説明

光学情報読み取り装置

【課題】読み取り速度を向上させることができる光学情報読み取り装置を提供する。
【解決手段】光学情報読み取り装置から撮像対象物の複数の点までの距離を測定し(ステップS1)、測定した距離に基づいて、受光センサが撮像した画像を複数の領域に分割する(ステップS2)。そして、分割した領域から読み取り領域を絞り込む(ステップS3)。距離により画像を複数の領域に分割することから、輝度変化やエッジに基づいて領域を分割する場合と異なり、QRコード(登録商標)に起因する輝度変化以外の種々の輝度変化が撮像対象物にあってもその影響を受けない。よって、QRコードを含む領域に精度よく絞り込むことができ、その後の読み取り処理をやり直す場合が低下するので、読み取り速度が向上する。また、領域の絞り込みの精度が向上することから、情報の読み取り精度も向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報コードを光学的に読み取る光学情報読み取り装置に関し、特に、光学情報読み取り装置の読み取り速度を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光学情報読み取り装置の読み取り速度を向上させる技術として、たとえば、特許文献1、2記載の技術が知られている。特許文献1では、二次元コード画像の輝度を二値化し、二値化した画像の外周に存在する複数の黒セルを接続して包絡線を作成し、この包絡線に基づいて検査領域を限定することで、読み取り速度を向上させている。
【0003】
特許文献2では、画像の輝度を二値化し、白画素が二つ以上続いた部分を余白部分とし、その余白部分に基づいて二次元コード候補領域を決定する。そして、以後の処理を、二次元コード候補領域に限定することで、読み取り速度を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−362053号公報
【特許文献2】国際公開第2005/086074号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に開示されている技術は、画像の輝度変化から、コードの特徴やコードの周囲の特徴を検出することで、取り込んだ画像のどの範囲にコードがあるかを決定して、その後の処理を行う画像範囲を限定する技術である。よって、画像からコードの特徴やコードの周囲の特徴を検出することができなければ、その後の処理を行う画像範囲を限定することができない。
【0006】
しかし、撮像対象物によっては、情報コード以外の箇所で輝度変化が生じることもある。例えば、撮像対象物が基板である場合には、基板上に、情報コード以外にも種々のパターンや種々の凹凸があり、それら種々のパターンや凹凸により輝度変化が生じるので、輝度変化から、コードの特徴やコードの周囲の特徴を検出することが困難である場合も多い。従って、従来技術では、情報コードを含む領域を適切に絞り込むことができず、その結果、読み取りに時間がかかってしまう場合もあった。
【0007】
本発明は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、読み取り速度を向上させることができる光学情報読み取り装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
その目的を達成するための請求項1記載の発明は、情報コードが示された撮像対象物を撮像する撮像手段と、撮像手段が撮像した画像から読み取り領域を絞り込み、その読み取り領域の画像に対して読み取り処理を行う読み取り処理手段とを備え、前記読み取り処理により情報コードから情報を読み取る光学情報読み取り装置であって、この光学情報読み取り装置から前記撮像対象物の複数の点までの距離を推定する距離推定手段と、前記距離推定手段が推定した距離に基づいて、前記撮像手段が撮像した画像を複数の領域に分割する画像領域分割手段と、その画像領域分割手段が分割した複数の領域から、前記読み取り領域を選択する領域選択手段とを含むことを特徴とする。
【0009】
このように、本発明によれば、光学情報読み取り装置から撮像対象物の複数の点までの距離を推定し、推定した距離に基づいて、撮像手段が撮像した画像を複数の領域に分割する。距離により画像を複数の領域に分割することから、輝度変化に基づいて領域を分割する場合と異なり、情報コードに起因する輝度変化以外の種々の輝度変化が撮像対象物にあってもその影響を受けない。よって、情報コードを含む領域に精度よく絞り込むことができ、その後の読み取り処理をやり直す場合が低下するので、読み取り速度が向上する。また、領域の絞り込みの精度が向上することから、情報の読み取り精度も向上する。
【0010】
請求項2記載の発明では、距離推定手段が推定した読み取り領域内の複数の点までの距離に基づいて、読み取り領域の画像を、その読み取り領域が、撮像手段の光軸に垂直な平面であるとした場合の画像に補正する画像補正手段を備え、読み取り手段は、前記画像補正手段が補正した画像を用いて読み取り処理を行う。
【0011】
この請求項2記載の発明は、距離推定手段により距離が推定できることを活用して、読み取り領域の画像を補正するものである。撮像対象物の読み取り領域は平面であるとは限らない。読み取り領域が平面ではない場合(すなわち、湾曲している場合)には、その読み取り領域に示されている情報コードの画像には歪みが生じる。また、光学情報読み取り装置に対する撮像対象物の撮像角度は撮像の都度変化する可能性もあり、撮像角度の変化によっても、情報コードの画像には歪みが生じる。
【0012】
しかし、本発明では、読み取り領域の画像を、その読み取り領域が、撮像手段の光軸に垂直な平面であるとした場合の画像に補正することから、読み取り領域が傾いていたり、また、読み取り領域が湾曲していても、それら傾きや湾曲が補正される。よって、読み取り領域の画像に含まれている情報コードの歪みも補正されるので、情報コードの読み取り精度が向上する。
【0013】
請求項3記載の発明は、距離推定手段が推定した読み取り領域内の複数の点までの距離と、予め記憶されている撮像手段の被写界深度とに基づいて、読み取り領域の画像のボケ量を推定するボケ量推定手段と、そのボケ量推定手段が推定したボケ量に基づいて、前記読み取り領域の画像のボケを補正するボケ補正手段とを備え、読み取り手段は、ボケ補正手段が補正した画像を用いて読み取り処理を行う。
【0014】
このように、推定したボケ量に基づいて、読み取り領域の画像のボケを補正するようにすれば、ボケを精度よく補正することができる。よって、情報コードの読み取り精度が向上する。なお、請求項2の画像補正手段とこの請求項3のボケ補正手段の両方を、読み取り領域の画像に対して行うこともできる。その場合、いずれか一方の補正手段により補正された読み取り領域の画像に対して、他方の補正手段を行う。
【0015】
ここで、距離推定手段は、請求項4〜6記載のようにして、撮像対象物の複数の点までの距離を推定することができる。請求項4では、光軸が互いに異なるとともに、互いの距離が既知の複数の撮像手段を備え、距離推定手段は、それら複数の撮像手段が撮像した画像に基づいてステレオ法により撮像対象物の複数の点までの距離を推定する。請求項5では、光学情報読み取り装置は移動可能になっており、また、この光学情報読み取り装置の位置を検出する位置検出手段を備える。そして、距離推定手段は、互いに異なる複数の位置において撮像手段が撮像した撮像対象物の画像およびその画像を撮像したときに位置検出手段が検出した光学情報読み取り装置の位置に基づいて、ステレオ法により撮像対象物の複数の点までの距離を推定する。請求項6では、レーザ光を照射方向を制御しつつ照射するとともに、レーザ光が外部の物体に反射した反射光を受光するレーザ光送受手段を備え、距離推定手段は、レーザ光送受手段がレーザ光を照射してから反射光を受光するまでの時間差とレーザ光の照射方向とに基づいて、撮像対象物の複数の点までの距離を推定する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】光学情報読み取り装置のハウジング等の構成概要を示す部分縦断面図である。
【図2】図1に示す光学情報読み取り装置中の光学系のA矢視図である。
【図3】光学情報読み取り装置の回路部の構成概要を示すブロック図である。
【図4】2個の受光センサ23A、23Bの撮像エリアの重なりを示す図である。
【図5】制御回路40が実行する処理を示すフローチャートである。
【図6】受光センサ23A、23Bの画像信号が示す画像の一部を例示する図である。
【図7】図6の円柱60を含む画像を複数の面に分割した図である。
【図8】円柱60と背景70とが領域として設定されたことを示す図である。
【図9】光学情報読み取り装置10の中心軸XCに対して円柱60が傾いている状態で、受光センサ23A、23Bにより撮像された画像の一部の例である。
【図10】図9の画像をもとにステップS1、S2の処理を行って得られた面を示す図である。
【図11】円柱60が傾いている場合にも、円柱60と背景70とが領域として設定されたことを示す図である。
【図12】図5のステップS8の処理を説明する図であって、撮像対象物Rが円柱60である場合の例である。
【図13】図5のステップS8の処理を説明する図であって、撮像対象物Rが直方体62である場合の例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の光学情報読み取り装置を、QRコード(登録商標)用であって、携帯型の光学情報読み取り装置に適用した実施形態について、図を参照して説明する。まず、本実施形態に係る光学情報読み取り装置10の構成概要を図1〜図3に基づいて説明する。図1は、光学情報読み取り装置10のハウジング等の構成概要を示す部分縦断面図であり、図2は、図1に示す光学情報読み取り装置中の光学系のA矢視図であり、図3は、光学情報読み取り装置10の回路部20の構成概要を示すブロック図である。
【0018】
図1に示すように、QRコードQを読み取る光学情報読み取り装置10は、縦長のほぼ矩形箱状なすハウジング11を備える。ハウジング11は、例えば、ABS樹脂等の合成樹脂からなる成形部品で、その一端側に読取口11aを備えている。この読取口11aは、図2中に示す2個の受光センサ23A、23Bに入射する入射光を導入可能な開口部である。図1に示すようにハウジング11の他端側には、二次電池49が収容されている。ハウジング11の表面側には液晶表示器46を取付可能な開口部も形成されており、光学情報読み取り装置10の使用者が液晶表示器46に表示する表示内容を視覚的に把握可能に構成してある。ハウジング11の内部には、後述する回路部20が収容されている。なお、図1には、回路部20を構成するプリント配線板15、16が図示されている。
【0019】
図3に示すように、回路部20は、主に、一対の赤色発光ダイオード21及び集光レンズ52、受光センサ23A、23B、結像レンズ27A、27B等の光学系と、メモリ35、制御回路40、操作スイッチ12、14、液晶表示器46等のマイクロコンピュータ(以下「マイコン」という)系と、から構成されており、前述したプリント配線板15、16に実装あるいはハウジング11内に内装されている。
【0020】
マイコン系の構成概要を説明する。マイコン系は、増幅回路31A、31B、A/D変換回路33A、33B、メモリ35、アドレス発生回路36A、36B、同期信号発生回路38A、38B、制御回路40、操作スイッチ12、14、LED43、ブザー44、液晶表示器46、通信インタフェース48等から構成されている。このマイコン系は、その名の通り、マイコン(情報処理装置)として機能し得る制御回路40およびメモリ35を中心に構成されるもので、前述した光学系によって撮像されたコード像等の画像信号をハードウェア的およびソフトウェア的に信号処理し得るものである。また制御回路40は、当該光学情報読み取り装置10の全体システムに関する制御も行っている。
【0021】
光学系の受光センサ23A、23Bから出力される画像信号(アナログ信号)は、それぞれ増幅回路31A、31Bに入力されることで所定ゲインで増幅された後、A/D変換回路33A、33Bに入力されると、アナログ信号からディジタル信号に変換される。そして、ディジタル化された画像信号はメモリ35に入力されて格納される。なお、同期信号発生回路38A、38Bは、受光センサ23A、23Bおよびアドレス発生回路36A、36Bに対する同期信号を発生可能に構成されており、アドレス発生回路36A、36Bは、この同期信号発生回路38A、38Bから供給される同期信号に基づいて、メモリ35への画像信号の格納アドレスを発生させている。
【0022】
制御回路40は、光学情報読み取り装置10全体を制御可能なマイコンで、CPU、システムバス、入出力インタフェース等からなるもので、メモリ35とともに情報処理装置を構成し得るもので情報処理機能を有する。本実施形態における制御回路40の具体的な情報処理機能については後述する。また、この制御回路40は、内蔵された入出力インタフェースを介して種々の入出力装置(周辺装置)と接続可能に構成されており、本施形態では、電源スイッチ41、操作スイッチ12、14、LED43、ブザー44、液晶表示器46、通信インタフェース48等が接続されている。
【0023】
光学系を構成する赤色発光ダイオード21は、照明光Lfを照射可能な光照射器である。この赤色発光ダイオード21からの照明光Lfは、拡散レンズと凸レンズとを組み合わせた集光レンズ52により集光される。また、本実施形態では、受光センサ23A、23Bを挟んだ両側に赤色発光ダイオード21が設けられており、ハウジング11の読取口11aを介して撮像対象物Rに向けて照明光Lfを照射可能に構成されている。なお、この撮像対象物Rには、二次元情報コードであるQRコードQが示されている。このQRコードQは、撮像対象物Rに貼りつけられていてもよいが、以下の説明では、QRコードQは刻印により形成されているとする。
【0024】
受光センサ23A、23Bは、撮像対象物RやQRコードQに照射されて反射した反射光Lrを結像レンズ27A、27Bを介して受光可能に構成されるもので、例えば、C−MOSやCCD等の固体撮像素子から成る二次元イメージセンサ(すなわちエリアセンサ)により構成されている。この受光センサ23A、23Bは特許請求の範囲の画像取り込み手段に相当する。
【0025】
結像レンズ27A、27Bは、外部から読取口11aを介して入射する入射光を集光して受光センサ23A、23Bの受光面24A、24Bに像を結像可能な結像光学系として機能するもので、例えば、鏡筒とこの鏡筒内に収容される複数の集光レンズとにより構成されている。
【0026】
図2に示すように、2個の受光センサ23A、23Bは、それぞれの撮像エリアの中心軸XA、XBが互いに平行である。また、これら2個の受光センサ23A、23Bは、上記2つの中心軸XA、XBと直交する共通の線分VPを含む同一の仮想平面(線分VPに沿って図から直立する仮想平面)上に配置してある。また、2個の受光センサ23A、23Bは、撮像エリアの中心軸XA、XBが距離d1分離れるようにプリント配線板15上に取り付けられている。また、2個の受光センサ23A、23Bの撮像エリアの中心軸XA、XBと、結像レンズ27A、27Bの中心軸Xa、Xbとをずらして組み付けている。このように組み付けることで、当該2個の受光センサ23A、23Bの撮像エリアは、一定距離D1において、図4に示すように互いに重なっている。なお、これら2個の受光センサ23A、23B間の距離として、上記距離d1がメモリ35に記憶されている。
【0027】
図5は制御回路40が実行する処理を示すフローチャートである。次に、この図5を用いて、制御回路40が行う処理ついて説明する。この図5に示す処理は、露光および画像取り込みに続いて実行する。露光は、操作スイッチ12、14の操作によりトリガ信号が入力されたことに基づいて実行するようになっており、露光により、2つの受光センサ23A、23Bは同時に露光され、続いて、受光センサ23A、23Bからの画像信号が、増幅回路31、A/D変換回路33を介してメモリ35に格納される。その後、ステップS1を実行する。
【0028】
ステップS1は特許請求の範囲の距離推定手段に相当する処理であり、メモリ35から、2つの受光センサ23A、23Bの全画素の画像信号をそれぞれ取得し、取得した画像信号に基づいてステレオ法により、光学情報読み取り装置10から撮像対象物Rまでの距離を算出する。
【0029】
より詳しくは、エッジ検出処理や輝度に基づいて、受光センサ23Aの画像信号から特徴を検出する。同様に、受光センサ23Bの画像信号からも特徴を検出する。図6には、受光センサ23A、23Bの画像信号が示す画像の一部を例示する。図6(A)は受光センサ23Aの画像信号が示す画像の一部であり、撮像対象物Rである円柱60の中央に刻印によりQRコードQが示されている画像である。図6(B)は受光センサ23Bの画像信号が示す画像の一部であって、図6(A)と同じ部材の画像である。このステップS1では、この図6(A)、(B)に例示した画像に対して、特徴を検出するために、エッジ検出処理等を行う。続いて、エッジや輝度に基づいて、たとえば面積相関法等のステレオマッチング手法により、両画像信号から検出した特徴を対応させる。そして、対応させた特徴の画像上の位置により、結像レンズ27A、27Bの光軸Xa、Xbに対するその特徴までの角度をそれぞれ決定する。続いて、それらの角度と、受光センサ23A、23B間の距離d1とから、三角測量の原理により、光学情報読み取り装置10から撮像対象物Rまでの距離を算出する。なお、ここでの距離は、各受光センサ23A、23Bから撮像対象物Rまでの2つの距離が算出可能である。これら2つの距離のうち、以下では、読み取り処理に用いる画像と同じ側の距離を用いる。
【0030】
続くステップS2は特許請求の範囲の画像領域分割手段に相当し、上記ステップS1の処理により得た距離、および画像の輝度、エッジを用いて、撮像対象物Rを複数の領域に分割する。具体的には、まず、距離の変化が不連続となる箇所、エッジや輝度変化が大きい箇所を境界として、撮像対象物Rを複数の面に分割する。よって、エッジがなく、輝度変化も小さく、距離変化もなだらかであれば同一の面とする。そして、その面を、さらに、距離によりグループに分類することで領域を設定する。図7は、図6の円柱60を含む画像を複数の面に分割した図である。図7に示すように面が設定された場合には、領域としては、円柱60と背景70とが設定される(図8参照)。なお、面を設定する際にも、また、領域を設定する際にも距離を用いるが、領域を設定する際には、面に分割するよりも距離の乖離が大きい場合に別領域とする。
【0031】
図9は、光学情報読み取り装置10の中心軸XC(図2参照)に対して円柱60が傾いている(中心軸XCに対して垂直でないことを意味する)状態で、受光センサ23A、23Bにより撮像された画像の一部の例であり、図10は、図9の画像をもとにステップS1、S2の処理を行って得られた面を示す図である。円柱60が傾いていることにより、同図に矢印で示すように、円柱60は、一方の端から他方の端に向かうに従って異なる面に分割されている。しかし、隣り合う面の間の距離の変化は小さいことから、このように円柱60が傾いている場合にも、図11に示されるように、円柱60と背景70の2つの領域が設定される。
【0032】
続くステップS3は特許請求の範囲の領域選択手段に相当し、上記ステップS2で分割した複数の領域から、読み取り処理を行う領域を選択する。領域の選択は、次の3つの領域選択条件に基づいて行う。これら3つの領域選択条件は、それぞれ、(1)画像の中央付近に存在すること、(2)前面に位置すること、(3)ある程度の大きさを持つ領域であること、である。これら3つの領域選択条件は、コード撮像時には、通常、コードが画像中央付近にくるように撮像すると考えられること、コードが何かに隠れる状態では撮像しないと考えられること、あまり狭いところにはコードは配置されないと考えられることから設定される条件である。(3)の条件により、仮に、基板上の素子が(1)、(2)を満たすとしても、読み取り領域として、素子が選択されることはない。また、図8や図11の例では、円柱60の領域が(1)〜(3)の条件を全て満たすので、読み取り処理を行う領域として選択されることになる。
【0033】
続くステップS4では、読み取り処理を行う領域を決定できたか否か、すなわち、ステップS3で領域を選択できたか否かを判断する。領域分割が適切にできなかったり、あるいは、上記領域選択条件に適合する領域がなかった場合に、ステップS3において領域選択ができず、この場合にステップS4は否定判断となる。
【0034】
ステップS4の判断が否定判断である場合にはステップS12へ進み、全範囲読み取りを行う。この全範囲読み取りとは、受光センサ23の予め設定された全範囲の画像信号を取得し、その全範囲の画像信号に対して二値化処理、デコード処理等を行ってQRコードQから情報を読み取る処理である。ここで、全範囲とは、全画素であってもよいし、また、範囲マーカを照射するようになっている場合には、その範囲マーカにより規定される範囲の画素でもよい。また、本実施形態では、2つの受光センサ23A、23Bを備えているが、いずれの受光センサ23A、23Bの信号を用いるかは予め設定されている。
【0035】
ステップS4が肯定判断である場合にはステップS5以下を実行する。ステップS5では、読み取り領域の画像の歪みを判定する。画像の歪みの判定には、ステップS3で選択した読み取り領域に対して、ステップS1の処理の際に得られた距離を用いる。具体的には、まず、読み取り領域内で距離が決定可能な点から、基準となる点(たとえば画像中心)を決定する。そして、読み取り領域が、その基準点を含み且つ光学情報読み取り装置10の中心軸XCに垂直な平面であるとして、読み取り領域内の他の点の距離(平面仮定距離という)を算出する。そして、その平面仮定距離と、ステップS1の処理の際に得られた距離とを比較し、各点において、両距離の差がいずれも所定値以下であれば歪みがないと判定し、両距離の差が所定値よりも大きい点があれば歪みがあると判定する。なお、このようにして判定する画像の歪みは、撮像対象物Rが傾いていたり、或いは、読み取り領域が平面でない(湾曲している)ことに起因するものである。
【0036】
続くステップS6は特許請求の範囲のボケ量推定手段に相当する。ステップS6では、読み取り領域の画像のボケを判定する。ボケの判定は、読み取り領域までの距離が、被写界深度内に入っているか否かで判断する。ここで、読み取り領域までの距離としては、読み取り領域の中心、あるいは、読み取り領域内で距離決定可能な点のうち最も読み取り領域の中心に近い点と光学情報読み取り装置10との間の距離を用いる。被写界深度は、よく知られているように、前方被写界深度Lfと後方被写界深度Lrとからなる。これら前方被写界深度Lfおよび後方被写界深度Lrは、それぞれ下記式により表される。
【数1】

【0037】
なお、式中のδは許容錯乱円、FはF値、fは焦点距離、Lはベストフォーカスを表す。
【0038】
読み取り領域までの距離が、上記被写界深度の範囲内に入っている場合にはボケはないと判定する。一方、読み取り領域までの距離が被写界深度の範囲外であれば、被写界深度から外れている長さをボケ量として算出する。
【0039】
続くステップS7では、ステップS5で歪みがあると判定したか否かを判断する。この判断が肯定判断である場合にはステップS8へ進み、否定判断である場合にはステップS8を経ずにステップS9へ進む。
【0040】
ステップS8は特許請求の範囲の画像補正手段に相当し、読み取り領域の画像に対して歪み補正を行う。この補正は、読み取り領域の画像を、読み取り領域の画像を撮像した側の結像レンズ27の光軸Xに垂直な平面であるとした場合の画像に補正するものである。このステップS8を、図12、13を用いて具体的に説明する。図12は、撮像対象物Rが円柱60である場合の例であり、円柱60の軸に垂直な断面における補正前画像80と補正後画像82とを概念的に示している。なお、図12は、円柱60の軸に垂直な断面であることから、補正前画像80も補正後画像82も、図12では線分である。補正前画像80は、円柱60を仮想平面Pに投影した画像である。よって、補正後画像82は、たとえば、補正前画像80に対して投影変換の逆変換を行うことにより作成できる。このようにして作成された補正後画像82は、湾曲している読み取り領域が仮想平面P上に展開された画像となる。
【0041】
図13は、撮像対象物Rが直方体62である場合の例であり、結像レンズ27の光軸Xを含む面で直方体62を切断した断面における補正前画像90と補正後画像92とを概念的に示している。この図13の例では、直方体62において結像レンズ27に対向している面は、結像レンズ27の光軸Xに対して垂直にはなっていない。より詳しくは、この図13の例では、読み取り領域のうち光軸X上の点を基準点とし、その基準点を通り光軸Xに垂直な面を仮想平面Pとすると、基準点よりも図上側は仮想平面Pよりも結像レンズ27に近く、基準点よりも図下側は仮想平面Pよりも結像レンズ27から遠い。この場合、補正後画像92を補正前画像90と比較すると、補正後画像92は、基準点よりも図下側の長さが補正前画像90に対して長くされ、基準点よりも図上側の長さが補正前画像90に対して短くされている。なお、図13の場合にも、補正後画像92は、投影変換の逆変換等により、補正前画像90を変換することにより得られる。
【0042】
説明を図5に戻す。ステップS9では、ステップS6でボケがあると判定したか否かを判断する。この判断が肯定判断である場合にはステップS10へ進み、否定判断である場合にはステップS10を経ずにステップS11へ進む。
【0043】
ステップS10は特許請求の範囲のボケ補正手段に相当し、読み取り領域の画像のボケを、ステップS6で算出したボケ量に基づいて補正する。具体的には、ボケ量に応じて係数を設定した鮮鋭化フィルタを施したり、或いは、ボケ量に応じて係数や閾値を設定したエッジ検出処理を行う。
【0044】
そして、ステップS11では領域読み取り処理を行う。領域読み取り処理は、歪み判定(ステップS5)、ボケ判定(ステップS6)の判定結果に応じて歪み補正やボケ補正を行った読み取り領域の画像を用いて読み取り処理を行うものであり、用いる画像が異なる以外は、ステップS12の読み取り処理と同じ処理である。
【0045】
以上、説明した本実施形態によれば、光学情報読み取り装置10から撮像対象物Rの複数の点までの距離を測定し(ステップS1)、測定した距離に基づいて、受光センサ23が撮像した画像を複数の領域に分割する(ステップS2)。距離により画像を複数の領域に分割することから、輝度変化やエッジに基づいて領域を分割する場合と異なり、QRコードQに起因する輝度変化以外の種々の輝度変化が撮像対象物Rにあってもその影響を受けない。よって、QRコードQを含む領域に精度よく絞り込むことができ、その後の読み取り処理をやり直す場合が低下するので、読み取り速度が向上する。また、領域の絞り込みの精度が向上することから、情報の読み取り精度も向上する。
【0046】
また、本実施形態によれば、光学情報読み取り装置10から撮像対象物Rまでの距離を測定していることを活用して、読み取り領域の画像を、その読み取り領域が、結像レンズ27の光軸Xに垂直な平面であるとした場合の画像に補正している(ステップS8)。よって、読み取り領域が傾いていたり、また、読み取り領域が湾曲していても、それら傾きや湾曲が補正される。その結果、読み取り領域の画像に含まれているQRコードQの歪みも補正される。これによっても、QRコードQの読み取り精度が向上する。
【0047】
さらに、本実施形態によれば、光学情報読み取り装置10から撮像対象物Rまでの距離を測定していることを活用して、読み取り領域のボケ量を推定している(ステップS6)。そして、推定したボケ量に基づいて、読み取り領域の画像のボケを補正しているので、ボケを精度よく補正することができる。これによっても、QRコードQの読み取り精度が向上する。
【0048】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、次の実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0049】
たとえば、前述の実施形態では、受光センサ23およびそれに対応する光学系を2組備えており、2つの受光センサ23からの画像信号をもとにステレオ法の演算を行っていた。しかし、光学情報読み取り装置10の相対的あるいは絶対的位置を検出する位置検出手段を備えれば、受光センサ23およびそれに対応する光学系を1組とすることもできる。この位置検出手段としては、たとえば、移動方向とともに移動速度を検出する速度センサと、撮像時点と次の撮像時点との時間差を計測する計時手段と、それら速度センサ、計時手段によって得られた移動方向、移動速度および時間差から演算により位置の変化を検出する位置演算手段とから構成することができる。
【0050】
位置検出手段を備える構成の場合、互いに異なる複数(たとえば2箇所)の位置において撮像対象物Rを撮像するとともに、その撮像位置を位置検出手段により検出する。また、この光学情報読み取り装置10の向きの相対変化も検出する。光学情報読み取り装置10の向きの検出には、たとえば、三軸加速度センサやジャイロセンサを用いる。また、これら向きを検出するセンサを用いて速度を求めても良い。このようにして撮像位置および撮像時の向きが検出できれば、前述の実施形態と同様に、ステレオ法を適用することができる。
【0051】
また、ステレオ法に限られず、レーザにより撮像対象物Rまでの距離を計測してもよい。この場合、光学情報読み取り装置10に、レーザ光を照射方向を制御しつつ照射するとともに、レーザ光が外部の物体に反射した反射光を受光するレーザ光送受手段を備える。そして、レーザ光を照射してから、そのレーザ光の反射光を受光するまでの時間差と、レーザ光の照射方向とに基づいて、撮像対象物の複数の点までの距離を推定する。
【0052】
また、前述の実施形態では、領域分割する際に、距離の変化に加えて、輝度変化やエッジを用いていたが、距離の変化のみにより領域を分割してもよい。また、前述の実施形態では、複数の領域から、3つの領域選択条件を用いて、読み取り領域を選択していたが、3つの条件のうちのいずれか1つまたは2つの条件のみを用いてもよいし、また、(1)〜(3)の条件に代えて他の条件を用いてもよいし、また、(1)〜(3)の条件に加えて他の条件を追加してもよい。
【0053】
また、前述の実施形態の光学情報読み取り装置10は携帯型であったが、本発明は固定型にも適用できる。また、レールに沿って光学情報読み取り装置を移動可能としてもよい。さらに、その場合、位置検出手段として、レールに光学情報読み取り装置の位置を検出するセンサを設けてもよい。
【符号の説明】
【0054】
10:光学情報読み取り装置、 11:ハウジング、 11a:読取口、 12:操作スイッチ、 14:操作スイッチ、 15:プリント配線板、 16:プリント配線板、 20:回路部、 21:赤色発光ダイオード、 23:受光センサ、 24:受光面、 27:結像レンズ、 31:増幅回路。 33:A/D変換回路、 35:メモリ、 36:アドレス発生回路、 38:同期信号発生回路、 40:制御回路、 41:電源スイッチ、 43:LED、 44:ブザー、 46:液晶表示器、 48:通信インターフェース、 49:二次電池、 52:集光レンズ、 60:円柱、 62:直方体、 70:背景、 80:補正前画像、 82:補正後画像、 90:補正前画像、 92:補正後画像、 P:仮想平面、 Q:QRコード
R:撮像対象物、 Lf:照明光、 Lr:反射光、 VP:線分、 XA、XB:(撮像エリアの)中心軸、 Xa、Xb:光軸、 XC:(光学情報読み取り装置10の)中心軸、 S1:距離推定手段、 S2:画像領域分割手段、 S3:領域選択手段、 S6:ボケ量推定手段、 S10:ボケ補正手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報コードが示された撮像対象物を撮像する撮像手段と、撮像手段が撮像した画像から読み取り領域を絞り込み、その読み取り領域の画像に対して読み取り処理を行う読み取り処理手段とを備え、前記読み取り処理により情報コードから情報を読み取る光学情報読み取り装置であって、
この光学情報読み取り装置から前記撮像対象物の複数の点までの距離を推定する距離推定手段と、
前記距離推定手段が推定した距離に基づいて、前記撮像手段が撮像した画像を複数の領域に分割する画像領域分割手段と、
その画像領域分割手段が分割した複数の領域から、前記読み取り領域を選択する領域選択手段と
を含むことを特徴とする光学情報読み取り装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記距離推定手段が推定した前記読み取り領域内の複数の点までの距離に基づいて、前記読み取り領域の画像を、その読み取り領域が、前記撮像手段の光軸に垂直な平面であるとした場合の画像に補正する画像補正手段を備え、
前記読み取り手段は、前記画像補正手段が補正した画像を用いて読み取り処理を行うことを特徴とする光学情報読み取り装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記距離推定手段が推定した前記読み取り領域内の複数の点までの距離と、予め記憶されている前記撮像手段の被写界深度とに基づいて、前記読み取り領域の画像のボケ量を推定するボケ量推定手段と、
そのボケ量推定手段が推定したボケ量に基づいて、前記読み取り領域の画像のボケを補正するボケ補正手段とを備え、
前記読み取り手段は、前記ボケ補正手段が補正した画像を用いて読み取り処理を行うことを特徴とする光学情報読み取り装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、
光軸が互いに異なるとともに、互いの距離が既知の複数の撮像手段を備え、
前記距離推定手段は、前記複数の撮像手段が撮像した画像に基づいてステレオ法により前記撮像対象物の複数の点までの距離を推定することを特徴とする光学情報読み取り装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項において、
前記光学情報読み取り装置は移動可能になっており、
この光学情報読み取り装置の位置を検出する位置検出手段を備え、
前記距離推定手段は、互いに異なる複数の位置において前記撮像手段が撮像した前記撮像対象物の画像およびその画像を撮像したときに前記位置検出手段が検出した光学情報読み取り装置の位置に基づいて、ステレオ法により前記撮像対象物の複数の点までの距離を推定することを特徴とする光学情報読み取り装置。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項において、
レーザ光を照射方向を制御しつつ照射するとともに、レーザ光が外部の物体に反射した反射光を受光するレーザ光送受手段を備え、
前記距離推定手段は、前記レーザ光送受手段がレーザ光を照射してから反射光を受光するまでの時間差とレーザ光の照射方向とに基づいて、前記撮像対象物の複数の点までの距離を推定することを特徴とする光学情報読み取り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図12】
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【図13】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−181757(P2012−181757A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45345(P2011−45345)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(501428545)株式会社デンソーウェーブ (1,155)
【Fターム(参考)】