説明

光学活性フルオロアミン類の製造方法

【課題】光学活性フルオロアミン類の工業的な製造方法を提供する。
【解決手段】光学活性ヒドロキシアミン類とアルデヒド類を脱水縮合することにより光学活性ヒドロキシアミン類保護体(イミン体、オキサゾリジン体またはこれらの混合物)に変換し、次に本光学活性ヒドロキシアミン類保護体を炭素数7から18の第三級アミン類の存在下にスルフリルフルオリド(SO)と反応させることにより光学活性フルオロアミン類保護体に変換し、最後に本光学活性フルオロアミン類保護体を酸性条件下で加水分解することにより光学活性フルオロアミン類を製造することができる。また、本製造方法における有用な鍵中間体として、新規化合物である光学活性フルオロアミン類保護体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬中間体として重要な光学活性フルオロアミン類の工業的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明で対象とする光学活性フルオロアミン類は、重要な医農薬中間体である。その直接的な製造方法は、対応する光学活性アミノアルコール類のアミノ保護体の脱ヒドロキシフッ素化反応によるものである。
【0003】
光学活性フルオロアミン類を製造する方法として、本出願人は、スルフリルフルオリド(SO)と有機塩基の組み合わせによるアルコール類の脱ヒドロキシフッ素化反応を開示している。そこでは、アミノ基(−NH)をフタロイル基で保護した光学活性アミノアルコール類を原料として使用し、23%の収率で、目的とするフッ素化体(フタロイル保護体)が得られている[特許文献1(スキーム1を参照)]。
【0004】
【化8】

【0005】
また、光学活性アミノアルコール類のアミノ保護体の脱ヒドロキシフッ素化反応としては、Deoxo−FluorTMとして知られるフッ素化剤を用いた反応(スキーム2:非特許文献1)、ならびにDASTとして知られるフッ素化剤を用いた反応(スキーム3:非特許文献2)が、それぞれ知られている。
【0006】
【化9】

【0007】
【化10】

【特許文献1】国際公開2006/098444号パンフレット(特開2006−290870号公報)
【非特許文献1】Journal of Fluorine Chemistry(オランダ),2004年,第125巻,p.1869−1872
【非特許文献2】Journal of American Chemical Society(米国),1982年,第104巻,p.5836−5837
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、光学活性フルオロアミン類の工業的な製造方法を提供することにある。
【0009】
光学活性アミノアルコール類のアミノ保護体の脱ヒドロキシフッ素化反応においては、アミノ基が保護基で保護されても窒素原子が隣接基関与することが知られている。例えば、本発明と同じ1,2−アミノアルコール構造を有する基質では、ジベンジル保護基を用いると転位体が主生成物として得られ(上述のスキーム2、スキーム3を参照)、本発明で目的とする、単純にヒドロキシル基が結合した炭素原子上でフッ素原子に置換した生成物を選択的に得ることができなかった。
【0010】
一方、特許文献1の、フタロイル保護体を用いた、スルフリルフルオリドによる脱ヒドロキシフッ素化反応によれば、窒素原子の隣接基関与を抑えることができ、目的物を比較的簡便な操作で得ることが可能である。しかしながら、収率は23%であり、なお改善の余地があった。さらに、フタロイル基の代表的な脱保護剤であるヒドラジンを用いると反応系が塩基性となり、脱保護された目的物のアミノ基(求核部位)とフッ素原子(求電子部位)に起因する副反応が起こり、アジリジンへの分子内閉環や、分子間での重縮合やヒドラジンによる置換等を避けることができず、脱保護の収率も低いものであった。この様に、開示された反応条件では所望の脱ヒドロキシフッ素化反応自体が良好に進行せず、また得られたフッ素化体からの脱保護を選択的に行うことができず、本発明で対照とする光学活性フルオロアミン類の製造方法という観点から見ると必ずしも実用的な方法とは言えなかった。
【0011】
さらに、脱ヒドロキシフッ素化剤について言及すると、Deoxo−FluorTMやDASTは高価であり、また爆発の危険性もあるために少量スケールでの合成に限られてきた。よって、所望の脱ヒドロキシフッ素化反応が良好に進行するだけでなく、大量規模での生産にも適した反応剤であることも強く望まれていた。
【0012】
この様に、一般式[6]で示される光学活性フルオロアミン類を大量規模で生産するのに適した、且つ選択率の良好な、収率の高い方法を見出すことが求められていた。そのためには、窒素原子の隣接基関与を効果的に抑えることができ、さらに保護および脱保護が容易に行える、アミノ保護基を見出すことが重要であった。また、該アミノ保護体の脱ヒドロキシフッ素化反応が良好に進行する反応条件を明らかにする必要もあった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を踏まえて鋭意検討した結果、光学活性ヒドロキシアミン類のアミノ保護基の選択が重要であり、アルデヒド類との脱水縮合で容易に得られる、本発明の光学活性ヒドロキシアミン類イミン保護体(以後、単に「イミン体」とも称する)は、窒素原子の隣接基関与による転位等の副反応が殆ど起こらず、所望の脱ヒドロキシフッ素化反応が良好に進行することを新たに見出した。また、光学活性ヒドロキシアミン類とアルデヒド類の脱水縮合では、1,2−アミノアルコール構造に起因してイミン体だけを選択的に得ることは困難であるが、同時に副生する閉環体である光学活性ヒドロキシアミン類オキサゾリジン保護体(以後、単に「オキサゾリジン体」とも称する)も、本発明の脱ヒドロキシフッ素化反応において好適な基質になり得ることも新たに明らかにした(スキーム4を参照)。
【0014】
【化11】

【0015】
さらに、脱ヒドロキシフッ素化反応で得られた光学活性フルオロアミン類保護体からの脱保護は、酸性条件下での加水分解により容易に行うことができる。前述の塩基性条件下でのフタロイル基の脱保護とは異なり、酸性条件下の場合には、脱保護されたアミノ基がプロトン化されることで求核性が抑えられ、副反応を殆ど起こすことなく選択的に脱保護できることも新たに見出した。
【0016】
この様に、アミノ保護体としてはイミン体やオキサゾリジン体が好適であるが、原料となるアルデヒド類の大量規模での入手容易性、保護および脱保護の簡便性および選択性、脱ヒドロキシフッ素化の反応性、窒素原子の隣接基関与を抑える効果、および各種中間体の大量規模での取り扱い安定性等を考慮すると、特にRが芳香族炭化水素基であるアミノ保護体がより好適である。
【0017】
一方、好適なアミノ保護体であるイミン体、オキサゾリジン体、またはイミン体とオキサゾリジン体の混合物を、特許文献1で代表的な有機塩基として多用されたトリエチルアミンの存在下にスルフリルフルオリドと反応させても、所望の脱ヒドロキシフッ素化反応は良好に進行せず、中間体であるフルオロ硫酸エステル体に対してトリエチルアミンがフッ素アニオン(F)に優先して求核攻撃し、第四級アンモニウム塩類が多量に副生することを新たに明らかにした[比較例1(スキーム5を参照)]。
【0018】
【化12】

【0019】
この様な状況に鑑み、本発明者らは、有機塩基の立体的な嵩高さに着目した。その結果、炭素数7から18の第三級アミン類を用いることによって、第四級アンモニウム塩類の副生が効果的に抑えられることを新たに見出した。特に第三級アミン類の炭素数が8から12で且つ炭素数3以上のアルキル基が2つ以上のもの(例えば、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−ブチルアミン等)を用いることがより好適である。第三級アミン類に要求される立体的な嵩高さは、炭素数が18までのもので所望の効果が十分に得られ、大量規模での入手容易性および脱ヒドロキシフッ素化反応の生産性等を考慮すると、18までのものが好適であり、特に12までのものがより好適である。
【0020】
よって、本発明で対照とする光学活性フルオロアミン類を製造する上では、好適なアミノ保護体を単に用いるだけでなく、上記特定の第三級アミン類との組み合わせが重要であることも新たに見出した。
【0021】
最後に、本発明の製造方法における有用な鍵中間体として新規化合物である光学活性フルオロアミン類保護体を新たに見出した。
【0022】
この様に、光学活性フルオロアミン類の工業的な製造方法として極めて有用な方法を見出し、本発明に到達した。
【0023】
すなわち、本発明は[発明1]から[発明6]を含み、光学活性フルオロアミン類の工業的な製造方法を提供する。
【0024】
[発明1]
一般式[1]
【0025】
【化13】

【0026】
で示される光学活性ヒドロキシアミン類イミン保護体、一般式[2]
【0027】
【化14】

【0028】
で示される光学活性ヒドロキシアミン類オキサゾリジン保護体、または該光学活性ヒドロキシアミン類イミン保護体と光学活性ヒドロキシアミン類オキサゾリジン保護体の混合物を、炭素数7から18の第三級アミン類(アンモニアの3つの水素原子が全てアルキル基に置換したアミン)の存在下に、スルフリルフルオリド(SO)と反応させることにより、一般式[3]
【0029】
【化15】

【0030】
で示される光学活性フルオロアミン類保護体を製造する方法。
[式中、RおよびRはそれぞれ独立にアルキル基または芳香環基を表す。*は不斉炭素を表し、反応を通して立体化学は保持される。一般式[1]および一般式[3]の波線は窒素−炭素二重結合がE体、Z体、またはE体とZ体の混合物を表し、一般式[2]の波線は置換基Rに対してシン体、アンチ体、またはシン体とアンチ体の混合物を表す]
[発明2]
発明1において、一般式[1]で示される光学活性ヒドロキシアミン類イミン保護体、または一般式[2]で示される光学活性ヒドロキシアミン類オキサゾリジン保護体のRが芳香族炭化水素基であり、さらに第三級アミン類の炭素数が8から12で且つ炭素数3以上のアルキル基が2つ以上あることを特徴とする、発明1に記載の光学活性フルオロアミン類保護体を製造する方法。
【0031】
[発明3]
発明1または発明2において、一般式[1]で示される光学活性ヒドロキシアミン類イミン保護体、または一般式[2]で示される光学活性ヒドロキシアミン類オキサゾリジン保護体が、一般式[4]
【0032】
【化16】

【0033】
で示される光学活性ヒドロキシアミン類と、一般式[5]
【0034】
【化17】

【0035】
で示されるアルデヒド類の脱水縮合で得られることを特徴とする、発明1または発明2に記載の光学活性フルオロアミン類保護体を製造する方法。
[式中、RおよびRはそれぞれ独立にアルキル基または芳香環基を表す。*は不斉炭素を表し、脱水縮合を通して立体化学は保持される]
[発明4]
発明1及至発明3の何れかの方法において得られた、一般式[3]で示される光学活性フルオロアミン類保護体を、酸性条件下で加水分解することにより、一般式[6]
【0036】
【化18】

【0037】
で示される光学活性フルオロアミン類を製造する方法。
[式中、Rはアルキル基または芳香環基を表す。*は不斉炭素を表し、加水分解を通して立体化学は保持される]
[発明5]
一般式[3]
【0038】
【化19】

【0039】
で示される光学活性フルオロアミン類保護体。
[式中、RおよびRはそれぞれ独立にアルキル基または芳香環基を表す。*は不斉炭素を表す。波線は窒素−炭素二重結合がE体、Z体、またはE体とZ体の混合物を表す]
[発明6]
発明5において、一般式[3]で示される光学活性フルオロアミン類保護体のRが芳香族炭化水素基であることを特徴とする、発明5に記載の光学活性フルオロアミン類保護体。
【発明の効果】
【0040】
本発明が従来技術に比べて有利な点を以下に述べる。
【0041】
特許文献1に対しては、脱ヒドロキシフッ素化反応の収率を著しく改善することができ、さらに得られたフッ素化体からの脱保護を選択的に収率良く行うことができる。
【0042】
非特許文献1および非特許文献2に対しては、窒素原子の隣接基関与による副反応を抑えることができ、さらに大量規模での生産にも適した脱ヒドロキシフッ素化剤に置き換えることができる。本発明で用いるスルフリルフルオリドは、燻蒸剤として広く利用されており、さらに廃棄物として蛍石(CaF)や硫酸カルシウム等の無機塩に簡便に処理することができる。
【0043】
本発明で用いる全ての原料および反応剤等は、大量に且つ比較的安価に入手することができる。また、全工程の反応条件が緩和なため、分離の難しい不純物を殆ど副生することなく、高い化学純度で収率良く目的物を得ることができる。さらに、全工程の反応を通して不斉炭素の立体化学は保持される。よって、高い光学純度の原料を用いることにより高い光学純度の目的物を得ることができる。
【0044】
この様に、本発明は、上述の従来技術の問題点を全て解決し、工業的にも実施容易な製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
本発明の光学活性フルオロアミン類の製造方法について詳細に説明する。
本発明には、一般式[4]で示される光学活性ヒドロキシアミン類と一般式[5]で示されるアルデヒド類を脱水縮合することにより一般式[1]または一般式[2]で示される光学活性ヒドロキシアミン類保護体(イミン体、オキサゾリジン体、またはイミン体とオキサゾリジン体の混合物)に変換する第一工程(脱水縮合)、一般式[1]または一般式[2]で示される光学活性ヒドロキシアミン類保護体(イミン体、オキサゾリジン体、またはイミン体とオキサゾリジン体の混合物)を炭素数7から18の第三級アミン類の存在下にスルフリルフルオリドと反応させることにより一般式[3]で示される光学活性フルオロアミン類保護体に変換する第二工程(脱ヒドロキシフッ素化)、および一般式[3]で示される光学活性フルオロアミン類保護体を酸性条件下で加水分解することにより一般式[6]で示される光学活性フルオロアミン類に変換する第三工程(加水分解)がある(スキーム6を参照)。
【0046】
【化20】

【0047】
先ず、第一工程(脱水縮合)について詳細に説明する。
【0048】
一般式[4]で示される光学活性ヒドロキシアミン類のRは、アルキル基または芳香環基を表す。アルキル基は、炭素数1から18の、直鎖または枝分れの鎖式、または環式(炭素数3以上の場合)を採ることができる(環式には単環式以外に、縮合多環式、架橋、スピロ環、環集合等も含まれる)。アルキル基の任意の炭素原子は、窒素原子、酸素原子または硫黄原子等のヘテロ原子に、任意の数でさらに任意の組み合わせで置換することもできる[窒素原子はアルキル基、芳香環基、保護基等を有することもでき、硫黄原子は酸素原子を有することもできる(−SO−または−SO−)]。また、アルキル基の任意の炭素原子に結合した(同一炭素原子上の)2つの水素原子は、窒素原子、酸素原子または硫黄原子に、任意の数でさらに任意の組み合わせで置換することもできる(炭素原子を含めてそれぞれイミノ基、カルボニル基またはチオカルボニル基になることを意味する。また、窒素原子はアルキル基、芳香環基、保護基等を有することもできる)。さらに、アルキル基の任意の隣接する2つの炭素原子は、不飽和基(二重結合または三重結合)に、任意の数でさらに任意の組み合わせで置換することもできる。芳香環基は、炭素数1から18の、フェニル基、ナフチル基、アントリル基等の芳香族炭素水素基、またはピロリル基、フリル基、チエニル基、インドリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基等の窒素原子、酸素原子または硫黄原子等のヘテロ原子を含む芳香族複素環基を採ることができる(窒素原子はアルキル基、芳香環基、保護基等を有することもでき、また単環式以外に、縮合多環式、環集合等を採ることもできる)。
【0049】
アルキル基または芳香環基は、任意の炭素原子上に、任意の数でさらに任意の組み合わせで、置換基を有することもできる。係る置換基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のハロゲン原子、アジド基、ニトロ基、メチル基、エチル基、プロピル基等の低級アルキル基、フルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基等の低級ハロアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の低級アルコキシ基、フルオロメトキシ基、クロロメトキシ基、ブロモメトキシ基等の低級ハロアルコキシ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基等の低級アルキルアミノ基、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基等の低級アルキルチオ基、シアノ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基等の低級アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基(CONH)、ジメチルアミノカルボニル基、ジエチルアミノカルボニル基、ジプロピルアミノカルボニル基等の低級アミノカルボニル基、アルケニル基、アルキニル基等の不飽和基、フェニル基、ナフチル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基等の芳香環基、フェノキシ基、ナフトキシ基、ピロリルオキシ基、フリルオキシ基、チエニルオキシ基等の芳香環オキシ基、ピペリジル基、ピペリジノ基、モルホリニル基等の脂肪族複素環基、ヒドロキシル基の保護体、アミノ基(アミノ酸またはペプチド残基も含む)の保護体、チオール基の保護体、アルデヒド基の保護体、カルボキシル基の保護体等が挙げられる。なお、本明細書において次の各用語は、それぞれ次に掲げる意味で用いられる。"低級"とは、炭素数1から6の、直鎖または枝分れの鎖式、または環式(炭素数3以上の場合)を意味する。"不飽和基"が二重結合の場合(アルケニル基)は、E体、Z体、またはE体とZ体の混合物を採ることができる。"ヒドロキシル基、アミノ基(アミノ酸またはペプチド残基も含む)、チオール基、アルデヒド基およびカルボキシル基の保護基"としては、Protective Groups in Organic Synthesis,Third Edition,1999,John Wiley & Sons,Inc.に記載された保護基等を用いることができる(2つ以上の官能基を1つの保護基で保護することもできる)。また、"不飽和基"、"芳香環基"、"芳香環オキシ基"および"脂肪族複素環基"には、ハロゲン原子、アジド基、ニトロ基、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、低級アルキルアミノ基、低級アルキルチオ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、低級アミノカルボニル基、ヒドロキシル基の保護体、アミノ基(アミノ酸またはペプチド残基も含む)の保護体、チオール基の保護体、アルデヒド基の保護体、カルボキシル基の保護体等が置換することもできる。
【0050】
一般式[4]で示される光学活性ヒドロキシアミン類のRは、アルキル基または芳香環基が好適であるが、特に炭素数1から9のアルキル基がより好適である。Rが炭素数1から9のアルキル基である光学活性ヒドロキシアミン類は、本化合物の原料となる光学活性α−アミノ酸類が大量規模で容易に入手でき、還元することにより容易に製造できる。さらに、Rが炭素数1から6のアルキル基である光学活性ヒドロキシアミン類は、その多くが市販されており、本発明の出発原料として好都合である。
【0051】
一般式[4]で示される光学活性ヒドロキシアミン類の*は、不斉炭素を表し、脱水縮合を通して立体化学(絶対配置および光学純度)は保持される。
【0052】
不斉炭素の絶対配置は、R体またはS体を採ることができ、目的とする一般式[6]で示される光学活性フルオロアミン類の絶対配置に応じて適宜使い分ければ良い。
【0053】
不斉炭素の光学純度は、目的とする一般式[6]で示される光学活性フルオロアミン類の用途が医農薬中間体であることを考慮すると、エナンチオマー過剰率(ee)が80%ee以上を用いれば良く、通常は90%ee以上が好ましく、特に95%ee以上がより好ましい。
【0054】
一般式[5]で示されるアルデヒド類のRは、アルキル基または芳香環基を表す。
【0055】
本アルキル基および芳香環基は、一般式[4]で示される光学活性ヒドロキシアミン類のRと同じアルキル基および芳香環基を採ることができる。その中でも芳香族炭化水素基が好ましく、特にフェニル基、置換フェニル基、ナフチル基および置換ナフチル基がより好ましい。Rがフェニル基、置換フェニル基、ナフチル基または置換ナフチル基であるアルデヒド類は、“課題を解決するための手段”において記載した「Rが芳香族炭化水素基であることのより好適な点」に加えて、工業的に安価に入手できることが挙げられる。
【0056】
一般式[5]で示されるアルデヒド類の使用量は、一般式[4]で示される光学活性ヒドロキシアミン類1モルに対して0.7モル以上を用いれば良く、通常は0.8から5モルが好ましく、特に0.9から3モルがより好ましい。
【0057】
本工程は、酸触媒の存在下に、または脱水条件下で反応を行うことにより、さらに好適に実施することができる。但し、原料基質の組み合わせによっては、これらの反応条件を採用しなくても反応が良好に進行する場合もある。
【0058】
係る酸触媒としては、塩化水素(塩酸)、硫酸、リン酸、塩化亜鉛、四塩化チタン、テトライソプロポキシチタン等の無機酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸ピリジン塩(PPTS)、10−カンファースルホン酸等の有機酸が挙げられる。その中でも硫酸、パラトルエンスルホン酸およびパラトルエンスルホン酸・ピリジン塩(PPTS)が好ましく、特にパラトルエンスルホン酸およびパラトルエンスルホン酸ピリジン塩(PPTS)がより好ましい。係る酸触媒の使用量は、一般式[4]で示される光学活性ヒドロキシアミン類1モルに対して触媒量を用いれば良く、通常は0.001から0.7モルが好ましく、特に0.005から0.5モルがより好ましい。
【0059】
係る脱水条件下の反応としては、水と混和せず、水よりも比重が小さく、水と共沸する芳香族炭化水素系の反応溶媒を用いて、還流条件下にディーン・スターク管で副生する水を除きながら行う反応が挙げられる。
【0060】
反応溶媒は、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル等のエーテル系、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド系、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。その中でもn−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレン、メシチレン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、プロピオニトリルおよびジメチルスルホキシドが好ましく、特にトルエン、キシレン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミドおよびアセトニトリルがより好ましい。これらの反応溶媒は、単独または組み合わせて用いることができる。また、本工程は、無溶媒で反応を行うこともできる。
【0061】
反応溶媒の使用量は、一般式[4]で示される光学活性ヒドロキシアミン類1モルに対して0.01L(リットル)以上を用いれば良く、通常は0.05から5Lが好ましく、特に0.1から3Lがより好ましい。
【0062】
温度条件は、−20から+200℃の範囲で行えば良く、通常は−10から+175℃が好ましく、特に0から+150℃がより好ましい。
【0063】
反応時間は、通常は72時間以内であるが、原料基質の組み合わせおよび採用した反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質が殆ど消失した時点を反応の終点とすることが好ましい。
【0064】
後処理は、反応終了液に対して通常の操作を行うことにより、目的とする一般式[1]または一般式[2]で示される光学活性ヒドロキシアミン類保護体を得ることができる。目的物は、イミン体、オキサゾリジン体、またはイミン体とオキサゾリジン体の混合物として得られ、イミン体は、窒素−炭素二重結合がE体、Z体、またはE体とZ体の混合物として得られ、オキサゾリジン体は、置換基Rに対してシン体、アンチ体、またはシン体とアンチ体の混合物として得られる。これらの異性体比は、原料基質の組み合わせおよび採用した反応条件により異なるが、第二工程の脱ヒドロキシフッ素化は、該異性体比に影響されることなく良好に進行する。目的物は、必要に応じて、活性炭処理、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等により、高い化学純度に精製することができる。
本工程は、反応が高い選択性で良好に進行するため、副生した水を除去する目的で、反応溶媒を濃縮するだけで、第二工程の脱ヒドロキシフッ素化の原料基質として十分な品質の目的物を得ることができる。工業的な製造方法という観点から見ると、この様な簡便な後処理が好適である。 次に、第二工程(脱ヒドロキシフッ素化)について詳細に説明する。
【0065】
スルフリルフルオリド(SO)の使用量は、一般式[1]または一般式[2]で示される光学活性ヒドロキシアミン類保護体(イミン体、オキサゾリジン体、またはイミン体とオキサゾリジン体の混合物)1モルに対して0.7モル以上を用いれば良く、通常は0.8から10モルが好ましく、特に0.9から5モルがより好ましい。
【0066】
本工程は、脱ヒドロキシフッ素化剤として、トリフルオロメタンスルホニルフルオリド(CFSOF)またはパーフルオロブタンスルホニルフルオリド(CSOF)を用いることもできる。しかしながら、これらの反応剤の大量規模での入手容易性や廃棄物処理等を考慮すると、敢えて用いる優位性はない。
【0067】
本工程においては、既に述べた様に、炭素数7から18の第三級アミン類の存在下に反応を行うことが重要である。なお、本明細書において、“炭素数”とは、3つのアルキル基の合計数を意味する。また、第三級アミンは「アンモニアの3つの水素原子が全てアルキル基に置換したアミン」を意味する。炭素数7から18の第三級アミン類は、直鎖または枝分れの鎖式、または環式(炭素数3以上の場合)のアルキル基を有し、炭素数8から12で且つ炭素数3以上のアルキル基が2つ以上ある第三級アミン類が好適である。
【0068】
係る好適な第三級アミン類としては、ジイソプロピルエチルアミン(炭素数8で且つ炭素数3以上のアルキル基が2つ)、トリn−プロピルアミン(炭素数9で且つ炭素数3以上のアルキル基が3つ)、ジイソプロピルイソブチルアミン(炭素数10且つ炭素数3以上のアルキル基が3つ)、ジn−ブチルイソプロピルアミン(炭素数11且つ炭素数3以上のアルキル基が3つ)、トリn−ブチルアミン(炭素数12且つ炭素数3以上のアルキル基が3つ)等が挙げられる。その中でもジイソプロピルエチルアミンおよびトリn−ブチルアミンが好ましく、特にジイソプロピルエチルアミンがより好ましい。また、この様な第三級アミン類は、脂溶性が高いため回収が容易に行え、反応性が低下することなく再利用できるため、工業的な製造方法に好適である。
【0069】
炭素数7から18の第三級アミン類の使用量は、一般式[1]または一般式[2]で示される光学活性ヒドロキシアミン類保護体(イミン体、オキサゾリジン体、またはイミン体とオキサゾリジン体の混合物)1モルに対して0.7モル以上を用いれば良く、通常は0.8から10モルが好ましく、特に0.9から5モルがより好ましい。
【0070】
本工程は、「炭素数7から18の第三級アミン類とフッ化水素からなる塩または錯体」の存在下に反応を行うこともできる。しかしながら、本塩または錯体が存在しなくても反応が良好に進行するため、敢えて存在下で行う必要はない。
【0071】
反応溶媒は、第一工程(脱水縮合)で用いる反応溶媒と同じものを挙げることができる。その中でも好ましいもの、および特により好ましいものも同じである。また、単独または組み合わせて用いることができ、さらに無溶媒で行うこともできる。
【0072】
反応溶媒の使用量は、一般式[1]または一般式[2]で示される光学活性ヒドロキシアミン類保護体(イミン体、オキサゾリジン体、またはイミン体とオキサゾリジン体の混合物)1モルに対して0.1L以上を用いれば良く、通常は0.2から10Lが好ましく、特に0.3から5Lがより好ましい。
【0073】
温度条件は、−100から+100℃の範囲で行えば良く、通常は−50から+50℃が好ましく、特に−40から+40℃がより好ましい。スルフリルフルオリドの沸点(−49.7℃)以上の温度条件で反応を行う場合には、耐圧反応容器を用いることができる。
【0074】
圧力条件は、大気圧から2MPaの範囲で行えば良く、通常は大気圧から1.5MPaが好ましく、特に大気圧から1MPaがより好ましい。従って、ステンレス鋼(SUS)またはガラス(グラスライニング)の様な材質でできた耐圧反応容器を用いて反応を行うことが好ましい。また、大量規模でのスルフリルフルオリドの仕込みとしては、初めに耐圧反応容器を陰圧にし、復圧しながら減圧下で、ガスまたは液体として導入する方法が効率的である。
【0075】
反応時間は、通常は72時間以内であるが、原料基質と炭素数7から18の第三級アミン類の組み合わせ、および採用した反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質が殆ど消失した時点を反応の終点とすることが好ましい。
【0076】
後処理は、反応終了液に対して通常の操作を行うことにより、目的とする一般式[3]で示される光学活性フルオロアミン類保護体を得ることができる。目的物は、必要に応じて、活性炭処理、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等により、高い化学純度に精製することができる。
【0077】
特に、反応終了液を濃縮し、残渣をトルエンまたは酢酸エチル等の有機溶媒で希釈し、炭酸カリウム等の無機塩基の水溶液で洗浄し、さらに水で洗浄し、回収した有機層を濃縮する方法が効果的である。この様な後処理を行うことにより、第三工程の加水分解の原料基質として十分な品質の目的物を得ることができる。
【0078】
最後に、第三工程(加水分解)について詳細に説明する。
【0079】
本工程は、酸性条件下での加水分解であるが、具体的には、一般式[3]で示される光学活性フルオロアミン類保護体を酸触媒の水溶液と反応させることにより行うことができる。
【0080】
係る酸触媒としては、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、硫酸、硝酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸が挙げられる。その中でも無機酸が好ましく、特に塩化水素および硫酸がより好ましい。係る酸触媒の使用量は、一般式[3]で示される光学活性フルオロアミン類保護体1モルに対して0.1モル以上を用いれば良く、通常は0.3から30モルが好ましく、特に0.5から20モルがより好ましい。
【0081】
水の使用量は、一般式[3]で示される光学活性フルオロアミン類保護体1モルに対して1モル以上を用いれば良く、通常は3から300モルが好ましく、特に5から150モルがより好ましい。
【0082】
反応溶媒は、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル等のエーテル系、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系等が挙げられる。その中でもn−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレン、ジイソプロピルエーテル、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールが好ましく、特にn−ヘプタン、トルエン、キシレンおよびメタノールがより好ましい。これらの反応溶媒は、単独または組み合わせて用いることができる。また、本工程は、無溶媒で、または二相系で反応を行うこともできる。
【0083】
温度条件は、−20から+150℃の範囲で行えば良く、通常は−10から+125℃が好ましく、特に0から+100℃がより好ましい。
【0084】
反応時間は、通常は72時間以内であるが、原料基質と酸触媒の組み合わせ、および採用した反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質が殆ど消失した時点を反応の終点とすることが好ましい。
【0085】
後処理は、反応終了液に対して通常の操作を行うことにより、目的とする一般式[6]で示される光学活性フルオロアミン類を得ることができる。目的物は、必要に応じて、活性炭処理、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等により、高い化学純度に精製することができる。
【0086】
特に、目的物の酸性水溶液をトルエン等の有機溶媒で洗浄することにより、副生する一般式[5]で示されるアルデヒド類を効果的に取り除くことができる。簡便な操作としては、トルエン等の水と混和しない有機溶媒を用いて二相系で反応を行うことにより、同等の効果を得ることができる。回収した目的物を含む酸性水溶液を濃縮し、酢酸エチル等の有機溶媒で共沸脱水し、さらに酢酸エチル等の有機溶媒で加熱洗浄することにより、用いた酸触媒との塩として目的物を高い化学純度で得ることができる。また、目的物のアミノ基を保護した形で回収することが効率的な場合もある。係るアミノ基の保護基としては、前述の参考図書に記載されたものを用いることができる。
【0087】
この様にして得られた目的物の塩または保護体は、再結晶等により、さらに高い光学純度に精製できる場合がある。また、脱塩(中和)または脱保護の通常の操作を行うことにより、目的物である遊離塩基または脱保護体に容易に変換することができる。
【0088】
本発明は、光学活性ヒドロキシアミン類とアルデヒド類を脱水縮合することにより光学活性ヒドロキシアミン類保護体(イミン体、オキサゾリジン体またはこれらの混合物)に変換し、次に本光学活性ヒドロキシアミン類保護体を炭素数7から18の第三級アミン類の存在下にスルフリルフルオリド(SO)と反応させることにより光学活性フルオロアミン類保護体に変換し、最後に本光学活性フルオロアミン類保護体を酸性条件下で加水分解することにより光学活性フルオロアミン類を製造することができる。
【0089】
さらに好適には、アルデヒド類として芳香族炭化水素系のものを用い、さらに第三級アミン類として炭素数が8から12で且つ炭素数3以上のアルキル基が2つ以上のものを用いることにより、工業的に容易に実施することができる。
【0090】
また、本製造方法における有用な鍵中間体として、新規化合物である光学活性フルオロアミン類保護体を提供する。
【0091】
さらに好適には、芳香族炭化水素系のアルデヒド類から誘導された光学活性フルオロアミン類保護体は、本製造方法を工業的に容易に実施する上で極めて有用な鍵中間体となる。
【0092】
[実施例]
実施例により本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、本実施例における略記号は以下の通りとする。
Me;メチル基、Ph;フェニル基、Boc;tert−ブトキシカルボニル基、i−Pr;イソプロピル基、Et;エチル基。
【0093】
[実施例1]
トルエン200mLに、下記式
【0094】
【化21】

【0095】
で示される光学活性ヒドロキシアミン類30.00g(399.41mmol、1.00eq、S体、光学純度97%ee以上)、下記式
【0096】
【化22】

【0097】
で示されるアルデヒド類43.60g(410.86mmol、1.03eq)とパラトルエンスルホン酸・1水和物0.76g(4.00mmol、0.01eq)を加え、室温で2時間攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィーより変換率は100%であった。反応終了液を減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【0098】
【化23】

【0099】
で示される光学活性ヒドロキシアミン類イミン保護体(イミン体)と、下記式
【0100】
【化24】

【0101】
で示される光学活性ヒドロキシアミン類オキサゾリジン保護体(オキサゾリジン体)を83:17の混合物として66.77g得た(オキサゾリジン体の異性体比は約3:2)。収率は定量的であった(理論収量65.19g)。ガスクロマトグラフィー純度は98.9%であった。H−NMR(イミン体とオキサゾリジン体の特徴的なピークのみ)を下に示す。
H−NMR[基準物質;(CHSi、重溶媒;CDCl];δ ppm/イミン体8.31(s、1H)、オキサゾリジン体(シン体とアンチ体の混合物)5.46,5.57(共にs、トータルで1H、それぞれの異性体がどちらのピークに対応するかは未決定)。
【0102】
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、上記式で示される光学活性ヒドロキシアミン類保護体のイミン体とオキサゾリジン体の混合物30.00g(179.46mmolとする、1.00eq)、アセトニトリル120mLとジイソプロピルエチルアミン28.51g(220.60mmol、1.23eq)を加え、−78℃の冷媒浴に浸し、スルフリルフルオリド(SO)44.92g(440.13mmol、2.45eq)をボンベより吹き込み、室温で終夜攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィーより変換率は100%であった。反応終了液を減圧濃縮し、残渣をトルエン100mLで希釈し、飽和炭酸カリウム水溶液50mLで2回洗浄し、水50mLで2回洗浄し、回収した有機層を減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【0103】
【化25】

【0104】
で示される光学活性フルオロアミン類保護体を29.49g得た。収率は99%であった。回収した有機層のガスクロマトグラフィー純度は92.1%であった。H−NMRおよび19F−NMRを下に示す。
H−NMR[基準物質;(CHSi、重溶媒;CDCl];δ ppm/1.26(d、6.8Hz、3H)、3.70(m、1H)、4.46(dd、45.9Hz、6.8Hz、2H)、7.40(Ar−H、3H)、7.75(Ar−H、2H)、8.34(s、1H)。
19F−NMR(基準物質;C、重溶媒;CDCl);δ ppm/207.22(dt、15.0Hz、45.9Hz、1F)。
【0105】
メタノール100mLに、上記式で示される光学活性フルオロアミン類保護体20.40g(123.48mmol、1.00eq)と35%塩酸61.18g(587.30mmol、4.76eq)を加え、室温で終夜攪拌した。反応終了液の19F−NMRより変換率は100%であった。反応終了液を減圧濃縮し、残渣を水50mLで希釈し、トルエン50mLで3回洗浄することにより、下記式
【0106】
【化26】

【0107】
で示される光学活性フルオロアミン類の塩酸塩の水溶液を約75mL得た。
【0108】
上記式で示される光学活性フルオロアミン類の塩酸塩の水溶液全量(123.48mmolとする、1.00eq)に、トルエン100mL、トリエチルアミン73.44g(725.76mmol、5.88eq)とBocO24.00g(109.97mmol、0.89eq)を加え、室温で終夜攪拌した。反応終了液の19F−NMRより変換率は100%であった。反応終了液を分液し、回収した有機層を水30mLで2回洗浄し、減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【0109】
【化27】

【0110】
で示される光学活性フルオロアミン類のBoc保護体(粗生成物)を19.71g得た。光学活性フルオロアミン類保護体からの2工程のトータル収率は90%であった。粗生成物のガスクロマトグラフィー純度は94.4%であった。
【0111】
粗生成物全量(19.71g)に、n−ヘプタン30mLを加えて減圧濃縮することで溶媒置換し、n−ヘプタン40mLから再結晶することにより、精製品を12.44g得た。回収率は63%であった。光学活性ヒドロキシアミン類からの4工程(再結晶も含む)のトータル収率は56%であった。精製品のガスクロマトグラフィー純度は99.4%であった。精製品の光学純度はMosher酸アミド体(脱Boc化後に誘導)の19F−NMRより98.6%eeであった。精製品のH−NMRおよび19F−NMRを下に示す。
H−NMR[基準物質;(CHSi、重溶媒;CDCl];δ ppm/1.22(d、6.8Hz、3H)、1.45(s、9H)、3.90(br−d、1H)、4.33(ddd、46.8Hz、9.2Hz、3.8Hz、1H)、4.39(ddd、48.0Hz、9.2Hz、3.8Hz、1H)、4.63(br、1H)。
19F−NMR(基準物質;C、重溶媒;CDCl);δ ppm/196.03(m、1F)。
【0112】
[実施例2]
トルエン130mLに、下記式
【0113】
【化28】

【0114】
で示される光学活性ヒドロキシアミン類17.50g(169.64mmol、1.00eq、S体、光学純度97%ee以上)、下記式
【0115】
【化29】

【0116】
で示されるアルデヒド類18.60g(175.27mmol、1.03eq)とパラトルエンスルホン酸・1水和物0.32g(1.68mmol、0.01eq)を加え、室温で終夜攪拌した。反応終了液のH−NMRより変換率は100%であった。反応終了液を減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【0117】
【化30】

【0118】
で示される光学活性ヒドロキシアミン類イミン保護体(イミン体)と、下記式
【0119】
【化31】

【0120】
で示される光学活性ヒドロキシアミン類オキサゾリジン保護体(オキサゾリジン体)を57:43の混合物として36.14g得た(オキサゾリジン体の異性体比は約2:1)。収率は定量的であった(理論収量32.45g)。ガスクロマトグラフィー純度は96.7%であった。H−NMR(イミン体とオキサゾリジン体の特徴的なピークのみ)を下に示す。
H−NMR[基準物質;(CHSi、重溶媒;CDCl];δ ppm/イミン体8.29(s、1H)、オキサゾリジン体(シン体とアンチ体の混合物)5.45、5.48(共にs、トータルで1H、それぞれの異性体がどちらのピークに対応するかは未決定)。
【0121】
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、上記式で示される光学活性ヒドロキシアミン類保護体のイミン体とオキサゾリジン体の混合物全量(169.64mmolとする、1.00eq)、アセトニトリル170mLとジイソプロピルエチルアミン87.00g(673.17mmol、3.97eq)を加え、−78℃の冷媒浴に浸し、スルフリルフルオリド(SO)34.58g(338.82mmol、2.00eq)をボンベより吹き込み、室温で終夜攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィーより変換率は98%であった。反応終了液を減圧濃縮し、残渣をトルエン100mLで希釈し、飽和炭酸カリウム水溶液50mLで2回洗浄し、水50mLで2回洗浄し、回収した有機層を減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【0122】
【化32】

【0123】
で示される光学活性フルオロアミン類保護体を35.00g得た。収率は定量的であった(理論収量32.78g)。ガスクロマトグラフィー純度は93.8%であった。H−NMRおよび19F−NMRを下に示す。
H−NMR[基準物質;(CHSi、重溶媒;CDCl];δ ppm/0.94(d、6.8Hz、3H)、0.97(d、6.8Hz、3H)、1.98(m、1H)、3.20(m、1H)、4.54(dt、47.2Hz、8.6Hz、1H)、4.65(ddd、47.2Hz、8.6Hz、3.8Hz、1H)、7.42(Ar−H、3H)、7.77(Ar−H、2H)、8.26(s、1H)。
19F−NMR(基準物質;C、重溶媒;CDCl);δ ppm/202.81(dt、15.4Hz、47.2Hz、1F)。
【0124】
トルエン70mLに、上記式で示される光学活性フルオロアミン類保護体全量(169.64mmolとする、1.00eq)と35%塩酸175.82g(1687.79mmol、9.95eq)を加え、50℃で終夜攪拌した。反応終了液の19F−NMRより変換率は100%であった。反応終了液を分液し、回収した水層を減圧濃縮し、酢酸エチル50mLで3回共沸脱水(減圧濃縮)し、残渣に酢酸エチル75mLを加え、還流下で1時間攪拌洗浄し、熱時濾過し、真空乾燥することにより、下記式
【0125】
【化33】

【0126】
で示される光学活性フルオロアミン類の塩酸塩を17.99g得た。光学活性ヒドロキシアミン類からの3工程のトータル収率は75%であった。遊離塩基のガスクロマトグラフィー純度は97.3%であった。光学純度はMosher酸アミド体(脱塩後に誘導)のガスクロマトグラフィーより99.9%eeであった。遊離塩基のマス(CI法)は106(M+1)を観測した。H−NMRおよび19F−NMRを下に示す。
H−NMR[基準物質;(CHSi、重溶媒;(CDSO];δ ppm/0.97(d、6.8Hz、3H)、0.99(d、6.8Hz、3H)、1.98(m、1H)、3.18(br−d、1H)、4.64(ddd、46.8Hz、10.4Hz、5.2Hz、1H)、4.72(ddd、47.2Hz、10.4Hz、3.2Hz、1H)、8.44(br、2H)。
19F−NMR[基準物質;C、重溶媒;(CDSO];δ ppm/197.65(m、1F)。
【0127】
[比較例1] 実施例1を参考にして、下記式
【0128】
【化34】

【0129】
で示される光学活性ヒドロキシアミン類イミン保護体(イミン体)と、下記式
【0130】
【化35】

【0131】
で示される光学活性ヒドロキシアミン類オキサゾリジン保護体(オキサゾリジン体)を製造した(R体、光学純度97%ee以上、イミン体:オキサゾリジン体=88:12、オキサゾリジン体の異性体比は約3:2)。
【0132】
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、上記式で示される光学活性ヒドロキシアミン類保護体のイミン体とオキサゾリジン体の混合物1.000g(6.127mmol、1.00eq)、アセトニトリル6mLとトリエチルアミン2.468g(24.390mmol、3.98eq)を加え、−78℃の冷媒浴に浸し、スルフリルフルオリド(SO)1.807g(17.705mmol、2.89eq)をボンベより吹き込み、室温で終夜攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィーより変換率は96%であった。反応終了液を酢酸エチル20mLで希釈し、飽和炭酸カリウム水溶液10mLで洗浄し、水10mLで3回洗浄し、回収した有機層を減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【0133】
【化36】

【0134】
で示される光学活性フルオロアミン類保護体と、下記式
【0135】
【化37】

【0136】
で示される第四級アンモニウム塩類を24:76の混合物として0.813g得た。収率は44%(光学活性フルオロアミン類保護体11%、第四級アンモニウム塩類33%)であった。H−NMR(光学活性フルオロアミン類保護体と第四級アンモニウム塩類の特徴的なピークのみ)を下に示す。
H−NMR[基準物質;(CHSi、重溶媒;CDCl];δ ppm/光学活性フルオロアミン類保護体8.34(s、1H)、第四級アンモニウム塩類8.49(s、1H)。
【0137】
この様に比較例1では、炭素数が7に満たない第三級アミン類であるトリエチルアミンを用いており、目的物は生成するものの、その収率は低い値に留まる。これに比べ、本発明の方法(実施例)では、格段に高い収率で目的とする光学活性フルオロアミン類保護体を製造できることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[1]
【化1】

で示される光学活性ヒドロキシアミン類イミン保護体、一般式[2]
【化2】

で示される光学活性ヒドロキシアミン類オキサゾリジン保護体、または該光学活性ヒドロキシアミン類イミン保護体と光学活性ヒドロキシアミン類オキサゾリジン保護体の混合物を、炭素数7から18の第三級アミン類(アンモニアの3つの水素原子が全てアルキル基に置換したアミン)の存在下に、スルフリルフルオリド(SO)と反応させることにより、一般式[3]
【化3】

で示される光学活性フルオロアミン類保護体を製造する方法。
[式中、RおよびRはそれぞれ独立にアルキル基または芳香環基を表す。*は不斉炭素を表し、反応を通して立体化学は保持される。一般式[1]および一般式[3]の波線は窒素−炭素二重結合がE体、Z体、またはE体とZ体の混合物を表し、一般式[2]の波線は置換基Rに対してシン体、アンチ体、またはシン体とアンチ体の混合物を表す]
【請求項2】
請求項1において、一般式[1]で示される光学活性ヒドロキシアミン類イミン保護体、または一般式[2]で示される光学活性ヒドロキシアミン類オキサゾリジン保護体のRが芳香族炭化水素基であり、さらに第三級アミン類の炭素数が8から12で且つ炭素数3以上のアルキル基が2つ以上あることを特徴とする、請求項1に記載の光学活性フルオロアミン類保護体を製造する方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、一般式[1]で示される光学活性ヒドロキシアミン類イミン保護体、または一般式[2]で示される光学活性ヒドロキシアミン類オキサゾリジン保護体が、一般式[4]
【化4】

で示される光学活性ヒドロキシアミン類と、一般式[5]
【化5】

で示されるアルデヒド類の脱水縮合で得られることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の光学活性フルオロアミン類保護体を製造する方法。
[式中、RおよびRはそれぞれ独立にアルキル基または芳香環基を表す。*は不斉炭素を表し、脱水縮合を通して立体化学は保持される]
【請求項4】
請求項1及至請求項3の何れかの方法において得られた、一般式[3]で示される光学活性フルオロアミン類保護体を、酸性条件下で加水分解することにより、一般式[6]
【化6】

で示される光学活性フルオロアミン類を製造する方法。
[式中、Rはアルキル基または芳香環基を表す。*は不斉炭素を表し、加水分解を通して立体化学は保持される]
【請求項5】
一般式[3]
【化7】

で示される光学活性フルオロアミン類保護体。
[式中、RおよびRはそれぞれ独立にアルキル基または芳香環基を表す。*は不斉炭素を表す。波線は窒素−炭素二重結合がE体、Z体、またはE体とZ体の混合物を表す]
【請求項6】
請求項5において、一般式[3]で示される光学活性フルオロアミン類保護体のRが芳香族炭化水素基であることを特徴とする、請求項5に記載の光学活性フルオロアミン類保護体。


【公開番号】特開2009−227596(P2009−227596A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72919(P2008−72919)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】