説明

光学フィルムの製造方法

【課題】透明性、厚み精度および経済的なポリプロピレン系樹脂からなる光学フィルムの製造方法を提供する
【解決手段】
溶融されたポリプロピレン系樹脂をフィルム7に成形する成形工程と、フィルム7を回転冷却体4に密着せしめて冷却固化する冷却工程とを備え、冷却工程では、フィルム7を静電的に回転冷却体4に密着せしめる、ポリプロピレン系樹脂からなる光学フィルムの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂を用いた光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置をはじめとするフラットパネルディスプレイには、コントラストや視野角向上の為に、位相差フィルムや偏光子保護フィルム等の光学フィルムが用いられており、光学フィルムに対しては、光学的に均一な特性を発現させることが求められている。光学的に均質な特性とは、高透明性、厚み精度均一性、フィッシュアイやブツ、あるいはダイライン等欠陥がないこと等である。また、フラットパネルディスプレイの市場規模の急速な拡大に伴い、光学フィルムの市場規模も拡大すると共に、開発競争もますます激しくなっており、光学フィルムの価格低下も進展している。このため、市場からは、光学的に均一な特性とさらなる低コストとの両立が光学フィルムには求められている。
【0003】
従来より、光学フィルムの材料として、高透明性の点から非晶性熱可塑性樹脂が一般的に用いられており、例えば、特許文献1に記載の方法が知られている。
【0004】
特許文献1には、ダイから非晶性熱可塑性樹脂をフィルム状に押出して回転冷却体に密着させて冷却する際に、フィルムが金属性冷却ロールに接する地点でフィルムの巾方向端部付近のみに電荷を付与して静電気によるエッジピニングを行なう光学フィルムの製造方法が記載されている。これにより、フィルムの回転冷却体への密着性が向上し、均一性に優れる非晶性熱可塑性樹脂製の光学フィルムを製造できるとされている。
【特許文献1】特開2004−160819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年では、樹脂自体の低コスト化という観点から、光学フィルムの材料として結晶性熱可塑性樹脂であるポリプロピレン系樹脂を採用したいという要望がある。しかしながら、ポリプロピレン系樹脂を用いた光学フィルムの好適な製造方法は知られていなかった。
【0006】
特に、結晶性樹脂であるポリプロピレン系樹脂は、引用文献1に記載されたような非晶性熱可塑性樹脂に比べてきわめて帯電性に劣るというのが当業者の技術常識であるため(例えば、「廃自動車・廃家電のシュレッダーダストのリサイクル技術開発」、平良秀春他、沖工技セ研究報告第4号2002年参照)、ポリプロピレン系樹脂のフィルムを回転冷却体へ静電的に密着させることは困難であると考えられてきた。
【0007】
したがって、従来はポリプロピレン系樹脂のフィルムを回転冷却体に十分に密着させることが困難であり、透明性、厚み精度および光学的に均一な特性を併せ持たせたポリプロピレン系樹脂製の光学フィルムを得ることは難しかった。
【0008】
本発明は、上述した従来技術の状況を鑑みてなされたものであり、経済性にすぐれるポリプロピレン系樹脂を用いた、透明性、厚み精度均一性、及び経済性に優れた光学フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、ポリプロピレン系樹脂のフィルムを用いた光学フィルムの製造方法について鋭意検討を重ねた結果、帯電性におとるポリプロピレン系樹脂のフィルムの巾方向中央部を静電的に回転冷却体に対し密着せしめることにより、当業者の予想に反して、透明性、厚み精度均一性及び経済性に優れるポリプロピレン系樹脂の光学フィルムが製造できることを見出し本発明に想到した。
【0010】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂からなる光学フィルムの製造方法は、溶融されたポリプロピレン系樹脂をフィルムに成形する成形工程と、このフィルムを回転冷却体に密着せしめて冷却固化する冷却工程とを備える。そして、冷却工程では、このフィルムの巾方向中央部を静電的に回転冷却体に密着せしめる。本発明によれば、フィルムに過剰な引張り応力をかけることなくフィルムの巾方向の中央部が均一に冷却される。これにより、透明性、厚み精度および経済性に優れた光学フィルムを製造できる。
【0011】
ここで、冷却工程では、フィルムに対向配置される主電極と、この主電極を間に挟んでフィルムと対向する補助電極とによりフィルムを静電的に回転冷却体に密着せしめることが好ましい。主電極に加え補助電極を用いることにより、フィルムに生じる電荷密度を増大させ、フィルムの回転冷却体への密着性をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、透明性、厚み精度および経済性に優れたポリプロピレン系樹脂を用いた光学フィルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本実施形態に係る光学フィルムの製造方法を図1を用いて詳細に説明する。本実施形態にかかる光学フィルムの製造方法は、少なくとも、溶融されたポリプロピレン系樹脂をフィルムに成形する成形工程と、成形されたフィルムを回転冷却体に静電的に密着せしめて冷却固化する冷却工程と、を備える。そして、冷却工程では、成形工程でフィルムに成形されたポリプロピレン系樹脂を静電的に回転冷却体に密着せしめる。
【0014】
(ポリプロピレン系樹脂)
ポリプロピレン系樹脂としてはプロピレンの単独重合体、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンからなる群から選択される1種以上のモノマーとプロピレンとの共重合体が挙げられる。また、プロピレンの単独重合体及び上述の共重合体との混合物であってもよい。α−オレフィンとしては、具体的には、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン、1−オクテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−プロピル−1−ヘプテン、2−メチル−3−エチル−1−ヘプテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタダセン、1−オクタテセン、1−ノナデセンなどが挙げられる。
【0015】
本発明の効果をより得られると言う観点で好ましくは、プロピレンの単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・1−ペンテン共重合体、プロピレン・1−ヘキセン共重合体、プロピレン・1−オクテン共重合体、プロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・1−ヘキセン共重合体であることが好ましい。また、本発明におけるポリプロピレン系樹脂が、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンからなる群から選択される1種以上のモノマーとプロピレンとの共重合体である場合、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよいが、フィルムの透明性の観点からランダム共重合体のほうがより好ましい。ポリプロピレン系樹脂が共重合体である場合、該共重合体におけるコモノマー由来の構成単位の含量は、透明性と耐熱性のバランスの観点から、0.1重量%を超え30重量%以下が好ましい。また同じ観点で0.1重量%を超え25重量%がより好ましい。なお、2種類以上のコモノマーとプロピレンとの共重合体である場合には、該共重合体に含まれる全てのコモノマー由来の構成単位の合計含量が、上記の範囲であることが好ましい。
【0016】
ポリプロピレン系樹脂の製造方法としては、公知の重合用触媒を用いてプロピレンを単独重合する方法や、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンからなる群から選択される1種以上のモノマーとプロピレンとを共重合する方法が挙げられる。公知の重合触媒としては、例えば、(1)マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分等からなるTi−Mg系触媒、(2)マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と、必要に応じて電子供与性化合物等の第3成分とを組み合わせた触媒系、(3)メタロセン系触媒等が挙げられる。プロピレン系重合体の製造に用いる触媒系としては、これらの中で、マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と電子性供与性化合物とを組み合わせた触媒系が最も一般的に使用できる。より具体的には、有機アルミニウム化合物としては、好ましくはトリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドの混合物およびテトラエチルジアルモキサンが挙げられ、電子供与性化合物としては、好ましくはシクロヘキシルエチルジメトキシシラン、tert−ブチル−n−プロピルジメトキシシラン、tert−ブチルエチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシランが挙げられる。マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分としては、例えば、特開昭61−218606号公報、特開昭61−287904号公報、特開平7−216017号公報等に記載された触媒系が挙げられる。メタロセン触媒としては例えば、特許第2587251号、特許第2627669号、特許第2668732号に記載された触媒系が挙げられる。
【0017】
ポリプロピレン系樹脂の製造に用いる重合方法としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素化合物に代表される不活性溶剤を用いる溶剤重合法、液状のモノマーを溶剤として用いる塊状重合法、気体のモノマー中で行う気相重合法等が挙げられ、好ましくは塊状重合法または気相重合法である。これらの重合法は、バッチ式であってもよく、連続式であってもよい。
【0018】
ポリプロピレン系樹脂の立体規則性は、アイソタクチック、シンジオタクチック、アタクチックのどの形式であってもよい。ポリプロピレン系樹脂は、耐熱性の点からシンジオタクチック、あるいはアイソタクチックのプロピレン系重合体であることが好ましい。
【0019】
ポリプロピレン系樹脂は、分子量やプロピレン由来の構成単位の割合、タクチシティーなどが異なる2種類以上のポリプロピレン系ポリマーのブレンドでもよいし、ポリプロピレン系ポリマー以外のポリマーや添加剤を適宜含有してもよい。
【0020】
(添加剤)
本実施形態において用いられるポリプロピレン系樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲で公知の添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収材、帯電防止剤、滑剤、造核剤、防曇剤、アンチブロッキング剤等が挙げられ、これらのうち1種または2種類以上を用いてもよい。
【0021】
上記の酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤(HALS)や、1分子中に例えばフェノール系とリン系の酸化防止機構と有するユニットを有する複合型の酸化防止剤などが挙げられる。
【0022】
上記の紫外線吸収剤としては、2−ヒドロキシベンゾフェノン系、ヒドロキシトリアゾール系などの紫外線吸収剤や、ベンゾエート系など紫外線遮断剤などが挙げられる。上記の帯電防止剤としては、ポリマー型、オリゴマー型、モノマー型などが挙げられる。
【0023】
上記の滑剤としては、エルカ酸アミド、オレイン酸アミドなどの高級脂肪酸アミドや、ステアリン酸などの高級脂肪酸、及びその金属塩などが挙げられる。
【0024】
上記の造核剤としては、例えばソルビトール系造核剤、有機リン酸塩系造核剤、ポリビニルシクロアルカンなどの高分子系造核剤等が挙げられる。アンチブロッキング剤としては球状、あるいはそれに近い形状の微粒子が無機系、有機系に関わらず使用できる。
【0025】
(分子量)
本実施形態において用いられるポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、JIS K 7210に従い測定される値(試験温度、公称荷重は、JIS K 7210の附属書B表1による)で、通常0.1g/10分〜50g/10分程度であり、0.5g/10分〜20g/10分程度であると好ましい。MFRがこのような範囲のプロピレン系樹脂を用いることにより、押出機10に大きな負荷をかけることなく、均一なフィルムを成形することができる。
【0026】
(分子量分布)
本実施形態において用いられるポリプロピレン系樹脂の分子量分布は、通常1〜20である。分子量分布は、溶媒に140℃のo−ジクロロベンゼンを用い、標準サンプルにポリスチレンを用いて測定及び計算される、MnとMwとの比(=Mw/Mn)である。
【0027】
(光学フィルムの製造方法)
まず、図示しないホッパーから押出機1にポリプロピレン系樹脂を投入する。ホッパーから押出機に投入されるポリプロピレン系樹脂は、劣化を抑制するために、不活性ガス雰囲気で、好ましくは窒素雰囲気で事前に1時間から10時間程度予備乾燥することが好ましい。不活性ガスとしては特に制限されるものでなく、窒素、アルゴンなどが例示でき、ハンドリングのしやすさから、窒素を好適に用いることができる。このときの乾燥温度は、特に制限されるものではないが、40℃以上かつ130℃以下が好ましい。押出機1内についても、同様に樹脂の劣化を抑制するために、不活性ガス雰囲気にすることが好ましい。
【0028】
次に加熱された押出機1のシリンダー内においてスクリューにより、ポリプロピレン系樹脂を溶融混錬する(溶融工程)。溶融工程において溶融混錬されたポリプロピレン系樹脂は、連通管2を介してTダイ3の吐出口から吐出され、フィルム7が成形される(成形工程)。
【0029】
溶融工程および成形工程における樹脂の温度に特に制限はないが、180℃以上且つ300℃以下であることが好ましく、より好ましくは、220℃から280℃である。樹脂の温度が180℃以下であると、成形性が十分でなく、厚みむらが生じる傾向にあり、樹脂温度が300℃を超えると樹脂の劣化が促進され、樹脂劣化成分によりリップ部の汚れの原因やダイラインの発生要因等になりフィルム外観を損ねる傾向にある。
【0030】
次に、成形されたポリプロピレン系樹脂のフィルム7の少なくとも巾方向中央部を静電的に回転冷却体(冷却ロール)4の周面に密着させ、フィルム7を冷却する(冷却工程)。回転冷却体4は円筒形状を有し、その軸周りに回転するものである。回転冷却体の周面の材質は特に制限されないが、例えば、金属等が挙げられる。
【0031】
フィルム7の巾方向中央部を静電的に回転冷却体4に密着せしめる方法としては、フィルム7の巾方向中央部を帯電させればよい。帯電方法は特に制限されず、例えば、フィルム7の巾方向中央部に対向する位置に配置したワイヤー状、リボン状、棒状、針状等の主電極5に高電圧を印加する方法などが例示される。具体的には、例えば、ワイヤー状、リボン状、棒状の主電極は、フィルムの巾方向に延在するようにフィルムに対して対向配置することができる。また、針状の主電極は、フィルムの巾方向に複数配置することができる。
【0032】
特に、光学フィルムの生産性の観点からは、容易にメンテナンス可能なワイヤー状の主電極5がより好適に用いられる。主電極5が、樹脂などで汚れた場合に、フィルム7を十分に帯電できず、フィルム7を回転冷却体4に対し均一に密着させることができなくなるが、ワイヤー形状の主電極であれば、生産中に巻き取りながら汚れのない主電極を常時フィルム7と対向配置させることができ、生産を続けることができるからである。
なお、フィルム7の巾方向中央部だけでなく端部をさらに帯電させて、フィルム7の全面を回転冷却体4に静電的に密着させてもよいことは言うまでもない。
【0033】
ここで、フィルム7の巾方向の両端のみを選択的に静電的に回転冷却体4に密着させる方法は、本発明の範囲外である。
【0034】
主電極5に印加する電圧としては特に制限されるものではないが、3kV以上20kVに設定することが好ましく、5kV以上15kV以下に設定することがさらに好ましい。電圧が3kVよりも低いと回転冷却体4への密着性が低下する傾向にあり、電圧が20kVより高いと放電してしまい、フィルム7を傷つけてしまう傾向にあるからである。
【0035】
また、フィルム7と主電極5との距離も特に制限されないが、5〜30mmとすることが好ましい。
【0036】
さらに、主電極5に加え、さらに補助電極6を配置することが好ましい。補助電極6は、主電極5を間に挟んでフィルム7と対向する位置に主電極5と離間して設けられる。補助電極6が存在すると、主電極5からの放電によりフィルム7に生じる帯電の電荷密度が増大するので、フィルム7の回転冷却体4への密着性をより向上させることができる。補助電極6も、主電極5に対応して、フィルムの巾方向に延在していることが好ましい。
【0037】
補助電極6の材料としては、導電性の材料を使用することができ、さらに詳しくは、アルミ、銅などの金属材料が例示できる。補助電極6は接地されることが好ましい。
【0038】
補助電極6の形状も特に限定されない、例えば、主電極5の内のフィルム7と対向しない部分を覆う形状、例えば、フィルムの巾方向に対して直交する断面が傘型のものが好ましい。主電極5の内のフィルム7と対向しない部分を覆う形状とすることにより、主電極5近傍のイオン風や雰囲気温度をほぼ均一な状態となるように制御できるため、主電極近傍の雰囲気の安定化効果があり、放電効果が均一になりフィルムの厚み精度均一性をより一層改善することができる。傘型のものとしては、例えば、例えば、図1に示すような、開口部がフィルムと対向するように配置された円弧樋型形状(円筒を軸方向に2つに切断したうちの一方の形状)や、開口部がフィルムと対向するように配置された四角樋型形状(四角筒の一面を除去した形状)や、開口部がフィルムと対向するように配置された山型樋形状(三角筒の一面を除去した形状)があげられる。なお、主電極5の内のフィルム7と対向しない部分を覆わない形状でもよく、例えば、四角筒型でもよい。補助電極の数も特に制限されるものではなく、ひとつまたは複数を用いることができ、異なる形状の補助密着手段を組み合わせて用いることもできる。
【0039】
このようにして、静電的に回転冷却体4に密着せしめられたフィルム7は、回転冷却体4により均一に冷却され、その後冷却されたフィルム7は、必要に応じてフィルム端部が切断され、巻取り機に巻き取られて、光学フィルムまたは光学フィルムの前駆体となる。ここで、光学フィルムの前駆体とは、延伸される前の位相差フィルムの原反フィルム(位相差フィルム前駆体とも呼称する)を例示することができる。回転冷却体4に密着せしめたフィルムに対して、保護フィルムを積層してもよい。
【0040】
本実施形態によれば、静電的にフィルム7の巾方向中央部を回転冷却体4に密着させることができるので、過度な応力をかけることなく、巾方向中央部の冷却を均一に行うことができる。従って、透明性、厚み精度および経済性に優れたポリプロピレン系樹脂を用いた光学フィルムを製造することができる。
【0041】
なお、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、さまざまな変形態様が可能である。
例えば、フィルム7を回転冷却体4に静電的に密着せしめて冷却固化する冷却工程において、フィルム7を静電的に密着させるのに加えて、他の方法でさらにフィルム7を回転冷却体4に密着させても実施は可能である。例えば、他の密着手段として、エアチャンバー等からフィルムに対して噴出するガスの風圧による密着、タッチロール等によりフィルムを回転冷却体に押圧することによる密着等が挙げられる。
【0042】
また、主電極5を複数設けて静電的にフィルムを密着させてもよく、この場合、各種電極にそれぞれ補助電極6を設けてもよい。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例をあげて本発明を詳細に説明する。なお、各特性値は下記の方法で測定・評価した。
【0044】
(透明性)
巾方向の中央部の透明性をHAZEで評価した。HAZEはJIS K 7136に準拠し測定した。
【0045】
(厚み精度)
フィルム巾方向に50mm間隔にて、接触式変位センサを用いて厚みを測定し、測定した各フィルム厚みの平均値を最大値から最小値を引いた値で除した値に100を掛けた値で評価した。
【0046】
(実施例1)
図1に示す装置を用い、ポリプロピレン系樹脂(プロピレンーエチレンランダム共重合体、エチレン含有量=4wt%、MFR=2.0、Tg=−10℃)を250℃に加熱した50mmΦ押出機にて溶融混錬し、Tダイから吐出してフィルムとし、このフィルムを静電的に回転冷却体に密着させて冷却固化した。ここで、回転冷却体の表面温度が20℃になるように設定した。主電極としてワイヤー電極を用い、電圧値を6kVと設定した。補助電極は用いなかった。冷却後のフィルムの透明性及び厚み精度を上記方法にて評価した。
【0047】
(実施例2)
主電極の電圧値を8kVと設定したことを除いては、実施例1と同様に実施した。
【0048】
(実施例3)
主電極の電圧値を10kVと設定したことを除いては、実施例1と同様に実施した。
【0049】
(実施例4)
主電極の電圧値を15kVと設定したことを除いては実施例1と同様に実施した。
【0050】
(実施例5)
実施例1の主電極としてのワイヤー電極に加え、アルミニウム製の四角樋型形状すなわち「コ」の字形状の補助電極を設置し、主電極のワイヤー電極の電圧値を6kVと設定した。
【0051】
(実施例6)
主電極の電圧値を8kVと設定したことを除いては実施例5と同様に実施した。
【0052】
(実施例7)
主電極の電圧値を10kVと設定したことを除いては、実施例5と同様に実施した。
【0053】
(実施例8)
主電極の電圧値を15kVと設定したことを除いては実施例5と同様に実施した。
【0054】
(比較例1)
主電極の電圧値0kVと設定したことを除いては実施例1と同様に実施した。すなわち、比較例においては、フィルムを静電的に回転冷却体に密着させずに冷却固化した。
【0055】
(比較例2)
フィルムの巾方向端部のみを静電的に回転冷却体に密着させた以外は実施例1と同様に実施した。
【0056】
結果を表1に示す。フィルムを静電的に回転冷却体に密着させない比較例1では、透明性は20%であったのに対し、フィルムを静電的に回転冷却体に密着させた実施例1〜8のいずれも透明性は1%以下となり、高透明性を発現した。比較例2においては、静電的に回転冷却体に密着された巾方向端部は透明性を発現できたが、巾方向中央部の透明性は2.9%であり、透明性に劣る結果となった。厚み精度均一性に関しては、比較例1では6%、比較例2では5.5%であったのに対し、実施例1〜8ではいずれも5%以下の良好な値を示した。特に、補助電極を設置し、電圧値を15kVに設定した実施例8は、厚み精度が3%と非常に良好であった。
【表1】

【0057】
(実施例9)
ホモポリプロピレン系樹脂(エチレンープロピレンランダム共重合体、エチレン含有量=0.2wt%以下)を用いたこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0058】
(実施例10)
主電極の電圧値を8kVと設定したことを除いては、実施例9と同様に実施した。
【0059】
(実施例11)
主電極の電圧値を10kVと設定したことを除いては、実施例9と同様に実施した。
【0060】
(実施例12)
主電極の電圧値を15kVと設定したことを除いては実施例9と同様に実施した。
【0061】
(実施例13)
実施例1の主電極のワイヤー電極に加え、アルミニウム製の四角筒型形状の補助電極を設置し、主電極のワイヤー電極の電圧値を6kVと設定し、実施した。
【0062】
(実施例14)
主電極の電圧値を8kVと設定したことを除いては実施例13と同様に実施した。
【0063】
(実施例15)
主電極の電圧値を10kVと設定したことを除いては、実施例13と同様に実施した。
【0064】
(実施例16)
主電極の電圧値を15kVと設定したことを除いては実施例13と同様に実施した。
【0065】
(比較例3)
主電極の電圧値0kVと設定したことを除いては実施例9と同様に実施した。すなわち、比較例においては、フィルムを静電的に回転冷却体に密着させずに冷却固化した。
【0066】
(比較例4)
フィルムの巾方向端部のみを静電的に回転冷却体に密着させた以外は実施例9と同様に実施した。結果を表2に示す。
【0067】
フィルムを静電的に回転冷却体に密着させない比較例3では、透明性は20%であったのに対し、フィルムを静電的に回転冷却体に密着させた実施例9〜16のいずれも透明性は1%以下となり、高透明性を発現した。比較例4においては、静電的に回転冷却体に密着された巾方向端部は透明性を発現できたが、巾方向中央部の透明性は20%であり、高透明性を発現できなかった。ホモポリプロピレン系樹脂を用いた実施例9〜16においては、本発明の製造方法を用いることにより顕著に高透明性の発現性を享受できることが理解できる。厚み精度均一性に関しては、比較例3では6%、比較例4では5.5%であったのに対し、実施例9〜16ではいずれも5%以下の良好な値を示した。特に、補助電極を設置し、電圧値を15kVに設定した実施例16は、厚み精度が3%と非常に良好であった。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の製造方法により、偏光板保護フィルムや、位相差フィルム前駆体をはじめとする種々の光学フィルムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の光学フィルムの製造方法の好ましい設備配置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
4…回転冷却体、5…主電極、6…補助電極、7…フィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融されたポリプロピレン系樹脂をフィルムに成形する成形工程と、前記フィルムを回転冷却体に密着せしめて冷却固化する冷却工程とを備え、
前記冷却工程では、前記フィルムの巾方向中央部を静電的に前記回転冷却体に密着せしめる、光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記冷却工程では、前記フィルムに対向配置される主電極と、前記主電極を間に挟んで前記フィルムと対向する位置に設けられた補助電極と、により前記フィルムの巾方向中央部を静電的に前記回転冷却体に密着せしめる請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記光学フィルムは、偏光板保護フィルムおよび/または位相差フィルム前駆体である請求項1又は2に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−111060(P2010−111060A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286608(P2008−286608)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】