説明

光学機器、画像処理方法およびプログラム

【課題】光軸が互いに異なる複数の撮影光学系を有して高画質な画像を生成することが可能な光学機器を提供すること
【解決手段】撮影光学系6、7の光軸O1、O2上の対応する位置にある光学面9、11に形成された反射防止膜16、17を有する光学機器の各撮影光学系が形成した光学像を光電変換することによって得られる画像は、前記光学面における反射に起因して前記画像に発生したゴースト像14、15を特定する特定処理と、前記特定処理によって特定された前記ゴースト像を各画像から除去する除去処理と、を有する画像処理の対象とされ、前記反射防止膜は、前記特定処理が前記ゴースト像の光学特性の差に基づいて前記ゴースト像を特定することができるように互いに反射特性が異なっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光軸が互いに異なる複数の撮影光学系を有する光学機器、該光学機器で撮影された画像に対する画像処理方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
光軸が互いに異なる複数の撮影光学系を有し、立体画像を撮像可能な撮像装置(以下、「立体画像撮像装置」と呼ぶ場合もある)は従来から知られている。そして、特許文献1、2は、このような立体画像撮像装置において、一つの撮影光学系で撮影した画像に他の撮影光学系からの漏れ光が入射して結像することを抑制する手段を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−45521号公報
【特許文献2】特開2009−180976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2は、他の撮影光学系ではなく自身の撮影光学系に含まれるレンズの表面や撮像素子のガラスカバーの表面などの光学面の反射に起因して、自身の撮影画像に発生する二重像などのゴースト像を低減する方法については提案していない。このゴースト像は、特に、太陽などの高輝度な光源が画面内にある場合に発生し易い。
【0005】
この問題を解決する手段として、ゴースト像は反射に起因するため、反射を極力抑える高性能な反射防止膜を光学面に設けたり、ゴースト像を形成する光が撮像素子の撮像面に集光しないようにレンズの曲率を変えたりすることが考えられる。あるいは、撮影画像からゴースト像を画像処理によって除去することも考えられる。
【0006】
ところが、高性能な反射防止膜は積層数が多く、材料の制約もあり、製造が複雑で高価であると共にゴースト像の低減効果が十分でない場合がある。また、レンズの曲率を変えると撮影光学系の光学性能も変わってしまうため好ましくない。更に、従来の画像処理では画像におけるゴースト像を特定する処理において、ゴースト像であるか通常の被写体の撮影画像(ゴースト像以外の画像)であるかの判定精度が低く、この結果、ゴースト像の除去が十分ではなかった。
【0007】
本発明は、光軸が互いに異なる複数の撮影光学系を有し、高画質な画像を生成することが可能な光学機器を提供することを例示的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光学機器は、それぞれが互いに異なる光軸を有し、物体の光学像を形成する複数の撮影光学系と、各撮影光学系の光軸上の対応する位置にある光学面に形成され、入射光の波長と反射率の関係を規定する反射特性が異なる反射防止膜と、を有し、各撮影光学系が形成した前記光学像を光電変換することによって得られる画像は、前記光学面における反射に起因して前記画像に発生したゴースト像を、前記反射防止膜の反射特性によって生じる光学特性の差に基づいて特定する特定処理と、前記特定処理によって特定された前記ゴースト像を各画像から除去する除去処理と、を有する画像処理の対象とされることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光軸が互いに異なる複数の撮影光学系を有し、高画質な画像を生成することが可能な光学機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態の立体画像撮影装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態の画像処理方法の一例を示すフローチャートである。
【図3】本発明の反射防止膜の特性を示すグラフである。(実施例1)
【図4】本発明の撮影装置で撮影された画像の概念図である。(実施例1)
【図5】本発明の画像処理後の撮影画像の概念図である。(実施例1)
【図6】本発明の反射防止膜の特性を示すグラフである。(実施例2)
【図7】本発明の撮影装置で撮影された画像の概念図である。(実施例2)
【図8】本発明のゴースト像を表した色度図である。(実施例2)
【図9】本発明の反射防止膜の特性図である。(実施例3)
【図10】本発明のゴースト像を表した色度図である。(実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本実施形態の撮像装置1について説明する。撮像装置1は、光軸が互いに異なる複数の撮影光学系を有して立体画像を撮影する立体画像撮像装置(光学機器)である。立体画像撮像装置は、2つの撮像ユニットから構成される場合を例に説明する。
【0012】
撮像装置1は、複数の撮像ユニット2、3と、画像エンジン13を有する。撮像ユニット2は、物体である被写体12の光学像を形成する撮影光学系6と、撮影光学系6が形成した光学像を光電変換する撮像素子4と、を有する。撮像ユニット3は、物体である被写体12の光学像を形成する撮影光学系7と、撮影光学系7が形成した光学像を光電変換する撮像素子5と、を有する。
【0013】
撮像ユニット2に含まれる撮影光学系6と撮像ユニット3に含まれる撮影光学系7は互いに異なる光軸O1、O2を有し、撮影光学系6と撮影光学系7の光学素子の構成や配置は同一である。撮影光学系6、7は複数のレンズや絞り等の光学素子を有し、光学素子の光学面には反射防止膜が形成されている。撮像ユニット2に含まれる撮像素子4と撮像ユニット3に含まれる撮像素子5は同一の構成を有し、CCDやCMOSセンサから構成されている。複数の撮像ユニット2、3は、撮像素子4、5を覆うガラスカバー(不図示)、赤外カットフィルタ(不図示)など複数の光学素子を更に有する。
【0014】
撮像ユニット2の光軸O1と撮像ユニット3の光軸O2は平行で基線長Lだけ離れて配置されているため、撮像素子4、5から得られる画像は、視差を有する画像となる。撮像ユニット2によって得られた画像は右目用画像であり、撮像ユニット3によって得られた画像は左目用画像である。
【0015】
撮像素子4、5の出力である電気信号はA/D変換部や画像処理部を含む画像エンジン13に供給される。画像エンジン13は、撮像素子4、5の出力に対して、A/D変換、各種の画像処理を行い、立体画像を観察者に提示するための右眼用画像と左眼用画像を生成する。表示装置や立体画像を観察するための眼鏡等によって、右目用画像は右目、左目用画像は左目に提示されて立体画像の観察を可能にする。上記各種の画像処理は、後述する特定処理(特定するステップまたは手段)と除去処理(除去するステップ又は手段)を含む。
【0016】
なお、本発明の光学機器は、複数の撮像ユニット2、3を有し、撮像装置1の本体に着脱可能に構成された交換レンズであってもよい。
【0017】
次に、各撮像ユニットが撮像した画像に発生するゴースト像について説明する。撮像ユニット2では、被写体12からの光束p1(実際には幅を持っている)は、撮影光学系6によって撮像素子4上に結像される。光束p1は、撮影光学系6を通過する際に、一部がレンズ表面(光学面)で反射され、図1では、レンズ面9で反射した光束が、レンズ面8で再度反射し、点線で示すように、撮像素子4上に到達する。なお、このような反射を生じる光学面は、レンズ面に限定されず、撮像素子のカバーガラスの表面や赤外カットフィルタの表面である場合もある。
【0018】
撮像ユニット3の光学面ではなく撮像ユニット2の(即ち、自身の)光学面の反射によって撮像ユニット2が生成する画像内に写り込む像が本実施形態で低減すべきゴースト像である。通常、レンズ表面には、レンズ面での反射を抑制する目的で光学薄膜である反射防止膜が施されている。反射防止膜は、撮影光学系6の全系での透過率の向上と、前述のゴースト光を低減する効果がある。しかし、高輝度な被写体が画面内や画面近傍に存在する場合や、光学系の構成、被写体の撮影条件などによっては十分にゴースト光を低減できない場合がある。
【0019】
撮影光学系6、7は、同一構成であるため、画角や焦点距離が同じで視差だけが異なる光学像を形成する。従って、撮影光学系7のレンズ面10とレンズ面11も、撮影光学系6と同様のゴースト像が発生してしまう。4つの撮像ユニットを有する4眼レンズ系や、それ以上の撮像ユニットを有する多眼レンズ系においても、同様のゴースト像が発生する。
【0020】
従来の立体画像撮影装置で被写体12である高輝度光源を撮影した画像を図4(c)、(d)に示す。図4(c)は左目用画像、図4(d)は右目用画像を示しており、それぞれに被写体12の近傍にレンズ面の反射で発生するゴースト像14、15が現れている。
【0021】
ゴースト像14、15は、画像の中心、あるいは、レンズ光軸中心が画像と交わる点と被写体を結ぶ対角線上に写り込む。被写体12は、2つの撮影光学系の視差の分だけ、画像上の異なった位置に結像され、ゴースト像も被写体12の視差の分だけ、画面上の結像位置が異なる。
【0022】
しかし実際には、被写体12が結像される結像倍率と、レンズ面の2回反射を介したゴースト光の光路での結像倍率は異なるので、被写体の位置とは異なるずれが、ゴースト像の結像位置に発生してしまう。このように、結像位置がずれたゴースト像は、観察者が立体画像を観察する際に、主な被写体に対して、飛び出して見えたり、奥まって見えたりして目立ち易い。そして、左右の画像とゴースト像14、15は互いの明るさや色相が略同じであり、画像エンジン13による画像処理で除去しようとしても、画像データとしてゴースト像が発生している領域であるかどうかの特定が困難である。
【0023】
本実施形態は、光軸O1、O2の異なる撮影光学系6、7のゴースト光を生じさせているレンズ面8と10、9と11に、異なる反射特性(反射率強度や反射光の色相)の反射防止膜16、17を形成している。図1において、丸で囲った部分はレンズ面9、11の部分拡大図である。レンズ面8、10についても同様に、互いに異なる反射特性を持つ反射防止膜が形成されている。これによって、ゴースト像14、15の光強度や色相を異ならせることができ、画像エンジン13の画像処理の特定処理においてゴースト像の特定を容易にしている。本実施形態では、レンズ面8と10、レンズ面9と11、それぞれに互いの反射特性が異なる反射防止膜を形成した。しかし、レンズ面8、10のみ、あるいは、レンズ面9、11のみに互いの反射特性が異なる反射防止膜を形成しても、ゴースト像が発生している領域の特定を容易にする効果を得ることができる。
【0024】
即ち、各撮像ユニットで得られる画像は、光学面における反射に起因して画像に発生したゴースト像を特定する特定処理と、特定処理によって特定されたゴースト像を各画像から除去する除去処理と、を有する画像処理の対象とされる。
【0025】
そして、反射防止膜16、17は、画像エンジン13による特定処理が、前記ゴースト像の光学特性(光強度や色相)の差に基づいてゴースト像を特定することができるように、入射光の波長と反射率の関係を規定する反射特性が異なっている。言い換えれば、画像の強度や色相の差に基づいてゴースト像を特定する。
【0026】
特定処理では、左右の画像からゴースト像の特徴量を抽出し、ゴースト像の領域を判別する画像処理技術を利用することができる。例えば、左右の画像の差分演算や相互相関演算などの処理を行い、閾値判定することによって左右画像間で光強度や色相が異なるデータ箇所を抽出することができる。この時、左右の視差画像における視差ずれの方向を判定時に考慮する。例えば、フィルタリング処理などを施すことで、ゴースト像の領域の判別は容易にできる。また、判別されたゴースト像領域に対して、ゴースト像の低減や消去する画像処理についても、無彩色変換や近傍画像からの推定など公知の画像修復技術を利用することができる。
【0027】
この結果、本実施形態によれば、画像エンジン13が、左右の画像を比較して特徴を抽出し、これによってゴースト像を特定してそれを除去する画像処理を行う際にゴースト像を簡単かつ精度よく判別できるので高画質の画像を生成することができる。
【0028】
また、画像処理を撮像装置1の外部で行ってもよい。この場合、画像処理方法は、例えば、パーソナルコンピュータにインストールされ、コンピュータに特定処理と除去処理を実行させるための画像処理ソフト(プログラム)として具現化可能である。図2にプログラムの指示に従ってコンピュータが実行する処理のフローチャートを示す。まず、ステップS201において、コンピュータは、各撮像ユニットによって撮像された右眼用画像と左眼用画像を取得する。次に、ステップS202において、コンピュータは、右眼用画像と左眼用画像の光強度の差分に基づきゴースト像の発生領域を特定する。ステップS203において、コンピュータは、ステップS202において特定されたゴースト像を低減する処理を実行する。ステップS202において、光強度の差ではなく、色相の差に基づいてゴースト像が発生している領域を特定してもよい。
【0029】
上述したように、撮像ユニット2、3が撮像装置1の本体に着脱可能に装着される場合には、レンズ鏡筒に設けられたレンズマイコンが不図示のカメラ本体のカメラマイコンに反射防止膜の情報を与える。あるいは、反射防止膜が特定可能な情報(例えば、反射防止膜の識別情報)、あるいは、光強度、色相の差等、画像エンジン13が特定処理において用いるべき情報を与える。その情報に応じて、カメラ本体の画像エンジン13で前述の処理を行う。
【0030】
ゴースト像の領域を判別しやすくするためには反射特性は相対するレンズ面で極端に変化させることが好ましいが、被写体の透過光量が大きく変化してゴースト像以外の画像全面の明るさや色相が左右の画像間で変化してしまうのは好ましくない。そこで、本実施形態は反射防止膜16、17の反射特性を、可視波長域400nmから700nmの平均反射率が2%を超えないように特性を異ならせるようにしている。これにより、本実施形態の撮像ユニットを用いて撮影した立体画像データに、ゴースト像を低減、消去させる処理を行わない場合でもゴースト像は発生しにくく、高輝度な被写体が画面内や画面近傍に存在しなければゴースト像の発生を抑えた撮影が可能である。
【0031】
光軸の異なる撮影光学系の数が3つ以上ある場合は、対応する光学面の反射防止膜の反射特性を全て異ならせてもよいし、任意の2つの対応する光軸上の位置の光学面の反射防止膜の反射特性を異ならせてもよい。また、上述したように、本発明の反射防止膜の構成は、撮像素子のカバーガラスや赤外カットフィルタなど他の光学素子でゴースト光が発生する場合にも適用して良い。また、各反射防止膜は、単層膜または多層膜である反射防止膜に含まれる少なくとも1層の膜厚または材質が異なればよい。
【実施例1】
【0032】
図3は、実施例1におけるゴースト像を発生させるレンズ面に施した反射防止膜の反射特性のグラフであり、本実施例の特定処理はゴースト像14、15の光強度の差に基づいてゴースト像の位置を特定する。同図において、横軸が波長(nm)、縦軸は反射率(%)である。左用L1の実線はレンズ面11に施された反射防止膜の反射特性を表し、右用R1の破線はレンズ面9に施された反射防止膜の反射特性を表している。反射防止膜の膜構成を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1中、右用R1としてのウェット膜は、中空SiO粒子やシリカエアロゲルなど膜中に空隙部を有することで低屈折率を実現した膜である。可視光の使用波長帯域である波長400nmから700nmにおける、左用L1の平均反射率は0.34%であり、右用R1の平均反射率は0.05%である。光量比は6.8倍で十分異なる特性となっている。また、いずれの平均反射率も2%以下で良好な反射防止性能を有している。図3は反射防止膜の設計値のグラフであり、実際は、製造誤差で反射特性がばらつくが、製造誤差でばらついたとしても3倍以上の光量比が確保できる構成となっている。
【0035】
図4(a)(b)は図4(c)(d)にそれぞれ対応する実施例1の撮影画像であり、図4(a)は撮像ユニット3で撮影した左目用画像、図4(b)は撮像ユニット2で撮影した右目用画像を示している。ゴースト像14に対してゴースト像15は、反射防止膜の反射特性分だけ弱くなったゴースト像として現れるため、両者を比較することによってゴースト像14、15の位置を特定することが容易になる。
【0036】
図5(a)(b)は、それぞれ図4(a)(b)に示す2つの画像に画像処理を施してゴースト像を除去した画像である。本実施例により、ゴースト像14、15の位置が容易に特定できるので画像処理によって高画質の画像を得ることができる。
【実施例2】
【0037】
図6は、実施例2におけるゴースト像を発生させるレンズ面に施した反射防止膜の反射特性のグラフであり、本実施例の特定処理はゴースト像の色相の差に基づいてゴースト像を特定する。同図において、横軸が波長(nm)、縦軸は反射率(%)である。また、左用L2の実線はレンズ面11に施された反射防止膜の反射特性を表し、右用R2の破線はレンズ面9に施された反射防止膜の反射特性を表している。
【0038】
反射防止膜の膜構成は、両方ともに単層膜であり、膜材料としてMgFを使用している。左用L2の膜厚は91nm、右用R2の膜厚は105nmである。基板レンズは実施例1と同じS−LAH55である。
【0039】
可視光の使用波長帯域である波長400nmから700nmにおける、左用L2の平均反射率は0.65%であり、右用R2の平均反射率が0.88%である。いずれの平均反射率も2%以下で良好な反射防止性能を有している。
【0040】
図7(a)(b)は図3(c)(d)にそれぞれ対応する実施例2の撮影画像であり、図7(a)は撮像ユニット3で撮影した左目用画像、図7(b)は撮像ユニット2で撮影した右目用画像を示している。ゴースト像14に対してゴースト像15は、反射防止膜の反射特性分だけ色見の異なったゴースト像として現れる。
【0041】
撮像ユニット3で発生したゴースト光は、反射特性の青と赤色の反射率が高いので、赤紫色のゴースト像14となる。一方、撮像ユニット2で発生したゴースト光は、反射防止膜の反射特性の青色の反射率が高いので、青色のゴースト像15となる。
このゴースト像の色相の違いを判別することによってゴースト領域を特定する。本実施例では、ゴースト像のRGB信号値からL*a*b*色空間の信号値に変換を行う。まず、ゴースト像のRGB信号値を計算する。被写体12として、高輝度な太陽光を想定し、D65光源の分光特性を用いた。立体画像撮影光学系の特性は、ゴースト光が発生する光路で、光学系を構成する各光学素子を透過、反射した特性を掛け合わせ導出する。D65光源と立体画像撮影光学系の特性の2つの分光特性を掛け合わせた値に、撮像素子のRGBの分光感度を掛け合わせ、RGB信号値を計算する。次に、RGB値からL*a*b*値を公知の変換式を使用して計算する。結果として、ゴースト像14は、(L*、a*、b*)=(64.51、65.60、−0.47)のL*a*b*値を有し、ゴースト像15は、(L*、a*、b*)=(52.83、64.27、−119.25)のL*a*b*値を有する。
【0042】
a*b*の値が色相を表すので、色相の判定にはa*b*の値を用いる。図8は、実施例2のa*b*色度図を表わし、横軸がa*、縦軸がb*である。ゴースト像14が図中L2、ゴースト像15が図中R2である。各々の色度図上の点を原点からのベクトル量と考えると、ベクトルの大きさが彩度、方向が色相を表している。
【0043】
次に、2つのゴースト像の相対的な色相のずれを求める。ベクトル量と見なすと、ベクトルの内積から2つの色相の相対的な角度を求められる。2つのゴースト像の相対的な色相の差は、61.3°と求められる。この色相角の差を判別することで、画像中のゴースト領域を判別することができる。理想的には、補色である180°に近いほうが好ましいが、60°以上であれば、十分な色相の違いが画像中で生じていると判断でき、ゴースト領域の特定が可能となる。
【0044】
なお、ゴースト領域の判定にRGB値など別の色空間の値を用いてもよい。本実施例でも、図5(a)(b)と同様に、ゴースト領域が容易に特定できるので、図7(a)(b)に示す2つの画像に画像処理を施してゴースト像を除去した高画質の画像を得ることができる。
【実施例3】
【0045】
図9は、実施例3におけるゴースト像を発生させるレンズ面に施した異なる反射特性を有する反射防止膜の反射特性のグラフであり、本実施例の特定処理も、実施例2と同様に、ゴースト像の色相の差に基づいてゴースト像を特定する。同図において、横軸が波長(nm)、縦軸は反射率(%)である。また、左用L3の実線はレンズ面11に施された反射防止膜の反射特性を表し、右用R3の破線はレンズ面9に施された反射防止膜の反射特性を表している。
【0046】
実施例3では、実施例2と異なり、反射防止膜は多層膜から構成されている。反射防止膜の膜構成を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
可視光の使用波長帯域である波長400nmから700nmにおける、左用L3の平均反射率は0.24%であり、右用R3の平均反射率は0.36%である。いずれの平均反射率も2%以下で良好な反射防止性能を有している。
【0049】
実施例2と同様に、ゴースト像14は、(L*、a*、b*)=(59.23、−23.16、−16.11)のL*a*b*値を有し、ゴースト像15は、(L*、a*、b*)=(66.49、21.51、2.80)のL*a*b*値を有する。図10に、実施例3のa*b*色度図を表わし、ゴースト像の相対的な色相の差は、152.6°と補色に近い値となっている。
【0050】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
撮像装置はカメラの用途に適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1…撮影装置(光学機器)、6、7…撮影光学系、12は被写体(物体)、16、17…反射防止膜、O1、O2…光軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが互いに異なる光軸を有し、物体の光学像を形成する複数の撮影光学系と、
各撮影光学系の光軸上の対応する位置にある光学面に形成され、入射光の波長と反射率の関係を規定する反射特性が異なる反射防止膜と、
を有し、
各撮影光学系が形成した前記光学像を光電変換することによって得られる画像は、前記光学面における反射に起因して前記画像に発生したゴースト像を、前記反射防止膜の前記反射特性によって生じる光学特性の差に基づいて特定する特定処理と、前記特定処理によって特定された前記ゴースト像を各画像から除去する除去処理と、を有する画像処理の対象とされることを特徴とする光学機器。
【請求項2】
前記光学面は、前記撮影光学系に含まれる光学素子の光学面であることを特徴とする請求項1に記載の光学機器。
【請求項3】
前記光学機器は、撮像ユニットを有し、
前記撮像ユニットは、前記撮影光学系が形成した前記光学像を光電変換する撮像素子と、を有することを特徴とする請求項1に記載の光学機器。
【請求項4】
前記光学面は、前記撮影光学系に含まれる光学素子、前記撮像素子のカバーガラス、または赤外カットフィルタのいずれかの光学面であることを特徴とする請求項3に記載の光学機器。
【請求項5】
前記画像処理を行う画像処理部を更に有することを特徴とする請求項3または4に記載の光学機器。
【請求項6】
各反射防止膜は、前記反射防止膜に含まれる少なくとも1層の膜厚または材質が異なることを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか1項に記載の光学機器。
【請求項7】
各反射防止膜の反射特性は、使用波長帯域の平均反射率で相対的に3倍以上の差があり、各反射防止膜の前記使用波長帯域の平均反射率は2%以下であることを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載の光学機器。
【請求項8】
前記複数の撮像ユニットの間で各反射防止膜の反射特性は、使用波長帯域でL*a*b*色空間におけるa*b*色度図で表した場合に60°以上、色相が異なり、各反射防止膜の前記使用波長帯域の平均反射率は2%以下であることを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載の光学機器。
【請求項9】
それぞれが互いに異なる光軸を有して物体の光学像を形成する複数の撮影光学系と、各撮影光学系の光軸上の対応する位置にある光学面に形成され、入射光の波長と反射率の関係を規定する反射特性が異なる反射防止膜と、を有する光学機器の各撮影光学系が形成した前記光学像を光電変換することによって得られる画像に発生した、前記光学面における反射に起因するゴースト像を特定するステップと、
前記特定するステップによって特定された前記ゴースト像を各画像から除去するステップと、
を有し、
前記特定するステップは、前記反射防止膜の前記反射特性によって生じる光学特性の差に基づいて前記ゴースト像を特定することを特徴とする画像処理方法。
【請求項10】
前記特定するステップは、画像の強度の差に基づいて前記ゴースト像を特定することを特徴とする請求項9に記載の画像処理方法。
【請求項11】
前記特定するステップは、画像の色相の差に基づいて前記ゴースト像を特定することを特徴とする請求項9に記載の画像処理方法。
【請求項12】
それぞれが互いに異なる光軸を有して物体の光学像を形成する複数の撮影光学系と、各撮影光学系の光軸上の対応する位置にある光学面に形成され、入射光の波長と反射率の関係を規定する反射特性が異なる反射防止膜と、を有する光学機器の各撮影光学系が形成した前記光学像を光電変換することによって得られる画像に発生した、前記光学面における反射に起因するゴースト像を特定するステップと、
前記特定するステップによって特定された前記ゴースト像を各画像から除去する手段と、
をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記特定するステップは、前記反射防止膜の前記反射特性によって生じる光学特性の差に基づいて前記ゴースト像を特定することを特徴とするプログラム。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−102362(P2013−102362A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245107(P2011−245107)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】