説明

光学式ガス検知器

【課題】 発光ダイオードの特性によらず安定したセンサ出力が得られ、所期のガス検知を高い信頼性をもって行うことができ、しかも、高い生産性を得ることができる光学式ガス検知器を提供すること。
【解決手段】 上記課題は、検知対象ガスの作用により呈色または変色するガス検知素子と、このガス検知素子に被検ガスを接触させる被検ガス供給機構と、被検ガスが接触されたガス検知素子に光を照射する発光ダイオードと、この発光ダイオードを駆動する発光ダイオード駆動用電源回路と、前記ガス検知素子よりの反射光を検知する光検知器とを具えてなり、前記発光ダイオードを、その発光量が一定となるよう制御する光量安定化制御手段を有する光学式ガス検知器により達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検知対象ガスの濃度をガス検知素子の呈色反応を利用して光学的に検出する光学式ガス検知器に関する。
【背景技術】
【0002】
検知対象ガスの濃度を、ガス検知素子の呈色反応を利用して光学的に検出する光学式ガス検知器は、極めて低濃度から高濃度まで広い濃度範囲の検出に対応することができ、しかも、ガス選択性に優れているなどの理由から、例えば、毒性ガスや半導体材料ガスについての安全管理などに好適に利用されている。
【0003】
このような光学式ガス検知器は、ガス検知素子に光を照射する発光ダイオードと、ガス検知素子よりの反射光を検知する例えばフォトダイオードよりなる光検知器(受光素子)とにより構成された光学濃度検知機構を具えており、例えば、被検ガス導入前後での反射光強度の変化の程度(変化率)が検出されることにより、被検ガス中の検知対象ガスの濃度が検量線データに基づいて検出される。
ガス検知素子(ガス検知材)としては、例えば、反応試薬がセルロースなどの多孔性の担体に含浸されてなるテープ状のもの(検知テープ)や、反応性物質が例えば適宜の担体に担持された試薬が、ガス透過部を有するディスク状の容器内に収容されて構成されたタブレット型のもの(検知タブ)が知られている(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−111541号公報
【特許文献2】特開2005−164575号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
而して、このような光学式ガス検知器においては、光源とされている発光ダイオードは、その特性が一定でなく、個々の素子に輝度のバラツキがあるため、センサ出力の安定性に欠ける問題があり、例えば零点調整あるいはスパン点調整などの調整作業を個々の光学式ガス検知器毎に行うことが必要であった。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、発光ダイオードの特性によらず安定したセンサ出力が得られ、所期のガス検知を高い信頼性をもって行うことができ、しかも、高い生産性を得ることができる光学式ガス検知器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光学式ガス検知器は、検知対象ガスの作用により呈色または変色するガス検知素子と、このガス検知素子に被検ガスを接触させる被検ガス供給機構と、被検ガスが接触されたガス検知素子に光を照射する発光ダイオードと、この発光ダイオードを駆動する発光ダイオード駆動用電源回路と、前記ガス検知素子よりの反射光を検知する光検知器とを具えてなり、
前記発光ダイオードを、その発光量が一定となるよう制御する光量安定化制御手段を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の光学式ガス検知器においては、発光ダイオード駆動用電源回路が、パルス幅変調回路と定電流回路とにより構成されており、
光量安定化制御手段は、光検知器の検出出力値が一定値となるよう発光ダイオード駆動用電源回路に帰還をかけて発光ダイオード駆動電流の大きさを制御する構成とされていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光学式ガス検知器によれば、発光ダイオードをその発光量が一定となるよう制御する光量安定化制御手段を有することにより、個々の、発光ダイオードによる輝度(発光量)のバラツキが自動的に補償されるので、基本的には、発光ダイオードの特性によらず安定したセンサ出力が得られ、所期のガス検知を高い信頼性をもって行うことができ、しかも、発光ダイオードの個々の特性に応じた調整、例えば零点調整作業が不要であるため、実際に使用する発光ダイオードの選択範囲が広がり、また、光検出側の回路は、発光ダイオードの特性によらずに同一のものとすることができ、高い生産性を得ることができる。
また、発光ダイオードの特性に経時変化が生じても、それが自動的に補償されるので、発光ダイオードの発光量についてのメンテナンスが不要となり、検知結果の信頼性が高いものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明の光学式ガス検知器の一例における構成の概略を示すブロック図、図2は、本発明の光学式ガス検知器の一例におけるガス検知部の構成の概略を示す説明用断面図である。
この光学式ガス検知器は、検知対象ガスの作用により呈色または変色するガス検知素子25に検知用光を照射する発光ダイオード20およびガス検知素子25からの反射光を検知する光検知器である例えばフォトダイオード21を具えたガス検知部10と、発光ダイオード20を駆動する発光ダイオード駆動用電源回路30と、フォトダイオード21からの出力電流信号を電圧信号に変換して出力する電流電圧変換回路40と、光学式ガス検知器の各構成部材の動作制御を行う中央処理装置(CPU)50とを具えている。
【0011】
発光ダイオード駆動用電源回路30は、一定のパルス信号を出力するパルス発生器31と、このパルス発生器31からのパルス信号をパルス幅変調するパルス幅変調(PWM;Pulse Width Modulation、以下、「PWM」と略記する。)回路32と、このPWM回路32からの出力信号を入力して略一定の発光ダイオード駆動電流を供給する定電流回路35とにより構成されている。
【0012】
定電流回路35は、PWM回路32の出力が演算増幅器36の非反転入力端子(+)に接続されると共に演算増幅器36の出力端子が抵抗37を介してトランジスタ38のゲートに接続されて構成されており、トランジスタ38のコレクタに発光ダイオード20が接続されている。
【0013】
電流電圧変換回路40は、フォトダイオード21の出力が演算増幅器41の反転入力端子(−)に接続されると共に演算増幅器41の出力端子が抵抗42を介して反転入力端子(−)に接続されて負帰還がかけられて構成されている。
【0014】
中央処理装置(CPU)50は、電流電圧変換回路40およびA/D変換器51によって信号処理がなされたフォトダイオード21からの出力信号に基づいて、被検ガス導入前後での反射光強度の変化の程度(変化率)を検出し、被検ガス中の検知対象ガスの濃度を、図示しないデータ記録部に格納された当該検知対象ガスについての検量線データに基づいて検出する機能を有する。
【0015】
ガス検知部10は、例えば、底面に開口するガス導入用開口12Aを有するガス導入流路12が形成された測定ヘッド11と、図示しない弾性部材によって測定ヘッド11に弾接されるよう付勢された状態で設けられた、上面に開口するガス排出用開口16Aを有するガス排出流路16が形成されたサンプリングヘッド15と、測定ヘッド11に設けられた、検知用光をガス導入用開口12Aに対して照射する発光ダイオード20およびガス検知素子25からの反射光を受光するフォトダイオード21とを具えており、ガス排出流路16には、ガス検知素子25に被検ガスを接触させるガス供給機構を構成するガス吸引ポンプ18が接続されている。
【0016】
ガス検知素子25は、図3に示すように、一面側中央に貫通する開口26Cを有する凹所26Aが形成された偏平な円板状の樹脂製の容器26と、当該凹所26Aの開口が塞がれるよう容器26の一面上に配置された、検知対象ガスが接触されたときに呈色しまたは光学濃度が変化する反応基材27と、この反応基材27の一面上に配置された、例えばポリエチレンテレフタレートよりなるガス透過膜28と、容器26の一面側に設けられた、中央に貫通する開口29Aが形成された樹脂製の枠部材29とを備え、枠部材29がその他面側に形成された爪部29Bが容器26の凹所26A内に形成された窓26Bに係合されて容器26と一体的に固定されて、全体がディスク状あるいは円板状とされている。そして、このガス検知素子25においては、枠部材29の開口29Aにより、ガス透過膜28が露出された状態とされており、測定ヘッド11におけるガス導入用開口12Aがガス透過膜28によって塞がれるよう、測定ヘッド11とサンプリングヘッド15との間に配置され、これにより、反応部が構成されている。
【0017】
反応基材27は、例えばシリカゲルの微粒子を含侵させて構成したセルロースなどの担体に、特定の検知対象ガスに接触したときに呈色しまたは光学濃度が変化する反応試薬が保持されて構成されている。
【0018】
而して、この光学式ガス検知器における中央処理装置(CPU)50は、零点調整時において、フォトダイオード21による検出出力値が常に一定の値になるようパルス発生器31に帰還をかけ、発光ダイオード駆動電流を自動制御する光量安定化制御を行うPWM制御部55を有しており、光量安定化制御により発光ダイオード20がその発光量が一定となるよう制御される。
【0019】
この光量安定化制御においては、所定の大きさの発光ダイオード駆動電流により発光ダイオード20を駆動させて、例えば検知対象ガスに接触していないガス検知素子25に検知用光を照射して当該ガス検知素子25からの反射光をフォトダイオード21によって検出し、これにより得られる出力電流信号を電流電圧変換回路40およびA/D変換器51による信号処理することにより検出出力値VOUT を得、PWM制御部55において、当該検出出力値VOUT 〔V〕が設定値X〔V〕と一致するか否かの判定処理が行われ、検出出力値VOUT 〔V〕が設定値X〔V〕と一致する場合には、零点が適正に設定されているものと判断され、これに対して、検出出力値VOUT 〔V〕が設定値X〔V〕と一致しない場合には、発光ダイオード駆動電流がフィードバック制御される。具体的には、VOUT 〔V〕が設定値X〔V〕より大きい場合には、発光ダイオード駆動電流を減少させるようパルス発生器31が制御され、VOUT 〔V〕が設定値X〔V〕より大きい場合には、発光ダイオード駆動電流が増加させるようパルス発生器31が制御される。ここに、設定値は、使用されるオペアンプやマイコンの電源電圧による入力電圧範囲に基づいて設定されており、例えば2.0〔V〕に設定されている。
【0020】
そして、上記構成の光学式ガス検知器においては、例えば供給された被検ガス中に検知対象ガスが含有されている場合に、検知対象ガスが枠部材29の開口29Aからガス透過膜28を透過して反応基材27に接触し、当該反応基材27が呈色することなどによって光学的濃度が変化する。従って、被検ガス導入前後における光学的濃度の変化を求めることにより検知対象ガスの濃度を当該検知対象ガスについての検量線データに基づいて検出することができる。
【0021】
而して、上記構成の光学式ガス検知器によれば、基本的には、パルス幅変調回路32と定電流回路35とを具えてなる発光ダイオード駆動用電源回路30によって発光ダイオード駆動電流の安定化が図られた状態において、さらに、フォトダイオード21による検出出力値が常に一定の値になるようパルス発生器31に帰還をかけ、発光ダイオード20がその発光量が一定となるよう発光ダイオード駆動電流を自動制御するPWM制御部55を有することにより、個々の、発光ダイオード20による輝度(発光量)のバラツキが自動的に補償されるので、基本的には、発光ダイオード20の特性によらず安定したセンサ出力が得られ、所期のガス検知を高い信頼性をもって行うことができ、しかも、発光ダイオード20の個々の特性に応じた調整作業例えば零点調整作業が不要であるため、実際に使用する発光ダイオード20の選択範囲が広がり、また、光検出側の回路は、発光ダイオード20の特性によらずに同一のものとすることができ、高い生産性を得ることができる。 また、発光ダイオード20の特性に経時変化が生じても、それが自動的に補償されるので、発光ダイオード20の発光量についてのメンテナンスが不要となり、検知結果の信頼性が高いものとなる。
【0022】
以下、本発明の効果を確認するために行った実験例を示す。
<実験例1>
図1に示す構成に従って、光量安定化制御が行われる発光ダイオード駆動用電源回路を構成し、検知対象ガスの接触による呈色のない検知タブ(白タブ)についてのセンサ出力と、所定濃度の検知対象ガスが接触した時の呈色の状態に相当する検知タブ(灰タブ)についてのセンサ出力との比で示されるセンサ感度比を測定する試験を、同一仕様を有する10個の発光ダイオードの各々について、行ったところ、発光ダイオードによる光量の大きさに関わらず、安定したセンサ出力を得ることができ、個々の、発光ダイオードの輝度(発光量)のバラツキを補償することができることが確認された。
【0023】
<比較実験例1>
定電流回路よりなる発光ダイオード駆動用電源回路を用いて、実験例1と同様の試験を行ったところ、特に、低光量時におけるセンサ感度比の誤差が大きく(最大で約6%程度)、安定したセンサ出力を得ることができないことが確認された。
【0024】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、上記実施例は、本発明がガス検知素子として検知タブが用いられる光学式ガス検知器に適用されたものであるが、図4に示すようなガス検知素子として検知テープが用いられるものに適用されてもよい。
【0025】
図4に示す光学式ガス検知器におけるガス検知部は、テープ収容リール71および巻き取りリール72によって張架されたガス検知テープ70と、底面に開口するガス導入用開口61Aが形成された測定ヘッド60と、この測定ヘッド60にガス検知テープ70を介して弾接するよう適宜の弾性部材によって付勢された状態で、上面に形成されたガス排出用開口66Aが測定ヘッド60のガス導入用開口61Aと対向するよう配置されたサンプリングヘッド65と、測定ヘッド60に設けられた、検知用光をガス導入用開口61Aを介してガス検知テープ70に照射する発光ダイオード20およびガス検知テープ70からの反射光を受光するフォトダイオード21とを具えており、サンプリングヘッド65におけるガス排出流路68には、ガス供給機構を構成するガス吸引ポンプ(図示せず)が接続されている。図4における符号62はガス導入流路である。
【0026】
ガス検知テープ70は、検知対象ガスに接触すると呈色する反応試薬がセルロースなどの多孔性の担体に含浸されてなり、反応試薬としては、検知対象ガスの種類に応じた、従来より好適に用いられているものを例示することができる。
【0027】
そして、このような光学式ガス検知器においては、供給された被検ガス中に検知対象ガスが含有されている場合に、被検ガスがガス検知テープ70を通過する過程で、反応痕が形成され、所定のサンプリング時間が経過した時点における反応痕の光学的濃度を光濃度検知機構によって光学的に検出し、被検ガス導入前後における光学的濃度の変化を求めることにより検知対象ガスの濃度を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の光学式ガス検知器の一例における構成の概略を示すブロック図である。
【図2】本発明の光学式ガス検知器の一例におけるガス検知部の構成の概略を示す説明用断面図である。
【図3】図2に示す光学式ガス検知器において用いられるガス検知素子の構成の概略を示す分解斜視図である。
【図4】本発明の光学式ガス検知器の他の例におけるガス検知部の構成を示す説明用断面図である。
【符号の説明】
【0029】
10 ガス検知部
11 測定ヘッド
12 ガス導入流路
12A ガス導入用開口
15 サンプリングヘッド
16 ガス排出流路
16A ガス排出用開口
18 ガス吸引ポンプ
20 発光ダイオード
21 フォトダイオード
25 ガス検知素子
26 容器
26A 凹所
26B 窓
26C 開口
27 反応基材
28 ガス透過膜
29 枠部材
29A 開口
29B 爪部
30 発光ダイオード駆動用電源回路
31 パルス発生器
32 パルス幅変調回路(PWM回路)
35 定電流回路
36 演算増幅器
37 抵抗
38 トランジスタ
40 電流電圧変換回路
41 演算増幅器
42 抵抗
50 中央処理装置(CPU)
51 A/D変換器
55 PWM制御部
60 測定ヘッド
61A ガス導入用開口
62 ガス導入流路
65 サンプリングヘッド
66A ガス排出用開口
68 ガス排出流路
70 ガス検知テープ
71 テープ収容リール
72 巻き取りリール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知対象ガスの作用により呈色または変色するガス検知素子と、このガス検知素子に被検ガスを接触させる被検ガス供給機構と、被検ガスが接触されたガス検知素子に光を照射する発光ダイオードと、この発光ダイオードを駆動する発光ダイオード駆動用電源回路と、前記ガス検知素子よりの反射光を検知する光検知器とを具えてなり、
前記発光ダイオードを、その発光量が一定となるよう制御する光量安定化制御手段を有することを特徴とする光学式ガス検知器。
【請求項2】
発光ダイオード駆動用電源回路が、パルス幅変調回路と定電流回路とにより構成されており、
光量安定化制御手段は、光検知器の検出出力値が一定値となるよう発光ダイオード駆動用電源回路に帰還をかけて発光ダイオード駆動電流の大きさを制御することを特徴とする請求項1に記載の光学式ガス検知器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−133725(P2010−133725A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307360(P2008−307360)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000250421)理研計器株式会社 (216)
【Fターム(参考)】