポリマー溶液を30℃に加温し、流延ギーサーを通して直径3mのドラムである鏡面ステンレス支持体上に流延した。支持体の温度は−7℃に設定し、流延スピードは50m/分、塗布幅は200cmとした。流延部全体の空間温度は、15℃に設定した。そして、流延部の終点部から50cm手前で、流延して回転してきたセルロースアシレートフィルムをドラムから剥ぎ取り、両端をピンテンターでクリップした。なお、下記式に基づいて算出した、剥ぎ取った直後のウェブの残留溶媒量は280質量%であった。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100[式中、Mは、延伸ゾーンに挿入される直前のセルロースアシレートフィルムの質量、Nは、延伸ゾーンに挿入される直前のセルロースアシレートフィルムを110℃で3時間乾燥させたときの質量を表す]
続けて、ピンテンターで保持されたセルロースアシレートフィルムは、100℃で5分間乾燥した後、ピンテンターから外して両耳をフィルムの左右両端部に固定したNT型カッターで切り落とし、更に70℃で15分ロール搬送しながら乾燥して、セルロースアシレートフィルムを得た。
【0238】
・製膜工程F2
前述の製膜工程F1で乾燥の終了したセルロースアシレートフィルムを、更にロール搬送しながら85℃に予熱した後、フィルムの搬送張力を60N/mに設定して、85℃・相対湿度85%に調節された水蒸気に1分間接触させ、続いて70℃の乾燥ゾーンで2分間乾燥した後、3900m巻きのロール状に巻き取って、セルロースアシレートフィルムを得た。
【0239】
・延伸工程F3
セルロースアシレートフィルムの両端をテンタークリップで把持した後、60℃で搬送方向と直交する方向に5%延伸して、セルロースアシレートフィルムを得た。
【0240】
《2》 偏光板の作製と評価
(偏光板の作製)
1〕フィルムの鹸化
実施例及び比較例で作成した各フィルム及びフジタックTD60UL(富士フイルム(株)製)を37℃に調温した4.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(けん化液)に1分間浸漬した後、フィルムを水洗し、その後、0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、更に水洗浴を通した。そして、エアナイフによる水切りを3回繰り返し、水を落とした後に70℃の乾燥ゾーンに15秒間滞留させて乾燥し、鹸化処理したフィルムを作製した。
【0241】
2〕偏光膜の作製
特開2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸し、厚み20μmの偏光膜を調製した。
【0242】
3〕貼り合わせ
このようにして得た偏光膜と、前記鹸化処理したフィルムのうちから2枚選び、これらで前記偏光膜を挟んだ後、PVA((株)クラレ製、PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、偏光軸とフィルムの長手方向とが直交するようにロールツーロールで貼り合わせて偏光板を作成した。ここで、偏光膜の一方のフィルムは、表1記載のフィルム群から選択される1枚を鹸化したフィルムとし、他方のフィルムはフジタックTD60ULを鹸化したフィルムとした。
【0243】
(偏光板の評価)
【0244】
1〕初期偏光度
前記偏光板の偏光度を前述した方法で算出したところ、全ての偏光板の偏光度が99.9%であった。
【0245】
2〕経時偏光度
前記偏光板の表1記載のフィルム側を粘着剤でガラス板に貼り合わせ、60℃・相対湿度90%の条件で500時間放置し、放置後の偏光度(経時偏光度)を前述の方法で算出したところ、全ての偏光板の偏光度が99.9%であった。
【0246】
3〕Rth湿熱耐久性
前記偏光板のうち、表1記載のフィルム側に粘着剤を転写させた上でガラス板に貼合し、これを80℃、相対湿度90%の条件で130時間放置した。そして、得られた偏光板からフジタックTD60UL及び前記偏光膜を剥がし、ガラス板に残ったフィルムが透明であることを目視確認した上で、前述の方法に準じてレターデーション測定を行い、下記式にしたがって算出されるRth耐久性を算出し、表1に記載した。なお、Rthは波長590nmの光を用いて測定したものであり、下記「製膜直後のフィルムのRth」は25℃、相対湿度60%における条件で測定したRthである。
Rth湿熱耐久性=(ガラス板に残ったフィルムのRth)−(製膜直後のフィルムのRth)(nm)
【0247】
4〕液晶表示装置への実装評価(IPS型液晶表示装置への実装)
市販の液晶テレビ(IPSモードのスリム型42型液晶テレビ)から、液晶セルを挟んでいる偏光板を剥がし取り、前記作製した偏光板を、表1記載のフィルム側が液晶セル側に配置されるように、粘着剤を介して液晶セルに再貼合した。組みなおした液晶テレビを、50℃・相対湿度80%の環境で5日間保持した後に、25℃・相対湿度60%の環境に移し、黒表示状態で点灯させ続け、24時間後に目視観察して、光ムラを評価した。評価結果を表1に示す。
(正面方向の光ムラレベル)
装置正面から観察した場合の黒表示時の輝度ムラを観察し、以下の基準で評価した。
○ : 照度100lxの環境下でムラがほとんど視認されない
△ : 照度100lxの環境下で淡いムラが視認される
× : 照度100lxの環境下で明確なムラが視認される
××: 照度300lxの環境下で明確なムラが視認される
【0248】
(VA型液晶表示装置への実装)
市販の液晶テレビ(VAモードのスリム型42型液晶テレビ)から、液晶セルを挟んでいるバックライト側の偏光板を剥がし取り、前記作製した実施例32のフィルムを用いた偏光板を、該フィルム側が液晶セル側に配置されるように、粘着剤を介して液晶セルに再貼合した。組みなおした液晶テレビを、50℃・相対湿度80%の環境で5日間保持した後に、25℃・相対湿度60%の環境に移し、黒表示状態で点灯させ続け、24時間後に目視観察して、正面方向から光ムラを評価したところ、照度100lxの環境下でムラがほとんど視認されないことが確認された。
【0249】
【表1】

【0250】
表1中、添加剤及びRth湿熱耐久性向上剤の「量」は、セルロースアシレートを100質量%としたときの質量%を表す。
【0251】
表1記載のフィルム1〜48は全てヘイズ値が0.5%以下の透明性に優れるフィルムであった。そして、表1に示されるように、本発明の如く、特定の縮合物をセルロースエステルに対し30質量%より多く含む光学フィルムを用いた偏光板を組み込んだ液晶表示装置は光漏れの改善が十分であった。更に、この偏光板を湿熱環境下で保持した場合のRth変化は、炭素数が3以上の多価アルコール成分を含む縮合物の添加によって大幅に低減することができ、更に水酸基価を低減させたり、フィルムの寸法変化を小さくしたり、耐久性改良剤を加えたりすることによって、更に低減することができた。また、添加剤A−1を用いた本発明のフィルムでは、添加剤A−5やA−6を用いた比較例のフィルムと比較して、ピンテンターから外した直後の耳切り工程における切り粉発生が抑制されるという好ましい効果も確認された。
なお、比較例であるフィルム31では、フィルムの作製工程の乾燥工程において、ケーシング内壁に添加剤が付着してしまい、このフィルムを組み込んだ液晶テレビの実装評価では、他のフィルムを組み込んだ液晶テレビで視認されることのある光ムラとは異なる形状のムラが観測され、全体的に光モレが酷いことが視認された。試料35のフィルムを組み込んだ液晶テレビの実装評価では、テレビ端部に局所的な光モレが発生することが視認された。そして、これらのRth変化を抑制した本発明の偏光板を用いた液晶表示装置は、湿熱環境下で保持した後でも色味変化がなく、信頼性の高いものであることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均炭素数が2.01以上の多価アルコールと平均炭素数が4.10以上の多塩基酸との縮合物、及びセルロースエステルを含む光学フィルムであって、
該縮合物を構成する少なくとも1種の多価アルコールは、3つ以上の炭素原子が他の元素を介さずに連続して結合した構造を有する多価アルコールであり、
該縮合物を該セルロースエステルに対して30質量%より多く含有する光学フィルム。
【請求項2】
前記多価アルコールのヒドロキシル基に結合する炭素原子のうち少なくとも1つが2級炭素原子又は3級炭素原子である、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記縮合物の水酸基価が40mgKOH/g未満である、請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記光学フィルムが、更にレターデーションの湿熱耐久性を向上させる化合物を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記レターデーションの湿熱耐久性を向上させる化合物が、塩基性を示す化合物である請求項4に記載の光学フィルム。
【請求項6】
前記塩基性を示す化合物が、塩基性の官能基として、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アンモニウム基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、グアニジノ基、イミノ基、イミダゾイル基、インドール基、及びプリン基のうち少なくとも1種を含有する、請求項5に記載の光学フィルム。
【請求項7】
前記レターデーションの湿熱耐久性を向上させる化合物が、下記一般式(1)又は(2)で表される化合物を含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学フィルム。
一般式(1)
【化1】


(一般式(1)中、Raは置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換の複素環基、又は、置換若しくは無置換のアリール基を表す。X、X、X及びXはそれぞれ独立に単結合又は2価の連結基を表す。R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のアシル基、又は、置換若しくは無置換の複素環基を表す。)
一般式(2)
【化2】


(一般式(2)中、Rb及びRcはそれぞれ独立に置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換の複素環基、又は、置換若しくは無置換のアリール基を表す。X及びXはそれぞれ独立に単結合又は2価の連結基を表す。R及びRはそれぞれ独立に水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のアシル基、又は、置換若しくは無置換の複素環基を表す。)
【請求項8】
更に、アクリル酸エステルの付加物、又はメタクリル酸エステルの付加物を含有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項9】
引っ張り弾性率が3GPa未満である請求項1〜8のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項10】
下記式で定義されるΔRthが−30〜30nmである請求項1〜9のいずれか一項に記載の光学フィルム。
ΔRth=Rth(10%)−Rth(80%)[式中、Rth(H%)は、25℃、相対湿度H%おけるフィルムのRthを表す]
【請求項11】
前記光学フィルムが、60℃90%RHで1日処理した場合の寸法変化率が3%以下である請求項1〜10のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項12】
少なくとも、請求項1〜11のいずれか一項に記載の光学フィルムを含む位相差フィルム。
【請求項13】
少なくとも、請求項1〜11のいずれか一項に記載の光学フィルム、又は請求項12に記載の位相差フィルムを含む偏光板。
【請求項14】
少なくとも、請求項1〜11のいずれか一項に記載の光学フィルム、請求項12に記載の位相差フィルム、又は請求項13に記載の偏光板を含む画像表示装置。

【公開番号】特開2013−18895(P2013−18895A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154342(P2011−154342)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】