説明

光学フィルム、液晶表示装置、転写材、及び光学フィルムの製造方法

【課題】良好な光学補償能を示すとともに、連続生産においても安定的に製造可能な薄型の光学フィルムの提供。
【解決手段】ハイブリッド配向に固定されたディスコティック液晶を含有する光学異方性層14と、配向制御能を有さない接着層12と、基板10とをこの順に有し、
前記ハイブリッド配向が、接着層側界面近傍のディスコティック液晶のダイレクターとフィルム法線とのなす角度と比較して、空気界面側のディスコティック液晶のダイレクターとフィルム法線とのなす角度が大きいハイブリッド配向であり、フィルム全体の厚さが0.1μm〜70μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置の光学補償フィルム等として有用な光学フィルム、並びにその製造に利用される転写材及び製造方法に関する。また、本発明は、前記光学フィルムを有する液晶表示装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、TNモード液晶表示装置の視野角補償に、ディスコティック液晶のハイブリッド配向を利用した光学異方性層を利用することが提案され、実用化もされている。前記光学異方性層を利用することで、TNモード液晶表示装置の視野角特性が顕著に改善される。前記構成の光学補償フィルムの連続生産では、長尺状の基板用フィルムを搬送しつつ、その表面上に、配向層を形成し、ラビング処理等の配向規制処理を施した後、さらに光学異方性層用材料を有機溶媒に溶解して調製した塗布液を塗布し、乾燥・硬化を経て、光学異方性層を形成するのが一般的である。これらの多数の工程に供される基板用フィルムには、ある程度の強度が必要であり、そのために、従来、ある程度の厚み(例えば80μm以上)のあるフィルムが用いられている。
【0003】
しかし、液晶表示装置等のフラットパネル型の表示装置については、薄型化に対する要請が益々高まっていて、用いられる光学補償フィルムについても薄型化の要請が強い。しかし、基板用フィルムとして、厚みが薄い(例えば厚みが40μm程度)フィルムを用いると、上記連続生産の過程で、フィルムが破損等し、安定的に上記構成の光学補償フィルムを製造できないという問題がある。
【0004】
ところで、上記光学補償フィルムに利用されるハイブリッド配向は、2つの配向形態に分類することができ、ディスコティック液晶分子のダイレクターとフィルム法線のなす角度(以下、チルト角という)が配向層界面から空気界面に向かって増加する順ハイブリッド配向の形態、及びチルト角が配向層界面から空気界面に向かって減少する逆ハイブリッド配向の形態に分類することができる。いずれの配向形態も、TNモード液晶表示装置の光学補償に有効であるが、下方向階調反転の点で、順ハイブリッド配向の形態がより好ましい(例えば特許文献1)。しかし、順ハイブリッド配向状態を形成するためには、配向層界面近傍のディスコティック液晶分子を、水平配向状態(即ち、円盤面を層面に対して平行にして配向した状態)にする必要があるが、水平配向状態では、ディスコティック液晶分子にかかる方位角方向の配向規制力が小さいため、順ハイブリッド配向の形態では微小な配向軸ズレ(以下、微小配向軸ズレという)が生じ易い。光学異方性層中の微小配向軸ズレは、正面コントラストの低下の一因になる。また、光学補償能を最適化するためには、完全な水平配向状態から低チルト角で傾斜させた配向状態に制御する必要がある場合もあるが、配向層界面において配向層の規制力により低チルト角を達成するのは困難である。
【0005】
これらの問題を解決した、逆ハイブリッド配向を固定した光学異方性層を有する光学補償フィルムが提案されている(特許文献2)。しかし、当該光学補償フィルムでは、上記した薄型化を達成できず、また光学補償において理想的な順ハイブリッド配向の利用は実現できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2587398号公報
【特許文献2】特開2011−133549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記諸問題を解決することを課題とする。
具体的には、良好な光学補償能を示すとともに、連続生産においても安定的に製造可能な薄型の光学フィルム、及びそれを有する液晶表示装置を提供することを課題とする。
また、本発明は、前記光学フィルムの製造に有用な転写材及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] ハイブリッド配向に固定されたディスコティック液晶を含有する光学異方性層と、配向制御能を有さない接着層と、基板とをこの順に有し、
前記ハイブリッド配向が、接着層側界面近傍のディスコティック液晶のダイレクターとフィルム法線とのなす角度と比較して、空気界面側のディスコティック液晶のダイレクターとフィルム法線とのなす角度が大きいハイブリッド配向であり、
フィルム全体の厚さが0.1μm〜70μmであることを特徴とする光学フィルム。
[2] 前記ハイブリッド配向が、接着層側界面近傍のディスコティック液晶のダイレクターとフィルム法線とのなす角度が0°〜40°であり、及び空気界面側のディスコティック液晶のダイレクターとフィルム法線とのなす角度が50°〜90°である[1]の光学フィルム。
【0009】
[3] 前記光学異方性層が、下記一般式(II)で表される化合物の少なくとも1種をさらに含有する[1]又は[2]の光学フィルム:
【化1】

式中、L23及びL24はそれぞれ二価の連結基であり;R22は水素原子、無置換アミノ基、又は炭素原子数が1〜20の置換アミノ基であり;Xはアニオンであり;Y22及びY23はそれぞれ、置換されていてもよい5又は6員環を部分構造として有する2価の連結基であり;Z21は炭素原子数が13〜20のアルキル基、炭素原子数が13〜20のアルキニル基、炭素原子数が13〜20のアルコキシ基からなる群より選ばれる一価の基であり;pは1〜10の数であり;並びにmは1又は2である。
【0010】
[4] 前記光学異方性層に含まれる前記少なくとも1種の一般式(II)で表される化合物が、ディスコティック液晶100質量部に対し1〜5質量部である[3]の光学フィルム。
[5] 前記基板が、高分子フィルムである[1]〜[4]のいずれかの光学フィルム。
[6] 前記高分子フィルムの厚さ方向レターデーションRthが、0nm〜80nmである[5]の光学フィルム。
[7] 前記基板が、偏光子である[1]〜[4]のいずれかの光学フィルム。
[8] [1]〜[7]のいずれかの光学フィルムを少なくとも有する液晶表示装置。
[9] ハイブリッド配向に固定されたディスコティック液晶を含有するディスコティック液晶性分子からなる転写用光学異方性層と、ラビング処理された配向層と、仮基板とを少なくともこの順に有し、
前記ハイブリッド配向が、配向層側界面近傍のディスコティック液晶のダイレクターとフィルム法線とのなす角度と比較して、空気界面側のディスコティック液晶のダイレクターとフィルム法線とのなす角度が小さいハイブリッド配向であり、
前記転写用光学異方性層と前記配向層との界面で剥離可能なことを特徴とする転写材。
[10] 前記ハイブリッド配向が、配向層側界面近傍のディスコティック液晶のダイレクターとフィルム法線とのなす角度が50°〜90°であり、及び空気界面側のディスコティック液晶のダイレクターとフィルム法線とのなす角度が0°〜40°である[9]の転写材。
[11] 前記転写用光学異方性層が、前記一般式(II)で表される化合物の少なくとも1種をさらに含む[9]又は[10]の転写材。
[12] 前記転写用光学異方性層に含まれる前記少なくとも1種の一般式(1)で表される化合物が、ディスコティック液晶100質量部に対し、1〜5質量部である[11]の転写材。
[13] 前記配向層が、主成分として未変性又は変性ポリビニルアルコールを含有する[9]〜[12]のいずれかの転写材。
[14] 前記仮基板の配向層側表面の水接触角が、10°〜50°である[13]の転写材。
[15] [1]〜[7]のいずれかの光学フィルムの製造方法であって、
[9]〜[14]のいずれかの転写材、及び基板と、その表面上に配向制御能を有さない接着層もしくは接着前駆層とを少なくとも有する積層体を準備すること;
前記転写材の転写用光学異方性層側表面と、前記積層体の前記接着層表面又は前記接着前駆層表面とを接触させること;並びに
前記転写材から仮基板と配向層とを剥離して、前記接着層表面上に前記転写用光学異方性層を転写すること;
をこの順で少なくとも含む光学フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、良好な光学補償能を示すとともに、連続生産においても安定的に製造可能な薄型の光学フィルム、及びそれを有する液晶表示装置を提供することができる。
また、本発明によれば、前記光学フィルムの製造に有用な転写材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の光学フィルムの一例の断面模式図である。
【図2】本発明に係わる光学異方性層の一例を模式的に示す斜視図である。
【図3】本発明の転写材の一例の断面模式図である。
【図4】本発明に係わる転写用光学異方性層の一例を模式的に示す斜視図である。
【図5】本発明の製造方法の一実施形態の流れを説明するために用いた模式図である。
【図6】本発明の製造方法の一実施形態の流れを説明するために用いた模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本明細書中、数値範囲や数値については、本発明の属する技術分野で許容される誤差を含む数値範囲及び数値として解釈されるべきである。
また、本明細書では、「光学フィルム」及び「転写材」の用語は、実用される形態(例えば矩形状)のみならず、連続的に生産された長尺状の形態、及びそれを巻き取ってロール状にした形態のいずれも含む意味で用いるものとする。「高分子フィルム」及び「偏光膜」の用語についても同様である。
【0014】
1.光学フィルム
本発明は、ハイブリッド配向に固定されたディスコティック液晶を含有する光学異方性層と、配向制御能を有さない接着層と、基板とをこの順に有し、
前記ハイブリッド配向が、接着層側界面近傍のディスコティック液晶のダイレクターとフィルム法線とのなす角度と比較して、空気界面側のディスコティック液晶のダイレクターとフィルム法線とのなす角度が大きいハイブリッド配向であり、
フィルム全体の厚さが0.1μm〜70μmであることを特徴とする光学フィルムに関する。本発明の光学フィルムは、ハイブリッド配向状態に固定されたディスコティック液晶を含有する光学異方性層を有するので、TNモード液晶表示装置に対して良好な光学補償能を有する。さらに、フィルム全体の厚さが前記範囲の薄いフィルムであり、TNモード液晶表示装置の中でも、タブレットPC、携帯電話等の薄型パネルの光学補償に利用するのに適する。
【0015】
本発明の光学フィルムでは、基板と光学異方性層との間に配置される接着層は配向制御能を有さず、即ち、光学異方性層は、別途、配向制御能を有する配向層上に形成された光学異方性層を、接着層上に転写した光学異方性層である。通常、ディスコティック液晶の順ハイブリッド配向では、配向層との界面近傍においてほぼ水平配向状態になっているため、方位角方向の規制力が小さく、配向層のラビング等により与えられる配向方向に対して、ミクロレベルでは微小な配向軸ズレが顕著になる傾向がある。本発明では、逆ハイブリッド配向状態を固定してなる転写用光学異方性層を形成し、該転写用光学異方性層を接着層上に転写して、転写前の光学異方性層の配向層界面を空気界面に、且つ空気界面を接着層界面に入れ替えて、順ハイブリッド配向状態を固定してなる光学異方性層を基板上に形成している。従って、上記した従来の順ハイブリッド配向を形成する際に生じていた微小配向軸ズレの問題は解消されている。例えば、微小配向軸ズレの程度の指標となる3σが、本発明に係わる光学異方性層は、2.0度以下を達成可能である。光学異方性層に微小配向軸ズレがないことから、本発明の光学フィルムを液晶表示装置に用いると、正面コントラスト(正面CR)を低下させることなく、光学補償を達成することができる。
【0016】
本明細書において、光学異方性層の「微小配向軸ズレ」は、以下の方法で算出される。
液晶組成物からなる光学異方性層を有する位相差フィルムを、偏光板をクロスニコルにした偏光顕微鏡を用いて、400倍率でステージの角度を0.5度ずつ回転させながら、最も暗くなるステージの角度を中心に±10度の範囲でデジタルカメラで撮影する。その後、デジタルカメラ写真で撮影された画像の回転・平行移動処理を行うことにより、画像の位置を画素単位で正確に合わせる。その後、各画素ごとに最も暗くなった角度を記録し、横軸に角度を縦軸にその角度で最も暗くなった画素数をプロットしたヒストグラムを作成し、その標準偏差σから3σを求める。なお、偏光顕微鏡としては公知のものを用いることができ、例えば、ニコン製エクリプスE600POLを用いることができる。また、上記の画像の回転・平行移動処理は市販のプログラムを用いて行うことが可能である。
【0017】
本発明の光学フィルムの一例の断面模式図を図1に示す。図1に示す光学フィルムは、基板10と、その上に、接着層12及び光学異方性層14をこの順で有する。光学フィルムは薄層のフィルムであり、具体的には、全体の厚みが0.1μm〜70μm、好ましくは0.1〜60μm、より好ましくは0.1〜40μmである。偏光膜に直接転写する場合は、0.1μm〜5μmが好ましく、0.1μm〜3μmがより好ましい。高分子フィルムに転写する場合は、20μm〜70μm、好ましくは20μm〜60μm、より好ましくは、20μm〜40μmである。
【0018】
接着層12は配向制御能を有さず、即ち、光学異方性層14は、別途配向制御能を有する配向層上に形成された光学異方性層を転写することで、接着層12上に配置した光学異方性層である。接着層12は、光学異方性層14との接着性を良化する接着剤を含み、例えば、アクリル系、酢酸ビニル系、ポリアミド系、塩化ビニル系、クロロプレンゴム系、エポキシ系、イソシアネート系などの接着剤を硬化させてなる層が好ましく、紫外線硬化性接着剤(具体的には、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、シアノアクリレート等を含む接着剤)を硬化させてなる層であるのがより好ましい。
【0019】
光学異方性層14は、順ハイブリッド配向状態に固定されたディスコティック液晶を含有する光学異方性層である。一例の拡大模式図を図2に示す。図2に示す光学異方性層14は、接着層界面と空気界面を有し、接着層界面近傍のディスコティック液晶DLCのダイレクターDとフィルム法線とのなす角度β1と比較して、空気界面側のディスコティック液晶DLCのダイレクターDとフィルム法線とのなす角度β2が大きい(即ち、β1<β2)ハイブリッド配向の形態を固定して形成された層である。β1<β2を満足する限り、β1及びβ2の範囲は制限されないが、良好な光学補償能を示すためには、β1は0°〜40°であり、且つβ2は50°〜90°であるのが好ましく、β1は0°〜20°であり、且つβ2は60°〜90°であるのがより好ましく、β1は5°〜20°であり、且つβ2は60°〜80°であるのがさらに好ましい。
【0020】
上記した通り、光学異方性層14中の配向層界面近傍のディスコティック液晶DLCのダイレクターDの微小配向軸ズレは小さく、具体的には、微小配向軸ズレの程度の指標となる3σが2.0度以下になっている。また、従来の順ハイブリッド配向では、配向層界面近傍のDLCの配向は、主には配向層の配向制御能に支配されているが、配向層の配向制御能のみで、配向層界面近傍のDLCのチルト角を0°〜40°の範囲、とくに15°〜40°の範囲で任意に調節することは困難であった。一方、空気界面近傍のディスコティック液晶の配向は、添加剤により調整可能であるので、例えば空気界面水平配向促進剤を添加することにより、空気界面近傍のDLCのチルト角を0°〜40°の範囲で調節することは比較的容易である。上記した通り、光学異方性層14の接着層界面は、転写前の光学異方性層の空気界面に相当するので、接着層界面近傍のDLCのチルト角β1が0°〜40°の広範囲に亘る順ハイブリッド配向状態の達成が可能である。β1が上記の広い範囲で任意に調節可能であれば、TNモードに限らず、VA、IPS、OCB、ECBなど、液晶表示装置の各種モードの光学補償に必要とされるチルト角を容易に実現することが可能である。
【0021】
光学異方性層14の厚みについては特に制限はないが、一般的には、0.1〜2.0μmであるのが好ましく、0.5〜2.0μmであるのがより好ましい。
【0022】
基板10については、特に制限はない。但し、基板10は、光学フィルム全体としての厚みが上記範囲であるために、60μm以下であるのが好ましく、40μm以下であるのがより好ましい。上記した通り、光学異方性層14は転写により形成されるので、光学フィルムの製造工程を通じて、基板10にかかる負荷は、従来と比較して格段に小さい。基板10の厚みが上記範囲で脆弱であっても、損傷等による生産性が顕著に低下することはない。基板10の厚みの下限値は、一般的には、20μm以上であるのが好ましく、30μm以上であるのがより好ましい。
【0023】
基板10の一例は、高分子(重合体及び樹脂の双方を含む意味で用いる)を主成分として含む透明フィルムである。該透明フィルムが、位相差フィルムであって、光学異方性層14とともに光学補償能に寄与していてもよい。一般的に、TNモード液晶表示装置は、下方向階調反転が生じやすい。基板10が、厚さ方向レターデーションRthが、0nm〜80nm(好ましくは0〜60nm、より好ましくは10〜60nm)であると、左右上下方向の階調反転を軽減できる。従って、基板10として、上記範囲のRthを有する光学フィルムの態様は、360°回転して観察するタブレット型表示パネル、携帯電話などに利用するのに適する。
【0024】
また、基板10の他の例は、偏光膜である。偏光膜表面上に直接、光学異方性層14を接着層12を介して貼合できれば、光学フィルムと偏光板との積層体のトータルとしての厚みをさらに軽減でき、液晶表示装置の薄型化に寄与できる。偏光膜については特に制限はなく、汎用されている偏光膜を用いることができる。一例は、延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着した偏光膜である。
【0025】
本発明の光学フィルムが連続的に長尺状に製造される態様、即ち、基板10が長尺状である態様では、図2に示す通り、当該基板10の長手方向Lに対して、光学異方性層14の遅相軸Sが直交であるのが好ましい。例えば、基板10が偏光膜である態様では、長手方向Lに吸収軸を有するので、光学異方性層14の遅相軸Sは吸収軸に対して直交であるのが好ましい。後述する転写材を用いて本発明の光学フィルムを製造する場合は、ロール・ツー・ロールで転写を実施すると、基板の長手方向と、転写材の仮基板の長手方向は一致する。さらに、一般的には、配向層の表面を連続的にラビング処理する場合は、ラビング方向と長手方向とが一致しているのが一般的である。従って、基板10の長手方向Lに対して、光学異方性層14の遅相軸Sが直交である光学フィルムを製造するためには、転写材の製造時に、ラビング方向に対して、ディスコティック液晶をその遅相軸を直交にして配向させるのが好ましい。
【0026】
2.転写材
本発明は、ハイブリッド配向に固定されたディスコティック液晶を含有するディスコティック液晶性分子からなる転写用光学異方性層と、ラビング処理された配向層と、仮基板とを少なくともこの順に有し、
前記ハイブリッド配向が、配向層側界面近傍のディスコティック液晶のダイレクターとフィルム法線とのなす角度と比較して、空気界面側のディスコティック液晶のダイレクターとフィルム法線とのなす角度が小さいハイブリッド配向であり、
前記転写用光学異方性層と前記配向層との界面で剥離可能なことを特徴とする転写材にも関する。本発明の転写材は、上記本発明の光学フィルムの製造に有用である。具体的には、本発明の転写材を用いることにより、順ハイブリッド配向状態に固定されたディスコティック液晶を含有する光学異方性層を有する、TNモード液晶表示装置に対して良好な光学補償能を示す、薄層の光学フィルムを安定的に製造することができる。
【0027】
図3に、本発明の転写材の一例の断面模式図を示す。図3に示す転写材は、仮基板20と、その上に、配向層22及び転写用光学異方性層14’をこの順で有する。転写用光学異方性層14’以外の仮基板20及び配向層22は、剥離されて実際には使用されないので、薄層である必要はない。一般的には、転写材は全体としては、70μm〜200μm程度の厚みの積層体である。
【0028】
配向層22は配向制御能を有し、転写用光学異方性層14’を形成する際に、ディスコティック液晶の配向を制御する。その種類については特に制限はない。一例は、高分子膜の表面をラビング処理したラビング配向層である。高分子膜の主成分の例には、変性又は未変性のポリビニルアルコール(PVA)が含まれる。その他、光配向層等を利用してもよい。
【0029】
転写用光学異方性層14’は、逆ハイブリッド配向状態に固定されたディスコティック液晶を含有する光学異方性層である。一例の拡大模式図を図4に示す。図4に示す転写用光学異方性層14’は、配向層界面と空気界面を有し、配向層界面近傍のディスコティック液晶DLCのダイレクターDとフィルム法線とのなす角度βaと比較して、空気界面側のディスコティック液晶DLCのダイレクターDとフィルム法線とのなす角度βbが小さい(即ち、βb<βa)ハイブリッド配向の形態を固定して形成された層である。βa及びβbはそれぞれ、転写後は、図3中のβ2及びβ1にそれぞれ相当する。従って、良好な光学補償能を示す光学フィルムの製造のためには、βaは50°〜90°であり、且つβbは0°〜40°であるのが好ましく、βaは60°〜90°であり、且つβbは0°〜20°であるのがより好ましく、βaは60°〜80°であり、且つβbは5°〜20°であるのがさらに好ましい。
【0030】
転写材は、配向層22と、転写用光学異方性層14’との間が剥離可能に構成されている。配向層22の主成分PVA等の親水性であると、親油性のディスコティック液晶との親和性は低く、良好な剥離性が得られる。さらに、転写用光学異方性層14’中に添加する添加剤の一種が、剥離性の改善に寄与する剤であるのが好ましい。例えば、前記転写用光学異方性層14’が、配向層の材料(例えばPVA)に対して親和的な部分構造と、非親和的な部分構造を有し、且つ配向層22中の成分と化学結合する反応性基を有しない添加剤を含んでいると、剥離性が向上する。当該添加剤は、他の機能を有しているのが好ましく、例えば、配向層界面においてディスコティック液晶の配向を制御する配向層界面配向制御剤であるのが好ましい。前記添加剤の配合割合を調整することで、剥離性を向上できるとともに、配向層界面におけるディスコティック液晶の配向を所望の配向状態に制御できる。当該添加剤の詳細、及びその添加量の好ましい範囲については、後述する。
【0031】
仮基板20については、特に制限はない。仮基板20は、転写時に転写用光学異方性層14’から剥離され、除去されるので、材料及び光学特性等の観点で制限されない。汎用される高分子フィルムを種々使用することができる。転写材の製造工程を通じて仮基板20にかかる負荷、即ち、配向層22及び転写用光学異方性層14’を形成する際の負荷や、連続生産では搬送によってかかる負荷を考慮すれば、ある程度の強度のある高分子フィルムを用いるのが好ましく、例えば、厚みが80μm以上のフィルムを用いるのが好ましい。
【0032】
また、転写時には、配向層22と転写用光学異方性層14’の界面で剥離されるのが好ましい。配向層22が転写用光学異方性層14’に残ってしまうと、転写後の光学異方性層14の均一性を損なう恐れがある。前記配向層22と転写用光学異方性層14’との界面で剥離可能とするためには、配向層22と仮基板20との親和性が高いほど好ましい。例えば、配向層22の主成分が、未変性又は変性PVA等の親水性材料である態様では、仮基板20の表面は親水性であるのが好ましい。表面親水性の一指標として、水接触角がある。前記態様では、仮基板20の表面の水接触角は10°〜50°であるのが好ましく、10°〜40°であるのがより好ましい。
【0033】
本発明の転写材が連続的に長尺状に製造される態様であって、その上に形成される配向層の表面を連続的にラビング処理する場合は、ラビング方向と、仮基板の長手方向とが一致しているのが一般的である。従って、一般的には、図4に示す通り、仮基板20の長手方向Lとラビング方向Rは一致する。さらに、ラビング処理面上でディスコティック液晶を高いチルト角で配向させると、ラビング処理によって表面に形成された微細な窪みに円盤面をはめ込んで配向するのが一般的である。当該配向状態によって発現される遅相軸は、ラビング方向に対して、即ち長手方向に対して、平行になる。しかし、上記した通り、転写用光学異方性層14’を転写後の光学異方性層14の遅相軸Sは、長手方向に対して直交であるのが、生産性の観点等では好ましい。従って、転写用光学異方性層14’を形成する際には、ディスコティック液晶の遅相軸Sを、ラビング方向R(即ち仮基板20の長手方向L)に対して直交配向させるのを促進する配向制御剤を添加するのが好ましい。
【0034】
また、転写用光学異方性層14’中に、空気界面近傍のディスコティック液晶を低チルト角で、実質的に水平配向状態(即ち、円盤面を層面に対して平行にして配向した状態)にするのを促進する配向制御剤を添加してもよい。空気界面近傍におけるディスコティック液晶のチルト角は、添加剤の種類や添加量を調整することで精度よく制御することができ、配向層界面近傍におけるディスコティック液晶のチルト角を制御する場合と比較して、安定的な配向状態が得られる。従って、転写用光学異方性層14’を転写して、空気界面と配向層界面を入れ替えることにより、微小配向軸ズレのない、また両界面のチルト角が所望の範囲に精度よく制御された、順ハイブリッド配向からなる光学異方性層14が得られる。
【0035】
3.光学フィルムの製造方法
本発明は、本発明の転写材を利用した、本発明の光学フィルムの製造方法にも関する。具体的には、本発明は、
本発明の転写材、及び基板と、その表面上に配向制御能を有さない接着層もしくは接着前駆層とを少なくとも有する積層体を準備すること((a)工程);
前記転写材の転写用光学異方性層側表面と、前記積層体の前記接着層表面とを接触させること((b)工程);並びに
前記転写材から仮基板と配向層とを剥離して、前記接着層表面上に前記転写用光学異方性層を転写すること((c)工程);
をこの順で少なくとも含む、本発明の光学フィルムの製造方法にも関する。
【0036】
図5に、本発明の製造方法の一例の模式図を示す。以下、各工程について図5を参照して説明する。
(a)工程
まず、本発明の転写材、及び基板と、その表面上に配向制御能を有さない接着層もしくは接着前駆層とを少なくとも有する積層体をそれぞれ準備する。本発明の転写材は、従来公知の種々の方法を利用して製造することができる。一例は、以下の通りである。
仮基板20上にPVA等を主成分として含む高分子膜を形成し、該膜の表面をラビング処理し、配向膜22を形成する。ディスコティック液晶、及び所望により1種以上の配向制御剤を、有機溶媒に溶解した塗布液を調製し、該ラビング処理面に塗布して、塗布層を形成する。塗布層を、所望により加熱下で乾燥し、溶媒を除去するとともに、ディスコティック液晶を配向させて、逆ハイブリッド配向状態を形成する。塗布層中に含まれる、重合性成分等の反応性成分(例えば、ディスコティック液晶が重合性基等の反応性基を有する場合は、ディスコティック液晶)の反応を進行させて、逆ハイブリッド配向状態を固定して、転写用光学異方性層14’(図中DLC層14’)を形成する。この様にして、本発明の転写材を製造することができる。
【0037】
別途、基板10と、その上に接着層12を有する積層体を準備する。接着層12は、前記転写材と貼合する前は、接着性を有していなくてもよく、即ち、接着前駆層であってもよい。例えば、転写材とラミネートした後、光照射又は熱供与によって接着層12となる接着前駆層を有する積層体を準備してもよい。
【0038】
(b)工程
次に、準備した転写材の転写用光学異方性層14’側表面と、準備した前記積層体の接着層(又は接着前駆体層)12表面とを接触させる。接触した状態で加圧するのが好ましい。例えば、前記転写材と前記積層体を上記条件で積層した積層体を、一対のロール間を通過させて、加圧することができる。また、接着層が、光照射(例えばUV照射)又は加熱によって接着性を発現する接着前駆層である態様では、上記加圧と同時に又は加圧の前もしくは後に、光照射及び/又は加熱処理を実施するのが好ましい。
【0039】
(c)工程
次に、転写材から仮基板20と配向層22とを剥離して、前記接着層12表面上に前記転写用光学異方性層14’を転写することにより、光学異方性層14(図中DLC層14)を形成する。転写により界面が入れ替わり、転写用光学異方性層14’の空気界面は、光学異方性層14の接着層界面に、及び転写用光学異方性層14’の配向膜界面は、光学異方性層14の空気界面になっているので、光学異方性層14中のディスコティック液晶は、順ハイブリッド配向状態に固定されている。
【0040】
仮基板20及び配向層22の剥離は、例えば、表面に強い粘着性層を有するロール等の部材を、仮基板20の裏面(即ち、配向層22が形成されていない側の面)に接触させ、該部材の粘着力により、仮基板20及び配向層22のみを、剥離してもよい。
【0041】
本発明の製造方法は、連続的に長尺状の形態で実施されてもよい。当該実施形態の工程の流れの一例を、図6に模式的に示す。図6に示す例では、本発明の方法は、以下の通り実施される。
あらかじめ、上記方法等により、長尺の高分子フィルム等の仮基板上に、ディスコティック液晶の逆ハイブリッド配向を固定してなる転写用光学異方性層14’を有する、長尺状の転写材を準備する。また、長尺の高分子フィルム等からなる基板10を矢印の方向に搬送しながら、その表面に、UV硬化性組成物の塗布液を塗布し、接着前駆層を連続的に形成する((a)工程)。
【0042】
次に、一対のラミネート用ロール間、又はラミネート用ロール下を通過させて加圧することで、転写材の転写用光学異方性層14’の表面と接着前駆体層の表面とを接触させて、転写材と基板10とを積層する。この状態で、UV光を照射して、UV硬化性組成物を硬化させることにより、光学異方性層14’と接着層とを強く接着する((b)工程)。
【0043】
その後、転写材の仮基板20の裏面を、粘着性の高い表面層を有する剥離用粘着性ロールの表面に接触させると、ロールの粘着力により、仮基板20と配向層22とが剥離し、基板10上に、光学異方性層14’が転写される。転写により界面が入れ替わり、転写用光学異方性層14’の空気界面は、光学異方性層14の接着層界面に、及び転写用光学異方性層14’の配向膜界面は、光学異方性層14の空気界面になっているので、基板10上には、ディスコティック液晶が順ハイブリッド配向状態に固定されている光学異方性層14が形成される。
【0044】
次に、本発明に利用可能な種々の材料について説明する。なお、以下では、「光学異方性層」の用語は、転写材が有する転写用光学異方性層も含む意味で用い、「空気界面」という場合は、転写前の転写用光学異方性層の空気界面を意味するものとする。
(1)光学異方性層
(1)−1 ディスコティック液晶
本発明に使用可能なデイスコティック液晶については特に制限はない。ディスコティック液晶に分類されるいずれの化合物も用いることができる。ネマチックディスコティック液晶であるのが好ましい。中でも下記一般式(I)で表されるディスコティック液晶化合物が好ましい。
【0045】
【化2】

【0046】
式中、Y11、Y12及びY13は、それぞれ独立に置換されていてもよいメチン又は窒素原子を表す。
【0047】
11、Y12およびY13がメチンの場合、メチンの水素原子は置換基で置き換わってもよい。メチンが有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ハロゲン原子およびシアノ基を好ましい例として挙げることができる。これらの置換基の中では、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、ハロゲン原子およびシアノ基がさらに好ましく、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数2〜12アルコキシカルボニル基、炭素数2〜12アシルオキシ基、ハロゲン原子およびシアノ基がより好ましい。
11、Y12およびY13は、化合物の合成の容易さおよびコストの点において、いずれもメチンであることがより好ましく、メチンは無置換であることがさらに好ましい。
【0048】
1、L2及びL3は、それぞれ独立に単結合又は二価の連結基を表す。
1、L2およびL3が二価の連結基の場合、それぞれ独立に、−O−,−S−、−C(=O)−、−NR7−、−CH=CH−、−C≡C−、二価の環状基およびこれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。上記R7は炭素原子数1〜7のアルキル基または水素原子であり、炭素原子数1〜4のアルキル基または水素原子であることが好ましく、メチル基、エチル基または水素原子であることがさらに好ましく、水素原子であることが最も好ましい。
【0049】
1、L2およびL3における二価の環状基とは、少なくとも1種類の環状構造を有する二価の連結基(以下、環状基と呼ぶことがある)である。環状基は5員環、6員環、または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましく、6員環であることが最も好ましい。環状基に含まれる環は、縮合環であってもよい。ただし、縮合環よりも単環であることがより好ましい。また、環状基に含まれる環は、芳香族環、脂肪族環、および複素環のいずれでもよい。芳香族環としては、ベンゼン環およびナフタレン環が好ましい例として挙げられる。脂肪族環としては、シクロヘキサン環が好ましい例として挙げられる。複素環としては、ピリジン環およびピリミジン環が好ましい例として挙げられる。環状基は、芳香族環および複素環がより好ましい。なお、本発明における2価の環状基は、環状構造のみ(但し、置換基を含む)からなる2価の連結基であることがより好ましい(以下、同じ)。
【0050】
1、L2およびL3で表される二価の環状基のうち、ベンゼン環を有する環状基としては、1,4−フェニレン基が好ましい。ナフタレン環を有する環状基としては、ナフタレン−1,5−ジイル基およびナフタレン−2,6−ジイル基が好ましい。シクロヘキサン環を有する環状基としては1,4−シクロへキシレン基であることが好ましい。ピリジン環を有する環状基としてはピリジン−2,5−ジイル基が好ましい。ピリミジン環を有する環状基としては、ピリミジン−2,5−ジイル基が好ましい。
【0051】
1、L2およびL3で表される二価の環状基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、ハロゲン原子(好ましくは、フッ素原子、塩素原子)、シアノ基、ニトロ基、炭素原子数1〜16のアルキル基、炭素原子数2〜16のアルケニル基、炭素原子数が2〜16アルキニル基、炭素原子数1〜16のハロゲン置換アルキル基、炭素原子数1〜16のアルコキシ基、炭素原子数2〜16のアシル基、炭素原子数1〜16のアルキルチオ基、炭素原子数2〜16のアシルオキシ基、炭素原子数2〜16のアルコキシカルボニル基、カルバモイル基、炭素原子数2〜16のアルキル基で置換されたカルバモイル基および炭素原子数2〜16のアシルアミノ基が含まれる。
【0052】
1、L2およびL3としては、単結合、*−O−CO−、*−CO−O−、*−CH=CH−、*−C≡C−、*−二価の環状基−、*−O−CO−二価の環状基−、*−CO−O−二価の環状基−、*−CH=CH−二価の環状基−、*−C≡C−二価の環状基−、*−二価の環状基−O−CO−、*−二価の環状基−CO−O−、*−二価の環状基−CH=CH−および*−二価の環状基−C≡C−が好ましい。特に、単結合、*−CH=CH−、*−C≡C−、*−CH=CH−二価の環状基−および*−C≡C−二価の環状基−が好ましく、単結合が最も好ましい。ここで、*は一般式(I)中のY11、Y12およびY13を含む6員環側に結合する位置を表す。
【0053】
一般式(I)中、H1、H2及びH3は、それぞれ独立に一般式(I−A)又は(I−B)の基を表す。
【0054】
【化3】

一般式(I−A)中、YA1及びYA2は、それぞれ独立にメチン又は窒素原子を表し;
XAは、酸素原子、硫黄原子、メチレン又はイミノを表し;
*は上記一般式(I)におけるL1〜L3側と結合する位置を表し;
**は上記一般式(I)におけるR1〜R3側と結合する位置を表す。
【0055】
【化4】

一般式(I−B)中、YB1及びYB2は、それぞれ独立にメチン又は窒素原子を表し;
XBは、酸素原子、硫黄原子、メチレン又はイミノを表し;
*は上記一般式(I)におけるL1〜L3側と結合する位置を表し;
**は上記一般式(I)におけるR1〜R3側と結合する位置を表す。
【0056】
一般式(I)中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に下記一般式(I−R)を表す。
【0057】
一般式(I−R)
*−(−L21−Q2n1−L22−L23−Q1
一般式(I−R)中、*は、一般式(I)におけるH1〜H3側と結合する位置を表す。
21は単結合又は二価の連結基を表す。L21が二価の連結基の場合、−O−、−S−、−C(=O)−、−NR7−、−CH=CH−および−C≡C−ならびにこれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。上記R7は炭素原子数1〜7のアルキル基または水素原子であり、炭素原子数1〜4のアルキル基または水素原子であることが好ましく、メチル基、エチル基または水素原子であることがさらに好ましく、水素原子であることが最も好ましい。
【0058】
21は単結合、***−O−CO−、***−CO−O−、***−CH=CH−および***−C≡C−(ここで、***は一般式(DI−R)中の*側を表す)のいずれかが好ましく、単結合がより好ましい。
【0059】
2は少なくとも1種類の環状構造を有する二価の基(環状基)を表す。このような環状基としては、5員環、6員環、または7員環を有する環状基が好ましく、5員環または6員環を有する環状基がより好ましく、6員環を有する環状基がさらに好ましい。上記環状基に含まれる環状構造は、縮合環であっても良い。ただし、縮合環よりも単環であることがより好ましい。また、環状基に含まれる環は、芳香族環、脂肪族環、および複素環のいずれでもよい。芳香族環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環が好ましい例として挙げられる。脂肪族環としては、シクロヘキサン環が好ましい例として挙げられる。複素環としては、ピリジン環およびピリミジン環が好ましい例として挙げられる。
【0060】
上記Q2のうち、ベンゼン環を有する環状基としては、1,4−フェニレン基が好ましい。ナフタレン環を有する環状基としては、ナフタレン−1,4−ジイル基、ナフタレン−1,5−ジイル基、ナフタレン−1,6−ジイル基、ナフタレン−2,5−ジイル基、ナフタレン−2,6−ジイルナフタレン−2,7−ジイル基が好ましい。シクロヘキサン環を有する環状基としては1,4−シクロへキシレン基であることが好ましい。ピリジン環を有する環状基としてはピリジン−2,5−ジイル基が好ましい。ピリミジン環を有する環状基としては、ピリミジン−2,5−ジイル基が好ましい。これらの中でも、特に、1,4−フェニレン基、ナフタレン−2,6−ジイル基および1,4−シクロへキシレン基が好ましい。
【0061】
2は、置換基を有していてもよい。置換基の例には、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、ニトロ基、炭素原子数1〜16のアルキル基、炭素原子数2〜16のアルケニル基、炭素原子数2〜16のアルキニル基、炭素原子数1〜16のハロゲンで置換されたアルキル基、炭素原子数1〜16のアルコキシ基、炭素原子数2〜16のアシル基、炭素原子数1〜16のアルキルチオ基、炭素原子数2〜16のアシルオキシ基、炭素原子数2〜16のアルコキシカルボニル基、カルバモイル基、炭素原子数2〜16のアルキル置換カルバモイル基および炭素原子数2〜16のアシルアミノ基が含まれる。これらの中でも、ハロゲン原子、シアノ基、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のハロゲンで置換されたアルキル基が好ましく、ハロゲン原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のハロゲンで置換されたアルキル基がより好ましく、ハロゲン原子、炭素原子数が1〜3のアルキル基、トリフルオロメチル基がさらに好ましい。
【0062】
n1は、0〜4の整数を表す。n1としては、1〜3の整数が好ましく、1もしくは2がさらに好ましい。
【0063】
22は、**−O−、**−O−CO−、**−CO−O−、**−O−CO−O−、**−S−、**−NH−、**−SO2−、**−CH2−、**−CH=CH−または**−C≡C−を表し、**はQ2側と結合する位置を表す。
22は、好ましくは、**−O−、**−O−CO−、**−CO−O−、**−O−CO−O−、**−CH2−、**−CH=CH−、**−C≡C−であり、より好ましくは、**−O−、**−O−CO−、**−O−CO−O−、**−CH2−である。L22が水素原子を含む基であるときは、該水素原子は置換基で置換されていてもよい。このような置換基として、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のハロゲンで置換されたアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、炭素原子数2〜6のアシル基、炭素原子数1〜6のアルキルチオ基、炭素原子数2〜6のアシルオキシ基、炭素原子数2〜6のアルコキシカルボニル基、カルバモイル基、炭素原子数2〜6のアルキルで置換されたカルバモイル基および炭素原子数2〜6のアシルアミノ基が好ましい例として挙げられ、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のアルキル基がより好ましい。
【0064】
23は、−O−、−S−、−C(=O)−、−SO2−、−NH−、−CH2−、−CH=CH−および−C≡C−ならびにこれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。ここで、−NH−、−CH2−、−CH=CH−の水素原子は、置換基で置換されていてもよい。このような置換基として、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のハロゲンで置換されたアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、炭素原子数2〜6のアシル基、炭素原子数1〜6のアルキルチオ基、炭素原子数2〜6のアシルオキシ基、炭素原子数2〜6のアルコキシカルボニル基、カルバモイル基、炭素原子数2〜6のアルキルで置換されたカルバモイル基および炭素原子数2〜6のアシルアミノ基が好ましい例として挙げられ、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のアルキル基がより好ましい。これらの置換基に置換されることにより、本発明の液晶性化合物から液晶性組成物を調製する際に、使用する溶媒に対する溶解性を向上させることができる。
【0065】
23は、−O−、−C(=O)−、−CH2−、−CH=CH−および−C≡C−ならびにこれらの組み合わせからなる群より選ばれることが好ましい。L23は、炭素原子を1〜20個含有することが好ましく、炭素原子を2〜14個を含有することがより好ましい。さらに、L23は、−CH2−を1〜16個含有することが好ましく、−CH2−を2〜12個含有することがさらに好ましい。
【0066】
1は重合性基または水素原子を表す。本発明の液晶性化合物を光学補償フィルムのような位相差の大きさが熱により変化しないものが好ましい光学フィルム等に用いる場合には、Q1は重合性基であることが好ましい。重合反応は、付加重合(開環重合を含む)または縮合重合であることが好ましい。すなわち、重合性基は、付加重合反応または縮合重合反応が可能な官能基であることが好ましい。以下に重合性基の例を示す。
【0067】
【化5】

【0068】
さらに、重合性基は付加重合反応が可能な官能基であることが特に好ましい。そのような重合性基としては、重合性エチレン性不飽和基または開環重合性基が好ましい。
【0069】
重合性エチレン性不飽和基の例としては、下記の式(M−1)〜(M−6)が挙げられる。
【0070】
【化6】

【0071】
式(M−3)、(M−4)中、Rは水素原子またはアルキル基を表し、水素原子またはメチル基が好ましい。
上記式(M−1)〜(M−6)の中、(M−1)または(M−2)が好ましく、(M−1)がより好ましい。
【0072】
開環重合性基は、環状エーテル基が好ましく、エポキシ基またはオキセタニル基がより好ましい。
【0073】
前記式(I)の化合物の中でも、下記一般式(I’)で表される化合物がより好ましい。
【0074】
【化7】

【0075】
一般式(DI)中、Y11、Y12およびY13は、それぞれ独立にメチンまたは窒素原子を表し、メチンが好ましく、メチンは無置換であるのが好ましい。
【0076】
11、R12およびR13は、それぞれ独立に下記一般式(I’−A)、下記一般式(I’−B)または下記一般式(I’−C)を表す。固有複屈折の波長分散性を小さくしようとする場合、一般式(I’−A)または一般式(I’−C)が好ましく、一般式(I’−A)がより好ましい。R11、R12およびR13は、R11=R12=R13であることが好ましい。
【0077】
【化8】

【0078】
一般式(I’−A)中、A11、A12、A13、A14、A15およびA16は、それぞれ独立にメチンまたは窒素原子を表す。
11およびA12は、少なくとも一方が窒素原子であることが好ましく、両方が窒素原子であることがより好ましい。
13、A14、A15およびA16は、それらのうち、少なくとも3つがメチンであることが好ましく、すべてメチンであることがより好ましい。さらに、メチンは無置換であることが好ましい。
11、A12、A13、A14、A15またはA16がメチンの場合の置換基の例には、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、ニトロ基、炭素原子数1〜16のアルキル基、炭素原子数2〜16のアルケニル基、炭素原子数2〜16のアルキニル基、炭素原子数1〜16のハロゲンで置換されたアルキル基、炭素原子数1〜16のアルコキシ基、炭素原子数2〜16のアシル基、炭素原子数1〜16のアルキルチオ基、炭素原子数2〜16のアシルオキシ基、炭素原子数2〜16のアルコキシカルボニル基、カルバモイル基、炭素原子数2〜16のアルキル置換カルバモイル基および炭素原子数2〜16のアシルアミノ基が含まれる。これらの中でも、ハロゲン原子、シアノ基、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のハロゲンで置換されたアルキル基が好ましく、ハロゲン原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のハロゲンで置換されたアルキル基がより好ましく、ハロゲン原子、炭素原子数が1〜3のアルキル基、トリフルオロメチル基がさらに好ましい。
1は、酸素原子、硫黄原子、メチレンまたはイミノを表し、酸素原子が好ましい。
【0079】
【化9】

【0080】
一般式(I’−B)中、A21、A22、A23、A24、A25およびA26は、それぞれ独立にメチンまたは窒素原子を表す。
21およびA22は、少なくとも一方が窒素原子であることが好ましく、両方が窒素原子であることがより好ましい。
23、A24、A25およびA26は、それらのうち、少なくとも3つがメチンであることが好ましく、すべてメチンであることがより好ましい。
21、A22、A23、A24、A25またはA26がメチンの場合の置換基の例には、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、ニトロ基、炭素原子数1〜16のアルキル基、炭素原子数2〜16のアルケニル基、炭素原子数2〜16のアルキニル基、炭素原子数1〜16のハロゲンで置換されたアルキル基、炭素原子数1〜16のアルコキシ基、炭素原子数2〜16のアシル基、炭素原子数1〜16のアルキルチオ基、炭素原子数2〜16のアシルオキシ基、炭素原子数2〜16のアルコキシカルボニル基、カルバモイル基、炭素原子数2〜16のアルキル置換カルバモイル基および炭素原子数2〜16のアシルアミノ基が含まれる。これらの中でも、ハロゲン原子、シアノ基、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のハロゲンで置換されたアルキル基が好ましく、ハロゲン原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のハロゲンで置換されたアルキル基がより好ましく、ハロゲン原子、炭素原子数が1〜3のアルキル基、トリフルオロメチル基がさらに好ましい。
2は、酸素原子、硫黄原子、メチレンまたはイミノを表し、酸素原子が好ましい。
【0081】
【化10】

【0082】
一般式(I’−C)中、A31、A32、A33、A34、A35およびA36は、それぞれ独立にメチンまたは窒素原子を表す。
31およびA32は、少なくとも一方が窒素原子であることが好ましく、両方が窒素原子であることがより好ましい。
33、A34、A35およびA36は、少なくとも3つがメチンであることが好ましく、すべてメチンであることがより好ましい。
31、A32、A33、A34、A35またはA36がメチンの場合、メチンは置換基を有していてもよい。置換基の例には、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、ニトロ基、炭素原子数1〜16のアルキル基、炭素原子数2〜16のアルケニル基、炭素原子数2〜16のアルキニル基、炭素原子数1〜16のハロゲンで置換されたアルキル基、炭素原子数1〜16のアルコキシ基、炭素原子数2〜16のアシル基、炭素原子数1〜16のアルキルチオ基、炭素原子数2〜16のアシルオキシ基、炭素原子数2〜16のアルコキシカルボニル基、カルバモイル基、炭素原子数2〜16のアルキル置換カルバモイル基および炭素原子数2〜16のアシルアミノ基が含まれる。これらの中でも、ハロゲン原子、シアノ基、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のハロゲンで置換されたアルキル基が好ましく、ハロゲン原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のハロゲンで置換されたアルキル基がより好ましく、ハロゲン原子、炭素原子数が1〜3のアルキル基、トリフルオロメチル基がさらに好ましい。
3は、酸素原子、硫黄原子、メチレンまたはイミノを表し、酸素原子が好ましい。
【0083】
一般式(I’−A)中のL11、一般式(I’−B)中のL21、一般式(I’−C)中のL31はそれぞれ独立して、−O−、−C(=O)−、−O−CO−、−CO−O−、−O−CO−O−、−S−、−NH−、−SO2−、−CH2−、−CH=CH−または−C≡C−を表す。好ましくは、−O−、−C(=O)−、−O−CO−、−CO−O−、−O−CO−O−、−CH2−、−CH=CH−、−C≡C−であり、より好ましくは、−O−、−O−CO−、−CO−O−、−O−CO−O−、−C≡C−である。特に、小さい固有複屈折の波長分散性が期待できる、一般式(DI−A)中のL11は、−O−、−CO−O−、−C≡C−が特に好ましく、この中でも−CO−O−が、より高温でディスコティックネマチック相を発現できるため、好ましい。上述の基が水素原子を含む基であるときは、該水素原子は置換基で置き換わってもよい。このような置換基として、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のハロゲンで置換されたアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、炭素原子数2〜6のアシル基、炭素原子数1〜6のアルキルチオ基、炭素原子数2〜6のアシルオキシ基、炭素原子数2〜6のアルコキシカルボニル基、カルバモイル基、炭素原子数2〜6のアルキルで置換されたカルバモイル基および炭素原子数2〜6のアシルアミノ基が好ましい例として挙げられ、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のアルキル基がより好ましい。
【0084】
一般式(I’−A)中のL12、一般式(I’−B)中のL22、一般式(I’−C)中のL32はそれぞれ独立して、−O−、−S−、−C(=O)−、−SO2−、−NH−、−CH2−、−CH=CH−および−C≡C−ならびにこれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。ここで、−NH−、−CH2−、−CH=CH−の水素原子は、置換基で置換されていてもよい。このような置換基として、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、水酸基、カルボキシル基、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のハロゲンで置換されたアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、炭素原子数2〜6のアシル基、炭素原子数1〜6のアルキルチオ基、炭素原子数2〜6のアシルオキシ基、炭素原子数2〜6のアルコキシカルボニル基、カルバモイル基、炭素原子数2〜6のアルキルで置換されたカルバモイル基および炭素原子数2〜6のアシルアミノ基が好ましい例として挙げられ、ハロゲン原子、水酸基、炭素原子数1〜6のアルキル基がより好ましく、特にハロゲン原子、メチル基、エチル基が好ましい。
【0085】
12、L22、L32はそれぞれ独立して、−O−、−C(=O)−、−CH2−、−CH=CH−および−C≡C−ならびにこれらの組み合わせからなる群より選ばれることが好ましい。
【0086】
12、L22、L32はそれぞれ独立して、炭素数1〜20であることが好ましく、炭素数2〜14であることがより好ましい。炭素数2〜14が好ましく、−CH2−を1〜16個有することがより好ましく、−CH2−を2〜12個有することがさらに好ましい。
【0087】
12、L22、L32を構成する炭素数は、液晶の相転移温度と化合物の溶媒への溶解性に影響を及ぼす。一般的に炭素数は多くなるほど、ディスコティックネマチック相(ND相)から等方性液体への転移温度が低下する傾向にある。また、溶媒への溶解性は、一般的に炭素数は多くなるほど向上する傾向にある。
【0088】
一般式(I’−A)中のQ11、一般式(I’−B)中のQ21、一般式(I’−C)中のQ31はそれぞれ独立して重合性基または水素原子を表す。また、Q11、Q21、Q31は重合性基であることが好ましい。重合反応は、付加重合(開環重合を含む)または縮合重合であることが好ましい。すなわち、重合性基は、付加重合反応または縮合重合反応が可能な官能基であることが好ましい。以下に重合性基の例については、上記と同様であり、好ましい例も上記と同様である。
【0089】
前記一般式(I)で表される化合物の具体例には、特開2006-76992号公報の[0052]の[化13]〜[化43]に記載の例示化合物、並びに特開2007−2220号公報の[0040]の[化13]〜[0063]の[化36]に記載の例示化合物が含まれる。但し、これらの化合物に限定されるものではない。
【0090】
上記化合物は、種々の方法により合成することができ、例えば、特開2007−2220号公報の[0064]〜[0070]に記載の方法により合成することができる。
【0091】
前記ディスコティック液晶化合物は、液晶相として、カラムナー相およびディスコティックネマチック相(ND相)を示すことが好ましく、これらの液晶相の中では、良好なモノドメイン性を示すディスコティックネマチック相(ND相)が好ましい。
【0092】
前記ディスコティック液晶化合物の中でも、液晶相を20℃〜300℃の範囲で発現させるものが好ましい。より好ましくは40℃〜280℃であり、さらに好ましくは60℃〜250℃である。ここで20℃〜300℃で液晶相を発現するとは、液晶温度範囲が20℃をまたぐ場合(例えば、10℃〜22℃)や、300℃をまたぐ場合(例えば、298℃〜310℃)も含む。40℃〜280℃と60℃〜250℃に関しても同様である。
【0093】
(1)−2 配向制御剤
本発明では、ディスコティック液晶を所望の配向状態にするために、配向制御剤の少なくとも1種を用いるのが好ましく、配向膜界面及び空気界面に偏在し、それぞれの界面近傍のディスコティック液晶の配向を制御する配向制御剤をそれぞれ用いてもよい。本発明に供する転写用光学異方性層を形成する際は、逆ハイブリッド配向状態を形成する必要がある。従って、配向膜界面近傍のディスコティック液晶を高いチルト角(50〜90°)で配向制御可能な配向膜界面配向制御剤を用いるのが好ましい。また、空気界面近傍のディスコティック液晶を低いチルト角(0〜40°)で配向制御可能な空気界面配向制御剤を用いてもよい。特に配向膜界面制御剤は、転写用光学異方性層と配向膜との界面の剥離性にも影響するので、重要である。
以下、使用可能な配向制御剤の好ましい例を説明する。
【0094】
配向膜界面配向制御剤:
配向膜界面配向制御剤の好ましい例には、下記一般式(II)で表されるピリジニウム塩化合物が含まれる。下記一般式(II)で表されるピリジニウム塩化合物は、前記一般式(I)で表されるディスコティック液晶化合物の配向膜界面における配向を制御することを目的として添加され、ディスコティック液晶化合物の分子の配向膜界面近傍におけるチルト角を増加させる作用がある。なお、剥離性確保の観点から、下記一般式(II)で表されるピリジニウム塩化合物は、配向膜中に含まれる成分と反応して、共有結合を形成可能な反応性基を有していないのが好ましい。当該反応性基としては。ボロン酸基及び重合性基等が挙げられる。
【0095】
【化11】

【0096】
式中、L23及びL24はそれぞれ二価の連結基であり;R22は水素原子、無置換アミノ基、又は炭素原子数が1〜20の置換アミノ基であり;Xはアニオンであり;Y22及びY23はそれぞれ、置換されていてもよい5又は6員環を部分構造として有する2価の連結基であり;Z21は炭素原子数が13〜20のアルキル基、炭素原子数が13〜20のアルキニル基、炭素原子数が13〜20のアルコキシ基からなる群より選ばれる一価の基であり;pは1〜10の数であり;並びにmは1又は2である。
【0097】
式中、L23及びL24はそれぞれ二価の連結基を表す。
23は、単結合、−O−、−O−CO−、−CO−O−、−C≡C−、−CH=CH−、−CH=N−、−N=CH−、−N=N−、−O−AL−O−、−O−AL−O−CO−、−O−AL−CO−O−、−CO−O−AL−O−、−CO−O−AL−O−CO−、−CO−O−AL−CO−O−、−O−CO−AL−O−、−O−CO−AL−O−CO−又は−O−CO−AL−CO−O−であるのが好ましく、ALは、炭素原子数が1〜10のアルキレン基である。L23は、単結合、−O−、−O−AL−O−、−O−AL−O−CO−、−O−AL−CO−O−、−CO−O−AL−O−、−CO−O−AL−O−CO−、−CO−O−AL−CO−O−、−O−CO−AL−O−、−O−CO−AL−O−CO−または−O−CO−AL−CO−O−が好ましく、単結合または−O−がさらに好ましく、−O−が最も好ましい。
【0098】
24は、L4は、単結合、−O−、−O−CO−、−CO−O−、−C≡C−、−CH=CH−、−CH=N−、−N=CH−または−N=N−であるのが好ましく、−O−CO−又は−CO−O−がより好ましい。mが2以上のとき、複数のL24が交互に、−O−CO−及び−CO−O−であるのがさらに好ましい。
【0099】
22は水素原子、無置換アミノ基、又は炭素原子数が1〜20の置換アミノ基である。
22が、ジアルキル置換アミノ基である場合、2つのアルキル基が互いに結合して含窒素複素環を形成してもよい。このとき形成される含窒素複素環は、5員環または6員環が好ましい。R23は水素原子、無置換アミノ基、または炭素原子数が2〜12のジアルキル置換アミノ基であるのがさらに好ましく、水素原子、無置換アミノ基、または炭素原子数が2〜8のジアルキル置換アミノ基であるのがよりさらに好ましい。R23が無置換アミノ基及び置換アミノ基である場合、ピリジニウム環の4位が置換されていることが好ましい。
22が、無置換アミノ基、又は前記置換アミノ基であると、PVAを主成分として含む親水性配向膜界面への偏在性が向上するので好ましい。
【0100】
Xはアニオンである。
Xは、一価のアニオンであることが好ましい。アニオンの例には、ハライドイオン(フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン)およびスルホン酸イオン(例、メタンスルホネートイオン、p−トルエンスルホネートイオン、ベンゼンスルホネートイオン)が含まれる。
【0101】
アニオンXの種類を選択することで、配向膜界面におけるチルト角を制御できる場合もある。例えば、スルホネートイオン、特に芳香族環を有するp−トルエンスルホネートイオン、ベンゼンスルホネートイオン等はアニオンとして有する前記ピリジニウム塩化合物は、配向膜界面近傍のディスコティック液晶を比較的高チルト角(例えば70°〜90°)で配向させる作用があり、一方、ハライドイオン、特に臭素イオンをアニオンとして有する前記ピリジニウム塩化合物は、配向膜界面近傍のディスコティック液晶を水平配向させる作用がある。これらを併用することで、配向膜界面チルト角を50°〜90°に制御することができる。ピリジニウム塩を有するカチオンは同一であり、且つアニオンが互いに異なる、2種以上の前記ピリジニウム塩化合物を用いてもよい。
【0102】
22及びY23はそれぞれ、5又は6員環を部分構造として有する2価の連結基である。
前記5又は6員環が置換基を有していてもよい。好ましくは、Y22及びY23のうち少なくとも1つは、置換基を有する5又は6員環を部分構造として有する2価の連結基である。Y22およびY23は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい6員環を部分構造として有する2価の連結基であるのが好ましい。6員環は、脂肪族環、芳香族環(ベンゼン環)および複素環を含む。6員脂肪族環の例は、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環およびシクロヘキサジエン環を含む。6員複素環の例は、ピラン環、ジオキサン環、ジチアン環、チイン環、ピリジン環、ピペリジン環、オキサジン環、モルホリン環、チアジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペラジン環およびトリアジン環を含む。6員環に、他の6員環または5員環が縮合していてもよい。
置換基の例は、ハロゲン原子、シアノ、炭素原子数が1〜12のアルキル基および炭素原子数が1〜12のアルコキシ基を含む。アルキル基およびアルコキシ基は、炭素原子数が2〜12のアシル基または炭素原子数が2〜12のアシルオキシ基で置換されていてもよい。置換基は、炭素原子数が1〜12(より好ましくは1〜6、さらに好ましくは1〜3)のアルキル基であるのが好ましい。置換基は2以上であってもよく、例えば、Y22及びY23がフェニレン基である場合は、1〜4の炭素原子数が1〜12(より好ましくは1〜6、さらに好ましくは1〜3)のアルキル基で置換されていてもよい。
【0103】
なお、mは1又は2であり、2であるのが好ましい。mが2のとき、複数のY23及びL24は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0104】
21は、炭素原子数が13〜20のアルキル基、炭素原子数が13〜20のアルキニル基、炭素原子数が13〜20のアルコキシ基からなる群より選ばれる一価の基である。前記一般式(II)で表されるピリジニウム塩化合物は、親水性のピリジニウム塩部位によって、親水性配向膜界面に偏在可能であるが、Z21に含まれる疎水性の長鎖アルキル基が有する反発力により、配向膜内部に混入することなく、界面のみに偏在することで、配向膜からの剥離性の向上に寄与する。
【0105】
pは、1〜10の整数である。pは、1または2であることが特に好ましい。Cp2pは、分岐構造を有していてもよい鎖状アルキレン基を意味する。Cp2pは、直鎖状アルキレン基(−(CH2p−)であることが好ましい。
【0106】
前記式(II)で表される化合物の中でも、下記式(II')で表される化合物が好ましい。
【化12】

【0107】
式(II’)中、式(II)と同一の符号は同一の意義であり、好ましい範囲も同様である。L25はL24と同義であり、好ましい範囲も同様である。L24及びL25は、−O−CO−又は−CO−O−であるのが好ましく、L24が−O−CO−で、且つL25が−CO−O−であるのが好ましい。
【0108】
23、R24及びR25はそれぞれ、炭素原子数が1〜12(より好ましくは1〜6、さらに好ましくは1〜3)のアルキル基である。n23は0〜4、n24は1〜4、及びn25は0〜4を表す。n23及びn25が0で、n24が1〜4(より好ましくは1〜3)であるのが好ましい。
【0109】
一般式(II)で表される化合物の具体例としては、以下の化合物が挙げられるが、以下の例に限定されるものではない。但し、アニオンは省略した。
【0110】
【化13】

【0111】
式(II)のピリジニウム誘導体は、一般にピリジン環をアルキル化(メンシュトキン反応)して得られる。
【0112】
空気界面配向制御剤:
本発明では、空気界面配向制御剤を使用してもよい。一例は、下記一般式(III)で表されるトリアジン環基を含む化合物である。下記一般式(III)で表されるトリアジン環基を含む化合物は、主に、前記一般式(I)で表されるディスコティック液晶化合物の空気界面における配向を制御することを目的として添加され、ディスコティック液晶化合物の分子の空気界面近傍におけるチルト角を減少させる作用がある。
【0113】
【化14】

【0114】
式中、R31、R32及びR33は、末端にCF3基を有するアルキル基又はアルコキシ基を表す。
前記アルキル基(アルコキシ基中に含まれるアルキル基も含まれる)は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、またアルキル基(アルコキシ基中のアルキル基も含む)中の隣接していない2以上の炭素原子は、酸素原子又は硫黄原子に置換されていてもよい互いに隣接していない炭素原子の1以上が酸素原子に置換されていてもよい。好ましくは炭素数4〜20であり、さらに好ましくは炭素数4〜16であり、特に好ましくは6〜16である。
前記末端にCF3基を有するアルコキシ基は、アルコキシ基に含まれる水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されたアルコキシ基である。アルコキシ基中の水素原子の50%以上がフッ素原子で置換されているのが好ましく、60%以上が置換されているのがより好ましく、70%以上を置換されているのが特に好ましい。
【0115】
31、R32及びR33の好ましい例には、以下のアルコキシ基が含まれる。
−O(Cn2nn1O(Cm2mm1−Ck2k+1
n及びmはそれぞれ1〜3であり、n1及びm1はそれぞれ1〜3であり、kは1〜10である。より具体的な例として、
n−C817−(CH22−O−(CH22−O−
n−C613−(CH22−O−(CH22−O−
n−C49−(CH22−O−(CH22−O−
が挙げられる。
【0116】
31、X32及びX33は、アルキレン基、−CO−、−NH−、−O−、−S−、−SO2−及びそれらの群より選ばれる二価の連結基を少なくとも二つ組み合わせた基を表す。中でも、−NH−が好ましい。
【0117】
m31、m32及びm33はそれぞれ、1〜5の数であり、好ましくは2である。
【0118】
31、X32及びX33の置換位置に対して、それぞれパラ位及びメタ位に、R31、R32及びR33を有しているのが好ましい。
【0119】
一般式(II)で表される化合物の具体例としては、特開2006−195140号公報明細書中[0187]〜[0188]に記載の化合物が挙げられる。
【0120】
また、空気界面配向制御剤として、フッ素系ポリマーを使用してもよい。使用可能なフッ素系ポリマーの例には、特開2008−257205号公報の[0023]〜[0063]に記載のフッ素系ポリマーが含まれる。具体的には、下記一般式(A)で表される構成単位及びフルオロ脂肪族基含有モノマーより誘導される構成単位を含むポリマーを空気界面配向制御剤として用いることができる。
【0121】
【化15】

【0122】
一般式(A)中、Mpはポリマー主鎖の一部又は全部を構成する3価の基を表し、Lは単結合又は2価の連結基を表し、Xは置換もしくは無置換の芳香族縮合環官能基を表す。
【0123】
また、前記フルオロ脂肪族基含有モノマーより誘導される構成単位の一例は、下記一般式(B)で表される構成単位である。
【0124】
【化16】

【0125】
一般式(B)中、Mp'はポリマーの主鎖の一部を構成する3価の基を表し、L'は単結合又は2価の連結基を表し、Rfは少なくとも一つのフッ素原子を含有する置換基を表す。
【0126】
前記ポリマーの詳細については、特開2008−257205号公報の[0023]〜[0063]を参照することができる。具体的には、下記AD−4及びAD−13が例示できる。
【0127】
【化17】

【0128】
(1)−3 組成物の調製
本発明では、ディスコティック液晶、及び所望により1種以上の添加剤を含む組成物から光学異方性層を形成する。組成物中、ディスコティック液晶化合物が主成分として用いられる。添加剤の配合量については特に制限はないが、前記ピリジニウム塩化合物については、配向制御能のみならず、剥離性にも影響するので、配合割合を調整することが好ましい。配向制御能及び剥離性の双方を維持するためには、前記一般式(II)で表される化合物が、ディスコティック液晶100質量部に対し1〜5質量部であるのが好ましく、1〜3であるのがより好ましい。一方、式(III)のトリアジン環基を含む化合物の添加量は、ディスコティック液晶化合物100質量部に対し、0.2〜1.0質量部であるのが好ましく、0.2〜0.4質量部であるのがより好ましい。
【0129】
前記組成物は塗布液として調製することができる。塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒の例には、アミド(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例えば、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例えば、ピリジン)、炭化水素(例えば、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロエタン)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれ、アルキルハライド及びケトンが好ましい。前記有機溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種類を併用してもよい。塗布液の表面張力が25mN/m以下(より好ましくは22mN/m以下)であると、均一性の高い光学異方性層を形成できるので好ましい。
【0130】
また、前記組成物は、硬化性であるのが好ましく、当該態様では、重合開始剤を含有しているのが好ましい。前記重合開始剤は、熱重合開始剤であっても光重合開始剤であってもよいが、制御が容易である等の観点から、光重合開始剤が好ましい。光の作用によりラジカルを発生させる光重合開始剤の例としては、α−カルボニル化合物(米国特許第2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書記載)、アクリジン及びフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載)及びオキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書記載)、アセトフェノン系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、ベンジル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物等が好ましい。
【0131】
また、感度を高める目的で重合開始剤に加えて、増感剤を用いてもよい。増感剤の例には、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、及びチオキサントン等が含まれる。光重合開始剤は複数種を組み合わせてもよく、使用量は、塗布液の固形分の0.01〜20質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがより好ましい。液晶化合物の重合のための光照射は紫外線を用いることが好ましい。
【0132】
前記組成物は、重合性液晶化合物とは別に、非液晶性の重合性モノマーを含有していてもよい。重合性モノマーとしては、ビニル基、ビニルオキシ基、アクリロイル基又はメタクリロイル基を有する化合物が好ましい。なお、重合性の反応性官能基数が2以上の多官能モノマー、例えば、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパンアクリレートを用いると、耐久性が改善されるので好ましい。前記非液晶性の重合性モノマーは、非液晶性成分であるので、その添加量が、液晶化合物に対して15質量%を超えることはなく、0〜10質量%程度であるのが好ましい。
【0133】
(1)−4 光学異方性層の形成
前記光学異方性層の形成方法の一例は、以下の通りである。
配向膜のラビング処理面に、塗布液として調製された前記組成物を塗布する。塗布方法としてはカーテンコーティング法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、印刷コーティング法、スプレーコーティング法、スロットコーティング法、ロールコーティング法、スライドコーテティング法、ブレードコーティング法、グラビアコーティング法、ワイヤーバー法等の公知の塗布方法が挙げられる。
【0134】
前記組成物の塗膜を乾燥して、ディスコティック液晶化合物の分子を所望の配向状態にする。この際に、加熱することが好ましい。特に、80〜90℃で加熱すると、ディスコティック液晶化合物の分子を、逆ハイブリッド配向状態であって、しかも遅相軸をラビング方向に対して直交方向に発現させることができ、配向状態を安定的に形成することができる。80℃未満で加熱すると、配向に乱れが多くなり、一方、90℃を超えて加熱すると、逆ハイブリッド配向は得られても、遅相軸はラビング方向に対して平行に発現する配向状態になる傾向がある。また、80〜90℃で加温するのは、60〜300秒程度であるのが好ましく、90〜300秒程度であるのがより好ましい。
【0135】
ディスコティク液晶化合物の分子を所望の配向状態とした後、重合により硬化させ、その配向状態を固定して、光学異方性層を形成する。照射する光は、X線、電子線、紫外線、可視光線または赤外線(熱線)を用いることができる。中でも、紫外線を利用するのが好ましい。光源としては、低圧水銀ランプ(殺菌ランプ、蛍光ケミカルランプ、ブラックライト)、高圧放電ランプ(高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ)あるいはショートアーク放電ランプ(超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ)が好ましく用いられる。露光量は、50〜6000mJ/cm2程度であることが好ましく、100〜2000mJ/cm2 程度であることがさらに好ましい。短時間で配向を制御するためには、加熱しながら光を照射することが好ましい。加熱温度は、40〜140℃程度であることが好ましい。
【0136】
この様にして形成する光学異方性層の厚みについては特に制限されないが、0.1〜10μmであるのが好ましく、0.5〜5μmであるのがより好ましい。
【0137】
(2)配向膜
本発明では、配向膜の材料として、変性又は未変性のポリビニルアルコールを使用する。垂直配向膜として公知の材料のみならず、水平配向膜として公知の材料から選択することもできる。例えば、変性又は未変性ポリビニルアルコールが好ましい。特許第3907735号公報の段落番号[0071]〜[0095]に記載の変性ポリビニルアルコールを利用することもできる。重合性基を有する変性PVAを用いてもよい。変性PVAに含まれる重合性基の比率は、配向膜22と転写用光学異方性層14‘の剥離性に影響する。剥離性の観点では重合性基比率は0が好ましいが、一方で、剥離性が高すぎると、保管や搬送時に転写用光学異方性層の剥がれが生じやすくなってしまうため、生産性の観点ではある程度の密着性も必要とされる。したがって、転写用光学重合性基比率が0.1〜2.0%であると、剥離性および生産性の点で好ましい。
【0138】
本発明で使用可能な配向膜は、ラビング処理を施されたラビング処理面を有する。本発明では、一般的なラビング処理方法を利用することができる。例えば、配向膜の表面を、ラビングロールで摺ることによって実施できる。長尺状のポリマーフィルムからなる支持体上に連続的に配向膜を形成する態様では、製造適性の観点では、ラビング処理の方向(ラビング方向)は、ポリマーフィルムの長手方向と一致しているのが好ましい。
【0139】
(3)基板及び仮基板
基板及び仮基板については特に制限はない。また、基板及び仮基板は、長尺状であってロール形態に巻き上げられた形状であっても、最終製品の大きさである、例えば、長方形のシート状であってもよい。ロール状に巻き上げられた長尺のポリマーフィルムを、仮基板及び基板として用い、転写材及び光学フィルムを連続的に長尺状に形成してから、必要な大きさに切断することが好ましい。
【0140】
仮基板は、転写後は、光学異方性層から剥離されるので、透明フィルム、不透明フィルム、金属シート、ガラスシート等、種々の材料、種々の性質のものから選択することができる。なお、仮基板と配向膜との親和性が低く、接着性が弱いと、転写用光学異方性層と配向膜との界面における剥離性を確保できない場合がある。かかる場合は、仮基板の表面は、配向膜との接着性を良化するための表面処理を行ってもよい。配向膜がPVA等の親水性材料からなる場合は、仮基板の表面を親水化処理して、水接触角を上記範囲にするのが好ましい。親水化処理の例には、鹸化処理、コロナ処理等が含まれる。また、水接触角は、例えば、自動接触角計DM500(協和界面科学(株)製)により測定することができる。
【0141】
基板は、最終的に光学異方性層とともに、液晶表示装置に組み込まれるので、表示特性を低下させない光学特性を有することが好ましい。一例は、高分子を主成分として含む透明なフィルムであり、具体的には、光透過率が80%以上のフィルムである。また、薄層であるのが好ましく、厚みは20〜70μmであるのが好ましい。基板として使用可能なフィルムの例には、セルロースアシレート、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリレート及びポリメタクリレート、環状ポリオレフィン等のフィルムが含まれる。セルロースアシレートフィルムが好ましく、セルロースアセテートフィルムがさらに好ましい。
【0142】
[セルロースアシレート原料]
本発明に用いられるセルロースアシレートフィルムのセルロース原料としては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ,針葉樹パルプ)などがあり、何れのセルロース原料から得られるセルロースアシレートでも使用できる。
また、場合により混合して使用してもよい。
これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えばプラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂(丸澤、宇田著、日刊工業新聞社、1970年発行)や発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)7頁〜8頁に記載のセルロースを用いることができ、本発明の位相差フィルムに対しては特に限定されるものではない。
【0143】
[セルロースアシレートの置換度]
セルロースアシレートはセルロースの水酸基がアシル化されたもので、その置換基はアシル基の炭素原子数が2のアセチル基から炭素原子数が22のものまでいずれも用いることができる。
本発明に用いられるセルロースアシレートにおいて、セルロースの水酸基への置換度については特に限定されない。
また、本発明におけるセルロースアシレートの置換度は、セルロースの水酸基に置換する酢酸および/または炭素原子数3〜22の脂肪酸の結合度を測定し、該測定値に基づく計算によって得ることができる。
測定方法としては、ASTMのD−817−91に準じて実施することができる。
セルロースの水酸基が100%置換されたときの置換度は3である。
【0144】
セルロースの水酸基に置換する酢酸および/または炭素原子数3〜22の脂肪酸のうち、炭素原子数2〜22のアシル基としては、脂肪族基でもアリル基でもよく、特に限定されず、単一でも2種類以上の混合物でもよい。前記炭素原子数2〜22のアシル基としては、例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。好ましいアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、へプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブタノイル基、tert−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることができ、これらの中でも、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、tert−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが好ましく、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基がより好ましい。
【0145】
[セルロースアシレートの重合度]
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度で180〜700であり、セルロースアセテートにおいては、180〜550がより好ましく、180〜400がさらに好ましく、180〜350が特に好ましい。重合度が高すぎるとセルロースアシレートのドープ溶液の粘度が高くなり、流延によりフィルム作製が困難になる場合がある。また、重合度が低すぎると作製したフィルムの強度が低下してしまう場合がある。前記粘度平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)により測定できる。
特開平9−95538号公報に詳細に記載されている。
また、本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの分子量分布はゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって評価され、その多分散性指数Mw/Mn(Mwは質量平均分子量、Mnは数平均分子量)が小さく、分子量分布が狭いことが好ましい。
具体的なMw/Mnの値としては、1.0〜4.0であることが好ましく、1.0〜3.5であることがさらに好ましく、1.0〜3.0であることが最も好ましい。
【0146】
セルロースアシレート中の低分子成分が除去されると、平均分子量(重合度)が高くなるが、粘度は通常のセルロースアシレートよりも低くなるため有用である。
低分子成分の少ないセルロースアシレートは、例えば、通常の方法で合成したセルロースアシレートから低分子成分を除去することにより得ることができる。
前記低分子成分の除去は、セルロースアシレートを適当な有機溶媒で洗浄することにより実施できる。なお、低分子成分の少ないセルロースアシレートを製造する場合、酢化反応における硫酸触媒量を、セルロース100質量部に対して0.5〜25質量部に調整することが好ましい。前記硫酸触媒の量を前記範囲にすると、分子量部分布の点でも好ましい(分子量分布の均一な)セルロースアシレートを合成することができる。
【0147】
本発明におけるセルロースアシレートフィルムの製造時に使用される際には、セルロースアシレートの含水率は2質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは1質量%以下であり、0.7質量%以下の含水率を有することが特に好ましい。一般に、セルロースアシレートは、水を含有しており、その含水量は2.5〜5質量%であることが知られている。本発明において、セルロースアシレートの含水率を上述の範囲にするためには、セルロースアシレートを乾燥することが必要であり、その乾燥方法は目的とする含水率を得ることができれば特に限定されない。
【0148】
本発明に用いられるセルロースアシレートについて、その原料綿や合成方法は発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)7頁〜12頁に詳細に記載されている。
【0149】
本発明に用いられるセルロースアシレートは、置換基、置換度、重合度、分子量分布など前述した範囲であれば、1層の中に単一あるいは異なる2種類以上のセルロースアシレートを混合して用いることができる。
【0150】
[セルロースアシレートフィルムへの添加剤]
本発明におけるセルロースアシレートフィルムを作製するためのセルロースアシレート溶液には、各調製工程において用途に応じた種々の添加剤(例えば、光学的異方性を低下させる化合物、光学的異方性を発現させる化合物、波長分散調整剤、紫外線防止剤、可塑剤、劣化防止剤、微粒子、光学特性調整剤など)を加えることができる。
またその添加時期はドープ調製工程において何れでも添加してもよいが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。
【0151】
[セルロースアシレートフィルムの製造工程]
本発明に用いるセルロースアシレートフィルムは、例えば、特開2006−305751号公報に記載の方法により作製することができる。
【0152】
基板として位相差フィルムを用いる場合は、光学異方性層とともに、液晶表示装置の光学補償に寄与しているのが好ましい。基板のRthが本発明の範囲であると、左右上下方向の階調反転を軽減できるので好ましい。
【0153】
基板は偏光膜であってもよい。ヨウ素系偏光膜、二色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜があり、本発明にはいずれを使用してもよい。ヨウ素系偏光膜および染料系偏光膜は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。偏光膜の厚みは、一般的には、20〜30μm程度である。また、偏光膜の裏面(光学異方性層を転写する面と反対側の面)に、保護フィルムを有しているのが好ましく、保護フィルムの例は、基板として利用可能なフィルムの例と同様である。
【0154】
(5)接着層用材料
接着層の形成のために使用可能な材料の例には、UV硬化性組成物のほか、アクリル系、酢酸ビニル系、ポリアミド系、塩化ビニル系、クロロプレンゴム系、エポキシ系、イソシアネート系などの一般的な接着剤等が含まれる。UV硬化性組成物は、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、シアノアクリレート等を含んでいるのが好ましい。また硬化性組成物以外であって、一般的には粘着剤に分類される材料から前記接着層を形成してもよい。接着層の厚みは、一般的には、1〜30μmであるが、この範囲に限定されるものではない。
【0155】
(4)4.液晶表示装置
本発明は、本発明の光学フィルムを有する液晶表示装置にも関する。本発明の光学フィルムは、TN型液晶表示装置の光学補償に適している。従って、本発明の液晶表示装置の好ましい態様は、TN型液晶表示装置である。TNモードの液晶セルとTN型液晶表示装置とについては、従来からよく知られている。本発明の光学フィルムは、光学異方性層を液晶セル側にして配置されるのが好ましい。光学補償に利用される光学異方性層中にミクロな乱れがあると、それは例えば、液晶表示装置の正面コントラストの低下の一因となる。本発明の光学フィルムが有する光学異方性層は、ミクロな配向軸ズレが非常に小さい。よって、本発明によれば、液晶表示装置の正面コントラストを低下させることなく、本発明の光学フィルムにより十分な光学補償を達成することができる。
【0156】
また、本発明の光学フィルムは全体の厚みが0.1〜70μmで、非常に薄いという特徴はあり、よって、例えばタブレットPC、携帯電話、ノートPC等の薄型表示パネルとして適する。
【0157】
4.各特性の測定方法
また、本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は、各々、波長λにおける面内のレターデーション、及び厚さ方向のレターデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADH、又はWR(王子計測機器(株)製)において、波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。測定波長λnmの選択にあたっては、波長選択フィルターをマニュアルで交換するか、または測定値をプログラム等で変換して測定することができる。測定されるフィルムが、1軸又は2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)が算出される。なお、この測定方法は、後述する光学異方性層中のディスコティック液晶分子の配向膜側の平均チルト角、その反対側の平均チルト角の測定においても一部利用される。
Rth(λ)は、前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH、又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合には、フィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50°まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADH、又はWRが算出する。なお、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合には、フィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値、及び入力された膜厚値を基に、以下の式(A)、及び式(III)よりRthを算出することもできる。
【0158】
【数1】

なお、上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値をあらわす。また、式(A)におけるnxは、面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは、面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzは、nx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d・・・・・・・・・・・式(III)
【0159】
測定されるフィルムが、1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法により、Rth(λ)は算出される。Rth(λ)は、前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH、又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として、フィルム法線方向に対して−50°から+50°まで10°ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。また、上記の測定において、平均屈折率の仮定値は、ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについては、アッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:
セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。
これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADH又はWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx,ny,nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0160】
(チルト角の測定)
ディスコティック液晶性化合物を配向させた光学異方性層において、光学異方性層の一方の面におけるチルト角(ディスコティック液晶性化合物における物理的な対象軸が光学異方性層の界面となす角度をチルト角とする)θ1及び他方の面のチルト角θ2を、直接的にかつ正確に測定することは困難である。そこで本明細書においては、θ1及びθ2は、以下の手法で算出する。本手法は本発明の実際の配向状態を正確に表現していないが、光学フィルムのもつ一部の光学特性の相対関係を表す手段として有効である。
本手法では算出を容易にすべく、下記の2点を仮定し、光学異方性層の2つの界面におけるチルト角とする。
1.光学異方性層はディスコティック液晶性化合物を含む層で構成された多層体と仮定する。さらに、それを構成する最小単位の層(ディスコティック液晶性化合物のチルト角は該層内において一様と仮定)は光学的に一軸と仮定する。
2.各層のチルト角は光学異方性層の厚み方向に沿って一次関数で単調に変化すると仮定する。
具体的な算出法は下記のとおりである。
(1)各層のチルト角が光学異方性層の厚み方向に沿って一次関数で単調に変化する面内で、光学異方性層への測定光の入射角を変化させ、3つ以上の測定角でレターデーション値を測定する。測定及び計算を簡便にするためには、光学異方性層に対する法線方向を0°とし、−40°、0°、+40°の3つの測定角でレターデーション値を測定することが好ましい。このような測定は、KOBRA−21ADH及びKOBRA−WR(王子計測器(株)製)、透過型のエリプソメータAEP−100((株)島津製作所製)、M150及びM520(日本分光(株)製)、ABR10A(ユニオプト(株)製)で行うことができる。
(2)上記のモデルにおいて、各層の常光の屈折率をno、異常光の屈折率をne(neは各々すべての層において同じ値、noも同様とする)、及び多層体全体の厚みをdとする。さらに各層におけるチルト方向とその層の一軸の光軸方向とは一致するとの仮定の元に、光学異方性層のレターデーション値の角度依存性の計算が測定値に一致するように、光学異方性層の一方の面におけるチルト角θ1及び他方の面のチルト角θ2を変数としてフィッティングを行い、θ1及びθ2を算出する。
ここで、no及びneは文献値、カタログ値等の既知の値を用いることができる。値が未知の場合はアッベ屈折計を用いて測定することもできる。光学異方性層の厚みは、光学干渉膜厚計、走査型電子顕微鏡の断面写真等により測定数することができる。
【実施例】
【0161】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0162】
1.転写材の作製
(1)仮基板の準備
仮基板として、TD80(富士フイルム(株)製)をそれぞれ用いた。表面を1.5規定の水酸化ナトリウム水溶液を用いて鹸化処理した後、各仮基板用フィルムの表面の水接触角を測定した。結果を下記表に示す。
【0163】
(2)配向膜の形成
上記準備した仮支持体用の各フィルムの、鹸化処理を施した表面に、下記の組成の配向膜塗布液を#14のワイヤーバーで連続的に塗布した。60℃の温風で60秒、さらに100℃の温風で120秒乾燥し、配向膜を形成した。
配向膜形成用塗布液の組成
下記の変性ポリビニルアルコール 10質量部
水 371質量部
メタノール 119質量部
グルタルアルデヒド 0.5質量部
【0164】
【化18】

【0165】
形成した配向膜の表面に、フィルムの長手方向に沿ってラビング処理を行った。
【0166】
但し、下記変性ポリビニルアルコールの重合性基比率を変えた変性ポリビニルアルコールをそれぞれ準備し、同様にして各配向層を形成した。
下記表に各例で用いた変性ポリビニルアルコールの重合性基比率を示す。なお、前記重合性基比率は、前記式中の括弧に付記された、重合性基を有するモノマーのモル比率を示す数字である。
【0167】
(3)転写用光学異方性層の形成
下記組成の転写用光学異方性層用塗布液を、バーコーターを用いて塗布量4mL/m2で塗布した。下記表に示す温度で120秒間加熱し、液晶化合物を配向させた。その後、その温度を維持して、紫外線照射装置(紫外線ランプ:出力160W/cm、発光長1.6m)により、照度600mW/cm2の紫外線を4秒間照射し、架橋反応を進行させ、液晶化合物をその配向に固定した。その後、室温まで放冷し、円筒状に巻き取ってロール状の転写材をそれぞれ作製した。
【0168】
(転写用光学異方性層用塗布液組成)
────────────────────────────────────
転写用光学異方性層塗布液組成(質量部)
────────────────────────────────────
下記に示すディスコティック液晶化合物(1) 100.0質量部
下記表に示すピリジニウム塩化合物 下記表に示す質量部
下記表に示す空気界面制御剤 下記表に示す質量部
光重合開始剤(イルガキュアー907、チバガイギー社製) 3.0質量部
増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製) 1.0質量部
メチルエチルケトン 341.8質量部
────────────────────────────────────
【0169】
【化19】

【0170】
【化20】

【0171】
【化21】

【0172】
(4)転写材の評価
配向形態評価:
作製した各転写材の転写用光学異方性層について、KOBRA−21ADH(王子計測器(株)製)を用いて前記方法に従って、配向膜界面のディスコティック液晶化合物分子のチルト角、及び空気界面のディスコティック液晶化合物の分子のチルト角をそれぞれ測定した。下記表に結果を示す。
【0173】
剥離性評価:
JIS D0202−1988に準拠して、碁盤目テープ剥離試験を行った。セロハンテープ(商品名:CT24、ニチバン(株)製)を用い、擦り棒を用いてフィルムに密着させた後、剥離した。判定は100マスの内、剥離するマス目の数で表し、下記の基準に従い評価した。
◎:51個以上
○:26〜50個
△:1〜25個
×:0個
【0174】
2.光学フィルムの作製
(1)基板の準備
基板として、下記表に示す種々の基板を準備した。各基板の材料、光学特性、及び厚みをそれぞれ下記表に示す。
各基板の表面に、UV硬化性樹脂を塗布・乾燥して、接着前駆体層をそれぞれ形成し、積層体をそれぞれ作製した。
【0175】
(1)−1.支持体1の作製
下記に示す組成、且つ数平均分子量のオリゴマーを、下記に示す添加量で含むセルロースアセテート溶液をそれぞれ調製した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
セルロースアセテート溶液の組成
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・平均置換度2.86のセルロースアセテート 100.0質量部
・メチレンクロライド(第1溶媒) 475.9質量部
・メタノール(第2溶媒) 113.0質量部
・ブタノール (第3溶媒) 5.9質量部
・平均粒子サイズ16nmのシリカ粒子 0.13質量部
(AEROSIL R972、日本アエロジル(株)製)
・オリゴマー(組成を下記表に示す) 10質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0176】
調製した溶液を、流延ギーサーを通して直径3mのドラムである鏡面ステンレス支持体上に、下記表に示すPITドロー条件で、流延した。
【0177】
以下の表にポリマーフィルムの作製条件、及びポリマーフィルムの光学特性を示す。なお、表中のReは流延方向に対して直交方向をプラスとして表記した。
【0178】
【表1】

【0179】
(1)−2 支持体2の作製
オリゴマーの添加量を17質量部とし、他は支持体1と同様にして、Rth=60nmの支持体2を作製した。
【0180】
(1)−3 支持体3の作製
オリゴマーの添加量を23質量部とし、他は支持体1と同様にして、Rth=80nmの支持体3を作製した。
【0181】
(1)−4 支持体4の作製
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調整した。なお、いずれの溶液も、溶剤組成は次の通りであり、アセチル置換度が2.88のセルロースアセテートを使用し、セルロースアセテートの濃度が17質量%となるよう濃度を調整してセルロースアシレートドープを調液した。
メチレンクロライド(第1溶媒) 92質量部
メタノール(第2溶剤) 8質量部
更に、下記のマット剤分散液を、前記セルロースアシレートドープに対して3.6質量部加えた。更に、下記の添加剤を、セルロースアセテート100質量部に対して下記の比率で加えた。
【0182】
(マット剤分散液)
シリカ粒子分散液(平均粒径16nm) 0.7質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 75.5質量部
メタノール(第2溶剤) 6.5質量部
上記ドープ 17.3質量部
【0183】
(添加剤)
可塑剤P−1 12.0質量部
紫外線吸収剤UV−1 1.8質量部
紫外線吸収剤UV−2 0.8質量部
【0184】
可塑剤P−1は、トリフェニルホスフェート(TPP)/ビフェニルジフェニルホスフェート(BDP)=2/1(質量比)の混合物である。
【0185】
【化22】

【化23】

【0186】
(セルロースアシレートフィルムの作製)
前記セルロースアシレートドープを流延口から20℃のドラム上に流延した。溶剤含有率略20質量%の状態で剥ぎ取り、フィルムの幅方向の両端をテンタークリップで固定しつつ乾燥した。その後、熱処理装置のロール間を搬送することにより、さらに乾燥し、膜厚が25μmの支持体4を作製した。
【0187】
(1)−5 支持体11の作製
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、30℃に加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調製した。
────────────────────────────────────
セルロースアセテート溶液組成(質量部) 内層 外層
────────────────────────────────────
酢化度60.9%のセルロースアセテート 100 100
トリフェニルホスフェート(可塑剤) 7.8 7.8
ビフェニルジフェニルホスフェート(可塑剤) 3.9 3.9
メチレンクロライド(第1溶媒) 293 314
メタノール(第2溶媒) 71 76
1−ブタノール(第3溶媒) 1.5 1.6
シリカ微粒子(AEROSIL R972、日本アエロジル(株)製)
0 0.8
下記レターデーション上昇剤 1.7 0
────────────────────────────────────
【0188】
【化24】

【0189】
得られた内層用ドープおよび外層用ドープを、三層共流延ダイを用いて、0℃に冷却したドラム上に流延した。
残留溶剤量が70質量%のフィルムをドラムから剥ぎ取り、両端をピンテンターにて固定して搬送方向のドロー比を110%として搬送しながら80℃で乾燥させ、残留溶剤量が10%となったところで、110℃で乾燥させた。
その後、140℃の温度で30分乾燥し、残留溶剤が0.3質量%のセルロースアセテートフィルム(外層:3μm、内層:74μm、外層:3μm)を製造した。
作製したセルロースアセテートフィルム(支持体11)について、光学特性を測定した。
【0190】
得られたセルロースアセテートの幅は1340mmであり、厚さは、80μmであった。
エリプソメータ(M−150、日本分光(株)製)を用いて、波長500nmにおけるレターデーション値(Re)を測定したところ、6nmであった。
また、波長500nmにおけるレターデーション値(Rth)を測定したところ、91nmであった。
【0191】
(2)転写
各支持体の表面に、UV硬化性組成物を塗布し、接着前駆体層をそれぞれ形成した。
上記で作製した各転写材を、転写材の転写用光学異方性層表面と、上記で作製した各支持体の接着前駆体層表面とを接触させて、積層し、加圧ローラで加圧した後、UV光を照射して、UV硬化性組成物を硬化させて、光学異方性層を接着層に強く接着させた。
次に、強粘着性ロールを仮基板の裏面に押し当てて回転させ、仮基板と配向膜との剥離を試みた。
この様にして、各支持体上に接着層を介して光学異方性層が積層された光学フィルムをそれぞれ製造した。下記表に、各光学フィルム全体の厚みを示す。
【0192】
(3)光学フィルムの評価
微小配向軸ズレの評価:
前記微小配向軸ズレの評価方法にしたがって、微小配向軸ズレの3σを算出し、下記基準で評価した。
◎:1.0度未満
○:1.0度以上2.0度未満
△:2.0度以上3.0度未満
×:3.0度以上
【0193】
3.液晶表示装置の作製と評価
(1)偏光板の作製
厚さ80μmのポリビニルアルコール(PVA)フィルムを、ヨウ素濃度0.05質量%のヨウ素水溶液中に30℃で60秒間浸漬して染色し、次いでホウ酸濃度4質量%濃度のホウ酸水溶液中に60秒間浸漬している間に元の長さの5倍に縦延伸した。その後、50℃で4分間乾燥させて、厚さ20μmの偏光膜を得た。
市販のセルロースアセテートフィルムを1.5モル/Lで、55℃の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬した後、水で十分に水酸化ナトリウムを洗い流した。その後、0.005モル/Lで35℃の希硫酸水溶液に1分間浸漬した後、水に浸漬し、希硫酸水溶液を十分に洗い流した。最後に試料を120℃で十分に乾燥させた。
前記の方法で作製した各光学フィルムと、鹸化処理を行った市販のセルロースアセテートフィルムとを組み合わせて前記の偏光膜を挟むようにポリビニルアルコール系接着剤を用いて貼り合せて偏光板を得た。ここで、各光学フィルムの光学異方性層を液晶セル側にして貼合した。また市販のセルロースアセテートフィルムとしてはフジタックTF80UL(富士フイルム(株)製)を用いた。このとき、偏光膜及び偏光膜両側の保護膜はロール形態で作製されているため各ロールフィルムの長手方向が平行となっており連続的に貼り合わした。従って光学フィルムのロール長手方向(セルロースアセテートフィルムの流延方向)と偏光子吸収軸とは平行な方向となった。
【0194】
(2)TNモード液晶表示装置の作製
TN型液晶セルを使用した液晶表示装置(AL2216W、日本エイサー(株)製)に設けられている一対の偏光板を剥がし、代わりに上記の作製した偏光板を、光学フィルムが液晶セル側となるように、即ち、光学異方性層を最も液晶セル側にして、粘着剤を介して、観察者側及びバックライト側に一枚ずつ貼り付けた。このとき、観察者側の偏光板の透過軸と、バックライト側の偏光板の透過軸とを直交にして配置した。
【0195】
(3)TNモード液晶表示装置の評価
作製した液晶表示装置について、輝度計(TOPCON製BM−5)を用いて、正面の黒状態の輝度、および白状態の輝度を測定し、正面コントラストを算出した。正面コントラストを以下の基準で評価した。
◎:1300以上2000未満
○:1000以上1300未満
△:700以上1000未満
×:700未満
結果を下記表に示す。
【0196】
また、上下左右方向の階調反転は、「EZ−Contrast160D」(ELDIM社製)を用いて、正面輝度が白表示の1/7となる階調(L1)、および2/7となる階調(L2)の輝度を測定し、極角を0度から増加させていったときに、(L1階調の輝度)−(L2階調の輝度)の値の符号が反転する極角(L1−L2反転開始角度)で評価した。
◎:50度以上
○:40〜50度
△:30〜40度
×:30度以下
結果を下記表に示す。
【0197】
【表2】

【符号の説明】
【0198】
10 基板
12 接着層
14 光学異方性層
14’ 転写用光学異方性層
20 仮基板
22 配向膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリッド配向に固定されたディスコティック液晶を含有する光学異方性層と、配向制御能を有さない接着層と、基板とをこの順に有し、
前記ハイブリッド配向が、接着層側界面近傍のディスコティック液晶のダイレクターとフィルム法線とのなす角度と比較して、空気界面側のディスコティック液晶のダイレクターとフィルム法線とのなす角度が大きいハイブリッド配向であり、
フィルム全体の厚さが0.1μm〜70μmであることを特徴とする光学フィルム。
【請求項2】
前記ハイブリッド配向が、接着層側界面近傍のディスコティック液晶のダイレクターとフィルム法線とのなす角度が0°〜40°であり、及び空気界面側のディスコティック液晶のダイレクターとフィルム法線とのなす角度が50°〜90°である請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記光学異方性層が、下記一般式(II)で表される化合物の少なくとも1種をさらに含有する請求項1又は2に記載の光学フィルム:
【化1】

式中、L23及びL24はそれぞれ二価の連結基であり;R22は水素原子、無置換アミノ基、又は炭素原子数が1〜20の置換アミノ基であり;Xはアニオンであり;Y22及びY23はそれぞれ、置換されていてもよい5又は6員環を部分構造として有する2価の連結基であり;Z21は炭素原子数が13〜20のアルキル基、炭素原子数が13〜20のアルキニル基、炭素原子数が13〜20のアルコキシ基からなる群より選ばれる一価の基であり;pは1〜10の数であり;並びにmは1又は2である。
【請求項4】
前記光学異方性層に含まれる前記少なくとも1種の一般式(II)で表される化合物が、ディスコティック液晶100質量部に対し1〜5質量部である請求項3に記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記基板が、高分子フィルムである請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項6】
前記高分子フィルムの厚さ方向レターデーションRthが、0nm〜80nmである請求項5に記載の光学フィルム。
【請求項7】
前記基板が、偏光子である請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の光学フィルムを少なくとも有する液晶表示装置。
【請求項9】
ハイブリッド配向に固定されたディスコティック液晶を含有するディスコティック液晶性分子からなる転写用光学異方性層と、ラビング処理された配向層と、仮基板とを少なくともこの順に有し、
前記ハイブリッド配向が、配向層側界面近傍のディスコティック液晶のダイレクターとフィルム法線とのなす角度と比較して、空気界面側のディスコティック液晶のダイレクターとフィルム法線とのなす角度が小さいハイブリッド配向であり、
前記転写用光学異方性層と前記配向層との界面で剥離可能なことを特徴とする転写材。
【請求項10】
前記ハイブリッド配向が、配向層側界面近傍のディスコティック液晶のダイレクターとフィルム法線とのなす角度が50°〜90°であり、及び空気界面側のディスコティック液晶のダイレクターとフィルム法線とのなす角度が0°〜40°である請求項9に記載の転写材。
【請求項11】
前記転写用光学異方性層が、請求項3中に記載の一般式(II)で表される化合物の少なくとも1種をさらに含む請求項9又は10に記載の転写材。
【請求項12】
前記転写用光学異方性層に含まれる前記少なくとも1種の一般式(1)で表される化合物が、ディスコティック液晶100質量部に対し、1〜5質量部である請求項11に記載の転写材。
【請求項13】
前記配向層が、主成分として未変性又は変性ポリビニルアルコールを含有する請求項9〜12のいずれか1項に記載の転写材。
【請求項14】
前記仮基板の配向層側表面の水接触角が、10°〜50°である請求項13に記載の転写材。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法であって、
請求項9〜14のいずれか1項に記載の転写材、及び基板と、その表面上に配向制御能を有さない接着層もしくは接着前駆層とを少なくとも有する積層体を準備すること;
前記転写材の転写用光学異方性層側表面と、前記積層体の前記接着層表面又は前記接着前駆層表面とを接触させること;並びに
前記転写材から仮基板と配向層とを剥離して、前記接着層表面上に前記転写用光学異方性層を転写すること;
をこの順で少なくとも含む光学フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−83955(P2013−83955A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−206570(P2012−206570)
【出願日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】