説明

光学式膜厚モニター及びそれを用いた成膜装置

【課題】 エアロゾルデポジション(AD法)に適したその場測定可能な光学式膜厚モニター及びそれを用いた成膜装置を提供する。
【解決手段】 基板49上に供給した超微粒子脆性材料に機械的衝撃力を負荷して超微粒子脆性材料を接合させ成形体を形成する成膜装置の光学式膜厚モニターであって、測定プローブ410の端面から成形体に白色光を入射し、成形体からの反射率スペクトルを測定し、反射率スペクトルの波長域が超微粒子脆性材料の粒径よりも長い条件下で、反射率スペクトルの干渉状態から成形体の膜厚と屈折率を導出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に供給した超微粒子脆性材料に機械的衝撃力を負荷して前記超微粒子脆性材料を接合させ成形体を形成する成膜装置の光学式膜厚モニターとそれを用いた成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物の新たな膜形成技術として、常温衝撃固化現象を利用したエアロゾルデポジション(以下、AD法という)が開発されている。AD法は超微粒子材料の衝突付着現象を利用している。従来の薄膜形成法に比べ高い成膜速度と低いプロセス温度の実現が期待されている(Jun Akedo and Maxim Lebedev: Jpn. J. Appl. Phys. 38 (1999) 5397.(非特許文献1)参照)。また、AD法は、膜特性が下地層に依存しないことから、基板を自由に選択することができる。
【0003】
特開2001-3180号公報(特許文献1)に開示されている技術は、AD法の形成方法であり、基板上に供給した超微粒子脆性材料に機械的衝撃を負荷して粉砕して超微粒子脆性材料同士または超微粒子脆性材料と基板を接合させることを特徴としている。これにより、超微粒子相互の接合を実現し、熱を加えることなく、高密度及び高強度の膜が形成される。
【0004】
このAD法を用いた透明度の高い電気光学材料の薄膜成形に関する検討がなされている(Masafumi Nakada, Keishi Ohashi and Jun Akedo: J. of Crys. Growth, 275(2005)e1275.(非特許文献2)参照)。それによると、光学素子の基本特性である、AD膜(AD法により成膜された膜)の透過損失は、成形体を形成する微粒子及び屈折率を異にする非成形体微粒子のレイリー散乱によることが明らかにされている。
【0005】
特開2005-181995号公報(特許文献2)に開示されている技術は、AD法による光学素子、光集積デバイス、光情報伝搬システム及びその製造方法に関するものである。具体的には、基板上に供給した超微粒子脆性材料に機械的衝撃力を負荷して超微粒子脆性材料を粉砕、接合させる衝撃固化現象により成形体を形成した光学素子であって、光学素子に含有されるポア(空孔)、異相等の屈折率が成形体の主たる構成体と異なる部分の平均半径d(nm)と成形体を伝搬する光の波長λ(nm)の間にd6/λ4<4x10-5 nm2の関係があることを特徴としている。AD法の成膜方法では、エアロゾル発生装置内で搬送ガスと原料粉末を混合してエアロゾル化し、エアロゾル発生器と成膜チャンバーの圧力差により、ノズルよりエアロゾルを基板に吹き付けることで成形体、特に薄膜を形成する。圧力差を発生するために成膜チャンバーは真空ポンプで排気される。
【0006】
一方、薄膜の成膜装置では、膜厚の制御のために膜厚のモニターを行いながら成膜することが一般的に行われている。蒸着法等では水晶振動子と用いた方法が広く用いられている。これは、水晶振動子の表面に形成される膜の質量により固有振動数が変化することを利用している。蒸着法では、成膜チャンバー内に全域に薄膜が形成されるため、基板近傍に水晶振動子モニターを設置することで、モニターの膜厚と基板の膜厚が比例することを利用している。また、光学式膜厚モニターとして、干渉効果を用いた方式とエリプソメトリーと用いた方式が使われている。特開平7-280520号公報(特許文献3)では、白色光を薄膜に照射して干渉光の分光強度を測定し、薄膜の膜厚測定法が提案されている。
【0007】
【非特許文献1】Jun Akedo and Maxim Lebedev: Jpn. J. Appl. Phys. 38 (1999) 5397.
【非特許文献2】Masafumi Nakada, Keishi Ohashi and Jun Akedo: J. of Crys. Growth, 275(2005)e1275.
【特許文献1】特開2001-3180号公報
【特許文献2】特開2005-181995号公報
【特許文献3】特開平7-280520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記AD法を用いて光学素子の形成するためには、薄膜の膜厚を正確に制御して形成する必要がある。そのためには、AD法の成膜装置に膜厚をその場測定するための膜厚モニターが必要であるが、通常の成膜装置に取り付けられる膜厚モニターでは対応が困難であった。これは、次の理由による。
【0009】
つまり、AD法ではノズルにより成膜領域が限定されるため、水晶振動子方式のモニターで必要とされる膜厚と基板上の膜厚の比例関係が保障されない。また、微粒子が高速噴出するため、固有振動数に影響を与えることが考えられる。
【0010】
光学式に関しては、AD膜の表面粗さが数百nmあるために光学的な均一性が劣ること、エアロゾルを基板に吹き付けるために成膜チャンバー内に原料粉末が舞い光路の妨げになることによる。
【0011】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて成されたものであり、その目的は、エアロゾルデポジション(AD法)に適したその場測定可能な光学式膜厚モニター及びそれを用いた成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明では、基板上に供給した超微粒子脆性材料に機械的衝撃力を負荷して超微粒子脆性材料を接合させ成形体を形成する成膜装置の光学式膜厚モニターであって、測定プローブの端面から上記成形体に白色光を入射し、上記成形体からの反射率スペクトルを測定し、上記反射率スペクトルの波長域が上記超微粒子脆性材料の粒径よりも長い条件下で、上記反射率スペクトルの干渉状態から上記成形体の膜厚と屈折率を導出することを特徴とする。
【0013】
超微粒子脆性材料の粒径よりも長い波長域における反射率スペクトルには、エアロゾルデポジション(AD法)により成膜した薄膜の光学干渉を反映した情報が含まれており、この反射スペクトルを解析することで膜厚と屈折率を求めることができ、膜厚モニターとして用いることができる。
【0014】
また、前記測定プローブの端面に前記超微粒子脆性材料が付着しないように、前記測定プローブの周辺部よりガスを噴出させる手段を有することが好ましい。測定プローブの周辺部よりガスを噴出させることにより、原料粉末のプローブ先端への付着を防止することができる。
【0015】
あるいは、前記測定プローブの端面に前記超微粒子脆性材料が付着しないように、前記測定プローブの先端にガスを吹き付けるようにしても良い。測定プローブの先端にガスを吹き付けることにより、原料粉末のプローブ先端への付着を防止することができる。
【0016】
あるいは、前記測定プローブの端面に前記超微粒子脆性材料が付着しないように、前記測定プローブを加熱する手段を有するようにしても良い。測定プローブを加熱することにより、原料粉末のプローブ先端への付着を防止することがでる。
【0017】
また、本発明の成膜装置は成膜チャンバーを有し、微粒子が上記成膜チャンバー内を浮遊しないように上記成膜チャンバー内に微粒子トラップを設置し、微粒子により光路を妨げられないように前記膜厚モニターを上記成膜チャンバー内に設置することを特徴とする。微粒子が成膜チャンバー内を浮遊しないように微粒子トラップを設置し、微粒子により光路を妨げられないように膜厚モニターを設置することで、原料粉末の測定プローブ先端への付着を防止することができる。
【0018】
また、前記成膜装置はエアロゾル発生器を有し、前記膜厚モニターの発生する信号で、上記エアロゾル発生器のエアロゾルの濃度を制御することが好ましい。膜厚を制御するには、膜厚モニターで得られた信号によりエアロゾルの基板への照射量を制御する必要がある。エアロゾル発生器のエアロゾルの濃度を制御することで、原料粒子の照射量を制御することができ、膜厚制御の可能なAD法の成膜装置を提供することができる。
【0019】
また、前記成膜装置は成膜チャンバーを有し、上記成膜チャンバーは、エアロゾル噴出ノズルと、基板とエアロゾル噴出ノズルとの間に設けられたシャッターを有し、前記膜厚モニターの発生する信号で上記シャッターを操作することにより、前記成形体の膜厚を制御することが好ましい。シャッターの開閉により、膜厚制御の可能なAD法の成膜装置を提供することができる。
【0020】
さらに、本発明の成膜装置は、
気体中に原料粉末の微粒子を分散させたエアロゾルを発生させるためのエアロゾル発生手段と、
上記エアロゾル発生手段から供給された微粒子を基板に吹き付けることにより基板上に薄膜を形成するためのノズルと、ノズルに近接して設置された膜厚モニター手段とを有する成膜チャンバーと、
上記膜厚モニター手段に接続された光源と、
上記膜厚モニター手段に接続された分光器と、
上記分光器に接続された制御手段とを有し、
上記光源からの白色光は上記膜厚モニター手段に導かれて基板上に形成された薄膜に照射され、薄膜からの反射光は上記膜厚モニター手段に入射して上記分光器に導かれ反射率スペクトルが測定され、この反射率スペクトルの波長域を微粒子の粒径よりも長い条件下で、上記反射率スペクトルを上記制御手段で解析することにより薄膜の膜厚を導出するようにしたことを特徴とする。
【0021】
ここで、前記エアロゾル発生手段には加振手段が設けられており、この加振手段を振動させることにより前記エアロゾルを発生させることが好ましい。
【0022】
また、前記制御手段は、前記薄膜の膜厚が設定値になった時に加振手段を停止させるための信号を加振手段に送り、これにより前記薄膜の形成が停止することが好ましい。
【0023】
ここで、前記成膜チャンバーは、真空ポンプにより所定の真空度に排気されていることが好ましい。
【0024】
また、前記モニター手段と前記光源とは光ファイバーにより接続されていることが好ましい。
【0025】
ここで、前記膜厚モニター手段は、前記白色光を照射するための照射用ファイバーと、前記反射光を読取るための読取り用ファイバーと、ガスを噴出するためのガス噴出部とを有することが好ましい。
【0026】
また、前記成膜チャンバー内に、微粒子が上記成膜チャンバー内を浮遊しないように微粒子トラップを設置し、微粒子により光路を妨げられないように前記膜厚モニター手段を上記成膜チャンバー内に設置することが好ましい。
【0027】
また、前記成膜チャンバー内に、前記基板と前記ノズルとの間に設けられたシャッターを設置し、前記膜厚モニター手段の発生する信号で上記シャッターを操作することにより、前記薄膜の膜厚を制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、エアロゾルデポジション(AD法)に適したその場測定可能な膜厚モニターを提供することができる。さらに、その膜厚モニターを用いることにより、膜厚を制御した成膜装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の原理を含めて本発明の実施の形態を図を用いて詳細に説明する。
【0030】
本発明は、エアロゾルの原料粉末の粒径よりも波長の長い領域の反射率スペクトルの薄膜による干渉状態から、膜厚と屈折率が算出できるという発見からなされたものである。
【0031】
図1は、ガラス基板上に形成されたAD膜(エアロゾルデポジション(AD法)AD法により成膜された膜)の反射率スペクトルである。
【0032】
反射率スペクトルは5度入射の配置で測定した。原料粉に粒径600nmのPZTを用いている。測定波長の増加に従い、反射率は単調に増加し、波長700nm以上で干渉による反射率の振動が測定されている。この干渉状態を通常の光学モデルで解析することで、膜厚と屈折率を求めることができる。
【0033】
図2は、ガラス基板上に形成された原料粉に粒径0.7μmのPZTを用いたAD膜の反射率スペクトルである。
【0034】
この場合も測定波長の増加に従い、反射率は単調に増加し、波長800nm以上で干渉による反射率の振動が測定されている。
【0035】
図3は、AD膜の断面SEM写真(a)と表面SEM写真(b)を示す。
【0036】
AD膜の表面には、原料粉末と同等の粒径の凹凸が観測されることが分かる。AD法では、原料粒子が基板への衝突時に破砕し、粒子間及び基板粒子間で強固に接合すると考えられているが、充分の破砕が起こらなかった粒子が膜表面には存在するものと考えられる。これらの粒子は光学散乱を発生する。光学散乱は散乱体のサイズが波長と比べ大きくなるほど増加するため、光学散乱は波長の増加とともに低下する。これにより、反射率は波長により単調増加するものと考えられる。従って、AD法で形成した薄膜の光学干渉を測定し、膜厚モニターとして用いるためには、粒径以上の波長領域の分光スペクトルを測定することが、AD法の成膜装置の膜厚モニターとして使うには有効である。
【0037】
以上説明したようにエアロゾルの原料粉末の粒径よりも波長の長い領域の薄膜の分光スペクトルを測定し、その干渉状態から、膜厚と屈折率が算出できる。この結果を適用することで、AD法の成膜装置の光学式膜厚モニターを実現することができる。
【0038】
以下、本発明の実施例を図を用いて詳細に説明する。
【0039】
(実施例1)
図4は、本発明の膜厚モニターを用いた成膜装置の概略図である。
【0040】
酸素ガスを内蔵するガスボンベ40は搬送管を介してガラスボトル41に接続されている。ガラスボトル41内に粉末原料42を入れ、排気管43を介して20Torr程度の真空に排気した後、キャリアガスとして酸素の流量を制御しながら導入する。ガラスボトル41を加振器44により振動させることで、気体中に原料粉末の微粒子を分散させたエアロゾルを発生させ、キャリアガスにより搬送管45を介して、成膜チャンバー46に搬送する。
【0041】
成膜チャンバー46は真空ポンプ47により所定の真空度に排気される。ノズル48から基板49に粉末を吹き付けることで、薄膜を形成する。膜厚モニタープローブ410がノズル48の横に設置されている。膜厚モニタープローブ410には、光ファイバー411が接続され、光源412の白色光を導いている。膜厚モニタープローブ410から照射された白色光は基板49上に形成された薄膜に入射し、その反射光が膜厚モニタープローブ410に入射する。反射光は光ファイバー411を通じ、分光器413に入り、反射率スペクトルを測定することができる。反射率スペクトルは、制御手段としてのパーソナルコンピューター(PC)414で解析され、膜厚が算出される。測定された膜厚が設定値になった段階で、PC414から信号が発信され、それにより加振器44は停止し、薄膜形成は停止される。
【0042】
図5は膜厚モニタープローブ410の断面形状の模式図である。
【0043】
膜厚モニタープローブ410は1本の読み取り用ファイバー51の周りにある8本の照射用ファイバー52とその周りのガス噴出部53から構成されている。
【0044】
成膜条件は、次のようになる。キャリアガスは酸素とし、ガス流量は12l/分、成膜速度は0.5μm/分、加振器44の振動数は200rpmである。基板49にはシリコンを用いた。電気光学効果の大きな酸化物であるジルコン酸チタン酸鉛(PZT)系粉末を成膜材料とした。PZTの組成は、Pb(ZrxTi1-x)O3においてx=0.3である。透明度を高めるためにMnを0.5at%添加している。原料粉末の平均粒径は、0.7μmとした。膜厚モニター中はガス噴出部53から酸素をガス流量0.5l/分で噴出した。
【0045】
図6に反射率スペクトルを示す。スペクトルの測定範囲は波長1000nmから2000nmの範囲である。
【0046】
測定波長の増加に従い、反射率は単調に増加し、干渉による反射率の振動が測定されている。61は測定値を62は計算値をそれぞれ示しているが、両者の一致は非常に良い。解析から求めた膜厚は2.29μm、屈折率は2.394であった。膜厚の設定値は2.3μmであり、ほぼ一致している。
【0047】
成膜中に膜厚モニタープローブ410の周辺からガスを噴出することで、膜厚モニタープローブ410の端面への原料粉末の付着は防止され、連続的な測定が可能であった。
【0048】
以上より、エアロゾルの原料粉末の粒径よりも波長の長い領域の反射率スペクトルを測定することで、その干渉状態から、膜厚と屈折率が算出でき、プローブ端面付近からガスを噴出させ原料粉末の付着を防止するとこで、成膜中の膜厚モニターが可能となった。
【0049】
本実施例の原料粉末の付着防止法は、膜厚モニタープローブ410の端面付近からのガスの噴出法であるが、プローブの先端へのガスの吹き付け、プローブの加熱にも同様の効果がある。具体的には、膜厚モニタープローブ410の端面に超微粒子脆性材料が付着しないように、膜厚モニタープローブ410の先端にガスを吹き付ける機構を設けても良い。あるいは、膜厚モニタープローブ410の端面に超微粒子脆性材料が付着しないように、膜厚モニタープローブ410を加熱する機構を設けても良い。
【0050】
(実施例2)
本実施例では、微粒子トラップと膜厚モニターを用いた成膜装置を説明する。
【0051】
図7は、本発明に係る微粒子トラップと膜厚モニターを用いた成膜装置の概略図である。
【0052】
酸素ガスを内蔵するガスボンベ70は搬送管を介してガラスボトル71に接続されている。ガラスボトル71内に粉末原料72を入れ、排気管73を介して20Torr程度の真空に排気した後、キャリアガスとして酸素の流量を制御しながら導入する。ガラスボトル71を加振器74により振動させることで、気体中に原料粉末の微粒子を分散させたエアロゾルを発生させ、キャリアガスにより搬送管75を介して、成膜チャンバー76に搬送する。
【0053】
成膜チャンバー76は真空ポンプ77により所定の真空度に排気される。ノズル78から基板79に粉末を吹き付けることで、薄膜を形成する。膜厚モニタープローブ710がノズル78の横に設置されている。膜厚モニタープローブ710には、光ファイバー711が接続され、光源712の白色光を導いている。膜厚モニタープローブ710から照射された白色光は基板79上に形成された薄膜に入射し、その反射光が膜厚モニタープローブ710に入射する。反射光は光ファイバー711を通じ、分光器713に入り、反射率スペクトルを測定することができる。
【0054】
反射率スペクトルは、制御手段としてのパーソナルコンピューター(PC)714で解析され、膜厚が算出される。測定された膜厚が設定値になった段階で、PC414から信号が発信され、それによりシャッター715がノズル78と基板79の間に移動し、基板79上の薄膜形成は停止される。膜形成に寄与しなかった原料粉末は微粒子トラップ716に捕らえられ、成膜チャンバー76内に浮遊する原料粉末は低減される。
【0055】
成膜条件は、次のようになる。キャリアガスは酸素とし、ガス流量は12l/分、成膜速度は0.5μm/分、原料粉末の基板79への入射角は30度、加振器74の振動数は200rpmである。基板79にはシリコンを用いた。電気光学効果の大きな酸化物であるジルコン酸チタン酸鉛(PZT)系粉末を成膜材料とした。PZTの組成は、Pb(ZrxTi1-x)O3においてx=0.6である。透明度を高めるためにMnを0.5at%添加している。原料粉末の平均粒径は、0.7μmとした。膜厚モニター中はガス噴出部53(図5参照)から酸素をガス流量0.5l/分で噴出した。
【0056】
図8に反射率スペクトルを示す。スペクトルの測定範囲は波長1200nmから2000nmの範囲である。測定波長の増加に従い、反射率は単調に増加し、干渉による反射率の振動が測定されている。解析から求めた膜厚は4.5μm、屈折率は2.40であった。膜厚の設定値は4.5μmであり、ほぼ一致している。
【0057】
膜形成に寄与しなかった原料粉末は微粒子トラップ716に捕らえられ、成膜チャンバー76内に浮遊する原料粉末は低減されることから、膜厚モニタープローブ710の端面への原料粉末の付着は防止され、連続的な測定が可能であった。
【0058】
以上より、エアロゾルの原料粉末の粒径よりも波長の長い領域の反射率スペクトルを測定することで、その干渉状態から、膜厚と屈折率が算出でき、膜形成に寄与しなかった原料粉末は微粒子トラップ716に捕らえることで、微粒子の膜厚モニタープローブ710の端面への付着を防止するとこで、成膜中の膜厚モニターが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、AD法に適したその場測定可能な膜厚モニターを提供することができる。また、その膜厚モニターを用いて膜厚を制御した成膜装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】ガラス基板上に形成されたAD膜の反射率スペクトル(原料粉末粒径600nm)を示す図である。
【図2】ガラス基板上に形成されたAD膜の反射率スペクトル(原料粉末粒径700nm)を示す図である。
【図3】(a)はAD膜の断面SEM写真であり、(b)はAD膜の表面SEM写真である。
【図4】本発明の実施例1に係る膜厚モニターを用いた成膜装置の概略図である。
【図5】膜厚モニタープローブの断面形状の模式図である。
【図6】シリコン基板上に形成されたAD膜の反射率スペクトル(膜厚2.39μm)を示す図である。
【図7】本発明の実施例2に係る微粒子トラップと膜厚モニターを用いた成膜装置の概略図である。
【図8】シリコン基板上に形成されたAD膜の反射率スペクトル(膜厚4.5μm)を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
40 ガスボンベ
41 ガラスボトル
42 粉末原料
43 排気管
44 加振器
45 搬送管
46 成膜チャンバー
47 真空ポンプ
48 ノズル
49 基板
410 膜厚モニタープローブ
411 光ファイバー
412 光源
413 分光器
414 PC
51 読み取り用ファイバー
52 照射用ファイバー
53 ガス噴出部
61 反射率スペクトルの測定値
62 反射率スペクトル計算値
70 ガスボンベ
71 ガラスボトル
72 粉末原料
73 排気管
74 加振器
75 搬送管
76 成膜チャンバー
77 真空ポンプ
78 ノズル
79 基板
710 膜厚モニタープローブ
711 光ファイバー
712 光源
713 分光器
714 PC
715 シャッター
716 微粒子トラップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に供給した超微粒子脆性材料に機械的衝撃力を負荷して超微粒子脆性材料を接合させ成形体を形成する成膜装置の光学式膜厚モニターであって、
測定プローブの端面から上記成形体に白色光を入射し、
上記成形体からの反射率スペクトルを測定し、
上記反射率スペクトルの波長域が上記超微粒子脆性材料の粒径よりも長い条件下で、上記反射率スペクトルの干渉状態から上記成形体の膜厚と屈折率を導出することを特徴とする光学式膜厚モニター。
【請求項2】
前記測定プローブの端面に前記超微粒子脆性材料が付着しないように、前記測定プローブの周辺部よりガスを噴出させる手段を有することを特徴とする請求項1に記載の光学式膜厚モニター。
【請求項3】
前記測定プローブの端面に前記超微粒子脆性材料が付着しないように、前記測定プローブの先端にガスを吹き付ける手段を有することを特徴とする請求項1に記載の光学式膜厚モニター。
【請求項4】
前記測定プローブの端面に前記超微粒子脆性材料が付着しないように、前記測定プローブを加熱する手段を有することを特徴とする請求項1に記載の光学式膜厚モニター。
【請求項5】
前記成膜装置は成膜チャンバーを有し、
微粒子が上記成膜チャンバー内を浮遊しないように上記成膜チャンバー内に微粒子トラップを設置し、
微粒子により光路を妨げられないように前記膜厚モニターを上記成膜チャンバー内に設置することを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記成膜装置はエアロゾル発生器を有し、
請求項1乃至4に記載の膜厚モニターの発生する信号で、上記エアロゾル発生器のエアロゾルの濃度を制御することを特徴とする成膜装置。
【請求項7】
前記成膜装置はエアロゾル発生器を有し、
前記膜厚モニターの発生する信号で、上記エアロゾル発生器のエアロゾルの濃度を制御することを特徴とする請求項5に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記成膜装置は成膜チャンバーを有し、
上記成膜チャンバーは、エアロゾル噴出ノズルと、基板とエアロゾル噴出ノズルとの間に設けられたシャッターを有し、
請求項1乃至4に記載の膜厚モニターの発生する信号で上記シャッターを操作することにより、前記成形体の膜厚を制御することを特徴とする成膜装置。
【請求項9】
前記成膜装置は成膜チャンバーを有し、
上記成膜チャンバーは、エアロゾル噴出ノズルと、基板とエアロゾル噴出ノズルとの間に設けられたシャッターを有し、
前記膜厚モニターの発生する信号で上記シャッターを操作することにより、前記成形体の膜厚を制御することを特徴とする請求項5に記載の成膜装置。
【請求項10】
気体中に原料粉末の微粒子を分散させたエアロゾルを発生させるためのエアロゾル発生手段と、
上記エアロゾル発生手段から供給された微粒子を基板に吹き付けることにより基板上に薄膜を形成するためのノズルと、ノズルに近接して設置された膜厚モニター手段とを有する成膜チャンバーと、
上記膜厚モニター手段に接続された光源と、
上記膜厚モニター手段に接続された分光器と、
上記分光器に接続された制御手段とを有し、
上記光源からの白色光は上記膜厚モニター手段に導かれて基板上に形成された薄膜に照射され、薄膜からの反射光は上記膜厚モニター手段に入射して上記分光器に導かれ反射率スペクトルが測定され、この反射率スペクトルの波長域を微粒子の粒径よりも長い条件下で、上記反射率スペクトルを上記制御手段で解析することにより薄膜の膜厚を導出するようにしたことを特徴とする成膜装置。
【請求項11】
前記エアロゾル発生手段には加振手段が設けられており、この加振手段を振動させることにより前記エアロゾルを発生させることを特徴とする請求項10に記載の成膜装置。
【請求項12】
前記制御手段は、前記薄膜の膜厚が設定値になった時に加振手段を停止させるための信号を加振手段に送り、これにより前記薄膜の形成が停止することを特徴とする請求項10に記載の成膜装置。
【請求項13】
前記成膜チャンバーは、真空ポンプにより所定の真空度に排気されていることを特徴とする請求項10に記載の成膜装置。
【請求項14】
前記モニター手段と前記光源とは光ファイバーにより接続されていることを特徴とする請求項10に記載の成膜装置。
【請求項15】
前記膜厚モニター手段は、前記白色光を照射するための照射用ファイバーと、前記反射光を読取るための読取り用ファイバーと、ガスを噴出するためのガス噴出部とを有することを特徴とする請求項14に記載の成膜装置。
【請求項16】
前記成膜チャンバー内に、微粒子が上記成膜チャンバー内を浮遊しないように微粒子トラップを設置し、
微粒子により光路を妨げられないように前記膜厚モニター手段を上記成膜チャンバー内に設置することを特徴とする請求項10に記載の成膜装置。
【請求項17】
前記成膜チャンバー内に、前記基板と前記ノズルとの間に設けられたシャッターを設置し、
前記膜厚モニター手段の発生する信号で上記シャッターを操作することにより、前記薄膜の膜厚を制御することを特徴とする請求項10に記載の成膜装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−298528(P2008−298528A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−143674(P2007−143674)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代半導体材料・プロセス基盤(MIRAI)プロジェクト」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】