説明

光学基材及びその製造方法

【課題】耐熱性及び光学特性のいずれにも優れる光学基材の提供。
【解決手段】エチレン及び直鎖状α−オレフィンからなる群より選ばれる1種以上と、環状オレフィンと、ビニル化合物との共重合体を含む基材の片面又は両面に、少なくとも1層のガスバリア層が積層されたことを特徴とする光学基材;エチレン及び直鎖状α−オレフィンからなる群より選ばれる1種以上と、環状オレフィンと、ビニル化合物とを共重合させ、得られた基材の片面又は両面に、少なくとも1層のガスバリア層を積層することを特徴とする光学基材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に液晶表示素子、有機EL、電子ペーパー及び有機薄膜太陽電池などの光学製品に好適に用いられ、耐熱性及び光学特性に優れた光学基材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶基板、有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)基板、電子ペーパー用基板などの表示素子を始めとする光学基材の基板として、ガラス基板が使用されている。しかし、ガラス基板は、透明性、耐熱性、寸法安定性などには優れるが、割れ易く、重量もあるため、使い勝手に劣る。そこで、割れにくく、軽量であり、取り扱いが容易なプラスチック材料からなる基板への代替が盛んに検討されている。プラスチック材料からなる基板には、ガラス基板に準ずる透明性、耐熱性、寸法安定性などの特性が求められる。
【0003】
このようなプラスチック材料として、例えば、テトラシクロドデセン(DMON)とエチレンの非晶性共重合体が開示されている(特許文献1参照)が、これは環状オレフィン含量が低い(50モル%以下)ものが殆どであり、耐熱性が十分ではない。一方、環状オレフィン単独重合体は、分子量が小さいにもかかわらず高融点(300℃以上)を示し、高い耐熱性を示すことが知られている(例えば、特許文献2、非特許文献1参照)が、低複屈折性等の光学特性が不十分である。
これに対して、共重合体の耐熱性向上のために、環状オレフィンの高含量化を目的として、特定のメタロセン化合物を用いた重合技術が開示されている(例えば、特許文献3及び4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−168708号公報
【特許文献2】特開平2−167334号公報
【特許文献3】特開平4−268312号公報
【特許文献4】特開平5−112621号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Polymer International(28)3(1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、環状オレフィン含量が高い共重合体は、ランダム共重合であるがゆえに不融成分が発生し、成形が困難なので、事実上樹脂として用いることが困難であり、共重合体における環状オレフィンの高含量化には限界があった。
このように、従来のプラスチック材料からなる基板としては、耐熱性及び光学特性のいずれにも優れるものが無いのが実状であった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、耐熱性及び光学特性のいずれにも優れる光学基材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、
本発明は、エチレン及び直鎖状α−オレフィンからなる群より選ばれる1種以上と、環状オレフィンと、ビニル化合物との共重合体を含む基材の片面又は両面に、少なくとも1層のガスバリア層が積層されたことを特徴とする光学基材を提供する。
本発明の光学基材においては、前記エチレン及び直鎖状α−オレフィンからなる群より選ばれる1種以上がエチレンであることが好ましい。
本発明の光学基材においては、前記環状オレフィンがテトラシクロドデセンであることが好ましい。
本発明の光学基材においては、前記ビニル化合物がビニルシクロヘキサンであることが好ましい。
本発明の光学基材においては、前記共重合体が、エチレンが共重合されたものであり、前記エチレン、環状オレフィン及びビニル化合物の組成比が、それぞれ40〜65mol%、30〜45mol%及び3〜20mol%である(ただし、これら組成比の合計は100mol%以下である。)ことが好ましい。
本発明の光学基材においては、一対の成膜ロールのそれぞれに前記基材を配置して、一対の成膜ロール間に放電してプラズマを発生させるプラズマCVD法により、前記ガスバリア層が積層されたことが好ましい。
本発明の光学基材においては、片面に、さらに少なくとも1層の透明導電膜が積層されたことが好ましい。
本発明の光学基材においては、前記透明導電膜が、スパッタ法又はイオンプレーティング法で積層されたことが好ましい。
本発明の光学基材は、フィルム状又はシート状であることが好ましい。
本発明の光学基材は、液晶表示素子用の基板であることが好ましい。
本発明の光学基材は、有機EL用の基板であることが好ましい。
本発明の光学基材は、電子ペーパー用の基板であることが好ましい。
本発明の光学基材は、太陽電池用の基板であることが好ましい。
また、本発明は、エチレン及び直鎖状α−オレフィンからなる群より選ばれる1種以上と、環状オレフィンと、ビニル化合物とを共重合させ、得られた基材の片面又は両面に、少なくとも1層のガスバリア層を積層することを特徴とする光学基材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐熱性及び光学特性のいずれにも優れる光学基材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明における前記ガスバリア性積層フィルムの形成に好適な製造装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の光学基材は、エチレン及び直鎖状α−オレフィンからなる群より選ばれる1種以上と、環状オレフィンと、ビニル化合物との共重合体を含む基材の片面又は両面に、少なくとも1層のガスバリア層が積層されたことを特徴とする。エチレン及び直鎖状α−オレフィンからなる群より選ばれる1種以上、環状オレフィン並びにビニル化合物は、前記共重合体を構成するモノマーである。
【0012】
本発明における直鎖状α−オレフィンは、炭素原子数が3〜20であることが好ましい。かかる直鎖状α−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン等が例示でき、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンがより好ましく、プロピレンが特に好ましい。
前記直鎖状α−オレフィンは、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。
【0013】
本発明における共重合体が、エチレンが共重合されたものである場合、前記共重合体におけるエチレンの組成比は、耐熱性及び低複屈折性等の光学特性に特に優れるため、40〜65mol%であることが好ましい。ただし、共重合体中の全単量体単位を100mol%とする。
【0014】
本発明における環状オレフィンとは、4個以上の炭素原子が環を形成し、該環の中に1個の炭素−炭素二重結合を含む化合物のことである。かかる環状オレフィンとしては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン等の単環状オレフィン;3−メチルシクロペンテン、4−メチルシクロペンテン、3−メチルシクロヘキセン等の置換単環状オレフィン;ノルボルネン、1,2−ジヒドロジシクロペンタジエン、テトラシクロドデセン(ジメタノオクタヒドロナフタレン)等の多環状オレフィン;5−メチルノルボルネン等の置換多環状オレフィンが例示できる。
【0015】
好ましい環状オレフィンとしては、下記一般式[イ]で表される化合物が例示できる。
【0016】
【化1】

(式中、R〜R18はそれぞれ独立に水素原子、水酸基、アミノ基、ホスフィノ基又は炭素原子数1〜20の有機基であり、R16とR17とは相互に結合して環を形成しても良い。mは0以上の整数を示す。)
【0017】
〜R18における炭素原子数1〜20の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基等のアリールオキシ基;アセチル基等のアシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;アリールオキシカルボニル基;アラルキルオキシカルボニル基;アセチルオキシ基等のアシルオキシ基;メトキシスルホニル基、エトキシスルホニル基等のアルコキシスルホニル基;アリールオキシスルホニル基;アラルキルオキシスルホニル基;トリメチルシリル基等の置換シリル基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のアルキルアミノ基;カルボキシル基;シアノ基;前記アルキル基、アリール基及びアラルキル基の水素原子の一部が水酸基、アミノ基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、置換シリル基、アルキルアミノ基又はシアノ基で置換された基が例示できる。
【0018】
〜R18は、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基、炭素原子数7〜20のアラルキル基、炭素原子数1〜20のアシル基、炭素原子数2〜20のアルコキシカルボニル基、炭素原子数1〜20のアシルオキシ基又は炭素原子数1〜20の2置換シリル基であることが好ましい。
【0019】
前記一般式[イ]で表される好ましい環状オレフィンとしては、ノルボルネン、5−メチルノルボルネン、5−エチルノルボルネン、5−ブチルノルボルネン、5−フェニルノルボルネン、5−ベンジルノルボルネン、テトラシクロドデセン、トリシクロデセン、トリシクロウンデセン、ペンタシクロペンタデセン、ペンタシクロヘキサデセン、8−メチルテトラシクロドデセン、8−エチルテトラシクロドデセン、5−アセチルノルボルネン、5−アセチルオキシノルボルネン、5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−エトキシカルボニルノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−シアノノルボルネン、8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−メチル−8−テトラシクロドデセン、8−シアノテトラシクロドデセンが例示できる。
前記環状オレフィンは、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。
【0020】
本発明におけるビニル化合物は、嵩高い基を有するビニル化合物が好ましく、一般式「CH=CH−R20(式中、R20は分岐鎖状もしくは環状のアルキル基、又は環状のアルケニル基を示す。)」で表されるものが例示できる。
【0021】
前記R20における分岐鎖状のアルキル基は、炭素原子数が3〜9であることが好ましい。
前記R20における環状のアルキル基は、単環状及び多環状のいずれでも良く、単環状である場合には、炭素原子数が3〜9であることが好ましく、多環状である場合には、炭素原子数が7〜12であることが好ましい。
前記R20における環状のアルケニル基は、炭素原子数が6〜12であることが好ましい。
【0022】
かかるビニル化合物の好ましいものとしては、ビニルシクロプロパン、ビニルシクロブタン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘプタン、ビニルシクロオクタン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ヘキセン、3−メチル−1−ヘプテン、3−メチル−1−オクテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、3,3−ジメチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘプテン、3,3−ジメチル−1−オクテン、3,4−ジメチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ヘプテン、3,4−ジメチル−1−オクテン、3,5−ジメチル−1−ヘキセン、3,5−ジメチル−1−ヘプテン、3,5−ジメチル−1−オクテン、3,6−ジメチル−1−ヘプテン、3,6−ジメチル−1−オクテン、3,7−ジメチル−1−オクテン、3,3,4−トリメチル−1−ペンテン、3,3,4−トリメチル−1−ヘキセン、3,3,4−トリメチル−1−ヘプテン、3,3,4−トリメチル−1−オクテン、3,4,4−トリメチル−1−ペンテン、3,4,4−トリメチル−1−ヘキセン、3,4,4−トリメチル−1−ヘプテン、3,4,4−トリメチル−1−オクテン、5−ビニル−2−ノルボルネン、1−ビニルアダマンタン、4−ビニル−1−シクロヘキセン等が例示できる。
【0023】
なかでも前記ビニル化合物は、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘプタン、ビニルシクロオクタン、5−ビニル−2−ノルボルネン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ブテン、3,3−ジメチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ペンテン、3,5−ジメチル−1−ヘキセン、3,3,4−トリメチル−1−ペンテン、3,4,4−トリメチル−1−ペンテンであることが好ましく、ビニルシクロヘキサン、ビニルノルボルネン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、3,4−ジメチル−1−ペンテン、3,3,4−トリメチル−1−ペンテンであることがより好ましく、ビニルシクロヘキサン、3,3−ジメチル−1−ブテンであることが特に好ましい。
【0024】
前記共重合体における前記環状オレフィンの組成比は、20〜50mol%であることが好ましい。さらに、耐熱性及び低複屈折性等の光学特性に特に優れるため、前記共重合体における前記環状オレフィンの組成比は、30〜45mol%であることがより好ましい。ただし、共重合体中の全単量体単位を100mol%とする。
【0025】
前記共重合体におけるビニル化合物の組成比は、1mol%以上であることが好ましい。さらに、耐熱性、低複屈折などの光学特性の観点から、前記共重合体におけるビニル化合物の組成比は、2〜30mol%であることがより好ましく、3〜20mol%であることが特に好ましい。ただし、共重合体中の全単量体単位を100mol%とする。
【0026】
前記環状オレフィン及びビニル化合物の共重合組成は、H−NMRスペクトルや13C−NMRスペクトルの測定結果から、定法により容易に求められる。
【0027】
前記共重合体は、末端を除く全ての分子構造(前記環状オレフィンにおけるR〜R18や、前記ビニル化合物におけるR20も含む)中に二重結合を含まないことが好ましい。このような共重合体は、耐熱性に一層優れ、例えば、成形加工中のゲル化によるフィシュアイの発生を抑制する一層高い効果が得られる。
【0028】
前記共重合体は、耐熱性に特に優れるため、ガラス転移点が150℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることが特に好ましい。ガラス転移点の上限は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されない。ガラス転移点は示差走査熱量計(DSC)で測定した変曲点で確認できる。
【0029】
前記共重合体は、機械的強度、透明性等に特に優れるため、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)が1.5〜4.0であることが好ましく、1.5〜3.5であることがより好ましく、1.5〜3.0であることが特に好ましい。質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定できる。
【0030】
前記共重合体は、機械的強度に特に優れるため、質量平均分子量(Mw)が1,000〜1,000,000であることが好ましく、3,000〜500,000であることがより好ましく、5,000〜400,000であることが特に好ましい。
【0031】
前記共重合体は、機械的強度に特に優れるため、極限粘度[η]の値が0.1〜10.0dl/gであることが好ましく、0.2〜6.0dl/gであることがより好ましく、0.3〜5.0dl/gであることが特に好ましい。
【0032】
前記共重合体は、前記エチレン及び直鎖状α−オレフィンからなる群より選ばれる1種以上、環状オレフィン並びにビニル化合物以外に、さらに、これらモノマーに該当しない付加重合性モノマーが共重合したものでも良い。前記付加重合性モノマーとしては、その他のビニル化合物が例示できる。
【0033】
前記その他のビニル化合物としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル;アクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸又はそのエステル;アクリロニトリル;酢酸ビニル等のビニルエステル等が例示できる。ここで、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の双方を示す。
前記その他のビニル化合物は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。
【0034】
前記共重合体は、例えば、下記一般式(1)で表される遷移金属錯体と、活性化助触媒成分とを接触させて得られる触媒の存在下、前記エチレン及び直鎖状α−オレフィンからなる群より選ばれる1種以上、環状オレフィン、ビニル化合物、並びに必要に応じてこれらモノマーに該当しない付加重合性モノマーを共重合させることにより製造できる。
【0035】
【化2】

(式中、Mは元素の周期律表の第4族の遷移金属原子を表し、
は元素の周期律表の第16族の原子を表し、
は元素の周期律表の第14族の原子を表す。
Cpはシクロペンタジエン形アニオン骨格を有する基を表す。
、X、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、
水素原子、ハロゲン原子、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数1〜20のアルコキシ基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数6〜20のアリール基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数7〜20のアラルキル基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数7〜20のアラルキルオキシ基、
−Si(R21(3つのR21はそれぞれ独立に、水素原子、ハイドロカルビル基またはハロゲン化ハイドロカルビル基を表し、3つのR21にある炭素原子数の合計が1〜20である。)で示される置換シリル基、
又は−N(R22(2つのR22はそれぞれ独立にハイドロカルビル基またはハロゲン化ハイドロカルビル基を表し、2つのR22にある炭素原子数の合計が2〜20である。)で示される2置換アミノ基を表し、
及びRは、それぞれ独立に、
水素原子、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数1〜20のアルコキシ基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数6〜20のアリール基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数7〜20のアラルキル基、
ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素原子数7〜20のアラルキルオキシ基、
−Si(R21(3つのR21はそれぞれ独立に、水素原子、ハイドロカルビル基またはハロゲン化ハイドロカルビル基を表し、3つのR21にある炭素原子数の合計が1〜20である。)で示される置換シリル基、
又は−N(R22(2つのR22はそれぞれ独立にハイドロカルビル基またはハロゲン化ハイドロカルビル基を表し、2つのR22にある炭素原子数の合計が2〜20である。)で示される2置換アミノ基を表し、
、R、R及びRのうち、隣接した2つの炭素原子に結合する2つの基は結合して、該2つの基が結合している2つの炭素原子と一緒になって環を形成していてもよく、X及びXは結合してMと一緒になって環を形成していてもよく、R及びRは結合してJと一緒になって環を形成していてもよい。)
【0036】
一般式(1)で表される遷移金属錯体は、例えば、特開平9−87313号公報に記載の方法などで製造できる。
【0037】
一般式(1)において、「ハロゲン」とは、例えば、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素を指し、塩素、臭素又はヨウ素であることが好ましい。
【0038】
一般式(1)で表される遷移金属錯体としては、例えば、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(3,5−ジメチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(3−フェニル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(3−tert−ブチルジメチルシリル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(3−トリメチルシリル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メトキシ−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−クロロ−2−フェノキシ)チタニウムジクロライドなどや、これらの化合物のチタニウムをジルコニウム、ハフニウムに変更した化合物、クロライドをブロマイド、アイオダイド、ハイドライド、メチル、フェニル、ベンジル、メトキシド、n−ブトキシド、イソプロポキシド、フェノキシド、ベンジロキシド、ジメチルアミド、ジエチルアミドに変更した化合物、(シクロペンタジエニル)を(メチルシクロペンタジエニル)、(tert−ブチルシクロペンタジエニル)、(テトラメチルシクロペンタジエニル)、(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)、(ジメチルシクロペンタジエニル)、(トリメチルシクロペンタジエニル)、(n−ブチルシクロペンタジエニル)、(tert−ブチルジメチルシリルシクロペンタジエニル)、(インデニル)、(フルオレニル)に変更した化合物、3,5−ジメチル−2−フェノキシを2−フェノキシ、3−メチル−2−フェノキシ、3,5−ジ−tert−ブチル−2−フェノキシ、3−フェニル−5−メチル−2−フェノキシ、3−tert−ブチルジメチルシリル−2−フェノキシ、3−トリメチルシリル−2−フェノキシに変更した化合物、イソプロピリデンをジエチルメチレン、ジフェニルメチレンに変更した化合物などといった、一般式(1)におけるJが炭素原子である遷移金属錯体並びに
【0039】
ジエチルシリレン(2,3,4,5−テトラメチルシクロペンタジエン−1−イル)(2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、ジエチルシリレン(2,3,4,5−テトラメチルシクロペンタジエン−1−イル)(3−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、ジエチルシリレン(2,3,4,5−テトラメチルシクロペンタジエン−1−イル)(3,5−ジメチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、ジエチルシリレン(2,3,4,5−テトラメチルシクロペンタジエン−1−イル)(3−tert−ブチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、ジエチルシリレン(2,3,4,5−テトラメチルシクロペンタジエン−1−イル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、ジエチルシリレン(2,3,4,5−テトラメチルシクロペンタジエン−1−イル)(3,5−ジ−tert−ブチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、ジエチルシリレン(2,3,4,5−テトラメチルシクロペンタジエン−1−イル)(5−メチル−3−フェニル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、ジエチルシリレン(2,3,4,5−テトラメチルシクロペンタジエン−1−イル)(3−tert−ブチルジメチルシリル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、ジエチルシリレン(2,3,4,5−テトラメチルペンタジエン−1−イル)(5−メチル−3−トリメチルシリル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、ジエチルシリレン(2,3,4,5−テトラメチルペンタジエン−1−イル)(3−tert−ブチル−5−メトキシ−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、ジエチルシリレン(2,3,4,5−テトラメチルシクロペンタジエン−1−イル)(3−tert−ブチル−5−クロロ−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、ジエチルシリレン(2,3,4,5−テトラメチルシクロペンタジエン−1−イル)(3,5−ジアミル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライドなどや、これらの化合物の(2,3,4,5−テトラメチルシクロペンタジエン−1−イル)を(シクロペンタジエニル)、(2−メチルシクロペンタジエン−1−イル)、(3−メチルシクロペンタジエン−1−イル)、(2−tert−ブチルシクロペンタジエン−1−イル)、(3−tert−ブチルシクロペンタジエン−1−イル)、(トリメチルシリルシクロペンタジエン−1−イル)、(2,3−ジメチルシクロペンタジエン−1−イル)、(2,4−ジメチルシクロペンタジエン−1−イル)、(2,5−ジメチルシクロペンタジエン−1−イル)、(2,3,4−トリメチルシクロペンタジエン−1−イル)、(2,3,5−トリメチルシクロペンタジエン−1−イル)、(エチルシクロペンタジエニル)、(n−プロピルシクロペンタジエニル)、(イソプロピルシクロペンタジエニル)、(sec−ブチルシクロペンタジエニル)、(イソブチルシクロペンタジエニル)、(tert−ブチルジメチルシリルシクロペンタジエニル)、(フェニルシクロペンタジエニル)、(2−メチルインデン−1−イル)、(2−メチルテトラヒドロインデン−1−イル)、(フェニルインデン−1−イル)、(フルオレン−9−イル)、(2,7−ジ−tert−ブチルフルオレン−9−イル)、(3,6−ジ−tert−ブチルフルオレン−9−イル)、(2,5−ジメチルシクロペント[1,2−b:4,3−b’]ジチオフェン−7−イル)、(2,6−ジメチルシクロペント[2,1−b:3,4−b’]ジチオフェン−4−イル)、(2,5−ジメチルシクロペント[3,2−b]チオフェン−4−イル)に変更した化合物、2−フェノキシを3−フェニル−2−フェノキシ、3−トリメチルシリル−2−フェノキシ、3−tert−ブチルジメチルシリル−2−フェノキシに変更した化合物、ジエチルシリレンをジメチルシリレン、ジフェニルシリレン、ジメトキシシリレンに変更した化合物、チタニウムをジルコニウム、ハフニウムに変更した化合物、クロライドをブロマイド、アイオダイド、ハイドライド、メチル、フェニル、ベンジル、メトキシド、n−ブトキシド、イソプロポキシド、フェノキシド、ベンジロキシド、ジメチルアミド、ジエチルアミドに変更した化合物といった一般式(1)におけるJが炭素原子以外の周期律表の第14族の原子である遷移金属錯体が挙げられる。
【0040】
活性化助触媒成分としては、下記化合物(A)及び(B)を挙げることができ、化合物(A)及び(B)を併用してもよい。
化合物(A):下記化合物(A1)〜(A3)からなる化合物群より選ばれる1種以上のアルミニウム化合物
(A1):一般式 (EAl(G)3−aで表される有機アルミニウム化合物
(A2):一般式 {−Al(E)−O−}で表される構造を有する環状のアルミノキサン
(A3):一般式 E{−Al(E)−O−}Al(Eで表される構造を有する鎖状のアルミノキサン
(式中、E、E及びEは、それぞれ独立に炭素原子数1〜8のハイドロカルビル基を表し、Gは、水素原子又はハロゲン原子を表し、aは1〜3の整数を表し、bは2以上の整数を表し、cは1以上の整数を表す。Eが複数ある場合、複数のEは互いに同じであっても異なっていてもよい。複数のGは互いに同じであっても異なっていてもよい。複数のEは互いに同じであっても異なっていてもよい。複数のEは互いに同じであっても異なっていてもよい。)
化合物(B):下記化合物(B1)〜(B3)からなる化合物群より選ばれる1種以上のホウ素化合物
(B1):一般式 BQで表されるホウ素化合物
(B2):一般式T(BQで表されるボレート化合物
(B3):一般式(L−H)(BQで表されるボレート化合物
(式中、Bは3価の原子価状態のホウ素原子を表し、Q、Q、Q及びQは、それぞれ同一又は相異なり、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜20のハイドロカルビル基、炭素原子数1〜20のハイドロカルビルシリル基、炭素原子数1〜20のアルコキシ基又は炭素原子数2〜20のジハイドロカルビルアミノ基を表し、Tは無機又は有機のカチオンを表し、(L−H)はブレンステッド酸を表す。)
【0041】
化合物(A)及び(B)の前記一般式において、「ハロゲン原子」としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が挙げられる。
【0042】
化合物(A1)〜(A3)において、E、E及びEにおける炭素原子数1〜8のハイドロカルビル基としては、例えば、炭素原子数1〜8のアルキルなどが挙げられ、炭素原子数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基などが挙げられる。
【0043】
一般式 (EAl(G)3−aで表される有機アルミニウム化合物(A1)としては、例えば、トリアルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウムクロライド、アルキルアルミニウムジクロライド、ジアルキルアルミニウムハイドライドなどが挙げられ、トリアルキルアルミニウムとしては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウムなどが挙げられ、ジアルキルアルミニウムクロライドとしては、例えば、ジメチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムクロライド、ジプロピルアルミニウムクロライド、ジイソブチルアルミニウムクロライド、ジヘキシルアルミニウムクロライドなどが挙げられ、アルキルアルミニウムジクロライドとしては、例えば、メチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、プロピルアルミニウムジクロライド、イソブチルアルミニウムジクロライド、ヘキシルアルミニウムジクロライドなどが挙げられ、ジアルキルアルミニウムハイドライドとしては、例えば、ジメチルアルミニウムハイドライド、ジエチルアルミニウムハイドライド、ジプロピルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライド、ジヘキシルアルミニウムハイドライドなどが挙げられる。
【0044】
一般式{−Al(E)−O−}で表される構造を有する環状のアルミノキサン(A2)又は一般式E{−Al(E)−O−}AlEで表される構造を有する鎖状のアルミノキサン(A3)におけるE及びEとしては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基及びネオペンチル基等のアルキル基が挙げられる。bは2以上の整数であり、cは1以上の整数である。好ましくは、E及びEはそれぞれ独立にメチル基又はイソブチル基であり、bは2〜40であり、cは1〜40である。
【0045】
上記のアルミノキサンは各種の方法で製造できる。その方法については特に制限はなく、公知の方法に準じて製造すればよい。例えば、トリアルキルアルミニウム(例えば、トリメチルアルミニウムなど)を適当な有機溶剤(ベンゼン、脂肪族ハイドロカルビルなど)に溶かした溶液を水と接触させて製造する。また、トリアルキルアルミニウム(例えば、トリメチルアルミニウムなど)を、結晶水を含んでいる金属塩(例えば、硫酸銅水和物など)に接触させて製造する方法が例示できる。
【0046】
化合物(B1)〜(B3)において、Q、Q、Q及びQは、好ましくは、ハロゲン原子又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜20のハイドロカルビル基である。
における無機のカチオンとしては、例えば、フェロセニウムカチオン、アルキル置換フェロセニウムカチオン、銀陽イオンなどが挙げられ、有機のカチオンとしては、例えば、トリフェニルメチルカチオンなどが挙げられる。
(BQとしては、例えば、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(2,3,5,6−テトラフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(2,3,4,5−テトラフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(3,4,5−トリフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(2,3,4−トリフルオロフェニル)ボレート、フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレ−ト、テトラキス(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)ボレートなどが挙げられる。
ブレンステッド酸である(L−H)としては、例えば、トリアルキル置換アンモニウム、N,N−ジアルキルアニリニウム、ジアルキルアンモニウム、トリアリールホスホニウムなどが挙げられる。
【0047】
一般式 BQで表されるホウ素化合物(B1)としては、例えば、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリス(2,3,5,6−テトラフルオロフェニル)ボラン、トリス(2,3,4,5−テトラフルオロフェニル)ボラン、トリス(3,4,5−トリフルオロフェニル)ボラン、トリス(2,3,4−トリフルオロフェニル)ボラン、フェニルビス(ペンタフルオロフェニル)ボランなどが挙げられる。
【0048】
一般式T(BQで表されるボレート化合物(B2)としては、例えば、フェロセニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、1,1’−ビス−トリメチルシリルフェロセニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、銀テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルメチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルメチルテトラキス(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)ボレートなどが挙げられる。
【0049】
一般式(L−H)(BQで表されるボレート化合物(B3)としては、例えば、トリエチルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリプロピルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリ(n−ブチル)アンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリ(n−ブチル)アンモニウムテトラキス(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)ボレート、N,N−ビス−トリメチルシリルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジエチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−2,4,6−ペンタメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ビス−トリメチルシリルアニリニウムテトラキス(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)ボレート、ジイソプロピルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジシクロヘキシルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルホスホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリ(メチルフェニル)ホスホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリ(ビス−トリメチルシリルフェニル)ホスホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどが挙げられる。
【0050】
各モノマーの使用量、重合温度、重合時間等の重合条件は特に限定されず、重合条件を適宜調節することで、共重合組成や分子量等が異なる所望の共重合体が得られる。
【0051】
前記共重合体の重合方法は特に限定されず、例えば、スラリー重合法、気相重合法、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法等の公知慣用の重合方法から適宜選択すれば良い。なかでも、スラリー重合法、溶液重合法又は塊状重合法が好適である。また、バッチ法及び連続法のいずれでも良い。
【0052】
各構成成分を接触させる方法は、特に限定されない。例えば、前記遷移金属錯体と活性化助触媒成分とを予め接触させて触媒を調製し、該触媒を重合反応器に供給してもよい。また、各構成成分を任意の順序で重合反応器に供給し、重合反応器内で接触処理を行ってもよい。
各構成成分の接触処理は、不活性溶媒中で、不活性ガス雰囲気下において行う。
【0053】
前記基材は、前記共重合体以外に必要に応じて、酸化防止剤、耐候剤、滑剤、抗ブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、無滴剤、顔料、フィラー等の公知の添加剤を含んでいても良い。
【0054】
前記基材の厚みは、50〜200μmであることが好ましく、50〜100μmであることがより好ましい。
【0055】
前記基材は、前記共重合体を含むことにより、耐熱性及び低複屈折率性等の光学特性に優れる。
【0056】
前記基材の片面又は両面に積層されたガスバリア層は、光学基材の用途に応じて適宜選択できるが、好ましいものとして、無機材料からなるガスバリア層(以下、無機ガスバリア層と略記する)が例示できる。
【0057】
前記無機ガスバリア層の材質としては、酸化ケイ素(SiOx)、窒化ケイ素(SiNx)、酸窒化ケイ素(SiOxNy)、酸化アルミニウム(Al)が例示できる。ここで、xは2.0以下の数を示し、yは3分の4以下の数を示す。そして、これら材質の例示において、括弧内の表記は、当該材質を主として構成する元素種を示す。これらの中でも、水蒸気に対するバリア性がより良好になるという観点から、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素が好ましい。
【0058】
前記無機ガスバリア層の形成方法としては、公知の無機薄膜の形成方法を適用でき、具体的には、スパッタ法、イオンプレーテング法、プラズマ化学気相成長法(以下、プラズマCVD法と略記する)等が例示できる。
【0059】
また、前記無機ガスバリア層の厚みは、得られる積層体の用途に応じて適宜調整すれば良く、特に限定されないが、得られる積層体を、例えば、発光素子用のガスバリア層付の基板として用いる場合には、5〜2000nmであることが好ましく、50〜500nmであることがより好ましい。前記無機ガスバリア層の厚みが前記下限値以上であることにより、ガスバリア性が一層向上し、前記上限値以下であることにより、積層体の厚みが厚くなり過ぎず、例えば、フレキシブルディスプレイの保護膜等に適用するのに一層好適なものとなる。
【0060】
また、前記基材の片面又は両面に積層されたガスバリア層の好ましいものとしては、少なくとも1層の薄膜層を備えたガスバリア性積層フィルムが例示できる。
【0061】
前記ガスバリア性積層フィルムの好ましいものとしては、
前記薄膜層のうちの少なくとも1層がケイ素、酸素及び炭素を含有しており、且つ、
該層の膜厚方向における該層の表面からの距離と、ケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対するケイ素原子の量の比率(ケイ素の原子比)、酸素原子の量の比率(酸素の原子比)及び炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係をそれぞれ示すケイ素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、下記条件(i)〜(iii):
(i)ケイ素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の膜厚の90%以上の領域において下記式(A):
(酸素の原子比)>(ケイ素の原子比)>(炭素の原子比) ・・・(A)
で表される条件を満たすこと、或いは、ケイ素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の膜厚の90%以上の領域において下記式(B):
(炭素の原子比)>(ケイ素の原子比)>(酸素の原子比) ・・・(B)
で表される条件を満たすこと、
(ii)前記炭素分布曲線が少なくとも1つの極値を有すること、
(iii)前記炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%以上であること、
を全て満たすものが例示できる。
【0062】
前記ガスバリア性積層フィルムは、前記基材の少なくとも片面に形成される層であり、前記薄膜層のうちの少なくとも1層がケイ素、酸素及び炭素を含有する層であることが必要である。また、前記薄膜層のうちの少なくとも1層は窒素、アルミニウムを更に含有していても良い。
【0063】
また、本発明においては、前記ケイ素、酸素及び炭素を含有する薄膜層のうちの少なくとも1層が上記条件(i)〜(iii)の全てを満たす。すなわち、このような薄膜層は、先ず、該層の膜厚方向における該層の表面からの距離と、ケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対するケイ素原子の量の比率(ケイ素の原子比)、酸素原子の量の比率(酸素の原子比)及び炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係をそれぞれ示すケイ素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、(i)ケイ素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の膜厚の90%以上(より好ましくは95%以上、特に好ましくは100%)の領域において下記式(A):
(酸素の原子比)>(ケイ素の原子比)>(炭素の原子比) ・・・(A)
で表される条件を満たすこと、或いは、ケイ素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の膜厚の90%以上(より好ましくは95%以上、特に好ましくは100%)の領域において下記式(B):
(炭素の原子比)>(ケイ素の原子比)>(酸素の原子比) ・・・(B)
で表される条件を満たすことが必要である。ケイ素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が前記条件を満たさない場合には、得られるガスバリア性積層フィルムのガスバリア性が不十分となる。
【0064】
また、このような薄膜層は、次に、(ii)前記炭素分布曲線が少なくとも1つの極値を有することが必要である。このような薄膜層においては、前記炭素分布曲線が少なくとも2つの極値を有することが好ましく、少なくとも3つの極値を有することがより好ましい。前記炭素分布曲線が極値を有さない場合には、得られるガスバリア性積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が不十分となる。また、少なくとも3つの極値を有する場合には、前記炭素分布曲線の有する一つの極値及び該極値に隣接する極値における前記薄膜層の膜厚方向における前記薄膜層の表面からの距離の差の絶対値が、いずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。なお、本発明において極値とは、薄膜層の膜厚方向における薄膜層の表面からの距離に対する元素の原子比の極大値又は極小値のことをいう。また、本発明において極大値とは、薄膜層の表面からの距離を変化させた場合に元素の原子比の値が増加から減少に変わる点であって且つその点の元素の原子比の値よりも、該点から薄膜層の膜厚方向における薄膜層の表面からの距離を更に20nm変化させた位置の元素の原子比の値が3at%以上減少する点のことをいう。さらに、本発明において極小値とは、薄膜層の表面からの距離を変化させた場合に元素の原子比の値が減少から増加に変わる点であり、且つその点の元素の原子比の値よりも、該点から薄膜層の膜厚方向における薄膜層の表面からの距離を更に20nm変化させた位置の元素の原子比の値が3at%以上増加する点のことをいう。
【0065】
また、このような薄膜層は、更に、(iii)前記炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%以上であることが必要であり、6at%以上であることが好ましく、7at%以上であることがより好ましい。前記絶対値が5at%未満では、得られるガスバリア性積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が不十分となる。
【0066】
前記薄膜層の前記酸素分布曲線は、少なくとも1つの極値を有することが好ましく、少なくとも2つの極値を有することがより好ましく、少なくとも3つの極値を有することが特に好ましい。前記酸素分布曲線が極値を有することにより、ガスバリア性積層フィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が一層向上する。また、少なくとも3つの極値を有する場合においては、前記酸素分布曲線が有する一つの極値及び該極値に隣接する極値における前記薄膜層の膜厚方向における前記薄膜層の表面からの距離の差の絶対値が、いずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0067】
また、前記薄膜層の前記酸素分布曲線における酸素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値は、5at%以上であることが好ましく、6at%以上であることがより好ましく、7at%以上であることが特に好ましい。前記絶対値が前記下限値以上であることにより、ガスバリア性積層フィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が一層向上する。
【0068】
前記薄膜層の前記ケイ素分布曲線におけるケイ素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値は、5at%未満であることが好ましく、4at%未満であることがより好ましく、3at%未満であることが特に好ましい。前記絶対値が前記上限値未満であることにより、ガスバリア性積層フィルムのガスバリア性が一層向上する。
【0069】
また、前記薄膜層のうちの少なくとも1層の膜厚方向における該層の表面からの距離とケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子及び炭素原子の合計量の比率(酸素及び炭素の原子比)との関係を示す酸素炭素分布曲線において、前記酸素炭素分布曲線における酸素及び炭素の原子比の合計の最大値及び最小値の差の絶対値が、5at%未満であることが好ましく、4at%未満であることがより好ましく、3at%未満であることが特に好ましい。前記絶対値が前記上限値未満であることにより、ガスバリア性積層フィルムのガスバリア性が一層向上する。
【0070】
前記ケイ素分布曲線、前記酸素分布曲線、前記炭素分布曲線及び前記酸素炭素分布曲線は、X線光電子分光法(XPS:Xray Photoelectron Spectroscopy)の測定とアルゴン等の希ガスイオンスパッタとを併用することにより、試料内部を露出させつつ順次表面組成分析を行う、いわゆるXPSデプスプロファイル測定により作成できる。このようなXPSデプスプロファイル測定により得られる分布曲線は、例えば、縦軸を各元素の原子比(単位:at%)とし、横軸をエッチング時間(スパッタ時間)として作成することができる。なお、このように横軸をエッチング時間とする元素の分布曲線において、エッチング時間は前記薄膜層の膜厚方向における前記薄膜層の表面からの距離に概ね相関することから、「薄膜層の膜厚方向における薄膜層の表面からの距離」として、XPSデプスプロファイル測定の際に採用したエッチング速度とエッチング時間との関係から算出される薄膜層の表面からの距離を採用できる。また、このようなXPSデプスプロファイル測定に際して採用するスパッタ法としては、エッチングイオン種としてアルゴン(Ar)を用いた希ガスイオンスパッタ法を採用し、そのエッチング速度(エッチングレート)を0.05nm/sec(SiO熱酸化膜換算値)とすることが好ましい。
【0071】
また、膜面全体において均一で且つ優れたガスバリア性を有する薄膜層を形成するという観点から、前記薄膜層は、膜面方向(薄膜層の表面に平行な方向)において実質的に一様であることが好ましい。本明細書において、薄膜層が膜面方向において実質的に一様とは、XPSデプスプロファイル測定により薄膜層の膜面の任意の2箇所の測定箇所について前記酸素分布曲線、前記炭素分布曲線及び前記酸素炭素分布曲線を作成した場合に、その任意の2箇所の測定箇所において得られる炭素分布曲線が持つ極値の数が同じであり、それぞれの炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が、互いに同じであるかもしくは5at%以内の差であることをいう。
【0072】
さらに、前記炭素分布曲線は実質的に連続であることが好ましい。本明細書において、炭素分布曲線が実質的に連続であるとは、炭素分布曲線における炭素の原子比が不連続に変化する部分を含まないことを意味し、具体的には、エッチング速度とエッチング時間とから算出される前記薄膜層のうちの少なくとも1層の膜厚方向における該層の表面からの距離(x、単位:nm)と、炭素の原子比(C、単位:at%)との関係において、下記数式(F1):
|dC/dx|≦ 1 ・・・(F1)
で表される条件を満たすことをいう。
【0073】
前記ガスバリア性積層フィルムは、上記条件(i)〜(iii)を全て満たす薄膜層を少なくとも1層備えることが必要であるが、そのような条件を満たす層を2層以上備えていても良い。さらに、このような薄膜層を2層以上備える場合には、複数の薄膜層の材質は、同一であっても良く、異なっていても良い。また、このような薄膜層を2層以上備える場合には、このような薄膜層は前記基材の一方の表面上に形成されていても良く、前記基材の両方の表面上に形成されていても良い。また、このような複数の薄膜層としては、ガスバリア性を必ずしも有しない薄膜層を含んでいても良い。
【0074】
また、前記ケイ素分布曲線、前記酸素分布曲線及び前記炭素分布曲線において、ケイ素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の膜厚の90%以上の領域において前記式(A)で表される条件を満たす場合には、前記薄膜層中におけるケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対するケイ素原子の含有量の原子比率は、25〜45at%であることが好ましく、30〜40at%であることがより好ましい。また、前記薄膜層中におけるケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子の含有量の原子比率は、33〜67at%であることが好ましく、45〜67at%であることがより好ましい。さらに、前記薄膜層中におけるケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の含有量の原子比率は、3〜33at%であることが好ましく、3〜25at%であることがより好ましい。
【0075】
さらに、前記ケイ素分布曲線、前記酸素分布曲線及び前記炭素分布曲線において、ケイ素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の膜厚の90%以上の領域において前記式(2)で表される条件を満たす場合には、前記薄膜層中におけるケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対するケイ素原子の含有量の原子比率は、25〜45at%であることが好ましく、30〜40at%であることがより好ましい。また、前記薄膜層中におけるケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子の含有量の原子比率は、1〜33at%であることが好ましく、10〜27at%であることがより好ましい。さらに、前記薄膜層中におけるケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の含有量の原子比率は、33〜66at%であることが好ましく、40〜57at%であることがより好ましい。
【0076】
また、前記薄膜層の厚みは、5〜3000nmであることが好ましく、10〜2000nmであることより好ましく、100〜1000nmであることが特に好ましい。薄膜層の厚みが前記下限値以上であることにより、酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性等のガスバリア性が一層向上し、前記上限値以下であることにより、ガスバリア性積層フィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が一層向上する。
【0077】
また、前記ガスバリア性積層フィルムが複数の薄膜層を備える場合には、それらの薄膜層の厚みの合計値は、通常10〜10000nmであることが好ましく、10〜5000nmであることよりが好ましく、100〜3000nmであることさらに好ましく、200〜2000nmであることが特に好ましい。薄膜層の厚みの合計値が前記下限値以上であることにより、酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性等のガスバリア性が一層向上し、前記上限値以下であることにより、ガスバリア性積層フィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が一層向上する。
【0078】
前記ガスバリア性積層フィルムは、前記薄膜層を備えるものであるが、必要に応じて、更にプライマーコート層、ヒートシール性樹脂層、接着剤層等を備えていても良い。前記プライマーコート層は、例えば、前記基材及び前記薄膜層との接着性を向上させることが可能な公知のプライマーコート剤を用いて形成できる。また、前記ヒートシール性樹脂層は、適宜公知のヒートシール性樹脂を用いて形成できる。さらに、前記接着剤層は、適宜公知の接着剤を用いて形成でき、このような接着剤層により複数のガスバリア性積層フィルム同士を接着させても良い。
【0079】
また、前記薄膜層は、プラズマCVD法により形成された層であることが好ましい。そして、このような薄膜層は、前記基材を前記一対の成膜ロール上に配置し、前記一対の成膜ロール間に放電してプラズマを発生させるプラズマCVD法により形成された層であることがより好ましい。また、このようにして一対の成膜ロール間に放電する際には、前記一対の成膜ロールの極性を交互に反転させることが好ましい。さらに、このようなプラズマCVD法に用いる成膜ガスとしては、有機ケイ素化合物と酸素とを含むものが好ましく、その成膜ガス中の酸素の含有量は、前記成膜ガス中の前記有機ケイ素化合物の全量を完全酸化するのに必要な理論酸素量以下であることが好ましい。
また、前記薄膜層は、連続的な成膜プロセスにより形成された層であることが好ましい。
なお、このようなプラズマCVD法を利用して薄膜層を形成する方法は、後述する前記ガスバリア性積層フィルムの製造方法において説明する。
【0080】
例えば、有機EL用の基板では、特に水蒸気及び酸素に対する高いバリア性が要求されるが、本発明の光学基材は、水蒸気の透過度を1×10−6〜1×10−5g/m/day、酸素の透過度を1×10−6〜1×10−3g/m/dayとすることが可能である。
【0081】
前記基材の厚みは、前記ガスバリア性積層フィルムを製造する際の安定性を考慮すると、真空中においてもフィルムの搬送が容易であるという観点から、5〜500μmであることが好ましい。さらに、プラズマCVD法により前記薄膜層を形成する場合には、前記基材を通して放電しつつ前記薄膜層を形成することから、前記基材の厚みは50〜200μmであることが好ましく、50〜100μmであることがより好ましい。
【0082】
また、前記基材には、後述する薄膜層との密着性の観点から、表面を清浄するための表面活性処理を施すことが好ましい。このような表面活性処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理が例示できる。
【0083】
前記ガスバリア性積層フィルムは、前記基材の表面上に前記薄膜層を形成することで形成できる。前記薄膜層の形成方法としては、ガスバリア性の観点から、プラズマCVD法を適用することが好ましい。なお、前記プラズマCVD法は、ペニング放電プラズマ方式のプラズマCVD法であっても良い。
【0084】
また、前記プラズマCVD法においてプラズマを発生させる際には、複数の成膜ロールの間の空間にプラズマ放電を発生させること(ロール間放電プラズマ法)が好ましく、一対の成膜ロールを用い、その一対の成膜ロールのそれぞれに前記基材を配置して、一対の成膜ロール間に放電してプラズマを発生させることがより好ましい。このようにすることで、成膜時に一方の成膜ロール上に存在する基材の表面部分を成膜しつつ、もう一方の成膜ロール上に存在する基材の表面部分も同時に成膜することが可能となり、効率良く薄膜を製造できるばかりか、成膜レートを倍にでき、なおかつ、同じ構造の膜を成膜できるので、前記炭素分布曲線における極値を少なくとも倍増させることが可能となり、効率良く上記条件(i)〜(iii)を全て満たす層を形成できる。また、前記ガスバリア性積層フィルムは、生産性の観点から、ロールツーロール方式で前記基材の表面上に前記薄膜層を形成することが好ましい。また、このようなプラズマCVD法によるガスバリア性積層フィルム形成時に用いる装置は、特に限定されないが、少なくとも一対の成膜ロールと、プラスマ電源とを備え且つ前記一対の成膜ロール間において放電することが可能な構成の装置であることが好ましく、例えば、図1に示す製造装置を用いた場合には、プラズマCVD法を利用しながらロールツーロール方式でガスバリア性積層フィルムを形成できる。
【0085】
以下、図1を参照しながら、前記ガスバリア性積層フィルムの形成方法についてより詳細に説明する。なお、図1は、前記ガスバリア性積層フィルムの形成に好適な製造装置の一例を示す模式図である。また、以下の説明及び図面中において、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0086】
図1に示す製造装置は、送り出しロール11と、搬送ロール21、22、23、24と、成膜ロール31、32と、ガス供給管41と、プラズマ発生用電源51と、成膜ロール31及び32の内部に設置された磁場発生装置61、62と、巻取りロール71とを備える。また、このような製造装置においては、少なくとも成膜ロール31、32と、ガス供給管41と、プラズマ発生用電源51と、磁場発生装置61、62とが図示を省略した真空チャンバー内に配置されている。更に、このような製造装置において前記真空チャンバーは図示を省略した真空ポンプに接続されており、かかる真空ポンプにより真空チャンバー内の圧力を適宜調整することが可能となっている。
【0087】
このような製造装置においては、一対の成膜ロール(成膜ロール31と成膜ロール32)を一対の対向電極として機能させることが可能となるように、各成膜ロールがそれぞれプラズマ発生用電源51に接続されている。そのため、プラズマ発生用電源51により電力を供給することで、成膜ロール31と成膜ロール32との間の空間に放電することが可能であり、これにより成膜ロール31と成膜ロール32との間の空間にプラズマを発生させることができる。なお、このように、成膜ロール31と成膜ロール32を電極としても利用する場合には、電極としても利用可能なようにその材質や設計を適宜変更すれば良い。また、このような製造装置においては、一対の成膜ロール(成膜ロール31及び32)は、その中心軸が同一平面上において略平行となるようにして配置することが好ましい。このようにして、一対の成膜ロール(成膜ロール31及び32)を配置することにより、成膜レートを倍にでき、なおかつ、同じ構造の膜を成膜できるので、前記炭素分布曲線における極値を少なくとも倍増させることが可能となる。そして、このような製造装置によれば、CVD法によりフィルム100の表面上に薄膜層を形成することが可能であり、成膜ロール31上においてフィルム100の表面上に膜成分を堆積させつつ、更に成膜ロール32上においてもフィルム100の表面上に膜成分を堆積させることもできるため、フィルム100の表面上に前記薄膜層を効率良く形成できる。
【0088】
フィルム100としては、前記基材の他に、前記基材上に前記薄膜層を予め形成させたものを使用できる。フィルム100として前記薄膜層を予め形成させたものを使用することで、前記薄膜層の厚みを厚くすることも可能である。
【0089】
また、成膜ロール31及び成膜ロール32の内部には、成膜ロールが回転しても回転しないようにして固定された磁場発生装置61及び62がそれぞれ設けられている。
【0090】
さらに、成膜ロール31及び成膜ロール32としては、適宜公知のロールを用いることができる。このような成膜ロール31及び32としては、より効率良く薄膜を形成するという観点から、直径が同一のものを使用することが好ましい。また、このような成膜ロール31及び32の直径は、放電条件、チャンバーのスペース等の観点から、5〜100cmとすることが好ましい。
【0091】
また、このような製造装置においては、フィルム100の表面がそれぞれ対向するように、一対の成膜ロール(成膜ロール31と成膜ロール32)上に、フィルム100が配置されている。このようにしてフィルム100を配置することにより、成膜ロール31と成膜ロール32との間に放電を行ってプラズマを発生させる際に、一対の成膜ロール間に存在するフィルム100のそれぞれの表面を同時に成膜することが可能となる。すなわち、このような製造装置によれば、CVD法により、成膜ロール31上にてフィルム100の表面上に膜成分を堆積させ、更に成膜ロール32上にて膜成分を堆積させることができるため、フィルム100の表面上に前記薄膜層を効率良く形成することが可能となる。
【0092】
送り出しロール11及び搬送ロール21、22、23、24としては、適宜公知のロールを使用できる。また、巻取りロール71も、薄膜層を形成したフィルム100を巻き取ることが可能なものであれば良く、特に限定されず、適宜公知のロールを使用できる。
【0093】
ガス供給管41としては、原料ガス等を所定の速度で供給又は排出することが可能なものを適宜使用できる。
【0094】
プラズマ発生用電源51としては、適宜公知のプラズマ発生装置の電源を使用できる。このようなプラズマ発生用電源51は、これに接続された成膜ロール31と成膜ロール32に電力を供給して、これらを放電のための対向電極として利用することを可能とする。このようなプラズマ発生用電源51としては、一層効率良くプラズマCVDを実施できることから、前記一対の成膜ロールの極性を交互に反転させることが可能なもの(交流電源等)を使用することが好ましい。また、同様の理由から、印加電力を100W〜10kWとすることができ、且つ交流の周波数を50Hz〜500kHzとすることができるものが好ましい。
【0095】
磁場発生装置61、62としては、適宜公知の磁場発生装置を使用できる。
【0096】
このような図1に示す製造装置を使用して、例えば、原料ガスの種類、プラズマ発生装置の電極ドラムの電力、真空チャンバー内の圧力、成膜ロールの直径、及びフィルムの搬送速度を適宜調整することにより、前記ガスバリア性積層フィルムを形成できる。すなわち、成膜ガス(原料ガス等)を真空チャンバー内に供給しつつ、一対の成膜ロール(成膜ロール31及び32)間に放電することにより、前記成膜ガス(原料ガス等)がプラズマによって分解され、成膜ロール31上のフィルム100の表面上及び成膜ロール32上のフィルム100の表面上に、前記薄膜層がプラズマCVD法により形成される。なお、このような成膜に際しては、フィルム100が送り出しロール11や成膜ロール31等により、それぞれ搬送されることにより、ロールツーロール方式の連続的な成膜プロセスで、フィルム100の表面上に前記薄膜層が形成される。
【0097】
前記成膜ガス中の原料ガスは、形成する薄膜層の材質に応じて、適宜選択して使用できる。このような原料ガスとしては、ケイ素を含有する有機ケイ素化合物が例示できる。前記有機ケイ素化合物としては、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等が例示できる。これら有機ケイ素化合物の中でも、化合物の取り扱い性及び得られる薄膜層のガスバリア性等の特性の観点から、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンが好ましい。
前記有機ケイ素化合物は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。
さらに、原料ガスとして、上述の有機ケイ素化合物の他にモノシランを含有させ、形成するバリア膜のケイ素源として使用することとしてもよい。
【0098】
前記成膜ガスとしては、前記原料ガス以外に、さらに、その他の反応ガス(以下、反応ガスと略記する)を使用しても良い。反応ガスとしては、前記原料ガスと反応して酸化物、窒化物等の無機化合物を形成するガスを適宜選択して使用できる。酸化物を形成する反応ガスとしては、酸素、オゾン等が例示できる。窒化物を形成する反応ガスとしては、窒素、アンモニア等が例示できる。
前記反応ガスは、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良く、、例えば、酸窒化物を形成する場合には、酸化物を形成するための反応ガスと窒化物を形成するための反応ガスとを組み合わせて使用できる。
【0099】
前記成膜ガスとしては、前記原料ガスを真空チャンバー内に供給するために、必要に応じてキャリアガスを使用しても良い。さらに、前記成膜ガスとしては、プラズマ放電を発生させるために、必要に応じて放電用ガスを使用しても良い。
前記キャリアガス及び放電用ガスとしては、適宜公知のものを使用でき、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノン等の希ガス;水素等が例示できる。
【0100】
前記成膜ガスが、前記原料ガスと前記反応ガスとを含有する場合には、前記反応ガスの量を、前記原料ガスと前記反応ガスとを完全に反応させるために必要な理論量よりも、過剰にしないことが好ましい。反応ガスの量を過剰にしてしまうと、上記条件(i)〜(iii)を全て満たす薄膜が得られず、形成される薄膜層によって、優れたガスバリア性や耐屈曲性が得られなくなる。
また、前記成膜ガスが前記有機ケイ素化合物と酸素とを含有する場合には、酸素の量は、前記成膜ガス中の前記有機ケイ素化合物の全量を完全酸化するのに必要な理論量未満であることが好ましい。
【0101】
以下、前記成膜ガスとして、原料ガスであるヘキサメチルジシロキサン(有機ケイ素化合物、HMDSO、(CHSiO)と、反応ガスである酸素(O)とを含有するものを使用し、ケイ素−酸素結合を有する薄膜を形成する場合を例に挙げて、前記原料ガスと前記反応ガスとの好適な比率等について、より詳細に説明する。
【0102】
原料ガスであるヘキサメチルジシロキサンと、反応ガスである酸素とを含有する成膜ガスを、プラズマCVDにより反応させて、ケイ素−酸素結合を有する薄膜を成膜する場合、この成膜ガスにより下記式(I):
(CHSiO+12O→6CO+9HO+2SiO ・・・(I)
で表される反応が起こり、二酸化ケイ素が生じる。このような反応においては、ヘキサメチルジシロキサン1モルを完全酸化するのに必要な酸素は12モルである。そのため、成膜ガス中に、ヘキサメチルジシロキサン1モルに対して、12モル以上の酸素を含有させて完全に反応させた場合には、均一な二酸化ケイ素膜が形成されてしまうため、上記条件(i)〜(iii)を全て満たす薄膜層を形成できなくなってしまう。そのため、前記薄膜層を形成する時には、前記式(I)の反応が完全に進行してしまわないように、ヘキサメチルジシロキサン1モルに対して酸素量を化学量論比の12モルより少なくする必要がある。なお、実際のプラズマCVDチャンバー内の反応では、ヘキサメチルジシロキサンと酸素は、ガス供給部から成膜領域へ供給されて成膜されるので、酸素のモル量(流量)がヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)の12倍のモル量(流量)であったとしても、現実には、完全には反応は進行せず、酸素の含有量を化学量論比に比して大過剰に供給して初めて反応が完結すると考えられる(例えば、CVDにより完全酸化させて二酸化ケイ素を得るために、酸素のモル量(流量)をヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)の20倍以上程度とする場合もある。)。そのため、ヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)は、化学量論比である12倍量以下(より好ましくは、10倍以下)の量であることが好ましい。このような比でヘキサメチルジシロキサン及び酸素を含有させることにより、完全に酸化されなかったヘキサメチルジシロキサン中の炭素原子や水素原子が薄膜層中に取り込まれ、上記条件(i)〜(iii)を全て満たす薄膜層を形成することが可能となり、得られるガスバリア性積層フィルムに優れたバリア性及び耐屈曲性を発揮させることが可能となる。なお、成膜ガス中のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)が少なすぎると、酸化されなかった炭素原子や水素原子が薄膜層中に過剰に取り込まれるため、この場合には、ガスバリア性積層フィルムの透明性が低下して、有機ELデバイスや有機薄膜太陽電池などのような透明性を必要とするデバイス用のフレキシブル基板には利用できなくなってしまう。このような観点から、成膜ガス中の酸素のモル量(流量)の下限値は、ヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)の0.1倍より多い量であることが好ましく、0.5倍より多い量であることがより好ましい。
【0103】
真空チャンバー内の圧力(真空度)は、原料ガスの種類等に応じて適宜調整できるが、0.1Pa〜50Paとすることが好ましい。
【0104】
このようなプラズマCVD法において、成膜ロール31及び32間に放電するために、プラズマ発生用電源51に接続された電極ドラム(本実施形態においては成膜ロール31及び32に設置されている。)に印加する電力は、原料ガスの種類や真空チャンバー内の圧力等に応じて適宜調整でき、一概に言えるものでないが、通常は0.1〜10kWであることが好ましい。印加する電力が、前記下限値以上であることにより、パーティクルの発生が一層抑制できる。また、前記上限値以下であることにより、成膜時に発生する熱量が少なくなり、成膜時の基材表面の温度上昇が一層抑制される。その結果、基材が熱負けすることによる成膜時の皺の発生が一層抑制され、熱でフィルムが溶解し、裸の成膜ロール間に大電流の放電が発生することによる成膜ロール自体の傷みを抑制する一層高い効果が得られる。
【0105】
フィルム100の搬送速度(ライン速度)は、原料ガスの種類や真空チャンバー内の圧力等に応じて適宜調整できるが、0.1〜100m/分であることが好ましく、0.5〜20m/分であることがより好ましい。ライン速度が前記下限値以上であることにより、熱に起因するフィルムでの皺の発生が一層抑制され、前記上限値以下であることにより、形成される薄膜層の厚みが薄くなることを一層抑制できる。
【0106】
本発明の光学基材は、片面に、さらに少なくとも1層の透明導電膜が積層されていても良い。ここで、透明導電膜が積層される光学基材の面は、前記共重合体を含む基材の表面でも良いし、前記基材の表面に積層された前記バリア層の表面であっても良い。
【0107】
前記透明導電膜は、インジウム(In)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)及びチタン(Ti)からなる群から選択される一種以上の元素が含まれることが好ましい。好ましい前記透明導電膜として、具体的には、インジウム−スズ酸化物(ITO)、インジウム−亜鉛酸化物(IZO(登録商標))、亜鉛−スズ酸化物(ZTO)、インジウム−ガリウム酸化物(IGO)、インジウム−亜鉛−スズ酸化物(IZTO(登録商標))、インジウム−ガリウム−亜鉛酸化物(IGZO)、アルミニウムドープ亜鉛酸化物(AZO)、ガリウムドープ亜鉛酸化物(GZO)、アンチモンドープスズ酸化物(ATO)、フッ素ドープスズ酸化物(FTO)、ニオブドープ酸化チタン(NTO)、タンタルドープ酸化チタン(TTO)、バナジウムドープ酸化チタン(VTO)、酸化スズ、酸化インジウム及びハロゲン含有酸化スズからなる群から選択される一種以上の金属酸化物の薄膜;金、銀、パラジウム、アルミニウム等の金属の極薄膜が例示できる。
【0108】
前記透明導電膜は、低抵抗のものが得られることから、物理気相成長(PVD)法で積層することが好ましい。PVD法としてより具体的には、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法(パルスレーザーディポシッション、PLD法)が例示でき、成膜速度、成膜面積の広さ、成膜面の均一性、エッチング特性等の観点から、スパッタ法、イオンプレーティング法が好ましい。また、イオンプレーティング法としては、屈曲させても導電性が低下し難く、成膜速度が速く、陰極がガス雰囲気に曝されないため長寿命であり、安定して長時間連続して成膜できることから、圧力勾配型プラズマガン(浦本ガン)を用いる方法が好ましい。
【0109】
前記透明導電膜の厚みは、特に限定されず、目的に応じて適宜設定すれば良いが、通常は40〜200nmであることが好ましい。
【0110】
本発明の光学基材は、耐熱性及び低複屈折率性等の光学特性に優れ、さらに、水蒸気、酸素等のガスに対するバリア性にも優れる。したがって、本発明の光学基材は、液晶表示素子用の基板、有機EL用の基板、電子ペーパー用の基板、太陽電池用の基板等として好適であり、フィルム状又はシート状とすることで、特にフレキシブル基板として好適なものである。
【実施例】
【0111】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0112】
[試験例1]
<共重合体のガラス転移温度及び固有複屈折率の算出>
前記共重合体における各モノマーの好ましい組成比を考察するために、共重合体のガラス転移温度、固有複屈折率を算出した。具体的には、以下の通りである。
【0113】
エチレン/ビニルシクロヘキサン(以下、VCHと略記する)/テトラシクロドデセン(以下、DMONと略記する)共重合体について、高分子モデル作成にアクセルリス社製「Amorphous cell」を、分子動力学計算にアクセルリス社製「Discover」をそれぞれ使用した。そして、下記組成比の共重合体について、全原子モデルを用いて、セルの形状を立方体として高分子1本からなるモデルの初期構造を密度0.5g/cmで発生させた。ポテンシャルパラメータは、アクセルリス社製「compass」を割り当てた。
共重合体(1):エチレン/VCH/DMON=50/0/50[mol%]
共重合体(2):エチレン/VCH/DMON=50/16.7/33.3[mol%]
共重合体(3):エチレン/VCH/DMON=50/33.3/16.7[mol%]
共重合体(4):エチレン/VCH/DMON=66.7/0/33.3[mol%]
ここで、例えば、共重合体(1)における「50/0/50[mol%]」は、「エチレンが50mol%、VCHが0mol%、DMONが50mol%の組成比である」ことを示す。
この高分子モデルを用いて、アンサンブルNVE、時間刻み1fs、計算時間500psを行った後、アンサンブルNPT、温度650K、圧力0.1MPa、時間刻み1fs、計算時間500psの常圧での分子動力学シミュレーションを行い、温度を650Kから200Kまで25Kごとに計算時間500psずつ冷却させるシミュレーションを行った。
【0114】
各温度で出力される密度の平均値をその温度における密度とした。ガラス転移温度は冷却過程における密度の逆数である比容積の屈曲点とした。
共重合体(1)〜(4)におけるモノマーの組成比とガラス転移温度を表1に示す。
【0115】
【表1】

【0116】
組成比とガラス転移温度の回帰式を最小2乗法により求めたところ、以下のようになった。
Tg[K] = −4.39×エチレン[mol%]−2.16×VCH[mol%]+1.50×DMON[mol%]+645
前記回帰式より、ガラス転移温度が耐熱性の観点から好ましい180℃となる共重合体の一つとして、下記組成比の共重合体(5)を特定した。
共重合体(5):エチレン/VCH/DMON=50/13/37[mol%]
【0117】
共重合体(1)〜(4)について、以下の方法で固有複屈折率を算出した。
すなわち、まず、高分子モデルのモノマー分極率を以下のように算出した。高分子モデルを構成するモノマーごとに、高分子モデルの原子間結合のベクトルを算出した。具体的には、モデルに含まれる原子の座標から、算出対象のモノマーにおける全ての原子間結合のベクトルを算出した。次いで、算出したベクトルと原子間結合の種類とで決定される結合分極パラメータを用いて、モノマー分極率を算出した。ここで、モノマー分極率を算出する際の座標軸が、モノマーの主鎖に該当する原子間ベクトルが主軸となるように次のように定めた。すなわち、モノマーごとに主鎖の原子間の結合ベクトルと、隣接するモノマーと連結する原子間結合ベクトルとの和の方向を主軸x軸とした。また、x軸に直交し、かつモノマーを構成するすべての原子の座標の中心を通るベクトルをy軸とし、x軸とy軸とに直交するベクトルをz軸とした。上記のように、モノマーごとに、モデルにおける座標軸から、原子間結合のベクトルの座標軸を変換した。座標軸変換後のベクトルに基づいて、x軸方向、y軸方向及びz軸方向におけるモノマー分極率p、p及びpを、具体的には下記式(1)を用いて算出した。
【0118】
【数1】

【0119】
式(1)において、b及びbは、結合を構成する原子の種類と結合の種類とにより決まる結合分極パラメータであり、所与の値である。また、θ、θ及びθは、各原子間の結合ベクトルとそれぞれの座標軸(x軸、y軸、z軸)がなす角度である。Σは、各原子間の結合分極率の値の和である。分極率算出の際には、表2に示す結合分極パラメータ(C.W.Bunn,et al,Trans.Faraday Soc.,50,1173(1954))を用いた。
【0120】
【表2】

【0121】
続いて、算出したモノマー分極率p、p及びpに基づき、モノマー屈折率を算出した。モノマー屈折率は、具体的には、座標軸方向ごとに下記式(2)を用いて算出した。
【0122】
【数2】

【0123】
式(2)において、n、n及びnは座標軸方向ごとの屈折率である。また、Vは1つのモノマーの分子容であり、構造物性相関法のプログラム「MS−Synthia」(アクセルリス社製)を用いて算出した。
【0124】
次いで、算出したモノマー屈折率n、n及びnに基づき、モノマーの固有複屈折率Δnを算出した。モノマーの固有複屈折率Δnは、具体的には、座標軸方向ごとに下記式(3)を用いて算出した。
【0125】
【数3】

【0126】
共重合体(1)〜(4)において、構成するすべてのモノマーの固有複屈折率を足し合わせて、各共重合体の固有複屈折率Δn0Pを算出した。
共重合体(1)〜(4)におけるモノマーの組成比と、共重合体の固有複屈折率Δn0Pを表3に示す。
【0127】
【表3】

【0128】
モノマーの組成比と共重合体の固有複屈折率Δn0Pの回帰式を最小2乗法により求めたところ、以下のようになった。
Δn0P = 3.76×10−4×エチレン[mol%]−4.89×10−5×VCH[mol%]−5.04×10−5×DMON[mol%]+1.22×10−2
前記回帰式より、好ましいモノマー組成比の共重合体として、下記共重合体(5)とその固有複屈折率Δn0Pを特定した(表4)。
共重合体(5):エチレン/VCH/DMON=50/13/37[mol%]
の固有複屈折率Δn0Pを得た。
【0129】
【表4】

【0130】
[実施例1〜8]
<エチレン−VCH−DMON共重合体の製造>
以下に示す方法で、エチレン−VCH−DMON共重合体を製造した。なお、下記実施例における略号の意味は、以下に示す通りである。
TIBA:トリイソブチルアルミニウム
TB:トリフェニルメチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート
錯体1:ジエチルシリレン(2,3,4,5−テトラメチルシクロペンタジエン−1−イル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド
錯体2:ジエチルシリレン(2−メチルテトラヒドロインデン−1−イル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロリド
錯体3:ジエチルシリレン(2−メチルインデン−1−イル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロリド
錯体4:ジエチルシリレン(2,5−ジメチルシクロペント[1,2−b:4,3−b’]ジチオフェン−7−イル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド
錯体5:ジエチルシリレン(2,6−ジメチルシクロペント[2,1−b:3,4−b’]ジチオフェン−4−イル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド
錯体6:ジエチルシリレン(2,5−ジメチルシクロペント[3,2−b]チオフェン−4−イル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド
錯体7:ジエチルメチレン(シクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド
【0131】
錯体1〜7を重合用触媒成分として、48連オートクレーブ「PPR」(Symyx社製)を用いて、下記重合条件によりエチレン、VCH、DMONの共重合を行った。
(a)重合条件A
20mLオートクレーブに窒素雰囲気下で、VCH(1.0mmol)、DMON(5.0mmol)を仕込み、トルエンを全体量が5.0mLとなるように仕込んだ。80℃で安定させた後、エチレン(0.20MPa)を加圧し安定させた。ここに、TIBA(関東化学社製、1.0mol/L)(400μmol)、錯体(1.0μmol)、TB(3.0μmol)を加え、60分間重合させて、エチレン−VCH−DMON共重合体を製造した。
(b)重合条件B
温度を50℃としたこと以外は、重合条件Aと同様に重合させ、エチレン−VCH−DMON共重合体を製造した。
【0132】
<VCH−DMON共重合体の物性測定>
製造したエチレン−VCH−DMON共重合体の物性を測定した。
エチレン−VCH−DMON共重合体中の各モノマー単位含有量は、次の測定条件により、プロトン核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)を測定し、下記式より算出した。
(測定条件)
装置:EX270(JEOL社製)
測定溶媒:オルトジクロロベンゼン:オルトジクロロベンゼン−d=4:1(容積比)混合液
測定温度:413K
積算回数:16回
パルス角度:45度
測定基準:オルトジクロロベンゼン
(算出式)
エチレン単位含有量(mol%) = ((−4L−27M+15N)×100)/(−15(M−N))
VCH単位含有量(mol%) = (2(2M−L)×100)/(−5(M−N))
DMON単位含有量(mol%) = (2L×100)/(−3(M−N))
(式中、Lは2.01〜2.56ppmのシグナルの積分積算値を示し、Mは1.73〜2.01ppmのシグナルの積分積算値を示し、Nは0.90〜1.73ppmのシグナルの積分積算値を示す。)
ただし、各積分領域に、残存モノマーが含まれる場合には、領域に応じた相当量を定量時に減算した。
【0133】
実施例1〜8における触媒成分、重合条件、重合活性、エチレン−VCH−DMON共重合体の物性を表5に示す。なお、表5中、「Mw」は質量平均分子量を、「Mn」は数平均分子量をそれぞれ示す。また、重合活性の単位は、「10g−polymer/mol−Ti・h」である。
【0134】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明は、液晶表示素子、有機EL、太陽電池、電子ペーパー等の分野で利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン及び直鎖状α−オレフィンからなる群より選ばれる1種以上と、環状オレフィンと、ビニル化合物との共重合体を含む基材の片面又は両面に、少なくとも1層のガスバリア層が積層されたことを特徴とする光学基材。
【請求項2】
前記エチレン及び直鎖状α−オレフィンからなる群より選ばれる1種以上がエチレンであることを特徴とする請求項1記載の光学基材。
【請求項3】
前記環状オレフィンがテトラシクロドデセンであることを特徴とする請求項1又は2記載の光学基材。
【請求項4】
前記ビニル化合物がビニルシクロヘキサンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学基材。
【請求項5】
前記共重合体が、エチレンが共重合されたものであり、前記エチレン、環状オレフィン及びビニル化合物の組成比が、それぞれ40〜65mol%、30〜45mol%及び3〜20mol%である(ただし、これら組成比の合計は100mol%以下である。)ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学基材。
【請求項6】
一対の成膜ロールのそれぞれに前記基材を配置して、一対の成膜ロール間に放電してプラズマを発生させるプラズマCVD法により、前記ガスバリア層が積層されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学基材。
【請求項7】
片面に、さらに少なくとも1層の透明導電膜が積層されたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の光学基材。
【請求項8】
前記透明導電膜が、スパッタ法又はイオンプレーティング法で積層されたことを特徴とする請求項7記載の光学基材。
【請求項9】
フィルム状又はシート状であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の光学基材。
【請求項10】
液晶表示素子用の基板であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の光学基材。
【請求項11】
有機EL用の基板であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の光学基材。
【請求項12】
電子ペーパー用の基板であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の光学基材。
【請求項13】
太陽電池用の基板であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の光学基材。
【請求項14】
エチレン及び直鎖状α−オレフィンからなる群より選ばれる1種以上と、環状オレフィンと、ビニル化合物とを共重合させ、得られた基材の片面又は両面に、少なくとも1層のガスバリア層を積層することを特徴とする光学基材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−83489(P2012−83489A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228911(P2010−228911)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】