説明

光学情報伝達素子及び光学情報伝達機構

【課題】焦点位置の位置合わせの不要な光学情報伝達素子を提供する。
【解決手段】光学情報伝達素子101は光学情報を入力面から出力面に伝達する。光学情報伝達素子101は光学異方性を有する部材により形成される。入力面と出力面とを結ぶ少なくとも一つの直線が、光学異方性を有する部材の等周波曲面の原点を通る任意の断面による曲線において位相速度が最大となる方向に揃えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学情報伝達素子及び光学情報伝達機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、集積回路が小型化している。集積回路の小型化に伴い局所的に小型の電気回路が形成可能となっている。局所的な電気回路の小型化により、集積回路内の別の電気回路間の情報伝達の高速化が要求されている。しかし、電気的な信号のデータ転送速度を高速化させることは難しかった。
【0003】
そこで、電気信号を電気光学変換して光学情報として伝達することが提案されている。すなわち、電気信号に応じて光源からの光を変調して送信し、その送信された光を受信することにより信号が伝達される。しかし、光源から発する光は発散するので、レンズを用いて集光する必要がある。しかし、通常のレンズを用いる場合には、光源および受光器とレンズの光軸とを位置合わせする必要があり、小型化した集積回路では精密に位置合わせすることは困難であった。そこで、レンズの代わりにスーパーレンズを用いることが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−546217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スーパーレンズを用いることにより、光軸との位置合わせが不要である。しかし、スーパーレンズを用いる場合であっても、光源および受光器をスーパーレンズの焦点位置に厳密に配置する必要があり、高い組み立て精度が要求されていた。
【0006】
従って、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明では、高度な焦点位置合わせをすることなく、光学情報の伝達が可能な光学情報伝達素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した諸課題を解決すべく、本発明による光学情報伝達素子は、
光学情報を入力面から出力面に伝達する光学情報伝達素子であって、
光学異方性を有する部材により形成され、
入力面と出力面とを結ぶ少なくとも一つの直線が、部材の等周波曲面の、原点を通る任意の断面による曲線において位相速度が最大となる方向に揃えられる
ことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明による光学情報伝達機構は、
光学異方性を有する部材により形成され、部材の等周波曲面の原点を通る任意の断面による曲線において位相速度が最大となる方向に光学情報が伝達される入力面と出力面とを結ぶ少なくとも一つの直線が揃えられる光学情報伝達素子を備える
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成された本発明に係る光学情報伝達素子によれば、入力面に入射する光のスポットサイズをほぼ維持したまま出力面に伝達可能である。伝達する光のスポットサイズが入力面と出力面との間において維持されるので、焦点位置の厳密な位置合わせが不要である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る光学情報伝達機構により結合された集積回路基板を示す外観図である。
【図2】第1の実施形態の光学情報伝達機構の外観図である。
【図3】図2の光源ユニットにおける光源の配置を示すための光源ユニットの正面図である。
【図4】図2の入力アパーチャ板における入力アパーチャの配置を示すための入力アパーチャ板の正面図である。
【図5】図2の出力アパーチャ板における出力アパーチャの配置を示すための出力アパーチャ板の正面図である。
【図6】図2の検出ユニットにおける受光器の配置を示すための検出ユニットの正面図である。
【図7】異方性媒質の等周波曲線を示す図である。
【図8】実質的な誘電率に異方性をもたせる人工的な構造体の一例を示す図である。
【図9】図27に示した金属誘電体多層膜の実効的な誘電率の成分の一例を示す図である。
【図10】実効的な誘電率に異方性をもたせる人工的な構造体の他の例を示す概念図である。
【図11】第2の実施形態の光学情報伝達機構の外観図である。
【図12】第3の実施形態の光学情報伝達機構の外観図である。
【図13】図12の入力アパーチャ板における入力アパーチャの配置を示すための入力アパーチャ板の正面図である。
【図14】変形例の異方性媒質が有する等周波曲面において、伝達方向の決定のための説明図である。
【図15】入力面および出力面の形成条件を説明するための光学情報伝達素子の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光学情報伝達機構により結合された集積回路基板を示す外観図である。
【0013】
図1に示すように、第1の集積回路基板1と第2の集積回路基板2とは、光学情報伝達機構100により結合される。第1の集積回路基板1において生成される電気信号は光学情報伝達機構100により第2の集積回路基板2に伝達される。なお、伝達に際して、電気信号は光学情報伝達機構100の第1の集積回路基板1側において光信号(光学情報)に変換され、光信号が第2の集積回路基板2側に伝播される。さらに、光信号は、光学情報伝達機構100の第2の集積回路基板2側において電気信号に変換される。
【0014】
次に、光学情報伝達機構100の構成について、図2を用いて説明する。図2は、光学情報伝達機構100の外観図である。光学情報伝達機構100は、光学情報伝達素子101、入力アパーチャ板102、偏光子103、光源ユニット104、出力アパーチャ板105、および検出ユニット106を含んで構成される。
【0015】
光学情報伝達素子101は、後述するように、光学異方性を有する部材により、平板状に形成される。また、互いに相対する二面の一方が入力面、他方が出力面に定められる。なお、後述するように、光学異方性を有する部材の物性に基づいて定められる特定の方向が伝達方向に定められる。入力面から伝達方向に出力面が形成されるように、光学情報伝達素子101は形成される。このような構成により、入力面に入力される光信号は、出力面に伝播される。
【0016】
入力面には、入力面側から入力アパーチャ板102、偏光子103、および光源ユニット104が設けられる。また、出力面には、出力面側から出力アパーチャ板105および検出ユニット106が設けられる。
【0017】
なお、図2において、入力面および出力面の幅方向をx軸方向、高さ方向すなわち平板の厚さ方向をy軸方向、及びx軸方向およびy軸方向に垂直な方向をz軸方向とする。
【0018】
光源ユニット104の偏光子103側には、図3に示すように、x軸方向に沿って多数の光源107が設けられる。なお、光源107は、例えばLEDやLDであり、特定の帯域の波長の光を出射可能である。
【0019】
なお、光源107が設けられる面の背面には、共通電極108(図2参照)および信号電極109が形成される。共通電極108は、全光源107に対して共通に用いられる。信号電極109は光源107毎に設けられ、光源107毎に発光を制御可能である。信号電極109に電気信号を入力することにより、光源107から信号光が偏光子103に出射される。
【0020】
偏光子103は、入射した光を、x軸方向に偏光して出射する。したがって、各光源107から偏光子103に入射される信号光は、x軸方向に偏光した信号光として入力アパーチャ板104に出射される。
【0021】
なお、偏光子103によりx軸方向への偏光である信号光を生成し、後述する特定の方向を伝達方向に定めることにより、信号光のx軸方向のスポットサイズはほぼ維持されたまま入力面から出力面に伝播される。ただし、y軸方向のスポットサイズは維持されない。そこで、光学情報伝達素子101の上面tsおよび下面dsには金属コートなどによる反射層(図示せず)が形成され、信号光はy軸方向に関しては上面tsおよび下面dsの少なくとも一方に反射しながら、入力面から出力面に伝播される。なお、本願明細書において、光学情報伝達素子101の平板面の1方を上面ts、他方の面を下面dsとする。
【0022】
入力アパーチャ板102には、図4に示すように、x軸方向に沿って多数の入力アパーチャ110が形成される。なお、入力アパーチャ110は各光源107と相対する位置に形成される。入力アパーチャ110の幅、すなわちx軸方向の長さは、光源107から出射される光の中心波長の1/2以下になるように形成することが効果的である。また、入力アパーチャ110の高さ、すなわちy軸方向の長さは、光学情報伝達素子101の厚さ未満で、且つ同程度の長さとなるように形成される。
【0023】
光源107から出射され、偏光子103によりx軸方向に偏光し、入力アパーチャ110を通過した信号光は、光学情報伝達素子101の入射面に入射する。信号光は、光学情報伝達素子101の出力面に伝播され、出射する。
【0024】
前述のように、出力面には出力アパーチャ板105が設けられる。出力アパーチャ板105には、図5に示すように、x軸方向に沿って多数の出力アパーチャ111が形成される。各出力アパーチャ111は、各入力アパーチャ110の伝達方向に形成される。また、出力アパーチャ111は、入力アパーチャ110と同じ周期で形成される。また、出力アパーチャ111は、例えば入力アパーチャ110と同じ幅や同じ高さであってもよい。
【0025】
前述のように、出力アパーチャ板105には検出ユニット106が設けられる。検出ユニット106の出力アパーチャ板105側には、図6に示すように、出力アパーチャ111と相対する位置においてx軸方向に沿った多数の受光器112が設けられる。なお、受光器112は、例えばフォトダイオード(PD)であり、光電変換により信号光を電気信号に変換する。なお、フォトダイオードの受光領域の境界そのものを前述の出力アパーチャとして利用することも可能である。
【0026】
検出ユニット106の受光器112が設けられる面の背面には、共通電極(図示せず)および信号電極(図示せず)が形成される。共通電極は、全受光器112に対して共通に用いられる。信号電極は受光器112毎に設けられ、受光器112毎に信号光を変換した電気信号を出力可能である。
【0027】
なお、第1の集積回路基板1には、光源ユニット104を着脱自在に接続する入力コネクタ(図示せず)が設けられる。入力コネクタには、共通電極と各信号電極とに接続される端子(図示せず)が設けられる。光源ユニット104を入力コネクタに接続すると、各端子と各電極とが接続され、各信号電極に電気信号を入力可能になる。
【0028】
また、第2の集積回路2には、検出ユニット106を着脱自在に接続する出力コネクタ(図示せず)が設けられる。出力コネクタには、共通電極と各信号電極とに接続される端子(図示せず)が設けられる。検出ユニット106を出力コネクタに接続すると、各端子と各電極とが接続され、各信号電極から電気信号を出力可能になる。
【0029】
次に、光学情報伝達素子101の特性および伝達方向について詳述する。光学情報伝達素子101は、少なくとも2つの異なる材料により構成される超高波数伝達媒質によって形成される。超高波数伝達媒質は所定の周波数に対して極めて高い伝達性能を有し、入力面に入射する信号光のスポットサイズを維持しながら出力面に伝達可能である。
【0030】
なお、周波数の変化に応じて、個々の材料の誘電率(透磁率)が僅かに変化しても、超高波数伝達媒質の実効的な誘電率(透磁率)は大きく変化する。このため、高い伝達性能を有する帯域は狭い。
【0031】
上述したように、光学情報伝達素子101は、光源ユニット104から出射される信号光を、検出ユニット106側へ伝達することができる。光学情報伝達素子101を構成する超高波数伝達媒質は、例えば、メタマテリアルと呼ばれる人工構造体により特定の軸方向の実効的な誘電率、透磁率、あるいは屈折率を負とした媒質で構成することができる。このような異方性は、例えば金属と誘電体とを光の波長より短い周期で交互に積層した構造により発現させることが出来る。このような構成により、空気中では減衰して伝えることのできないエバネッセント波を伝達可能となる。
【0032】
また、超高波数伝達媒質は、強い異方性を有する媒質を用いて構成することができる。このような異方性は、例えば金属と誘電体とを光の波長より短い周期で交互に積層した構造により発現させることができる。あるいは、メタマテリアルにより実効的な屈折率を極めて大きな値とされた媒質を用いて、超高波数伝達媒質を構成することもできる。また、誘電率がxy面内とz軸方向とで、ともに正の値をとったとしても、z軸方向の誘電率が大きい場合は、回折限界を限定的にではあるが緩和することができる。
【0033】
次に、超高波数伝達媒質を構成可能な異方性媒質の分散特性について説明する。なお、以下の説明において、誘電率ε(誘電率テンソルε^の各成分)および透磁率μ(透磁率テンソルμ^の各成分)は、それぞれ真空中の誘電率εおよび透磁率μに対する比(相対誘電率および相対透磁率)で表すことにする。ただし、ε^は、εの上に「^(ハット)」が付いていることを示す。同様に、μ^は、μの上に「^(ハット)」が付いていることを示す。
【0034】
電気的に1軸異方性を示す異方性媒質において、光学軸の方向をz軸とする。本実施形態では、異方性媒質は、誘電率あるいは透磁率が1軸性の異方性、つまり対称軸が1つだけあるような異方性を有しており、この対称軸を光学軸と呼ぶことにする。ただし、x軸方向とy軸方向とで多少εに違いがあっても、同様に超高波数伝達媒質としての性質を持つものであれば、どのようなものでも良い。
【0035】
例えば、k−k平面上の等周波曲線と、k−k平面上の等周波曲線とが、ともにk軸上に短軸をもつ楕円で、半長軸の長さが5k以上である場合や、k−k平面上の等周波曲線と、k−k平面上の等周波曲線とが、ともに双曲線である場合なども、超高波数伝達媒質である。光学軸であるz軸に垂直な平面内ではどの方向も等価であるから、この平面内で任意の方向をx軸とし、x軸およびz軸に垂直な方向をy軸とする。このように座標系を定義すると、電気的1軸異方性を示す媒質の誘電率テンソルは以下の(1)式のように表される。
【0036】
【数1】

この異方性媒質中におけるTM(Transverse Magnetic)波の伝搬について考える。TM波とは、例えば、(kx,0,kz)方向へ伝搬する波について、磁場がy軸方向を向いた電磁波の状態を意味するものとする。TM波に対する波動方程式において、波数ベクトルkおよび角振動数ωをもつ単色平面波を仮定すると、ky=0の面内で、以下の(2)式のような分散関係が得られる。
【0037】
【数2】

なお、(2)式におけるkは波数ベクトルkをxy平面へ投影したベクトルの絶対値であり、以下の(3)式で表される。
【0038】
【数3】

なお、kは、真空中を伝搬する角振動数ωの光波の波数であり、以下の(4)式のように表される。
【0039】
【数4】

図7は、様々なεおよびεの値を与えたときに、式(2)を満足するようなkとkとの軌跡を描いた等周波数曲線である。図7(a)は、ε=1,ε=1の場合(真空中における分散)、ε=9,ε=9の場合(以下、高屈折率)、およびε=1,ε=25の場合(以下、通常異方性)についての等周波曲線を示している。
【0040】
等周波曲線、あるいは等周波曲面は、ある周波数に対して、媒質中を伝搬する電磁波がとりうる波数ベクトルを示したものである。波数ベクトルは一般に3次元のベクトルであるから、3つの成分(k,k,k)をもち、電磁波としての存在が許される波数ベクトルの軌跡は曲面となる。一方、図7のように、波数ベクトルの2つの成分kおよびkにのみ着目する場合には、この2つの成分として許される値の組は、平面内の曲線として表すことができる。
【0041】
超高波数伝達媒質として、異方性を有する媒質を用い、その光学軸(z軸)を光の伝達方向と一致させた場合、伝達すべき情報の精細さ(空間周波数)は、kで表される。図7(a)において、真空中の分散では、|k|≦kのときにkに対応するkの値が存在する。このような光学的情報を担った光波は、z方向へ伝搬できることを意味している。
【0042】
しかし、|k|>kでは、対応するkの値が存在しない。たがって、このような情報を担った光波は、z方向へは伝搬できない(形成される像に寄与しない)。式(2)から、この場合はkが純虚数、つまりz方向には指数関数的に減衰するエバネッセント波となっていることがわかる。このように、空間周波数の高い光学的情報が失われ、伝達された像が元の物体(光源)と異なる現象を回折限界と呼び、光学系の解像力を制限する1つの要素になっている。
【0043】
図7(a)において細実線のような分散関係をもつ場合は、|k|≦5kの範囲で、kに対応するkの値が存在する。このような光学的情報を担った光波は、z方向へ伝搬できることを意味している。したがって、真空の場合に比べて伝達し得る空間周波数の上限が5倍になり、光学系の解像力を向上することが可能となる。
【0044】
等周波曲線上にある各点は、波として伝搬しうる電磁波の波数ベクトルを表しているので、この各点において電磁波の群速度が規定される。電磁波の数学的な取り扱いによれば、群速度は等周波曲線の法線の向きに一致する。群速度の向きは、図7(a)に矢印で示される。伝搬可能なkの範囲を大きくした通常異方性の材料では、等周波曲線上の多くの点で群速度が光学軸(z軸)に近い向きをもつことがわかる。この傾向は、楕円のk方向を長くするほど顕著になる。
【0045】
そこで、入力面と出力面とを結ぶ少なくとも一つの直線が、光学情報伝達素子101の伝達方向が超高波数伝達媒質の光学軸の方向と揃うように、光学情報伝達素子101は形成される。このような構成により、入射面に入射した信号光のスポットサイズを略維持したまま出力面に伝播することが可能である。
【0046】
なお、ガラスやプラスチックなどの光学材料(誘電体)は、可視光に対して概ね1.3〜2.1程度の屈折率であり、屈折率が3を超えるような光学材料は、自然界に存在しない。図7(a)の高屈折率に対する等周波曲線は、屈折率が3の誘電体を表している。この場合、伝達し得るkの上限は、真空中の場合に比べて3倍になる。
【0047】
公知の液浸レンズや固体浸レンズなどでは、高い屈折率による実効的な開口数(Numerical Aperture: NA)の増大を用いて解像力を向上させている。しかしながら、高屈折率材料による解像力は、媒質として用いる材料の屈折率程度までであり、真空中の結像に対して3倍を超える解像力は得られない。
【0048】
これに対し、例えば、人工的な構造に由来する誘電率異方性を有する媒質を用いると、z軸方向の実効的な誘電率εを9(解像力を3倍に向上できる値)よりずっと大きくすることができ、高屈折率材料を用いる場合よりも高い解像力を得ることができる。
【0049】
一般的に、信号光に用いられる光の波長をλとすると、その解像力の限界は概ねλ/2であると言われている。これは、|kT|≦k0の波数をもつ光を伝達できるレンズで結像する場合、物体面上の2つの点光源の像が2つの点像として認識できるときの、点光源間の最小距離が、概ねλ/2であることを意味している。
【0050】
一方、伝達可能な信号光のスポットサイズの最小寸法は、物体面から像面へ伝達できる波数kの上限に反比例すると考えられる。したがって、|k|≦5kの波数の光を全て伝達可能な超高波数伝達媒質を用いれば、波長の約1/10という微細なスポットサイズの信号光を伝達可能となる。
【0051】
図7(b)は、誘電率テンソル中に現れる2種類の成分εおよびεの符号が異なる場合について、式(2)の等周波曲線を図示したものである。つまり、ε<0かつε>0の場合(以後、負正異方性と称す)と、ε>0かつε<0の場合(以後、正負異方性と称す)とを示したものである。図7(b)の点線は、双曲線の漸近線を示している。漸近線は、正負異方性の場合は(5)式で、負正異方性の場合は(6)式で表される。
【0052】
【数5】

前述のように、x軸とy軸とは等価であるから、3次元空間では双曲線が回転双曲面となり、漸近線が円錐面となる。x軸方向とy軸方向とで多少εに違いがある場合には、双曲線およびその漸近線に対応する曲面が回転体とはならないが、このような場合も含めて、以後、双曲面および漸近曲面と称す。
【0053】
図7(b)の正負異方性に対して光波の群速度の方向を矢印で示した。群速度の方向は、光学軸の方向を中心とし、式(5)で表される2つの漸近線の法線の方向までの範囲に分布している。したがって、信号光を伝達するためには、伝達方向を光学軸と平行にする必要がある。式(5)の漸近線の係数を小さくし、漸近線がk軸に近づく(漸近曲面がk平面に近づく)ように材料設計を行えば、光波をより光学軸方向へ集中させ、信号光のスポットサイズを維持したまま伝達することができる。
【0054】
正負異方性の場合は、任意(但し実数)のkに対応するkの値が実数として存在するので、理論上、いくらでも高い空間周波数をもつ光学的情報を担った光波を伝搬させることができる。
【0055】
これに対し、負正異方性の場合は、真空中の光波伝搬とは対照的に、|k|<1のときに光波はエバネッセント波(kが純虚数)となるため、|k|≧1の範囲の光学的情報が全て伝達されることになる。そのため、負正異方性を示す媒質を介してイメージングを行う場合は、|k|<1に相当する光学的情報が失われて、良好な結像性能を得ることは難しくなる。
【0056】
しかしながら、波長よりも小さい入力アパーチャ110を通過した光波を伝搬させる場合は、入力アパーチャ110を通過した段階で、|k|<1に相当する光学的情報は少なく、光波を形成する光学的情報には、|k|≧1の範囲の高い空間周波数が多い。したがって、負正異方性を示す媒質中で|k|<1の空間周波数成分が失われることによる影響は比較的少なく、光学的情報の良好な伝達を行うことが可能となる。
【0057】
この場合、伝搬方向の主要部は、軸方向を中心とする双曲面の漸近曲面の法線方向である。漸近曲面がよりxy平面に近づくように材料設計を行うことで、より光学軸方向に伝搬光を集中させることができる。伝達方向は、超高波数伝達媒質の光学軸に平行となるように定められる。
【0058】
以上のことから、異方性媒質を用いて超高波数伝達媒質を構成すれば、その分散特性から以下に説明するような効果が得られる。
【0059】
つまり、公知の液浸レンズや固体浸レンズでは、光学系としての解像力を3倍程度までしか向上することができない。これに対し、実効的な誘電率に異方性がある媒質を用い、その光学軸の方向に光学的情報を伝達させるように構成すれば、例えば光学軸と垂直な面内の波数が0〜5kの範囲の光波を伝搬させることができ、光学系の解像力を5倍に向上することが可能となる。
【0060】
また、実効的な誘電率にさらに強い異方性があり、誘電率テンソルの成分が光軸方向と光軸に垂直な平面内とで異符号となるような媒質を用いれば、光学系の解像力をさらに向上することができ、解像力に理論上の制約がなくなる。
【0061】
以上、TM波について説明したが、TE波(電場がy軸方向を向いた電磁波の状態)に対しても、誘電率と透磁率とを置き換えれば、全く同様である。つまり、実効的な透磁率に異方性があり、その光学軸の方向にz軸をとれば、透磁率テンソルは(7)式のように表されるので、TE波に対する分散関係は、(8)式のようになる。
【0062】
【数6】

したがって、μ>0かつμ<0により正負異方性が、μ<0かつμ>0により正負異方性が、それぞれ実現する。
【0063】
上記のTM波に対する異方性の説明では、式(2)においてμ>0であることを前提としていた。しかし、μ<0でも、強い異方性があれば、光の伝達は可能である。すなわち、上述した説明から明らかなように、μ<0を前提にすると、誘電率が正負異方性をもつ場合、つまりε>0かつε<0の場合は、|k|≧1を満足する光が伝達可能となる。
【0064】
また、誘電率が負正異方性をもつ場合、つまりε<0かつε>0の場合は、任意のkをもつ光が伝達可能となる。このことはTE波に対しても同様で、ε<0を前提とすれば、透磁率が正負異方性をもつ場合、つまりμ>0かつμ<0の場合は、|k|≧1を満足する光が伝達可能となり、透磁率が負正異方性をもつ場合、つまりμ<0かつμ>0の場合は、任意のkをもつ光が伝達可能となる。
【0065】
以下、実効的な誘電率に異方性をもたせる人工的な構造体について説明する。図8は、その一例の構造体の概念図である。この構造体は、金属11と誘電体12とを交互に積層してなる金属誘電体多層膜13によって構成される。
【0066】
図8において、金属11の誘電率をε、誘電体12の誘電率をεとし、それぞれを厚さd、dで交互に積層した場合、厚さd、dがともに照射光の波長よりも十分小さければ、金属誘電体多層膜13の全体を電磁気学的には均質な異方性媒質とみなすことができる。そして、この異方性媒質の実効的な誘電率テンソルは、(9)、(10)式で与えられる。
【0067】
【数7】

(9)、(10)式において、可視光を含む光学周波数帯では、金属11の多くは誘電率ε(の実数部)が負の値をとり、誘電体の誘電率ε(の実数部)は正の実数となる。したがって、積層する各層の厚さd、dを適切に選ぶことによって、金属誘電体多層膜13の実効的な誘電率の成分を正にも負にもすることができる。この金属誘電体多層膜13の実効的な誘電率の成分の一例を図9に示す。
【0068】
図9は、図8において、金属誘電体多層膜13の金属11を銀、誘電体12を酸化アルミニウムとし、金属誘電体多層膜13の全体の厚さに占める金属11の割合dを下式(10)により変化させた場合の実効的な誘電率の成分Re(ε)およびRe(ε)を例示するものである。なお、照射光の波長は、365nmおよび517nmとした。
【0069】
【数8】

図9においては、照射光の波長が365nmのとき、0.47≦d≦0.55の範囲で、Re(ε)>0かつRe(ε)<0となり、照射光の波長が517nmのとき、0.26≦d≦0.74の範囲で、Re(ε)<0かつRe(ε)>0となる。このように、金属31と誘電体32との材料を適切に選ぶことにより、所定の波長(周波数)の光に対して、誘電率テンソルのある成分、あるいは、全ての成分を正や負の値にすることができる。
図10は、実効的な誘電率に異方性をもたせる人工的な構造体の他の例を示す概念図である。この構造体は、金属ナノロッドアレイ21により人工的な異方性媒質を構成したもので、照射光の波長より小さな断面をもつ円柱状の金属ナノロッド22(半径をrとし、長さは波長よりも十分長いものとする)を、波長より小さな周期aで正方格子として配列したものである。この場合、13と同様に、r,a≪λ(λは照射光の波長)の時は、電磁気学的には異方性をもつ均質媒質とみなすことが許される。
【0070】
図10に示す金属ナノロッドアレイ21の構造から明らかなように、異方性媒質としての光学軸はz軸(金属ナノロッド42の対称軸と同じ方向)に一致する。ここで、金属ナノロッド22が十分に長ければ、光学軸方向には電流が流れる(金属中の自由電子が運動できる)ので、金属の種類に依存する電気的応答がある。この場合、金属ナノロッド22を構成する金属材料の電気伝導度をσ、プラズマ周波数をωとすると、金属ナノロッドアレイ41を均質な異方性媒質とみなしたときの誘電率の光学軸方向の成分は、(12)式で与えられる。
【0071】
【数9】

なお、(12)式におけるΓは(13)式で与えられる。
【0072】
【数10】

(12)式から明らかなように、金属ナノロッドアレイ22の場合は、金属の種類(ωPおよびσ)、アレイの構造(aおよびr)、あるいは角振動数ωを適切に選ぶことにより、光学軸方向の実効的な誘電率を正にも負にもすることができる。
【0073】
一方、光の周波数帯域では、金属および誘電体にかかわらず、自然界のほとんどの物質は、磁気的な応答を示さない。このため、上記の多層膜やナノロッドのような構造体で透磁率に異方性をもたせることができない。しかし、近年においては、人工的な構造体を用いて、光の周波数帯域で透磁率を変化できる媒質が提案され、実効的な透磁率の実数部を負の値にすることが可能となっている。その一例として、メタマテリアルと呼ばれる人工構造体の一種であるスプリットリング共振器が知られている。
【0074】
以上のような構成の第1の実施形態の光学情報伝達素子によれば、等周波曲線状の多くの点で群速度は実質的に同じ向きであり、このような向きを伝達方向として入力面と出力面とが形成される。それゆえ、入力面に入力される信号光を、x軸方向におけるスポットサイズが維持されたまま出力面に伝播可能である。スポットサイズが維持されるので、スーパーレンズを用いる場合と異なり、入力面および光源107の間隔と、出力面および受光器112の間隔との高精度な調整が不要である。
【0075】
また、第1の実施形態の光学情報伝達素子は高い解像力を有するので、光源107同士、および受光器112同士をx軸方向に近接させ、情報密度を向上させることも可能である。等方性の光伝達媒質に比べて回折限界が高いので、単一の受光器112へのクロストークを発生させることなく、光源107同士および受光器112同士を互いにx軸方向に近接させることが可能である。
【0076】
また、第1の実施形態の光学情報伝達素子101には入力アパーチャ板102および出力アパーチャ板105が設けられる。それゆえ、光学情報伝達素子101に入射および出射する信号光のスポットサイズが規定されるので、信号光のS/N比を向上させることが可能である。なお、前述のように光学情報伝達素子101そのものによって、x軸方向のスポットサイズを維持しながら信号光を伝達可能である。それゆえ、アパーチャ板102、105を設けなくてもS/N比は比較的高いが、アパーチャによりさらなる向上が達成される。
【0077】
次に本発明の第2の実施形態に係る光学情報伝達機構について説明する。第2の実施形態は、光学情報伝達素子に入力した信号光を増幅できる点において第1の実施形態と異なっている。以下に、第1の実施形態と異なる点を中心に第2の実施形態について説明する。なお、第1の実施形態と同じ機能および構成を有する部位には同じ符号を付す。
【0078】
図11に示すように、第1の実施形態と同様に、光学情報伝達機構1000は、光学情報伝達素子1010、入力アパーチャ板102、偏光子103、光源ユニット104、出力アパーチャ板105、および検出ユニット106を含んで構成される。
【0079】
入力アパーチャ板102、偏光子103、光源ユニット104、出力アパーチャ板105、および検出ユニット106の構成および機能は、第1の実施形態と同じである。
【0080】
第1の実施形態と異なり、光学情報伝達素子1010の板面の一方、図11においては上面には、増幅光カプラが設けられる。第1の実施形態と異なり、光学情報伝達素子1010の増幅光カプラ113が設けられる面には、反射層は形成されない。増幅光カプラ113は増幅光入力面(図示せず)を有し、増幅光入力面に励起光などの増幅光を供給することにより、光学情報伝達素子1010により伝播される信号光の光量が増幅される。
【0081】
増幅光カプラ113の増幅光入力面には増幅光光源ユニット114が設けられる。増幅光光源ユニット114の増幅光入力面側には、x軸方向に沿って多数の増幅光光源(図示せず)が設けられる。なお、増幅光光源は、例えばLEDやLDであり、信号光の強度を増幅させる特定の帯域の波長の光を出射可能である。増幅光光源は、光源107(図3参照)それぞれに対応するように、同じ数だけ設けられてもよいし、複数の光源107に対して一つの増幅光源が設けられてもよいし、さらには、一部の光源107に対してのみ増幅光光源が設けられてもよい。
【0082】
なお、増幅光光源が設けられる面の背面には、共通電極115および信号電極116が形成される。共通電極115は、全増幅光光源に対して共通に用いられる。信号電極116は増幅光光源毎に設けられ、増幅光光源毎に発光を制御可能である。
【0083】
以上のような構成の第2の実施形態の光学情報伝達機構によっても、第1の実施形態と同じく、入力面に入力される信号光を、x軸方向におけるスポットサイズが維持されたまま出力面に伝播可能である。また、情報密度を向上させることが可能である。
【0084】
さらに、第1の実施形態と異なり、第2の実施形態の光学情報伝達機構によれば、増幅光カプラ113を用いて、信号光を増幅することが可能である。第1、第2の集積回路基板1、2の間隔が長い場合であっても信号光の伝播の信頼性を向上させることが可能である。
【0085】
また、第2の実施形態の光学情報伝達素子によれば、光源107または光源107の組毎に対応した増幅光光源の発光を制御可能である。したがって、信号光を発する光源107に対応する増幅光光源のみ発光させることにより、全増幅光光源を発光させる場合に比べて電力の消費量を低減化可能である。
【0086】
次に本発明の第3の実施形態に係る光学情報伝達機構について説明する。第3の実施形態は、光源ユニットおよび検出ユニットの構成が第1の実施形態と主に異なっている。以下に、第1の実施形態と異なる点を中心に第3の実施形態について説明する。なお、第1の実施形態と同じ機能および構成を有する部位には同じ符号を付す。
【0087】
図12に示すように、第1の実施形態と同様に、光学情報伝達機構1001は、光学情報伝達素子1011、入力アパーチャ板1021、偏光子1031、光源ユニット1041、出力アパーチャ板1051、および検出ユニット1061を含んで構成される。また、第1の実施形態と同様に、光学情報伝達素子1011の入力面には、入力面側から入力アパーチャ板1021、偏光子1031、および光源ユニット1041が設けられる。また、第1の実施形態と同様に、光学情報伝達素子1011の出力面には、出力面側から出力アパーチャ板1051および検出ユニット1061が設けられる。
【0088】
第1の実施形態と異なり、光源ユニット1041の偏光子1031側には、x軸方向およびy軸方向に沿った行列状に多数の光源(図12において図示せず)が設けられる。また、第1の実施形態と異なり、共通電極1081は、x軸方向に沿って並ぶ光源の行毎に設けられ、対応する行の全光源に対して共通に用いられる。
【0089】
第1の実施形態と異なり、偏光子1031は、z軸方向に垂直な直線を回転軸として回動可能に支持される。いずれの回転位置においても、偏光子1031は入射した光をz軸に垂直な方向に偏光して出射する。また、第1の実施形態と異なり、偏光子1031は、偏光子駆動機構115により一定の回転速度で回転させられる。また、偏光子1031と偏光子駆動機構115の代わりに、入射した光をz軸に垂直な方向に円偏光して出射する偏光子を用いてもよい。
【0090】
第1の実施形態と異なり、入力アパーチャ板1021には、図13に示すように、x軸方向およびy軸方向に沿って多数の入力アパーチャ110が形成される。なお、第1の実施形態と同様に、入力アパーチャ110は各光源107と相対する位置に形成される。
【0091】
第1の実施形態と異なり、出力アパーチャ板1051は、x軸方向およびy軸方向に沿って多数の出力アパーチャ(図12、図13において図示せず)が形成される。第1の実施形態と同様に、各出力アパーチャは、各入力アパーチャ110の伝達方向に形成される。
【0092】
第1の実施形態と異なり、検出ユニット1061の出力アパーチャ板1051側には、出力アパーチャに相対する位置に、x軸方向およびy軸方向に沿った多数の受光器(図示せず)が設けられる。
【0093】
第1の実施形態と異なり、検出ユニット1061の受光器が設けられる面の背面には、複数の共通電極(図示せず)と複数の信号電極が形成される。第1の実施形態と異なり、共通電極は、x軸方向に沿って並ぶ受光器の行毎に設けられ、対応する行の全光源に対して共通に用いられる。
【0094】
また、第1の実施形態と異なり、各受光器では、所定の時間の間に受光される積算受光量に基づいて、信号光を電気信号に変換する。
【0095】
以上のような構成の第3の実施形態の光学情報伝達機構によれば、第1の実施形態と同じく、入力面に入力される信号光の発散をレンズに比べて抑制させながら、入力面から出力面に伝播可能である。
【0096】
第1の実施形態と異なり、光源が二次元状に設けられる。それゆえ、偏光の方向に垂直な方向にはTE波の寄与によりスポットサイズを維持できない。しかし、偏光子1031を回転させ、受光器に積算受光量を検出させることにより、クロストークの発生を抑制しながら信号光の検出が可能である。なぜならば、偏光の方向の信号光の幅は維持されており、維持される幅を径とする領域においては積算受光量が高くなるからである。
【0097】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。
【0098】
例えば、上記の第1〜第3の実施形態において、k−k平面上の等周波曲線と、k−k平面上の等周波曲線とが、ともにk軸上に短軸をもつ楕円となる場合における短軸方向や、k−k平面上の等周波曲線と、k−k平面上の等周波曲線とが、ともに双曲線となる場合における光学軸に平行な方向が、伝達方向に定められる。しかし、伝達方向は、このような方向に限定されない。
【0099】
光学異方性を有する媒質の等周波曲面を、原点を通る任意の断面により切断した曲線において位相速度が最大となる方向が、入力面と出力面とを結ぶ少なくとも一つの直線方向である伝達方向に揃えられれば、本実施形態と同様の効果を得ることが可能である。すなわち、信号光の偏光する方向に沿ったスポットサイズを維持しながら入力面から出力面まで信号光を伝播可能である。
【0100】
例えば、出力面が、入力面の一部から、光学異方性を有する媒質の等周波曲面を、原点を通る任意の断面により切断した曲線において位相速度が最大となる方向へ延長した位置に形成されることにより、位相速度が最大となる方向と伝達方向とが揃えられる。
【0101】
例えば、図14に示すように、k―k平面においてk=0を通らない放物線を、k軸を中心として楕円に沿って回転させた面を等周波曲面csとして有する媒質について検討する。このような等周波曲面csとk―k平面との交点の軌跡は楕円eであり、この楕円eにおける長軸方向(図14におけるk軸方向)は、k―k平面における等周波曲線において位相速度が最小となる。したがって、k―k平面のみにおける等周波曲線においては長軸方向を伝達方向に定めることは出来ない。
【0102】
しかし、k―k平面と等周波曲面との交点との軌跡である放物線pにおいては、k軸方向の位相速度が最大となる。それゆえ、k軸方向を伝達方向と定めることにより、等方性の媒質を用いる場合に比べて、偏光の方向に沿った信号光のスポットサイズを維持したまま伝播可能である。
【0103】
また、第1〜第3の実施形態において、伝達方向はz軸方向に平行であるように図示される構成であるが、z軸方向、すなわち入力面に対して垂直な方向でなくてもよい。例えば、図15に示すように、光学情報伝達素子101、1010、1011の入力面isおよび出力面osに対して傾斜した方向が伝達方向tdであってもよい。言い換えると、媒質の性質により定まる伝達方向tdに対して、入力面isおよび出力面osが形成されればよく、本実施形態のように、伝達方向に対して垂直な平面でなくてもよい。
【0104】
また、第1〜第3の実施形態において、信号光を光学情報伝達素子101、1010、1011の入力面isから出力面osに伝達する構成であるが、出力面osから入力面isに信号光を伝達することも可能である。それゆえ、入力面isおよび出力面osに、光源107と受光器112を有する入出力ユニット(図示せず)を設け、入力面is側の光源107の伝達方向に出力面os側の受光器112を配置し、出力面os側の光源107の伝達方向に入力面is側の受光器112を配置することも可能である。このような構成においても、第1の集積回路基板1および第2の集積回路基板2間におけるデータの送受信が可能である。
【0105】
また、第1〜第3の実施形態において、光学情報伝達機構100、1000、1001を第1の集積回路基板1に接続する構成であるが、第1の集積回路基板1に光源ユニット104、1041、偏光子103、1031、および入力アパーチャ板102、1021を設け、光学情報伝達素子101、1010、1011を第1の集積回路基板1に接続する構成であってもよい。同様に、光学情報伝達機構100、1000、1001を第2の集積回路基板2に接続する構成であるが、第2の集積回路基板2に出力アパーチャ板105、1051および検出ユニット106、1061を設け、光学情報伝達素子100、1000、1001を第2の集積回路基板2に接続する構成であってもよい。
【0106】
また、第1〜第3の実施形態において、光学情報伝達素子101、1010、1011の上面tsおよび下面dsには反射層が形成されるが、形成されなくてもよい。上面tsおよび下面dsにおいて光学情報伝達素子101、1010、1011と界面を構成する媒質(例えば、空気)の屈折率が、光学情報伝達素子101、1010、1011の屈折率より低屈折率であれば、信号光を上面tsおよび下面dsにおいて反射可能である。
【符号の説明】
【0107】
100、1000、1001 光学情報伝達機構
101、1010、1011 光学情報伝達素子
102、1021 入力アパーチャ板
103、1031 偏光子
104、1041 光源ユニット
105、1051 出力アパーチャ板
106、1061 検出ユニット
107 光源
110 入力アパーチャ
111 出力アパーチャ
112 受光器
113 増幅光カプラ
114 増幅光光源ユニット
cs 等周波曲面
is 入力面
os 出力面
p 放物線
td 伝達方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学情報を入力面から出力面に伝達する光学情報伝達素子であって、
光学異方性を有する部材により形成され、
前記入力面と前記出力面とを結ぶ少なくとも一つの直線が、前記部材の等周波曲面の、原点を通る任意の断面による曲線において位相速度が最大となる方向に揃えられる
ことを特徴とする光学情報伝達素子。
【請求項2】
光学異方性を有する部材により形成され、前記部材の等周波曲面の原点を通る任意の断面による曲線において位相速度が最大となる方向に光学情報が伝達される入力面と出力面とを結ぶ少なくとも一つの直線が揃えられる光学情報伝達素子を備える
ことを特徴とする光学情報伝達機構。
【請求項3】
光学異方性を有する部材により形成され、出力面が入力面の一部から前記部材の等周波曲面の原点を通る任意の断面による曲線において位相速度が最大となる方向へと延長した位置に形成される光学情報伝達素子を備える
ことを特徴とする光学情報伝達機構。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の光学情報伝達機構であって、前記入力面に設けられ、入力アパーチャが形成された入力アパーチャ板を備えることを特徴とする光学情報伝達機構。
【請求項5】
請求項4に記載の光学情報伝達機構であって、前記入力アパーチャから前記入力面に入力する前記光学情報を出射する光源を備えることを特徴とする光学情報伝達機構。
【請求項6】
請求項5に記載の光学情報伝達機構であって、複数の前記入力アパーチャと対応する複数の前記光源とが前記入力面において1次元状に並ぶように形成されることを特徴とする光学情報伝達機構。
【請求項7】
請求項5に記載の光学情報伝達機構であって、複数の前記入力アパーチャと対応する複数の前記光源とが前記入力面において2次元状に並ぶように形成されることを特徴とする光学情報伝達機構。
【請求項8】
請求項5〜請求項7のいずれか1項に記載の光学情報伝達機構であって、前記入力アパーチャの幅の最小値が前記光源から出射される前記光学情報の平均波長の半波長未満になるように形成されることを特徴とする光学情報伝達機構。
【請求項9】
請求項6に記載の光学情報伝達機構であって、前記入力アパーチャに入射する前記光学情報を、前記複数の入力アパーチャが配置される面内に電場成分を持つ偏光として出射させる偏光素子を備えることを特徴とする光学情報伝達機構。
【請求項10】
請求項2〜請求項9のいずれか1項に記載の光学情報伝達機構であって、前記出力面に設けられ、出力アパーチャが形成された出力アパーチャ板を備えることを特徴とする光学情報伝達機構。
【請求項11】
請求項2または請求項3に記載の光学情報伝達機構であって、
前記入力面に設けられ、入力アパーチャが形成された入力アパーチャ板と、
前記出力面に設けられ、出力アパーチャが形成された出力アパーチャ板とを備え、
前記出力アパーチャは、前記入力アパーチャから、前記部材の等周波曲面の、原点を通る任意の断面による曲線において位相速度が最大となる方向へと延長した位置に形成される
ことを特徴とする光学情報伝達機構。
【請求項12】
請求項11に記載の光学情報伝達機構であって、前記出力アパーチャ板には、前記入力アパーチャ板に形成される複数の入力アパーチャの各々に対応した、複数の前記出力アパーチャが形成されることを特徴とする光学情報伝達機構。
【請求項13】
請求項10〜請求項12のいずれか1項に記載の光学情報伝達機構であって、前記出力アパーチャから出射する前記光学情報を受光し、受光量に応じた電気信号を出力する検出部を備えることを特徴とする光学情報伝達機構。
【請求項14】
請求項2〜請求項13のいずれか1項に記載の光学情報伝達機構であって、前記入力面に入力された前記光学情報を増幅する光増幅部と、該光増幅部に前記光学情報を増幅するための増幅光を供給する増幅光源とを備えることを特徴とする光学情報伝達機構。
【請求項15】
請求項6または請求項7に記載の光学情報伝達機構であって、
前記入力面に入力された前記光学情報を増幅する複数の光増幅部と、該光増幅部に前記光学情報を増幅するための増幅光を供給する複数の増幅光源とを備え
前記増幅光を出射させる前記増幅光源が選択可能である
ことを特徴とする光学情報伝達機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2013−20147(P2013−20147A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154207(P2011−154207)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】