説明

光学フィルムの製造方法

【課題】光学的均一性および耐擦傷性に優れる、少なくとも2層構造の光学フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の製造方法は、基材フィルムの一方の面に、反応性基を有さないフッ素系レベリング剤を含む第1の塗工液を塗工して第1の機能層を形成する第1の塗工工程と、該第1の機能層の表面に、第2の塗工液を塗工して第2の機能層を形成する第2の塗工工程とを含み、該フッ素系レベリング剤が、該第2の塗工液の塗布時には該第1の機能層表面に偏在し、該第2の塗工液の塗布後には該第2の塗工液に溶出し、形成される第2の機能層表面に偏在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置の表示品位の向上、視野角特性の改善のため、光拡散素子等の光学フィルムが利用されている。光拡散素子は、例えば、光拡散を発現する光拡散フィルムと、外光の反射によるコントラスト低下や像の映り込みを防止するための光反射防止層とを備え、液晶表示装置の前面に配置される。
【0003】
液晶表示装置において光学フィルムの膜厚が不均一であると、光学特性の面内均一性(光学的均一性)が低下する。膜厚を均一化させる技術としては、光学フィルムの塗工形成において、レベリング剤を用いて、光学フィルムの膜厚を均一にすることが知られている(例えば、特許文献1)。しかし、上記の拡散素子のように、多層構造の光学フィルムの場合、層界面にレベリング剤が存在することにより、層間の密着性が悪くなり、十分な耐擦傷性が得られない。このように耐擦傷性が不十分であることは、特に上記のように液晶表示装置の前面に配置される光学フィルムにおいては実用上、問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−361769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、光学的均一性および耐擦傷性に優れる、少なくとも2層構造の光学フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の製造方法は、基材フィルムの一方の面に、反応性基を有さないフッ素系レベリング剤を含む第1の塗工液を塗工して第1の機能層を形成する第1の塗工工程と、該第1の機能層の表面に、第2の塗工液を塗工して第2の機能層を形成する第2の塗工工程とを含み、該フッ素系レベリング剤が、該第2の塗工液の塗布時には該第1の機能層表面に偏在し、該第2の塗工液の塗布後には該第2の塗工液に溶出し、形成される第2の機能層表面に偏在する。
好ましい実施形態においては、上記フッ素系レベリング剤が下記一般式(I)で表される構成単位、下記一般式(II)で表される構成単位および下記一般式(III)で表される構成単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構成単位を含む:
【化1】

一般式(I)において、mは1〜10の整数であり、一般式(II)において、nは、2〜10の整数である。
好ましい実施形態においては、上記フッ素系レベリング剤の含有量が、上記第1の塗工液中の全固形分に対して、0.05重量%〜3重量%である。
好ましい実施形態においては、上記第1の機能層が、光拡散層である。
好ましい実施形態においては、上記第2の機能層が、反射防止層である。
好ましい実施形態においては、上記光拡散層が、マトリクスと該マトリクス中に分散された光拡散性微粒子とを有し、該マトリクスと該光拡散性微粒子との界面またはその近傍に、屈折率が実質的に連続的に変化する屈折率変調領域が形成され、かつ、下記式(3)および(4)を満足する:
Δn≧0.10 ・・・(3)
0.0006≦Δn/L≦0.01 ・・・(4)
ここで、Δnはマトリクスの平均屈折率nと光拡散性微粒子の屈折率nとの差の絶対値|n−n|であり、Lは屈折率変調領域の平均厚みである。
好ましい実施形態においては、n>nである。
好ましい実施形態においては、上記光拡散層が式(5)を満足する:
0.01≦L/r≦1.0 ・・・(5)
ここで、rは上記光拡散性微粒子の半径である。
好ましい実施形態においては、上記マトリクスが樹脂成分および超微粒子成分を含み、上記屈折率変調領域が、該マトリクス中の該超微粒子成分の分散濃度の実質的な勾配により形成されている。
好ましい実施形態においては、上記光拡散層が式(1)を満足する:
|n−n|<|n−n|・・・(1)
ここで、nはマトリクスの樹脂成分の屈折率を表し、nはマトリクスの超微粒子成分の屈折率を表す。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法は、フッ素系レベリング剤を含む第1の塗布液を塗工して第1の機能層を形成する第1の塗工工程と、第1の機能層表面に、第2の塗布液を塗工して第2の機能層を形成する第2の塗工工程とを含む。本発明の製造方法に用いられるフッ素系レベリング剤は、第2の塗工液の塗布時には第1の機能層表面に偏在し、第2の塗工液の塗布後には第2の塗工液に溶出し、形成される第2の機能層表面に偏在する。このような製造方法により得られた光学フィルムは、光学的均一性および耐擦傷性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1A】本発明の好ましい実施形態による製造方法により得られる光学フィルムの構成を説明するための模式図である。
【図1B】図1Aの第1の機能層の光拡散微粒子近傍を拡大して説明する模式図である。
【図2】図1Aの第1の機能層における光拡散性微粒子中心部からマトリクスまでの屈折率変化を説明するための概念図である。
【図3】マトリクス中の超微粒子成分の面積比率を説明するための透過型電子顕微鏡画像である。
【図4】(a)は、マトリクスの平均屈折率n>光拡散性微粒子の屈折率nである場合の後方散乱発生のメカニズムを説明するための概念図であり、(b)はn<nである場合の後方散乱発生のメカニズムを説明するための概念図である。
【図5】光拡散半値角を算出する方法を説明するための模式図である。
【図6】実施例1および比較例1におけるフッ素系レベリング剤の光学フィルム断面における分布を示す図である。
【図7】実施例1の光学フィルム断面におけるフッ素原子濃度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1の塗工工程
本発明の製造方法における第1の塗工工程は、基材フィルムの一方の面に、フッ素系レベリング剤を含む第1の塗工液を塗工して第1の機能層を形成する。第1の塗工工程は、基材フィルムの一方の面に当該第1の塗工液を塗布すること、および基材フィルムに形成された第1の塗工液の塗布膜を乾燥させることを含む。第1の機能層は、例えば、光拡散機能を発現する光拡散層であり得る。
【0010】
上記第1の塗工液は、好ましくは、樹脂成分またはその前駆体を含む。また、上記第1の機能層が光拡散層である場合、第1の塗工液は、好ましくは、樹脂成分またはその前駆体と超微粒子成分とを含むマトリクス形成材料、および光拡散性微粒子を含む。
【0011】
代表的には、上記第1の塗工液は、樹脂成分の前駆体および揮発性溶剤中で、フッ素系レベリング剤、超微粒子成分および光拡散性微粒子が分散した分散体である。超微粒子成分および光拡散性微粒子を分散させる手段としては、任意の適切な手段(例えば、超音波処理、攪拌機による分散処理)が採用され得る。
【0012】
上記フッ素系レベリング剤は、反応性基を有さない。反応性基を有さないフッ素系レベリング剤を用いれば、第1の塗工液中の樹脂成分と結合しないので、後述の第2の塗工工程において、第2の塗工液に溶出しやすくなる。
【0013】
上記フッ素系レベリング剤は、第1の塗工工程においては、上記第1の塗工液を塗布して形成された塗布膜表面に偏在する。このようなフッ素系レベリング剤を用いれば、第1の塗工工程の乾燥時において、塗布膜の表面がフッ素系レベリング剤の薄層で覆われた状態となる。このような状態の塗布膜の表面張力は低く、かつ、乾燥時における塗工液の溶剤蒸発速度は遅い。そのため、乾燥時の加熱ムラ(例えば、オーブン内の熱ムラ、フィルム搬送により生じる風(随伴流)の当たりムラ)を要因として生じる塗布膜中の表面張力差を小さくでき、塗布膜内での熱対流の発生を抑制することができる。その結果、このような乾燥を経て得られた第1の機能層は、厚み精度に優れ、光学的均一性に優れる。
【0014】
このように偏在し得るフッ素系レベリング剤としては、例えば、下記一般式(I)で表される構成単位、下記一般式(II)で表される構成単位および下記一般式(III)で表される構成単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構成単位を含むフッ素系レベリング剤が挙げられる。
【化2】

一般式(I)において、mは、好ましくは1〜10の整数であり、さらに好ましくは2〜8の整数である。一般式(II)において、nは、好ましくは2〜10の整数であり、さらに好ましくは4〜8の整数である。
【0015】
上記一般式(I)、(II)および(III)で表される構成単位の合計含有割合は、上記フッ素系レベリング剤を構成する構成単位の全量に対して、好ましくは10mol%〜100mol%であり、さらに好ましくは20mol%〜70mol%である。
【0016】
好ましくは、上記フッ素系レベリング剤は、少なくともひとつの上記一般式(III)で表される構成単位を有する。このような構成単位を有するフッ素系レベリング剤を含む第1の塗工液を用いれば、当該塗工液を塗布して形成される塗布膜において、フッ素系レベリング剤の移動が速くなり、効率的にフッ素系レベリング剤を当該塗布膜表面に偏在させることができる。
【0017】
上記フッ素系レベリング剤が有するエーテル結合の数は、好ましくは2以上であり、さらに好ましくは4〜30であり、特に好ましくは6〜20である。上記フッ素系レベリング剤は、多くのエーテル結合を有することにより、屈曲性が高くなる。
【0018】
上記フッ素レベリング剤の分子量は、好ましくは50〜2000であり、さらに好ましくは100〜1500である。このような範囲であれば、多くのフッ素系レベリング剤を上記第1の機能層の表面に偏在させることができる。
【0019】
フッ素系レベリング剤の配合量は、第1の塗工液中の全固形分に対して、好ましくは0.05重量%〜3重量%であり、より好ましくは0.1重量%〜2.5重量%であり、さらに好ましくは0.2重量%〜1.0重量%であり、特に好ましくは0.3重量%〜0.8重量%である。
【0020】
上記樹脂成分は、任意の適切な樹脂で構成される。好ましくは有機化合物で構成され、より好ましくは電離線硬化型樹脂で構成される。電離線硬化型樹脂は、塗膜の硬度に優れているため、機械強度に優れた第1の機能層を形成し得る。電離線としては、例えば、紫外線、可視光、赤外線、電子線が挙げられる。好ましくは紫外線であり、したがって、樹脂成分は、特に好ましくは紫外線硬化型樹脂で構成される。紫外線硬化型樹脂としては、例えば、アクリレート樹脂(エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、アクリルアクリレート、エーテルアクリレート)などのラジカル重合型モノマーもしくはオリゴマーから形成される樹脂が挙げられる。アクリレート樹脂を構成するモノマー成分(前駆体)の分子量は、好ましくは200〜700である。アクリレート樹脂を構成するモノマー成分(前駆体)の具体例としては、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA:分子量298)、ネオペンチルグリコールジアクリレート(NPGDA:分子量212)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA:分子量632)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(DPPA:分子量578)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA:分子量296)が挙げられる。前駆体には、必要に応じて、開始剤を添加してもよい。開始剤としては、例えば、UVラジカル発生剤(BASFジャパン社製イルガキュア907、同127、同192など)、過酸化ベンゾイルが挙げられる。上記樹脂成分は、上記電離線硬化型樹脂以外に別の樹脂成分を含んでいてもよい。別の樹脂成分は、電離線硬化型樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。別の樹脂成分の代表例としては、脂肪族系(例えば、ポリオレフィン)樹脂、ウレタン系樹脂が挙げられる。
【0021】
上記第1の機能層が光拡散層である場合、第1の機能層は、好ましくは、マトリクスと、該マトリクス中に分散された光拡散性微粒子とを有する。上記光拡散層は、マトリクスと光拡散性微粒子の屈折率差により、光拡散機能を発現する。好ましくは、上記光拡散層において、マトリクスと光拡散性微粒子との界面近傍に屈折率変調領域が形成される。屈折率変調領域においては、屈折率は実質的に連続的に変化する。本明細書において「屈折率が実質的に連続的に変化する」とは、屈折率変調領域において少なくとも光拡散性微粒子表面から屈折率一定領域まで屈折率が実質的に連続的に変化すればよいことを意味する。本発明で得られる、第1の機能層として光拡散層を有する光学フィルムの詳細は、後述のB項で説明する。
【0022】
上記マトリクスを形成する材料(マトリクス形成材料)は、上記樹脂成分またはその前駆体と、超微粒子成分とを含む。
【0023】
上記マトリクス形成材料における、上記樹脂成分の配合量は、マトリクス100重量部に対して、好ましくは10重量部〜80重量部であり、より好ましくは20重量部〜65重量部である。
【0024】
上記マトリクスの樹脂成分および超微粒子成分ならびに光拡散性微粒子の構成材料、ならびに化学的および熱力学的特性は、上記屈折率変調領域を形成し得る範囲で選択され得る。例えば、樹脂成分および光拡散性微粒子を同系の材料(例えば有機化合物同士)で構成し、超微粒子成分を樹脂成分および光拡散性微粒子とは異なる系の材料(例えば無機化合物)で構成することにより、屈折率変調領域を良好に形成することができる。さらに、例えば、樹脂成分および光拡散性微粒子を同系材料の中でも相溶性の高い材料同士で構成することが好ましい。屈折率変調領域の厚みおよび屈折率勾配は、マトリクスの樹脂成分および超微粒子成分ならびに光拡散性微粒子の化学的および熱力学的特性を調整することにより制御することができる。なお、本明細書において「同系」とは、化学構造や特性が同等または類似であることをいい、「異なる系」とは、同系以外のものをいう。同系か否かは、基準の選択の仕方によって異なり得る。例えば、有機か無機かを基準にした場合、有機化合物同士は同系の化合物であり、有機化合物と無機化合物とは異なる系の化合物である。ポリマーの繰り返し単位を基準にした場合、例えばアクリル系ポリマーとエポキシ系ポリマーとは有機化合物同士であるにもかかわらず異なる系の化合物であり、周期律表を基準にした場合、アルカリ金属と遷移金属とは無機元素同士であるにもかかわらず異なる系の元素である。
【0025】
上記超微粒子成分は、上記のように、好ましくは上記樹脂成分および後述の光拡散性微粒子とは異なる系の化合物で構成され、より好ましくは無機化合物で構成される。好ましい無機化合物としては、例えば、金属酸化物、金属フッ化物が挙げられる。金属酸化物の具体例としては、酸化ジルコニウム(ジルコニア)(屈折率:2.19)、酸化アルミニウム(屈折率:1.56〜2.62)、酸化チタン(屈折率:2.49〜2.74)、酸化ケイ素(屈折率:1.25〜1.46)が挙げられる。金属フッ化物の具体例としては、フッ化マグネシウム(屈折率:1.37)、フッ化カルシウム(屈折率:1.40〜1.43)が挙げられる。これらの金属酸化物および金属フッ化物は、光の吸収が少ない上に、電離線硬化型樹脂や熱可塑性樹脂などの有機化合物では発現が難しい屈折率を有しているので、光拡散性微粒子との界面から離れるにつれて超微粒子成分の重量濃度が相対的に高くなることにより、屈折率を大きく変調させることができる。光拡散性微粒子とマトリクスとの屈折率差を大きくすることにより、薄膜であっても高拡散を実現でき、かつ、屈折率変調領域が形成されるので後方散乱防止の効果も大きい。特に好ましい無機化合物は、酸化ジルコニウムである。
【0026】
上記超微粒子成分の平均1次粒子径は、屈折率変調領域の平均厚みLに比べて小さいことが好ましい。より具体的には、平均1次粒子径は、平均厚みLに対して好ましくは1/50〜1/2、より好ましくは1/25〜1/3である。平均1次粒子径が平均厚みLに対して1/2を超えると、屈折率変調領域における屈折率変化が実質的に連続的にならない場合がある。1/50未満である場合、屈折率変調領域の形成が困難になる場合がある。上記平均1次粒子径は、好ましくは1nm〜100nmであり、より好ましくは1nm〜50nmである。超微粒子成分は2次凝集していてもよく、その場合の平均粒子径(凝集体の平均粒子径)は、好ましくは10nm〜100nmであり、より好ましくは10nm〜80nmである。このように、光の波長より小さい平均粒径の超微粒子成分を用いることにより、超微粒子成分と樹脂成分との間に幾何光学的な反射、屈折、散乱が生じず、光学的に均一なマトリクスを得ることができる。その結果、光学的に均一な光拡散層を得ることができる。
【0027】
好ましくは、上記超微粒子成分は、表面改質がなされている。表面改質を行うことにより、超微粒子成分を樹脂成分中に良好に分散させることができ、かつ、上記屈折率変調領域を良好に形成することができる。表面改質手段としては、本発明の効果が得られる限りにおいて任意の適切な手段が採用され得る。代表的には、表面改質は、超微粒子成分の表面に表面改質剤を塗布して表面改質剤層を形成することにより行われる。好ましい表面改質剤の具体例としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等のカップリング剤、脂肪酸系界面活性剤等の界面活性剤が挙げられる。このような表面改質剤を用いることにより、樹脂成分と超微粒子成分との濡れ性を向上させ、樹脂成分と超微粒子成分との界面を安定化させ、超微粒子成分を樹脂成分中に良好に分散させ、かつ、屈折率変調領域を良好に形成することができる。
【0028】
上記超微粒子成分の配合量は、マトリクス100重量部に対して、好ましくは15重量部〜80重量部であり、さらに好ましくは20重量部〜70重量部である。
【0029】
上記光拡散性微粒子は、任意の適切な材料で構成される。好ましくは、上記屈折率変調領域が良好に形成され得る材料で構成され、上記のように、光拡散性微粒子は、上記マトリクスの樹脂成分と同系の化合物で構成される。例えば、マトリクスの樹脂成分を構成する電離線硬化型樹脂がアクリレート系樹脂である場合には、光拡散性微粒子もまたアクリレート系樹脂で構成されることが好ましい。より具体的には、マトリクスの樹脂成分を構成するアクリレート系樹脂のモノマー成分が例えば上記のようなPETA、NPGDA、DPHA、DPPAおよび/またはTMPTAである場合には、光拡散性微粒子を構成するアクリレート系樹脂は、好ましくは、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリメチルアクリレート(PMA)、およびこれらの共重合体、ならびにそれらの架橋物である。PMMAおよびPMAとの共重合成分としては、ポリウレタン、ポリスチレン(PSt)、メラミン樹脂が挙げられる。特に好ましくは、光拡散性微粒子は、PMMAで構成される。マトリクスの樹脂成分および超微粒子成分との屈折率や熱力学的特性の関係が適切であるからである。さらに、好ましくは、光拡散性微粒子は、架橋構造(三次元網目構造)を有する。架橋構造の粗密(架橋度)を調整することにより、光拡散性微粒子表面において微粒子を構成するポリマー分子の自由度を制御することができるので、超微粒子成分の分散状態を制御することができ、結果として、所望の屈折率勾配を有する屈折率変調領域を形成することができる。例えば、塗工液を塗布する際の光拡散性微粒子の樹脂成分前駆体(溶媒を含んでいてもよい)に対する膨潤度は、好ましくは100%〜200%である。ここで、「膨潤度」とは、架橋度の指標であり、膨潤前の粒子の平均粒径に対する膨潤状態の粒子の平均粒径の比率をいう。
【0030】
上記光拡散性微粒子は、平均粒径が、好ましくは1.0μm〜5.0μmであり、より好ましくは1.0μm〜4.0μmである。光拡散性微粒子の平均粒径は、好ましくは、光拡散層の厚みの1/2以下(例えば、1/2〜1/20)である。光拡散層の厚みに対してこのような比率を有する平均粒径であれば、光拡散性微粒子を光拡散層の厚み方向に複数配列することができるので、入射光が光拡散層を通過する間に当該光を多重に拡散させることができ、その結果、十分な光拡散性が得られ得る。
【0031】
上記光拡散性微粒子の重量平均粒径分布の標準偏差は、好ましくは1.0μm以下であり、より好ましくは0.5μm以下である。重量平均粒径に対して粒径の小さい光拡散性微粒子が多数混在していると、拡散性が増大しすぎて後方散乱を良好に抑制できない場合がある。重量平均粒径に対して粒径の大きい光拡散性微粒子が多数混在していると、光拡散層の厚み方向に複数配列することができず、多重拡散が得られない場合があり、その結果、光拡散性が不十分となる場合がある。
【0032】
上記光拡散性微粒子の形状としては、目的に応じて任意の適切な形状が採用され得る。具体例としては、真球状、燐片状、板状、楕円球状、不定形が挙げられる。多くの場合、上記光拡散性微粒子として真球状微粒子が用いられ得る。
【0033】
上記光拡散性微粒子の配合量は、マトリクス100重量部に対して、好ましくは10重量部〜100重量部であり、より好ましくは10重量部〜40重量部、さらに好ましくは10重量部〜35重量部である。例えばこのような配合量で上記好適範囲の平均粒径を有する光拡散性微粒子を含有させることにより、非常に優れた光拡散性を有する光拡散層を形成することができる。
【0034】
上記樹脂成分、超微粒子成分および光拡散性微粒子は、代表的には、下記式(1)を満足する:
|n−n|<|n−n|・・・(1)
式(1)中、nはマトリクスの樹脂成分の屈折率を表し、nはマトリクスの超微粒子成分の屈折率を表し、nは光拡散性微粒子の屈折率を表す。さらに、樹脂成分は下記式(2)も満足し得る:
|n−n|<|n−n|・・・(2)
樹脂成分の屈折率は、好ましくは1.40〜1.60である。超微粒子成分の屈折率は、好ましくは1.40以下または1.60以上であり、さらに好ましくは1.40以下または1.70〜2.80であり、特に好ましくは1.40以下または2.00〜2.80である。屈折率が1.40を超えまたは1.60未満であると、光拡散性微粒子とマトリクスとの屈折率差が不十分となり、光拡散層を有する光学フィルムがコリメートバックライトフロント拡散システムを採用する液晶表示装置に用いられた場合に、コリメートバックライトからの光を十分に拡散できず視野角が狭くなるおそれがある。光拡散性微粒子の屈折率は、好ましくは1.30〜1.70であり、さらに好ましくは1.40〜1.60である。
【0035】
上記揮発性溶剤としては、上記各成分を溶解または均一に分散し得るかぎりにおいて、任意の適切な溶剤が採用され得る。揮発性溶剤の具体例としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、2−ブタノン(メチルエチルケトン)、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、トルエン、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、シクロペンタン、水が挙げられる。
【0036】
上記第1の塗工液は、目的に応じて任意の適切な添加剤をさらに含有し得る。例えば、超微粒子成分を良好に分散させるために、分散剤が好適に用いられ得る。添加剤の他の具体例としては、紫外線吸収剤、消泡剤が挙げられる。
【0037】
上記第1の塗工液の固形分濃度は、好ましくは10重量%〜70重量%程度となるように調整され得る。このような固形分濃度であれば、塗工容易な粘度を有する塗工液が得られ得る。
【0038】
上記第1の塗工液において、揮発性溶剤としてメチルエチルケトンを用い、第1の塗工液の全重量に対して27.5重量%のフッ素系レベリング剤の含有させた場合の表面張力は、好ましくは10mN/m〜32mN/mであり、さらに好ましくは20mN/m〜30mN/mである。このような範囲であれば、乾燥において、加熱ムラを要因として生じる塗布膜中の表面張力差を小さくでき、塗布膜内での熱対流の発生を抑制することができる。その結果、このような乾燥を経て得られた光拡散層は、厚み精度に優れ、面内輝度の均一性が高い。
【0039】
上記基材フィルムとしては、任意の適切なフィルムが採用され得る。具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ナイロンフィルム、アクリルフィルム、ラクトン変性アクリルフィルムなどが挙げられる。上記基材フィルムは、必要に応じて、易接着処理などの表面改質がなされていてもよく、滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤が含まれていてもよい。
【0040】
上記基材フィルムの厚みは、好ましくは20μm〜80μmであり、さらに好ましくは30μm〜60μmである。
【0041】
上記基材フィルムは、透明であることが好ましい。具体的には、上記基材フィルムの全光線透過率は、好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、特に好ましくは95%以上である。
【0042】
上記第1の塗工液の基材フィルムへの塗布方法としては、任意の適切なコーターを用いた方法が採用され得る。コーターの具体例としては、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、グラビアコーター、ダイコーター、コンマコーターが挙げられる。
【0043】
上記第1の塗工液の乾燥方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体例としては、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥が挙げられる。好ましくは、加熱乾燥である。上記第1の機能層が光拡散層である場合、加熱温度は、例えば60℃〜150℃であり、加熱時間は、例えば30秒〜5分である。
【0044】
好ましくは、上記第1の塗工工程においては、上記塗布の後に上記前駆体を重合させることをさらに含む。重合方法は、樹脂成分(したがって、その前駆体)の種類に応じて任意の適切な方法が採用され得る。例えば、樹脂成分が電離線硬化型樹脂である場合には、電離線を照射することにより前駆体を重合する。電離線として紫外線を用いる場合には、その積算光量は、好ましくは50mJ/cm〜1000mJ/cmである。電離線の光拡散性微粒子に対する透過率は、好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上である。また例えば、樹脂成分が熱硬化型樹脂である場合には、加熱することにより前駆体を重合する。加熱温度および加熱時間は、樹脂成分の種類に応じて適切に設定され得る。好ましくは、重合は電離線を照射することにより行われる。電離線照射であれば、上記第1の機能層が光拡散層である場合、屈折率変調領域を良好に保持したまま塗膜を硬化させることができるので、良好な拡散特性の光拡散層を形成させることができる。前駆体を重合することにより、屈折率変調領域と屈折率一定領域とを有するマトリクスが形成される。
【0045】
上記重合は、上記乾燥の前に行ってもよく、乾燥の後で行ってもよい。
【0046】
上記第1の塗工工程においては、上記塗布、乾燥および重合に加えて、任意の適切な時点で任意の適切な工程、処理および/または操作を含み得ることは言うまでもない。そのような工程等の種類およびそのような工程等が行われる時点は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0047】
このようにして、第1の塗工工程により第1の機能層を形成する。上記第1の塗工工程後の第1の機能層においては、その表面に、上記フッ素系レベリング剤が偏在している。
【0048】
B.第2の塗工工程
本発明の製造方法における第2の塗工工程は、上記第1の塗工工程により形成した第1の機能層の表面に、第2の塗工液を塗工して第2の機能層を形成する。第2の塗工工程は、上記第1の機能層上に、第2の塗工液を塗布すること、および第1の機能層上に形成された第2の塗工液の塗布膜を乾燥させることを含む。第2の塗工液の塗布時には、上記フッ素系レベリング剤は、上記第1の機能層表面に偏在している。第2の機能層は、例えば、反射防止層であり得る。
【0049】
上記第2の塗工液は、好ましくは、任意の適切な樹脂またはその前駆体を含む。例えば、第2の機能層が反射防止層である場合、上記第2の塗工液は、好ましくは、紫外線硬化型アクリル樹脂またはその前駆体、または樹脂中にコロイダルシリカ等の無機微粒子を分散させたハイブリッド系材料等を含む。
【0050】
上記第2の塗工液は、好ましくは、揮発性溶媒を含む。第2の塗工液に含まれる揮発性溶媒は、好ましくは、上記フッ素系レベリング剤との親和性の高い溶媒であり、具体的には、メチルイソブチルケトン(MIBK)等が挙げられる。このような揮発性溶媒であれば、上記第1の塗工工程後に第1の機能層表面に偏在する上記フッ素系レベリング剤が、第2の塗工液に含まれる揮発性溶媒に溶出しやすい。
【0051】
上記フッ素系レベリング剤は、上記のように、第2に塗工液に含まれる揮発性溶媒に溶出して、第1の機能層から第2の塗工液中に移動する。本発明の製造方法によれば、上記のようにフッ素系レベリング剤が反応性基を有さないので、第2の塗工液に容易に移動し得る。また、上記のように第2の塗工液に含まれる揮発性溶媒として、上記フッ素系レベリング剤との親和性の高い溶媒を用いることにより、フッ素系レベリング剤の第2の塗工液への移動がさらに容易となる。本発明の製造方法によれば、このようにフッ素系レベリング剤が移動することにより、当該フッ素系レベリング剤が、第1の機能層の厚みの均一化にも、第2の機能層の厚みの均一化にも寄与し得る。すなわち、高い光学的均一性を実現し得る。さらに、本発明の製造方法により得られた光学フィルムは、第1の機能層と第2の機能層との界面におけるフッ素系レベリング剤の存在量が少ないので、耐擦傷性に優れる。
【0052】
上記フッ素系レベリング剤は、上記のように第2の塗工液に移動し、さらに、第2の塗工液を塗布して形成された塗布膜表面に偏在する。このように偏在すれば、上記A項で説明した作用と同様の作用により、厚み精度に優れる第2の機能層を得ることができる。また、本発明の製造法により得られた光学フィルムは、第2の機能層表面においてフッ素系レベリング剤が偏在しているので、耐擦傷性に優れる。
【0053】
上記第2の塗工液は、目的に応じて任意の適切な添加剤をさらに含有し得る。例えば、超微粒子成分を良好に分散させるために、分散剤が好適に用いられ得る。添加剤の他の具体例としては、紫外線吸収剤、消泡剤が挙げられる。
【0054】
上記第2の塗工液の固形分濃度は、好ましくは10重量%〜70重量%程度となるように調整され得る。このような固形分濃度であれば、塗工容易な粘度を有する塗工液が得られ得る。
【0055】
上記第1の塗工液の塗布方法は、上記A項で説明した第1の塗工液の塗布方法と同様の方法が挙げられる。
【0056】
上記第2の塗工液の乾燥方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体例としては、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥が挙げられる。好ましくは、加熱乾燥である。上記第2の機能層が反射防止層である場合、加熱温度は、例えば60℃〜150℃であり、加熱時間は、例えば30秒〜5分である。
【0057】
上記第2の塗工工程においては、上記塗布および乾燥に加えて、任意の適切な時点で任意の適切な工程、処理および/または操作を含み得ることは言うまでもない。そのような工程等の種類およびそのような工程等が行われる時点は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0058】
このようにして、第2の塗工工程により第2の機能層を形成する。上記第2の塗工工程後においては、第2の機能層の表面に、上記フッ素系レベリング剤が偏在している。
【0059】
本発明の製造方法は、光学フィルムの用途に応じて、さらに別の塗工工程を含み得、さらに別の機能層を形成し得る。別の塗工工程は、第1の塗工工程の前に行われてもよく、第1の塗工工程後第2の塗工工程前に行われてもよく、また、第2の塗工工程後に行われてもよい。別の塗工工程においても、塗工液に含まれる揮発溶媒は、上記フッ素系レベリング剤との親和性の高い溶媒であることが好ましい。フッ素系レベリング剤が、各塗工工程で形成される機能層を移動して、最終的に、光学フィルムの最外層表面に偏在することができるからである。
【0060】
C.光学フィルム
図1Aは、本発明の好ましい実施形態による製造方法により得られる光学フィルムの構成を説明するための模式図であり、図1Bは図1Aの第1の機能層120(光拡散層)の光拡散微粒子近傍を拡大して説明する模式図である。光学フィルム100は、基材フィルム110と、第1の機能層120と、第2の機能層130とをこの順に備える。第2の機能層130においては、その表面(すなわち、第2の機能層130における第1の機能層120と反対側の表面)にフッ素系レベリング剤10が偏在している。1つの実施形態においては、第1の機能層120は光拡散層であり、第2の機能層130は反射防止層である。本発明の製造方法により得られる光学フィルムは、光拡散層の輝度ムラおよび反射防止層の干渉ムラが抑制され、かつ耐擦傷性に優れるため、例えば液晶表示装置の最表面に配置される形態において有用である。
【0061】
上記第1の機能層120が光拡散層である場合、図1Aに示すように、第1の機能層120は、好ましくは、マトリクス20と、該マトリクス中に分散された光拡散性微粒子30とを有する。マトリクス20は、樹脂成分21および超微粒子成分22を含む。上記光拡散層は、マトリクスと光拡散性微粒子の屈折率差により、光拡散機能を発現する。好ましくは、図1Aおよび図1Bに示すように、超微粒子成分22は、マトリクス20と光拡散性微粒子30との界面近傍に屈折率変調領域40を形成するようにして、樹脂成分21に分散している。したがって、マトリクス20は、光拡散性微粒子30との界面近傍の屈折率変調領域40と、当該屈折率変調領域40の外側(光拡散性微粒子から離れた側)の屈折率一定領域とを有する。好ましくは、マトリクス20における屈折率変調領域以外の部分は、実質的には屈折率一定領域である。本明細書において「マトリクスと光拡散性微粒子との界面近傍」とは、光拡散性微粒子表面、表面付近の外部および表面付近の内部を包含する。
【0062】
好ましくは、上記光拡散層は、下記の式(3)および(4)を満足する:
Δn≧0.10 ・・・(3)
0.0006≦Δn/L≦0.01 ・・・(4)
ここで、Δnはマトリクスの平均屈折率nと光拡散性微粒子の屈折率nとの差の絶対値|n−n|であり、Lは屈折率変調領域の平均厚みである。マトリクスの平均屈折率nは、樹脂成分の屈折率と超微粒子成分の屈折率との加重平均である。Δnは、好ましくは0.12以上である。Δnの上限は、好ましくは0.20である。Δnが0.10未満であると、ヘイズが90%以下となる場合が多く、その結果、液晶表示装置に組み込んだ場合に光源からの光を十分に拡散できず、視野角が狭くなるおそれがある。Δnが0.20を超えると、後方散乱が増大するおそれがある。また、マトリクスの樹脂成分および超微粒子成分の選択が困難となる場合がある。さらに、好ましくは、n>nである。Δn/L(nm−1)は、好ましくは0.0008〜0.008であり、さらに好ましくは0.0010〜0.007である。このようなΔn/Lを実現し得る屈折率変調領域の平均厚みLは、好ましくは5nm〜500nm、より好ましくは12nm〜400nm、さらに好ましくは15nm〜300nmである。平均厚みLが5nm未満であると、後方散乱が大きくなる場合がある。平均厚みLが500nmを超えると、拡散性が不十分となる場合がある。このように、上記光拡散層は、屈折率変調領域の平均厚みLが非常に薄いにもかかわらず、Δnが大きい(すなわち、Δn/Lが格段に大きい)屈折率変調領域を形成することができる。しかも、上記のように、上記光拡散層は、屈折率変調領域において屈折率を実質的に連続的に変化させることができる。これらの相乗的な作用により、上記光拡散層によれば、ヘイズ値が高く、強い拡散性を有し、かつ、後方散乱が抑制された薄膜の光学フィルムを実現することができる。
【0063】
上記のように、屈折率変調領域40においては、屈折率が実質的に連続的に変化する。好ましくは、これに加えて、上記屈折率変調領域の最外部の屈折率と上記屈折率一定領域の屈折率とが実質的に同一である。言い換えれば、上記光拡散層においては、屈折率変調領域から屈折率一定領域にかけて屈折率が連続的に変化し、好ましくは光拡散性微粒子から屈折率一定領域にかけて屈折率が連続的に変化する(図2)。好ましくは、当該屈折率変化は、図2に示すように滑らかである。すなわち、屈折率変調領域と屈折率一定領域との境界において、屈折率変化曲線に接線が引けるような形状で変化する。好ましくは、屈折率変調領域において、屈折率変化の勾配は、上記光拡散性微粒子から遠ざかるにつれて大きくなる。上記光拡散層によれば、上記A項で説明したように、光拡散性微粒子とマトリクスの樹脂成分と超微粒子成分とを適切に選択することにより、実質的に連続的な屈折率変化を実現することができる。その結果、マトリクス20(実質的には、屈折率一定領域)と光拡散性微粒子30との屈折率差を大きくしても、マトリクス20と光拡散性微粒子30との界面の反射を抑えることができ、後方散乱を抑制することができる。さらに、屈折率一定領域では、光拡散性微粒子30とは屈折率が大きく異なる超微粒子成分22の重量濃度が相対的に高くなるので、マトリクス20(実質的には、屈折率一定領域)と光拡散性微粒子30との屈折率差を大きくすることができる。その結果、薄膜であっても高いヘイズ(強い拡散性)を実現することができる。したがって、上記光拡散層によれば、Δn/Lが非常に大きく、かつ屈折率が実質的に連続的に変化する屈折率変調領域を形成することにより、高ヘイズを実現しつつ、後方散乱を顕著に抑制することができる。
【0064】
好ましくは、上記光拡散層は、式(5)を満足する:
0.01≦L/r≦1.0 ・・・(5)
ここで、rは上記光拡散性微粒子の半径である。L/rは、好ましくは0.02〜0.90である。上記光拡散層によれば、上記のように屈折率変調領域の平均厚みLを非常に薄くすることができるので、L/rを非常に小さくすることができる。その結果、上記光拡散性微粒子の散乱能を十分に維持しつつ、後方散乱を良好に抑制することができる。したがって、薄膜であっても高いヘイズ(強い拡散性)を実現することができる。
【0065】
上記屈折率変調領域40の厚み(屈折率変調領域最内部から屈折率変調領域最外部までの距離)は、一定であってもよく(すなわち、屈折率変調領域が光拡散性微粒子の周囲に同心球状に拡がってもよく)、光拡散性微粒子表面の位置によって厚みが異なっていてもよい(例えば、金平糖の外郭形状のようになっていてもよい)。好ましくは、屈折率変調領域40の厚みは、光拡散性微粒子表面の位置によって異なっている。このような構成であれば、屈折率変調領域40において、屈折率をより滑らかに連続的に変化させることができる。上記平均厚みLは、屈折率変調領域40の厚みが光拡散性微粒子表面の位置によって異なる場合の平均厚みであり、厚みが一定である場合にはその厚みである。
【0066】
上記のように、マトリクス20は、好ましくは樹脂成分21および超微粒子成分22を含む。好ましくは、上記屈折率変調領域40は、マトリクス20中の超微粒子成分22の分散濃度の実質的な勾配により形成されている。具体的には、屈折率変調領域40においては、光拡散性微粒子30から遠ざかるにつれて、超微粒子成分22の分散濃度(代表的には、重量濃度で規定される)が高くなる(必然的に、樹脂成分21の重量濃度が低くなる)。言い換えれば、屈折率変調領域40における光拡散性微粒子30の最近接領域には、超微粒子成分22が相対的に低濃度で分散しており、光拡散性微粒子30から遠ざかるにつれて超微粒子成分22の濃度が増大する。例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)画像によるマトリクス20中の超微粒子成分22の面積比率は、光拡散性微粒子30に近接する側では小さく、マトリクス20に近接する側では大きく、当該面積比率は光拡散性微粒子側からマトリクス側(屈折率一定領域側)に実質的な勾配を形成しながら変化する。その代表的な分散状態を表すTEM画像を図3に示す。本明細書において、「透過型電子顕微鏡画像によるマトリクス中の超微粒子成分の面積比率」とは、光拡散性微粒子の直径を含む断面の透過型電子顕微鏡画像において、所定範囲(所定面積)のマトリクスに占める超微粒子成分の面積の比率をいう。当該面積比率は、超微粒子成分の3次元的な分散濃度(実際の分散濃度)に対応する。例えば、上記のような面積比率であれば、超微粒子成分22の分散濃度は、その濃度変化の勾配が光拡散性微粒子30に近接する側では小さく、屈折率一定領域に近接する側では大きく、光拡散微粒子側から屈折率一定領域側に実質的な勾配を形成しながら変化する。言い換えれば、超微粒子成分22の分散濃度は、その濃度変化の勾配が光拡散性微粒子から遠ざかるにつれて大きくなる。当該超微粒子成分の面積比率は、任意の適切な画像解析ソフトにより求めることができる。なお、上記面積比率は、代表的には、超微粒子成分の各粒子間の平均最短距離に対応する。具体的には、超微粒子成分の各粒子間の平均最短距離は、屈折率変調領域においては光拡散性微粒子から遠ざかるにつれて短くなり、屈折率一定領域において一定となる(例えば、平均最短距離は、光拡散性微粒子の最近接領域では3nm〜100nm程度であり、屈折率一定領域においては1nm〜20nmである)。平均最短距離は、図3のような分散状態のTEM画像を二値化し、例えば画像解析ソフト「A像くん」(旭化成エンジニアリング社製)の重心間距離法を用いて算出することができる。以上のように、上記光拡散層によれば、超微粒子成分22の分散濃度の実質的な勾配を利用してマトリクスと光拡散性微粒子との界面近傍に屈折率変調領域40を形成することができるので、簡便な手順で、かつ、格段に低コストで光拡散層を形成することができる。さらに、超微粒子成分の分散濃度の実質的な勾配を利用して屈折率変調領域を形成することにより、屈折率変調領域40と屈折率一定領域との境界において屈折率を滑らかに変化させることができる。さらに、樹脂成分および光拡散性微粒子と屈折率が大きく異なる超微粒子成分を用いることにより、光拡散性微粒子とマトリクス(実質的には、屈折率一定領域)との屈折率差を大きく、かつ、屈折率変調領域の屈折率勾配を急峻にすることができる。
【0067】
上記のとおり、上記光拡散層においては、好ましくはn>nである。図4(a)および図4(b)に比較して示すように、n>nである場合には、n<nである場合に比べて、屈折率変調領域の屈折率勾配が急峻であっても後方散乱をより良好に抑制することができる。
【0068】
本発明の製造方法により得られる光学フィルムの厚みは、用途に応じて任意の適切な値に設定され得る。
【0069】
上記第1の機能層の厚みは、用途に応じて任意の適切な値に設定され得る。上記第1の機能層が光拡散層である場合、当該光拡散層の厚みは、好ましくは4μm〜50μmであり、さらに好ましくは4μm〜20μmであり、特に好ましくは5μm〜15μmである。上記製造方法により形成し得る光拡散層は、このように非常に薄い厚みにもかかわらず、上記のような非常に高いヘイズを有する。さらに、このような薄い厚みの光拡散層を有する光学フィルムであれば折り曲げても割れたりせず、ロール状での保管が可能となる。加えて、本発明の光学フィルムは塗工により形成され得るので、例えば、光学フィルムの製造と他の部材(例えば、液晶表示装置における偏光板)への貼り合わせとをいわゆるロール・トゥ・ロールで連続的に行うことができる。したがって、本発明の製造方法は、従来に比べて生産性が格段に優れ、かつ、偏光板のような他の光学部材との貼り合わせの製造効率もきわめて高い。なお、ロール・トゥ・ロールとは、長尺のフィルム同士をロール搬送しながら、その長手方向を揃えて連続的に貼り合わせる方法をいう。
【0070】
本発明の製造方法により得られる光学フィルムは、上記のように厚み精度に優れる。上記第1の機能層が光拡散層である場合、当該光拡散層の厚み精度は、100mm×100mmのサイズにおいて、好ましくは(平均厚み−1.0μm)〜(平均厚み+1.0μm)であり、より好ましくは(平均厚み−0.5μm)〜(平均厚み+0.5μm)である。このような範囲であれば、マトリクスと光拡散性微粒子の屈折率差を大きく設定し、光拡散層の外観が白くなった場合においても、外観ムラの少ない光拡散層が得られる。なお、光拡散層の光学的均一性の程度は、例えば、当該光拡散層を挟むようにクロスニコルの状態で配置した2枚の偏光板との積層体を形成し、当該積層体の一方の面から白色光を透過させた際の、出射面における面内輝度のバラツキ(標準偏差σ)により数値化することができる。当該面内輝度の標準偏差σは、好ましくは1以下であり、より好ましくは0.8以下であり、さらに好ましくは0.1〜0.7である。
【0071】
上記第1の機能層が光拡散層である場合、当該光拡散層の拡散特性は、代表的にはヘイズと光拡散半値角によって表される。ヘイズとは、光の拡散の強さ、すなわち入射光の拡散度合いを示すものである。一方、光拡散半値角とは、拡散光の質、すなわち拡散させる光の角度範囲を示すものである。当該光拡散層のヘイズ値は75%以上であり、好ましくは75%〜99.9%であり、より好ましくは85%〜99.9%であり、さらに好ましくは90%〜99.9%であり、特に好ましくは95%〜99.9%である。
【0072】
上記光拡散層の拡散特性は、光拡散半値角で示すならば、好ましくは10°〜150°(片側5°〜75°)であり、より好ましくは10°〜100°(片側5°〜50°)であり、さらに好ましくは30°〜80°(片側15°〜40°)である。光拡散半値角が小さすぎると、斜めの視野角(例えば、白輝度)が狭くなる場合がある。光拡散半値角が大きすぎると、後方散乱が大きくなる場合がある。
【0073】
上記第2の機能層が反射防止層である場合、当該反射防止層の厚み精度は、100mm×100mmのサイズにおいて、好ましくは(平均厚み−2.0nm)〜(平均厚み+2.0nm)であり、より好ましくは(平均厚み−1.8nm)〜(平均厚み+1.8nm)であり、さらに好ましくは(平均厚み−1.7nm)〜(平均厚み+1.7nm)である。なお、反射防止層の光学的均一性は、例えば干渉縞によって定性的に評価し得る。
【0074】
上記第2の機能層の厚みは、用途に応じて任意の適切な値に設定され得る。上記第2の機能層が反射防止層である場合、当該反射防止層の厚みは、好ましくは70nm〜100nmである。
【0075】
上記第2の機能層が反射防止層である場合、当該反射防止層の屈折率は、反射防止層の厚みに応じて任意の適切な値に設定され得る。好ましくは1.38〜1.51である。
【実施例】
【0076】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。実施例における評価方法は下記の通りである。また、特に明記しない限り、実施例における「部」および「%」は重量基準である。
【0077】
(1)耐擦傷性
実施例および比較例で得られた光学フィルムの第2の機能層表面に対して、スチールウール(#0000)を荷重300gで10往復させた際の光学フィルム上のキズの有無を目視にて確認し、下記の基準で評価した。
A・・・目立ったキズなし
B・・・1〜7本のキズが見られる
C・・・多数のキズが見られる
(2)第2の機能層の表面自由エネルギー
実施例および比較例で得られた光学フィルムを、温度25℃、湿度60%RHで2時間調湿した後、水に対する接触角を測定し、それらの値より表面自由エネルギーを算出した。
(3)光学フィルムの光学的均一性
(3−1)光学フィルムの輝度ムラ
透明粘着剤を用いて、実施例および比較例で得られた光学フィルムと、偏光板と、ガラス板(厚み:0.7mm)との積層体(ガラス板/偏光板/ガラス板/光学フィルム/偏光板/ガラス板)を形成した。このとき、2枚の偏光板はクロスニコルの状態で積層させた。この積層体に、高輝度白色LEDバックライトを用いて白色光を透過させた。透過光の出射面を、輝度測定カメラ(サイバット社製、商品名「PROMETRIC 1600」を用いて、画像撮影し、面内輝度を数値データ化した。
得られた面内輝度値のうち輝点部分を除外した上で、外観ムラの周期よりも大きい周期のうねりを補正して、輝度の標準偏差σを算出した。当該輝度の標準偏差σにより、光学フィルムの輝度ムラ(より具体的には、第1の機能層の輝度ムラ)を評価した。
(3−2)第2の機能層の厚み精度
実施例および比較例で得られた光学フィルムにおいて、それぞれ無作為に選んだ10点の厚みを大塚電子社製、商品名「MCPD2000」で測定し、その測定値から第2の機能層の厚みの標準偏差σを算出した。
(4)フッ素系レベリング剤の分布1
実施例1および比較例1で得られた光学フィルムについて、飛行時間二次イオン質量分析計(TOF−SIMS)(ION−TOF社製、商品名「TOF−SIMS5」)を用いて、光学フィルム断面(第2の機能層表面〜深さ270nm)におけるフッ素イオン強度の分布を測定した。
(5)フッ素系レベリング剤の分布2
実施例1で得られた光学フィルムの第2の機能層表面から深さ270nmの範囲における、原子(F、C、N、O、Al、Si、Zr)の原子比率をアルバック・ファイ社製、商品名「Quantum2000」を用いてESCA分析した。
(6)屈折率変調領域の厚みL
実施例および比較例で得られた光学フィルムを液体窒素で冷却しながら、ミクロトームにて0.1μmの厚さにスライスし、測定試料とした。透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、当該測定試料の第1の機能層(光拡散層)部分の微粒子の状態および当該微粒子とマトリクスとの界面の状態を観察し、微粒子とマトリクスとの界面が不明瞭な部分を屈折率変調領域と認定し、その平均厚みLをTEM画像から画像解析ソフトを用いて算出した。より具体的には、広視野(倍率300倍)の断面TEM画像で観察された範囲の中で一番大きい微粒子を選択し、選択した微粒子とマトリクスとの界面の拡大画像(倍率12000倍)で観察された厚みを画像解析ソフトで算出した。この解析を任意の5ヶ所で行い、その平均厚みを屈折率変調領域の厚みとした。微粒子とマトリクスとの界面が明瞭な場合は屈折率変調領域が形成されていないと認定した。
(7)光拡散半値角
実施例および比較例で得られた光学フィルムから基材フィルムおよび第2の機能層を剥離して得られた第1の機能層(光拡散層)の正面からレーザー光を照射し、拡散した光の拡散角度に対する拡散輝度を、ゴニオフォトメーターで1°おきに測定し、図5に示すように、レーザーの直進透過光を除く光拡散輝度の最大値から半分の輝度となる拡散角度を、拡散の両側で測定し、当該両側の角度を足したもの(図5の角度A+角度A´)を光拡散半値角とした。
(8)後方散乱率
上記(7)と同様にして第1の機能層(光拡散層)を得、当該第1の機能層を透明粘着剤を介して黒アクリル板(住友化学社製、商品名「SUMIPEX」(登録商標)、厚み2mm)の上に貼り合わせ、測定試料とした。この測定試料の積分反射率を分光光度計(日立計測器社製、商品名「U4100」)にて測定した。一方、第1の機能層(光拡散層)形成用塗工液から微粒子を除去した塗工液を用いて、基材と透明塗工層との積層体を作製して対照試料とし、上記と同様にして積分反射率(すなわち、表面反射率)を測定した。上記測定試料の積分反射率から上記対照試料の積分反射率(表面反射率)を差し引くことにより、第1の機能層(光拡散層)の後方散乱率を算出した。
【0078】
<実施例1>
超微粒子成分としてのジルコニアナノ粒子(平均粒径60nm、平均1次粒子径10nm、屈折率2.19)を62%含有するハードコート用樹脂(JSR社製、商品名「オプスターKZ6661」(MEK/MIBK含有))100部に、樹脂成分の前駆体としてのペンタエリスリトールトリアクリレート(大阪有機化学工業社製、商品名「ビスコート#300」、屈折率1.52)の50%メチルエチルケトン(MEK)溶液を11部、光重合開始剤(BASFジャパン社製、商品名「イルガキュア907」)を0.5部、光拡散性微粒子としてのポリメタクリル酸メチル(PMMA)微粒子(積水化成品工業社製、商品名「XX−131AA」、平均粒径2.5μm、屈折率1.495)を15部、および、反応性基を有さないフッ素系レベリング剤(DIC社製、商品名「メガファックTF−1661」)を上記の全固形分に対して0.5%、添加した。攪拌機(浅田鉄工株式会社、商品名「デスパ(DESPA)」を用いてこの混合物を分散処理し、上記の各成分が均一に分散した第1の機能層(光拡散層)形成用塗工液を調製した。この第1の機能層(光拡散層)形成用塗工液の固形分濃度は55%であった。当該第1の機能層(光拡散層)形成用塗工液を調製後ただちに、バーコーターを用いてTACフィルム(富士フィルム社製、商品名「フジタック」、厚み40μm)からなる基材フィルム上に塗工し、100℃にて1分間乾燥後、積算光量300mJの紫外線を照射し、厚み10μmの第1の機能層(光拡散層)を形成した。
ナノシリカ(屈折率1.49)含有多環アクリレート(JSR社製、商品名「KZ7540」)1.8%のMIBK溶液を、バーコーターを用いて上記で得られた第1の機能層(光拡散層)上に塗工し、100℃にて1分間乾燥後、積算光量300mJの紫外線を照射し、厚み110nmの第2の機能層(反射防止層)を形成した。
このようにして、基材フィルム(40μm)/第1の機能層(10μm)/第2の機能層(110nm)を有する光学フィルムを得た。
得られた光学フィルムを上記(1)〜(3)の評価に供した。結果を表1に示す。また、光学フィルムにおけるフッ素系レベリング剤の分布について上記(4)および(5)の評価に供した。評価(4)の結果を図6に、評価(5)の結果を図7に示す。なお、図6においては、色の濃淡がフッ素イオン強度を示し、色が薄いほど(白色に近いほど)、フッ素イオン強度が強いこと、すなわち、フッ素系レベリング剤の存在量が多いことを示す。また、図7においては、F、C、N、O、Al、SiおよびZrの合計に対する、フッ素原子(F)の原子比率を示す。
なお、表1に記載しない第1の機能層(光拡散層)の特性は以下のとおりであった:L=50nm、Δn=0.12、Δn/L=0.0024、光拡散半値角=60°、L/r=0.04、後方散乱率=0.38%。さらに、第1の機能層(光拡散層)のマトリクスと光拡散性微粒子との界面近傍部分のTEM画像から3次元像を再構成し、当該3次元再構成像を二値化して画像処理を行い、光拡散性微粒子表面からの距離と超微粒子成分の分散濃度(存在比率)との関係を算出した。その結果、超微粒子成分の分散濃度の勾配が形成されていることを確認した。
【0079】
<実施例2>
反応性基を有さないフッ素系レベリング剤(DIC社製、商品名「メガファックTF−1661」)の添加量0.5%を、0.2%とした以外は実施例1と同様にして、光学フィルムを得た。得られた光学フィルムを上記(1)〜(3)の評価に供した。結果を、表1に示す。
なお、表1に記載しない第1の機能層(光拡散層)の特性は以下のとおりであった:L=50nm、Δn=0.12、Δn/L=0.0024、光拡散半値角=60°、L/r=0.04、後方散乱率=0.38%。
【0080】
<比較例1>
反応性基を有さないフッ素系レベリング剤(DIC社製、商品名「メガファックTF−1661」)に代えて、イソシアネート基を有するフッ素系レベリング剤(DIC社製、商品名「メガファックRS−721」:上記一般式(I)〜(III)で表される構成単位を有する)を用いた以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを得た。
得られた光学フィルムを上記(1)〜(3)の評価に供した。結果を表1に示す。また、光学フィルムにおけるフッ素系レベリング剤の分布について上記(4)の評価に供した。結果を図6に示す。
なお、表1に記載しない第1の機能層(光拡散層)の特性は以下のとおりであった:L=49nm、Δn=0.12、Δn/L=0.0024、光拡散半値角=60°、L/r=0.04、後方散乱率=0.37%。
【0081】
<比較例2>
反応性基を有さないフッ素系レベリング剤(DIC社製、商品名「メガファックTF−1661」)に代えて、イソシアネート基を有するフッ素系レベリング剤(DIC社製、商品名「メガファックF479」:上記一般式(I)〜(III)で表される構成単位を有さない)を用いた以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを得た。
得られた光学フィルムを上記(1)〜(3)の評価に供した。結果を、表1に示す。
なお、表1に記載しない第1の機能層(光拡散層)の特性は以下のとおりであった:L=50nm、Δn=0.12、Δn/L=0.0024、光拡散半値角=60°、L/r=0.04、後方散乱率=0.39%。
【0082】
【表1】



【0083】
本発明の製造方法によれば、図6および7に示すように、フッ素系レベリング剤が、第2の機能層表面に偏在する。第2の機能層の表面自由エネルギーは第2の機能層表面のフッ素系レベリング剤の存在量の指標である。実施例1および2の光学フィルムは、表1に示すように当該表面自由エネルギーが小さく、フッ素系レベリング剤が第2の機能層表面に偏在していることが分かる。このような光学フィルムは、表1に示すように優れた耐擦傷性および光学的均一性(輝度ムラおよび干渉ムラが低減されている)を有する。一方、反応性基を有するフッ素系レベリング剤を用いた場合、当該フッ素系レベリング剤は、図6に示すように、第2の機能層中の存在量が非常に少ない。このような光学フィルムは、表1に示すように、第2の機能層の厚み精度が悪い(干渉ムラが強い)。さらに、比較例1の光学フィルムは、第1の機能層と第2の機能層との界面におけるフッ素系レベリング剤の存在量が多いため、耐擦傷性が悪い。比較例2の光学フィルムは、フッ素系レベリング剤が第1の機能層および第2の機能層で偏在することなく分散していると考えられる。その結果、第1の機能層および第2の機能層の厚み精度が悪く、表1に示すように光学フィルムの光学的均一性が低い。また、比較例2の光学フィルムは、フッ素系レベリング剤が第1の機能層と第2の機能層との界面に残るので、耐擦傷性が悪い。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の製造方法により得られる光学フィルムは、液晶表示装置の視認側部材、液晶表示装置のバックライト用部材、照明器具(例えば、有機EL、LED)用拡散部材に好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0085】
10 フッ素系レベリング剤
20 マトリクス
21 樹脂成分
22 超微粒子成分
30 光拡散性微粒子
40 屈折率変調領域
100 光学フィルム
110 基材フィルム
120 第1の機能層
130 第2の機能層



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの一方の面に、反応性基を有さないフッ素系レベリング剤を含む第1の塗工液を塗工して第1の機能層を形成する第1の塗工工程と、
該第1の機能層の表面に、第2の塗工液を塗工して第2の機能層を形成する第2の塗工工程とを含み、
該フッ素系レベリング剤が、
該第2の塗工液の塗布時には該第1の機能層表面に偏在し、該第2の塗工液の塗布後には該第2の塗工液に溶出し、形成される第2の機能層表面に偏在する、
光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記フッ素系レベリング剤が下記一般式(I)で表される構成単位、下記一般式(II)で表される構成単位および下記一般式(III)で表される構成単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構成単位を含む、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法:
【化1】

一般式(I)において、mは1〜10の整数であり、一般式(II)において、nは、2〜10の整数である。
【請求項3】
前記フッ素系レベリング剤の含有量が、前記第1の塗工液中の全固形分に対して、0.05重量%〜3重量%である、請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記第1の機能層が、光拡散層である、請求項1から3のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記第2の機能層が、反射防止層である、請求項1から4のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記光拡散層が、マトリクスと該マトリクス中に分散された光拡散性微粒子とを有し、
該マトリクスと該光拡散性微粒子との界面またはその近傍に、屈折率が実質的に連続的に変化する屈折率変調領域が形成され、かつ、下記式(3)および(4)を満足する、請求項4または5に記載の光学フィルムの製造方法:
Δn≧0.10 ・・・(3)
0.0006≦Δn/L≦0.01 ・・・(4)
ここで、Δnはマトリクスの平均屈折率nと光拡散性微粒子の屈折率nとの差の絶対値|n−n|であり、Lは屈折率変調領域の平均厚みである。
【請求項7】
>nである、請求項6に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記光拡散層が式(5)を満足する、請求項6または7に記載の光学フィルムの製造方法:
0.01≦L/r≦1.0 ・・・(5)
ここで、rは前記光拡散性微粒子の半径である。
【請求項9】
前記マトリクスが樹脂成分および超微粒子成分を含み、前記屈折率変調領域が、該マトリクス中の該超微粒子成分の分散濃度の実質的な勾配により形成されている、請求項6から8のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記光拡散層が式(1)を満足する、請求項9に記載の光学フィルムの製造方法:
|n−n|<|n−n|・・・(1)
ここで、nはマトリクスの樹脂成分の屈折率を表し、nはマトリクスの超微粒子成分の屈折率を表す。








【図1A】
image rotate

【図2】
image rotate

【図5】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−88693(P2012−88693A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202290(P2011−202290)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】