説明

光学活性アミン化合物の製造方法

【課題】光学活性なモノホスフィン化合物を不斉配位子とする不斉遷移金属錯体を利用して、工業的に有利な方法で光学活性アミン化合物を製造できる方法を提供する。
【解決手段】(R,S)-[4-(2-ジフェニルホスファニルナフタレン-1-イル)-フタラジン-1-イル]-(1-フェニルエチル)アミン((R,S)-N-PINAP)類縁の化合物を不斉配位子として含有する不斉遷移金属錯体の存在下、RCHO(II)、HNR(III)、およびHC≡CR10(IV)を、炭酸エステルを含む溶媒中で反応させることを特徴とする、化合物(V):


で表される光学活性アミン化合物の製造方法。(式中、R7、R8、R9はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい低級アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基などを、R10は水素原子、トリアルキルシリル基などを示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性なモノホスフィン化合物を不斉配位子とする不斉遷移金属錯体を不斉触媒として用いる光学活性アミン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不斉触媒反応の触媒として多くの不斉遷移金属錯体が報告されており、そのための不斉配位子が数多く開発されてきた。
例えば、光学活性なモノホスフィン化合物を不斉配位子とする不斉遷移金属錯体を利用した光学活性化合物の製造方法は特許文献1に知られており、具体的には、臭化銅および光学活性な[4−(2−ジフェニルホスファニルナフタレン−1−イル)−フタラジン−1−イル]−(1−フェニルエチル)アミン(以下、PINAP)から調製される錯体の存在下、トルエン中、3−メチルブタナール、ジベンジルアミンおよび1−ヘキシンを反応させて、光学活性なN,N−ジベンジル−2−メチル−5−デシン−4−アミンを得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−347884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の反応では、反応時間が23℃で5日間と長く、工業的実施を考えた場合、反応時間がより短いことが望ましい。また、反応収率および光学収率に改善の余地があった。
本発明は、光学活性なモノホスフィン化合物を不斉配位子とする不斉遷移金属錯体を利用して、工業的に有利な方法で光学活性アミン化合物を製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究をした結果、上記反応における溶媒を、炭酸エステルを含む溶媒とすることにより、反応時間を短縮でき、かつ、反応収率や光学収率が向上すること、さらに、炭酸エステルの使用量が比較的少なく反応溶液が高濃度でも、反応収率や光学収率が保持されることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 一般式(I):
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、A環は、存在しないかまたは置換基を有していてもよいベンゼン環を示し、RおよびRはそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいフェニル基、シクロヘキシル基、2−フリル基または3−フリル基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を示し、Xは、−ORまたは−NHR(式中、RおよびRは置換基を有していてもよい低級アルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアリール基または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。)で表される残基を示す。)
で表される化合物(以下、化合物(I)ともいう)の光学活性体を不斉配位子として含有する不斉遷移金属錯体の存在下、一般式(II):RCHO(II)(式中、Rは、置換基を有していてもよい低級アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよい低級アルケニル基、置換基を有していてもよい低級アルキニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。)で表される化合物(以下、化合物(II)ともいう)、一般式(III):HNR(III)(式中、RおよびRはそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい低級アルキル基、置換基を有していてもよい低級アルケニル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアリール基または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示すか、あるいはRとRが隣接する窒素原子と一緒になって、置換基を有していてもよい含窒素複素環を形成してもよい。)で表される化合物(以下、化合物(III)ともいう)、および一般式(IV):HC≡CR10(IV)(式中、R10は、水素原子、置換基を有していてもよい低級アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、トリアルキルシリル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。)で表される化合物(以下、化合物(IV)ともいう)を、炭酸エステルを含む溶媒中で反応させることを特徴とする、一般式(V):
【0008】
【化2】

【0009】
(式中、R、R、RおよびR10は上記と同義を示し、*は不斉炭素を示す。)
で表される光学活性アミン化合物(以下、化合物(V)ともいう)の製造方法。
[2] 炭酸エステルが、炭素数3〜10の炭酸エステルである、上記[1]記載の製造方法。
[3] 炭酸エステルが、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸プロピレンから選ばれる、上記[1]記載の製造方法。
[4] 反応が炭酸エステル中で行われ、かつ当該炭酸エステルが、化合物(II)に対して0.5〜30倍重量使用される、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] 反応が、トルエン、1,2−ジメトキシエタンおよびジクロルメタンから選ばれる溶媒と炭酸エステルとの混合溶媒中で行われ、かつ当該炭酸エステルが、化合物(II)に対して0.1〜5倍重量使用される、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[6] 不斉遷移金属錯体が、化合物(II)1モルに対して0.1〜10モル%使用される、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7] 反応が0〜50℃の範囲内で行われる、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8] 反応が、3級アミンおよび芳香族アミンから選ばれる塩基の存在下で行われる、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9] 塩基が、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンおよびアニリンから選ばれる、上記[8]記載の製造方法。
[10] 反応が乾燥剤の存在下で行われる、上記[1]〜[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11] 乾燥剤が、アルミナおよびモレキュラシーブスから選ばれる、上記[10]記載の製造方法。
[12] RおよびRが共にフェニル基である、上記[1]〜[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13] RおよびRが共に水素原子である、上記[1]〜[12]のいずれかに記載の製造方法。
[14] RまたはRが不斉中心を有する残基である、上記[1]〜[13]のいずれかに記載の製造方法。
[15] RまたはRが1−フェニルエチル基である、上記[1]〜[13]のいずれかに記載の製造方法。
[16] RまたはRがキラルな1−フェニルエチル基である、上記[1]〜[13]のいずれかに記載の製造方法。
[17] 不斉遷移金属錯体中の遷移金属が、Ru、Pd、Rh、CuおよびAgから選ばれる金属である、上記[1]〜[16]のいずれかに記載の製造方法。
[18] 不斉遷移金属錯体中の遷移金属がCuである、上記[1]〜[16]のいずれかに記載の製造方法。
[19] 不斉遷移金属錯体が、一般式(I)で表される化合物の光学活性体と遷移金属塩またはその錯体とを反応させることにより調製されたものである、上記[1]〜[18]のいずれかに記載の製造方法。
[20] 不斉遷移金属錯体が、一般式(I)で表される化合物の光学活性体とCuX(式中、Xはハロゲン原子、BF、アセトキシ、SbF、PFおよびOSOCFから選ばれる対イオンを示す。)とを反応させることにより調製されたものである、上記[1]〜[18]のいずれかに記載の製造方法。
[21] RとRが隣接する窒素原子と一緒になって4−ピペリジノンを形成する、上記[1]〜[20]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
化合物(I)の光学活性体を不斉配位子として含有する不斉遷移金属錯体の存在下、化合物(II)−(IV)から光学活性アミンである化合物(V)を製造する際、炭酸エステルを含む溶媒下で反応を行うことにより、反応時間を短縮でき、かつ、反応収率や光学収率が向上すること、さらに、炭酸エステルの使用量が比較的少なく反応溶液が高濃度でも、反応収率や光学収率が保持される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本明細書で使用している各記号の定義を行う。
【0012】
およびRに示される「ハロゲン原子」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。RおよびRは、好ましくは塩素原子またはフッ素原子である。
【0013】
およびRに示される「低級アルコキシ基」としては、直鎖または分枝のC1−12アルコキシ基、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペントキシ、イソペントキシ、ネオペントキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、ウンデシルオキシおよびドデシルオキシが挙げられ、好ましくはメトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、tert−ブトキシ等の直鎖または分枝のC1−4アルコキシ基である。
【0014】
およびRに示される「低級アルキル基」、およびR、R、R、R、RおよびR10に示される「置換基を有していてもよい低級アルキル基」の「低級アルキル基」としては、直鎖または分枝のC1−12アルキル基、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、2−エチルブチル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシルおよびドデシルが挙げられ、好ましくはメチル、エチル、プロピル、ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル等の直鎖または分枝のC1−4アルキル基である。
【0015】
、R、R、R、RおよびR10に示される「置換基を有していてもよい低級アルキル基」の「低級アルキル基」は置換可能な位置に置換基を有していてもよく、当該置換基としては、例えば上記で定義されたハロゲン原子、上記で定義された低級アルコキシ基、水酸基、オキソ、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、およびアルキル部分が上記で定義された「低級アルキル基」であるアルコキシカルボニル基が挙げられる。当該置換基の数は特に限定はなく、1〜3個が好ましく、同一または異なっていてもよい。
【0016】
、RおよびRに示される「置換基を有していてもよい低級アルケニル基」の「低級アルケニル基」としては、直鎖または分枝のC2−10アルケニル基、例えばエテニル、1−プロペニル、アリル、1−メチル−2−プロペニル、1−ブテニル、2−ブテニル、3−ブテニル、1−ペンテニル、2−ペンテニル、1−ヘキセニル、2−ヘキセニル、1−ヘプテニル、2−ヘプテニル、1−オクテニル、2−オクテニル、1−ノネニル、2−ノネニル、1−デセニルおよび2−デセニルが挙げられ、好ましくはアリルである。当該アルケニル基は置換可能な位置に置換基を有していてもよく、そのような置換基としては、例えば上記で定義されたハロゲン原子、上記で定義された低級アルコキシ基、水酸基、オキソ、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、アルキル部分が上記で定義された「低級アルキル基」であるアルコキシカルボニル基、および下記で定義するアリール基が挙げられる。当該置換基の数は特に限定はなく、1〜3個が好ましく、同一または異なっていてもよい。
【0017】
に示される「置換基を有していてもよい低級アルキニル基」の「低級アルキニル基」としては、直鎖または分枝のC2−10アルキニル基、例えばエチニル、1−プロピニル、2−プロピニル、1−メチル−2−プロピニル、1−ブチニル、2−ブチニル、3−ブチニル、1−ペンチニル、2−ペンチニル、1−ヘキシニル、2−ヘキシニル、1−ヘプチニル、2−ヘプチニル、1−オクチニル、2−オクチニル、1−ノニニル、2−ノニニル、1−デシニルおよび2−デシニルが挙げられる。当該アルキニル基は置換可能な位置に置換基を有していてもよく、そのような置換基としては、上記「置換基を有していてもよいアルケニル基」で例示された置換基と同じ置換基が挙げられる。当該置換基の数は特に限定はなく、1〜3個が好ましく、同一または異なっていてもよい。
【0018】
、R、R、R、R、R、RおよびR10に示される「置換基を有していてもよいアリール基」の「アリール基」としては、C6−20アリール基、例えばフェニル、1−または2−ナフチルおよびビフェニルが挙げられる。
当該アリール基は置換可能な位置に置換基を有していてもよく、そのような置換基としては、例えば上記で定義されたハロゲン原子、上記で定義された低級アルキル基、上記で定義された低級アルコキシ基、水酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、アルキル部分が上記で定義された「低級アルキル基」であるアルコキシカルボニル基、上記で定義されたアリール基、および下記で定義するアラルキル基が挙げられる。当該置換基の数は特に限定はなく、1〜3個が好ましく、同一または異なっていてもよい。
【0019】
およびRに示される「置換基を有していてもよいフェニル基」の置換基としては、上記「置換基を有していてもよいアリール基」で例示された置換基と同じ置換基が挙げられる。当該置換基の数は特に限定はなく、1〜3個が好ましく、同一または異なっていてもよい。
「置換基を有していてもよいフェニル基」の具体例としては、フェニル基、p−トリル基、m−トリル基、o−トリル基およびキシリル基(2,3−キシリル基、2,4−キシリル基、2,5−キシリル基、2,6−キシリル基、3,4−キシリル基および3,5−キシリル基)が挙げられる。
【0020】
、R、R、R、RおよびR10に示される「置換基を有していてもよいヘテロアリール基」の「ヘテロアリール基」としては、例えば炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選ばれるヘテロ原子を1〜3個含む5〜10員の芳香族性を有する複素環基、及びその縮合ヘテロ環基が挙げられる。例えば2−、又は3−チエニル、2−、又は3−フリル、1−、2−、又は3−ピロリル、1−、2−、4−、又は5−イミダゾリル、2−、4−、又は5−オキサゾリル、2−、4−、又は5−チアゾリル、1−、3−、4−、又は5−ピラゾリル、3−、4−、又は5−イソオキサゾリル、3−、4−、又は5−イソチアゾリル、1,2,4−トリアゾール−1−、3−、4−、又は5−イル、1,2,3−トリアゾール−1−、2−、又は4−イル、1H−テトラゾール−1−、又は5−イル、2H−テトラゾール−2−、又は5−イル、2−、3−、又は4−ピリジル、2−、4−、又は5−ピリミジニル、1−、2−、3−、4−、5−、6−、又は7−インドリル、2−、3−、4−、5−、6−、又は7−ベンゾフリル、2−、3−、4−、5−、6−、又は7−ベンゾチエニル、1−、2−、4−、5−、6−、又は7−ベンズイミダゾリル、2−、3−、4−、5−、6−、7−、又は8−キノリル、および1−、3−、4−、5−、6−、7−、又は8−イソキノリルが挙げられる。
【0021】
当該ヘテロアリール基は置換可能な位置に置換基を有していてもよく、そのような置換基としては、上記「置換基を有していてもよいアリール基」で例示された置換基と同じ置換基が挙げられる。当該置換基の数は特に限定はなく、1〜3個が好ましく、同一または異なっていてもよい。
【0022】
、R、R、R、RおよびR10に示される「置換基を有していてもよいシクロアルキル基」の「シクロアルキル基」としては、C3−7シクロアルキル基、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびシクロヘプチルが挙げられる。当該シクロアルキル基は置換可能な位置に置換基を有していてもよく、そのような置換基としては、上記「置換基を有していてもよいアリール基」で例示された置換基と同じ置換基およびオキソが挙げられる。当該置換基の数は特に限定はなく、1〜3個が好ましく、同一または異なっていてもよい。
【0023】
、R、R、R、R、R、RおよびR10に示される「置換基を有していてもよいアラルキル基」の「アラルキル基」としては、上記で定義された「低級アルキル基」の任意の位置に上記で定義された「アリール基」が置換したアラルキル基、例えばベンジル、1−または2−フェニルエチル、1−、2−または3−フェニルプロピル、1−または2−ナフチルメチル、1−または2−(1−ナフチル)エチル、1−または2−(2−ナフチル)エチル、2−エチル−1−フェニルブチル、ベンズヒドリルおよびトリチルが挙げられる。当該アラルキル基は置換可能な位置に置換基を有していてもよく、そのような置換基としては、上記「置換基を有していてもよいアリール基」で例示された置換基と同じ置換基およびオキソが挙げられる。当該置換基の数は特に限定はなく、1〜3個が好ましく、同一または異なっていてもよい。
「置換基を有していてもよいアラルキル基」としては、例えば1−フェニルエチル、2−フェニルエチル、1−(4−トリル)エチル、2−(4−トリル)エチル、2−エチル−2−ヒドロキシ−1−フェニルブチル、1−(1−ナフチル)エチル、2−(1−ナフチル)エチル、1−(2−ナフチル)エチルおよび2−(2−ナフチル)エチルが挙げられる。
【0024】
A環で示される「置換基を有していてもよいベンゼン環」の「ベンゼン環」が有していてもよい置換基としては、例えばハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、および置換基を有していてもよいアリール基が挙げられる。これらのハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基および置換基を有していてもよいアリール基は、それぞれRおよびRにおいて例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0025】
およびRが隣接する窒素原子と一緒になって形成してもよい含窒素複素環としては、隣接する窒素原子以外に、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選ばれる1〜4個のヘテロ原子を含んでいてもよい複素環、例えば、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、チオモルホリン、ピペラジン等の飽和含窒素複素環が挙げられる。当該含窒素複素環は置換可能な位置に置換基を有していてもよく、そのような置換基としては、上記「置換基を有していてもよいアリール基」で例示された置換基と同じ置換基およびオキソが挙げられる。当該置換基の数は特に限定はなく、1〜3個が好ましく、同一または異なっていてもよい。
およびRに示される「置換基を有していてもよい含窒素複素環」としては、4−ピペリジノンが好ましい。
【0026】
10に示される「トリアルキルシリル基」としては、例えばトリメチルシリル(以下、TMSと略す)基、tert−ブチルジメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基等のトリ(C1−4アルキル)シリル基が挙げられ、TMS基およびトリエチルシリル基が好ましい。
【0027】
化合物(V)、(Va)および(Vb)における*は、付された炭素原子が不斉炭素であることを示し、それぞれの化合物が光学活性な化合物であることを意味する。
本明細書において光学活性とは、不斉炭素においてその立体配置が異なる異性体の等量混合物(例えば、ラセミ体)でないことを意味し、一方の立体異性体が過剰に存在する場合(例えば、6:4の混合物)であれば、光学活性と定義される。
【0028】
化合物(I)は、フタラジン環とナフタレン環を繋ぐ単結合の回転障害に基づくアトロプ異性(以下に示す)を示し、室温において分割可能な不斉を示す。
【0029】
【化3】

【0030】
本明細書で定義される化合物は、塩の形態であってもよい。そのような塩としては、例えば無機酸塩(例えば塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩);有機酸塩(例えば酢酸塩、プロピオン酸塩、メタンスルホン酸塩、4−トルエンスルホン酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩);アルカリ金属塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩);アルカリ土類金属塩(例えばカルシウム塩、マグネシウム塩);有機塩基塩(例えばトリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、ジシクロヘキシルアミン塩)が挙げられる。
【0031】
化合物(I)において、RおよびRとしては、置換基を有していてもよいフェニル基またはシクロヘキシル基が好ましく、フェニル基、トリル基(p−トリル基またはm−トリル基)またはシクロヘキシル基がより好ましく、フェニル基が特に好ましい。RおよびRとしては、水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基またはシクロアルキル基が好ましく、水素原子またはメトキシ基がより好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0032】
化合物(I)のXにおけるRおよびRとしては、置換基を有していてもよいアラルキル基が好ましく、さらに不斉中心を有する残基である態様がより好ましい。具体的には、(R)−または(S)−1−フェニルエチル基、(R)−または(S)−1−(4−トリル)エチル、(R)−または(S)−2−エチル−2−ヒドロキシ−1−フェニルブチル、(R)−または(S)−1−(1−ナフチル)エチル、(R)−または(S)−1−(2−ナフチル)エチル等が好ましく、(R)−または(S)−1−フェニルエチル基がより好ましい。
【0033】
本発明の化合物(I)は、例えば、特許文献1に記載の以下の方法により製造することができる。
【0034】
【化4】

【0035】
(式中、Xは、ハロゲン原子、p−トルエンスルホニルオキシ、メタンスルホニルオキシまたはトリフルオロメタンスルホニルオキシを示し、他の記号は前記と同義を示す。)
すなわち、化合物(XIX)を原料として、
(i)化合物(XX)または化合物(XXI)と反応させて、XをXに変換する工程;
(ii)塩基の存在下、トリフルオロメタンスルホン酸無水物と反応させて、水酸基をトリフルオロメタンスルホニルオキシ(以下、−OTfと略す)に変換する工程;および
(iii)前記工程(i)および(ii)により得られた化合物(XIX’)の−OTfを、ホスフィン類を含む遷移金属錯体の存在下、化合物(XXII)と反応させて、−PR(式中、RおよびRは前記と同義を示す。)で表される残基に変換する工程を包含する方法によって、化合物(I)を製造することができる。
【0036】
で示される「ハロゲン原子」としては、RおよびRに示される「ハロゲン原子」として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0037】
化合物(I)の光学活性体(以下、光学活性化合物(I)という。)を配位子として含有する不斉遷移金属錯体は、不斉反応のための触媒、すなわち不斉触媒として用いることができる。
【0038】
当該遷移金属錯体の遷移金属としては、例えばRu、Pd、Rh、CuおよびAgが挙げられ、Rh、CuまたはAgが好ましく、Cuが特に好ましい。
【0039】
当該不斉遷移金属錯体は、例えば、特許文献1に記載されているように、溶媒中において、光学活性化合物(I)と遷移金属塩またはその錯体とを反応させることにより調製することができる。
【0040】
不斉遷移金属錯体調製に使用される遷移金属塩またはその錯体としては、例えばCuX、Cu(X、Rh(cod)、(nbd)Rh(acac)、CyRu(XおよびAgX(Xはハロゲン原子、BF、アセトキシ、SbF、PFおよびOSOCFから選ばれる対イオンを示し、codは1,5−シクロオクタジエンを示し、nbdはノルボナジエンを示し、Cyはシメンを示し、acacはアセチルアセトンを示す。)が挙げられ、CuX、Rh(cod)、(nbd)Rh(acac)およびAgXが好ましく、CuXが特に好ましい。
【0041】
で示される「ハロゲン原子」としては、RおよびRに示される「ハロゲン原子」として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0042】
本発明の光学活性アミン化合物の製造方法においては、以下に示すように、光学活性化合物(I)を不斉配位子として含有する不斉遷移金属錯体の存在下、化合物(II)、化合物(III)および化合物(IV)を、炭酸エステルを含む溶媒中で反応させることにより、キラルな化合物(V)を製造することができる。
本発明では、不斉遷移金属錯体は、光学活性化合物(I)とCuX(Xは前記と同義を示す。)との反応により調製されたものであるのが好ましい。
【0043】
【化5】

【0044】
(式中、各記号は前記と同義を示す。)
試薬の添加順序は特に限定はないが、好ましくは不斉遷移金属錯体を調製した溶液に化合物(II)〜(IV)を順次または同時に添加する。
【0045】
不斉遷移金属錯体の使用量は、反応性およびコストの点から、化合物(II)に対して0.1〜10モル%が好ましく、1〜5モル%がより好ましい。
【0046】
化合物(III)の使用量は、化合物(II)に対して1〜2当量が好ましく、1〜1.5当量がより好ましい。
化合物(IV)の使用量は、化合物(II)に対して1〜2当量が好ましく、1〜1.5当量がより好ましい。
【0047】
本発明では、反応を促進するため乾燥剤を添加するのが好ましい。かかる乾燥剤としては、例えばモレキュラシーブス(商品名)、アルミナ、シリカゲルおよびフロリジルが挙げられ、アルミナ、シリカゲルおよびモレキュラシーブスが好ましく、アルミナおよびモレキュラシーブス4Åがより好ましく、モレキュラシーブス4Åが特に好ましい。当該乾燥剤は加熱、脱ガスなどの前処理をすることが好ましい。当該乾燥剤の使用量は、化合物(II)に対して0.5〜40重量倍が好ましく、1〜10重量倍がより好ましい。
【0048】
本発明では、反応を促進するため塩基を添加するのが好ましい。かかる塩基としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の第3級アミン;およびアニリン等の芳香族アミンが挙げられ、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンおよびアニリンが好ましく、アニリンがより好ましい。当該塩基の使用量は、化合物(IV)に対して0.01〜2当量が好ましく、0.1〜1当量がより好ましい。
【0049】
本発明では、反応は炭酸エステルを含む溶媒中で行われる。当該炭酸エステルとしては、炭素数3〜10の炭酸エステル、具体的には、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸メチルエチル、炭酸エチレンおよび炭酸プロピレンが挙げられ、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸プロピレンがより好ましい。これらの炭酸エステルは単独で使用してもよいし、2種以上の炭酸エステルを組み合わせて使用してもよい。また、トルエン、1,2−ジメトキシエタン、ジクロルメタン等と炭酸エステルとの混合溶媒を使用することもできる。
炭酸エステルの使用量は、単独使用の場合、化合物(II)に対して0.5〜30倍重量が好ましく、2〜20倍重量がより好ましい。
【0050】
トルエン、1,2−ジメトキシエタン、ジクロルメタン等と炭酸エステルとの混合溶媒を使用する場合、炭酸エステルの使用量は、化合物(II)に対して0.1〜5倍重量が好ましく、0.5〜3倍重量がより好ましい。また、混合割合は、トルエン、1,2−ジメトキシエタン、ジクロルメタン等の合計重量に対して、0.01〜0.2倍重量が好ましく、0.04〜0.1倍重量がより好ましい。
【0051】
反応溶媒として炭酸エステルを含む溶媒を使用することにより、従来のトルエン等と比較して反応時間を短縮でき、かつ反応収率や光学収率が向上する。また、炭酸エステルの使用量が比較的少なく反応溶液が高濃度でも、反応収率や光学収率は保持される。
【0052】
反応温度は0℃〜50℃が好ましく、20〜35℃がより好ましい。反応温度が低いと立体選択性が向上する傾向にあるが、反応速度が遅くなる。反応時間は、使用する試薬や反応温度にも依存するが、本発明では1時間〜30時間の反応時間で所望の光学活性アミンを製造することができる。
【0053】
このようにして得られたキラルな化合物(V)は、常法により単離精製することができる。例えば、抽出操作を行った後か、あるいは反応混合物を直接シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付することにより、化合物(V)を単離精製することができる。
【0054】
反応終了後、乾燥剤をろ別した反応混合物にヘキサン、ヘプタン等の溶媒を加え、析出物をろ取することにより、不斉遷移金属錯体を回収することができる。この回収された不斉遷移金属錯体は、不斉触媒反応の触媒として再度使用することが可能である。このように不斉遷移金属錯体を再利用できるので、工業的に非常に有利となる。
【0055】
本発明で得られる化合物(V)においてRとRが隣接する窒素原子と一緒になって4−ピペリジノンを形成する化合物、すなわち化合物(Va)は、下記スキームに示すように脱保護することにより、プロパルギルアミンである化合物(Vb)に導くことができるので、有用な化合物である。
【0056】
【化6】

【0057】
(式中、各記号は前記と同義を示す。)
4−ピペリジノン環を一級アミンへ変換するこのような反応は、三重結合のような不安定な基が存在していても、光学純度を保持して収率よく進行する。したがって、この反応は種々の不安定な官能基が存在していても副反応を伴うことなく簡便かつ収率よく進行すると考えられる。このように、4−ピペリジノン誘導体からアミン誘導体への一般的な変換に応用可能であり、一級アミンの新規製法として有用である。
当該脱保護は、例えば、アルコール溶媒中、化合物(Va)をアンモニアおよびアンモニウム塩と反応させることにより行うことができる。以下に当該態様について説明するが、これに限定されるものではない。
【0058】
使用するアンモニウム塩としては、塩化アンモニウムが好ましい。アンモニウム塩の使用量は、化合物(Va)に対して1〜40当量が好ましく、1〜5当量がより好ましい。
【0059】
アンモニアとしては、使用するアルコール溶媒に飽和させた形態で使用すればよい。アルコール溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノールを使用することができる。
アンモニアを飽和させたアルコール溶媒の使用量は、化合物(Va)に対して1〜100倍重量である。
【0060】
反応温度は、通常は0℃〜130℃であるが、40℃〜100℃が好ましい。反応時間は、用いられる試薬や反応温度にも依存するが、通常0.5時間〜48時間である。
【0061】
得られる化合物(Vb)は、常法により単離精製することができる。例えば、抽出操作を行った後か、あるいは反応混合物を直接シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付することにより、化合物(Vb)を単離精製することができる。
【0062】
本発明においては、光学活性化合物(I)を不斉配位子として含有する不斉遷移金属錯体を使用することにより、以下に示すように、化合物(II)−(IV)からキラルな化合物(V)を得ることができる。光学活性化合物(I)の立体配置により、キラルな化合物(V)の立体配置が決まる。例えば、光学活性化合物(I)が
【0063】
【化7】

【0064】
であるとR体の化合物(V)が得られ、光学活性化合物(I)が
【0065】
【化8】

【0066】
であるとS体の化合物(V)が得られる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明について、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
なお、NMRデータ中J値はHzを表す。
【0068】
以下の実施例において、温度を記載していない反応は、室温で実施した。
実施例1
500mLの反応容器に臭化銅 (201mg, 1.4mmol)、(R,S)-[4-(2-ジフェニルホスファニルナフタレン-1-イル)-フタラジン-1-イル]-(1-フェニルエチル)アミン ((R,S)-N-PINAP) (862mg, 1.54mmol)とモレキュラシーブス4Å (16.8g)を加え、アルゴンガス雰囲気下、炭酸ジメチル (50mL)を加えて攪拌した。90分攪拌後、TMS化アセチレン (4.0mL, 28mmol)、シクロヘキシルカルボアルデヒド (3.37mL, 28.0mmol)、およびジベンジルアミン (5.42mL, 28.0mmol)を加えて攪拌した。21時間後、反応液を濃縮し、フラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー(1%エーテル含有ヘキサン)で精製することにより、(R)-N,N-ジベンジル-1-シクロヘキシル-3-(トリメチルシリル)-2-プロピン-1-アミン (9.7g)を得た。収率は89%、光学収率は99%であった。
1H-NMR (300 MHz, CDCl3):δ= 7.41-7.40 (m, 4H), 7.39-7.31 (m, 4H), 7.29-7.20 (m, 2H), 3.79 (d, J=13.8, 2H), 3.35 (d, J=13.8, 2H), 3.02 (d, J=10.5, 1H), 2.29-2.25 (m, 1H), 2.00-1.96 (m, 1H), 1.70-1.51 (m, 4H), 1.24-1.04 (m, 3H), 0.81-0.67 (m, 2H), 0.25 (s, 9H)
13C-NMR (100MHz, CDCl3) δ= 139.6, 128.7, 128.0, 126.7, 103.5, 90.1, 58.7, 55.0, 39.7, 31.5, 30.5, 26.9, 26.4, 26.2, 0.83
【0069】
実施例2
1Lの三口フラスコに臭化銅 (201mg, 1.4mmol)、(R,S)-N-PINAP (862mg, 1.54mmol)とモレキュラシーブス4Å (84g)を加え、アルゴンガス雰囲気下、炭酸ジメチル (100mL)を加えて攪拌した。90分攪拌後、TMS化アセチレン (19.8mL, 140mmol)、シクロヘキシルカルボアルデヒド (16.8mL, 140mmol)、およびジベンジルアミン (27.1mL, 140mmol)を加えて攪拌した。22時間後、反応液を濃縮し、フラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー(1%エーテル含有ヘキサン)で精製することにより、(R)-N,N-ジベンジル-1-シクロヘキシル-3-(トリメチルシリル)-2-プロピン-1-アミン (49.9g)を白色固形物として得た。収率は91%、光学収率は99%であった。
【0070】
実施例3
10mLの反応容器に臭化銅 (3.6mg, 0.025mmol)、(R,S)-N-PINAP (15mg, 0.0275mmol)とモレキュラシーブス4Å (300mg)を加え、アルゴンガス雰囲気下、炭酸ジメチル (1mL)を加えて攪拌した。90分攪拌後、TMS化アセチレン (71μL, 0.5mmol)、シクロヘキシルカルボアルデヒド (60μL, 0.5mmol)、およびジベンジルアミン (97μL, 0.5mmol)を加えて攪拌した。20時間後、反応液を濃縮し、フラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー(1%エーテル含有ヘキサン)で精製することにより、(R)-N,N-ジベンジル-1-シクロヘキシル-3-(トリメチルシリル)-2-プロピン-1-アミン (168mg)を白色固形物として得た。収率は95%、光学収率は99%であった。
【0071】
実施例4
アニリン(4.6μL, 0.05mmol)をさらに添加したこと以外は、実施例3と同様の方法により反応を行った。反応時間15時間で(R)-N,N-ジベンジル-1-シクロヘキシル-3-(トリメチルシリル)-2-プロピン-1-アミンの収率は91%、光学収率は99%であった。
【0072】
実施例5
触媒調製後、直ちにTMS化アセチレン、シクロヘキシルカルボアルデヒドおよびジベンジルアミンを加えたこと以外は、実施例3と同様の方法により反応を行った。(R)-N,N-ジベンジル-1-シクロヘキシル-3-(トリメチルシリル)-2-プロピン-1-アミンの収率は85%、光学収率は99%であった。
【0073】
実施例6
モレキュラシーブスの代わりにアルミナ (300mg)を使用した以外は、実施例3と同様の方法により反応を行った。20時間後の(R)-N,N-ジベンジル-1-シクロヘキシル-3-(トリメチルシリル)-2-プロピン-1-アミンの収率は86%、光学収率は99%であった。
【0074】
実施例7
溶媒として炭酸ジメチルの代わりに炭酸ジエチル (2mL)を使用した以外は、実施例3と同様の方法により反応を行った(ただし、溶媒は触媒調製時 (1mL)と基質添加時 (1mL)に2分割して加えた)。(R)-N,N-ジベンジル-1-シクロヘキシル-3-(トリメチルシリル)-2-プロピン-1-アミンの20時間後の収率は98%、光学収率は96%であった。
【0075】
実施例8
溶媒として炭酸ジメチルの代わりに炭酸プロピレン (2mL)を使用した以外は、実施例3と同様の方法により反応を行った(ただし、溶媒は触媒調製時 (1mL)と基質添加時 (1mL)に2分割して加えた)。(R)-N,N-ジベンジル-1-シクロヘキシル-3-(トリメチルシリル)-2-プロピン-1-アミンの20時間後の収率は92%、光学収率は91%であった。
【0076】
比較例1
溶媒として炭酸ジメチルの代わりにトルエン(2mL)を使用した以外は、実施例3と同様の方法により反応を行った(ただし、溶媒は触媒調製時(1mL)と基質添加時(1mL)に2分割して加えた)。(R)-N,N-ジベンジル-1-シクロヘキシル-3-(トリメチルシリル)-2-プロピン-1-アミンの48時間後での収率は74%で光学収率は98%であった。また、同条件での120時間後での収率は90%で光学収率は98%であった。
【0077】
実施例9
溶媒として炭酸プロピレン(100μL)をさらに加えたこと以外は、比較例1と同様の方法により反応を行った。(R)-N,N-ジベンジル-1-シクロヘキシル-3-(トリメチルシリル)-2-プロピン-1-アミンの16時間後での収率は99%で、光学収率は96%であった。
【0078】
光学純度の測定法
実施例の方法で得られたシリル体(67mg, 172μmol)を乾燥テトラヒドロフラン(THF) (2mL)に溶解し、0℃に冷却した。トリブチルアンモニウムフルオリド1.0M THF溶液(0.1mL)を加えて15分攪拌後、水を加えた。エーテル (2mL)で3回抽出し、有機層を合一し、食塩水で洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(1%エーテル含有ヘキサンで溶出)で単離した(R)-N,N-ジベンジル-1-シクロヘキシル-2-プロピン-1-アミンを光学カラムを用いてHPLC分析した。
カラム:キラルセルOD-H 流速:0.3mL/min、移動相:ヘキサン、波長:254nm、R25.3(minor)、28.5(major)
1H-NMR (300 MHz, CDCl3):δ= 7.45-7.43 (m, 4H), 7.37-7.32 (m, 4H), 7.29-7.25 (m, 2H), 3.86 (d, J=14.1, 2H), 3.42 (d, J=14.1, 2H), 3.08 (dd, J=10.8, 2.1, 1H), 2.38 (d, J=2.1, 1H), 2.39-2.30 (m, 2H), 2.08-2.01 (m, 1H), 1.78-1.62 (m, 4H), 1.30-1.05 (m, 3H), 0.92-0.70 (m, 2H)
13C-NMR (100MHz, CDCl3) δ= 139.6, 128.7, 128.1, 126.8, 81.0, 73.5, 57.7, 54.9, 39.6, 31.3, 30.3, 26.6, 26.2, 26.0
【0079】
参考例 触媒の回収法
10mLの反応容器に臭化銅 (17.9mg, 0.125mmol)、(R,S)-N-PINAP (77.0mg, 0.138mmol)とモレキュラシーブス4Å(粉末1.5g)を加え、アルゴンガス雰囲気下、炭酸ジメチル2mLを加えて攪拌した。90分攪拌後、TMS化アセチレン(2.50mmol)、シクロヘキシルカルボアルデヒド (301μL, 2.50mmol)、およびジベンジルアミン (484μL, 2.50mmol)を加えて攪拌した。21時間後、ヘキサン (3mL)を反応液に加えた。析出する黄色沈殿物をろ別し、エーテル/ヘキサン(5mL, 1/1容量部)で2回洗浄した。無色のろ液は減圧下濃縮して淡黄色の(R)-N,N-ジベンジル-1-シクロヘキシル-3-(トリメチルシリル)-2-プロピン-1-アミン (930mg)を得た(95%、NMRより)。反応液から析出した黄色沈殿物はジメチルホルムアミドに溶解し、ろ過した後、ろ液を減圧濃縮して黄色固形物 (104mg)を得た(理論量最大で95mg)。NMR、LCMSおよびMS分析によりPINAPの臭化銅錯体であることを確認した。
【0080】
実施例10
触媒として参考例で回収した触媒を使用した以外は、実施例3と同様の方法により反応を行なった。(R)-N,N-ジベンジル-1-シクロヘキシル-3-(トリメチルシリル)-2-プロピン-1-アミン (183mg)を得た。収率は94%、光学収率は97%であった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、化合物(I)の光学活性体を不斉配位子として含有する不斉遷移金属錯体の存在下、化合物(II)−(IV)から光学活性アミンである化合物(V)を製造する際、炭酸エステルを含む溶媒下で反応を行うことにより、反応時間を短縮でき、かつ、反応収率や光学収率が向上すること、さらに、炭酸エステルの使用量が比較的少なく反応溶液が高濃度でも、反応収率や光学収率が保持される。
したがって、本発明の製造方法は、医薬、農薬等の光学活性な合成中間体の工業的に有用な製造方法となり得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】


(式中、A環は、存在しないかまたは置換基を有していてもよいベンゼン環を示し、RおよびRはそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいフェニル基、シクロヘキシル基、2−フリル基または3−フリル基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を示し、Xは、−ORまたは−NHR(式中、RおよびRは置換基を有していてもよい低級アルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアリール基または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。)で表される残基を示す。)
で表される化合物の光学活性体を不斉配位子として含有する不斉遷移金属錯体の存在下、一般式(II):RCHO(II)(式中、Rは、置換基を有していてもよい低級アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよい低級アルケニル基、置換基を有していてもよい低級アルキニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。)で表される化合物、一般式(III):HNR(III)(式中、RおよびRはそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい低級アルキル基、置換基を有していてもよい低級アルケニル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアリール基または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示すか、あるいはRとRが隣接する窒素原子と一緒になって、置換基を有していてもよい含窒素複素環を形成してもよい。)で表される化合物、および一般式(IV):HC≡CR10(IV)(式中、R10は、水素原子、置換基を有していてもよい低級アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、トリアルキルシリル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。)で表される化合物を、炭酸エステルを含む溶媒中で反応させることを特徴とする、一般式(V):
【化2】


(式中、R、R、RおよびR10は上記と同義を示し、*は不斉炭素を示す。)
で表される光学活性アミン化合物の製造方法。
【請求項2】
炭酸エステルが、炭素数3〜10の炭酸エステルである、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
炭酸エステルが、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸プロピレンから選ばれる、請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
反応が炭酸エステル中で行われ、かつ当該炭酸エステルが、化合物(II)に対して0.5〜30倍重量使用される、請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
反応が、トルエン、1,2−ジメトキシエタンおよびジクロルメタンから選ばれる溶媒と炭酸エステルとの混合溶媒中で行われ、かつ当該炭酸エステルが、化合物(II)に対して0.1〜5倍重量使用される、請求項1記載の製造方法。
【請求項6】
不斉遷移金属錯体が、化合物(II)1モルに対して0.1〜10モル%使用される、請求項1記載の製造方法。
【請求項7】
反応が0〜50℃の範囲内で行われる、請求項1記載の製造方法。
【請求項8】
反応が、3級アミンおよび芳香族アミンから選ばれる塩基の存在下で行われる、請求項1記載の製造方法。
【請求項9】
塩基が、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンおよびアニリンから選ばれる、請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
反応が乾燥剤の存在下で行われる、請求項1記載の製造方法。
【請求項11】
乾燥剤が、アルミナおよびモレキュラシーブスから選ばれる、請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
およびRが共にフェニル基である、請求項1記載の製造方法。
【請求項13】
およびRが共に水素原子である、請求項1記載の製造方法。
【請求項14】
またはRが不斉中心を有する残基である、請求項1記載の製造方法。
【請求項15】
またはRが1−フェニルエチル基である、請求項1記載の製造方法。
【請求項16】
またはRがキラルな1−フェニルエチル基である、請求項1記載の製造方法。
【請求項17】
不斉遷移金属錯体中の遷移金属が、Ru、Pd、Rh、CuおよびAgから選ばれる金属である、請求項1記載の製造方法。
【請求項18】
不斉遷移金属錯体中の遷移金属がCuである、請求項1記載の製造方法。
【請求項19】
不斉遷移金属錯体が、一般式(I)で表される化合物の光学活性体と遷移金属塩またはその錯体とを反応させることにより調製されたものである、請求項1記載の製造方法。
【請求項20】
不斉遷移金属錯体が、一般式(I)で表される化合物の光学活性体とCuX(式中、Xはハロゲン原子、BF、アセトキシ、SbF、PFおよびOSOCFから選ばれる対イオンを示す。)とを反応させることにより調製されたものである、請求項1記載の製造方法。
【請求項21】
とRが隣接する窒素原子と一緒になって4−ピペリジノンを形成する、請求項1記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−30992(P2010−30992A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146772(P2009−146772)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(502079801)
【氏名又は名称原語表記】ERICK M. CARREIRA
【住所又は居所原語表記】LABORATORY OF ORGANIC CHEMISTRY ETH HOENGGERBERG, ZUERICH, SWITZERLAND
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】