説明

光学フィルムの連続製造方法

【課題】 光学フィルムの連続製造方法に関するものであり、特に負の複屈折性を示す光学補償フィルム向けとして延伸配向加工に供される光学フィルムの連続製造方法を提供するものである。
【解決手段】 特定のオレフィン残基単位と特定のN−フェニル置換マレイミド残基単位からなり、重量平均分子量5×10以上5×10以下である共重合体(a)30〜95重量%、及び、アクリロニトリル残基単位:スチレン残基単位=20:80〜35:65(重量比)であり、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量5×10以上5×10以下であるアクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体から選ばれる1種以上のアクリロニトリル−スチレン系共重合体(b)70〜5重量%からなるフィルムを製造する際に、フィルムの製造時におけるフィルムへの印加応力を0〜30MPaの範囲に制御する光学フィルムの連続製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムの連続製造方法に関するものであり、特に負の複屈折性を示す光学補償フィルム向けとして延伸配向加工に供される光学フィルムの連続製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ブラウン管型テレビモニターに代わる薄型液晶表示素子や、エレクトロルミネッセンス素子などが開発され、光学異方性を制御したフィルム材料が要求されている。透明樹脂材料は光学補償フィルムとして軽量性、生産性及びコストの面から多用される状況にある。
【0003】
従来、透明樹脂材料の光学異方性を発現させる方法として、フィルムの延伸配向が行われている。この延伸配向によれば、ポリメチルメタクリレート(以下、PMMAと称する。)やポリスチレン(以下、PSと称する。)よりなるフィルムは負の複屈折性を示し、ポリカーボネート(以下、PCと称する。)や非晶性の環状ポリオレフィン(以下、APOと称する。)よりなるフィルムは正の複屈折性を示すことが知られている(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照。)。
【0004】
ここで、正の複屈折性とは、フィルムを構成する成分であるポリマー分子鎖が延伸させられることにより分子配向した場合にこれと同方向の屈折率が大きくなるような屈折率異方性を発現することを指す。一方、負の複屈折性とは、フィルムを構成する成分であるポリマー分子鎖が延伸させられることにより分子配向した場合にこれと同方向の屈折率が小さくなり、また同時に直交する方向の屈折率が大きくなるような屈折率異方性を発現することを指す。
【0005】
そして、負の複屈折性を示す材料であるPMMAやPSはガラス転移温度(以下、Tgと称する。)が100℃付近にあり、耐熱性が不十分なこと、脆いことなどから負の複屈折性を有するにも関わらずその用途に制限を受けていた。
【0006】
また、マレイミド系共重合体として、フェニルマレイミド残基とオレフィン残基からなる共重合体は、スチレン残基とアクリロニトリル残基とからなる共重合体とのブレンドにおいて、特定の割合範囲内で熱力学的に混和性を示すことが知られている(例えば特許文献1参照。)。
【0007】
【非特許文献1】小池康博著、「高分子のOne Point 10高分子の光物性」共立出版、2000年5月10日発行
【非特許文献2】南 幸治著、「機能材料2000年8月号 Vol.20、No.8」シーエムシー出版、2000年8月5日発行、p23〜33
【特許文献1】米国特許第4605700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1には該ブレンド物からなるフィルムの光学物性に関する情報はもとより、係るフィルムの製造方法に関する情報はない。
【0009】
そして、該ブレンド物からなる材料は高い機械強度を有する反面、伸びに劣るという性質を示し、フィルム成形を連続して行う場合に亀裂を生じ易いことから安定したロールフィルムを作成することが出来ていないという課題があった。
【0010】
そこで、本発明は上記事実に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、特定の共重合体及び特定のアクリロニトリル−スチレン系共重合体からなる光学フィルムの連続製造方法、特に負の複屈折性を示す光学補償フィルム向けとして延伸配向加工に供される光学フィルムの連続製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に関し鋭意検討した結果、特定の共重合体及び特定のアクリロニトリル−スチレン系共重合体からなるフィルムを製造する際に、その印加応力を特定の範囲内に制御することにより、フィルム製造時の亀裂の発生を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記の式(i)で表されるオレフィン残基単位と下記の式(ii)で表されるN−フェニル置換マレイミド残基単位からなり、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量5×10以上5×10以下である共重合体(a)30〜95重量%、及び、アクリロニトリル残基単位:スチレン残基単位=20:80〜35:65(重量比)であり、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量5×10以上5×10以下であるアクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体から選ばれる1種以上のアクリロニトリル−スチレン系共重合体(b)70〜5重量%からなるフィルムを製造する際に、フィルムの製造時におけるフィルムへの印加応力を0〜30MPaの範囲に制御することを特徴とする光学フィルムの連続製造方法に関するものである。
【0013】
【化1】

(ここで、R1、R2、R3はそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜6のアルキル基である。)
【0014】
【化2】

(ここで、R4、R5はそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐状アルキル基であり、R6、R7、R8、R9、R10はそれぞれ独立して水素、ハロゲン系元素、カルボン酸、カルボン酸エステル、水酸基、シアノ基、ニトロ基又は炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐状アルキル基である。)
以下に、本発明に関し詳細に説明する。
【0015】
本発明において用いられる共重合体(a)は、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量5×10以上5×10以下であり、上記の式(i)で示されるオレフィン残基単位と上記の式(ii)で表されるN−フェニル置換マレイミド残基単位からなる共重合体である。ここで、重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下、GPCと称する。)による共重合体の溶出曲線を標準ポリスチレン換算値として測定することができる。そして、共重合体(a)のポリスチレン換算の重量平均分子量が5×10未満である場合、フィルムとして成形加工する際の成形加工が困難となると共に、得られるフィルムは脆いものとなる。一方、重量平均分子量5×10を越える場合、フィルムとして成形加工する際の成形加工が困難となる。
【0016】
共重合体(a)を構成する式(i)で示されるオレフィン残基単位におけるR1、R2、R3はそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜6のアルキル基であり、炭素数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、2−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−ヘキシル基等を挙げることができる。ここで、R1、R2、R3が炭素数6を越えるアルキル置換基である場合、共重合体のガラス転移温度が著しく低下する、共重合体が結晶性となり透明性を損なうなどの問題がある。そして、式(i)で示されるオレフィン残基単位を誘導する具体的な化合物としては、例えばイソブテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、2−メチル−1−ヘキセン、2−メチル−1−ヘプテン、1−イソオクテン、2−メチル−1−オクテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−2−ペンテン、2−メチル−2−ヘキセン、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセンなどが挙げられ、その中でも1,2−ジ置換オレフィン類に属するオレフィンが好ましく、特に耐熱性、透明性、力学特性に優れる共重合体(a)が得られることからイソブテンであることが好ましい。また、オレフィン残基単位は1種又は2種以上組み合わされたものでもよく、その比率は特に制限はない。
【0017】
共重合体(a)を構成する式(ii)で示されるN−フェニル置換マレイミド残基単位におけるR4、R5は、それぞれ独立して水素又は炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐状アルキル基であり、炭素数1〜8の直鎖状又は分岐状アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、2−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−ヘキシル基、n−ヘプチル基、2−ヘプチル基、3−ヘプチル基、n−オクチル基、2−オクチル基、3−オクチル基等を挙げることができる。また、R6、R7、R8、R9、R10は、それぞれ独立して水素、ハロゲン系元素、カルボン酸、カルボン酸エステル、水酸基、シアノ基、ニトロ基又は炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐状アルキル基であり、ハロゲン系元素としは、例えばフッ素、臭素、塩素、沃素等を挙げることができ、カルボン酸エステルとしては、例えばメチルカルボン酸エステル、エチルカルボン酸エステル等を挙げることができ、炭素数1〜8の直鎖状又は分岐状アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、2−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−ヘキシル基、n−ヘプチル基、2−ヘプチル基、3−ヘプチル基、n−オクチル基、2−オクチル基、3−オクチル基等を挙げることができる。ここで、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10が炭素数8を越えるアルキル置換基の場合、共重合体のガラス転移温度が著しく低下する、共重合体が結晶性となり透明性を損なうなどの問題がある。
【0018】
そして、式(ii)で示されるN−フェニル置換マレイミド残基単位を誘導する化合物としては、例えばマレイミド化合物のN置換基として無置換フェニル基又は置換フェニル基を導入したマレイミド化合物を挙げることができ、具体的にはN−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(2−エチルフェニル)マレイミド、N−(2−n−プロピルフェニル)マレイミド、N−(2−イソプロピルフェニル)マレイミド、N−(2−n−ブチルフェニル)マレイミド、N−(2−sec−ブチルフェニル)マレイミド、N−(2−tert−ブチルフェニル)マレイミド、N−(2−n−ペンチルフェニル)マレイミド、N−(2−tert−ペンチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジメチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジエチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジ−n−プロピルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)マレイミド、N−(2−メチル,6−エチルフェニル)マレイミド、N−(2−メチル,6−イソプロピルフェニル)マレイミド、N−(2−クロロフェニル)マレイミド、N−(2−ブロモフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジクロロフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジブロモフェニル)マレイミド、N−2−ビフェニルマレイミド、N−2−ジフェニルエーテルマレイミド、N−(2−シアノフェニル)マレイミド、N−(2−ニトロフェニル)マレイミド、N−(2,4,6−トリメチルフェニル)マレイミド、N−(2,4−ジメチルフェニル)マレイミド、N−パーブロモフェニルマレイミド、N−(2−メチル,4−ヒドロキシフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジエチル,4−ヒドロキシフェニル)マレイミドなどが挙げられ、その中でもN−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(2−エチルフェニル)マレイミド、N−(2−n−プロピルフェニル)マレイミド、N−(2−イソプロピルフェニル)マレイミド、N−(2−n−ブチルフェニル)マレイミド、N−(2−sec−ブチルフェニル)マレイミド、N−(2−tert−ブチルフェニル)マレイミド、N−(2−n−ペンチルフェニル)マレイミド、N−(2−tert−ペンチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジメチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジエチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジ−n−プロピルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)マレイミド、N−(2−メチル,6−エチルフェニル)マレイミド、N−(2−メチル,6−イソプロピルフェニル)マレイミド、N−(2−クロロフェニル)マレイミド、N−(2−ブロモフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジクロロフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジブロモフェニル)マレイミド、N−2−ビフェニルマレイミド、N−2−ジフェニルエーテルマレイミド、N−(2−シアノフェニル)マレイミド、N−(2−ニトロフェニル)マレイミドが好ましく、特に耐熱性、透明性、力学特性にも優れる共重合体(a)が得られることからN−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミドであることが好ましい。また、N−フェニル置換マレイミド残基単位は1種又は2種以上組み合わされたものでもよく、その比率は特に制限はない。
【0019】
該共重合体(a)は、上記した式(i)で示されるオレフィン残基単位を誘導する化合物及び式(ii)で示されるN−フェニル置換マレイミド残基単位を誘導する化合物を公知の重合法を利用することにより得ることができる。公知の重合法としては、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などを挙げることができる。また、別法として、上記した式(i)で示されるオレフィン残基単位を誘導する化合物と無水マレイン酸とを共重合することにより得られた共重合体に、さらに例えばアニリン、2〜6位に置換基を導入したアニリンを反応し、脱水閉環イミド化反応を行うことにより得ることもできる。
【0020】
共重合体(a)としては、上記した式(i)で示されるオレフィン残基単位及び式(ii)で示されるN−フェニル置換マレイミド残基単位からなる共重合体であり、例えばN−フェニルマレイミド・イソブテン共重合体、N−フェニルマレイミド・エチレン共重合体、N−フェニルマレイミド・2−メチル−1−ブテン共重合体、N−(2−メチルフェニル)マレイミド・イソブテン共重合体、N−(2−メチルフェニル)マレイミド・エチレン共重合体、N−(2−メチルフェニル)マレイミド・2−メチル−1−ブテン共重合体、N−(2−エチルフェニル)マレイミド・イソブテン共重合体、N−(2−エチルフェニル)マレイミド・エチレン共重合体、N−(2−エチルフェニル)マレイミド・2−メチル−1−ブテン共重合体等が挙げられ、その中でも特に耐熱性、透明性、力学特性にも優れるものとなることから、N−フェニルマレイミド・イソブテン共重合体、N−(2−メチルフェニル)マレイミド・イソブテン共重合体が好ましい。
【0021】
本発明におけるアクリロニトリル−スチレン系共重合体(b)は、アクリロニトリル残基単位:スチレン残基単位=20:80〜35:65(重量比)であり、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量5×10以上5×10以下であるアクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体から選ばれる1種以上のアクリロニトリル−スチレン共重合体である。ここで、重量平均分子量は、GPCによる共重合体の溶出曲線を標準ポリスチレン換算値として測定することができる。そして、アクリロニトリル−スチレン系共重合体(b)のポリスチレン換算の重量平均分子量が5×10未満である場合、フィルムとして成形加工する際の成形加工が困難となると共に、得られるフィルムは脆いものとなる。一方、重量平均分子量5×10を越える場合、フィルムとして成形加工する際の成形加工が困難となる。また、アクリロニトリル−スチレン系共重合体(b)において、アクリロニトリル残基単位:スチレン残基単位=20:80を下回る場合、共重合体(a)との樹脂組成物における力学特性が低下し、得られるフィルムは非常に脆くなるなどの問題を有する。一方、アクリロニトリル残基単位:スチレン残基単位=35:65を上回る場合、アクリロニトリルの変質が生じ易く、得られるフィルムの色相が悪化したり、吸湿性が悪化するなどの問題がある。
【0022】
本発明に用いられるアクリロニトリル−スチレン系共重合体(b)の合成方法としては、公知の重合法が利用でき、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などにより製造することが可能である。また、市販品として入手したものであってもよい。
【0023】
本発明により得られる光学フィルムは、共重合体(a)30〜95重量%及びアクリロニトリル−スチレン系共重合体(b)70〜5重量%からなり、特に耐熱性と力学特性のバランスに優れた光学フィルムとなることから共重合体(a)40〜90重量%及びアクリロニトリル−スチレン系共重合体(b)60〜10重量%からなることが好ましい。ここで、共重合体(a)が30重量%未満である場合、得られるフィルムの耐熱性が低下する。一方、共重合体(a)が95重量%を越える場合、得られるフィルムは非常に脆いものとなり、力学特性の低いものとなる。
【0024】
本発明の光学フィルムの連続製造方法は、フィルムの製造時におけるフィルムへの印加応力を0〜30MPaの範囲に制御することを特徴とするものであり、該特徴を実施することが可能である限りにおいて如何なる方法を用いることも可能であり、以下にその一例示として好ましい連続製造方法の一様態を示す。
【0025】
本発明の光学フィルムの連続製造方法としては、フィルムの製造方法として一般的な例えば押出し成形法、溶液キャスト法(溶液流延法と称する場合もある。)などの成形法を用いることができる。
【0026】
以下に、T型ダイス押出し成形法による光学フィルムの連続製造に関し詳細に説明する。
【0027】
T型ダイス押出し成形法としては、上記した共重合体(a)及びアクリロニトリル−スチレン系共重合体(b)からなる樹脂組成物を調製し、該樹脂組成物を例えばT型ダイスと称されるような薄いダイスを装着した一軸押出し機、二軸押出し機等の押出し機に供し、加熱溶融を行いながら該ダイスの隙間を通して押出し、得られるフィルムの引き取りを行うことにより任意の厚みを有する光学フィルムとすることができる。該T型ダイス押出し成形法を行う際に用いられるT型ダイス押出し成形によるフィルム製造ラインの一例示としての概略図を図2に示す。ここで、(h)はT型ダイス、(i)は冷却ロール、(j)は空冷ユニット、(k)はフィルム巻取り機、(l)は応力センサー、(m)はフィルム張力調製装置を示す。
【0028】
そして、光学フィルム成形に際しては、成形時のガス発泡などによる外観不良を抑制するために、該樹脂組成物を予め80〜130℃の温度範囲にて加熱乾燥を行うことが望ましい。また、所望のフィルム厚みと光学純度に応じて異物を濾過するためのフィルターを設置し、押出し成形を行うことが望ましい。さらに、溶融状態のフィルムを効率よく冷却し、外観に優れる光学フィルムを効率よく製造するために低温度金属ロールやスチールベルトなどを設置し、押出し成形を行うことが望ましい。
【0029】
また、押出し成形条件としては、加熱、剪断応力によって樹脂組成物が溶融流動するTgよりも十分に高い温度にて剪断速度1,000sec−1未満の条件で押出し成形することが望ましい。
【0030】
T型ダイス押出し成形によるフィルム製造ラインによる本発明の光学フィルムの連続製造方法の例示を示す。押出し機に装着した(h)T型ダイスより押出されたフィルム状の溶融状態にある樹脂組成物は直ちに低温度金属ロールやスチールベルトなどからなる(i)冷却ロールに接触させられることで冷却されて、さらに(j)空冷ユニットにより冷却を行いながら搬送された後に(k)フィルム巻取り機によりフィルム巻取りされる。この際の冷却から巻取りまでの工程における冷却による加工工程でのフィルムの収縮、ロール及び/またはベルトへの密着、亀裂などの欠陥を生じさせずに、均一なフィルムを巻取る光学フィルムの連続製造方法とするために、(l)応力センサー及び(m)フィルム張力調整装置によりフィルムへの印加応力は0〜30MPaの範囲内に制御される。ここで、印加応力が30MPaを上回る場合、安定したフィルム冷却が難しく、フィルム亀裂を生じ、しわを発生する場合がありフィルム巻取りが困難となり、光学フィルムを連続製造することができない。
【0031】
また、得られる光学フィルムを3次元屈折率の関係が安定した光学補償フィルムとして用いる際には、光学異方性をできるだけ生じないように光学フィルムの製造を行うために、フィルムの流動方向、幅方向及び厚み方向の分子鎖配向度ができるだけ一様となる条件制御を行うことが望ましく、そのような方法としては、広く知られる成形加工技術を用いることができる。例えばダイスから吐出する樹脂組成物を位置によって均一にする方法、吐出後のフィルム冷却工程を均一にする方法及びこれに関する装置などを用いることができる。
【0032】
以下に、溶液流延法による光学フィルムの連続製造に関し詳細に説明する。
【0033】
溶液流延法としては、上記した共重合体(a)及びアクリロニトリル−スチレン系共重合体(b)に対し可溶性を示す溶剤に溶解し溶液を調製し、該溶液を流延した後、溶剤を除去し、乾燥し均一なフィルムを巻取り、任意の厚みを有する光学フィルムとすることができる。該溶液流延法を行う際に用いられる溶液流延法によるフィルム製造ラインの一例示としての概略図を図1に示す。ここで、(a)は溶液溜り、(b)はブレードヘッド、(c)はロールベルトライ、(d)はそれぞれ乾燥炉、(e)はフィルム巻取り機、(f)は応力センサー、(g)はフィルム張力調製装置を示す。
【0034】
溶液流延法によるフィルム製造ラインによる本発明の光学フィルムの連続製造方法の例示を示す。基材であるPETフィルム上に(a)溶液溜りより、溶液を流延した後、(d)乾燥炉にて溶剤を除去・乾燥しながら(e)フィルム巻取り機によりフィルム巻取りされる。この際の流延、乾燥から巻取りまでの工程における加工工程でのフィルムの収縮、ロール及び/又はベルトへの密着、亀裂などの欠陥を生じさせずに、均一なフィルムを巻取る光学フィルムの連続製造方法とするために、(f)応力センサー及び(g)フィルム張力調整装置によりフィルムへの印加応力は0〜30MPaの範囲内に制御される。ここで、印加応力が30MPaを上回る場合、安定したフィルム乾燥が難しく、フィルム亀裂を生じ、しわを発生する場合がありフィルム巻取りが困難となり、光学フィルムを連続製造することができない。
【0035】
溶液流延によるフィルム成形法に用いることのできる溶剤としては、共重合体(a)及びアクリロニトリル−スチレン系共重合体(b)が可溶性を示す溶剤であれば如何なるものでもよく、その中から必要に応じて1種又は2種以上を混合して用いることができ、例えば塩化メチレン、クロロホルム、クロルベンゼン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランなどを用いることができる。
【0036】
本発明の光学フィルムの連続製造方法により得られる光学フィルムは、これに続き延伸配向加工を施すことにより負の複屈折性を示す光学補償フィルムとすることができる。
【0037】
本発明の光学フィルムの連続製造方法により得られる光学フィルムを延伸配向加工に供することにより、共重合体の分子鎖を配向させることで、安定して負の複屈折性を発現する光学補償フィルムを得ることができる。分子鎖を配向させる方法としては、分子鎖の配向が可能であれば如何なる方法を用いることも可能であり、例えば延伸、圧延、引き取り等の各種方法を用いることができ、その中でも、特に生産効率がよく、負の複屈折性を有する光学補償フィルムを生産することが可能となることから、延伸により製造することが好ましく、その際には、例えば自由幅一軸延伸、定幅一軸延伸等の一軸延伸;遂次二軸延伸、同時二軸延伸等の二軸延伸等を用いることが可能である。このほか圧延などを行う装置としては、例えばロール延伸機などが知られている。このほかにもテンター型延伸機、小型の実験用延伸装置として引張試験機、一軸延伸機、逐次二軸延伸機、同時二軸延伸機のいずれもが可能な装置である。
【0038】
延伸配向加工を行う際には、効率よく負の複屈折性を示すことで位相差フィルムとして適した光学補償フィルムを生産効率よく製造することが可能となることから、上述の該樹脂組成物のTg−20℃〜Tg+20℃の範囲内で延伸加工を行うことが好ましい。ここでTgとは当該樹脂組成物のガラス転移温度を指すものであり、示差走査型熱量計(DSC)などにより測定することが可能である。
【0039】
また、延伸の際の延伸操作である延伸温度、フィルムを延伸させる際の歪み速度、変形率などは本発明の目的を達成できる限りにおいて適宜選択を行えばよく、その際には、「高分子加工 One Point 2(フィルムをつくる)」(松本喜代一著、高分子学会編集、共立出版、1993年2月15日発行)等を参考にすればよい。
【0040】
本発明の光学フィルムの連続製造方法において得られる光学フィルムは、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて必要に応じて熱安定剤、紫外線安定剤などの添加剤や可塑剤を配合していてもよく、これら添加剤や可塑剤としては通常樹脂材料用として公知のものを使用してもよい。
【0041】
本発明により得られる光学フィルムは、屈折率が1.50以上であることが好ましく、LCDなどの光学デバイス製造上及び光学デバイスとしての実用耐熱性の面からTgが100℃以上、好ましくは120℃以上、特に好ましくは140℃以上を示すものであることが好ましい。
【0042】
本発明の光学フィルムの連続製造方法により得られる光学フィルムは、これを延伸配向させることで負の複屈折性を示す光学補償フィルムを製造することができ、この光学補償フィルムは単独での使用以外に、同種光学材料及び/又は異種光学材料と積層して用いることによりさらに光学特性を制御したものとすることができる。この際に積層される光学材料としては、ポリビニルアルコール/色素/アセチルセルロースなどの組み合わせからなる偏光板が挙げられる。また、光学補償フィルムとしては、液晶表示素子用の光学補償部材として好適に用いられる。そのようなものとしては、例えばSTN型LCD、TFT−TN型LCD、OCB型LCD、VA型LCD、IPS型LCDなどのLCD用の位相差フィルム;1/2波長板;1/4波長板;逆波長分散特性フィルム;光学補償フィルム;カラーフィルター;偏光板との積層フィルム;偏光板光学補償フィルムなどが挙げられる。また、本発明の応用としての用途はこれに制限されるものではなく、負の複屈折性を利用する場合には広く利用できる。
【発明の効果】
【0043】
本発明の光学フィルムの連続製造方法は、フィルム亀裂などの欠陥のない光学フィルムの製造方法として好適に用いることができる。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明を実施例にて具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。各物性値の測定方法を以下に示す。
【0045】
〜光線透過率の測定〜
透明性の一評価として、JIS K 7361−1(1997年版)に準拠して光線透過率の測定を行った。
【0046】
〜ヘイズの測定〜
透明性の一評価として、JIS K 7136(2000年版)に準拠してヘイズの測定を行った。
【0047】
〜位相差量の測定〜
高分子素材の偏光顕微鏡入門(粟屋裕著,アグネ技術センター版,第5章,pp94〜96,(2001))に記載のセナルモン・コンペンセーターを用いた偏光顕微鏡(Senarmont干渉法)により位相差量の測定を行った。
【0048】
〜屈折率の測定〜
JIS K 7142(1996年版)に準拠して測定した。
【0049】
〜ガラス転移温度の測定〜
示差走査型熱量計(セイコー電子工業(株)製、商品名DSC2000)を用い、10℃/min.の昇温速度にて測定した。
【0050】
〜重量平均分子量及び数平均分子量の測定〜
ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製、商品名HLC−802A)を用い測定した溶出曲線により、標準ポリスチレン換算値として重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及びその比である分子量分布(Mw/Mn)を測定した。
【0051】
〜フィルム成形加工によるフィルム外観判定〜
フィルム成形後の外観として、亀裂発生の有無、しわ発生の有無により優劣判定を実施した。
【0052】
亀裂、しわの発生がなく、フィルムが均一に成形できたものを良好、そうでないものを不良と判定した。
【0053】
合成例1(N−フェニルマレイミド・イソブテン共重合体の製造)
1リッターオートクレーブ中に重合溶媒としてトルエン400ml、重合開始剤としてパーブチルネオデカノエート0.001モル、N−フェニルマレイミド0.42モル、イソブテン0.67モルとを仕込み、重合温度60℃、重合時間5時間の重合条件にて重合反応を行い、N−フェニルマレイミド・イソブテン共重合体(重量平均分子量(Mw)=220,000、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で示される分子量分布(Mw/Mn)=2.6)を得た。
【0054】
実施例1
合成例1により得られたN−フェニルマレイミド・イソブテン共重合体50重量%及びアクリロニトリル−スチレン共重合体(ダイセルポリマー製、商品名セビアンN050;重量平均分子量(Mw)=130000、アクリロニトリル残基単位:スチレン残基単位(重量比)=24.5:75.5)50重量%からなるブレンド物を調製し、該ブレンド物の濃度が25重量%となるように塩化メチレン溶液を調製した。
【0055】
そして、図1に示す溶液流延法によるフィルム製造ラインを用い、光学フィルムの連続製造を行った。この際、該塩化メチレン溶液は、PETフィルム上にブレードヘッドとPETフィルムとの隙間を0.5mm、幅240mmとして、ライン速度1m/min.にて流延した。また、乾燥炉の温度は第1乾燥炉を40℃、第2乾燥炉を80℃、第3乾燥炉を120℃に設定し、成形工程中の流延された樹脂溶液からなるフィルムに印加される印加応力が10MPaとなるように制御を行い光学フィルムの成形を行った。
【0056】
得られた光学フィルムは、光線透過率90.0%、ヘイズ0.4%、屈折率1.57、Tg135℃であり、得られたロール巻き光学フィルムに亀裂などは見られなかった。
【0057】
実施例2
フィルムに印加される印加応力10MPaの代わりに、印加応力が1MPaとなるように制御を行った以外は、実施例1と同様にして光学フィルムの連続製造を行った。
【0058】
得られた光学フィルムは、光線透過率90.0%、ヘイズ0.4%、屈折率1.57、Tg135℃であり、得られたロール巻き光学フィルムに亀裂などは見られなかった。
【0059】
実施例3
フィルムに印加される印加応力10MPaの代わりに、印加応力が30MPaとなるように制御を行った以外は、実施例1と同様にして光学フィルムの連続製造を行った。
【0060】
得られた光学フィルムは、光線透過率90.0%、ヘイズ0.4%、屈折率1.57、Tg135℃であり、得られたロール巻き光学フィルムに亀裂などは見られなかった。
【0061】
実施例4
合成例1により得られたN−フェニルマレイミド・イソブテン共重合体50重量%及びアクリロニトリル−スチレン共重合体(ダイセルポリマー製、商品名セビアンN050;重量平均分子量(Mw)=130000、アクリロニトリル残基単位:スチレン残基単位(重量比)=24.5:75.5)50重量%からなるブレンド物を調製した。
【0062】
そして、図2に示すT型ダイス押出し成形によるフィルム製造ラインによる光学フィルムの連続製造を行った。この際、幅200mmT型ダイスを装着した20mm押出し機をシリンダー温度260℃、ダイス温度270℃、ダイス隙間0.2mmに設定しフィルム押出しを行い、続いて押出されたフィルム状溶融樹脂を温度140℃に設定した鏡面加工されたロールに押付け、続いて空冷しながら100℃以下になるまで冷却しながらフィルムの巻取りを行った。この際、フィルムに印加される印加応力を5MPa以下となるように制御して光学フィルムを連続で製造した。
【0063】
得られた光学フィルムは、光線透過率89.0%、ヘイズ0.8%、屈折率1.57、Tg135℃であり、得られたロール巻き光学フィルムに亀裂などは見られなかった。
【0064】
比較例1
フィルムに印加される印加応力10MPaの代わりに、印加応力が40MPaとなるように制御を行った以外は、実施例1と同様にしてフィルムの連続製造を行った。
【0065】
得られたフィルムは、光線透過率90.0%、ヘイズ0.4%、屈折率1.57、Tg135℃であり、得られたロール巻きフィルムは、両端部分に亀裂及び巻き取りしわが多数見られた。
【0066】
比較例2
フィルムに印加される印加応力10MPaの代わりに、印加応力が50MPaとなるように制御を行った以外は、実施例1と同様にしてフィルムの連続製造を行った。
【0067】
得られたフィルムは、光線透過率90.0%、ヘイズ0.4%、屈折率1.57、Tg135℃であり、得られたフィルムは、フィルムの横方向への亀裂が著しく多く、裂けてしまったために巻取りが困難であった。
【0068】
比較例3
フィルムに印加される印加応力5MPa以下の代わりに、印加応力が50MPaとなるように制御を行った以外は、実施例4と同様にしてフィルムの連続製造を行った。
【0069】
得られたフィルムは、光線透過率89.0%、ヘイズ0.8%、屈折率1.57、Tg135℃であり、得られたフィルムはフィルムの横方向への亀裂が著しく多く、裂けてしまったために巻取りが困難であった。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】溶液流延法によるフィルム製造ラインの概略図である。
【図2】T型ダイス押出し成形によるフィルム製造ラインの概略図である。
【符号の説明】
【0071】
(a);溶液溜り
(b);ブレードヘッド
(c);ロールベルトライ
(d);それぞれ乾燥炉
(e);フィルム巻取り機
(f);応力センサー
(g);フィルム張力調製装置
(h);T型ダイス
(i);冷却ロール
(j);空冷ユニット
(k);フィルム巻取り機
(l);応力センサー
(m);フィルム張力調製装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(i)で表されるオレフィン残基単位と下記の式(ii)で表されるN−フェニル置換マレイミド残基単位からなり、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量5×10以上5×10以下である共重合体(a)30〜95重量%、及び、アクリロニトリル残基単位:スチレン残基単位=20:80〜35:65(重量比)であり、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量5×10以上5×10以下であるアクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体から選ばれる1種以上のアクリロニトリル−スチレン系共重合体(b)70〜5重量%からなるフィルムを製造する際に、フィルムの製造時におけるフィルムへの印加応力を0〜30MPaの範囲に制御することを特徴とする光学フィルムの連続製造方法。
【化1】

(ここで、R1、R2、R3はそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜6のアルキル基である。)
【化2】

(ここで、R4、R5はそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐状アルキル基であり、R6、R7、R8、R9、R10はそれぞれ独立して水素、ハロゲン系元素、カルボン酸、カルボン酸エステル、水酸基、シアノ基、ニトロ基又は炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐状アルキル基である。)
【請求項2】
共重合体(a)がN−フェニルマレイミド・イソブテン共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルムの連続製造方法。
【請求項3】
フィルムの製造方法として溶液流延法を用いることを特徴とする請求項1〜2に記載の光学フィルムの連続製造方法。
【請求項4】
フィルムの製造方法としてT型ダイス押出し成形法を用いることを特徴とする請求項1〜2に記載の光学フィルムの連続製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−43907(P2006−43907A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−224101(P2004−224101)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】