説明

光学活性チタンサラレン化合物の製造方法

【課題】 不斉エポキシ化反応に有用である光学活性チタンサラレン化合物の効率的な製造方法を提供。
【解決手段】式(1)、式(2)等


で表される光学活性チタンサラレン化合物の結晶化条件を利用し、光学活性チタンサラレン化合物を高い化学収率及び高い化学純度で製造する方法の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不斉エポキシ化反応に有用である光学活性チタンサラレン化合物の効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、ジ−μ−オキソチタンサラレン錯体が、過酸化水素水を酸化剤として、オレフィン化合物を、高いエナンチオ選択性と高い化学収率で不斉エポキシ化反応することが報告されている。しかしながら、非特許文献1に記載のチタンサラレン錯体の製造方法では、得られるチタンサラレン錯体の収率が60%に留まっており、更に工業的に有利で効率的な製造方法が望まれていた。
【0003】
【非特許文献1】K.Matsumoto,Y.Sawada,B.Saito,K.Sakai,T.Katsuki,Angew.Chem.Int.Ed.(2005),44,4935−4939.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
不斉エポキシ化反応に有用である光学活性チタンサラレン化合物の効率的な製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、不斉エポキシ化反応に有用である光学活性チタンサラレン化合物の製造方法について鋭意研究し、特に反応試剤や溶媒の種類と必要量、また反応後に加える水の添加の方法や量について検討を行い、これらが一体となって働く良好な条件を見出し、結果、高い化学収率及び化学純度で光学活性チタンサラレン化合物を製造できる製造方法を開発し、本発明を完成した。すなわち本発明は以下の通りである。
【0006】
(1)
式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、C6−12アリールオキシ基又はC6−22アリール基(該アリール基は、式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)中において、光学活性又は光学不活性である。)であり、Rは、水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、C6−12アリールオキシ基又はC6−18アリール基であり、Rは、C1−4アルキル基、C6−18アリール基又は、2つのRが一緒になって環を形成する場合は、C3−5の二価の基であり、Rは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、ニトロ基又はシアノ基である。)のいずれかで表される光学活性チタンサラレン化合物を製造する方法において、下記式(3)、式(3’)、式(4)及び式(4’)
【0009】
【化2】

【0010】
(式中のR、R、R及びRは、上記と同義である。)のいずれかで表されるサレン配位子を、サレン配位子1モルに対して0.3〜0.6(モル/L)に相当する有機溶媒中に溶解させ、チタンアルコキシドを、サレン配位子1モルに対して1.0〜1.1モルを添加し撹拌後、その反応混合溶液に、サレン配位子1モルに対して水1モルを添加し撹拌し、次いで、さらにサレン配位子1モルに対して2回目の水1〜5モルを添加し撹拌し、結晶化させて取り出すことを特徴とする製造方法である。
【0011】
(2)
結晶化条件が、水添加が2回であり、1回目の水添加量がサレン配位子1モルに対して1.0〜1.1モルであり、2回目の水添加量が1.5〜4モルであることを特徴とする前記(1)記載の光学活性チタンサラレン化合物の製造方法である。
【0012】
(3)
式(2)又は式(2’)で表される化合物が、それぞれ式(5)又は式(5’)であり、
【0013】
【化3】

【0014】
用いられるサレン配位子が、それぞれ下記式(6)又は式(6’)
【0015】
【化4】

【0016】
であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の光学活性チタンサラレン化合物の製造方法である。
【0017】
(4)
式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)
【0018】
【化5】

【0019】
(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、C6−12アリールオキシ基又はC6−22アリール基(該アリール基は、式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)中において、光学活性又は光学不活性である。)であり、Rは、水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、C6−12アリールオキシ基又はC6−18アリール基であり、Rは、C1−4アルキル基、C6−18アリール基又は、2つのRが一緒になって環を形成する場合は、C3−5の二価の基であり、Rは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、ニトロ基又はシアノ基である。)のいずれかで表される光学活性チタンサラレン化合物を製造する方法において、下記式(3)、式(3’)、式(4)及び式(4’)
【0020】
【化6】

【0021】
(式中のR、R、R及びRは、上記と同義である。)のいずれかで表されるサレン配位子を、サレン配位子1モルに対して0.3〜0.6(モル/L)に相当する有機溶媒中に溶解させ、チタンアルコキシドを、サレン配位子1モルに対して1.0〜1.1モルを添加し撹拌後、その反応混合溶液に、サレン配位子1モルに対して水を2〜3モル添加し攪拌し、結晶化させて取り出すことを特徴とする製造方法である。
(5)
式(2)又は式(2’)で表される化合物が、それぞれ式(5)又は式(5’)であり、
【0022】
【化7】

【0023】
用いられるサレン配位子が、それぞれ下記式(6)又は式(6’)
【0024】
【化8】

【0025】
であることを特徴とする前記(4)に記載の光学活性チタンサラレン化合物の製造方法である。
【0026】
(6)
使用する有機溶媒が、ジクロロメタンであることを特徴とする前記(1)から(5)の何れか1項に記載の光学活性チタンサラレン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、不斉エポキシ化反応に有用である光学活性チタンサラレン化合物を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本明細書中「n」はノルマルを、「i」はイソを、「s」はセカンダリーを、「t」はターシャリーを、「c」はシクロを、「o」はオルトを、「m」はメタを、「p」はパラを意味する。
【0029】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0030】
本発明で製造する光学活性チタンサラレン化合物は、式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)
【0031】
【化9】

【0032】
(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、C6−12アリールオキシ基又はC6−22アリール基(該アリール基は、式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)中において、光学活性又は光学不活性である。)であり、Rは、水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、C6−12アリールオキシ基又はC6−18アリール基であり、Rは、C1−4アルキル基、C6−18アリール基又は、2つのRが一緒になって環を形成する場合は、C3−5の二価の基であり、Rは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、ニトロ基又はシアノ基である。)のいずれかで表される。ここで、式(1’)の錯体は、式(1)の錯体の鏡像異性体であり、式(2’)の錯体は、式(2)の錯体の鏡像異性体である。これらの中でも、式(2)又は式(2’)で表される光学活性チタンサラレン化合物が好ましい。
【0033】
前記式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)中の置換基について説明する。
【0034】
前記式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)中のRは、水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、C6−12アリールオキシ基又はC6−22アリール基である。
【0035】
前記式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)中のRについて具体的に説明する。該ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、該C1−4アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられ、該C1−4アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、c−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、c−ブトキシ基等が挙げられ、該C6−12アリールオキシ基としては、フェニルオキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、2−ビフェニリルオキシ基、3−ビフェニリルオキシ基、4−ビフェニリルオキシ基等が挙げられ、該C6−22アリール基としては、フェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、4−メチルフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−ビフェニリル基、3−ビフェニリル基、4−ビフェニリル基、2−フェニル−1−ナフチル基、2−メチル−1−ナフチル基、2−[3,5−ジメチルフェニル]−1−ナフチル基、2−[4−メチルフェニル]−1−ナフチル基、2−メトキシ−1−ナフチル基、2−[p−(t−ブチルジメチルシリル)フェニル]−1−ナフチル基、2−ビフェニリル−1−ナフチル基等が挙げられる。なお、上記C6−22アリール基は、式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)中において、光学活性であっても、光学不活性であってもよい。
【0036】
前記式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)中のRは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、c−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、c−ブトキシ基、フェニルオキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、フェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、4−メチルフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−ビフェニリル基、3−ビフェニリル基、4−ビフェニリル基、2−メトキシ−1−ナフチル基、2−フェニル−1−ナフチル基、2−[p−(t−ブチルジメチルシリル)フェニル]−1−ナフチル基、2−ビフェニリル−1−ナフチル基が好ましく、これらの中でもRは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メチル基、メトキシ基、フェニルオキシ基、フェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、4−メチルフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−ビフェニリル基、2−メトキシ−1−ナフチル基、2−フェニル−1−ナフチル基、2−[p−(t−ブチルジメチルシリル)フェニル]−1−ナフチル基、2−ビフェニリル−1−ナフチル基がより好ましい。
【0037】
前記式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)中のRは、水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、C6−12アリールオキシ基又はC6−18アリール基である。
【0038】
前記式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)中のRについて具体的に説明する。該ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、該C1−4アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられ、該C1−4アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、c−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、c−ブトキシ基等が挙げられ、該C6−12アリールオキシ基としては、フェニルオキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、2−ビフェニリルオキシ基、3−ビフェニリルオキシ基、4−ビフェニリルオキシ基等が挙げられ、該C6−18アリール基としては、フェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、4−メチルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−ビフェニリル基、2−フェニル−1−ナフチル基、2−メチル−1−ナフチル基、2−[3,5−ジメチルフェニル]−1−ナフチル基、2−[4−メチルフェニル]−1−ナフチル基、2−メトキシ−1−ナフチル基等が挙げられる。
【0039】
前記式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)中のRは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、メトキシ基、フェニルオキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、フェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、4−メチルフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−ビフェニリル基、3−ビフェニリル基、4−ビフェニリル基、2−メトキシ−1−ナフチル基が好ましく、これらの中でもRは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、メトキシ基、フェニルオキシ基、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−ビフェニリル基がより好ましい。
【0040】
前記式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)中のRは、C1−4アルキル基、C6−18アリール基又は、2つのRが一緒になって環を形成する場合は、C3−5の二価の基である。
【0041】
前記式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)中のRについて具体的に説明する。該C1−4アルキルとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基であり、該C6−18アリール基としては、フェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、4−メチルフェニル基、1−ナフチル基、2−ビフェニリル基、2−フェニル−1−ナフチル基、2−メチル−1−ナフチル基、2−[3,5−ジメチルフェニル]−1−ナフチル基、2−[4−メチルフェニル]−1−ナフチル基、2−メトキシ−1−ナフチル基であり、2つのRが一緒になって環を形成する場合は、C3−5の二価の基として、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基等が挙げられる。
【0042】
前記式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)中のRはフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2つのRが結合したテトラメチレン基が好ましく、2つのRが互いに結合したテトラメチレン基がより好ましい。
【0043】
前記式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)中のRは、水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、ニトロ基又はシアノ基である。
【0044】
前記式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)中のRについて具体的に説明する。該ハロゲン基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、該C1−4アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられ、該C1−4アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基等が挙げられる。
【0045】
前記式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)中のRは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基が好ましく、これらの中でも、Rとしては、水素原子がより好ましい。
【0046】
本発明で製造する光学活性チタンサラレン化合物である式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)は、下記の反応式1で表される方法によって製造できる。
反応式1
【0047】

【化10】

【0048】
反応式1(式中のR、R、R及びRは、上記と同義である。)は、イミン化合物である式(3)からは、光学活性チタンサラレン化合物の式(1)、イミン化合物である式(3’)からは、光学活性チタンサラレン化合物の式(1’)、イミン化合物である式(4)からは、光学活性チタンサラレン化合物の式(2)、及びイミン化合物である式(4’)からは、光学活性チタンサラレン化合物の式(2’)を製造する方法を示す。
【0049】
本発明で使用するサレン配位子である式(3)、式(3’)、式(4)及び式(4’)は、下記の反応式2で表される方法によって製造できる。
反応式2
【0050】
【化11】

【0051】
反応式2中のR、R、R及びRは、前記と同義である。上記式(7)又は式(8)であるサリチルアルデヒド化合物と上記式(9)又は式(10)であるジアミン化合物(化合物(7)又は化合物(8)1モルに対して0.5〜0.6モルを使用する。)とを有機溶媒中で混合させ、サレン配位子であるイミン化合物(3)、(3’)、(4)又は(4’)を製造できる。使用する有機溶媒は、アルコール系溶媒、ニトリル系溶媒、ハロゲン系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒、アミド系溶媒又は上記を混合した溶媒が挙げられ、具体的には、i−プロパノール、エタノール、メタノール、アセトニトリル、プロピオニトリル、ジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ヘキサン、ヘプタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。この中で好ましい溶媒としては、i−プロパノール、エタノール、メタノール、アセトニトリル、ジクロロメタン、トルエン、ジメチルホルムアミド、上記の溶媒を混合した溶媒である。
【0052】
使用するジアミン化合物の式(9)及び式(10)は、フリー体のジアミン化合物と塩を形成しているジアミン化合物の使用できる。具体的には、ジアミン硫酸塩、ジアミン塩酸塩、ジアミン酒石酸塩等が挙げられる。サレン配位子であるイミン化合物を製造する際に使用するジアミン化合物としては、フリー体のジアミン化合物、ジアミン硫酸塩、ジアミン酒石酸塩が好ましい。
【0053】
これらのサレン配位子の製造する時に、化合物(7)又は化合物(8)1モルに対して、1〜10モルの脱水剤を共存させて製造することができる。脱水剤としては、無水硫酸マグネシウム、無水ホウ酸又はモレキュラシーブスが好ましい。また、脱水操作としてはディーンシュターク型脱水反応器を用いて、溶媒との共沸脱水により生成水の除去を行いながら製造できる。
【0054】
サレン配位子を製造する時の反応温度については、−78℃から使用する溶媒の沸点まで可能であるが、好ましくは0℃から50℃の範囲である。
【0055】
サレン配位子(6)又は(6’)製造の出発物質となるサリチルアルデヒド化合物(14)及び(14’)についての製造方法は、特開平7−285983、非特許文献Tetrahedron,50,11827−11838,(1994)に記載された方法等により合成することができる。製造方法の一例を反応式3に示す。
反応式3
【0056】
【化12】

【0057】
反応式3中のPhはフェニル基を、TfNPhはN−フェニルトリフルオロメタンスルホンイミドを、PhMgBrはグリニャール試薬を、NiCl(dppe)は塩化[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケル(II)クロリドを、MOMClはクロロメチルメチルエーテルを、(i−Pr)NEtはエチルジイソプロピルアミンを、t−BuLiはターシャリーブチルリチウムを、DMFはジメチルホルムアミドを、TMSBrは臭化トリメチルシリルを意味する。反応式3において、出発物質(11)からは、サリチルアルデヒド化合物(14)を得られ、出発物質(11’)からは、上記と同じ方法を用いてサリチルアルデヒド化合物(14’)を得ることができる。
【0058】
ジアミン化合物については、例えば、(1S,2S)−(+)−1,2−ジアミノシク
ロヘキサン及び(1R,2R)−(−)−1,2−ジアミノシクロヘキサンは、Aldr
ich社、東京化成工業株式会社等から入手可能であり、(1S,2S)−(−)−1,
2−ジフェニルエチレンジアミン及び(1R,2R)−(+)−1,2−ジフェニルエチ
レンジアミンは、Aldrich社等から入手可能である。
【0059】
光学活性チタンサラレン化合物の製造方法について、詳細に説明する。前記式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)のいずれかで表される光学活性チタンサラレン化合物を製造する方法において、前記式(3)、式(3’)、式(4)及び式(4’)のいずれかで表されるサレン配位子を、サレン配位子1モルに対して0.3〜0.6(モル/L)に相当する有機溶媒中に溶解させ、室温で反応を行う。好ましい反応温度としては20〜35℃が挙げられ、23〜30℃がより好ましい。チタンアルコキシドを、サレン配位子1モルに対して1〜1.1モルを添加して、24〜100時間、撹拌して、その後に、2回に分けて水添加を行う。反応混合溶液にサレン配位子1モルに対して1回目の添加として、水1モルを添加し、0.2〜3時間、撹拌する。さらにサレン配位子1モルに対して2回目の添加として、水1〜5モルを室温又は20〜35℃にて添加し、0.2〜15時間、撹拌することで、光学活性チタンサラレン化合物を結晶化させる。この結晶化の際は−5〜15℃にて熟成するための撹拌もできる。生成した結晶をろ過し、そのケークを洗浄することで、光学活性チタンサラレン化合物を得ることができる。
【0060】
光学活性チタンサラレン化合物を結晶化させる際の水添加については、2回に分けて添加する方法と、1回で添加する方法がある。2回に分けて添加する方法がより好ましい。
【0061】
本光学活性チタンサラレン化合物の製造で、使用する有機溶媒は、非プロトン性の有機溶媒、プロトン性の有機溶媒又はこれら溶媒の混合物が挙げられる。非プロトン性の有機溶媒としては、ハロゲン系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒又はニトリル系溶媒が挙げられ、具体的には、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、プロピオニトリル、アセトニトリル等が挙げられる。プロトン性の有機溶媒としては、アルコール系溶媒が挙げられ、エタノール、i−プロパノール又はt−ブタノール等が挙げられる。好ましい反応溶媒は非プロトン性の有機溶媒であるジクロロメタンである。
【0062】
本光学活性チタンサラレン化合物の製造において、使用する有機溶媒の使用量は、サレン配位子と使用する有機溶媒の濃度で表すことができる。サレン配位子1モルに対して0.3〜0.6(モル/L)に相当する濃度が挙げられ、好ましくは、サレン配位子1モルに対して0.35〜0.5(モル/L)に相当する濃度である。
【0063】
本光学活性チタンサラレン化合物の製造において、使用するチタンアルコキシドとしては、チタンテトラC1−4アルコキシドが好ましく、具体的にはチタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラn−プロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn−ブトキシド、チタンテトラt−ブトキシド等が挙げられる。これらの中でも、チタンテトライソプロポキシド[Ti(Oi−Pr)]がより好ましい。
【0064】
本光学活性チタンサラレン化合物の製造において、使用するチタンアルコキシドの使用量は、サレン配位子1モルに対して1.0〜1.1モルが挙げられ、好ましくは、サレン配位子1モルに対して1.00〜1.05モルである。
【0065】
本光学活性チタンサラレン化合物の製造において、チタンアルコキシドの添加温度及び反応温度は、室温又は20〜35℃であり、23〜30℃が好ましい。
【0066】
本光学活性チタンサラレン化合物の製造において、チタンアルコキシドを添加した後の撹拌時間は、24〜100時間が挙げられ、50〜90時間が好ましい。
【0067】
本光学活性チタンサラレン化合物の製造において、チタンアルコキシドを添加した後の撹拌中の反応温度は、室温又は20〜35℃であり、23〜30℃が好ましい。
【0068】
本光学活性チタンサラレン化合物の製造において、1回目に使用する水の使用量は、サレン配位子1モルに対して1〜1.1モルが挙げられ、1モルが好ましい。
【0069】
本光学活性チタンサラレン化合物の製造において、1回目の水の添加温度及び反応温度は、室温又は20〜35℃であり、23〜30℃が好ましい。
【0070】
本光学活性チタンサラレン化合物の製造において、1回目の水を添加した後の撹拌時間は、0.2〜3時間が挙げられ、0.5〜2時間が好ましい。
【0071】
本光学活性チタンサラレン化合物の製造において、1回目の水を添加した後の撹拌中の反応温度は、室温又は20〜35℃であり、23〜30℃が好ましい。
【0072】
本光学活性チタンサラレン化合物の製造において、2回目に使用する水の使用量は、サレン配位子1モルに対して1〜5モルが挙げられ、1.5〜4モルが好ましく、1.5〜3モルがより好ましい。
【0073】
本光学活性チタンサラレン化合物の製造において、2回目の水の添加温度及び反応温度は、室温又は20〜35℃であり、23〜30℃が好ましい。
【0074】
本光学活性チタンサラレン化合物の製造において、2回目の水を添加した後の撹拌時間は、0.2〜15時間が挙げられ、1〜10時間が好ましい。
【0075】
本光学活性チタンサラレン化合物の製造で、2回目の水を添加した後の撹拌中の反応温度は、室温又は20〜35℃であり、23〜30℃が好ましい。
【0076】
水の添加を完了し光学活性チタンサラレン化合物を結晶化させる際は、種結晶として光学活性チタンサラレン化合物を、サレン配位子1モルに対して0.0001〜0.05モルを使用してもよく、好ましくは、0.001〜0.01モルである。
【0077】
光学活性チタンサラレン化合物の結晶化が終了した後にろ過を行い、そのケークを有機溶媒で洗浄することで、光学活性チタンサラレン化合物を得ることができる。その洗浄の際に使用する有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ニトリル系溶媒、ハロゲン系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒、アミド系溶媒、上記のものを混合した溶媒が挙げられ、具体的には、エタノール、メタノール、アセトニトリル、プロピオニトリル、ジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ヘキサン、ヘプタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。この中で好ましい溶媒は、エタノール、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、ヘキサン、ヘプタンである。
【0078】
ろ過、洗浄した光学活性チタンサラレン化合物は真空乾燥機等で乾燥することで、黄色粉末状で得ることができる。
【0079】
光学活性チタンサラレン化合物の製造時の水添加を1回で行うこともでき、水の使用量は、サレン配位子1モルに対して水2〜4モルが挙げられ、水2〜3モルが好ましい。
【0080】
以下、実施例により更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0081】
サレン配位子(6)の製造
反応式4
【0082】
【化13】

【0083】
サレン配位子(6)の製造は、光学活性ジアミン化合物1モルに対して2モルの光学活性サリチルアルデヒド化合物の式(14)のジメチルホルムアミドに溶解させ、i−プロパノール溶液にした光学活性ジアミン化合物(15)を添加し、窒素雰囲気下70〜80℃にて反応溶液を1時間撹拌した後、0〜5℃まで冷却して、生成するイミン化合物であるサレン配位子(6)をろ過および洗浄して得た。
【0084】
実施例1
光学活性チタンサラレン化合物(5’)の製造
【0085】
【化14】

【0086】
光学活性サレン配位子(6’)2.0g(2.4mmol)を反応器に仕込み、6.0mLのジクロロメタンに溶かし、窒素雰囲気下25℃でマグネット型撹拌子にて撹拌し、ガスタイトシリンジにて0.72g(2.5mmol)のチタンテトライソプロポキシド[Ti(Oi−Pr)]を2分かけて25℃で滴下した。窒素雰囲気下25℃で85時間撹拌して、次に44mgの水を25℃で添加した。1回目の水の添加後、25℃で2時間攪拌した。さらに2回目水添加として88mgの水を25℃で添加した。2回目の水の添加後、25℃で3.3時間攪拌した。反応液からは、結晶が析出した。ガラスフィルターろ過器でろ過し、n−ヘプタン6mLでケークを洗浄した。ケークをナス型フラスコに入れて、エバポレーターと真空乾燥機で、恒量になるまで乾燥した。2.1g(収率96%)黄色粉末状で、光学活性チタンサラレン化合物(5’)を得た。HPLCにて分析を行った。HPLC相対面積百分率(%)は、96%であった。
HPLC分析条件:カラム名 phenomenex Gemini 5μm C18 110A,溶離液 アセトニトリル/0.01M酢酸アンモニウム水溶液=100/3(v/v),流量2.0mL/min,カラム温度 40℃,保持時間 16.9分,測定波長 240nm.
【0087】
実施例2〜5および比較例1
実施例1に記載の反応条件の水添加量や添加回数を変更して同様の反応を行った。結果を表1に示す。
また、同じ原料を用い非特許文献1の方法に従い反応を行った。結果を比較例1として表1にあわせて示す。
表1
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、不斉エポキシ化反応に有用である光学活性チタンサラレン化合物を、再結晶操作など特別の精製過程を経ずに、反応系中から直接、95%以上の高い化学純度の結晶として、80%以上の高収率で得ることができ、光学活性チタンサラレン化合物の工業的製造法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)
【化1】

(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、C6−12アリールオキシ基又はC6−22アリール基(該アリール基は、式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)中において、光学活性又は光学不活性である。)であり、Rは、水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、C6−12アリールオキシ基又はC6−18アリール基であり、Rは、C1−4アルキル基、C6−18アリール基又は、2つのRが一緒になって環を形成する場合は、C3−5の二価の基であり、Rは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、ニトロ基又はシアノ基である。)のいずれかで表される光学活性チタンサラレン化合物を製造する方法において、下記式(3)、式(3’)、式(4)及び式(4’)
【化2】

(式中のR、R、R及びRは、上記と同義である。)のいずれかで表されるサレン配位子を、サレン配位子1モルに対して0.3〜0.6(モル/L)に相当する有機溶媒中に溶解させ、チタンアルコキシドを、サレン配位子1モルに対して1.0〜1.1モルを添加し撹拌後、その反応混合溶液に、サレン配位子1モルに対して水1モルを添加し撹拌し、次いで、さらにサレン配位子1モルに対して2回目の水1〜5モルを添加し撹拌し、結晶化させて取り出すことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
結晶化条件が、水添加が2回であり、1回目の水添加量がサレン配位子1モルに対して1.0〜1.1モルであり、2回目の水添加量が1.5〜4モルであることを特徴とする請求項1記載の光学活性チタンサラレン化合物の製造方法。
【請求項3】
式(2)又は式(2’)で表される化合物が、それぞれ式(5)又は式(5’)であり、
【化3】

用いられるサレン配位子が、それぞれ下記式(6)又は式(6’)
【化4】

であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)
【化5】

(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、C6−12アリールオキシ基又はC6−22アリール基(該アリール基は、式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)中において、光学活性又は光学不活性である。)であり、Rは、水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、C6−12アリールオキシ基又はC6−18アリール基であり、Rは、C1−4アルキル基、C6−18アリール基又は、2つのRが一緒になって環を形成する場合は、C3−5の二価の基であり、Rは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、ニトロ基又はシアノ基である。)のいずれかで表される光学活性チタンサラレン化合物を製造する方法において、下記式(3)、式(3’)、式(4)及び式(4’)
【化6】

(式中のR、R、R及びRは、上記と同義である。)のいずれかで表されるサレン配位子を、サレン配位子1モルに対して0.3〜0.6(モル/L)に相当する有機溶媒中に溶解させ、チタンアルコキシドを、サレン配位子1モルに対して1.0〜1.1モルを添加し撹拌後、その反応混合溶液に、サレン配位子1モルに対して水を2〜3モル添加し攪拌し、結晶化させて取り出すことを特徴とする製造方法。
【請求項5】
式(2)又は式(2’)で表される化合物が、それぞれ式(5)又は式(5’)であり、
【化7】

用いられるサレン配位子が、それぞれ下記式(6)又は式(6’)
【化8】

であることを特徴とする請求項4に記載の光学活性チタンサラレン化合物の製造方法。
【請求項6】
使用する有機溶媒が、ジクロロメタンであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の光学活性チタンサラレン化合物の製造方法。

【公開番号】特開2007−284438(P2007−284438A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79950(P2007−79950)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】