説明

光学フィルム

【課題】密着性及び硬度に優れた光学フィルムを提供すること。
【解決手段】光透過性基材の一面側に、当該光透過性基材側から順に密着層及びハードコート層が設けられており、当該密着層は、当該光透過性基材を構成する樹脂と同種の樹脂を主体とする組成物からなり、且つ、当該密着層のガラス転移温度は当該光透過性基材のガラス転移温度よりも低く、当該ハードコート層は、ハードコート層用硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、当該密着層とハードコート層の間には、当該二層の成分が混在した移行領域が存在することを特徴とする、光学フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイ等の表面を保護する目的等で使用される光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、CRTディスプレイ、プロジェクションディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、反射スクリーン等の画像表示装置における画像表示面は、取り扱い時に傷がつかないように、硬度を付与することが要求される。
これに対して、基材にハードコート(以下、HCともいうことがある。)層を設けたハードコートフィルムや光学フィルムを利用することにより、画像表示装置の画像表示面の硬度を向上させることが一般になされている(特許文献1)。
【0003】
このような光学フィルムの基材として、光透過性、平滑性及び耐熱性を備え、機械的強度に優れる点から、ポリエステル、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリスルフォン、ポリプロピレン及びポリ塩化ビニル等が従来より使用されている。
【0004】
しかしながら、基材表面にHC層を設ける場合、基材表面の凹凸が小さく密度が高い場合、基材上に設けられるHC層との密着性が低いといった問題があった。密着性を向上させるため、基材表面にコロナ処理を施して表面を荒したり、基材表面にプライマー層を設ける等の前処理を行うことが必要であり、前処理を要することから光学フィルムの製造工程が煩雑となり、生産コストが高くなってしまっていた。
【0005】
特許文献2においては、ポリエステルフィルム基材表面に前処理を必要とせず高い密着性を有し、優れた硬度を有する硬化膜を形成するための組成物を提供することを意図して、特定の水酸基価を有するポリエステル樹脂、熱架橋剤、光重合反応性モノマー等を含有する組成物が提案されている。
【0006】
特許文献2の実施例においては、ポリエステル基材との密着性向上に寄与するポリエステル樹脂と、HC層のマトリクスとなる光重合反応性モノマーとが混合され単一の組成物としてポリエステル基材表面に塗布され、紫外線照射によりHC層が形成されている。しかし、このようなポリエステル樹脂と光重合反応性モノマーを含む単一の組成物を用いると、本来、ポリエステル基材との密着性を向上させるために当該ポリエステル基材と接する部分にのみ存在すれば良いポリエステル樹脂がHC層全体に分散してしまうため、光重合反応性モノマー同士の架橋反応を阻害し、HC層の硬度が十分に向上しない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−126808号公報
【特許文献2】特開2008−184515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題点を解消するためになされたものであり、密着性及び硬度に優れた光学フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、ポリエステル樹脂とHC層のマトリクスとなるバインダー成分を一つの組成物とせずに別々の組成物として塗布してHC層を形成してみたが、ポリエステル樹脂とHC層の間の密着性が得られず、さらにはポリエステル樹脂とHC層の間の屈折率差により干渉縞が生じてしまった。
さらに本発明者が鋭意検討した結果、ポリエステル樹脂及び溶剤を含む組成物(A)、バインダー成分及び溶剤を含む組成物(B)に加え、組成物(A)のポリエステル樹脂と組成物(B)のバインダー成分の両方を含み、且つ、ポリエステル樹脂とバインダー成分の合計濃度が、組成物(A)におけるポリエステル樹脂の濃度と組成物(B)におけるバインダー成分の濃度のいずれよりも高い組成物(C)の三つの組成物を準備し、当該三つの組成物を光透過性基材側から順に組成物(A)、組成物(C)及び組成物(B)が位置するように同時塗布し、硬化させることにより、組成物(A)及び(B)の混合が抑制され、ポリエステル基材には当該基材に対する密着性に優れたポリエステル樹脂による密着層が隣接し、当該密着層上にはHC層が形成され、さらに、当該密着層とHC層の間には組成物(C)に由来しポリエステル樹脂とバインダー成分が混在した移行領域が存在し、ポリエステル樹脂の密着層とHC層との間の干渉縞の発生が抑制され、ポリエステル基材との密着性及びHC層の十分な硬度が発現された光学フィルムが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係る第一の光学フィルムは、光透過性基材の一面側に、当該光透過性基材側から順に密着層及びハードコート層が設けられており、
当該密着層は、当該光透過性基材を構成する樹脂と同種の樹脂を主体とする組成物からなり、且つ、当該密着層のガラス転移温度は当該光透過性基材のガラス転移温度よりも低く、
当該ハードコート層は、ハードコート層用硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、
当該密着層とハードコート層の間には、当該二層の成分が混在した移行領域が存在することを特徴とする。
【0011】
密着層が光透過性基材を構成する樹脂と同種の樹脂を主体とする組成物からなることにより光透過性基材と密着層の密着性に優れる。また、移行領域が密着層とHC層の間の密着性向上に加えて、当該層間の干渉縞の発生を抑制するはたらきを有しているため、本発明に係る第一の光学フィルムは密着性に優れ、且つ、干渉縞の発生が抑制されて外観に優れる。なお、本発明において、同種の樹脂とは、分子量の大小に関わらず、同じ樹脂である場合のみならずその誘導体も含み、またコポリマーの一部の単量体が異なっていても、含有量が最も多い主体となる単量体が同じであれば、同種の樹脂である。同種の樹脂を主体とするとは、組成物において、同種の樹脂の含有量が固形分ベースで最も多いことを意味する。また、ガラス転移温度は(株)島津製作所製「自動示差走査熱量計DSC−60A」を用いた測定により得られた値である。
【0012】
本発明に係る第一の光学フィルムの好適な実施形態においては、前記光透過性基材が表面未処理の光透過性基材であっても優れた密着性と硬度が得られる。
【0013】
本発明に係る第一の光学フィルムにおいては、前記表面未処理の光透過性基材がポリエチレンテレフタレート基材であり、且つ、前記密着層における樹脂がアモルファスポリエチレンテレフタレートであることが、光透過性基材と密着層の間の密着性向上の点から好ましい。
【0014】
本発明に係る第二の光学フィルムは、光透過性基材の一面側に、当該光透過性基材側から順に密着層及びハードコート層が設けられており、
当該密着層は、当該光透過性基材を構成する樹脂と同種の樹脂を主体とする組成物からなり、且つ、当該密着層の凝集エネルギー密度の平方根より算出されるSP値と当該光透過性基材のSP値はその差の絶対値が2以内であり、
当該ハードコート層は、ハードコート層用硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、
当該密着層とハードコート層の間には、当該二層の成分が混在した移行領域が存在することを特徴とする。
【0015】
密着層が光透過性基材を構成する樹脂と同種の樹脂を主体とする組成物からなり、且つ、密着層の凝集エネルギー密度の平方根より算出されるSP値と当該光透過性基材のSP値はその差の絶対値が2以内であることにより、密着層は光透過性基材との優れた密着性を発現する。移行領域は密着層とHC層の間の密着性に加えて、当該層間の干渉縞の発生を抑制するはたらきを有しているため、本発明に係る第二の光学フィルムは密着性に優れ、且つ、干渉縞の発生が抑制されて外観に優れる。
【0016】
本発明に係る第二の光学フィルムの好適な実施形態においては、前記光透過性基材が表面未処理の光透過性基材であっても優れた密着性と硬度が得られる。
【0017】
本発明に係る第二の光学フィルムにおいては、前記表面未処理の光透過性基材がポリエチレンテレフタレート基材であり、且つ、前記密着層における樹脂がアモルファスポリエチレンテレフタレートであることが、光透過性基材と密着層の間の密着性向上の点から好ましい。
【0018】
本発明に係る第三の光学フィルムは、光透過性基材を構成する樹脂と同種、且つ、当該光透過性基材のガラス転移温度よりも低いガラス転移温度の樹脂及び第一の溶剤を含む密着層用組成物、光硬化性を有するバインダー成分及び第二の溶剤を含むハードコート層用硬化性樹脂組成物、並びに、光透過性基材を構成する樹脂と同種、且つ、当該光透過性基材のガラス転移温度よりも低いガラス転移温度の樹脂、光硬化性を有するバインダー成分及び第三の溶剤を含み、且つ、当該樹脂、当該バインダー成分及び当該第三の溶剤の総量に対する当該樹脂及び当該バインダー成分の合計含有割合が、当該密着層用組成物における当該樹脂及び当該第一の溶剤の総量に対する当該樹脂の含有割合並びに当該ハードコート層用硬化性樹脂組成物における当該バインダー成分及び当該第二の溶剤の総量に対する当該バインダー成分の含有割合よりも高い移行領域形成用組成物を準備し、
次いで、光透過性基材の一面側に、当該光透過性基材側から密着層用組成物、移行領域形成用組成物及びハードコート層用硬化性樹脂組成物をこの順に位置するように同時塗布し、塗膜とし、
塗膜を乾燥させ、ハードコート層用硬化性樹脂組成物の塗膜に光照射し硬化させて得られることを特徴とする。
【0019】
移行領域形成用組成物における光透過性基材を構成する樹脂と同種、且つ、上記特定のガラス転移温度を有する樹脂及びバインダー成分の合計含有割合が、密着層用組成物における当該樹脂の含有割合及びHC層用硬化性樹脂組成物におけるバインダー成分の含有割合のいずれよりも高く、且つ、当該三つの組成物を光透過性基材側から上記特定の配置で同時塗布し、HC層を形成することにより、密着層用組成物とHC層用硬化性樹脂組成物が混合して均一な状態になるのを抑制し、且つ、移行領域形成用組成物中の当該樹脂とバインダー成分はそれぞれ親和性の高い密着層用組成物又はHC層用硬化性樹脂組成物に拡散していき、移行領域と密着層又は前記ハードコート層との間にそれぞれ界面が形成されることなく、密着層とHC層の間の密着性発現と干渉縞の発生を抑制するはたらきを有する移行領域を形成することができる。
【0020】
本発明に係る第三の光学フィルムの好適な実施形態においては、前記光透過性基材が表面未処理の光透過性基材であっても優れた密着性と硬度が得られる。
【0021】
本発明に係る第三の光学フィルムにおいては、前記表面未処理の光透過性基材がポリエチレンテレフタレート基材であり、且つ、前記密着層用組成物中の樹脂がアモルファスポリエチレンテレフタレートであることが、光透過性基材と密着層の間の密着性向上の点から好ましい。
【0022】
本発明に係る第三の光学フィルムにおいては、前記同時塗布をスライドコーターにより行うことが生産性や各膜厚の均一性の点から好ましい。
【0023】
本発明に係る第三の光学フィルムにおいては、前記密着層用組成物における前記樹脂の、当該樹脂及び前記第一の溶剤の総量に対する含有割合が30〜50質量%、前記ハードコート層用硬化性樹脂組成物における前記バインダー成分の、当該バインダー成分及び前記第二の溶剤の総量に対する含有割合が30〜50質量%、且つ、前記移行領域形成用組成物における前記樹脂及び前記バインダー成分の総量の、当該樹脂、当該バインダー成分及び前記第三の溶剤の総量に対する含有割合が50〜80質量%であることが、移行領域の形成が容易である点から好ましい。
【0024】
本発明に係る第四の光学フィルムは、光透過性基材を構成する樹脂と同種の樹脂及び第一の溶剤を含み、且つ、当該樹脂の凝集エネルギー密度の平方根より算出されるSP値と当該光透過性基材のSP値の差の絶対値が2以内である密着層用組成物、光硬化性を有するバインダー成分及び第二の溶剤を含むハードコート層用硬化性樹脂組成物、並びに、光透過性基材を構成する樹脂と同種の樹脂、光硬化性を有するバインダー成分及び第三の溶剤を含み、且つ、当該樹脂のSP値と当該光透過性基材のSP値の差の絶対値が2以内であり、且つ、当該樹脂、当該バインダー成分及び当該第三の溶剤の総量に対する当該樹脂及び当該バインダー成分の合計含有割合が、当該密着層用組成物における当該樹脂及び当該第一の溶剤の総量に対する当該樹脂の含有割合並びに当該ハードコート層用硬化性樹脂組成物における当該バインダー成分及び当該第二の溶剤の総量に対する当該バインダー成分の含有割合よりも高い移行領域形成用組成物を準備し、
次いで、光透過性基材の一面側に、当該光透過性基材側から密着層用組成物、移行領域形成用組成物及びハードコート層用硬化性樹脂組成物をこの順に位置するように同時塗布し、塗膜とし、
塗膜を乾燥させ、ハードコート層用硬化性樹脂組成物の塗膜に光照射し、硬化させて得られることを特徴とする。
【0025】
移行領域形成用組成物における光透過性基材を構成する樹脂と同種、且つ、上記特定のSP値を有する樹脂及びバインダー成分の合計含有割合が、密着層用組成物における樹脂の含有割合及びHC層用硬化性樹脂組成物におけるバインダー成分の含有割合のいずれよりも高く、且つ、当該三つの組成物を光透過性基材側から上記特定の配置で同時塗布し、HC層を形成することにより、密着層用組成物とHC層用硬化性樹脂組成物が混合して均一な状態になるのを抑制し、且つ、移行領域形成用組成物中の樹脂とバインダー成分はそれぞれ親和性の高い密着層用組成物又はHC層用硬化性樹脂組成物に拡散していき、移行領域と密着層又は前記ハードコート層との間にそれぞれ界面が形成されることなく、密着層とHC層の間の密着性発現と干渉縞の発生を抑制するはたらきを有する移行領域を形成することができる。
【0026】
本発明に係る第四の光学フィルムの好適な実施形態においては、前記光透過性基材が表面未処理の光透過性基材であっても優れた密着性と硬度が得られる。
【0027】
本発明に係る第四の光学フィルムにおいては、前記表面未処理の光透過性基材がポリエチレンテレフタレート基材であり、且つ、前記密着層用組成物中の樹脂がアモルファスポリエチレンテレフタレートであることが、光透過性基材と密着層の間の密着性向上の点から好ましい。
【0028】
本発明に係る第四の光学フィルムにおいては、前記同時塗布をスライドコーターにより行うことが生産性及び各膜厚の均一性の点から好ましい。
【0029】
本発明に係る第四の光学フィルムにおいては、前記密着層用組成物における前記樹脂の、当該樹脂及び前記第一の溶剤の総量に対する含有割合が30〜50質量%、前記ハードコート層用硬化性樹脂組成物における前記バインダー成分の、当該バインダー成分及び前記第二の溶剤の総量に対する含有割合が30〜50質量%、且つ、前記移行領域形成用組成物における前記樹脂及び前記バインダー成分の総量の、当該樹脂、当該バインダー成分及び前記第三の溶剤の総量に対する含有割合が50〜80質量%であることが、移行領域の形成が容易である点から好ましい。
【発明の効果】
【0030】
密着層が光透過性基材を構成する樹脂と同種、且つ、光透過性基材よりもガラス転移温度が低い又は光透過性基材とのSP値の差の絶対値が2以内であることにより、光透過性基材との密着性に優れ、且つ、移行領域において密着層とHC層の両成分が混在していることにより当該層間の屈折率差が低減される。これらにより、本発明に係る光学フィルムは硬度及び密着性に優れ、且つ、干渉縞の発生が抑制されて外観に優れる。また、光透過性基材を構成する樹脂と同種の樹脂やバインダー成分を特定の含有割合で含む密着層用組成物、HC層用硬化性樹脂組成物及び移行層形成用組成物を用いて同時塗布によりHC層を形成することにより、上記特性を有する光学フィルムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明に係る光学フィルムの層構成の一例を模式的に示した図である。
【図2】図2は、本発明に係る光学フィルムの層構成の他の一例を模式的に示した図である。
【図3】図3は、本発明に係る光学フィルムの製造工程における同時多層塗布の一例を模式的に示した図である。
【図4】図4は、比較例1の光学フィルムの製造工程における同時多層塗布を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、まず本発明に係る光学フィルムについて説明し、次いで当該光学フィルムの製造方法について説明する。
【0033】
本発明において、(メタ)アクリレートは、アクリレート及び/又はメタクリレートを表す。
また、本発明の光には、可視及び非可視領域の波長の電磁波だけでなく、電子線のような粒子線、及び、電磁波と粒子線を総称する放射線又は電離放射線が含まれる。
本発明において、特に記載がない限り膜厚とは乾燥時の膜厚(乾燥膜厚)を意味する。
本発明において、「ハードコート層」とは、JIS K5600−5−4(1999)に規定する鉛筆硬度試験(4.9N荷重)で、「H」以上の硬度を示すものをいう。
なお、フィルムとシートのJIS−K6900での定義では、シートとは薄く一般にその厚さが長さと幅の割りには小さい平らな製品をいい、フィルムとは長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通例、ロールの形で供給されるものをいう。従って、シートの中でも厚さの特に薄いものがフィルムであるといえるが、シートとフィルムの境界は定かではなく、明確に区別しにくいので、本発明では、厚みの厚いもの、および薄いものの両方の意味を含めて、「フィルム」と定義する。
本発明において、分子量とは、分子量分布を有する場合に、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算値である重量平均分子量を意味し、分子量分布を有しない場合には、化合物そのものの分子量を意味する。
【0034】
(光学フィルム)
本発明に係る第一の光学フィルムは、光透過性基材の一面側に、当該光透過性基材側から順に密着層及びハードコート層が設けられており、
当該密着層は、当該光透過性基材を構成する樹脂と同種の樹脂を主体とする組成物からなり、且つ、当該密着層のガラス転移温度は当該光透過性基材のガラス転移温度よりも低く、
当該ハードコート層は、ハードコート層用硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、
当該密着層とハードコート層の間には、当該二層の成分が混在した移行領域が存在することを特徴とする。
【0035】
本発明に係る第二の光学フィルムは、光透過性基材の一面側に、当該光透過性基材側から順に密着層及びハードコート層が設けられており、
当該密着層は、当該光透過性基材を構成する樹脂と同種の樹脂を主体とする組成物からなり、且つ、当該密着層の凝集エネルギー密度の平方根より算出されるSP値と当該光透過性基材のSP値はその差の絶対値が2以内であり、
当該ハードコート層は、ハードコート層用硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、
当該密着層とハードコート層の間には、当該二層の成分が混在した移行領域が存在することを特徴とする。
【0036】
密着層が、光透過性基材を構成する樹脂と同種の樹脂を主体とする組成物からなり、且つ、光透過性基材よりもガラス転移温度が低い又は密着層の凝集エネルギー密度の平方根より算出されるSP値と光透過性基材のSP値の差の絶対値が2以内であることにより、密着層は光透過性基材との優れた密着性を発現する。また、移行領域において密着層とHC層の両成分が混在していることにより当該層間の屈折率差が低減され、且つ、移行領域において界面がないことから、本発明に係る光学フィルムは干渉縞の発生が抑制されて外観に優れる。
このように本発明に係る光学フィルムは硬度及び外観に優れることから通常のディスプレイの保護用途の他、タッチパネル用途にも好適に用いることができる。
【0037】
図1は、本発明に係る光学フィルムの層構成の一例を模式的に示した図である。
光学フィルム1は、光透過性基材10の一面側に光透過性基材側から密着層20及びハードコート層30が設けられている。そして密着層20とHC層30の間には、当該二層の成分が混在した移行領域40が存在する。
図2は、本発明に係る光学フィルムの層構成の他の一例を模式的に示した図である。
光学フィルム1は、光透過性基材10の一面側に光透過性基材側から密着層20、ハードコート層30及び低屈折率層50が設けられている。そして密着層20とHC層30の間には、図1と同様に当該二層の成分が混在した移行領域40が存在する。
【0038】
以下、本発明に係る光学フィルムの必須構成要素である光透過性基材、密着層及びハードコート層並びに必要に応じて適宜設けることができる低屈折率層や防汚層等のその他の層について説明する。
【0039】
(光透過性基材)
本発明の光透過性基材は、光学フィルムの光透過性基材として用い得る物性を満たすものであれば特に限定されることはなく、従来公知のハードコートフィルムや光学フィルムに用いられているトリアセチルセルロース、ポリエステル、又はシクロオレフィンポリマー等を適宜選択して用いることができる。
ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート(以下、PETということがある。)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等が挙げられ、PETが好ましく、さらには二軸延伸PETが好ましい。
また、シクロオレフィンポリマーとしては、ノルボルネン系ポリマー、シクロペンテン系ポリマー、シクロブテン系ポリマー等が挙げられ、中でも、ノルボルネン系ポリマーが好ましい。
【0040】
光透過性基材にけん化処理やプライマー層を設ける等の表面処理が施されていても良いし、表面未処理であっても良い。本発明に係る光学フィルムの好適な実施形態においては、光透過性基材が表面未処理の光透過性基材であっても、後述する密着層用組成物に含まれる光透過性基材を構成する樹脂と同種の樹脂が光透過性基材との密着性を高めるため、優れた密着性と硬度を得ることができる。
また、光透過性基材には帯電防止剤等の添加剤が添加されていても良い。
【0041】
本発明に係る光学フィルムの好適な実施形態においては、光透過性基材をPET基材とした場合、後述する密着層用組成物に含まれる光透過性基材を構成する樹脂と同種の樹脂としてアモルファスポリエチレンテレフタレートを用いることにより、光透過性基材と密着層の密着性を向上することができる。
【0042】
光透過性基材の厚さは特に限定されず、通常30〜200μm程度であり、好ましくは40〜200μmである。
光透過性基材の可視光域380〜780nmにおける平均光透過率は50%以上が好ましく、より好ましくは70%以上、特に好ましくは85%以上である。なお、光透過率の測定は、紫外可視分光光度計((株)島津製作所製 UV−3100PC)を用い、室温、大気中で測定した値を用いる。
【0043】
(密着層)
本発明の密着層は、光透過性基材を構成する樹脂と同種の樹脂及び第一の溶剤を含む密着層用組成物を用いて形成されてなり、且つ、第一の光学フィルムにおいては密着層のガラス転移温度は光透過性基材のガラス転移温度よりも低く、第二の光学フィルムにおいては密着層の凝集エネルギー密度の平方根より算出されるSP値と当該光透過性基材のSP値はその差の絶対値が2以内である。
密着層の厚さは適宜設定すれば良く、例えば、100〜3000nmであることがハードコート性等の機能確保の点から好ましい。
本発明の密着層は、以下のように密着性を評価する際に、密着率が95%以上であることが好ましい。密着性は、JIS K5400の碁盤目試験の方法に準じて、光学フィルムのハードコート層面に1mm間隔で縦及び横、それぞれ11本の切れ目を入れて100個の碁盤目を作り、ニチバン(株)製セロテープ(登録商標)を碁盤目上に貼り付けた後、これを速やかに90°の方向に引張って剥離させ、下記基準に基づいて算出される剥がれずに残った碁盤目の割合を密着率として評価する。
密着率(%)=(剥がれなかった碁盤目の数/合計の碁盤目数100)×100
以下、密着層を形成する密着層用組成物について説明する。
【0044】
(密着層用組成物)
密着層用組成物は、光透過性基材を構成する樹脂と同種、且つ、当該光透過性基材のガラス転移温度よりも低いガラス転移温度の樹脂、及び第一の溶剤を含み、乾燥によって密着層を形成することが好ましい。
【0045】
密着層に含まれる、光透過性基材を構成する樹脂と同種、且つ、当該光透過性基材のガラス転移温度よりも低いガラス転移温度の樹脂が、光透過性基材との密着性を発現する。光透過性基材を構成する樹脂と同種であることにより当該光透過性基材と親和性が高く、干渉縞の発生も抑制される。また、光透過性基材よりもガラス転移温度が低いことにより、塗布性を有する。
本発明において、同種の樹脂とは、分子量の大小に関わらず、同じ樹脂である場合のみならずその誘導体も含み、またコポリマーの一部の単量体が異なっていても、含有量が最も多い主体となる単量体が同じであれば、同種の樹脂である。一方の樹脂の分子を構成する全繰り返し単位の概ね50モル%以上が、更に80モル%以上が、より更に90モル%以上が他方の樹脂の分子を構成する繰り返し単位の構成と一致することが好ましい。例えば、密着層に含まれる樹脂は、光透過性基材を構成する樹脂の1分子に90モル%以上の割合で含まれる繰り返し単位と同一の繰り返し単位を有し、且つ、その繰り返し単位の含有割合が1分子において、50モル%以上、更に80モル%以上、より更に90モル%以上であることが好ましい。
【0046】
同種の樹脂のガラス転移温度は、後述するHC層用硬化性樹脂組成物の塗膜への光照射時に発生する熱によって溶解しないよう60℃以上であることが好ましい。例えば、光透過性基材がガラス転移温度120℃のPETである場合は、塗布性と光照射時の熱に対する耐熱性の点から同種の樹脂のガラス転移温度は60〜80℃であることが好ましい。
光透過性基材を構成する樹脂と同種の樹脂のガラス転移温度は、塗布性と光照射時の熱に対する耐熱性の点から、光透過性基材のガラス転移温度よりも、10〜100℃程度、更に20〜70℃程度低いことが好ましい。
【0047】
また、密着層用組成物における同種の樹脂は、そのガラス転移温度が光透過性基材よりも低いことに代えて、同種の樹脂の凝集エネルギー密度の平方根より算出されるSP値と当該光透過性基材のSP値の差の絶対値が2以内のものであっても良い(以下、特に記載が無い限り同種の樹脂は、光透過性基材よりも低いガラス転移温度を有する樹脂及び光透過性基材とのSP値の差の絶対値が2以内の樹脂のいずれの場合も含む。)。SP値の差の絶対値が2以内であることにより、同種の樹脂と光透過性基材は親和性が良く、十分な密着性が得られ、密着層と光透過性基材との間における干渉縞の発生も抑制される。さらにそのSP値の差の絶対値は0.5以内であることが好ましい。
なお、SP値は凝集エネルギー密度の平方根より算出されるが、具体的には、国際純正応用化学連合(IUPAC)Gold Book − solubility parameter記載の方法により算出することができる。
【0048】
上記のようなガラス転移温度及び/又はSP値を有する同種の樹脂としては、例えば、光透過性基材のアモルファス(非晶性)成分が挙げられる。光透過性基材がPET基材(ガラス転移温度約120℃、SP値11.5)の場合は、同種の樹脂の一例はアモルファスPET(ガラス転移温度60〜90℃、SP値10〜11)であり、光透過性基材がシクロオレフィンフィルム(例えば、ノルボルネン系ポリマーフィルム、ガラス転移温度約140℃、SP値約9)の場合は、同種の樹脂の一例はシクロオレフィン樹脂(例えば、ノルボルネン系ポリマー、ガラス転移温度120〜130℃、SP値約8)が挙げられる。また、光透過性基材がTAC基材(ガラス転移温度約170℃、SP値10.9)の場合は、同種の樹脂の一例は、酢化率が50〜63%の高酢化率酢酸セルロース(ガラス転移温度約160℃、SP値10〜11)が挙げられる。
なお、酢化率は、酢酸セルロースをケン化したときの単位重量当たりの遊離する酢酸の重量百分率を意味し、以下の方法で算出した値である。
温度100℃湿度55%で2時間乾燥したセルロースアセテート1.9gを精秤し、アセトンとジメチルスルホキシドとの混合溶液(容量比4:1)150mLに溶解した後、1N−水酸化ナトリウム水溶液30mLを添加し、25℃で2時間ケン化する。フェノールフタレインを指示薬として添加し、1N−硫酸(濃度ファクター:F)で過剰の水酸化ナトリウムを滴定する。また、同様の方法でブランク試験を行い、下記式(1)に従って酢化率を計算する。
酢化率(%)={6.5×(B−A)×F}/W・・・式(1)
(式(1)中、Aは試料の1N−硫酸の滴定量(mL)を、Bはブランク試験の1N−硫酸の滴定量(mL)を、Fは1N−硫酸の濃度ファクターを、Wは試料の重量を表す。)
【0049】
(第一の溶剤)
第一の溶剤は密着層用組成物の粘度を調整し、密着層用組成物に塗布性を付与するための成分である。
第一の溶剤としては、従来公知のHC層用組成物の溶剤を用いることができる。例えば、イソプロピルアルコール、メタノール及びエタノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル及び酢酸ブチル等のエステル類並びにトルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素を用いることができる。
これらの溶剤は一種単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
密着層用組成物の第一の溶剤と、後述するHC層用硬化性樹脂組成物の第二の溶剤及び移行領域形成用組成物の第三の溶剤はそれぞれ同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0050】
(熱架橋剤)
密着層用組成物に同種の樹脂としてアモルファスPETが含まれる場合は、さらに熱架橋剤が含まれていることが好ましい。
熱架橋剤はPET基材やアモルファスPETが有する水酸基と架橋反応を生じる成分であり、例えば、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物等の従来公知の化合物を用いることができ、例えば、特開2008−184515号公報記載のトリレンジイソシアネート及びヘキサメチレンジイソシアネート等の熱架橋剤を用いることができる。
熱架橋剤の含有量は、アモルファスPET固形分100質量部に対して、10〜40質量部であることが好ましく、20〜35質量部であることがより好ましい。10〜40質量部であることにより十分な架橋密度が得られる。
【0051】
(ハードコート層)
本発明のハードコート層はハードコート層用硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、光学フィルムに硬度を付与する。
HC層の厚さは必要に応じて適宜調節すれば良く、1〜5μmが好ましい。
以下、硬化してHC層となるHC層用硬化性樹脂組成物について説明する。
【0052】
(ハードコート層用硬化性樹脂組成物)
HC層用硬化性樹脂組成物は、光硬化性を有するバインダー成分及び第二の溶剤を含み、乾燥及び光照射により硬化してHC層を形成する。
【0053】
(バインダー成分)
HC層用硬化性樹脂組成物に含まれるバインダー成分は、従来公知のHC層のバインダー成分を用いることができる。例えば、特開2008−184515号公報記載のエチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等を用いることができる。
この他、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリブタジエンアクリレート及びシリコンアクリレート等のオリゴマーを用いても良い。
上記バインダー成分は一種単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
HC層用硬化性樹脂組成物においてバインダー成分の、バインダー成分と後述する第二の溶剤の総量に対する含有割合は、必要とされる塗布性に応じて適宜調節すれば良いが、HC層用硬化性樹脂組成物の塗布性と移行領域形成用組成物に含まれるバインダー成分等との混合を適度に抑制し移行領域を形成しやすくする点から30〜50質量%であることが好ましい。
【0054】
(第二の溶剤)
第二の溶剤はHC層用硬化性樹脂組成物の粘度を調整し、HC層用硬化性樹脂組成物に塗布性を付与するための成分である。
第二の溶剤としては、上記第一の溶剤で挙げたものを用いることができる。
第二の溶剤は一種単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
密着層用組成物の第一の溶剤と、HC層用硬化性樹脂組成物の第二の溶剤及び後述する移行領域形成用組成物の第三の溶剤はそれぞれ同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0055】
HC層用硬化性樹脂組成物には、上記バインダー成分の他、重合開始剤、帯電防止剤、レベリング剤、機能性微粒子、及び抗菌剤等が含まれていても良い。
【0056】
(重合開始剤)
必要に応じてラジカル及びカチオン重合開始剤等を適宜選択して用いても良い。これらの重合開始剤は、光照射及び/又は加熱により分解されて、ラジカルもしくはカチオンを発生してラジカル重合とカチオン重合を進行させるものである。例えば、ラジカル重合開始剤としては、チバ・ジャパン(株)製イルガキュア184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)が挙げられる。
重合開始剤を用いる場合、その含有量は、HC層用硬化性樹脂組成物の総量に対して1〜10質量%で用いることが好ましい。
【0057】
(帯電防止剤)
帯電防止剤としては、従来公知の帯電防止剤を用いることができ、例えば、特開2007−264221号公報に記載の第4級アンモニウム塩等のカチオン性帯電防止剤や、スズドープ酸化インジウム(ITO)等の微粒子を用いることができる。その含有量は、HC層用硬化性樹脂組成物の総量に対して10〜50質量%で用いることが好ましい。
【0058】
(レベリング剤)
レベリング剤は塗布又は乾燥時に塗膜表面に対して、塗布安定性、滑り性、防汚性又は耐擦傷性を付与するはたらきを有する。
レベリング剤としては、従来公知のHC層や防汚層に用いられているフッ素系又はシリコーン系等のレベリング剤を用いることができる。例えば、DIC(株)製メガファックシリーズ(MCF350−5)等の電離放射線硬化性基を有しないレベリング剤、信越化学工業(株)製のX22−163A等の電離放射線硬化性基を有するレベリング剤のいずれも使用することができる。
レベリング剤の含有量としては、HC層用硬化性樹脂組成物の総量に対して1〜10質量%で用いることが好ましい。
【0059】
(機能性微粒子)
機能性微粒子はHC層に硬度、屈折率制御能等の機能性を付与するための成分であり、従来公知のHC層に用いられている微粒子を用いることができる。
例えば、硬度を付与するために硬度に優れたシリカ微粒子を用いることができる。シリカ微粒子は特開2008−165041号公報に記載の粒子表面に上記バインダー成分と架橋反応可能な有機成分を有する反応性シリカ微粒子であっても良い。この反応性シリカ微粒子を用いることにより、上記バインダー成分と架橋結合を形成し、HC層の硬度をさらに高めることができる。
HC層の屈折率を制御するために、フッ化ナトリウム等のフッ化物微粒子や中空シリカ微粒子等の低屈折率微粒子を用いたり、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、リンドープ酸化スズ(PTO)、ジルコニア(ZrO)、酸化アンチモン(Sb)等の高屈折率微粒子を用いても良い。
【0060】
(抗菌剤)
本発明に係る光学フィルムはタッチパネル用途にも好適に用いることができる。タッチパネル用途においては指で触れる機会が多いため抗菌剤の添加により抗菌性を付与することが好ましい。抗菌剤としては、一般に市販されている工業用抗菌剤が使用できる。工業用抗菌剤には有機系抗菌剤と無機系抗菌剤があり、どちらを用いても良い。
無機系抗菌剤としては、例えば、東亞合成(株)製:ノバロンAG330、AG020、AG300及びAG1100等が挙げられる。
有機系抗菌剤としては、例えば、新中村化学工業(株)製:NKエコノマーADP−51、ADP−33、AL、AL−4G、AL−8G、AL−12G、ML、ML−4G、ML−8G及びML−12G並びに日華化学(株)製:BZBEHS(X8129)、BZBEHP(X8128)及びAL00GT等が挙げられる。
抗菌剤の含有量は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜調節することができる。抗菌剤の含有量は、HC層用硬化性樹脂組成物の総量に対して、1〜10質量%であることが好ましい。
【0061】
(移行領域)
本発明に係る光学フィルムにおいては、密着層とハードコート層の間に当該二層の成分が混在した移行領域が存在する。
移行領域は、前記密着層と前記ハードコート層の成分が混在し、且つ、移行領域と密着層又は前記ハードコート層との間にそれぞれ界面がないものである。
移行領域は上記二層の成分が混在していることにより、二層間の密着性の向上に加え、屈折率の急激な変化を抑えて当該二層間の屈折率差を低減し、且つ界面がないことから、二層間に生じる干渉縞の発生を抑制している。
移行領域の存在は、例えば、断面を切り出した後、SEM(走査型電子顕微鏡)により観察することができる。
また、移行領域が存在する場合、上記二層の成分が混在し且つ界面がないことにより干渉縞が発生しないため、干渉縞がほぼ無いことを目視で観察することでも、簡易的に移行領域の存在を推測することができる。
移行領域の厚さは要求される性能に応じて適宜調節すれば良いが、10〜300nmであることが各層機能の効果を十分に発揮する点から好ましい。
なお、移行領域は、前記密着層と前記ハードコート層の全成分が含まれている必要はなく、少なくとも、当該光透過性基材を構成する樹脂と同種の樹脂、及び、光硬化性を有するバインダー成分が含まれていればよい。
【0062】
(移行領域形成用組成物)
移行領域形成用組成物は、光透過性基材を構成する樹脂と同種、且つ、光透過性基材のガラス転移温度よりも低いガラス転移温度であるか、又は、光透過性基材のSP値と差の絶対値が2以内であるSP値を有する樹脂、光硬化性を有するバインダー成分、及び第三の溶剤を含み、且つ、当該樹脂、バインダー成分及び第三の溶剤の総量に対する当該樹脂及びバインダー成分の合計含有割合が、上記密着層用組成物における当該樹脂及び第一の溶剤の総量に対する当該樹脂の含有割合並びに当該HC層用硬化性樹脂組成物における当該バインダー成分及び第二の溶剤の総量に対するバインダー成分の含有割合よりも高い。
この含有割合を例を挙げて説明すると、例えば、密着層用組成物における同種の樹脂の質量をMa1、第一の溶剤の質量をMs1、HC層用硬化性樹脂組成物におけるバインダー成分の質量をMb1、第二の溶剤の質量をMs2、移行領域形成用組成物における同種の樹脂の質量をMa2、バインダー成分の質量をMb2及び第三の溶剤の質量をMs3とすると、密着層用組成物の同種の樹脂の含有割合は、Ma1/(Ma1+Ms1)で表わされ、HC層用硬化性樹脂組成物のバインダー成分の含有割合は、Mb1/(Mb1+Ms2)で表わされ、そして、移行領域形成用組成物の同種の樹脂及びバインダー成分の合計含有割合は、(Ma2+Mb2)/(Ma2+Mb2+Ms3)で表わされる。そして、下記(2)及び(3)式を満たす。
Ma1/(Ma1+Ms1)<(Ma2+Mb2)/(Ma2+Mb2+Ms3)・・・式(2)
Mb1/(Mb1+Ms2)<(Ma2+Mb2)/(Ma2+Mb2+Ms3)・・・式(3)
なお、ここで「/」は四則演算の除法を意味する。すなわち、Ma/(Ma1+Ms1)は、Ma÷(Ma1+Ms1)を意味する。
【0063】
移行領域形成用組成物における光透過性基材を構成する樹脂と同種の樹脂及びバインダー成分の合計含有割合が、密着層用組成物における当該樹脂の含有割合及びHC層用硬化性樹脂組成物におけるバインダー成分の含有割合のいずれよりも高く、且つ、当該三つの組成物を光透過性基材側から密着層用組成物、移行領域形成用組成物、及びHC層用硬化性樹脂組成物がこの順に位置するように同時塗布し、HC層を形成することにより、密着層用組成物とHC層用硬化性樹脂組成物が混合して均一な状態になるのを抑制し、且つ、移行領域形成用組成物中の樹脂とバインダー成分はそれぞれ親和性の高い密着層用組成物又はHC層用硬化性樹脂組成物に拡散していき、移行領域と密着層又は前記ハードコート層との間にそれぞれ界面が形成されることなく、密着層とHC層の間の密着性発現と干渉縞の発生を抑制するはたらきを有する移行領域を形成することができる。
【0064】
移行領域形成用組成物に含まれる光透過性基材を構成する樹脂と同種の樹脂は上記密着層用組成物で挙げたものを用いることができる。移行領域形成用組成物の同種の樹脂と密着層用組成物の同種の樹脂は同じであることが好ましい。同種の樹脂が異なる場合は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、屈折率差が0.05以内であれば異なっていても良い。
【0065】
同様に、移行領域形成用組成物に含まれる光硬化性を有するバインダー成分も上記HC層用硬化性樹脂組成物で挙げたものを用いることができる。移行領域形成用組成物のバインダー成分とHC層用硬化性樹脂組成物のバインダー成分は同じであることが好ましい。当該バインダー成分が異なる場合は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、屈折率差が0.05以内であれば異なっていても良い。
移行領域形成用組成物において、当該樹脂とバインダー成分の含有割合は、当該樹脂100質量部に対して、80〜120質量部であることが好ましく、更に90〜110質量部であることが好ましい。移行領域形成用組成物においては、密着層用組成物に用いられる熱架橋剤や、HC層用硬化性樹脂組成物に用いられる重合開始剤も含まれることが好ましい。
【0066】
第三の溶剤は、移行領域形成用組成物の粘度を調整し、移行領域形成用組成物に塗布性を付与するための成分である。
第三の溶剤としては、上記第一の溶剤で挙げたものを用いることができる。
第三の溶剤は一種単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
密着層用組成物の第一の溶剤と、HC層用硬化性樹脂組成物の第二の溶剤及び後述する移行領域形成用組成物の第三の溶剤はそれぞれ同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0067】
本発明に係る光学フィルムにおいては、密着層用組成物における同種の樹脂の、当該樹脂及び第一の溶剤の総量に対する含有割合が30〜50質量%、HC層用硬化性樹脂組成物におけるバインダー成分の、バインダー成分及び第二の溶剤の総量に対する含有割合が30〜50質量%、且つ、移行領域形成用組成物における当該樹脂及びバインダー成分の総量の、当該樹脂、バインダー成分及び第三の溶剤の総量に対する含有割合が50〜80質量%であることが、移行領域の形成が容易である点から好ましい。
【0068】
移行領域形成用組成物には、上記HC層用硬化性樹脂組成物で挙げた重合開始剤やレベリング剤が含まれていても良い。
重合開始剤を用いる場合、その含有量は、移行領域形成用組成物の総量に対して1〜10質量%で用いることが好ましい。
レベリング剤の含有量としては、移行領域形成用組成物の総量に対して1〜10質量%で用いることが好ましい。
【0069】
(その他の層)
本発明に係る光学フィルムにおいては、さらなる機能性付与を目的として、図2に示すように上記HC層上に低屈折率層、帯電防止層及び防汚層等のその他の機能層が設けられていても良い。
以下、任意で設けることができる低屈折率層、中屈折率層、高屈折率層、帯電防止層及び防汚層について説明する。
【0070】
(低屈折率層)
低屈折率層は、当該層の光透過性基材側に隣接する層よりも屈折率が低い層であり、低屈折率層用組成物の硬化物からなる。低屈折率層用組成物には、光透過性基材側に隣接する層よりも屈折率が低くなるように、適宜公知のフッ素系樹脂等の低屈折率硬化性樹脂や中空シリカ微粒子等の微粒子を用いることができる。
【0071】
(中屈折率層及び高屈折率層)
中屈折率層及び高屈折率層は上記低屈折率層の光透過性基材側に設ける等して本発明に係る光学フィルムの反射率を調整するために設けることができる層である。
中屈折率層及び高屈折率層の膜厚は、要求される性能に応じて適宜調節すれば良く、例えば、1〜5μmとすることができる。
中屈折率層及び高屈折率層は、通常、バインダー成分と屈折率調整用の粒子とを主に含有する。バインダー成分としては、HC層と同様のものを用いることができる。
屈折率調整用の粒子は上記HC層で挙げた高屈折率の機能性微粒子を用いれば良い。
また、必要に応じて用いられる重合開始剤、各種添加剤、形成方法等についてもHC層と同様とすればよい。
【0072】
(帯電防止層)
本発明の帯電防止層は、静電気の発生を抑えてゴミの付着を防止したり、液晶ディスプレイなどに組みこまれた際の外部からの静電気障害を防止するために、必要に応じて設けることができる層である。
帯電防止層は、帯電防止剤とバインダー成分とを含む組成物の硬化物からなる。帯電防止層の膜厚は、適宜調節すればよく、10〜300nmであることが好ましい。
帯電防止層の性能としては光学フィルム形成後の表面抵抗が1012Ω/□以下となることが好ましい。
帯電防止剤は上記HC層で説明したものと同様のものを用いることができる。帯電防止剤の含有量は、帯電防止層用組成物の総量に対して10〜50質量%であることが好ましい。
硬化して帯電防止層を形成するバインダー成分としては、上記HC層で挙げたものと同様のものを用いることができる。
【0073】
(防汚層)
光学フィルム最表面の汚れ防止を目的として、光学フィルムの光透過性基材とは反対側の最表面に防汚層を設けることができる。防汚層により、光学フィルムに対して防汚性と耐擦傷性のを付与することが可能となる。防汚層は、防汚剤と硬化性樹脂組成物を含む防汚層用組成物の硬化物からなる。
【0074】
防汚層用組成物に含まれる防汚剤や硬化性樹脂は、公知の防汚剤及び硬化性樹脂から適宜選択して一種又は二種以上を用いることができる。
【0075】
(光学フィルムの製造方法)
本発明の光学フィルムの製造方法は、(i)光透過性基材を構成する樹脂と同種の樹脂及び第一の溶剤を含む密着層用組成物、光硬化性を有するバインダー成分及び第二の溶剤を含むHC層用硬化性樹脂組成物、並びに、光透過性基材を構成する樹脂と同種、且つ、光透過性基材のガラス転移温度よりも低いガラス転移温度であるか、又は、光透過性基材のSP値と差の絶対値が2以内であるSP値を有する樹脂、光硬化性を有するバインダー成分及び第三の溶剤を含み、且つ、当該樹脂、当該バインダー成分及び第三の溶剤の総量に対する当該樹脂及び当該バインダー成分の合計含有割合が、密着層用組成物における当該樹脂及び第一の溶剤の総量に対する当該樹脂の含有割合並びにHC層用硬化性樹脂組成物におけるバインダー成分及び第二の溶剤の総量に対するバインダー成分の含有割合よりも高い移行領域形成用組成物を準備する工程、
(ii)光透過性基材の一面側に、光透過性基材側から密着層用組成物、移行領域形成用組成物及びHC層用硬化性樹脂組成物をこの順に位置するように同時塗布し、塗膜とする工程、
(iii)塗膜を乾燥させ、HC層用硬化性樹脂組成物の塗膜に光照射し硬化させて密着層、HC層及び移行領域を形成する工程、を含む。
【0076】
(i)工程で準備する三種の組成物については上記各組成物で説明したものを用いれば良いのでここでの説明は省略する。
【0077】
(ii)工程では、上記三種の組成物を、光透過性基材側から密着層用組成物、移行領域形成用組成物及びハードコート層用硬化性樹脂組成物がこの順に位置するように同時塗布し、塗膜とする。
同時塗布することにより、界面のない移行領域を、容易に形成することができる。
同時塗布の方法は、当該三種の組成物を同時塗布できる方法であれば特に制限されず、従来公知の同時塗布方法を用いることができる。同時塗布方法としては例えば、スライドコーター及びエクストルージョンダイコーターを用いる方法等が挙げられ、スライドコーターにより行うことが生産性や各膜厚の均一性の点から好ましい。
図3は、三種の組成物をスライドコーターにより光透過性基材に同時塗布する様子の一例を示した模式図である。
光透過性基材10側から密着層用組成物80、移行領域形成用組成物90及びHC層用硬化性樹脂組成物100が位置するように塗工ヘッド60のスライド面70上のスリットから三種の組成物を光透過性基材10上に同時塗布している。なお、説明の簡略化のため、光透過性基材10は線で示し、移行領域形成用組成物が密着層用組成物及びHC層用硬化性樹脂組成物に拡散していく前の三種の組成物が積層されている状態を示している。
【0078】
(iii)工程では、塗膜を乾燥させ、HC層用硬化性樹脂組成物の塗膜に光照射し硬化させて、密着層、HC層及び移行領域を形成する。
乾燥方法としては、特に制限されず、組成物の成分や塗布膜厚に応じて適宜調節すれば良いが、例えば、第一の溶剤としてトルエンを用いた場合は、80℃で1分間乾燥させればよい。
【0079】
光照射には、主に、紫外線、可視光、電子線、電離放射線等が使用される。紫外線硬化の場合には、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプ等の光線から発する紫外線等を使用することができる。光照射量は、組成物の成分や塗布膜厚に応じて適宜調節すれば良いが、例えば、紫外線波長365nmでの積算露光量として50〜200mJ/cmであることが好ましい。
【0080】
低屈折率層や高屈折率層等のその他の機能層は当該三種の組成物とは別に塗布し、硬化又は乾燥により形成しても良いし、当該三種の組成物とともにこれらの機能層の組成物を同時塗布して、硬化や乾燥により形成しても良い。
【0081】
例えば、HC層上にその他の機能層を形成し、HC層とその他の機能層の間における干渉縞の発生を抑制するためには、HC層用硬化性樹脂組成物とその機能層の組成物の両方のバインダー成分と溶剤を含む第二の移行領域形成用組成物であって、HC層用硬化性樹脂組成物、第二の移行領域形成用組成物及び機能層の組成物の三種の組成物において、上記移行領域形成用組成物で挙げた式(2)及び(3)における含有割合の関係を満たす第二の移行領域形成用組成物を準備し、HC層用硬化性樹脂組成物とその他の機能層の組成物の間に、第二の移行領域形成用組成物が位置するように同時塗布すれば良い。これによりHC層とその他の機能層の間に第二の移行領域が形成され、その層間の屈折率差が低減されることにより干渉縞が抑制され、密着性も向上する。この方法はさらに多くの層を形成する場合にも用いることができる。
【0082】
また、HC層用硬化性樹脂組成物の代わりに、例えば、高屈折率層用組成物を用いて、三種の組成物を同時塗布すれば、光透過性基材上に密着層及び高屈折率層が形成され、密着層と高屈折率層の間にはこの二層の成分を含む移行領域が形成されることになる。
このように本発明の製造方法を用いればHC層以外の機能層と光透過性基材との間の干渉縞の発生を抑えながら、密着性を高めることもできる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。
【0084】
(実施例1)
光透過性基材(1)として、東洋紡績(株)製の厚さ100μmのプライマー層の無い(表面未処理の)ポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:コスモシャインA4100、ガラス転移温度120℃、SP値11.5)を用いた。
同種の樹脂として、東洋紡績(株)製の非晶性ポリエステル(商品名:バイロン240、ガラス転移温度60℃、SP値11)を用いた。
バインダー成分として、ダイセルサイテック(株)製のジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)を用いた。
第一及び第三の溶剤として、関東化学(株)製のトルエンを用いた。
第二の溶剤として、関東化学(株)製のメチルイソブチルケトン(MIBK)を用いた。
重合開始剤として、チバ・ジャパン(株)製の商品名イルガキュア907を用いた。
架橋剤として、旭化成ケミカルズ(株)製のイソシアネート架橋剤(商品名:デュラネート22A−75PX)を用いた。
【0085】
(密着層用組成物の調製)
以下に示す組成の成分を配合して密着層用組成物を調製した。
非晶性ポリエステル:32質量部
イソシアネート架橋剤:12質量部
トルエン:58質量部
【0086】
(HC層用硬化性樹脂組成物の調製)
以下に示す組成の成分を配合してHC層用硬化性樹脂組成物を調製した。
DPHA:29質量部
イルガキュア907:1.5質量部
MIBK:52質量部
【0087】
(移行領域形成用組成物の調製)
以下に示す組成の成分を配合して移行領域形成用組成物を調製した。
非晶性ポリエステル:59質量部
イソシアネート架橋剤:15質量部
DPHA:57質量部
イルガキュア907:2質量部
トルエン:68質量部
【0088】
図3に示すようなスライドコーターを用いて、光透過性基材(1)の一面側に、図3の組成物80、90及び100として、それぞれ、上記調製した密着層用組成物、移行領域形成用組成物及びHC層用硬化性樹脂組成物を同時塗布し、塗膜とし、その塗膜を80℃のオーブン中で1分間乾燥させ、さらに100mJ/mの露光量にて紫外線照射を行い、光学フィルムを作製した。
【0089】
(実施例2)
実施例1において用いたポリエチレンテレフタレートと同種の樹脂を、東洋紡績(株)製の非晶性ポリエステル材料に代えて、ユニチカ(株)製の非晶性ポリエステル(商品名:エリーテルUE3690、ガラス転移温度90℃、SP値10.5)を用いた他は、実施例1と同様にして同時塗布、乾燥、並びに紫外線照射を行い、光学フィルムを作製した。
【0090】
(実施例3)
実施例1において用いた光透過性基材(1)を、ポリエチレンテレフタレートフィルムに代えて、シクロオレフィンフィルム(商品名:ゼオノアフィルムZF14、日本ゼオン(株)製、ノルボルネン系ポリマーフィルム、ガラス転移温度136℃、SP値9.1)を用い、さらに、非晶性ポリエステルに代えて、本発明において前記シクロオレフィンフィルムと同種の樹脂に該当するシクロオレフィン樹脂(商品名:ゼオネックス330R、日本ゼオン(株)製、ノルボルネン系ポリマー、ガラス転移温度123℃、SP値8.3)を用いた他は、実施例1と同様にして同時塗布、乾燥、並びに紫外線照射を行い、光学フィルムを作製した。
【0091】
(比較例1)
図4に示すようなスライドコーターを用いて、実施例1で用いた光透過性基材(1)の一面側に、図4の組成物80及び100として、それぞれ、実施例1で調製した密着層用組成物及びHC層用硬化性樹脂組成物を同時塗布し、塗膜とし、その塗膜を80℃のオーブン中で1分間乾燥させ、さらに100mJ/mの露光量にて紫外線照射を行い、光学フィルムを作製した。
【0092】
(比較例2)
実施例1で用いた光透過性基材(1)の一面側に、実施例1で調製した密着層用組成物、移行領域形成用組成物及びHC層用硬化性樹脂組成物を逐次、塗布及び80℃のオーブン中で1分間乾燥し、塗膜とした。さらに、その塗膜に100mJ/mの露光量にて紫外線照射を行い、光学フィルムを作製した。
【0093】
(比較例3)
光透過性基材(2)として、東洋紡績(株)製の厚さ100μmのプライマー層を有するポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:コスモシャイン、高屈折率品、ガラス転移温度120℃、SP値11.5)を用いた。
光透過性基材(2)のプライマー層を有する面側に、実施例1で調製したHC層用硬化性樹脂組成物を塗布し、塗膜とし、その塗膜を80℃のオーブン中で1分間乾燥させ、さらに100mJ/mの露光量にて紫外線照射を行い、光学フィルムを作製した。
【0094】
上記実施例及び比較例の光学フィルムについて、それぞれ、下記評価方法で干渉縞の有無、鉛筆硬度及び密着性を評価した。その結果並びに塗布方法及び移行領域形成用組成物の使用の有無についてまとめたものを表1に示す。
【0095】
(評価:干渉縞)
光学フィルムのPET基材側の面に黒いテープを貼り、三波長管ランプ下で干渉縞の有無を目視で観察した。
【0096】
(評価:鉛筆硬度)
鉛筆硬度は、作製した光学フィルムを温度25℃、相対湿度60%の条件で2時間調湿した後、硬度2Hの鉛筆を用いて、JIS K5600−5−4(1999)に規定する鉛筆硬度試験(9.8N荷重)を行い、5本線中傷のついた本数を測定し、傷のつかなかった本数を求めた。評価結果中、4/5は5本線中4本傷がつかなかったことを意味する。
【0097】
(評価:密着性)
作製直後の光学フィルム及び温度60℃、湿度90%で24時間調湿した後の光学フィルムのそれぞれについて、JIS K5400の碁盤目試験の方法に準じて、ハードコート層面に1mm間隔で縦及び横、それぞれ11本の切れ目を入れて100個の碁盤目を作り、ニチバン(株)製セロテープ(登録商標)を碁盤目上に貼り付けた後、これを速やかに90°の方向に引張って剥離させ、下記基準に基づいて算出される剥がれずに残った碁盤目の割合を密着率として評価した。
密着率(%)=(剥がれなかった碁盤目の数/合計の碁盤目数100)×100
【0098】
【表1】

【0099】
(結果のまとめ)
実施例1、2及び3では、干渉縞も無く、鉛筆硬度並びに作製直後及び調湿後の密着性評価も良好な結果を得た。
しかし、移行領域形成用組成物を用いずに、密着層用組成物とHC層用硬化性樹脂組成物の二種の組成物のみを同時塗布した比較例1では、両組成物が混合してしまったため干渉縞は観察されなかったが、密着層及びHC層を形成できず、密着率の評価もできなかった。
実施例1と同じ組成物を用いて、各組成物を逐次塗布した比較例2では、硬度は良好であったが、各層間に界面が形成されて本願の移行領域にならなかったため、干渉縞が観察され、鉛筆硬度も実施例1に比べて低く、密着率が0%で密着性も不良となった。
プライマー層を有するPET基材にHC層のみを形成した比較例3では、調湿後の密着性が低下し、耐久密着性も不良となった。
【符号の説明】
【0100】
1 光学フィルム
10 光透過性基材
20 密着層
30 ハードコート層
40 移行領域
50 低屈折率層
60 塗工ヘッド
70 スライド面
80 密着層用組成物
90 移行領域形成用組成物
100 ハードコート層用硬化性樹脂組成物
110 ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性基材の一面側に、当該光透過性基材側から順に密着層及びハードコート層が設けられており、
当該密着層は、当該光透過性基材を構成する樹脂と同種の樹脂を主体とする組成物からなり、且つ、当該密着層のガラス転移温度は当該光透過性基材のガラス転移温度よりも低く、
当該ハードコート層は、ハードコート層用硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、
当該密着層とハードコート層の間には、当該二層の成分が混在した移行領域が存在することを特徴とする、光学フィルム。
【請求項2】
前記光透過性基材が表面未処理の光透過性基材であることを特徴とする、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記表面未処理の光透過性基材がポリエチレンテレフタレート基材であり、且つ、前記密着層における樹脂がアモルファスポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする、請求項2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
光透過性基材の一面側に、当該光透過性基材側から順に密着層及びハードコート層が設けられており、
当該密着層は、当該光透過性基材を構成する樹脂と同種の樹脂を主体とする組成物からなり、且つ、当該密着層の凝集エネルギー密度の平方根より算出されるSP値と当該光透過性基材のSP値はその差の絶対値が2以内であり、
当該ハードコート層は、ハードコート層用硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、
当該密着層とハードコート層の間には、当該二層の成分が混在した移行領域が存在することを特徴とする、光学フィルム。
【請求項5】
前記光透過性基材が表面未処理の光透過性基材であることを特徴とする、請求項4に記載の光学フィルム。
【請求項6】
前記表面未処理の光透過性基材がポリエチレンテレフタレート基材であり、且つ、前記密着層における樹脂がアモルファスポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする、請求項5に記載の光学フィルム。
【請求項7】
光透過性基材を構成する樹脂と同種、且つ、当該光透過性基材のガラス転移温度よりも低いガラス転移温度の樹脂及び第一の溶剤を含む密着層用組成物、光硬化性を有するバインダー成分及び第二の溶剤を含むハードコート層用硬化性樹脂組成物、並びに、光透過性基材を構成する樹脂と同種、且つ、当該光透過性基材のガラス転移温度よりも低いガラス転移温度の樹脂、光硬化性を有するバインダー成分及び第三の溶剤を含み、且つ、当該樹脂、当該バインダー成分及び当該第三の溶剤の総量に対する当該樹脂及び当該バインダー成分の合計含有割合が、当該密着層用組成物における当該樹脂及び当該第一の溶剤の総量に対する当該樹脂の含有割合並びに当該ハードコート層用硬化性樹脂組成物における当該バインダー成分及び当該第二の溶剤の総量に対する当該バインダー成分の含有割合よりも高い移行領域形成用組成物を準備し、
次いで、光透過性基材の一面側に、当該光透過性基材側から密着層用組成物、移行領域形成用組成物及びハードコート層用硬化性樹脂組成物をこの順に位置するように同時塗布し、塗膜とし、
塗膜を乾燥させ、ハードコート層用硬化性樹脂組成物の塗膜に光照射し硬化させて得られることを特徴とする、光学フィルム。
【請求項8】
前記光透過性基材が表面未処理の光透過性基材であることを特徴とする、請求項7に記載の光学フィルム。
【請求項9】
前記表面未処理の光透過性基材がポリエチレンテレフタレート基材であり、且つ、前記密着層用組成物中の樹脂がアモルファスポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする、請求項8に記載の光学フィルム。
【請求項10】
前記同時塗布をスライドコーターにより行うことを特徴とする、請求項7乃至9のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項11】
前記密着層用組成物における前記樹脂の、当該樹脂及び前記第一の溶剤の総量に対する含有割合が、30〜50質量%、
前記ハードコート層用硬化性樹脂組成物における前記バインダー成分の、当該バインダー成分及び前記第二の溶剤の総量に対する含有割合が、30〜50質量%、且つ、
前記移行領域形成用組成物における前記樹脂及び前記バインダー成分の総量の、当該樹脂、当該バインダー成分及び前記第三の溶剤の総量に対する含有割合が、50〜80質量%であることを特徴とする、請求項7乃至10のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項12】
光透過性基材を構成する樹脂と同種の樹脂及び第一の溶剤を含み、且つ、当該樹脂の凝集エネルギー密度の平方根より算出されるSP値と当該光透過性基材のSP値の差の絶対値が2以内である密着層用組成物、光硬化性を有するバインダー成分及び第二の溶剤を含むハードコート層用硬化性樹脂組成物、並びに、光透過性基材を構成する樹脂と同種の樹脂、光硬化性を有するバインダー成分及び第三の溶剤を含み、且つ、当該樹脂のSP値と当該光透過性基材のSP値の差の絶対値が2以内であり、且つ、当該樹脂、当該バインダー成分及び当該第三の溶剤の総量に対する当該樹脂及び当該バインダー成分の合計含有割合が、当該密着層用組成物における当該樹脂及び当該第一の溶剤の総量に対する当該樹脂の含有割合並びに当該ハードコート層用硬化性樹脂組成物における当該バインダー成分及び当該第二の溶剤の総量に対する当該バインダー成分の含有割合よりも高い移行領域形成用組成物を準備し、
次いで、光透過性基材の一面側に、当該光透過性基材側から密着層用組成物、移行領域形成用組成物及びハードコート層用硬化性樹脂組成物をこの順に位置するように同時塗布し、塗膜とし、
塗膜を乾燥させ、ハードコート層用硬化性樹脂組成物の塗膜に光照射し、硬化させて得られることを特徴とする、光学フィルム。
【請求項13】
前記光透過性基材が表面未処理の光透過性基材であることを特徴とする、請求項12に記載の光学フィルム。
【請求項14】
前記表面未処理の光透過性基材がポリエチレンテレフタレート基材であり、且つ、前記密着層用組成物中の樹脂がアモルファスポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする、請求項13に記載の光学フィルム。
【請求項15】
前記同時塗布をスライドコーターにより行うことを特徴とする、請求項12乃至14の
いずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項16】
前記密着層用組成物における前記樹脂の、当該樹脂及び前記第一の溶剤の総量に対する含有割合が、30〜50質量%、
前記ハードコート層用硬化性樹脂組成物における前記バインダー成分の、当該バインダー成分及び前記第二の溶剤の総量に対する含有割合が、30〜50質量%、且つ、
前記移行領域形成用組成物における前記樹脂及び前記バインダー成分の総量の、当該樹脂、当該バインダー成分及び前記第三の溶剤の総量に対する含有割合が、50〜80質量%であることを特徴とする、請求項12乃至15のいずれか一項に記載の光学フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−70170(P2011−70170A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185796(P2010−185796)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】