説明

光学成形体用樹脂組成物及びその光学成形体

【課題】 新規な光学成形体用樹脂組成物およびその光学成形体を提供するものである。
【解決手段】 (i)スチレン系単量体単位45〜70質量%、マレイミド系単量体単位30〜55質量%、および不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位0〜5質量%からなり、かつ残存マレイミド系単量体量が300ppm以下であるスチレン−マレイミド系共重合体(A)20〜50質量%と、
(ii)スチレン系単量体単位70〜84質量%、アクリロニトリル系単量体単位16〜30質量%からなるスチレン−アクリロニトリル系共重合体(B)50〜80質量%と
を含有してなる光学成形体用樹脂組成物を構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学成形体用樹脂組成物及びその光学成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ表示素子、エレクトロルミネッセンス素子などに、光学異方性を制御した光学成形体が用いられている。
【0003】
光学用成形体には数多くの種類がある。例えば、光学フィルムがある。光学フィルムの1つとして、液晶ディスプレイの液晶の位相差を補償したり、視野角を向上させたりする役割を担う位相差フィルムと呼ばれるフィルムがある。
これら技術として次のようなものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−040258号公報
【特許文献2】特開2005−292311号公報
【特許文献3】特開2008−094912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新規な光学成形体用樹脂組成物およびその光学成形体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下を要旨とするものである。
(1)(i)スチレン系単量体単位45〜70質量%、マレイミド系単量体単位30〜55質量%、および不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位0〜5質量%からなり、かつ残存マレイミド系単量体量が300ppm以下であるスチレン−マレイミド系共重合体(A)20〜50質量%と、
(ii)スチレン系単量体単位70〜84質量%、アクリロニトリル系単量体単位16〜30質量%からなるスチレン−アクリロニトリル系共重合体(B)50〜80質量%と
を含有してなる光学成形体用樹脂組成物。
(2)スチレン系単量体全量と、不飽和ジカルボン酸無水物の仕込み量の一部と、を主体とする混合液に、不飽和ジカルボン酸無水物の仕込み量の残りを分割または連続的に添加しながら重合させて得たスチレン−不飽和ジカルボン酸無水物系共重合体を、第1級アミンでイミド化することで得たスチレン−マレイミド系共重合体を含有してなることを特徴とする(1)載の光学成形体用樹脂組成物。
(3)スチレン−不飽和ジカルボン酸無水物系共重合体が、非重合性溶剤中で溶液重合により得られることを特徴とする(2)記載の光学成形体用樹脂組成物。
(4)スチレン−アクリロニトリル系共重合体が塊状重合もしくは溶液重合により得られることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の光学成形体用樹脂組成物。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の光学成形体用樹脂組成物からなる光学成形体。
(6)溶融押出フィルムであることを特徴とする(5)記載の光学成形体。
(7)延伸フィルムであることを特徴とする(6)記載の光学成形体。
(8)位相差フィルムであることを特徴とする(7)記載の光学成形体。
ここで、「光学成形体用樹脂組成物」は、射出成形体、シート、フィルム等公知の成形体で使用でき、フィルムを成形する方法は特に制限はないが、フィルム押出機を用いて溶融押出する方法が好ましい。
また、「光学成形体」とは、導光板、拡散シート、位相差フィルム、反射防止フィルム、偏光子保護フィルム等の光学用途に使用される光学成形体であり、「溶融押出フィルム」とは、溶融押出により成形されたフィルムをいう。
【発明の効果】
【0007】
本発明の光学成形体用樹脂組成物は、透明性、耐熱性、熱安定性、および色相が良好なことから光学成形体に有用である。また、本発明の光学成形体用樹脂組成物からなる溶融押出フィルムは、薄型液晶表示素子用の光学フィルムに有用であり、特に延伸したフィルムは負の配向複屈折性を示し、かつ位相差発現性に優れることから位相差フィルムに有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<用語の説明>
本願明細書において、「〜」という記号は「以上」及び「以下」を意味する。例えば、「A〜B」なる記載は、A以上でありB以下であることを意味する。
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
<光学成形体用樹脂組成物>
本実施形態は、スチレン−マレイミド系共重合体(A)とアクリロニトリル−スチレン系共重合体(B)とを含有してなる光学成形体用樹脂組成物に関するものである。
【0011】
<スチレン系単量体>
スチレン系単量体としては、特に限定せず、任意の公知のスチレン系単量体を用いることができるが、入手の容易性などの観点からスチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン等のスチレン系単量体が挙げられ、これらの中でも相溶性の観点からは、特にスチレンが好ましい。また、これらのスチレン系単量体は2種以上の混合であってもよい。
【0012】
<マレイミド系単量体>
マレイミド系単量体としては、特に限定せず、任意の公知のマレイミド系単量体を用いることができるが、入手の容易性、耐熱付与効果などの観点からは、例えば、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のN−アルキルマレイミド、及びN−フェニルマレイミド、N−クロルフェニルマレイミド、N−メチルフェニルマレイミド、N−メトキシフェニルマレイミド、N−トリブロモフェニルマレイミド等のN−アリールマレイミド等のマレイミド系単量体が挙げられ、これらの中でも耐熱付与効果の観点から特にN−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミドが好ましい。また、これらのマレイミド系単量体は2種以上の混合であってもよい。
【0013】
<不飽和ジカルボン酸無水物単量体>
不飽和ジカルボン酸無水物単量体としては、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、アコニット酸等の無水物が挙げられ、スチレン−アクリロニトリル系共重合体(B)との相溶性の観点から、特にマレイン酸無水物が好ましい。また、これらの不飽和ジカルボン酸無水物単量体は2種以上の混合であってもよい。
【0014】
<アクリロニトリル系単量体>
アクリロニトリル系単量体としては、特に限定せず、任意の公知のアクリロニトリル系単量体を用いることができるが、入手の容易性、相溶性などの観点からアクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられ、これらの中では特に相溶性の観点からアクリロニトリルが好ましい。また、これらのアクリロニトリル系単量体は2種以上の混合であってもよい。
【0015】
<その他共重合可能なビニル系単量体>
スチレン−マレイミド系共重合体(A)には、共重合可能なビニル系単量体単位、例えばアクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2エチルヘキシル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2エチルヘキシル等の単量体単位をマレイミド系共重合体(A)に5質量%未満であれば含有してもよい。
また、スチレン−アクリロニトリル系共重合体(B)には、共重合可能なビニル系単量体単位、例えばアクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2エチルヘキシル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2エチルヘキシル、マレイン酸無水物等の単量体単位をスチレン−アクリロニトリル系共重合体(B)に対して5質量%未満であれば含有してもよい。
これらのビニル系単量体単位が5質量%未満であれば本願発明の効果を損なわないからである。
【0016】
<スチレン−マレイミド系共重合体(A)>
スチレン−マレイミド系共重合体(A)の構成比率は、スチレン系単量体単位45〜70質量%、マレイミド系単量体単位30〜55質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位0〜5質量%であり、好ましくは、スチレン系単量体単位50〜60質量%、マレイミド系単量体単位35〜50質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位0〜2.5質量%である。
【0017】
スチレン系単量体単位が45質量%以上、または、マレイミド系単量体単位が55質量%以下であれば、溶融粘度が高くなり過ぎず、本実施形態のスチレン−アクリロニトリル系共重合体(B)との混練性を良好に保つことができるため、未溶融ブツの発生を抑制することができる。
スチレン系単量体単位が70質量%以下、または、マレイミド系単量体単位が30質量%以上であれば、透明性を十分に確保することができる。
【0018】
また、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位は、任意配合成分である。スチレン−マレイミド系共重合体中に不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位を配合することにより、相溶性が向上する場合がある。不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位が5質量%以下であれば、熱安定性を良好に保つことができる。
【0019】
スチレン−マレイミド系共重合体(A)に含まれる残存マレイミド系単量体量は、300ppm以下であり、好ましくは250ppm以下、さらに好ましくは200ppm以下である。この残存マレイミド系単量体量が300ppm以下であれば、色相が良好に維持できるので好ましい。
【0020】
なお、スチレン−マレイミド系共重合体(A)に含まれる残存マレイミド系単量体量は、下記記載の測定条件で測定した。
装置名:GC−2010(島津製作所製)
カラム:キャピラリーカラム DB−5MS(フェニルアレンポリマー)
温度 :注入口280℃、検出器280℃
カラム温度80℃(初期)で昇温分析を行う。
(昇温分析条件) 80℃;ホールド12分
80〜280℃;20℃/分で昇温10分
280℃;ホールド10分
検出器:FID
手順 :試料0.5gをウンデカン(内部標準物質)入り1,2−ジクロロエタン溶液(0.014g/L)5mlに溶解させる。その後、n−ヘキサン5mlを加えて振とう器で10〜15分間振とうし、析出させる。ポリマーを析出・沈殿させた状態で上澄み液のみをGCに注入する。得られたマレイミド系単量体のピーク面積から、内部標準物質より求めた係数を用いて、定量値を算出する。
【0021】
<マレイミド系共重合体の製造方法>
スチレン−マレイミド系共重合体の重合様式においては、特に限定がなく、例えば溶液重合、塊状重合などの公知の方法で製造できるが、分添等を行いながら重合することで共重合組成がより均一な所望のスチレン−マレイミド系共重合体を得ることが出来るという観点からは溶液重合がより好ましい。また、スチレン−マレイミド系共重合体の溶液重合で用いる溶剤は、副生成物が出来難く、悪影響が少ないという観点からは非重合性であることが好ましい。さらに、スチレン−マレイミド系共重合体の重合プロセスは回分式重合法、半回分式重合法、連続重合法のいずれの方式であっても差し支えない。
【0022】
スチレン−マレイミド系共重合体の重合方法は、特に限定されないが、簡潔なプロセスによって生産性よく製造することが可能であるという観点からは、ラジカル重合により得られることが好ましい。また、スチレン−マレイミド系共重合体の重合反応に用いられる重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、入手容易性、反応制御のし易さなどの観点からは、例えばアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスメチルプロピオニトリル、アゾビスメチルブチロニトリル等の公知のアゾ化合物や、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、エチル−3,3−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ブチレート等の公知の有機化酸化物を用いることができる。これらの重合開始剤は2種以上を併用しても差し支えない。また、重合の反応速度や重合率制御の観点からは、従来のスチレン系樹脂の製造において常用されているもの、例えば10時間半減期温度が70〜120℃であるアゾ化合物や有機過酸化物を用いるのが好ましい。
【0023】
これらの重合開始剤の使用量は、特に限定されるものではないが、全単量体単位100質量部に対して0.1〜1.5質量部使用する事が好ましく、さらに好ましくは0.1〜1.0質量部である。これらの重合開始剤の使用量が0.1質量部以上であれば、十分な重合速度が得られるため好ましい。一方、これらの重合開始剤の使用量が1.5質量部以下に抑えられれば重合速度が抑制できるため反応制御が容易になり、スチレン−マレイミド系共重合体の目標分子量を得ることが簡単になる。
【0024】
スチレン−マレイミド系共重合体の製造には、連鎖移動剤を使用することが出来る。使用される連鎖移動剤としては、特に限定されるものではないが、入手容易性、分子量制御のし易さなどの観点からは、例えばn−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンや2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン等の公知の連鎖移動剤を用いることが出来る。これらの連鎖移動剤の使用量は、スチレン−マレイミド系共重合体の目標分子量が得られる範囲であれば、特に限定されるものではないが、全単量体単位100質量部に対し0.1〜0.8質量部使用することが好ましく、更に好ましくは0.15〜0.5質量部である。これらの連鎖移動剤の使用量が0.1質量部以上かつ0.8質量部以下であれば、スチレン−マレイミド系共重合体の目標分子量を容易に得ることができる。
【0025】
スチレン−マレイミド系共重合体の溶液重合で用いる非重合性溶剤の種類としては、特に限定されるものではないが、例えば、入手容易性、共重合体の溶解性などの観点からは、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン等の溶剤があり、スチレン−マレイミド系共重合体の脱揮回収時における溶剤除去の容易性からメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが特に好ましい。
【0026】
ここで、マレイミド単量体単位の導入方法としては、マレイミド系単量体とスチレン系単量体とを共重合する方法(直接法)、或いは不飽和ジカルボン酸無水物とスチレン系単量体とを予め共重合しておき、更に第1級アミンで不飽和ジカルボン酸無水物基を反応させる事により不飽和ジカルボン酸無水物基をマレイミド単量体単位に変換する方法(後イミド化法)がある。後イミド化法の方が、共重合体中の残存マレイミド系単量体量が少なくなるので好ましい。
【0027】
後イミド化法に使用される第1級アミンとしては、特に限定されるものではないが、入手容易性の観点からは、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、iso−プロピルアミン、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、デシルアミン等のアルキルアミン類及びクロル又はブロム置換アルキルアミン、アニリン、トルイジン、ナフチルアミン等の芳香族アミンが挙げられるが、耐熱付与性、反応性、取り扱い易さなどの観点からは、これらの中でアニリン、シクロヘキシルアミンが特に好ましい。また、これらの第1級アミンは単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても差し支えない。なお、これらの第1級アミンの添加量は特に限定されるものではないが、不飽和ジカルボン酸無水物基に対して好ましくは0.7〜1.1モル当量、さらに好ましくは0.85〜1.05モル当量である。これらの第1級アミンの添加量が0.7モル当量または0.85モル当量以上であれば、スチレン−マレイミド系共重合体中の不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位が10質量%以下に抑制でき、熱安定性が良好に維持される。また、1.1モル当量または1.05モル当量以下であれば、スチレン−マレイミド系共重合体中に残存する第1級アミン量が少なくなるので好ましい。
【0028】
マレイミド単量体単位を後イミド化法で導入する際、第1級アミンと不飽和ジカルボン酸無水物基との反応、特に不飽和ジカルボン酸無水物基からマレイミド基に変換する反応において、脱水閉環反応を向上させる目的で必要に応じて触媒を使用する事ができる。触媒の種類は特に限定されるものではないが、例えば第3級アミンを使用する事ができる。第3級アミンとしては、特に限定されるものではないが、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N、N−ジメチルアニリン、N、N−ジエチルアニリン等が挙げられる。
【0029】
第3級アミンの添加量は、特に限定されるものではないが、生産性向上の観点からは、不飽和ジカルボン酸無水物基に対し、0.01モル当量以上が好ましい。
【0030】
本実施形態におけるイミド化反応の温度は、好ましくは100〜250℃であり、さらに好ましくは120〜200℃である。このイミド化反応の温度が100℃以上であれば反応速度が向上するので反応完結までに長時間を要さず生産性の面から好ましい。一方、このイミド化反応の温度が250℃以下に抑えられる場合には、スチレン−マレイミド系共重合体の熱劣化による物性低下をきたしにくいので好ましい。
【0031】
後イミド化法で重合する場合、不飽和ジカルボン酸無水物とスチレン系単量体とを重合初期に全量仕込んで重合することも出来るが、不飽和ジカルボン酸無水物とスチレン系単量体とは交互共重合性が強いため、重合初期には不飽和ジカルボン酸無水物とスチレン系単量体のモル比が1:1の組成をもつ交互共重合体が生成する。所望のスチレン−マレイミド系共重合体の構成単位を得るには、スチレン系単量体を不飽和ジカルボン酸無水物より高いモル比に仕込む必要があることから、初期に全量仕込んで重合した場合、重合後期にはスチレン系単量体単位の多い共重合体が生成し易くなり、その結果組成分布の大きくなる。組成分布が小さい共重合体を得るには、スチレン系単量体全量と不飽和ジカルボン酸無水物の仕込み量の一部を重合初期に仕込み、不飽和ジカルボン酸無水物の仕込み量の残りを分割または連続的に添加しながら重合させることが好ましい。不飽和ジカルボン酸無水物の重合初期に仕込む量と分割または連続添加する量との比率は5/95〜50/50が好ましく、更に好ましくは10/90〜25/75である。不飽和ジカルボン酸無水物の重合初期に仕込む量と分割または連続添加する量との比率がこれらの範囲内にあれば、組成分布が小さなスチレン−マレイミド系共重合体が得られる。
【0032】
重合の反応速度と重合率の制御は、重合温度、重合時間、重合開始剤量、単量体の添加速度等により制御することが出来る。スチレン−マレイミド系共重合体の残存マレイミド系単量体量は300ppm以下であることから、直接法においてはマレイミド系単量体の重合率が99.9%以上、後イミド化法においては、不飽和ジカルボン酸無水物の重合率が99.9%以上となるように適宜条件を調整することが好ましい。例えば、後イミド化法の場合であれば、初期の重合温度は80〜110℃が好ましく、重合後期には重合率を向上させるため110℃〜150℃とすることが好ましい。また、不飽和ジカルボン酸の添加速度は、スチレン系単量体の重合率が80〜95%となる時点で添加が終了するように調整することが好ましい。さらに重合時間、重合開始剤量を調整することで不飽和ジカルボン酸無水物の重合率を99.9%以上にすることが出来る。そして、スチレン−マレイミド系共重合体中の残存マレイミド系単量体量が300ppm以下(重合率99.9%以上に相当)の場合には、色相に優れたマレイミド系共重合体が得られ、また、これを使用して得られる光学成形体用樹脂組成物においても色相が良好なものが得られる。
【0033】
そして、重合に用いた非重合性の溶剤や未反応の単量体などの揮発成分を取り除く方法については、特に限定はなく公知の方法を用いることが出来るが、工業的な規模で採用できる方法としてベントタイプスクリュー式押出機を用いる方法が好ましい。ベントタイプスクリュー式押出機を用いる場合の脱揮条件としては、樹脂温度を310〜340℃とし、かつ−92kPaG以下の減圧下で脱揮することが好ましい。真空減圧下で樹脂温度を高くする事により非重合性の溶剤や未反応の単量体は揮発しやすくなるが、樹脂温度が340℃以下に抑えられればマレイミド系共重合体が熱劣化による解重合をしにくいため、マレイミド系単量体量の残存量が増加しにくく、色相に優れ、耐熱性付与効果が高く、さらに混練性に優れたスチレン−マレイミド系共重合体を得るという目的を達成できなくなる場合がある。なお、樹脂温度の調整方法については、押出機のスクリュー回転数やシリンダー温度の調整により行うことが出来る。
【0034】
また、熱劣化によるマレイミド系単量体の発生量を抑える目的で、ラジカル補足剤を用いてもよい。ラジカル捕捉剤は特に限定されるものではないが、フェノール系化合物、有機リン系化合物、有機硫黄系化合物、アミン系化合物等の酸化防止剤が挙げられる。これらのラジカル捕捉剤は単独で用いても良く、2種類以上を併用して用いても良い。これらのラジカル捕捉剤は、ベントタイプスクリュー式押出機でスチレン−マレイミド系共重合体中の揮発性成分を脱揮する工程で著しい熱履歴を受ける事から、ラジカル捕捉剤としての機能を維持するためには耐熱性や熱安定性を有する化合物が特に好ましい。例えば、1%加熱減量温度が300℃を超えるラジカル捕捉剤がさらにいっそう好ましい。本実施形態で使用されるラジカル捕捉剤は、重合後の重合生成物に対して添加する事が好ましい。重合前あるいは重合中に添加すると、重合速度が低下する場合がある。
【0035】
<スチレン−アクリロニトリル系共重合体(B)>
スチレン−アクリロニトリル系共重合体(B)の構成比率は、スチレン系単量体単位70〜84質量%とアクリロニトリル系単量体単位16〜30質量%、好ましくはスチレン系単量体72〜82質量%とアクリロニトリル系単量体18〜28質量%である。
【0036】
スチレン系単量体単位が70質量%以上、または、アクリロニトリル系単量体単位が30質量%以下であれば、十分な色相を確保することができる。
スチレン系単量体単位が84質量%以下、または、アクリロニトリル系単量体単位が16質量%以上であれば、光学成形体の透明性を十分に確保することができる。
【0037】
スチレン−アクリロニトリル系共重合体(B)のスチレン系単量体としては、特に限定せず、任意の公知のスチレン系単量体を用いることができるが、入手の容易性、本実施形態のスチレン−マレイミド系共重合体(A)との相溶性などの観点からスチレン、α−メチルスチレン、ο−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン等のスチレン系単量体が挙げられ、これらの中でも特に相溶性の観点からスチレンが好ましい。また、これらのスチレン系単量体は2種以上の混合であってもよい。
【0038】
スチレン−アクリロニトリル系共重合体(B)の製造法としては、公知の手法が採用でき、例えば、スチレン系単量体、アクリロニトリル系単量体および共重合可能なビニル単量体からなる単量体混合物を共重合させる方法が挙げられる。また、重合の様式は、公知の重合方法が利用できる。その中でも光学成形体の透明性の観点から塊状重合または溶液重合であることが好ましく、さらに好ましくは塊状重合である。
【0039】
<光学成形体用樹脂組成物>
光学成形体用樹脂組成物は、スチレン−マレイミド系共重合体(A)20〜50質量%とスチレン−アクリロニトリル系共重合体(B)50〜80質量%、好ましくはスチレン−マレイミド系共重合体(A)25〜45質量%とスチレン−アクリロニトリル系共重合体(B)55〜75質量%、さらに好ましくは、スチレン−マレイミド系共重合体(A)27.5〜40質量%、スチレン−アクリロニトリル系共重合体(B)60〜72.5質量%とからなる。この範囲で良好な物性が得られる。
スチレン−マレイミド系共重合体(A)が20質量%以上、スチレン−アクリロニトリル系共重合体(B)が80質量%以下であれば、十分な耐熱性を確保することができ、スチレン−マレイミド系共重合体(A)50質量%以下、スチレン−アクリロニトリル系共重合体(B)が50質量%以上であれば、十分な透明性を確保することができる。
【0040】
光学成形体用樹脂組成物の製造方法としては、スチレン−マレイミド系共重合体(A)とスチレン−アクリロニトリル系共重合体(B)とが均一に分散する方法であれば特に制限はなく、公知の混練方法を用いることができる。例えばバンバリーミキサー、ニーダー、単軸もしくは二軸押出機等を用いて溶融混練する方法が挙げられるが、特に美麗なフィルムを得るためには二軸押出機を用いて溶融混練する方法が好ましい。
【0041】
スチレン−マレイミド系共重合体(A)とスチレン−アクリロニトリル系共重合体(B)の押出方法としては、全量一括フィードする方法や、スチレン−マレイミド系共重合体(A)とスチレン−アクリロニトリル系共重合体(B)の一部をスクリューの根元位置からフィードし、スチレン−アクリロニトリル系共重合体(B)の残りをスクリューの中間位置からサイドフィードする方法等が挙げられる。
【0042】
二軸押出機を用いて溶融混練する際の押出条件としては、樹脂温度が260〜320℃であることが好ましく、さらに好ましくは270〜310℃である。シリンダー温度、スクリュー回転数、および原料フィード量を調整することで樹脂温度は調整することができる。
【0043】
二軸押出機のスクリュー長さ/シリンダー径(=L/D)は21〜48の範囲である。スクリュー構成については特に制限はないが、複数のパドル型円盤が右方向にずれて重なったニーディングディスクライト、複数のパドル型円盤が左方向にずれて重なったニーディングディスクレフト、パドル型円盤が90度ずつずれて重なったニーディングディスクニュートラル等のニーディングディスクを複数個組み合わせたものが好ましい。
【0044】
異物除去のため目開きが50μm以下のスクリーンメッシュや焼結フィルター、ポリマーフィルター等を押出機先端のダイス部に設置することができる。
【0045】
光学成形体用樹脂組成物には必要に応じてヒンダードフェノール系化合物、ラクトン系化合物、リン系化合物、イオウ系化合物などの耐熱安定剤、ヒンダードアミン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物等の耐光安定剤、滑剤や可塑剤、着色剤、帯電防止剤、鉱油等の添加剤を配合してもかまわない。その配合量は光学成形体用樹脂組成物100質量部に対して1質量部未満であることが好ましい。
【0046】
光学成形体用樹脂組成物は、フィルムにした時、さらに延伸して配向させるとフィルムが負の配向複屈折性を示すものである。
【0047】
光学成形体用樹脂組成物は、射出成形体、シート、フィルム等公知の成形体で使用でき、フィルムを成形する方法は特に制限はないが、フィルム押出機を用いて溶融押出する方法が好ましい。
【0048】
光学成形体とは、光学用途に使用される成形体、シート、フィルムをいい、溶融押出フィルムとは、溶融押出により形成されたフィルムをいう。
フィルムは、位相差フィルム、反射防止フィルム、偏光子保護フィルム等、公知の光学フィルムをいう。
【0049】
本発明のフィルムは、公知の手法で延伸して配向させることができる。フィルムにした時、さらに延伸して配向させるとフィルムが負の配向複屈折性が発生するため、位相差フィルム用途に最も好ましい。
【0050】
以上、本発明の実施形態について述べてきたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
[実験例A−1]
攪拌機を備えた容積約25リットルのオートクレーブ中にスチレン65質量部、無水マレイン酸7質量部、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン0.2質量部、メチルエチルケトン25質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、温度を92度に昇温し、マレイン酸無水物を28質量部とt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.18質量部をメチルエチルケトン100質量部に溶解した溶液を7時間かけて連続的に添加した。添加後、さらにt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.03質量部を添加して120℃に昇温し、更に1時間反応させてスチレン−無水マレイン酸共重合体を得た。その後、粘調な樹脂液にアニリン32質量部、トリエチルアミン0.6質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のスチレン−マレイミド系共重合体A−1を得た。
【0053】
[実験例A−2]
攪拌機を備えた容積約25リットルのオートクレーブ中にスチレン60質量部、無水マレイン酸8質量部、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン0.3質量部、メチルエチルケトン25質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、温度を92度に昇温し、マレイン酸無水物を32質量部とt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.18質量部をメチルエチルケトン100質量部に溶解した溶液を9時間かけて連続的に添加した。添加後、さらにt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.03質量部を添加して120℃に昇温し、更に1.5時間反応させてスチレン−無水マレイン酸共重合体を得た。その後、粘調な樹脂液にアニリン37質量部、トリエチルアミン0.6質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のスチレン−マレイミド系共重合体A−2を得た。
【0054】
[実験例A−3]
攪拌機を備えた容積約25リットルのオートクレーブ中にスチレン85質量部、マレイン酸無水物3質粒部、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン0.3質量部、メチルエチルケトン25質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、温度を92度に昇温し、マレイン酸無水物を12質量部とt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.18質量部をメチルエチルケトン100質量部に溶解した溶液を7時間かけて連続的に添加した。添加後、さらにt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.03質量部を添加して120℃に昇温し、更に1時間反応させてスチレン−無水マレイン酸共重合体を得た。その後、年長な樹脂液にアニリン13.5質量部、トリエチルアミン0.23質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のスチレン−マレイミド系共重合体A−3を得た。
【0055】
[実験例A−4]
攪拌機を備えた容積約25リットルのオートクレーブ中にスチレン76質量部、マレイン酸無水物6質粒部、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン0.3質量部、メチルエチルケトン25質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、温度を92度に昇温し、マレイン酸無水物を14質量部とt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.18質量部をメチルエチルケトン100質量部に溶解した溶液を7時間かけて連続的に添加した。添加後、さらにt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.03質量部を添加して120℃に昇温し、更に1時間反応させてスチレン−無水マレイン酸共重合体を得た。その後、年長な樹脂液にアニリン21.6質量部、トリエチルアミン0.36質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のスチレン−マレイミド系共重合体A−4を得た。
【0056】
[実験例A−5]
攪拌機を備えた容積約25リットルのオートクレーブ中にスチレン37質量部、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン0.2質量部、メチルエチルケトン25質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、温度を92℃に昇温し、N−フェニルマレイミド63質量部とt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.18質量部をメチルエチルケトン100部に溶解した溶液を10時間かけて連続的に添加した。添加後、さらに、t−ブチルパーオキシ−2−エチルへキサノエート0.03質量部を添加して110℃に昇温し、更に4時間反応させた。反応終了後の樹脂液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のスチレン−マレイミド系共重合体A−5を得た。
【0057】
[実験例A−6]
攪拌機を備えた容積約25リットルのオートクレーブ中にスチレン51質量部、アクリロニトリル9質量部、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン0.2質量部、メチルエチルケトン25質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、温度を92℃に昇温し、N−フェニルマレイミド40質量部とt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.18質量部をメチルエチルケトン100質量部に溶解した溶液を7時間かけて連続的に添加した。添加後、さらにt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.03質量部を添加して120℃に昇温し、更に1時間反応させた。反応終了後の樹脂液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のスチレン−マレイミド系共重合体A−6を得た。
【0058】
[実験例A−7]
攪拌機を備えた容積約25リットルのオートクレーブ中にスチレン65質量部、無水マレイン酸7質量部、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン0.2質量部、メチルエチルケトン25質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、温度を92度に昇温し、マレイン酸無水物を28質量部とt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.18質量部をメチルエチルケトン100質量部に溶解した溶液を7時間かけて連続的に添加した。添加後、さらにt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.03質量部を添加して120℃に昇温し、更に1時間反応させてスチレン−無水マレイン酸共重合体を得た。その後、粘調な樹脂液にシクロヘキシルアミン32質量部、トリエチルアミン0.6質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のスチレン−マレイミド系共重合体A−7を得た。
【0059】
[実験例A−8]
攪拌機を備えた容積約25リットルのオートクレーブ中にスチレン60質量部、無水マレイン酸8質量部、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン0.2質量部、メチルエチルケトン25質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、温度を92度に昇温し、マレイン酸無水物を32質量部とt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.18質量部をメチルエチルケトン100質量部に溶解した溶液を7時間かけて連続的に添加した。添加後、さらにt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.03質量部を添加して120℃に昇温し、更に1時間反応させてスチレン−無水マレイン酸共重合体を得た。その後、粘調な樹脂液にアニリン37質量部、トリエチルアミン0.6質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のスチレン−マレイミド系共重合体A−8を得た。
【0060】
[実験例A−9]
攪拌機を備えた容積約25リットルのオートクレーブ中にスチレン65質量部、2、4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン0.3質量部、メチルエチルケトン25質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、温度を92℃に昇温し、マレイン酸無水物35質量部とt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.18質量部をメチルエチルケトン100部に溶解した溶液を8時間かけて連続的に添加した。添加後、さらにt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.03質量部を添加して120℃に昇温し、更に1時間反応させてスチレン−無水マレイン酸共重合体を得た。その後、粘調な樹脂液にアニリン32質量部、トリエチルアミン0.6質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のスチレン−マレイミド系共重合体A−9を得た。
上記実験例A−1〜A−9の分析結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
[実験例B−1]
撹拌機を付した容積約20リットルの完全混合型反応器[、予熱器を付した脱揮槽を接続して構成した。スチレン85質量部、アクリロニトリル15質量部、エチルベンゼン15質量部で構成される単量体混合液を調整し、さらにt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.015質量部とn−ドデシルメルカプタン0.013質量部を混合し原料溶液とした。この原料溶液を毎時5kgで温度120℃に制御した完全混合型反応器に導入した。なお、完全混合型反応器の撹拌数は180rpmで実施した。次いで完全混合型反応器より反応液を連続的に抜き出し、この反応液を予熱器で加温しながら、温度235℃で圧力1.0kPaに制御した脱揮槽に導入し、未反応単量体等の揮発分を除去した。この樹脂液をギアポンプで抜き出し、ストランド状に押出し切断することによりペレット形状の重合体B−1を得た。
【0063】
[実験例B−2]
撹拌機を付した容積約20リットルの完全混合型反応器、予熱器を付した脱揮槽を接続して構成した。スチレン73.6質量部、アクリロニトリル26.4質量部、エチルベンゼン20質量部で構成される単量体混合液を調整し、さらにt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.015質量部とn−ドデシルメルカプタン0.013質量部を混合し原料溶液とした。この原料溶液を毎時5kgで温度120℃に制御した完全混合型反応器に導入した。なお、完全混合型反応器の撹拌数は180rpmで実施した。次いで完全混合型反応器より反応液を連続的に抜き出し、この反応液を予熱器で加温しながら、温度235℃で圧力1.0kPaに制御した脱揮槽に導入し、未反応単量体等の揮発分を除去した。この樹脂液をギアポンプで抜き出し、ストランド状に押出し切断することによりペレット形状の重合体B−2を得た。
【0064】
[実験例B−3]
撹拌機を付した容積約20リットルの完全混合型反応器、予熱器を付した脱揮槽を接続して構成した。スチレン69質量部、アクリロニトリル31質量部、エチルベンゼン18質量部で構成される単量体混合液を調整し、さらにt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.015質量部とn−ドデシルメルカプタン0.013質量部を混合し原料溶液とした。この原料溶液を毎時5kgで温度120℃に制御した完全混合型反応器に導入した。なお、完全混合型反応器の撹拌数は180rpmで実施した。次いで完全混合型反応器より反応液を連続的に抜き出し、この反応液を予熱器で加温しながら、温度235℃で圧力1.0kPaに制御した脱揮槽に導入し、未反応単量体等の揮発分を除去した。この樹脂液をギアポンプで抜き出し、ストランド状に押出し切断することによりペレット形状の重合体B−3を得た。
【0065】
[実験例B−4]
撹拌機を付した容積約20リットルの完全混合型反応器、予熱器を付した脱揮槽を接続して構成した。スチレン56.1質量部、α−メチルスチレン17.5質量部、アクリロニトリル26.4質量部、エチルベンゼン18質量部で構成される単量体混合液を調整し、さらにt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.015質量部とn−ドデシルメルカプタン0.013質量部を混合し原料溶液とした。この原料溶液を毎時5kgで温度120℃に制御した完全混合型反応器に導入した。なお、完全混合型反応器の撹拌数は180rpmで実施した。次いで完全混合型反応器より反応液を連続的に抜き出し、この反応液を予熱器で加温しながら、温度235℃で圧力1.0kPaに制御した脱揮槽に導入し、未反応単量体等の揮発分を除去した。この樹脂液をギアポンプで抜き出し、ストランド状に押出し切断することによりペレット形状の重合体B−4を得た。
【0066】
[実験例B−5]
撹拌機を付した容積約20リットルの完全混合型反応器、予熱器を付した脱揮槽を接続して構成した。スチレン91.8質量部、アクリロニトリル9.2質量部、エチルベンゼン18質量部で構成される単量体混合液を調整し、さらにt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.015質量部とn−ドデシルメルカプタン0.013質量部を混合し原料溶液とした。この原料溶液を毎時5kgで温度120℃に制御した完全混合型反応器に導入した。なお、完全混合型反応器の撹拌数は180rpmで実施した。次いで完全混合型反応器より反応液を連続的に抜き出し、この反応液を予熱器で加温しながら、温度235℃で圧力1.0kPaに制御した脱揮槽に導入し、未反応単量体等の揮発分を除去した。この樹脂液をギアポンプで抜き出し、ストランド状に押出し切断することによりペレット形状の重合体B−4を得た。
【0067】
[実験例B−6]
撹拌機を付した容積約20リットルの完全混合型反応器、予熱器を付した脱揮槽を接続して構成した。スチレン60.5質量部、アクリロニトリル39.5質量部、エチルベンゼン18質量部で構成される単量体混合液を調整し、さらにt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.015質量部とn−ドデシルメルカプタン0.013質量部を混合し原料溶液とした。この原料溶液を毎時5kgで温度120℃に制御した完全混合型反応器に導入した。なお、完全混合型反応器の撹拌数は180rpmで実施した。次いで完全混合型反応器より反応液を連続的に抜き出し、この反応液を予熱器で加温しながら、温度235℃で圧力1.0kPaに制御した脱揮槽に導入し、未反応単量体等の揮発分を除去した。この樹脂液をギアポンプで抜き出し、ストランド状に押出し切断することによりペレット形状の重合体B−6を得た。
上記実験例B−1〜B−6の分析結果を表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
各分析値の測定方法は以下の通りである。
(1)スチレン−マレイミド系共重合体の構成単位
下記記載の測定条件でNMRを測定し、イミド基のカルボニル炭素の積分値と未反応ジカルボン酸無水物基及びイミド化反応中間体のマレアミド酸中間体のカルボニル炭素の積分値の比等からスチレン−マレイミド系共重合体の構成単位を求めた。
装置名 :AVANCE−300(BRUKER社製)
測定核種:C13
温度 :110℃
濃度 :10質量%
溶媒 :DMSO−d6
積算回数:1万回
【0070】
(2)残存マレイミド系単量体量
装置名:GC−2010(島津製作所製)
カラム:キャピラリーカラム DB−5MS(フェニルアレンポリマー)
温度 :注入口280℃、検出器280℃
カラム温度80℃(初期)で昇温分析を行う。
(昇温分析条件) 80℃;ホールド12分
80〜280℃;20℃/分で昇温10分
280℃;ホールド10分
検出器:FID
手順 :試料0.5gをウンデカン(内部標準物質)入り1,2−ジクロロエタン溶液(0.014g/L)5mlに溶解させる。その後、n−ヘキサン5mlを加えて振とう器で10〜15分間振とうし、析出させる。ポリマーを析出・沈殿させた状態で上澄み液のみをGCに注入する。得られたマレイミド系単量体のピーク面積から、内部標準物質より求めた係数を用いて、定量値を算出する。
【0071】
(3)黄色度
装置名:SZ−IIΣ80 測色色差計(日本電色社製)
手順 :試料1gを25mlのテトラヒドロフランに溶解させる。溶解後、測定用の角セルに移す。透過法によりテトラヒドロフラン溶液の角セルをブランクとして色差を求め、その値を黄色度とした。
【0072】
(4)スチレン−アクリロニトリル系共重合体の構成単位
下記記載のケルダール法により、アクリロニトリル系共重合体の構成単位を求めた。
手順 :試料0.3gを硫酸20mlに溶解させ、硫酸カリウム、硫酸銅をそれぞれ4.5g、0.5gを加え350〜400℃で加熱分解させる。室温まで冷却した後、40%水酸化ナトリウムを加え、1/10N硫酸溶液にて滴定を実施し、窒素分を算出しスチレン−アクリロニトリル共重合体の構成単位を求めた。
【0073】
[実施例1〜9及び比較例1〜8]
実験例で製造したスチレン−マレイミド系共重合体(A)とスチレン−アクリロニトリル系共重合体(B)を、表3〜表4で示した割合(質量%)でヘンシェルミキサーを用いて混合した後、二軸押出機(東芝機械(株)社製 TEM−35B、L/D=32)を用い、シリンダー温度260℃、フィード量20kg/時、スクリュー回転数250rpmの条件にて溶融混練してペレット化し、光学成形体用樹脂組成物を得た。なお、樹脂温度はどれも270〜310℃の範囲であった。
【0074】
光学成形体用樹脂組成物を、Tダイを付したフィルム押出成形機を用いシリンダー温度240℃、ダイ温度240℃で、厚さ100μmのフィルムを押し出し、ロールに巻き取った。
得られたフィルムを、テンター横延伸機を用い、Tg+20℃で1.8倍に一軸延伸し、延伸された光学フィルムを得た。得られたフィルムの測定結果を表3〜表4に示した。
【0075】
【表3】

【0076】
【表4】

【0077】
各評価の測定方法は下記の通りである。
(1)色相;YI値
色相;YI値は、射出成形機(東芝機械社製IS−50EP)を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度60℃にて成形した2mmtプレートを成形し、JIS K7105に基づき、色差計(日本電色工業社製SZ−IIΣ80)を用いて測定した。色相;YI値が12.0以下であるものを色相について合格とした。
(2)ヘーズ
ASTM D1003に基づき、ヘーズメーター(日本電色工業社製NDH−1001DP型)を用いて厚み100μmの未延伸フィルムのヘーズ(単位:%)を測定した。ヘーズの値が1.0%以下であるものを未延伸フィルムの透明性について合格とした。
(3)ガラス転移温度
ガラス転移温度は、下記の測定条件で示差走査熱量測定(DSC)にて測定した。
測定機 :Robot DSC6200(セイコーインスツルメンツ社製)
昇温速度:10℃/分
ガラス転移温度が110℃以上であるものを耐熱性について合格とした。
(4)メルトマスフローレレイト(MFR)
JIS K7210に基づき、温度200℃、荷重49Nでメルトマスフローレイト(MFR)を測定した。MFRが0.1〜3(g/10分)を流動性について合格とした。
(5)位相差発現性
位相差測定装置(王子計測社製KOBRA−WR)を用いて延伸フィルムのリタデーション(以下「Re」,単位:μm)を測定し、300nm以上を合格とした。また、位相差顕微鏡で観察することで、配向複屈折の符号は、実施例と比較例中の全てのサンプルが負であることを確認した。
【0078】
<結果の考察>
上記の表3、4の結果から、以下のことがわかる。
すなわち、実施例1〜9の光学成形体用樹脂組成物は、スチレン−マレイミド系共重合体中の残存マレイミド単量体量が300ppm以下であることから色相;YI値が小さく、色相の優れた光学成形体である。
さらに、透明性、耐熱性に優れ、位相差発現性も良好で負の配向複屈折性を示すため、位相差フィルムに最適な特性を備えていることがわかる。
【0079】
一方、比較例1〜8の光学成形体用樹脂組成物は、色相、透明性、耐熱性のいずれかにおいて、光学フィルムとして良好な値を示さなかった。
【0080】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲内にあることは当業者に理解されるところである。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の光学成形体用樹脂組成物および光学成形体は、色相、透明性、耐熱性が良好であり、薄型液晶表示素子用の光学フィルムに有用であり、特に、延伸して配向させたフィルムが負の配向複屈折性を示すため、位相差フィルムに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)スチレン系単量体単位45〜70質量%、マレイミド系単量体単位30〜55質量%、および不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位0〜5質量%からなり、かつ残存マレイミド系単量体量が300ppm以下であるスチレン−マレイミド系共重合体(A)20〜50質量%と、
(ii)スチレン系単量体単位70〜84質量%、アクリロニトリル系単量体単位16〜30質量%からなるスチレン−アクリロニトリル系共重合体(B)50〜80質量%と
を含有してなる光学成形体用樹脂組成物。
【請求項2】
スチレン系単量体全量と、不飽和ジカルボン酸無水物の仕込み量の一部と、を主体とする混合液に、不飽和ジカルボン酸無水物の仕込み量の残りを分割または連続的に添加しながら重合させて得たスチレン−不飽和ジカルボン酸無水物系共重合体を、第1級アミンでイミド化することで得たスチレン−マレイミド系共重合体を含有してなることを特徴とする請求項1載の光学成形体用樹脂組成物。
【請求項3】
スチレン−不飽和ジカルボン酸無水物系共重合体が、非重合性溶剤中で溶液重合により得られることを特徴とする請求項2記載の光学成形体用樹脂組成物。
【請求項4】
スチレン−アクリロニトリル系共重合体が塊状重合もしくは溶液重合により得られることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学成形体用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学成形体用樹脂組成物からなる光学成形体。
【請求項6】
溶融押出フィルムであることを特徴とする請求項5記載の光学成形体。
【請求項7】
延伸フィルムであることを特徴とする請求項6記載の光学成形体。
【請求項8】
位相差フィルムであることを特徴とする請求項7記載の光学成形体。

【公開番号】特開2012−208136(P2012−208136A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186945(P2009−186945)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】