説明

光学フィルム及びそれを備える液晶表示装置

【課題】
配向複屈折及び光弾性複屈折がともに小さく、耐屈曲性、耐クラック特性、引張り強度等の機械特性に優れる光学フィルムを提供すること。
【解決手段】
溶融樹脂を押出機のダイリップからキャストロール上に連続的に吐出して製膜された光学フィルムであって、溶融樹脂は、ホモポリマーとしたときに負の固有複屈折率を示す(メタ)アクリレートモノマー(A)75〜99質量%と、ホモポリマーとしたときに正の固有複屈折率を示す(メタ)アクリレートモノマー(B)1〜25質量%との共重合体を含有し、ダイリップからの溶融樹脂の吐出速度V(m/分)に対する、キャストロールの表面速度V(m/分)の比V/Vが、1.2以上15以下である、光学フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム及びそれを備える液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の光学関連機器で用いられるフィルム状の光学部材(例えば、液晶表示装置で用いられるフィルムやプリズムシートの基板等)は、一般的に「光学フィルム」と呼ばれている。この光学フィルムの重要な光学特性の一つに複屈折性がある。即ち、光学フィルムが大きな複屈折性をもつことは好ましくない場合がある。特にIPSモードの液晶表示装置においては複屈折性の大きなフィルムが存在することで像質に悪影響を及ぼすため複屈折性をできるだけ抑えた光学フィルムの使用が望まれている。
【0003】
特許文献1には、元数が3以上の共重合体のみで構成されているか、あるいは、元数が2以上の共重合体及び分極率の異方性を有しポリマー中で配向し得る少なくとも1種類の低分子有機化合物で構成され、配向複屈折と光弾性複屈折が同時に相殺されるように成分比が選択された非複屈折性光学樹脂材料が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂からなり、二軸延伸された光学フィルムが記載されている。
【0005】
また、非特許文献1には、正の複屈折性を示すホモポリマーを構成するモノマーと、負の複屈折性を示すホモポリマーを構成するモノマーとを、適切な比率でランダム共重合することにより、ポリマー鎖の複屈折性を相殺する方法が記載されている。この非特許文献1の中では、正の複屈折モノマーとしてベンジルメタクリレート、負の複屈折モノマーとしてメチルメタクリレートをそれぞれ選び、ランダムに共重合させている。そして重量比でメチルメタクリレート/ベンジルメタクリレート=82/18の時に配向複屈折がほぼ消失され、92/8の時に光弾性複屈折がほぼ消失されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−308682号公報
【特許文献2】特開2010−72135号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Shuichi Iwata,Hisashi Tsukahara,Eisuke Nihei,and Yasuhiro Koike,Applied Optics,vol.36,p.4549−4555(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、液晶表示装置の像質に対する要求が益々高まっており、複屈折の小さな光学フィルムへの要求も高まってきている。さらに液晶表示装置の価格は低下の一途をたどっており、安価な光学フィルムの開発に対する要求も高まってきている。
【0009】
特許文献1に記載されているように、三つ以上の原料の配合比を調整することで原理的には配向複屈折と光弾性複屈折を同時に相殺するポリマーフィルムを作製できるが、この場合、原料を投入するための設備が多く必要で、多くの原料の投入量を調整し、管理することが大変になるという問題がある。したがって、二つのモノマーから低複屈折性のフィルムを作製できるようにすることは、製造コストという観点で工業的に価値が高い。
【0010】
また、特許文献2では、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂からなる重合体を材料としたフィルムにおいて、2軸延伸を施せば実用上問題のないレベルまでフィルムの機械的特性を向上できるとしている。しかし、主鎖に環構造を有する高価で特殊なアクリル樹脂以外の重合体を材料としたフィルムでは、低複屈折性と機械的特性を両立させることは難しいという問題があるだけでなく、次のような製造上の問題がある。すなわち、(メタ)アクリレートモノマーの共重合体を材料として製膜した原反フィルムは非常に脆いために、延伸工程に供するまでの間の工程で、製造ラインを搬送中に破断してしまう、或いは延伸工程で延伸中に破断してしまうという問題により、安定して製造できない。
【0011】
また、非特許文献1に記載された方法では、光学フィルムとしての耐屈曲性や耐クラック特性などの機械的特性が極めて低いという問題がある。
【0012】
なお、光学フィルムが示す複屈折には、その主因がポリマー主鎖の配向にある「配向複屈折」とフィルムにかかる応力に起因する「光弾性複屈折」がある。配向複屈折と光弾性複屈折の符号はポリマーの化学構造に由来し、それぞれのポリマーに固有の性質である。
【0013】
配向複屈折は、一般に鎖状のポリマーの主鎖が配向することによって発現する複屈折であり、この主鎖の配向は、例えばポリマーフィルム製造時の押し出し成形や延伸のプロセスなど材料の流動を伴うプロセスで生じ、それがフィルムに固定されて残る。
【0014】
一方、光弾性複屈折は、フィルムの弾性的な変形に伴って引き起こされる複屈折である。例えばポリマーのガラス転移温度付近からそれ以下の温度に冷却された際に生じる体積収縮により、弾性的な応力がフィルム内に残存して、それが光弾性複屈折の原因となる。また、光学フィルムが通常温度で機器に固定した状態で受ける外力によってもフィルムに応力が発生し、光弾性複屈折が発現する。
【0015】
本発明は、配向複屈折及び光弾性複屈折がともに小さく、耐屈曲性、耐クラック特性、引張り強度等の機械特性に優れる光学フィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。また本発明は、上記光学フィルムを備える液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一側面は、溶融樹脂を押出機のダイリップからキャストロール上に連続的に吐出して製膜された光学フィルムであって、上記溶融樹脂は、ホモポリマーとしたときに負の固有複屈折率を示す(メタ)アクリレートモノマー(A)75〜99質量%と、ホモポリマーとしたときに正の固有複屈折率を示す(メタ)アクリレートモノマー(B)1〜25質量%との共重合体を含有し、上記ダイリップからの上記溶融樹脂の吐出速度V(m/分)に対する上記キャストロールの表面速度V(m/分)の比V/Vが、1.2以上15以下である、光学フィルムに関する。
【0017】
上記光学フィルムは、配向複屈折及び光弾性複屈折がともに小さく、且つ、耐屈曲性、耐クラック特性、引張り強度等の機械特性に優れる。そのため、上記光学フィルムは、液晶表示装置等の光学関連機器に用いられる光学部材として、好適に使用することができる。
【0018】
本発明においては、上記(メタ)アクリレートモノマー(A)をホモポリマーとしたときの光弾性係数の符号と、前記(メタ)アクリレートモノマー(B)をホモポリマーとしたときの光弾性係数の符号とが、逆であることが好ましい。
【0019】
本発明の一態様において、面内位相差Reの絶対値及び厚さ方向位相差Rthの絶対値は、いずれも8nm以下である。
【0020】
また、本発明の一態様において、光弾性係数の絶対値は、8×10−12(/Pa)以下である。
【0021】
また、本発明の一態様において、上記キャストロールによる搬送方向における引張り強度と該搬送方向に直交する幅方向の引張り強度との和は、140Mpa以上330Mpa以下である。
【0022】
本発明の他の側面は、上記光学フィルムを備える液晶表示装置に関する。上記光学フィルムは、配向複屈折及び光弾性複屈折がともに小さいため、像質に与える悪影響を十分に低減させることができる。そのため、上記液晶表示装置によれば、良好な像質が実現される。
【0023】
また、本発明の他の側面は、押出機のダイリップからキャストロール上に溶融樹脂を連続的に吐出する製膜工程を備え、上記溶融樹脂は、ホモポリマーとしたときに負の固有複屈折率を示す(メタ)アクリレートモノマー(A)75〜99質量%と、ホモポリマーとしたときに正の固有複屈折率を示す(メタ)アクリレートモノマー(B)1〜25質量%との共重合体を含有し、上記ダイリップからの上記溶融樹脂の吐出速度V(m/分)に対する上記キャストロールの表面速度V(m/分)の比V/Vが、1.2以上15以下である、光学フィルムの製造方法に関する。
【0024】
上記製造方法によれば、配向複屈折及び光弾性複屈折がともに小さく、且つ耐屈曲性、耐クラック特性、引張り強度等の機械特性に優れる光学フィルムを、容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、配向複屈折及び光弾性複屈折がともに小さく、耐屈曲性、耐クラック特性、引張り強度等の機械特性に優れる光学フィルム及びその製造方法が提供される。また本発明によれば、上記光学フィルムを備える液晶表示装置が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の光学フィルム及び液晶表示装置の好適な実施形態について説明する。
【0027】
本実施形態に係る光学フィルムは、溶融樹脂を押出機のダイリップからキャストロール上に連続的に吐出して製膜されたフィルムである。
【0028】
本実施形態において、上記溶融樹脂は、ホモポリマーとしたときに負の固有複屈折率を示す(メタ)アクリレートモノマー(A)75〜99質量%(好ましくは80〜95質量%、より好ましくは85〜95質量%)と、ホモポリマーとしたときに正の固有複屈折率を示す(メタ)アクリレートモノマー(B)1〜25質量%(好ましくは5〜20質量%、より好ましくは5〜15質量%)との共重合体を含有する。
【0029】
また、本実施形態において、上記ダイリップからの上記溶融樹脂の吐出速度V(m/分)に対する上記キャストロールの表面速度V(m/分)の比V/Vは、1.2以上15以下である。
【0030】
このような光学フィルムは、配向複屈折及び光弾性複屈折がともに小さく、且つ、耐屈曲性、耐クラック特性、引張り強度等の機械特性に優れる。そのため、上記光学フィルムは、液晶表示装置等の光学関連機器に用いられる光学部材として、好適に使用することができる。
【0031】
(メタ)アクリレートモノマー(A)は、ホモポリマーが負の固有複屈折率を示すモノマー成分である。(メタ)アクリレートモノマー(A)としては、アルキルメタクリレートなどが挙げられ、具体的にはメチルメタクリレート、メチルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、エチルアダマンチルメタクリレート、メチルアダマンチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレートなどである。これらのうち、アクリルガラスと呼ばれる汎用樹脂の原料として大量に生産されているメチルメタクリレートが安価であり好ましい。
【0032】
(メタ)アクリレートモノマー(B)は、ホモポリマーが正の固有複屈折率を示すモノマーである。(メタ)アクリレートモノマー(B)としては、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェノキシジエチレングリコールメタクリレート、ビフェニルメタクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、ペンタフルオロベンジルメタクリレート、トリフルオロフェニルメタクリレート、トリハイドロパーフロロプロピルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フッ素置換芳香族基の(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
ここで、経済性を鑑みると、負の固有複屈折を示す(メタ)アクリレートモノマー(A)としては、メチルメタクリレートを用いることが好適であり、正の固有複屈折を示す(メタ)アクリレートモノマー(B)は上記の例示の中から適宜選ぶことができる。上記例示の中でも、(メタ)アクリレートモノマー(B)としては、ベンジルメタクリレート又はフェノキシエチルメタクリレートを用いることが好ましい。
【0034】
メチルメタクリレート/ベンジルメタクリレートあるいはメチルメタクリレート/フェノキシエチルメタクリレートの組み合せは、重合反応性比がほぼ1であり、特に好ましい組合せである。反応性比が1に近いほど、ランダム共重合性が高く、重合初期から終期までおおよそ同じ共重合組成比のポリマーが得られるので、本質的に相分離が起こりにくく、散乱損失の少なく、透明性が高い共重合体が得られやすい。一方、反応性比が異なると重合初期と重合後期では共重合比が異なり、ミクロな不均一構造ができやすくなる。共重合組成の差が大きいと異種ポリマーのブレンドと同じ現象が共重合体の中で起こり易くなり、著しく差が大きいと、ポリマーが白濁し光学用途には適さない場合がある。
【0035】
上記共重合体は、例えば、(メタ)アクリレートモノマー(A)と(メタ)アクリレートモノマー(B)を1種類ずつ選定し、これらを共重合させて得ることができる。また、(メタ)アクリレートモノマー(A)及び(メタ)アクリレートモノマー(B)をそれぞれ複数選定し、共重合させて共重合体を得ることもできる。
【0036】
上記共重合体は、選定した(メタ)アクリレートモノマー(A)及び(メタ)アクリレートモノマー(B)に、さらに他のモノマーを加えて共重合したものであってもよい。例えば、特開2001−233912号公報に記載されているように、メタクリル系樹脂にアルキルアクリレートを1〜5質量%の範囲で共重合させると、熱分解が抑制されることが知られている。したがって、(メタ)アクリレートモノマー(A)としてメタクリレートモノマーを選択した場合に、耐熱性の向上を目的として、例えば1〜5質量%の範囲でその一部をアルキルアクリレートに置き換えてもよい。
【0037】
(メタ)アクリレートモノマー(A)及び(メタ)アクリレートモノマー(B)としては、各々のホモポリマーとしたときの光弾性係数の符号が互いに逆となるようなモノマーを選定することが好ましい。このように選定された(メタ)アクリレートモノマー(A)及び(メタ)アクリレートモノマー(B)から得られる共重合体は、光弾性係数がより小さくなる傾向にある。
【0038】
上記共重合体の重量平均分子量は、5.0×10以上であることが好ましく、1.0×10以上であることがより好ましい。このような共重合体によれば、本実施形態の特定の製膜方法においてポリマー主鎖がより配向し易くなるため、一層優れた機械的特性が得られる。
【0039】
また、上記共重合体の重量平均分子量は、4.0×10以下であることが好ましく、3.0×10以下であることがより好ましい。このような共重合体によれば、溶融粘度が十分に低いため、より容易に製膜を行うことができる。
【0040】
なお、共重合体の重量平均分子量は、東ソー株式会社製のHLC−8220 GPCにより測定される。カラムは東ソー株式会社製のSuper−MultiporeHZ−Mを使用し、測定条件は流量0.35ml/min、カラム温度40℃とし、標準ポリスチレン分子量換算により求めた。
【0041】
共重合方法としては塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合のいずれも適用できる。ここで共重合方法の一例として、懸濁重合法を適用したときの一態様について詳細に説明する。
【0042】
本態様ではまず、所望の重量比率となるように(メタ)アクリレートモノマー(A)と(メタ)アクリレートモノマー(B)を計量し、懸濁重合装置に投入する。次いで、重合開始剤として日本油脂(株)社製のパーロイルTCPを1質量部、連鎖移動剤として1−オクタンチオールを0.1質量部、脱イオン水を400質量部、分散剤としてポリビニルアルコール(株式会社クラレ社製クラレポバール)を0.6質量部を合わせて投入する。ここで投入量の単位「質量部」は、(メタ)アクリレートモノマー(A)及び(メタ)アクリレートモノマー(B)の総量100質量部に対する各添加剤の重量比率である。また、上述の重合開始剤、連鎖移動剤、分散剤及び緩衝液の種類や投入量は一例であって、上記に限定されるものではない。
【0043】
次いで、懸濁重合装置の中でモノマー相と水相が懸濁するように攪拌しながら、65℃で2時間、その後さらに85℃で1時間重合させることにより、重量平均分子量が5.0×10以上4.0×10以下の共重合体を得ることができる。なお、共重合体の重量平均分子量は、重合開始剤や連鎖移動剤の種類や投入量、懸濁重合装置での反応温度や反応時間を変更することで、適宜調整することができる。
【0044】
本態様で得られる共重合体は粉体又は粒体であり、ろ過した後十分に洗浄して、後述する製膜工程に用いることができる。
【0045】
溶融樹脂は、上記共重合体以外の成分を含有していてもよい。このような成分としては、例えば、酸化防止剤、滑剤、紫外線吸収剤、安定剤等が挙げられる。
【0046】
溶融樹脂における共重合体の含有量は、溶融樹脂全量に対して、95〜100質量%であることが好ましく、99〜100質量%であることがより好ましい。
【0047】
本実施形態に係る光学フィルムは、溶融樹脂を押出機のダイリップからキャストロール上に連続的に吐出して製膜する製膜工程を備える製造方法により得ることができる。以下、光学フィルムの製造方法の一態様について詳細に説明する。
【0048】
本態様において、押出機は、溶融樹脂を吐出するダイリップ(Tダイ)を備え、当該ダイリップから溶融樹脂を所定の厚みでキャストロール上に連続的に吐出する。ダイリップから吐出された溶融樹脂は、キャストロールによって搬送されるとともに、必要に応じて冷却されることでフィルム成形(製膜)される。
【0049】
押出機は、溶融樹脂を所望の温度で押出することができる。本態様において、押出し温度は130℃以上300℃以下であることが好ましく、150℃以上280℃以下であることがより好ましい。押出し温度が130℃以上であると、上記共重合体を含む溶融樹脂が十分に溶融混練されるため、未溶融物がフィルム中に残存することが防止され、製造効率が一層向上する。また、押出し温度が300℃以下であると、熱分解によるフィルムの着色や、熱分解物のダイリップへの付着を防止することができる。
【0050】
本態様においては、ダイリップからの溶融樹脂の吐出速度をV(m/分)、キャストロールの表面速度をV(m/分)としたときに、その比V/Vが1.2以上15以下となるように、押出機のスクリュー回転数、キャストロールの回転速度、ダイリップのリップ間クリアランスを調整する。
【0051】
このようにして、溶融樹脂の吐出速度よりもキャストロールによる溶融樹脂の引き取り速度を速めることで、ダイリップとキャストロール上の着地点との間にある溶融樹脂が、伸張変形される。その結果、キャストロール上で冷却固化したフィルムが破断し難くなり、安定して搬送することが可能となる。
【0052】
このメカニズムとしては、ダイリップとキャストロール上の着地点との間で溶融樹脂が伸張変形する過程で、上記共重合体のポリマー主鎖が、フィルム面に対して平行に配向するためと考えられる。そして、上記溶融樹脂に対してこのような方法を採用することで、延伸によりポリマー主鎖を配向させた場合よりも配向複屈折率の上昇を抑えながら、耐クラック性を向上させることができるという優れた効果が得られる。
【0053】
ここで、ダイリップからの溶融樹脂の吐出速度Vの測定方法について詳述する。まず、1分間の間に吐出される溶融樹脂の体積VO(m)を求める。1分間の間に成形され、室温25℃まで冷却されたフィルムの幅をW(m)、長さをL(m)、膜厚をt(m)とし、室温25℃の状態から吐出される溶融樹脂の温度にしたときの樹脂の体積膨張率をα(−)とすると、体積VO(m)は次式(1)で表される。
VO=W×L×t×α …(1)
【0054】
樹脂の体積膨張率α(−)は、室温25℃のフィルムの密度をρ1(g/cm)とし、ダイリップより吐出されたときの温度における溶融樹脂の密度をρ2(g/cm)としたときに次式(2)で表される。
α=ρ1/ρ2 …(2)
【0055】
室温25℃のフィルムの密度ρ1(g/cm)は、水中置換法やピクノメーター法など、一般的に広く知られている方法で測定することができる。ダイリップより吐出されたときの温度における溶融樹脂の密度ρ2(g/cm)は、メルトマスフローレイトやメルトボリュームフローレイト測定装置である、株式会社東洋精機製作所のメルトインデックサF−F01を用いて測定することができる。
【0056】
ダイリップより1分間の間に吐出される溶融樹脂の体積VO(m)が求まったら、ダイリップ先端の開口断面積A(m)を用いて、次式(3)により、ダイリップより吐出される溶融樹脂の吐出速度V(m/分)を計算することができる。
=VO/A …(3)
【0057】
キャストロールの表面速度V(m/分)はキャストロールの外周速度で決まり、キャストロール上で冷却固化したフィルムの搬送速度と同意義である。
【0058】
押出機のダイリップには、通常、押し引きボルトにより、リップ間クリアランスを任意に調整できる機構が備わっている。このリップ間クリアランスの調整機構により、ダイリップ先端の開口断面積A(m)を調整し、溶融樹脂の吐出速度V(m/分)と、キャストロール表面速度V(m/分)との比を変更しても、膜厚が一定のフィルムを製膜することができるようになる。
【0059】
比V/Vは、1.2以上15以下であり、1.3以上10以下であることがより好ましく、1.4以上8以下であることがより好ましい。比V/Vが1.2より小さいと、キャストロール上で冷却固化したフィルムが脆いために、ライン搬送中に破断してしまい、フィルムを巻き取ることができない、或いは製膜工程と後述する延伸工程とが一貫ラインの場合には、延伸工程に原反フィルムを供することができない、という問題が発生する。すなわち、比V/Vが1.2より小さいと、安定して上記溶融樹脂を用いた光学フィルムを製造することができない。また、比V/Vが15より大きいと、原反フィルムの厚みムラが大きくなったり、ダイリップより吐出される溶融樹脂に穴が開くなどの問題が生じる。
【0060】
製膜工程により製膜されたフィルムは、必要に応じて延伸工程に供することができる。例えば、製膜工程を経たフィルムの引張り強度を測定したとき、フィルムの搬送方向の引張り強度と幅方向の引張り強度との和が140MPa未満のとき、より良好な耐クラック性を得るためにフィルムを延伸工程に供することが好ましい。上記和が140MPa以上であれば必ずしも延伸工程は必要ではない。
【0061】
延伸工程では、製膜工程により製膜されたフィルムを延伸する。延伸の方法としては、例えば、周速差を利用したロール間縦延伸や、テンター装置による横延伸があり、これらを組み合わせた逐次2軸延伸法も適用できる。また、テンター延伸装置において、フィルム端部を把持するクリップ間隔がフィルムの搬送方向にも拡がる同時2軸延伸装置を用いてもよい。
【0062】
延伸装置としては押し出し製膜機と一貫ラインでもよく、押し出し製膜機により巻き取った原反をオフラインで延伸装置に送り出して延伸する方法でもよい。
【0063】
延伸温度としては原反フィルムのガラス転移温度をTg(℃)としたときにTg+2℃以上、Tg+20℃以下が好ましく、Tg+5℃以上、Tg+15℃以下がさらに好ましい。延伸温度がTg+2℃より低い場合は、延伸中にフィルムが破断したり、フィルムのヘイズが上昇しやすいという問題が生じる場合があり、Tg+20℃よりも高い場合はポリマー主鎖が配向し難く、延伸しても十分なポリマー主鎖配向度が得られない場合がある。
【0064】
延伸倍率としては、少なくとも1方向に対し1.1倍以上3倍以下の範囲とするのが好ましい。延伸倍率が1.1倍よりも小さいと、ポリマー主鎖を配向させてフィルムの耐クラック性を向上させる効果がほとんどない。延伸倍率が3倍よりも大きいと、フィルムが白濁したり、フィルムが破断するなどの問題が生じる場合がある。
【0065】
以下、光学フィルムの諸特性について詳述する。
【0066】
光学フィルムの膜厚は、10μm以上150μm以下であることが好ましく、15μm以上120μm以下であることがより好ましく、さらに好ましくは20μm以上100μm以下の範囲である。光学フィルムの膜厚が10μm以上であると、光学フィルムを偏光板に張り合わせる場合等における光学フィルムの取り扱い性がより良好となる。また、膜厚が150μm以下であると、ヘイズの増加を十分に抑えることができ、単位面積あたりの材料コストの増加も抑えることができる。
【0067】
光学フィルムの配向複屈折性は、Axometrics社製Axoscan装置にてフィルムの面内位相差値であるレタデーション(Re)と厚み方向位相差値であるRthを測定して評価することができる。
【0068】
Reは、フィルム面内の1方向の屈折率をnx、それと直行する方向の屈折率をny、フィルムの厚みをd(nm)としたとき次式(4)で表される。
Re=(nx−ny)×d (nm) …(4)
【0069】
Rthはフィルム面内の1方向の屈折率をnx、それと直行する方向の屈折率をny、フィルムの厚み方向の屈折率をnz、フィルムの厚みをd(nm)としたとき次式(5)で表される。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d (nm) …(5)
【0070】
液晶表示装置の偏光板保護フィルムなどに用いられる、低複屈折性の光学フィルムとしては、ReとRthの絶対値が小さいほど像質が向上する。ReとRthの絶対値をともに8nm以下にすることが好ましく、より好ましくは5nm以下、さらに好ましくは3nm以下である。
【0071】
本実施形態においては、ReとRthの絶対値が例えば8nm以下となるように、(メタ)アクリレートモノマー(A)及び(メタ)アクリレートモノマー(B)の種類を選択し、共重合比率を調整し、上記比V/Vを調整し、さらに必要に応じて延伸工程での延伸倍率を調整することができる。
【0072】
光学フィルムの光弾性複屈折は、配向複屈折性と同じくAxometrics社製Axoscan装置にてフィルムの位相差値であるレタデーション(Re)のフィルムにかけた応力による変化量を測定し、光弾性係数C[1/Pa]として求められる。具体的な光弾性係数Cの算出方法は次式(6)のとおりである。
C=ΔRe/(Δσ×t) …(6)
【0073】
Δσはフィルムにかかった応力の変化量で単位は[Pa]、tはフィルムの膜厚で単位は[m]、ΔReはΔσの応力の変化量に対応した面内位相差値の変化量で単位は[m]である。
【0074】
液晶表示装置の偏光板保護フィルムなどに用いられる、低複屈折性の光学フィルムとしては、光弾性係数Cの絶対値が小さいほど像質が向上する。光弾性係数Cは、好ましくは8×10−12(/Pa)以下であり、より好ましくは5×10−12(/Pa)以下であり、さらに好ましくは3×10−12(/Pa)以下である。
【0075】
本実施形態においては、光弾性係数Cが例えば8×10−12(/Pa)以下となるように、(メタ)アクリレートモノマー(A)及び(メタ)アクリレートモノマー(B)の種類を選択し、共重合比率を調整し、上記比V/Vを調整し、さらに必要に応じて延伸工程での延伸倍率を調整することができる。
【0076】
光学フィルムの引張り強度は、株式会社東洋精機社製のストログラフEII、型式EII−L05を使用し、JIS K7161の規格に準拠して測定することができる。引張り強度とは、引張り試験中に加わった最大引張り応力のことで、引張り強さとも呼ばれる。単位は(Mpa)である。
【0077】
一般に、ポリマーフィルムの引張り強度は、モノマーの種類や共重合比率により変わるだけでなく、ポリマー主鎖の配向状態によっても変わってくる。例えば、ポリマー主鎖が配向している方向の引張り強度は上昇し、ポリマー主鎖が配向している方向とは垂直方向の引張り強度は低下する。2軸延伸フィルムのように、フィルムの面に対してポリマー主鎖が平行に配向しているフィルムは、フィルムの搬送方向と、幅方向ともに引張り強度は上昇する。したがって、フィルムの搬送方向引張り強度と、幅方向引張り強度との和は、フィルムの面に対してポリマー主鎖がどれだけ平行に配向しているかを知るひとつの指標となる。
【0078】
本実施形態において、光学フィルムの搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和は、好ましくは140Mpa以上330Mpa以下であり、より好ましくは150MPa以上310MPa以下であり、さらに好ましくは160MPa以上300MPa以下である。上記和が上記範囲となるように光学フィルムを製造することにより、上記溶融樹脂を用いた場合において、一層優れた低複屈折性と耐クラック性とを両立する光学フィルムを製造することができる。
【0079】
上記和が140Mpa以上であると、光学フィルムとして好適な機械的強度が得られ、クラック等の発生を十分に抑制することができる。また上記和が330MPa以下であると、厚み方向位相差値であるRthが一層小さくなるとともに、ヘイズの上昇が十分に抑制され、優れた透明性が得られる。そのため、このような光学フィルムは、液晶表示装置の偏光板保護フィルム等の用途に一層好適に用いることができる。
【0080】
次いで、光学フィルムの耐クラック性評価方法について説明する。耐クラック性を評価する簡便な方法として、フィルムを−180°から180°に繰り返し折り曲げたときに破断した回数で評価する方法が挙げられる。フィルムの搬送方向に折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に折り曲げたときに破断してしまう回数との和が10(回)以上であると、耐クラック性が良好であり、光学フィルムとしての使用により好適である。
【0081】
例えば、偏光板保護フィルムの耐クラック性評価方法として、ガラス基盤にのりを介しフィルムを張り合わせ、−20℃から60℃の範囲で昇温、降温を30分間隔で500サイクル繰り返すヒートショック試験が知られているが、上述の折り曲げ試験で破断してしまう折り曲げ回数の和が10回以上であると、ヒートショック試験でもクラックの発生が十分に抑制される。したがって、フィルムの折り曲げ試験において、搬送方向に繰り返し折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に繰り返し折り曲げたときに破断してしまう回数との和が10(回)以上であると、ヒートショック試験の観点からも光学フィルムとしてより良好な耐クラック性を有しているといえる。
【0082】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0083】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0084】
(実施例1)
(メタ)アクリレートモノマー(A)としてメチルメタクリレートを、(メタ)アクリレートモノマー(B)としてベンジルメタクリレートを選択し、上述の懸濁重合法によりメチルメタクリレート98質量%及びベンジルメタクリレート2質量%を共重合して、粒子状のポリマー(以下、場合により「ポリマー(A−1)」という。)を得た。得られたポリマー(A−1)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、105℃であった。
【0085】
この粒子状のポリマー(A−1)をテクノベル社製の2軸スクリュー式押し出し機KZW−30MGにてフィルムとした。2軸押し出し機のスクリュー径は15mm、スクリュー有効長(L/D)は30であり、押し出し機にはアダプタを介し、ハンガーコートタイプのTダイが設置されている。Tダイのリップ部には、押し引きボルトにより、リップ間クリアランスを20(μm)から1000(μm)の範囲で任意に調整できる機構が備わっている。このリップ間クリアランスの調整機構により、溶融樹脂の吐出速度V(m/分)と、キャストロール表面速度V(m/分)との比を変更しても、膜厚が一定のフィルムを製膜することができる。Tダイリップよりポリマーの溶融体がカーテン状となり冷却ロール上に吐出され、室温まで冷却されながら搬送され、巻き取りロールに巻き取られてフィルムとなる。押し出し温度Tp(℃)に関しては、一般的にガラス転移温度がTg(℃)である非結晶性ポリマーの場合、式(7)が最適となることが知られているため、これに習い219℃とした。
Tp=5(Tg+70)/4 …(7)
【0086】
ここで、Tダイのリップより吐出された溶融樹脂の吐出速度Vは0.4(m/分)、キャストロール表面速度Vは1.0(m/分)であり、その比V/Vは2.5(−)であった。得られたフィルムの厚みは40(μm)であり、面内位相差Reを測定した結果は−4.0(nm)、厚み方向位相差Rthは−3.5(nm)であった。光弾性係数Cは−3.5×10−12(1/Pa)であった。
【0087】
得られたフィルムの引張り強度を測定した結果、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和が143(Mpa)であった。折り曲げ試験の結果、フィルムの搬送方向に折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に折り曲げたときに破断してしまう回数との和が10(回)であった。
【0088】
得られたフィルムの目視検査では白濁なく、透明性に優れたものであり、フィルムのReとRthの絶対値がともに8(nm)以下かつ光弾性係数Cも8×10−12(1/Pa)以下であるため、液晶表示装置の偏光板保護フィルムとして使用しても、像質の悪化は認められなかった。また、フィルムの搬送方向に折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に折り曲げたときに破断してしまう回数との和が10(回)以上であったため、偏光板のヒートショック試験に耐え得るもので、耐クラック性も問題なかった。得られたフィルムは透明性に優れたものであり、低複屈折性と耐クラック性が両立している光学フィルムであった。
【0089】
(実施例2)
Tダイのリップより吐出された溶融樹脂の吐出速度Vを0.25(m/分)、キャストロール表面速度Vを1.0(m/分)として、その比V/Vを4(−)としたこと以外は、実施例1と同様にしてフィルムを製造した。
【0090】
得られたフィルムの厚みは40(μm)であり、面内位相差Reを測定した結果は−8.0(nm)、厚み方向位相差Rthは−7.0(nm)であった。光弾性係数Cは−3.5×10−12(1/Pa)であった。また、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和は166(Mpa)、フィルムの搬送方向に折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に折り曲げたときに破断してしまう回数との和は18(回)であった。
【0091】
得られたフィルムは透明性に優れたものであり、低複屈折性と耐クラック性が両立した光学フィルムであった。
【0092】
(実施例3)
(メタ)アクリレートモノマー(A)としてメチルメタクリレートを、(メタ)アクリレートモノマー(B)としてベンジルメタクリレートを選択し、上述の懸濁重合法によりメチルメタクリレート92質量%及びベンジルメタクリレート8質量%を共重合して、粒子状のポリマー(以下、場合により「ポリマー(A−2)」)という。)を得た。得られたポリマー(A−2)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、103℃であった。
【0093】
ポリマー(A−1)にかえてポリマー(A−2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてフィルムを製造した。なお、実施例3において、Tダイのリップより吐出された溶融樹脂の吐出速度Vは0.4(m/分)、キャストロール表面速度Vは1.0(m/分)であり、その比V/Vは2.5(−)である。
【0094】
得られたフィルムの厚みは40(μm)であり、正面位相差Reを測定した結果は−1.0(nm)、厚み方向位相差Rthは−1.0(nm)であった。光弾性係数Cは0.1×10−12(1/Pa)であった。また、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和は160(Mpa)、フィルムの搬送方向に折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に折り曲げたときに破断してしまう回数との和は20(回)であった。
【0095】
得られたフィルムは透明性に優れたものであり、低複屈折性と耐クラック性が両立した光学フィルムであった。
【0096】
(実施例4)
Tダイのリップより吐出された溶融樹脂の吐出速度Vを0.25(m/分)、キャストロール表面速度Vを3.75(m/分)として、その比V/Vが15(−)としたこと以外は、実施例3と同様にしてフィルムを製造した。
【0097】
得られたフィルムの厚みは40(μm)であり、面内位相差Reを測定した結果は−5.0(nm)、厚み方向位相差Rthは−3.0(nm)であった。光弾性係数Cは0.1×10−12(1/Pa)であった。また、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和は180(Mpa)、フィルムの搬送方向に折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に折り曲げたときに破断してしまう回数との和は40(回)であった。
【0098】
得られたフィルムは透明性に優れたものであり、低複屈折性と耐クラック性が両立した光学フィルムであった。
【0099】
(実施例5)
Tダイのリップより吐出された溶融樹脂の吐出速度Vを1.0(m/分)、キャストロール表面速度Vを1.2(m/分)とし、その比V/Vを1.2(−)としたこと以外は、実施例3と同様にしてフィルムを製造した。得られたフィルムの膜厚は40(μm)であったが、フィルムの引張り強度を測定した結果、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和が140(Mpa)未満であった。
【0100】
そこで、比V/Vを1.2(−)としたまま、延伸工程後の膜厚が40(μm)となるよう、製膜工程における押出し機スクリュー回転数、キャストロールの回転速度及びTダイのリップ間クリアランスを調整して、再度フィルムを製造した。
【0101】
得られたフィルムについて、井本製作所(株)社製のフィルム延伸機IMC−190Aにて自由端1軸延伸を施し、延伸フィルムを得た。延伸倍率は搬送方向に1.2倍(−)、延伸速度は2.9倍/分、延伸温度は(ガラス転移温度)+9℃となるように112℃とした。延伸後のフィルム膜厚は40μmであった。
【0102】
得られた延伸フィルムの面内位相差Reは−6.5(nm)、厚み方向位相差Rthは−4.0(nm)であった。光弾性係数Cは0.1×10−12(1/Pa)であった。また、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和が165(Mpa)、フィルムの搬送方向に折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に折り曲げたときに破断してしまう回数との和が20(回)であった。
【0103】
得られた延伸フィルムは透明性に優れたものであり、低複屈折性と耐クラック性が両立した光学フィルムであった。
【0104】
(実施例6)
延伸工程における延伸方法を2軸延伸とし、搬送方向と幅方向を同時に1.2倍の延伸倍率で延伸したこと以外は、実施例5と同様の方法で延伸フィルムを製造した。
【0105】
なお、実施例6においても、製膜工程における比V/Vが1.2(−)のまま、延伸後に膜厚が40(μm)となるよう、押出し機スクリュー回転数とTダイのリップ間クリアランスを調整した。また、実施例5と同様に、延伸速度は搬送方向と幅方向ともに2.9倍/分、延伸温度は(ガラス転移温度)+9℃となるように112℃とした。
【0106】
得られた延伸フィルムの面内位相差Reは−1.0(nm)、厚み方向位相差Rthは−8.0(nm)であった。光弾性係数Cは0.1×10−12(1/Pa)であった。また、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和は200(Mpa)、フィルムの搬送方向に折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に折り曲げたときに破断してしまう回数との和は66(回)であった。
【0107】
得られた延伸フィルムは透明性に優れたものであり、低複屈折性と耐クラック性が両立した光学フィルムであった。
【0108】
(実施例7)
(メタ)アクリレートモノマー(A)としてメチルメタクリレートを、(メタ)アクリレートモノマー(B)としてベンジルメタクリレートを選択し、上述の懸濁重合法によりメチルメタクリレート82質量%、ベンジルメタクリレート18質量%を共重合して、粒子状のポリマー(以下、場合により「ポリマー(A−3)」という。)を得た。得られたポリマー(A−3)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、101℃であった。
【0109】
ポリマー(A−1)にかえてポリマー(A−3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてフィルムを製造した。なお、実施例7において、Tダイのリップより吐出された溶融樹脂の吐出速度Vは0.4(m/分)、キャストロール表面速度Vは1.0(m/分)とし、その比V/Vは2.5(−)とした。得られたフィルムの厚みは40(μm)であり、面内位相差Reを測定した結果は0.5(nm)、厚み方向位相差Rthは0.5(nm)であった。光弾性係数Cは6.0×10−12(1/Pa)であった。また、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和は160(Mpa)、フィルムの搬送方向に折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に折り曲げたときに破断してしまう回数との和は22(回)であった。
【0110】
得られたフィルムは透明性に優れたものであり、低複屈折性と耐クラック性が両立した光学フィルムであった。
【0111】
(実施例8)
Tダイのリップより吐出された溶融樹脂の吐出速度Vを1.0(m/分)、キャストロール表面速度Vを1.2(m/分)とし、その比V/Vを1.2(−)としたこと以外は、実施例7と同様にしてフィルムを製造した。得られたフィルムの膜厚は40(μm)であったが、フィルムの引張り強度を測定した結果、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和が140(Mpa)未満であった。
【0112】
そこで、比V/Vを1.2(−)としたまま、延伸工程後の膜厚が40(μm)となるよう、製膜工程における押出し機スクリュー回転数、キャストロールの回転速度及びTダイのリップ間クリアランスを調整して、再度フィルムを製造した。
【0113】
得られたフィルムについて、井本製作所(株)社製のフィルム延伸機IMC−190Aにて同時2軸延伸を施し、延伸フィルムを得た。延伸倍率は搬送方向、幅方向ともに1.8倍(−)、延伸速度は2.9倍/分、延伸温度は(ガラス転移温度)+9℃となるように110℃とし、延伸後のフィルム膜厚は40(μm)であった。
【0114】
得られた延伸フィルムの面内位相差Reは1.0(nm)、厚み方向位相差Rthは2.0(nm)であった。光弾性係数Cは6.0×10−12(1/Pa)であった。また、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和は325(Mpa)、フィルムの搬送方向に折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に折り曲げたときに破断してしまう回数との和は289(回)であった。
【0115】
得られたフィルムは透明性に優れたものであり、低複屈折性と耐クラック性が両立した光学フィルムであった。
【0116】
(実施例9)
(メタ)アクリレートモノマー(A)としてメチルメタクリレートを、(メタ)アクリレートモノマー(B)としてフェノキシエチルメタクリレートを選択し、上述の懸濁重合法によりメチルメタクリレート92質量%及びフェノキシエチルメタクリレート8質量%を共重合して、粒子状のポリマー(以下、場合により「ポリマー(B−1)」という。)を得た。得られたポリマー(B−1)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、103℃であった。
【0117】
ポリマー(A−1)にかえてポリマー(B−1)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてフィルムを製造した。なお、実施例9において、Tダイのリップより吐出された溶融樹脂の吐出速度Vは0.4(m/分)、キャストロール表面速度Vは1.0(m/分)とし、その比V2/V1は2.5(−)とした。得られたフィルムの厚みは40(μm)であり、面内位相差Reを測定した結果は−2.0(nm)、厚み方向位相差Rthは−2.0(nm)であった。光弾性係数Cは−1.0×10−12(1/Pa)であった。また、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和は160(Mpa)、フィルムの搬送方向に折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に折り曲げたときに破断してしまう回数との和は18(回)であった。
【0118】
得られたフィルムは透明性に優れたものであり、低複屈折性と耐クラック性が両立した光学フィルムであった。
【0119】
(実施例10)
Tダイのリップより吐出された溶融樹脂の吐出速度Vを1.0(m/分)、キャストロール表面速度Vを1.2(m/分)とし、その比V/Vを1.2(−)としたこと以外は、実施例9と同様にしてフィルムを製造した。得られたフィルムの膜厚は40(μm)であったが、フィルムの引張り強度を測定した結果、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和が140(Mpa)未満であった。
【0120】
そこで、比V/Vを1.2(−)としたまま、延伸工程後の膜厚が40(μm)となるよう、製膜工程における押出し機スクリュー回転数、キャストロールの回転速度及びTダイのリップ間クリアランスを調整して、再度フィルムを製造した。
【0121】
得られたフィルムについて、井本製作所(株)社製のフィルム延伸機IMC−190Aにて自由端1軸延伸を施し、延伸フィルムを得た。延伸倍率は搬送方向に1.2倍(−)、延伸速度は2.9倍/分、延伸温度は(ガラス転移温度)+9℃となるように112℃とし、延伸後のフィルム膜厚は40μmであった。
【0122】
得られた延伸フィルムの面内位相差Reは−4.0(nm)、厚み方向位相差Rthは−3.0(nm)であった。光弾性係数Cは−1.0×10−12(1/Pa)であった。また、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和は160(Mpa)、フィルムの搬送方向に折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に折り曲げたときに破断してしまう回数との和は15(回)であった。
【0123】
得られた延伸フィルムは透明性に優れたものであり、低複屈折性と耐クラック性が両立した光学フィルムであった。
【0124】
(実施例11)
(メタ)アクリレートモノマー(A)としてメチルメタクリレートを、(メタ)アクリレートモノマー(B)としてフェノキシエチルメタクリレートを選択し、上述の懸濁重合法により、メチルメタクリレート82質量%及びフェノキシエチルメタクリレート18質量%を共重合して、粒子状のポリマー(以下、場合により「ポリマー(B−2)」という。)を得た。得られたポリマー(B−2)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、101℃であった。
【0125】
ポリマー(A−1)にかえてポリマー(B−2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてフィルムを製造した。なお、実施例11において、Tダイのリップより吐出された溶融樹脂の吐出速度Vは0.4(m/分)、キャストロール表面速度Vは1.0(m/分)とし、その比V/Vは2.5(−)とした。得られたフィルムの厚みは40(μm)であり、面内位相差Reを測定した結果は1.0(nm)、厚み方向位相差Rthは0.5(nm)であった。光弾性係数Cは4.0×10−12(1/Pa)であった。また、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和は145(Mpa)、フィルムの搬送方向に折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に折り曲げたときに破断してしまう回数との和は11(回)であった。
【0126】
得られたフィルムは透明性に優れたものであり、低複屈折性と耐クラック性が両立した光学フィルムであった。
【0127】
(実施例12)
Tダイのリップより吐出された溶融樹脂の吐出速度Vを1.0(m/分)、キャストロール表面速度Vを1.2(m/分)とし、その比V/Vを1.2(−)としたこと以外は、実施例11と同様にしてフィルムを製造した。得られたフィルムの膜厚は40(μm)であったが、製膜工程を経たフィルムの引張り強度を測定した結果、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和が140(Mpa)未満であった。
【0128】
そこで、比V/Vを1.2(−)としたまま、延伸工程後に膜厚が40(μm)となるよう、製膜工程における押出し機スクリュー回転数、キャストロールの回転速度及びTダイのリップ間クリアランスを調整して、再度フィルムを製造した。
【0129】
得られたフィルムについて、井本製作所(株)社製のフィルム延伸機IMC−190Aにて同時2軸延伸を施し、延伸フィルムを得た。延伸倍率は搬送方向、幅方向ともに1.2倍(−)、延伸速度は2.9倍/分、延伸温度は(ガラス転移温度)+9℃となるように110℃とし、延伸後のフィルム膜厚は40μmであった。
【0130】
得られた延伸フィルムの面内位相差Reを測定した結果は1.0(nm)、厚み方向位相差Rthは2.0(nm)であった。光弾性係数Cは4.0×10−12(1/Pa)であった。また、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和は200(Mpa)、フィルムの搬送方向に折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に折り曲げたときに破断してしまう回数との和は150(回)であった。
【0131】
得られた延伸フィルムは透明性に優れたものであり、低複屈折性と耐クラック性が両立した光学フィルムであった。
【0132】
(実施例13)
(メタ)アクリレートモノマー(A)としてメチルメタクリレートを、(メタ)アクリレートモノマー(B)としてフェノキシエチルメタクリレートを選択し、上述の懸濁重合法により、メチルメタクリレート75質量%及びフェノキシエチルメタクリレート25質量%を共重合して、粒子状のポリマー(以下、場合により「ポリマー(B−3)」という。)を得た。得られたポリマー(B−3)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、95℃であった。
【0133】
ポリマー(A−1)にかえてポリマー(B−3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてフィルムを製造した。なお、実施例13において、Tダイのリップより吐出された溶融樹脂の吐出速度Vは0.4(m/分)、キャストロール表面速度Vは1.0(m/分)とし、その比V/Vは2.5(−)とした。得られたフィルムの厚みは40(μm)であり、面内位相差Reを測定した結果は6.0(nm)、厚み方向位相差Rthは5.0(nm)であった。光弾性係数Cは7.5×10−12(1/Pa)であった。また、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和は140(Mpa)、フィルムの搬送方向に折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に折り曲げたときに破断してしまう回数との和は11(回)であった。
【0134】
得られたフィルムは透明性に優れたものであり、低複屈折性と耐クラック性が両立した光学フィルムであった。
【0135】
(実施例14)
実施例13と同じポリマー(B−3)を用い、延伸工程後の膜厚が40(μm)となるよう、製膜工程における押出し機スクリュー回転数及びTダイのリップ間クリアランスを調整して、フィルムを製造した。Tダイのリップより吐出された溶融樹脂の吐出速度Vは0.4(m/分)、キャストロール表面速度Vは1.0(m/分)とし、その比V/Vを2.5(−)とした。得られたフィルムについて、井本製作所(株)社製のフィルム延伸機IMC−190Aにて同時2軸延伸を施し、延伸フィルムを得た。延伸倍率は搬送方向、幅方向ともに1.2倍(−)、延伸速度は2.9倍/分、延伸温度は(ガラス転移温度)+9℃となるように104℃とした。延伸後のフィルム膜厚は40μmであった。
【0136】
得られた延伸フィルムの面内位相差Reを測定した結果は7.0(nm)、厚み方向位相差Rthは8.0(nm)であった。光弾性係数Cは7.5×10−12(1/Pa)であった。また、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和は150(Mpa)、フィルムの搬送方向に折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に折り曲げたときに破断してしまう回数との和は18(回)であった。
【0137】
得られた延伸フィルムは透明性に優れたものであり、低複屈折性と耐クラック性が両立した光学フィルムであった。
【0138】
(実施例15)
Tダイのリップより吐出された溶融樹脂の吐出速度Vを0.25(m/分)、キャストロール表面速度Vを1.0(m/分)とし、その比V/Vを4.0(−)としたこと以外は、実施例13と同様にしてフィルムを製造した。
【0139】
得られたフィルムの面内位相差Reは8.0(nm)、厚み方向位相差Rthは7.5(nm)であった。光弾性係数Cは7.5×10−12(1/Pa)であった。また、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和は150(Mpa)、フィルムの搬送方向に折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に折り曲げたときに破断してしまう回数との和は18(回)であった。
【0140】
得られたフィルムは透明性に優れたものであり、低複屈折性と耐クラック性が両立した光学フィルムであった。
【0141】
(比較例1)
上述の懸濁重合法により、メチルメタクリレート100質量%からなる粒子状のホモポリマーを重合した。メチルメタクリレートのホモポリマーは負の固有複屈折率と負の光弾性係数を有していた。得られたポリマーの重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、109℃であった。
【0142】
得られたホモポリマーを用いて、実施例1と同様の方法でフィルムを製造した。このとき、Tダイのリップより吐出された溶融樹脂の吐出速度Vは1.0(m/分)、キャストロール表面速度Vは1.2(m/分)とし、その比V/Vは1.2(−)とした。得られたフィルムの厚みは40(μm)であり、面内位相差Reを測定した結果は−3.0(nm)、厚み方向位相差Rthは−2.5(nm)であった。光弾性係数Cは−4.5×10−12(1/Pa)であった。
【0143】
得られたフィルムの引張り強度を測定した結果、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和は130(Mpa)であった。折り曲げ試験の結果、フィルムの搬送方向に折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に折り曲げたときに破断してしまう回数との和は4(回)であった。
【0144】
得られたフィルムの目視検査では白濁なく、透明性に優れたものであり、フィルムのReとRthの絶対値がともに8(nm)以下かつ光弾性係数Cも8×10−12(1/Pa)以下であるため、液晶表示装置の偏光板保護フィルムとして使用しても、像質の悪化は認められなかった。しかし、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和が130(Mpa)と低く、フィルムの搬送方向に折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に折り曲げたときに破断してしまう回数との和が10(回)未満であり、偏光板のヒートショック試験の結果、クラックが発生するフィルムであった。すなわち、このフィルムは耐クラック性が低く光学フィルムとしては使用し難いことが分かった。
【0145】
(比較例2)
比較例1のメチルメタクリレートのホモポリマーからなるフィルムは、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和が130(Mpa)と低いために、耐クラック性が低く光学フィルムとしては使用し難いことが分かった。そこで、比較例2では、フィルムを延伸した。具体的には、Tダイのリップより吐出された溶融樹脂の吐出速度Vは1.0(m/分)、キャストロール表面速度Vは1.2(m/分)とし、その比V/Vを1.2(−)のまま、延伸工程後に膜厚が40(μm)となるよう、製膜工程における、押出し機スクリュー回転数とTダイのリップ間クリアランスを調整して、フィルムを作製した。
【0146】
得られたフィルムを、井本製作所(株)社製のフィルム延伸機IMC−190Aにて同時2軸延伸を施し、延伸フィルムサンプルを得た。延伸倍率は搬送方向、幅方向ともに1.2倍(−)、延伸速度は2.9倍/分、延伸温度は(ガラス転移温度)+9℃となるように110℃とした。延伸後のフィルム膜厚は40μmであった。
【0147】
得られた延伸フィルムの面内位相差Reを測定した結果は−6.0(nm)、厚み方向位相差Rthは−12.0(nm)であった。光弾性係数Cは−4.5×10−12(1/Pa)であった。また、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和は139(Mpa)、フィルムの搬送方向に折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に折り曲げたときに破断してしまう回数との和は9(回)であった。
【0148】
得られたフィルムの目視検査では白濁なく、透明性に優れたものであったが、厚み方向位相差Rthの絶対値が8(nm)よりも大きく、液晶表示装置の偏光板保護フィルムとして使用したときに、像質の悪化が認められた。また、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和が140(Mpa)未満であり、フィルムの搬送方向に折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に折り曲げたときに破断してしまう回数との和も10(回)未満であったために、偏光板のヒートショック試験でもクラックが発生するフィルムであった。メチルメタクリレートのホモポリマーを材料とした場合、フィルムの延伸を施しても、偏光板保護フィルムとして必要な低複屈折性と耐クラック性を兼ね備えたものを作成することができなかった。
【0149】
(比較例3)
比較例1と同じメチルメタクリレートのホモポリマーを重合した。得られたメチルメタクリレートのホモポリマーを、比較例1よりもポリマー主鎖がフィルム面に配向する方法にて押出し製膜した。すなわち、Tダイのリップより吐出された溶融樹脂の吐出速度Vを0.25(m/分)、キャストロール表面速度Vを1.0(m/分)とし、その比V/Vを4(−)とした。得られたフィルムの厚みは40(μm)であり、面内位相差Reを測定した結果は−9.0(nm)、厚み方向位相差Rthは−8.5(nm)であった。光弾性係数Cは−4.5×10−12(1/Pa)であった。
【0150】
得られたフィルムの引張り強度を測定した結果、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和は140(Mpa)であった。折り曲げ試験の結果、フィルムの搬送方向に折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に折り曲げたときに破断してしまう回数との和は10(回)であった。
【0151】
得られたフィルムの搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和が140(Mpa)であり、フィルムの搬送方向に折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に折り曲げたときに破断してしまう回数との和も10(回)であったために、偏光板のヒートショック試験において辛うじてクラックの発生はなかった。しかし、得られたフィルムの目視検査では白濁なく、透明性に優れたものであったが、面内位相差Reの絶対値が8(nm)よりも大きく、液晶表示装置の偏光板保護フィルムとして使用したときに、像質の悪化が認められた。メチルメタクリレートのホモポリマーを材料とした場合、製膜工程で比V/Vの値を大きくしても、偏光板保護フィルムとして必要な低複屈折性と耐クラック性を兼ね備えたものを作成することができなかった。
【0152】
(比較例4)
実施例3と同様にしてポリマー(A−2)を得た。このポリマー(A−2)を押出し機に投入し、Tダイのリップより吐出される溶融樹脂の吐出速度Vを1.0(m/分)、キャストロール表面速度Vを1.15(m/分)とし、その比V/Vが1.15(−)となるように、押出し機スクリュー回転数とTダイのリップ間クリアランスを調整して、厚み40(μm)のフィルムの製膜を試みた。しかし、キャストロール上で冷却固化したフィルムをパスロールにより搬送している最中、または巻き取りロールにフィルムを巻き取っている最中にフィルムが破断してしまい、安定してフィルムを作成することができなかった。
【0153】
(比較例5)
実施例3と同様にしてポリマー(A−2)を得た。このポリマー(A−2)を押出し機に投入し、Tダイのリップより吐出される溶融樹脂の吐出速度Vを0.24(m/分)、キャストロール表面速度Vを3.84(m/分)とし、その比V/Vが16(−)となるように、押出し機スクリュー回転数とTダイのリップ間クリアランスを調整して、厚み40(μm)のフィルムの製膜を試みた。しかし、Tダイのリップ先端と、キャストロールの間にある溶融樹脂が不均一に伸張変形してしまい、フィルムの厚いところでは80(μm)、薄いところでは10(μm)といった厚みムラの大きいフィルムしか作成できなかった。
【0154】
(比較例6)
実施例7と同様にしてポリマー(A−3)を得た。このポリマー(A−3)を押出し機に投入し、Tダイのリップより吐出される溶融樹脂の吐出速度Vを0.4(m/分)、キャストロール表面速度Vを1.0(m/分)とし、その比V/Vが2.5(−)となるようにフィルムを製膜した。得られたフィルムについて、実施例8と同じ装置で2軸延伸を施し、延伸フィルムサンプルを得た。延伸倍率は搬送方向、幅方向ともに3.1倍(−)、延伸速度は2.9倍/分、延伸温度は(ガラス転移温度)+9℃となるように110℃とし、延伸後のフィルム膜厚は40μmであった。
【0155】
得られた延伸フィルムの面内位相差Reを測定した結果は1.5(nm)、厚み方向位相差Rthは2.5(nm)であった。光弾性係数Cは6.0×10−12(1/Pa)であった。また、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和は340(Mpa)、フィルムの搬送方向に折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に折り曲げたときに破断してしまう回数との和は330(回)であった。
【0156】
このフィルムを目視検査した結果、白濁しており、透明性が損なわれていた。そのため、液晶表示装置の偏光板保護フィルムとして使用したときに、像質の悪化が認められた。
【0157】
(比較例7)
(メタ)アクリレートモノマー(A)としてメチルメタクリレートを、(メタ)アクリレートモノマー(B)としてフェノキシエチルメタクリレートを選択し、上述の懸濁重合法によりメチルメタクリレート55質量%及びフェノキシエチルメタクリレート45質量%を共重合して、粒子状のポリマー(以下、「ポリマー(B−4)」という。)を重合した。得られたポリマー(B−4)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、85℃であった。
【0158】
このポリマー(B−4)を押出し製膜機に投入し、フィルムを得た。Tダイのリップより吐出された溶融樹脂の吐出速度Vは0.25(m/分)、キャストロール表面速度Vは3.75(m/分)とし、その比V/Vは15(−)とした。得られたフィルムの厚みは40(μm)であり、面内位相差Reを測定した結果は23.0(nm)、厚み方向位相差Rthは18.0(nm)であった。光弾性係数Cは18.0×10−12(1/Pa)であった。また、搬送方向引張り強度と幅方向引張り強度との和は140(Mpa)、フィルムの搬送方向に折り曲げたときに破断してしまう折り曲げ回数と、幅方向に折り曲げたときに破断してしまう回数との和は11(回)であった。
【0159】
得られたフィルムは透明性に優れたものであったが、フィルムのReとRthの絶対値がともに8(nm)よりも大きく、かつ光弾性係数Cも8×10−12(1/Pa)よりも大きく、液晶表示装置の偏光板保護フィルムとして使用した場合に、像質が悪化した。メチルメタクリレート55質量%及びフェノキシエチルメタクリレート45質量%からなるポリマーを材料とした場合、偏光板保護フィルムとして必要な低複屈折性と耐クラック性を兼ね備えたものを作成することができなかった。
【0160】
実施例及び比較例の結果を表1〜4に示す。なお、表中、透明性目視評価の結果は、白濁が無く透明性に優れたものをA、白濁があり透明性が損なわれていたものをBとして記載した。
【0161】
【表1】

【0162】
【表2】

【0163】
【表3】

【0164】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融樹脂を押出機のダイリップからキャストロール上に連続的に吐出して製膜された光学フィルムであって
前記溶融樹脂は、ホモポリマーとしたときに負の固有複屈折率を示す(メタ)アクリレートモノマー(A)75〜99質量%と、ホモポリマーとしたときに正の固有複屈折率を示す(メタ)アクリレートモノマー(B)1〜25質量%との共重合体を含有し、
前記ダイリップからの前記溶融樹脂の吐出速度V(m/分)に対する、前記キャストロールの表面速度V(m/分)の比V/Vが、1.2以上15以下である、光学フィルム。
【請求項2】
前記(メタ)アクリレートモノマー(A)をホモポリマーとしたときの光弾性係数の符号と、前記(メタ)アクリレートモノマー(B)をホモポリマーとしたときの光弾性係数の符号とが、逆である、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
面内位相差Reの絶対値及び厚さ方向位相差Rthの絶対値が、いずれも8nm以下である、請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
光弾性係数の絶対値が、8×10−12(/Pa)以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記キャストロールによる搬送方向における引張り強度と該搬送方向に直交する幅方向の引張り強度との和が、140Mpa以上330Mpa以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学フィルムを備える液晶表示装置。
【請求項7】
押出機のダイリップからキャストロール上に溶融樹脂を連続的に吐出する製膜工程を備え、
前記溶融樹脂は、ホモポリマーとしたときに負の固有複屈折率を示す(メタ)アクリレートモノマー(A)75〜99質量%と、ホモポリマーとしたときに正の固有複屈折率を示す(メタ)アクリレートモノマー(B)1〜25質量%との共重合体を含有し、
前記ダイリップからの前記溶融樹脂の吐出速度V(m/分)に対する前記キャストロールの表面速度V(m/分)の比V2/V1が、1.2以上15以下である、光学フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2013−78900(P2013−78900A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220321(P2011−220321)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】