説明

光学材料用樹脂組成物、光学材料用樹脂フィルム及びこれらを用いた光導波路

【課題】高透明性、高耐熱性を有し、しかも生産性の高い光学材料用樹脂組成物、光学材料用樹脂フィルム及びこれらを用いた光導波路を提供すること。
【解決手段】(A)下記一般式(I)で表されるフルオレンジ(メタ)アクリレート及び(B)光重合開始剤を含む光学材料用樹脂組成物である。
【化1】


(Xは下記式(II)で表されるものであり、Yは水素又はメチル基、m及びnはそれぞれ1〜20の整数である。)
【化2】


(R1〜R16は、それぞれ独立に水素、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、総炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数7〜9のアラルキル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、耐熱性及び生産性に優れた光学材料用樹脂組成物、光学材料用樹脂フィルム及びこれらを用いた光導波路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インターネットやLAN(Local Area Network)の普及に伴う情報容量の増大に対応するため、幹線やアクセス系といった通信分野のみならず、ルータやサーバ装置内のボード間あるいはボード内の短距離信号伝送にも光信号を用いる光インターコネクション技術の開発が進められている。具体的には、ルータやサーバ装置内のボード間あるいはボード内の短距離信号伝送に光を用いるために、電気配線板に光伝送路を複合した光電気混載基板の開発がなされている。
この場合の光伝送路としては、光ファイバーに比べ、配線の自由度が高く、かつ高密度化が可能な光導波路を用いることが望ましく、中でも、加工性や経済性に優れたポリマー材料を用いた光導波路が有望である。ポリマー光導波路は、前記のように電気配線板と共存する構造となるため、ポリマー光導波路には、高透明性(低伝搬損失)とともに高耐熱性も要求されるが、このような光導波路材として、フッ素化ポリイミド(例えば非特許文献1)や、エポキシ樹脂(例えば非特許文献2)が提案されている。
【0003】
フッ素化ポリイミドの導波路材を用いた場合、樹脂自体は300℃程度の高耐熱性を有し、かつ波長850nmにおいて0.3dB/cmの高透明性を有するものの、成膜には300℃以上で数十分から数時間の加熱が必要であるため、電気配線板上での製膜が困難であった。また、フッ素化ポリイミドには感光性がないため、感光・現像による光導波路作製法が適用できず、生産性・大面積化に劣っていた。
一方、エポキシ樹脂は、光重合開始剤を添加することで、感光・現像法によりコアパターンの形成が可能であり、かつ0.1dB/cmと高い透明性を有することが報告されているが、エポキシ樹脂の耐熱性は一般に200〜280℃であり、上述の光電気混載基板に適用可能なものもあるが、高い信頼性を得るためには、さらに高い耐熱性が求められていた。
以上のように、(1)高透明性、(2)高耐熱性、(3)高生産性を兼ね備えた光導波路は開発されていないのが現状である。
【0004】
【非特許文献1】エレクトロニクス実装学会誌、Vol.7、No.3、pp.213−218、2004年
【非特許文献2】光学、31巻2号、pp.81-83、2002年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑み、高透明性、高耐熱性を有し、しかも生産性の高い光学材料用樹脂組成物、光学材料用樹脂フィルム及びこれらを用いた光導波路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、フルオレンジ(メタ)アクリレート及び光重合開始剤を含む光学材料用樹脂組成物、さらにはこれにベースポリマーを加えてフィルム化した樹脂フィルムが上記課題を解決し得ることを見出した。本発明はこの知見に基づいて完成した発明である。
すなわち本発明は、
(1)(A)下記一般式(I)で表されるフルオレンジ(メタ)アクリレート及び(B)光重合開始剤を含む光学材料用樹脂組成物、
【化1】

(Xは下記式(II)で表されるものであり、Yは水素又はメチル基、m及びnはそれぞれ1〜20の整数である。)
【化2】

(R1〜R16は、それぞれ独立に水素、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、総炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数7〜9のアラルキル基である。)
(2)(A)成分と(B)成分の総量に対して、(A)成分の含有量が90.0〜99.9質量%であり、(B)成分の含有量が0.1〜10.0質量%である上記(1)に記載の光学材料用樹脂組成物、
【0007】
(3)(A)下記一般式(I)で表されるフルオレンジ(メタ)アクリレート、(B)光重合開始剤、及び(C)ベースポリマーを含む光学材料用樹脂組成物からなる光学材料用樹脂フィルム、
【化3】

(Xは下記式(II)で表されるものであり、Yは水素又はメチル基、m及びnはそれぞれ1〜20の整数である。)
【化4】

(R1〜R16は、それぞれ独立に水素、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、総炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数7〜9のアラルキル基である。)
(4)(C)ベースポリマーの数平均分子量が5000以上である上記(3)記載の光学材料用樹脂フィルム、
(5)(C)ベースポリマーが主鎖に芳香族骨格を有する上記(3)又は(4)に記載の光学材料用樹脂フィルム、
(6)(C)ベースポリマーがフェノキシ樹脂である上記(5)に記載の光学材料用樹脂フィルム、
(7)(C)ベースポリマーが室温で固形のエポキシ樹脂である上記(3)又は(4)に記載の光学材料用樹脂フィルム、
(8)(A)成分と(C)成分の総量に対して、(A)成分の含有量が20〜90質量%であり、(C)成分の含有量が10〜80質量%であり、かつ(A)成分と(C)成分の総量100質量部に対して(B)成分の含有量が0.1〜5質量部である上記(3)〜(7)のいずれかに記載の光学材料用樹脂フィルム、及び
(9)上記(1)もしくは(2)に記載の光学材料用樹脂組成物、又は上記(3)〜(8)のいずれかに記載の光学材料用樹脂フィルムを、光導波路の下部クラッド、コア、及び上部クラッドの少なくとも1つに用いた光導波路、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の光学材料用樹脂組成物を用いて製造した光導波路は、高い透明性と高い耐熱性を持ち、さらに本発明の樹脂フィルムによれば、これら高透明性・高耐熱性の光導波路が極めて高い生産性で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の光光学材料用樹脂組成物は、(A)下記一般式(I)で表されるフルオレンジ(メタ)アクリレートを含有することを特徴とする。なお、ここで(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを示す。
【0010】
【化5】

【0011】
ここで、Xは下記式(II)で表されるものであり、Yは水素又はメチル基である。また、m及びnはそれぞれ1〜20の整数であり、好ましくは1〜10の整数である。
【0012】
【化6】

【0013】
ここで、R1〜R16は、それぞれ独立に水素、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、総炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数7〜9のアラルキル基である。R9〜R16はそれぞれベンゼン環のいずれの位置にあってもよく、これらの置換基のない部分(式(II)中での“*”印)において、式(I)の骨格中の酸素と結合している。
なお、一般式(I)及び(II)において、Yが水素、R1〜R16が水素、mが1、nが1であるものが、市販品として入手可能である(新中村化学(株)社製、商品名「A−BPEF」)。
【0014】
次に、(B)光重合開始剤については、特に制限はなく、種々のものを使用することができる。例えば、ベンゾフェノン、N,N’−テトラメチル−4,4’−ジアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、N,N’−テトラエチル−4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4−メトキシ−4’−ジメチルアミノベンゾフェノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、1,2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン等の芳香族ケトン;2−エチルアントラキノン、フェナントレンキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、オクタメチルアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、2,3−ベンズアントラキノン、2−フェニルアントラキノン、2,3−ジフェニルアントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−メチルアントラキノン、1,4−ナフトキノン、9,10−フェナントラキノン、2−メチル1,4−ナフトキノン、2,3−ジメチルアントラキノン等のキノン類;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル等のベンゾインエーテル化合物;ベンゾイン、メチルベンゾイン、エチルベンゾイン等のベンゾイン化合物;ベンジルジメチルケタール等のベンジル誘導体;2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジ(メトキシフェニル)イミダゾール二量体、2−(o−フルオロフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体、2−(o−メトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体、2−(p−メトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体等の2,4,5−トリアリールイミダゾール二量体;ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等のフォスフィンオキサイド類;9−フェニルアクリジン、1,7−ビス(9,9’−アクリジニル)ヘプタン等のアクリジン誘導体;N−フェニルグリシン;N−フェニルグリシン誘導体;クマリン系化合物などが挙げられる。また、2,4,5−トリアリールイミダゾール二量体において、2つの2,4,5−トリアリールイミダゾールのアリール基の置換基は同一で対称な化合物を与えてもよいし、相違して非対称な化合物を与えてもよい。また、ジエチルチオキサントンとジメチルアミノ安息香酸の組み合わせのように、チオキサントン系化合物と3級アミン化合物とを組み合わせてもよい。
上記に例示した(B)光重合開始剤は、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0015】
(B)光重合開始剤の含有量は、(A)成分と(B)成分の総質量に対して、0.1〜10質量%の範囲であることが好ましい。一方、(A)成分の含有量は90〜99.9質量%の範囲であることが好ましい。(B)成分の含有量が0.1質量%以上であると、光感度が十分であり、一方10質量%以下であれば、光導波路の表面のみが選択的に硬化し、硬化が不十分となることがなく、また、重合開始剤自身の吸収により伝搬損失が増大することもなく好適である。以上の観点から、(B)光重合開始剤の含有量は、0.2〜5質量%とすることがさらに好ましい。
【0016】
また、本発明の樹脂組成物には、さらに(C)ベースポリマーを含有することができる。(C)ベースポリマーを含有することにより、フィルム状の光学材料用樹脂組成物とすることができ好ましい。
すなわち、(A)上記一般式(I)で表されるフルオレンジ(メタ)アクリレート、(B)光重合開始剤、及び(C)ベースポリマーを含む光学材料用樹脂組成物からなる光学材料用樹脂フィルムも本発明に包含されるものである。フィルム状にすることで、液状では煩雑であった膜厚制御が容易になり、生産性も大幅に向上する。
(C)成分のベースポリマーは、フィルムを形成し、該フィルムの強度を確保するためのものであり、該目的を達成し得るものであれば特に制限はなく、フェノキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのベースポリマーは単独でも、または2種以上を混合して使用しても良い。
上記で例示したベースポリマーのうち、耐熱性が高いとの観点から,主鎖に芳香族骨格を有することが好ましく、特にフェノキシ樹脂が好ましい。また、(A)フルオレンジ(メタ)アクリレートとの相溶性、感光・現像特性の向上の観点から、エポキシ樹脂、特に室温で固形のエポキシ樹脂を好適に用いることができる。
【0017】
フェノキシ樹脂とは、一般にジフェノール類とエピハロヒドリンから得られる非晶質のポリマーであり、下記一般式(III)で表される繰り返し単位を有する。
【0018】
【化7】

【0019】
ここで、n’は1以上の整数、m’は0又は1、−R0−は、下記一般式(IV)、(V)、(VI)で表される基、又は−O−である。
【0020】
【化8】

【0021】
【化9】

【0022】
【化10】

【0023】
ここで、R1〜R10はそれぞれH又はCH3、CF3などの有機基である。
特に、一般式(III)で表されるフェノキシ樹脂のうち、下記式(VII)で表される繰返し単位を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂の直鎖状高分子重合体が、高い耐熱性を有しており好ましい。
【0024】
【化11】

【0025】
上記直鎖状高分子重合体のフェノキシ樹脂は、一般にビスフェノールAとエピクロルヒドリンとを重縮合反応させる一段法によって、または2官能のエポキシ樹脂とビスフェノールAとを重付加反応させる二段法によって製造されるものであり、具体例としては、東都化成(株)製「YP−50(商品名)」、特開平4−120124号公報、特開平4−122714号公報、特開平4−339852号公報に記載のものなどがある。
また、上記一般式(III)で表されるフェノキシ樹脂の他に、種々の2官能エポキシ樹脂とビスフェノール類とを重付加反応した高分子量体、例えば臭素化フェノキシ樹脂(特開昭63−191826号公報、特公平8−26119号公報)、ビスフェノールA/ビスフェノールF共重合型フェノキシ樹脂(特許第2917884号公報、特許第2799401号公報)、リン含有フェノキシ樹脂(特開2001−310939号公報)、フルオレン骨格を導入した高耐熱性フェノキシ樹脂(特開平11−269264号公報、特開平11−302373号公報)などもフェノキシ樹脂として知られている。
【0026】
本発明の樹脂組成物において、(A)成分として用いられる室温で固形のエポキシ樹脂としては、例えば、東都化成(株)製「エポトートYD−7020、エポトートYD−7019、エポトート7017(商品名)」、ジャパンエポキシレジン(株)製「エピコート1010、エピコート1009、エピコート1008(商品名)」などのビスフェノールA型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0027】
次に、(C)ベースポリマーの含有量は、(A)成分及び(C)成分の総量に対して、(C)成分を10〜80質量%とすることが好ましい。一方、(A)成分の含有量は20〜90質量%とすることが好ましい。(C)成分の含有量が、10質量%以上であると厚さ50μm程度のフィルムを容易に製造でき、一方、80質量%以下であると光硬化反応が十分に進行する。以上の観点から、(C)ベースポリマーの含有量は20〜70質量%の範囲とすることがさらに好ましい。
(C)ベースポリマーの分子量については、ルータやサーバ装置内のボード間あるいはボード内の光信号伝送用光導波路に要求される50μm以上の厚膜のフィルムの形成を可能とするため、数平均分子量で5,000以上であることが好ましく、さらに10,000以上が好ましく、特に30,000以上であることが好ましい。数平均分子量の上限については、特に制限はないが、(A)成分との相溶性の観点から、1,000,000以下であることが好ましく、さらには500,000以下、特には200,000以下であることが好ましい。なお、本発明における数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレン換算した値である。
【0028】
本発明の光学材料用樹脂組成物は、(A)及び(B)成分を溶媒に溶解して得られる。ここで用いる溶媒としては、該樹脂組成物を溶解し得るものであれば特に限定されず、例えば、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、γ―ブチロラクトン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アセトン、トルエン等、またはこれらの混合溶媒を用いることができる。樹脂溶液中の樹脂分濃度は通常30〜80質量%であることが好ましい。
【0029】
本発明の光学材料用樹脂は、光導波路の下部クラッド、コア及び上部クラッドの少なくとも1つに用いることが好ましい。
以下、本発明の樹脂組成物を用いて光導波路を作製する方法について説明する。その方法としては、例えば、スピンコート法、ディッピング法、スプレー法、カーテンコート法、シルクスクリーン法、ロールコート法等の方法を用いて基板上に該樹脂組成物を塗布し、加熱、または減圧乾燥等によって溶媒を乾燥除去した後、活性光線の照射または加熱によって樹脂を硬化する。この樹脂層がクラッド層を構成するものである。
次いで、同様の塗布方法により、先に形成した光導波路層より屈折率の高い樹脂組成物を塗布し、これをコア層とする。続いて、ネガまたはポジ型のマスクパターンを通して、活性光線を照射し、露光後、ウェット現像、ドライ現像等で未露光部を除去して現像し、コアパターンを製造する。ここで、必要に応じ、60〜250℃程度の加熱または0.1から1000mJ/cm2程度の露光を行うことにより、光導波路パターンをさらに硬化して用いてもよい。
この後、コア層より屈折率の低い樹脂を同様の方法にて塗布・製膜し、光導波路を作製する。
【0030】
以下には、本発明の光学材料用樹脂フィルムの作製法、並びにこれを用いた光導波路の作製法を説明する。
本発明の光学材料用樹脂フィルムは、(A)〜(C)成分を含有する樹脂組成物を溶媒に溶解して基材に塗布し、溶媒を除去することにより容易に製造することができる。ここで用いる溶媒としては、該樹脂組成物を溶解し得るものであれば特に限定されず、上述の(A)及び(B)成分を溶解する溶媒として列挙されたものを使用することができる。また、樹脂溶液中の樹脂分濃度は通常30〜80質量%であることが好ましい。
【0031】
本発明の光学材料用樹脂フィルムを光導波路形成用フィルムとして用いる場合に、その厚みについては特に限定されないが、乾燥後の厚みで通常は10〜100μmである。10μm以上であると、光導波路形成後の受発光素子または光ファイバーとの結合において位置合わせトレランスが拡大できるという利点があり、100μm以下であると、光導波路形成後の受発光素子または光ファイバーとの結合において、結合効率が向上するという利点がある。以上の観点から、該フィルムの厚みは、さらに30〜70μmの範囲であることが好ましい。
【0032】
本発明の光学材料用樹脂フィルムの製造過程で用いる基材は、光学材料用樹脂フィルムを支持する支持体であって、その材料については特に限定されないが、後に光学材料用樹脂フィルムを剥離することが容易であり、かつ耐熱性及び耐溶剤性を有するとの観点から、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが好適に挙げられる。
該基材の厚みは5〜50μmであることが好ましい。5μm以上であると支持体としての強度が得やすいという利点があり、50μm以下であるとパターン形成時のマスクとのギャップが小さくなり、より微細なパターン形成可能であるという利点がある。以上の観点から、該基材の厚みは10〜40μmであることが好ましく、20〜30μmであることがさらに好ましい。
このようにして得られた基材上に設けられた光学材料用樹脂フィルムは、例えばロール状に巻き取ることによって容易に貯蔵することができる。また、必要に応じて、光学材料用樹脂フィルムの上に保護フィルムを設けることもできる。なお、基材及び保護フィルムは、後に光学材料用樹脂フィルムの剥離を容易とするため、帯電防止処理等が施されていてもよい。
【0033】
本発明の光学材料用樹脂フィルムは、光導波路の下部クラッド、コア及び上部クラッドの少なくとも1つに用いることが好ましい。
以下、本発明の光学材料用樹脂フィルムを用いて光導波路を形成するための製造方法について詳述する。その方法としては、例えば、保護フィルムが存在する場合には保護フィルムを剥離後、下部クラッドフィルムを基板上に加熱圧着することにより積層する方法などが挙げられる。ここで、密着性及び追従性の見地から減圧下で積層することが好ましい。該フィルムの加熱温度は50〜130℃とすることが好ましく、圧着圧力は、0.1〜1.0MPa(1〜10kgf/cm2程度)とすることが好ましいが、これらの条件には特に制限はない。
次いで、下部クラッドフィルムを光または加熱により硬化し、下部クラッドフィルムより屈折率の高いコアフィルムを同様な方法で積層する。このようにして積層した後、ネガまたはポジマスクパターンを通して活性光線が画像状に照射される。活性光線の光源としては、例えば、カーボンアーク灯、水銀蒸気アーク灯、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、キセノンランプ等の紫外線を有効に放射する公知の光源が挙げられる。また、他にも写真用フラッド電球、太陽ランプ等の可視光を有効に放射するものも用いることができる。
【0034】
次いで、ウェット現像等で未露光部を除去して現像し、導波路パターンを形成する。ウェット現像の場合は、前記フィルムの組成に適した有機溶剤等の現像液を用いて、スプレー、揺動浸漬、ブラッシング、スクラッピング等の公知の方法により現像する。
有機溶剤系現像液としては、例えば、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、γ―ブチロラクトン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。これらの有機溶剤は、引火防止のため、1〜20質量部の範囲で水を添加することが好ましい。また、必要に応じて2種類以上の現像方法を併用してもよい。現像の方式としては、例えば、ディップ方式、バトル方式、高圧スプレー方式等のスプレー方式、ブラッシング、スクラッピング等が挙げられ、高圧スプレー方式が解像度向上のためには最も適している。
現像後の処理として、必要に応じて60〜250℃程度の加熱または0.1から1000mJ/cm2程度の露光を行うことにより、光導波路パターンをさらに硬化して用いてもよい。
この後、コアフィルムより屈折率の低い上部クラッドフィルムを同様な方法で積層し、光導波路を作製する。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明を光導波路に関する実施例によりさらに詳細に記述するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、以下の実施例では、本発明の光学材料用樹脂組成物を光導波路形成用樹脂組成物として、光学材料用樹脂フィルムを光導波路形成用樹脂フィルムと記載する。
実施例1
フルオレンジアクリレート(新中村化学(株)製、商品名「A−BPEF」)に、光重合開始剤(東京化成工業(株)製「2,2-ビス(2-クロロフェニル)-4,4',5,5'-テトラフェニル1,2'-ビイミダゾール」、同社製「4,4'-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン」、及び同社製「2-メルカプトベンゾイミダゾール」からなる3元系光ラジカル発生剤)を2質量%添加し、これに溶媒であるN,N−ジメチルアセトアミドをフルオレンジアクリレート及び光開始剤の総量100質量部に対して30質量部加え、光導波路形成用樹脂組成物を用意した。次に、熱酸化膜(厚さ1μm)付きシリコンウェハ(厚さ1mm)上に、スピンコート法により樹脂層を作製し、80℃、10分、その後100℃、10分の条件にて溶媒を乾燥除去した。続いて、上記樹脂層に、高圧水銀ランプの紫外線を1mJ/cm2照射し、樹脂を光硬化させ、さらに160℃、1時間の条件でポストベークを行い、スラブ光導波路(コア厚10μm)を得た。このときのスラブ光導波路(コア)の屈折率を、Metricon社製プリズムカプラ(Model2020)を用いて測定したところ(測定波長830nm)、1.613であった。また、ULVAC社製、TGD−7000にて測定した該スラブ光導波路の熱分解温度は約300℃であり、高い耐熱性を有することがわかった。
該スラブ光導波路を最高到達温度265℃(260℃以上の保持時間15〜20秒)、窒素雰囲気下の条件で、はんだリフロー炉(古河電気工業(株)製、「サラマンダ」)中を3回通過させた。リフロー前後の伝搬損失をプリズムカプラ式光学特性測定装置(SAIRON TECHNOLOGY社製、SPA-4000)にて測定した結果(測定波長;830nm、nD=1.62のマッチングオイル使用)、リフロー前後の伝搬損失は、それぞれ0.1dB/cm、0.1dB/cmであった。本発明の光導波路形成用樹脂組成物が高耐熱性を有し、かつ低損失であることがわかる。なお、本実施例においては、熱酸化膜が下部クラッドの役割を果たし、空気が上部クラッドの役割を果たすものである。
【0036】
実施例2
フルオレンジアクリレート(新中村化学(株)製、商品名「A−BPEF」)に、ベースポリマーとしてフェノキシ樹脂(東都化成(株)製、商品名「フェノトートYP−50」、)を、フルオレンジアクリレート80質量%、フェノキシ樹脂20質量%となるように加え、これら樹脂分の総量100質量部に対して光開始剤(東京化成工業(株)製、2,2-ビス(2-クロロフェニル)-4,4',5,5'-テトラフェニル1,2'-ビイミダゾール、同社製、4,4'-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、及び同社製2-メルカプトベンゾイミダゾールからなる3元系光ラジカル発生剤)を2質量部添加し、これに溶剤としてメチルエチルケトンを40質量部加え、光導波路形成用樹脂組成物を用意した。これをPETフィルム(東洋紡績(株)製、商品名「A−4100」)上にアプリケーター(ヨシミツ精機(株)製、「YBA−4」を用い塗布し、80℃、10分、その後100℃、10分で溶媒を乾燥除去し、光導波路形成用樹脂フィルムを得た。このときの光導波路形成用樹脂フィルムの厚さは、アプリケータ−の間隙を調節することで、5〜100μmの間で任意に調整可能であり、本実施例では12μmとした。
該光導波路形成用樹脂フィルムを、熱酸化膜(厚さ1μm)付きシリコンウェハ(厚さ1mm)上に、真空加圧式ラミネータ((株)名機製作所製、MVLP−500)を用い、圧力0.4MPa、温度60℃の条件で積層し、これに(株)オーク製作所製「EXM−7172−B−00」にて紫外線を1J/cm2照射して樹脂を光硬化させ、さらに160℃、1時間の条件でポストベークを行い、スラブ光導波路(コア厚12μm)を得た。このときのスラブ光導波路(コア)の屈折率は、測定波長830nmにおいて1.607であった。次いでこれを最高到達温度265℃(260℃以上の保持時間15〜20秒)、窒素雰囲気下の条件で、はんだリフロー炉(古河電気工業(株)製、「サラマンダ」)中を3回通過させた。
リフロー前後の伝搬損失をプリズムカプラ式光学特性測定装置(SAIRON TECHNOLOGY社製、SPA-4000)にて測定した結果(測定波長;830nm、nD=1.62のマッチングオイル使用)、リフロー前後の伝搬損失は、それぞれ0.2dB/cm、0.2dB/cmであった。本発明の光導波路形成用樹脂フィルムが高耐熱性を有し、かつ低損失であることがわかる。
【0037】
実施例3
実施例2において、フェノキシ樹脂に代えて、室温で固形のエポキシ樹脂(東都化成(株)製、商品名「エポトートYD−7020」)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、スラブ光導波路を得た。このときのスラブ光導波路(コア)の屈折率は、測定波長830nmにおいて1.604であった。次いでこれを最高到達温度265℃(260℃以上の保持時間15〜20秒)、窒素雰囲気下の条件で、はんだリフロー炉(古河電気工業(株)製、「サラマンダ」)中を3回通過させた。リフロー前後の伝搬損失をプリズムカプラ式光学特性測定装置(SAIRON TECHNOLOGY社製、SPA-4000)にて測定した結果(測定波長;830nm、nD=1.62のマッチングオイル使用)、リフロー前後の伝搬損失は、それぞれ0.2dB/cm、0.2dB/cmであった。本発明の光導波路形成用樹脂フィルムが高耐熱性を有し、かつ低損失であることがわかる。
【0038】
実施例4
実施例1に記載の光導波路形成用樹脂組成物と同組成の樹脂組成物を用意し、これに溶剤としてメチルエチルケトンを全量に対して40質量部加えて樹脂ワニスを調合した。これをPETフィルム(東洋紡績(株)製、商品名「A−4100」)上にアプリケーター(ヨシミツ精機(株)製、「YBA−4」)を用いて塗布し、80℃、10分、その後100℃、10分で溶剤乾燥させ光学材料用樹脂フィルムを得た。このときの光学材料用樹脂フィルムの厚さは、アプリケーターの間隙を調節することで、5〜100μmの間で任意に調整可能であり、本実施例では、硬化後の膜厚が10μmとなるように調節した。
真空加圧式ラミネータ((株)名機製作所製、MVLP−500)を用い、該光学材料用樹脂フィルムをシリコン基板上に、圧力0.5MPa、温度50℃、加圧時間30秒の条件にてラミネートした。
該樹脂フィルムの屈折率及び複屈折をMetricon社製プリズムカプラ(Model12020)を用いて測定した(測定波長830nm)。その結果を第1表に示す。
また、厚さを70μmとしたこと以外は上記と同様にして、光学材料用樹脂フィルムを得、該光学材料用樹脂フィルムをシリコン基板上にラミネートし、日立製作所製分光光度計(型式U−3410)を用いて、光線透過率を測定した。400〜800nmの可視領域において90%以上の透過率を示した。
以上のように、該光学材料は高い屈折率を有しながらも複屈折が小さく、しかも透明性に優れた光学材料である。
【0039】
実施例5
実施例2に記載の光導波路形成用樹脂組成物と同組成の樹脂組成物を用いて光学材料用樹脂フィルムを得、実施例4と同様にして屈折率及び複屈折を測定した。その結果を第1表に示す。また、実施例4と同様にして光線透過率を測定したところ、400〜800nmの可視領域において90%以上の透過率を示した。高い屈折率を有しながらも複屈折が小さく、しかも透明性に優れた光学材料であることがわかる。
【0040】
実施例6
実施例3に記載の光導波路形成用樹脂組成物と同組成の樹脂組成物を用いて光学材料用樹脂フィルムを得、実施例4と同様にして屈折率及び複屈折を測定した。その結果を第1表に示す。また、実施例4と同様にして光線透過率を測定したところ、400〜800nmの可視領域において90%以上の透過率を示した。高い屈折率を有しながらも複屈折が小さく、しかも透明性に優れた光学材料であることがわかる。
【0041】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の光学材料用樹脂組成物及び該樹脂組成物からなる光学材料用樹脂フィルムは透明性及び耐熱性に優れ、例えば、光導波路、レンズ、光学用封止材、光学用接着剤、導光板、回折格子などとして用いることができ、特に光導波路用の樹脂組成物及び光導波路用の樹脂フィルムとして好適に用いることができる。また、その他コーティング材、レジスト等にも使用することができる。本発明の樹脂組成物を、光導波路のコア、下部クラッド、又は上部クラッドの少なくとも1つに用いることによって、性能の優れた光導波路を得ることができる。また、本発明の光学材料用樹脂フィルムを用いることによって、生産性良く光導波路を製造することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(I)で表されるフルオレンジ(メタ)アクリレート及び(B)光重合開始剤を含む光学材料用樹脂組成物。
【化1】

(Xは下記式(II)で表されるものであり、Yは水素又はメチル基、m及びnはそれぞれ1〜20の整数である。)
【化2】

(R1〜R16は、それぞれ独立に水素、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、総炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数7〜9のアラルキル基である。)
【請求項2】
(A)成分と(B)成分の総量に対して、(A)成分の含有量が90.0〜99.9質量%であり、(B)成分の含有量が0.1〜10.0質量%である請求項1に記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項3】
(A)下記一般式(I)で表されるフルオレンジ(メタ)アクリレート、(B)光重合開始剤、及び(C)ベースポリマーを含む光学材料用樹脂組成物からなる光学材料用樹脂フィルム。
【化3】

(Xは下記式(II)で表されるものであり、Yは水素又はメチル基、m及びnはそれぞれ1〜20の整数である。)
【化4】

(R1〜R16は、それぞれ独立に水素、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、総炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数7〜9のアラルキル基である。)
【請求項4】
(C)ベースポリマーの数平均分子量が5,000以上である請求項3記載の光学材料用樹脂フィルム。
【請求項5】
(C)ベースポリマーが主鎖に芳香族骨格を有する請求項3又は4に記載の光学材料用樹脂フィルム。
【請求項6】
(C)ベースポリマーがフェノキシ樹脂である請求項5記載の光学材料用樹脂フィルム。
【請求項7】
(C)ベースポリマーが室温で固形のエポキシ樹脂である請求項3又は4に記載の光学材料用樹脂フィルム。
【請求項8】
(A)成分と(C)成分の総量に対して、(A)成分の含有量が20〜90質量%であり、(C)成分の含有量が10〜80質量%であり、かつ(A)成分と(C)成分の総量100質量部に対して(B)成分の含有量が0.1〜5質量部である請求項3〜7のいずれかに記載の光学材料用樹脂フィルム。
【請求項9】
請求項1もしくは2に記載の光学材料用樹脂組成物、又は請求項3〜8のいずれかに記載の光学材料用樹脂フィルムを、光導波路の下部クラッド、コア、及び上部クラッドの少なくとも1つに用いた光導波路。

【公開番号】特開2007−86697(P2007−86697A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−295581(P2005−295581)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】