説明

光学活性を示す材料とその製造方法

【課題】溶液で静止時には光学活性を示さないアミド結合を有する化合物を原料として、光学活性を示す材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】アミド結合を有する化合物を含み、静止時には光学活性を示さない溶液を、回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性を示す材料とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミド結合によって多数のモノマーが結合してできた化合物が知られている。その代表例が、生体内に見出されるタンパク質や、化学合成物であるポリアミドである。これらの化合物の中には、光学活性を示すものもある。
【0003】
生体内に見出されるタンパク質は、その構成単位であるアミノ酸が(ごく少数を除き)すべてL型であることに起因して、αへリックスと呼ばれる右巻きのらせん構造をとり、光学活性を示す。
化学合成物であるポリアミドについても、らせん構造を形成させて光学活性を持たせることが検討されている。
【0004】
しかしながら、ポリアミドの3次元構造を予測し、合成プロセスによってポリアミド内部にらせん構造を導入することは、複雑かつ多段階の工程を要する。また、ポリアミド内部にらせん構造を導入できても、右巻き型と左巻き型とが半分ずつ合成された場合、即ちラセミ混合物が作られた場合には、ポリアミド全体としては光学活性を示さない。
【0005】
他方、いくつかの化合物について、その溶液を回転させて光学活性を誘起できることが報告されている(例えば、非特許文献1〜7参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Angew. Chemie. Int. Ed. 2007, 46, 8198-8202.
【非特許文献2】Science 2001 292, 2063-2066.
【非特許文献3】Angew. Chemie. 2006, 118, 8200-8203.
【非特許文献4】Chem. Asian. J. 2009, 11, 1687-1696.
【非特許文献5】Chemie.Int. Ed.2004, 43, 6350-6355.
【非特許文献6】Chem. Euro. J. 2008, 14, 6438-6443.
【非特許文献7】Opt. Lett. 2009, 34, 2177-2179.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、溶液で静止時には光学活性を示さないアミド結合を有する化合物を原料として、光学活性を示す材料を提供することを課題とする。
また、本発明は、溶液で静止時には光学活性を示さないアミド結合を有する化合物を原料として、光学活性を示す材料を簡便に製造できる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を達成するための具体的手段は以下のとおりである。
<1> アミド結合を有する化合物を含み、静止時には光学活性を示さず、回転させることにより光学活性を示す、溶液。
<2> 溶液で静止時には光学活性を示さず回転させることにより光学活性を示すアミド結合を有する化合物を含み、光学活性を示すゲル。
<3> 溶液で静止時には光学活性を示さず回転させることにより光学活性を示すアミド結合を有する化合物を含み、光学活性を示すフィルム。
<4> 更に、溶液で単独では回転させることにより光学活性を示さない第二の化合物を含み、前記第二の化合物が光学活性を示す、<1>に記載の溶液。
<5> 更に、溶液で単独では回転させることにより光学活性を示さない第二の化合物を含み、前記第二の化合物が光学活性を示す、<2>に記載のゲル。
<6> 更に、溶液で単独では回転させることにより光学活性を示さない第二の化合物を含み、前記第二の化合物が光学活性を示す、<3>に記載のフィルム。
<7> アミド結合を有する化合物を含み、静止時には光学活性を示さない溶液を回転させ続ける工程を含む、光学活性を示す溶液の製造方法。
<8> アミド結合を有する化合物を含み、静止時には光学活性を示さない溶液を回転させる工程と、前記溶液をゲル化させる工程とを含む、光学活性を示すゲルの製造方法。
<9> アミド結合を有する化合物を含み、静止時には光学活性を示さない溶液を基材に付与する工程と、前記付与する工程の前又は後に、前記溶液を回転させる工程とを含む、光学活性を示すフィルムの製造方法。
<10> 前記溶液が更に、溶液で単独では回転させることにより光学活性を示さない第二の化合物を含み、前記回転させ続ける工程が前記第二の化合物を光学活性させることを含む、<7>に記載の溶液の製造方法。
<11> 前記溶液が更に、溶液で単独では回転させることにより光学活性を示さない第二の化合物を含み、前記回転させる工程が前記第二の化合物を光学活性させることを含む、<8>に記載のゲルの製造方法。
<12> 前記溶液が更に、溶液で単独では回転させることにより光学活性を示さない第二の化合物を含み、前記回転させる工程が前記第二の化合物を光学活性させることを含む、<9>に記載のフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、溶液で静止時には光学活性を示さないアミド結合を有する化合物を原料として、光学活性を示す材料を提供することができる。
また、本発明によれば、溶液で静止時には光学活性を示さないアミド結合を有する化合物を原料として、光学活性を示す材料を簡便に製造できる製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例に係る合成物(1)のMALDI−TOF massスペクトルである。
【図2】本発明の実施例に係る合成物(1)の、(a)は、濃度を変えたときの水溶物の状態を示す写真であり、(b)は、水溶物の吸収スペクトルである。
【図3】本発明の実施例に係る合成物(1)の、(a)及び(b)は、水溶液を回転させたときのCDスペクトルであり、(c)及び(d)は、水溶液を回転させたときのLDスペクトルである。
【図4】本発明の実施例に係る合成物(2)の水溶液を回転させたときのCDスペクトルである。
【図5】本発明の実施例に係る合成物(1)の水溶液の濃度を変えたときのCDスペクトルである。
【図6】本発明の実施例に係る合成物(1)のアニオンを交換し有機溶剤に溶解させた溶液を回転させたときのCDスペクトルである。
【図7】本発明の実施例に係る合成物(1)の、(a)は、ゲルの写真であり、(b)は、ゲルのCDスペクトルであり、(c)は、キセロゲルの光学顕微鏡像である。
【図8】本発明の実施例に係る合成物(1)のゲルの走査型電子顕微鏡像である。
【図9】本発明の実施例に係る合成物(1)のゲルの温度を変えたときのCDシグナル強度である。
【図10】本発明の実施例に係る合成物(1)と、インジゴカルミンとを溶解した水溶液のCDスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
本発明において、溶液、ゲル及びフィルムについて、光学活性を示すか否かは、従来公知の装置を用い、常法に従い、旋光性または円偏光二色性を測定することで確認することができる。
【0013】
本発明は、第一に溶液であり、第二にゲルであり、第三にフィルムである。以下、本発明の溶液、ゲル及びフィルムを合わせて、本発明の材料と称することがある。
【0014】
本発明に関し、「超分子的な構造」、「超分子的ならせん構造」、「超分子的な繊維」及び「超分子的ならせん状繊維」とは、複数個の分子が集まって形作る、構造、らせん構造、繊維及びらせん状繊維のことを言う。
【0015】
<アミド結合を有する化合物>
本発明の材料は、溶液で静止時には光学活性を示さず、溶液で回転時には光学活性を示す化合物であって、アミド結合を有する化合物(以下「特定アミド化合物」とも称する。)を含む。即ち、特定アミド化合物は、その溶液が静止時には光学活性を示さないが、その溶液を回転させることにより光学活性を示す化合物である。
ここで、特定アミド化合物について「溶液で静止時には光学活性を示さない」とは、特定アミド化合物を、該化合物を溶解可能な溶剤に溶かして溶液を調製し、前記溶液について旋光性または円偏光二色性の測定を行い、旋光性または円偏光二色性が検出されないことを言う。ここで、旋光性または円偏光二色性の測定は、常法に従い、即ち、溶液を回転させずに行う。
また、特定アミド化合物について「溶液で回転時には光学活性を示す」及び「溶液を回転させることにより光学活性を示す」とは、前記溶液について旋光性または円偏光二色性の測定を行い、旋光性または円偏光二色性が検出されることを言う。ここで、旋光性または円偏光二色性の測定は、測定用セルに収容した前記溶液を回転させながら、その他は常法に従い行う。溶液の回転の方法及び条件については、後述する<材料および材料の製造方法>の項で詳述するとおりである。
【0016】
特定アミド化合物が溶液で静止時には光学活性を示さないことには、以下の2つの場合があり、本発明においてはいずれでもよい。
(i)特定アミド化合物の個々の分子が回映軸を有さず(即ちアキラルであり)、溶液で静止時には光学活性を示さない。
(ii)特定アミド化合物の個々の分子は回映軸を有するが(即ちキラルであるが)、ラセミ体であるため、溶液で静止時には光学活性を示さない。
【0017】
特定アミド化合物としては、分子内にアミド結合を有するモノマーでもよく、構成単位がアミド結合によって連なったオリゴマー又はポリマーでもよい。
本発明の材料に含まれる特定アミド化合物は、1種類でも、2種類以上でもよい。本発明の材料の用途に合わせ、所望の波長にコットン効果を示し得る特定アミド化合物を、1種類または2種以上選択すればよい。
【0018】
本発明は特定の理論に拘束されるものではないが、特定アミド化合物は、その溶液の回転時に超分子的ならせん状繊維を形成するものと推測される。このことにより、特定アミド化合物は、溶液で回転時に光学活性を示すものと推測される。より具体的には、特定アミド化合物は、複数個の分子が分子間力の作用によって超分子的な繊維を形成し、この繊維が溶液の回転によって、回転方向に応じた右巻き又は左巻きのどちらか一方のらせん構造を形成し、光学活性を示すものと推測される。
なお、特定アミド化合物は、その溶液の静止時には、超分子的な繊維を形成していても形成していなくてもよいが、形成していても繊維はらせん状ではないと推測される。
溶液の回転の方法及び条件については、後述する<材料および材料の製造方法>の項で詳述するとおりである。
【0019】
特定アミド化合物から構成された超分子的ならせん状繊維は、その長さ、太さ及びピッチに特に制限はなく、特定アミド化合物の分子の大きさ、凝集した特定アミド化合物の数による。らせん状繊維は右巻きでも左巻きでもよいが、本発明の材料が光学活性を示すためには、出現頻度がどちらか一方に偏ることが必要であり、らせん状繊維の全部が右巻き又は左巻きのいずれかであることが好ましい。
【0020】
特定アミド化合物が、超分子的ならせん状繊維を形成していることは、走査型電子顕微鏡(SEM)で確認することができる。
溶液中のらせん状繊維を確認するためには、溶液を回転させた後、速やかに凍結乾燥させてSEM用試料を作製すればよい。ゲル中及びフィルム中のらせん状繊維の確認は、常法に従い、SEM用試料を作製し行う。
【0021】
特定アミド化合物の超分子的な構造の形成に与る分子間力としては、例えば、イオン間相互作用、水素結合、双極子相互作用、ファンデルワールス力、ロンドン分散力のいずれでもよく、特に制限されない。
特定アミド化合物は、少なくとも、一つの分子内のアミド結合の酸素原子と、別の分子内のアミド結合の水素原子との間で、水素結合が形成されることが期待できる。
【0022】
特定アミド化合物は、その溶液中で超分子的な構造を形成しやすい観点から、例えば以下の態様が好ましい。
(ア)芳香環を含む化合物が好ましい。一つの分子内の芳香環と、別の分子内の芳香環との間にπ−π相互作用が発現することが期待できる。
(イ)カチオン性基と芳香環とを含む化合物、又は、一方がカチオン性基を含み他方が芳香環を含む2種の化合物が好ましい。カチオン性基と芳香環との間にカチオン−π相互作用が発現することが期待できる。
(ウ)アニオン性基とカチオン性基とを含む化合物、又は、一方がアニオン性基を含み他方がカチオン性基を含む2種の化合物が好ましい。アニオン性基とカチオン性基との間にイオン間相互作用が発現することが期待できる。
(エ)アミド結合によって、繰返し単位が2個以上連なった化合物が好ましく、繰返し単位が3個以上連なった化合物がより好ましい。繰返し構造を有すると、分子と分子との積み重なりが期待でき、超分子的な構造を形成しやすいと考えられる。特に、主鎖に芳香環が繰り返される化合物は、π−π相互作用によるスタッキングが期待できる。
また、特定アミド化合物は、水性溶媒に溶解しやすい観点からは、イオン性基を有する化合物が好ましい。
【0023】
特定アミド化合物は、主鎖に芳香環を含み、アミド結合によって繰返し単位が2個以上連なったものが好ましく、繰返し単位が3個以上連なったものがより好ましい。このような特定アミド化合物は、前述の理由により、溶液中で超分子的な構造を形成しやすい。特定アミド化合物の主鎖に含まれる芳香環としては、単環でも縮合環でもよく、複素環(例えば、窒素原子を1個乃至2個含む)でもよく、置換基を有していてもよい。
【0024】
前記縮合環としては、例えば、ナフタレン、フェナレン、フェナントレン、アントラセン、トリフェニレン、ピレン、クリセン、テトラセンが挙げられる。
前記複素環としては、例えば、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリンが挙げられる。
【0025】
前記置換基としては、例えば、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アルキル基(好ましくは炭素数1〜48、より好ましくは炭素数1〜24、更に好ましくは1〜12の、直鎖、分岐鎖又は環状)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜48、より好ましくは炭素数2〜18)、アリール基(好ましくは炭素数6〜48、より好ましくは炭素数6〜24)、複素環基(好ましくは炭素数1〜32、より好ましくは炭素数1〜18)、シリル基(好ましくは炭素数3〜38、より好ましくは炭素数3〜18)、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜48、より好ましくは炭素数1〜24)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜48、より好ましくは炭素数6〜24)、複素環オキシ基(好ましくは炭素数1〜32、より好ましくは炭素数1〜18)、シリルオキシ基(好ましくは炭素数1〜32、より好ましくは炭素数1〜18)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜48、より好ましくは炭素数2〜24)、アルコキシカルボニルオキシ基(好ましくは炭素数2〜48、より好ましくは炭素数2〜24)、アリールオキシカルボニルオキシ基(好ましくは炭素数7〜32、より好ましくは炭素数7〜24)、カルバモイルオキシ基(好ましくは炭素数1〜48、よりこの好ましくは炭素数1〜24)、スルファモイルオキシ基(好ましくは炭素数1〜32、より好ましくは炭素数1〜24)、アルキルスルホニルオキシ基(好ましくは炭素数1〜38、より好ましくは炭素数1〜24)、アリールスルホニルオキシ基(好ましくは炭素数6〜32、より好ましくは炭素数6〜24)、アシル基(好ましくは炭素数1〜48、より好ましくは炭素数1〜24)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜48、より好ましくは炭素数2〜24)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜32、より好ましくは炭素数7〜24)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜48、より好ましくは炭素数1〜24)、アミノ基(好ましくは炭素数32以下、より好ましくは炭素数24以下)、アニリノ基(好ましくは炭素数6〜32、より好ましくは6〜24)、複素環アミノ基(好ましくは炭素数1〜32、より好ましくは1〜18)、カルボンアミド基(好ましくは炭素数2〜48、より好ましくは2〜24)、ウレイド基(好ましくは炭素数1〜32、より好ましくは炭素数1〜24)、イミド基(好ましくは炭素数36以下、より好ましくは炭素数24以下)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜48、より好ましくは炭素数2〜24)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜32、より好ましくは炭素数7〜24)、スルホンアミド基(好ましくは炭素数1〜48、より好ましくは炭素数1〜24)、スルファモイルアミノ基(好ましくは炭素数1〜48、より好ましくは炭素数1〜24)、アゾ基(好ましくは炭素数1〜32、より好ましくは炭素数1〜24)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜48、より好ましくは炭素数1〜24)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜48、より好ましくは炭素数6〜24)、複素環チオ基(好ましくは炭素数1〜32、より好ましくは炭素数1〜18)、アルキルスルフィニル基(好ましくは炭素数1〜32、より好ましくは炭素数1〜24)、アリールスルフィニル基(好ましくは炭素数6〜32、より好ましくは炭素数6〜24)、アルキルスルホニル基(好ましくは炭素数1〜48、より好ましくは炭素数1〜24)、アリールスルホニル基(好ましくは炭素数6〜48、より好ましくは炭素数6〜24)、スルファモイル基(好ましくは炭素数32以下、より好ましくは炭素数24以下)、スルホ基、ホスホニル基(好ましくは炭素数1〜32、より好ましくは炭素数1〜24)、ホスフィノイルアミノ基(好ましくは炭素数1〜32、より好ましくは炭素数1〜24)、カルボキシル基が挙げられる。
【0026】
また、特定アミド化合物は、主鎖が脂肪族炭化水素であり、アミド結合によって繰返し単位が2個以上連なったものも好ましく、繰返し単位が3個以上連なったものがより好ましい。このような特定アミド化合物は、アミド結合間の水素結合やその他の分子間力により、超分子的な構造を形成しやすい。
【0027】
特定アミド化合物は、本発明のゲルに含まれるものである場合、それ自体がゲル化能を有し、含有量及び温度を制御することで、液体とゲルとの相転移が可能な化合物が好ましい。
上記の観点から、特定アミド化合物は、主鎖に芳香環を含み、アミド結合によって繰返し単位が2個以上連なったものが好ましく、繰返し単位が3個以上連なったものがより好ましい。また、特定アミド化合物は、主鎖が脂肪族炭化水素であり、アミド結合によって繰返し単位が2個以上連なったものも好ましく、繰返し単位が3個以上連なったものがより好ましい。これらの特定アミド化合物は、分子間力によりゲル化しやすい。
特定アミド化合物の主鎖に含まれる芳香環としては、単環でも縮合環でもよく、複素環(例えば、窒素原子を1個乃至2個含む)でもよく、置換基を有していてもよい。ここで縮合環、複素環、置換基の例としては、特定アミド化合物の主鎖に含まれる芳香環に関して前述した縮合環、複素環、置換基が挙げられる。
【0028】
特定アミド化合物は、前述した中でも、溶液中で超分子的な構造を形成しやすい観点、及び液体とゲルとの相転移が可能である観点から、繰返し単位数が2個〜9個の比較的少ない重合体であるオリゴマー、及び繰り返し単位数が10個以上のポリマーが好ましい。
前記オリゴマーの重量平均分子量としては、400〜1800が好ましい。前記オリゴマーとしては、主鎖が脂肪族炭化水素からなる重合体、又は主鎖に芳香環を含む重合体が好ましく、主鎖に芳香環を含む重合体がより好ましい。
前記ポリマーの重量平均分子量としては、2000以上が好ましく、高度に重合した、脂肪族ポリアミド又は芳香族ポリアミドも好ましい。前記ポリマーとしては、主鎖が脂肪族炭化水素からなる重合体、又は主鎖に芳香環を含む重合体が好ましく、主鎖に芳香環を含む重合体がより好ましい。
【0029】
特定アミド化合物は、特に、主鎖に芳香環を含む、繰返し単位数が2個〜9個のオリゴマー、及び繰り返し単位数が10個〜100個のポリマーが好ましい。
前記オリゴマーとしては、繰返し単位数が3個〜9個のものがより好ましく、前記オリゴマーの重量平均分子量としては、400〜1800が好ましい。
前記ポリマーとしては、繰返し単位数が10個〜50個のものがより好ましく、繰返し単位数が10個〜30個のものが更に好ましく、繰返し単位数が10個〜20個のものが特に好ましい。前記ポリマーの重量平均分子量としては、2000〜4万が好ましい。
上記のオリゴマー及びポリマーは、比較的簡便に合成でき、溶液中で超分子的な構造を形成しやすく、また液体とゲルとの相転移が可能であり、本発明の特定アミド化合物として好適である。
【0030】
特定アミド化合物は、下記の一般式(1)で示される化合物が好ましい。当該化合物は、比較的簡便に合成でき、溶液中で超分子的な構造を形成しやすく、また液体とゲルとの相転移が可能であり、本発明の特定アミド化合物として好適である。
【0031】
【化1】

【0032】
一般式(1)中、Ar及びArは、それぞれ独立に芳香環を表す。ここで芳香環としては、単環でも縮合環でもよく、複素環(例えば、窒素原子を1個乃至2個含む)でもよく、置換基を有していてもよい。ここで縮合環、複素環、置換基の例としては、特定アミド化合物の主鎖に含まれる芳香環に関して前述した縮合環、複素環、置換基が挙げられる。
Arとしては、1個〜4個(好ましくは1個又は2個)のハロゲン原子(好ましくは塩素原子)で置換されていてもよい、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、キノリン環又はイソキノリン環が好ましく、1個又は2個の塩素原子で置換されていてもよい、ピリジン環又はイソキノリン環がより好ましい。
Arとしては、1個〜4個(好ましくは1個又は2個)のアルキル基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは1〜6の、直鎖、分岐鎖又は環状)又は1個〜4個(好ましくは1個又は2個)のハロゲン原子(好ましくは塩素原子)で置換されていてもよいベンゼン環が好ましく、無置換のベンゼン環(フェニレン基)がより好ましい。
一般式(1)中、Lは2価の連結基を表す。ここで2価の連結基としては、置換基を有していてもよいアルキレン基が好ましく、無置換の炭素数1〜8のアルキレン基がより好ましく、無置換の炭素数1〜4のアルキレン基が更に好ましく、無置換の炭素数1又は2のアルキレン基が特に好ましい。
一般式(1)中、nは1以上の整数を表す。ここでnとしては、2〜50が好ましく、3〜30がより好ましく、3〜20が更に好ましく、3〜10が特に好ましい。
【0033】
一般式(1)で示される特定アミド化合物としては、特に下記の一般式(2)で示される化合物、Poly(pyridinium-1,4-diyliminocarbonyl-1,4-phenylene-methylene iodideが好ましい。
【0034】
【化2】

【0035】
一般式(2)中、Xは1価の陰イオンを表す。ここで1価の陰イオンとしては、例えば、F、Cl、Br、I、(CFSO)N、CFSO、PF、BF、SCNが挙げられる。当該1価の陰イオンは、一般式(2)で示される化合物を溶かす溶媒の種類に応じて選択することが好ましく、水性溶媒の場合、Clが好ましく、有機溶媒の場合、I、(CFSO)N、CFSO、PF、BF、SCNが好ましい。
一般式(2)中、nは1以上の整数を表す。ここでnとしては、2〜50が好ましく、3〜30がより好ましく、3〜20が更に好ましく、3〜10が特に好ましい。
【0036】
特定アミド化合物は、下記の一般式(3)で示される化合物も好ましい。当該化合物は、比較的簡便に合成でき、溶液中で超分子的な構造を形成しやすく、また液体とゲルとの相転移が可能であり、本発明の特定アミド化合物として好適である。
【0037】
【化3】

【0038】
一般式(3)中、Ar11及びAr12は、それぞれ独立に芳香環を表す。ここで芳香環としては、単環でも縮合環でもよく、複素環(例えば、窒素原子を1個乃至2個含む)でもよく、置換基を有していてもよい。ここで縮合環、複素環、置換基の例としては、特定アミド化合物の主鎖に含まれる芳香環に関して前述した縮合環、複素環、置換基が挙げられる。
Ar11としては、1個〜4個(好ましくは1個又は2個)のアルキル基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは1〜6の、直鎖、分岐鎖又は環状)又は1個〜4個(好ましくは1個又は2個)のハロゲン原子(好ましくは塩素原子)で置換されていてもよいベンゼン環が好ましく、無置換のベンゼン環(フェニレン基)がより好ましい。
Ar12としては、置換基を有するベンゼン環が好ましく、前記置換基としては、特にスルホ基(−SOH)が好ましい。
一般式(3)中、mは1以上の整数を表し、2以上が好ましい。ここでmとしては、2〜50が好ましく、3〜30がより好ましく、3〜20が更に好ましく、3〜10が特に好ましい。
【0039】
<第二の化合物>
本発明の材料は、特定アミド化合物以外の第二の化合物を含んでもよい。前記第二の化合物は、溶液で静止時に光学活性を示さず、溶液で単独では回転時に光学活性を示さない。即ち、前記第二の化合物は、当該化合物単独の溶液を回転させても光学活性を示さない。
本発明の材料は、第二の化合物を含むことにより、特定アミド化合物に由来する光学活性のほかに、第二の化合物に由来する光学活性も示すことができる。
ここで、第二の化合物について「溶液で静止時に光学活性を示さない」とは、第二の化合物を、該化合物を溶解可能な溶剤に溶かして溶液を調製し、該溶液について旋光性または円偏光二色性の測定を行い、旋光性または円偏光二色性が検出されないことを言う。旋光性または円偏光二色性の測定は、常法に従い、即ち、溶液を回転させずに行う。
また、第二の化合物について「溶液で単独では回転時に光学活性を示さない」及び「溶液で単独では回転させることにより光学活性を示さない」とは、第二の化合物のみを、該化合物を溶解可能な溶剤に溶かして溶液を調製し、該溶液について旋光性または円偏光二色性の測定を行い、旋光性または円偏光二色性が検出されないことを言う。ここで、旋光性または円偏光二色性の測定は、測定用セルに収容した前記溶液を回転させながら、その他は常法に従い行う。溶液の回転の方法及び条件については、後述する<材料および材料の製造方法>の項で、特定アミド化合物を含む溶液について詳述するとおりである。
【0040】
第二の化合物が溶液で静止時には光学活性を示さないことには、以下の2つの場合があり、本発明においてはいずれでもよい。
(i)第二の化合物の個々の分子が回映軸を有さず(即ちアキラルであり)、溶液で静止時には光学活性を示さない。
(ii)第二の化合物の個々の分子は回映軸を有するが(即ちキラルであるが)、ラセミ体であるため、溶液で静止時には光学活性を示さない。
【0041】
第二の化合物としては、如何なる化合物でもよく、モノマーでもよく、オリゴマー又はポリマーでもよい。本発明の材料の用途に合わせ、所望の波長にコットン効果を示し得る化合物を、第二の化合物として選択すればよい。
本発明の材料に含まれる第二の化合物は、1種類でも、2種類以上でもよい。
【0042】
本発明は特定の理論に拘束されるものではないが、本発明において、第二の化合物は、溶液中で特定アミド化合物との間に分子間力が発現し、溶液の回転時に特定アミド化合物から構成された超分子的ならせん状繊維に沿って配置されるものと推測される。
溶液中で第二の化合物と特定アミド化合物との間に発現する分子間力としては、例えば、イオン間相互作用、水素結合、双極子相互作用、ファンデルワールス力、ロンドン分散力のいずれでもよく、特に制限されない。
【0043】
第二の化合物は、溶液中で特定アミド化合物から構成されたらせん状繊維に沿って配置されやすい観点から、例えば以下の化合物が好ましい。
(カ)特定アミド化合物と水素結合を形成可能な基を有する化合物が好ましい。具体的には、特定アミド化合物内のアミド結合の酸素原子と水素結合を形成可能な水素原子、又は、特定アミド化合物内のアミド結合の水素原子と水素結合を形成可能な酸素原子、窒素原子若しくはハロゲン原子を有する化合物が好ましい。特定アミド化合物との間で水素結合が形成されることが期待できる。
(キ)特定アミド化合物が芳香環を含む場合、第二の化合物も芳香環を含む化合物が好ましい。特定アミド化合物の芳香環と、第二の化合物の芳香環との間にπ−π相互作用が発現することが期待できる。芳香環としては、単環でも縮合環でもよく、複素環(例えば、窒素原子を1個乃至2個含む)でもよく、置換基を有していてもよい。
(ク)特定アミド化合物がイオン性基を含む場合、第二の化合物は反対の極性のイオン性基を含むことが好ましい。特定アミド化合物のイオン性基と第二の化合物のイオン性基と間にイオン間相互作用が発現することが期待できる。
(ケ)第二の化合物は、分子量が200〜2000であることが好ましい。当該分子量ほどの大きさの分子であると、特定アミド化合物から構成されたらせん状繊維に沿って配置されやすい。第二の化合物の分子量は、200〜1500がより好ましく、200〜1000が更に好ましく、200〜600が特に好ましい。
【0044】
<材料および材料の製造方法>
[溶液]
本発明の溶液は、特定アミド化合物を、該化合物を溶解可能な溶剤に溶かしたものである。本発明の溶液は、静止時には光学活性を示さず、回転時には光学活性を示す。
【0045】
本発明の溶液が、静止時には光学活性を示さず、回転時には光学活性を示す機作は、下記のように推測される。
本発明の溶液に含まれる特定アミド化合物は、溶液中で分子間力の作用によって超分子的な繊維を形成し、この繊維が、溶液が回転しているとき、回転方向に応じた右巻き又は左巻きのどちらか一方のらせん状繊維を形成しているため、光学活性を示すものと考えられる。
【0046】
特定アミド化合物を含む溶液に光学活性を付与する回転の方法及び条件は、特に制限されず、溶液の少なくとも一部、好ましくは溶液の全体が、収容容器内で回転されれば如何なる方法及び条件でもよい。
回転方法の例としては、溶液の収容容器の底部に、電磁的に作動する撹拌子を設置し、電磁撹拌装置を用いて撹拌子を回転させ、溶液を回転させる方法が挙げられる。ほかに、溶液の収容容器の底部または側面部が回転することで、溶液を回転させる方法が挙げられる。
回転の向きは、特に制限されないが、通常、回転軸を溶液の収容容器の底部に対し垂直にして、時計回り又は反時計回りを採用する。
回転の速度は、特に制限されず、特定アミド化合物の種類や濃度、溶液の量、及び容器の形状や大きさに応じて、溶液が回転時に光学活性を示し得る速度を選択する。
【0047】
本発明の溶液は、溶液の回転方向によって、回転時に発現する光学活性の向き(右旋性/左旋性、又は、正/負のコットン効果として観測される。)を制御できる。これは、特定アミド化合物が、回転方向に応じた右巻き又は左巻きのどちらか一方のらせん状繊維を形成していることによるものと推測される。
また、本発明の溶液は、溶液の回転方向を周期的に変えることで、回転時に発現する光学活性の向きを可逆的に制御することができる。
【0048】
本発明の溶液において、特定アミド化合物の濃度は、特に限定されないが、溶媒への溶解性の観点、及び回転時に充分な光学活性を示す観点から、適宜選択する。特定アミド化合物の種類にもよるが、通常0.2質量%超であれば、回転時に光学活性が観測される。
【0049】
本発明の溶液は、更に、前記第二の化合物を含んでいてもよい。本発明の溶液は、前記第二の化合物を含むことにより、回転時に、特定アミド化合物に由来する光学活性のほかに、前記第二の化合物に由来する光学活性も示すことができる。
【0050】
本発明の溶液が前記第二の化合物を含む場合、特定アミド化合物と前記第二の化合物とを含む溶液を回転させ続ける工程は、前記第二の化合物を光学活性させることを含む。本発明において「第二の化合物を光学活性させる」とは、第二の化合物に由来する光学活性が検出されるようになさしめることを言う。第二の化合物に由来する光学活性は、溶液の円偏光二色性を測定したときに、特定アミド化合物のみを含む溶液においてコットン効果が検出された波長とは異なる波長にコットン効果が検出されることで確認できる。
本発明の溶液が、回転時に前記第二の化合物に由来する光学活性を示す機作は、下記のように推測される。
本発明の溶液に含まれる特定アミド化合物は、溶液中で分子間力の作用によって超分子的な繊維を形成し、この繊維が溶液の回転方向に応じた右巻き又は左巻きのどちらか一方のらせん状繊維を形成しているものと考えられる。前記第二の化合物は、特定アミド化合物との間で発現する分子間力によって、前記らせん状繊維に沿って配置され、前記第二の化合物から構成される超分子的ならせん構造が形成されているものと考えられる。
【0051】
本発明の溶液において、前記第二の化合物の濃度は、特に限定されないが、溶媒への溶解性の観点、及び回転時に充分な光学活性を示す観点から、適宜選択する。
【0052】
[ゲル]
本発明のゲルは、特定アミド化合物を含み、光学活性を示す。
本発明のゲルは、更に、前記第二の化合物を含んでいてもよい。この場合、特定アミド化合物に由来する光学活性のほかに、前記第二の化合物に由来する光学活性も示すことができる。
【0053】
本発明のゲルは、下記の製造方法により製造でき、下記の製造方法が好適である。
即ち、特定アミド化合物を含む溶液を回転させる工程(回転工程)と、前記溶液をゲル化させる工程(ゲル化工程)とを含む、製造方法である。前記溶液は更に、前記第二の化合物を含んでいてもよい。
上記の回転工程とゲル化工程とを備えた製造方法によって、回転により溶液に誘起した光学活性をゲル中に保存することができ、得られたゲルは光学活性を示す。
回転により溶液に誘起した光学活性を失わずにゲルに保持させる観点から、回転工程とゲル化工程との間には時間を経過させないことがよく、溶液の回転を続けながら、又は、溶液の回転を減衰させながら、ゲル化を進行させるのが好ましい。
【0054】
本発明のゲルが、光学活性を示す機作は、下記のように推測される。
特定アミド化合物を含む溶液を回転させることにより、この溶液中に超分子的ならせん状繊維が形成され、このらせん状繊維がらせん構造を保持した状態でゲルに含まれるので、ゲルが光学活性を示すものと考えられる。
【0055】
特定アミド化合物を含む溶液が前記第二の化合物をも含む場合は、前記回転工程は、前記第二の化合物を光学活性させることを含む。本発明は特定の理論に拘束されるものではないが、前記溶液を回転させることにより、前記第二の化合物が特定アミド化合物から構成されるらせん状繊維に沿って配置され、前記第二の化合物から構成される超分子的ならせん構造が形成され、このらせん構造がゲルに含まれるので、前記第二の化合物に由来する光学活性をも示すものと推測される。
【0056】
特定アミド化合物を含む溶液を回転させる方法及び条件は、前記[溶液]の項で既述したとおりである。
特定アミド化合物を含む溶液をゲル化させる方法は、特に制限されず、溶液中にゲル化剤を投入してもよい。ゲル化剤は、溶媒をゲル化させる化合物であれば特に制限なく用いることができ、溶媒との組み合わせを考慮して、少量の添加により溶媒を効率よくゲル化させることができるものが適宜選択される。
特定アミド化合物がゲル化能を有する化合物である場合は、特定アミド化合物の濃度、及び溶液の温度を制御することで、溶液のゲル化が可能である。例えば、溶液の回転を続けながら、又は、溶液の回転を減衰させながら、溶液の温度を下げることにより、ゲル化させる方法が好適である。
【0057】
本発明のゲルにおいて、特定アミド化合物の濃度は、特に限定されない。特定アミド化合物の種類にもよるが、回転させる溶液において、特定アミド化合物の濃度が0.2質量%超であれば、ゲルに光学活性が観測される。
【0058】
本発明のゲルは、基材に付与し乾固させる工程を経て、又は、薄くスライスして乾固させる工程を経て、フィルム状に成形して使用することも可能である。
【0059】
[フィルム]
本発明のフィルムは、特定アミド化合物を含み、光学活性を示す。
本発明のフィルムは、更に、前記第二の化合物を含んでいてもよい。この場合、特定アミド化合物に由来する光学活性のほかに、前記第二の化合物に由来する光学活性も示すことができる。
【0060】
本発明のフィルムは、下記の製造方法により製造でき、下記の製造方法が好適である。
即ち、特定アミド結合を含む溶液を基材に付与する工程(付与工程)と、前記付与工程の前又は後に、前記溶液を回転させる工程(回転工程)とを含む製造方法である。前記溶液は更に、前記第二の化合物を含んでいてもよい。
上記の付与工程と回転工程とは、どちらを先に行ってもよい。上記の付与工程と回転工程とを備えた製造方法によって、回転により溶液に誘起した光学活性をフィルムに保存することができ、得られたゲルは光学活性を示す。なお、基材への溶液の付与は、少なくとも基材の片面に行えばよい。
【0061】
本発明のフィルムが、光学活性を示す機作は、下記のように推測される。
特定アミド化合物を含む溶液を回転させることにより、この溶液中に超分子的ならせん状繊維が形成され、このらせん状繊維がらせん構造を保持した状態でフィルムに含まれるので、フィルムが光学活性を示すものと考えられる。
【0062】
特定アミド化合物を含む溶液が前記第二の化合物をも含む場合は、前記回転工程は、前記第二の化合物を光学活性させることを含む。本発明は特定の理論に拘束されるものではないが、前記溶液を回転させることにより、前記第二の化合物が特定アミド化合物から構成されるらせん状繊維に沿って配置され、前記第二の化合物から構成される超分子的ならせん構造が形成され、このらせん構造がフィルムに含まれるので、前記第二の化合物に由来する光学活性をも示すものと推測される。
【0063】
本発明のフィルムの製造方法としては、下記の(A)及び(B)の2つの方法が挙げられる。
(A)回転工程の後に付与工程を行う方法
特定アミド化合物を含む溶液を回転させる方法及び条件は、前記[溶液]の項で既述したとおりである。回転により溶液に誘起した光学活性を失わずにフィルムに保持させる観点から、回転工程と付与工程との間には時間を経過させないことがよく、回転工程の後、速やかに付与工程を行うのが好ましい。
【0064】
付与工程における付与手段は、特に制限されず、従来公知の付与手段(各種コーター、金属製のさじ、ガラス棒、噴霧器など)を用いて、所望の量の溶液を基材に付与すればよい。この際、特定アミド化合物から構成されると推測されるらせん状繊維の構造を損なわない付与手段が好ましい。
また、付与工程は、特定アミド化合物を含む溶液の回転後速やかに、又は、前記溶液の回転を続けながら、又は、前記溶液の回転を減衰させながら、前記溶液に基材を浸漬し、基材に前記溶液を付与することでもよい。
【0065】
(B)付与工程の後に回転工程を行う方法
付与工程の後に回転工程を行う場合、基材に付与された特定アミド化合物を含む溶液を基材上で回転させる。前記溶液を回転させる方法及び条件は、特に制限されず、溶液に回転力が加われば、如何なる方法及び条件でもよい。
回転方法の例として、溶液を基材に付与した後、基材を高速で回転させる方法が挙げられる。この場合、通常、液体の付与面を水平に保ち、付与面に垂直な軸を回転軸として、基材を時計回り又は反時計回りの一方向に回転させる。溶液は、基材の全面に付与してもよく、基材の例えば中央部に付与し基材の回転により基材全面に広げてもよい。付与した溶液が飛散しないよう、付与した溶液の上から保護シートを被せてもよい。
【0066】
ほかに、基材に溶液を付与した後、例えば各種コーター、金属製のさじ、ガラス棒などを回転手段として用い、前記回転手段を基材上の溶液に接触させた状態で、時計回り又は反時計回りの円若しくは渦を描くように動かして、溶液を回転させる方法が挙げられる。ここで描く円若しくは渦は、1個でも複数個でもよいが、基材上に隈なく描くのが好ましく、描く方向は時計回り又は反時計回りの一方を採用する。
この時、溶液を基材の全面に付与し、その後、前記回転手段を、溶液に接触させた状態で、基材上で円若しくは渦を描くように動かして、溶液を回転させてもよい。また、溶液を基材の例えば中央部に付与し、その後、前記回転手段を、溶液に接触させた状態で、基材上で円若しくは渦を描くように動かして、溶液を基材全面に広げながら回転させてもよい。さらには、基材に溶液を付与する時に付与手段を回転手段としても用い、基材上で円若しくは渦を描くように動かして、付与工程と回転工程とを同時に行うこともできる。
【0067】
更に、回転により溶液に誘起した光学活性を失わずにフィルムに保持させる観点から、付与工程と回転工程の終了後、基材上で特定アミド化合物を含む溶液を凝固させる工程を設けるのが好ましい。溶液の凝固は、例えば、基材の裏面からの加熱、雰囲気温度の上昇、送風などによる、溶液の乾燥によって実施できる。
【0068】
本発明のフィルムにおいて、特定アミド化合物の濃度は、特に限定されない。特定アミド化合物の種類にもよるが、付与する溶液において特定アミド化合物の濃度が0.2質量%超であれば、ゲルに光学活性が観測される。
【0069】
本発明のフィルムの製造方法に供する基材としては、光透過性を有する、ガラス基材、プラスチックのフィルム、シート若しくは板等のプラスチック基材、単結晶基板などが用いられる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
以下の実施例において、溶液の回転方向は、溶液の収容容器を上から見て「時計回り」と「反時計回り」とを区別した。
【0071】
(合成例1)
Poly(pyridinium-1,4-diyliminocarbonyl-1,4-phenylene-methylene chlorideを、J. Am. Chem. Soc. 2007, 46, 8203-8205.に従って合成した。この化合物の構造式を下記に示す。下記の構造式において、nは1以上の整数である。以下、この化合物を合成物(1)と称する。
【0072】
【化4】

【0073】
図1に、合成物(1)のMALDI−TOF massスペクトルを示す。合成物(1)は、上記の構造式におけるnが3〜5の分子が主であり、nが10以下の分子がほとんどであった。
【0074】
図2(a)に、合成物(1)の濃度を変えた水溶物について、容器に収容された状態の写真を示す。合成物(1)の水溶物の調製は、所定の濃度で合成物(1)と水とを混合した混合物を、撹拌しながら昇温させて合成物(1)を水へ溶解させ、その後、室温(25℃)に静置することで行った。
図2(a)は左から、合成物(1)の濃度が1.0質量%、0.8質量%、0.6質量%、0.4質量%の水溶物である。このうち、1.0質量%と0.8質量%の濃度の水溶物は、室温(25℃)においてゲルであり、0.6質量%と0.4質量%の濃度の水溶物は、室温(25℃)において液体であった。図2(a)に示すとおり、濃度1.0質量%の水溶物は、収容容器を逆さまにして水溶物が垂れ落ちなかった。
化学構造に着目すると、合成物(1)は、水素結合、π−π相互作用、カチオン−π相互作用といった超分子的な分子間力を発揮し、分子どうしが集まって超分子的な構造を形成することが予測された。濃度0.8質量%以上の合成物(1)の水溶物は、合成物(1)が超分子的な分子間力の作用によって超分子的な繊維を形成し、ゲル化したものと推測された。
【0075】
合成物(1)の濃度0.8質量%及び1.0質量%のゲルは、加熱すると73℃〜75℃の間でゾルに相転移した。図2(b)は、濃度0.8質量%の水溶物について、温度が25℃(実線)と79℃(点線)のときの吸収スペクトルである。79℃における吸収強度は、25℃における吸収強度よりも明らかに低かった。
上記のことから、水溶物の温度上昇に伴うゲルからゾルへの相転移は、ゲルを構成する超分子的な繊維が壊れることによるものと推測された。
【0076】
(合成例2)
Poly(p-phenylene-sulfoterephthalamideを、Macromolecules 2005, 38, 3647-3652.に従って合成した。この化合物の構造式を下記に示す。下記の構造式において、mは1以上の整数である。以下、この化合物を合成物(2)と称する。
【0077】
【化5】

【0078】
合成物(2)のMALDI−TOF massスペクトルを測定したところ、合成物(2)は、上記の構造式におけるmが3〜5の分子が主であり、mが10以下の分子がほとんどであった。
【0079】
(実施例1)
[合成物(1)を含む溶液の光学活性の観測]
合成物(1)を濃度0.6質量%になるように水と混合し、撹拌しながら昇温させて合成物(1)を水へ溶解させ、その後、室温(25℃)まで冷却し、合成物(1)の水溶液を調製した。
この合成物(1)の水溶液を石英セル(10mm×10mm×40mm)に収容し、水溶液を回転させながら、25℃下、CDスペクトル及びLDスペクトルを測定した。水溶液の回転は、電磁的に作動する撹拌子(φ2.0mm×5.0mm)を石英セルの底部に設置し、電磁撹拌装置を用いて撹拌子を回転速度1000rpmで回転させることで行った。測定結果を図3に示す。
【0080】
図3(a)及び(c)はそれぞれ、合成物(1)の水溶液のCDスペクトル及びLDスペクトルである。図3(a)及び(c)において、実線は、水溶液を反時計回りに回転させたときのスペクトルであり、点線は、水溶液を時計回りに回転させたときのスペクトルである。
図3(a)に示すとおり、水溶液を時計回りに回転させたとき、波長380nmに負のCDシグナルが観測され、水溶液を反時計回りに回転させたとき、波長380nmに正のCDシグナルが観測された。
図3(c)に示すとおり、時計回り、反時計回り共に、波長380nmに正のLDシグナルが観測された。
【0081】
合成物(1)の溶液は、静止した状態ではコットン効果は観測されないが、回転している状態では、回転方向に応じた正又は負のコットン効果が観測された。このことから、合成物(1)は、溶液が回転しているときは、回転方向に応じた右巻き又は左巻きのらせん構造を形成していることが示唆された。
合成物(1)の化学構造も合わせて考慮すると、複数個の合成物(1)が分子間力の作用によって超分子的な繊維を形成し、この繊維が溶液の回転によって、回転方向に応じた右巻き又は左巻きのどちらか一方のらせん状を呈し、超分子的な非対称性によって光学活性を示すものと推測された。
また、LDシグナルの発現は、溶液の回転時に、合成物(1)の規則的な配向が形成されていることを示唆した。合成物(1)の超分子的ならせん状繊維は、その向きは不明であるが、溶液の回転軸に沿って配向されているものと推測された。
【0082】
図3(b)及び(d)はそれぞれ、合成物(1)の水溶液を、反時計回り(CCW)→回転停止→時計回り(CW)の順で繰返し回転させながら測定した、波長380nmにおける、CDシグナルの強度及びLDシグナルの強度である。
図3(b)に示すとおり、回転方向を周期的に変えると、回転方向に応じた正及び負のCDシグナルが可逆的に交互に観測された。他方、図3(d)に示すとおり、水溶液の回転方向に依存せず、正のLDシグナルが観測された。回転を止めたときには、CDシグナルとLDシグナルは共に消失した。
CDシグナルには、非対称性に由来するもの以外に、分子の配向によって現れる複屈折に由来するものも含まれる。CDシグナルが回転方向に依存して正負に反転するのに対し、LDシグナルは回転方向に依存せず常に正であることから、合成物(1)の溶液を回転させて観測されたCDシグナルは、前記複屈折に由来するものは少なく、ほとんどが超分子的な非対称性に由来するものと考えられた。
【0083】
(実施例2)
[合成物(2)を含む溶液の光学活性の観測]
合成物(2)を濃度0.5質量%になるように水と混合し、撹拌しながら昇温させて合成物(2)を水へ溶解させ、その後、室温(25℃)まで冷却し、合成物(2)の水溶液を調製した。
この合成物(2)の水溶液を用い、実施例1と同様にして、CDスペクトルを測定した。測定結果を図4に示す。
【0084】
図4(a)は、合成物(2)の水溶液のCDスペクトルである。図4(a)において、実線は、水溶液を時計回りに回転させたときのCDスペクトルであり、点線は、水溶液を反時計回りに回転させたときのCDスペクトルである。
図4(a)に示すとおり、水溶液を時計回りに回転させたとき、波長440nmに負のCDシグナルが観測され、水溶液を反時計回りに回転させたとき、波長440nmに正のCDシグナルが観測された。
【0085】
図4(b)は、合成物(2)の水溶液を、反時計回り(CCW)→回転停止→時計回り(CW)の順で繰返し回転させながら測定した、波長440nmにおけるCDシグナルの強度である。図4(b)に示すとおり、水溶液の回転方向を周期的に変えると、回転方向に応じた正及び負のCDシグナルが可逆的に交互に観測された。回転を止めたときは、CDシグナルは消失した。
【0086】
(実施例3)
[合成物(1)を含む溶液の濃度依存的な光学活性の観測]
合成物(1)について、濃度0.2質量%と濃度0.4質量%の水溶液を調製した。水溶液の調製方法は、実施例1と同様にした。各濃度の水溶液を用い、実施例1と同様にして、CDスペクトル及びLDスペクトルを測定した。測定結果を図5に示す。
【0087】
図5(a)は、濃度0.2質量%の水溶液のCDスペクトルであり、図5(b)は、濃度0.4質量%の水溶液のCDスペクトルである。図5(c)は、濃度0.2質量%の水溶液のLDスペクトルであり、図5(d)は、濃度0.4質量%の水溶液のLDスペクトルである。図5(a)〜(d)において、実線は、水溶液を時計回りに回転させたときのスペクトルであり、点線は、水溶液を反時計回りに回転させたときのスペクトルである。
濃度0.2質量%では、CDシグナルはほとんど観測されず、LDスペクトルにおいても明らかなシグナルは観測されなかった。
濃度0.4質量%では、波長380nmに、水溶液の回転方向に応じた正又は負のCDシグナルが観測された。また、波長380nmに、水溶液の回転方向に依存せず、正のLDシグナルが観測された。
【0088】
(実施例4)
[合成物 (1) のアニオン交換、及び溶剤をジメチルホルムアミドとした溶液の光学活性の観測]
20質量%のヨウ化ナトリウム水溶液200ml中に合成物(1)を5.0g加え、80℃で一昼夜撹拌を行った。析出した固体を濾過によって採取し減圧乾燥を行うことで、ヨウ素イオンで置換された目的化合物を得た。この化合物の構造式を下記に示す。下記の構造式において、nは、合成物(1)におけるnと同義である。
【0089】
【化6】

【0090】
上記で得た化合物をジメチルホルムアミドに溶かし、濃度2.0 質量%となるように溶液を調製し、実施例1と同様にして、CDスペクトルを測定した。測定結果を図6に示す。
【0091】
図6において、実線は、溶液を時計回りに回転させたときのCDスペクトルであり、点線は、溶液を反時計回りに回転させたときのCDスペクトルである。
図6に示すとおり、溶液を時計回りに回転させたとき、波長420nmに負のCDシグナルが観測され、溶液を反時計回りに回転させたとき、波長420nmに正のCDシグナルが観測された。溶液が静止した状態では、CDシグナルは観測されなかった。
【0092】
(実施例5)
[合成物(1)を含むゲルの光学活性の観測]
合成物(1)を濃度1.0質量%になるように水5.0mlと混合し、撹拌しながら昇温させて合成物(1)を水へ溶解させ、その後、室温(25℃)まで冷却し、合成物(1)の水溶物を調製した。次いで、この水溶物を80℃で10分加熱し溶解させて溶解物を得た。この溶解物の収容容器(10mm×10mm×50mm)の底部に、電磁的に作動する撹拌子(φ2.0mm×5.0mm)を設置し、電磁撹拌装置を用いて回転速度1000rpmで撹拌子を回転させながら、溶解物を室温(25℃)まで徐冷させることでゲル化させ、ゲルを調製した。図7(a)に、容器中に収容された状態のゲルの写真を示す。なお、図7(a)の写真は、ゲル調製後、収容容器を逆さまにして撮影した。
【0093】
上記のゲルを石英セルに収容し、25℃下、CDスペクトルを測定した。測定結果を図7(b)に示す。図7(b)において、実線は、溶解物を反時計回りに回転させながら調製したゲルのCDスペクトルであり、点線は、溶解物を時計回りに回転させながら調製したゲルのCDスペクトルである。
図7(b)に示すとおり、溶解物を時計回りに回転させながら調製したゲルでは、波長380nmに負のCDシグナルが観測され、溶解物を反時計回りに回転させながら調製したゲルでは、波長380nmに正のCDシグナルが観測された。これらのCDシグナルは、ゲルを室温(20℃〜25℃)にて6ケ月保存した後でも、同程度の強度で観測された。
【0094】
溶解物を時計回りに回転させながら調製したゲルをスライドグラスに塗布し、乾固させてキセロゲルとし、光学顕微鏡で観察した。図7(c)に、このキセロゲルの光学顕微鏡像を示す。図7(c)に示すとおり、キセロゲル中に繊維状の構造が観察された。
また、溶解物を時計回りに回転させながら調製したゲルを、走査型電子顕微鏡で観察した。図8に、このゲルの走査型電子顕微鏡像を示す。図8に示すとおり、ゲル中にらせん状繊維が、長さ方向を一方向に揃えて配列しているのが観察された。このらせん状繊維の長さ方向は、溶解物を回転させたときの回転軸と一致していた。
ゲル中のらせん状繊維は、その長さが10μm〜20μm程度のものが多数観察された。また、らせん状繊維の太さは、0.3μm程度であり、らせんのピッチは0.5μm程度であった。
ゲル中のらせん状繊維は、合成物(1)の構造に由来する分子間力と溶液に加えられた回転力とによって、多数の合成物(1)が集合して形成されたものと考えられた。
【0095】
(実施例6)
[合成物(1)を含む水溶物の温度依存的な光学活性の観測]
実施例5と同様にして、合成物(1)の濃度1.0質量%の溶解物を時計回りに回転させながらゲルを調製した。次いで、このゲルの温度を加熱により変化させてCDスペクトルを測定し、波長380nmにおけるCDシグナルの強度を測定した。測定結果を図9に示す。
【0096】
図9に示すとおり、20℃、30℃、40℃及び50℃においては、温度に依存せず、強い負のCDシグナルが観測された。負のCDシグナル強度は、60℃、70℃及び71℃においては弱く、73℃においては極めて弱く、75℃では消去した。
なお、目視で観察したところ、ゲルは、加熱により73℃〜75℃の間で、ゾルに相転移した。
【0097】
(実施例7)
[合成物(1)からインジゴカルミンへの光学活性の転写]
不斉中心を有さずアキラルな分子として、インジゴカルミンを用意した。下記にインジゴカルミンの構造を示す。インジゴカルミンは、吸収極大波長612nmの色素として知られている。
【0098】
【化7】

【0099】
インジゴカルミンを水に溶かし、濃度3.6×10−5Mのインジゴカルミン水溶液を調製した。このインジゴカルミン水溶液に対して、0.6質量%となるように合成物(1)を添加し、水溶液を80℃に昇温させて合成物(1)を溶解させ、合成物(1)とインジゴカルミンとの混合水溶液を調製した。
実施例1と同様にして、前記混合水溶液を時計回り又は反時計回りに回転させながら、CDスペクトルを測定した。測定結果を図10に示す。図10において、点線は、反時計回りに回転させたときのCDスペクトルであり、実線は、時計回りに回転させたときのCDスペクトルである。
【0100】
図10に示すとおり、波長380nmと波長610nm〜620nmに、回転方向に応じて正又は負のCDシグナルが観測された。波長380nmのCDシグナルは、合成物(1)に由来するものであり、波長610nm〜620nmのCDシグナルは、インジゴカルミンに由来するものである。
【0101】
合成物(1)を含まない、インジゴカルミン水溶液(濃度3.6×10−5M)を回転させたときは、CDシグナルは観測されなかった。他方、前記混合水溶液は、静止した状態ではCDシグナルは観測されないが、回転している状態では、合成物(1)とインジゴカルミンにそれぞれ由来する、回転方向に応じた正又は負のCDシグナルが観測された。
上記のことから、合成物(1)の構造に由来する分子間力と溶液に加えられた回転力とによって、多数の合成物(1)が集合して右巻き又は左巻きのどちらか一方のらせん状繊維を形成し、このらせん状繊維に沿って多数のインジゴカルミンが右巻き又は左巻きのどちらか一方のらせん状に配置され、超分子的ならせん構造によってインジゴカルミン由来の光学活性を示すものと考えられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミド結合を有する化合物を含み、
静止時には光学活性を示さず、回転させることにより光学活性を示す、溶液。
【請求項2】
溶液で静止時には光学活性を示さず回転させることにより光学活性を示すアミド結合を有する化合物を含み、光学活性を示すゲル。
【請求項3】
溶液で静止時には光学活性を示さず回転させることにより光学活性を示すアミド結合を有する化合物を含み、光学活性を示すフィルム。
【請求項4】
更に、溶液で単独では回転させることにより光学活性を示さない第二の化合物を含み、前記第二の化合物が光学活性を示す、請求項1に記載の溶液。
【請求項5】
更に、溶液で単独では回転させることにより光学活性を示さない第二の化合物を含み、前記第二の化合物が光学活性を示す、請求項2に記載のゲル。
【請求項6】
更に、溶液で単独では回転させることにより光学活性を示さない第二の化合物を含み、前記第二の化合物が光学活性を示す、請求項3に記載のフィルム。
【請求項7】
アミド結合を有する化合物を含み、静止時には光学活性を示さない溶液を回転させ続ける工程を含む、光学活性を示す溶液の製造方法。
【請求項8】
アミド結合を有する化合物を含み、静止時には光学活性を示さない溶液を回転させる工程と、
前記溶液をゲル化させる工程とを含む、光学活性を示すゲルの製造方法。
【請求項9】
アミド結合を有する化合物を含み、静止時には光学活性を示さない溶液を基材に付与する工程と、
前記付与する工程の前又は後に、前記溶液を回転させる工程とを含む、光学活性を示すフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記溶液が更に、溶液で単独では回転させることにより光学活性を示さない第二の化合物を含み、
前記回転させ続ける工程が前記第二の化合物を光学活性させることを含む、請求項7に記載の溶液の製造方法。
【請求項11】
前記溶液が更に、溶液で単独では回転させることにより光学活性を示さない第二の化合物を含み、
前記回転させる工程が前記第二の化合物を光学活性させることを含む、請求項8に記載のゲルの製造方法。
【請求項12】
前記溶液が更に、溶液で単独では回転させることにより光学活性を示さない第二の化合物を含み、
前記回転させる工程が前記第二の化合物を光学活性させることを含む、請求項9に記載のフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−131745(P2012−131745A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286307(P2010−286307)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】