説明

光学フィルム

【課題】ヘイズを低減できると共に、ホメオトロピック配向性を示すことができる光学フィルムおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】前記光学フィルムは、メソゲン成分と感光性基とを有する側鎖(a)と、メソゲン成分を有し、光反応性を示さない側鎖(b)とを含み、側鎖(a)及び側鎖(b)を、90/10〜10/90の割合(モル比)で含む液晶性高分子を垂直または略垂直配向させ、光照射によってその配向を固定した光学フィルムであり、光重合開始剤を実質的に含有していない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘイズを低減できると共に、ホメオトロピック配向性を示すことができる光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、光学フィルムの配向を制御するには、延伸によってその分子配列を配列させる技術が用いられている。このような点で、延伸フィルムは、フィルムを延伸することによりフィルム面方向の配向性を自由に調節することが可能である。しかしながら、一方で、フィルムの厚み方向にフィルムを延伸することは不可能であるため、フィルムの厚み方向の配向性を広範囲にわたって均一に制御することは非常に困難である。
【0003】
例えば、厚み方向の位相差を広範囲に制御するために、特許文献1には、ホメオトロピック配向性側鎖型液晶ポリマーまたは当該側鎖型液晶ポリマーと光重合性液晶化合物を含有してなるホメオトロピック配向液晶性組成物により形成されたホメオトロピック配向液晶フィルムと、位相差機能を有する延伸フィルムとを積層一体化したことを特徴とする位相差板が開示されている。ここで、ホメオトロピック配向性側鎖型液晶ポリマーとしては、正の屈折率異方性を有する、液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニット(a)と非液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニット(b)を含有する側鎖型液晶ポリマーを用いることが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、a)少なくとも1個の重合性官能基を有する少なくとも1種のメソゲンを、b)開始剤、c)必要に応じて、2個または3個以上の重合性官能基を有する非メソゲン化合物を含む、重合性メソゲン物質の混合物の重合あるいは共重合によって得られる少なくとも1つのアニソトロピックポリマー層が開示されている。
これらの先行技術に用いられる重合性官能基は、ビニル基、アクリレート基、メタクリレート基、プロペニル基などの不飽和二重結合であり、これらの官能基自体は光への活性が低い。したがって、重合を促進するためには、光によってラジカル解離し、生成ラジカルによって官能基を攻撃する光重合開始剤(べンゾイン系、べンジルケタール系、アントラキノン類、AIBNなどが使用される)を添加混合しておく必要がある。
【0005】
これらの文献では、効率よく光重合性液晶化合物を重合または架橋させるために、イルガキュア907、イルガキュア651(いずれもチバスペシャルティケミカルズ社製)などのアセトフェノン系光重合開始剤を使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−149441号公報
【特許文献2】特表2000−514202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような光重合開始剤を用いると、液晶性高分子が複数の異なるドメインを形成する場合があり、これによってフィルムにへイズが発生してしまう。このようなへイズが大きなフィルムを液晶表示装置に装着すると、黒表示時に光漏れが発生し表示コントラストの低下を引き起こしてしまうため、液晶表示装置の品質が低下する。
更に、光重合開始剤により液晶性高分子のホメオトロピック配向が阻害される虞がある。液晶性高分子の配向が阻害されその配向度が低下すると、所望の光学特性を得るには膜厚を高める必要がある。それに伴って材料の使用量が増え、ひいてはフィルムの薄型化を達成できないなどの問題が発生する。
【0008】
したがって、本発明の目的は、ホメオトロピック配向が良好でヘイズの発生を抑制できる光学フィルムを提供することである。
【0009】
したがって、本発明の別の目的は、ホメオトロピック配向が良好であるとともに、耐熱性に優れる光学フィルムを提供することである。
【0010】
本発明のさらに別の目的は、ホメオトロピック配向が良好な光学フィルムを効率よく製造することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の問題を解決するために鋭意研究した結果、特定の非感光性の側鎖を有する単量体と、特定の感光性の側鎖を有する単量体とを特定の割合で重合させると、たとえ光重合開始剤を用いなくとも、ホメオトロピック配向が良好な光学フィルムを得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明第1の構成は、メソゲン成分と感光性基とを有する側鎖(a)と、メソゲン成分を有し、光反応性を示さない側鎖(b)とを含み、側鎖(a)及び側鎖(b)を、90/10〜10/90の割合(モル比)で含む液晶性高分子を垂直配向させ、光照射によってその配向を固定した光学フィルムである。
この光学フィルムは、光重合開始剤を実質的に含有していない。
【0013】
前記光学フィルムにおいて、側鎖(a)の構造は、以下の式(I):
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、p=1〜12、q=0または1、r=0〜12、X=なし,−N=N−,−C=C−,−C≡C−,−COO−,−OCO−,または−C−、W=シンナモイル基、カルコン基、シンナミリデン基、ビフェニルアクリロイル基、フリルアクリロイル基、ナフチルアクリロイル基、またはそれらの誘導体を示す。)
に示される分子構造であってもよい。
【0016】
また、側鎖(b)の構造は、以下の式(II):
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、s=1〜12、t=0または1、u=0〜12、Y=なし,−N=N−,−C=C−,−C≡C−,−COO−,−OCO−,または−C−、Z=−H,−OHまたは−CNを示す。)
に示される分子構造であってもよい。
【0019】
前記光学フィルムにおいては、側鎖(a)のメソゲン成分と、側鎖(b)のメソゲン成分とは、同一であるのが好ましい。
【0020】
また、前記光学フィルムにおいては、フィルムの耐熱性が、液晶高分子の等方相転移温度以上であるのが好ましい。さらに、フィルムの厚み方向の位相差値(Rth)が、30〜70nmまたは130nm以上であるのが好ましい。
【0021】
本発明第2の構成は、前記液晶性高分子を溶媒に溶解した溶液を、支持体上に塗布して塗布層を形成する塗布工程と、
ミクロドメインを形成する温度より低い温度で塗布層を乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程に続いて、加熱により塗布層にホメオトロピック配向を誘起する配向誘起工程と、
前記配向が誘起されたホメオトロピック配向層に対して光を照射する光照射工程とを含む光学フィルムの製造方法である。
【0022】
前記製造方法では、配向誘起工程において、塗布層を、等方相転移温度より低い温度で加熱することにより配向を誘起するのが好ましい。
【0023】
なお、本発明において、「ホメオトロピック配向」とは、液晶性高分子がフィルム面方向に対し、略平行かつ一様に配向した状態、すなわち、垂直または略垂直配向した状態をいう。
また、「感光性基」とは、光照射により他の分子と結合する官能基をいう。また、本発明において、液晶性高分子とは、材料単独に物理的な外部刺激(加熱、冷却、電場、磁場、せん断の印加等)を与えた時に液晶性を示すか、または溶媒や非液晶性成分との混合により液晶性を発現する高分子をいう。
【0024】
また、「光学フィルムが光重合開始剤を実質的に含有していない」とは、光学フィルムを製造するに当たって、液晶性高分子に対して、光重合開始剤の量が0〜1重量%であることを意味する。
【発明の効果】
【0025】
本発明第1の構成によれば、メソゲン成分と感光性基とを有する側鎖(a)と、メソゲン成分を有し、光反応性を示さない側鎖(b)とが、特定の割合で含まれる液晶性高分子を用いているため、液晶性高分子が効率よくホメオトロピック配向することができる。さらに、光重合開始剤を実質的に含有しなくとも、光照射によって配向を固定することができるため、ヘイズの発生を抑制できるとともに、ホメオトロピック配向の良好な光学フィルムを得ることができる。
【0026】
本発明第2の構成によれば、特定の液晶性高分子を用いることにより、塗布工程と乾燥工程と加熱工程と光照射工程という簡便な方法によって、ホメオトロピック配向されたフィルムを効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(液晶性高分子)
本発明の光学フィルムは、メソゲン成分と感光性基とを有する側鎖(a)と、メソゲン成分を有し、光反応性を示さない側鎖(b)とを含み、側鎖(a)及び側鎖(b)を、90/10〜10/90の割合(モル比)で含む液晶性高分子を垂直配向させ、光照射によってその配向を固定した光学フィルムである。
この光学フィルムは、ホメオトロピック配向を示しており、光重合開始剤を実質的に含有していない。ここで、光重合開始剤とは、重合を促進するためには、光によってラジカル解離し、生成ラジカルによって官能基を攻撃する光重合開始剤を意味し、これらの光重合開始剤としては、べンジルケタール系光重合開始剤、べンゾイン系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、アントラキノン類などの芳香族化合物を骨格の一部に含有する光重合開始剤が挙げられる。
【0028】
(メソゲン成分と感光性基とを有する側鎖(a))
本発明において、メソゲン成分と感光性基とを有する側鎖(a)としては、(i)シンナモイル基、カルコン基、シンナミリデン基、ビフェニルアクリロイル基、フリルアクリロイル基、ナフチルアクリロイル基(または、それらの誘導体)などの感光性基と、(ii)液晶性高分子のメソゲン成分として多用されているビフェニル、ターフェニル、フェニルベンゾエート、アゾベンゼンなどの置換基と、をスペーサー(例えば、炭素数1〜15(好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜5)の(オキシ)アルキレン基など)を介してまたは介さず結合した構造を含む側鎖が挙げられる。これらの構造は、液晶性高分子において、単独で、または二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
例えば、側鎖(a)としては、下記に示す分子構造が挙げられる。
【0030】
【化3】

【0031】
(式中、p=1〜12、q=0または1、r=0〜12、X=なし,−N=N−,−C=C−,−C≡C−,−COO−,−OCO−,または−C−、W=シンナモイル基、カルコン基、シンナミリデン基、ビフェニルアクリロイル基、フリルアクリロイル基、ナフチルアクリロイル基、またはそれらの誘導体を示す。)
【0032】
これらの分子構造のうち、好ましい組み合わせとしては、p=3〜9、q=1、r=1〜3、X=なし,−C=C−,−COO−,−OCO−,−C−、W=シンナモイル基、カルコン基、シンナミリデン基、ビフェニルアクリロイル基、フリルアクリロイル基、ナフチルアクリロイル基、またはそれらの誘導体;p=3〜9、q=0、r=0、X=なし,−C=C−,−COO−,−OCO−,−C−、W=シンナモイル基、カルコン基、シンナミリデン基、ビフェニルアクリロイル基、フリルアクリロイル基、ナフチルアクリロイル基、またはそれらの誘導体などが挙げられる。
【0033】
(メソゲン成分を有し、光反応性を示さない側鎖(b))
本発明において、メソゲン成分を有し、光反応性を示さない側鎖(b)としては、(i)水素原子、アルコキシ基、ヒドロキシル基、シアノ基などの非感光性基と、(ii)液晶性高分子のメソゲン成分として多用されているビフェニル、ターフェニル、フェニルベンゾエート、アゾベンゼンなどの置換基とを、スペーサーを介してまたは介さず結合した構造を含む側鎖が挙げられる。これらの構造は、液晶性高分子において、単独で、または二種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、通常、非感光性基とは、C=C、C=NまたはN=Nからなる二重結合を含まない基であればよい。
【0034】
例えば、側鎖(b)としては、下記に示す分子構造が挙げられる。
【0035】
【化4】

【0036】
(式中、s=1〜12、t=0または1、u=0〜12、Y=なし,−N=N−,−C=C−,−C≡C−,−COO−,−OCO−,または−C−、Z=−H,−OHまたは−CNを示す。)
【0037】
これらの分子構造のうち、好ましい組み合わせとしては、s=3〜9、t=1、u=1〜3、Y=なし,−C=C−,−COO−,−OCO−,−C−、Z=−H,−OHまたは−CN;p=3〜9、q=0、r=0、Y=なし,−C=C−,−COO−,−OCO−,−C−、Z=−H,−OHまたは−CNなどが挙げられる。
【0038】
上記の液晶性高分子を構成する主鎖としては、上記側鎖をスペーサーを介して結合した炭化水素、アクリレート、メタクリレート、シロキサン、マレインイミド、N−フェニルマレインイミドなどが挙げられる。
【0039】
光学フィルムがホメオトロピック配向する限り、側鎖(a)および側鎖(b)は自由に選択することができるが、メソゲン成分を良好にホメオトロピック配向させる観点から、側鎖(a)と側鎖(b)にそれぞれ含まれるメソゲン成分は同じ種類であるのが好ましい。
【0040】
上記の液晶性高分子は、側鎖(a)及び側鎖(b)を、モル比[(a)/(b)]=90/10〜10/90で含んでおり、好ましくは85/15〜15/85(例えば、50/50〜15/85)、さらに好ましくは20/80〜20/80(例えば、40/60〜20/80)の割合(モル比)で含んでいてもよい。側鎖(a)が10モル%未満になると、感光性反応を充分行なうことができなくなる。また、以下の比較例4で示すように、側鎖(b)が10モル%未満になると、配向状態に乱れが生じ白化する現象が発現してしまう。なお、共重合に際し、液晶性高分子の液晶性を損なわない範囲であれば、他の単量体を更に感光性の重合体に共重合してもよい。このような単量体は、通常液晶性を示さない。
【0041】
メソゲン成分と感光性基とを有する側鎖(a)と、メソゲン成分を有し、光反応性を示さない側鎖(b)とを、このような特定の割合で含有することにより、効率的に光重合を行なうことが可能であり、たとえ光重合開始剤を有していなくとも、良好なホメオトロピック配向することができる液晶性高分子を得ることが可能となる。
【0042】
(光学フィルムの製造方法)
本発明において、光学フィルムの製造方法は、支持体上に上記液晶性高分子を溶媒に溶解した溶液を塗布して塗布層を形成する塗布工程と、ミクロドメインを形成する温度より低い温度で塗布層を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程に続いて加熱により配向を誘起する配向誘起工程と、前記配向が誘起された塗布層に対して光を照射する光照射工程とを少なくとも含んでいる。
【0043】
(塗布工程)
塗布工程では、まず、上記液晶性高分子を、溶媒に溶解した液晶性高分子溶液を準備する。液晶性高分子溶液には、目的に応じて、下記に記載するメソゲン成分を有する低分子化合物、その他の成分(光増感剤など)を加えてもよい。
【0044】
(低分子化合物)
本発明において、光配向層における配向を増強するために前記の感光性基を有する液晶性ポリマーに低分子化合物を混合し、その混合物に直線偏光性紫外線を照射することもできる。かかる低分子化合物としては、メソゲン成分として知られているビフェニル、ターフェニル、フェニルベンゾエート、アゾベンゼンなどの置換基を有し、このような置換基とアリル、アクリレート、メタクリレート、桂皮酸基(またはその誘導体基)などの官能基を、前記スペーサーを介して結合した液晶性を有するものが好ましく用いられる。これらの低分子化合物は、単一の化合物として用いられるだけでなく、複数の化合物が混合されてもよい。このような低分子化合物は、液晶性ポリマーに対して、5〜50重量%、好ましくは10〜30重量%の範囲内で加えるのが好ましい。
【0045】
このような低分子化合物を加える場合、低分子化合物の重合を促進するため、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、およびα,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノンのようなベンゾイン誘導体;ベンゾフェノン、2,4−ジクロロベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンのようなベンゾフェノン誘導体などの光増感剤を加えるのが好ましい。
【0046】
また、溶剤としては、ジオキサン、ジクロロエタン、シクロヘキサノン、トルエン、テトラヒドロフラン、o−ジクロロベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられ、これらの溶媒は、単独または混合して用いられる。
【0047】
支持体としては、ガラス基板、種々の高分子フィルムの中から適宜選択して用いられる。高分子フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ジアセチルセルロースおよびトリアセチルセルロースなどのセルロース系ポリマーフィルム、ビスフェノールA・炭酸共重合体などのポリカーボネート系ポリマーフィルム、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびエチレン・プロピレン共重合体などの直鎖または分枝状ポリオレフィンフィルム、ポリアミド系フィルム、イミド系ポリマーフィルム、スルホン系ポリマーフィルムなどが挙げられる。
【0048】
前記液晶性高分子溶液は、上記の支持体上に対して、所定厚みのフィルムになるように、スピンコート、ロールコート、スクリーン印刷法、ナイフコート、スプレーコートなどの塗布方法により塗布することができる。
【0049】
(乾燥工程)
塗布工程に続いて、塗布層を、液晶性高分子がミクロドメインを形成する温度より低い温度で乾燥させる。この乾燥工程により、液晶性高分子が相分離によりミクロドメインを形成することを防ぎつつ、塗布液から溶剤を除去することができる。通常、液晶性高分子溶液から溶剤を除去する際、温度の上昇によって液晶性高分子は相分離してミクロドメイン構造を形成する。しかしながら、このようなミクロドメイン構造は光学フィルムを白濁させ、光学フィルムの質的低下を引き起こすため好ましくない。
【0050】
ミクロドメインを形成する温度は高分子の構造に応じて異なるが、フィルムの乾燥温度は、例えば、15〜50℃程度であってもよく、好ましくは20〜40℃程度であってもよい。作業性を高める観点から、フィルムの乾燥温度は、室温(20〜30℃程度)であってもよい。
【0051】
(配向誘起工程)
乾燥工程に続いて、塗布層を加熱して、液晶性高分子をホメオトロピック配向へと配向誘起させる。ホメオトロピック配向を効率よく誘起するために、塗布層を、等方相転移温度より低い温度で加熱するのが好ましい。加熱温度は、加熱温度は高分子の構造に応じて異なるが、例えば、80〜150℃程度、好ましくは100〜140℃程度であってもよい。また、加熱後は塗布層をそのまま徐冷してホメオトロピック配向を誘起させてもよい。
【0052】
(光照射工程)
光照射工程では、前記配向が誘起されたホメオトロピック配向層に対して、光を照射して、その配向を固定する。光照射工程では、ホメオトロピック配向を固定できる限り様々な種類の光を照射することができるが、通常、非偏光性の紫外線が用いられる。
【0053】
前記ホメオトロピック配向層では、感光性基を有する側鎖および非感光性である側鎖を、所定の割合で有する液晶性高分子を利用しているため、この高分子を加熱して垂直配向を誘起させたホメオトロピック配向層では、光重合開始剤を添加しなくとも、架橋反応を進めることができる。このため不純物と成り得るこのような光重合開始剤を添加する必要がない。このためへイズを低減したフィルムが作製でき、配向度の低下も抑えられ、材料の使用量も削減できる。
【0054】
(光学フィルム)
このようにして得られた光学フィルムは、ホメオトロピック配向しているため、特に、ポジティブCプレートとして好適に利用することができる。なお、ポジティブCプレートとは、面内の主屈折率をnx(遅相軸方向)、ny(進相軸方向)とし、厚み方向の屈折率をnzとしたとき、屈折率分布がnz>nx=nyを満足する正の一軸性位相差光学素子をいう。
【0055】
例えば、フィルムの厚み方向の位相差値(Rth)は、通常可能な範囲としては、30〜180nm程度、好ましくは50〜160nm程度であってもよい。また、位相差値(Rth)は、用途に応じて適宜選択することができ、例えば、通常、ホメオトロピック配向の強い130nm以上、好ましくは140nm以上、より好ましくは150nm以上であってもよいが、その一方で、偏光板の斜め方向の光漏れを無くす光学補償フィルムとして本発明の光学フィルムを用いる場合、フィルムの厚み方向の位相差値(Rth)は、30〜70nm程度であってもよく、好ましくは40〜60nm程度であってもよい。
【0056】
また、良好なホメオトロピック配向により、本発明の光学フィルムでは、膜厚が薄くとも所望の光学特性を得ることが可能である。例えば、本発明の光学フィルムの厚みは、例えば、0.3〜3μm程度であってもよく、好ましくは0.5〜2.5μm程度であってもよく、光学フィルムの薄型化に貢献できる。
【0057】
また、本発明の光学フィルムでは、優れた耐熱性を示し、たとえば、液晶高分子の等方相転移温度以上に加熱されたとしても、その光学特性を維持することができる。
【実施例】
【0058】
以下に、実施例及び比較例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。本発明の実施例及び比較例において用いた材料に関する合成方法を以下に示す。
【0059】
(単量体1)
4,4’−ビフェニルジオールと2−クロロエタノールを、アルカリ条件下で加熱することにより、4−ヒドロキシ−4’−ヒドロキシエトキシビフェニルを合成した。この生成物に、アルカリ条件下で1,6−ジブロモヘキサンを反応させ、4−(6−ブロモヘキシルオキシ)−4’−ヒドロキシエトキシビフェニルを合成した。次いで、リチウムメタクリレートを反応させ、化学式5で示される単量体1を合成した。
【0060】
【化5】

【0061】
(単量体2)
単量体1に、塩基性の条件下において、塩化シンナモイルを加え、化学式6に示される単量体2を合成した。
【0062】
【化6】

【0063】
(低分子材料1)
4,4’−ビフェニルジオールと6−ブロモヘキサノールを、アルカリ条件下で反応させ、4,4’− ビス(6−ブロモヘキシルオキシ)ビフェニルを合成した。次いで、塩基性の条件下において、メタクリル酸クロライドを加え反応させ、生成物を再結晶することにより[化7]に示される低分子材料1を合成した。
【0064】
【化7】

【0065】
(重合体1)
単量体1と単量体2をモル比3:7でテトラヒドロフラン中に溶解し、熱重合開始剤としてAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を添加して、70℃で24時間重合させた後、重合溶液をメタノールで析出し、ろ過、乾燥することにより感光性の重合体1を得た。この重合体1は液晶性を呈した。
【0066】
(重合体2)
単量体1と単量体2をモル比8.5:1.5でテトラヒドロフラン中に溶解して、熱重合開始剤としてAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を添加して、70℃で24時間重合させた後、重合溶液をメタノールで析出し、ろ過、乾燥することにより感光性の重合体2を得た。
【0067】
(重合体3)
単量体2をテトラヒドロフラン中に溶解して、熱重合開始剤としてAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を添加して、70℃で24時間重合させた後、重合溶液をメタノールで析出し、ろ過、乾燥することにより感光性の重合体3を得た。
【0068】
なお、これらの重合体1〜3では、重合溶液から重合体を分離させる工程においてAIBNは重合体から取り除かれている。
【0069】
〔実施例1〕
重合体1をシクロヘキサノンに溶解し溶液を調整した。この溶液をカバーガラス基板上にスピンコーターを用いて約1.5μmの厚みとなるよう塗布した。この基板を室温(25℃)で乾燥させた。続いて、100℃まで加熱後徐冷することによって配向を誘起した。最後に、高圧水銀灯からの紫外光1000秒間照射して配向を固定し垂直配向した膜をカバーガラス基板上に作製した。このようにして作製した膜は、面内のリタデーション(Re0)略0nm、膜厚方向のリタデーション(Rth)161nm(△n=0.1073)の垂直配向した膜であった。また、へイズも殆ど観察できなかった。更に、この基板を重合体1の等方相転移温度以上である140℃に加熱しても配向は乱れることはなかった。
【0070】
〔実施例2〕
重合体2をシクロヘキサノンに溶解し溶液を調整した。この溶液をカバーガラス基板上にスピンコートを用いて約2μmの厚みとなるよう塗布した。この基板を室温(25℃)で乾燥させた。続いて、80℃まで加熱後徐冷することによって配向を誘起した。最後に、高圧水銀灯からの紫外光1000秒間照射して配向を固定し垂直配向した膜をカバーガラス上に作製した。このようにして作製した膜は、面内のリタデーション(Re0)略0nm、膜厚方向のリタデーション(Rth)166.3nm(Δn=0.0718)の垂直配向した膜であった。また、へイズも殆ど観察できなかった。更に、この基板を重合体1の等方相転移温度以上である140℃に加熱しても配向は乱れることはなかった。
【0071】
〔実施例3〕
重合体2と低分子化合物1を重量比87:13でシクロヘキサノンに溶解し溶液を調整した。この溶液をカバーガラス基板上にスピンコートを用いて約2.2μmの厚みとなるよう塗布した。この基板を室温(25℃)で乾燥させた。続いて、80℃まで加熱後徐冷することによって配向を誘起した。最後に、高圧水銀灯からの紫外光1000秒間照射して配向を固定し垂直配向した膜をカバーガラス上に作製した。このようにして作製した膜は、面内のリタデーション(Re0)略0nm、膜厚方向のリタデーション(Rth)203.8nm(Δn=0.0932)の垂直配向した膜であった。また、へイズも殆ど観察できなかった。更に、この基板を重合体1の等方相転移温度以上である140℃に加熱しても配向は乱れることはなかった。なお、低分子化合物1を添加していない、実施例2と比較するとΔnが増強されていた。
【0072】
〔実施例4〕
重合体1をシクロヘキサノンに溶解し溶液を調整した。この溶液をカバーガラス基板上にスピンコートを用いて約0.5μmの厚みとなるよう塗布した。この基板を室温(25℃)で乾燥させた。続いて、100℃まで加熱後徐冷することによって配向を誘起した。最後に、高圧水銀灯からの紫外光1000秒間照射して配向を固定し垂直配向した膜をカバーガラス上に作製した。このようにして作製した膜は、面内のリタデーション(Re0)略0nm、膜厚方向のリタデーション(Rth)50.1nm(Δn=0.1002)の垂直配向した膜であった。また、へイズも殆ど観察できなかった。更に、この基板を重合体1の等方相転移温度以上である140℃に加熱しても配向は乱れることはなかった。
【0073】
〔比較例1〕
重合体1に光重合開始剤イルガキュア1800(ビスアシルフォスフィンオキサイドと1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの1:3の混合物:チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)を5重量%添加し、シクロヘキサノンに溶解し溶液を調整した。この溶液をカバーガラス基板上にスピンコーターを用いて約1.5μmの厚みとなるよう塗布した。この基板を室温(25℃)で乾燥させた。続いて、100℃まで加熱後徐冷することによって配向を誘起した。最後に、高圧水銀灯からの紫外光1000秒間照射して配向を固定し垂直配向した膜をカバーガラス基板上に作製した。このようにして作製した膜は、面内のリタデーション(Re0)略0nm、膜厚方向のリタデーション(Rth)116nm(△n=0.0773)の垂直配向した膜であった。また、目視での観察において明らかにヘイズを生じていた。
【0074】
〔比較例2〕
重合体1をシクロヘキサノンに溶解し溶液を調整した。この溶液をカバーガラス基板上にスピンコーターを用いて約1.5μmの厚みとなるよう塗布した。この基板を室温(25℃)で乾燥させた。続いて、100℃まで加熱後徐冷することによって配向を誘起した。高圧水銀灯からの紫外光を照射することなくこの基板を重合体1の等方相転移温度以上である140℃に加熱すると配向は乱れるとともに、白濁した膜となった。
【0075】
〔比較例3〕
重合体1をシクロへキサノンに溶解し溶液を調整した。この溶液をカバーガラス基板上にスピンコーターを用いて約1.5μmの厚みとなるよう塗布した。乾燥温度が60〜70℃になると僅かに白濁(ヘイズ)が観察され、80〜90℃になると顕著になりミクロドメインの形成が示唆された。80℃のホットプレート上で乾燥させた基板を用い、120℃まで加熱後徐冷することによって配向を誘起した。最後に高圧水銀灯からの紫外光1000秒間照射して配向を固定し垂直配向した膜をカバーガラス基板上に作製した。このようにして作製した膜は、面内のリタデーション(Re0)略0nm、膜厚方向のリタデーション(Rth)149nm(△n=0.09933)の垂直配向した膜であった。乾燥時に生じたヘイズは解消されることはなかった。
【0076】
〔比較例4〕
重合体3をシクロヘキサノンに溶解し溶液を調整した。この溶液をカバーガラス基板上にスピンコートを用いて約2μmの厚みとなるよう塗布した。この基板を室温(25℃)で乾燥させた。続いて、80℃まで加熱後徐冷することによって配向を誘起した。最後に、高圧水銀灯からの紫外光1000秒間照射して配向を固定し垂直配向した膜をカバーガラス上に作製した。このようにして作製した膜は、面内のリタデーション(Re0)略0nm、膜厚方向のリタデーション(Rth)97.8nm(Δn=0.0493)の垂直配向した膜であったが、ヘイズが大きくなり、光学補償フィルムとしての実用性に耐えるものではなかった。
【0077】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0078】
(光学フィルムの用途)
本発明で得られた光学フィルムは、単独でまたは他のフィルムと組み合わせて、位相差フィルム、偏光フィルム、視野角向上フィルム、輝度向上フィルムなどとして用いることができる。また、本発明で得られた光学フィルムは、パーソナルコンピューター、液晶テレビ、携帯電話、携帯情報端末(PDA)等の液晶表示装置に用いて、良好な光学特性を発揮することができる。
【0079】
以上の通り、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホメオトロピック配向した光学フィルムであって、
光重合開始剤を実質的に含有しておらず、
メソゲン成分と感光性基とを有する側鎖(a)と、メソゲン成分を有し、光反応性を示さない側鎖(b)とを含み、側鎖(a)及び側鎖(b)を、90/10〜10/90の割合(モル比)で含む液晶性高分子を垂直または略垂直配向させ、光照射によってその配向を固定した光学フィルム。
【請求項2】
請求項1において、側鎖(a)の構造が、以下の式(I):
【化1】

(式中、p=1〜12、q=0または1、r=0〜12、X=なし,−N=N−,−C=C−,−C≡C−,−COO−,−OCO−,または−C−、W=シンナモイル基、カルコン基、シンナミリデン基、ビフェニルアクリロイル基、フリルアクリロイル基、ナフチルアクリロイル基、またはそれらの誘導体を示す。)
に示される分子構造であり、側鎖(b)の構造が、以下の式(II):
【化2】

(式中、s=1〜12、t=0または1、u=0〜12、Y=なし,−N=N−,−C=C−,−C≡C−,−COO−,−OCO−,または−C−、Z=−H、−OHまたは−CNを示す。)
に示される分子構造である光学フィルム。
【請求項3】
請求項1または2において、側鎖(a)のメソゲン成分と、側鎖(b)のメソゲン成分とが、同一である、光学フィルム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項において、フィルムの耐熱性が、液晶高分子の等方相転移温度以上である光学フィルム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項において、フィルムの厚み方向の位相差値(Rth)が、30〜70nmまたは130nm以上である光学フィルム。
【請求項6】
請求項1に記載された液晶性高分子を溶媒に溶解した溶液を、支持体上に塗布して塗布層を形成する塗布工程と、
ミクロドメインを形成する温度より低い温度で塗布層を乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程に続いて、加熱により塗布層にホメオトロピック配向を誘起する配向誘起工程と、
前記配向が誘起されたホメオトロピック配向層に対して光を照射する光照射工程と、を含む光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項6において、配向誘起工程で、塗布層を、等方相転移温度より低い温度で加熱することにより配向を誘起する製造方法。

【公開番号】特開2013−33128(P2013−33128A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169098(P2011−169098)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(390031451)株式会社林技術研究所 (83)
【Fターム(参考)】