説明

光学材料

【課題】優れた特定波長光の吸収特性又は発光特性を有しつつ、従来に比して成形加工性を向上できる光学材料を提供する。
【解決手段】本発明の近赤外光吸収性組成物は、エチルホスホン酸、ビニルホスホン酸等のホスホン酸化合物、又は、ジメチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸等のホスフィン酸化合物と、銅イオン、希土類金属イオン等の金属イオンとが溶媒又は樹脂中に含有されて成ることを特徴とする。これにより、特定波長光の吸収特性又は発光特性を有し、しかも、従来よりも熱分解が生じ難くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学材料に関し、詳しくは、金属イオンに特有な特定波長の光(特定波長光)に対する吸収特性又は発光特性を有する光学材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属イオンが発現する特定波長光の吸収特性又は発光特性を利用した光学材料としては、例えば、本出願人による国際公開WO9926952号明細書に記載の光学フィルターを構成する材料が挙げられる。この光学材料は、リン酸エステル化合物と銅イオンとを含有しており、近赤外光吸収特性を有するものである。また、特開2000−98130号公報には、(メタ)アクリル基を有するホスフィン酸化合物と樹脂とを重合させる際に銅塩を添加して得られる光学フィルターについての記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO9926952号明細書
【特許文献2】特開2000−98130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような従来の光学材料及び光学フィルターは、成形加工性、より具体的には熱成形における化学的な安定性が必ずしも十分ではなく、例えば、発泡、失透、或いは、光学材料として使用が困難な程度の変色が生じることがあった。そして、成形の簡易さ及び形状の多様性を改善するには、樹脂組成物としたときの成形温度を一層高め得る材料が望まれていた。また、特開2000−98130号公報に記載のホスフィン酸化合物を用いた光学フィルターは、架橋構造の形成に起因して熱硬化性が発現され、これにより成形において制約を受け易い傾向にもあった。
【0005】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、優れた特定波長光の吸収特性又は発光特性を有しつつ、従来に比して成形加工性を向上できる光学材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明による光学材料は、式(1)で表されるホスホン酸化合物又は式(2)で表されるホスフィン酸化合物と、金属イオンとが、溶媒又は樹脂中に含有されて成ることを特徴とする。ここで、金属イオンとしては特に限定されず、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、又は、希土類金属のイオンであると好ましく、本発明による光学材料は、これらの金属イオンのうち、遷移金属又は希土類金属を含むものであると好ましい。なお、本発明において「遷移金属」とは、原子番号が21(スカンジウム)〜30(亜鉛)、39(イットリウム)〜48(カドミウム)、72(ハフニウム)〜80(水銀)である金属を示す。
【0007】
これらの金属(イオン)は、原子構造に特有な吸光特性又は発光特性を発現し、これらを用いると種々の光学特性を有する光学材料が得られる。特に、遷移金属や希土類金属は、d軌道又はf軌道の電子遷移によると考えられる近赤外光吸収特性、特定波長の可視光吸収又は発光特性を発現するので、機能性に優れた光学材料を形成できる。
【0008】
さらに、これらの金属のなかでも、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、クロム、銅、ネオジム、プラセオジム、ユーロピウム、ツリウム、エルビウム、テルビウム、ジスプロシウム、サマリウム、ランタン、ガドリニウム、ホルミウム等が有用な金属であり、なかでも、本発明の光学材料としては、金属イオンが、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、クロム、銅、ネオジム、プラセオジム、ユーロピウム、ツリウム、エルビウム、テルビウム、ジスプロシウム、サマリウム、ランタン、ガドリニウム及びホルミウムのうちの少なくとも一つの金属のイオンであると好適である。
【0009】
特に、銅は、ホスホン酸又はホスフィン酸化合物に配位又は結合されて極めて優れた近赤外光吸収特性及び可視光透過特性を良好に発現できる。また、ネオジム、プラセオジム、ユーロピウム、ツリウム又はエルビウムは、吸収波長の吸収ピークが大きく且つ急峻であり、波長成分の選択性に優れると共に、蛍光等の発光効率が高い傾向にある。
【0010】
そして、本発明による式(1)で表されるホスホン酸化合物又は式(2)で表されるホスフィン酸化合物を用いた光学材料、及び、従来の光学材料について熱的な安定性を評価したところ、本発明による光学材料は従来に比して熱分解が生じ難いことが確認された。
【0011】
これは、式(1)又は(2)で表される化合物の結合安定性に起因して、それらの金属塩の耐熱性が向上するものと考えられる。詳細は不明ではあるが、具体的には、リン原子の結合として結合エネルギーの大きなP−C結合を含むのに加え、より結合エネルギーの小さい特定のエステル構造(例えば、メタクリロイル基由来のエステル基)を含まないことによると推定される。但し、作用及び機序はこれに限定されない。
【0012】
またさらに、本発明の光学材料においては、用いる溶媒や樹脂に応じた特性及び性質が光学材料及び/又はその成形体(重合性溶媒又は樹脂を構成する単量体に溶解又は分散されたものを重合したもの)に付与される。したがって、これらの溶媒や樹脂を適宜選択することによって、各種の用途に好適な光学材料が得られる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明した通り、本発明によれば、優れた特定波長光の吸収特性又は発光特性を有しつつ、従来に比して成形加工性を向上できる光学材料を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1Aは、加熱プレス試験において、加熱プレス機に光学材料を配置した状態を模式的に示す断面図であり、図1Bは、加熱プレス試験において光学材料をプレスしている状態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明による光学材料の好適な実施形態、及び、この光学材料を用いた光学部材等について説明する。
【0016】
〈金属イオン〉
本発明の光学材料を構成する金属イオンとしては、金属の種類に特に制限はないが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、若しくは、希土類金属のイオンが好ましく用いられる。これらの金属イオンは、各金属原子の電子構造に特有な吸光特性又は発光特性を有しており、種々の光学特性が発現される光学材料が得られる。特に、遷移金属及び希土類金属は、それぞれd軌道及びf軌道の電子遷移によると考えられる近赤外光吸収特性、並びに、特定波長の可視光吸収又は発光特性を発現するので、機能性に優れた光学材料を形成できる。
【0017】
このような金属イオンとして具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀等のイオンが挙げられる。
【0018】
これらの金属イオン源としては、かかる金属を含有するものであれば特に限定されるものではないが、これらの金属と、例えば、酢酸、蟻酸、ステアリン酸、安息香酸、エチルアセト酢酸、シュウ酸、ピロリン酸、ナフテン酸、クエン酸等の有機酸、又は、硫酸、塩酸、硝酸、フッ酸等の無機酸との塩、塩基性炭酸塩、水酸化物、酸化物、それらの無水物又は水和物若しくは水化物等が例示される。
【0019】
これらの金属イオンのなかでも、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、クロム、銅、ネオジム、プラセオジム、ユーロピウム、ツリウム、エルビウム、テルビウム、ジスプロシウム、サマリウム、ランタン、ガドリニウム、ホルミウム等のイオンがより好ましく、特に、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、クロム、銅、ネオジム、プラセオジム、ユーロピウム、ツリウム、エルビウム、テルビウム、ジスプロシウム、サマリウム、ランタン、ガドリニウム及びホルミウムのうちの少なくとも一つの金属のイオンであると一層好ましい。
【0020】
特に、銅は、近赤外領域の光(近赤外光)に対する良好な吸収特性と可視光透過特性とを有しており、より具体的には、銅イオンのd軌道の電子遷移によって近赤外光が選択的に吸収され、優れた近赤外光吸収特性が発現される。これにより、視感度補正、測光、近赤外光及び赤外光カット、熱線吸収、輝度調整等の各種用途に好適な光学材料を得ることができる。
【0021】
また、ネオジム、プラセオジム、ユーロピウム、ツリウム又はエルビウムは、それぞれのイオンに特有な波長光の吸収特性及び選択性に優れている(具体的には、吸収ピークが大きくかつ急峻である)。例えば、3価のネオジムイオンは、波長580nm近傍の光をシャープに吸収する特性を有し、また、エルビウムイオンは波長520nm近傍の光をシャープに吸収する特性を有している。
【0022】
このような希土類金属イオンを含有する光学材料は、可視光の防眩性に優れた光学部材を形成でき、また、医療用或いは加工用レーザーで用いられるレーザー光(波長約520nm)からの眼の防護性に優れた光学部材を形成できる。さらに、これら希土類金属のイオンは、希土類金属イオンのなかでも、蛍光を高効率で発光したり、レーザ発光したりするので、これら希土類金属のイオンを用いることにより、優れた光増幅機能を発現できる光学材料を形成できる。
【0023】
これらの金属イオンは、単独で又は二種以上混合して用いられる。このとき、金属イオンの使用量としては、光学材料中における含有割合が、好ましくは2〜60質量%、より好ましくは5〜30質量%、特に好ましくは10〜25質量%となるように調整される。この金属イオンの含有割合が2質量%未満であると、光学材料の厚さによっては特定波長光に対する十分な吸収特性が得られ難い傾向にある。一方、この含有割合が60質量%を超えると、金属イオンの種類にもよるが、金属イオンを光学材料中に均一に溶解又は分散させ難い傾向にある。
【0024】
また、光学材料中の銅イオン及び/又は希土類金属イオンの含量が、例えば、全金属イオン量の50質量%以上、好ましくは70質量%以上とすると好適である。こうすることにより、銅イオン及び/又は希土類金属イオンに特有な光学特性を有する光学材料を確実に得ることができる。
【0025】
〈ホスホン酸化合物、ホスフィン酸化合物〉
本発明の光学材料は、下記式(1)で表されるホスホン酸化合物、又は、下記式(2)で表されるホスフィン酸化合物を含むものである。
【0026】
【化1】

【0027】
ここで、式中のR、R及びRは、炭素数が1〜30である分岐状、直鎖状又は環状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又はアリル基を示し、少なくとも一つの水素原子が、ハロゲン原子、オキシアルキル基、ポリオキシアルキル基、オキシアリール基、ポリオキシアリール基、アシル基、アルデヒド基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、又は、芳香環を有する基で置換されていても、置換されていなくてもよい。
【0028】
式(1)で表されるホスホン酸化合物の例としては、エチルホスホン酸、ビニルホスホン酸、n−ブチルホスホン酸、2−エチルヘキシルホスホン酸、3−ブロモプロピルホスホン酸、3−メトキシブチルホスホン酸、ベンゼンホスホン酸、4−メトキシフェニルホスホン酸等、すなわち、下記式(3)〜式(10)で表されるホスホン酸化合物等が挙げられる。
【0029】
【化2】

【0030】
また、式(2)で表されるホスフィン酸化合物の例としては、ジメチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチル)ホスフィン酸、2−フェニルホスフィノプロパン酸等、すなわち、下記式(11)〜式(14)で表されるホスフィン酸化合物等が挙げられる。
【0031】
【化3】

【0032】
ここで、式(1)における基R、並びに、式(2)における基R及び基Rの炭素数が20を超えると、式(1)で表されるホスホン酸化合物又は式(2)で表されるホスフィン酸化合物を後述する樹脂中に含有させたときに、樹脂との相溶性が低下することがあり、これにより、樹脂中に金属イオンを分散させ難くなる傾向にある。
【0033】
〈光学材料〉
本発明による光学材料は、上述したホスホン酸化合物又はホスフィン酸化合物と、上述した金属イオンを含む化合物(金属イオン源)、換言すれば、それらの反応により得られるホスホン酸金属化合物又はホスフィン酸金属化合物(以下、説明の便宜上、まとめて「特定の金属化合物」という)が、溶媒又は樹脂中に含有されて成るものである。このような光学材料の好適な実施形態としては、例えば、以下のものが挙げられる。
[第1実施形態]:特定の金属化合物を含有する液状組成物
[第2実施形態]:特定の金属化合物を含有する樹脂組成物
[第3実施形態]:特定の金属化合物を含有する粘着性組成物
【0034】
〈第1実施形態〉
本実施形態の光学材料は、特定の金属化合物が溶媒(溶剤)中に含有されて成る液状の組成物である。この液状組成物としては、溶媒を蒸発させて生成される薄膜や薄層が、金属イオンの吸収波長以外の波長光に対して透明なものであると好ましく、液状組成物自体は、透明なもの、半透明なもの、又は、不透明なものであってもよい。
【0035】
溶媒としては、水又は有機溶媒を用いることができ、有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール類、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ等のグリコールエーテル類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸ブチルセルソルブ等のエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物、ヘキサン、ケロシン、石油エーテル等が用いられる。また、他の溶媒として、例えば、(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物等の有機溶媒を用いることもできる。
【0036】
なお、上記( )括弧で囲まれた「メタ」の意味は、アクリル酸若しくはその誘導体、及び、メタクリル酸若しくはその誘導体の両方を記載する必要があるときに、記載を簡潔にするため便宜上使用されている記載方法であり、本明細書においても採用したものである。
【0037】
この液状組成物は、溶媒として有機溶媒を用いる場合、例えば、適宜の有機溶媒中においてホスホン酸化合物又はホスフィン酸化合物と金属イオン源である塩とを反応させることによって製造できる。
【0038】
有機溶媒としては、用いられるホスホン酸化合物又はホスフィン酸化合物を溶解又は分散し得るものであれば、特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物、テトラヒドロフラン等のフラン類又はフラン誘導体、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のグリコールエーテル類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、ヘキサン、ケロシン、石油エーテル等が挙げられる。また、(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物等の重合性を有する有機溶媒も用いられる。
【0039】
また、別の製造方法として、ホスホン酸化合物又はホスフィン酸化合物と金属イオン源である塩とを混合することにより両者を反応させて得られる特定の金属化合物を、適宜の溶媒中に溶解又は分散させることによっても調製可能である。なお、これらの方法において、金属イオン源となる金属化合物の、ホスホン酸化合物若しくはホスフィン酸化合物又は溶媒への溶解を促進するための溶解助剤を加えてもよい。
【0040】
この液状組成物に含まれる特定の金属化合物の含有割合は、使用される溶媒の種類、光学材料の用途又はその使用目的等によって異なるが、調合後の粘度の観点から、通常、溶媒100質量部に対して、0.1〜1900質量部、好ましくは1〜900質量部、特に好ましくは5〜400質量部となる範囲で調整される。
【0041】
〈第2実施形態〉
本実施形態の光学材料は、特定の金属化合物が樹脂中に含有されて成る組成物である。特定の金属化合物は、樹脂との相溶性に優れたものであり、金属イオンがその樹脂中に良好に分散され得る。樹脂としては、ホスホン酸化合物若しくはホスフィン酸化合物及び/又は特定の金属化合物との相溶性又は分散性に優れる樹脂であれば特に限定されない。このような樹脂として、例えば、以下に示すアクリル系樹脂等の樹脂を好ましく用いることができる。
【0042】
アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステル系単量体又はそれから得られる重合体が好ましく用いられる。(メタ)アクリル酸エステル系単量体のうち単官能基のものの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロシキエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロシキプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレン(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート等の変性(メタ)アクリレート類、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル〕プロパン、2−ヒドロキシ−1−(メタ)アクリロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロパン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリットトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリットテトラ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
【0043】
また、別の樹脂としては、上記の(メタ)アクリル酸エステル系単量体と、この(メタ)アクリル酸エステル系単量体との共重合が可能な他の共重合性単量体も用いられる。このような共重合性単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸等の不飽和カルボン酸、N,N−ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類、スチレン、α−メチルスチレン、クロルスチレン、ジブロムスチレン、メトキシスチレン、ビニル安息香酸、ヒドロキシメチルスチレン等の芳香族ビニル化合物等が挙げられる。
【0044】
さらに、樹脂重合体(ポリマー)としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、各種のポリ炭酸エステル(ポリカーボネイト)類、各種のポリウレタン類、各種のエポキシ樹脂等、更には、スチレン、α−メチルスチレン、クロルスチレン、ジブロムスチレン、メトキシスチレン、ビニル安息香酸、ヒドロキシメチルスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物の重合体が挙げられる。
【0045】
ここで、樹脂を構成する単量体として単官能性のもののみを用いる場合には、重合した成形体として熱可塑性のものが得られ、単量体の一部又は全部として多官能性のものを用いる場合には、熱硬化性の成形体が得られる。よって、これら樹脂を適宜選択することにより、使用目的、用途及び成形加工方法等に応じた光学材料の成形体を得ることが可能となる。これらのうち、熱可塑性のものを用いれば、重合後の再成形が容易となるので、成形加工性が向上される。
【0046】
この樹脂組成物を調製するための具体的な方法は、特に限定されるものではないが、以下の2つの方法等によると好適である。
【0047】
〔第1の樹脂組成物調製方法〕:この方法は、単量体中に、ホスホン酸化合物又はホスフィン酸化合物及び金属イオン源、或いは、両者の反応によって得られた特定の金属化合物を含有させることにより単量体組成物を調製する方法である。この単量体組成物は、重合せずにそのまま光学材料として用いることができ、或いは、この単量体組成物をラジカル重合処理して光学材料としてもよい。
【0048】
この方法において、単量体組成物のラジカル重合処理の具体的な方法としては、通常のラジカル重合開始剤を用いるラジカル重合法、例えば、塊状(キャスト)重合法、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法等の公知の方法を利用することができる。ただし、重合処理方法は、これらに限定されるものではない。また、単量体組成物の重合によって得られる光学材料の成形体における耐候性や耐熱性を向上させる観点からは、この単量体組成物に、紫外線吸収剤や光安定剤等の各種の高分子用添加剤を添加すると好適である。また、光学材料の色調を整えるために、各種着色剤を添加しても構わない。
【0049】
このような紫外線吸収剤としては、例えば、p−tert−ブチルフェニルサリシレート等のサリシレート系、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート等のシアノアクリレート系等の紫外線吸収剤が挙げられる。
【0050】
また、光安定剤としては、例えば、ビス(1,2,2,6,6ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ジ(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−ブチル(3’,5’−ジtert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)マロネート、1−(2−(3−(3,5−ジtert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル)−4−(3−(3,5−ジtert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ポリ{(6−{1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ}−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)(1,6−{2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル}アミノヘキサメチレン)}、ポリ{{6−(モルフォリノ)−S−トリアジン−2,4−ジイル}{1,6−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ}ヘキサメチレン}、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジネタノールとのジメチルサクシネートポリマー等の各種ヒンダードアミン系の光安定剤を用いることができる。
【0051】
さらに、ラジカル重合開始剤としては、通常の有機過酸化物系重合開始剤を用いることができ、tert−ブチルパーオキシネオデカノエート、tert−ブチルパーオキシデカネート、tert−ブチルパーオキシピバレート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシラウレート、 tert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート等のパーオキシエステル、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン等のパーオキシケタール等が好ましく用いられる。
【0052】
或いは、2,2−アゾビス(イソブチロニトリル)や2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−2−カルボニトリル)等のアゾ系ラジカル重合開始剤も好ましく用いられる。
【0053】
〔第2の樹脂組成物調製方法〕:この方法は、樹脂中に、ホスホン酸化合物又はホスフィン酸化合物及び金属イオン源、或いは、両者の反応によって得られた特定の金属化合物を加えて混合する方法である。この方法は、樹脂として熱可塑性樹脂を用いるときに利用すると有効である。具体的には、以下の二つの方法が例示される。
【0054】
すなわち;
(1)溶融させた樹脂中に、ホスホン酸化合物又はホスフィン酸化合物及び金属イオン源、或いは、特定の金属化合物を加えて混練する方法、
(2)樹脂を適宜の有機溶媒に溶解、分散又は膨潤させ、この溶液にホスホン酸化合物又はホスフィン酸化合物及び金属イオン源、或いは、特定の金属化合物を加えて混合した後、この溶液から有機溶媒を除去する方法、
がある。また、これらのいずれの方法においても、金属イオン源の溶解性を高めるために、各種溶解助剤を添加すると効果的な場合があるので、このような処理は好ましい処理である。
【0055】
上記二つの調製方法のうち、前者の方法((1)の方法)における混練手段としては、熱可塑性樹脂の溶融混練法として一般に用いられている手段、例えば、ミキシングロールによって溶融混練する手段、ヘンシェルミキサー等によって予備混合した後、押出機によって溶融混練する手段が挙げられる。
【0056】
一方、後者の方法((2)の方法)で用いられる有機溶媒としては、樹脂を溶解、分散又は膨潤し得るものであれば、特に限定されるものではなく、その具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン等の塩素系炭化水素類、ジメチルアクリルアミド、ジメチルフォルムアミド等のアミド化合物等が挙げられる。
【0057】
ここで、本実施形態の光学材料、つまり樹脂組成物における特定の金属化合物の含有割合は、光学材料の用途、その使用目的等によって異なるものの、成形性の観点から、通常、樹脂100質量部に対して、0.1〜400質量部、好ましくは0.3〜200質量部、特に好ましくは1〜100質量部となる範囲で調整される。また、樹脂組成物における金属イオンの含有割合は、樹脂組成物全体に対して、前述したように好ましくは2〜60質量%となるように調整される。
【0058】
〈第3実施形態〉
本実施形態の光学材料は、樹脂組成物の一形態であって、特定の金属化合物が、粘着性を有する樹脂(以下、「粘着性樹脂」という)に含有されて成る組成物である。このような粘着性樹脂としては、例えば、粘着性を有するアクリル系樹脂、ポリビニルブチラール、エチレン−酢酸ビニル共重合体又はその部分鹸化物等が挙げられる。本実施形態の粘着性組成物は、これらの粘着性樹脂に、ホスホン酸化合物又はホスフィン酸化合物及び金属イオン源、或いは、特定の金属化合物を混合することにより得られる。
【0059】
また、この粘着性組成物には、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系又はサリチル酸系の紫外線吸収剤、その他の抗酸化剤、安定剤等を更に含有させることができる。さらに、種々の可塑剤を含有させることもできる。このような可塑剤としては、リン酸トリクレジル、リン酸トリフェニル等のリン酸エステル系可塑剤、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート等のフタル酸系可塑剤、ジブチルセバケート、ブチルリシノレート、メチルアセチルリシノレート、ブチルサクシネート等の脂肪酸系可塑剤、ブチルフタリルブチルグリコレート、トリエチレングリコールジブチレート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチラート、ポリエチレングリコール等のグリコール系可塑剤等が挙げられる。
【0060】
以上説明した本発明の光学材料においては、ホスホン酸化合物又はホスフィン酸化合物の水酸基由来の酸素原子が配位結合及び/又はイオン結合により金属イオンに結合している。よって、金属イオンは、ホスホン酸基又はホスフィン酸基に囲まれた状態で組成物中に溶解又は分散されているので、用いられる金属(イオン)の原子構造に特有な吸光特性又は発光特性が良好に発現される。したがって、その金属イオンの吸光特性、透光特性又は発光特性に応じた光学特性を有する光学材料を得ることができる。
【0061】
また、式(1)で表されるホスホン酸化合物又は式(2)で表されるホスフィン酸化合物は、分子中のリン原子の結合が、従来公知のリン酸エステル化合物に含まれるP−O−C結合よりも強固なP−C結合を含むことにより、そのような従来のリン酸型化合物に比して耐熱性等が向上される。
【0062】
さらに、式(1)で表されるホスホン酸化合物又は式(2)で表されるホスフィン酸化合物は、従来の(メタ)アクリル基を有するホスホン酸化合物に含まれる特定のエステル構造、つまり(メタ)アクリロイル基由来のエステル基を有していない。このようなエステル構造は、P−O−C結合よりも結合エネルギーが小さい。
【0063】
よって、本発明による光学材料は、そのような特定のエステル構造を有するホスホン酸化合物、更には同ホスフィン酸化合物に比して、熱的安定性を一層向上できる。但し、作用はこれらに限定されるものではない。したがって、本発明による光学材料は、従来に比して熱分解が生じ難く、特に樹脂組成物としたときの成形温度をこれまでより高めることができ、成形加工性を向上できる。
【0064】
また、式(1)で表されるホスホン酸化合物又は式(2)で表されるホスフィン酸化合物として、式中のR、R及びRが置換又は未置換のアルキル基又はアリール基を用いると、光学材料自体の熱や紫外線に対する安定性が高められる。さらに、樹脂組成物としたときに、ホスホン酸化合物又はホスフィン酸化合物と樹脂との架橋構造が形成されないので熱硬化性の発現が抑制でき、これにより光学材料の成形加工性を一層向上できる。
【0065】
またさらに、上述した金属イオンの中でも、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、銅、ネオジム、プラセオジム、ユーロピウム、ツリウム、エルビウム、テルビウム、ジスプロシウム、サマリウム、ホルミウム等のイオンを用いると、光学的な機能により優れた光学材料を得ることが可能である。
【0066】
特に、銅は、ホスホン酸化合物又はホスフィン酸化合物に配位又は結合されて極めて優れた近赤外光吸収特性及び可視光透過性を発現でき、視感度補正、測光、近赤外光及び赤外光カット、熱線吸収、輝度調整等の各種用途に好適な光学材料とすることができる。
【0067】
また、ネオジム、プラセオジム、ユーロピウム、ツリウム、エルビウム、テルビウム、ジスプロシウム、サマリウム及びホルミウムは、吸収波長の吸収ピークが大きく且つ急峻である。しかも、波長成分の選択性に優れると共に、蛍光の発光効率が高い傾向にあり、或いは、レーザ発光する。よって、これらのことから、視感度補正、光増幅、防護遮蔽等の各種用途に好適な光学材料を形成可能である。
【0068】
またさらに、式(1)で表されるホスホン酸化合物及び/又は式(2)で表されるホスフィン酸化合物並びに上述の金属イオンが溶媒又は樹脂中に含有されているので、それらの溶媒や樹脂に応じた特性及び性質を光学材料又はその成形体である光学部材に付与できる。よって、これらの溶媒や樹脂を適宜選択することによって、各種の用途に好適且つ高機能な光学材料を簡易に且つ確実に製造できる。
【0069】
さらにまた、光学材料を各種形態(特定の金属化合物そのもの、液状組成物、樹脂組成物、粘着性組成物等)とできるので、それらの各形態に応じた優れた特性、例えば、成形加工性、熱可塑性、熱硬化性、透明性、耐候性、軽量性、粘着性、易取扱性、塗布容易性、乾燥性等を光学材料及び/又はその成形体に付与できる。したがって、各種の用途に適用可能な汎用性に富む光学材料が得られる。
【0070】
〈光学部材〉
本発明による光学材料を用いると、種々の用途に適応した光学部材を形成できる。光学部材の形態としては、例えば、光学材料自体、透光性材料等と組み合わせたもの、成形加工したもの等が挙げられ、具体的には、粉体状、液状、粘着状、塗料状、フィルム状、板状、筒状、レンズ状等の種々の形態とすることができる。
【0071】
このような光学部材は、その優れた耐久性、耐候性、光学特性、汎用性、経済性等、更に本発明によって実現される極めて優れた成形加工性により、例えば、CCD用、CMOS用又は他の受光素子用の視感度補正部材、測光用部材、熱線吸収用部材、複合光学フィルタ、レンズ部材(眼鏡、サングラス、ゴーグル、光学系、光導波系)、ファイバ部材(光ファイバ)、ノイズカット用部材、プラズマディスプレイ前面板等のディスプレイカバー又はディスプレイフィルタ、プロジェクタ前面板、光源熱線カット部材、色調補正部材、照明輝度調節部材、光学素子(光増幅素子、波長変換素子等)、ファラデー素子、アイソレータ等の光通信機能デバイス、光ディスク用素子等を構成するものとして好適である。
【実施例】
【0072】
以下、本発明に係る具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
〈合成例1〉
テトラヒドロフラン18.0gにエチルホスホン酸0.91gを溶解させた。これに無水酢酸銅0.50gを加え、内温が60℃となるように加熱した状態で2時間攪拌した。析出物をろ過後、40℃で一晩真空乾燥して銅錯体を得た。
【0074】
〈合成例2〉
エチルホスホン酸の代わりにビニルホスホン酸0.89gを使用したこと以外は、合成例1と同様にして銅錯体を得た。
【0075】
〈合成例3〉
エチルホスホン酸の代わりにn−ブチルホスホン酸1.14gを使用したこと以外は合成例1と同様にして銅錯体を得た。
【0076】
〈合成例4〉
エチルホスホン酸の代わりに2−エチルヘキシルホスホン酸0.32gを使用したこと以外は、合成例1と同様にして銅錯体を得た。
【0077】
〈合成例5〉
エチルホスホン酸の代わりに3−ブロモプロピルホスホン酸1.68gを使用したこと以外は合成例1と同様にして銅錯体を得た。
【0078】
〈合成例6〉
エチルホスホン酸の代わりに3−メトキシブチルホスホン酸2.00gを使用したこと以外は合成例1と同様にして銅錯体を得た。
【0079】
〈合成例7〉
エチルホスホン酸の代わりにベンゼンホスホン酸1.32gを使用したこと以外は合成例1と同様にして銅錯体を得た。
【0080】
〈合成例8〉
エチルホスホン酸の代わりに4−メトキシフェニルホスホン酸1.55gを使用したこと以外は合成例1と同様にして銅錯体を得た。
【0081】
〈合成例9〉
テトラヒドロフランの代わりにエタノール18.0gを使用し、エチルホスホン酸の代わりにジメチルホスフィン酸0.32gを使用したこと以外は合成例1と同様にして銅錯体を得た。
【0082】
〈合成例10〉
酢酸銅無水物0.5gをエタノール20.0gに溶解させ、これにジフェニルホスフィン酸1.09gを添加した。60℃で2時間攪拌後、析出物をろ過し、40℃で一晩真空乾燥して銅錯体を得た。
【0083】
〈合成例11〉
エタノール18.0gにビス(1,1,3,3−テトラメチルブチル)ホスフィン酸(日本化学社製、製品名:ホスター)4.79gを溶解させた。これに酢酸銅一水和物0.50gを加え、内温が60℃となるように加熱した状態で2時間攪拌した。そして、無水酢酸銅が全て溶解した後、一晩放置し、析出した青色結晶物のろ過を行い銅錯体を得た。
【0084】
〈合成例12〉
エタノール18.0gに2−フェニルホスフィノプロパン酸1.18g(日本化学社製、製品名:ダイホスマーPC−6HA)を溶解させた。これに酢酸銅一水和物0.50gを加え、内温が60℃となるように加熱した状態で2時間攪拌した。析出物をろ過後乾燥して銅錯体を得た。
【0085】
〈比較例1〉
エチルホスホン酸の代わりに下記式(15)で表されるモノメチルリン酸0.62g、及び、下記式(16)で表されるジメチルリン酸0.69gを使用したこと以外は合成例1と同様にして銅錯体を得た。
【0086】
【化4】

【0087】
〈比較例2〉
エチルホスホン酸の代わりに下記式(17)で表されるモノ−2−エチルヘキシルリン酸1.20g、及び、下記式(18)で表されるジ−2−エチルヘキシルリン酸1.80gを使用したこと以外は合成例1と同様にして銅錯体を得た。
【0088】
【化5】

【0089】
〈比較例3〉
酢酸銅無水物0.5gをエタノール20.0gに溶解させ、下記式(19)で表されるジフェニルリン酸1.25gを加え、内温が60℃となるように加熱した状態で2時間攪拌した。反応終了後、反応溶液から反応溶媒及び副生した酢酸を留去し、40℃で一晩真空乾燥して銅錯体を得た。
【0090】
【化6】

【0091】
〈比較例4〉
トルエン18.0gに下記式(20)で表されるリン酸エステル化合物0.32g、及び、下記式(21)で表されるリン酸エステル化合物0.45gを溶解させた。これに酢酸銅一水和物0.50gを加え、内温が60℃となるように加熱した状態で2時間攪拌した。反応終了後、反応溶媒及び副生した酢酸を留去し、40℃で一晩真空乾燥して銅錯体を得た。
【0092】
【化7】

【0093】
〈熱安定性試験〉
合成例1〜12及び比較例1〜4で得られた光学材料(銅錯体)の熱分解特性を、以下の測定装置及び測定条件;
a)測定装置:メトラー製TA4000熱分析システム、
b)測定条件:昇温速度;10℃/分、温度範囲;30〜300℃、窒素雰囲気、
で測定した。加熱前に対して重量が1%及び5%減少したときの温度(熱分解温度)の測定結果を表1に示す。
【0094】
【表1】

【0095】
これらの結果より、本発明に用いられるホスホン酸化合物及びホスフィン酸化合物と銅イオンとの錯体は、従来に比して熱的な安定性が極めて高いことが確認された。
【0096】
〈実施例1〉
合成例4で調製した銅錯体0.31gを細かく破砕し、これをメチルメタクリレート9.69g、シクロヘキシルメタクリレート10.0g及びα−メチルスチレン0.04gと混合し、調製溶液を得た(モノマー溶液)。このモノマー溶液にラジカル開始剤としてt−ブチルペルオキシデカネートを0.20g添加し、試験管に入れ、45℃で16時間、60℃で8時間、100℃で3時間と順次異なる温度に昇温して重合し、円柱状の光学材料を得た。
【0097】
〈実施例2〉
合成例1で調製した銅錯体0.50gを細かく破砕し、これをアクリルシラップSY−105(三菱レーヨン社製、製品名:MMAシラップ)19.50gと混合し、調製溶液(モノマー溶液)を得た。このモノマー溶液にラジカル開始剤としてt−ブチルペルオキシデカネートを0.20g添加し、試験管に入れ、45℃で16時間、60℃で8時間、100℃で3時間と順次異なる温度に昇温して重合し、円柱状の光学材料を得た。
【0098】
〈実施例3〉
合成例1で調製した銅錯体の代わりに合成例7で調製した銅錯体0.50gを使用したこと以外は、実施例1と同様にして円柱状の光学材料を得た。
【0099】
〈比較例5〉
比較例4で作成した銅錯体0.50gを細かく破砕し、メチルメタクリレート19.50g及びα−メチルスチレン0.04gと混合し、調製溶液(モノマー溶液)を得た。このモノマー溶液にラジカル開始剤としてt−ブチルペルオキシデカネートを0.20g添加し、試験管に入れ、45℃で16時間、60℃で8時間、100℃で3時間と順次異なる温度に昇温して重合し、円柱状の光学材料を得た。
【0100】
〈比較例6〉
下記式(22)で表されるリン酸エステル化合物17g、下記式(23)で表されるリン酸エステル化合物18g、メチルメタクリレート364.6g、及び、α−メチルスチレン0.9gを混合し、調製溶液を得た。
【0101】
【化8】

【0102】
これに安息香酸銅32gを加え、内温が60℃となるように加熱し、2時間攪拌した。安息香酸銅が溶解した後、このモノマー溶液を−20℃の冷蔵庫内に24時間放置し、安息香酸(融点122℃)を結晶化させて析出させ、析出した安息香酸を−20℃の温度環境下でろ別分離した。得られたモノマー溶液に、ラジカル開始剤としてt−ブチルパーオキシオクタノエートを2.0g添加し、試験管に入れ、45℃で16時間、60℃で8時間、100℃で3時間と順次異なる温度に昇温して重合し、円柱状の光学材料を得た。
【0103】
〈加熱プレス試験〉
実施例1〜3並びに比較例5及び6作製した光学材料について加熱プレス試験を実施した。図1Aは、加熱プレス試験において、加熱プレス機に光学材料を配置した状態を模式的に示す断面図であり、図1Bは、加熱プレス試験において光学材料をプレスしている状態を模式的に示す断面図である。まず、図1Aに示すように、対向する二つのプレス板1の間に、フェロ板2を介して光学材料10を配置し、更に光学材料10の両側に断面が矩形状を成す厚さ3mmのスペーサを配設した。次に、このように配置した光学材料に、図1Bに示す如く、二方向から40kgf/cmの圧力を印加し、200℃の温度で10分間保持した。
【0104】
プレス前後において光学材料10の形状及び内部の状態を目視観察した。各光学材料に対する結果を表2にまとめて示す。表中、プレス後に破砕、割れ、発泡といった不具合が生じなかったものには「○」を付し、破砕又は発泡が生じたものには「×」を付した。
【0105】
【表2】

【0106】
これらの結果より、従来の光学材料としての比較例の光学材料は、加熱プレスによる熱変形時に破砕や発泡といった問題が発生し得ることが確認された。これに対し、本発明による光学材料は、上記条件の加熱プレスによっても、破砕、発泡などの重大な問題が発生せず、従来に比してより高温での加圧成形が可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0107】
10…光学材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1);
【化1】


(式中、Rは、炭素数が1〜30である分岐状、直鎖状若しくは環状のアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示し、少なくとも一つの水素原子が、ハロゲン原子又はオキシアルキル基で置換されていても、置換されていなくてもよい。)で表されるホスホン酸化合物と、金属イオンと、を含む化合物が、溶媒又は樹脂中に含有されて成り、
前記金属イオンは、銅の金属のイオンである、ことを特徴とする光学材料。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−63814(P2011−63814A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269384(P2010−269384)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【分割の表示】特願2000−193301(P2000−193301)の分割
【原出願日】平成12年6月27日(2000.6.27)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】