説明

光学プラスチック製品の製造方法

【課題】モノマーの種類に関わらず金属化合物をモノマー中に分散させることができる光
学プラスチック製品の製造方法を提供すること。
【解決手段】第1のモノマーとしてのポリチオール化合物中に金属アルコキシドを添加し
ポリチオール化合物を配位子として金属錯体を生成させるとともに同金属錯体を生成する
際に副次的に合成される副生成物としてのアルコールを除去する。その後第2のモノマー
としてイソシアネート化合物を上記溶液に混合したモノマー混合体を熱硬化させるように
する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば眼鏡レンズ、カメラ、望遠鏡等のレンズとしての用途に好適な光学プラ
スチック製品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から光学プラスチックの屈折率を制御する手段としてモノマー中に金属酸化物を添
加し、分散させることが行われている。金属酸化物は光学的性質を発現させるために微粒
子状態で存在する必要があるが、これを単にモノマー内に投入しただけではたとえばモノ
マーの粘度が高いと混練しても均一に分散させることは困難であり、粘度がそれほど高く
ないモノマーであっても単なる物理的な混合では微粒子状態の金属酸化物は凝集してしま
いやはり均一には分散できない。
そのため、微粒子状態の金属酸化物を分散させる手段として従来より特許文献1及び特
許文献2に開示される手段が採用されていた。
特許文献1に開示された技術は、自己重合性のモノマーを金属錯体として合成するとい
うものである。例えばこの特許文献1では金属原子とエピスルフィド基によって合成され
た錯体をモノマーとする技術である。
また、特許文献2に開示された技術はモノマーと金属酸化物との相溶性を向上させるた
めに金属酸化物にモノマーとの相溶性を向上させる物質を付加する技術である。金属酸化
物がモノマーに対して相溶性がなければ金属酸化物は分散できず、そもそも両者の相溶性
がなければ光学プラスチックとしての透明性も得られない。特許文献2では具体的に重合
性シランカップリング剤と金属アルコキシドから金属シラン縮合体を合成し、モノマーと
の相溶性を向上させるようにしている。
【特許文献1】特開2006−169190号公報
【特許文献2】特開2007−126491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1のような錯体化したモノマーを合成するのは非常に手間がかかり、
製造コストが高くなる傾向にある。また、あるモノマーを錯体化しようとした場合にモノ
マー毎に錯体化する方法が異なることとなるため合成作業が繁雑となり、必ずしも使用し
ようと考えているモノマーで錯体化が可能であるわけでもない。また、特許文献2でも特
許文献1と同様に、付加する物質に汎用性がないため、あるモノマーに対して相溶性がよ
くなるかどうかは相溶性を向上させると予測される物質を実際に金属酸化物に付加させ、
その生成物とモノマーとの相溶性のテストをしてみないと分からないわけである。
そのため、モノマーの種類に関わらず金属化合物をモノマー中に確実に分散させる手段
が求められていた。
本発明は、上記課題を解消するためになされたものであり、その目的は、モノマーの種
類に関わらず金属化合物をモノマー中に分散させることができる光学プラスチック製品の
製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明では、モノマー中に有機金属化合物を
添加し、同モノマーを配位子として金属錯体を生成させるとともに同金属錯体を生成する
際に副次的に合成される副生成物を除去し、次いで熱又は光硬化させることをその要旨と
する。
請求項2に記載の発明では請求項1に記載の発明において、前記モノマーはアクリル系モ
ノマーであることをその要旨とする。
請求項3に記載の発明では、第1のモノマー中に有機金属化合物を添加し、同モノマーを
配位子として金属錯体を生成させるとともに同金属錯体を生成する際に副次的に合成され
る副生成物を除去し、同金属錯体を含む第1のモノマーと同第1のモノマー又は同第1の
モノマーと相溶性のある第2のモノマーとを混合し、熱又は光硬化させるようにしたこと
をその要旨とする。
請求項4に記載の発明では請求項3に記載の発明において、前記副生成物は前記金属錯
体を含む第1のモノマーと同第1のモノマー又は同第1のモノマーと相溶性のある第2の
モノマーとを混合する前に除去することをその要旨とする。
請求項5に記載の発明では請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、前記有機金
属化合物は金属アルコキシドであることをその要旨とする。
請求項6に記載の発明では請求項5に記載の発明において、前記副生成物はアルコール
であることをその要旨とする。
請求項7に記載の発明では請求項3〜6のいずれかに記載の発明において、前記第1の
モノマーはポリチオール化合物またはポリオール化合物であることをその要旨とする。
請求項8に記載の発明では請求項3〜7のいずれかに記載の発明において、前記第2の
モノマーはイソシアネート化合物であることをその要旨とする。
【0005】
本発明に使用可能なモノマーとしては、例えばプラスチックとしてチオウレタン系共重
合体を得るためのポリイソシアネート化合物及びポリオール化合物又はポリチオール化合
物、エピスルフィド系重合体を得るためのエピスルフィド系モノマー、エポキシ系重合体
を得るためのエポキシ系モノマー、(メタ)アクリル系重合体を得るための(メタ)アク
リル系モノマー、ポリカーボネート重合体を得るためのビスフェノールA及び二塩化カル
ボニル又はジフェニルカーボネート、環状オレフィン重合体を得るための環状オレフィン
モノマー、ポリエステル重合体を得るためのエステル多価カルボン酸及びポリアルコール
等が挙げられる。
【0006】
より具体的には、ポリイソシアネート化合物として、例えばチオジエチルジイソシアネ
ート、チオジプロピルジイソシアネート、チオジヘキシルジイソシアネート、ジメチルス
ルフォンジイソシアネート、ジチオジメチルジイソシアネート、ジチオジエチルジイソシ
アネート、ジチオジプロピルジイソシアネート等の非環式含硫脂肪族イソシアネートが挙
げられる。また、1,4−ジチアン−2,5−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,
4−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−
1,2−ジイソシアネート、1−メチルシクロヘキサン−2,4−ジイソシアネート、1
−エチルシクロヘキサン−2,4−ジイソシアネート、シクロプロパン−1,2−ジイソ
シアネート、ジシクロヘキシル−4,4′−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン
−4,4′−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメチルメタン−4,4′−ジイソシア
ネート、ジシクロヘキシルジメチルメタン−4,4′−ジイソシアネート、2,2′−ジ
メチルジシクロヘキシルメタン−4,4′−ジイソシアネート、3,3′−ジメチルジシ
クロヘキシルメタン−4,4′−ジイソシアネート、3,3′,5,5′−テトラメチル
ジシクロヘキシルメタン−4,4′−ジイソシアネート、2,2,4,4−テトラメチル
−1,3−シクロブタンイソシアネート、2,2,4,4−テトラエチル−1,3−シク
ロブタンジイソシアネート等の脂環族ポリイソシアネートが挙げられる。
ポリオール化合物としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロ
ピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコ
ール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ブタントリオール
、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ソルビ
トール、エリスリトール、スレイトール、リビトール、アラビニトール、キシリトール、
アリトール、マニトール、ドルシトール、イディトール、グリコール、イノシトール、有
機多塩基酸と前記ポリオールとの縮合反応生成物、ハロゲン置換体も含まれる。
3官能イソシアネートとして、例えば1−メチルベンゼン−2,4,6−トリイソシア
ネート、ナフタリン−1,3,7−トリイソシアネート、ビフエニル−2,2,4’−ト
リイソシアネート、トリフエニルメタン−4,4’,4”−トリイソシアネート、トルイレ
ンジイソシアネートの3量体、ポリメチレンポリフエニルイソシアネート、1,6,11
−ウンデカントリイソシアネート、トルエン−2,4,6−トリイソシアネートが挙げら
れる。
ポリチオール化合物としては、例えばジエチレングリコールビス(2−メルカプトアセ
テート)、ジエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,2−ジメ
ルカプトプロピルメチルエーテル、2,3−ジメルカプトプロピルメチルエーテル、2,
2−ビス(メルカプトメチル)−1,3−プロパンジチオール、ビス(2−メルカプトエ
チル)エーテル、エチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、エチレングリ
コールビス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(2−メ
ルカプトアセテート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート
)、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリト
ールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)等の脂肪族ポリチオール及びそれらの
塩素置換体、臭素置換体等のハロゲン置換化合物が挙げられる。また、1,2,3,4−
テトラキス(メルカプトエチレンオキシ)ベンゼン、1,2,3,5−テトラキス(メル
カプトエチレンオキシ)ベンゼン、1,2,4,5−テトラキス(メルカプトエチレンオ
キシ)ベンゼン、2,2′−ジメルカプトビフェニル、4,4′−ジメルカプトビフェニ
ル、4,4′−ジメルカプトビベンジル、2,5−トルエンジチオール、3,4−トルエ
ンジチオール、1,4−ナフタレンジチオール、1,5−ナフタレンジチオール、2,6
−ナフタレンジチオール、2,7−ナフタレンジチオール、2,4−ジメチルベンゼン−
1,3−ジチオール、4,5−ジメチルベンゼン−1,3−ジチオール、9,10−アン
トラセンジメタンチオール、1,3−ジ(p−メトキシフェニル)プロパン−2,2−ジ
チオール、1,3−ジフェニルプロパン−2,2−ジチオール、フェニルメタン−1,1
−ジチオール、2,4−ジ(p−メルカプトフェニル)ペンタン等の芳香族ポリチオール
及びそれらの塩素置換体、臭素置換体等のハロゲン置換化合物が挙げられる。
【0007】
エピスルフィド系モノマーとしては、例えばビス(β−エピチオプロピルチオ)メタン
、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、1,3−ビス(β−エピチオプロ
ピルチオ)プロパン等の鎖状有機化合物、テトラキス(β−エピチオプロピルチオメチル
)メタン、1,1,1−トリス(β−エピチオプロピルチオメチル)プロパン、1,5−
ビス(β−エピチオプロピルチオ)−2−(β−エピチオプロピルチオメチル)−3−チ
アペンタン、1,5−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−2,4−ビス(β−エピチオ
プロピルチオメチル)−3−チアペンタン等の分岐状有機化合物及びこれらの化合物のエ
ピスルフィド基の水素の少なくとも1個がメチル基で置換された化合物、1,3及び1,
4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキサン、1,3及び1,4−ビス(β−
エピチオプロピルチオメチル)シクロヘキサン等の環状脂肪族有機化合物及びこれらの化
合物のエピスルフィド基の水素の少なくとも1個がメチル基で置換された化合物、1,4
−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、ビス〔4−(β−エピチオプロピ
ルチオ)フェニル〕メタン等の芳香族有機化合物及びこれらの化合物のエピスルフィド基
の水素の少なくとも1個がメチル基で置換された化合物等が挙げられる。
エポキシ系モノマーとしては、例えば多価フェノール化合物とエピハロヒドリンの縮合
により製造されるフェノール系エポキシ化合物、多価アルコール化合物とエピハロヒドリ
ンの縮合により製造されるアルコール系エポキシ化合物、多価カルボン酸化合物とエピハ
ロヒドリンの縮合により製造されるグリシジルエステル系エポキシ化合物、脂環式エポキ
シ化合物、ウレタン系エポキシ化合物等が広く含まれる。
【0008】
(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えばアクリル酸、アクリル酸2-ヒドロキシエ
チル、アクリル酸2ヒドロキシプロピル(2-ヒドロキシプロピルアクリレート)、メタ
クリル酸2-ヒドロキシエチル(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、メタクリル酸2-
ヒドロキシプロピル(2-ヒドロキシプロピルメタクリレート)、(メタ)アクリル酸メ
チル,(メタ)アクリル酸エチル,(メタ)アクリル酸プロピル,(メタ)アクリル酸イ
ソプロピル,(メタ)アクリル酸ブチル,(メタ)アクリル酸イソブチル,(メタ)アク
リル酸ペンチル,(メタ)アクリル酸ヘキシル,(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル
,(メタ)アクリル酸オクチル,(メタ)アクリル酸ラウリル,(メタ)アクリル酸ノニ
ル,(メタ)アクリル酸デシル,(メタ)アクリル酸ドデシル,(メタ)アクリル酸フェ
ニル,(メタ)アクリル酸メトキシエチル,(メタ)アクリル酸エトキシエチル,(メタ
)アクリル酸プロポキシエチル,(メタ)アクリル酸ブトキシエチル,(メタ)アクリル
酸エトキシプロピル等のアクリル酸アルキルエステル;ジエチルアミノエチル(メタ)ア
クリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
環状オレフィンモノマーとしては、例えば、5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.
2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.
1]ヘプト−2−エン、5−カルボキシメチル−5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2
.2.1]ヘプト−2−エン等のカルボキシル基含有環状オレフィンが挙げられる。また
、5−(4−ヒドロキシフェニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチ
ル−5−(4−ヒドロキシフェニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン等のヒド
ロキシ基含有環状オレフィンなどが挙げられる。また、5−アセトキシビシクロ[2.2
.1]ヘプト−2−エン、5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−
エン、5−メチル−5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン等のエステル基含有環状オレフィン
が挙げられる。また、N−(4−フェニル)−(5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキ
シイミド)などのN−置換イミド基含有環状オレフィン、8−メチル−8−シアノテトラ
シクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンなどのシアノ基含有環状
オレフィンなどが挙げられる。また、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名
:ノルボルネン)、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ブチル
−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]
ヘプト−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンおよび5
−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンなどのノルボルネンおよびその置換
体等の多環の環状オレフィンが挙げられる。
【0009】
有機金属化合物とモノマーとが錯体化する際に副生成物が同時に合成される。この副生
成物はモノマーから除去することが必要である。
第1のモノマーが有機金属化合物と錯体を構成した後に、更に第1のモノマーあるいは
第1のモノマーと相溶性のある第2のモノマーを混合し熱又は光硬化させることで光学プ
ラスチック製品が得られる。特に第2のモノマーを使用してモノマー混合体とする場合に
は混合前に副生成物を除去することが好ましい。
ここに、第1のモノマーとして最も好ましいものはポリチオール化合物又はポリオール
化合物であり、第2のモノマーとして最も好ましいものはイソシアネート化合物である。
モノマー単独で使用する場合にはアクリル系モノマーが好ましい。例えばモノマーとして
ポリチオール化合物を使用し、特に有機金属化合物として金属アルコキシドを使用すると
下記の反応式のようにアルコールが副生成物となるため除去が容易である。尚、下記式で
はポリチオール化合物のメルカプト基(−SH)を水酸基(−OH)に変更するとポリオ
ール化合物での反応式となる。
【0010】
【化1】

【0011】
金属アルコキシドとしては、例えば周期律表2族のマグネシウム(Mg)、カルシウム
(Ca)、バリウム(Ba)、周期律表3族のスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y
)、周期律表12族の亜鉛(Zn)、周期律表4族のチタン(Ti)、ジルコニウム(Z
r)、ハーフニウム(Hf)、周期律表5族のバナジウム(V)、周期律表6族のタング
ステン(W)、モリブテン(Mo)、周期律表13族のアルミニウム(Al)、周期律表
14族のケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)から選ばれ
た金属無機元素アルコキシドを適宜好適に用いることができる。
例えば、Alアルコキシドとしてアルミニウムエトキシド,アルミニウムトリエトキシ
ド,イソブチルアルミニウムメトキシド,イソブチルアルミニウムエトキシド,アルミニ
ウムイソプロポキシド,イソブチルアルミニウムイソプロポキシド,アルミニウムブトキ
シド,アルミニウムt−ブトキサイド;スズt−ブトキサイド;アルミニウムトリ−n−
プロポキシド,アルミニウムトリ−n−ブトキシドが挙げられる。
Tiアルコキシドとしてテトラエトキシチタン,テトラ−n−プロポキシチタン,テト
ラ−n−ブトキシチタン,テトラ−i−プロポキシチタン,チタンメトキサイド,チタン
エトキサイド,チタン−n−プロポキサイド,チタンイソプロポキサイド,チタン−n−
ブトキサイド,チタンイソブトキサイドが挙げられる。
Zrアルコキシドとしてジルコニウムエトキサイド,ジルコニウム−n−プロポキサイ
ド,ジルコニウムイソプロポキサイド,ジルコニウム−n−ブトキサイド,エトキサイド
テトラ−n−プロポキシジルコニウム等が挙げられる。
【0012】
モノマー(第1のモノマー)中に投入される有機金属化合物は同有機金属化合物がモノ
マーと反応して錯体を構成した後に、反応しない有機金属化合物がモノマー中に残存しな
いことが好ましい。特に第1のモノマーに第2のモノマーを加える際に第2のモノマーに
対して錯体化していない有機金属化合物触媒的に作用して硬化の妨げになる可能性がある
からである。また、高屈折率化にもこれを妨げるような影響がある。
【発明の効果】
【0013】
上記各請求項に記載の発明によれば、モノマーの種類に関わらず確実に金属化合物をモ
ノマー中に分散させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(実施例1)
1.錯体の生成
ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート:以下PEMPと略
す)25.19gを秤量し100mlナス型フラスコ内で、室温(本実施例では15℃)
にてスターラーで攪拌している状態でチタニウムテトラブトキシド(以下、TTBと略す
)6.81gを投入し、引き続き30分撹拌した。この作業によって錯体と副生成物とし
てのn−ブチルアルコール(1−ブタノール)が生成される。実施例1でのPEMPに対
するTTB中の酸化チタン(TiO2)換算の割合は5重量%である。この段階の溶液は
濁った淡黄色を呈している。尚、酸化チタンは実際にこの反応で生成されるわけではなく
、TTB中のチタンを酸化チタンに換算することで重量%でのチタン含有量を分かりやす
くしたものである。以下の換算割合はすべて同様の理由である。
【0015】
2.副生成物の除去
1.で調製した溶液を70℃オイルバスフラスコに入れて泡が出なくなるまで真空加熱
した(約3時間)。この段階でn−ブチルアルコールは除去される。真空度はそれほど厳
密ではなく10−1Paのオーダーで行った。この段階の溶液は透明な淡黄色を呈してい
る。得られた液体を放冷して室温に戻した。
3.第2のモノマーとの混合
2.において副生成物を除去した後の錯体化された上記溶液10.4gを秤量し、ビー
カー内でスターラーによって攪拌しながら1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘ
キサン(以下、H6-XDIと略す)8.0gを投入し上記と同じ真空度で3分間真空に
して脱気した。
4.加熱硬化
3.で調製した溶液を、撥水剤を塗布したガラスで成型した型に入れ、16時間かけて
25℃から130℃まで加熱して硬化を促し、その後徐冷してオレンジ色の透明プラスチ
ックを得た。このプラスチックの屈折率は1.561であった。
【0016】
(実施例2)
1.錯体の生成
実施例2ではPEMP19.95gを秤量し100mlナス型フラスコ内で室温(本実
施例では15℃)にてスターラーで攪拌している状態でジルコニウムテトラプロポキシド
(以下、ZrTPと略す)のプロパノール溶液4.69gを投入し、引き続き30分撹拌
した。この作業によって錯体と副生成物としてのn−プロピルアルコール(1−プロパノ
ール)が生成される。実施例2でのPEMPに対するZrTP中の酸化ジルコニウム(Z
rO2)換算の割合は5重量%である。この段階の溶液は濁った淡黄色を呈している。
2.副生成物の除去
実施例1と同様の作業で行った。得られた溶液は透明な淡黄色を呈している。
3.第2のモノマーとの混合
実施例1と同様の作業で行った。
4.加熱硬化
実施例1と同様の作業で行った。その結果、淡黄色の透明プラスチックを得た。このプ
ラスチックの屈折率は1.531であった。
【0017】
(実施例3)
1.錯体の生成
ペンタエリスリトールエトキシレート(数平均分子量270)(以下、PEELと略す
)25.19gを秤量し100mlナス型フラスコ内で、室温(本実施例では15℃)に
てスターラーで攪拌している状態でTTB6.81gを投入し、引き続き30分撹拌した
。この作業によって錯体と副生成物としてのn−ブチルアルコール(1−ブタノール)が
生成される。実施例3でのPEELに対するTTB中の酸化チタン(TiO2)換算の割
合は5重量%である。この段階の溶液は無色透明である。
2.副生成物の除去
1.で調製した溶液を70℃オイルバスフラスコに入れて泡が出なくなるまで真空加熱
した(約3時間)。この段階でn−ブチルアルコールは除去される。真空度は上記実施例
1と同様である。この段階の溶液は透明無色を呈している。得られた液体を放冷して室温
に戻した。
3.第2のモノマーとの混合
2.において副生成物を除去した後の錯体化された上記溶液7.15gを秤量し、ビー
カー内でスターラーによって攪拌しながら、H6-XDI10gを投入し上記と同じ真空
度で脱気した。
4.加熱硬化
3.で調製した溶液を、撥水剤を塗布したガラスで成型した型に入れ、16時間かけて
25℃から130℃まで加熱して硬化を促し、その後徐冷してオレンジ色の透明プラスチ
ックを得た。屈折率は1.559であった。
【0018】
(実施例4)
1.錯体の生成
実施例4ではアクリル酸25.15gを秤量し100mlナス型フラスコ内で室温(本
実施例では15℃)にてスターラーで攪拌している状態でTTB3.41gを投入し、引
き続き30分撹拌した。この作業によって錯体と副生成物としてのn−ブチルアルコール
(1−ブタノール)が生成される。実施例4でのアクリル酸に対するTTB中の酸化チタ
ン(TiO2)換算の割合は0.32重量%である。この段階の溶液は透明なオレンジ色
を呈している。
2.副生成物の除去
1.で調製した溶液を70℃オイルバスフラスコに入れて泡が出なくなるまで真空加熱
した(約3時間)。この段階でn−ブチルアルコールは除去される。真空度は上記実施例
1と同様である。この段階の溶液は透明な赤色を呈している。得られた液体を放冷して室
温に戻した。
3.第2のモノマーとの混合
2.において副生成物を除去した後の錯体化された上記溶液10gを秤量し、ビーカー
内でスターラーによって攪拌しながら2,2′−アゾビスイソブチロニトリル0.6gを
投入した。
4.加熱硬化
3.で調製した溶液を、撥水剤を塗布したガラスで成型した型に入れ、21時間かけて
40℃から120℃まで加熱して硬化を促し、その後徐冷して赤色の透明プラスチックを
得た。このプラスチックの屈折率は1.498であった。
【0019】
(比較例1)
比較例1ではPEMP10.06gを秤量し、ビーカー内でスターラーによって攪拌し
ながらH6-XDI8.0gを投入し上記と同じ真空度で3分間真空にして脱気した。こ
のモノマー混合体を、撥水剤を塗布したガラスで成型した型に入れ、16時間かけて25
℃から130℃まで加熱して硬化を促し、その後徐冷して無色の透明プラスチックを得た
。このプラスチックの屈折率は1.557であった。
(比較例2)
比較例2ではPEMP10.06gを秤量し、100mlナス型フラスコ内で室温(本
実施例では15℃)にてスターラーで攪拌している状態で一次粒径7nmの酸化チタン(
TiO2:(株)石原産業製)2.8重量%を投入し、更にここにH6-XDI8.0gを
投入し、上記と同じ真空度で3分間真空にして脱気した。このモノマー混合体を、撥水剤
を塗布したガラスで成型した型に入れ、16時間かけて25℃から130℃まで加熱して
硬化を促し、その後徐冷したところ白濁したプラスチックを得た。
(比較例3)
比較例3ではPEMP25.19gを秤量し、100mlナス型フラスコ内で室温(本
実施例では15℃)にてスターラーによって攪拌している状態で、TTB6.81gを投
入し、引き続き30分撹拌した。この作業によって錯体と副生成物としてのn−ブチルア
ルコールが生成される。比較例3でのPEMPに対するTTB中の酸化チタン(TiO2
)換算の割合は5重量%である。この段階の溶液は濁った淡黄色を呈している。
この溶液10.4gを秤量し、ビーカー内でスターラーによって攪拌しながらH6-X
DI8.0gを投入したところ、すぐに発熱して硬化が起こり、脱気を行う前に不透明な
オレンジ色の重合物が得られた。
(比較例4)
比較例4ではアクリル酸25.15gを秤量し、ビーカー内でスターラーによって攪拌し
ながら2,2′−アゾビスイソブチロニトリル0.6gを投入した。このモノマー混合体
を、撥水剤を塗布したガラスで成型した型に入れ、21時間かけて40℃から120℃ま
で加熱して硬化を促し、その後徐冷して赤色の透明プラスチックを得た。このプラスチッ
クの屈折率は1.495であった。
【0020】
結果.
上記のように実施例はいずれも良好な樹脂が得られた。実施例1〜3の屈折率は比較例
1の金属酸化物を混合しない場合と比較して光学的な優位性が十分認められた。また、実
施例4の屈折率も比較例4の金属酸化物を混合しない場合と比較して光学的な優位性が認
められた。また、モノマーとの相溶性がない酸化チタン微粉末を使用した比較例2では光
学プラスチック製品としては不向きな白濁したものが得られた。また、比較例3では副生
成物であるn−ブチルアルコールを除去しないことが原因と思われる不透明硬化物が確認
された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマー中に有機金属化合物を添加し、同モノマーを配位子として金属錯体を生成させる
とともに同金属錯体を生成する際に副次的に合成される副生成物を除去し、次いで熱又は
光硬化させることを特徴とすることを特徴とする光学プラスチック製品の製造方法。
【請求項2】
前記モノマーはアクリル系モノマーであることを特徴とする請求項1に記載の光学プラス
チック製品の製造方法。
【請求項3】
第1のモノマー中に有機金属化合物を添加し、同モノマーを配位子として金属錯体を生成
させるとともに同金属錯体を生成する際に副次的に合成される副生成物を除去し、同金属
錯体を含む第1のモノマーと同第1のモノマー又は同第1のモノマーと相溶性のある第2
のモノマーとを混合し、熱又は光硬化させることを特徴とすることを特徴とする光学プラ
スチック製品の製造方法。
【請求項4】
前記副生成物は前記金属錯体を含む第1のモノマーと同第1のモノマー又は同第1のモノ
マーと相溶性のある第2のモノマーとを混合する前に除去することを特徴とすることを特
徴とする請求項3に記載の光学プラスチック製品の製造方法。
【請求項5】
前記有機金属化合物は金属アルコキシドであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか
に記載の光学プラスチック製品の製造方法。
【請求項6】
前記副生成物はアルコールであることを特徴とする請求項5に記載の光学プラスチック製
品の製造方法。
【請求項7】
前記第1のモノマーはポリチオール化合物またはポリオール化合物であることを特徴とす
る請求項3〜6のいずれかに記載の光学プラスチック製品の製造方法。
【請求項8】
前記第2のモノマーはイソシアネート化合物であることを特徴とする請求項3〜7のいず
れかに記載の光学プラスチック製品の製造方法。

【公開番号】特開2013−49866(P2013−49866A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−259280(P2012−259280)
【出願日】平成24年11月28日(2012.11.28)
【分割の表示】特願2008−64553(P2008−64553)の分割
【原出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】