説明

光学材料用樹脂の製造方法、光学材料用樹脂及びプラスチックレンズ

【課題】本発明は、眼鏡レンズ等のプラスチックレンズとして好適に使用され、特定構造のプラスチックレンズモノマーを重合硬化して得られるプラスチックレンズにおいて、前記プラスチックレンズの切削研磨加工時に発生する異臭、悪臭を減少または消失させるプラスチックレンズおよびその製造方法を開発する。
【解決手段】前記光学材料用樹脂モノマー中に香料組成物として、シトロネラール、シネオール、アントラニル酸メチル、アントラニル酸エチル、アントラニル酸ジメチル、リモネン、α-テルピネオール、エナント酸エチル、エナント酸メチル、エナント酸イソプロピル、エナント酸ビニル、カプリル酸メチル、カプリル酸エチル、ノナン酸メチル、ノナン酸エチルから選ばれる一種または二種以上の化合物を添加することにより、光学材料用樹脂の切削研磨加工時に発生する異臭、悪臭を減少または消失させることが可能な光学材料用樹脂を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズ、プリズム、レンチキュラーシート、フィルター等に使用される光学材料用樹脂の製造方法と、その製造方法によって製造された光学材料用樹脂に関する。また、本発明は、その中でも、眼鏡レンズ等のプラスチックレンズとして好適に使用され、特定構造を持ったプラスチックレンズの切削研磨加工時に発生する異臭、悪臭を減少または消失させるプラスチックレンズおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック材料は、軽量かつ強度に優れることから、光学材料用樹脂として従来の無機ガラス材料等に替わり、プラスチックレンズやプリズムなどの各種用途に広く使用されている。中でも、プラスチックレンズは、従来のガラスレンズに比べ軽量で割れにくく、また染色が容易であることから、近年視力矯正用レンズおよびサングラスをはじめ、カメラレンズや光学素子等に広く普及している。光学材料、特に眼鏡レンズに要求される性能は、低比重に加えるに、光学性能としては高屈折率と高アッベ数であり、物理的性質としては高耐熱性と高強度である。高屈折率はレンズの薄肉化を可能とし、高アッベ数はレンズの色収差を低減し、高耐熱性及び高強度は二次加工を容易にするとともに安全性等の観点から重要である。これらの要求を満たすべく近年様々なプラスチックレンズ用素材が開発されるようになってきており、高屈折率の新規な透明プラスチックレンズを開発する試みが多数なされている。
【0003】
樹脂の屈折率を高めるために、硫黄原子を導入する試みが行われ、例えば、以下に示す特許文献1には、イソシアネート基またはイソチオシアネート基を持つ化合物と、ポリチオール化合物又はポリオール化合物とを混合し、重合硬化することによって製造されるポリ(チオ)ウレタン系プラスチックレンズが提案されており、さらに以下に示す特許文献2には、チオエポキシ基を持つ化合物と、ポリチオール化合物又はポリオール化合物とを混合し、重合硬化することによって製造されるチオエポキシ系プラスチックレンズが提案され、また、特許文献3〜5には、さらなる高屈折率化を狙って、金属原子と硫黄原子を含有し、各種の重合性官能基を持つ化合物を重合硬化することによって製造される金属および硫黄含有プラスチックレンズが提案されている。
【0004】
しかしながら、これら特許文献3〜5の高屈折率樹脂は、硫黄原子を非常に高い割合で含有し、さらに金属原子を含有しているために、レンズの切削、研磨時に特有の異臭、悪臭が発生し、作業者に強い不快感を与えることがあり、その改善が強く望まれていた。
【0005】
プラスチックレンズの切削、研磨時に発生する異臭、悪臭を減少または消失させる加工法は、例えば、以下に示す特許文献6〜9には、特定の香気性付与化合物を添加する技術が提案されている。
【0006】
しかしながら、これら特定の香気性付与化合物の添加は、一応の効果を発揮するものの、全ての作業者が不快感を感じなくなるまで臭気を改良することはできず、さらなる改良が望まれていた。また、硫黄原子と金属原子を同時に含有する化合物を重合して得られるプラスチックレンズに対して、臭気を改良する手法の検討は、今までなされていなかった。
【0007】
【特許文献1】特開平7−252207号公報
【特許文献2】特開平11−322930号公報
【特許文献3】特開2006−169190号公報
【特許文献4】特開2006−83313号公報
【特許文献5】特開2006−182908号公報
【特許文献6】特開平5−273401号公報
【特許文献7】特開平5−297201号公報
【特許文献8】特開平11−20036号公報
【特許文献9】特開2004−115730号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、一般式(1)で示される化合物を含有する光学材料用樹脂について、その切削、研磨等の加工時に発生する異臭、悪臭を減少または消失させる、特定の香料組成物を特定量含有してなる光学材料用樹脂、及び光学材料用樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するべく、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、一般式(1)で示される化合物を含有する光学材料用樹脂を製造する際に使用する、光学材料用樹脂原料中に香料組成物として、シトロネラール、シネオール、アントラニル酸メチル、アントラニル酸エチル、アントラニル酸ジメチル、リモネン、α-テルピネオール、エナント酸エチル、エナント酸メチル、エナント酸イソプロピル、エナント酸ビニル、カプリル酸メチル、カプリル酸エチル、ノナン酸メチル、ノナン酸エチルから選ばれる一種または二種以上の化合物を添加し、その後硬化させて光学材料用樹脂を製造することにより、光学材料用樹脂の持つ諸特性を損なうことなく、樹脂の切削、研磨時に発生する異臭、悪臭を減少または消失させ、作業者に強い不快感を与えることなく光学材料用樹脂を製造しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明は、一般の光学材料用樹脂の製造の中でも、硫黄原子含有率の高い、高屈折率プラスチックレンズの製造に関して特に効果が高く、中でも、さらに金属原子を含有する場合、すなわち、一般式(1)で示される化合物を含有する光学材料用樹脂を用いたプラスチックレンズに対して効果が大きい。
【0011】
従って、第1の発明は、一般式(1)で示される化合物を含有する光学材料用樹脂の製造において、光学材料用樹脂原料中に香料組成物として、シトロネラール、シネオール、アントラニル酸メチル、アントラニル酸エチル、アントラニル酸ジメチル、リモネン、α-テルピネオール、エナント酸エチル、エナント酸メチル、エナント酸イソプロピル、エナント酸ビニル、カプリル酸メチル、カプリル酸エチル、ノナン酸メチル、ノナン酸エチルから選ばれる一種または二種以上の化合物を添加し、その後硬化させて光学材料用樹脂を製造することにより、光学材料用樹脂の切削、研磨時に発生する異臭、悪臭を減少または消失することが可能となる。
【0012】
【化1】

【0013】
【化2】

【0014】
化1で示す一般式(1)において、Mは、Sn原子、Si原子、Zr原子、Ti原子、またはGe原子である。R1は、炭素数1〜4のアルキレン基であり、X1は、S原子またはO原子であり、nは0〜4の整数を示す。Yは、化2で示す(1−1)、または(1−2)、または(1−3)のいずれかである。
【0015】
第2の発明は、第1の発明に記載の光学材料用樹脂の製造方法において、前記光学材料用樹脂原料中に添加する香料組成物の添加量が、0.01〜0.5重量部の範囲とすることにより、光学材料用樹脂の切削、研磨時に発生する異臭、悪臭を減少または消失することが可能となる。0.01重量部未満の添加量では、切削、研磨加工時に発生する異臭、悪臭を低減する効果は非常に小さく、香料無添加のプラスチックレンズに対して、優位差が見られない。また、0.5重量部を越えて添加すると、切削、研磨加工時に香料の臭気が強すぎてしまうため、作業者に不快感を与えてしまう。
【0016】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明に記載の製造方法によって製造された光学材料用樹脂を提供する。
【0017】
第4の発明は、第3の発明に記載の製造方法によって製造された光学用樹脂を用いたプラスチックレンズを提供する。
【0018】
本発明は、上述のように、一般式(1)で示される化合物を含有する光学材料用樹脂の製造方法、プラスチックレンズの製造方法に関する発明であり、プラスチックレンズ樹脂材料に香料を添加することによって、プラスチックレンズの切削、研磨時に発生する異臭、悪臭を減少または消失させる必要があるプラスチックレンズの製造方法であればその種類は問わないが、例えば、硫黄原子の含有量が大きく、かつ金属原子を含有し、重合性官能基を持つ化合物を主成分とする重合性組成物を重合硬化することによって製造されるプラスチックレンズの製造に対して好ましい。さらに、重合性官能基としてチオエポキシ基を持つ化合物を主成分とする場合に対して特に好ましい。
【0019】
本発明において光学材料用樹脂原料中に添加することのできる香料としては特に限定されず、公知の物を用いることが出来る。中でも、プラスチックレンズの切削、研磨加工時に発生する異臭、悪臭を減少または消失させるような香料が好ましい。例えば、請求項1で記載したように、シトロネラール、シネオール、アントラニル酸メチル、アントラニル酸エチル、アントラニル酸ジメチル、リモネン、α-テルピネオール、エナント酸エチル、エナント酸メチル、エナント酸イソプロピル、エナント酸ビニル、カプリル酸メチル、カプリル酸エチル、ノナン酸メチル、ノナン酸エチル等が挙げられる。
【0020】
本発明における重合方法としては、特に限定される物ではなく、一般にプラスチックレンズの製造に用いられている重合方法が、何ら制限なく使用される。例えば、チオエポキシ基を持つ化合物を含むプラスチックレンズ原料モノマーを重合させることによって得られる、チオエポキシ系のプラスチックレンズの場合には、チオエポキシ基を持つ化合物のみ、或いは、必要に応じてチオエポキシ基と共重合可能な他のモノマーと混合した後、エポキシ樹脂用の硬化触媒を添加、混合し、加熱により重合硬化を行うことによって製造できる。エポキシ樹脂用の硬化触媒は特に制限はないが、具体例としては、ジメチルベンジルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジエチルエタノールアミン、ジブチルエタノールアミン、トリジメチルアミノメチルフェノール等の3級アミン、エチルメチルイミダゾール等のイミダゾール類、などが挙げられる。また、チオエポキシ基を持つ化合物と共重合可能な他のモノマーとしては、水酸基を持つ化合物、メルカプト基を持つ化合物、1級または2級アミン、カルボキシル基を持つ化合物などが挙げられる。水酸基を持つ化合物の具体例としては、イソプロピルアルコール、n−ヘキシルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート等の多価アルコール類が挙げられる。メルカプト基を持つ化合物の具体例としては、チオフェノール、エチルチオグリコレート、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、2,5−ジメルカプトメチル−1,4−ジチアン等が挙げられる。
【0021】
また、本発明では重合硬化前のプラスチックレンズ用モノマーに、必要に応じて紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤等を混合した後に重合硬化を行い、プラスチックレンズを製造することによって、プラスチックレンズの耐候性を向上させることが可能である。紫外線吸収剤、光安定剤または酸化防止剤の具体例としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒンダートアミン系光安定剤、ヒンダートフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等が挙げられる。
【0022】
さらに、本発明では重合硬化前のプラスチックレンズ用モノマーに、必要に応じてブルーイングマスターバッチを混合した後に重合硬化を行い、プラスチックレンズを製造することによって、プラスチックレンズの色調を調整することが可能である。
本発明で用いられるブルーイングマスターバッチ中の染料としては、特に制限はないが、油溶染料、中でもアントラキノンバイオレット系油溶染料、またはアントラキノンブルー系油溶染料が好ましい。これらの油溶染料の具体例としては、C.I.ソルベント
バイオレット 13、C.I.ソルベントバイオレット 14、C.I.ソルベント
【0023】
ブルー 11、C.I.ソルベントブルー12等が挙げられる。
【0024】
本発明によるプラスチックレンズを、矯正用レンズやファッションレンズとして用いる場合には、光線透過率を高め、表面反射によるちらつきを防止するために、反射防止膜を施す事が好ましく、さらに、レンズ基材と反射防止膜の密着性を高めるためや、表面の傷防止のためにハードコート層を設けることが特に好ましい。
【0025】
ハードコート層の好ましい例としては、下記(イ)および(ロ)を主成分とするコーティング組成物を塗布し硬化させた物が挙げられる。
【0026】
(イ)少なくとも一種以上の反応基を有するシラン化合物の一種以上。
【0027】
(ロ)酸化ケイ素、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化アルミニウム等の無機酸化物微粒子、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニア、酸化ケイ素、酸化鉄、酸化スズ、酸化タングステンのうちの2つ以上を用いた複合無機酸化物微粒子。
【0028】
(ロ)の成分は、ハードコートの屈折率を調整し、かつ、硬度を高めるのに有効な成分であり、単独または混合して用いることができる。しかし、(ロ)の成分だけでは成膜性が悪く、(イ)の成分を併用する事によって透明で強靭な膜が得られる。(イ)の成分は、そのまま使用することも可能であるが加水分解して使用する方が膜の耐水性や硬度を向上させることができることから好ましい。ハードコート層の厚さは、通常0.2μm〜10μm程度が好ましく、より好ましくは、1μm〜3μm程度である。また、本発明では、レンズ生地とハードコート層の間にプライマー層を設ける様なハードコートも使用できる。このプライマー層は、レンズ生地とハードコート層の密着性をより向上させたり、ハードコート処理後のレンズの耐衝撃性を向上させる効果がある。
【0029】
矯正用レンズとしての使用では、前述のごとくハードコート層表面に反射防止膜を施すことによって、光学性能がさらにアップする。反射防止膜としては、屈折率の異なる薄膜を積層して得られる多層膜であり、反射率の低減されるものであれば、無機物でも有機物でも可能である。しかし、表面の硬度や干渉縞の防止を重視するためには、無機物からなる単層または多層の反射防止膜を設けることが最も好ましい。使用できる無機物としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタニウム、酸化セリウム、酸化ハフニウム、フッ化マグネシウム等の酸化物あるいはフッ化物が挙げられ、イオンプレーティング、真空蒸着、スパッタリング等のいわゆるPVD法によって施す事ができる。
【0030】
本発明における光学材料用樹脂の製造方法を用いると、光学材料用樹脂の切削、研磨等の加工時に発生する異臭、悪臭を減少または消失させることができる。したがって、作業者が不快感を感じることなく光学材料用樹脂の加工を行うことが可能となり、従来品と全く同様に扱うことができる等の優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下本発明の詳細について実施例に基づいて説明するが、本発明は、これらによって限定されるものではない。実施例および比較例で使用する物質の略称は以下の通りである。
略称 : 物質名
Sn−1:テトラキス(2,3−エピチオプロピルチオ)スズ
Sn−2:テトラキス(2,3−エポキシ−1−プロピルチオ)スズ
Sn−3:テトラキス(3−オキセタニルチオ)スズ
【実施例1】
【0032】
プラスチックレンズ原料として、Sn−1を30g、紫外線吸収剤としてSEESORB701(シプロ化成工業)0.3gを添加し、十分に撹拌して、完全に分散又は溶解させたプラスチックレンズ原料中に、香料組成物としてエナント酸エチルを0.1gの濃度で添加し、その後、重合触媒としてN,N−ジメチルシクロヘキシルアミン0.1gを加えて混合した後、1.5kPa以下に減圧して攪拌しながら15分間脱気を行った。この原料を、2枚のガラス型を用いて、粘着テープで保持した鋳型中に注入し、大気重合炉中で30℃から120℃まで24時間かけて昇温を行い、重合硬化させた。
【0033】
このようにして製造したプラスチックレンズを鼻に近づけても何ら臭気は感じられなかった。また、このプラスチックレンズを切削、研磨加工したところエナント酸エチルを添加しないプラスチックレンズと比較して異臭、悪臭がほとんど発生せず、作業者が不快感を感じることはなかった。
【実施例2】
【0034】
実施例1において、エナント酸エチルの代わりに、アントラニル酸エチル0.1gを用いて、実施例1と同様にプラスチックレンズを作製し、そのプラスチックレンズを鼻に近づけても何ら臭気は感じられなかった。また、このプラスチックレンズを切削、研磨加工したところアントラニル酸エチルを添加しないプラスチックレンズと比較して異臭、悪臭がほとんど発生せず、作業者が不快感を感じることはなかった。
【実施例3】
【0035】
実施例1において、エナント酸エチルの代わりに、リモネン0.1gを用いて、実施例1と同様にプラスチックレンズを作製し、そのプラスチックレンズを鼻に近づけても何ら臭気は感じられなかった。また、このプラスチックレンズを切削、研磨加工したところリモネンを添加しないプラスチックレンズと比較して異臭、悪臭がほとんど発生せず、作業者が不快感を感じることはなかった。
【実施例4】
【0036】
実施例1において、エナント酸エチルの代わりに、α-テルピネオール0.1gを用いて、実施例1と同様にプラスチックレンズを作製し、そのプラスチックレンズを鼻に近づけても何ら臭気は感じられなかった。また、このプラスチックレンズを切削、研磨加工したところ本来発生していた異臭、悪臭がほとんど発生せず、作業者が不快感を感じることはなかった。
【実施例5】
【0037】
実施例1において、エナント酸エチルの代わりに、シトロネラール0.1gを用いて、実施例1と同様にプラスチックレンズを作製し、そのプラスチックレンズを鼻に近づけても何ら臭気は感じられなかった。また、このプラスチックレンズを切削、研磨加工したところシトロネラールを添加しないプラスチックレンズと比較して異臭、悪臭がほとんど発生せず、作業者が不快感を感じることはなかった。
【実施例6】
【0038】
実施例1において、エナント酸エチルの代わりに、カプリル酸エチル0.1gを用いて、実施例1と同様にプラスチックレンズを作製し、そのプラスチックレンズを鼻に近づけても何ら臭気は感じられなかった。また、このプラスチックレンズを切削、研磨加工したところカプリル酸エチルを添加しないプラスチックレンズと比較して異臭、悪臭がほとんど発生せず、作業者が不快感を感じることはなかった。
【実施例7】
【0039】
実施例1において、エナント酸エチルの代わりに、ノナン酸エチル0.1gを用いて、実施例1と同様にプラスチックレンズを作製し、そのプラスチックレンズを鼻に近づけても何ら臭気は感じられなかった。また、このプラスチックレンズを切削、研磨加工したところノナン酸エチルを添加しないプラスチックレンズと比較して異臭、悪臭がほとんど発生せず、作業者が不快感を感じることはなかった。
【実施例8】
【0040】
プラスチックレンズ原料として、Sn−2を30g用意し、重合触媒としてトリフルオロメタンスルホン酸0.015gを加えた以外は、実施例1と同様の操作を行ってレンズを作成した。
【0041】
このようにして製造したプラスチックレンズを鼻に近づけても何ら臭気は感じられなかった。また、このプラスチックレンズを切削、研磨加工したところエナント酸エチルを添加しないプラスチックレンズと比較して異臭、悪臭がほとんど発生せず、作業者が不快感を感じることはなかった。
【実施例9】
【0042】
プラスチックレンズ原料として、Sn−3を30g用意し、重合触媒としてトリフルオロメタンスルホン酸0.015gを加えた以外は、実施例1と同様の操作を行ってレンズを作成した。
【0043】
このようにして製造したプラスチックレンズを鼻に近づけても何ら臭気は感じられなかった。また、このプラスチックレンズを切削、研磨加工したところエナント酸エチルを添加しないプラスチックレンズと比較して異臭、悪臭がほとんど発生せず、作業者が不快感を感じることはなかった。
【実施例10】
【0044】
実施例1において、エナント酸エチルの添加量を0.01gを用いて、実施例1と同様にプラスチックレンズを作製し、そのプラスチックレンズを鼻に近づけると、多少原料の臭気が感じられた。また、このプラスチックレンズを切削、研磨加工したところエナント酸エチルを添加しないプラスチックレンズと比較して異臭、悪臭の発生が多少低減されており、作業者が不快感を感じることはなかった。
【実施例11】
【0045】
実施例1において、エナント酸エチルの添加量を0.5gを用いて、実施例1と同様にプラスチックレンズを作製し、そのプラスチックレンズを鼻に近づけると、多少エナント酸エチルの臭気が感じられた。また、このプラスチックレンズを切削、研磨加工したところエナント酸エチルを添加しないプラスチックレンズと比較してエナント酸エチルの臭気を多少感じるものの、異臭、悪臭の発生は低減されており、作業者が不快感を感じることはなかった。
(比較例1)
【0046】
実施例1において、エナント酸エチルを用いずに、実施例1と同様にプラスチックレンズを作製し、そのプラスチックレンズを切削、研磨加工したところ異臭、悪臭が発生し、作業者が強い不快感を感じた。
(比較例2)
【0047】
実施例8において、エナント酸エチルを用いずに、実施例8と同様にプラスチックレンズを作製し、そのプラスチックレンズを切削、研磨加工したところ異臭、悪臭が発生し、作業者が強い不快感を感じた。
(比較例3)
【0048】
実施例9において、エナント酸エチルを用いずに、実施例9と同様にプラスチックレンズを作製し、そのプラスチックレンズを切削、研磨加工したところ異臭、悪臭が発生し、作業者が強い不快感を感じた。
(比較例4)
【0049】
実施例1において、エナント酸エチルの添加量を0.001重量部として実施例1と同様にプラスチックレンズを作製し、そのプラスチックレンズを切削、研磨加工したところ、香料組成物の添加量が不十分なため、異臭、悪臭の発生を抑制することができず、作業者が強い不快感を感じた。
(比較例5)
【0050】
実施例1において、エナント酸エチルの添加量を1.0重量部として実施例1と同様にプラスチックレンズを作製し、そのプラスチックレンズを切削、研磨加工したところ、香料組成物の添加量が過剰なため香料組成物の臭気が強く、作業者が強い不快感を感じた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は前述の実施の形態に限定されるものではなく、プリズム、レンチキュラーシート、フィルター等に使用される光学材料用樹脂の製造用途にも適応できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示される化合物を含有する光学材料用樹脂の製造において、前記光学材料用樹脂原料中に香料組成物として、シトロネラール、シネオール、アントラニル酸メチル、アントラニル酸エチル、アントラニル酸ジメチル、リモネン、α-テルピネオール、エナント酸エチル、エナント酸メチル、エナント酸イソプロピル、エナント酸ビニル、カプリル酸メチル、カプリル酸エチル、ノナン酸メチル、ノナン酸エチルから選ばれる一種または二種以上の化合物を添加し、その後硬化させて光学材料用樹脂を製造することを特徴とする、光学材料用樹脂の製造方法。
【化1】

【化2】

化1で示す一般式(1)において、Mは、Sn原子、Si原子、Zr原子、Ti原子、またはGe原子である。R1は、炭素数1〜4のアルキレン基であり、X1は、S原子またはO原子であり、nは0〜4の整数を示す。Yは、化2で示す(1−1)、または(1−2)、または(1−3)のいずれかである。
【請求項2】
前記光学材料用樹脂原料中に添加する香料組成物の添加量が、0.01〜0.5重量部の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の光学材料用樹脂の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法によって製造された光学材料用樹脂。
【請求項4】
請求項3に記載の製造方法によって製造された光学材料用樹脂を用いたプラスチックレンズ。

【公開番号】特開2008−231183(P2008−231183A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70244(P2007−70244)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】