説明

光学フィルムの製造装置

【課題】光学フィルムの製造における生産性の向上および作業の容易化を図るとともに、良好な光学特性を有する光学フィルムを製造する。
【解決手段】長尺のフィルムを成形または加工して連続的に繰り出すフィルム加工装置1と、フィルム入口部Tinを有し、フィルム入口部Tinから連続的に繰り入れられるフィルムFを進行させながら該フィルムFを斜め延伸させる斜め延伸装置2と、フィルム加工装置1から繰り出されるフィルムFの姿勢をフィルム入口部Tinの姿勢に適合するように変更するフィルムターン装置FT1,FT2とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルム等の光学フィルムの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)は、高画質、薄型、軽量、低消費電力などの特長をもち、テレビジョン、パーソナルコンピュータなどのフラットパネルディスプレイとして広く使用されている。また、カラー液晶ディスプレイには、単純マトリクス方式で構造が簡単な超ねじれネマチック(STN)液晶が用いられるが、STN液晶に基づく楕円偏光により、液晶ディスプレイ表示の色相が緑色ないし黄赤色を帯びるという問題を生じる。この問題を解決する手段の一つとして、位相差フィルムを用い、STN液晶の複屈折により位相差を補償し、楕円偏光を直線偏光に戻す対策が講じられている。
【0003】
この位相差フィルムを製造する方法としては、例えば、未延伸フィルムの長手方向または幅方向に1軸延伸したフィルムより、所望の配向軸を有するように延伸フィルムの辺に対して所定の傾斜角度となるように、その延伸フィルムを裁断する方法が知られている。しかしながら、この方法では、最大面積が得られるように裁断しても、裁断ロスが必ず生じ、製品歩留まりが悪いという問題がある。
【0004】
これに対し、下記特許文献1(特開平3−182701号公報)、特許文献2(特開平2−113920号公報)、特許文献3(特開2000−9912号公報)、特許文献4(特開2007−203556号公報)には、テンターを用いて延伸を斜め方向に行う、もしくはテンターの左右クリップの走行に速度差をつけることによって、斜め方向への配向を生じさせることで上記の製品歩留まりの問題を解決することが提案されている。
【0005】
ここで、テンターは、一対の無端状レール上を走行する多数の把持クリップを備え、フィルムの幅方向の両端部をこれらのクリップで順次把持して進行させるとともに、フィルムに適宜に張力を付与することにより、フィルムを幅方向にまたは斜め方向に延伸させる装置である。光学用途のフィルムには均一性が求められるため、斜め延伸を行う場合には、幅方向に対し配向の均一性や厚みムラなどを比較的均一にすることが可能なことから、巻取方向に対して角度を持たせてフィルムを繰り出し、斜めにテンター延伸を行う手法が好適に用いられている。
【0006】
ところで、幅方向に1軸延伸させるテンターでは、フィルムの進行方向と延伸方向が直交する関係にあるため、フィルムの供給方向と巻取方向が一致している。従って、テンターの入口のフィルム幅さえ決まれば、入口レール幅を調整してクリップ把持を安定させることは比較的容易であり、テンターと未延伸フィルムの製膜装置、若しくはテンターと縦延伸フィルムの製造装置との連結は容易である。
【0007】
しかしながら、斜め延伸フィルムの製膜においては、様々な配向角度のフィルムを自在に製造可能にするため、テンターに供給されるフィルムは、幅方向位置だけでなく、テンターへのフィルム供給角度についても、その都度変更の必要が生じる。このため、未延伸フィルムや縦1軸延伸といった前工程の製造ラインと斜め延伸テンターとの連続化の際に大きな問題が生じる。
【0008】
前工程から繰り出されるフィルムの流れ方向とテンター入口部のフィルムの流れ方向を一致させれば、テンターの入口の幅調整だけで前工程から斜め延伸テンターへのフィルムの連続供給は可能であるが、これでは斜め延伸フィルムの配向角度の調整の自由度が格段に低下することになる。
【0009】
このため、テンターを用いた斜め延伸フィルムの製造は、一度ロール状に巻き取った未延伸フィルム、若しくは縦1軸延伸フィルムを、例えば下記特許文献5(特開2008−80768号公報)に開示されているように、専用の繰出機に載せ、斜め延伸テンターに供給するという手法を採る必要がある。
【0010】
しかしながら、この手法では、フィルムをロール状に巻き取る工程、巻き取ったフィルムを繰り出す工程が必要であり、工程数が多いとともに、条件合わせ等によりフィルムのロスが生じ、歩留まりが悪化し生産性が低い。
【0011】
一方、下記特許文献6(特開2007−30466号公報)に開示されているように、前工程と斜め延伸テンターを通常の横1軸延伸テンターと同様に接続する手法も提案されているが、この手法では、斜め延伸方向の調整を、テンター延伸部のレールパターンのみで実施する必要があり、前記の如き、入口部の自在なパターン形成を可能とした斜め延伸テンターに比べ、可能な斜め延伸の範囲は格段に劣るという問題がある。
【0012】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、光学フィルムの製造における生産性の向上および作業の容易化を図るとともに、良好な光学特性を有する光学フィルムを製造できるようにすることを目的とする。
【0013】
【特許文献1】特開平3−182701号公報
【特許文献2】特開平2−113920号公報
【特許文献3】特開2000−9912号公報
【特許文献4】特開2007−203556号公報
【特許文献5】特開2008−80768号公報
【特許文献6】特開2007−30466号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によると、長尺のフィルムを成形または加工して連続的に繰り出すフィルム加工装置と、フィルム入口部を有し、該フィルム入口部から連続的に繰り入れられるフィルムを進行させながら該フィルムを斜め延伸させる斜め延伸装置と、前記フィルム加工装置から繰り出されるフィルムの姿勢を前記フィルム入口部の姿勢に適合するように変更するフィルムターン装置とを備える光学フィルムの製造装置が提供される。
【0015】
本発明において、前記フィルムターン装置は、繰り入れられるフィルムの進行方向を反転した状態で、該進行方向に対して交差する方向に繰り出す少なくとも1本のターンロールと、該ターンロールを軸支するとともに該ターンロールの向きを回転させる回転テーブルとを含むことができる。
【0016】
また、本発明において、前記フィルム加工装置は、熱可塑性樹脂からフィルムを製膜するフィルム製膜装置およびフィルムを該フィルムの長手方向または幅方向に1軸延伸させる1軸延伸装置の少なくとも一方を含むことができる。
【0017】
さらに、本発明において、前記斜め延伸装置は、配置の変形が可能な一対の無端状のレール上を走行する複数の把持クリップで前記フィルムの幅方向の両端部を把持し、該レールの形状に応じて前記フィルムを斜め延伸するテンターとすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、フィルム加工装置と斜め延伸装置との間に、フィルムターン装置を設けたので、斜め延伸装置のフィルム入口部の姿勢が変更された場合であっても、該フィルム入口部に対するフィルムの姿勢(位置および方向)を該フィルム入口部に対して適正となるように自在に変更調整することができる。また、前記フィルムターン装置が前記ターンロールおよび前記回転テーブルを含む場合には、斜め延伸装置のフィルム入口部の姿勢が変更された場合に、該回転テーブルにより該ターンロールの向きを回転させることによって、該フィルム入口部に対するフィルムの姿勢を該フィルム入口部に対して適正となるように自在に変更調整することができる。さらに、前記フィルム加工装置が前記フィルム製膜装置および前記1軸延伸装置の少なくとも一方を含む場合には、該フィルム製膜装置または該1軸延伸装置から繰り出されるフィルムの姿勢を、斜め延伸装置のフィルム入口部の姿勢の変更に応じて、該フィルム入口部に対して適正となるように自在に変更調整することができる。また、前記斜め延伸装置が前記斜め延伸テンターである場合には、フィルム加工装置から繰り出されたフィルムの姿勢を、該斜め延伸テンターのレールの形状の変更に伴うフィルム入口部の姿勢の変更に応じて、該フィルム入口部に対して適正となるように自在に変更調整することができる。したがって、光学フィルムの製造における生産性の向上および作業の容易化を図ることができるとともに、良好な光学特性を有する光学フィルムを製造することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る光学フィルムの製造装置の概略構成を示す平面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る光学フィルムの製造装置が備えるフィルムターン装置の概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0021】
(光学フィルムの製造装置の全体構成)
図1に示すように、本実施形態の光学フィルムの製造装置は、長尺のフィルムF(図2)を成形または加工して連続的に繰り出すフィルム加工装置1と、姿勢変更が可能なフィルム入口部Tinを有し、該フィルム入口部Tinから連続的に繰り入れられるフィルムFを進行させながら該フィルムFを斜め延伸させる斜め延伸装置(斜め延伸テンター)2と、斜め延伸後のフィルムFを巻き取るフィルム巻取装置3と、フィルム加工装置1から繰り出されるフィルムFの姿勢をフィルム入口部Tinの姿勢に応じて変更するフィルムターン装置FT1,FT2とを備えて構成されている。なお、本実施形態では、入口部Tinを姿勢変更可能な構成としたが、入口部Tinは、その姿勢が固定されており、姿勢変更できない構成であってもよい。
【0022】
ここで、長尺とは、フィルムの幅方向に対して、少なくとも5倍程度以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍もしくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻回されて保管または運搬される程度の長さを有するものをいう。
【0023】
(フィルム加工装置)
本実施形態のフィルム加工装置1は、詳細図示は省略するが、熱可塑性樹脂から光学用のフィルム(未延伸フィルム)を製膜するフィルム製膜装置および該フィルム製膜装置により製膜された未延伸フィルムを該フィルムの長手方向(流れ方向)に延伸させる縦1軸延伸装置を備えて構成されている。但し、フィルム加工装置1としては、該フィルム製膜装置または該縦1軸延伸装置のみを備えるものであってもよい。なお、フィルム加工装置1として、ここでは縦1軸延伸装置を例示したが、フィルムを該フィルムの幅方向(流れ方向に直交する方向)に延伸させる横1軸延伸装置であってもよい。
【0024】
本実施形態において、フィルムとは主として熱可塑性樹脂からなるフィルムをいい、該フィルムの原料としては一般的な光学フィルム用の樹脂としてのポリカーボネート、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリイミド、ポリオレフィン等を例示することができる。これらの中でも固有複屈折値が正である樹脂が好ましく、脂環式オレフィンポリマーがより好ましい。
【0025】
前記フィルム製膜装置としては、溶液キャスト法、溶融押出法等、公知の手法を用いることが可能であるが、中でも生産性や環境負荷の観点から、押出機を用いて溶融樹脂をフラットダイからシート状に押出して冷却ドラム上で急冷する、所謂、溶融押出法を用いるものを用いることが好ましい。
【0026】
前記縦1軸延伸装置としては、上流側と下流側に配置されたそれぞれ一対のロールおよびこれらの間の部分でフィルムを加熱する加熱装置を備え、上流側のロールと下流側のロールとの間の周速差を利用して、フィルム長手方向(流れ方向)に1軸延伸するものを用いることができる。加熱装置としては、IRヒーター、ロール加熱、フロート式オーブン等を用いることができる。この場合において、光学フィルムとして位相差フィルムを製造する場合には、該位相差フィルムに必要な膜厚、光学特性の均一性を得るため、フロート式オーブンを用いるのが好適である。
【0027】
(斜め延伸装置)
斜め延伸装置2としては、配置の変形が可能な一対の無端状のレール上を走行する複数の把持クリップで、繰り入れられるフィルムの幅方向の両端部を把持し、該レールの形状に応じてフィルムを斜め延伸する斜め延伸テンターを用いることができる。斜め延伸装置2としては、例えば、特開2007−203556号公報、特開2008−80768号公報に開示されているものを用いることができる。
【0028】
本実施形態の斜め延伸装置2は、テンター入口部Tinから繰り入れられる(連続的に供給される)フィルムFの進行方向(繰入方向)D1に対して、フィルム巻取装置3により巻き取られる際のフィルムFの進行方向(巻取方向)D2が、図1に示すように、角度θをもって斜交するように設定された斜め延伸テンターである。この角度θは、製造される光学フィルムが用いられる液晶パネル等を含む表示装置の設計に合わせて、10〜60度の範囲から適宜に選択される。
【0029】
斜め延伸装置2は、予熱ゾーンA、延伸ゾーンBおよび固定ゾーンCからなる恒温室(不図示)と、フィルムの幅方向の端部を把持する複数の把持クリップ(不図示)と、該把持クリップが走行する左右で一対のレール21,21とを概略備えている。把持クリップは、斜め延伸装置2のフィルム入口部Tinに順次供給されるフィルムFの幅方向の両端部を、一対の把持クリップで把持した状態で、恒温室内にフィルムFを導き、斜め延伸装置2のフィルム出口部Tout(フィルム巻取装置3の手前)でフィルムFを開放する。把持クリップから開放されたフィルムFは、フィルム巻取装置3によって巻き取られる。一対のレール21は、それぞれ無端状の連続軌道を有する。斜め延伸装置2の出口部ToutでフィルムFの把持を開放した把持クリップは、延伸に寄与しない前記連続軌道の外側部分を走行して、順次入口部Tinに戻されるようになっている。
【0030】
フィルムFは、予熱ゾーンA、延伸ゾーンBおよび固定ゾーンCからなる恒温室内を通過している間に、把持クリップからの張力によって延伸される。予熱ゾーンA、延伸ゾーンBおよび固定ゾーンCは、それぞれ独立に温度を設定でき、それぞれのゾーンでは温度が、通常、一定に保たれている。各ゾーンの温度は適宜選択できるが、フィルムを構成する透明樹脂のガラス転移温度Tg(℃)に対して、予熱ゾーンAは通常Tg〜Tg+30℃、延伸ゾーンBは通常Tg〜Tg+20℃、固定ゾーンCは通常Tg〜Tg+15℃である。なお、幅方向の厚みムラの制御のために延伸ゾーンBにおいて幅方向に温度差を付けてもよい。延伸ゾーンBにおいて幅方向に温度差をつけるには、温風を恒温室内に送り込むノズルの開度を幅方向で差を付けるように調整する方法や、ヒーターを幅方向に並べて加熱制御するなどの公知の手法を用いることができる。予熱ゾーンA、延伸ゾーンBおよび固定ゾーンCの長さは適宜選択でき、延伸ゾーンBの長さに対して、予熱ゾーンAの長さは通常100〜150%、固定ゾーンCの長さは通常50〜100%である。
【0031】
把持クリップは、配置の変形が可能なレール21上を走行する。レール21は、フィルムFが所望の延伸倍率で延伸されるように配置される。なお、以下では、フィルム走行方向とは、フィルム加工装置1からフィルム巻取装置3までのフィルム幅方向の中点を結んだ線の方向である。予熱ゾーンAと延伸ゾーンBとの境目および延伸ゾーンBと固定ゾーンCとの境目には、フィルムが通過できるスリットを有する仕切板が設置されている。
【0032】
予熱ゾーンAは、フィルム走行方向(繰出方向)D1に直角な方向のフィルム長さ(フィルム幅)を実質的に変えずにフィルムFを温めながら搬送するゾーンである。延伸ゾーンBは、フィルム幅を拡大しながらフィルムFを搬送するゾーンである。延伸ゾーンBにおけるフィルム走行方向は、予熱ゾーンAと延伸ゾーンBの境目におけるフィルム6の中点から延伸ゾーンBと固定ゾーンCの境目におけるフィルムFの中点に結んだ直線の方向であるが、延伸ゾーンBが図1のように一定の角度で両側に広がったレール配置においては、予熱ゾーンAの走行方向(繰出方向)に一致している。但し、この延伸ゾーンBのフィルム走行方法は予熱ゾーンAの走行方向と一致していなくてもよく、即ち斜交していてもよい。
【0033】
固定ゾーンCは、フィルム幅を実質的に変えずにフィルムFを冷ましながら搬送するゾーンである。固定ゾーンCのフィルム走行方向は、フィルム巻取装置3によりフィルムが巻き取られる方向(巻取方向)D2に平行な方向である。
【0034】
なお、斜め延伸時の温度、および倍率は求められる光学特性に従って適宜変更しても構わない。一般的に延伸温度としては、フィルムを構成する透明樹脂のガラス転移温度Tg(℃)に対して、Tg〜Tg+30℃の範囲が好ましく、延伸倍率としては1.3〜4.5倍の範囲が好適である。
【0035】
(フィルム巻取装置)
フィルム巻取装置3は、斜め延伸装置2により所定の配向軸を有するように延伸され、斜め延伸装置2の出口部Toutから排出されたフィルムFを順次巻き取る巻取ローラを備えて構成される。巻取ローラは、当該出口部Toutから排出されるフィルムFの特性に悪影響を与えない程度で、且つ巻取ローラに確実に巻き取ることができる程度の比較的に弱い駆動力で該フィルムFを巻き取るように駆動される。巻取ロールはその中心軸が斜め延伸装置2によるフィルムFの排出方向(巻取方向)D2に略直交するように設定されている。
【0036】
(フィルムターン装置)
次に、フィルムターン装置FT1,FT2の構成を、図1および図2を参照して説明する。フィルムターン装置FT1,FT2は、フィルム加工装置1の排出部(オーブン出口部)と斜め延伸装置2のフィルム入口部Tinとの間に設置され(図1参照)、フィルム加工装置1から繰り出されたフィルムの姿勢を変更して斜め延伸装置2に対して最適な姿勢で供給する装置である。このフィルムターン装置FT1,FT2により、フィルム加工装置1から繰り出されるフィルムF(ここでは、未延伸フィルムを縦1軸延伸した縦1軸延伸フィルム)の軌道を、斜め延伸装置2のフィルム入口部Tinの姿勢(位置および方向)に合わせて自在に変更調整することが可能となる。
【0037】
本実施形態では、フィルムターン装置はFT1とFT2の2台が所定の配置で設けられている。但し、フィルムターン装置は、1台または3台以上としてもよい。
【0038】
フィルムターン装置FT1,FT2は、図2に示されているように、ベース部11上に、回転テーブル12を支持し、該回転テーブル12上にターンロール13を軸支して構成されている。ターンロール13は、繰り入れられるフィルムFの進行方向を反転した状態で、該進行方向に対して交差(直交ないし斜交)する方向に繰り出すものである。
【0039】
これらに加えて、後段側に配置されるフィルムターン装置FT1は排出側ロール群としての案内ロール16a,16b,16cを備え、前段側に配置されるフィルムターン装置FT2は供給側ロール群としての案内ロール15a,15bを備えている。
【0040】
回転テーブル12は、これに支持されたターンロール13を所定の角度範囲内で且つ任意の位置で位置決め可能に回転させる機構である。この回転テーブル12の回転は、手動、自動のどちらでも構わない。回転テーブル12の動作を自動化する場合には、ラック・アンド・ピニオン機構およびサーボモータ並びに回転角度を検出するエンコーダ等を用いた駆動機構を用いることができる。位置決め可能な角度範囲は、例えば、所定の基準に対して、左右(時計回りおよび反時計回り)に±50度程度、位置決めの分解能は、0.1度程度とすることができる。
【0041】
図1に示されているように、ベース部11は、1軸方向に延在するレール18に沿ってスライド可能に支持されており、ベース部11を該レール18に沿った任意の位置にスライドさせて固定できるようになっている。このベース部11のレール18に沿ったスライドは、手動、自動のどちらでも構わない。なお、ここでは、ベース部11をレールに沿って1軸方向にスライドするものを示したが、2軸方向にスライドするものを用いてもよい。
【0042】
ベース部11のレール18に沿ったスライドを自動化する場合には、ラック・アンド・ピニオン機構およびサーボモータ並びにスライド位置を検出するエンコーダ等を用いた駆動機構を用いることができる。位置決め可能なスライド範囲は、例えば、所定の基準に対して、左右(所定の1軸方向の+側および−側)に±5000mm程度、位置決めの分解能は、1.0mm程度とすることができる。
【0043】
ターンロール13は、ターンロール支持部14に回転自在に軸支され、ターンロール支持部14は回転テーブル12に固定されている。ターンロール13は、本実施形態では、エアー噴出式のものを用いている。エアー噴出式のターンロール(装置)としては、例えば、特許2788207号公報に開示されているようなものを用いることができる。ターンロールとして、通常の金属ロールなどを用いるものでは、搬送されるフィルムに傷が入りやすく、光学フィルムの搬送には好ましくないからである。回転テーブル12を回転させて角度調整することによって、フィルムの進行方向を所望の方向に任意に変更することができる。
【0044】
なお、ターンロール13は、本実施形態では、回転テーブル12上に1本だけ設置したが、2本以上設置してもよい。回転テーブル12をベース部11上に複数設けて、それぞれの回転テーブル12上に1本または複数本のターンロール13を設けてもよい。
【0045】
図2では、ベース部11上に、供給側ロール群として案内ロール15a,15bが、排出側ロール群として案内ロール16a,16b,16cが配設されたものを示しているが、本実施形態では、上述した通り、フィルムターン装置FT1は排出側ロール群としての案内ロール16a,16b,16cのみを備え、フィルムターン装置FT2は供給側ロール群としての案内ロール15a,15bのみを備えている。但し、各フィルムターン装置FT1,FT2の一方または双方が、図2に示したように、供給側ロール群としての案内ロール15a,15b、および排出側ロール群としての案内ロール16a,16b,16cをそれぞれ備えていてもよい。
【0046】
また、本実施形態では、フィルムターン装置FT1の排出側ロール群としての案内ロール16a,16b,16cは、ベース11上に設けられているものとしたが、これらのうちの下流側の1本または複数本のロールを、後段に配置される斜め延伸装置2のフィルム入口部Tinに設けてもよい。この場合には、該ロールはその軸心がフィルム入口部Tinにおけるフィルムの走行方向に対して略直交する方向に正確に設定され、該フィルム入口部Tinの姿勢が変更された場合にはこれと連動して移動する構成とすることが好適である。また、この場合には、ロールは2本以上配置することが好ましい。
【0047】
これらの供給側ロール群としての案内ロール15a,15b、および排出側ロール群としての案内ロール16a,16b,16cは、搬送(方向転換)するフィルムFの軌道を安定させるために設けられているものであり、それぞれ2〜5本程度の本数で設けられることが好ましい。これらのロール15a,15b,16a,16b,16cとしては、例えば金属ロールを用いることができ、フィルムの傷つきを防止するためにセラミックコートを施し、あるいはアルミニウム等の軽金属にクロームメッキを施す等、軽量化を図るのが好適である。
【0048】
本実施形態では、ターンテーブルFT1の排出側ロール群を構成する案内ロール16a,16b,16cのうちの少なくとも1本のロール(ここでは、中間のロール16bとする)に張力検出用のロードセル(不図示)を設け、フィルムFの張力の差を検出可能とした荷重検出ロールとしている。荷重検出ロール16bに設置されるロードセルとしては、引張または圧縮型の公知のものを用いることができる。ロードセルは、着力点に作用する荷重を起歪体に取り付けられた歪ゲージにより電気信号に変換して検出する装置である。
【0049】
ロードセルは荷重検出ロール16bの左右の軸受部にそれぞれ設置することにより、走行中のフィルムFがロール16bに及ぼす力、即ちフィルムFの幅方向の両端部近傍に生じているフィルム進行方向における張力を左右独立に検出するものである。なお、ロール16bの軸受部を構成する支持体に歪ゲージを直接取り付けて、該支持体に生じる歪に基づいて荷重、即ちフィルム張力を検出するようにしてもよい。発生する歪とフィルム張力との関係は、予め計測され、既知であるものとする。
【0050】
フィルムターン装置FT1から繰り出されるフィルムFの位置および方向が、下流側に設けられる斜め延伸装置2のフィルム入口部Tinの位置および方向に対してズレが生じている場合、このズレ量に応じて、荷重検出ロール16bにおけるフィルムFの幅方向の両端部近傍の張力に差を生じることになるため、この張力差を検出することによって、当該ズレの程度を判別することが可能である。即ち、フィルムターン装置FT1から繰り出されるフィルムFの位置および方向が、斜め延伸装置2のフィルム入口部Tinの位置および方向との関係で適正であれば、ロール16bに作用する荷重は左右で粗均等になり、互いの位置がズレていれば左右のフィルム張力に差が生じるのである。
【0051】
従って、ロール16bにおける左右のフィルム張力差が等しくなるように、上述した回転テーブル12によりターンロール13を回転させるとともに、ベース11をレール18に沿ってスライドさせて、斜め延伸装置2のフィルム入口部Tinに対するフィルムFの繰出位置および角度を、適切に調整すれば、斜め延伸装置2のフィルム入口部Tinにおける把持クリップによる把持が安定し、クリップ外れ等の障害の発生を少なくでき、さらに、フィルム延伸装置2による斜め延伸後のフィルムFの幅方向における物性を安定させることができる。
【0052】
なお、フィルムターン装置FT2の供給側ロール群を構成する案内ロール15a,15bのうちの少なくとも1本のロール(例えば、最上流のロール15a)にも同様なロードセルを設けて、フィルムFの張力を検出できるようにし、上流側に配置されるフィルム加工装置1との位置関係を検出するようにしてもよい。
【0053】
供給側ロール群を構成する案内ロール15a,15bのうちの荷重検出ロールを除いた少なくとも1本のロールと、排出側ロール群を構成する案内ロール16a,16b,16cのうちの荷重検出ロールを除いた少なくとも1本のロールは、ゴムロールを圧接させてニップすることが好ましい。ニップロールにすることで流れ方向における張力の変動を抑制でき、フィルムの軌道が不安定になるのを防ぐことが可能である。
【0054】
本実施形態では、フィルムの姿勢を変更するため、フィルムターン装置FT1とフィルムターン装置FT2とを備えている。このように2台のフィルムターン装置FT1,FT2を備えることにより、フィルム加工装置1と斜め延伸装置2との位置関係(フィルム加工装置1のフィルム繰出位置および方向と斜め延伸装置2のフィルム繰入位置および方向)に応じた、フィルムFの位置および進行方向の変更の自由度を大きくすることができ好適である。但し、自由度は小さくなるが、フィルムターン装置は1台であってもよい。また、フィルムターン装置は3台以上にすればさらに自由度を高めることができるが、構成が複雑化するため、本実施形態のように2台とすることが好ましい。
【0055】
フィルム加工装置1から繰り出されたフィルムFは、フィルムターン装置FT1,FT2によって、適切な位置に導かれ、斜め延伸装置2のフィルム入口部Tinにおいて両端を把持クリップで把持され、把持クリップのレール21に沿った走行によって順次斜め延伸装置2に連続的に供給されていく。この際、フィルムターン装置FT1からのフィルムFの繰り出しの角度とフィルム入口部Tinの傾きが僅かにでもずれていると、徐々にフィルムの軌道が不安定になり、遂にはクリップ把持が出来なくなり工程を停止させる原因となる。従って、フィルム入口部Tinとこれに繰り入れるフィルムの位置関係(位置および方向)は正確に一致させる必要がある。
【0056】
また、位置関係のズレた状態でフィルムを供給することは、延伸途中でのクリップ外れ等を誘発し、生産性を格段に低下させる。さらに、斜めに供給されたフィルムを斜め延伸すると、幅方向で厚みや分子配向の方向といった重要な物性に著しい劣化を生じてしまうことが判っている。
【0057】
このような、フィルムターン装置FT1から繰り出されるフィルムと斜め延伸装置2のフィルム入口部Tinのレール位置の僅かなズレについては、テンター入口のフィルム把持開始箇所と、その直前のフィルムターン装置FT1との間に2本以上のロールを配置し、その1本(本実施形態では、荷重検出用ロールとしてのロール16b)の両端に設けられたロードセルによってフィルム張力を検出することによって、ズレが生じているかどうかを判別可能である。すなわち繰り入れられるフィルムとフィルム入口部Tinにおけるレールが正常な位置関係にあれば、当該ロール16bにかかる加重は左右で粗均等になり、互いの位置がズレていれば左右のフィルム張力に差が生じてくるはずである。
【0058】
従って、ロール16bにおける左右のフィルム張力差が等しくなるように、フィルムターン装置FT1およびフィルムターン装置FT2のそれぞれの回転テーブル12による回転角度およびレール18に沿ったスライド位置を適切に調整すれば、フィルム入口部Tinにおけるクリップ把持を安定させることができるとともに、斜め延伸後のフィルムの幅方向の物性を安定させることができる。
【0059】
ロール16bの左右のロードセルにより検出されるフィルム左右の張力をT1、T2とすると、両者の差の絶対値ΔTは、T1+T2=Tとしたとき、ΔT<T×0.2とすると、フィルム入口部Tinにおいて安定したフィルムの把持が可能である。
【0060】
上述したように、本実施形態では、フィルムターン装置FT1から繰り出されるフィルムFの位置および姿勢を、その下流側に配置される斜め延伸装置2のフィルム入口部Tinの位置および姿勢との関係で最適化することができるので、常に安定してフィルムFを斜め延伸装置2に供給することができ、良好な物性(光学特性等)を有する光学フィルム(位相差フィルム等)を製造することができるようになる。
【0061】
また、従来は、フィルム加工装置1と斜め延伸装置2との直接的な接続には、多くの作業工数を要していたが、このような工数を削減することができるとともに、フィルム加工装置1と斜め延伸装置2とを安定して接続できるため、把持クリップによるクリップ外れなどの障害が発生することも少なくなり、生産性を大幅に向上することができる。しかも、斜め延伸装置2のレール21の配置変更に伴い、フィルム入口部Tinの姿勢(位置および方向)が変更された場合であっても、少ない工数で容易に対応することができる。
【0062】
(液晶表示装置等の製造)
上述した光学フィルムの製造装置により製造された光学フィルム(位相差フィルム)は、例えば、液晶表示装置に用いることができる。液晶表示装置の一例としては、偏光透過軸を電圧の調整で変化させることができる液晶パネルと、それを挟むように配置される偏光板とで構成されるものが挙げられる。また、位相差フィルムは、光学補償、偏光変換などのために液品表示装置に用いられる。
【0063】
なお、液晶表示装置には、液晶パネルに光を送り込むために、表示面の裏側に、透過型液晶表示装置ではバックライト装置が、反射型液晶表示装置では反射板が、通常備えられている。バックライト装置としては、冷陰極管、水銀平面ランプ、発光ダイオード、ELなどが挙げられる。液晶表示装置としては、反射型表示方式の液晶パネルを備える反射型液晶表示装置が好ましい。
【0064】
液晶パネルはその表示モードによって特に制限されない。例えば、ツイステッドネマチック(TN)モード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モード、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)モードなどを挙げることができる。液晶表示装置には、その他に、プリズムアレイシート、レンズアレイシート、光拡散板、輝度向上フィルム等の適宜な部品を適宜な位置に1層または2層以上配置することができる。上述した斜め延伸フィルムは、液晶表示装置以外に、有機EL表示装置、プラズマ表示装置、FED(電界放出)表示装置、SED(表面電界)表示装置にも適用することができる。
【0065】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0066】
1…フィルム加工装置
2…斜め延伸装置
3…フィルム巻取装置
11…ベース部
12…回転テーブル
13…ターンロール
14…ターンロール支持部
15a,15b,16a,16b,16c…ロール
18…ベース部スライド用のレール
21…テンターのレール
F…フィルム
FT1,FT2…フィルムターン装置
Tin…テンターのフィルム入口部
Tout…テンターのフィルム出口部
D1…フィルム繰入方向
D2…フィルム巻取方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺のフィルムを成形または加工して連続的に繰り出すフィルム加工装置と、
フィルム入口部を有し、該フィルム入口部から連続的に繰り入れられるフィルムを進行させながら該フィルムを斜め延伸させる斜め延伸装置と、
前記フィルム加工装置から繰り出されるフィルムの姿勢を前記フィルム入口部の姿勢に適合するように変更するフィルムターン装置とを備える光学フィルムの製造装置。
【請求項2】
前記フィルムターン装置は、繰り入れられるフィルムの進行方向を、当該フィルムを反転した状態で、該進行方向に対して交差する方向に繰り出す少なくとも1本のターンロールと、該ターンロールを軸支するとともに該ターンロールの向きを回転させる回転テーブルとを含む請求項1に記載の光学フィルムの製造装置。
【請求項3】
前記フィルム加工装置は、熱可塑性樹脂からフィルムを製膜するフィルム製膜装置およびフィルムを該フィルムの長手方向または幅方向に1軸延伸させる1軸延伸装置の少なくとも一方を含む請求項1または2に記載の光学フィルムの製造装置。
【請求項4】
前記斜め延伸装置は、配置の変形が可能な一対の無端状のレール上を走行する複数の把持クリップで前記フィルムの幅方向の両端部を把持し、該レールの形状に応じて前記フィルムを斜め延伸するテンターである請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−221624(P2010−221624A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73681(P2009−73681)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】