説明

光学ローパスフィルタおよび撮像機器

【課題】簡単な構成で、迷光を発生させることなく分離幅の波長依存性を抑制できる光学ローパスフィルタおよび撮像素子を提供する。また、簡単な構成で、分離幅の波長依存性を抑制した2次元の4重像を発現可能にする光学ローパスフィルタおよび撮像素子を提供する。
【解決手段】光学ローパスフィルタは、等方屈折率材料により形成され、傾斜方向が異なる2以上の傾斜面を有する形状の構造体である傾斜構造体傾斜構造体31を1つまたは複数備え、少なくとも光束が入射される領域である有効領域内に、1つまたは複数の傾斜構造体に設けられた傾斜方向が異なる2以上の傾斜面が配置され、有効領域内に配置された傾斜面に入射する光線の屈折作用を利用して、入射する光を複数の光に分離する。また、傾斜構造体31の傾斜面を覆う、傾斜構造体とは異なる屈折率の等方屈折材料により形成されるカバー層34を備えていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ローパスフィルタおよび光学ローパスフィルタを有する撮像機器に関する。
【背景技術】
【0002】
ビデオカメラ、デジタルカメラ等の撮像機器には、CCD(Charge Coupled Device )、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor )等のイメージセンサが用いられており、画素ごとに外部信号として入る光の明暗の量を電荷の量に変換し、即ち光電変換し、その電気信号を順次処理することによってデジタル画像を生成する。このようなイメージセンサは、イメージセンサにおける画素ピッチよりも細かい空間周波数を有する画像を撮像するときに、サンプリングによる歪みが生じ、本来の画像と異なる模様(モアレ)や偽色が発生することが知られている。
【0003】
このようなモアレや偽色を防止するために、ビデオカメラ、デジタルカメラ等の撮像機器において、光学ローパスフィルタ(OLPF:Optical Low Pass Filter )を用いて画像の撮像を行っている。OLPFは、具体的には、水晶などの複屈折板を有し、入射する2次元画像を水平方向および/または垂直方向に僅かな距離だけ分離させることによって、空間周波数のうち撮像素子に入射する画素ピッチと重なる周波数、すなわちサンプリング周波数付近をカットする機能を有し、モアレや偽色の現象を生じさせない工夫が施されている。なお、水平方向および/または垂直方向とは、水平方向と垂直方向のいずれか一方またはその両方を指す。
【0004】
このような光学ローパスフィルタとしては、水晶等の複屈折材料を用いたものがあるが、複屈折材料に水晶を用いる場合にはコストが高くなるという問題や、所望の分離幅を得るために膜厚が大きくなるといった問題がある。
【0005】
複屈折材料を用いない光学ローパスフィルタの一例として、特許文献1には、プリズムをストライプ状に配置した屈折型のローパスフィルタが記載されている。特許文献1には、例えば、プラスチック材料でフィルターを製作する場合に、分離された像の間隔d=0.08mmとすれば、色収差による影響は実用上ほとんど問題がないものができると記載されている。また、異なる頂角のプリズムを交互にストライプ状に配置すると、4点分離が可能であると記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、異なる屈折率の部材を貼り合わせてなる位相型(光の回折効果を利用した回折型ともいう。)の光学ローパスフィルタにおいて、波長によるMTF(Modulation Transfer Function)特性の差を小さくするために、両部材のc線、d線、g線の屈折率を所定の条件式を満たすようにすることが記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、略正四角錐の形状を有する凸状体であるレンズ体が透明基板の表面に一定のピッチで二次元状に多数配置され、そのレンズ体間の溝を埋めるように形成されるレンズ体とは異なる屈折率の中間体を形成した回折型の光学ローパスフィルタが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭55−38549号公報
【特許文献2】特開平3−191319号公報
【特許文献3】特開2009−163176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1には、4重像を発生させる例として、頂角の異なる2種類のプリズムを交互にストライプ状に配置したローパスフィルタを使用する例が記載されている。また、プリズムの組み合わせは、頂角の異なる2種類に限らず、頂角の異なる3種、4種、・・・と多種類のプリズムをストライプ状に組み合わせて配置してもよい旨が記載されている。しかし、特許文献1に記載されている方法によって発現可能な4重像は、1方向にのみ光が分離する1次元の4重像であって、プリズムを縦列に直交して重ねた場合に発現するような2方向に光が分離する2次元の4重像とは異なる。また、他種類のプリズムをストライプ状に組み合わせて配置する方法では、同一の分離幅を維持して波長分散特性を抑制できないという問題がある。
【0010】
また、特許文献2に記載されているローパスフィルタは、光の回折効果を利用した回折型のローパスフィルタであるので、屈折率の異なる部材を貼り合わせる場合に各々の部材の分散を利用して波長によるMTF特性の差を小さくできたとしても、高次の回折光が発生して迷光になるという問題がある。
【0011】
なお、特許文献3に記載されているローパスフィルタは、回折型のローパスフィルタである点で特許文献2と同様の問題がある。
【0012】
そこで、本発明は、簡単な構成で、迷光を発生させることなく分離幅の波長依存性を抑制できる光学ローパスフィルタおよび撮像素子の提供を目的とする。また、本発明は、簡単な構成で、分離幅の波長依存性を抑制した2次元の4重像を発現可能にする光学ローパスフィルタおよび撮像素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による光学ローパスフィルタは、入射する光を複数の光に分離する光学ローパスフィルタであって、等方屈折率材料により形成され、傾斜方向が異なる2以上の傾斜面を有する形状の構造体である傾斜構造体(例えば、傾斜構造体31)を1つまたは複数備え、少なくとも光束が入射される領域である有効領域内に、1つまたは複数の傾斜構造体に設けられた傾斜方向が異なる2以上の傾斜面が配置され、有効領域内に配置された傾斜面に入射する光線の屈折作用を利用して、入射する光を複数の光に分離することを特徴とする。
【0014】
また、光学ローパスフィルタは、傾斜方向が異なる4つの傾斜面を有する形状の構造体である傾斜構造体を1つまたは複数備え、少なくとも有効領域内に、1つまたは複数の傾斜構造体に設けられた傾斜方向が異なる4以上の傾斜面が配置されていてもよい。
【0015】
また、傾斜構造体は複数であり、複数の傾斜構造体が、少なくとも有効領域内において周期的に配置されていてもよい。
【0016】
また、傾斜構造体は複数であって、複数の傾斜構造体には傾斜角度が異なる傾斜面を有する傾斜構造体または傾斜面の数が異なる傾斜構造体が含まれ、少なくとも有効領域内に、傾斜角度が異なる傾斜面を有する傾斜構造体または傾斜面の数が異なる傾斜構造体が配置されていてもよい。
【0017】
また、光学ローパスフィルタは、傾斜構造体の傾斜面を覆う、前記傾斜構造体とは異なる屈折率の等方屈折材料により形成されるカバー層(例えば、カバー層34)を備えていてもよい。
【0018】
また、光学ローパスフィルタは、1傾斜面を形成する構造体の幅が1mm以上であってもよい。
【0019】
また、本発明による撮像機器は、撮像素子を備えた撮像機器であって、入射する光が撮像素子に到達するまでの光路中に、上記の光学ローパスフィルタのいずれかを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、簡単な構成で、迷光を発生させることなく分離幅の波長依存性を抑制できる光学ローパスフィルタおよび撮像素子を提供できる。また、本発明によれば、簡単な構成で、分離幅の波長依存性を抑制した2次元の4重像を発現可能にする光学ローパスフィルタおよび撮像素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の光学ローパスフィルタ3の原理を示す模式図である。
【図2】光学ローパスフィルタ3の構成例を示す説明図である。
【図3】光学ローパスフィルタ3における分離角を説明するための説明図である。
【図4】光学ローパスフィルタ3の他の構成例を示す説明図である。
【図5】傾斜構造体31とカバー層34との部材の組み合わせの一例を示す説明図である。
【図6】素子面内で傾斜を分割した場合の光学ローパスフィルタ3の他の例を示す説明図である。
【図7】素子面内で傾斜を分割した場合の光学ローパスフィルタ3の他の例を示す斜視図である。
【図8】4点分離を行う光学ローパスフィルタ3の例を示す説明図である。
【図9】4点分離を行う光学ローパスフィルタ3の他の例を示す斜視図である。
【図10】4点分離を行う光学ローパスフィルタ3の他の例を示す斜視図である。
【図11】4点分離を行う光学ローパスフィルタ3の他の例を示す斜視図である。
【図12】分離幅が面内分布をもつ光学ローパスフィルタ3の例を示す斜視図である。
【図13】分離各が面内分布をもつ光学ローパスフィルタ3の例を示す斜視図である。
【図14】実施例の光学ローパスフィルタ3を示す説明図である。
【図15】実施例の光学ローパスフィルタ3の波長ごとの分離幅および屈折角を示すグラフである。
【図16】比較例の光学ローパスフィルタを示す説明図である。
【図17】比較例の光学ローパスフィルタの波長ごとの分離幅および屈折角を示すグラフである。
【図18】比較例の光学ローパスフィルタの波長ごとの0次効率と1次効率とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の光学ローパスフィルタ3の原理を示す模式図である。図1に示すように、本発明の光学ローパスフィルタ3は、撮像レンズ4の後方に位置し、かつ入射される光束(光線束)中に、屈折率等方性媒質からなる構造体の傾斜面であって2以上の異なる傾斜方向の傾斜面を形成する、1つ以上の傾斜構造体31を備えている。このような構成において、傾斜方向が異なる2以上の傾斜面に光線を入射させ、各傾斜面に入射した光線がそれぞれ異なる方向に屈折する性質を利用して光を分離させることを特徴としている。なお、図1において、1は撮像素子、4は撮像レンズ、5は被写体を表している。また、2は撮像素子1における画素ピッチを表している。また、32は傾斜構造体31が形成される土台となる透明基板である。
【0023】
図2は、図1に示した光学ローパスフィルタ3の構成例を示す説明図である。なお、図2(a)は、図1に示した光学ローパスフィルタ3の斜視図であり、図2(b)は図1に示した光学ローパスフィルタ3の上面図である。図2に示す光学ローパスフィルタ3は、2点分離を行う光学ローパスフィルタであって、透明基板32上に2つの異なる傾斜方向の傾斜面を有する傾斜構造体31が1つ形成されている。なお、図2に示すように、傾斜構造体31に設けられた傾斜方向が異なる2つの傾斜面は、いずれも光束が入射される領域(以下、有効領域という。)内に配置されている。これにより、透明基板32上に、少なくとも有効領域を覆う、等方屈折率材料からなる構造体の傾斜面であって傾斜方向が異なる2つの傾斜面(図中では、傾斜方向1の傾斜面と傾斜方向2の傾斜面)を形成している。
【0024】
なお、本発明において「傾斜面」とは、等方性屈折率材料からなる構造体によって形成される、入射する光が進行する方向と垂直の平面(XY平面)に対して傾斜する面をいう。また、「傾斜方向」とは、傾斜面の法線をXY平面に投影した線上にあり、傾斜面の高い方から低い方を指す。
【0025】
また、図2ではX方向を基準とした360度方位の場合の各傾斜方向の度数を例示している。図2によれば、傾斜方向が0度の方位である傾斜方向1の傾斜面と、傾斜方向が180度の方位となる傾斜方向2の傾斜面の計2つの傾斜面が形成されていることが示されている。
【0026】
以下、1傾斜面といった場合には、基板面に対して同一の傾斜角で連続している平面を指す。ここで、平面とは、具体的には、所定の角度以上の凹凸すなわち湾曲がない状態が維持されている表面上の領域をいう。すなわち、例えば、傾斜構造体31が円錐形状である場合に、本発明では、表面全体で1つの傾斜面を形成しているとはみなさずに、底面形状が円に近似するほどに多角形による多角錐であるとして、360度全方位の傾斜方向の傾斜面が多数形成されているものとみなす。
【0027】
傾斜構造体31の材料は、等方屈折率材料であればよく、例えば有機物であれば樹脂を用いてもよい。また、例えば無機物であれば、ガラス、S、SON、TiOなどを用いてもよい。
【0028】
傾斜構造体31は、例えば、透明基板32上に塗布した樹脂等の等方屈折率材料を、インプリント成形加工技術や、フォトリソエッジング加工技術等を用いて所望の形状に加工することによって形成してもよい。
【0029】
傾斜構造体31によって形成される傾斜の傾斜角度または傾斜方向を面内で分布させることにより、光の分離幅や分離方向を制御する。
【0030】
ここで、傾斜構造体31の等方屈折率材料の屈折率をn1、光の進行方向に対してその傾斜構造31の後段に位置する媒質の屈折率をn2とすると、屈折率n1、n2の制御により分離幅の波長分散の制御が可能となる。
【0031】
図3は、光学ローパスフィルタ3における分離角を説明するための説明図である。図3に示すように、βは屈折角すなわち入射する光の光軸と出射する光が進行する方向とがなす角度であり、dは傾斜構造体31の高さ、Wは傾斜構造体31において1傾斜面を形成している部分に相当する構造体の傾斜幅である場合、屈折角は次のような式(1)で表される。
sinβ=(n2−n1)・d/w=Δn・d/w ・・・式(1)
【0032】
同様に他方の傾斜面の屈折角も次のような式(2)で表される。
sinβ=(n2−n1)・d/w=Δn・d/w ・・・式(2)
【0033】
図3に示す例では、傾斜方向が180度異なるため、傾斜角が一方の傾斜と他方の傾斜で逆の方向に屈折し、入射する光束が2β分離する。
【0034】
ここでお互いの傾斜幅がWと等しいこととして説明したが異なる場合であってもよく、その時はお互いの屈折角が異なるとすればよい。
【0035】
式(1)(2)において、Δn=(n2−n1)を所望の波長帯域でほぼ一定となるようにすれば、波長によらず分離幅を一定にできるので好ましい。例えば、所望の波長帯域に含まれる各波長のΔnの値が、同じ波長帯域に含まれる他の波長のΔnと比べて、±10%以内であればよく、±5%以内であればより好ましい。
【0036】
そのような関係を実現する方法として、例えば、図4に示すように、傾斜構造体31とは異なる屈折率の等方屈折率材料によるカバー層34で傾斜構造体31の傾斜面を覆ってもよい。図4は、本発明の光学ローパスフィルタ3の他の構成例を示す説明図である。カバー層34は、例えば、傾斜構造体31が形成された透明基板32の表面にカバー層34を形成する紫外線硬化型の樹脂を滴下し透明基板33と重ね合わせた後、紫外線を照射し硬化することにより形成する。ここで、透明基板33は取り除き、素子厚を薄くした構成であってもよい。また、素子に光が入射する面および出射する面に光の反射を抑制する目的で、反射防止膜を形成してもよい。
【0037】
図5は、傾斜構造体31とカバー層34との部材の組み合わせの一例を示す説明図である。なお、図5(a)は、波長と両部材(傾斜構造体31とカバー層34)の屈折率の関係を示すグラフであり、図5(b)は、図5(a)の関係において波長と分離幅の関係の例を示すグラフである。図5に示す例では、波長帯0.4〜0.8[μm]において、Δnが各波長間で範囲±5%以内となる屈折率を有する部材を選択することにより、その波長帯全域において約4[μm]の分離幅を実現している例を示している。なお、図5に示す例は、両部材とも等方屈折率材料としていずれも樹脂を用いた例である。
【0038】
また、図1および図2では、2点分離を行う例として、1つの傾斜構造体31を用いて光束中に傾斜方向が異なる2つの傾斜面を形成する例を示したが、光束中に形成される傾斜面の数は2以上であってもよい。
【0039】
例えば、素子面内で傾斜を分割し、傾斜方向を同じくする複数の傾斜に細分化して配することも可能である。複数の傾斜構造体31を用いて2以上の傾斜面を形成した場合であっても、各傾斜面が予め規定した2つの傾斜方向のうちのいずれかの傾斜方向の傾斜面であれば、素子面内で異なる2つの傾斜方向を有する傾斜面が形成されている場合と同様の屈折作用が得られる。すなわち、2点分離を行う場合に、光束中の傾斜方向数(傾斜方向の種類数)が2つとなる組み合わせであれば、傾斜面の数はいくつであってもよい。
【0040】
図6は、素子面内で傾斜を分割した場合の光学ローパスフィルタ3の他の例を示す説明図である。なお、図6(a)は、素子面内で傾斜を分割した光学ローパスフィルタ3の例を示す側面図であり、図6(b)は、図6(a)に示した光学ローパスフィルタ3の斜視図である。本例の光学ローパスフィルタ3は、素子面内に断面形状が三角形の3つの傾斜構造体31が周期的に配置されている。各傾斜構造体31は、それぞれ傾斜方向1の傾斜面と傾斜方向2の傾斜面とを有している。これにより、素子面内において、2種類の傾斜方向のうちのいずれかの傾斜方向を有する傾斜面が略均一の割合で形成される。なお、図6に示す例では、このうちの3つの傾斜面に光束が入射することによって、傾斜方向が異なる傾斜面に入射した光線がそれぞれ異なる方向に屈折する性質を利用して光を分離している。なお、本例では、2以上の傾斜構造体31に設けられた傾斜面の中から少なくとも傾斜方向が異なる2以上の傾斜面が有効領域内に配置されていればよい。
【0041】
このように、分割数を多くすれば素子の厚さを低減でき、構造体の傾斜幅を1mm以上とすると、加工が容易なため好ましい。なお、図7に示すように、本例においても分離幅の波長分散の制御のためにカバー層34を設けてもよい。
【0042】
また、図1〜図7を参照して2点分離を行う場合の光学ローパスフィルタを例に用いて説明したが、本発明による光学ローパスフィルタは、4点以上の分離も容易に実現可能である。
【0043】
図8は、4点分離を行う光学ローパスフィルタ3の例を示す説明図である。なお、図8(a)は4点分離を行う光学ローパスフィルタ3の例を示す斜視図であり、図8(b)は図8(a)に示す光学ローパスフィルタ3の上面図である。図8に示すように、本例の光学ローパスフィルタ3は、透明基板32上に4つの異なる傾斜方向の傾斜面を有する傾斜構造体31が1つ形成されている。なお、図8に示すように、傾斜構造体31に設けられた傾斜方向が異なる4つの傾斜面は、いずれも有効領域内に配置されている。これにより、透明基板32上に、少なくとも有効領域を覆う、等方屈折率材料からなる構造体の傾斜面であって傾斜方向が互いに異なる4つの傾斜面(図中では、傾斜方向1の傾斜面と傾斜方向2の傾斜面と傾斜方向3の傾斜面と傾斜方向4の傾斜面)を形成している。
【0044】
なお、4点分離を行う場合においても傾斜を細分化できる。図9は、4点分離を行う光学ローパスフィルタの他の例を示す斜視図である。図9に示す光学ローパスフィルタ3は、素子面内に12個の四角錐形状の傾斜構造体31が周期的に配置されている。各傾斜構造体31は、それぞれ傾斜方向1の傾斜面と傾斜方向2の傾斜面と傾斜方向3の傾斜面と傾斜方向4の傾斜面とを有している。これにより、素子面内において、4種類の傾斜方向のうちのいずれかの傾斜方向を有する傾斜面が略均一の割合で形成される。なお、図10に示すように、本例においても分離幅の波長分散の制御のためにカバー層34を設けてもよい。
【0045】
なお、4点分離を行う光学ローパスフィルタの他の例として、図11に示すように、異なる傾斜方向の傾斜面の組み合わせを有する傾斜構造体31−1と傾斜構造体31−2とをそれぞれ透明基板31,32に分けて形成してもよい。図11(a)は、異なる2つの傾斜方向の傾斜面を有する傾斜構造体31を2層積層して4点分離を行う光学ローパスフィルタ3の例を示す斜視図である。また、図11(b)は、図11(a)に示す光学ローパスフィルタ3における傾斜構造体31−1および傾斜構造体31−2の上面図である。
【0046】
異なる2つの傾斜方向の傾斜面を有する傾斜構造体31を2層積層して4点分離を行う場合には、1層目と2層目とで傾斜構造体の分離方向が直交するように配置すればよい。
【0047】
また、4点以上に分離する場合には、分離点数に応じた数の異なる傾斜方向の傾斜面が光束中に形成されるよう、傾斜構造体31の形状を決定すればよい。単純な例として、光束中に分離点数分の異なる傾斜方向の傾斜面を有する傾斜構造体31を1つ配置する例を挙げることができる。
【0048】
また、これまでに説明した例は分離幅および分離方向が面内で同一とする例であるが、本発明による光学ローパスフィルタ3は、分離幅および分離方向を面内で分布させることも可能である。例えば、図12に示すように、面内に、傾斜角度が異なる2以上の傾斜構造体31(例えば、傾斜構造体31aと傾斜構造体31b)を配置すれば、光線が入射する場所によって異なる分離幅で光を分離させることができる。また、図13に示すように、面内に、有する傾斜面の数が異なる2以上の傾斜構造体(例えば、傾斜構造体31aと傾斜構造体31c)を形成すれば、光線が入射する場所によって異なる分離方向に光を分離させることができる。
【0049】
このように、傾斜構造体31の形状は、底面が矩形に限定されず、底面が三角形、平行四角形、多角形(例えば、六角形)、円などの錐体や、またそれらの組み合わせであってもよい。例えば、撮像素子1の画素ピッチに合わせて傾斜構造体31の形状や配置の仕方を決定してもよい。なお、傾斜構造体31の底面形状は傾斜面で素子面(または少なくとも有効領域内)を埋め尽くすことができる形状が好ましい。その場合に、各傾斜構造体31の底面が繋がっていてもよい。
【0050】
以上のように、本発明の光学ローパスフィルタは光の屈折作用を利用して光を分離させるので、回折型の光学ローパスフィルタのように高次の回折光が発生して迷光となることもない。屈折作用を利用すれば、回折作用を利用する場合と比べて分離幅の波長依存性を小さくできる。さらに、カバー層34を設ける構成によれば、分離幅の波長分散を容易に制御できるので、分離幅の波長依存性をさらに低減できる。
【0051】
また、本発明の光学ローパスフィルタは、屈折作用を利用するので、回折効果を発現させるために構造体の傾斜幅を1〜100umにするといった微細加工を要せず、加工が容易である。さらに、本発明の光学ローパスフィルタによれば、簡単に、多次元での多点分離や、分離幅および分離方向に面内分布を持たせることができる。
【実施例】
【0052】
次に、具体的な例を用いて本発明の構成の一例を詳細に説明する。図14は、本実施例の光学ローパスフィルタ3を示す説明図である。図14に示すように、本実施例の光学ローパスフィルタ3は、結像距離3mmで分離幅約4μmを実現するための光学ローパスフィルタである。
【0053】
本実施例の光学ローパスフィルタ3は、透明基板上に、図2に示すような底面が矩形で断面形状が三角形の三角構造である傾斜構造体31であって、傾斜角度を同じくする2つの傾斜面を有する傾斜構造体31を1つ有している。傾斜構造体31の等方屈折率材料には、波長450nmで屈折率n1が1.45、波長546nmで屈折率n1が1.44、波長633nmで屈折率n1が1.43の樹脂を用いる。また、1傾斜面を形成する構造体の高さdは10μm、1構造体の傾斜幅Wは2mmである。
【0054】
また、図示省略しているが、本実施例の光学ローパスフィルタ3はさらにカバー層34を備えている。カバー層34の等方屈折率材料には、波長450nmで屈折率n2が1.58、波長546nmで屈折率n2が1.56、波長633nmで屈折率n2が1.55の樹脂を用いる。
【0055】
図15は、以上の条件により作製される本実施例の光学ローパスフィルタ3の波長ごとの分離幅および屈折角を示すグラフである。図15に示すように、本実施例の光学ローパスフィルタ3では、波長帯域0.4〜0.8μmにわたって、所望の分離幅4μmを範囲が±0.2μm以内(約5%以内)で得られることがわかる。また、屈折角も波長帯域0.4〜0.8μmにわたり、略均一であることがわかる。
【0056】
[比較例]
図16は、比較例として、回折格子を用いて同様の分離幅を実現させる場合の光学ローパスフィルタの例を示す説明図である。図16に示すように、比較例の光学ローパスフィルタは、断面形状が矩形の回折格子によって発現する回折作用によって光を分離させるものとする。なお、本比較例は、450nm、546nm、633nmの波長の光が入射されると仮定して、それらの中間波長付近で分離幅および回折効率の2つ条件をもっとも満たすよう設計したものである。
【0057】
回折格子の等方屈折率材料には、波長450nmで屈折率n1が1.51、波長546nmで屈折率n1が1.50、波長633nmで屈折率n1が1.49の樹脂を用いる。回折格子の格子周期は780μm、回折格子の高さは4.4μmである。
【0058】
なお、図示省略しているが、本比較例の光学ローパスフィルタ3にもカバー層を備えているものとする。カバー層の等方屈折率材料には、波長450nmで屈折率n2が1.58、波長546nmで屈折率n2が1.56、波長633nmで屈折率n2が1.55の樹脂を用いる。
【0059】
図17は、以上の条件により作製される本比較例の光学ローパスフィルタの波長ごとの分離幅および屈折角を示すグラフである。図17に示すように、本比較例である回折型の光学ローパスフィルタは、第1の実施例の光学ローパスフィルタ3と比較して、分離幅の波長依存性が大きいことがわかる。
【0060】
また、図18は、本比較例の光学ローパスフィルタの波長ごとの0次効率と1次効率とを示すグラフである。図18に示すように、本比較例である回折型の光学ローパスフィルタは、効率の波長依存性も大きく、ある特定の波長(本例では、450nmと633nmの中間波長付近)で±1次光の回折効率を高くできたとしても、他の波長帯域で高次の迷光が発生することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
ビデオカメラ、デジタルカメラ等の撮像機器において、モアレや偽色の現象を低減させる用途に好適に適用可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 撮像素子
2 画素ピッチ
3 光学ローパスフィルタ
31 傾斜構造体
32、33 透明基板
34 カバー層
4 撮像レンズ
5 被写体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射する光を複数の光に分離する光学ローパスフィルタであって、
等方屈折率材料により形成され、傾斜方向が異なる2以上の傾斜面を有する形状の構造体である傾斜構造体を1つまたは複数備え、
少なくとも光束が入射される領域である有効領域内に、前記1つまたは複数の傾斜構造体に設けられた傾斜方向が異なる2以上の傾斜面が配置され、
前記有効領域内に配置された前記傾斜面に入射する光線の屈折作用を利用して、入射する光を複数の光に分離する
ことを特徴とする光学ローパスフィルタ。
【請求項2】
傾斜方向が異なる4つの傾斜面を有する形状の構造体である傾斜構造体を1つまたは複数備え、
少なくとも有効領域内に、前記1つまたは複数の傾斜構造体に設けられた傾斜方向が異なる4以上の傾斜面が配置されている
請求項1に記載の光学ローパスフィルタ。
【請求項3】
傾斜構造体は複数であり、
前記複数の傾斜構造体が、少なくとも有効領域内において周期的に配置されている
請求項1または請求項2に記載の光学ローパスフィルタ。
【請求項4】
傾斜構造体は複数であって、前記複数の傾斜構造体には、傾斜角度が異なる傾斜面を有する傾斜構造体または傾斜面の数が異なる傾斜構造体が含まれ、
少なくとも有効領域内に、前記傾斜角度が異なる傾斜面を有する傾斜構造体または傾斜面の数が異なる傾斜構造体が配置されている
請求項1から請求項3のうちのいずれか1項に記載の光学ローパスフィルタ。
【請求項5】
傾斜構造体の傾斜面を覆う、前記傾斜構造体とは異なる屈折率の等方屈折材料により形成されるカバー層を備えた
請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の光学ローパスフィルタ。
【請求項6】
1傾斜面を構成する構造体のピッチが1mm以上である
請求項1から請求項5のうちのいずれか1項に記載の光学ローパスフィルタ。
【請求項7】
撮像素子を備えた撮像機器であって、
入射する光が撮像素子に到達するまでの光路中に、請求項1から請求項6のうちのいずれか1項に記載の光学ローパスフィルタを備えた
ことを特徴とする撮像機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−101186(P2013−101186A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243811(P2011−243811)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】