説明

光学活性ニペコチン酸エステル誘導体の製造法

【課題】医薬品中間体として有用な光学活性ニペコチン酸エステル誘導体をそのラセミ化合物から簡便に製造できる方法を提供する。
【解決手段】ラセミのニペコチン酸エステル誘導体の2級アミノ基をR体選択的にアシル化する能力を有する酵素を用いて、アシル供与体存在下、ラセミのニペコチン酸エステル誘導体の2級アミノ基をR体選択的にアシル化した後、反応混合物から残存する(S)−ニペコチン酸エステル誘導体を単離することにより、光学活性ニペコチン酸エステル誘導体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品中間体として有用な光学活性ニペコチン酸エステル誘導体、とりわけ(S)−ニペコチン酸エチルの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学活性ニペコチン酸エステル誘導体の製造法としては、以下の様な方法が知られていた。
【0003】
1)(±)−ニペコチン酸エチルをジベンゾイル−(L)−酒石酸を用いて光学分割することにより、(S)−ニペコチン酸エチルを収率35%にて得る方法(特許文献1)。
【0004】
2)(±)−ニペコチン酸エチルを(R)−カンファースルホン酸を用いて光学分割することにより、(S)−ニペコチン酸エチルを収率10%にて得る方法(非特許文献1)。
【0005】
しかしながら、上記の(S)−ニペコチン酸エチルを得る為には高価な光学分割剤が必要であること、および、収率が低いこと等、工業的製法としては改善すべき課題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開公報WO2002068391号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,2000,122(17),3955−4004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記に鑑み、本発明の目的は、医薬品の中間体として有用な光学活性ニペコチン酸エステル誘導体、中でも(S)−ニペコチン酸エチルをそのラセミ化合物から簡便に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題につき鋭意検討を行った結果、ラセミのニペコチン酸エステル誘導体の2級アミノ基をR体選択的にアシル化する能力を有する酵素を用いて、アシル基供与体(Acyl−donor)存在下、ラセミのニペコチン酸エステル誘導体の2級アミノ基をR体選択的にアシル化し、残存する高い光学純度を有する(S)−ニペコチン酸エステル誘導体を取得する方法、また、ラセミの2級アミンを立体選択的にアシル化する能力を有する酵素を用いて、マロン酸ジエステル存在下、ラセミの2級アミンのアミノ基を立体選択的にアシル化し、残存する高い光学純度を有する光学活性アミンを取得する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、一般式(1);
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R1は炭素数1〜10のアルキル基、炭素数5〜15の置換基を有しても良いアリール基、又は炭素数6〜16の置換基を有しても良いアラルキル基を表す。)で表されるラセミのニペコチン酸エステル誘導体の2級アミノ基をR体選択的にアシル化する能力を有する酵素を用いて、アシル基供与体存在下、前記一般式(1)で表されるラセミのニペコチン酸エステル誘導体の2級アミノ基をR体選択的にアシル化し、一般式(2);
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、R1は前記と同じ。R2は炭素数1〜10の置換基を有しても良いアルキル基を表す。)で表される(R)−アシルニペコチン酸エステル誘導体、及び残存する一般式(3);
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、R1は前記と同じ。)で表される(S)−ニペコチン酸エステル誘導体の混合物に変換することを特徴とする、前記一般式(3)で表される(S)−ニペコチン酸エステル誘導体の製造法である。
【0017】
また、更に反応混合物から前記一般式(3)で表される(S)−ニペコチン酸エステル誘導体を単離する工程を含むことを特徴とする、上記の製造法である。
【0018】
また、本発明は、ラセミの2級アミンを立体選択的にアシル化する能力を有する酵素を用いて、マロン酸ジエステル存在下、ラセミの2級アミンのアミノ基を立体選択的にアシル化し、光学活性マロン酸アミド、及び残存する光学活性アミンの混合物に変換することを特徴とする、光学活性マロン酸アミド、および、光学活性アミンの製造法である。
【0019】
また、更に反応混合物から前記光学活性アミンを単離する工程を含むことを特徴とする、上記の製造法である。
【0020】
また、本発明は、 一般式(8);
【0021】
【化4】

【0022】
(式中、Xはメチレン基、アミノ基、または酸素原子を表す。R4はエステル基、カルボキシアミド基、ニトリル基、保護されていても良いアミノ基、または保護されても良い水酸基を表す。R7は置換基を有していても良い炭素数1〜10のアルキル基を表す。nは0または1を表す。*は不斉炭素原子を表す。)で表される化合物を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の方法により、医薬品中間体として有用な光学活性2級アミン、とりわけ光学活性ニペコチン酸エステル誘導体をそのラセミ化合物から簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0025】
まず、本発明に関わる化合物について説明する。前記一般式(1)、(2)、(3)、(8)、下記一般式(4);
【0026】
【化5】

【0027】
、下記式(5);
【0028】
【化6】

【0029】
、下記式(6);
【0030】
【化7】

【0031】
、及び、下記式(7);
【0032】
【化8】

【0033】
で表される化合物において、R1としては炭素数1〜10のアルキル基、炭素数5〜15の置換基を有しても良いアリール基、又は炭素数6〜16の置換基を有しても良いアラルキル基が挙げられる。例えば、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デカン基等が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、o−クロロフェニル基、m−ブロモフェニル基、p−フルオロフェニル基、p−ニトロフェニル基、p−シアノフェニル基、p−メトキシフェニル基等が挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基、o−クロロベンジル基、m−ブロモベンジル基、p−フルオロベンジル基、p−ニトロベンジル基、p−シアノベンジル基、p−メトキシベンジル基等が挙げられる。上記のなかでもR1として好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、又はn−ペンチル基であり、より好ましくは、エチル基である。上記のR1を有する化合物(1)は工業的に入手可能、或いは入手可能な原料から容易に合成できる。例えば、ニペコチン酸を、酸触媒存在下にエタノールと反応することにより、ニペコチン酸エチルを容易に入手/調製することができる。
【0034】
また、R2としては炭素数1〜10の置換基を有しても良いアルキル基が挙げられる。例えば、炭素数1〜10の置換基を有しても良いアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デカン基、クロロメチル基、シアノメチル基、メトキシメチル基、メチルオキシカルボニルメチル基、エチルオキシカルボニルメチル基等が挙げられる。上記のなかでもR2として好ましくは、メチル基、エチルオキシカルボニルメチル基であり、より好ましくは、エチルオキシカルボニルメチル基である。
【0035】
また、R3としては炭素数1〜10の置換基を有しても良いアルキル基、炭素数5〜15の置換基を有しても良いアリール基、又は炭素数6〜16の置換基を有しても良いアラルキル基が挙げられる。例えば、炭素数1〜10の置換基を有しても良いアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デカン基等が挙げられる。炭素数5〜15の置換基を有しても良いアリール基としては、フェニル基、o−クロロフェニル基、m−ブロモフェニル基、p−フルオロフェニル基、p−ニトロフェニル基、p−シアノフェニル基、p−メトキシフェニル基等が挙げられる。炭素数6〜16の置換基を有しても良いアラルキル基としては、ベンジル基、o−クロロベンジル基、m−ブロモベンジル基、p−フルオロベンジル基、p−ニトロベンジル基、p−シアノベンジル基、p−メトキシベンジル基等が挙げられる。上記のなかでもR3として好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基又はn−ペンチル基であり、より好ましくは、エチル基である。
【0036】
また、R4としてはエステル基、カルボキシアミド基、ニトリル基、保護されていても良いアミノ基、または保護されても良い水酸基が挙げられる。例えば、エステル基としては、アルキルエステル基、ベンジルエステル基等が挙げられ、好ましくは、メチルエステル基、エチルエステル基が挙げられる。
【0037】
また、R5としては置換基を有していても良い炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数5〜15のアリール基、置換基を有していても良い炭素数6〜16のアラルキル基、アルキルアミノ基、アルコキシ基が挙げられ、R6と結合して環を形成していても良い。例えば、置換基を有していても良い炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デカン基等が挙げられる。置換基を有していても良い炭素数5〜15のアリール基としては、フェニル基、o−クロロフェニル基、m−ブロモフェニル基、p−フルオロフェニル基、p−ニトロフェニル基、p−シアノフェニル基、p−メトキシフェニル基等が挙げられる。置換基を有していても良い炭素数6〜16のアラルキル基としては、ベンジル基、o−クロロベンジル基、m−ブロモベンジル基、p−フルオロベンジル基、p−ニトロベンジル基、p−シアノベンジル基、p−メトキシベンジル基等が挙げられる。アルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基等が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基等が挙げられる。
【0038】
また、R6としては置換基を有していても良い炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数5〜15のアリール基、置換基を有していても良い炭素数6〜16のアラルキル基、アルキルアミノ基、アルコキシ基が挙げられ、R5と結合して環を形成していても良い。例えば、置換基を有していても良い炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デカン基等が挙げられる。置換基を有していても良い炭素数5〜15のアリール基としては、フェニル基、o−クロロフェニル基、m−ブロモフェニル基、p−フルオロフェニル基、p−ニトロフェニル基、p−シアノフェニル基、p−メトキシフェニル基等が挙げられる。置換基を有していても良い炭素数6〜16のアラルキル基としては、ベンジル基、o−クロロベンジル基、m−ブロモベンジル基、p−フルオロベンジル基、p−ニトロベンジル基、p−シアノベンジル基、p−メトキシベンジル基等が挙げられる。
【0039】
また、上記のR5とR6とは結合して環を形成しても良く、例えば、ピロリジンなどの5員環、ピペリジン、ピペラジン、モルホリンなどの6員環を形成しても良い。
【0040】
また、R7としては、置換基を有していても良い炭素数1〜10のアルキル基が挙げられる。例えば、置換基を有していても良い炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、、iso−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デカン基等が挙げられ、好ましくは、メチル基、エチル基が挙げられる。
【0041】
また、Xとしてはメチレン基、アミノ基、または酸素原子などが挙げられ、好ましくは、メチレン基である。
【0042】
nは0または1を表す。
【0043】
次に本発明における光学活性2級アミン、中でも前記一般式(2)で表される、(S)−ニペコチン酸エステル誘導体の製造法について説明する。
【0044】
前記酵素を用いて、前記一般式(4)で表されるアシル基供与体存在下、前記一般式(1)で表されるラセミのニペコチン酸エステル誘導体の2級アミノ基をR体選択的にアシル化した後、反応混合物から(S)−ニペコチン酸エステル誘導体を単離することにより、(S)−ニペコチン酸エステル誘導体を製造することができる。本発明において、上記R体選択的アシル化反応は、実質的に加水分解が起こらない条件下で行われる。例えば、反応系に水が存在する場合には、アシル基供与体の加水分解反応が進行してしまうので、上記アシル化反応は水を含まない溶媒か、又は、極めて微量しか含まない溶媒の存在下で行うのが良い。また、アシル化反応の進行に伴い、アシル基供与体からアルコールが副生する。反応系にアルコールが存在する場合には、アシル基供与体とアルコールとのエステル交換反応により、上記アシル化反応の進行が阻害されることから、蒸留操作等により反応系から副生したアルコールを除くことが好ましい。
【0045】
ここで、「酵素」とは、前記R体選択的アシル化活性を有する酵素自体はもちろんのこと、前記活性を有する微生物の培養物およびその処理物も含まれる。R体選択的アシル化活性を有する酵素をコードする遺伝子を含んでなる形質転換体もこれに含まれる。「微生物の培養物」とは、菌体を含む培養液あるいは培養菌体を意味し、「その処理物」とは、例えば、粗抽出液、凍結乾燥微生物菌体、アセトン乾燥微生物菌体、またはそれら菌体の磨砕物等を意味する。ニペコチン酸エステル誘導体のR体選択的アシル化反応を触媒する活性が残存する限りは本発明に用いることができる。さらにそれらは、酵素自体あるいは菌体のまま公知の手段で固定化されて用いることができる。固定化は、当業者に周知の方法(例えば、担体結合法、架橋法、包括法等)で行うことができる。
【0046】
前記酵素としては、特に限定されず、例えば、リパーゼ、エステラーゼ、アシラーゼ又はプロテアーゼ等の加水分解酵素を挙げることができ、好ましくは、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、キャンディダ(Candida)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、及びサーモマイセス(Thermomyces)属に属する微生物に由来する加水分解酵素、より好ましくは、アルカリゲネス・スピーシズ(Alcaligenes sp.)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)、キャンディダ・アンタークティカ(Candida antarctica)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorecens)、シュードモナス・スピ−シーズ(Pseudomonas sp.)、シュードモナス・スツッチェリ(Pseudomonas stutzeri)、リゾムコール・メイヘイ(Rhizomucor meihei)、及びサーモマイセス・ラヌギノサス(Thermomyces lanuginosus)に属する微生物に由来する加水分解酵素、特に好ましくはキャンディダ・アンタークティカ(Candida antarctica)に属する微生物に由来する加水分解酵素である。また、前記キャンディダ・アンタークティカ(Candida antarctica)に属する微生物に由来する固定化酵素としては、「Novozym435」(ノボザイム社製)等を挙げることができる。
【0047】
前記アシル基供与体としては、例えば、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、ヘキサン酸エチル等の脂肪族アルキルカルボン酸エステル;クロロ酢酸エチル、シアノ酢酸エチル、メトキシ酢酸メチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジメチル等の置換基を有するアルキルカルボン酸エステルが挙げられ、好ましくはマロン酸ジエチルである。アシル基供与体の使用量は、特に制限されないが、普通、基質に対するモル比として、下限0.5、好ましくは0.6、より好ましくは0.7であり、また、上限は特に制限されないが、普通、上限100、好ましくは10、より好ましくは2、さらに好ましくは1である。
【0048】
本反応に使用できる溶媒としては、前記酵素を失活させないものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶剤;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、tert−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタン等のエーテル系溶剤;アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸エチル、安息香酸エチル等のエステル系溶剤;塩化メチレン、クロロホルム、1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン系溶剤;ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ホルムアミド、アセトニトリル、プロピオニトリル等の含窒素系溶剤;ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等の非プロトン性極性溶剤が挙げられ、好ましくはヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶剤、より好ましくは、ベンゼン、トルエン等芳香族炭化水素系溶剤、特に好ましくはトルエンである。前記溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。反応溶媒の使用量は、(S)−ニペコチン酸エスエル誘導体と反応溶媒の容量比として、1:0.1〜1:100、好ましくは1:1〜1:10である。
【0049】
本反応の反応温度としては、前記酵素が失活しない限りは特に限定されず、好ましくは0〜80℃、より好ましくは20〜60℃である。本反応の反応時間としては、特に制限されないが、普通1時間〜96時間、好ましくは2時間〜48時間、より好ましくは3時間から24時間である。また、本反応はバッチ方式又は連続方式で行うことができ、前記酵素は、複数バッチ繰り返して利用する、又は連続して利用することもできる。
【0050】
固定化酵素(Novozym435)の使用量としては、特に制限されないが、基質に対する重量比として、普通0.01〜1.0、好ましくは0.05〜0.5、より好ましくは0.1〜0.3である。
【0051】
反応終了後、前記一般式(2)で表される(S)−ニペコチン酸エステル誘導体は前記一般式(3)で表される(R)−アシルニペコチン酸エステル誘導体との混合物として得られ、この混合物より高純度の(S)−ニペコチン酸エステル誘導体を得る方法としては、抽出、カラムクロマトグラフィー、蒸留、又は晶析等の一般的な単離精製操作を組み合わせて行うことができる。例えば、前記反応混合物を塩酸、硫酸、燐酸等の酸存在下、酢酸エチル、トルエン等の有機溶媒及び水とからなる混合溶媒中で処理することで、(S)−ニペコチン酸エステル誘導体と酸との塩を水層に、(R)−アシルニペコチン酸エステル誘導体を有機層に効率良く分配できる。さらに、上記(S)−ニペコチン酸エスエル誘導体と酸との塩の水溶液を、水酸化ナトリウム、アンモニア、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等の塩基を用いて処理することにより、(S)−ニペコチン酸エスエル誘導体のアミン遊離体に変換した後、有機溶媒で抽出、濃縮することにより、高純度の(S)−ニペコチン酸エスエル誘導体を効率よく取得できる。この(S)−ニペコチン酸エステル誘導体は、そのまま使用することもできるが、必要に応じ、蒸留精製して使用することもでき、さらには適当な酸との塩として晶析等の操作により結晶として使用することもできる。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
ラセミのニペコチン酸エチル10mg、各種リパーゼ10mg、及び酢酸エチル1mlを栓付試験管に加え、温度30℃で15時間攪拌した。反応後、反応液中の基質及び生成物量を下記条件にて高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法により分析することにより、変換率(%)及び生成物の光学純度(%ee)を求めた。また、変換率及び生成物の光学純度をもとにして、E値を算出した。結果を表1に示す。
【0054】
HPLC分析条件、変換率、光学純度、及びE値の計算方法は以下の通りである。
【0055】
HPLC分析条件
カラム:ChiralcelAD−RH 0.46cmI.D.×15cm(カラム:株式会社ダイセル製)、溶離液:0.1%リン酸水溶液/アセトニトリル=50/50、流速:0.5ml/min、検出:220nm、カラム温度:30℃
変換率(%)=P1/(S1+P1)×100
(P1:生成物量(mol)、S1:残存基質量(mol))
光学純度(%ee)=(A−B)/(A+B)×100(A及びBは対応する鏡像異性体量を表わし、A>Bである。)
E値=ln((1−変換率(%)/100)×(1+光学純度(%ee)/100))/ln((1−変換率(%)/100)×(1−光学純度(%ee)/100))
【0056】
【表1】

【0057】
(実施例2)
ラセミのニペコチン酸エチル100mg、Novozym435(Novozymes社製)20mg、各種アシル供与体0.5mlを栓付試験管に加え、温度30℃で20時間攪拌した。反応後、実施例1記載の方法に従い、変換率及び生成物の光学純度を測定した。また、残存する基質の光学純度については、ベンジルオキシカルボニルクロライドを用いて誘導化した後、上記同様の方法に従い分析した。結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
(実施例3)
攪拌器、温度計を取り付けた100ml容四つ口フラスコに、ニペコチン酸エチル10g、Novozym435(Novozymes社製)2g、及び酢酸エチル50mlを加え、温度40℃、減圧条件下にて酢酸エチルを留出させながら20時間攪拌した。反応後、実施例1の方法に従い、変換率及び残存する基質の光学純度を測定した。その結果、変換率は62.8%、(S)−ニペコチン酸エチルの光学純度は94.2%eeであった。
【0060】
(実施例4)
攪拌器、温度計を取り付けた100ml容四つ口フラスコに、ニペコチン酸エチル10g、Novozym435(Novozymes社製)2g、マロン酸ジエチル10.2g及びトルエン50mlを加え、温度40℃、減圧条件下にてトルエンを留出させながら20時間攪拌した。反応後、実施例1の方法に従い、変換率及び残存する基質の光学純度を測定した。その結果、変換率は55.3%、(S)−ニペコチン酸エチルの光学純度は96.3%eeであった。
【0061】
(実施例5)
攪拌器、温度計を取り付けた100ml容四つ口フラスコに、ニペコチン酸エチル50g、Novozym435(Novozymes社製)10g、及びマロン酸ジエチル50.9gを加え、温度30℃、減圧条件下にて副生するエタノールを留出させながら4時間攪拌した。40mlのトルエンを添加しながら、さらに上記同様に8時間攪拌した。反応後、実施例1の方法に従い、変換率及び残存する基質の光学純度を測定した。その結果、変換率は54.5%、(S)−ニペコチン酸エチルの光学純度は95.7%eeであった。
【0062】
上記反応液にトルエン100mlを添加した後、酵素を濾別し、1N塩酸145mlを用いて水層に抽出した(pH2)。この酸性水溶液を酢酸エチルで洗浄し、炭酸ナトリウムを添加してpH9以上とした後、酢酸エチルを用いて抽出することにより、(S)−ニペコチン酸エチル20.5gを薄透明油状物として取得した。
【0063】
(実施例6)
攪拌器、温度計を取り付けた100ml容四つ口フラスコに、ニペコチン酸エチル10g、Novozym435(Novozymes社製)2g、マロン酸ジエチル10.2g及びトルエン50mlを加え、温度40℃、減圧条件下にてトルエンを留出させながら10時間攪拌した。反応後、実施例1の方法に従い、変換率及び残存する基質の光学純度を測定した。その結果、変換率は46.1%、(S)−ニペコチン酸エチルの光学純度は87.1%eeであった。
【0064】
上記反応液にトルエン100mlを添加した後、酵素を濾別し、1N塩酸を用いて洗浄した(pH2)。得られた有機層を濃縮した後、カラムクロマトグラフィーを用いて精製することにより、光学純度87.1%eeの(R)−N−エチルマロニルニペコチン酸エチル9.1gを薄透明油状物として取得した。取得した(R)−N−エチルマロニルニペコチン酸エチルのNMR解析の結果を以下に示す。
【0065】
1H NMR(400MHz,CDCl3):δ4.24−4.11(m,4H),3.71−3.09(m,4H),2.89(dd,1H),1.83−1.51(m,4H),1.31−1.23(m,6H)。
【0066】
(実施例7)
攪拌器、温度計を取り付けた100ml容四つ口フラスコに、3−ヒドロキシアミノピペリジン5g、Novozym435(Novozymes社製)1g、マロン酸ジエチル7.8g及びトルエン50mlを加え、温度40℃、減圧条件下にてトルエンを留出させながら10時間攪拌した。反応後、実施例1の方法に従い、変換率及び残存する基質の光学純度を測定した。その結果、変換率は30.1%、(S)−3−ヒドロキシアミノピペリジンの光学純度は35.1%eeであった。
【0067】
上記反応液にトルエン100mlを添加した後、酵素を濾別し、1N塩酸を用いて洗浄した(pH2)。得られた有機層を濃縮した後、カラムクロマトグラフィーを用いて精製することにより、(R)−N−エチルマロニル−3−ヒドロキシアミノピペリジン3gを薄透明油状物として取得した。取得した(R)−N−エチルマロニル−3−ヒドロキシアミノピペリジンのNMR解析の結果を以下に示す。
【0068】
1H NMR(400MHz,CDCl3):δ4.24−4.16(m,2H),3.86−3.31(m,7H),1.86−1.48(m,4H),1.28(t,3H)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1);
【化9】

(式中、R1は炭素数1から10のアルキル基、炭素数5〜15の置換基を有しても良いアリール基、又は炭素数6〜16の置換基を有しても良いアラルキル基を表す。)で表されるラセミのニペコチン酸エステル誘導体の2級アミノ基をR体選択的にアシル化する能力を有する酵素を用いて、アシル基供与体存在下、前記一般式(1)で表されるラセミのニペコチン酸エステル誘導体の2級アミノ基をR体選択的にアシル化し、一般式(2);
【化10】

(式中、R1は前記と同じ。R2は炭素数1〜10の置換基を有しても良いアルキル基を表す。)で表される(R)−アシルニペコチン酸エステル誘導体、及び残存する一般式(3);
【化11】

(式中、R1は前記と同じ。)で表される(S)−ニペコチン酸エステル誘導体の混合物に変換することを特徴とする、前記一般式(2)で表される(R)−アシルニペコチン酸エステル誘導体、および、前記一般式(3)で表される(S)−ニペコチン酸エステル誘導体の製造法。
【請求項2】
更に反応混合物から前記一般式(3)で表される(S)−ニペコチン酸エステル誘導体を単離する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の製造法。
【請求項3】
前記アシル基供与体が一般式(4);
【化12】

(式中、R2は前記と同じ。R3は炭素数1〜10の置換基を有しても良いアルキル基、炭素数5〜15の置換基を有しても良いアリール基、又は炭素数6〜16の置換基を有しても良いアラルキル基を表す。)で表されるカルボン酸エステル誘導体である請求項1または2に記載の製造法。
【請求項4】
前記一般式(1)、(2)、(3)、及び(4)において、R1及びR3がエチル基、R2がメチル基、又はエチルオキシカルボニルメチル基である請求項1〜3のいずれか一つに記載の製造法。
【請求項5】
前記一般式(4)で表されるカルボン酸エステル誘導体がマロン酸ジエチルである請求項3または4に記載の製造法。
【請求項6】
R体選択的にアシル化する能力を有する酵素がアルカリゲネス(Alcaligenes)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、キャンディダ(Candida)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、及びサーモマイセス(Thermomyces)属のいずれかに属する微生物由来である請求項1〜5のいずれか一つに記載の製造法。
【請求項7】
R体選択的にアシル化する能力を有する酵素がアルカリゲネス・スピーシズ(Alcaligenes sp.)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)、キャンディダ・アンタークティカ(Candida antarctica)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorecens)、シュードモナス・スピ−シーズ(Pseudomonas sp.)、シュードモナス・スツッチェリ(Pseudomonas stutzeri)、リゾムコール・メイヘイ(Rhizomucor meihei)、及びサーモマイセス・ラヌギノサス(Thermomyces lanuginosus)のいずれかに属する微生物由来である請求項6に記載の製造法。
【請求項8】
R体選択的にアシル化する能力を有する酵素が固定化酵素である請求項1〜7のいずれか一つに記載の製造法。
【請求項9】
前記固定化酵素が、担体結合法、架橋法、又は包括法により固定化されている請求項8に記載の製造法。
【請求項10】
前記固定化酵素に固定化されている酵素がキャンディダ・アンタークティカ(Candida antarctica)に属する微生物由来のリパーゼである請求項9に記載の製造法。
【請求項11】
ラセミの2級アミンを立体選択的にアシル化する能力を有する酵素を用いて、マロン酸ジエステル存在下、ラセミの2級アミンのアミノ基を立体選択的にアシル化し、光学活性マロン酸アミド、及び残存する光学活性アミンの混合物に変換することを特徴とする、光学活性マロン酸アミド、および、光学活性アミンの製造法。
【請求項12】
ラセミの2級アミンをβ位立体選択的にアシル化する能力を有する酵素を用いることを特徴とする、請求項11に記載の製造法。
【請求項13】
ラセミの2級アミンをR体選択的にアシル化する能力を有する酵素を用いることを特徴とする、請求項12に記載の製造法。
【請求項14】
更に反応混合物から光学活性アミンを単離する工程を含むことを特徴とする、請求項11〜13に記載の製造法。
【請求項15】
前記ラセミの2級アミンが一般式(5);
【化13】

(式中、R4はエステル基、カルボキシアミド基、ニトリル基、保護されていても良いアミノ基、または保護されても良い水酸基を表す。R5は置換基を有していても良い炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数5〜15のアリール基、置換基を有していても良い炭素数6〜16のアラルキル基、アルキルアミノ基、アルコキシ基を表し、R6と結合して環を形成していても良い。R6は置換基を有していても良い炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数5〜15のアリール基、置換基を有していても良い炭素数6〜16のアラルキル基を表し、R5と結合して環を形成していても良い。)で表される2級アミンである請求項11〜14に記載の製造法。
【請求項16】
前記ラセミの2級アミンが一般式(6);
【化14】

(式中、Xはメチレン基、アミノ基、または酸素原子を表す。R4は前記と同じ。nは0または1を表す。)で表される環状2級アミンである請求項15に記載の製造法。
【請求項17】
前記一般式(6)において、Xがメチレン基であり、R4がメチルエステル基、エチルエステル基、カルボキシアミド基、ニトリル基、アミノ基、または水酸基であり、nが0または1である、請求項11〜16のいずれか一つに記載の製造法。
【請求項18】
前記マロン酸ジエステルがマロン酸ジメチルまたはマロン酸ジエチルである請求項11〜17に記載の製造法。
【請求項19】
前記立体選択的にアシル化する能力を有する酵素が、一般式(5);
【化15】

(式中、R4、R5、R6は前記と同じ。)で表されるラセミの2級アミンのうち、一般式(7);
【化16】

(式中、R4、R5、R6は前記と同じ。)で表される光学活性2級アミンを立体選択的にアシル化する能力を有する酵素を用いることを特徴とする、請求項11〜18に記載の製造法。
【請求項20】
前記立体選択的にアシル化する能力を有する酵素が、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、キャンディダ(Candida)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、及びサーモマイセス(Thermomyces)属のいずれかに属する微生物由来である請求項11〜19のいずれか一つに記載の製造法。
【請求項21】
前記立体選択的にアシル化する能力を有する酵素がアルカリゲネス・スピーシズ(Alcaligenes sp.)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)、キャンディダ・アンタークティカ(Candida antarctica)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorecens)、シュードモナス・スピ−シーズ(Pseudomonas sp.)、シュードモナス・スツッチェリ(Pseudomonas stutzeri)、リゾムコール・メイヘイ(Rhizomucor meihei)、及びサーモマイセス・ラヌギノサス(Thermomyces lanuginosus)のいずれかに属する微生物由来である請求項20に記載の製造法。
【請求項22】
前記立体選択的にアシル化する能力を有する酵素が固定化酵素である請求項11〜21のいずれか一つに記載の製造法。
【請求項23】
前記固定化酵素が、担体結合法、架橋法、又は包括法により固定化されている請求項22に記載の製造法。
【請求項24】
前記固定化酵素に固定化されている酵素がキャンディダ・アンタークティカ(Candida antarctica)に属する微生物由来のリパーゼである請求項22に記載の製造法。
【請求項25】
一般式(8);
【化17】

(式中、X、R4、nは前記と同じ。R7は置換基を有していても良い炭素数1〜10のアルキル基を表す。*は不斉炭素原子を表す。)で表される化合物。
【請求項26】
Xがメチレン基であり、R4がメチル基またはエチル基であり、R5がメチルエステル基、エチルエステル基、カルボキシアミド基、ニトリル基、アミノ基、または水酸基であり、nが0または1である、請求項25記載の化合物。
【請求項27】
立体化学がRである、請求項26記載の化合物。

【公開番号】特開2009−263341(P2009−263341A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62860(P2009−62860)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】