説明

光学フィルム加圧装置

【課題】 この発明の目的は、延伸されるべき光学フィルムを安定的に保持することを可能にする光学フィルム加圧装置を提供する。
【解決手段】 光学フィルム加圧装置30は、フレーム部34およびベルトユニット36を少なくとも備える。フレーム部34は、延伸部18に取り付け可能に構成される。ベルトユニットは、加圧ローラ183に圧接するようにフレーム部34に支持される。ベルトユニット36は、光学フィルム11を介して加圧ローラに圧接するように配置される無端ベルト38と、この無端ベルト38を張架する複数のガイドローラ(40、42、44、46、48、50、52)とを備える。この結果、ニップロール方式のように加圧ローラ同士が圧接するのではなく、無端ベルト38が光学フィルム11を介して加圧ローラ183に圧接するようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光学フィルムが当接するように構成された延伸部の加圧ローラに光学フィルムを介して圧接するように配置され、延伸されるべき光学フィルムに圧力を加えるように構成された光学フィルム加圧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学フィルムを延伸する手法として従来ニップロール方式が広く用いられていた。従来技術の中には、光学フィルムが延伸部に導かれ、延伸部において周速度の比率が適宜設定された複数組のニップローラよって延伸されるといった構成を採用するものがあった(例えば、特許文献1)。特許文献1に係る発明では、ニップロール方式による光学フィルムの製造に際し、乾式延伸法と湿式延伸法の長所を夫々生かす延伸技術を採用している。
【特許文献1】特開2002−350638号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
光学フィルムの延伸において重要なことの1つは、光学フィルムに張力をかける複数組のニップローラのニップ部における光学フィルムを保持する力を安定させることである。この保持力は、ニップ部における単位面積あたりの面圧、ニップ部の面積、およびローラと光学フィルムとの間の摩擦係数の積によって表される。このため、上述の保持力を安定させるためには単位面積あたりの面圧、ニップ部の面積、およびローラと光学フィルムとの間の摩擦係数を安定させることが重要である。
【0004】
ところが、従来技術では、もともと狭いニップ部の面積がローラの回転によって変動することがあり、これによってニップ部における光学フィルムの保持力が安定しないことがあった。このため、ニップ部の面積を拡大することが好ましいが、ローラの大口径化、ローラの表面部材の改良など従来の設計変更を行ってもニップ部の面積を効果的に拡大させることは難しかった。
【0005】
この発明の目的は、延伸されるべき光学フィルムを安定的に保持することを可能にする光学フィルム加圧装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る光学フィルム加圧装置は、延伸されるべき光学フィルムが当接するように構成された延伸部の加圧ローラに、光学フィルムを介して圧接するように構成される。この光学フィルム加圧装置は、フレーム部およびベルトユニットを少なくとも備える。フレーム部は、延伸部に取り付け可能に構成される。フレーム部は、例えば、乾式延伸法を採用する延伸システムでは延伸部を画定するフレームに取り付けられ、湿式延伸法を採用する延伸システムでは延伸部に設けられた浴槽に取り付けられる。フレーム部は、ベルトユニットを支持しつつ延伸部に安定的に固定されるものである限り、その形状、構造、サイズ等は特に限定されない。
【0007】
ベルトユニットは、加圧ローラに圧接するようにフレーム部に支持される。ベルトユニットは、光学フィルムを介して加圧ローラに圧接するように配置される無端ベルトと、この無端ベルトを張架する複数のガイドローラとを備える。無端ベルトの素材はポリウレタンが好ましいが、スチールベルトを用いることも可能である。
【0008】
この構成においては、ニップロール方式のように加圧ローラ同士を圧接させるのではなく、加圧ローラに無端ベルトが圧接する。無端ベルトは、これを張架する複数のガイドの位置を変化させることにより加圧ローラとの圧接面の抱き角度を調整し易いため、光学フィルムを圧接する圧接面の面積を大幅に拡大させることが可能になる。このため、圧接面の面積が多少変動することがあっても、圧接面の面積全体に占める変動分の比率が低く抑えられる。この結果、圧接面の面積変動による影響が低く抑えられ、光学フィルムを保持する際の安定性が損なわれにくい。
【0009】
なお、無端ベルトの加圧ローラとの圧接面の抱き角度は、例えばガイドローラの位置を変動させることにより調整可能である。また、ガイドローラの位置を変動させることにより無端ベルトの張力を調整することができ、これにより無端ベルトと加圧ローラとの圧接力を調整することが可能になる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、延伸されるべき光学フィルムを安定的に保持することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明の加圧装置が適用される延伸システムの一例を示している。延伸システム10は、洗浄部12、膨潤部14、染色部16、延伸部18、水洗部20、および乾燥部22を備える。延伸システム10における延伸部18以外の部分は公知の構成を適用可能であるためここではその説明を省略する。
【0012】
この実施形態では、光学フィルム11としてポリビニールアルコール(PVA)からなる偏光フィルムを用いる。延伸システム10において、光学フィルム11は、洗浄部12、膨潤部14、染色部16、延伸部18、水洗部20、および乾燥部22をこの順に通過した後、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム110等の保護フィルムが貼り付けられ回収される。この発明は、延伸部18における光学フィルム11の保持手法に特徴を有するものであり、以下具体的にその特徴を説明する。
【0013】
図2は、延伸部18の概略を示す図である。延伸部18には、光学フィルム加圧装置30が適用される。図2(A)に示すように、光学フィルム加圧装置30は、延伸部18の浴槽32に取り付けられる。具体的には、光学フィルム加圧装置30は、浴槽32に取り付け可能に構成されたフレーム部34、およびフレーム部34に支持されるベルトユニット36を備える。ベルトユニット36は、合成樹脂製の無端ベルト38、および無端ベルト38を張架する複数のガイドローラ(40、42、44、46、48、50、52)を備える。ここでは、加圧ローラ183側に駆動源(図6における駆動モータ190)が設けられ、加圧ローラ183の回転に伴って無端ベルト38が連れ回るように構成される。その理由は、光学フィルム加圧装置30側に駆動源を設けないことにより、光学フィルム加圧装置30の構成をシンプルにするためである。ただし、光学フィルム加圧装置30側に駆動源を設けて無端ベルト38を回転駆動するようにしても良い。なお、この実施形態では、無端ベルト38に合成樹脂(ポリウレタン)を用いているが、合成樹脂に代えて金属(例えば、ステンレス)を用いることも可能である。また、無端ベルト38は、周長約22000mm、幅700mm、厚み4.0mm、硬度JIS−A80度に設定しているが、この設定に限定されるものではない。
【0014】
光学フィルム加圧装置30は、図2(B)に示す加圧ローラ182と置換されるように設けられる。光学フィルム加圧装置30の無端ベルト38は、加圧ローラ183と光学フィルム11を介して圧接するように配置される。無端ベルト38と加圧ローラ183とが圧接することによって、延伸されるべき光学フィルム11が十分な強さで保持されるようになる。
【0015】
図3を用いて、光学フィルム加圧装置30の構成をさらに説明する。図3において、参照符号120は、浴槽の水位を示している。図3に示すように、光学フィルム加圧装置30は、ベルト蛇行修正機構54、ベルト張力調整機構56、およびフィルム抱き角度調整機構58をさらに備える。
【0016】
ベルト蛇行修正機構54は、無端ベルト38の端部の位置を調整することにより、無端ベルト38の蛇行を防止するように構成される。
【0017】
ベルト張力調整機構56は、ガイドローラ50を往復移動可能に支持している。この実施形態では、ガイドローラ50は水平方向に移動可能に支持されているが、ガイドローラ50の移動態様はこれに限定されるものではない。また、ガイドローラ50以外のガイドローラを用いて、無端ベルト38の張力を調整するようにしても良い。張力調整機構56は、回転操作が可能なハンドル57を備えており、ハンドル57の回転に応じてガイドローラ50を変位させる。なお、ガイドローラ50の移動範囲は、図4(A)の矢印200によって示される範囲である。
【0018】
フィルム抱き角度調整機構58は、ガイドローラ46を往復移動可能に支持している。この実施形態では、ガイドローラ46は垂直方向に移動可能に支持されているが、ガイドローラ46の移動態様はこれに限定されるものではない。フィルム抱き角度調整機構58は、上述の張力調整機構56と同様に、回転操作が可能なハンドル59を備えており、ハンドル59の回転に応じてガイドローラ46を変位させる。なお、ガイドローラ46の移動範囲は、図4(A)の矢印300によって示される範囲である。
【0019】
図4を用いて、張力調整機構56およびフィルム抱き角度調整機構58の作用を説明する。図4(B)の状態において、フィルム抱き角度調整機構58がガイドローラ46を上昇させることにより、図4(C)に示すように無端ベルト38における加圧ローラ183との圧接面の抱き角度を小さくすることができる。一方で、図4(B)の状態において、フィルム抱き角度調整機構58がガイドローラ46を下降させることにより、図4(D)に示すように無端ベルト38における加圧ローラ183との圧接面の抱き角度を大きくすることができる。
【0020】
さらに、図4(B)の状態において、張力調整機構56がガイドローラ50を無端ベルト38から遠ざかる方向に移動させることにより、無端ベルト38の張力を緩和することができる。無端ベルト38の張力を強くする場合には、張力調整機構56によってガイドローラ50を無端ベルト38に押し付けるようにすると良い。
【0021】
以上の構成によれば、無端ベルト38と加圧ローラ183との間で光学フィルム11を挟持する際に、光学フィルム11を加圧する圧接面の面積を広くすることが可能になる。特に、図2(B)に示すようにローラ182および183によって光学フィルム11を挟持する際に比較して圧接面の面積を20倍程度にまで拡大することが可能になる。このため、圧接面の面積が多少変動することがあっても、圧接面の面積全体に占める変動分の比率が低く抑えられる。この結果、圧接面の面積変動による影響が低く抑えられ、光学フィルム11を保持する際の安定性が損なわれにくい。実際に、PVAフィルム光学性能の確認(液中延伸、延伸倍率615%)を行ったところ、光学特性においてニップロール方式と遜色がなく、膜圧分布においてニップロール方式よりも少ないバラツキが得られた。
【0022】
また、図5に示すように、張力調整機構56によって無端ベルト38の張力を調整し、フィルム抱き角度調整機構58によって抱き角度400を調整することにより、無端ベルト38から加圧ローラ183に作用する力Nの大きさを調整することが可能になる。このため、光学フィルム11の延伸率に応じて、適宜、光学フィルム11を保持する力の大きさを調整することが可能になる。
【0023】
なお、ここで図6を用いて無端ベルト38の交換手法を説明する。無端ベルト38を交換する際には、ディスタントピース60を取り外し、ベルト交換ユニット70に無端ベルト38を張架した状態で、ガイドローラ(40、42、44、46、48、50、52)の周囲に無端ベルト38が導入される。
【0024】
図7は、第2の実施形態に係る延伸システム102の概略を示している。延伸システム102では、延伸システム10とは異なる位置に光学フィルム加圧装置30を適用している。
【0025】
図8は、第2の実施形態に係る延伸部18の概略を示す図である。図8(A)に示すように、第2の実施形態では、加圧ローラ185に圧接するように光学フィルム加圧装置30が設けられる。光学フィルム加圧装置30は、図8(B)に示すローラ184と置換されるように設けられる。光学フィルム加圧装置30の無端ベルト38は、加圧ローラ185と圧接するように配置される。無端ベルト38と加圧ローラ185とが圧接することによって、光学フィルム11の延伸に必要な保持力が発生する。
【0026】
このように、延伸部18に対する光学フィルム加圧装置30の取り付け位置を変えることにより、光学フィルム加圧装置30を任意の場所に配置することが可能である。
【0027】
上述の実施形態では、延伸システム10または延伸システム100に単一の光学フィルム加圧装置30を適用する例を示したが、延伸システム10または延伸システム100に複数の加圧システムを適用することも可能である。例えば、図9(A)に示すように光学フィルム加圧装置30を2つ適用することや、図9(B)に示すように光学フィルム加圧装置30を3つ適用することが可能である。
【0028】
上述の実施形態では、湿式延伸法について説明したが、この発明は乾式延伸法を採り入れた延伸システムにも適用することが可能である。
【0029】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】光学フィルム加圧装置が適用される延伸システムの例を示す図である。
【図2】延伸部の概略を示す図である。
【図3】光学フィルム加圧装置の構成を示す図である。
【図4】光学フィルム加圧装置の動作を示す図である。
【図5】光学フィルム加圧装置の作用を示す図である。
【図6】無端ベルトの交換の概略を示す図である。
【図7】延伸システムの他の例を示す図である。
【図8】延伸部の他の例を示す図である。
【図9】延伸部の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
10−延伸システム
18−延伸部
30−光学フィルム加圧装置
34−フレーム部
36−ベルトユニット
40、42、44、46、48、50、52−ガイドローラ
54−ベルト蛇行修正機構
56−ベルト張力調整機構
58−フィルム抱き角度調整機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
延伸されるべき光学フィルムが当接するように構成された延伸部の加圧ローラに、前記光学フィルムを介して圧接するように構成された光学フィルム加圧装置であって、
前記延伸部に取り付け可能なフレーム部と、
前記加圧ローラに圧接するように前記フレーム部に支持されるベルトユニットと、
を備え、
前記ベルトユニットは、前記光学フィルムを介して光学前記加圧ローラに圧接するように配置される無端ベルトと、この無端ベルトを張架する複数のガイドローラとを備えた
光学フィルム加圧装置。
【請求項2】
前記複数のガイドローラの少なくとも1つを移動自在に支持する第1の支持部と、前記第1の支持部を移動させることにより前記無端ベルトと前記加圧ローラとの圧接面における前記無端ベルトの抱き角度を調整するように構成された第1の調整部と、を有する抱き角度調整機構をさらに備えた請求項1に記載の光学フィルム加圧装置。
【請求項3】
前記複数のガイドローラの少なくとも1つを移動自在に支持する第2の支持部と、前記第2の支持部を移動させることにより前記無端ベルトの張力を調整するように構成された第2の調整部とを有する張力調整機構をさらに備えた請求項1または2に記載の光学フィルム加圧装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−113405(P2009−113405A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−290718(P2007−290718)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(000108753)タツモ株式会社 (73)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】