説明

光学活性な3−アミノピペリジンの製造方法および製造の中間体

【課題】
光学活性な3−アミノピペリジンの工業的に有利な製造方法を提供する。
【解決手段】
3−アミノピペリジンに、分割剤として、(A)光学活性な2−メトキシフェニル酢酸、または(B)光学活性なN−p−トルエンスルホニルフェニルアラニンを使用し、ジアステレオマー法により光学分割を行なう。分割剤(B)を使用した場合、ジアステレオマー塩形成の反応媒体として、(イ)メタノールまたは水とメタノールとの混合溶媒を使用すれば(R)−3−アミノピペリジンを、(ロ)エタノールまたは2−プロパノールを使用すれば(S)−3−アミノピペリジンを、それぞれ得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性な3−アミノピペリジンの製造方法に関し、その製造の過程で得られる中間体にも関する。
【背景技術】
【0002】
3−アミノピペリジンは、下記の式(I)の構造を有し、*の位置の炭素原子が不斉炭素原子であるから、2種の光学活性体が存在する。
【0003】
【化1】

【0004】
光学活性な3−アミノピペリジンは、糖尿病薬や、抗生物質、抗痴呆薬等の医薬品を製造するための中間体として有用であり、とくに(R)−3−アミノピペリジンの需要が、近年著しく増大している。
【0005】
光学活性な3−アミノピペリジンの製造に関しては、つぎのような方法が知られている。
(A)光学活性なオルニチン誘導体を原料とした合成方法(特許文献1)
(B)(RS)−3−アミノピペリジン誘導体を光学分割(特許文献2、特許文献3)したのち、保護基を離脱させる方法
(C)(RS)−3−アミノピペリジンを光学分割する方法(特許文献4)。
【0006】
しかしながら、既知の方法には、工業的に実施する上で種々の問題があった。上記(A)の合成による方法の場合、主原料となる光学活性なオルニチンや反応試薬が高価で、製造工程も長く複雑である。とくに需要の多い(R)−3−アミノピペリジンを製造するには、原料として非天然型のD−オルニチンを必要とするため、とりわけコストが高くなる。
【0007】
(B)および(C)の光学分割による方法の場合、既知のジアステレオマー塩形成による光学分割法では、とくに需要の多い(R)−3−アミノピペリジンまたはその誘導体を製造する場合、分割剤として、非天然型のD−酒石酸またはその誘導体を使用しなければならず、やはりコストが高くなる。さらに、既知のジアステレオマー塩による方法では、1種類のカルボン酸分割剤に対して得られる光学活性3−アミノピペリジンは、R−体、S−体のいずれか一方であるから、R−体、S−体の両方とも必要な場合、対応する光学活性カルボン酸を2種類使用しなければならい。光学分割法のうち、とくに(B)の場合は3−アミノピペリジンの誘導体を光学分割するので、光学活性体を得た後、保護基を離脱させる工程が必要であって、そのために収率や品質の低下を招きやすい。
【0008】
光学分割によって1種類の光学活性体を製造する場合、通常は不要な鏡像体をラセミ化し、再度光学分割の対象とすることができるので、原料は効率よく利用することができるが、それ以前の問題として、安価に工業的規模で得られるカルボン酸を分割剤として用いた光学活性な3−アミノピペリジンを製造する方法は、これまでに知られていなかった。
【0009】
一方、光学活性なモノカルボン酸として、式(II)のα−メトキシフェニル酢酸および式(III)のN−p−トルエンスルホニル−L−フェニルアラニンが知られている。
【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

【0012】
[式中、*は不斉炭素原子の位置を表わす。]
前者は、マンデル酸を原料として使用し、これにジメチル硫酸を作用させるという製造方法が知られていて(非特許文献1)、後者は、L−フェニルアラニンのアルカリ溶液にp−トルエンスルホニルクロライドを作用させて目的物の塩を得たのち、酸性にすることにより製造できることが知られており(非特許文献2)、両者とも、安価な原料から、工業的規模で容易に製造することができる。
【0013】
【特許文献1】国際特許出願公開WO2007/112368
【特許文献2】特開平7−330732
【特許文献3】アメリカ特許出願公開2006/0142310
【特許文献4】国際特許出願公開WO2007/075630
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., vol.72, 1480 (1950)
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc., vol.104, 5719 (1982)
【0014】
発明者らは、光学活性3−アミノピペリジン化合物の製造に、光学分割剤として上記した、工業的規模で安価に得られる光学活性なモノカルボン酸、すなわち光学活性な2−メトキシフェニル酢酸や、N−p−トルエンスルホニル−L−フェニルアラニンを用いて、ラセミ体の3−アミノピペリジン化合物を光学分割することを着想し、試みたところ、光学活性な3−アミノピペリジン化合物を高純度、かつ高収率で得られることを確認した。
【0015】
さらに、分割剤としてN−p−トルエンスルホニル−L−フェニルアラニンを用いた場合、溶媒の種類を変えることによって、析出するジアステレオマー塩が異なり、同じ光学分割剤を用いながら、(R)−3−アミノピペリジンと(S)−3−アミノピペリジンのどちらでも取得できることを見出した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、上述の発明者らが得た知見を活用し、基本的には、光学活性な3−アミノピペリジンを工業的規模で安価に製造する方法を提供することにある。より特定的な目的は、3−アミノピペリジンの光学活性体を、所望に応じて(R)−体および(S)−体として製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の基本的な目的を達成する、光学活性な3−アミノピペリジンを製造する方法は、原理的には、3−アミノピペリジンに光学活性なモノカルボン酸を加え、光学活性な3−アミノピペリジンと光学活性なモノカルボン酸との1:2のジアステレオマー塩を晶出させ、ついで、このジアステレオマー塩を、酸または塩基で処理して光学活性な3−アミノピペリジンを得ることからなる。具体的には、光学分割剤とするモノカルボン酸により、つぎの二つの態様がある。
【0018】
第一の態様は、下式(I)の(RS)−3−アミノピペリジンを、
【0019】
【化4】

【0020】
光学分割剤として、下式(II)
【0021】
【化5】

【0022】
[式中、*は不斉炭素原子の位置を示す。]
で表される光学活性な2−メトキシフェニル酢酸を使用し、ジアステレオマー法により光学分割することを特徴とする製造方法である。
【0023】
第二の態様は、下式(I)の(RS)−3−アミノピペリジンを、
式(III)
【0024】
【化6】

【0025】
[式中、*は不斉炭素原子の位置を示す。]
光学分割剤として、下式(III)
【0026】
【化7】

【0027】
[式中、*は不斉炭素原子の位置を示す。]
で表される光学活性なN−p−トルエンスルホニルフェニルアラニンを使用し、ジアステレオマー法により光学分割することを特徴とする製造方法である。
【0028】
本発明のより特定的な目的を達成する、光学活性な3−アミノピペリジン(APD)の製造方法は、上記のジアステレオマー法の実施に当たり、第二の態様に従って、分割剤として式(III)のN−p−トルエンスルホニル−L−フェニルアラニンを使用し、かつ、反応媒体として、
(イ)メタノールまたはメタノールと水との混合物を使用することにより、ジアステレオマー塩として、(R)−APD・2(分割剤)の構造の塩を晶出させるか、
または、
(ロ)エタノールまたはイソプロパノールを使用することにより、ジアステレオマー塩として、(S)−APD・2(分割剤)の構造の塩を晶出させて、
3−アミノピペリジンの(R)−体および(S)−体を、所望に従って取得する光学活性な3−アミノピペリジンの製造方法である。
【0029】
この体系を一覧可能にすれば、つぎのとおりである。
【0030】
【化8】

【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、光学活性な3−アミノピペリジンを、工業的実施が容易な条件で、したがって低コストで製造することができる。とりわけ、分割剤としてN−p−トルエンスルホニル−L−フェニルアラニンを使用し、かつ、反応媒体として、
(イ)メタノールまたはメタノールと水との混合物、または
(ロ)エタノールまたはイソプロパノール
のいずれかを選択する態様によれば、3−アミノピペリジンの(R)−体および(S)−体を、所望に従って取得することが可能である。本発明により得られる光学活性な3−アミノピペリジンは、前述のように、医薬製造の中間体として有用であり、種々の医薬を低価格で提供することに寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において光学分割の対象とする用いる3−アミノピペリジンは、通常の場合、ラセミ体が予想されるが、(R)−体または(S)−体のどちらかが過剰に含まれているものであってもよい。
【0033】
分割剤として使用する光学活性なモノカルボン酸の使用量は、3−アミノピペリジン1モルに対して0.5モル以上であればよいが、収率および経済性等の点から好ましい使用量は0.9〜2モル、より好ましくは1〜1.5モルである。最適なモル比は光学分割剤により、また反応媒体の種類によって、多少異なる。
【0034】
反応媒体として使用可能な溶剤は広い範囲に及ぶが、水や低級アルコール類、またはその混合溶媒が好成績を与えることから、プロトン性の溶剤が適切である。前記したとおり、式(3)のモノカルボン酸すなわちN−p−トルエンスルホニル−L−フェニルアラニンを光学分割剤とする場合は、媒体を選択することによって、(R)−3−アミノピペリジンおよび(S)−3−アミノピペリジンを所望により分け取ることができる。適切な使用量の範囲は、媒体によって異なる。
【0035】
ジアステレオマー塩を形成する反応の進め方には、とりたてて制約はない。具体例を挙げれば、反応媒体に原料のラセミ体の3−アミノピペリジンを入れ、常圧で媒体の沸点以下の温度に加熱して溶解し、そこへ分割剤を添加するのが、普通に行なわれる方法である。分割剤の添加は一度に行なってもよいし、徐々に行なってもよい。原料のラセミ体を反応媒体に完全に溶解させる必要はなく、一部だけが溶解し、残りが懸濁している状態で分割剤を加えても、ジアステレオマー塩を生成させることができる。分割剤は、媒体に溶かした形で添加してもよい。
【0036】
本発明の光学活性な3−アミノピペリジン製造の中間体として生成するジアステレオマー塩は、つぎの構造をもつ化合物である。すなわち、第一の態様にしたがって光学分割剤として光学活性な2−メトキシフェニル酢酸を使用した場合のものは、下記の式(IVa)の化合物である、(R)−3−アミノピペリジンと(R)−2−メトキシフェニル酢酸の1:2塩、および式(IVb)の化合物である、(S)−3−アミノピペリジンと(S)−2−メトキシフェニル酢酸の1:2塩である。
【0037】
【化9】

【0038】
【化10】

【0039】
第二の態様にしたがって光学分割剤として光学活性なN−p−トルエンスルホニル−L−フェニルアラニンを使用した場合のものは、下記の式(Va)の化合物である、(R)−3−アミノピペリジンと(R)−N−p−トルエンスルホニル−L−フェニルアラニンの1:2塩、および式(Vb)の化合物である、(S)−3−アミノピペリジンと(S)−N−p−トルエンスルホニル−L−フェニルアラニンの1:2塩である。
【0040】
【化11】

【0041】
【化12】

【0042】
ジアステレオマー塩法による光学分割の成績は、要するに、難溶性塩の溶解度と易溶性塩の溶解度との差ができるだけ大きくなるような条件を実現できるか否か、によって決定される。本発明の光学分割においては、反応媒体の極性の程度とその使用量、および分割剤の種類とその使用量に関して、好適な組み合わせがある。後記する実施例のデータを参考に、必要ならば若干の実験を追加することによって、最適な条件を見つけることができるであろう。
【0043】
ジアステレオマー塩を形成させた反応混合物は、つぎに、濾過または遠心分離にかけて、難溶性のジアステレオマー塩を得る。この塩を分解し、そこから(R)−または(S)−3−アミノピペリジンを取得する解塩は、この塩がアミンとカルボン酸との塩であることから、強塩基または強酸を作用させればよいことはいうまでもない。具体的には、たとえば前掲の特許文献 に記載の方法に従って塩酸を作用させれば、効率よく光学活性な3−アミノピペリジン・二塩酸塩を単離することができる。この塩酸塩を、再結晶等の常法によりさらに精製することもできる。さらに必要であれば、この塩酸塩を分解して蒸留することにより、高純度の光学活性3−アミノピペリジンが得られるで。
【0044】
解塩処理によりジアステレオマー塩から分離した、光学分割剤であるモノカルボン酸は、抽出操作等により回収して再使用することができる。また、母液から回収される不要なエナンチオマーである3−アミノピペリジンは、ラセミ化することにより、再使用ができる。その具体的な方法は、たとえば前掲特許文献 に記載されている。
【0045】
所望とする(R)−体または(S)−体の一方の光学活性3−アミノピペリジンを取得した後に残る他方の鏡像体は、それを含む母液をラセミ化し、再度の光学分割の対象とすることにより、有効に利用することができる。発明者らは、3−アミノピペリジンにとって近縁の化合物である3−アミノピロリジンのラセミ化が、ラネーコバルト触媒の存在下に水素で加圧し、加熱することにより実現する(特許文献 )ことに着目し、この方法を光学活性3−アミノピペリジンのラセミ化に適用したところ、同様に有効であることを確かめた。本発明は、この方法によって、または別の方法によって、不要な鏡像体をラセミ化して再度の光学分割の原料とする、循環的な使用の態様をも包含する。
【実施例】
【0046】
以下、本発明について実施例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0047】
(R)−3−アミノピペリジン・ジ(N−p−トルエンスルホニル−L−フェニルアラニン)塩の製造
フラスコに、(RS)−3−アミノピペリジン0.5g(5mmol)、N−p−トルエンスルホニル−L−フェニルアラニン1.59g(5mmol)およびメタノール3gを仕込み、攪拌しながら、液の温度が60℃になるまで加熱して溶解させた。この溶解液を徐々に室温まで冷却して、結晶を析出させた。得られたスラリー液を濾過して、結晶を取り出した。この結晶を、少量のメタノールで洗浄してから乾燥し、(R)−3−アミノピペリジン・ジ(N−p−トルエンスルホニル−L−フェニルアラニン)塩0.55gを得た。得られた結晶の一部をサンプリングして、酒石酸誘導体と反応させ、高速液体クロマトグラフィー(以下、「HPLC」と略記する)で分析したところ、(R)−3−アミノピペリジンの光学純度は、86%eeであった。
【0048】
得られた結晶の別の一部をHPLCで分析したところ、この結晶中のN−p−トルエンスルホニル−L−フェニルアラニンの含有量は86%であり、この結晶が、3−アミノピペリジンとN−p−トルエンスルホニル−L−フェニルアラニンの1:2塩であることが確認された。
【0049】
H−NMR (CDOD/DO=1/1 500MHz) δ
7.50 (4H, d, J=8.0 Hz), 7.23 (4H, d, J=8.0 Hz), 7.21-7.19 (6H, m), 7.13-7.11 (4H, m), 3.79 (2H, dd, J=8.5, 5.0 Hz), 3.62 (1H, dd, J=12.5, 4.0 Hz), 3.51 (1H, tt, J=11.5, 4.0 Hz), 3.40 (1H, ddd, J=12.5, 4.0, 3.5 Hz), 3.03 (2H, dd, J=14.0, 5.0 Hz), 3.00 (1H, dd, J=12.5, 11.5 Hz), 2.96 (1H, td, J=12.5, 3.5 Hz), 2.78 (2H, dd, J=14.0, 8.5 Hz), 2.40 (6H, s), 2.24-2.20 (1H, m), 2.08 (1H, dqui, J=15.0, 3.5 Hz), 1.82 (1H, dtt, J=15.0, 12.5, 4.0 Hz), 1.70-1.62 (1H, m).
【実施例2】
【0050】
(R)−3−アミノピペリジン・ジ(N−p−トルエンスルホニル−L−フェニルアラニン)塩の製造
フラスコに、(RS)−3−アミノピペリジン0.5g(5mmol)、N−p−トルエンスルホニル−L−フェニルアラニン1.59g(5mmol)および10%水/メタノール混合液2gを仕込み、攪拌しながら、液の温度が60℃になるまで加熱して溶解させた。この溶解液を徐々に室温まで冷却して、結晶を析出させた。得られたスラリー液を濾過して結晶を取り出した。この結晶を、少量のメタノールで洗浄してから乾燥し、(R)−3−アミノピペリジン・ジ(N−p−トルエンスルホニル−L−フェニルアラニン)塩0.42gを得た。得られた結晶の一部をサンプリングして、HPLCで分析したところ、(R)−3−アミノピペリジンの光学純度は、82%eeであった。
【実施例3】
【0051】
(S)−3−アミノピペリジン・ジ(N−p−トルエンスルホニル−L−フェニルアラニン)塩の製造
フラスコに、(RS)−3−アミノピペリジン0.5g(5mmol)、N−p−トルエンスルホニル−L−フェニルアラニン1.59g(5mmol)およびエタノール15gを仕込み、攪拌しながら加熱して溶解させた。この溶解液を徐々に室温まで冷却して、結晶を析出させた。得られたスラリー液を濾過して結晶を取り出した。この結晶を、少量のエタノールで洗浄してから乾燥し、(S)−3−アミノピペリジン・ジ(N−p−トルエンスルホニル−L−フェニルアラニン)塩0.82gを得た。得られた結晶の一部をサンプリングし、酒石酸誘導体と反応させ、HPLCで分析したところ、(S)−3−アミノピペリジンの光学純度は、87%eeであった。
【0052】
H−NMR (CDOD/DO=1/1 500MHz) δ
7.50 (4H, d, J=8.0 Hz), 7.26 (4H, d, J=8.0 Hz), 7.20-7.19 (6H, m), 7.13-7.11 (4H, m), 3.79 (2H, dd, J=8.5, 5.0 Hz), 3.62 (1H, dd, J=12.5, 4.0 Hz), 3.52 (1H, tt, J=11.0, 4.0 Hz), 3.39 (1H, dt, J=12.5, 3.5 Hz), 3.03 (2H, dd, J=14.0, 5.0 Hz), 3.01 (1H, dd, J=12.5, 11.0 Hz), 2.96 (1H, td, J=12.5, 3.5 Hz), 2.79 (2H, dd, J=14.0, 8.5 Hz), 2.40 (6H, s), 2.24-2.20 (1H, m), 2.07 (1H, dqui, J=15.0, 3.5 Hz), 1.82 (1H, dtt, J=15.0, 12.5, 3.5 Hz), 1.71-1.63 (1H, m).
【実施例4】
【0053】
(S)−3−アミノピペリジン・ジ(N−p−トルエンスルホニル−L−フェニルアラニン)塩の製造
フラスコに、(RS)−3−アミノピペリジン0.5g(5mmol)、N−p−トルエンスルホニル−L−フェニルアラニン1.59g(5mmol)および2−プロパノール15gを仕込み、攪拌しながら、液の温度が60℃になるまで加熱した。この液を徐々に室温まで冷却して、結晶を析出させた。この後、得られたスラリー液を濾過して結晶を取り出した。この結晶を、少量の2−プロパノールで洗浄してから乾燥し、(S)−3−アミノピペリジン・ジ(N−p−トルエンスルホニル−L−フェニルアラニン)塩1.22gを得た。得られた結晶の一部をサンプリングして酒石酸誘導体と反応させ、HPLCで分析したところ、(S)−3−アミノピペリジンの光学純度は、51%eeであった。
【実施例5】
【0054】
(R)−3−アミノピペリジン・ジ((R)−α−メトキシフェニル酢酸)塩の製造
フラスコに、(RS)−3−アミノピペリジン0.5g(5mmol)、(R)−α−メトキシフェニル酢酸1.24g(7.5mmol)およびエタノール4gを仕込み、攪拌しながら液の温度が60℃になるまで加熱した。この液を徐々に室温まで冷却して、結晶を析出させた。得られたスラリー液を濾過して結晶を取り出した。この結晶を、少量のエタノールで洗浄してから乾燥し、(R)−3−アミノピペリジン・ジ((R)−α−メトキシフェニル酢酸)塩0.92gを得た。得られた結晶の一部をサンプリングして酒石酸誘導体と反応させ、HPLCで分析したところ、(R)−3−アミノピペリジンの光学純度は、70%eeであった。
【0055】
得られた結晶の別の一部をHPLCで分析したところ、この結晶中のα-メトキシフェニル酢酸は76%であり、この結晶が3−アミノピペリジンと、α-メトキシフェニル酢酸の1:2塩であることを確認した。
【0056】
H−NMR (CDOD/DO=1/1 500MHz) δ
7.48-7.45 (4H, m), 7.38-7.34 (4H, m), 7.33-7.30 (2H, m), 4.61 (2H, s), 3.54 (1H, dd, J=12.0, 4.0 Hz), 3.44 (1H, tt, J=11.0, 4.0 Hz), 3.36 (6H, s), 3.32-3.28 (1H, m), 2.95 (1H, dd, J=12.5, 11.0 Hz), 2.87 (1H, td, J=12.5, 3.5 Hz), 2.17-2.12 (1H, m), 1.99 (1H, dqui, J=15.0, 3.5 Hz), 1.76 (1H, dtt, J=15.0, 12.5, 4.0 Hz), 1.65-1.57 (1H, m).
【実施例6】
【0057】
(R)−3−アミノピペリジン・ジ((R)−α−メトキシフェニル酢酸)塩の製造
フラスコに、(RS)−3−アミノピペリジン0.5g(5mmol)、(R)−α−メトキシフェニル酢酸1.24g(7.5mmol)、35%塩酸水溶液0.26gおよび5%NaCl水溶液1.54gを仕込み、攪拌しながら液の温度が80℃になるまで加熱した。この液を徐々に室温まで冷却して、結晶を析出させた。得られたスラリー液を濾過して、結晶を取り出した。この結晶を、少量の水で洗浄してから乾燥し、(R)−3−アミノピペリジン・ジ((R)−α−メトキシフェニル酢酸)塩0.69gを得た。得られた結晶の一部を酒石酸誘導体と反応させ、HPLCで分析したところ、(R)−3−アミノピペリジンの光学純度は、96%eeであった。
【0058】
H−NMR (CDOD/DO=1/1 500MHz) δ
7.47-7.46 (4H, m), 7.39-7.35 (4H, m), 7.34-7.31 (2H, m), 4.63 (2H, s), 3.57 (1H, dd, J=12.5, 4.0 Hz), 3.50 (1H, tt, J=11.0, 4.0 Hz), 3.36 (6H, s), 3.32 (1H, dt, J=12.5, 3.5 Hz), 2.99 (1H, dd, J=12.5, 11.0 Hz), 2.89 (1H, td, J=12.5, 3.5 Hz), 2.17-2.14 (1H, m), 2.00 (1H, dqui, J=15.0, 3.5 Hz), 1.77 (1H, dtt, J=12.5, 3.5 Hz), 1.68-1.60 (1H, m).
【実施例7】
【0059】
(R)−3−アミノピペリジン・二塩酸塩の製造
フラスコに、実施例6と同様の方法で得られた光学純度98%eeの(R)−3−アミノピペリジン・ジ((R)−α−メトキシフェニル酢酸)塩100gと、メチルターシャリーブチルエーテル(MTBE)とを仕込み、室温で攪拌した。生成したスラリーに、11.7%の塩酸を含有するMTBE液158.5gを1.5時間かけて滴下し、(R)−3−アミノピペリジン・二塩酸塩を析出させた。得られたスラリー液を濾過して、結晶を取り出した。この結晶を、少量のMTBEで洗浄してから乾燥し、(R)−3−アミノピペリジン・二塩酸塩40.3gを得た。得られた結晶の一部を酒石酸誘導体と反応させ、HPLCで分析したところ、(R)−3−アミノピペリジンの光学純度は、98%eeであった。
【0060】
H−NMR (CDOD/DO=1/1 500MHz) δ
3.64 (1H, ddt, J=11.5, 4.0, 1.5 Hz), 3.60 (1H, tt, J=11.0, 4.0 Hz), 3.43-3.39 (1H, m), 3.08 (1H, dd, J=11.5, 11.0 Hz), 3.01 (1H, td, J=13.0, 3.5 Hz), 2.25-2.20 (1H, m), 2.09 (1H, dqui, J=15.0, 3.5 Hz), 1.89 (1H, dtt, J=15.0, 13.0, 4.0 Hz), 1.77-1.69 (1H, m).
【実施例8】
【0061】
(S)−3−アミノピペリジン・ジ((S)−α−メトキシフェニル酢酸)塩の製造
フラスコに、(RS)−3−アミノピペリジン3g(3mmol)、(S)−α−メトキシフェニル酢酸7.4g(4.5mmol)、35%塩酸水溶液1.6gおよび4%NaCl水溶液9gを仕込み、攪拌しながら液の温度が80℃になるまで加熱した。この液を徐々に室温まで冷却して、結晶を析出させた。得られたスラリー液を濾過して、結晶を取り出した。この結晶を、少量の水で洗浄してから乾燥し、(S)−3−アミノピペリジン・ジ((S)−α−メトキシフェニル酢酸)塩3.8gを得た。得られた結晶の一部を酒石酸誘導体と反応させ、HPLCで分析したところ、(S)−3−アミノピペリジンの光学純度は、>98%eeであった。
【0062】
H−NMR (CDOD/DO=1/1 500MHz) δ
7.47-7.45 (4H, m), 7.38-7.30 (4H, m), 7.33-7.30 (2H, m), 4.61 (2H, s), 3.56 (1H, dd, J=12.5, 4.0 Hz), 3.48 (1H, tt, J=11.0, 4.0 Hz), 3.35 (6H, s), 3.31 (1H, dt, J=12.5, 3.5 HZ), 2.98 (1H, dd, J=12.5, 11.0 Hz), 2.88 (1H, td, J=12.5, 3.5 Hz), 2.17-2.13 (1H, m), 1.99 (1H, dqui, J=15.0, 3.5 Hz), 1.76 (1H, dtt, J=15.0, 12.5, 3.5 Hz), 1.67-1.59 (1H, m).
【実施例9】
【0063】
(S)−3−アミノピペリジンのラセミ化
圧力反応容器に、光学純度48%eeの(S)−3−アミノピペリジン20g、水60gおよびラネーコバルト10gを仕込み、攪拌しながら130℃まで加熱した後、水素を内圧9kgf/cm2になるまで吹き込んだ。このスラリーを、同じ温度および圧力に保って12時間反応させた後、室温まで冷却した。得られたスラリーを濾過して、ラセミ化した反応液を取り出した。得られた反応液の一部を酒石酸誘導体と反応させ、HPLCで分析したところ、3−アミノピペリジンの光学純度は、6%eeであった。
【0064】
得られた反応液の別の一部をガスクロマトグラフィーで分析したところ、反応液中の3−アミノピペリジンの残存率は94%であった。これにより、ラセミ化反応中に3−アミノピペリジンが分解することなく、定量的に回収できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学活性な3−アミノピペリジンを製造する方法であって、下式(I)の(RS)−3−アミノピペリジンを、
【化1】

光学分割剤として、下式(II)
【化2】

[式中、*は不斉炭素原子の位置を示す。]
で表される光学活性な2−メトキシフェニル酢酸を使用し、ジアステレオマー法により光学分割することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載した光学活性な3−アミノピペリジンを製造する方法において得られる中間体である、下式(IVa)の(R)−3−アミノピペリジンと(R)−2−メトキシフェニル酢酸との1:2塩。
【化3】

【請求項3】
請求項1に記載した光学活性な3−アミノピペリジンを製造する方法において得られる中間体である、下式(IVb)の(S)−3−アミノピペリジンと(S)−2−メトキシフェニル酢酸との1:2塩。
【化4】

【請求項4】
光学活性な3−アミノピペリジンを製造する方法であって、下式(I)の(RS)−3−アミノピペリジンを、
【化5】

光学分割剤として、下式(III)
【化6】

[式中、*は不斉炭素原子の位置を示す。]
で表される光学活性なN−p−トルエンスルホニルフェニルアラニンを使用し、ジアステレオマー法により光学分割することを特徴とする製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載した光学活性な3−アミノピペリジンを製造する方法において得られる中間体である、下式(Va)の(R)−3−アミノピペリジン・N−p−トルエンスルホニル−L−フェニルアラニンの1:2塩。
【化7】

【請求項6】
請求項4に記載した光学活性な3−アミノピペリジンを製造する方法において得られる中間体である、下式の(Vb)の(S)−3−アミノピペリジン・N−p−トルエンスルホニル−L−フェニルアラニンの1:2塩。
【化8】

【請求項7】
請求項4の光学活性な3−アミノピペリジンの製造方法において、反応媒体としてメタノールまたは水とメタノールとの混合溶媒を使用して実施し、(R)−3−アミノピペリジンを取得する製造方法。
【請求項8】
請求項4の光学活性な3−アミノピペリジンの製造方法において、反応媒体としてエタノールまたは2−プロパノールを使用して実施し、(S)−3−アミノピペリジンを取得する製造方法。
【請求項9】
請求項1または4の光学活性な3−アミノピペリジンの製造方法を実施して所望のジアステレオマー塩を取得した後に残った母液を、ラネー金属触媒の存在下に水素を吹き込み加熱加圧することによってラセミ化し、再度光学分割の材料として使用する光学活性な3−アミノピペリジンの製造方法。

【公開番号】特開2011−12032(P2011−12032A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159356(P2009−159356)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(390022840)山川薬品工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】