説明

光学材料用樹脂組成物

【課題】光弾性係数の絶対値が小さく、しかも、成形加工時の異物の発生を低減した光学材料用樹脂組成物および該樹脂組成物からなる光学フイルムを提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂組成物(A)と、フェノール系酸化防止剤(B−1)及び/又はリン系酸化防止剤(B−2)からなる酸化防止剤(B)を含む光学材料用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子を製造するための材料、すなわち光学材料、として用いるのに適した樹脂組成物および該樹脂組成物からなる光学素子用成形体に関する。
特に、本発明は、光弾性係数の絶対値の小さい光学材料用樹脂組成物および該樹脂組成物からなる光学素子用成形体フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、ディスプレイ市場の拡大に伴い、より画像を鮮明にみたいという要求が高まっており、単なる透明材料ではなく、より高度な光学特性が付与された光学材料が求められている。
このような高度な光学特性の一つに複屈折性がある。一般に、高分子は分子主鎖方向とそれに垂直方向とで屈折率が異なるために複屈折を生じる。用途によっては、この複屈折を厳密にコントロールすることが求められている。例えば、液晶の偏光板に用いられる保護フィルムの場合は、全光線透過率が同じであっても複屈折がより小さい高分子材料成形体が必要とされ、トリアセチルセルロースが代表的な材料として用いられる。一方、高分子材料成形体に意識的に複屈折を生じさせ、この複屈折率を利用して、偏光板により偏光された光を円偏光に変えたり(1/4波長板等)、液晶が持つ複屈折を補償する(位相差フィルムなどの光学補償フィルム等)ことも行われている。そして、このような複屈折性光学材料としては、ポリカーボネート等が代表的な材料として知られている。
【0003】
ところで、近年、液晶ディスプレイが大型化し、それに伴い高分子光学素子も大型化している。しかし、光学素子を大型化すると、外力の偏りが生じるため、光学素子が外力による複屈折変化の生じやすい材料からなる場合、複屈折の分布が生じ、コントラストが不均一になるという問題がある。
外力による複屈折の生じやすさは光弾性係数の絶対値によって表されるが、前述のポリカーボネートは光弾性係数の絶対値が大きいため、これに代わる光弾性係数の絶対値が小さい複屈折性材料が求められている。
光弾性係数の絶対値が小さい材料としてはメタクリル酸メチルの単独重合体(PMMA)やアモルファスポリオレフィン(APO)が知られているが(例えば非特許文献1参照)、これらの材料でもまだ光弾性係数の絶対値は満足のいくものではない。
【0004】
このような要望に応じ、本発明者らは先に、光弾性係数の絶対値が小さく、透明性等の他の光学特性にも優れた材料として、アクリル系樹脂(A−1)とスチレン系樹脂(A−2)とを含む熱可塑性樹脂組成物を見出している(特許文献1)。しかしながら、一般に熱可塑性樹脂組成物は、成形加工時に異物の発生が見られるため、アクリル系樹脂(A−1)とスチレン系樹脂(A−2)とを含む熱可塑性樹脂組成物を成形加工した場合にも、この熱可塑性樹脂組成物が本来有する優れた光学特性を充分発揮することが出来なかった。
【0005】
また、光学材料として用いる樹脂フィルムには、光学的に透明であることの他に、着色や変色が少ないこと、点状或いはスジ状などの外観欠陥が少ないことなどが求められる。
しかし、樹脂又は樹脂組成物を溶融押出法でフィルムに成形する場合、押出機内にて樹脂又は樹脂組成物が劣化し、フィルムが着色や変色する、或いは、光学的に透明フィルムが得られないといった問題がある。さらに架橋生成物などに起因するゲルや、焼け樹脂に起因する褐色或いは黒い点状などの外観欠陥が発生したり、樹脂分解ガスに起因する発泡が発生したり、メヤニなどに起因するダイラインなどのスジ状欠陥が発生するなど外観不良が発生するといった問題がある。
【0006】
溶融押出により成形した樹脂フィルムの着色や変色、点状或いはスジ状などの外観欠陥の問題を解決する方法として、N−フェニルマレイミド・イソブテン共重合体とスチレン・アクリロニトリル共重合体とからなる樹脂組成物にフェノール系酸化防止剤とりん系酸化防止剤を添加する方法(特許文献2)、スチレン系樹脂と結晶性熱可塑性樹脂とからなる樹脂組成物に酸化防止剤を添加する方法(特許文献3)、ノルボルネン系樹脂にポリマー炭素ラジカル捕捉剤を添加する方法(特許文献4)、スピロビインダン構造を繰り返し単位中に含むポリマーに炭素ラジカル捕捉剤を添加する方法(特許文献5)が開示されている。
【0007】
しかし、樹脂又は樹脂組成物に上記の酸化防止剤を添加すると、光弾性係数が大きく変化してしまうため、光弾性係数の絶対値が小さくなるように調製した樹脂組成物に上記酸化防止剤を添加する場合には、多量に用いることはできない。
【0008】
【特許文献1】国際公開第2007/043356号のパンフレット
【特許文献2】特開2006−45368号公報
【特許文献3】特開2001−131308号公報
【特許文献4】特開2002−121399号公報
【特許文献5】特開2006−219612号公報
【非特許文献1】化学総説、No.39、1998(学会出版センター発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、光弾性係数の絶対値が小さく、しかも、成形加工時の異物の発生を低減した光学材料用樹脂組成物および該樹脂組成物からなる光学フイルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、熱可塑性樹脂組成物の成形加工時の異物の発生について鋭意検討を行った結果、熱可塑性樹脂組成物に特定の酸化防止剤を添加することにより、着色、透明性の低下を伴うことなく、効果的に異物の発生を低減できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
本発明者らの研究によれば、熱可塑性樹脂組成物の成形加工時の異物の発生の主たる原因は、成形加工時の加熱により、組成物を構成する熱可塑性樹脂のうちその高分子量のものがゲル化することにあることが判明した。
そして、本発明者らは、熱可塑性樹脂の高分子量領域におけるゲル化は、酸化によって引き起こされることに着目し、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、水素キノリン系酸化防止剤をはじめとする様々な酸化防止剤について検討したところ、これらの酸化防止剤の中で、フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤には、極めて優れたゲル化防止効果があることが判明した。
さらに、このようなフェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤のゲル化防止効果は、特に、アクリル系樹脂(A−1)とスチレン系樹脂(A−2)とを含む熱可塑性樹脂組成物との組み合わせにおいて、より顕著に発揮されることが判明した。
また、このようなフェノール系酸化防止剤について検討したところ、フェノール系酸化防止剤の中でも、特に、分子内にアクリレート基を有するフェノール系酸化防止剤が、ゲル化防止効果をより顕著に発揮し、しかも樹脂組成物の光弾性係数に与える影響が小さいことが判明した。
【0012】
すなわち本発明は、
熱可塑性樹脂組成物(A)と、フェノール系酸化防止剤(B−1)及び/又はリン系酸化防止剤(B−2)からなる酸化防止剤(B)を含む光学材料用樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光弾性係数の絶対値が小さく、しかも、成形加工時の異物の発生の少ない光学材料用樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明について具体的に説明する。
まず、酸化防止剤(B)について説明する。
本発明の光学材料用樹脂材料組成物に含まれる酸化防止剤(B)は、フェノール系酸化防止剤(B−1)及び/又はリン酸系酸化防止剤(B−2)からなる。
【0015】
酸化防止剤(B)は、熱可塑性樹脂組成物(A)の成形加工工程等における熱劣化による異物の発生等を抑制するものであり、熱可塑性樹脂組成物(A)100質量部に対して0.01質量部以上、2質量部以下の範囲で配合されることが好ましく、0.05質量部以上、2質量部以下の範囲で配合されることが更に好ましく、0.1質量部以上、2.0質量部以下であることがとりわけ好ましい。
ここで、フェノール系酸化防止剤(B−1)及び/又はリン系酸化防止剤(B−2)の配合量が0.01質量部未満である場合には、得られる熱可塑性樹脂組成物(A)の高温加工時における熱安定性が乏しくなり異物の発生を十分に抑制できない場合があり、一方、配合量が2質量部を超える場合には、揮発分が多く出てしまい熱可塑性樹脂組成物(A)の加工性を低下させる場合がある。
【0016】
また、これらの酸化防止剤(B−1)、(B−2)は、それぞれ単独で用いても、併用してもよいが、併用した場合には、それぞれを単独で使用した場合と比較して、着色、透明性の低下、異物の発生の抑制効果の点で、顕著な効果(相乗効果)を発揮することから、併用することが好ましい。
【0017】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、チオジエチレン−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナミド)、ジエチル((3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル)メチル)ホスフェート、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−t−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス(3−(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート)、ヘキサメチレン−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス((4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2,6−ジ−t−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、3,9−ビス(2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等が挙げられる。
【0018】
また、フェノール系酸化防止剤として市販のフェノール系酸化防止剤を使用してもよく、このような市販のフェノール系酸化防止剤としては、例えば、イルガノックス1010(Irganox 1010:ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)、イルガノックス1076(Irganox 1076:オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)、イルガノックス1330(Irganox 1330:3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−t−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)、イルガノックス3114(Irganox 3114:1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)、イルガノックス3790(Irganox 3790:1,3,5−トリス((4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(現チバ・ジャパン株式会社)製)、アデカスタブAO−80(アデカスタブAO−80:3,9−ビス(2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、アデカ株式会社製)、イルガノックス3125(Irganox 3125、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)、スミライザーBHT(Sumilizer BHT、住友化学製)、シアノックス1790(Cyanox 1790、サイテック製)、スミライザーGA−80(Sumilizer GA−80、住友化学製)、ビタミンE(エーザイ製)などが挙げられる。
【0019】
フェノール系酸化防止剤の中でも、特に、分子内にアクリレート基を有するものが好ましい。分子内にアクリレート基を有するフェノール系酸化防止剤は、ゲル化防止効果より顕著に発揮され、熱可塑性樹脂組成物(A)中に多く添加しても、その光弾性係数を大きく変化させることがない。
分子中にアクリレート基を有するフェノール系酸化防止剤としては、例えば下記の一般式で表される化合物が好ましい。
[一般式(1)]
【化2】

一般式(1)中、R1は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表し、R2およびR3は、それぞれ独立して炭素数1〜8にアルキル基を表す。
【0020】
一般式(1)におけるR1の炭素数1〜8のアルキル基は、直鎖でも、分岐構造または環構造を有しているものでもよい。また、R2及びR3は、好ましくは、4級炭素を含む「*−(CH32−R’」で表される構造(*は芳香環への連結部位を表し、R’は炭素数1〜5のアルキル基を表す)である。
2は、より好ましくはt−ブチル基、t−アミル基またはt−オクチル基である。R3は、より好ましくはt−ブチル基、t−アミル基である。
【0021】
上記一般式(1)で表される化合物として、市販のものではSumilizer GM(一般式(2))、Sumilizer GS(一般式(3))(共に商品名、住友化学(株)製等が挙げられる。
[一般式(2)]
【化3】

[一般式(3)]
【化4】

【0022】
リン系酸化防止剤としては、例えば、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、ビス(2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル)エチルエステル亜りん酸、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)(1,1−ビフェニル)−4,4’−ジイルビスホスフォナイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトール−ジホスファイト、テトラキス(2,4−t−ブチルフェニル)(1,1−ビフェニル)−4,4’−ジイルビスホスフォナイト、ジ−t−ブチル−m−クレジル−ホスフォナイト等が挙げられる。
【0023】
また、リン系酸化防止剤として市販のリン系酸化防止剤を使用してもよく、このような市販のリン系酸化防止剤としては、例えばイルガフォス168(Irgafos 168:トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)、イルガフォス12(Irgafos 12:トリス[2−[[2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェフィン−6−イル]オキシ]エチル]アミン、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)、イルガフォス38(Irgafos 38:ビス(2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル)エチルエステル亜りん酸、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)、アデカスタブ329K(ADK STAB 329K、旭電化製)、アデカスタブPEP36(ADK STAB PEP36、旭電化製)、アデカスタブPEP−8(ADK STAB PEP−8、旭電化製)、Sandstab P−EPQ(クラリアント製)、ウェストン618(Weston 618、GE製)、ウェストン619G(Weston 619G、GE製)、ウルトラノックス626(Ultranox 626、GE製)、スミライザーGP(Sumilizer GP:6−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−tert−ブチルジベンズ[d,f][1.3.2]ジオキサホスフェピン)、住友化学製)などが挙げられる。
【0024】
次に、熱可塑性樹脂組成物(A)について説明する。
本発明において熱可塑性樹脂組成物(A)に限定はないが23℃における未延伸時の光弾性係数が−4×10-12/Pa〜4×10-12/Pa未満であるものが好ましい。
【0025】
ここで、光弾性係数とは、外力による複屈折の変化の生じやすさを表す係数で、下式により定義される。
R[/Pa]=Δn/σR Δn=nx−ny
(式中、CR:光弾性係数、σR:伸張応力[Pa]、Δn:応力付加時の複屈折、nx:伸張方向と平行な方向の屈折率、ny:伸張方向と垂直な方向の屈折率)
光弾性係数の値がゼロに近いほど外力による複屈折の変化が小さいことを示しており、各用途において設計された複屈折の変化が小さいことを意味する。
【0026】
熱可塑性樹脂組成物(A)の23℃における未延伸時の光弾性係数がこの範囲内であれば、外力による複屈折の変化が少ないため、これを大型の液晶表示装置等に使用した場合にコントラストや画面の均一性に優れる。
光弾性係数の値は、−3.5×10-12/Pa〜3.5×10-12/Paであることがさらに好ましく、−3.0×10-12/Pa〜3.0×10-12/Paであることがとりわけ好ましい。
【0027】
また、熱可塑性樹脂組成物(A)は、単一の熱可塑性樹脂からなるものであっても、複数の熱可塑性樹脂の混合物であってもよいが、光弾性係数の絶対値の観点から、特に、アクリル系樹脂(A−1)とスチレン系樹脂(A−2)とを含む樹脂組成物が好適に挙げられる。特に、熱可塑性樹脂組成物(A)中のアクリル系樹脂(A−1)とスチレン系樹脂(A−2)の含有量の合計が、熱可塑性樹脂組成物(A)全体に対して80質量%以上であるものが好ましく、90質量%以上であるものがより好ましい。
【0028】
本発明において、アクリル系樹脂(A−1)とは、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体の重合体を含む高分子化合物である。
具体例としては、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステル、より選ばれる1種以上の単量体を重合したものである。
【0029】
これらの中でも、メタクリル酸メチルの単独重合体又は、メタクリル酸メチルと他の単量体との共重合体が好ましい。
メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体としては、他のメタリル酸アルキルエステル類;アクリル酸アルキルエステル類;スチレン及びo−メチルスチレン,p−メチルスチレン,2,4−ジメチルスチレン,エチルスチレン,p−tert−ブチルスチレン等の核アルキル置換スチレン;α−メチルスチレン,α−メチル−p−メチルスチレン等のα−アルキル置換スチレン等の芳香族ビニル化合物類;アクリロニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸無水物類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和酸類が挙げられる。これらは一種又は二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0030】
また、これらメタクリル酸メチルと共重合可能な単量体の中でも、特に、アクリル酸アルキルエステル類は、耐熱分解性に優れ、これを共重合させて得られるメタクリル系樹脂の成形加工時の流動性が高いため好ましい。
メタクリル酸メチルにアクリル酸アルキルエステル類を共重合させる場合のアクリル酸アルキルエステル類の使用量は、耐熱分解性の観点から0.1重量%以上であることが好ましく、耐熱性の観点から15重量%以下であることが好ましい。
0.2重量%以上14重量%以下であることがさらに好ましく、1重量%以上12重量%以下であることがとりわけ好ましい。
【0031】
このアクリル酸アルキルエステル類としては、特に、アクリル酸メチル及びアクリル酸エチルが、それを少量メタクリル酸メチルと共重合させるだけでも前述の成形加工時の流動性の改良効果が著しく得られるため、好ましい。
【0032】
また、アクリル系樹脂(A−1)には、アクリル酸、メタクリル酸又はこれらの誘導体と、他の単量体成分を共重合したものも含まれるが、このような他の単量体成分の含量(共重合割合)は、アクリル系樹脂(A−1)に対して50質量%未満であることが好ましい。
【0033】
アクリル系樹脂(A−1)の重量平均分子量は、5万〜20万であることが望ましい。重量平均分子量は成形品の強度の観点から5万以上が望ましく、成形加工性、流動性の観点から20万以下が望ましい。さらに望ましい範囲は7万〜15万である。
また、本発明においてはアイソタクチックポリメタクリル酸エステルとシンジオタクチックポリメタクリル酸エステルを同時に用いることもできる。
また、アクリル系樹脂(A−1)として、分子量、組成等が異なる2種以上のものを同時に用いることができる。
【0034】
アクリル系樹脂(A−1)を製造する方法として、例えば、キャスト重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、アニオン重合等の一般に行われている重合方法を用いることができるが、光学用途としては微小な異物の混入はできるだけ避けるのが好ましく、この観点からは懸濁剤や乳化剤を用いない塊状重合や溶液重合が望ましい。
溶液重合を行う場合には、単量体の混合物をトルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素の溶媒に溶解して調整した溶液を用いることができる。塊状重合により重合させる場合には、通常行われるように加熱により生じる遊離ラジカルや電離性放射線照射により重合を開始させることができる。
【0035】
重合反応に用いられる開始剤としては、一般にラジカル重合において用いられる任意の開始剤を使用することができ、例えば、アゾビスイソブチルニトリル等のアゾ化合物、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物が用いることができる。
特に、90℃以上の高温下で重合を行わせる場合には、溶液重合が一般的であるので、10時間半減期温度が80℃以上でかつ用いる有機溶媒に可溶である過酸化物、アゾビス開始剤などが好ましく、具体的には1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等を挙げることができる。
これらの開始剤は0.005〜5質量%の範囲で用いられる。
重合反応に必要に応じて用いられる分子量調節剤は、一般的なラジカル重合において用いる任意のものが使用され、例えば、ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル等のメルカプタン化合物が特に好ましいものとして挙げられる。
これらの分子量調節剤は、アクリル系樹脂(A−1)の重合度が上記の範囲内に制御されるような濃度範囲で添加される。
アクリル系樹脂(A−1)の製造方法は、特公昭63−1964号公報等に記載されている方法等を用いることができる。
【0036】
本発明においてアクリル系樹脂(A−1)として、耐熱アクリル系樹脂を用いることができる。耐熱アクリル系樹脂とは、芳香族ビニル系単量体と(メタ)アクリル系単量体を単量体成分として含む重合体をいう。(メタ)アクリル系単量体の共重合割合は50質量%以上であることが好ましい。
ここで、芳香族ビニル系単量体とは、芳香族炭化水素の側鎖にビニル基が結合している単量体をいい、(メタ)アクリル系単量体とは、アクリル酸、メタクリル酸又はこれらの誘導体をいう。
【0037】
(メタ)アクリル系単量体の具体例としては、例えば、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステル等が挙げられる。
【0038】
芳香族ビニル系単量体の具体例としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレンなどの核アルキル置換スチレン;α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレンなどのα−アルキル置換スチレン等が挙げられる。なかでも、スチレンが好ましい。
【0039】
本発明において、耐熱アクリル系樹脂は、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位、芳香族ビニル化合物単位及び下記一般式(4)で表される化合物単位を含む共重合体(以下、耐熱アクリル系樹脂(A−1−1)という。)であることが好ましい。
【0040】
一般式(4)
【化5】

【0041】
(式中、XはO又は、N−Rを示す。Oは酸素原子、Nは窒素原子、Rは水素原子、アルキル基、アリール基又はシクロアルカン基である。)
【0042】
耐熱アクリル系樹脂(A−1−1)の第一の単量体成分であるメタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステルの具体例としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、等のメタクリル酸エステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステル等が挙げられる。なかでも、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0043】
耐熱アクリル系樹脂(A−1−1)の第二の単量体成分である芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレンなどの核アルキル置換スチレン;α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレンなどのα−アルキル置換スチレン等が挙げられる。なかでも、スチレンが好ましい。
【0044】
耐熱アクリル系樹脂(A−1−1)の第三の単量体成分である一般式(4)で表される単位のうち、XがOであるものとしては、無水マレイン酸、イタコン酸、エチルマレイン酸、メチルイタコン酸、クロルマレイン酸等の無水物である不飽和ジカルボン酸無水物に由来する単位が挙げられる。これらのなかでも、無水マレイン酸に由来する単位が最も好ましい。また、XがN−Rであるものとしては、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド単量体に由来する単位が挙げられる。
【0045】
耐熱アクリル系樹脂(A−1−1)を構成する単量体単位の共重合割合は、耐熱性、光弾性係数の点から、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位が50質量%以上90質量%以下、芳香族ビニル化合物単位が5質量%以上40質量%以下、上記一般式(4)で表される化合物単位が5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
より好ましくは、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位が50質量%以上83質量%以下、芳香族ビニル化合物単位が12質量%以上40質量%以下、上記一般式(4)で表される化合物単位が5質量%以上18質量%以下である。
さらに好ましくは、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位が50質量%以上78質量%以下、芳香族ビニル化合物単位が16質量%以上40質量%以下、上記一般式(4)で表される化合物単位が6質量%以上15質量%以下である。
【0046】
また、上記一般式(4)で表される化合物単位の共重合割合に対する芳香族ビニル化合物単位の割合(芳香族ビニル化合物単量体単位の共重合割合/一般式(4)で表される化合物単位の共重合割合)が1倍以上3倍以下であることが好ましい。
【0047】
特に好ましい耐熱アクリル系樹脂(A−1−1)としては、メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体(A−1−1−1)が挙げられ、特に、共重合体中のメタクリル酸メチル単位が50〜90質量%、無水マレイン酸単位が3〜20質量%、スチレン単位が7〜40質量%であり、かつ無水マレイン酸単位の共重合割合に対するスチレン単位の共重合割合(スチレン単位/無水マレイン酸単位)が1〜3倍であるものが耐熱性、光弾性係数の点から好ましい。さらに好ましくは、共重合体中のメタクリル酸メチル単位が50〜90質量%、無水マレイン酸単位が5〜19質量%、スチレン単位が10〜40質量%であり、とりわけ好ましくは、共重合体中のメタクリル酸メチル単位が50〜88質量%、無水マレイン酸単位が6〜15質量%、スチレン単位が16〜40質量%である。
【0048】
メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体(A−1−1−1)を製造する方法としては、ラジカル開始剤を使用した塊状重合が適しているが、溶液重合、乳化重合を用いることも可能である。
水系懸濁重合は、無水マレイン酸を単量体成分として用いる場合には、その水溶性が高いため、終始安定な懸濁系を保つことが困難であり、推奨されない。
【0049】
ラジカル開始剤としては一般に使用されているものを用いることができるが、アゾ系開始剤であるアゾビスイソブチロニトリルや2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、過酸化系開始剤であるベンゾイルパーオキサイドを該メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体(A−1−1−1)の重合に使用した場合、得られるポリマーが着色することがある。
過酸化系開始剤として、ラウロイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエートを使用すると、耐熱アクリル樹脂の着色はないが、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエートを使用したポリマーは、耐水性が低く、熱水に浸漬した場合の重量増加が大きく、表面が白化することがある。
したがって、メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体(A−1−1−1)の重合には、ラウロイルパーオキサイドのようなジアシルパーオキサイドを適用することが好ましい。
【0050】
メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体(A−1−1−1)の好ましい重合方法としては、特公昭63−1964号公報に記載の方法が挙げられる。
【0051】
メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体(A−1−1−1)のメルトインデックス(ASTM D1238;I条件)は、本発明の光学材料用樹脂組成物を成形して得られる成形品の強度の観点から10g/10分以下であることが好ましい。より好ましくは6g/10分以下、さらに好ましくは3g/10分以下である。
【0052】
また、耐熱アクリル系樹脂の別の好適な例として、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位、芳香族ビニル化合物単位、及び6員環構造の酸無水物単位を含む3元以上の共重合体(以下、耐熱アクリル系樹脂(A−1−2)という。)が挙げられる。この耐熱アクリル系樹脂(A−1−2)は、耐熱性に優れると共に、これから得られる成形体のレタデーション設計が容易であることから、光学材料に適している。
耐熱アクリル系樹脂(A−1−2)の第一の単量体成分であるメタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル及び第二の単量体成分である芳香族ビニル化合物の具体例、その好ましい共重合割合は、前述の耐熱アクリル系樹脂(A−1−1)と同様である。
【0053】
また、耐熱アクリル系樹脂(A−1−2)の第三の単量体成分である6員環構造の酸無水物単位は、不飽和カルボン酸単量体及び、必要に応じて不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体と、その他の単量体成分と重合させ、共重合体とした後、かかる共重合体を適当な触媒の存在下あるいは非存在下で加熱し、脱アルコール及び/又は脱水による分子内環化反応を行わせることにより生成することができる。この場合、典型的には共重合体を加熱することにより2単位の不飽和カルボン酸単位のカルボキシル基が脱水されて、あるいは隣接する不飽和カルボン酸単位と不飽和カルボン酸アルキルエステル単位からアルコールの脱離により1単位の6員環構造の酸無水物単位が生成される。
6員環構造の酸無水物単位を生成するための不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸等が挙げられ、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル等が挙げられる。
耐熱アクリル系樹脂(A−1−2)は、特公平02−26641号、特開2006−266543号、特開2006−274069号、特開2006−274071号、特開2006−283013公報、特開2005−162835公報に記載の方法を参照して、組成比を決定し、製造、評価することができる。
【0054】
本発明においてスチレン系樹脂(A−2)とは、少なくともスチレン系単量体を単量体成分として含む重合体をいう。
ここで、スチレン系単量体とは、その構造中にスチレン骨格を有する単量体をいい、例えば、スチレンのほかo−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレンなどの核アルキル置換スチレン;α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレンなどのα−アルキル置換スチレンなどのビニル芳香族化合物単量体が挙げられ、代表的なものはスチレンである。
【0055】
また、スチレン系樹脂(A−2)には、スチレン系単量体成分と他の単量体成分とを共重合したものも含まれる。共重合可能な単量体としては、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メチルフェニルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート等のアルキルメタクリレート;メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレートなどの不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸等の不飽和カルボン酸単量体;無水マレイン酸、イタコン酸、エチルマレイン酸、メチルイタコン酸、クロルマレイン酸などの無水物である不飽和ジカルボン酸無水物単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル単量体;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等の共役ジエンがあげられ、これらの2種以上を共重合することも可能である。
このような他の単量体成分の含量(共重合割合)は、スチレン系樹脂(A−2)に対して50質量%未満であることが好ましい。
【0056】
スチレン系樹脂(A−2)としては、特にスチレン−無水マレイン酸共重合体(A−2−1)、スチレン−メタクリル酸共重合体(A−2−2)及びスチレン−アクリロニトリル共重合体(A−2−3)が、耐熱性、透明性等の光学材料に求められる特性を有しているため好ましい。
また、スチレン−無水マレイン酸共重合体(A−2−1)、スチレン−メタクリル酸共重合体(A−2−2)及びスチレン−アクリロニトリル共重合体(A−2−3)は、アクリル系樹脂(A−1)との相溶性が高いため、透明性が高く、使用中に相分離を起こして透明性が低下することがない成形体を得られることからも好ましい。このような観点からは、特に、アクリル系樹脂(A−1)としてメタクリル酸メチルを単量体成分として含む重合体を用いる場合に特に好ましい。
【0057】
スチレン−無水マレイン酸共重合体(A−2−1)において、共重合体中の無水マレイン酸含量は0.1〜50質量%であることが好ましい。より好ましい範囲は0.1〜40質量%であり、さらに好ましい範囲は0.1質量%〜30質量%である。共重合体中の無水マレイン酸含量が0.1質量%以上であると耐熱性に優れ、50質量%以下の範囲であれば透明性に優れるので好ましい。
スチレン−メタクリル酸共重合体(A−2−2)において、共重合体中のメタクリル酸含量は0.1質量%以上50質量%未満であることが好ましい。より好ましい範囲は0.1〜40質量%であり、さらに好ましい範囲は0.1〜30質量%である。共重合体中のメタクリル酸含量が0.1質量%以上であると耐熱性に優れ、50質量%未膜の範囲であれば透明性に優れるので好ましい。
スチレン−アクリロニトリル共重合体(A−2−3)において、共重合体中のアクリロニトリル含量は1〜40質量%であることが好ましい。より好ましい範囲は1〜30質量%であり、さらに好ましい範囲は1〜25%である。共重合体中のアクリロニトリルの含量が1〜40質量%であると、透明性に優れるため好ましい。
【0058】
スチレン系樹脂(A−2)として、組成、分子量など異なる種類のものを併用することができる。
【0059】
スチレン系樹脂(A−2)を製造する方法としては、公知のアニオン、塊状、懸濁、乳化又は溶液重合方法等を挙げることができる。
また、スチレン系樹脂においては、共役ジエン、スチレン系単量体のベンゼン環の不飽和二重結合が水素添加されていてもよい。水素添加率は核磁気共鳴装置(NMR)によって測定できる。
【0060】
熱可塑性樹脂組成物(A)が、アクリル系樹脂(A−1)とスチレン系樹脂(A−2)を含む場合、熱可塑性樹脂組成物(A)におけるアクリル系樹脂(A−1)、スチレン系樹脂(A−2)の割合(質量部)やこれらの質量比を調整することにより、その光弾性係数を制御することができる。
熱可塑性樹脂組成物(A)におけるアクリル系樹脂(A−1)の割合は、熱可塑性樹脂組成物(A)100重量部に対して20〜80質量部であることが好ましい。スチレン系樹脂(A−2)の割合は、熱可塑性樹脂組成物(A)100重量部に対して20〜80質量部であることが好ましい。
さらに、熱可塑性樹脂組成物(A)におけるアクリル系樹脂(A−1)とスチレン系樹脂(A−2)の質量比((A−1)/(A−2))は、アクリル系樹脂(A−1)、スチレン系樹脂(A−2)の種類にも依存するが、20/80〜80/20であることが好ましく、、30/70〜70/30であることがより好ましい。
【0061】
また、この場合、熱可塑性樹脂組成物(A)に、アクリル系樹脂(A−1)、スチレン系樹脂(A−2)以外の重合体を混合することもできる。混合することができる重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等の熱可塑性樹脂、およびフェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂などが挙げられる。
光弾性係数の点から、これらの重合体は、熱可塑性樹脂組成物(A)に対して、20重量%以下であることが好ましい。
【0062】
さらに、アクリル系樹脂(A−1)とスチレン系樹脂(A−2)を含む熱可塑性樹脂組成物(A)においては、アクリル系樹脂(A−1)とスチレン系樹脂(A−2)は相溶することが好ましい。相溶は、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂の組成(共重合組成を含む)、配合比率、混練温度、混練圧力、冷却温度、冷却速度などを適宜選択することにより実現できる。相溶(missible)については、『高性能ポリマーアロイ』(高分子学会編集、平成3年丸善株式会社発行)に詳しい記載がある。アクリル系樹脂(A−1)、スチレン系樹脂(A−2)が相溶すると、アクリル系樹脂(A−1)とスチレン系樹脂(A−2)とを含む熱可塑性樹脂組成物(A)を含む光学材料用樹脂組成物を成形したフィルムの全光線透過率を高めることが可能となる。
【0063】
さらに、熱可塑性樹脂組成物(A)には、本発明の効果を著しく損なわない範囲内で、各種目的に応じて任意の添加剤を配合することができる。このような添加剤の種類は、樹脂やゴム状重合体の配合に一般的に用いられるものであれば特に制限はない。例えば、二酸化珪素等の無機充填剤;酸化鉄等の顔料;ステアリン酸,ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤;離型剤;パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤;その他の酸化防止剤;紫外線吸収剤;ヒンダードアミン系光安定剤;難燃剤;帯電防止剤;有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤;着色剤、その他添加剤、或いはこれらの混合物等が挙げられる。
【0064】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、フェノール系化合物、オキサゾール系化合物、マロン酸エステル系化合物、シアノアクリレート系化合物、ラクトン系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンズオキサジノン系化合物等が挙げられる。好ましくは、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物である。これらを単独で用いても、2種以上併用して用いてもよい。
紫外線吸収剤の添加量は、熱可塑性樹脂組成物(A)100質量部に対して、紫外線吸収剤が0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜2質量部、さらに好ましくは0.1〜1.5質量部以下である。
【0065】
次に、本発明の光学材料用組成物について説明する。
本発明の光学材料用組成物の製造方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法が利用できる。例えば、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ブラベンダー、各種ニーダー等の溶融混練機を用いて原料、すなわち、熱可塑性樹脂組成物(A)、酸化防止剤(B)、必要に応じて上記その他の成分等、を添加して溶融混練して樹脂組成物を製造することができる。
【0066】
本発明の光学材料用樹脂組成物を、射出成形、シート成形、ブロー成形、インジェクションブロー成形、インフレーション成形、押し出し成形、発泡成形等、公知の方法で成形し、光学素子用成形体を得ることができる。圧空成形、真空成形等の二次加工成形法も用いることができる。
光学素子用成形体としてフィルム又はシートを製造する場合は、例えば、Tダイ、円形ダイ等が装着された押出機等を用いて、未延伸フィルム、シートを押し出し成形することができる。押し出し成形により成形品を得る場合は、事前に原料を溶融混錬した光学材料用樹脂組成物を用いることもできれば、押し出し成形時に原料の溶融混錬を経て成形することもできる。
また、熱可塑性樹脂組成物(A)、酸化防止剤(B)に共通な良溶媒、例えば、クロロホルム等の溶媒を用いキャスト成形し未延伸フィルム、シートを得ることも可能である。
【0067】
さらに必要に応じて、未延伸フィルム、シートを機械的流れ方向(MD)に縦一軸延伸、機械的流れ方向に直行する方向(TD)に横一軸延伸することができる。例えば、工業的には、ロール延伸又はテンター延伸による一軸延伸法、ロール延伸とテンター延伸の組み合わせによる逐次2軸延伸法、テンター延伸による同時2軸延伸法、チューブラー延伸による2軸延伸法等によって延伸フィルムを製造することができる。最終的な延伸倍率は得られた成形体の熱収縮率より判断することができる。延伸倍率は少なくともどちらか一方向に0.1%以上300%以下であることが好ましく、1%以上200%以下であることがさらに好ましく、2%以上100%以下であることがとりわけ好ましい。この範囲に設計することにより、複屈折、強度の観点で好ましい延伸成形体が得られる。
延伸倍率は、得られた延伸フィルムをガラス転移温度よりも20℃以上高い温度で収縮させ以下の関係式から延伸倍率を決定できる。また、ガラス転移温度はDSC法や粘弾性法により求めることができる。
延伸倍率(%)=[(収縮前の長さ/収縮後の長さ)−1]×100
【0068】
本発明において、フィルムとは300μm以下の厚さのものを言い、シートとは300μmを超えるものである。また、本発明において、フィルムは望ましくは1μm以上、より望ましくは5μm以上であり、シートは、望ましくは10mm以下、より望ましくは5mm以下の厚さである。
【0069】
本発明の光学材料用樹脂組成物を成形した光学素子用成形体の黄色度ΔYI値は、1.5以下であることが好ましい。ΔYI値が1.5を超えるとである黄色味が強くなり表示画面のコントラストが低下する場合がある。
ここで、黄色度ΔYIとは、成形体の黄色の着色度合い、すなわち、着色、を示す値であり、JIS T7105によって定義され、以下の式によって求められる。
黄色度差ΔYI=YI−YI0
ここで、ΔYI=黄色度差、YI=成形体の黄色度、I0=空気の黄色度である。
【0070】
また、本発明の光学材料用樹脂組成物を成形した光学素子用成形体のヘイズは、2%以下であることが好ましい。ヘイズが2%を超えると表示画面のコントラストが低下する場合がある。
ここで、ヘイズとは、成形体の透明性を示す値であり、ASTM D1003によって定義される。
【0071】
成形体のΔYIやヘイズの値は、成形条件や光学材料用組成物中の酸化防止剤(B)の配合量によって調整できる。
【0072】
本発明の光学材料用樹脂組成物を成形した光学素子用成形体には、例えば反射防止処理、透明導電処理、電磁波遮蔽処理、ガスバリア処理等の表面機能化処理をすることもできる。
【実施例】
【0073】
以下に実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれらの例に制限されるものではない。
【0074】
まず、評価方法について述べる。
<評価方法>
(1)複屈折、光弾性係数の測定
Macromolecules 2004,37,1062−1066に詳細の記載のある複屈折測定装置を用いた。レーザー光の経路にフィルムの引っ張り装置を配置し、23℃で伸張応力をかけながら複屈折を測定した。伸張時の歪速度は20%/分(チャック間:30mm、チャック移動速度:6mm/分)、試験片幅は7mmで測定を行った。複屈折のΔnと伸張応力(σR)の関係から、最小二乗近似により線形領域の直線の傾きをもとめ光弾性係数(CR)を求めた。
(2)ΔYIの測定
スガ試験機株式会社 多光源分光測定計 MSC−5N−GV5(JISZ8722−C条件の装置)を使用して、JIS T7105(プラスチックの光学的特性試験方法に準拠し、以下の式を用いて黄色度 ΔYIを測定した。ΔYIは、成形体の黄変色の度合いを示し、この値が小さいほど、着色が小さいことを示す。
黄色度差ΔYI=YI−YI0
ΔYI=黄色度差
YI=成形したフィルムの黄色度
YI0=空気の黄色度
(3)ヘイズの測定
フィルムのヘイズ値をASTM D1003に準拠し測定を行った。
(4)分子量及び分子量分布
GPC[東ソー製GPC−8020、検出RI,カラム昭和電工製Shodex K−805,801連結]を用い、溶媒はクロロホルム、測定温度40℃で、市販標準ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。
(5)異物の発生状況の判定
異物の発生状況を、以下の評価基準を用いて評価した。
◎◎: 異物が認められない。
◎ : 異物が特に認められない。
○ : 異物が認められない。
△ : 異物が僅かに認められる。
× : 異物が多く認められる。
××: 異物が非常に多く認められる。
【0075】
(6)スチレン−アクリロニトリル共重合体中のアクリロニトリル含量の測定
試料となるスチレン−アクリロニトリル共重合体を熱プレス機を用いてフィルムに成形し、日本分光社製FT−410を用いて、フィルムの1603cm-1、2245cm-1におけるアクリロニトリル基に由来する吸光度を測定した。アクリロニトリル含量が既知のスチレン−アクリロニトリル共重合体を用いてあらかじめ求めておいたスチレン−アクリロニトリル共重合体中のアクリロニトリル含量と1603cm-1、2245cm-1の吸光度比との関係を用いて、スチレン−アクリロニトリル共重合体中のアクリロニトリル含量を定量した。
(7)スチレン−無水マレイン酸共重合体中の無水マレイン酸含有量の測定
試料となるスチレン−無水マレイン酸共重合体を重クロロホルムに溶解し、日本電子製1H−NMR(JNM ECA−500)を用い、周波数500MHz、室温にてNMR測定を行なった。測定結果より、スチレン単位中のベンゼン環のプロトンピーク(7ppm付近)と無水マレイン酸単位中のアルキル基のプロトンピーク(1〜3ppm付近)の面積比から、試料中のスチレン単位と無水マレイン酸単位のモル比を求めた。得られたモル比とそれぞれのモノマー単位の質量比(スチレン単位:無水マレイン酸単位=104:98)から、スチレン−無水マレイン酸共重合体中の無水マレイン酸の含量を求めた。
(8)スチレン−メタクリル酸共重合体中のメタクリル酸含有量の測定
試料となるスチレン−メタクリル酸共重合体を重クロロホルムに溶解し、日本電子製1H−NMR(JNM ECA−500)を用い、周波数500MHz、室温にてNMR測定を行なった。測定結果より、スチレン単位中のベンゼン環のプロトンピーク(7ppm付近)とメタクリル酸単位中のアルキル基のプロトンピーク(1〜3ppm付近)の面積比から、試料中のスチレン単位とメタクリル酸単位のモル比を求めた。得られたモル比とそれぞれのモノマー単位の質量比(スチレン単位:メタクリル酸単位=104:86)から、スチレン−メタクリル酸共重合体中のメタクリル酸の含量を求めた。
(9)メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体中のそれぞれの含有量の測定
試料となるメタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体を重クロロホルムに溶解し、日本電子製1H−NMR(JNM ECA−500)を用い、周波数500MHz、室温にてNMR測定を行なった。測定結果より、スチレン単位中のベンゼン環のプロトンピーク(7ppm付近)と無水マレイン酸単位中のアルキル基のプロトンピーク(1〜3ppm付近)とメタクリル酸メチル単位中のメチル基のプロトンピーク(0.5〜1ppm付近)の面積比から、試料中のスチレン単位と無水マレイン酸単位とメタクリル酸メチル単位のモル比を求めた。得られたモル比とそれぞれのモノマー単位の質量比(スチレン単位:無水マレイン酸単位:メタクリル酸メチル=104:86:100)から、メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体中のそれぞれの含量を求めた。
【0076】
<用いた材料>
1.アクリル系樹脂(A−1)
1−1 メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体1
メタクリル酸メチル89.2質量部、アクリル酸メチル5.8質量部、及びキシレン5質量部からなる単量体混合物に、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,3−トリメチルシクロヘキサン0.0294質量部、及びn−オクチルメルカプタン0.115質量部を添加し、均一に混合した。この溶液を内容積10リットルの密閉耐圧反応器に連続的に供給し、攪拌下に平均温度130℃、平均滞留時間2時間で重合した後、反応器に接続された貯層に連続的に送り出し、一定条件下で揮発分を除去し、さらに押出機に連続的に溶融状態で移送し、メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体のペレットを得た。
得られたメタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体のアクリル酸メチル含量は6.0質量%、重量平均分子量は14.5万、ASTM−D1238に準拠して測定した230℃3.8kg荷重のメルトフロー値は1.0g/分であった。また、その光弾性係数(未延伸)は、−5.2×10-12/Paであった。
【0077】
1−2 メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体2
メタクリル酸メチル93.2質量部、アクリル酸メチル2.3質量部、及びキシレン3.3質量部からなる単量体混合物に、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,3−トリメチルシクロヘキサン0.03質量部、及びn−オクチルメルカプタン0.12質量部を添加し、均一に混合する。この溶液を内容積10Lの密閉耐圧反応器に連続的に供給し、攪拌下に平均温度130℃、平均滞留時間2時間で重合した後、反応器に接続された貯層に連続的に送り出し、一定条件下で揮発分を除去した。さらに押出機に連続的に溶融状態で移送し、メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体のペレットを得た。
得られたメタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体のアクリル酸メチル含量は2.0%、質量平均分子量は10.2万、ASTM−D1238に準拠して測定した230℃3.8kg荷重のメルトフロー値は2.0g/10分であった。また、その光弾性係数(未延伸)は、−4.5×10-12/Paであった。
【0078】
1−3 メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体(A−1−1−1)
特公昭63−1964号公報に記載の方法で、メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体を得た。
得られたメタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体(A−1−1−1)
の組成は、メタクリル酸メチル74質量%、無水マレイン酸10質量%、スチレン16質量%であり、質量平均分子量は12.2万、ASTM−D1238に準拠して測定した230℃3.8kg荷重のメルトフロー値は1.6g/10分であった。また、その光弾性係数(未延伸)は、−2.9×10-12/Paであった。
【0079】
2.スチレン系樹脂(A−2)
2−1 スチレン−無水マレイン酸共重合体(A−2−1)
装置の全てがステンレス鋼で製作されているものを用いて、連続溶液重合を行った。スチレン91.7質量部、無水マレイン酸8.3質量部の比率で合計100質量部を準備した。(ただし、両者は混合しない。)メチルアルコール5質量部、重合開始剤として1,1−tert−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.03質量部をスチレンに混合し、第1調合液とした。0.95kg/hr.の速度で連続して内容積4リットルのジャケット付き完全混合重合機に供給した。
一方、70℃に加熱した無水マレイン酸を、第二調合液として0.10kg/hr.の速度で同一重合機へ供給し、111℃で重合を行った。重合転化率が54%となったところで、重合液を重合機から連続して取り出し、まず230℃に予熱後、230℃に保温し、20torrに減圧された脱揮器に供給し、平均滞留0.3時間経過後、脱揮器の低部のギヤポンプより連続して排出し、さらに押出機に連続的に溶融状態で移送し、スチレン−無水マレイン酸共重合体(A−2−1)のペレットを得た。
得られたスチレン−無水マレイン酸共重合体は無色透明で、中和滴定による組成分析の結果、そのスチレン含量は85質量%、無水マレイン酸含量15質量%であった。ASTM−D1238に準拠して測定した230℃、2.16kg荷重のメルトフローレート値は2.0g/10分であった。また、その光弾性係数(未延伸)は、4.1×10-12/Paであった。
【0080】
2−2 スチレン−メタクリル酸共重合体(A−2−2)
装置の全てがステンレス鋼で製作されているものを用いて、連続溶液重合を行った。スチレン75.2質量%、メタクリル酸4.8質量%、エチルベンゼン20質量%を調合液とし、重合開始剤として1,1−tert−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンを用いた。この調合液を1L/hr.の速度で連続して、内容積2Lの攪拌機付きの完全混合重合器へ供給し、136℃で重合を行った。
固形分49%を含有する重合液を連続して取り出し、まず230℃に予熱後、230℃に保温し、20torrに減圧された脱揮器に供給し、平均滞留0.3時間経過後、脱揮器の低部のギヤポンプより連続して排出した。
得られたスチレン−メタクリル酸共重合体(A−2−2)は無色透明で、中和滴定による組成分析の結果、スチレン含量92質量%、メタクリル酸含量8質量%であった。ASTM−D1238に準拠して測定した230℃、3.8kg荷重のメルトフローレート値は5.2g/10分であった。また、その光弾性係数(未延伸)は、4.8×10-12/Paであった。
【0081】
2−3 スチレン−アクリロニトリル共重合体(A−2−3)
攪拌機付き完全混合型反応機に、スチレン72質量%、アクリロニトリル13質量%、エチルベンゼン15質量%からなる単量体混合物を連続的にフイードし、150℃、滞留時間2時間で重合反応を行った。
得られた重合溶液を押出機に連続的に供給し、押出機で未反応単量体、溶媒を回収し、スチレン−アクリロニトリル共重合体(A−2−3)のペレットを得た。
得られたスチレン−アクリロニトリル共重合体(A−2−3)は無色透明で、中和滴定による組成分析の結果、スチレン含量80質量%、アクリロニトリル含量20質量%であり、ASTM−D1238に準拠した220℃、10kg荷重のメルトフローレート値は13g/10分であった。また、その光弾性係数(未延伸)は、5.0×10-12/Paであった。
【0082】
3.シクロオレフィン系樹脂(COP)
比較のため、シクロオレフィン系樹脂(日本ゼオン株式会社製 Zeonor1420R)を用いた。
【0083】
4.酸化防止剤(B)
(4−1)フェノール系酸化防止剤:IRGANOX1010(B−1−1)
ヒンダードフェノール系酸化防止剤であるチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製IRGANOX1010(融点(Tm):110−125℃)を用いた。
(4−2)フェノール系酸化防止剤:IRGANOX1076(B−1−2)
ヒンダードフェノール系酸化防止剤であるチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製IRGANOX1076(融点(Tm):50−55℃)を用いた。
(4−3)フェノール系酸化防止剤:IRGANOX1098(B−1−3)
ヒンダードフェノール系酸化防止剤であるチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製IRGANOX1098(融点(Tm):156−161℃)を用いた。
(4−4)フェノール系酸化防止剤:IRGANOX3790(B−1−4)
ヒンダードフェノール系酸化防止剤であるチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製IRGANOX3790(融点(Tm):157.6−161.8℃)を用いた。
(4−5)フェノール系酸化防止剤:スミライザ− GS(B−1−5)
アクリレート基を有するフェノール系酸化防止剤である住友化学(株)社製スミライザ− GS(融点(Tm):≧115℃)を用いた。
(4−6)リン系酸化防止剤:IRGAFOS 168(B−2−1)
リン系酸化防止剤であるチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製)IRGAFOS 168(融点(Tm):183−186℃)を用いた。
(4−7)リン系酸化防止剤:スミライザ− GP(B−2−2)
リン系酸化防止剤である住友化学(株)社製スミライザ− GP(融点(Tm):>115℃)を用いた。
(4−8)比較の酸化防止剤1(B’−1)
ラクトン系酸化防止剤であるチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製)HP−136(融点(Tm):99℃及び124℃)を用いた。
(4−9)比較の酸化防止剤2(B’−2)
ヒドロキシルアミン系酸化防止剤であるチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製IRGASTAB FS 042(融点(Tm):56−92℃)を用いた。
(4−10)比較の酸化防止剤3(B’−3)
イオウ系酸化防止剤であるチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製IRGANOX PS 800 FL(融点(Tm):39−41℃)を用いた。
【0084】
5.その他の添加剤
(5−1)アデカスタブLA−31
比較例として、紫外線吸収剤である旭電化(株)社製アデカスタブLA−31(融点(Tm):195℃)を用いた。
(5−2)チヌビンP
比較例として、紫外線吸収剤であるチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製TinuvinP(融点(Tm):128℃)を用いた。
【0085】
[実施例1〜7、比較例1〜7]
表1に記載の配合比の樹脂組成物を、プラスチック工学研究所製Tダイ装着押し出し機(BT−30−C−36−L型/幅400mmTダイ装着/リップ厚0.8mm)を用いて、スクリュー回転数、押し出し機のシリンダー内樹脂温度、Tダイの温度を調整し押し出し成形をすることにより実施例1〜7、比較例1〜7の未延伸フィルムを得た。
【0086】
各未延伸フィルムのフィルム特性(光弾性係数の絶対値、ΔYI、ヘイズ、色、異物)
を表1に示す。なお、比較例4〜7については、酸化防止剤によると思われる測定試料の着色がひどく、ΔYIの測定を実施することができなかった。
【0087】
フェノール系酸化防止剤(B−1)又はリン系酸化防止剤(B−2)を配合した実施例1〜6の樹脂組成物は、光弾性係数の絶対値が小さく、しかも、成形加工時の加熱にもかかわらず、異物の発生がほとんどなく、黄変(着色)や透明性の低下もなかった。さらに、フェノール系酸化防止剤(B−1)及びリン系酸化防止剤(B−2)を併用した実施例7の樹脂組成物は、異物の発生が全くなかった。
一方、酸化防止剤の配合のない比較例1は光弾性係数の絶対値は小さいものの、成形加工時の加熱による異物の発生が著しかった。また、その他の酸化防止剤である、ラクトン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤又は硫黄系酸化防止剤を配合した比較例2〜7の樹脂組成物は、成形加工時の加熱による異物の発生が多少改善されているものもあるものの、その程度は十分でなく、また、黄変(着色)、着色の点で低いレベルにあった。
【0088】
このように熱可塑性樹脂組成物において、フェノール系酸化防止剤(B−1)及びリン系酸化防止剤(B−2)は、その他の酸化防止剤に比べ成形加工時の異物の生成の抑制において顕著な効果を奏することが確認できた。
【0089】
[分子量分布の測定]
実施例2、3、比較例1、4の樹脂組成物中の分子について、GPCを用い分子量分布を測定した。また、対照として、アクリル系樹脂(A−1)とスチレン系樹脂(A−2)とが40/60の割合(質量部)となるようそれぞれのペレットを混合したものを用意し、この混合物中の分子について同様にして分子量分布を測定した。その測定結果を図1及び図2に示す。
図1、2において、横軸は分子量の常用対数、縦軸は分子量Mの分子の重量分率であり、図2は、図1の高分子量付近の拡大図である。
実施例2及び3のフイルムにおいては、その中の高分子は原料ペレットの分子と全く同様の分子量分布曲線を示すのに対し、比較例1及び4のフィルムにおいては、高分子量領域の重量分率が高くなり、且つ、高分子量側に分子量分布曲線がシフトしていた。
以上より、比較例1及び4のフイルムにおいては、熱劣化が起こり、その中に含まれる分子の高分子量化やゲル化現象が生じ、これにより異物が発生していると推測される。
これに対し、酸化防止剤(B)を含有する実施例2及び3のフイルムにおいては、かかる熱劣化が抑制され、それに伴い高分子量化やゲル化の動きが防止され、異物の発生が抑制されたと推測される。
【0090】
【表1】

【0091】
[実施例8〜27、比較例8〜25]
表2及び表3に記載の配合比の樹脂組成物を、プラスチック工学研究所製Tダイ装着押し出し機(BT−30−C−36−L型/幅400mmTダイ装着/リップ厚0.8mm)を用いて、スクリュー回転数、押し出し機のシリンダー内樹脂温度、Tダイの温度を調整し押し出し成形をすることにより実施例8〜27、比較例8〜25の未延伸フィルムを得た。
各未延伸フィルムのフィルム特性(光弾性係数の絶対値、ΔYI、ヘイズ、色、異物)
を表2及び表3に示す。
【0092】
フェノール系酸化防止剤又はリン系酸化防止剤を配合した樹脂組成物から得られた実施例8〜16、19〜21及び23〜26のフィルムは、ΔYI、ヘイズ及び異物の点で良好であった。さらに、フェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤を併用した樹脂組成物から得られた実施例17、18、22及び27のフィルムは、異物の発生が全く認められず、より良好なフィルムであった。また、熱可塑性樹脂組成物(A)の代わりに、シクロオレフィン系樹脂を使用した比較例16〜19のフィルムではフェノール系酸化防止剤を増加すれば異物が減少するが、異物の生成の抑制は十分ではなかった。
【0093】
比較例8と実施例11、18との比較、比較例9と実施例16との比較、比較例10と実施例12、13、15、17との比較、比較例11と実施例14との比較等から、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤は、熱可塑性樹脂組成物(A)の光弾性係数を低減させる傾向を有することが分かった。もっとも、その低減量は、熱可塑性樹脂組成物(A)の代わりに、シクロオレフィン系樹脂を使用した場合(比較例17)と比較して、小さいことが確認できた。
なお、比較例11と比較例12との比較、比較例10と比較例13との比較、比較例8と比較例14との比較等から、紫外線吸収剤は、熱可塑性樹脂組成物(A)の光弾性係数を増加させる傾向を有することが確認できた。
【表2】

【0094】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の光学材料用樹脂組成物は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いられる導光板、拡散板、偏光板保護フィルム、1/4波長板、1/2波長板、視野角制御フィルム、液晶光学補償フィルム等の位相差フィルム、ディスプレイ前面板、ディスプレイ基板、レンズ、タッチパネル等;太陽電池に用いられる透明基板;光通信システム、光交換システム、光計測システムの分野における導波路、レンズ、光ファイバー、光ファイバーの被覆材料、LEDのレンズ、レンズカバーなど様々な光学素子用を製造するための光学材料として用いることができる。
特に、本発明の光学材料用樹脂組成物は、高い複屈折性と低い光弾性係数が要求される光学素子用、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いられる偏光板保護フィルムや位相差フィルムを製造するための光学材料として好適に用いることができる。
【0096】
とりわけ、本発明の光学材料用樹脂組成物からなる光学フィルムは、テレビ、パソコン、携帯電話、カ−ナビゲ−ション、医療機器、産業機器等の各種ディスプレイに用いられるIPSモ−ドの液晶表示装置の画質向上に有用である。
また、本発明の位相差フィルムは、偏光板と貼合して円偏光板とすることにより、反射型液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等の表示装置の内部反射を低減することができ、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】実施例2、3、比較例1、4のフィルム及び原料ペレット中の高分子の分子量分布
【図2】図1の高分子量付近の拡大図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂組成物(A)と、フェノール系酸化防止剤(B−1)及び/又はリン系酸化防止剤(B−2)からなる酸化防止剤(B)を含む光学材料用樹脂組成物。
【請求項2】
前記酸化防止剤(B)を、前記熱可塑性樹脂組成物(A)100質量部に対して、0.01質量部以上2質量部以下含む請求項1記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂(A)が、アクリル系樹脂(A−1)及びスチレン系樹脂(A−2)を含む請求項1又は2記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項4】
前記スチレン系樹脂(A−2)が、無水マレイン酸含量が0.1〜50質量%であるスチレン−無水マレイン酸共重合体である請求項3記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項5】
前記スチレン系樹脂(A−2)が、アクリロニトリル含量が1〜40質量%であるスチレン−アクリロニトリル共重合体である請求項3記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項6】
前記スチレン系樹脂(A−2)が、メタクリル酸含量が1〜50質量%であるスチレン−メタクリル酸急重合体である請求項3に記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂組成物(A)中のアクリル系樹脂(A−1)とスチレン系樹脂(A−2)の含有量の合計が熱可塑性樹脂組成物(A)全体に対して80質量%以上であり、前記熱可塑性樹脂組成物(A)中のアクリル系樹脂(A−1)とスチレン系樹脂(A−2)の質量比((A−1)/(A−2))が20/80〜80/20である請求項4〜6のいずれか1項に記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1から7記載の光学材料用樹脂組成物からなる光学素子用成形体。
【請求項9】
光弾性係数が、−4×10-12〜4×10-12/Paである請求項8記載の光学素子用成形体。
【請求項10】
黄色度ΔYI値が1.5以下であり、ヘイズ値が2%以下である請求項8又は請求項9記載の光学素子用成形体。
【請求項11】
前記フェノール系酸化防止剤(B)が、下記一般式(1)で表される化合物である請求項8〜10のいずれか1項に記載の光学素子用成形体。
[一般式(1)]
【化1】

(一般式(1)中、R1は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表し、R2およびR3は、それぞれ独立して炭素数1〜8のアルキル基を表す。)
【請求項12】
請求項8から11のいずれか1項記載の光学素子用成形体からなる偏光板保護フィルム。
【請求項13】
請求項8から11のいずれか1項記載の光学素子用成形体からなる位相差フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−189902(P2008−189902A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318797(P2007−318797)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】