説明

光学活性ニペコタミドの製造方法

【課題】商業生産において有利な方法で光学活性ニペコタミドを製造する方法を提供する。
【解決手段】溶媒中で、ニペコタミドと光学活性乳酸とを反応させてジアステレオマー塩混合物を調製し、該ジアステレオマー塩混合物のうち、一方のジアステレオマー塩を析出させる工程、析出したジアステレオマー塩を取得する工程、及び取得したジアステレオマー塩を塩基で処理して光学活性ニペコタミドを遊離させる工程を含む光学活性ニペコタミドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学分割による光学活性ニペコタミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニペコタミド(ピペリジン−3−カルボキサミド)、特に光学活性ニペコタミドは、医薬品の製造原料として有用な化合物であることが知られている。光学活性ニペコタミドの製造方法としては、S−ニペコタミドを選択的に加水分解する酵素を用いてニペコタミドからR−ニペコタミドを得る方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2008/102720
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、比較的高価な酵素を使用すること、該酵素の入手性の問題、加水分解後に酵素などの固体物を除去するための遠心分離器等の特殊設備が必要であることといった問題があり、商業生産の点で満足できるものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に至った。
即ち、本発明は、光学活性乳酸を用いて光学分割を行えば、簡便な操作で効率よく光学活性ニペコタミドを得ることができるというものである。
具体的には、本発明は、溶媒中で、ニペコタミドと光学活性乳酸とを反応させてジアステレオマー塩混合物を調製し、該ジアステレオマー塩混合物のうち、一方のジアステレオマー塩を析出させる工程、析出したジアステレオマー塩を取得する工程、及び取得したジアステレオマー塩を塩基で処理して光学活性ニペコタミドを遊離させる工程を含む光学活性ニペコタミドの製造方法を提供する。
また、本発明は、ニペコタミドと光学活性乳酸とのジアステレオマー塩混合物をも提供する。
さらにまた、本発明は、光学活性ニペコタミドと光学活性乳酸との塩(特に、R−ニペコタミドのD−乳酸塩またはS−ニペコタミドのL−乳酸塩)をも提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法では、光学活性乳酸を用いてニペコタミドを光学分割するので、高価かつ入手困難な酵素を要することなく、また、固体物を除去するための遠心分離器等の特殊設備を要することなく、光学活性ニペコタミドを得ることができる。従って、本発明の製造方法は、商業生産に適した方法である。また、使用する光学活性乳酸としてD−体又はL−体を選択することにより、R−ニペコタミド又はL−ニペコタミドのいずれをも製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の製造方法に用いられるニペコタミドはR−ニペコタミド及びS−ニペコタミドの混合物であり、通常、ラセミ体が用いられる。ニペコタミドは市販されており、市販品をそのまま使用してもよいし、ニコチンアミドを還元して得たものを使用してもよい。
【0008】
ニコチンアミドの還元は、例えば、溶媒中で、触媒の存在下、接触還元することにより行うことができる。溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコールなどのC〜Cのアルコール、テトラヒドロフランなどのエーテル、酢酸、水、これらの混合溶媒などが挙げられる。中でもプロピルアルコール(特に2−プロパノール)が好ましい。溶媒の使用量は、ニコチンアミド1gに対して、3〜5mLの範囲内が好ましい。還元触媒の例は、パラジウム触媒、白金触媒であり、パラジウム触媒、特に炭素に担持したパラジウム触媒が好ましい。還元触媒の使用量は、ニコチンアミド1重量部に対して、還元触媒中の金属の重量部で、0.005〜0.02重量部の範囲内が好ましい。
接触還元の温度は、70〜80℃の範囲内が好ましい。また、接触還元の水素圧は、0.1〜1MPaの範囲内が好ましい。
接触還元により得られるニペコタミドは、通常ラセミ体である。
【0009】
本発明は、ニペコタミドを光学分割することにより光学活性ニペコタミドを得るものであり、溶媒中で、ニペコタミドと光学活性乳酸とを反応させてジアステレオマー塩混合物を調製し、該ジアステレオマー塩混合物のうち、一方のジアステレオマー塩を析出させる工程、析出したジアステレオマー塩を取得する工程、及び取得したジアステレオマー塩を塩基で処理して光学活性ニペコタミドを遊離させる工程を含む光学活性ニペコタミドの製造方法である。
【0010】
光学活性乳酸は市販されており、市販品をそのまま用いることができる。得られる光学活性ニペコタミドの光学純度を高めるためには、光学純度の高い光学活性乳酸を使用するのがよい。光学活性乳酸の光学純度は、好ましくは90%ee以上、より好ましくは95%ee以上、さらに好ましくは98%ee以上、特に好ましくは98.5%ee以上である。
【0011】
光学活性乳酸の使用量は、ニペコタミド1モルに対して、0.5〜1.5モルの割合が好ましく、0.8〜1.2モルの割合がさらに好ましい。
【0012】
溶媒中で、ニペコタミドと光学活性乳酸とを反応させてジアステレオマー塩混合物を調製し、該ジアステレオマー塩混合物のうち、一方のジアステレオマー塩を析出させる工程において、溶媒、ニペコタミド及び光学活性乳酸の混合順序は特に限定されないが、好ましくは、予め溶媒とニペコタミドとからニペコタミド溶液を調製し、該ニペコタミド溶液に光学活性乳酸を添加する。ニペコタミド溶液の調製に際しては、適宜溶媒を加熱してもよい。また、光学活性乳酸を適当な溶媒に溶解して光学活性乳酸溶液、例えば水溶液を調製し、この光学活性乳酸溶液をニペコタミド溶液に添加してもよい。
【0013】
光学活性乳酸の水溶液を添加する場合、ニペコタミド溶液と混合して混合物を得た後、該混合物の濃縮、脱水等を行うことにより、ジアステレオマー塩の析出を促進させることもできる。光学活性乳酸水溶液の濃度は特に制限はないが、85重量%以上の濃度が好ましい。
光学活性乳酸の添加は、少しずつ行うことが好ましい。また、光学活性乳酸の添加温度は、使用する溶媒の沸点以下、好ましくは0〜100℃の範囲内である。
【0014】
ニペコタミドと光学活性乳酸とを反応させる工程で使用される溶媒としては、アルコール溶媒、ケトン溶媒、エステル溶媒、エーテル溶媒、含硫黄溶媒、含窒素溶媒、ラクトン溶媒、水が挙げられる。これら溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
アルコール溶媒の具体例は、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコールなどのC〜Cのアルコールであり、ブチルアルコール、特に1−ブタノールが好ましい。
ケトン溶媒の具体例は、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンであり、メチルイソブチルケトンが好ましい。
エステル溶媒の具体例は、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどの酢酸エステルである。
エーテル溶媒の具体例は、メチルt−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサンである。
含硫黄溶媒の具体例、ジメチルスルホキシド、スルホランである。
含窒素溶媒の具体例は、ピロリドン、ジメチルホルムアミドである。
ラクトン溶媒の具体例は、γ-ブチロラクトンである。
【0015】
中でも、アルコール溶媒、ケトン溶媒、エステル溶媒及びそれらの混合溶媒が好ましく、アルコール溶媒(特に1−ブタノール)、アルコール溶媒(特に1−ブタノール)とケトン溶媒(特にメチルイソブチルケトン)との混合溶媒、並びにアルコール溶媒(特に1−ブタノール)とエステル溶媒(特に酢酸エチル)との混合溶媒が好ましい。アルコール溶媒とケトン溶媒との混合溶媒において、ケトン溶媒の混合割合を増加させることで、目的とするジアステレオマー塩の溶解度を低下させて、収率を向上させることができる。また、アルコール溶媒とエステル溶媒との混合溶媒において、エステル溶媒の混合割合を増加させることで、目的とするジアステレオマー塩の溶解度を低下させて、収率を向上させることができる。アルコール溶媒とケトン溶媒もしくはエステル溶媒との混合溶媒として使用する場合における混合割合は任意に選択可能である。
【0016】
また、これらの溶媒は、さらに水を含んでいてもよい。水を含む溶媒を使用すると、析出したジアステレオマー塩の収率や、当該ジアステレオマー塩から得られる光学活性ニペコタミドの光学純度が良好になることもある。
【0017】
溶媒の使用量は、ニペコタミドが溶解する程度であればよいが、ニペコタミド1重量部に対して、通常1〜50重量部、好ましくは4〜20重量部の割合である。また、溶媒に水を含む場合、ニペコタミド1重量部に対して、0.07〜0.15重量部の割合の水の使用が好ましい。
【0018】
得られるジアステレオマー塩混合物は、光学活性乳酸としてD−乳酸を使用した場合は、S−ニペコタミドのD−乳酸塩及びR−ニペコタミドのD−乳酸塩の2種のジアステレオマー塩の混合物である。また、光学活性乳酸としてL−乳酸を使用した場合は、S−ニペコタミドのL−乳酸塩及びR−ニペコタミドのL−乳酸塩の2種のジアステレオマー塩の混合物である。
【0019】
一方のジアステレオマー塩を析出させるために、ジアステレオマー塩の混合物を含む反応混合物を冷却してもよい。例えば、50〜80℃に加温された該反応混合物を、−10〜35℃の温度範囲、好ましくは0〜30℃の温度範囲まで冷却することにより、一方のジアステレオマー塩を析出させることができる。その際、徐々に冷却することが、最終的に得られる光学活性ニペコタミドの化学純度や光学純度の観点から好ましい。目的とするジアステレオマー塩を予め準備しておき、これを種晶として使用することもできる。
【0020】
析出したジアステレオマー塩を取得する工程は、通常の固液分離の手法にしたがって行われる。
具体的には、ろ過、デカンテーションなどの固液分離操作が挙げられる。
この結果、純度の高いジアステレオマー塩、即ち他方のジアステレオマー塩の混入量が少ないジアステレオマー塩を得ることができるが、取得したジアステレオマー塩に、さらに、溶媒による洗浄、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の精製操作を加えることで、より純度の高いジアステレオマー塩を得ることもできる。
【0021】
光学活性乳酸にD−乳酸を用いると、通常、R−ニペコタミドのD−乳酸塩が得られ、一方、光学活性乳酸にL−乳酸を用いると、通常、S−ニペコタミドのL−乳酸塩が得られる。
特に、アルコール溶媒(特に1−ブタノール)、アルコール溶媒(特に1−ブタノール)とケトン溶媒(特にメチルイソブチルケトン)との混合溶媒、並びにアルコール溶媒(特に1−ブタノール)とエステル溶媒(特に酢酸エチル)との混合溶媒を用いると、R−ニペコタミドのD−乳酸塩、又はS−ニペコタミドのL−乳酸塩が析出しやすくなる。
【0022】
このようにして、固体の光学活性ニペコタミドと光学活性乳酸との塩を取得できる。溶媒に水が含まれる場合、析出した光学活性ニペコタミドと光学活性乳酸との塩は水和物の形態をとることがある。
また、析出した一方のジアステレオマー塩を取得した後の液相には、他方のジアステレオマー塩が多く含まれているので、液相を濃縮するか、他の溶媒を加えて晶析するなどの方法により、他方のジアステレオマー塩を取り出すこともできる。
【0023】
次いで、取得したジアステレオマー塩を塩基で処理して光学活性ニペコタミドを遊離させることにより、光学活性ニペコタミドが製造される。以下、かかる処理を「塩基処理」ということがある。前工程で得られたジアステレオマー塩は、光学活性乳酸と塩を形成しており、塩基処理により、光学活性ニペコタミドを遊離することができる。
【0024】
用いられる塩基の具体例は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド、トリエチルアミン、トリメチルアミン、エチルジイソプロピルアミンなどの第三級アミンである。
塩基の使用量は、ジアステレオマー塩1モルに対して、1〜3モルの割合が好ましい。
【0025】
ジアステレオマー塩の塩基処理は、通常、溶媒中でジアステレオマー塩と塩基とを混合することにより行われる。溶媒としては、ブチルアルコールなどのアルコール溶媒、THFなどのエーテル溶媒、水、これらの混合溶媒などが挙げられる。溶媒の使用量は、ジアステレオマー塩1gに対して、3〜20mLの割合が好ましい。混合温度は0〜50℃の範囲内が好ましく、混合する時間は1分〜24時間の範囲内が好ましい。
【0026】
ジアステレオマー塩を塩基処理した後の反応混合物は、光学活性乳酸と遊離した光学活性ニペコタミドとを含み、該光学活性乳酸は、用いた塩基との塩を形成している場合がある。該反応混合物から光学活性ニペコタミドを単離するには、抽出、ろ過、濃縮、晶析等の通常の操作を行えばよい。
【0027】
ジアステレオマー塩の塩基処理の典型的な操作は、以下の通りである。
ジアステレオマー塩を水と混合して水溶液又は水分散液とし、これに塩基を加えて塩基性とする。その際、pH10以上にするのが好ましい。次いで、20〜30℃で保温した後、水との相溶性が低いプロトン性溶媒あるいは非プロトン性極性有機溶媒を加えて攪拌すると、有機層に光学活性ニペコタミドが、水層に光学活性乳酸と塩基の塩が抽出される。その後、有機層と水層とが充分分離するまで静置した後、分液により有機層を取り出す。その後、分液した有機層から光学活性ニペコタミドを得ることができる。
【0028】
水との相溶性が低い有機溶媒としては、例えば、ブチルアルコール、ペンチルアルコールなどのC〜Cのアルコール、酢酸エチル、酢酸メチルなどのエステル、THF、メチルテトラヒドロフランなどのエーテルが挙げられる。該有機溶媒の使用量は、ジアステレオマー塩1gに対して、3〜20mLの割合が好ましい。
【0029】
必要により、有機層を水洗してもよい。また、前記分液で分離した水層から再度抽出操作を行なって該光学活性ニペコタミドの収率を上げることもできる。かくして得られた有機層より有機溶媒を留去することにより光学活性ニペコタミドを単離することができる。
【0030】
単離した光学活性ニペコタミドは、さらに、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の処理操作により、精製してもよい。また、光学活性ニペコタミドを適当な溶媒に溶解後、所望の酸を加えて酸付加塩として単離することもできる。
【0031】
抽出操作後の水層より、常法により光学活性乳酸を回収することもできる。回収された光学活性乳酸は、そのまま又は精製して、次回の本発明の光学活性ニペコタミドの製造方法に供することで、光学活性乳酸のリサイクルが可能となる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
得られた光学活性ニペコタミドの光学純度は、各実施例において得られるジアステレオマー塩から、トリエチルアミンを用いて遊離させた光学活性ニペコタミドを単離し、これを3,5−ジニトロベンゾイルクロリドで誘導体とした後、高速液体クロマトグラフィーを用い面積百分率法にて求めた。分析条件は以下の通りである。
【0033】
<分析条件>
カラム:CHIRALCEL OD−RH(ダイセル化学工業製DAICEL CHEMICAL INDUSTRIES,LTD)4.6mm×150mm(カラム温度 40℃)
移動相:A=水,B=アセトニトリル
【0034】
【表1】

【0035】
<ニペコタミドの製造>
ニコチンアミド122.12g(1.00mol)を2−プロパノール500mLに溶解し、得られた溶液に、パラジウム−炭素(10%)14.4gを仕込み、水素圧0.5MPa、75℃で4時間撹拌した。反応終了後、パラジウム−炭素をろ別した。さらに、ろ過したパラジウム−炭素を2−プロパノール100mLで洗浄した。ろ液と洗浄液とを合わせ、濃縮することにより、ラセミ体のニペコタミドの白色結晶を126.08g得た。収率は98.4%であった。NMRで目的物であることを確認した。
【0036】
実施例1 ニペコタミドの光学分割
ニペコタミド10g(78.0mmol)を1−ブタノール30mL及び酢酸エチル30mLの混合溶媒に溶解し、この溶液に、D−乳酸8.53g(98.6%ee,90%水溶液,85.8mmol)を加え、70℃で撹拌した。反応混合物に、予め準備しておいたR−ニペコタミドのD−乳酸塩を少量、種晶として加えたところ、ジアステレオマー塩が析出した。反応混合物を同温度で1時間撹拌した後、撹拌しながら6時間で10℃まで冷却し、さらに10時間撹拌した。析出したジアステレオマー塩をろ取し、該ジアステレオマー塩を約5℃の1−ブタノール10mL及び酢酸エチル10mLの混合溶媒で洗浄した。乾燥後、得られた白色のジアステレオマー塩は7.27gであった。このジアステレオマー塩はR−ニペコタミドのD−乳酸塩であり、その収率は42.7%であった。該ジアステレオマー塩から得られたR−ニペコタミドの光学純度を分析したところ、98.0%eeであった。
H−NMR(DMSO−d,400MHz)δppm:7.47(1H,s),6.95(1H,s),3.71(1H,q,J=13.7,6.8Hz),3.14−3.02(2H,m),2.80−2.64(2H,m),2.54−2.44(1H,m),1.90−1.84(1H,m),1.74−1.67(1H,m),1.62−1.43(2H,m),1.14(3H,d,J=6.8Hz).
【0037】
実施例2 ニペコタミドの光学分割
ニペコタミド2g(15.6mmol)を1−ブタノール10mLに溶解し、この溶液に、L−乳酸1.76g([α]D20=−13°(c=2.5,1.5mol/L NaOH),85%水溶液,16.6mmol)を加え、50℃で撹拌した。反応混合物に、予め準備しておいたS−ニペコタミドのL−乳酸塩を少量、種晶として加えたところ、ジアステレオマー塩が析出した。反応混合物を60℃で1時間撹拌した後、撹拌しながら室温まで放冷し、同温度で終夜撹拌した。析出したジアステレオマー塩をろ取し、1−ブタノール5mLで洗浄した。乾燥後、得られた白色のジアステレオマー塩は1.25gであった。このジアステレオマー塩は、S−ニペコタミドのL−乳酸塩であり、その収率は36.7%であった。該ジアステレオマー塩から得られたS−ニペコタミドの光学純度を分析したところ、99.0%eeであった。
H−NMR(DMSO−d,400MHz)δppm:7.47(1H,s),6.95(1H,s),3.71(1H,q,J=13.7,6.8Hz),3.14−3.02(2H,m),2.80−2.64(2H,m),2.54−2.44(1H,m),1.90−1.84(1H,m),1.74−1.67(1H,m),1.62−1.43(2H,m),1.14(3H,d,J=6.8Hz).
【0038】
実施例3 ニペコタミドの光学分割
実施例2において、1−ブタノールに代えて同量の1−ブタノール/酢酸エチル(1/1(容量/容量))を用いた以外は、実施例2と同様の操作を行ったところ、白色結晶としてS−ニペコタミドのL−乳酸塩1.40gを得た。収率は41.1%であった。該ジアステレオマー塩から得られたS−ニペコタミドの光学純度は99.0%eeであった。
【0039】
実施例4 ニペコタミドの光学分割
実施例2において、1−ブタノールに代えて同量の1−ブタノール/メチルイソブチルケトン(1/1(容量/容量))を用いた以外は、実施例2と同様の操作を行ったところ、白色結晶としてS−ニペコタミドのL−乳酸塩1.40gを得た。収率は41.1%であった。該ジアステレオマー塩から得られたS−ニペコタミドの光学純度は97.9%eeであった。
【0040】
実施例5 R−ニペコタミドの製造
実施例1で得られたR−ニペコタミドのD−乳酸塩3.0g(13.7mmol)を水10mL及び1−ブタノール20mLと混合し、得られた混合物を20〜25℃に保ちながら炭酸ナトリウム1.74g(16.4mmol)を加えて撹拌した。静置して分液させ、有機層を取得した。水層を1−ブタノール20mLで抽出し、得られた有機層と先に取得した有機層とを合わせ、飽和食塩水5mLで洗浄した。得られた有機層を濃縮した後、1−ブタノール20mLを加え、不溶物をろ過した。得られた溶液を濃縮することにより、R−ニペコタミド0.90gを白色結晶として得た。収率は51%であった。R−ニペコタミドの光学純度を分析したところ、98.0%eeであった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の製造方法は、簡便な操作で効率よく光学活性ニペコタミドを得ることができることから、商業生産に適する。また、使用する光学活性乳酸にD−体又はL−体を選択することにより、R−ニペコタミド又はL−ニペコタミドのいずれをも製造することができる。従って、本発明の製造方法は、産業上非常に有用な製造方法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中で、ニペコタミドと光学活性乳酸とを反応させてジアステレオマー塩混合物を調製し、該ジアステレオマー塩混合物のうち、一方のジアステレオマー塩を析出させる工程、析出したジアステレオマー塩を取得する工程、及び取得したジアステレオマー塩を塩基で処理して光学活性ニペコタミドを遊離させる工程を含む光学活性ニペコタミドの製造方法。
【請求項2】
溶媒が、アルコール溶媒、ケトン溶媒およびエステル溶媒から選ばれる一種以上である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
溶媒が、1−ブタノール、1−ブタノールとメチルイソブチルケトンとの混合溶媒、又は1−ブタノールと酢酸エチルとの混合溶媒である請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
アルコール溶媒、ケトン溶媒、エステル溶媒から選ばれる一種以上の溶媒に溶解したニペコタミドに光学活性乳酸の水溶液を加えることにより、ニペコタミドと光学活性乳酸とを反応させてジアステレオマー塩混合物を調製し、該ジアステレオマー塩混合物のうち、一方のジアステレオマー塩を析出させる工程を含む請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
ニペコタミドと光学活性乳酸とのジアステレオマー塩混合物。
【請求項6】
光学活性ニペコタミドと光学活性乳酸との塩。
【請求項7】
R−ニペコタミドのD−乳酸塩。
【請求項8】
S−ニペコタミドのL−乳酸塩。

【公開番号】特開2011−42647(P2011−42647A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−162672(P2010−162672)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】