説明

光学活性なα−トリフルオロメチルケトン化合物の製造方法

【課題】特殊な装置を必要とせず、工業的に実施可能であり、しかも光学活性を有するα−トリフルオロメチルケトン化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】前駆体となるチタンアートエノラート化合物を、ラジカル開始剤の存在下にヨウ化トリフルオロメタンと反応させ、一般式(4)


(式中、R1〜R3は、互いに非同一であり、水素原子、置換基ないし未置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換ないし未置換の炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜20のアルコキシ基または炭素数1〜20のトリアルキルシロキシ基を表す。R4とR5は、互いに非同一であり、置換ないし未置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換ないし未置換の炭素数6〜20のアリール基を表す。*を記した炭素は不斉炭素を表す。)で表される光学活性なα−トリフルオロメチルケトン化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性なα−トリフルオロメチルケトン化合物を製造する方法に関する。より詳細にはケトン化合物から誘導されるチタンアートエノラート化合物をヨウ化トリフルオロメタンと反応させて、光学活性なα−トリフルオロメチルケトン化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α−トリフルオロメチルケトン化合物は、トリフルオロメチル基含有による特有の物理的性質、化学的性質を示すため、医農薬中間体や電子材料の原料等として有用である。特に、これらの分野において、生理活性や特性の発現に光学活性が大きく関与している場合が多い。このため、光学活性なα−トリフルオロメチルケトン化合物は特に有用である。
【0003】
α−トリフルオロメチルケトン化合物を製造する方法としては、トリフルオロメチル化剤とケトン誘導体を反応させる方法が知られており、トリフルオロメチル化剤として、CF3カチオン型反応剤を用いる方法とヨウ化トリフルオロメタンを用いる方法がある。
【0004】
前者の方法としては、非特許文献1、非特許文献2にトリフルオロメチルカルコゲン塩化合物とケトン誘導体を反応させる方法が報告されている。
【0005】
後者の方法は、ヨウ化トリフルオロメタンが容易に入手できるため、より工業的に利用し易い方法と言える。非特許文献3ではケトン誘導体としてシリルエノラート化合物を用いる方法、非特許文献4ではケトン誘導体としてゲルミルエノラート化合物を用いる方法、非特許文献5ではケトン誘導体としてエナミン化合物を用いる方法が報告されている。
【0006】
しかしながら、以上の先行技術において、光学活性なα―トリフルオロメチルケトンの合成については全く検討されていない。
【0007】
光学活性なα―トリフルオロメチルケトン化合物の検討例としては、非特許文献6に、チタノセン触媒存在下、光学活性エナミン化合物とトリフルオロメチルヨウ化亜鉛を反応させる方法が報告されている。しかし、この方法はトリフルオロメチルヨウ化亜鉛を生成させるために超音波の照射が必要であり、特殊な装置を必要とするため、工業的に実施する上では問題がある。
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., 115, 2156 (1993)
【非特許文献2】J. Org. Chem., 59, 5692 (1994)
【非特許文献3】Bull. Chem. Soc. Jpn., 64, 1542 (1991)
【非特許文献4】Tetrahedron Letters, 31, 6391 (1990)
【非特許文献5】J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, 1365 (1977)
【非特許文献6】J. Am. Chem. Soc., 107, 5186 (1985)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこれらの課題に鑑みてなされたものである。即ち、特殊な装置を必要とせず、工業的に実施可能であり、しかも光学活性を有するα−トリフルオロメチルケトン化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題に鑑み本発明者らは鋭意検討した結果、特定のケトン誘導体を、ラジカル開始剤存在下、ヨウ化トリフルオロメタンと反応させることにより、光学活性を有するα−トリフルオロメチルケトン化合物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は下記要旨に関わるものである。
【0010】
一般式(3)
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R1〜R3は、互いに非同一であり、水素原子、置換基ないし未置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換ないし未置換の炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜20のアルコキシ基または炭素数1〜20のトリアルキルシロキシ基を表す。R4とR5は、互いに非同一であり、置換ないし未置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換ないし未置換の炭素数6〜20のアリール基を表す。*を記した炭素は不斉炭素を表す。また、R1〜R5の任意の2個がヘテロ原子の介在、非介在化に互いに結合し環状構造を形成していても良い。A、B、C、Dは同一または非同一のアルコキシ基、ハロゲン原子またはアミド基を表す。)
で表されるチタンアートエノラート化合物を、ラジカル開始剤の存在下にヨウ化トリフルオロメタンと反応させ、一般式(4)
【0013】
【化2】

【0014】
(R1〜R5は前記定義に同じ。*を記した炭素は不斉炭素を表す。)
で表される光学活性なα−トリフルオロメチルケトンを製造する方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、特殊な装置を使用せず、しかも光学活性を有するα−トリフルオロメチルケトン化合物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、さらに詳細に本発明を説明する。
【0017】
本発明は、前記一般式(3)のチタンアートエノラート化合物をヨウ化トリフルオロメタンと反応させ、光学活性なα−トリフルオロメチルケトン化合物を製造することを特徴とするものである。本発明は、原料であるチタンアートエノラート化合物を生成させる過程と該チタンアートエノラート化合物をヨウ化トリフルオロメタンと反応させる過程からなる。
【0018】
本発明の前過程である、前記一般式(3)のチタンアートエノラート化合物を生成させる過程について説明する。チタンアートエノラート化合物は、一般式(1)
【0019】
【化3】

【0020】
(式中、R1〜R5は前記定義に同じ。*を記した炭素は不斉炭素を表す。)
のケトン化合物及び/または一般式(2)
【0021】
【化4】

【0022】
(式中、R1〜R5は、前記定義に同じ。R6〜R8は炭素数1〜10のアルキル基を表す。*を記した炭素は不斉炭素を表す。)
のシリルエノールエーテルとリチウム化合物及びチタン化合物を反応させることによって生成させる。
【0023】
一般式(1)において、置換基R1〜R3は、水素原子、置換または未置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換または未置換の炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜20のアルコキシ基または炭素数1〜20のトリアルキルシロキシ基である。置換基R4とR5は水素原子、置換または未置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換または未置換の炭素数6〜20のアリール基である。ここで、R1〜R3は互いに非同一である。また、R4とR5は互いに非同一である。R1〜R3が結合する炭素は不斉炭素であり、R配置、S配置のいずれの配置をとっていてもよい。
【0024】
未置換のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基等を挙げることができる。置換基を有するアルキル基としては、例えば、メトキシメチル基、メトキシエチル基、ベンジル基、2−フェニルエチル基及びトリフルオロメチル基等を挙げることができる。未置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等を挙げることができる。置換基を有するアリール基としては、例えば、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、4−エチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−フルオロフェニル基及び2−メチル−1−ナフチル基等を挙げることができる。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基及びt−ブトキシ基等を挙げることができる。トリアルキルシロキシ基としては、トリメチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基及びt−ブチルジメチルシロキシ基等を挙げることができる。なお、置換基R1〜R5は任意の2個が互いにヘテロ原子の介在または非介在化に結合し、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環等の環状構造を形成していてもよい。ヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子等を挙げることができる。
【0025】
このようなケトン化合物の一例として、(4R)−4−メチルヘキサン−3−オン、(4S)−4−メチルヘキサン−3−オン、(4R)−4−メチル−ヘプタン−3−オン、(4S)−4−メチル−ヘプタン−3−オン、(4R)−4−(t−ブトキシ)ヘプタン−3−オン、(4S)−4−(t−ブトキシ)ヘプタン−3−オン、(4R)−4−(t−ブチルジメチルシロキシ)ヘプタン−3−オン、(4S)−4−(t−ブチルジメチルシロキシ)ヘプタン−3−オン、(1R)−1−(t−ブチルジメチルシロキシ)−1−シクロヘキシルブタン−2−オン、(1S)−1−(t−ブチルジメチルシロキシ)−1−シクロヘキシルブタン−2−オン、(1R)−1−(t−ブチルジメチルシロキシ)−1−フェニルブタン−2−オン、(1S)−1−(t−ブチルジメチルシロキシ)−1−フェニルブタン−2−オン、(2R)−2−メチルシクロヘキサノン及び(2S)−2−メチルシクロヘキサノン等を挙げることができる。
【0026】
また、前記一般式(2)のシリルエノールエーテル化合物は、前記の一般式(1)のケトン化合物を塩基存在下、トリアルキルシリルハライド化合物と反応させることにより得られる。置換基R4〜R6は、炭素数1〜10のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、及びn−ブチル基等を挙げることができる。シリルエノールエーテル化合物の一例として、(4R)−4−メチル−3−トリメチルシロキシ−2−ヘキセン、(4S)−4−メチル−3−トリメチルシロキシ−2−ヘキセン、(4R)−4−メチル−3−トリメチルシロキシ−2−ヘプテン、(4S)−4−メチル−3−トリメチルシロキシ−2−ヘプテン、(4R)−4−(t−ブトキシ)−3−トリメチルシロキシ−2−ヘプテン、(4S)−4−(t−ブトキシ)−3−トリメチルシロキシ−2−ヘプテン、(4R)−4−(t−ブチルジメチルシロキシ)−3−トリメチルシロキシ−2−ヘプテン、(4S)−4−(t−ブチルジメチルシロキシ)−3−トリメチルシロキシ−2−ヘプテン、 [(1R)−1−(t−ブチルジメチルシロキシ)−2−トリメチルシロキシ−2−ブテニル]―シクロヘキサン、 [(1S)−1−(t−ブチルジメチルシロキシ)−2−トリメチルシロキシ−2−ブテニル]―シクロヘキサン、 [(1R)−1−(t−ブチルジメチルシロキシ)−2−トリメチルシロキシ−2−ブテニル]―ベンゼン、 [(1S)−1−(t−ブチルジメチルシロキシ)−2−トリメチルシロキシ−2−ブテニル]―ベンゼン、(6R)−6−メチル−1−トリメチルシロキシシクロヘキセン及び(6S)−6−メチル−1−トリメチルシロキシシクロヘキセン等を挙げることができる。
【0027】
リチウム化合物とは、有機リチウム化合物または金属リチウムであり、有機リチウムとして、例えば、メチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム及びt−ブチルリチウム等のアルキルリチウム化合物、リチウムジイソプロピルアミド及びリチウムビス(トリメチルシリル)アミド等のリチウムアミド化合物等を挙げることができる。なお、リチウムアミド化合物は、ジイソプロピルアミンまたはビス(トリメチルシリル)アミン等のアミン化合物とアルキルリチウム化合物を任意の順序で添加することにより、リチウムエノラート化合物を生成させる液中において生成させてもよい。ケトン化合物及び/またはシリルエノールエーテル化合物に対するリチウム化合物の使用量は、モル比で0.5〜2である。
【0028】
チタン化合物とは、チタンハロゲン化物、チタンアルコキサイド化合物及びチタンアミド化合物等であり、チタンハロゲン化物としては、四塩化チタン、四臭化チタン等を挙げることができる。チタンアルコキサイド化合物としては、チタンテトラメトキサイド、チタンテトラエトキサイド、チタンテトライソプロポキサイド等を挙げることができる。チタンアミド化合物としては、テトラキス(ジメチルアミノ)チタン、テトラキス(ジエチルアミノ)チタン等を挙げることができる。このうち、チタンアルコキサイド化合物を用いることが光学活性α−トリフルオロメチルケトン化合物の収率の点で好ましい。ケトン化合物及び/またはシリルエノールエーテル化合物に対するチタン化合物の使用量は、モル比で0.5〜2である。
【0029】
前記一般式(3)のチタンアートエノラート化合物は、ケトン化合物及び/またはシリルエノールエーテル化合物とリチウム化合物及びチタン化合物を溶媒の不在下に混合してもよいが、通常、非プロトン性溶媒の存在下に混合する。非プロトン性溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ペンタン、ヘキサン等のアルカン類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類を挙げることができる。
【0030】
ケトン化合物及び/またはシリルエノールエーテル化合物とリチウム化合物及びチタン化合物の混合順は特に限定されないが、通常、ケトン化合物及び/またはシリルエノールエーテル化合物とリチウム化合物を反応させた後、チタン化合物を添加し、チタンアートエノラートを得る。
【0031】
反応温度は、特に限定されないが、通常、−100℃〜50℃である。前記一般式(3)のチタンアートエノラートは単離して光学活性α−トリフルオロメチルケトン化合物の製造に用いてもよいが、ケトン化合物及び/またはシリルエノールエーテル化合物とリチウム化合物及びチタン化合物を反応させた反応液を光学活性α−トリフルオロメチルケトン化合物の製造に用いるのが簡便であり、チタンアートエノラートの分解等を招きにくい。
【0032】
次に、前記一般式(3)のチタンアートエノラート化合物をヨウ化トリフルオロメタンと反応させる過程について説明する。
【0033】
本発明では、チタンアートエノラート化合物をラジカル開始剤の存在下、ヨウ化トリフルオロメタンと反応させて一般式(4)の光学活性α−トリフルオロメチルケトン化合物を製造する。
【0034】
チタンアートエノラート化合物に対するヨウ化トリフルオロメタンの使用量は、特に限定されないが、通常、モル比で0.5〜30倍である。
【0035】
ラジカル開始剤は、ヨウ化トリフルオロメタンからトリフルオロメチルラジカルを発生し得るものであれば特に限定されるものではないが、例えば、トリエチルボラン、トリブチルボラン等のトリアルキルボラン化合物と分子状酸素、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、ジt−ブチルパーオキサイド等のパーオキサイド化合物等を挙げることができる。これらのうち、トリアルキルボラン化合物と分子状酸素は、低温においてもラジカルを発生できるため、光学活性なα−トリフルオロメチルケトン化合物を製造するには有利である。チタンアートエノラート化合物に対するラジカル開始剤の使用量は、通常、モル比で0.01〜2倍である。なお、トリアルキルボラン化合物と分子状酸素の組み合わせの場合、トリアルキルボランを前記比率で添加し、分子状酸素は微量存在していれば十分である。
【0036】
また、チタンアートエノラート化合物とヨウ化トリフルオロメタンを反応させる際に非プロトン性溶媒を使用してもよい。非プロトン性溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等のアルカン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジn−ブチルエーテル、モノグライム、ジグライム、トリグライム、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アニソール、ベラトロール等のエーテル類、ジエチルスルフィド、ジn−ブチルスルフィド等のスルフィド類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類等を挙げることができる。
【0037】
前記一般式(3)のチタンアートエノラート化合物とヨウ化トリフルオロメタンを反応させる際の反応温度は、特に限定されないが、通常、−100℃〜20℃である。反応圧力は、常圧または加圧下にて実施することができる。反応時間は通常、1秒〜10時間である。なお、反応は十分な攪拌下にて行うことが望ましい。
【0038】
また、前記一般式(3)のチタンアートエノラート化合物、ラジカル開始剤、ヨウ化トリフルオロメタンの混合順は特に限定されないが、チタンアートエノラート化合物とラジカル開始剤を混合後、ヨウ化トリフルオロメタンを添加する方法、あるいはチタンアートエノラート化合物とヨウ化トリフルオロメタンを混合後、ラジカル開始剤を添加する方法が操作上簡便である。
【0039】
反応後は酢酸や塩酸等の酸あるいは水を添加し、反応試剤を失活後、公知の抽出法、蒸留法により光学活性なα−トリフルオロメチルケトン化合物を単離することができる。また、再結晶やクロマト分離法等により、α−トリフルオロメチルケトン化合物の光学純度をさらに上げることも可能である。
実施例
以下に実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
【0040】
参考例1 [(2Z)−(1R)−1−(t−ブチルジメチルシロキシ)−2−トリメチルシロキシ−2−ブテニル]―シクロヘキサンの合成
50ml 2口フラスコにテトラヒドロフラン 10ml、ジイソプロピルアミン 0.224ml(1.6mmol)を入れ−78に冷却した。1.58mol/L n−ブチルリチウム ヘキサン溶液 0.76ml(1.2mmol)を添加し、0℃で30分攪拌した。再び−78℃に冷却し、(1R)−1−(t−ブチルジメチルシロキシ)−1−シクロヘキシルブタン−2−オン(J. Am. Chem. Soc., 103, 1566(1981)の方法に従い合成) 284mg(1.0mmol)を添加し、60分攪拌した。次いで、トリメチルシリルクロリド 0.202ml(1.6mmol)を添加し、室温で6.5時間攪拌した。反応混合物を冷炭酸水素ナトリウム水に注ぎ、ヘキサンで抽出した。抽出液を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧下で留去した。得られた粗生成物をカラム精製し、[(2Z)−(1R)−1−(t−ブチルジメチルシロキシ)−2−トリメチルシロキシ−2−ブテニル]―シクロヘキサン 163mg(収率 46%)を得た。
【0041】
H NMR(300MHz,CDCl)δ0.01(s,3H),0.04(s,3H),0.20(s,9H),0.92(s,9H),0.98−1.32(m,6H),1.52(d,J=6.9Hz,3H),1.58−1.78(m,5H),3.63(d,J=4.2Hz,1H),4.75(q,J=6.9Hz,1H)
13C NMR(75MHz,CDCl)δ―5.0,−4.2,0.9,10.3,18.2,26.0,26.4,26.7,26.8,30.5,41.0,78.5,102.8,151.2
【0042】
参考例2 [(4s)−4−t−ブチルジメチルシロキシ]−3−トリメチルシロキシ−2−ヘプテンの合成
(1R)−1−(t−ブチルジメチルシロキシ)−1−シクロヘキシルブタン−2−オン 284mg(1.0mmol)を(4s)−4−t−ブチルジメチルシロキシヘプタン−3−オン((2S)−2−ヒドロキシペンタン酸を出発とし、J. Am. Chem. Soc., 103, 1566(1981)の方法に従い合成)242mg(1.0mmol)とした以外は参考例1と同様の操作を行い、[(4s)−4−t−ブチルジメチルシロキシ]−3−トリメチルシロキシ−2−ヘプテンを得た。
【0043】
H NMR(300MHz,CDCl)δ0.04(s,3H),0.05(s,3H),0.19(t,J=4.5Hz,3H),0.20(s,9H),1.21−1.48(m,3H),1.52(d,J=6.6Hz,3H),1.54−1.68(m,1H),3.87(t,J=6.2Hz,1H),4.77(q,J=6.7Hz,1H)
【0044】
13C NMR(75MHz,CDCl)δ−4.9,−4.4,0.8,10.5,14.1,18.3,18.4,26.0,37.6,74.5,102.6,152.2
【実施例1】
【0045】
シュレンク管に参考例1で得られた下式
【0046】
【化5】

【0047】
で示される[(2Z)−(1R)−1−(t−ブチルジメチルシロキシ)−2−トリメチルシロキシ−2−ブテニル]―シクロヘキサン (E:Z=0:100) 35.7mg(0.1mmol)とテトラヒドロフラン 1mlを入れ、フラスコを氷浴で冷却した。次に、1.6mol/L n−ブチルリチウム ヘキサン溶液 0.10ml(0.16mmol)を加え20分攪拌し、その後、ジイソプロピルアミン 0.022ml(0.16mmol)を加え更に20分攪拌した。ドライアイス−メターノール浴でフラスコを−78℃に冷却した後、チタンテトライソプロポキシド 0.047ml(0.16mmol)を添加し、30分攪拌した。次に、同温度にてヨウ化トリフルオロメタン 0.22g(1.1mmol)、1mol/L トリエチルボラン/ヘキサン溶液 0.1ml(0.1mmol)を添加した。2時間反応させた後、酢酸及び水を添加し反応を停止させた。反応液をジエチルエーテルで抽出後、濃縮し、組生成物0.067gを得た。この組生成物を19F−NMRで分析したところ、下式
【0048】
【化6】

【0049】
で示される(1R)−1−(t−ブチルシロキシジメチルシロキシ)−1−シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−メチルブタン−2−オン の収率が40%であった。また、この組生成物中、主ジアステレオマーと副ジアステレオマーの比率は95:5であり、光学活性を有するα−トリフルオロメチルケトン化合物が得られた。
【0050】
H NMR(300MHz,CDCl)δ0.02(s,3H),0.04(s,3H),0.94(s,9H)1.06−1.34(m,6H)1.30(d,J=6.9Hz,3H),1.50−1.80(m,5H),3.72(qq,J=8.1,7.5Hz,1H),3.94(d,J=5.7Hz,1H)
13C NMR(75MHz,CDCl)δ−5.0,−4.7,11.5,11.5,18.2,25.8,26.1,26.2,27.6,29.2,29.7,41.1,44.0(q,JC-F=26.3Hz)、83.2,125.2(q,JC-F=278.7Hz),205.6
19F NMR(376Hz,CDCl)δ―68.5(d,JH−F=8.3Hz),
[−68.9(d,JH−F=7.9Hz)副ジアステレオマー]
【実施例2】
【0051】
[(2Z)−(1R)−1−(t−ブチルジメチルシロキシ)−2−トリメチルシロキシ−2−ブテニル]―シクロヘキサン 35.7mg(0.1mmol)に変え、下式
【0052】
【化7】

【0053】
で示される(4s)−4−t−ブチルジメチルシロキシ−3−トリメチルシロキシ−2−ヘプテン(E:Z=5:95) 218mg(0.69mmol)を用いた以外は実施例1と同様に反応を行い、分析を行ったところ、下式
【0054】
【化8】

【0055】
で示される(4R)−4−(t−ブチルシロキシジメチルシロキシ)−2−トリフルオロメチルヘプタン−3−オン の収率が32%であった。また、この組生成物中、主ジアステレオマーと副ジアステレオマーの比率は86:14であり、光学活性を有するα−トリフルオロメチルケトン化合物が得られた。
【0056】
H NMR(300MHz,CDCl)δ0.05(s,3H),0.07(s,3H),0.92(s,9H)0.92(t,J=3.3Hz,3H)1.30(d,J=6.9Hz,3H),1.34(tq,J=7.6,7.6Hz,2H),1.56−1.67(m,2H),3.84(qq,J=8.1,7.5Hz,1H),4.14(t,J=6.3Hz,1H)
13C NMR(75MHz,CDCl)δ−4.9,11.5,13.9,17.9,18.0,25.7,36.2,43.2(q,JC-F=26.3Hz)、78.5,125.2(q,JC-F=278.3Hz),206.7
19F NMR(376Hz,CDCl)δ―68.8(d,JH−F=7.9Hz),
[−69.1(d,JH−F=8.2Hz)副ジアステレオマー]
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明により、特殊な装置を必要とせず、しかも光学活性を有するα−トリフルオロメチルケトン化合物を製造することができる。光学活性なα−トリフルオロメチルケトン化合物は、電子材料、医農薬原料として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(3)
【化1】

(式中、R1〜R3は、互いに非同一であり、水素原子、置換基ないし未置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換ないし未置換の炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜20のアルコキシ基または炭素数1〜20のトリアルキルシロキシ基を表す。R4とR5は、互いに非同一であり、置換ないし未置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換ないし未置換の炭素数6〜20のアリール基を表す。*を記した炭素は不斉炭素を表す。また、R1〜R5の任意の2個がヘテロ原子の介在、非介在化に互いに結合し環状構造を形成していても良い。A、B、C、Dは同一または非同一のアルコキシ基、ハロゲン原子またはアミド基を表す。)
で表されるチタンアートエノラート化合物を、ラジカル開始剤の存在下にヨウ化トリフルオロメタンと反応させ、一般式(4)
【化2】

(R1〜R5は前記定義に同じ。*を記した炭素は不斉炭素を表す。)
で表される光学活性なα−トリフルオロメチルケトン化合物の製造方法。
【請求項2】
ラジカル開始剤がトリアルキルボラン化合物及び分子状酸素であることを特徴とする請求項1に記載の光学活性なα−トリフルオロメチルケトン化合物の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(3)のチタンアートエノラート化合物を、一般式(1)
【化3】

(式中、R1〜R5は前記定義に同じ。*を記した炭素は不斉炭素を表す。)
のケトン化合物または一般式(2)
【化4】

(式中、R1〜R5は、前記定義に同じ。R6〜R8は炭素数1〜10のアルキル基を表す。*を記した炭素は不斉炭素を表す。)
のシリルエノールエーテル化合物とリチウム化合物及びチタン化合物との反応により生成させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光学活性なα−トリフルオロメチルケトン化合物の製造方法。
【請求項4】
有機リチウム化合物がアルキルリチウム化合物及び/またはリチウムアミド化合物であり、チタン化合物がチタンテトラアルコキサイドであることを特徴とする請求項3に記載の光学活性なα−トリフルオロメチルケトン化合物の製造方法。

【公開番号】特開2007−145752(P2007−145752A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−341454(P2005−341454)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(591180358)東ソ−・エフテック株式会社 (91)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】